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徒然日誌


2015.12.28(月)【よいお年を】(金子登志雄)

 本年最後の徒然日誌になりました。私自身は、自動販売機商法で、お金さえ
入れてくだされば、年365日・24時間、対応しておりますので、休むのは
この徒然だけです。ご遠慮なく、メールや電話をどうぞ。

 本年の最大のイベントは何といっても、2月からの改正商業登記規則の施行
と5月からの改正会社法の施行でした。本欄に登場する仙台の立花司法書士と
登記情報への投稿でお馴染みの広島の幸先(こうさき)司法書士に校正の協力
を得て、東京司法書士協同組合から小冊子を発行することができましたし、そ
れを加筆して新著『改正会社法と商業登記の最新実務論点』も出版することが
できました。

 出版作業には大変な労力が必要ですが、建築家が「あのビルはオレが設計し
た」と秘かに喜ぶのと同じで、形に残るのは、うれしいものです。

 難しい登記を無事に終えた時も満足感がありますが、形に残らないのが少々
残念です。しかし、そのノウハウが積み重なり、間違いなく登記所も受け付け
ると確信が持てた時には、講演や出版という発表の機会が与えられていますの
で、つくづく私は恵まれた環境にあると感謝しています。

 先日受けた健康診断の結果は、年齢からすれば合格点でした。まだまだ頑張
れそうです。

 本日は、中央経済社が商業登記全書(組織再編の手続)の初校資料を夕方に
持ってきます。来年にしないのは、「年末年始は遊ばずに頑張れ」ということ
でしょう。老人を大事にしてくれないようです。

 せわぁない(大河ドラマ「花燃ゆ」によく出てきた言葉)、やるしかないで
すね。よいお年を。


2015.12.25(金)【困ったときには私の背中を………】(仙台・立花宏)

 いつも利用している喫茶店に、持ち帰り用のランチを購入しに行った時のこ
とです。低価格の割に、日替わりでバラエティに富んだサンドイッチやサラダ
等を提供してくださり、また、それが美味しいため、お昼時にはいつも注文を
待つお客様が並ぶようなお店です。

 毎日、そのお店ランチを購入するので、ありがたいことに、私の顔を見ると
持ち帰り用のランチの準備をはじめてくださいます。その準備は気持ちが良い
ほどスムーズで、その手際の良さには、いつも感心させられていました。

 その日も私の順番がきて、注文用のカウンターの前に立つと、店長さんが私
に気づき、注文するかしないかのうちに、持ち帰り用のランチの準備を始める
よう、店員さん達に指示をだしているようでした。隣のカウンターでは、別の
お客様がランチの注文をしていました。

 注文が入ると、カウンターの中の店員さん達が、さっと、自分達の果たすべ
き役割を理解し、自分の立つべきポジションにつきます。見ていて、気持ちの
よい動きです。

 ところが、隣で注文していたお客さまが、メニューを見直して、注文を変更
したいという申し出をしたようです。準備を進めようとしていた店員さん達に
迷いが生じたようで、一瞬、店員さん達の動きがぎこちなくなり、店員さん達
の視線は、店長さんへと向けられました。

 興味があって、どうするのかな、とみていると、店員さん達の迷いに気づい
た店長さんは、落ち着いて、さっと、店員さん達に的確な指示を出しました。
すると、店員さん達の動きに迷いが消え、安心したように、自分達の立つべき
ポジションにつき、なにごともなかったかのように、もとの気持ちのよい動き
を取り戻し、スムーズな動きで注文されたメニューの準備にとりかかりました。

 とても感心させられ、思わず、「すごいですね。皆さん、手際がよくて。き
っと、店長さんのリーダーシップがよいのですね」と声をかけると、店長さん
は、はにかみながらも嬉しそうに、答えてくださいました。

 「いえいえ、みんなのおかげです。私は、なにもしてないんですよ」

 その謙虚な姿勢にあらためて感心させられました。こんな店長さんだから、
店員さん達は、迷った時に店長さんに視線を向けたのでしょう。

 そういえば、先日、女子サッカーの澤穂希選手が、今シーズンかぎりでの引
退を発表しました。言わずと知れた、日本の女子サッカー界のカリスマです。

 その澤選手が、北京五輪の際、チームのメンバーに、「苦しいときには私の
背中を見なさい」という言葉をかけたそうです。そのメンバーはその言葉に勇
気づけられ、苦しいときには澤選手の背中をみて、試合終了まで走りつづけた
のだとか。

 きっと、その店長さんも、店員さんにとっては澤選手のようなカリスマなの
に違いありません。

 リーダーシップとはちょっと違うかもしれませんが、お客様が苦しいときや
困った時、私の背中を見てくださるような、そんな、頼りになる司法書士にな
らなくては、と、気持ちをあらたにした出来事でした。


2015.12.24(木)【同時申請】(金子登志雄)

 昨日は天皇陛下の誕生日でした。82歳のようですが、安倍政権後の好戦的
世相に対して平和主義の立場から暗に反対をほのめかしてくださるなど存在感
も大きく、いつまでもお元気でいてほしいものです。

 さて、今日のテーマは同時申請です。同時申請というと、合併だとか本店移
転の際の専用用語だという思いが我々司法書士にはありますが、次のような場
合にも用います。

 ① 商登49条の本支店一括請求では、支店所在地における登記の申請は、
本店の所在地における登記の申請とは、【同時に】しなければならない。

 ② 商登規則37条1項では、同一の登記所に対し【同時に】数個の申請を
する場合において、各申請書に添付すべき書類に内容が同一であるものがある
ときは、1個の申請書のみに1通を添付すれば足りる。

 ③ 商登規則58条で、会社の支配人を置いた本店又は支店について移転、
変更又は廃止があつたときは、本店又は支店に関する移転、変更又は廃止の登
記の申請と支配人を置いた営業所に関する移転、変更又は廃止の登記の申請と
は、【同時に】しなければならない。

 こうしてみると、同時申請には任意のものと合併や本店移転のように強制の
ものとがあることがお分かりいただけると思います。

 合併や本店移転の同時申請は、2つの登記所への2つの申請書を1つの登記
所に同時に出すことですが、②は、1つの登記所への数個の申請を前提とした
ものでしょう。

 ①の本支店一括申請は、2つの登記所への申請を1つの申請書にして提出す
ることです。申請書を2つにはしません。③は、1つの申請書にしても、2つ
の申請書にするも自由です。ややこしいですね。


2015.12.22(火)【任期中の証明の要否】(金子登志雄)

 昨日は商業登記倶楽部の神崎先生や鈴木龍介司法書士、他1名の計4名で年
末恒例の忘年会でした。

 メール等では頻繁に交流していますが、実際にお会いするのは、実に久々で
したが、お互いに、健康で今年も無事に終わりそうなことを感謝し祝福しあい
ました。

 さて、昨日の権利義務の問題ですが、いつが任期満了時期なのかについては、
定款でも添付しない限り、登記所にも分かりません。単に「辞任します」とか、
議事録に「本総会終結時に任期満了退任するんで,改選の必要があり………」
などと記載されていれば、登記所はそれを受けて登記するだけです。

 これにつき、商業登記規則61条1項に「定款の定めがなければ登記すべき
事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書
に、定款を添付しなければならない」とあることを根拠に定款を添付せよとい
う見解もありますが、実務は採用していません。なぜでしょうか。

 この規定は、Aという事項を黙って申請したら、登記所から「会社法違反で
無効又は取消の瑕疵がある」と却下される場合に、「ほら、会社法に定款で定
めればAも認めると書いてあるじゃないですか。だから、『A+定款=合法』
を示すために、定款を添付するものです。

 役員が登記されていれば、誰だって合法の登記と思うでしょう。そこに、辞
任や任期満了の登記を申請されても、登記所から「会社法違反で無効又は取消
の瑕疵がある」とはみえません。だから、こういう場合には、規則61条1項
は適用されないのですが、私を含めて、結論は分かっていても、理由の説明が
上手にできないものです。



2015.12.21(月)【権利義務者の地位の辞任】(金子登志雄)

 取締役会設置会社の取締役ABC(代表取締役A)が本年6月30日に全員
任期満了で退任したのに、後任の選任がなされないため権利義務者として任務
を継続しているとします。

 12月18日開催の取締役会で代表取締役にBを選任しましたので、Aの代
表取締役としての権利義務は消滅したので、代表取締役に関してだけは、Bの
12月18日就任の登記と引換えに、Aは6月30日退任の登記をすることが
できます。

 このような事例につき、後任が選任されたのだからAは代表取締役を辞任す
る登記が可能ではないかなどといった議論が司法書士会の掲示板でなされまし
た。私も参加し、いろいろ意見を出したのですが、どう説明すれば自分の意見
が正確に相手に伝わるのか、いまさらながら難しいものだと思いました。

 いまは、役員と会社との関係は委任関係ですから、委任による代理権で説明
するのが最も分かりやすいかなと思っていますので、ここで実験してみます。

 6月30日まで、委任期間中(任期中)。登記できるかは別として辞任(委
         任契約解除)は自由。

 7月 1日から、委任期間終了により法定の継続義務が発生したから、退任
         登記はできず、代わりに、一種の法定代理権の関係が発生。
         法定の代理権だから辞任は法律上も不可。

12月18日から、Aの代表取締役権利義務という一種の法定代理権は消滅。
         これは登記事項ではないので登記されず、6月30日退任
         の登記障害がなくなったので、その登記をする。Aの法定
         の地位は消滅したので、辞任の可否は問題外。

 さて、通じたでしょうか。


2015.12.18(金)【普通取締役と種類取締役】(金子登志雄)

 今週も最後になりました。年末も近いためか、零細な当事務所のようなとこ
ろにも、著名大企業の総務担当者が年末挨拶に訪問してくださったり、お歳暮
を贈ってくださることが多く、逆じゃないかと恐縮しております。当の私は、
こういうのが大の苦手でお礼状さえ書いていない始末です。この場で、金子と
はそういう「閉じこもりオタク型の職人タイプ」だということで、非礼をお許
しくださいと申し上げるしかありません。

 さて、今週は代表取締役をテーマとする内容が主だったものでしたので、今
日は取締役会設置会社と非設置会社の取締役につき、種類株式と対比して考え
てみたいと思います。

<取締役会設置会社>
 普通株式に対応するのが「取締役」
 「代表取締役」は、代表権付取締役ともいうべき種類株式
 
<非取締役会設置会社>
 各自代表を原則とするため普通株式に対応するのが「代表取締役」
 単なる「取締役」は、「代表権抜き代表取締役=取締役」という種類株式

 だから、取締役会設置会社から非取締役会設置会社に移行すると、定款変更
の効果で普通株式は「取締役」から「代表取締役」に変わります。これについ
ては「代表権付与」と登記されます。

 逆方向だと「代表権喪失」と登記されそうですが、逆方向の移行には、必ず
取締役会設置会社の必須機関である代表取締役を選定しなければなりません。
その結果、普通株式だったはずの代表取締役が普通株式の取締役に変わっても
取締役会で代表取締役として選定されなかった効果だと考えるのか、単に代表
取締役として「退任」で登記するにが実務慣行です。

 同一人物を代表取締役に定めた場合は、普通株式から種類株式の代表取締役
に変わり、種類株式だった代表権抜き取締役は普通株式の取締役に変わります
が、これらは取締役や代表取締役の退任・就任事由とされていませんので、何
らの登記もなされません。

 まるで数学問題を解いているような気分になりませんか。数学好きは会社法
に向いているというのが私の持論です。



2015.12.17(木)【代表取締役の任期満了】(金子登志雄)

 取締役の任期が満了し再任されないと、「(任期満了により)平成〇年〇月
〇日退任」と登記され、その者が代表取締役でもあったとすると、代表取締役
については「(資格喪失により)平成〇年〇月〇日退任」と登記されます。

 この取締役兼代表取締役の退任登記をすると両方とも定員欠如になる場合は
登記が受理されません。後任が就任するまでは、権利義務者というものになり、
職務継続義務があります。

 ここまでは、どの教科書にも書いてありますが、代表取締役の権利義務を定
める会社法351条1項には「代表取締役が欠けた場合(注:ゼロになること)
又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、【任期の満了又は辞任
により退任】した代表取締役は、新たに選定された代表取締役が就任するまで、
なお代表取締役としての権利義務を有する。」と規定されています。

 お気づきになりましたか。任期の満了ではなく「資格喪失」により退任した
場合が含まれていません。しかし、本件の事案では、代表取締役の権利義務者
になるといわれています。

 この問題の解決には2つの方法がありそうです。1つは、本件の代表取締役
は「取締役在任中」という不確定期限付の任期で選定されたのだから、まさし
く任期の満了による退任であると説明する方法、その2は、会社法351条の
「任期満了又は辞任」とは、解任など不適切な理由での退任を除外する趣旨だ
から本件の資格喪失を含むとする方法です。

 代表取締役は「取締役の中から」定められますから、取締役でなくなった場
合に資格喪失と使うことは問題ないとして、もし定款で代表取締役は株主に限
ると定めてあり(非公開会社では可能です)、株主資格を失ったら、これも資
格喪失ですが、会社法351条からして権利義務者にはなれないでしょう。

 したがって、上記第1説を支持します。結果として、本件代表取締役の退任
事由には、取締役の資格を失ったことと任期が満了したことの2つが同時に生
じたのであり、権利義務者の面からは後者を理由にしなければならないという
ことでしょうか。


2015.12.16(水)【資格喪失と思考喪失】(金子登志雄)

 ここ数日の本欄をみて、感度のよい人は、きっと「最近、金子は執筆活動を
再開したな」と思ったことでしょうが、そのとおりです。

 この仕事に従事して30年も経つのに、執筆活動を始めると、次から次へと
思い出したように昔からの疑問が冬眠から目を覚ましますし、発見もあります。
勉強にはなっても健康にはよくありません。煙草の本数も急増します。

 例えば、取締役が欠格事由に該当すると「平成〇年〇月〇日資格喪失」と登
記されますが、代表取締役が取締役の地位を喪失すると、資格喪失により「平
成〇年〇月〇日退任」とされ、資格喪失が登記記録に表れません。

 親亀がこけたら子亀もこける間接的効果であり、「平成〇年〇月〇日取締役
の資格喪失」とするのは不都合だからかと思えど、代表取締役の資格の面では
直接効果です。

 取締役の地位と代表取締役の地位が一体である各自代表制の代表取締役の場
合も同じように登記しますが、こちらは、登記の面では別々の枠内に登記され
るから、2つの地位があるのと同じだと解釈でき、迷いは生じませんでした。

 そもそも、同じ取締役の退任事由でありながら、死亡・辞任・解任・資格喪
失による退任は、「平成〇年〇月〇日死亡(又は辞任、解任、資格喪失)」と
退任原因を登記しながら、任期満了による退任については、結論だけの「平成
〇年〇月〇日退任」とします。

 つい、なぜだと考えてしまうのが私の性癖ですが、最後には「思考喪失」に
より退場し、登記の慣例(流儀)だから追求しても仕方ないと思うようにして
います。そうしないと、地下鉄はどこから入れたのだと考え出して眠れなくな
った漫才師さんと同じになってしまいますので(親亀も地下鉄も若い方には全
く通じないでしょうね。ネット検索してください)。


2015.12.15(火)【選任と選定の相違(一部訂正)】(金子登志雄)

 昨日の後半部分(次)は訂正が必要のようです。

----------------------------------------------------------------------
 では、各自代表制の非取締役会設置会社に取締役としてABが存在し、定款
又は株主総会でAを代表取締役に選びました。これは選任ですか、選定ですか。

 選定ではありません。一見、「取締役の中から」Aを選んだようにみえます
が、各自代表制ですから、本件は、Bの代表権をはく奪したのであり、Aを選
んだわけではありません。

 どっちだっていいじゃないかという声が聞こえますが、選定であれば選定に
対応した就任承諾書が必要なのに対し、最後の例などは選定ではないため、就
任承諾書が不要であるという差が生じます。言い換えれば、取締役の就任承諾
書のほかに代表取締役としての就任承諾書の必要なときが選定です。
----------------------------------------------------------------------

 「選定」につき定義規定がないので、完全に間違いだとはいえませんが、松
井ハンドブックほか、会社法立案担当者の手による市販本を確認しましたとこ
ろ、定款又は株主総会で代表取締役を【選定】などの表現が登場していました
ので、代表権のはく奪により特定人を代表取締役に定める場合も含むのが一般
的のようで、就任承諾の要否と連動した概念ではないようでした。

 それにしても、たった1つ残された各自代表取締役を「選任」としてよいの
か困りました。【代表取締役の選任】で検索すると、松井本も通達準拠も千問
も、いくつかヒットしましたが、大勢でチェックした法務省を代表する会社法
制定時の商事法務の連載記事や「一問一答」では、全くヒットしませんでした
(見落としがなければですが)。こういう問題を上手に回避して文章を作るに
は、大勢の力が必要のようです。



2015.12.14(月)【選任と選定の相違】(金子登志雄)

 12月14日ですね。自然と赤穂浪士の討ち入りの日かと思ってしまいます。
西暦では翌年の1月30日のようですが………。

 「浪士」というのは、たぶん、浪人と義士の合成語でしょう。このように、
法律実務に従事していますと、用語にこだわってしまいます。

 皆さんはそこで放置でしょうが、物書き業を兼任している私は、放置するわ
けには行きません。

 例えば、文章で「代表取締役を定款で選●したとき」と書くとき、この●に
「任」を入れるのか「定」にするのかによって、本の信頼性に影響してしまい
ます。「選定」とは、選任された者の中から、また選ばれることです。

 つい、定款や株主総会で選んだときは「選任」で、取締役会や取締役の互選
で選んだ場合が「選定」だと思ってしまいますが、これは間違いです。

 取締役会設置会社の代表取締役を定款で定める場合にも「取締役の中から」
定めるのであって、取締役会の代わりに定款で選んだだけですから、「選定」
です。

 では、各自代表制の非取締役会設置会社に取締役としてABが存在し、定款
又は株主総会でAを代表取締役に選びました。これは選任ですか、選定ですか。

 選定ではありません。一見、「取締役の中から」Aを選んだようにみえます
が、各自代表制ですから、本件は、Bの代表権をはく奪したのであり、Aを選
んだわけではありません。

 どっちだっていいじゃないかという声が聞こえますが、選定であれば選定に
対応した就任承諾書が必要なのに対し、最後の例などは選定ではないため、就
任承諾書が不要であるという差が生じます。言い換えれば、取締役の就任承諾
書のほかに代表取締役としての就任承諾書の必要なときが選定です。



2015.12.11(金)【ある経営コンサルタント】(金子登志雄)

 同じ自由業でも、国家資格のないものといえば経営コンサルタントでしょう
か。多くが会社組織にするでしょうが、我々資格業は、ある意味では作業をす
るだけで報酬を得られることが多いのに、経営コンサルタントは売上げの増大
やコストの節減など目にみえた成果を上げないと収入に結びつかないところが
あり、最も難しい仕事の1つかもしれません。

 その関係で、何でも屋の経営コンサルタントを名乗っている方は税理士等の
本業を持っており、経営コンサルタントは肩書だけであるのに対し、本物の経
営コンサルタントは業種に特化した方が多いようです。国家資格の代わりに特
殊な専門知識こそが武器であり生活基盤です。

 当社及び私の30年来の長崎の友人Hさんも医療経営コンサルタントに特化
して、クリニックや病院の経営改善のアドバイスで頑張ってきました。医療経
営分野の専門家は全国的にも少ないためか、長崎県外の仕事も少なくなかった
ようです。

 その専門知識はM&Aコンサルタント業務に従事していた我々にも必要でし
たので、我々がその仕事から離れた後も当社の監査役になっていただき、毎月
1度は取締役会の機会に情報や知識を交流していましたが、いつもは元気その
ものだったのに、本年9月の定時株主総会の折にお会いした際は、周囲の者み
なが驚くほど急激にやせており、その健康が心配でしたが、突然の訃報で、昨
日は悲しい告別式になってしまいました。69歳の早世でした。

 告別式会場の長崎は雨でした。まるで天も悲しんでいるかのようでした。突
然のことで、原稿の準備もなくして弔辞を語った当社社長は最後に「あなたの
魂は我々の中で生きている。また、会いましょう。」と感動的に締めくくって
いましたが、Hさん、私も法務代行業から法務コンサルタント業に脱皮すべく
頑張っています。また、経営コンサルの要諦を教えに来てください。



2015.12.10(月)【昔の登記出頭主義】(金子登志雄)

 司法書士同士で話すと、電子申請で登記所に行かずに済んで実に楽になった
ことがよく話題になります。

 昔は登記所に必ず出頭しなければなりませんでした。1人事務所の私は、早
起きをして午前は横浜、午後は千葉、埼玉だなどと走り回っていたものでした。

 類似商号調査がなくなったことと、登記所の執務時間でお昼休みがなくなっ
たことも助かりました。

 若い人には想像もつかないでしょうが、お昼の12時ー1時の間は登記所の
執務時間ではなかったのです。11時45分頃に閲覧室に入っても、12時に
は追い出されて、登記所の外の喫茶店で時間をつぶし、また1時に入室しなけ
ればなりませんでした。これでは、横浜だ、千葉だ、埼玉だと回れませんから、
補助者に行ってもらったり、現地の司法書士に復代理を頼んだりするしかあり
ません。

 復代理といえば、地元の司法書士会に電話して紹介してもらった先生は大丈
夫でしたが、会社から「いつも使っている先生」として紹介される地元の人は、
不動産専門で商業登記には弱い人が多く、難儀しました。

 「ここはこうじゃないか」「この辞任する人からは本人の確認を得たのか」
と、毎日のように問い合わせを受け、「全責任は私が取りますから、そのまま
早く申請してください。こういう登記は、もう何十回、何百回と経験済みです
から大丈夫です」といっても、「ああだ、こうだ」といわれることが多く、と
うとう、「もう結構です。依頼をやめますから、全書類をお返しください」と
いったことも何度かありました。

 いまは復代理もほぼなくなり、司法書士同士で、こういうやり取りはなくな
りましたが、なくなってみると司法書士の地域性も判断できず、寂しいもので
す。また、登記所への出頭主義がなくなり、太りはじめたのは私一人ではない
でしょう。



2015.12.09(水)【同一内容なのに異種株式】(金子登志雄)

 普通株式と完全無議決権株式を発行した際に、完全無議決権株式の内容として、
「平成27年12月31日までは株主総会で一切の議決権を有しない。」と定めて
あった場合に、来年からは、種類株式発行会社ではなくなるのでしょうか。

 実務についていると、こういう場面に、たまに遭遇しますが、同一内容かどうか
は全体をみて判断しますから、これも異種類です。定款変更せずして勝手に普通株
式と扱うことはできません。ただ、来年からは存続させる意味がなくなりますので、
非種類株式発行会社に戻すべきでしょう。

 りそなホールディングスの定款をみると、第一回8種優先株式から第四回8種優
先株式までの4種類は定款の記載上は完全に同一内容です。発行可能種類株式総数
も同じですが、会社法108条3項からして、こういうこともあり得ます。

 仮に取締役会で定めた配当額が第一回と第二回で同額になっても異種類といえる
のかという疑問も生じますが、種類株式の名称が相違するのだから異種類だと扱う
のが会社法解釈だと思っています。

 机の上の勉強では決して気がつかない未知との遭遇が実務では存在しますので、
実務家業はやめられません。学者業よりもよほど面白いといえます。


2015.12.08(火)【2種類の登記事項】(金子登志雄)

 「会社等」法人番号ではなく「会社法人等」番号が登記記録の本体(商号より
前の筆頭の位置)に記録されるようになりましたが、この部分は「変更」登記の
対象になりません。これでも登記事項といえるのかと妙に違和感を感じていまし
たが、登記記録上の「会社成立の年月日」も同じでした(「の」の位置に注意、
「会社の成立年月日」ではありません)。

 会社法930条2項によると、支店登記簿の登記事項は、「商号、本店の所在
場所、同一登記所内の支店の所在場所全部」の3点だけだとされているのに、実
際の支店登記簿をみると、会社成立の年月日と登記簿を起こした事由(年月日支
店設置など)が記録されています。話が違うじゃないかと思ってしまいますが、
商業登記法48条2項に、それらも登記せよと規定されているためです。

 いまさらですが、登記事項には会社法(実体法)が要請する登記事項と商業登
記法(手続法)が要請する登記事項の2種類があるわけですね。こんな基本的な
ことが教科書に書いてありましたか。私はみたことがありません。

 会社法の登記事項は変更登記の対象になりますが、商業登記法の登記事項はな
りません。抹消登記の対象にもなりません。会社成立の年月日を抹消しようとし
ても無理です。

 では、管轄外に本店移転を申請する際に、会社成立の年月日を間違って記載し、
登記所も気づかなかったという場合に、後日、更正登記が認められるでしょうか。

 認められないわけがないですよね。変更登記も抹消登記もできないのに、更正
登記だけは可能であるというのも妙に違和感があります。違和感の正体は、会社
成立の年月日などは、そもそも申請人が申請すべき登記事項かという無意識の抵
抗があるためでしょう。変更登記の対象にならないものは登記事項ではないとい
う我々の職業意識です。

 結局、本日の結論は、商業登記法が要請する登記事項である会社成立の年月日
や登記記録に関する事項への記載は、会社法の定める登記事項に付随して登記す
る従たるものだから、我々に申請義務が課されているということでしょう。なお、
吸収合併による解散は、登記記録に関する事項に記録されますが、これは会社法
921条を根拠とする実体法の登記事項です。


2015.12.07(月)【平均年齢35歳】(金子登志雄)

 東京司法書士会のHPをみましたら、今月の15日まで新人研修中のようです。
日司連の研修のような「君たちへ」といった新人に失礼な題名がないかとみてみ
ましたら、大丈夫でした。

 15日の本欄では「受講生の中には上場会社の幹部を定年退職後に受験して合
格した人をはじめ、社会人からの転身組も少なくないでしょう。社会人としては、
講師よりも先輩なのに、『君たち』と呼ばれては面白くありません。」と書きま
したので、その根拠として合格者の平均年齢を調べてみました。下記です。

   http://www.moj.go.jp/content/001162405.pdf

 合格者数707名、平均年齢35歳でした。講師よりも年長と思える50歳以
上の合格者も40名以上もいます。この試験のために10年も無職であったとは
思えませんので、40歳以上は、おそらく大多数が一般社会人からの転身組でし
ょう。20代前半の方も大学生というより、高卒で仕事に嫌気がさし、就職より
も自由業を目指した苦労人である可能性が高いと思います。この資格の魅力は、
学歴不問でインターン期間なし、合格すれば即開業できることです。

 本欄閲覧の非司法書士の方も狙ってみませんか。合格率3%で、試験問題に対
する運・不運も大きく厳しい試験ですが、68歳で合格した方がいるということ
は、勇気を与えてくれませんか。ただし、法律が少しでも面白い好きだと感じな
い方は間違いなく挫折しますので、お勧めしません。

(お知らせ)
 新著、やっとアマゾンに安定して在庫が入りました。もう注文後に時間がかか
ることはないでしょう。私も一安心です。

        http://is.gd/WViIHI


2014.12.04(金)【5頭のクジラ】(金子登志雄)

 昨日は東京司法書士協同組合の忘年会でした。私は組合員ですが、役員ではない
ので出席するのは不自然ですが、組合の編集本に貢献したということでゲスト参加
でした。

 しかし、今度の新著に関しては、私のほうが組合に御礼を申し上げたいほどです。
改正会社法の目玉が社外取締役中心の監査等委員会設置会社であったため、一般の
司法書士には関心が薄いであろうと予想し書く気力が出なかったのですが、熱心な
お誘いをいただいたため、「小冊子程度なら」と思い書き始めたものだからです。
この小冊子がなければ、今度の新著もなかったわけです。

 忘年会にお集まりの組合の幹部の皆さんは、みな、いつもどおり元気溌剌そうに
みえました。これだけみると、司法書士からみた日本の景気はよいのかなと思えど、
別の機会に知り合いの司法書士数人に聴取したところでは、だいたいが仕事が減っ
たという答えが多いようです。ブログ主の司法書士各位は多忙そのもので景気がよ
さそうにみえますから、司法書士にも格差が出てきたのでしょうか。

 日経平均株価が2万円近くの高値の水準にあるので、いかにも景気がよさそうに
みえますが、各種の景気指標はよくないため、仕事が減ったという事務所のほうが
多いはずだと私はみています。

 景気指標がよくないのに、なぜ株価が高いのだと当然の疑問をお持ちでしょうが、
この回答は簡単です。一種の官制相場になっており、日銀や年金資金、郵貯マネー
などの5頭のクジラが株価を支えているためです。

       http://kabusyo.com/sihyo/kujira.html

 先月30日には、GPIFが本年7―9月期の運用損失が8兆円近くになったと
発表しましたが、この官制相場の行く末は大丈夫なのでしょうか。

 いずれにしろ、司法書士は永遠に仕事のない無職と相違し、そのうち仕事が来る
であろうと思えるだけ幸せな立場にあります。1頭のクジラである国家資格が我々
の意識を支えてくれています。それだけでも、ありがたいことです。

 本日はとりとめのない雑文になってしまいましたが、飲み会帰りのため、ご了承
ください。



2015.12.03(木)【下戸の有名人】(金子登志雄)

 1日は当社の忘年会があり、風邪気味のところに、アルコールを摂取したためか、
帰宅後は嘔吐と下痢で翌朝まで散々な目にあいました。何十年ぶりです。

 そうなんです、私は下戸です。兄と弟は酒豪ですが、私だけは体質的に受け付け
ません。体力に任せてお付き合い程度はたしなめますが、生涯で一度も酔っぱらっ
たことがありません。その前に、急に寒くなり震え出して嘔吐してしまいます。

 弁護士の酒好きの友人からは「下戸とは人生の楽しみを1つ知らない気の毒な人
だ」といわれていますし、時々、飲めない奴は男ではないなどいわれることもあり
ますが、いかにも酒豪のような故・若宮富三郎(といっても分からないかもしれま
せんが、勝新太郎のお兄さんです)も下戸だと聞いて驚いたことがあります。

 あの織田信長も西郷隆盛も新撰組の土方歳三も下戸だと聞いたことがありますが、
これも意外ですね。ほかにいないかと、ネット検索してみました。

  http://kenkousite.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html

 忠臣蔵の堀部安兵衛、任侠映画の高倉健、菅原文太、こわもて政治家の浜田幸一、
野球の星野監督まで含まれていました(敬称略)。下戸は豪傑にはなれない、心や
さしい人が多いという私の先入観は完全に間違いのようです。

 しかし、こういう個人の才覚で仕事をできる業種では下戸でも済みますが、接待
の多い業種、例えば銀行員などをみていますと、体力があって酒も飲めないと出世
して幹部になるのは無理のように思っていますが、いかがでしょうか。

 自由業の司法書士は、ゴルフの付き合いも酒席の付き合いもしなくて済みますの
で助かります。今日は東京司法書士協同組合の忘年会ですが、酒は少々控えます。


2015.12.02(水)【命の価値】(金子登志雄)

 一昨日も、昨日も飲み会でした。師走ですね。アルコールに弱い私も酒のツマミ
の類いは大好きのため、誘われれば断りません。

 飲み会では歴史好きの方もいらっしゃいますので、自然に30日付の本欄に書い
た明治維新の件なども話題の1つになります。

 まだ明治維新から150年も経ていないのに、当時は簡単に人の命を奪いました。
風の強い日を選んで京都を火の海にしようなどと、イスラム国ばりのことをまとも
な大人が真剣に相談しあうのですから、怖い時代でした。

 吉田松陰も「至誠にして通じなければ殺せ」と主張する過激な部分がありました
し、攘夷・討幕という大義名分の下に、勝ち組は負け組に対して暴虐の限りを尽く
しました。その暴虐ぶりは、かき集められた足軽連中が恩賞の代わりに、敵陣営の
財産を奪い、婦女子に乱暴し、女子供をさらって売り飛ばしていた戦国時代と大差
がありません。

 現在でも、イスラム国で簡単に人を処刑したりしていますが、彼の地では戦国時
代なんでしょう。平和な外野席にいて、その残虐性を批判しても聞くわけがありま
せん。

 敵に対しては何をしても逮捕されないどころか周囲から褒められる環境にあった
ら、残虐行為に麻痺してしまうのが人間かもしれません。だからこそ、権力を抑制
しようとする三権分立思想などの自由主義原理は、性悪説から発しています。

 適うことなら、そういう残虐性に対しては鎖国し、紛争は対岸まででとどめてお
きたいものですが、江戸時代でもあるまいし、現在は無理なのでしょう。臆病な私
は、山奥に行き、洞窟おじさんになるしかないかもしれません。


2015.12.01(火)【電話会議の取締役会議事録】(島根・根来川弘充)

 金子先生の新著「平成27年施行 改正会社法と商業登記の最新実務論点」を購
入させていただきました。目次に目を通しましたら、「電話会議議事録の盲点」な
るテーマがありました。

 つい先日、支店設置登記の依頼を受け終わったばかりだったのですが、その会社
には、県外におられる取締役が一人おられました。

 私は、こちらにおられる取締役だけで、決議が可能でしたので、その方々だけで
の取締役開催を提案したのですが、その場では、電話(テレビ)会議の方法がある
ことを、すっかり忘れていただけでした。

 今回、新著で先のテーマを調べましたところ、電話会議の場合、議事録に開催場
所として、電話で参加した取締役の所在を記載しないといけないということを知り
ました。

 もし、今回、依頼を受けた会社が電話会議の方法で取締役会を開催されていたら、
私は、こちらにおられる方が出席された場所のみを記載した取締役会議事録を作成
したと思います。

 結果的に依頼者に迷惑をかけずに済んだのは、良かったのかもしれませんが、私
としては、自分の無知さが、ただただ、恥ずかしい限りでした。

(金子注)
 根来川さん、拙著を取り上げていただき感謝です。おかげさまで好調のようです。
さて、本欄閲覧の方に、念のためですが、2か所の場所で会議を開催したと評価さ
れる場合は2か所を記載し、1か所で開催し、そこに電話(テレビ)出席したと評
価される場合は、1か所の記載で足ります。議事録にはこの点が分かるように記載
することが重要だと思っています(『論点解説 新・会社法』142頁参照)。


2015.11.30(月)【官軍史観のアンチ本】(金子登志雄)

 NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」をみて、吉田松陰はテロリストみたいだと本欄で
感想を述べたことがありますが、そのものずばりの本がありました。

    http://is.gd/9ESDw4

 「明治維新という過ち―日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」という題名
で、薩長の官軍の側からみた歴史を真っ向から批判した内容でした。まずは、アマ
ゾンの読者の書評をざっと読んでみてください。評価が二分されていますが、こう
いう本は実に興味深い内容であることが経験的に分かっていますので、早速、購入
して読んでみました。

 期待に反せず、実に興味深く、吉田松陰だけでなく、赤報隊に命じて江戸市中で
狼藉の限りを尽くした西郷隆盛、武器商人の営業マンだった坂本龍馬、チンピラの
高杉晋作、宴席で家老を斬り殺した水戸黄門………と、一般に偉人と扱われている
歴史上の人物の負の側面(実態?)が紹介されており、英雄を中心に歴史を説いた
司馬史観に対し、「リアリスト」の視点から猛批判していました。

 途中まで読んだ段階では、「いやぁ、面白かった」と本欄に書こうと思っていま
したが、後半の会津の白虎隊より幼い二本松の少年隊の悲劇などの場面に達すると、
そういう不謹慎な感想を出せなくなりました。

 法律解釈と同じく歴史解釈でも様々な捉え方があってこそ、正常な社会ですから、
たまには、せめて、単細胞の攘夷論を唱え外国人を殺戮しようとして連中が、のち
に西洋かぶれの鹿鳴館に変わった事実に批判的な目を向けてもよいでしょう。

 私個人にとって新鮮だったのは、これまで長州(毛利)の殿様は懐が広くりっぱ
だったからこそ、反徳川の過激分子が縦横に活躍できたのだとばかりに思っていま
したが、この本では、「そうせい(よきに計らえ)」といわないと、殿様の命が危
なかったからだそうで、なるほどと思いました。幕末時代の朝廷も同じだったでし
ょう。

 物事を一面的にみるべきではないと感じている方、歴史が好きな方にはお勧め本
だと思いました。とくに、賊軍として頑張った東北の方には、ご先祖の気持ちを知
るためには必見の書かもしれません。


2015.11.27(金)【業務の決定と業務執行の決定】(金子登志雄)

 次の2つの条文を比較し、何か感じませんか。

------------------------------------------------------------------------
1.非取締役会設置会社に関する348条2項
  取締役が2人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがあ
 る場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。

2.取締役会設置会社に関する362条2項
  取締役会は、次に掲げる職務を行う。
   一 取締役会設置会社の業務執行の決定
-------------------------------------------------------------------------

 非取締役会設置会社では「業務の決定」なのに、取締役会設置会社では「業務
執行の決定」となっています。

 「業務の決定」は「執行する業務の決定」という意味であり、「業務執行の決
定」と同じ意味でしょうが、ずっと、この表現の差に引っかかっていました。

 いまは、権限分配が理由だと思いはじめました。会社の業務(実際に行ってい
る業務)の執行機関は、本来、取締役だが、これを決定機関と執行機関に分断し
た場合に、上記のような表現の差になるのではないでしょうか。

 ちなみに、定款の事業目的は会社の存在理由のことであり、実際に行っている
業務自体ではないこと、「会社の業務」という場合は株主総会の招集決定や計算
書類の承認など執行を伴わないものも含んでいること、「職務」は「担当業務=
役割」のことであり、狭義の執行業務とは概念が相違することなど、会社法に登
場する概念を考えていると哲学の世界に入りそうです。実務家は深入りしないほ
うがよさそうですね。

(参)新著(改正会社法と………)は、アマゾンで「一時的に在庫切れ」(仕入
予定数以上に購入注文があった)と表示されるほど売行好調のようで、御礼申し
あげます。この調子で、他の通販会社や書店でも在庫切れになるよう、土日には
冷たい滝に打たれて願掛けしようと思っておりましたら、そう思っただけで風邪
を引いてしまいました。季節の変わり目、皆様もご自愛ください。



2015.11.26(木)【苦労人】(仙台・立花宏)

 その男の考えは間違っていなかった。
 そのプロジェクトを見ている誰もがそう思ったと思います。

 昨年、ある男がそのプロジェクトのリーダーを引き受けたとき、プロジェクト
チームのメンバーは、自分たちがどうなるのかと不安にかられていました。

 そのプロジェクトは、その団体にとって、目玉ともいえる企画でした。
 そのプロジェクトを率いていた前リーダーは昨年で勇退する予定であり、後任
のリーダーは、その前リーダーの愛弟子ともいえるそのプロジェクトチームのサ
ブリーダーがなるというもっぱらのうわさでした。しかし、結局、そのサブリー
ダーはそのプロジェクトのリーダーには就任しませんでした。そのプロジェクト
の大きさが重責となり、リーダーとなることを辞退したようでした。そのうち、
プロジェクトのメンバーの気持ちはばらばらになり、プロジェクトはどうなって
しまうのかという状態になりました。

 次のリーダー選びは難航し、何人かが候補者として名前があがっては、候補者
が辞退するということが繰り返えされました。結局、リーダーが決まるまでに数
か月を要しました。

 そして、最終的にリーダーに就任したのは、以前、このプロジェクトチームに
在籍していたのですが、2年前、そのプロジェクトチームからはずされた男でし
た。リーダーの期待している成果をあげられていないから、というのがその理由
でした。

 その男の技術は誰しもが認めるほど素晴らしいものでした。ただ、強い信念を
持ち、曲がったことが嫌いだったため、前リーダーと考えが異なると、ぶつかる
こともしばしばだったようです。プロジェクトチームのメンバーからはずされた
のも、表向きは成果をあげられていないからというものでしたが、本当は、考え
方の違いから、前のリーダーとぶつかり、次第にそのプロジェクトの中心からは
ずれ、冷や飯をくわされた挙句、そのプロジェクトチームのメンバーからはずさ
れたというのが本当のところのようです。

 その男はリーダーを引き受けると、チームのメンバーを集め、新プロジェクト
チームの構想を発表しました。メンバーは、その構想に驚きを隠せませんでした。
というのは、これまでのメンバーをほとんど、そのまま引き継いだ内容だったか
らです。どうしても、その男の下では仕事をしたくないと去っていったものは、
引き留めることはしなかったようです。しかし、その男に冷や飯を食わせた前リ
ーダーの下で集められたメンバーがほとんどそのまま引き継がれていたのです。

 その男は、プロジェクトチームのメンバーと真摯に向き合い、あたらしいプロ
ジェクトチームの向かうべき方向性をメンバーと模索していきました。

 あたらしいリーダーのもと、プロジェクトチームは再び始動しました。そして、
これまで以上に、プロジェクトの完成へと前進していきました。メンバーはほと
んどかわりませんが、以前よりもメンバーがまとまり、団結しているように感じ
ました。なによりも、メンバーがリーダーを信頼しきっているようでした。

 ある日、メンバーの一人がリーダーに聞いたそうです。リーダーがプロジェク
トチームをはずされたとき、メンバーの中には冷たい態度をとった人間もいたは
ずだ。それなのに、 なぜ、メンバーをかえなかったのかと。

 すると、リーダーは答えたそうです。
 「自業自得とはいえ、私は否定され続けました。だから、もし、リーダーにな
る機会があったら、最初から誰かを否定することはしたくないと思っていたので
す。私の下を去りたいという方以外は、こちらから否定するつもりはありません
でした。もし、こちらの気持ちをわかってもらえなくても、信頼して待ち続けよ
うと。信は力なり、かな。もちろん、高いレベルを要求しますし、厳しいことは
言いますけど」

 これまで、苦労してきた男です。しかし、その苦労にひねくれることなく、リ
ーダーとしてとして見事によみがえったように思いました。

 いつかそのプロジェクトが完成したとき、きっと歓喜の輪の中心に、その男が
いるのだろうと思います。


2015.11.25(水)【非業務執行社員】(金子登志雄)

 昨日に関連して、今日は合同会社の社外役員ではなく非業務執行社員の話題に
しましょう。 

 当事務所にも、1年にほんの数回だけですが合同会社の案件が入ります。設立
であれば、そう苦労しませんが、社員の加入・脱退などがあると、文献を調べな
がらの作業になります。

 いまさらですが、株式会社は所有(株主)と経営(取締役)が分離された仕組
みであり、株主は経営のプロである取締役に業務執行を委任しますが、持分会社
である合同会社は社員自体が直接に経営に従事する業務執行社員になります。例
外として、定款に定めることによって、非業務執行社員を設けることもできます。

 したがって、業務執行社員になることは会社との委任契約に基づく「就任」で
はなく、「加入」(新規に社員になった場合)や「業務執行権付与」(非業務執
行社員に業務執行権の復活)となり、代表社員になってはじめて委任関係を前提
とした「就任」「辞任」等の登記になります。

 では、業務執行社員で代表社員である者が定款の変更により非業務執行社員に
なった場合の代表社員については「(資格喪失による)退任」の登記になると思
うのですが、法務省の登記記録例にも、テイハンの書式精義にも、全く記載があ
りませんでした。

 こういうとき、私は、「なぜ、記載がないのだ」と原因の追求をしてしまいま
す。おそらく有限会社や非取締役会設置会社の取締役と同様に、定款に互選規定
でもない限り、業務執行社員と代表社員の地位は一体であるため、あたかも2つ
の地位であるかのような退任事由を定めることに躊躇があるのでしょう。

 しかし、非取締役会設置会社の各自代表が取締役を辞任すれば、登記上は代表
取締役につき「退任」を理由に登記していますから、合同会社の登記でもそうな
るのでしょう。未経験なので断言はできませんが………。


(追記)閲覧者から松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』670頁
 以下には記載されていると教えてもらいました。   



2015.11.24(火)【非取締役会設置会社の社外取締役】(金子登志雄)

 3連休でしたが、いかがでしたか。いつもながら、無趣味で出不精の私にとっ
ては、することもなく日々苦痛でした。休み中の成果は、無理やりネタをみつけ
て、本欄の原稿を書いた程度でした。

 さて、会社法の次の規定をみてください。
----------------------------------------------------------------------
363条1項 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
 一 代表取締役
 二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設
  置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの

2条 業務執行取締役とは、株式会社の第363条第1項各号に掲げる取締役
  及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。
----------------------------------------------------------------------

 これからみると、取締役営業部長などに選定されると、まだ業務執行に従事
しなくても業務執行取締役です。

 では、会社法348条には「取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、
株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行する。」とあるため、非取
締役会設置会社では、取締役として選任された瞬間に、一度も業務執行に従事
しなくても、業務執行取締役として扱われるのでしょうか。

 これについては、商事法務1744号91頁に会社法立案担当者が説明して
いました。いわく、「会社法における定義によれば、取締役会設置会社以外の
株式会社における取締役は、業務執行権を有していたとしても、現に当該株式
会社の業務を執行しない限りは、社外取締役たりうることとなる。したがって、
取締役会設置会社以外の株式会社においても、責任限定契約締結の対象となる
社外取締役が存在しうる」。

 この説明によると、非取締役会設置会社では、取締役営業部長に選定されて
も、一度も営業部長の職務に従事しない間は、社外取締役ということになりそ
うです。

 ついでですが、会社法590条1項に、持分会社の「社員は、定款に別段の
定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。」とありますが、業務を
執行するまでは、非業務執行社員なんでしょうか。

 以上につき、揚げ足取りとみるか、会社法規定の不備とみるか、人によって
相違しそうですね。



2015.11.20(金)【「君たちへ」】(金子登志雄)

 「司法書士のオシゴト」のブログで有名な新保司法書士が司法書士会連合会
主催の新人研修で講師をするというので、研修カリキュラムをみてみました。

 あらら、お得意の会社法・商業登記ではなく「法律家を目指す君たちへ」が
パート1から3まであり、そのパート2の担当でした。

 なんとまぁ、気の毒なテーマを振られたものです。研修部門の作成でしょう
が、この「君たちへ」という「上から目線」は何とかならないものでしょうか。
受講生にあまりに失礼です。

 受講生の中には上場会社の幹部を定年退職後に受験して合格した人をはじめ、
社会人からの転身組も少なくないでしょう。社会人としては、講師よりも先輩
なのに、「君たち」と呼ばれては面白くありません。48歳のときに新人研修
を受けた私は、身をもって、それを感じました。

 そもそも、会社における部下の養成である新人研修と違って、受講生は部下
になるわけではないのです。法律能力でも、元上場会社の法務部員や司法試験
崩れなど講師以上の方もいることでしょう。

 まぁ、年配の受講生としては面白くないでしょうが、新人研修が終わり実務
につけば、この上から目線はなくなります。新保さんも司法書士としては私の
先輩なのに、年齢では私のほうが上なので、私を立ててくださいます。

 いずれにしろ、来年からは「法律家を目指す【皆さん】へ」に変更すること
を望みます。


2015.11.19(木)【合意書と同意書】(金子登志雄)

 新著、無事に発刊されました。アマゾンが仕入れた冊数は、予約注文で全部
がはけてしまったようです(すぐに入荷し、そう、お待たせすることはないと
思います)。

 さっそく、事務所の近所の三省堂書店にも立ち寄ってみました。新刊本です
から、法律書のコーナーの本箱の前にあるテーブル(特等席)に平積みされて
いるかと思いきや、ありませんでした。そこにあったのは、マイナンバー本ば
かりで、その後ろの本箱に前向きで10冊程度が置いてありました。

 マイナンバーも国民総背番号制というと大反対したのに、マイナンバーとい
うと反対しないのですから、日本国民は、為政者に上手に操作されていないで
しょうか。敗戦を終戦、撤退を転進……と言い換えるなど、日本語は便利です。

 さて、最近、既存普通株式の一部を完全無議決権株式にする相談が増えてき
ました。拙著『事例で学ぶ会社法実務』52頁で紹介していますが、次のよう
な質疑応答があります。

----------------------------------------------------------------------
 Q:普通株式の一部を配当優先無議決権株式に変更する場合の変更登記の申
請書には、①株式の種類を追加する旨の定款変更に係る株主総会議事録及び②
株式会社と配当優先無議決権への変更を希望する株主との合意を証する書面の
ほか、③他の普通株式にとどまる者全員の同意を証する書面の添付を要するか。
また、普通株式の一部を完全無議決権株式に変更する場合はどうか。
 A:前段については、①~③の添付を要する(昭50年4月30日付け法務省民
4第2249号民事局長回答参照)。後段については、通常は、無議決権株主に優
先配当その他何らかの有利な取扱いがされるため、原則として、①~③の添付
を要すると考えられるが、仮に、普通株主にとどまる者が一切の不利益を被ら
ない場合には、③に代え、その旨を証明する上申書を添付して差し支えない。
----------------------------------------------------------------------

 ここで若干疑問に感じるのは、合意書ですが、合意書とあるから、こりゃ何
だという気になりますが、株主本人の同意書のことでしょう。私は、こう考え
て、本人の同意書のあて先を「〇〇株式会社 御中」とした「差入書」風にし
て合意書形式にしていません。これで、何もいわれたことがありませんが、他
の司法書士はいかがですか。


2015.11.18(水)【問屋とは】(金子登志雄)

 ロシア機の墜落もテロだったとロシアから発表があったようで、これでます
ます世界が乱れそうです。我々の目からは、まさしく無差別テロですが、イス
ラム世界からみると、聖戦(ジハード)とみる人も多いようで、何か宗教戦争
の色合いが出てまいりました。彼らからみれば、空爆(とくに無人機による空
爆)も無差別殺戮です。家族が殺された恨みは消えるものではありません。遠
いイラクやシリアへのアメリカの侵攻は正しかったのでしょうか。

 平和憲法を持ち、キリスト教でもイスラム教でもない日本は、これまでテロ
の安全地帯でしたが、今は、アメリカの要求に従い、集団的安全保障でイスラ
ムを敵に回す政策を採用してしまいましたから、我々も、もう安全な外野席に
いることはできません。物騒な世の中になったものです。原発や東京オリンピ
ックが標的にならないことを祈るしかありません。

 さて、お待たせいたしました。新著はやっと取次に回りました。書店に並ぶ
のも、もうすぐです。

 この取次の会社のことを一般に「問屋」といいますが、商法第551条には、
次のような規定があります。古い文体ですが、試しに読んでください。「謂フ」
は「いう」と読みます。

 「問屋トハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ為メニ物品ノ販売又ハ買入ヲ為スヲ業トス
ル者ヲ謂フ」

 実は、この「問屋」は「といや」と読み、卸売業の「とんや」の意味はあり
ません。卸売りの問屋は、自己の名義で【自己の計算で】商売する人ですが、
商法の問屋は、自己の名義で【他人の計算で】商売する人です。典型例は証券
会社であり、顧客から注文を受けて証券会社の名で発注しますが、損得は顧客
に帰します。

 それはそうですね。証券会社が「トンヤ」でしたら、「なぜこんな株を売っ
たのだ」とクレームが殺到し商売が成り立ちません。昨日は、郵政3社のうち
日本郵政以外の2社が前日比で下げました。


2015.11.17(火)【打ち上げ寸前】(金子登志雄)

 テレビの「下町ロケット」は視聴率絶好調のようですね。大手企業に負けな
い中小企業の技術力をみよ、これが佃(つくだ)航平を主人公とする佃製作所
の技術力のプライドだということでしょうか。

 どうでもいいことですが、「佃」というのは、「下町=佃煮」からの作者の
命名かなと想像していますが、実際はどうなのでしょうか。

 企業と相違し、弁護士・会計士・司法書士の世界には、大手事務所の技術力
が優れているという見方はなされていません。30代あたりで、大手を飛び出
し独立する人が多いからです。もともと、士業=自由業というのは、そういう
ものかもしれません。

 したがって、超零細事務所の当事務所も、少なくとも会社法・商業登記の技
術力に関しては、大手に負けないどころか、大手の上を行くという自負があり
ます。そうでなければ、上場会社が当事務所を相手にするわけがありません。

 残念なのは、佃製作所と相違して我々の技術は特許が取れないことです。株
主割当増資を1日で終わらせる方法とか、100%子会社同士の無対価合併な
どは、当事務所の技術開発でしたが、こういうアイデアやノウハウは特許庁が
相手にしてくれません。

 それでも、そういうノウハウを隠さずに著作で発表するのは、実にもったい
ないことだとよく指摘されますが、どうせ誰かがいつか同じノウハウに達する
であろうから、先に発表しても何の問題もない、その上をさらに行けばよいの
だというが当事務所の技術力のプライドです。

 この仕事や技術開発が好きでたまらないという点で私も佃航平に似ている部
分がありますが、私の作品も明日には世に打ち上げられようとしています。幸
い、大手のアマゾンでの連日の製品テストは、私自身でも信じられないくらい
高得点でしたが、明日の打ち上げは無事に成功し、製品が世に受け入れられる
でしょうか。
      http://is.gd/I0akHr


2015.11.16(月)【任期10年】(金子登志雄)

 無差別テロで、フランスでは、とんでもない13日の金曜日になってしまい
ました。なぜ、標的がフランスなのかは不明ですが、終わることのないテロと
の戦いに呆然とするばかりです。

 さて、平成18年の会社法の施行で非公開会社の任期が最長10年になった
とき、何と長い任期か、私はそれまで生きていられるのかなどと思ったもので
すが、無事に生きており、平成16年や17年に就任した役員の重任登記を昨
年来、いくつか受託しています。ほとんどが個人企業か家族経営の会社でした。

 この 10年の間に、役員の辞任や死亡など登記すべき事項が1つも生じずに
平穏に過ぎたというのは、ある意味で幸せなことだったというべきでしょう。

 10年前の株式会社は旧商法時代の設立ですから、すべて取締役会設置会社
です。そこで、この10年の任期満了を機会に、監査役権限の登記などをせず
に取締役会と監査役を廃止する例が少なくありませんでした。株式会社という
名があれば、取締役会の存在はなくても、対外的な取引(信用)に支障がない
ことが分かってきたのでしょう。あるいは、上場会社が組織の簡素化を求めて
監査等委員会設置会社になるのと同様に、非公開会社でも組織の簡素化が時代
の流れになっているのでしょうか。

 もう1つ多いのは、息子を社長にし、自らは平取締役になるか、退任する例
が少なくなかったことです。この点では、やはり10年というのは長い年月だ
なと感じます。生まれたばかりの赤ん坊が小学生に、あの生意気な小学生が成
人になっているのですから、当然ですね。私も望んでいないのに前期高齢者に
なってしまいました。はた目からは、りっぱなジイサンですが、自覚症状はあ
りません。


2015.11.13(金)【初体験の監査等委員会設置会社】(金子登志雄)

 13日金曜日で大安です。よい日なのか悪い日なのか分かりませんが、持ち
株はここ数日間悪い日であり、新著はアマゾンで、よい日が続いています。真
の問題は、この上位がいつまで続くかですが………。
     http://is.gd/I0akHr

 さて、今月になって、やっと監査等委員会設置会社への移行の登記を体験さ
せてもらいました。

 改正会社法施行日(5月1日)以前は、あちこちから質問を受け、「こうい
うはじめての登記は会社法・商業登記の専門家でないと対応することができな
いので、金子先生のところに仕事が殺到するだろう」なんて、おだてられてい
ましたが、いざ蓋を開けてみると、そう難しい登記ではないことが知れ渡り、
全く、この仕事が来ませんでした(今回のも既存取引先です)。

 確かに、ある面では組織の簡素化ともいえる内容ですから、特別に難しい登
記ではありません。いつも使っている司法書士の頭越しに当事務所に依頼する
ような仕事でもないでしょう。

 一瞬、迷ったのは、登記の事由「取締役、代表取締役及び監査役の変更」に
つき、「監査等委員である取締役」と挿入すべきかどうかでしたが、これも取
締役の変更に含まれますね。

 私よりも、登記所が迷いそうだったのは、既存の取締役Aが「退任」し、監
査等委員である取締役Aに「就任」したのに、本人確認証明書の添付がないこ
とに違和感を持たないかということでした。

 これは商業登記規則61条5項本文に「取締役の就任(再任を除く。)によ
る変更の登記の申請書には、取締役が就任を承諾したことを証する書面に記載
した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の
公務員が職務上作成した証明書を添付しなければならない。」とあり、監査等
委員である取締役か、そうでない取締役かを区別していないため、登記申請で
は「退任・就任」としても、この条項の適用上は「再任」になるので、本人確
認証明書の添付は不要だとされています。

 こういう場合に、黙って申請すると電話がかかってくることもありますので、
ベテラン司法書士である私は、鉛筆で上記をメモ書きして申請しましたので、
登記調査官も迷うことはないでしょう。



2015.11.12(木)【新著、宣伝スタート】(金子登志雄)

 やっと新著『改正会社法と商業登記の最新実務論点』がアマゾンで画像まで
出るようになりました。宣伝の開始です。

  http://is.gd/WViIHI

 この本は東京司法書士協同組合編とあるとおり、組合から出した70頁足ら
ずの『改正会社法の実務論点』に加筆・バージョンアップし(第1編)、2月
の本人確認証明書の商業登記規則の改正(第2編)と、最近の商業登記実務の
諸問題(第3編)を加えて1冊にしたものです。

 なんだ、あの小冊子の焼き直しかといわれないよう、さまざま工夫したつも
りですが、発売前から、アマゾンで多数の予約注文を頂いていることからする
と、逆に、あの小冊子の購入者が今度の新著の内容を推測できたので、安心し
て予約注文してくださったのかもしれません。

 改正会社法の本なら、とっくに購入済みだという方も多いでしょうが、拙著
は相変わらずユニークな内容ですので、類似本はありません。表紙の折り返し
に出版社が「金子流解説の真骨頂 実務家の疑問に斬り込む!」と書いてくだ
さいましたが、本徒然もコラムとして多数引用し、今まで以上に私の個性が表
に出た風変わりな本になりました。

 改正会社法本の旬を逸しないよう、小冊子の時から校正作業を手伝ってくれ
ている仙台の立花司法書士と、登記情報への投稿でお馴染みの広島の幸先(こ
うさき)司法書士に再び助っ人をお願いしましたが、勉強家で中堅司法書士の
お2人が「これなら実務に役立つ」と認めてくれていますので、実務家の方に
は、きっと役立つと信じています。

 昨日やっと私の手元に数冊入りました。いま印刷中ですから、あと1週間も
すれば書店にも並ぶと思いますので、もうしばらくお待ちください。


2015.11.11(水)【法務局等の名称】(金子登志雄)

 東京都千代田区の会社が埼玉県内に本店移転するので、東京法務局への申請
で経由先法務局として「埼玉地方法務局」と書きましたら、「あて先法務局名
の訂正」という補正指示を受けました。

 あれ、書き方を間違ったかな。経由先法務局とは経由元の東京法務局のこと
だったのかなと考えてしまいましたが、司法書士各位は、補正理由がすぐに分
かりましたか。

 関東地区の司法書士でないと、ぴんと来ないかもしれませんが、補正指示の
意味は「埼玉地方法務局」ではなく「さいたま地方法務局」と正しく書き改め
よというものでした。

 我ながら珍しい補正ではないかと感じ入りました。これに関連して、各地の
司法書士会の名称ですが、札幌司法書士会、神奈川「県」司法書士会、埼玉司
法書士会とばらばらです。

 (法務局名)
  http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kakukyoku_index.html
 (司法書士会名)
  http://www.shiho-shoshi.or.jp/association/shiho_shoshi_list.php

 札幌司法書士会や函館司法書士会は、その地の法務局名に合わせたものであ
り、神奈川県司法書士会や埼玉司法書士会は県名に合わせたものでしょう。

 では、東京司法書士会や大阪司法書士会は、法務局名に合わせたのか、地域
の名称に準じて「都」や「府」を省略しただけなのかと問われると、どちらで
しょうか。



2015.11.10(火)【人的種類株式】(金子登志雄)

 会社法109条2項により、非公開会社は、議決権等につき、株主ごとに異
なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます。

 最近は種類株式を定めると費用がかさむため、この人的種類株式を利用とす
る動きがあり、私も、もう5、6回、この手続に関与しました。

 株主は父親と息子だけ、あるいは親族だけというケース以外はお断りしてい
ます。そうでないと、後日、トラブルが発生する可能性が高いためです。

 例えば、株主Aは1株につき議決権100個、Bは1株につき議決権1個と
定めたとき、A(又はB)につき配当優先権をつける際にはB(又はA)の種
類株主総会の承認が必要ですが、発行可能株式総数を拡大するときはどうか、
いずれかが株式分割するときはどうすべきかと複雑な場面が予想されます。

 このAとBの関係が良好な親子関係あるいは親族関係であれば、紛争の生じ
る可能性は少ないのに対し、そういう関係がないと、「話が違う」「そんなは
ずじゃなかった」とトラブルが発生しそうです。

 この会社法109条2項は、法律の規律を超越した罪深い規定ですから、い
つでも株主全員同意で話がまとまる場合でしか、採用しないのが無難だと思っ
ています。

 設立の際の定款認証では何もいわれたことがありません。登記事項ではない
ので、公証人も気が楽なのかもしれません。

(参)昨日、またアマゾン会社法部門でトップになりました。現時点では、本
  欄でしか公表していませんので、本欄閲覧の皆様のおかげです。ありがと
  うございます。アマゾンで画像が出たら、広報活動を開始するつもりです。
 http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/500196/ref=pd_zg_hrsr_b_1_5_last


2015.11.09(月)【後輩の講義】(金子登志雄)

 土曜日は恵比寿ガーデンプレイスのウエスティンホテルでリッチに大学のゼ
ミ(民法ゼミ)のOB会でした。ご高齢の先生ご夫妻を迎えて毎年行っており、
OBは全国に400名程度です。そのうち例年80名程度の参加ですから、活
発な会だといえます。

 OB会では、例年、OBのうちの1人が1時間弱講師を務めますが、今年は
松尾弘慶大教授の改正民法講義でした。私は、持回り幹事の1人として、不慣
れなカメラ担当をしていたため、そちらに気をとられてしまい、講義を堪能で
きなかったのが残念です。

 翌日の日曜日は司法書士会の義務である年次研修で、池袋にある立教大学で
司法書士倫理の研修を受けて来ました。講師は、九州大学の七戸勝彦教授です。

 偶然ですが、この七戸教授もゼミの後輩です。無試験でゼミ員になれた私の
期以外は、みな優秀です。

 七戸君(?)の話ははじめて聞きましたが、話し上手ですね。居眠りしてい
る人は、無呼吸症の気があり、いつでも眠い私が、時々、うつらうつらしてし
ていた以外にはいないようでした。

 司法書士倫理ですが、幸いなことに商業登記事案で懲戒処分を受けた事案は
少なく助かっています。商業登記は、報酬が少ないから、懲戒処分を受ける危
険な場面も少ないともいえますので、こればかりは痛しかゆしですが………。

(参)金曜日に新著のことに触れましたら、一時的ですが、アマゾン会社法本
 部分のベストセラー1位になりました。本欄閲覧の皆様が予約注文してくだ
 さったことは明らかです。この場を借りて御礼申し上げます。  


2015.11.06(金)【会社番号と閉鎖事項証明書】(金子登志雄)

 4日に上場した郵政3社の株価はいまのところ絶好調ですね。買いましたか。
私は、生来の天邪鬼ですから、儲かると分かっていても、皆が一斉に動くこと
が嫌いなので、申込みさえしていません。NISAもやっていません。

 それはよいのですが、私の投資先の持株を売って郵政3社に乗り換える人が
多いようで、とんだとばっちりを受けています。やはり、天邪鬼は批評家にな
れても金儲けには向いていないようです。

 さて、当社は東京法務局管内で、本店をA→B→C→Dと移転しました。実
際にはビル名の削除という変更を含みますが、便宜上、ここでは全部が移転だ
ったことにしておきます。

 閉鎖事項証明書を取得すると「A→B」、履歴事項証明書には「C→D」し
か記載されていません。これでは、「B→C」のつながりが証明ができないじ
ゃないかと思いましたが、これでよいのだそうです。

 仙台の立花司法書士の説明によると、現在事項と履歴事項には直前の本店が
必ず記録されるので、履歴事項は上記でよいとして、Cへの本店移転の登記日
が基準日(証明書請求日の3年前の日が属する1月1日)前であれば、「B→
C」についても閉鎖事項に載るようです。商登規則30条をみると、立花さん
のいうとおりでした。

 必要に迫られ、9月に上記を取得した際は、閉鎖事項証明書にも登記記録の
欄外に会社法人等番号が記録されていましたが、先日、改めて取得しましたら、
閉鎖事項証明書から番号が消えていました。欄外には、現在の住所であるDと
商号が掲載されているとしても、これでは、閉鎖事項と履歴事項の会社の同一
性が不明確になってしまいます。

 どうも、管轄外に本店移転したとか合併解散や清算結了した場合には会社法
人等番号が閉鎖事項にも記録されるが、同一管内で生きている会社の閉鎖事項
には記録されないようです。ますます、閉鎖事項と履歴事項が同一会社である
のか不明になってしまいました。

 これについても立花司法書士の解説によると、この10月5日から会社法人
等番号は商号と同じく登記事項になったので、その登記事項に変更がない限り、
法人番号が閉鎖されることもないわけだから、閉鎖事項に記録されることはあ
り得ないとのことでした。

 この時期に、こんなマイナーなことに正確に把握しているなんて、彼はすご
いすね。驚きました。

 確かに会社法人等番号は登記事項の1つになりました。しかし、変更が想定
されない登記事項など登記事項といえるのでしょうか。違和感があります。ま
た、従来は全頁の欄外に番号が記載されれていたのに、いまは商号の1頁だけ
にしか番号が掲載されなくなりました。この点で不便な面も多く、登記所職員
にも不評のようですから、欄外への番号記載を残してほしいものです。

(参)新著、アマゾンに登場しました。18日発売になっていますが、それは
  全国に行き渡る日であって、もう少し早めになるはずです。
      http://is.gd/WViIHI
   中央経済社のHPにも登場しました。
      http://is.gd/o52ap0



2015.11.05(木)【分譲マンションの問題点】(島根・根来川弘充)

 先日、某大手企業のデータ改ざんによりマンション傾斜が発覚するという大
問題がおきました。所有されている皆様の多くは、一刻も早く建替えをのぞま
れていると思います。しかし、分譲マンションの場合、その処分をするとなる
と、法律により管理組合による議決が必要になります。

 つまりは、一所有者の考えでは建て替えができないということになるのです
が、ちがった見方をすれば、一棟のマンションは、「共有」によって成り立っ
ているといえるのではないかと思います。

 ところで、「共有」という登記簿上での表記なのですが、私が、一司法書士
として、不動産の登記申請に関わる場合、夫婦もしくは親子関係があるといっ
た親族関係がほぼすべてといって良いと思います。

 この点、分譲マンションというのは、面識がまったくない他の方と「共有」
関係になってしまうという点が、とても大きなデメリットであると、今回の事
件であらためて感じました。

 今、私自身マンションの登記に関わっています。管理組合の規約変更が必要
なのですが、皆さん快く応じてくださっており、大きな問題もなさそうで安心
をしております。

 先の大きな問題を、どのようにすれば、うまく解決するのかと考えた時、私
が関わっている事件と何が違うのかとふと思いました。規模の違いは、もちろ
んあるのですが、それ以上に、分譲マンションのデメリットは、今住んでおら
れる方はもちろん、これから購入を予定されている方にも、もっと知っておか
れた方が良いと思いました。


2015.11.04(水)【権利義務者】(金子登志雄)

 月曜日の続きですが、維新の党の松野代表が平成27年9月30日をもって
任期満了したことについては、双方の争点になっていませんでした。この任期
満了後の解釈について、大阪側は「党規約に代表者が任期満了により欠員にな
った場合に、前任者が職務を継続する規定がないから、現状は代表者不在状態
だ。松野氏に代表権限がない」と主張しており、これが争点のようです。

 さて、皆さん、株式会社や一般社団に置き換えて、「当法人の定款には代表
者が欠員になった場合に、前任者が職務を継続する規定がないから、代表者が
任期満了で退任した現状は代表者不在状態だ」という主張は可能でしょうか。

 企業法務に従事していないと規定の存在を忘れてしまうかもしれませんが、
これは認められません。会社法351条や一般社団法79条に任期満了や辞任
後の職務継続義務が規定されており、これを「権利義務者」といいます。きっ
と思い出していただけたことでしょう。

 この権利義務者制度は、団体法(=組織法)一般に認められた制度だといえ
ます。そうでなければ、代表者不在で業務の執行に支障が生じます。定款に定
めを置かないのは(これが通常です)、置くまでもない当然のことだからです。

 政党の場合も団体(組織)だから当然に同じだろうと、調べてみましたが、
「政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律」には
明文規定が置かれていませんでした。

 この明文規定がないことからすると、大阪側の主張にも一理ありますが、こ
れを前提にすると、同法9条には「法人である政党等には、一人又は数人の代
表権を有する者を置かなければならない」とありますから、任期切れの日以降
は違法状態です。後任代表が党大会で選任されるまで、業務も登記も一切でき
ません。預金も降ろせず、政党交付金も受領してはいけません。そもそも党大
会を誰が招集するのでしょうか。

 船で言えば船長の任期が切れたから、あとは勝手に動けともいえませんので、
明文規定がないのは、あまりに当然の内容だからであり、会社法や一般社団法
の権利義務者の規定を類推適用するのが自然な法律解釈だというべきでしょう。
橋下さんは弁護士ですし、大阪側にも法律専門家が多数いらしゃるでしょうに、
なぜ、このような主張をなさるのかは不明です。



2015.11.02(月)【話題の代表者辞任登記】(金子登志雄)

 月初ですが、ネットで登記に従事する司法書士各位にとっては実に興味深い
ものをみつけてしまいましたので、その話題にしましょう。いま話題の維新の
党における代表者変更の議事録と登記簿です。

    http://健康法.jp/archives/8212

 たぶん、党員の方が利害関係に基づき登記所で閲覧しスマホで写したもので
しょう。登記調査官の鉛筆によるチェック印(じるし)がありますから、われ
われには、登記所に保存されている資料であることがすぐに分かります。黒色
と赤色の2つのチェックがありますから、担当と上司2人のチェックでしょう
か。話題の案件のためか、相当慎重にチェックしたことが伺われます。

 議事録ですが、代表者の決定だけで後任代表者を選べるのでしょうか。無事
に登記することができたところをみると、そういう根拠法規か内規でもあるの
でしょう。党の規約8条によると、「代表の任期は、就任から3年後の9月末
日まで」とありますから、平成26年8月の設立日から計算しても、仮に松野
代表の任期が江田代表の任期を引き継ぐとしても、まだ十分に残っていますか
ら、9月末で松野は任期切れだと主張する橋下さん側の主張の根拠は不明です。

 蛇足ですが、こういう任期の定め方は感心しません。維新の党の設立年月日
は平成26年8月13日ですから、その3年後は平成29年8月13日です。
この場合の任期満了日は、平成29年9月末日でしょうが(3年以上)、もし
平成26年10月1日就任の場合は、平成30年9月末日まででしょうか。平
成29年9月末日まででしょうか(3年未満)。疑義が生じそうな定め方です。

 議事録の文章をみると、議事録に手慣れた人の作文のように感じますが、法
人実印や個人実印まで押されていますので、橋下・江田・松野さんも「おれは
知らなかった。」では済まされません。

 内容面では、議長の橋下代表が江田代表の後任として松野さんを指名したこ
とになり、8月27日までは橋下・松野の2人代表だったことが分かります。
おそらく松野代表就任登記申請も橋下代表の名前と印鑑でなされたのでしょう。

 数年前の東京地検特捜部の政治的捜査とマスコミあげての小澤叩きのとき、
何も悪事が見つからず、最後には小澤事務所が秘書の社宅用に購入した土地が
農地だったため10月29日に仮登記し、売買許可を得た後、翌年1月7日早
々に本登記したことに目をつけ(司法書士全員が認める全く問題のない登記で
す)、意識的に翌年に権利を移転した政治資金隠しの極悪人のように糾弾され、
連日の小澤つぶしキャンペーンが吹き荒れ、彼の政治生命を奪い、以後、日本
の政治の方向が大きく変わってしまいました(当時の報道の影響を受けて、い
まだに小澤=極悪人と思っている方が多いようですが、皆様は大丈夫ですか)。

 同じ登記でも、この維新の党の登記のほうが問題がありそうです。預金通帳
の印鑑は大阪組が保有して返さず、裁判になっているようですが、この丸印と
角印の代表者印もいまだに大阪組が持っており、松野代表の知らないうちに橋
下代表辞任の登記が勝手になされていたということがないことを願います。


(追記)上記の疑問点(任期等)の回答は下記に出ていました。  
     http://www.election.ne.jp/10840/98569.html   
     http://iwj.co.jp/wj/open/archives/272891#idx-5


2015.10.30(金)【株式取扱規程】(金子登志雄)

 南シナ海で米中が一触即発かとマスコミが大騒ぎしていますが、軍事の専門
家によると、いまや米中は経済的に相互依存の運命共同体になっており、正面
衝突はあり得ず、実際にも、事前にコースまで連絡しあっているようです。こ
れじゃ、プロレスと同じじゃないですか。現場の最先端の跳ね返りだけが心配
です。また、マスコミも、煽り立てるようなことは止めて、もっと冷静なプロ
の分析をしてほしいものです。

 さて、設立を受託した顧客から「株式取扱規程を作りたいのだが、ひな形は
ないか。」と聞かれました。ネットで検索しても、譲渡制限会社で非公開会社
用のひな形がみつからなかったようです。

 私もこの10年くらい株式取扱規程を作ったことがなく、私のパソコンに保
存されているのは、株券発行が必要であった旧商法時代のものしかありません
でした。

 株券不発行で株主名簿代理人も置かない非公開企業の株式取扱規程の見本が
みつからなかったわけですが、こういう場合、みなさんならどうしますか。

 長年こういう仕事をしてますと、こういうことはよくあることで、「ありま
せんでした。あしからずご了承ください。」では、プロの名折れです。急遽、
自作し、「これをご利用ください。」と添付ファイルで返信しました。

 念のため、株式取扱「規則」としますか、「規程」としますか。これはどち
らでもかまわないようで、上場会社でも、ばらばらです。「規定」は個々の条
項のことですから、株式取扱「規定」とする例はほとんどありません。


2015.10.29(木)【運送業と合併】(金子登志雄)

 吸収合併の手続にあたり、運輸関係の許認可には特別に注意しなければなりま
せん。例えば、関東の甲が関西の乙を吸収合併するにあたり、甲は運送事業を営
んでおらず事業目的にも掲げていない、乙も運送事業を営んでいないが事業目的
には掲げている場合(これを目的上事業者という)に、合併認可を要しない旨の
証明書が必要だとされています。

 これ、おかしくありませんか。合併会社の甲は運送業を営む気がないのですか
ら、乙が運送業を営もうが合併により乙は廃業解散するのですから、許認可は無
関係でしょう。せいぜい、乙の廃業届を運輸局に出せば済むことで、合併登記に
は無関係のはずです。

 合併について甲と乙が1つの会社になるという人格合一説の発想に立ち、乙の
許認可の処理を問題としているのでしょうが、会社法は明確に、甲は甲、乙は乙
で、乙は解散するという思考に立っているわけですから、法務省と国土交通省と
協議して、こういう運用は早期にやめてもらいたいものです。

 今回、乙に「運送業」という目的が掲載されている合併に関与しました。甲の
管轄法務局(都内ではありません)に問い合わせたところ、調べてくれ、やはり
認可を要しない旨の証明書を運輸局からもらってくれという話でした。

 しかし、運送業というだけでは、旅客運送か貨物運送か、海上運送かなど不明
のため、全部の運送業の認可を要しない旨の証明書をもらわねばならないのかと
呆然としてしまいます。

 某運輸局に問い合わせましたら、それぞれ係が違うから全部出してくれといわ
れ、合併会社の地域にある運輸局の支局に相談したら、そんなもの出せない、そ
もそも管轄は消滅会社側の運輸局だろうといわれる始末でした。

 こういうケースの場合には、上申書で対応してくれる登記所もあるようですが、
今回の登記所は無理のようでしたので、最終的には、お金がかかるが乙の目的か
ら運送業を削除することにしました。国土交通省管轄の許認可は、ほんとうにや
っかいです。



2015.10.28(水)【生命力と適応力】(金子登志雄)

 文明が進むと人の生命力は退化します。いまの子供は水洗トイレでないと用を
足せなくなりましたし、私もシャワートイレのない世界では生活したくありませ
ん。蛇口をひねればお湯が出てくる快適な文明生活?にもなれてしまい、子供の
頃の井戸水生活には戻りたくありません。
 
 ましてや、食い物もない山の中でサバイバル生活をするなど絶対に無理だと思
うのですが、かつては日本の敗戦を知らずにジャングルの中で生き抜いた日本兵
がおりました。横井庄一さんや小野田寛郎さんですが、若い方は初めて聞いた名
前かもしれません。

 ところが、戦後生まれの私と同世代でありながら、北関東の山の中に43年間
も生活していた人がいたとネットで知りました。「洞窟おじさん」という題名で
ドラマにもなりました。

 何と親の虐待に耐えかねて13歳で家出し、山の洞窟に住み、木の実、ヘビ、
カエル、うさぎ、イノシシなどを取って暮らしていたようですから、その生命力
に驚嘆してしまいます。私はド田舎育ちなのに、カエルにもヘビにも触れたこと
がありません。

 北関東の冬は猛烈に寒いです。どうやって、火の起こし方を知ったのでしょう
か。病気や怪我に、どう対応したのでしょうか。

 洞窟生活を維持できた最大の理由は、人が怖いというトラウマだったようで、
その意味では親からの虐待で人間社会への適応能力が欠如してしまったのでしょ
うが、それ以上に人の生命力、たくましさには驚嘆です。親はなくとも子は育つ
ということでしょうか。逆に、自戒を込めて、子供に過度に愛情をかけたために、
子供の生命力や社会への適応能力を親が奪っていないかと考えさせられました。
お宅は大丈夫ですか。子供が家の中の洞窟に閉じこもっていませんか。
          
          http://www4.nhk.or.jp/P3600/


2015.10.27(火)【最終校正】(金子登志雄)

 土日は、新著(題名は、東京司法書士協同組合編『改正会社法と商業登記の最
新実務論点』の予定)の最終校正作業に従事していました。

 いまさら、改正会社法の本では、ライバル本も多く、旬の時期を過ぎているの
で売れないだろうとの消極的意見も多いため、何とか旬の時期を大きく外さない
よう、校正作業も急ぎました。ライバル本はありません。拙著は、独自の切り口
などユニーク性が売り物ですから、比較されるおそれはありません。

 校正はつまらない作業です。「言う」と「いう」が混乱していないか、第〇条
第〇項と「第」のない〇条〇項が混在していないか、1員や1問1答か、一員や
一問一答かなど著作全体で統一がとれているかなどのチェックが主な作業です。

 (………という。)や「………である。」にするか、括弧内に「。」をなしに
するかは、さすがに統一が困難でした。登記では「監査役の監査の範囲を会計に
関するものに限定する旨の定款の定めがある」なのに、勝手に「。」をつけるこ
とに躊躇してしまいますし、「(………。)。」という「。」ばかりも何となく
違和感があるためです。

 登記の本で困るのは、登記記録の横の文字数が46文字程度なのに、書籍の主
流は1行35文字(28行)のため、登記記録どおりにすると文字が小さすぎて
読めなくなることです。また、挿入する図表が2つの頁にまたがらないよう調整
するのも結構面倒な作業でした。

 何とか頑張った結果、通常、出版までに最低でも3か月かかるといわれている
のに、2か月半後の11月中旬には出版することができそうです。子供が生まれ
るのと同じで私も楽しみです。男の子でしょうか、女の子でしょうか。あ、これ
は男女差別かも。



2015.10.26(月)【効力発生「時」】(金子登志雄)

 10月最後の週になりました。今週の官報公告には、12月1日付組織再編や、
11月30日付資本金の額の減少の公告が多いことでしょう。

 合併等の組織再編の効力発生日が月初であるのは、始まりの日を基準にするた
めであり、資本金の額の減少は終わりの日を基準とするためです。11月30日
付資本金の額の減少であれば11月の月次貸借対照表に反映させられます。

 ここで気をつけねばならないのは、本年の11月30日は月曜日だということ
です。10月29日や30日に債権者異議申述公告をしても、公告期間の末日が
11月29日の日曜日になるため、公告期間不足で登記が受理されません。

 たぶん、これに気づかずに10月29日あたりに公告する例がいくつか出てく
るでしょうが、資本金の額の減少の場合は、合併等の組織再編と相違して、効力
発生日の延期につき公告が不要なので、そう気にすることもありません。

 ここで、ふと、資本金の額の減少の効力発生「時」を11月30日最終時と定
め、11月29日の減資公告で「公告掲載時から11月30日24時までに異議
を申し出ください」とした場合も、期間不足になるのかと考えてみました。皆さ
ん、いかがですか。

 結論としては無理です。公告期間は1か月を下ることを得ずとされ、「月」で
計算しますが、この場合の期間計算は初日不算入とされ、公告掲載日の翌日であ
る10月30日が起算日、その応当日は11月30日、その前日は29日の日曜
日であるため、期間の末日が11月30日24時となるためです。効力発生日が
12月1日午前0時であればよくて、11月30日24時ではいけない理由は合
理的ではありませんが、日が違うからダメだとしか言いようがありません。


2015.10.23(金)【資本金計上額の基準】(金子登志雄)

 次のような質問があったら、どうお答えしますか。
------------------------------------------------------------------------
 資本金計上額が払い込まれた額の2分の1で1円未満の端数が生じたときは切
り上げるとされていた場合に、新株予約権1個1株13円が行使されれば、資本
金計上額は7円です。では、9月中にABC3名がそれぞれ別の日に1個ずつ行
使したら、資本金計上額は21円か、それとも9月月間行使総額39円を基準に
20円か。
------------------------------------------------------------------------

 いろいろ考えられます。

1.募集株式の発行であったら、払込期日に払い込まれた合計額39円を基準に
 して20円が資本金に計上される。つまり、全体で1個の払込みとされます。

2.これが払込期間で別々の日に払い込まれたとすると、個別に資本金額が7円
 ずつ3回(合計21円)増えたと登記しても、期間末日で20円が増加したと
 することも可能です。

 合計資本金額が異なるのはおかしいではないかと思う方もいるでしょうが、3
回の払込みがあったとみるか、一括で1回とみるかの差であり、私は違和感があ
りません。

 なお、一括して登記される場合も、ABCが株主になるのは払込み時ですから、
株主になるかどうかの出資者側の問題と資本金にいくら計上するかは別問題であ
り、後者は個々の株主には影響がないので、会社側の事務負担を考慮して多少の
誤差を不問にするのだと思います。

3.原則として集合で判断する募集株式の払込みと相違し、新株予約権は1個ず
 つ判断されるのが原則です(例えば、現物出資の少額特例等の判断)。しかし、
 1個0.5株のときは2個同時に行使しないと1株を交付されないことを考え
 ると、株主になるかどうかの基準は、個々の行使の行使者1人1人の基準です。

4.1人1人基準だと設例の資本金計上額は7円の3倍である21円ですが、A
 BC3人が同時に同じ日に行使したら、1日基準で20円です。

 では、設例のように別の日に個々に行使されたら、「日」が基準か、「月」が
基準かということになりますが、上記のとおり、資本金にいくらを計上すべきか
は権利行使者の問題ではなく、会社側の問題であるため、会社がどういう会計処
理を採用したか(何を基準にしたか)に影響されるのであり、便宜的に一括して
20円の計上額とすることも、几帳面に個別の合計額にしてもよいのでしょう。


2015.10.22(木)【対価の柔軟化】(金子登志雄)

 昨日も会合があり、飲み会でしたが、もともとアルコールに弱いので、回復も早
く、今日も本欄の更新に頑張れそうです。

 さて、『商業登記全書』改訂作業中に思い出しましたが、合併等対価の柔軟化は
1年遅れの平成19年5月施行でした。外資の乗っ取りがはじまるぞと実業界から
不安視されていたため1年遅れにしたわけです。

 しかし、会社法とは無関係に、いまや上場企業の株主のうち3割以上が米国資本
を中心とした外資です。郵政の民営化及びこのたびの上場で郵貯マネーもいずれは
米国資本が大株主になり、TPPで食料自給力についても外国依存となり、日本国
の総合的安全保障能力は減退する一方だと思うのですが、米国に「踏まれても蹴ら
れても着いて行きます下駄の雪」でよいのでしょうか。

 さて、対価の「多様化」といわずに「柔軟化」という表現にした理由はいまだに
不明ですが、実務では、「株式(自己株式、親会社株式を含む)、現金、無対価」
以外の対価をみたこともありません。新株予約権、新株予約権付社債、現金以外の
財産を対価とした事例があるのでしょうか。

 「現金」対価ですが、新設合併で設立する会社は設立時点では何の財産も所有し
ていません。ですから、資産項目ではない新株や新株予約権、社債なら、印刷する
だけですから対価にできますが、資産項目の現金は逆立ちしても対価にできません。

 ところが、会社法753条1項10号には「新設合併消滅株式会社が新株予約権
を発行しているときは、新設合併設立株式会社が新設合併に際して当該新株予約権
の新株予約権者に対して交付する当該新株予約権に代わる当該新設合併設立株式会
社の新株予約権又は【金銭】についての次に掲げる事項」とあります。おかしいと
思いませんか。

 これは、どう考えても、現金ではなく、現金交付請求権(債務)と考えるしかあ
りません。したがって、吸収合併の対価が現金だとしても、効力発生日に、それを
支払い済みにする必要はなく、振込みでも対価を現金にしたことになると考えてよ
いわけです。


2015.10.21(水)【朋あり遠方より来たる】(金子登志雄)

 昨日は、韓国の親しい若い知り合い(当社元社員)が日本に来たので、昔の知り
合い3人で寿司屋で飲みました。15年ぶりくらいの再会です(彼は小さいながら
も韓国で貿易会社を経営しているので、日本語は堪能です)。

 いろいろ聞きましたら、かの国では中国語熱が盛んになり日本語熱は急速に下火
になっているそうです。これは仕方ありませんね。中国との貿易が急拡大している
のに対し、日本ではインターネットで盛んに韓国蔑視発言がなされていますから、
嫌われても仕方ないでしょう。

 韓国経済は一握りの財閥(サムソンやヒュンダイなど)が支配しており、中小企
業は発達していません。この財閥に入社するための受験勉強の過酷な競争も日本以
上です。この点にも雑談で聞いてみましたが、業績のよい中小企業は、すぐに財閥
大手に買収されて取り込まれてしまうのだそうです。

 彼に中小企業の層の厚い日本はうらやましいといわれましたが、それは日本が敗
戦国で戦後に財閥が解体されたからでしょう。その結果、中小企業の層が厚くなり、
一時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまでいわれましたが、バブルも崩壊し、
小泉首相あたりから、米国からの対日要求に従って、竹中平蔵氏と一緒に欧米の新
自由主義経済路線(大企業優遇策)を採用したため、いまでは日本の長所は薄くな
り、地方の銀座通りもシャッター通りに変わりました。

 現在もこの経済路線は踏襲(強化)されていますが、消費税アップ、TPP、マ
イナンバー制度の負担に着いて行ける中小企業は、そう多くはありません。いつし
か日本も韓国のように国際的大企業しか生き残れなくなるのでしょうか。それとも
1憶2000万人の国内市場があるため、違った方向に進むのでしょうか。

 彼とサヨナラし、酩酊状態でとぼとぼ歩きながら、そんなことを考えていました
が、念のため、金子は酒席でも、こんな堅い話ばかりしているのかと思わないでく
ださい。彼の好きなプロ野球や相撲、女性の話もしましたが、ここに書いても仕方
ないためカットしただけですので。



2015.10.20(火)【上州弁】(金子登志雄)

 昨日の投稿は、本意とは違い、当局批判と受け取られてしまったかなと反省して
います。立法の不備が最大の原因であり、登記を扱う行政当局としてが何とか理由
づけをこじつけるしかなかった点は理解しているつもりです。

 さて、「安倍チャンネル(NHK)」では、唯一、「花燃ゆ」だけみていますが、
いまは舞台が、わが故郷の群馬県になりました。主人公の義兄の楫取(かとり)素
彦が群馬県知事として赴任したためです。

 そこに登場する上州人役の俳優の会話が「そうだ【い】ね」「そうだ【ん】べ」
とか、わざとらしい上州弁なので、結構、楽しんでみています。そのうち、「〇〇
したんかい」とか、「おやげない(かわいそう)」も出てくることでしょう。

 故郷といっても、私は県庁所在地前橋市のある東毛地区ではなく、長野県の軽井
沢に近い西毛地区出身ですから、方言もちょっと違いますし、両親が東京からの戦
争疎開組だったので、訛りはそうないと思っていましたが、人からみるとそうでも
ないようです。

 生涯に1度だけ「貴方、群馬出身でしょう」といわれたことがあり、「どうして、
分かるんだ」と聞きましたら、その「分かるんだ」の「ん」の発音が群馬弁だと指
摘されました。いまだに、自分ではよく分かりませんが。

 また、たまに指摘されるのが「いちご」の発音です。私は「いちご」の「い」に
アクセントを置いて発音しますが、標準語は、平板に発音するのだとか。世の中に
は、耳のいい人もいるものです。

 もはや親もなく群馬県に帰省することもなく、故郷とは疎遠になる一方ですが、
このアクセントだけは、生涯私に付きまといますから、永遠に群馬から離れられな
いことでしょう。


2015.10.19(月)【新設型再編の本店所在場所】(金子登志雄)

 前回の続き第2弾ですが、平成19年1月に、東京法務局に次のような質問をし
てみました。

--------------------------------------------------------------------------
 Q:A社及びB社が合弁でC社を設立する際に、本店住所や株主名簿管理人につ
きA・B合同の発起人会議事録で決定でき、その際にA・Bの取締役会議事録まで
は不要とされています。同様に、新設合併でも新設分割でも、本店住所や株主名簿
管理人の決定は、合併消滅会社や新設分割会社の決定書があれば足り、合併消滅会
社や新設分割会社の内部的意思決定である取締役会議事録や総会議事録までは不要
解してよろしいでしょうか。
--------------------------------------------------------------------------

 なぜ、こういう質問をしたかというと、「新設合併設立会社の本店の所在地を具
体的に定めた場合の添付書面は何か」という質問に対して、東京法務局回答として
「合併契約の承認その他の手続があったことを証する書面(商登81条6号)とし
て決議した機関に応じて合併当事会社の株主総会議事録又は取締役会議事録等が該
当する」というものがあったためです。

しかし、これは明らかな間違いだと思っています。商業登記法81条6号は「会
社法第804条第1項及び第3項の規定による新設合併契約の承認その他の手続が
あつたことを証する書面」という内容であり、第804条第1項は「承認」の規定
であり、第3項は、種類株主総会の「決議」の規定であるため、「804条1項=
新設合併契約の承認があつたことを証する書面、804条3項=その他の手続があ
つたことを証する書面」と読むべきだからです(その証拠に、804条3項は新設
分割には適用されないため、商登86条6号にも「その他の手続があつたことを証
する書面」とは規定されていません)。

 上記Qの回答は、法務省とも相談した結果、総会議事録等が必要だというもので
した。小川・相澤編著『通達準拠/会社法と商業登記』394条でも、添付書面の
原則規定の1つである商業登記法46条を根拠に同一結論です。

 しかし、その46条は申請会社自体の添付書面の規定です。新設型再編では新会
社が申請人ですから、46条は適用されません。81条3号や86条3号によって
準用される47条が適用されるはずです(詳細は拙著『親子兄弟会社の組織再編の
手続〔第2版〕』303頁(2)以下)。

 この問題もご存じのように、現在は、新設合併契約や新設分割計画あるいは新会
社の定款の附則に本店所在場所、株主名簿代理人等を定めて、この議論を回避する
道を選択しますから、いつしか、この問題を研究しよう、議論しようということも
なくなり、うやむやのまま収束してしまいました。

 日業業務では問題ないとしても、学問としての組織再編や会社法・商業登記法を
考えたとき、こういうことでよいのでしょうか。法務省のメンバーも変わりました。
いまなら別の回答になるかもしれません。



2015.10.16(金)【無対価合併と株券提出】
(金子登志雄)

 平成19年出版の商業登記全書の改訂中に思ったのですが、当時の論点が現在で
も、うやむやのままにされていました。代表的な2つを皆様に質問してみましょう。
紙面の関係で、今日は1つめの表題の件です。

 Q:B株式会社はA株式会社の100%子会社で実際に株券発行会社です。さて、
Bが親会社のAに吸収合併される場合は、Bで株券提出手続が必要でしょうか。

 設問ですが、商法時代の実務は不要説だったのに、会社法になってからは、急に
必要説が当局から唱えられ現在に至っています。理由は、条文に制限がないことと
「株主名簿に記載されていない株券保有者(略質質権者等)が存する可能性がある
から」というものでした。

 しかし、条文に制限がないのは旧商法でも同じでしたし、この理由は全く説得力
がありません(なぜ、周囲はこの回答を止めなかったのかも不思議です。上司の意
見で部下は止められなかったのか………)。

 そもそも、なぜ消滅会社の株券を提出させるかというと、存続会社の合併対価と
引き換えるためです。会社が合併解散して株券は無効になりますが、この引換証券
としての効力があるためです。

 ところが、設問の事例は無対価ですから、引き換えるものがありません。だから、
商法時代は意味のない株券提出手続は不要だとされていました。

 会社法下の理由である「株主名簿に記載されていない株券保有者が存する可能性
があるから」は、基準日公告の理由です。株主名簿に載っていない株主の皆様、早
く名義書換えしないと権利を失いますよという公告の理由づけであり、株主名簿上
の株主であろうが、株主名簿に掲載されていない実質株主であろうが、無対価合併
であれば何も引き換える権利がないため、この理由づけは、おかしいのです。

 閲覧の皆様の中には、それでも無効株券が流通するのは問題だから回収したほう
がよいと思うという意見もあるでしょうが、定款変更で株券を廃止するときは回収
しません。合併のときだけ回収せよという主張は無理です。

 というわけで、いつか株券提出手続は不要だという回答に変わることを期待して
いましたが、多くの会社が株券を廃止してしまいましたし、本件でも株券を事前に
提出してもらい不所持にしてしまえば株券提出手続が不要になります。

 こうして実務では、株券提出手続の回避策をとるようになったため、いつしか、
この議論はうやむやのまま誰も問題にしなくなりました。いかにも、日本的解決法
ですが、これでは、いつかまた同じ過ちを繰り返しますので、改訂版にも、この論
点を残すことにしました。株券提出の理由までを曖昧模糊にしないためにも………。



2015.10.15(木)【改訂版の幸せ】(金子登志雄)

 一昨日投稿したロシアのミサイルですが1週間57回で、相当な戦果があったよ
うです。ところが、いわゆる西側のメディアは、ロシアのミサイルはイスラム国の
拠点に当たらず無関係な人を多数殺傷した、ロシアはひどい国だという印象操作の
シナリオになっているようです。

 これに対するロシア高官の反論(出典は省略)は、「米国等はイステム国の拠点
がどこにあるのかそれほど分かっているなら、この1年間9000回以上もミサイ
ル攻撃し、何の戦果もなかったのはなぜだ」という皮肉コメントだったようです。

 この反論の裏の意味がお分かりですか。西側の軍事能力が低いという意味ではあ
りません。米国は利潤追求のために戦争をしており、最終的にはシリアのアサド政
権を倒し中東を支配下に置こうとしており、アサド政権と対立するイスラム国を利
用しこそすれ倒す気はないと痛烈に批判したものです。

 いまでは発端になった9・11事件さえ米国内でも怪しまれていますから、国際
政治というのは、表も裏もその裏もあって、単純ではないことがよく分かります。
テレビや新聞報道だけでは、裏の情報がないので、洗脳されてしまいますが、ネッ
トは、情報の宝庫で、ボケ防止にはうってつけです。

 さて、ほぼ40日かかりましたが、やっと平成19年出版の商業登記全書『組織
再編の手続』の改訂作業の第1回目が終わりました。

 こんなに苦労しているのに、何万部の小説と違って、数千部行けばよい専門書は
辛いねと冗談まじりに出版社に話しましたら、「先生、小説は改訂版がありません。
専門書は初版がそれなりに売れれば改訂版が出せるのです。改訂版込みなら、専門
書も1万部を超えることが結構ありますよ」と返されてしまいました。

 確かにそうですね。教科書ですが、神田会社法は17版、前田会社法入門は12
版、有斐閣のドル箱・江頭株式会社法は改題したのに、もう6版です。へたな小説
よりずっと寿命が長く累計部数が多いことでしょう。

 『組織再編の手続』は、今後、組織再編法制が大きく変わらない限り、2版で打
ち止めでしょうが、多くの専門書が改訂されずに消えて行くのに、もう1度、命を
吹き込むことができるだけでも幸せに思わないといけないと思った次第です。


2015.10.14(水)【引き継がれるもの】(仙台・立花宏)

 「後輩たちに、重荷を背負わせてしまうことになります。それを私達が決めてし
まっていいのでしょうか」

 先日、ある団体の役員会に出席していたときのことでした。冒頭のコメントは、
その団体において、数年後に、ある企画を実施することをその役員会で方向づけし
てはどうか、という私の提案に対しての、別の役員の方の発言でした。

 確かに、その企画を実施するときには、私はその団体の役員を退任しているはず
です。実際に苦労するのは、私ではなく、数年後の役員です。その役員のおっしゃ
ったことは、もっともなことだと思いました。ある意味、後輩たちに宿命を背負わ
せてしまうことは間違いないからです。

 しかし、私は、その企画は重荷になることは間違いありませんが、その団体にと
って、そして、後輩たちにとって、何物にも代えがたい成長の機会になると考えて
いました。

 また、その企画は、今日、やろうと決めて、明日、実施できるような簡単なもの
ではありません。数年前から準備を進める必要があるはずです。実施するのであれ
ば、早めに決めてしまう方がよいと考え、私は提案したのです。

 そして、もうひとつ考えていたことがあります。私達の世代で決めれば、後輩た
ちがその企画を実施する際、きっと、私達の世代はその企画に協力するはずです。
少なくとも、実施することを決めた本人なのだから、その責任を感じるはずだと思
いました。自分が責任をもって協力するために、自分で決めたいという思いがあり
ました。

 ただ、気をつけなければならないことがあるとも思っていました。実際に企画を
実施するのは、後輩たちです。もしかしたら、私の考えているものとは違うものに
なるかもしれません。そのとき、後輩たちの考えどおりにやってもらうことです。
応援はすれど、私の考えを押しつけることは、控えなければならないと思いました。

 そんなことを考えていたとき、子供のころ、映画で見たある言葉を思い出してい
ました。

 「たとえ、父と志は違っても、それを乗り越えて若者が未来を創るのだ。親から
子へ、子からまたその子へ血は流れ、永遠に続いていく。それが本当の永遠の命だ
と、俺は信じる」

 記憶に頼って書きましたので、もしかしたら、正確ではないかもしれません。銀
河鉄道999というアニメ映画で、キャプテン・ハーロックという登場人物が主人
公に述べた言葉です。

 未来を創る、すなわちその企画を実施するのは後輩たちです。たとえ、私と考え
方が異なることになっても、私は後輩たちを応援するはずです。そして、先輩たち
がこれまでに築いてきた財産、たとえば、信用や人脈等は後輩たちに引き継がれ、
その団体が存続する限り、永遠に続いていってくれると信じています。

 結局、その企画を実施するかどうかは、次回以降の役員会での継続審議となりま
した。その結果がどういうものになるか、わかりませんが、他の役員の方々に理解
していただけるよう、努力してまいりたいと思います。

 今回の件で、ひとつのことを決めることが、いかに大変なことかがわかりました。

 そういえば、今年も国会で、いろいろなことが決まったのだろうと思います。き
っと、決まるまでに大変なご苦労があったはずです。そのような苦労の末に決まっ
たものです。どのようなことが決まっても、戦後、日本に引き継がれてきたもの、
「平和」が、今後も、永遠に引き継がれていくことを信じたいと思います。


2015.10.13(火)【1500キロ】(金子登志雄)

 3連休でしたが、時間自由業ですから、収入には通じなくとも平日も勝手に休め
るので、そうありがたみを感じません。相変わらず、書き物をしたり、ネット閲覧
で時間をつぶしていました。

 さて、ロシアもシリアのアサド政権の要請を受け、IS(イスラム国)を攻撃す
るため、カスピ海から巡航ミサイルを発射したようですが、何とISまでの距離は
1500キロだそうです。

 1500キロのイメージがつかなかったため、地図を開きましたところ、東京か
ら鹿児島よりもっと先でした。北朝鮮が鹿児島の川内原発を狙うことも、中国が沖
縄の米軍基地を狙うことも容易なわけで(逆もいえますが)、現在の軍事技術には
今更ながら恐怖を感じてしまいました。いまや、沖縄の米軍基地は仮想敵国の中国
に近すぎて無意味だという意見が専門家から出されているのも納得してしまいます。
滑走路に命中し穴ぼこが空けば、軍用機も飛ばせません。

 最大の防衛は戦争にならないようにすることですが、ロシアのプーチン大統領が
こんな状況を作ったのは誰だ、利潤を求めて戦争を起こしている国はどこか、ロシ
アじゃないと米国を痛烈に皮肉っている日本語字幕付き動画がネットで話題です。

      http://健康法.jp/archives/7279

 プーチンさんは日本では悪役のイメージしかありませんが、話の内容は実にまと
もでした。巨大な軍需産業をかかえた国は、どこかで戦争が起きてくれないと商売
にならないのも事実です。いつでもどこでも現地の政府を無視して軍事介入してし
まう自由な国・米国外交の負の側面でしょう。



2015.10.09(金)【中国のくしゃみ】(金子登志雄)

 今日は会社法ネタを思い付きませんので、別の話題にします。

 さて、9月29日に日経平均が700円以上も暴落しましたが、中国経済の先行
き懸念が原因だとされています(いまは少し戻していますが)。

 難民問題やドイツのフォルクスワーゲン問題によるヨーロッパ経済の先行き不安
も原因の1つだと思うのですが、日本に不幸をもたらすのは常に中国や韓国だとい
うマスコミのバカの1つ覚えには辟易してしまいますが、昔は、アメリカがくしゃ
みをすれば日本は風邪を引くといわれていたのに、いまは中国がくしゃみをしても
日本が風邪を引くようになったようです。それだけ中国が大国になったのでしょう。

 ところで、輸出で生きる日本経済といわれていますが、日本の輸出相手国の上位
3位までは、どこだと思いますか。2位ではなく3位までです。

 回答は、下記の中段にあります(下段には輸入国があります)。まずは開いてみ
てください。

 http://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/country.html

 そう、日本の最大のお客様は中国、米国、韓国です。インターネット上では毎日
激しい中国や韓国を蔑視した意見が掲載されていますが、われわれの食い扶持は両
国への依存度が高いわけです。台湾も香港もヨーロッパ諸国やロシアより上位です。

 では、中国の輸出先はどこかとネット検索してみると、米国のようですから、日
米中は経済的三角関係のもつれで仲が悪いのでしょうか。米韓中も三角関係ですが、
朴大統領が中国寄りのシフトをするので、朴大統領は米国で手厚く扱われますが、
国連演説のため米国を訪問した安倍首相に対しては、オバマ大統領は会おうともし
ませんでした。朴大統領のように、少しは、米国をヤキモキさせることをしてもよ
いと思うのですが、冷たくされればますます、もっと振り向いてもらいたいと行動
するのが日本の政治家(風土?)かもしれません。

(ご参考)
 土日は、下記を開いて何も読まずに2番目の動画を聞いてください。天海先生の
ご指導に従い、一緒に将来を考えましょう。
  http://buzzap.jp/news/20150620-2015-japan-class-of-empress/



2015.10.08(木)【登記記録例】(金子登志雄)

 昨日の「監査役会【設置会社】の定め廃止」か「監査役会の定め廃止」かの件に
関連して、商業登記実務のバイブルともいわれている松井信憲著『商業登記ハンド
ブック』は、法務省発の登記記録例と相違する点もあるので注意が肝要だ。例えば、
松井本では合併による解散につき、「合併し、解散」となっているが、登記記録例
は「合併し解散」で、読点がないなどという話題がわれわれ商業登記専門家の間で
なされることもあります。

 この点に関しては、それ以前に登記記録例の拘束力をどう受け止めるかの問題が
あります。

 この登記記録例は、法務省民事局商事課長から依命通知として発出されます。依
命というのは官庁用語で「命令」ということのようですから、簡単にいえば、「か
く取り扱え」という指示書でしょう。

 したがって、現場がそれに従うのは当然ですが、「合併し、解散」は不可で「合
併し解散」でなければならないというほどの拘束力があるのかは、私は疑問に思っ
ています。記録「例」ですから、「合併して解散」でも「合併により解散」でも、
記録例との同一性の範囲内にあり、許容範囲といえないでしょうか。

 登記記録例における他の解散事由をみると、「平成〇年〇月〇日存続期間の満了
【により】解散」、「平成〇年〇月〇日や株主総会の決議【により】解散」など、
いずれも「〇〇により解散」になっていますから、本来であれば、合併でも「合併
【により】解散」であるべきでしょう。30年間合併登記に従事し、数百社を合併
解散させた私が最も多く使った表現は「合併して解散」でした。昔は、こういう点
は、とやかくいいませんでした。

 おそらく、登記のコンピュータ化によって、ちょっとした相違点も融通が利かな
くなったのでしょう。したがって、現在でも「監査役会設置会社の定め廃止により
変更」も、「合併し、解散」も「合併して解散」も「合併により解散」も間違いで
はないと私は信じています。登記所サイドも、これで補正にすることはありません。
単に機械的に登記簿上、記録例のようになされることが多いというだけのことです
から、受験生の皆さんも、こういうことにこだわる必要はありません。減点対象に
もならないはずです。


2015.10.07(水)【監査役会廃止と社外監査役】(金子登志雄)

 監査役会を廃止したので、監査役の社外監査役の部分も抹消申請しました。電子
申請で、次のとおり申請しました。

「役員に関する事項」
「資格」監査役
「氏名」〇〇〇
「原因年月日」平成〇年〇月〇日監査役会設置会社の定め廃止により変更


 登記の通達にも、「登記すべき事項は、………、監査役会設置会社の定めの廃止
により社外監査役の登記を抹消する旨及び変更年月日である。」とあり、松井信憲
著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』459頁にも、同じ記載があります。

 登記が終わりました。登記記録の監査役〇〇〇のところには「平成〇年〇月〇日
監査役会の定め廃止により変更」と記録されており「設置会社」が抜けていました。

 どうでもいいじゃないか!、誠にごもっともで、私もそう思っていますが、著作
では、そうもいきません。読者には様々な方がいらっしゃいますから、こういうこ
とにも神経質でなければならないのです。

 理由を探ろうと東京法務局に電話しました。十分に話が通じず「記録例どおりで
す」と紋切型のお返事をいただきましたが、どこに、そういう登記記録例があるの
かもみつかりませんでした。

 そこで、こういうことを経験していそうな新保司法書士に電話して分かったこと
は、会社法施行時の平成18年夏に、東京法務局が「監査役会の廃止に伴い社外監
査役の登記を抹消する場合の登記原因の記載は?」という質問に対して、「『年月
日監査役会の定め廃止により変更』とする。」と回答していました。

 どうも東京法務局の運用のようで、いわゆる依命通知の登記記録例ではなさそう
でしたが、たかが「設置会社」の4文字でも、これがあると登記記録上3行になり、
東京法務局方式だと2行で済むという大きな差があります。

 内容的にはどちらでもよいので、今後の著作には、東京法務局方式を中心にする
ことにしました。この世界では、既成事実は先例並の価値がありますので。


(追記)小川・相澤編著『通達準拠 会社法と商業登記』211頁に「平成〇年
    〇月〇日監査役会の定め廃止により変更」とありました。



2015.10.06(火)【司法書士試験記述式問題】(金子登志雄)

 司法書士試験の合格発表があったようですので、土日の暇つぶしに商業登記の記
述式試験問題をみてみました。下記の54頁からです。

  http://www.moj.go.jp/content/001154640.pdf
 
 問題を公表するなど素晴らしいことですね。こうやって、さまざまな批判を受け
て、よりよい問題作りの参考にするわけです。

 ざっとみただけで恐縮ですが、採点には影響がないといっても、定款文言に異議
ありです。

 58頁の定款第12条によると、株主総会の特別決議の定足数が3分の1以上に
なっていますが、これは議決権を行使しない株主が多く定足数の充足で苦労する上
場会社が採用する内容であって、非上場の零細企業が定める内容ではありません。
社長が51%、専務が35%、取締役会は社長派と専務派が同数とすると、社長が
海外出張中に専務一人で募集株式を発行し、会社の乗っ取りができてしまいます。

 67頁の変更定款第6条には「当会社の発行可能株式総数は、2万株とし、この
うち1万8000株を普通株式の発行可能株式総数とし、2000株を優先株式の
発行可能株式総数とする」とありますが、会社法には「普通株式の発行可能株式総
数」や「優先株式の発行可能株式総数」という表現はありません。発行可能「種類」
株式総数です。

 また、発行可能種類株式総数は発行可能株式総数の内訳ではありません。発行可
能種類株式総数の合計が発行可能株式総数と一致する必要はないのに(種類株式で
有名な伊藤園も一致していません)、「このうち」などと発行可能株式総数の内訳
かのように定款に定めることは、大いに問題があります。

 優先株式という名称も、1時代前の名づけ方であり、この種類株式は無議決権を
含んだ内容にもなっているため、今はA種種類株式とか甲種とか第1種と名づける
のが通常です。未配当の場合の累積式にも全く触れていませんし、普通株式に配当
する場合に優先株式も参加することができるのかについても触れられていません。
こういう定款文言が当たり前のように受験生に思われては困りますから、せめて、
「累積条項と参加条項は省略」とでも記載しておくべきだったでしょう。

 以上のようなことは拙著でも何度か書いていることですから、きっと問題作成者
の方が不動産登記等の専門家で商業登記には詳しくなかったのでしょう。

 こういう問題文をみると、私のような実務家が試験委員に加わるべきだとは反省
を込めて思うのですが、試験委員になると、受験生とは付き合ってはいけない、著
作活動は控えよという厳しい制約があるので、私には無理ですのでお断りしてきま
した。しかし、ほぼ完成した試験問題の校正担当なら、制約期間も試験期日までの
短い期間に限られるでしょうから喜んでボランティアで引き受けます。ぜひ、ご検
討いただきたいものです。


2015.10.05(月)【至誠と国】(金子登志雄)

 土日は、著書改訂版の校正などをしながら、ネット閲覧などでのんびり過ごしまし
た。その中に安倍さんのお友達であるNHKの独裁者籾井会長がネット世界でNHK
のことを「安倍チャンネル」と揶揄されていることに対してむきになって反論する内
容があり思わず笑ってしまいました。その偏向報道ぶりに対して「安倍様のNHK」
などという表現もネットではよくなされています。

 もちろん、ネットでNHKの報道を支持する方もいらっしゃいますが、支持しない
方に対して、半島出身の反日活動家などとすぐに断定(レッテル張り)し罵詈雑言を
浴びせる傾向があるので、つい引いてしまいます。

 ほとんどテレビをみない私も、長州の吉田松陰の妹を主人公とする「花燃ゆ」だけ
はみています。この番組をみるまでもなく、つくづく思うのは、当時の国は日本国と
いうより「藩」でした。長州という国、薩摩という国などがあり、その連合体が日本
でした。徳川幕府は日本合衆国の政府でした。

 愛国心は「藩」に向けられ、長州人も毛利の殿様には忠義を示しても、日本政府の
徳川には向けられませんでした。孟子の「至誠にして動かざるものは未だこれあらざ
るなり」が大好きな吉田松陰も、「至誠にして通じなければ殺してしまえ」と主張す
る過激な攘夷論者であり反日テロリストでした。

 その過激思想が明治維新(革命)の原動力になったわけですが、「勝てば官軍」で、
今度は徳川側が反日(朝敵)とされてしまいました。新撰組も京都の治安を守る警察
協力隊から悪人集団とされてしまいました。

 結局のところ、「国」といっても、時代により変わり、現時点でも、全国津々浦々
の賊軍を含む国民のための国なのか、伊藤博文から安倍首相に至る長州藩(官軍)の
支配する日本国なのか、人によって使い方が異なります。「反日だ」とレッテルを張
る方も、きっと徳川恩顧の賊軍の子孫でしょう。吉田松陰が生きていれば、会津あた
りで松下村塾を開き、「至誠にして通じない人も同じ国民だ」と民主主義の御旗を立
てて反日活動をしているかもしれません。

 以上、土日の妄想でしたが、ネット情報は玉石混交です。内部で事前検閲され加工
された報道しかなされないNHKや大手マスコミとは相違する玉(真実)の情報があ
るので、ネット閲覧は私にとって仕事の一部です。



2015.10.02(金)【合併手続今昔】(金子登志雄)

 昨日は3月決算会社の後期の始期であり、4月1日に続いて合併等の商業登記の
多い日のはずでしたが、午前11時頃に東京法務局を訪問した限りは、混雑もなく
相談コーナーも閑散としていました。

 理由は不明です。時間帯のせいかもしれませんが、合併等を専門とする当事務所
も、昨日は、そういう申請がありませんでしたから、商業登記自体の件数が減った
のかもしれません。

 当事務所で10月1日付の合併登記がなかったのは久々ですが、これは、既存の
重要顧客のほとんどがグループ再編を終わっているためです。頻繁に合併等を依頼
してくれる会社は子会社を多数有する会社ですが、最近は、グループ再編が1段落
したのか、有する子会社の数が少なくなりました。

 はじめて合併手続を経験したのは、30年近く前ですが、子会社を数百も有する
上場会社の子会社同士の合併でした。当時はグループ再編であろうと小規模の有限
会社の合併であろうと全部の合併に公正取引委員会への届出が必要でしたし、その
他にも、規模によって財務局に有価証券通知書の提出が必要でしたから、街の司法
書士では対応が困難だったでしょう。

 株券提出公告も必要でしたし、いわゆる無増資合併(当時は親会社が100%子
会社を合併する場合は、こういう表現をしていました)で合併会社の資本金が変わ
らないのに、消滅会社の資本金との合算額に不足するとして資本減少手続も必要で
した。合併した会社は2つの会社が統合した会社だから資本金額も合算額にならね
ばならないという極端な人格合一説が昭和59年に商事法務に発表され(執筆者は
法務省の方)、それが全国の登記所を席巻してしまっていたのです。

 その後の平成9年の合併法制の改正、平成13年の金庫株改正、平成18年の会
社法の制定で、いまでは、「合併は合併して解散するのではなく解散して合併する
のだ。現物出資説が正しい」という考え方が主流になり、合併手続においては完全
に政権交代がなされています。


2015.10.01(木)【「マイナンバー」と「振り込め詐欺」】(島根・根来川弘充)

いよいよ今月10月からマイナンバーが通知されます。

 私としては、公的機関にある個人情報に索引がつけられるようなものでないかと
考えています。

 ところで、いまでも深刻な被害額を生んでいる「振り込め詐欺」というものには、
一つの大きなモデルがあります。

--------------------------------------------------------------------------
 不正に入手した「名簿」を利用して、「携帯電話(もしくはメールができる電子
端末)」により連絡をとり、相手の勤務先や、家族といった個人情報を巧みな話術
(もしくは、メール)で引き出し、不正に入手した「銀行口座」に振り込ませる。
--------------------------------------------------------------------------
というモデルです。

 この「名簿」「携帯電話」「銀行口座」は、振り込め詐欺のために必要な「三点
セット」とも呼ばれています。

 今の段階では、自らのマイナンバーを、誰かが不正に入手したところで大きな被
害がでるという可能性は低いのでしょうが、将来的には、民間である金融機関にあ
る通帳の情報なども結びつけられるとも聞いています。

 そうすると、先の「三点セット」につながりうるマイナンバーは、悪徳業者にと
っては、魅力的なものに思えてきます。

 これからどのような技術が生まれるかは予測できるものではありません。用心す
るに越したことはないと思いますので、皆様には、マイナンバーの管理には充分気
をつけていただきたいと思います。


2015.09.30(水)【閲覧室ほか】(金子登志雄)

 登記簿が紙の時代は各登記所に大きな閲覧室がありましたが、登記簿の電子化以
降は、どこかに消えてしまいました。通常は謄本等の交付窓口の近辺にあるはずで
すが、地元の東京法務局にも見当たりません。やっと見つけました。

 28日に自分で過去に申請した登記にミスがあった可能性があり、利害関係人と
して閲覧請求しましたら(商登規則21条)、謄本等の交付窓口の横のドアから案
内され、入ってみると、2畳ほどの大きさの部屋がありました。こんなところに隠
れていたのかと他人の知らない秘密を探し当てたような幸せな気分でした。閲覧結
果も私にミスがないことが分かりました。スマホで証拠写真もとってきました。

 話変わって、最近の幸せでない気分としては、シールズの奥田君及び家族への殺
人予告です。ネットでは、自由人の彼をブサヨ(左翼への蔑称)だとか、反日活動
家などというレッテルを張った誹謗中傷が多いので心配していましたが、とうとう
ここまで来たかと日本の民主主義の底の浅さを感じていました。

 アグネス・チャンへの脅迫と同じく捕まえてみれば中学生だったなどという可能
性もあるでしょうが、ネット世界は、匿名の世界なので、限度をわきまえない輩が
多すぎます。

 奥田君のことは、ほとんど知識がありませんでした。憲法学者の小林節さんのこ
とも、どういう方か全く知りませんでしたが、下記の佐高信さんの記事で、なるほ
どと分かました。結構、感動する話ですので、ぜひどうぞ。奥田君のお父さんもり
っぱです。

     http://diamond.jp/articles/-/78953
     http://www.cocolotus.com/item/1671



2015.09.29(火)【減資増資と債権者保護の要否】(金子登志雄)

 資本金1000万円の会社が全額減資すると同時に1000万円の資本金増加を
したとき、債権者保護手続が必要でしょうか。

 司法書士であれば、これは減資の登記と増資の登記の2つだから債権者保護手続
が必要であるのは聞くまでもないことだと考えますが、結果的に資本金が減らなか
ったことになるのだから、債権者保護手続は不要だという考え方があっても不思議
ではありません。

 今月、知ったのですが、旧商法時代に昭和56年商法改正に携わった稲葉威雄氏
が「商業登記先例判例百選」(別冊ジュリスト124号平成5年10月発行)で不
要説を唱え、それが東京法務局に伝染し、一時、東京法務局では不要説でも登記が
受理されていたようです。

 しかし、同時に減資・増資が行われた時はOKで、異時だったら不可というのは
納得できません。「10月1日に1000万円増資することを条件に2日に同額を
減資する」と決議した場合は、なぜ不可なのでしょうか。

 債権者に不利益はないとの言も、債権者は5000万円を貸しているかもしれな
いのです。増資した分を配当可能な剰余金にされること自体に「ちょっと待て」と
いいたいこともあります。

 というわけで、稲葉見解は受け入れがたいと即座に分かるのに、こういう権威あ
る方が何か言うと、無批判に受け入れてしまうのは、いかがなものかと感じました。
もっと自分の頭で考えましょうよ。



2015.09.28(月)【ジャパン・ハンドラー】(金子登志雄)

 25日は当社の定時株主総会でしたが、監査役として無事再任されました。もと
もと、この会社の役員が本業で、司法書士は副業にも至らない肩書だけでしたが、
うまく商法改正の波に乗れ、司法書士としての知名度も向上し、いつしか司法書士
が本業になってしまいました。あと4年、引き続き兼業で頑張ります。

 さて、先週は、東京新聞に、とうとう「ジャパン・ハンドラー」という用語が登
場しました。類似用語である「安保マフィア」は沖縄の新聞には登場していたよう
ですが、この用語が新聞に登場したことが過去にあったのでしょうか。山本太郎議
員が国会で米国による対日要求書であるアーミテージ・ナイ報告書を取り上げたの
がきっかけでしょう。インターネットの世界では常識的な政治知識ですが、公然の
秘密が表舞台に出たことに驚きました。

  http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015092202000210.html
  http://rapt.sub.jp/?p=9018

 この人たちの言いなりになっていると政権が長続きし、小澤、鳩山、田中真紀子
さんなどが独自の動きをしようとすると、官僚及びマスコミが総動員され、悪ある
いは無能の印象操作され、簡単に潰されてきたといわれています。すごい力です。

 身近にいる妻子さえもハンドルできない私にとっては、この人たちの爪の垢を煎
じて飲みたい衝動にかられてしまいますが、悪い冗談はさておき、これが敗戦国日
本の現状であることは日本国民みなが知ったうえで、日本の幼稚な政治では保護者
として米国の存在が必要だと考えるか、幼稚でも独立国として自立して動くべきか
が日本の課題であることは間違いありません。

 今回の戦争法案も、保護者あるいは宗主国の米国の力が弱まり、軍事面でも日本
の協力が必要になったということでしょうが、中国やロシアは、ますます日本のこ
とは米国と話せば足りるという動きを加速し始めましたので、情けない思いです。

 幕末なら攘夷論が吹き荒れるところでしょうが、日本支配の実行部隊である日本
のエリート官僚集団は、日本国民も政治家も幼稚だから、日本は米国の背中に隠れ
ているのが一番だ、独自路線など余計なことをしないのが一番だと考えているのか
もしれません。結論はともかく、理由については、つい納得してしまいます。われ
われも、もっともっと賢く行動し、少なくとも幼稚な政治家やパフォーマンスだけ
の嘘つき政治家には投票しないようにしなければなりません。



2015.09.25(金)【ノーサイド】(仙台・立花宏)

 先日、ラグビーのワールドカップで、日本代表が強豪の南アフリカと対戦して、
接戦の末に勝利し、大金星を挙げました。世界が日本のラグビーを認めてくれたよ
うに思います。

 その後のスコットランドとの試合は、残念ながら敗れてしまいましたが、それで
も、まだまだ、注目度は高いようです。報道が過熱しすぎのように感じております
が、選手のみなさんには、平常心でプレーを続けてほしいと思います。

 南アフリカとの試合は、格上の相手に、何度もリードされる展開でした。しかし、
そのたびに追いつき、決定的な点差になること許しません。あきらめず、勝利を信
じてプレーを続ける選手たちの姿は、次第に試合会場全体を惹きこんでいき、最後
は、会場全体から、ジャパンコールが湧き起こったそうです。

 私もテレビで試合を観戦しましたが、選手たちのひたむきなプレーに、不覚にも
目頭が熱くなるのを禁じえませんでした。試合の終了間際に、日本が逆転のトライ
をあげたときは、それが現実であると信じることができず、自分が夢の中にいるの
ではないかと勘違いしたほどでした。

 そして、試合はノーサイドを迎えます。
 ちなみに、ノーサイドとは、ラグビー用語で試合終了のことだそうです。試合が
終了すれば、サイドがなくなる。つまり、敵味方がなくなるという意味だそうです。
熱い戦いをつづけても、試合を終えたあとは、敵味方がなくなる。いい言葉だな、
と思います(※もっとも、インターネットを検索したら、海外では、試合終了のこ
とをノーサイドとは言わないと紹介しているHPもありました。)。

 ただ、ノーサイドの精神は試合終了後だけのものではないのかもしれないと思い
ました。

 報道等でご存じと思いますが、ラグビーの日本代表には外国出身と思われる名前
が多くあります。どうしてだろうと調べてみると、ラグビーの場合、日本代表とな
るには、日本国籍を持つことが必須ではないそうです。日本国籍を持たない選手で
も、日本に3年以上継続して居住している場合など、一定の場合には日本代表とな
れるのだそうです。

 国の代表といっても、その国の国籍を持った人の代表ではなく、その国でプレー
している人の代表ということなのでしょう。

 日本でプレーしている選手は、出身が日本であろうと外国であろうと、同じ仲間
なのだ。日本代表は、日本でプレーしている選手たちの代表なのであって、出身が
日本だとか外国だとかは関係ない。出身が日本だとか、海外だとかのサイドはない。
ノーサイドなのだということなのではないでしょうか。

 思えば、私達司法書士は、外国出身の方が日本で不動産を取得したり、日本の会
社で役員になったりする際、登記の手続等でお手伝いすることがあります。その方
たちを、他国の人と見るのではなく、日本という社会でプレーする、同じ仲間とし
て接しなければならない。ノーサイドの精神で仕事をしなければならない。そんな
ことを考えさせられた出来事でした。


2015.09.24(木)【とんだ敬老の日】(金子登志雄)

 敬老の日を挟み長い休みでしたが、日本の将来を大きく変える騒々しい日々でも
ありました。

 19日になった深夜はインターネットの中継で参議院による戦争法案の可決をみ
ていましたが、これが日本の民主主義のレベルなのかと思い知らされ、情けない思
いでした。与党には、数の力で強引なことをしても、次の選挙では勝てるという自
信があるのでしょう。国民も舐められたものです。

 まさしく、いまネットで話題の新潟県弁護士会長のコメントのとおりです。
          http://is.gd/afwvHu

 老人には日本の将来を不安にさせる敬老の日になりましたが、敬老の日といえば、
私も自分の意思とは無関係に敬ってもらえる歳になってしまいました。幸か不幸か、
子供も独身で孫もいないため、まだ現役の若い気分でいられます。休み中も、平成
19年に出版した「組織再編の手続」(商業登記全書7巻)の改訂作業をしており
ました。

 嫌になるほど大変な作業です。あれから計算規則が大きく変わりました。会社法
も変わりました。登録免許税施行規則も変わりました。有価証券通知書の運用も変
わりました。上場会社の株券も廃止されました。で、一部修正どころか、あちこち
数頁削除の大ナタを振るう抜本的改訂が必要です。

 商業登記全書全8巻中、最初に出た本で、かつ会社法下の組織再編の実務書とし
ては日本最初であったため(学者や弁護士は、ずる賢く、間違ったことを書いて恥
をかきたくないのか、後出しじゃんけんでしか本を出しません)、結構売れたため、
もっと早くこまめに改訂すればよかったのですが、8巻の全部が揃わないのに、こ
の巻だけの改訂を先行させるわけにも行かなかったのです。

 その欲求不満が「親子兄弟会社の組織再編の実務」になったため、この第7巻は、
いまや古典になってしまいました。しかし、中身をみれば、いまだに当局との質疑
応答に登場するような論点が平成19年刊行のこの本には書いてあり、いまでも十
分に通じる現役の内容で、古典として敬老するには早いと感じました。年内あるい
は来年早々には、若化粧させて、現役として復帰させましょう。



2015.09.18(金)【風向き】(金子登志雄)

 昨日の夕方、目黒区の山手通りにでましたら、戦争法案反対のデモ隊が行進して
いました。こんな場所にまでと驚きましたが、参議院特別委員会で戦争法案が可決
したため、いても立ってもいられない方が多いのでしょう。国民の大多数が反対し
ているのに、国民の代表者である国会議員さんが逆の動きをする変な国ですから、
国民自ら動かざるをえないわけです。

 安倍さんも、国民の反対を押しのけて強行した点で、尊敬する母方の祖父・岸信
介首相と自分を重ね合わせているのでしょうか。

 岸といっても若い方には歴史上の人物でしょうが、前期高齢者の私は、小学生で
したが、よく覚えています。政界の団十郎といわれた弟の佐藤栄作氏と同じく、男
前のよい顔をしていました。

 岸さんは戦犯で巣鴨プリズンにも入っていましたが、その後、彼にとっては、実
にラッキーなことに、朝鮮戦争など東西冷戦時代が始まり、アメリカ(GHQ)が
右翼思想の持主を左翼に対抗して厚遇し後押ししたため、首相にまでなりました。
CIAの資金が岸さんや読売新聞の社主・正力さんなどに渡されたことはアメリカ
の公文書にも登場し、ネット検索すれば、すぐに出てくる有名な事実です。

 鬼畜米英だった戦犯がアメリカから資金援助を受け、60年安保のときは右翼団
体や暴力団にまで応援を求めるようなこともし、まさに倫理とは無縁の清濁併せ飲
む「妖怪」でした。この点は、自分と違う意見の者を近づけない孫の安倍さんとず
いぶん器の大きさが違う印象を持っています。

 おかしな世の中になりましたが、私にいわせれば、あのマスコミを巻き込んだ政
治弾圧の小澤叩きから始まった民主党潰しの時から、こうなることはみえていまし
た。その後の「衆参ネジレはよくない、決められない政治から決められる政治に」
という風潮のときも、私のセンサーは独裁の時代が始まると強い危機感を感じてい
ました。

 マスコミによって人為的に作られる世の中の風向きや空気でモノを考える日本の
風土で、戦争を知らない人が世の中の中枢を占める時代になった今日、日本はまた
いつか来た道に戻るしかないのでしょうか。いやな風が吹いてきたものです。



2015.09.17(木)【株主総会の定足数】(金子登志雄)

 未公開の同族企業なのに定款に「会社法第309条第2項に規定する株主総会の
決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の【3分の1以上】を有する
株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行
う。」と定めているところが少なくありません。会社法の原則は「過半数」なのに
です。

 実は、これは上場会社のマネです。平成14年頃でしたが、上場会社では株主が
総会招集通知に返信せず、株主総会の定足数である総株主の議決権の過半数の出席
に満たず、定款変更議案が流れてしまう事態が生じたため、商法の改正で、定款に
定めれば定足数を3分の1まで下げられるようにしたものです。

 したがって、未上場会社がこれをマネすべきではありません。51%所有のオー
ナー社長が留守中に、34%所有の専務が株主総会で勝手をするかもしれません。

 上場会社の方はこれで問題がなくなったかなと思いきや、下記のような事例が本
年に生じました。
             http://is.gd/cJnAj3

 実に珍しい例ですね。筆頭株主ですら6.26%所有であり、株式が分散されて
いる点は実に上場会社らしいのですが、株式が分散すると、定足数の問題が発生す
るわけです。



2015.09.16(水)【総会開催地と定款添付】(金子登志雄)

 某社の定款に「株主総会の招集地は、東京都区内又はA県B市とする。」とあり、
なつかしく思いました。商法時代は「総会は定款に別段の定ある場合を除くの外本
店の所在地又は之に隣接する地に之を招集することを要す」(旧商法233条)と
あったため、定款にこのような定めをおく例が多かったからです。

 この会社がA県B市で株主総会を開催した場合には、商法違反でないことを証明
するために定款を添付する必要がありましたが、株主が全員出席しているときは、
株主総会開催地につき総株主の同意があったとされ、定款の添付を求められること
はありませんでした。100%子会社の株主総会を親会社の所在地などで開催する
際などに、こういう工夫をしたものでした。

 今から考えると、商業登記規則61条1項(定款の定めがなければ登記すべき事
項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に、定
款を添付しなければならない)を根拠に、定款を添付せよと1度もいわれなかった
のが不思議に感じます。

 おそらく、議事録の記載から「定款の定めがなければ登記すべき事項につき無効
又は取消しの原因が存することとなる申請」に該当しないという解釈でしょう。

 であれば、株主総会で「代表取締役は取締役の互選で定める」と定款変更した場
合は、この議事録を添付すれば、定款の添付が不要になるということです。「互選
=定款添付」で凝り固まった頭を少しは柔らか頭に変えていただけたでしょうか。


2015.09.15(火)【株主名簿管理人の登記】(金子登志雄)

 久々に、株主名簿管理人(商法時代の名義書換代理人)の変更登記を担当しました。

  東京都〇〇区〇〇〇一丁目〇番〇号
    〇〇〇信託銀行株式会社 本店

と申請しましたら、登記所より連絡があり、最近は次のとおり4行での記載が多いが
2行で登記してよいかという問い合わせ及び確認です。

  東京都〇〇区〇〇〇一丁目〇番〇号
    〇〇〇信託銀行株式会社
  東京都〇〇区〇〇〇一丁目〇番〇号
    〇〇〇信託銀行株式会社 本店

 2行のままでかまいませんと返答し、一件落着ですが、この会話の意味がお分かり
でしょうか。

 登記事項は「株主名簿管理人を置いたときは、その氏名又は名称及び住所並びに営
業所」です(911条3項11号)。

 この営業所ですが、これは場所を示す概念ですから、本来は4行方式が正しいので
すが、株主名簿管理人の住所と営業所の所在場所が一致しているときは、2行方式も
認められています。株主名簿管理人によっては、上記の「本店」という部分が「証券
代行部」となることもあります。

 証券代行部は1部署であって営業所といえるのかという疑問はありますが、会社が
「いや、当社では営業所と扱っています」といえば、外部は何もいえません。

 なお、営業所である本店も支店も場所的概念です。所在場所と住所との相違などに
ついては、次をご参照ください。

  2014.04.15(火)【本店と支店の意味】(金子登志雄)
  2015.01.29(木)【会社の住所と本店所在場所】(金子登志雄)


2015.09.14(月)【アマゾン購入品】(金子登志雄)

 1年ぶりくらいに事務所の近所の三省堂書店に立ち寄ってみました。ご近所です
が、駅から事務所までは反対側の道を通りますので、めったに立ち寄りません。

 会社法本のコーナーに行き気づいたことは、売れている本か売れていないかは問
わず、会社法の基本書など会社法全般について書かれた本と、組織再編分野につき
書かれた本以外は、常備されていないということでした。「事例で学ぶ会社法実務」
などという題名では、置いてもらえないようです。

 結果的に、実務本や各論中心の本はアマゾンなどで探すしかありませんが、いま
やアマゾンで注文すると翌日配達されるなど、通販業界の発展ぶりはすさまじいも
のがあります。売れている本かそうでないかもすぐに分かりますし、注文者の読書
傾向に併せてダイレクトメールも送られてきます。私のところに、拙著の宣伝まで
メールで送られてきます。

 私も、つい通信販売に頼ってしまいますから、本屋さんにとっては大いに脅威で
しょう。いずれはコンビニか、貸しビル業に変わるのでしょうか。

 最近の通信販売は何でもありで、私も健康食品、旅行かばん、パソコン部品など
を注文しただけでなく、変わったところでは、老眼用携帯メガネから蛇のおもちゃ
まであります。

 蛇のおもちゃは、マンションのベランダに鳩のつがいが巣を作り始めましたので、
ネット検索したら、蛇のおもちゃをおけば来なくなるといわれ、試してみたわけで
す。同時に巣の入り口を封鎖したので、蛇の効果かどうかは分かりませんが、いま
は全く「平和の象徴」が来なくなりました。きっと、鳩もいても立ってもいられず、
安倍官邸あるいは極端に偏向報道するNHKのほうに向かったのでしょう。


2015.09.11(金)【総会出席取締役とは】(金子登志雄)

 茨城県や栃木県は大雨による被害が大きかったようですが、関東人にとっては知
り合いの住む身近な地域ばかりのため、人ごととは思えませんでした。川上に位置
する山間部は雨の影響は少ないように思われていますが、土砂崩れがあるのです。
1日も早く復旧することを願わざるを得ません。

 さて、会社法施行規則72条によると、株主総会を開催したときには、出席役員
の氏名を記載せよとあります。

 この趣旨がはっきりしません。例えば、総会が10時に始まり11時に終わった
として、総会開催時の取締役はABCだったが、Cが10時半に辞任し、同時にD
を取締役に選任し、即座に就任承諾したとします。

 総会に出席していたかどうかという形式面では、ABCD4名とも出席取締役で
すが、Dについては取締役として出席したのではなく、取締役「候補者」として出
席しただけですし、他の総会議案に説明義務を負うともいえないでしょう。また、
役員席に座り直すわけでもないので、実質的には、出席取締役に含まれないという
解釈があってもよさそうですが、重要な論点とはされておらず、議論もされており
ません。

 そこで、出席役員欄にDの氏名を記載しない議事録も少なくありませんが、Dが
総会の席上で就任承諾し、この議事録を就任承諾を証する書面として利用する際に、
出席役員欄にDの氏名が記載されていないことを問題とする登記所がいまだにある
ようです。

 この問題は各地の法務局で過去に何度か問題視されましたが、古い時代から、総
会に候補者として出席し席上就任承諾をすれば就任承諾の効力が認められており、
出席役員欄にDの記載があるかを問いません。というより、別次元の問題です。

 仮に、本件Dを出席役員として記載しなければならないという説に従っても、D
の氏名を記載漏れした程度のことで、株主総会議事録の全部が無効になるわけがあ
りません。

 いま問われているのは何か、何が重要か、本質は何かというのが法律解釈や裁判
の基本中の基本ですが、小さなことを問題にする登記調査官がいるため、われわれ
も難儀します。真面目な性格なのでしょうが、自分が正しいと思っているため、交
渉するにも一苦労です。せめて、登記官クラスは、経験豊富な方であってほしいの
ですが、調査官から「登記官にも確認済み」といわれることも少なくありません。
その後の交渉は、申請代理人の能力及び経験次第ですが………。


2015.09.10(木)【株式募集の際の自己株式数】(金子登志雄)

 東京は久々の大雨です。天も違憲の安保法案に嘆き悲しんでいるのでしょうか。
関係ないはずなのに私のノートPCもキーボードがストライキを起こしてしまいま
した。本稿は古いPCを利用して書いています。

 さて、「金子さんの著書『事例で学ぶ会社法実務』が商事法務の論文で参考資料
に取り上げられていたよ」との友人の会計士さんからの情報で、さっそく直近の商
事法務を確認したところ、京都大学名誉教授の森本滋先生の「『募集に係る株式の
発行と自己株式の処分の関係』再論」のことでした。

 昔は、大学教授や弁護士が論文を書く際に、2流の法律家としてみられていた司
法書士風情の書いた著作を参考文献に取り上げることなど考えられませんでしたが、
会社法になって以後は、時々取り上げられるようになりました。それだけ、会社法
の専門家あるいは著作が少なくなったということかもしれません。

 森本先生の主張は、新株の発行と自己株式の処分を同時に行う際も、2つの行為
だから募集株式の数の記載は「新株式〇〇株、自己株式〇〇株」と最初から明記す
るのが会社法の趣旨だというものです。

 会社法第2編第2章第8節の見出しが募集株式の「発行等」となっており、「交
付」とされていないことや、差止請求の210条に「株式の発行又は自己株式の処
分」とあり明確に区別されていること、実務上も東証の適時ガイドブックがそれぞ
れの株数を記載するように求めていることなどが理由としてあげられています。

 「発行等」という見出しについては私も疑問に思ったことがありましたが、おそ
らく旧商法の見出しである「新株の発行」の影響を受けて、いきなり「募集株式の
交付」とするのはまずいとの配慮が働いた結果だと想像しています。

 新株の発行と自己株式の処分は2つの行為だというべきか、募集行為は1つだと
いうべきかについては、男と女とみるか、人間とひとくくりにするかどうかの差で
すし、210条の「A又はB」も「A」オア「B」だけでなく「AアンドB」を含
んだ意味ですから、本件の根拠になるとは思えません。東証のガイドブックも具体
的数字を記載せよという厳しいものではなく、「募集株式1万株、内訳:平成〇年
〇月〇日現在の自己株式全部(本日現在では〇〇株)、残りは新株式とする」とい
った記載なども含んでいると解釈しています。

 いずれにしろ、実務は払込期日までに内訳を決めればよいことになっています。


2015.09.09(水)【人事権という権力】(金子登志雄)

 自民党総裁選に安倍総理の無投票再選が決まったようです。野田聖子さんは推薦
人を切り崩され20人を集められず立候補を断念とか。

 自民党議員の中には、反共アメリカ寄りの安倍さんの旧岸・福田派の流れに対抗
した内政重視の旧池田・大平派やアジア重視の田中派の流れを組むリベラルといわ
れる人も大勢いるはずですし、安保法案に反対であったり、安倍さんの強引な政治
手法に批判的な方もいるはずですが、安倍に逆らうと公認が得られない、人事で干
される、よい子でいれば大臣になれるかも………という計算から、反旗を翻すのは
難しいようですから、人事権という権力の求心力を改めて思い知らされました。

 NHKをはじめとする大手マスコミも、あの10万人を超えた安保法案反対デモ
さえ安倍さんに気を使って報道しないか、小さく報道する始末でした。海外メディ
アが日本の急激な右旋回に警戒心をあらわにしているのも無理からぬ政治状況です。
明治以降の日本人は集団になると一斉に同一行動をとる傾向があるので(そうしな
いと非国民といわれます)、海外からみれば、薄気味悪い怖い存在でしょう。

 野心溢れる男が権力者を目指すのも無理からぬことですが、委員会設置会社が流
行らなかったのも、この人事権という権力が原因の1つでした。自分が属さない指
名委員会によって自分の身分を決められたくないという理由です。

 そのため、今回の監査等委員会設置会社では、人事や報酬に対して意見は述べら
れても、それを決定する権力までは与えられませんでした。社長の人事権は、神聖
にして犯すべからずということになりました。

 もう1つ、私の個人的意見ですが、取締役の任期を1年にしたことにより、毎年、
人事を見直せることになり株主権の強化だといわれていますが、そうでしょうか。
現実社会では、社長が取締役候補を決め、株主総会はそれを追認する儀式に過ぎま
せん。取締役の任期を短くすると社長の人事権の強化になります。社長に嫌われる
と、たった任期1年で取締役ではいられなくなります。

 独裁を排し、権力の適正な分散・配置は、その企業ごとにも異なるでしょうから、
どこの世界でも解決すべき永遠のテーマです。



2015.09.08(火)【全員出席総会】(金子登志雄)

 株主の全員が株主総会開催の意思をもって集合して決議した場合は全員出席総会
といって有効な株主総会と認めるのが通説判例です。会社法319条の書面決議と
似ていますが、全員出席総会は会議ですから、一堂に集合しなければなりません。

 この全員出席総会につき、「取締役・監査役を排除した全員出席総会の決議には、
取り消し得べき暇疵があると解すべきである。」と江頭憲治郎著『株式会社法〔第
6版〕』326頁にあることを広島のK司法書士から教えてもらいました。

 しかし、株主全員ということは企業の共有者全員ということで、所有者が物事を
決めるに際し、経営側の関与が必要があるとは思えません。決議取消しの訴えでも
起こしたら、即座に解任でしょう。

 株主が1名のとき、この全員出席はいつでもどこでもできますが、会議だとされ
る限り議事録の作成が必要であり、議長は誰だなんという問題が生じますから、現
在は非会議方式の書面決議を使います。

 会社法319条によると、議題の提案者は株主でもよいとされているため、自分
で提案し、自分で決定し、取締役に議事録形式の書面を作らせます(施行規則72
条4項)。議事録作成日はもとより株主の全員が同意した日である必要はありませ
ん。

 このように経営側の関与がなくとも会社法319条は肯定されながら、全員出席
総会の場合は否定されるのかと思えど、江頭見解は319条の場合も議案の決定に
取締役会が関与しないと決議取消しの瑕疵を帯びるという見解ですから、それなり
に首尾一貫していますが、株主によって選ばれる立場の経営側にそれほどの存在感
があるのでしょうか。



2015.09.07(月)【通知を「発する」とは】(金子登志雄)

 土日は暇でしたので、会社法の条文を眺めていました。仕事あるいは勉強熱心だ
とは思わないでください。この徒然ネタ探しを兼ねた暇つぶしであって、勉強とい
う意識は全くありません。私にとっては、小説を読むより、楽しい作業です。

 そこで気になったのは、株主総会の場合は招集通知の相談を受けることが多いの
に、取締役会の招集通知の相談を受けたことがほとんどないという事実です。

 会社法368条によれば、会日の一定期限までに招集通知を発しなければならな
いとされています。

 うろおぼえの記憶によると、「通知する」の場合は口頭でよいが、「通知を発す
る」の場合は書面等が前提とされていると考えられていたように思いますが、これ
は間違いのようです。会社法299条2項によると、総会の招集通知につき、書面
投票を決議した場合と取締役会設置会社の場合は書面で通知を発せよとありますが、
それ以外(1項)は書面等に限定されずに通知を発することになっているからです。

 では、なぜ「発する」とあるかというと、「通知する」の場合は到着主義だが、
「通知を発する」の場合は発信主義だというに過ぎないようです。

 とすると、取締役会の招集通知も、証拠に残るかどうかを横に置くと、期限まで
に口頭であろうと発すればよいということになるのでしょうか。

 実際には定例取締役会といって、会合の都度、次回はいつと決め、時期が近づく
と議案等が電子メールで送られてくるので問題ありませんが、会社の外部に発信す
る総会招集通知と相違し、内部にとどまる取締役会の招集通知については、話題に
する必要もないということでしょう。会社の総務部あたりは真剣に問題にしている
のでしょうが、従来どおりの自社の慣行に従っており、外部にまでは相談しないと
いうことでしょう。



2015.09.04(金)【更正登記の登録免許税】(金子登志雄)

 今週は総じてヒマでした。自由業は、こういうことがよくありますね。だからと
いって、いつ仕事が飛び込んでくるか分かりませんので、事務所を休みにはできま
せん。待機も仕事のうちです。

 ということで、今日はヒマ潰しの内容にお付き合いください。

 さて、改正会社法の理解不足か、登記所の人事異動で運用が変わったのか不明で
すが、あちこちで更正登記が増えているようです。

 その多くは、「申請人のミス+登記所の見落としによる受理」で、中には登記所
の見落としのほうが責任が重い事案もあるでしょう。
 
 そこで、ハタと気づきました。変更登記の登録免許税の基本は1件3万円なのに、
更正登記は2万円です。いままで、この差は、一回は登録免許税を納付済みだから、
更正のときは安くしてあるのだと思っていましたが、ひょっとして、差額の1万円
分は登記所の後ろめたさのミス代金かもしれないと思いました。

 これが通じないのは役員変更登記です。資本金1億円以下の会社の変更登記なら
3万円ではなく1万円とされているのに、更正になると2万円で高くなります。ま
るで延滞課徴金のようです。

 ところで、本欄閲覧の司法書士のみなさん、登録免許税法別表によると、更正登
記の登録免許税は「申請件数1件につき2万円」となっています。ということは、
本店の住所と支店1か所の住所と事業目的と役員の氏名の4か所をそれぞれの申請
時にミスしていても、まとめて更正登記を申請すると2万円で済むのでしょうか。

 現実にはあり得ない教科書事例ですが、変更登記のように登記事項ごとに分類さ
れていないので、気になってしまいました。

 もし、この私の疑問が間違っていましたら、そのうち本欄を更正します。幸い、
更正には気付いてから2週間という期限がないので、いつになるか分かりませんが。



2015.09.03(木)【電磁的記録による意思表示】(金子登志雄)

 電子メールを利用した取締役会議事録(いわゆる書面決議)をみせられました。
流行っているようですが、ストレートに電子メールを利用したと記載してある現物
をみたのは初めてです。きっと、議事録形式にまとめる際に、伝達手段を意識的に
記載しない会社が多かったというだけでしょう。

 会社法370条(抜粋です)には「取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決
議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役の全
員が書面又は【電磁的記録】により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決
する旨の取締役会決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。」と
ありますので、定款に定めがあれば何の問題もないのですが、どうもこの電磁的記
録が私のような年配者には気持ちが悪くてなりません。

 例えば、ファクシミリで同意した場合は、書面による同意なのか、書面でも電磁
的記録でもないのか、受信した内容を保存することができる受け取った側の機器次
第で異なるのか………、私には分かりませんが、同意の意思表示の伝達手段として
は問題なさそうですから、「とりあえずファクシミリで返事をしておき、原本の書
面を速達で郵送してください」とでも答えたような記憶があります。

 幸い、最近は、電子メールの発達及び普及で「ファクシミリでもよいのか」とい
う問い合わせがないので助かっていますが、今後は、スマホやアイフォンの中のア
プリである〇〇利用でもよいのかなどと聞かれるかもしれません。そういうときは、
「現代文明の進化に着いて行けない私に分かるはずがないじゃないですか。聞く人
を間違っています」とでも答えるしかありません。

 ところで、上記の370条をみると、提案は書面又は電磁的記録によるとは規定
されていません。口頭でもファクシミリでも、伝書鳩でもよさそうです。


2014.09.02(水)【インターネットとTV】(島根・根来川弘充)

 最近のテレビ番組を見ているとインターネット上のコメントが「国民の意見」と
して、取り上げられている場面を良く見ます。

 私は、Facebookであるとかツイッターにあまり関心がありませんので、テレビを
見て、インターネット上に流れた「国民の意見」を知るというちぐはぐな状況にな
っています。

 そこで、少し気になりましたのは、インターネット上に流れた「国民の意見」に
あまり共感ができないということです。少し前のテレビ番組でしたら、ファックス
を読み上げるくらいしか無かったかと思います。

 そこにみられた意見と違って、表現の荒さが目立って、私の気持ちがついていか
ないのです。

 これからこのようなテレビ番組が増えていくと、私のような者の意見は、どのよ
うに拾ってもらえるのか大変気になります。

 私自身は、標準的な国民だと思っているのですが、そのうち特殊扱いをされてい
くのではないかとさえ思ってしまいます。


2015.09.01(火)【夢中の功罪】(金子登志雄)
 
 8月はほぼ新著の執筆に集中していました。夏休み旅行中もホテルで書いていま
したし、帰宅後も、暇なときに行うネットでのニュース探索やユーチューブでの動
画閲覧、株価閲覧も全くに近いほど行わず書くことに集中していました。

 出版社に頼まれたからという義務や仕事の意識からではなく、根から、こういう
作業が好きだというに過ぎません。

 平素は、老眼が進んで、パソコンの文字が読みにくくなったと嘆いていたのに、
このときばかりは、それも意識しませんでした。

 この夢中の対象が異性や芸能人、ギャンブルなどであったら、とうの昔に身が破
滅していたことでしょう。執筆作業の際は、煙草の本数が急増しますが、身が破滅
するほどの金額にはなりませんから、我ながら、カネのかからないよい趣味を持っ
たものだと思います。

 逆に、大儲けし損ないました。4月あたりから、そろそろアベノミクスバブルが
はじけ、株価の大暴落があると確信し、ずっと大きく空売りするチャンスを狙って
いたのですが、株価は上がる一方で、どうもうまく行かず、小さな損を重ねていた
ため、その気が失せかかった8月初旬には、物書き作業が開始してしまい(?)、
それに集中してしまったため、今回の千載一遇の大チャンスに飛び入り参加するこ
とができませんでした。

 捕らぬ狸の何とかの話でしたが、何かに夢中になれば別の何かが犠牲になる、い
いことばかりではないことだけは確かです。せめて、わが身の大暴落に遭遇せずに
生きながらえていることを幸せに思うことにしましょう。


2015.08.31(月)【新著執筆終了】(金子登志雄)
 
 昨日は全国各地で安保法案反対の集会やデモがあり、後世の歴史に残る日でした
から、憲法を守る法律家の端くれとして、私も参加するつもりでしたが、残念なが
ら、用事があり、午後は自宅でおとなしく執筆活動をしていました。

  http://www.asahi.com/articles/ASH8Z6HH6H8ZUTIL01W.html?ref=yahoo

 日本国憲法は若い頃に真面目に勉強しましたが、世界に誇れる憲法だと思ってい
ます。この憲法のおかげで私は徴兵もされず、いいたいことをいえる時代に育って
幸せでした。基本的人権の保障にさえ異議を出した与党のあの若い政治家Mさんに
も、そんな発言ができるのも憲法のおかげじゃないかといいたかったのですが、こ
のMさんは、最近、週刊誌で醜聞を暴露され参っているようです。自業自得とはい
え、驕りすぎたせいでしょう。

 さて、執筆活動は東京司法書士協同組合から出した70頁ほどの「改正会社法の
実務論点」を加筆するものでしたが、商業登記規則の改正と最近の商業登記の諸問
題を加えて、何とか200頁以上にしました。これで、やっと1冊の本になります。

 ふだん、問題意識を持つたびに本欄で書いていたことをかき集めましたので、意
外に早く書き終えました。何とか9月中の出版にしたいのですが、こればかりは出
版社と印刷所次第です。私も出版が楽しみです。



2015.08.28(金)【総数引受契約の承認時期】(金子登志雄)

 改正会社法により、譲渡制限株式や譲渡制限新株予約権の発行等において総数引
受契約の承認を受けなければならないという規定が新設されました(205条2項、
244条3項)。

 さて、募集株式の割当先としてABC………IJの10名を予定していたので、
事前に「ABC………10名と、別紙・総数引受契約の締結を予定しているので、
ご承認いただきたい。」と取締役会の決議で承認した場合に、会社法が要求する契
約の承認をしたことになるでしょうか。今後、IJが株式を申し込んでこない可能
性さえ残されているとします。

 この承認決議は合併契約書の承認と同じく契約済みのものを承認するものであっ
て、この決議では不十分だ、いや、事前の承認でもよいが、相手先が確定していな
いので、この取締役会決議では不十分だと様々な意見が予想されますが、私は次の
ように考えており、肯定説です。

 第1に、取締役会や株主総会の承認決議は事前の承認が原則です。定款の変更で
も、剰余金の配当でも、これからすることを承認するもので、合併契約でも同じで
す。

 合併の事前備置書類の規定(782条等)からすると、いかにも締結済みの合併
契約書を備え置くかのように思ってしまいますが、よく読めば、合併契約の内容を
記載した書面等を備え置けとあるだけです。

 第2に、決議の事前に条件付で契約することは差し支えありません。合併契約で
も「本契約は、株主総会の承認を得られなかったときは、その効力を失う。」とい
う解除条件のものが多数であることからもお分かりいただけると思います。

 第3に、本件では相手先が確定しています。仮に、IJが脱落しても、確定した
相手先の一部が欠けたというだけで、未確定というわけではありません。また、A
BC………10名のうち申込みがあった者と総数引受契約をすることの承認決議と
考えれば、これも条件付事前承認決議の1つです。

 第4に、そもそも会社法が取締役会や株主総会の承認決議を要求しているのは、
代表取締役だけで勝手に決めてはならないという趣旨であって、承認した契約内容
と実際に締結された契約に同一性が認められれば問題ないはずです。

 ちなみに、「簡易合併又は略式合併の場合において、取締役は合併契約締結前に
当該合併契約書案に係る決議をすることができるか。また、できる場合には、吸収
合併による変更の登記の際に、締結した契約書と議案の内容が同一であることを確
認するために、当該議事録の議案である合併契約書案の添付も要するか。」という
質問に対して、「前段はできる。後段は、不要である。」という回答がありました
(土手敏行「商業登記実務Q&A(3)」登記情報549号53頁)。拙著『親子
兄弟会社の組織再編の実務〔第2版〕』75頁でも引用しています。



2015.08.27(木)【社外役員の登記】(金子登志雄)
 
 マイナンバー制度には、私は関心が薄く知識もほとんどありません。税と社会保
障と災害用の個人番号だが、人に知られると個人情報が流失する危険のあるシロモ
ノだといわれているようですが、そんな危険なものなら、私は要らないのですが、
無理やり渡されるわけですね。行政の効率化にはなるのでしょうが、各企業の総務
部等にとっては、従業員のマイナンバーの管理の負担が増え、迷惑この上ない制度
ではないでしょうか。

 ちょうど、アベノミクスが庶民の生活を犠牲にして大企業優遇策であるのと同様
に、民間に負担をかけて行政が楽をする制度のような気がしてなりません。番号を
もらったら金庫に閉まって放置しようと思うのですが、立花先生、可能でしょうか。

 さて、先日は、定時株主総会で社外取締役Aと社外監査役Pの任期が満了し、再
選されたので登記を申請しました。この社外監査役は親会社からの出向者でしたか
ら、改正会社法によれば社外監査役要件を充足いたしません。

 Aの社外取締役の登記は責任限定契約の定款の定めを根拠にしたものでしたので、
今回で終了です。取締役として重任登記しただけです。しかし、Bの社外監査役の
登記は監査役会設置会社を根拠としたものですから、今回も社外監査役の登記をい
たしました。改正会社法の附則4条で、来年の定時株主総会の終結時までは従来ど
おりで改正法が適用されないとされているためです。

 会社の方も後者については承知していましたが前者については知らなかったよう
で、不思議な顔をしていました。

 皆様は大丈夫ですか。監査役設置会社では、もう社外取締役の登記は任期満了と
同時にできなくなったと覚えてください。特別取締役制度のある会社は例外ですが、
その定めのある会社はたぶん日本に10社もないでしょう。無視してかまいません。


2015.08.26(水)【背番号】(仙台・立花宏)

 先日まで開催されていた全国高等学校野球選手権大会では、私の地元の高等学
校が大活躍をし、地元の人々を勇気づけてくれました。決勝戦では、序盤でリー
ドされましたが、中盤で同点に追いつき、優勝旗まで、あと一歩いえ、あと半歩
のところまでいきました。

 残念ながら、私は仕事のため、テレビ観戦もできず、帰宅後のニュースで結果
を知りました。試合を生で見たわけではないので、私の勝手なイメージにすぎま
せんが、選手たちはとても立派なプレーをしたのだろうと思います。リードされ
てもあせらず、自分を信じ、仲間を信じ、そして、必ずチャンスがくると信じて、
浮足立たずにその時を待ち、中盤に同点に追いついた。残念ながら優勝旗は持ち
帰ることができませんでしたが、優勝旗を持ち帰ってもおかしくないプレーだっ
たのだろう思います。そのように地元の人間を勇気づけるような試合ができたの
は、対戦相手の高等学校の選手たちのプレーもすばらしいものだったからに違い
ありません。

 そして、その試合がそのような素晴らしいものとなったのは、プレーした選手
たちが素晴らしいだけではないでしょう。スタンドから声援を送った、グラウン
ドに入れなかった背番号の無い選手たちの存在も忘れてはいけません。彼らの存
在がなければ両校とも、ここまでレベルアップすることはできなかったでしょう。
そういった方々も含めた関係者の方々に、素晴らしい試合で、感動や勇気を与え
てくださったことを感謝申し上げます。

 ところで、先日、地元司法書士会主催の研修会がありました。内容は、間もな
く、私たちに背番号がもらえるという話です。そうです。マイナンバー制度です。
この背番号は、基本的に全員がもらえます(日本国籍の方でも、国外居住の場合
は、もらえないようです。詳細は各自、ご確認をお願いいたします)。高校野球
でいえば、希望するしないにかかわらず、全員がベンチ入りです。

 研修内容は、私のような不勉強な人でもわかるように、制度の概要や基礎的な
事項が中心でした。とてもわかりやすい内容で、講師の先生にはこの場をお借り
して御礼を申し上げたいと思います。マイナンバー制度というのは、まずは、税、
社会保障と災害対策にしか利用されないのだからと油断していたのですが、そう
はいかないことがよくわかりました。

 マイナンバーは取得、利用、提供等が法律で制限されています。遅まきながら、
私達司法書士の実務に、どのように影響があるのか、考えてみなければならない
と思いました。たとえば、マイナンバーは、住民票の写しや住民票記載事項証明
書を取得する際、希望すれば、それらにも記載されるようです。

 お客様に登記手続用の住民票の写しを依頼していた場合に、お客様が、マイナ
ンバーが記載されている住民票の写しを持参し、あるいや郵送してくださった場
合、どのように対応したらよいのか。事前に考えておく必要があるかもしれない
と思いました。

 おそらく、役所にマイナンバー付の住民票の写しを申請した場合には、利用目
的等を確認されるのだろうと思います。また、お客様がわざわざ、自分のマイナ
ンバーが記載されている住民票の写しを持参されるようなケースは考えにくいの
かもしれません。

 しかし、高校野球と違い、全員が背番号をもらえる制度です。自分自身も観戦
者ではいられません。感動的な試合を見せてくださった高校生達に笑われないよ
う、想定外のことがあった時でも、冷静にプレーできるように、マイナンバー制
度の実務への影響等を勉強しなければならないと反省させられました。



2015.08.25(火)【新株予約権の目的たる株式の数とは】(金子登志雄)
 
 昨日は、新株予約権の発行の登記の準備をしていました。

 さて、「新株予約権の目的たる株式の数」は新株予約権1個の株式数か、発行す
ることのできる株式の総数のことかという論点があることをご存知でしょうか。登
記実務は総数説です(拙著『300問』159頁)。

 では、発行要綱に次のように記載されていた場合に、2の部分につき、「10万
株」(1000個×100株)と記載すべきでしょうか。

--------------------------------------------------------------------------
1.新株予約権数」
  1000個とする。
2.新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法
  新株予約権の目的である株式の種類は、当社普通株式とし、各新株予約権の目
 的である株式の数(以下「付与株式数」という。)は100株とする。………
--------------------------------------------------------------------------

 記載しないと「1個100株」しか登記されず、1個説になるから記載すべきだ
という方が多いことでしょう。しかし、私は、総数説ですが、要綱に記載されてい
ないので、登記記録にも反映させません。

 金子式は、この新株予約権の一部が消滅したり行使されても、この部分に変更登
記が入らず実に便利です。

 総数説でありながら金子式で登記した根拠は、「その算定方法」とあることです。
私は上記の記載を「算定方式」の記載と捉えたわけです。

 ふと気になって、旧商法時代の文献をみましたら、2の部分が「新株予約権の目
的たる株式の種類及び数」で止まっていました(旧商280条の32第2項2号)。
「算定方式」が加わったのは会社法からでした。

 ということで、旧商法時代は10万株と記載しなければならなかったが、会社法
下では、上記の要綱を丸写しで差し支えないといえそうです。

 ただ、昨日の事例は、何回も新株予約権を発行している会社であり、これまで必
ず株式数を登記していたので、私が担当になった今回から金子式に改めるのも不自
然でしたから、10万株も登記しておきました。


2015.08.24(月)【京都にて雑感】(金子登志雄)
 
 土曜日22日は、全国青年司法書士協議会近畿ブロックに呼ばれ、今回の幹事役
の京都で会社法の講義をしてまいりました(皆様、お世話になりました)。若い司
法書士にも商業登記の面白さを示してほしいとの依頼だったため、テーマを商業登
記の醍醐味とし、数学の解法のように頭を使う問題を話してまいりました。

 せっかく宿泊までさせていただいたのですが、翌日の日曜日に都内で用事があっ
たため、宿泊しただけで観光する時間がなかったのが心残りです。あの京都タワー
には初めて上がってきましたけど。

 さて、同業者との付き合いが薄い私も、こういう機会には、噂の類いを含め、司
法書士の間のいろいろな問題を知ることができます。

 京都司法書士会も全国青年司法書士会も安保法案反対の会長声明を出したが、中
には政治問題には中立であるべきだとの反対意見も根強かったとのことでした。

 この反対意見には情けなく思いました。法律団体が法案に意見を出すのは極めて
自然で当然のことであり、憲法学者だけでなく学者の多くが意見表明しているのに、
立憲主義や法治国家の基礎にも影響する大きな法案に対して、黙っている法律団体
の方が不自然です。

 政治問題とはいいますが、国民生活(権利義務)に影響する問題は全て政治問題
です。民法の改正も会社法の改正も司法書士法の改正も政治問題です。反対意見が
政治とは貴族がやるもので庶民は口を出してはいけないというものでしたら、中世
の思想であり、国民主権も憲法も勉強していないことになります。

 それにしても、会社法等の改正で企業には法令遵守(コンプライアンス)を強く
求めながら、為政者自身が都合のよいように憲法等を解釈し、それこそ中立である
べきだとされているマスコミ幹部と会食やゴルフを重ねるなどコンプライアンスを
全く守っていないのですから、実におかしな国ですね。まるで、コンプライアンス
を重視していたら、偉くなれませんと日々いわれているようで、子供のしつけにも、
よくありません。

 本題の会社法・商業登記の話題ですが、司法書士連合会の掲示板(NSR3)に
も一例が掲載されていましたが、どうも一部の地区の登記所で、登記の更正が従来
の運用と異なっているようです。

 従来であれば、本店の所在場所や辞任届の日付を誤記し、そのまま登記しても更
正が自然に認められていたのに、間違った書面どおりに登記した場合は更正の対象
外とされているとの話を京都でも聞きました(京都法務局の案件ではありません)。

 登記の申請自体を錯誤(勘違い)しただけでなく、登記申請の前提行為で錯誤し
た場合を更正事由に含めねば、更正が認められるのは、登記所自身もチェック漏れ
した前者だけになってしまいます。

 商業登記庁の集約化によって、登記所のレベルが下がってきたという方が多いの
ですが、私もそう感じています。



2015.08.21(金)【近くの便利なもの】(金子登志雄)
 
 今週は、リーガルより下記の『商業登記・会社法務書式集〔上下巻〕』の評判
や売れ行き状況の報告がありました。発売3か月か、4か月になります。

  http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/shoshikishu_1.html

 編者一同、こんなに便利なものはない(安すぎるじゃないかも含まれます)と
自信作でしたので、コンスタントに売れており、購入者からは実に好評である旨
を聞かされ、喜んでいるところです。

 問題点としては、まだまだ存在自体が十分に知られていないということと、購
入した方も中にどのような書式があるのか十分に知らずに宝の持ち腐れをしてい
そうだということでした。

 後者については、私も感じています。親しい司法書士から、「〇〇の場合の書
式はどういうものか」「〇〇の場合にこういうことができるのか」と聞かれるの
ですが、「リーガルの書式集は購入してないのか」と聞くと、「購入済み」と答
えるのです。あとは、「そこの〇〇部分にありますから、よく見てください」と
答えるだけですが、彼・彼女にとっては、書式集を開くよりは金子に聞いた方が
早いと思ってしまうようです。

 こういうことはありますよね。私も事務所と同じフロアの会社の同僚に、会計
士・税理士から英語堪能者やパソコン・スマホ巧者までいますので、自分で調べ
ずに、つい聞いてしまいます。そのせいか、自分の知識として身につきません。
彼らも同じようで、法務は金子に聞けばよいと思っているため、自分で勉強して
いません。

 私が会社法(旧商法)に人並み以上に詳しくなれたのも、実は相談相手が一人
もいなかったせいでした。昭和60年に企業法務担当になったのですが、同僚は
いない、知り合いの司法書士は都内にゼロの状態でしたから、誰にも相談するこ
ともできず、自分で調べ、もんもんと考え続け、対応していました。

 ですから、平成8年に司法書士になった時の最大の喜びは、「ああ、これで多
くの司法書士と知り合いになれ、相談できる」というものでした。ところが、実
際には組織再編等では私より詳しい人がおらず、これで大きな自信をつけ、翌年
からは講演に呼ばれるようになったという次第ですが、近くにすぐに聞ける人が
いないというのが最良の勉強環境だったわけです。

 聞けばすぐに教えてくれる人材を財産として確保する方法と、リーガル書式集
を相談相手に辞書のように使いこなし自分で考え自分の技量を向上させる方法の
どちらを選ぶかは貴方次第ですが、前者の方々と持ちつ持たれつの関係を築くに
は、後者が先行することだけは間違いありません。


2015.08.20(木)【書面決議の提案者】(金子登志雄)

 妙なことに気づきました。

 会社法319条1項は、「取締役又は株主が株主総会の目的である事項につい
て提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行
使することができるものに限る。)の全員が書面………により同意の意思表示を
したときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。」
という内容です。

 会社法370条は、「取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的で
ある事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項に
ついて議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面………により同意
の意思表示をしたとき………」です。

 素直に読むと、319条の提案株主は、議決権を行使することのできない株主
(例えば単元未満株主)でもよく、370条の提案取締役も議決権を行使するこ
とのできない取締役(特別利害関係取締役)でもよいということでしょう。

 私もこの解釈に賛成です。というのは、ここのポイントは、議決権(決定権)
を有する者の全員の同意であり、提案者が誰かについては、力点が置かれていな
いと考えているからです。

 利益相反取締役が「おれの利益相反を承認してよ。」と提案することも認めて
よいでしょう。

 この考え方に対しては、では、監査役が提案してもよいのかと反論されそうで
すが、その場合は、監査役は勧誘者であって株主又は取締役を提案者にすれば済
む話ですから、実益のある議論とは思えません。提案者につき限定しているのは、
おそらく、その会議の決定と運営に関係が深い者にしただけで、深い意味はない
と想像しています。

 なお、319条の提案取締役につき、取締役が取締役会の決議を経ないで提案
した場合には、決議取消事由となるとの見解がありますが(江頭憲治郎著『株式
会社法』〔第6版〕』360頁)、以上からすると、疑問です。本説では、提案
株主も株主提案権を行使することのできる株主に限られるのでしょうか。


2015.08.19(水)【規則61条6項のすれ違い】(金子登志雄)

 2月に新設された商業登記規則61条6項の要約は次のとおりです。

------------------------------------------------------------------------
 代表取締役…又は取締役…(登記所に印鑑を提出した者に限る。以下…「代表
取締役等」という。)の辞任による変更の登記の申請書には、当該代表取締役等
が辞任を証する書面に押印した印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付し
なければならない。ただし、当該印鑑と当該代表取締役等が登記所に提出してい
る印鑑とが同一であるときは、この限りでない。
------------------------------------------------------------------------

 さて、代表取締役のAが辞任届を出す場合に、次の2つがあります。
   ①:代表取締役及び取締役を辞任します。
   ②:代表取締役である取締役を辞任します。

 登記に従事していない方にとっては、①も②も同じではないかと思われるでし
ょうが、①では、取締役A辞任、代表取締役A辞任と登記され、②では、取締役
A辞任、代表取締役A【退任】と登記されます。①では、代表取締役を辞任して、
次に取締役を辞任したと考えるのに対し、②では取締役だけを辞任したと考える
からです。①を取締役及び代表取締役を辞任しますとしても同じでしょう。

 ここで問題にしたいのは、この②につき規則61条5項の適用があるのかとい
うことです。

 これにつき、私自身も、当初は、規定内容からして適用されることは問題ない
と思っていましたが、何か釈然としないものを感じていました。規定の「取締役
(登記所に印鑑を提出した者)」とは何かも、まさか代表取締役の登記がなされ
ない有限会社の1人取締役のことをいうのではないだろうと思っていました。

 同じことを感じた人もいたようで、パブコメの意見でも「不明確だから明確に
せよ。」というものがありました。回答は「取締役が辞任すれば代表取締役が退
任するのは明らか」だというもので、どこかすれ違いを感じていました。

 ある時、やっと、そのすれ違いの理由に気づきました。登記に従事している我
々は、つい「代表取締役A」が辞任したのかどうかと考えてしまいますが、規則
立案担当者は「印鑑提出者のA」が辞任したかどうかに焦点を当てていたわけで
す。

 確かに印鑑提出者はAであって、代表取締役Aではありません。本規定を「印
鑑を届けている代表取締役の辞任に関する規定」との思い込みから解釈するから
間違うのであって、本規定は「印鑑提出者の辞任に関する規定」だったわけです。


2015.08.18(火)【休みボケ】(金子登志雄)
 
 お盆休み中には午前4時や6時まで起きて書き物などをして、日中に眠ってい
たためか、昨日は時差ボケならぬ休みボケでした。

 そのせいか、単純な取締役・代表取締役の重任登記の申請なのに、電子申請し
た直後に添付書面として「取締役会議事録」と書き漏らしたことに気づきました。

 申請内容には問題ありませんし、取り下げて再申請するほどのことでもなく、
登記所からの補正通知を待って追記すればよいだけですので、どうということは
ありませんが、申請直後に気づいたのに、訂正することができな仕組みは何とか
ならないものでしょうか。せめて、登録免許税を納付するまでは、訂正できるよ
うにしてほしいものです。

 といいながら、実は、これ、結構メリットがあるのです。補正通知によって、
登記審査がいまどこまで進んでいるかが分かるのです。

 登記所に添付書面が届いてから審査が開始され、だいたい2、3日以内に連絡
があります。ですから、登記の完了が1週間後であったり10日後であったりす
るのは、審査後の係(上司の承認とか、記入とか)が遅れているのです。

 休みボケの頭を正常に戻すため、会社法319条の「同意」のことを考えてい
ましたら、「承諾」と「同意」はどこが違うのか、「同意した」と「同意を得た」
をどう使い分けているのかと考えだしてしまい、疲れてしまいました。ぐっすり
眠れそうです。


2015.08.17(月)【業務開始日】(金子登志雄)

 今日から本徒然を再開します。

 夏休みあるいはお盆休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。私は例年であれ
ば、故郷(群馬県)に帰省しているところですが、いまは親も帰省先の家もない
ため、家人との付き合いで旅行したり、自宅で書き物などをしていました。

 旅行先は海外(中欧)でしたが、ツアーでしたので高校生の修学旅行と同じで、
添乗員の後ろに着いて歩いていただけですので、ほとんど記憶に残っていません。
宮殿や教会(国内旅行でいえば、お城とお寺)に案内され、ゴシック建築だロマ
ネスクだといわれても、「大きくてすごい建物だなぁ。西欧の石の文化は日本の
木の文化と違って迫力があるなぁ」程度の感想しか持てませんでした。

 それよりも、都市の歩道のあちこちにゴミ箱と灰皿があり、歩きたばこにもう
るさくないので、私には、こういう生活様式のほうに興味がありました(かつて
訪問したイギリスでもそうでした)。スリも多いそうです。

 西欧では、個人主義がしっかりしていますから、家の中では喫煙につき厳禁で
も家の外では自由であるのに対し、日本では「異端者は隔離せよ」の発想なのか、
成田空港の外でも極端に狭い喫煙ルームに隔離されます。

 戦争法案に反対する人に対しても、異なる意見に寛大ではなく、与党の政治家
から非国民扱いされ隔離しょうという排外的な発言がなされるのも、国家主義の
日本流なのかもしれないと感じました。

 さて、今日から業務開始ですが、本店移転の際に、8月15日と16日に引っ
越し、17日から業務開始という場合に、本店移転の日はいつでしょうか。

 取締役会が決めた日ですから15日であろうと17日であろうとかまいません
が、通常は17日にします。会社というのは事業を営む組織体ですから、事業が
移転し新規に開始した日を基準にするためでしょう。



2015.08.04(火)【夏休みのお知らせ】(金子登志雄)
 
 遅ればせながら、暑中お見舞い申し上げます。

 連日の熱さで、いい年をしてアセモになってしまいました。昨年と同じです。
自宅の私の部屋には、昔ながらの扇風機しかないためでしょうが、アセモよりも
面倒さを優先させる無精者の私の価値観では、エアコンを買うか、取り付ける気
にもなれません。あと1か月辛抱すればよいだけです。

 さて、仕事が暇になるといわれるニッパチ(2月、8月)にもかかわらず、多
忙な商業登記専門事務所も多い中で、当事務所は、古くからの言い伝えどおりの
状況のため、明日8月5日から11日まで事務所を休みにするとともに、お盆明
けまで本徒然を休ませていただきますので、よろしくお願いします。

 お盆休みにしては早すぎるじゃないかといわれそうですが、お盆の時期は、ど
こに出掛けても、高額なお盆料金となるため、ちょっと早めにしただけです。

 といっても、私自身は仕事大好き人間ですから、事務所に行かないというだけ
で、自宅でも、旅先でも、愛用のノートパソコンを前に物書き作業でもしている
でしょうから、仕事メールでも、質問メールでも、喜んで対応いたします。受託
中の案件についても、留守を守る者がおりますので、ご迷惑をおかけすることは
ありません。

 物書き作業である今度の著作は、中央経済さんのお誘いを受け、東京司法書士
協同組合から出して好評だった『改正会社法の実務』を焼き直し膨らませたもの
にすることにいたしました。

 同書は70頁足らずのため1冊の単行本としては無理でしたが、その後、ネタ
も増えましたし、商業登記規則の改正等についても書き加えて、200頁以上に
するつもりです。

 すでに執筆を開始しましたが、株式会社以外での改正部分については、書く意
欲が湧きませんので、株式会社部分だけで、しかも大部分の実務家には無関係な
監査等委員会設置会社を中心にしない内容で200頁は厳しい要求ですが、本欄
に書いたことをコラムとして書き加えたりして、1冊にしようと思っています。

 秋の出版に向けて、老齢にも、アセモにも負けず頑張りますので、本欄のお休
みにつきご理解くださいますよう、お願い申し上げます。


2015.08.03(月)【養親と実親】(島根・根来川弘充)
 
 相続の相談を受けると、養子縁組をされているケースが良くあります。

 養子縁組をしても、実親との親子関係はかわらないのですが、そうでなく、実
親との親子関係が無くなると考えておられる方は少なくなさそうです。

 おそらくは、外観である「名字」がかわるため、そのように考えられてしまう
のではないかと思います。

 最近、養子縁組を2回されている方が法定相続人におられる方の相談を受けま
した。

 養子縁組をされた本人は2回目の養子縁組時に、1回目の養親との親子関係は
無くなったと思っておられたようで、自分が法定相続人になることを知り、大変
驚いておられたようでした。

 養子縁組には、結婚と同じく、離縁する方法があります。もし、養子縁組を複
数回された方で、最終の養子縁組以外の養親との親族関係を解消したと思われて
おられる方がおられましたら、一度ご自身の戸籍を確認されることをお勧めしま
す。(戸籍の見方がわからないということでしたら、専門家に見ていただくこと
をお勧めします。)

 複雑な相続関係は、相続による不動産の所有権移転登記が円滑にすすまない要
因となります。その解消に少しでも役に立てばと考え、題材にさせていただきま
した。


2015.07.31(金)【払込金額と資本金組入れ額】(金子登志雄)

 7月も今日で終わりです。今月も全国の司法書士の方から、いろいろ問い合わ
せを受けました。

 中には、株式上場時の公募増資の質問もありました。さて、みなさん、次の場
合の1株あたりの資本金組入れ額はいくらだと思いますか。

(1)旧商法時代の平成17年に「1株の発行価額100円」と取締役会で決議
したところ、実際には1株140円で払込みがあった。

(2)現時点で「1株の払込金額100円」と取締役会(あるいは株主総会)で
決議したところ、実際には1株140円の払込みがあった。

 まず、(2)ですが、募集事項の「払込金額」と会社法445条1項の「払込
みをした財産の額」は相違し、資本金組入れ額の基準は後者です。したがって、
1株あたりでは、2分の1である70円以上を資本金に組み入れねばなりません。

 次に(1)ですが、旧商法284条の2第2項に「株式の発行価額の2分の1
を超えざる額は資本に組入れざることを得」とありましたから、基準は「発行価
額」であり、1株100円のうち、50円を資本金にすれば足りました。

 実際に払い込まれた額が1株140円という同額でも、(1)では資本準備金
が90円、(2)では70円です。したがって、旧商法時代に上場した会社は資
本準備金が資本金額を大きく超えることが少なくありませんでした。会社法では
このようなことはありません。

 旧商法では、これから株式を発行するぞと発行側から規律されていましたが、
会社法は、払い込む側からの規律になったのです。株式譲渡も譲渡する側からで
はなく、取得する側から規律したため、「譲渡により取得」とか、取得請求権付
株式などといった用語に変わったわけです。

 こういうことに気付くと、会社法は面白いと感じてくるのですが、会社法施行
後9年も経ると、もう旧商法を知っている方がめっきり少なくなりました。


2015.07.30(木)【鉛筆メモ効果】(金子登志雄)

 司法書士であれば誰でも、昨日の本欄事例のように到底納得できないことをい
われた経験があると思いますが、幸いにも、私は、今年はまだそういう事例に接
していません(昨年はありましたけど)。

 6月には、非取締役会設置会社で唯一の取締役A(代表取締役A)が辞任し、
取締役B(代表取締役B)が選任され就任承諾した登記を担当しました。

 Aの辞任届については、届出印を有する代表取締役の辞任でしたので、商業登
記規則61条6項に従い、会社実印を押してもらいました。

 Bの就任承諾書には住所の記載がありませんでしたが、昔からの同規則61条
2項の例で、個人実印が押され、印鑑証明書もついていましたので、そのまま電
子申請しました。

 大手法務局だから、特段の説明は不要だろうと、そのまま電子申請したわけで
すが、「就任承諾書に住所の記載が漏れています」と補正通知が来ました。直ち
に電話し、「商登規則61条5項ただし書で住所の記載は不要です」と伝えたと
ころ、数十分後に補正通知が消されました。大手法務局は人数が多いので、詳し
い人に確認するので、対応が早いです。

 7月には、取締役会設置会社の定時株主総会で、取締役A(重任)B(新人)
C(新人)と選任され、その直後の取締役会でABが代表取締役に選任され、B
の代表取締役の就任承諾書には実印が押され、印鑑証明書が添付されていました。

 取締役BCの就任承諾書には住所が記載され本人確認証明書も会社が準備して
いましたが、Bについては、わざと、この就任承諾書と本人確認証明書を添付せ
ず、就任承諾書については住所の記載のない議事録の席上就任文言で対応し、そ
こに鉛筆で「商登規則61条5項ただし書で就任承諾書及び本人確認証明不添付」
とメモをしておきました。

 都内の出張所でしたので、勘違いで補正にされる危険もあると判断し、事前に
根拠をメモ書きしたわけですが、あっさり登記が完了しました。前段の事例でも、
慣れない調査官に当たる可能性もあるので、そうしておけばよかったのでしょう。
鉛筆メモは実に有効です。



2015.07.29(水)【「その旨」と「その定め」】(金子登志雄)
 
 都内のどこの登記所かは知りませんが、会社法の改正で、911条3項25号
が「非業務執行取締役等が………」となったので、改正前のような「当会社は、
会社法第427条第1項の規定により、【社外取締役】との間で………」などと
新規に定款に定めたり、原始定款に定めると登記を受理しないところがある(あ
った?)ようです。

 新保さゆり司法書士のブログ(司法書士のオシゴト)だけでなく、日司連の掲
示板(NSR3)にも、「なぜだ!」とありました。新保さんの件は解決済みで
すから、NSR3の登記所は別の登記所かもしれません。

       http://blog.goo.ne.jp/chararineko

 これによると、次の上場会社の定款変更は受理されなくなります。

 http://www.yonden.co.jp/corporate/ir/tekijikaiji/pdf/2015_05_20_01.pdf

 はっきりいって、その登記所の勉強不足かつ情報不足だけでなく、対応処理が
へたくそ過ぎます。ベテランの司法書士が納得していないのですから、ひょっと
して登記所の勘違いかもしれないとは考えないのでしょうか。少なくとも、東京
法務局本局に問い合わせるなどの対応をすべきです。

 こういう問題が生じると、物書き業を兼任する私は、「なぜ、彼はそういう間
違いをしたのか」と原因を究明したがる性癖がありますが、おそらく(ほぼ間違
いなく)、監査役の会計限定登記の影響でしょう。

 監査役権限については、会社法に、監査役の監査の範囲を会計に関するものに
限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときは、【その旨】を登記せよと
ありますから、「当会社の監査役の監査の範囲は………」と定款の文章どおりに
登記することはできません。一種の機関設計の登記として、法務省の書式どおり
に登記しなければなりません。

 ところが、責任限定の会社法規定は、定款の定めがあるときは、【その定め】
と規定されています。公告方法も同じです。したがって、この場合は、公告方法
と同様に、各社各様の定款の定めどおりに登記することが可能です。



2015.07.28(火)【格差社会】(金子登志雄)

 報道によると、年間報酬1億円以上の役員は400人を超え、日本も欧米型格
差社会に近づいたといわれていますが、私は、それしかいないのかと感じました。

 私の発想は、プロスポーツや芸能人あるいは医者、弁護士などの高額報酬者の
数と比較したことや、オーナー社長を意識したためですが、オーナーではない雇
われ役員の報酬だとすると、それだけの責任を負っているとはいえ、確かに格差
社会のはじまりでしょう。

 昔は、社長といっても従業員から徐々に出世し、双六のゴールに達した人とさ
れ、年間報酬も3000万円程度でした。それでも、社長室に専用の秘書、運転
手付車両などが与えられ(それらを含めると実質は5000万円程度か)、「お
れは偉いのだ」という気分を味わえ、不満が出されませんでした。不満は他と比
較して生じるものですから、みなが同じなら不満も生じません。

 従業員と役員との報酬格差が小さく、家族意識の終身雇用で、みな中流意識を
持っていた30年前のバブル時代は、はるか昔になり、バブル崩壊と同時に欧米
型の「経営のプロとそれに使われる現場の分離」(新自由主義経済)が持ち込ま
れ、その境にはベルリンの壁ほどの差が生じました。

 経営のプロは外部から招聘され、高額役員報酬がはじまりました。逆に、現場
は「死ぬまで働け」のブラック企業が出現しはじめました。都市と地方との格差
も進み、地方のメイン通りはシャッター街に変わりました。

 自由主義社会ですから、格差があって当たり前ですが、個々の能力格差にとど
まらず、欧米社会のように「生まれながらの上流階級と下層階級」に分断される
と、前者にあらずんば人にあらずの社会となりかねません。現に2世議員の多い
政権党議員の失言の多さは、このオゴリを感じます。

 そのうち、田舎者の源氏が勢力を盛り返し、都市の上流階級である平家を攻め
滅ぼす時代が来るのかもしれませんが、源平時代と相違し、現在は支配階級が報
道機関までを支配し、その圧力で不都合な事実は報道されませんから、行き着く
ところまで行かないと新しい時代の芽も生まれないのかもしれません。それまで
は、役員報酬1億円は無理でも、司法書士報酬1億円を目指しましょうか。商業
登記専門の零細事務所では無理ですね。



2015.07.27(月)【私の勲章】(金子登志雄)

 今月は日本で最初の会社法事案に関与しました。私のアドバイスが功を奏して
先週、無事に登記が終わりました。内容を書くとその会社名も判明するため控え
ますが、私の勲章が増えたと喜んでいます。

 昔、アメリカ西部劇時代のアウトローで、21年の短い生涯で21人を殺した
といわれるビリー・ザ・キッドは、殺人を犯す都度、拳銃にマーク(勲章のつも
り?)をつけていたと聞いたことがありますが(たぶん、史実ではないでしょう。
21人も多すぎて年齢に合わせた数字に過ぎないと思います)、私も日本で最初
の登記に関与できたことが自分の勲章だと思っています(殺人に譬えるなど非常
識ですね!)。日本最初の株式交換の実行、100%子会社同士の日本最初の無
対価合併の立案と実行などとともに、今回の経験も私の拳銃(六法)にマーカー
をしておきます。

 もう1つ、私の勲章になりそうなのが、過去12年間の執筆・著作活動で頑張
った日本を代表する執筆者5000人の1人に選ばれたことです。選んでくれた
のは先週末発売の下記の『現代日本執筆者大事典〔第5期〕』という人名事典で
すが、調査が大変だったのでしょう。10万円近くもします。

   http://www.nichigai.co.jp/sales/genshitsu5.html
   http://gn5index.nichigai.co.jp/mokuji.pdf

 作家という肩書を持つ方が数万人もいる中で、世間的には名もなき司法書士に
過ぎない私が選ばれるとは想像もしていませんでしたが、過去12年間の10冊
以上の著作のほぼ全部が増刷されていますし(といっても法律実務書ですから数
千部の世界です)、改訂版になったものも少なくありません。きっと、これらが
評価されたのでしょう。なお、今回の選考とは無関係ですが、私がミニ解説を担
当している会社法条文集は、既に累計で10万部を超えていることが先週の調べ
で分かりました。これも、勲章の1つになりますね。

 大事典に登載されている5000人の名前をみると、私と同様に知名度のない
方のほうが圧倒的多数のようですから、ここに登載されたところで、何かよいこ
とでもあるのかは不明ですし、皮肉屋の多い私の周囲からも「だから何なのよ」
といわれそうですが、誰も評価してくれない地味な活動に対する利害関係のない
ところからの表彰・栄誉の1つとして、素直に喜んでいます。


2015.07.24(金)【恋バナよりあかりちゃん】(金子登志雄)

 「気になるヒトですか? それは・・・」

 ここで止めるなんて、立花さんも思わせぶりな上手な文章を書くものですね。

 恋バナ(恋愛関連の話題)は、女性が好きなようですが、女性同士では恋バナ
以外ではどんな話題が多いのでしょうか。兄弟は男ばかり、高校も男子校で男性
社会で育った私には想像もつきません。

 某年配女性(女傑?)が私に「日本の男は馬鹿な女を好きになる。政治や社会
の話題に対しては、自分の意見を言う女よりも、『わかんな~い』とカマトトぶ
って答える女のほうをかわいいと思う。金子先生も同じでしょ? こんなことで
は日本の女は成長しないし、女性管理職も生まれない………」などと非難(?)
されたことがありますが、一面の真理ですね。

 男はプライドが高く、自分で支配できる女でなければ妻にしたがらないため、
女性が意識的にかわいさを演じるのでしょうが、某年配女性の非難にもかかわら
ず、私個人は、自分が話題に乏しいためか、私と狭い話題を共有できる女性でな
いと時間を保てません。その結果、戦争法案の話も社会状況の話もできる女性と
しか会話できません。

 いま、ぜひ会話したいと思う女性は、下記のあかりちゃんです。話題はつきな
いし、ものの考え方を勉強させてくれます。会社法解釈にも、よいヒントをもら
えそうです。

  https://www.youtube.com/watch?v=L9WjGyo9AU8&feature=youtu.be

 何だ! 2日も続いて会社法の話題ではないのかといわれても困りますので、
ちょっとだけ追加しますと、皆さん、委員会設置系の会社に移行するとコンプラ
イアンスが強化されると思いますか。

 念のため、粉飾が問題になっている東芝は、指名委員会等設置会社で、取締役
16名中の4名が社外取締役でした。社外取締役は元外交官や大学教授でした。
名誉職のかざりだったのでしょうか。


2015.07.23(木)【友達の輪】(仙台・立花宏)

 仕事を終え、缶コーヒーを購入し、公園でひとやすみをしていたときのことで
した。子供たちが仲良さそうに、遊んでいました。そのわきでは、子供達の母親
らしい女性達が立ち話をしています。

 子供たちは女の子3人、男の子1人でした。皆、仲良く、遊んでいるのかと思
ってみていたのですが、よく見ると、少し様子が違うようです。

 女の子3人は楽しそうに話をしています。一方、男の子はその輪の中にはいれ
ず、ひとりでポツンと遊んでいる様子です。けっして、仲間外れにされていると
いった雰囲気ではないのですが、なんとなく、男の子は女の子の輪の中に入って
いけない感じです。

 まだ、小学校に入る前くらいの子供たちでしょうか。そのくらいの年齢でも、
大人と同じで、男の子が女の子3人のグループに入っていくのは難しいのかもし
れません。

 そんな様子を見ながら、私は自分の大学時代のことを思い出していました。
私は、ある大学の教育学部に通っていました。同級生の多くは、自分の所属す
るゼミのほか、教員養成課程も選択していました。普通であれば、私も同じよ
うに、所属するゼミのほか、教員養成課程を選択していたでしょう。

 しかし、自意識の強かった私は、人と違ったことをしたかったのだと思いま
す。教員養成課程を選択しませんでした。そのかわり、博物館の学芸員になる
資格を取得するため、文学部に遠征して、考古学実習を受講していたのです。
考古学実習は、受講生は4人でした。私のほかは、文学部で考古学を専攻して
いる女性3人です。

 実習は毎週1回でした。考古学を専攻している彼女たちは、実習以外でも顔
を合わせているのでしょう。とても仲が良さそうでした。それに対し、私は週
1回、彼女たちと顔を合わせるだけ。最初のころは彼女たちの輪の中に入れず、
実習ではいつも一人でいたと思います。

 そんなある日、土器の写真を撮影する実習がありました。そして、撮影した
あと、フィルムを現像するという作業を彼女たちのひとりとコンビを組んで行
うことになりました。

 デジタルカメラしか知らない世代の方にはイメージできないかもしれません
が、真っ暗な、現像液特有のにおいの立ち込めた部屋の中で、フィルムを現像
するという作業です。

 考古学の実習というと、遺跡を発掘するというイメージがありました。私は
まさか、考古学の実習で、フィルムを現像するという作業があるとは想像して
いなかったので、あまり面白く感じていなかったと思います。早く、その実習
が終わればいいとばかり思っていました。そんなとき、コンビを組んでいた女
性が声をかけてきました。

「立花さんは、教育学部なのに、どうして考古学実習を選択されたのですか?」

 私は、なぜ、自分が考古学実習を選択したのかを説明しようとしました。し
かし、うまく説明できず、しどろもどろだったと思います。ところが、彼女は、
一生懸命、私の話を聞いてくれました。そして、私の話が終わると、その女性
はくすりと笑い、言いました。

「素敵ですね。夢があって。応援します」

 それ以来、彼女のおかげで、私は彼女達の輪の中にも入れるようになりまし
た。彼女達も、私に話しかけるきっかけがつかめずにいたのかもしれません。
彼女がいろいろ、気遣いをくださったこともあり、ようやく、私はみんなと話
ができるようになりました。

 いつしか、私は実習のとき、彼女や彼女達に会えるのを楽しみにするように
なっていました。彼女にはとても感謝していました。

 そんなある日、私は彼女達に誘われ、実習後、学生食堂にケーキを食べに行
きました。彼女達は実習のあと、いつもそうしていたそうです。どうやら、い
までいう、恋バナなどをしていたようです。

 その日も、そんな話で彼女達は盛り上がっていました。

「立花さんは、気になるヒトとか、いないんですか」

 突然、彼女が私に話題をふってきたのです。私は答えに詰まりました。どう
こたえてよいのか。少し、沈黙が続きました。そして、私は、答えました。

「気になるヒトですか? それは・・・」

 そんなことを思い出しながら、子供たちを見ていると、女の子の一人が、ひ
とりで遊んでいた男の子のところに行き、なにか、声をかけていました。

 すると、男の子は救われたような表情で、女の子と話をはじめました。そし
て、男の子は、次第に、女の子達の輪の中に入っていきました。

「よい友達ができて、よかったね」

 わたしは、そんな気持ちになり、その公園を後にしたのでした。



2015.07.22(水)【監査等への移行定款の附則】(金子登志雄)

 14日の本欄【監査等への移行定款の附則】の件ですが、下記定款第B条につ
き、登記不要だという結論になりましたので、注記を前書きしましたので、お知
らせします。この登記に実際に関与した鈴木龍介さんの慎重な調査の結果です。

    http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/oshirase_0717.pdf

 正直ほっとしました。会社法等の法令の素直な解釈からすれば、いまでも登記
事項であることは否定しにくいはずだと思っていますが、依頼者である会社側と
しては、できたら登記したくないわけです。登記の意思もなかったでしょう。

 そこで会社を説得し、「登記義務は否定することができないから、債務はちゃ
んと返済しましょうよ」と話そうと思っていたら、債権者のお国が「債務はあり
ません」と言ってくれたわけです。会社法という実体法の理由というより、登記
という公示の必要性からの根拠づけか、会社法立案担当者だった葉玉さんが時々
使っていた大人の事情かは分かりませんが、依頼者側に立つ司法書士としては、
ありがたい回答なので、喜んで従いたいと思っています。

 ところで、昨日の問題ですが、「特例有限会社は監査役設置会社になれない」
ではなく、「特例有限会社も監査役設置会社になれるが、登記はできない」が正
しい説明だと思っています。

 これに関連して、通常の株式会社において、監査役の責任免除規定を定款にも
登記にも残したまま監査等委員会設置会社になれると思います(解散したのに譲
渡制限の承認機関を取締役会のままにした場合と同様)。

 では、監査等委員会設置会社が将来監査役設置会社に戻る可能性もあると考え
て新規に監査役の責任免除を定款に定めた場合に登記できないのでしょうか。監
査役のいない会社として登記を拒否されるのでしょうか。

 いろいろ考えてしまいましたが、実体法の規律(定款)と登記への公示の可能
性は、実に難問ですね。ありがたい回答を得た本件については、これ以上、触れ
ないようにしましょう。



2015.07.21(火)【特例有限会社の監査役権限】(金子登志雄)

 連休中は、親しくさせてもらっている福岡の丸田司法書士とご一緒に、弥次喜
多珍道中で、沖縄県司法書士会の会社法セミナーで2日間にわたり講師を努めて
まいりました(会長、研修担当のI先生ほか皆様お世話になりました)。

 懇親会の折に「特例有限会社の監査役の権限を拡大して業務監査に変更できる
という見解があるが、肯定説を前提とした場合に、会社法426条の責任免除を
定款に定めて登記することは可能か」という質問を受けました。この質問は初め
てでしたが、皆さん、どう思われますか。

 特例有限会社の監査役の監査の範囲については整備法24条で「会計限定とみ
なす」とあります。これにつき、会社法施行時にみなすだけで、定款変更を禁止
する整備法9条2項のような制限もないため、定款を変更して業務監査権限を持
たせることは可能だというのが会社法立案担当者の郡谷氏(『中小会社・有限会
社の新・会社法』195頁)や石井氏(商事法務1754号111頁)です。

 本説を前提とすると、定款を変更して会社法426条の責任免除規定を定款に
定めることも可能だということになりますが(上記郡谷本215頁参照)、登記
まで可能かについては触れられておりません。

 監査役設置会社であることは特例有限会社では登記事項ではありません。それ
にもかかわらず、監査役設置会社であることを前提とした会社法426条の責任
免除の定めは登記することができるとしたら、違和感を禁じ得ません。

 改めて整備法を確認してましたが、整備法24条の見出しには「経過措置」と
はなく「特則」とありますし、定款を変更することができないという整備法9条
2項は株主間では譲渡自由の株式譲渡制限という特例有限会社の特色中の特色だ
から確認のために規定されただけだと考えるのが穏当のように思いました。

 松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』586頁や今回の改正会社法
立案担当者による『1問1答』342頁にも監査役の権限を拡大することに否定
的な見解のようですから、登記所も上級庁と協議し登記を受け付けないであろう
と私は予想しています。

 蛇足ですが、国は早く特例有限会社をゼロにしたいのです。だから、設立も合
併会社になることも認めず、自由を奪い座敷牢に閉じ込めているわけです。この
面からも特例有限会社で責任免除規定の登記は難しいでしょう。


2015.07.17(金)【季節労務者の気分】(金子登志雄)

 7月も今日で3週目が終了し、6月定時総会に関係する新規の登記依頼は激減
し、申請済みの登記の回収や議事録等の返却、請求書の発送が日々の業務の中心
になりました。

 中には大仕事もあったため、申請済みの登記が無事に完了するのは、一安心と
いう面もありますが、大量の在庫が次々に消えて行く寂しさもあります。請求書
等の作成・発送も、楽しかった創作活動である料理作りの後片付けみたいなもの
で、どうも意欲が湧きません。

 こうしてみると、私のような商業登記専任業者は、繁忙期と閑散期が極端で、
一種の季節労務者の気分です。今日あたりから8月中旬まではフリーター状態に
近く、日雇いに近い単発仕事を待つことになります。事件の通報を待つ刑事と同
じく、待機も仕事のうちですから、事務所を臨時休業するわけにもいきません。

 仕事を何とか分散するようにできないものかとも考えますが、こればかりは会
社の決算期に影響され、3月決算会社の多い日本では、我々の仕事の繁忙期が定
時総会時期の6月、その後の7月、事業年度期首の4月1日、中間期首の10月
1日に集中してしまいます。

 これは受注産業や顧客次第のサービス業の宿命ですね。受注産業のため前期は
毎年大赤字で後期に集中的に収入のある業種、年末のボーナス時期だけが稼ぎ時
の業種、週末だけ多忙な居酒屋………、私の業種だけが特別ではありませんので、
ブツブツいってもはじまりません。今日から当分の間、フリーターの「長屋の笠
張り浪人」に戻りますので、私の腕を必要とする用心棒の仕事でもありましたら、
ぜひ声をかけてください。


2015.07.16(木)【定足数規定の表現差】(金子登志雄)

 日本の将来を決める違憲の戦争法案が衆院特別委員会で可決したというのに世
の中は静かなものです。こんなことでよいのでしょうか。

 出世を狙った特捜検察の幹部が大手マスコミを巻き込んで鳩山・小沢を攻撃し
民主党政権つぶしにかかっていた数年前は、「皆さん、本質を見極めましょう。
今の動きには政治的意図があります。このままでは法治国家とはいえず、官僚主
権の独裁政治がはじまります」と盛んに本欄で主張したものでしたが、私よりも
大手マスコミが垂れ流す印象報道を信じる人が多数派であり、虚しさばかり残り、
徐々に政治ネタを取り上げる気力が失せてしまいました。

 世の中は私の危惧した独裁の方向に急速に進んでいますが、その対応は皆様個
々に委ね、いつもの会社法ネタに戻しましょう。

 さて、次のような質問を受けました(要約です)。
------------------------------------------------------------------------
 株主総会の普通決議の定足数は、会社法309条1項で【議決権を行使するこ
とができる株主の議決権】の過半数を有する株主が出席し………とあるが、種類
株主総会の普通決議の定足数は、会社法324条1項で、その種類の株式の【総
株主の議決権】の過半数を有する株主が出席し………となっている。
 特別決議の規定は、株主総会でも種類株主総会でも同様の規定ぶりになってい
るのに、なぜ、普通決議の場合は、このような差があるのか。
------------------------------------------------------------------------
 
 「議決権を行使することのできる株主の議決権」と「総株主の議決権」と、な
ぜ使い分けているのかという面白い質問です。

 分析と推理の金子で売っている手前、「分かりません」とはいいたくありませ
んので、推理してみました。

1.まず、自己株式が解禁になるまでは、株主総会の定足数の原則は「発行済株
 式の総数の過半数を有する株主が出席し」でした。

2.平成13年10月施行の金庫株改正で自己株式が全面的に解禁になると、自
 己株式を含んだ株数と議決権個数を分ける必要が生じ、株主総会の定足数の原
 則は「総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し」に変わりました。
  
  それまでは、議決権につき「何株」と表現していたのに、このときから「何
 個」と表現するように変わりましたが、「総株主の議決権=自己株式を除く」
 という意味合いだと思われます。

3.平成14年4月施行の会社法で「議決権なき株式」が種類株式として認めら
 れました。A議案には議決権があるが、B議案には議決権がないという制限付
 のものも、全議案に議決権なき株式も認められました。

 A議案には議決権があるが、B議案には議決権がないという議決権制限株式が
存在するときに、A議案とB議案を付議する株主総会の定足数につき「総株主の
議決権」では、若干の違和感がありませんか。こういう表現をしたときは「一定
の事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、総
株主の議決権の数に算入しない」(297条3項など)と会社法自ら注記してい
るのもその理由でしょう。

 そこで、会社法では、株主総会の定足数につき、【議決権を行使することがで
きる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し】と、注記せずとも済むように
表現したのではないでしょうか。しかし、子会社の定義や株主提案権など、行使
することのできる議決権の数を問題にする際に、依然として「総株主の議決権」
を使っていますから、表現が変わっても意味合いに差はないと考えます。

 なぜ種類株主総会の普通決議の定足数の際だけ「総株主の議決権」という表現
が残ったかについては、種類株主総会ですから、議案ごとに議決権を検討する必
要性に乏しいから従来どおり「総株主の議決権」にとどめたのかもしれません。

 もっとも、ひょっとして改正ミスの可能性も大きいかもしれません。309条
と324条の改正担当者が違っていれば、その可能性も低くはないでしょう。
いずれにしろ、表現の差に深い意味はないと結論付けました。



2015.07.15(水)【非取締役会設置会社の取締役会】(金子登志雄)

 非取締役会設置会社でも、定款に任意に取締役会というものを定め、これによ
って業務執行等を決定することが可能であることはよく知られていますが、実例
はこれまで経験したことがありませんでした。

 この6月の役員変更・代表者選定の登記の際に、そういう事例を経験しました
が、代表者を取締役の互選で選定したとき定款の添付が必要であるのと同様に、
定款を添付しましたところ、予想どおりというか、登記所から電話がありました。

 取締役会のない会社なのに、取締役会で代表取締役を選定しているが、どうい
うわけだという質問です。

 それ、法定の取締役会ではなく任意の取締役会ですから気にしないでください。
互選を会議体方式でしているだけです、と話しても、どうも通じません。

 ちょっと中で検討するといったん電話が終わりましたが、その後すぐに登記所
より電話があり、「分かった。取締役会と捉えるから混乱してしまいますが、取
締役【の】会と捉えれば問題ないですね」という返事でした。

 よい説明ですね。これからは、【の】入りで説明することにしました。

 ところで、皆さんは、会社の設立で発起人が多い場合に「発起人会議事録」な
んてしていませんか。「発起人会」などというものは存在せず、あれは「発起人
【の】会」に過ぎません。


2015.07.14(火)【監査等への移行定款の附則】(金子登志雄)

 監査等委員会設置会社に移行した(移行する)会社が180社程度だとか聞い
ておりますが、予想どおり、移行定款の附則規定を登記するかで混乱が顕在化し
てきたようです。

 私どもは早くからこの問題に気づき、リーガルのお知らせでも、下記のとおり
警告しておりましたが、下記定款第B条につき、皆様は、登記必要説ですか、不
要説ですか。

  http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/oshirase_01.pdf

 2か所からの情報によりますと、某大手法務局が登記不要と回答したようです
が、登記所を代表した公式見解とは思えません。

 登記不要説は、この定款第B条は、会社法426条の定款の定めではないとい
うのでしょうか。だとしたら、会社法426条を根拠としない責任免除として違
法の定めになります。

 会社法426条の定めだが登記する必要はないという考えなら会社法911条
3項24号に反します。

 会社法426条の定款の定めであり、本来は登記事項だか経過措置だから登記
義務はないというのでしょうか。これは滅茶苦茶な論理です。

 例えば、公告方法を官報から電子公告に変更した定款の附則に経過措置として
「本定款変更前の事項に公告が必要になった場合は、官報に掲載してする」と定
めた場合に、この附則は登記不要でしょうか。

 これと同様に定款第B条は効力規定であり、責任免除のためには、監査等委員
会設置会社の取締役会の決議のほか、株主総会を開かない代わりに株主に異議が
ないかと公告又は通知をしなければなりません。そうであるなら、経過措置とし
て定めても、登記事項であることに変わりはないというべきではないでしょうか。


2015.07.13(月)【登記は時間がかかるもの】(金子登志雄)

 先週で6月中に申請した登記の全てが管轄外への本店移転等の2つの登記所に
絡む申請を含め無事に終わりました。依頼者の都合(主に許認可申請)で急いで
ほしいとお願いしたものもありましたが、この繁忙期にもかかわらず予想外に早
く終わりほっとしています。

 7月に申請したものが予定した補正日前のいつ終わるのかは予測がつきません。
某地方法務局では10日に申請したものの完了予定日は20日後でした。信じら
れない遅さですが、われわれプロの申請したものばかりではなく、世話のやける
申請も多いのでしょう。

 こうも登記が遅いと、まだ終わらないのかという依頼者からの度重なる問い合
わせに、われわれも対応に苦慮してしまいますが、ふと信託銀行の新入社員の頃
(40年以上も前)の上司の言葉を思い出しました。

 信託銀行宇都宮支店で新人の私は預金業務の窓口係(テラー)が最初の仕事で
した。お客様を待たせるのは申し訳ないと思い、始終、後ろの事務方に「まだか、
まだか」とせかせていましたが、数日後に上司に呼ばれてお叱りを受けました。

 「金子なぁ、銀行というものは待たされるところだとお客様を教育し、事務方
を守るのも君の仕事だろう」と。

 それ以来、事務方をせかせずに、お客様に対して「今日は30分程度お待たせ
してしまいますので、よろしかったらお買い物でもしてから、またお立ち寄りく
ださい」とお客様を外に出すように営業トークを変えました。

 これを参考に、登記でも「お急ぎであることは承知しましたが、この繁忙期で
は、登記の完了までに2週間以上もかかりますので、しばらく登記のことは忘れ
てください」とでもいいましょうか。

 きっと、「分かりました。急いでいるので別の司法書士さんを探します」とい
われてしまいますね。いくら待たせても銀行はその日に終わりますから、比較す
るには無理のある譬えでした。



2015.07.10(金)【登記から見た最近の企業動向】(金子登志雄)

 7月も10日になると、6月の定時株主総会に関連する登記の依頼も急減し、
やっと全員の押印が揃ったなどの少数の例外案件しか残っていません。仕事大好
き、多忙大好きの人間としては、寂しい限りです。

 参考までに、今回の登記の書入れ時期を振り返って総括してみますと、次のと
おりです。

1.監査役の監査の範囲を会計に限定する登記は、予想外に少なかったといえま
 す。理由は、そういう定めを置く小さい会社は、監査役を置かない非取締役会
 設置会社にしていたこと、大企業の子会社(取締役会設置会社)では、役員間
 で相互に監視させるため、そういう定めを置かないようにしていたことでしょ
 うか。

2.社外取締役を置いたり新規に置く会社は多かったのですが、私の顧客は全て
 監査役を置く会社であり、委員会を設置する会社ではなかったため、社外取締
 役の登記はゼロでした。何のための社外取締役の増員・強化だったのかと思わ
 ざるを得ませんでした。

3.非業務執行取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定を変更する会社
 は数件ありましたが、「(業務執行取締役等であるものを除く。)」と1字1
 句会社法どおりにせず、「もの」→「者」「。」→「なし」とする会社も少な
 くありませんでした。

 その他、感じたことは上場会社を含め会計監査人設置会社では取締役の任期を
1年にするところが毎年増加傾向にあるようです。これは剰余金の配当を取締役
会で決定したいという意味ではなく(会社法449条参照)、表向きは、取締役
に対する株主の監視を厳しくするコンプライアンス重視の流行りでしょう。

 しかし、取締役の任期を短くすれば、取締役候補を実質的に決定する社長の権
限が強化され、社長に反旗を翻す取締役は、次の定時株主総会で再任候補から除
外され、コンプライアンスとは逆の結果になりかねないという負の側面も大きい
のではないでしょうか。国も企業も改革のどさくさに紛れて法令遵守とは真逆の
独裁に進んでいるような気がしているのは私だけでしょうか。



2015.07.09(木)【監査役権限の登記期間】(金子登志雄)

 改正法の附則22条1項に「この法律の施行の際現に監査役の監査の範囲を会
計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社は、この法律の施行後
最初に監査役が就任し、又は退任するまでの間は、新会社法第911条第3項第
17号イに掲げる事項の登記をすることを要しない」とあり、登記した場合の登
記記録例では、改正法施行以前からの内容であるため、変更日が記録されません。

 これにつき、某地方法務局から「今回の改正前に定款に会計監査限定の定めを
設けていた場合は登記記録に原因日付は入らないため登記懈怠の問題は起こらな
い」との説明があったそうです(日司連の掲示板NSR3より)。

 申請人側としては大歓迎の回答ですが、運用面はともかく法律上もそのとおり
かというと、かなり疑問です。いろいろ考えてみました。

1.会社法915条には登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更登記を
 せよとあります。上記の登記は監査役設置会社の変更登記でも、監査役の変更
 登記でもないから登記期間の制限はないという根拠だろうか。
  しかし、915条の「変更」は設立登記と対比した意味の広義のものであり、
 登記事項が生じたときはという意味でしょう。

2.原因日付の入らない登記には初代の清算人の登記があります。しかし、これ
 には会社法928条で2週間以内に登記せよとあります。
  清算人の登記に原因日付が入らないのは、解散日をみれば分かり、その日の
 翌日から清算会社が「設立」されたとして、設立登記と同様に、役員の就任年
 月日が登記されないのだと私は推測しています。

3.原因日付の入らない登記には社外役員の登記があります。A取締役につき社
 外取締役の登記を漏らし、後日、それをする際には原因日付が登記されません。
 この社外の登記は取締役に付従した登記ですから、原因日は取締役の就任日と
 して登記されているともいえますし、社外かどうかは委任契約に基づくもので
 はないので独立した原因日が記載されないのだと私は理解しています。

 社外役員が登記事項になった頃(平成14年)は、運用面で過料にすることは
まずないだろうが、法律上は過料の対象になると解釈されていたと記憶していま
すので、今回の説明に驚いたわけですが、附則22条1項を素直に読めば、最初
に監査役の就・退任が生じた時から登記義務が発生するから、その時から2週間
以内に登記せよと解釈しておいたほうが無難でしょう。


2015.07.08(水)【分譲マンショと抵当権抹消登記】(島根・根来川弘充)

 先日、分譲マンションの所有者の方から、抵当権抹消登記の依頼を受けました。

 分譲マンションは、見た目は一つ(一棟)の建物でありながら、各マンション
毎に登記簿が作成されています。

 また、建物の敷地は敷地権と呼ばれ、おおよそ各マンションの登記簿には、そ
れぞれの広さを基準に敷地権が持分として割り当てられています。

 その結果、各マンションの登記簿は一つの建物の登記簿でありながら、土地の
持分もついているという大変便利なものになっています。

 ところで、抵当権抹消登記には、登録免許税がかかるのですが、これは不動産
(土地もしくは建物)の個数×1000円です。もし、マンション一棟の敷地が
一筆であるのであれば、建物とあわせて2000円で済むことになるのですが、
私が依頼を受けた分譲マンションの登記簿には、敷地が6筆の土地にまたがって
いましたので、7000円かかりました。

 せっかく便利に土地と建物を一つの登記簿にまとめたのだから、1000円で
あっても良い気がするのですが、全国の分譲マンションの個数から計算すると、
とても大きな税金なので、そうもいかないのかと思いました。


2015.07.07(火)【ミスは想定内に】(金子登志雄)

 5日の日曜日は司法書士試験の日だったようですが、受験生の中には、試験が
終わった瞬間に、「あ!」とミスに気づき、愕然と打ちひしがれている方も多い
ことでしょう。私がそうでした。慶応大学の日吉校舎で受験したのですが、庭の
ベンチで30分も呆然としていたものです。

 試験中は時間に追われて馬車馬のように「前」ばかりみて思考してしまいます
が、試験が終わった瞬間に、周囲を見回す余裕が出来、「あ!」と勘違いに気づ
くものです。

 しかし、こればかりは、実力のある方なら、みな同じですから、気にしても仕
方ありません。試験というのは、そういうものだと思い、それがあっても合格す
ることができるように実力アップに励むことです。

 司法書士の登記業務では、時間にゆとりがありますし、不明点は顧客に問い合
わせることもできますので、論点の勘違いのようなミスは生じないのですが、5
時までに申請しなければならないなどの時間に追われて生じる申請上のケアレス
ミスは少なくありません。

 資本金が1億円なのに、役員変更の登録免許税1万円のところ3万円にしてし
まったり、重任なのに就任にしてしまったり、多種多様のミスがありますが、多
く場合が、他社の申請書に上書きして申請書を作成するときに、こういうミスが
生じます。昨日も他社の申請書に上書きして役員変更登記の申請書を作っていま
したら、申請書の表題が「株式会社本店移転登記申請書」になっており、あわて
て直したところです(この程度のことは補正にもなりませんが)。

 上書きをやめて新規に申請書を作ればよいじゃないかとか、もっと慎重にチェ
ックすればいいのに………といわれそうですが、それは安全地帯にいる無責任な
評論家の論評に過ぎません。どんなに慎重に行おうと、人間の心理は重要部分に
目が向いてしまうため、非重要部分のちょっとしたミスは避けられないのが現場
での仕事です。

 上場会社の株主総会招集通知は、総務部で数人がチェックし、上司や経理部門
も関係部分をチェックし、顧問弁護士や印刷業者(宝印刷とプロネクサスが2大
大手)のプロもチェックし、最低でも10人以上の精鋭がチェックに関与します
が、それでもミスが生じています。

 試験も登記も企業法務も、人間の営みである限り、ケアレスミスは想定の範囲
に置き、大きなミスをしないことのほうが数倍も重要です。100点よりも常時
80点以上を目指すことを心がけたほうが試験でも仕事でも成功するものだと私
は思っていますが、いかがでしょうか。ミスを愛し、楽しみましょう。


2015.07.06(月)【多忙感の正体】(金子登志雄)

 今年の6月の定時株主総会に関する登記では、昨年より1.3倍程度も多忙に
なったという感覚があります。深夜残業する日数も増えました。

 他の司法書士から一時的に引き継いだ難度の高い案件が数件あったため、それ
が原因だと思っていましたが、念のため、現時点の昨年の受託件数と今年のそれ
を比較してみましたら、大きな差はありませんでした。

 どうも、本人確認証明書と5月からの会社法改正が原因だったようです。これ
らのために、既存顧客からも問い合わせが多く、せっかく郵送されてきた登記書
類に不足があったり、当方のチェックも新人役員の就任承諾書に住所の記載があ
るか、その住所は本人確認証明書と一致しているかなどに及んだため、昨年より
1.3倍の労力が必要になったためのようです。登記の添付書面も増えました。

 「議事録案を作ったからチェックしてください」というメールが入ると、当方
では「改正でこうなりましたから、この部分はこうしてください」とか、「監査
役に変更があるようですが、その権限について定款を拝見したいので、送ってく
ださい」などと返し、半月後に「議事録案の改訂版を作成しました。念のため、
チェックしてください」と来れば、半月前のことは忘れていますから、また新規
と同様にチェックし………で、これが何社も、また何往復も続いたわけですから、
多忙になるわけです。

 報酬額は従来どおりですから、労力が増えただけに終わりそうですが、多忙度
合いが増したのは、登記所でも同じでしょう。就任承諾書の不備(住所未記載、
本人確認証明書との住所の不一致)による補正が多いのではないでしょうか。



2015.07.03(金)【登記簿謄本請求報酬】(金子登志雄)

 きのうは、数社分でしたが、登記完了後の謄本や印鑑証明を1000部くらい
取得しました。数年に1度くらい、こういうことがあります。

 さて、こういう場合、全国各地の司法書士は、報酬をどの程度請求しているの
でしょうか。地域性が大きいのではないでしょうか。

 都心の商業登記専門の当事務所は一切請求しません。謄本程度で報酬を計算す
るのは面倒だという理由以外に「当事務所はコンサルティング事務所だ」という
自負から、頭を使わない仕事では報酬を請求しないと決めているからです。

 これは自慢ではありません。コンサル中心の事務所と伝統的な代行業中心の司
法書士事務所では経営の仕方も異なるからです。

 10年前ですが、親しくなった某上場会社の法務部の幹部の方から、「それな
りの上場会社では毎月謄本を100部、200部必要となる。それだけで司法書
士事務所に毎月5万円程度の支払いが生じる。一種の顧問料みたいになっている
が、コンサル中心の金子先生には、顧客も謄本取りなどをお願いしにくいでしょ
う。月々の安定収入がないので、事務所の経営で苦労しますよ」といわれたこと
があります。

 もちろん、「謄本取りでも何でもしますから仕事を頂戴」と申し上げたことは
いうまでもありませんが、謄本取りだけを依頼されたことはその後もありません
でした。

 確かに、当時は電子申請で謄本を取得することができませんでしたし、和紙の
謄本の登記所も全国に残っていたように記憶しています。

 この時代だからこそ、謄本取得に報酬を請求するのが自然だったわけですが、
現在の司法書士事務所は、登記所の電子化が進んだため、謄本取りでは報酬を請
求しにくくなっているのではないでしょうか。仲間の司法書士にも聞いたことが
ないので、実情は知りません。聞いたところで当事務所は当事務所の方針で動く
だけですから。


2015.07.02(木)【電子申請の順番】(金子登志雄)

 きのうの東京法務局は、原本還付の出店が出ていましたし、相談窓口の待合席
は満杯でした。相変わらず、商業登記の書き入れ時ですが、職員の皆さんの顔に
はゆとりを感じましたので、ピークは去ったのでしょう。もっとも、仕掛中の在
庫(?)が多いのか、登記完了予定日は2週間後になっていました。しばらくは
混雑が続きそうです。

 さて、同一グループ会社ABCD4社の社長が交代するので(全て同一人)、
社長の個人の印鑑証明書1通を4つコピーし4社で原本還付しましたが、こうい
う場合はABCDを連件で申請し、BCDにつき、添付書面の印鑑証明書は「前
件添付」とすればよいのでは……という意見が司法書士会の掲示板にありました。

 そうしてみたい気もありましたが、会社が相違すれば、前件添付方式は無理だ
と思っていますので、原本還付にしたわけです。

 それ以前に電子申請の場合に、ABCDの順序で登記所に到達させたい場合に、
1、2、3、4と順序をつけてよいものやら、時々悩みます。

 順番を付さないと、思った順序で登記所に届かないことがあるのです。そこで
順番を付して申請し受領証をもらうと、4申請の1,4申請の2などという印が
ついてきますから、この付番は、4つを同時に申請した場合に限られるようにも
思え、はっきりしないところがあります。

 紙の申請のときは、1/4、2/4、3/4、4/4と番号をつけても、不都
合があれば消せば済むことで、何の問題もありませんが、電子申請の場合は記録
に残るので、今後のためにも、何か基準があるのなら知りたいものです。


2015.07.01(水)【商号変更企業】(金子登志雄)

 昨年6月に当事務所の入居するビルの名称がオーナーの交代に伴い「野村不動
産神田小川町ビル」から「常和(じょうわ)神田小川町ビル」に変わったばかり
ですが、本日からは、オーナー会社の商号変更に伴い「ユニゾ神田小川町三丁目
ビル」に変わりました。

 http://www.jowa-hd.co.jp/news/pdf/2015/20150519_4.pdf
 
 昨年の学習効果で、同居している当社及び子会社の本店表示からビル名を削除
しましたし、司法書士登録の事務所住所も同じようにしましたので、面倒な手続
は回避できましたが、名詞の作り直し費用程度の負担は避けられませんでした。

 しかし、これは我慢しましょう。これで数年間はビル名の変更はないでしょう
し、伸び盛りの企業は、頻繁に株式分割をするだけでなく、商号や事業目的を変
更しますから、大家さんが大きく発展していることに店子も喜ばねばなりません。

 昔は上場会社が商号を変更することは多くはありませんでした。株券を発行し
ており、この株券を全部差し替えなければならないとされていたからです。上場
会社の株券ですから偽造防止の適格株券ではならないため、株券の差し替えだけ
で億単位の費用がかかったのです。

 今は株券が廃止されていますので、商号の変更も容易になりましたが、名刺代、
看板代、封筒代、社内事務用品の差し替え、銀行通帳の差し替え………、やはり
面倒で高額な費用がかかるでしょう。伸び盛りの企業でなければ商号変更は無理
だというわけです。



2015.06.30(月)【各社各様の議事録】(金子登志雄)

 昨日はギリシャ問題の余波で日経平均株価が大暴落中だというのに、趣味の株
価チェックをする時間もないほど、申請書作りや電話応対に追われていました。
うれしい悲鳴です。平素は閑古鳥の鳴く当事務所も、年に1度くらいはこういう
ことがないと困ります。

 それにしても、持ち込まれる議事録は各社各様でした。

 株主総会議事録には出席役員欄を設けて氏名を列挙すべきなのに、その欄がな
い代わりに、出席役員全員に議事録に記名押印させている会社。

 取締役会議事録に大量の議案が記載され、厚さ1センチもある議事録の会社か
ら、極端にいえば、代表取締役選定の議案しかない会社。

 取締役会議事録の後者については、中には登記すべき事項だけ決議する取締役
会と、それ以外を決議する取締役会に分ける会社もあるやに聞いていますが、そ
れをせずに、たまに「取締役会議事録(抜粋)」として前者だけの議事録にして
提出する会社もあるようです(押印があれば登記上は受理されているようです)。

 しかし、私には「抜粋」との明記があると、「これは議事録原本ではありませ
ん」と自白しているように感じて抵抗があるため、私だったら「(抜粋)」をと
ってもらうようにお願いするでしょう。

 「抜粋」をとれば有効な議事録といえるかについては、商業登記法46条2項
には「議事録」を添付せよとあるので、議論があると思いますが、私は議事録は
1個とは限らないと思っています。Aさんが作成し出席役員全員が記名押印した
議事録、Bさんが作成し出席役員全員が記名押印した議事録が完全に有効である
のと同様に、第1号議案だけの議事録、第2号議案だけの議事録があってもよい
と思っているからです。

 また、そもそも商業登記法46条2項には「登記すべき事項につき……決議を
要するときは、申請書にその議事録を添付しなければならない。」とあるため、
これを素直に読めば「登記すべき事項について決議した議事録」を添付せよとい
うことですから、商業登記法自体が「登記すべき事項でないことを決議した部分
は除いてよい」と規定しているとも考えられないでしょうか。

 まぁ、ここの部分は「触らぬ神に祟りなし」で行きましょう。誰かが登記所に
質問し「全議案が記載された議事録でなければ認めない」などという回答でも出
たら藪蛇です。皆さんも、藪蛇はなさらないようお願いします。



2015.06.29(月)【会務活動への弁解】(金子登志雄)

 この商業登記の書入れ時に日本司法書士会連合会では定時株主総会があったよ
うですが、代議員の方は、パートナーの若手司法書士や優秀な補助者が事務所を
守っているとはいえ、所長が留守では、さぞ大変だったことでしょう。特に地方
からの大議員の方には、頭が下がります。

 当事務所では、事務所の特殊性から、この時期に所長が留守をすることは絶対
に無理です。

 第1に、商業登記のみしか扱わない零細事務所です。理由如何にかかわらず、
この時期に事務所を留守にしては、顧客の信頼に応えられません。

 第2に、上場会社の株主総会の運営まで分かる特殊専門店で売っていますから、
この時期は、緊急質問なども寄せられるため、私以外では対応できません。

 「社外取締役を選任するのだが、なぜ登記がなされなくなったのか、もう1度、
至急に教えてください」………、「それはですね」と何の資料もみずに電話口で
即答しなければなりません。私に聞いてきた人は、すぐに上司に説明し、上司は
その上に報告し………とつながりますから、時間が勝負です。

 こういう事務所の特殊性から、開業後20年近くを経たというのに、相変わら
ず1人事務所から少しも脱皮できずにいますが、事務所経営の苦労をしないで済
む点は、ものぐさで、時々用心棒の助っ人業務もする長屋の笠張り浪人を天職と
思っている私には丁度よい生活スタイルかもしれません。

 第3に、急ぎの登記が多い時期です。商号変更や社長の交代があると、登記を
急がねばなりません。会社の各部署から謄本何通が至急に必要だなどと総務部に
要請が入っているためです。
 
 第4に、登記所からの電話が多い時期です。法律問題については、私が対応し
なければなりません。
 
 あれれ、まるで、ボランティアに近い会務活動をしていない弁解のようになっ
てしまいましたが、私は私で執筆やセミナーの講師活動を通じて「司法書士こそ
会社法の専門家」という広報活動に従事していますから、方法は違っても、会に
は十分に貢献しているつもりです。

 もっとも、出版社からは「会社法の中央経済」というイメージ作りに貢献した
と感謝されていますが、司法書士会からは、そういう評価をされたことは一度も
ありません。これは、ボヤキですね。


2015.06.26(金)【定款変更の効力発生日】(金子登志雄)

 「今日できることは明日に伸ばさない。」………私の執務姿勢ですが、昨日も
午後4時に登記依頼の資料が届き、あわてて5時までに申請しなければと頑張り、
電子申請しましたが、あとでパソコンのメールをみたら、「午後に資料が届くは
ずですので、明日の26日にでも申請してください」とありました。あわてる必
要はありませんでした。

 さて、商号を10月1日に変更するが、定款の附則に効力発生日を記載しなけ
ればならないのかという質問を受けました。

 いつの頃からこうなったのか分かりませんが、定款変更の効力の発生が将来の
日の場合に、定款の附則に効力発生日を定める例が増えました。

 例えば、下記です。

 (商号変更)
   http://qq5qq.info/lILf
  
 (本店移転)
   http://corp.rakuten.co.jp/news/press/2015/0220_03.html

 一種の確認規定でしょうが、昔はこういうことは定款変更の理由あたりに記載
し、附則には記載しませんでした。

 おそらく法令の改正にあたり、附則に「施行期日」を規定するのに倣ったもの
でしょうが、法令の改正の場合は、原則として改正案の全部の効力が将来の日に
なるのに対し、定款変更の効力は決議と同時に発生するものがほとんどで、その
一部だけを将来の日にしますから、わざわざ附則に一部の変更の効力発生日を記
載する必要はないように思うのですが、これも好き好きでしょうか。


2015.06.25(木)【2種類の補正】(金子登志雄)

 港区の原田先生の17日のブログに「うちは、印鑑相違以外で補正になること
はまずありません。」とありました。ご立派です。きっと、複数人でチェックし
ているのでしょう。1人でチェックしている限り、こういうことは、まずありえ
ません。

 さて、補正というのは、登記申請後に登記所の調査係が申請書を審査する際に、
間違いをみつけ、われわれに訂正や補完を指示することです。

 これには2種類があります。第1は、私も時々してしまう誤字脱字、上書きミ
スです。B社の登記を受託したとき、パソコンに残っているA社の申請書をB社
用に直す方が新規に申請書を作るより早いので、そこに上書きするわけですが、
その際に見落としがあると、B社の申請なのに、一部の内容がA社のままになっ
ていたりします。

 第2は、適法性に対する見解の相違に基づくものです。これについては、私は、
自信がありますから、補正の指示を受けても、まず引き下がりません。説得資料
を送り、ご理解を求めますが、それでも無理な場合は登記官と合わせてほしいと
粘ります。会わせてもらったことは1度もありませんが、熱意が通じて、再検討
の結果、OKになります。

 こうしてみると、第1はエディターチェック(形式チェック)、第2は適法審
査(内容チェック)といえますが、この第1に関する登記所の熟練度は、驚嘆し
ます。

 われわれは顧客の作った議事録のチェックなども、登記に関係する重要事項の
ポイントチェックで終わらせますが、登記所さんは、1字1句、仔細にチェック
するようです。

 印鑑照合もすごいです。あるとき、会社自身も私もチェックしたはずなのに、
印鑑が違うといわれたことがありました。顧客が議事録をスキャナーにかけて、
パソコンに取り込み、それを印刷して、原本還付用の写しとして私に渡してくれ、
そのまま提出したところ、これによって、印鑑の大きさが、0.何ミリだけ小さ
かったようです。

 これ以来、写しの作成は、スキャナーではなく、等倍のコピー機で行うよう顧
客にお願いしたことは言うまでもありません。



2015.06.24(水)【最良の講師】(金子登志雄)

 久々に登記申請のため東京法務局に行きましたら、商業登記の旬のためか、相
談コ―ナーも補正窓口も満席の盛況でした。タクシーで行ったのですが、駐車場
にも入れませんでした。

 それでも、東京法務局は人手が多いのか、優秀なスタッフが多いのか、出来上
がりまで1週間でした。お隣の県では、2週間もかかるのに。

 さて、仙台の立花さん、頑張ってますね。私も後継者が出来たようで嬉しく思
っています。支部セミナー講師で経験を積んでいれば、いずれは、東北近県から、
そして全国から声がかかることでしょう。本欄をみている仙台近県の研修担当の
司法書士さん、「仙台に立花あり」をお忘れなく。青田買いは、今のうちですよ。

 立花さんと同じく、私の司法書士会での最初の講義も支部セミナーでした。渋
谷支部でしたが、そのとき、新人の富田司法書士が聴衆におり、本HPの左に掲
載されている漫画になりました。

         http://esg-hp.com/manga.pdf
 
 この漫画に「顧客こそ最良の教師だ」とありますが、同じく「受講生こそ最良
の講師」です。講義の際に、さまざま質問されると、それがよいヒントになり、
さらに勉強が深まり、次の講義の際に役立ちますから、講師を引き受けるのは自
分のためでもあります。

 私は生来の出不精のため、最近は「ぜひ、金子に」という依頼しか講師に応じ
ていませんが、全国で講師を経験したためか、おかげさまで、座りながら全国の
知り合いから難問・珍問の相談が舞い込むだけでなく、地方法務局の情報が入る
ようになりました。これが本欄のネタにもなり、ありがたいことです。



2015.06.23(火)【いつかまた、講師として】(仙台・立花宏)

 「君の話を聞いて、とても嬉しい気持ちになったよ」

 先日、地元司法書士会のある支部で、改正会社法に関する商業登記の研修会の
講師を務めさせていただきました。研修会終了後、場所をかえて、懇親会も開催
されました。

 冒頭の言葉は、その懇親会の際、あるベテランの先生からかけていただいた言
葉でした。

 そのベテラン先生は、司法書士会の要職を歴任され、また、司法書士としての
経験も豊富な、地元の司法書士達から尊敬の念を抱かれている存在です。私のよ
うな駆け出しの司法書士にとっては、とても遠い存在に思え、普段は、親しくお
話を伺うことなど、考えられないような存在です。

 恥ずかしながら、そのような方から声をかけていただき、私は少し緊張を覚え
ながら、次の言葉を待ちました。

 「最初のお話、とても、嬉しかったよ。自分のことだけを考えているのではな
く、みんなのことを考えてくれているのだと思ってね」
 
 どうやら、研修会の最初に挨拶をさせていただいた際、お話ししたことをお褒
めいただいたようです。

 研修会の最初の挨拶で、次のような内容をお話しした記憶がよみがえりました。

 “今回の研修会、支部の研修担当者に相談し、自分から立候補する形で講師を
担当させていただいた。今年2月に、通達や記録例が公表されたあとも、地元会
では改正会社法に関する商業登記の研修会は開催されていない。しかし、5月1
日から改正会社法は施行されている。つまり、改正会社法に関する商業登記実務
はもう始まっている。誰かが地元会員のために、研修をやらなければならないの
ではないか。じゃあ、誰がやるのか・・・。自分がやろう。そんな思いから、立
候補させていただいた”

 思えば、ずいぶん生意気なことを言ったものです。背中に冷たい汗が流れるの
を感じながら、そのベテランの先生にお礼を申し上げました。

 そのベテランの先生は、やさしい目で私を見ながら、今後もがんばるよう、激
励してくださいました。

 きっと、そのベテランの先生は、日頃から司法書士全体のことを考えていらっ
しゃるに違いありません。だからこそ、私の挨拶の言葉に意識を向けられたのだ
と思います。

 そのベテランの先生に、あらためて尊敬の念を抱きました。

 今回の研修会、たくさんの方が参加してくださいました。その中には、たくさ
んのベテランの先生方もいらっしゃいました。思い出すと、みなさん、前述のベ
テランの先生と同じように、やさしい目で、私の講義を聞いていてくださってい
たように思います。もしかしたら、前述のベテランの先生と同じような思いを抱
いてくださっていたのかもしれません。

 お役に立てるのであれば、また、講師をさせていただきたい。そんな気持ちに
させられた研修会となりました。



2015.06.22(月)【書き入れ時のスタート】(金子登志雄)

 今週は3月決算会社の定時株主総会のピークであり、私も久々に少しだけ忙し
くなりそうですが、商業登記の場合は、どうしても本日中に申請しなければなら
ないというものではないので、気楽です。郵送されてきた登記資料に不足があり、
すぐに登記することができないことも少なくありません。

 今年の登記の最大の特徴は、就任する新役員に本人確認証明書が必要になった
ことですが、それ以外には、監査役権限の登記の要否と取締役の重任登記で社外
取締役である旨の登記の不継続でしょうか。

 本人確認証明書の点では、住民票は抄本でよいのか、本籍の記載がなくてよい
のか、運転免許証の写しの謄本の日付は申請日でなくても問題ないか、パスポー
トで何とかならないか、たまたま印鑑証明書があるがこれでよいかなどといった
質問が毎日のように寄せられました。

 監査役の会計限定登記の問題については、上場会社の子会社では業務監査権限
を有する会社が多いため、思っていたよりは多くありませんでした。

 定款変更についても、社外役員の責任限定を非業務執行取締役等を対象とする
ものに変更する会社は、今のところそう多くはありません。非業務執行取締役等
のうち社外役員だけと責任限定契約を締結すれば十分だという意識でしょう。背
景には役員の責任を追及する代表訴訟が通常の経営をしている限り、なされるこ
とがほとんどないためでしょうか。

 会社によって対応が異なるということは、ますますパターン化された登記が少
なくなり、個別対応の要素が強くなるということですから、新人司法書士にとっ
ては、プレッシャーが多いことでしょう。

 しかし、毎回試験を受けているような気持ちは、ベテラン司法書士も同じです
し、そういうプレッシャーを感じない人が大ポカをするのであり、プレッシャー
を感じる責任感の強い人が司法書士に向いていますので、その感覚を大事にした
いものです。


2015.06.19(金)【社外取締役設置会社?】(金子登志雄)

 社外取締役等を対象とした責任限定契約に関する定款の定めが、改正会社法に
より非業務執行取締役等を対象とするものに変わったため、責任限定契約の定め
を根拠とした社外取締役の登記がなくなりました。

 これを現実に即して言い換えると、圧倒的多数の監査役会設置会社である上場
会社では社外取締役が存在しても、委員会系の会社ではないため、社外取締役で
ある旨が登記されなくなったということです。天下のトヨタ自動車ですら、登記
簿上は、社外取締役不在会社になります。

 あれほど、社外取締役を増やせ、業務の監督機能を強化せよと声高に叫ばれて
いたのに、その主役である社外取締役を表舞台に登場させず、楽屋裏に引っ込め
てしまうのは、おかしいじゃないかと感じるのは私だけではないでしょう。中学
生でも分かる理屈です。

 この点に関して、ある上場会社の方が、従来は外国向けの資料に公的書類であ
る登記簿を翻訳して添付すれば、社外取締役が存在することを示すことができた
のに、これからは、それができなくなってしまった、逆効果の改正だった面もあ
るとおっしゃっていましたが、現場の意見らしいですね。

 このご意見を聞いてから、改正会社法附則25条に「政府は、この法律の施行
後2年を経過した揚合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の
変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要がある
と認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要
の措置を講ずるものとする。」という規定を思い出しました。

 上記の実務のニーズからして、2年後には、監査役会設置会社でも社外取締役
を、また登記するようになるかもしれません。その登記理由として「社外取締役
設置会社」という新たな機関構成ができるのか、会計限定監査役と同様に役員欄
に「社外取締役を置く旨の定款の定めがある」と登記し、登録免許税の追加負担
が生じないようにするのかといえば、前者でしょう。上場会社にとって3万円の
登録免許税は負担にならないからです。

 現状のままでは、社外取締役の登記について、監査役制度採用会社に冷たい会
社法になっていますから、改正の目的・趣旨からして、見直される可能性を否定
できないように感じています。



2015.06.18(木)【監査役が1年に2度の重任】(金子登志雄)

 監査役Aの辞任の登記を依頼されました。登記簿をみると、監査役Aにつき、
平成26年6月25日重任、平成26年11月13日重任とありました。

 まさかぁ! 法定任期の監査役に限って、1年に2度も重任することなどあり
えないだろう、3月決算なのに、11月に重任するわけがない。どうも私が登記
を担当したようだが、ミスしたかな、こりゃ、まずい………と、冷や汗を流す寸
前でしたが、過去の資料を探してみたところ、大丈夫でした。さて、理由を想像
することができますか。

 実は去年11月の重任は、定款変更で監査役の監査の範囲を会計限定と定めた
定款規定を削除する内容でした。会計限定監査役Aの任期が満了し(336条4
項3号)、業務監査権限の監査役Aが選任され、重任になっただけでした。

 重任と登記されていると、つい、任期4年(あるいは補欠任期)を全うしたの
だろうと思い込んでしまいますが、会社法になってからは、定款変更による任期
の満了もあり、過去に何度かこういう登記を経験済みでしたが、たった数か月後
に辞任する事例の今回は、瞬時だったことを含め、そこまで推理が及びませんで
した。

 この事例で思ったのですが、会計限定である旨を定款から削除し、同一監査役
Aを再任する場合に、任期は会計限定監査役Aを引き継ぐ(補欠)などと決議し
ている例があるでしょうか。同一人だとしても、補欠でなければ、また任期4年
(原則)です。

 同一人の任期の満了による重任ということだけに囚われて、再任されたAの任
期がいつまでかなど考えないことが多いと思いますが、今日からは考えるように
しないといけないことに気づかせてもらった点では、実によい経験でした。



2015.06.17(水)【任期規定の今昔】(金子登志雄)

 神崎満治郎先生が主宰する商業登記倶楽部の実務相談室に、3月31日24時
に任期満了し再選された場合、「3月31日退任、4月1日就任」か「4月1日
重任」かという質問がありました。

 皆様、どう思いますか。実は旧商法時代に勉強した方は、予備校の受験問題に
こういう事例が頻繁に出題されており、後者とするのが通常であることは、当時
の人間には常識だったのです。質問者は旧商法を知らない若い方でしょう。

 取締役の任期につき、旧商法は次のようになっていました。
------------------------------------------------------------------------
旧商法第256条
1 取締役の任期は2年を超ゆることを得ず
2 最初の取締役の任期は前項の規定に拘らず1年を超ゆることを得ず
3 前2項の規定は定款を以て任期中の最終の決算期に関する定時総会の終結に
 至る迄其の任期を伸長することを妨げず
-------------------------------------------------------------------------

 原則は2年ぴったりでしたから、任期満了時は満了日の24時だったわけで、
重任といえば翌日付(午前0時)でした。

 会社法施行後、まだ9年しか経過していないのに、旧商法を知らない司法書士
が増えているのでしょう。年間合格者数の増大も理由でしょうが、平成8年登録
で司法書士のみのキャリアでいえば、まだ20年未満の私も、司法書士の登録番
号でいうと、中堅を超えたベテランの番号になっています。サラリーマンなら、
まだ課長クラスなのに………。


2015.06.16(火)【添付書面と日付問題】(金子登志雄)

 本人確認証明書として運転免許証の写しを利用した場合に、「原本と相違がな
い。取締役甲野〇〇 印」と日付記載は不要でよいようです(法務省HPの見本
より)。

 原本還付の際も私は「原本と相違ありません。司法書士金子登志雄」とゴム版
を押し、押印するだけで日付は書きません。これは、あるベテラン司法書士から
「一度も日付を書いたことがない」と聞いて以来、私も踏襲しています。日付は
委任状に書いてあるので二重に記載する意味もないということでしょうか。

 ところで、監査役の監査の範囲が会計限定である旨の登記を申請する際に、定
款を添付するわけですが、この定款の原本証明も登記申請日を書こうが書くまい
が登記が受理されています。

 この登記を8年後に申請する場合も同じでしょうが、「平成27年5月1日以
前からずっと会計限定でした」と書かないと、本来はまずいのでしょうが、そこ
は「善解の理論」で受理されることでしょう。定款への原本証明も「代表取締役
〇〇〇 印」とし、会社名を省略しても受理されるでしょう。

 では、資本金計上証明書なども日付抜き、会社名抜きにしたらどうかと実験し
てみたい気になりますが、登記の早期完了に支障があっては困るので、まだ実験
していません。

 いろいろ考えると、登記専用に使われる委任状や証明書と相違し、添付書面は
申請人によって様々な形式がありますし、小さいことにこだわっていたら事務が
滞るという配慮から、結構緩やかな運用がなされているのだと思います。

 であれば、本人確認証明書を添付するだけで、就任承諾書の住所の記載は省略
してもよいじゃないかと元の問題に戻りそうですが、ここの部分は省略OKだが、
ここは不可と見極めるのもベテランの味ですね。まるで刑務所の塀の上を歩くか
のようです。内側に落ちるのは素人、外に落ちるのがプロです。



2015.06.15(月)【責任限定の登記方法】(金子登志雄)

 12日の本欄での疑問ですが、やはり、「取締役(業務執行取締役等であるも
のを除く。)」のかっこ内は、業務執行取締役のほか、支配人等の使用人兼務取
締役も除くという意味のようです。そのように明記した登記実例もありました。

 さて、
------------------------------------------------------------------------
 定款第A条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務
執行取締役等であるものを除く。)との間に、任務を怠ったことによる………

 定款第B条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、監査役との間
に、任務を怠ったことによる………

 定款第C条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、会計監査人と
の間に、任務を怠ったことによる………
------------------------------------------------------------------------

と定款に定めがあった場合に、次のように登記することができるでしょうか。

------------------------------------------------------------------------
 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役等
であるものを除く。)、監査役及び会計監査人との間に、任務を怠ったことによ
る………
------------------------------------------------------------------------

 われわれ司法書士としては、依頼者から必ずまとめて登記してくれとでもいわ
れない限り、定款文言の丸写しにし、このような冒険を避けますが、定款の文言
どおりに登記せよという決まりもありませんし、公示としては十分な内容で何の
問題もないと思います。実例もありました。

 おそらく、法務省の登記記録例(民商14号)がこのようにまとめた内容なの
で、登記所もOKしたのでしょうが、どこの登記所にも通じるかというと、補正
指示を受けてしまうことも大有りでしょう。定款文言と登記表現との差の限度に
ついては確立した基準がありません。



2015.06.12(金)【業務執行取締役等である者】(金子登志雄)

 6月の定時株主総会で定款変更を付議する会社のうち、「取締役の責任限定契
約」につき、改正会社法に準拠し、次のように変更する会社がいくつかあります。
多数ではありません。

------------------------------------------------------------------------
 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役等
である者を除く。)との間に、任務を怠ったことによる損害賠償責任を限定する
契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、法令
が定める最低責任限度額とする。
------------------------------------------------------------------------

 「まさかぁ? 定款を変更する会社の多数がこの内容のはずだ」と思った方は、
商業登記にも会社法時事問題にも強い方でしょう。しかし、多数ではないのです。

 実は、多数派は「業務執行取締役等である【もの】を除く」とし、「者」とは
していません。会社法427条の表現どおりです。

 そこで、なぜ「者」ではなく「もの」なんだという疑問が生じるでしょうが、
法令用語では、A(………であるところのA)などと関係代名詞のように使う場
合は、「もの」としますから、その「もの」でしょう。

 このように法令用語では、同一語句(ここでは「者」)の繰り返しを避けます。
社債管理者に関する会社法703条には、銀行、信託会社「のほか、これらに準
ずる【もの】」とありますが、この「もの」も同じでしょう。

 ところで、業務執行取締役等とは、業務執行取締役もしくは執行役又は支配人
その他の使用人のことです(会社法2条15号)。執行役や支配人その他の使用
人は取締役でないわけですから。ここは「取締役(業務執行取締役であるものを
除く。)で済み、なぜ「等」が必要なのでしょうか。

 「取締役営業部長」など使用人兼務取締役で、取締役の立場で業務執行に従事
したことがなくても不可ということを表したいのかもしれませんが、はっきりし
ません。どこかに解説がありましたら、知りたいものです。


2015.06.11(木)【監査等委員会設置会社の定款】(金子登志雄)

 自宅に来たA社の定時株主総会招集通知をみたら、今度の総会で監査等委員会
設置会社に移行するようです。

 興味があって定款変更案をみましたら、機関の部分以外でも、自己株式の市場
買取り(165条2項)や中間配当の規定(454条5項)を削除していました。

 この意味が分かる司法書士は上場会社を顧客に持つ方でしょう。会社法459
条1項に次のように規定されています(分かりにくい規定のため、意訳した要約
文です)。

------------------------------------------------------------------------
 会計監査人設置会社で、取締役(監査等委員会設置会社では監査等委員以外の
取締役)の任期が1年以内の会社(監査役設置会社であって監査役会設置会社で
ないものは不可)は、次に掲げる事項を取締役会が定めることができる旨を定款
で定めることができる。
 1 自己株式の取得(例外あり)
   (中略)
 4 金銭での剰余金の配当
------------------------------------------------------------------------

 つまり、株主総会で剰余金の配当等を決議することができるが、定款で、取締
役会で決議することもできると定めることができます(株主総会で定めるのは不
可とすることもできます。460条)。

 取締役会で剰余金の配当まで決定してしまうと、定時株主総会は定款でも変更
しない限り、報告総会だけになります………と、一瞬、思ってしまいましたが、
任期が1年なので、毎年、取締役の改選がありますね。



2015.06.10(水)【配当基準日】(金子登志雄)

 先日、上場会社数社から自宅に定時株主総会招集通知が来ました。証券関連業
務も併営する信託銀行出身ですから、株式投資には違和感がありません。もっと
も、金儲けの投資というよりも、証券知識が仕事にも役立ちますし、無趣味人間
の暇つぶしの1つであり、ワクワクドキドキを楽しんでいます。

 招集通知が来た1社では、もう株は手放しており、株主である意識はなかった
のですが、事業年度の末日である3月31日には所有していたのでしょう。総会
後には少額とはいえ配当金をもらえそうですが、不当利得でしょうか。

 ほとんどの会社の定款に次のように定めてありますから、定時株主総会の議決
権も配当受領の権利も私にあり、不当利得にはなりません。

 第*条 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載された議決権を有
    する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を
    行使することができる株主とする。
 第*条 剰余金の配当は、毎事業年度末日現在における株主名簿に記載された
    株主又は登録株式質権者に対して行う。

 前々から気になっているのですが、この剰余金の配当の規定内容で「期末配当
に限る」と読めるでしょうか。読めないとすれば、例えば10月に臨時株主総会
を開催し、株主に配当を渡そうとするときは、3月末の株主に限られることにな
らないでしょうか。それとも、3月末から3か月以上経過しているので、この定
款規定を無視してよいのでしょうか。

 10月の臨時株主総会で配当などということは通常の会社ではありえませんが、
子会社が親会社の要求によって配当することはあります。その子会社の定款にも
上記のような規定があるので、不思議に思ってきました。

 いずれにしろ、期末配当に限る旨を明記すべきであり、リーガルの書式集では、
「定時株主総会の決議による剰余金の配当は、………」としておきました。


2015.06.09(火)【司法書士を変えるとき】(金子登志雄)

 昨日「残念ながら、登記又は司法書士に重大な重きを置いている会社は少ない
ので、過去にミスしたとか、ミスはないが能力に不安があるなどの特別の事情が
ない限り、司法書士を変更しようとしません」と書きましたが、皆様の感覚はい
かがですか。

 登記又は司法書士に重大な重きを置いている会社が少ないとは、例えば他社と
の内密の組織再編、資本提携、種類株式の発行、新株予約権の発行など、大手法
律事務所と内密に相談しながらコトが運ばれ、全部決まったあとに、情報開示が
なされ、司法書士に話が持ち込まれます。定時株主総会招集議案についても事前
にみせてくだされば………と思える内容が多々あります。

 インサイダー取引に関係しますので仕方のない面もありますが、弁護士は登記
のことを知らないから、登記の面からみたら、唖然とするひどい内容であること
が多々あります。会社及び弁護士自身も、もっと謙虚になって、「最後は登記を
することになるので、この内密事案に司法書士を参加させよう」と行動すべきで
しょう。秘密保持義務は司法書士の責務でもありますし、登記できないことの責
任まで取らされるのは会社の担当者及び弁護士ですから。

 特別の事情がない限り、司法書士を変更しようとしないというのは、会社自身
が登記のことを知らないので、司法書士の能力を見極められないことと、長年の
付き合いで親しい関係になっていることが理由でしょう。

 ここで会社の総務担当者の交代があり、この親しい関係がなくなり、何かの切
っ掛けがあると司法書士交代となります。

 例えば、もう決定済みなのに担当司法書士に連絡したら「登記は無理だ。法務
局にも確認した」といわれ、困り果てた会社があちこちに相談し、回りまわって
別の司法書士(例えば、私)のところに達し、そこが「問題ありません。登記可
能です」と答えると、その事務所に「ぜひ、お願いします」となります。

 担当司法書士さん、貴方が無理だと思っているから法務局に病気が伝染し無理
だという回答になるのです。ここは弁護士と同じように、お客の希望を叶えるの
が自分の仕事だと思い、無理だと決めつけず、もっと可能性を探りましょう。



2015.06.08(月)【仕切り直し】(金子登志雄)

 社外取締役の役割を重視した改正会社法が施行されたせいか、6月の定時株主
総会の議案に「定款一部変更の件」を含める会社が多いのですが、会計監査人の
異動も議案にしているところが増えたように感じています。

 私の個人的な印象であって、例年と比較して実際に多いのかどうかは分かりま
せんが、より信頼感のある大手監査法人に変えたり、あるいは逆に大手監査法人
から中小監査法人に変更する旨を開示している会社もありました。

 後者は会計監査人の報酬額が理由だと推測します。年間うん千万円の経費負担
ですから、見栄を張って大手監査法人に依頼するより、分相応の監査法人という
ことでしょうか。

 この会計監査人がいるので、会計に関しては、そちらに任せて、取締役等は業
務監査や業務執行の監督に集中せよということになるのでしょうが、会計監査人
を置かない中小企業にあっては、まずカネの動きをしっかり見張ることが重要だ
ということでしょうか。何となく、企業規模に応じた機関構成の差が会計監査人
を存否を通じて見えてきたように思いませんか。

 いずれにしろ、会社も会社法も平成27年は仕切り直しの年度のようです。こ
の仕切り直しによって、依頼先の司法書士事務所にも異動があるかもしれません
ので、心の準備をしておきましょう。

 ………といいたいところですが、会計監査人の報酬と司法書士の報酬は雲泥の
差がありますし、残念ながら、登記又は司法書士に重大な重きを置いている会社
は少ないので(取締役会の決定事項=会計監査人=と総務課長の決定事項=司法
書士=程度の差があります)、過去にミスしたとか、ミスはないが能力に不安が
あるなどの特別の事情がない限り、司法書士を変更しようとしませんから、心配
する必要はないでしょう。


2015.06.05(金)【命名/本人確認証明書】(金子登志雄)

 ここのところ、当HPの閲覧件数が多くなってきて驚いています。これでは、
うっかり年齢を理由にでもしてブログ廃止もできそうもありません。

 しかし、前期高齢者の身になったとしても、まだ電車の中で女子高校生あたり
に声をかけてもらって席を譲られるという幸せな経験(?)をさせてもらってい
ませんので、そういう身になれるまでは頑張りましょう。私より年長の神崎満治
郎先生が全国を飛び歩いているというのに、若輩の私が弱音を吐くわけにはいき
ません(念のため、体力不要で定年のない司法書士の世界では、多数の年配者が
現役で活動中です)。

 さて、登記の通達に初登場した「本人確認証明書」ですが、なぜ、こう命名さ
れたのかと考えたことはありませんか。本人「実在」証明書でも、本人「識別」
証明書でもよいはずなのに、なぜ「確認」なのかです。

 たぶん、金融機関が預金者に求める本人確認や、司法書士が登記義務者に求め
る本人確認から命名されたものと推測しますが、商業登記法23条の2第1項に
「登記官は、………、申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足り
る相当な理由があると認めるときは………、申請人又はその代表者若しくは代理
人に対し、出頭を求め、質問をし、又は文書の提示その他必要な情報の提供を求
める方法により、当該申請人の申請の権限の有無を調査しなければならない。」
とあり、この見出しが「登記官による【本人確認】」となっていることも影響し
ているのではないでしょうか。

 この規定も「本人がその意思で申請しているか」ではなく「本人以外の者が申
請していないか」の「人別」を問題にしていますから、本人確認という場合の確
認には本人の実在性と特定性の確認まであり、本人であることを前提にした就任
の意思確認まで含まれていないといえるでしょう。



2015.06.04(木)【原本と謄本】(金子登志雄)

 戸籍謄本、戸籍抄本、登記簿謄本などでお分かりのとおり、謄本とは原本であ
る文書の全部の写しであり、抄本とは一部の抜粋のことです。

 もっとも、最近は、原本が文書ではなくなったためか、戸籍事項証明書とか、
登記事項証明書というように変わっていますけど………。

 さて、商業登記規則61条5項の本人確認証明書ですが、条文には「当該取締
役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。」とあります。

 運転免許証の写しでもよいわけですが、あの運転免許証は「文書」なんでしょ
うか。原本とは文書でなくてもよいのでしょうか。

 条文には「謄本」とあるので、運転免許証の生年月日部分を黒塗りにして提出
したら、受理されないのかという興味を持っていますが、登記官によって対応が
異なることでしょう。私が登記官であれば、氏名と住所の記載のある公的証明書
によって本人の実在を確認するためだからと受理しますが、杓子定規の登記官は
「これは謄本ではない」と言い出しそうです。

 次に、この運転免許証の写しが謄本であれば、登記所では「原本」還付の手続
ができないのでしょうか。できますよね。この場合の原本とは「申請書に添付し
た書類」のことですから。

 この本人による謄本化は住民票でも可能でしょうか。つまり、住民票をコピー
し本人が原本と相違ないと記載し押印すれば、住民票自体を登記所に示す必要は
ないのでしょうか。これは、そのとおりです。運転免許証だけの特則ではありま
せん。



2015.06.03(水)【本人確認証明書の原則と例外】(金子登志雄)

 3月決算会社の定時株主総会の準備が始まったためか、総務・法務担当者から
も、「取締役等の就任承諾書には氏名と住所を記載し、住民票等の本人確認証明
書を添付するのが原則だが、例外的に、再任の場合と印鑑証明書を添付する場合
は、その必要がないということですね」と聞かれることが少なくありません。

 「その解釈でもいいでしょう」とは答えていますが、厳密には、原則と例外が
逆だと私は理解しています。私の理解は次です。

 ①大原則――就任承諾書には住所の記載が不要だ。再任の場合や会計監査人等
   の就任承諾はこれです。

 ②例外1――右原則の例外として、再任の場合を除き、架空人や著名人を勝手
   に代表者にする例が生じたので、代表者を選任する場合や、その就任承諾
   に限り印鑑証明書の添付が必要になった。

 ③例外2――代表権を有しない取締役や監査役に架空人を選任する事例も出て
   きたので、例外を増やす必要が生じ、②の場合以外につき、本人の実在性
   と同一性を証明するため、就任承諾書には住所の記載が必要で、住所が記
   載されている本人確認書面の添付が必要になった。

 取締役についてフローチャートでいうと、「再任ですか」→NO→「登記申請
でその方の印鑑証明書の添付が必要な場合ですか」→NO→の3番目に達して初
めて、この問題が開始するのであって、逆コースではありません。

 商業登記規則61条5項が、「再任の場合を除き、就任承諾書に住所を記載し
本人確認証明書を添付せよ。ただし、印鑑証明書が必要なときは例外だ」との規
定ぶりのため、多くの方が5項本文を原則にして思考を開始してしまいますが、
正しくは、上記の原則・例外の関係です。


2015.06.02(火)【行き違い】(金子登志雄)

 改正商業登記規則が施行されて3か月、改正会社法が施行されて1か月が経過
しましたが、お客様への説明で、次のような勘違いが生じたことはありませんか。

(1)新人とは

 「新役員には就任承諾書に住所を記載し、住民票等を添付することになりまし
たので、ご準備ください」

 この私の説明につき、任期満了で再任される役員も、新たに任期が開始するの
で新人であり、全員の住民票等を準備しなければならないと勘違いなさっていた
方もありました。

(2)運転免許証の添付

 「住民票よりも運転免許証の表裏の写しに原本と相違ないと記載し、本人が押
印したものでもかまいません。見本を添付しておきましょう」

 これについては、原本還付だから原本である運転免許証を一時的に預からねば
ならないと通じてしまったこともありました。

(3)社外取締役の登記

 「今度の取締役候補の方は社外取締役のようですが、会社法の改正で、社外取
締役はもう登記されませんので、ご承知ください」

 これについては、登記されないのに、本人確認証明書の準備が必要なのかと不
思議に思われてしまいました。私としては、取締役としてのみ登記され、社外取
締役という付記はなされないというつもりで話したのですが、取締役としても登
記されないと受け取られてしまったようです。

 百聞は一見に如かず、1度経験すれば何でもないことも、言葉では通じにくい
ものです。お互い気をつけましょう。



2015.06.01(月)【トラウマの事業承継本】(金子登志雄)

 土日は、ほんのちょっと「事業承継」に関係する本を読んで、勉強いたしまし
た。事業承継と司法書士業務について話してほしいという依頼があるため、知識
のおさらいのつもりでした。

 何を読んだかというと、平成4年(92年)にプレジデント社から出版された
当時の画期的な事業承継本である『新「事業承継」戦略』という本でした。講演
の内容がそのまま文章になっているかのように、話し言葉で書いてあり、実に読
みやすく分かりやすい内容でした。

 実は著者は私です。20年以上前の私の文章力のほうが今よりも上回っている
ようで、ちょっとショックでした。社会に対する関心も、税務をはじめとする知
識も当時のほうが幅広く深い感じでした。その4年後に、司法書士になりました
が、以後は「君子ストレスに近寄らず」で安楽な狭い道を歩んできたことが、こ
ういう形で現れたようです。

 この本は、その4年前の昭和63年(88年)に、私が編集長のような立場で
出した『実戦M&A事典』(プレジデント社)が当時のベストセラーになったた
め、味をしめて、「横のM&A本だけでなく縦のM&A(事業承継)本も」とい
うつもりで2匹目のドジョウを狙ったのですが、予想に反して全く売れず、出版
社に迷惑をかけてしまいました。いまだに私のトラウマになっています。

 しかし、内容的には自信作であり、この本を読んでくれた方がわざわざ訪ねて
きてくれ、その方の会社(某財閥系の大企業)から多くの仕事をいただいたりで
(いまでも仕事上のお付き合いがあります)、この面では、大きな成果があり、
出版してよかったと思っています。

 のちのち中央経済社の編集長から聞きましたが、事業承継の本はニーズがある
ようで意外に売れないのだそうです。一部の資産家と税理士にしか関心がないか
らでしょうか。

 本の内容は、相続税の税金対策ばかりに目が向いて、事業や人の承継の面を無
視していないか、不要な借入れをして会社の財務内容を悪くして相続税が安くな
ったと喜んでいないかと、当時の事業承継対策を批判するものでしたが、今度の
講義でも、そんな話を中心にしようと思っています。


2015.05.29(金)【議事録作成者と署名人】(金子登志雄)

 自宅マンションの管理組合の副理事長に就任しました。小規模マンションなの
で4年に1度の回転率です。

 先般、この総会議事録を作成しましたが、議事録に署名(以下、記名押印を含
む)するのは、従来からの慣例で、出席した理事ではなく、総会で選任された議
事録署名人にしています。おそらく、総会に出席した者に限るのでしょう。いわ
ば、現場の目撃証人です。

 会社や一般社団の総会では、このような方式を採用せず、議事録に誰が署名す
るのでしょうか。

 旧商法244条3項には「議長及出席したる取締役之に署名することを要す」
とありました。議長は取締役に限りませんが、旧商法の建付けは、主催者(運営
者側)が署名せよということでしょう。

 ところが、会社法では一転して総会議事録には署名が不要となりました(相澤
哲ほか編著『論点解説 新・会社法』495頁)。オープンな会合であり、その
場の発言が出席取締役の責任に影響するものでもないという配慮です。

 署名が不要とされていても、登記申請にあたっては、記名押印した議事録のほ
うが望ましいため、われわれは議事録作成者である取締役に押印してもらうこと
が多いのですが、議事録作成者と議事録署名人とは別の概念です。

 会社法施行規則72条3項によると議事録作成者は取締役でなければなりませ
んが、総会に出席した取締役には限定されていません。その総会の終結時に就任
した取締役でもかまいません。

 逆に総会の議長を取締役ではない株主が担当したとすると、議事録作成者には
なれません。規定のない議事録署名人にはなれます。議事録作成者と議事録署名
人が異なりますが、特段の問題もなさそうです。



2015.05.28(木)【総会出席取締役とは】(金子登志雄)

 会社法施行規則72条3項によると、株主総会に出席した取締役の氏名を株主
総会議事録に記載することになっていますが、この出席取締役とは、一般に、株
主総会開催中に取締役であった者だと解されています。

 したがって、株主総会が午前10時から11時までの間だったとすると、午前
10時半に辞任を表明した取締役Aも、後任として選任されたBも即時就任をし
た限り、株主総会議事録の出席取締役に氏名を記載すべきだといわれることが少
なくありません。

 しかし、株主総会の現場にいる私の感覚は、Aが即時辞任してもBが即時就任
しても、それは「本総会終結時に」という暗黙の意思が入っていると思っていま
す。そうでなければ、Aは株主総会場の役員席(ひな壇)から午前10時半に席
を立たねばなりませんし、Bは席に座らねばなりません。

 午前10時31分に株主から議案につき質問があったら、Aは説明義務がなく
なり、Bには説明義務が発生したなどという解釈は現場サイドの人間にはできま
せん。株主総会に出席した株主「様」に失礼極まります。

 先般、上記のBが席上で就任承諾したのに、株主総会議事録の出席取締役にB
の氏名がないことを理由に補正指示を受けた案件があったと聞きましたが、現場
サイドの感覚からすると、あまりに杓子定規すぎるように思いました。

 こういうこともありそうなので、司法書士各位は私がしているように出席取締
役欄に候補者名も記載するか、それに抵抗があるなら、「被任者Bは席上直ちに
【本総会終結直後に】就任する旨を承諾した」と、就任時期を明記したほうがよ
さそうです。

 それにしても、何でこんなことを話題にしなければならないのでしょうか。常
識的解釈だと思っているのですが………。



2015.05.27(火)【事務所繁忙度格差】(金子登志雄)

 上場会社の3月決算子会社の定時株主総会開催時期になったためか、商業登記
中心の同業者のHPをみると、うらやましいことに、HPの更新もままならない
ほど多忙のようです。きっと、時期的に、会計限定監査役の登記などの相談が多
いのでしょう。

 こういう繁忙事務所がある一方で、開業数年の新人事務所などからは、この数
年間で商業登記の依頼は数件しかなかったなどという声も寄せられています。こ
れは都会地でも同じです。

 これでは商業登記能力に関しても、ますます格差が拡大するだけですが、これ
ばかりは有効な対策が思い付きません。

 しかし、これは何の商売でも同じでしょう。資格や実力があるからといって、
すぐに生活ができるほど仕事が舞い込むものでもありません。当の私も開業時か
ら実力十分だったのに、開業後5年間程度は、受託件数ゼロの月が年の半分くら
いありましたし(本業は会社役員で司法書士業は副業でしたので、あせりはあり
ませんでした)、開業20年近くなった現在でも、スポットでの助っ人業務(駆
け込み寺業務)中心で、平時での仕事はそれほど多くありません。普段は、自由
気ままな笠張り浪人生活です。

 商業登記で繁忙している事務所をみると、人脈も余裕資金もあった脱サラの方
であったり、補助者歴が長く、開業時にはすでにそれなりの人脈のあった方が多
いように感じていますが、皆様の周囲ではいかがでしょうか。

 親しい若手司法書士にも話しているのですが、補助者時代に実力と人脈を作り、
ボスの事務所内で半独立し、いずれは共同事務所やパートナーになるか(ボスに
そういわせるくらいの実力をつけねばなりません)、それが無理なら飛び出して
独立すればよく、人脈もないのに、いきなり独立しても、事務所の維持は難しい
でしょう。

 あとは、いったん付いた顧客から次の仕事が来る、あるいは他を紹介してもら
えるほど信頼されることでしょうか。やはり、何の仕事も同じですね。


2015.05.26(火)【消火器】(仙台・立花宏)

 仕事の打合せで、ある会社様を訪問した時のことでした。打合せが終わり、玄
関まで社長様に見送りいただいていたときのことです。社長様が何かに気付いた
ようで、廊下の途中で、従業員の方に声をおかけになりました。

 「おやおや、そんなところに荷物を置いてはいけないよ」

 どうやら、従業員の方が、廊下の隅に大きな荷物を置こうとしていたところの
ようです。

 「そこには消火器があるだろう」

 見ると、従業員の方が大きな荷物を置こうとした後ろには、消火器が設置され
ていました。そこに大きな荷物を置いてしまうと、消火器があることが周囲から
見えなくなってしまいます。また、いざというとき、消火器を使いにくくなって
しまうでしょう。社長様のおっしゃることはもっとだと、感心させられた時でし
た。社長様はやさしく、その従業員の方におっしゃったのです。

 「消火器が見えなくなったら、消火器が可哀そうじゃないか。いざというとき
のために、いつも目立たず、そこに控えていてくれるのだから。」

 私は、はっとしました。そして考えさせられました。消火器は、普段、使うこ
とはなく、目立たない道具です。いえ、むしろ、使うことのない方がよい道具な
のだと思います。しかし、目立ちはしないけれど、それがあることで、周囲は、
万が一の場合への備えがあることで安心できるのだと思います。普段、目立つこ
とがない道具にも、そのような意識をもっていらっしゃる社長様に尊敬の念を感
じました。

 「はい。社長、すみませんでした!」

 従業員の方は、とても明るく、元気な声で返事をし、荷物をほかの場所へと運
んで行きました。

 会社という組織の中には、目立つ活躍をする役割の方もいれば、消火器のよう
に、目立たず、いざという時のためにひっそりと控えているような役割の方もい
らっしゃるでしょう。

 どちらかというと、目立つ活躍をする役割の方に目が行ってしまいがちだと思
います。しかし、この社長様であれば、消火器のように、目立たず、いざという
時のために、ひっそりと控えているような役割の方の仕事も、評価してくださっ
ているのに違いありません。

 先ほどの従業員の方の、明るく、元気な返事は、この社長様あってのことかも
しれません。

 私も、その会社様から、仕事のご依頼をいただいたことに幸せを感じながら、
その会社を後にしました。


2015.05.25(月)【必備の参考書】(金子登志雄)

 アマゾンによると、ここのところ、会社法本のベストセラー第1位は、松井信
憲著『商業登記ハンドブック〔第3版〕』で、第2位あたりに江頭憲治郎著『株
式会社法』〔第6版〕』が位置します。ともに最近、改訂版が出されたためです。

        http://is.gd/I0akHr

 もう購入なさいましたか。もちろん、私は購入済みです。だいたいの内容は分
かっていますので、通読するためというよりも、個別論点につき著者の見解を調
べるために購入したわけですが、会社法・商業登記については、欠かせない良書
です。持っていなければ、改憲を主張しながら憲法学の権威の芦部もポッツダム
宣言も知らないどこかの首相と同様に批判されても仕方ありません。

 江頭本の凄さは、その幅広い見識ぶりでしょうか。会計、税務、金商法のこと
まで書ける会社法学者はそういません。会社法の権威といわれるゆえんです。民
法学の権威だった我妻栄氏も、総則から親族・相続までの全部をここまで書ける
人はいないといわれていたものでした。

 松井本の凄さは、詳細な自説が展開されていることです。これまでの当局の方
の出版物は、「貴見のとおり」で終わってしまい、えてして理由づけ部分が少な
く、同意するにも反論するにも困りましたが、松井本は理由がしっかり書いてあ
り、納得しての同意や反論の門戸を開いています。こんな本がいままでにあった
でしょうか。まさに感動ものです。

 また松井本の素晴らしさは、我々司法書士の見解にも目を通し、同書に引用し
てくれていることです。お気づきかもしれませんが、ハンドブックには、金子登
志雄と山本浩司という司法書士名が登場します。登記情報の論文を引用してくれ
たためですが、権威や面子よりも、よいものはよいと受け入れる氏の度量の大き
さやお人柄の素晴らしさを感じさせてくれます。

 ただ、我々の側で注意しなければならないのは、弁護士は江頭本に書いてある
ことが実務だと思い込み登記所とぶつかる傾向があるのに対し、司法書士は松井
本に書いてあることが絶対だと思い込み自説を抑えてしまう傾向があることです。
それは宗教であって学問ではなく、両先生に対して失礼というものです。

 全体として両先生を乗り越えることは到底無理でも、個々の各論部分に関して
は、我々のほうが詳しいこともありますので、権威ある書籍とはいえ、各論部分
で意見が相違したら、自分の意見を深化させるように心がけてこそ、両先生に対
する恩返しになるのではないでしょうか。


2015.05.22(金)【就任承諾書に住所記載の要否】(金子登志雄)

 本欄のネタ枯れで困っていましたら、小冊子『改正会社法の実務論点』の校正
を手伝ってくれた若手司法書士から、ネタをいただきました。商登規則61条5
項ただし書の際に、就任承諾書に住所の記載が必要かどうかという論点です

 その規則61条5項は思い切って要約・簡略化すると次のとおりです。
------------------------------------------------------------------------
 取締役の就任(再任を除く)による変更の登記の申請書には、就任承諾書に記
載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている本人確認証明書を添
付しなければならない。ただし、印鑑証明書を添付する場合は、この限りでない。
------------------------------------------------------------------------

 これだけの文章では、印鑑証明書を添付するときは本人確認証明書が不要だと
いうだけで、再任でもない限り、就任承諾書には住所の記載が必要だとも読めま
すし、「ただし」は本文全体にかかっており、印鑑証明書を添付するときは、再
任と同様に、就任承諾書には住所の記載が不要だとも読めます。

 では、次のような文章だったらいかがですか。
------------------------------------------------------------------------
 取締役の就任(再任を除く)による変更の登記の申請書には、印鑑証明書を添
付する場合を除き、就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が
記載されている本人確認証明書を添付しなければならない。
------------------------------------------------------------------------

 これなら、印鑑証明書を添付するときは、就任承諾書には住所の記載は不要だ
とも読めますね。実は、登記の通達(民商18号)は、この記載法です。

 そもそも、規則61条5項が設けられた理由は、規則61条2項、3項、4項
のように印鑑証明書を添付する場合は、本人の実在性を疑われることがなかった
が、取締役会設置会社の取締役の就任のように、印鑑証明書の添付が要請されな
いときは、その疑いが生じるので、住所付の本人確認証明書が必要だとされ、そ
の書面と就任承諾書との関連性のために、就任承諾書に住所の記載が求められた
ものです。

 したがって、「本人確認証明書の【代用】として印鑑証明書を添付」するとい
う説明は明らかな間違いです。61条5項の規律は、2項から4項と相違して印
鑑証明書を添付しない場合の例外的規律なのに「代用」であるわけがありません。

 なお、直近の旬刊商事法務における、みずほ信託さんの論文で、上記小冊子か
ら引用された箇所が数か所ありました。お役に立てて、うれしいものです。


2015.05.21(木)【攘夷と社外取締役】(金子登志雄)

 昨日は都内某所で税理士さん相手の改正会社法講義をしてまいりました。昼食
後の午後1時開始だったためか、睡魔に襲われる方がいらっしゃいましたので、
社外取締役を設置せよという圧力を幕末の黒船に譬え、開国か攘夷かという視点
で話しましたところ、結構、好評のようでした。

 わが国には、平社員から係長、課長、部長、重役と一歩一歩出世する企業風土
がありましたが、最近は、取締役は外部から招聘せよという黒船の圧力が強く、
ちょんまげ文化の何が悪い、異国文化の侵略を許すなという意見を攘夷論に譬え
たわけです。

 NHK大河ドラマの「花燃ゆ」に登場する攘夷論の思想家吉田松陰は、まるで
テロリストの親玉(アジテーター)のように描かれていますが、あの頃は、異な
る意見を持つ者は抹殺するのが流儀だったのでしょう。

 中には、京都を焼け野原にしようと勤王の志士もいましたが、その集会に機動
隊の新撰組が切り込んだのが池田屋事件でした。

 こういう幕末の攘夷論者やその反対派の傍若無人の無法ぶりをみると、やはり
長い物には巻かれて、私も開国派となり、鹿鳴館で社外取締役ダンスでも踊ろう
かという気にもなりますが、一方で、イスラム圏とキリスト圏との紛争をみてい
ると、やはり、東洋には東洋の文化があるのだから、日本式のコンプライアンス
を模索すべきであって、国際企業でもない多数の上場企業に一律に社外取締役を
強制するのはいかがなものかという気持ちから抜けきれません。

 今日は仕事に全く役立たない雑文でした。本欄のネタ枯れですので、ご了承く
ださい。


2015.05.20(水)【再び「再任」の意味】(金子登志雄)

 本年3月18日付の本欄で、下記のうち「再任」はどこまでかという問題を提
起いたしました。

 ① 重任
 ② 権利義務者の再任
 ③ 辞任したが即時に就任した場合
 ④ 辞任等で退任したが未登記中に再選し同時に退任と就任を登記する場合
 ⑤ 退任登記済みだが履歴事項に登載されている間に復帰した場合
 ⑥ 昔の役員の復帰(同一管轄の履歴事項に登載されていない者の復帰)

 いまのところ、①から④までは、再任と認める傾向が強いようですが、なぜ、
⑤や⑥を再任として捉えないのか不思議でなりませんでした。再就職、再会、再
婚、再出発………「再」の字がつけば、みな、間が空いているのに、再任につい
てだけは、そう解釈しない理由は何なのでしょうか。

 最近、やっと分かってきました。再任を日常用語ではなく「再任の登記」とし、
「再任登記=退任登記+就任登記」と捉えているためではないでしょうか。①か
ら④までは、1つの登記申請で退任登記と就任登記の2つが必要です。

 もう1つの理由は、再任であることの証明が要求されていないことでしょう。
⑤や⑥の場合は、証明しない限り再任かどうかが不明です。

 しかし、登記申請を2つに分断し、今日は退任登記、明日は就任登記とすると
再任ではなくなるというのも不思議な話です。もし、①から④までを再任とする
なら、条文でも「退任登記と同時に申請する就任の登記」と規定すればよく、紛
らわしい「再任」を使うべきではありません。

 時たま「私は別紙・過去の登記簿謄本のとおり、2年前まで貴社の取締役でし
たが、このたび再選されましたので、その再任につき承諾します」という証明書
付で再任就任承諾書を添付したら、どういう反応が生じるのかと考えたりしてい
ますが、再任概念については、いまだに確定した解釈はなされていません。


2015.05.19(火)【契印と割印】(金子登志雄)

 会社の設立の際に、数枚になった定款に発起人の「契印」をお願いしますと申
し上げましたところ、「契印」というハンコ(ゴム版?)が押されてきて、笑っ
てしまったことがあります。

 「割印」をお願いしますといったところ、1頁めの下部と2頁目の上部に割印
が押されていたこともあり、電話では、「契印」も「割印」も通じにくいことを
何度も経験していますが、他の司法書士の皆さんはいかがですか。

 また、本欄閲覧の非法律家の方は、「契印」と「割印」の差をご存知ですか。

 商業登記規則35条に「申請書が2枚以上であるときは、各用紙のつづり目に
【契印】をしなければならない。」とあるとおり、契印は、連続した1個の書類
であること示す手段です。

 割印は民法施行令や消費税施行令に出てまいりますが、卒業証書や許認可書の
上部にあるとおり、2つを重ねてニセモノでないことを証明するために行うもの
です。また、数部作成した契約書につき、数部中の1部であることを示すために
使うこともあります。

 分かりにくいですね、ネットの力を借りましょう。次のような差があります。

     http://www.master-gyosei.com/article/13772357.html

 契印は、連続した1個であることを示すためですが、いいかえれば、その間に
他の書面を挟ませないために行うものですから、つづり目は上記のネットと同じ
位置である必要はありません。このネットの位置での押印だと、用紙が何十枚に
もなると上手に押印できません。

 そこで、司法書士である我々は、生活の知恵として、1枚目を折って2枚目と
契印し、2枚目を折って3枚目と契印し・・・という方法を採用します。

 ところで、数枚になる議事録等に契印がないと無効だと思い込んでいる方も多
いようですが、商業登記規則は申請書に契印を要求しているだけで、添付書面に
は要求していません。契印があったほうが登記所の「受け」がよいというだけで、
無効にはなりませんので、融通を利かせましょう。


2015.05.18(月)【就任承諾書と住所】(金子登志雄)

 あるベテラン司法書士さんからです。

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 このたびの商業登記規則改正の一件で、いままで、「就任承諾書」というもの
に住所を記載しなくてよかったということをはじめて知り、カルチャーショック
でした。司法書士の業界に入ってかれこれ30年、ずっと「住所・氏名」を書い
てもらっていました・・・・
------------------------------------------------------------------------

 司法書士としては20年でも、会社法務従事歴30年という意味ではベテラン
の私は、就任承諾書に住所を書かないことのほうが多かったといえます。

 気になって旧商法時代のテイハンの書式精義などをみてみましたら、みな住所
が書いてありました。

 なぜ、私が住所を書かなかったかというと、とにかく効率性(省エネ)に徹し
てきたからだと思います。字数の多い書類を作った方が顧客に請求書を出すとき
有利だという考え方に反発していたところもあります。

 行政書士報酬は1枚いくらだったため(現在はどうか知りません)、取締役に
就任した人が3人いれば、行政書士は正副いれて6枚作りますが、それにも反発
して、3人連記の1枚しか作らないのが私流でした。

 いまでも思い出すのが、合併や減資の債権者の催告先リストです。全部の書式
例が債権者名と住所を記載していました。例外はなく、私もそういうものだと思
っていました。

 ところが、ある時、某顧客が住所のない債権者リストを作ってきました。私は、
住所を記載せよとはどこにもないから大丈夫だろうと、そのまま提出しましたら、
あっさりと登記が終わりました。

 こういうこともありましたので、思い込みを避け、あえて住所を書かずに出し
てみるなどという実験を繰り返し、いまでは、たぶん登記書類を作成するスピー
ドは日本1早いと思っています(そのせいで、誤字脱字のミスが多いという欠点
は残りますが)。


2015.05.15(金)【「登記をすることを要しない」の意味】(金子登志雄)

 拙著『改正会社法の実務論点』10頁に、附則22条1項の解釈問題として、
「改正会社法施行後に定款を変更して、『監査役の監査の範囲を会計に関するも
のに限定する旨の定款の定めがある』旨の定めを廃止した場合は、いったん登記
して、同時に廃止の登記をしなければならないのでしょうか。(後略)」という
Qを掲載し、解説で私の想定した必要・不要の両説を紹介いたしましたが、法務
省は不要説のようです。

  http://www.moj.go.jp/content/001144047.pdf

 これにつき、6月の定時株主総会で、その定款規定を廃止し、業務監査権限を
持たせようとしている会社があるのか、私のところにもいくつか問い合わせがあ
りました。

 さて、すでに上記の拙著で感じていただけたと思いますが、私は当初から法務
省見解に賛成です。これは附則22条1項の解釈問題で、決して中間省略登記な
どの問題ではないと考えています。

 次の表現を比較してください。

 A:施行日から6か月以内に【登記をしなければならない】。
 B:最初に監査役が就・退任するまでの間は【登記をすることを要しない】。

 同じ登記義務の留保でも、A型(整備法61条3項など)は、登記時期を延長
しただけであるのに対し、B型は登記義務自体の発生を不確定期限付きで留保し
たものです。いい換えれば、登記義務の免除期間を定めたものです。

 会社法では、「機関設計の登記」と「機関(役員)就任の登記」の併存を要求
していますが、A型は「早く登記上も併存させよ。締切りは6か月だ」としたの
に対し、B型は、「施行後最初に監査役に変更が生じた時から併存させれば足る」
と確定した登記義務の発生時期を猶予したものです。

 そこで、最初に監査役が退任したので、この登記をしようと思ったら、設例で
は機関が廃止されていたわけで、これでは、以後、機関設計と機関(役員)の併
存が生じません。よって、附則22条1項に【最初に監査役が退任】とあっても、
以後、会計限定監査役が存在しない場合には、登記義務の開始がないと解釈する
ことができるわけです。

 必要説は過去に会計限定の定款の定めがあったことを公示するのが望ましいと
主張しますが、4月30日に、この定款の定めを廃止したら公示の必要はなく、
5月1日以降に廃止したら公示せよというのも、どうかなという気がしますし、
もう終わってしまった監査役の権限を公示する意味があるのかも疑問です。

 また、必要説では、この登記が当初の予定どおりに状態区の登記であったら、
3万円の登録免許税の負担が課されますが、それでもよいのでしょうか。

 もっとも、いったん登記して廃止の登記をするのは可能です。それは定款から
廃止する前に登記しようとしたから、順序どおりにそうしただけだという論理構
成であって、法律上の確定した義務の履行とはいえません。



2015.05.14(木)【会計限定登記の特殊性】(金子登志雄)

 監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の登記に関するOCR用紙の記載法が
5月8日に法務省HPで発表されました。次です。

------------------------------------------------------------------------
 「役員に関する事項」
 「資格」監査役の監査の範囲に関する事項
 「役員に関するその他の事項」
  監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある
------------------------------------------------------------------------

 監査役の監査の範囲に関する事項が「資格」といえるのか、社外役員の登記で
もないのに「役員に関するその他の事項」にしてよいのかという疑問はあります
が、これはコンピュータの読み取りの非法律問題なので、素直に従いましょう。

 リーガル書式集でも、次のようなお知らせを掲載しました。
 http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/shoshikishu_oshirase.pdf

 ところで、この登記は本来は機関構成の問題ですから、役員欄に記載すべき事
項ではありません。登録免許税の関係で役員欄に登記することになっただけです
が、面白いことに、任期・期限のない登記です。役員欄の監査役は任期満了の都
度、変更登記がなされますが、この部分は動かざること山のごとしです。

 この登記がなされていないと監査役の監査の範囲は業務監査に及ぶと推定でき
るかというと、改正法附則22条1項により、最長で10年間登記義務が留保さ
れる会社もありますし、登記漏れということもあるでしょうから、とうぶんの間
は推定することもできません。

 もう1つ面白いのは、取締役が監査等委員である取締役に変わると退任・就任
なのに、会計限定監査役が業務監査権限監査役に変わると重任になることです。
前者は登記面で別枠表記ですが、後者は同枠内での変更だからでしょう。

 こうしてみると、法律世界と登記世界は似て非なる部分が少なくないですね。



2015.05.13(水)【机上版『会社法法令集』】(金子登志雄)

 アマゾンで会社法本の売行きをみていましたら、なんと上記トピックスの7が
登場していました。ミニ解説担当の私ですら、まだ現物をみていないどころか、
表紙のデザインや色さえ知らないのに、情報化社会はすごいですね。

 会社法施行の平成18年9月だったと思いますが、高齢化社会の到来で、老眼
の方が増えたので、字の大きい机上版『会社法法令集』を発刊しました。普及版
ではないため、部数は少なかったのですが、一部の方には大歓迎されました(ア
マゾンの読者の評価は普及版に対するものだと思われます)。

 改正会社法施行時期のため、再出版したというわけですが、私は部数を伸ばす
ように、応接室で顧客に条文を示す際に便利であることを強調し、「机上版」で
はなく「卓上版」と改めるよう提案したのですが、「食卓塩じゃあるまいし…」
と却下されてしまいました。

 40代でも目の遠い人は多数いらっしゃいますから、ぜひ、そういう方にご紹
介ください。普及版と違って、民法改正整備法案も挿入されているようです。



2015.05.12(火)【租税特別措置法】(島根・根来川弘充)

 私ども司法書士がよく耳にする法律として、「租税特別措置法」というものが
あります。主に登記の際に支払う登録免許税が関係する法律なのですが、趣旨と
しては、「しばらくの間、税率を軽減しましょう」といったところです。

 この法律の条文(72条の2項)の一部を引用したいと思います。

 「昭和59年4月1日から平成29年3月31日までの間に、住宅用家屋……
を新築し……た場合には、……当該住宅用家屋の新築……後一年以内に登記を受
けるものに限り、……(所有権保存登記の登録免許税の税率を軽減する)」

 ふと疑問に思いましたのは、
 新築後一年以内しか適用がないのに、なぜ「昭和59年4月1日から」なのか
という点です。

 たとえばですが、昭和60年4月1日に新築しても、新築後20年以上経過し
ているのですから、当然この法律の適用はないことになります。

 いまさらながら疑問に思いましたので、同職に質問しました。
 同職の回答は、「昭和59年は、その法律(条文)ができた年が基準ではない
か」ということでした。

 つまりは、
 「昭和59年にできた法律が30年以上にわたって延長されてきた。」
ということなのです。

 いまさらなのですが、「30年以上」が「しばらくの間」として通用してきた
ことに、日本の法治国家としてどうなのかという疑問と、このことに長年気づか
なかった自分の勉強不足を感じました。


2015.05.11(月)【便利な「虎の巻」】(金子登志雄)

 司法書士の商業登記・会社法務に限ったことではありませんが、専業で従事し
ている者と、たまにしか従事しない人との実力差は、非常に大きいといえます。

 しかし、実に残念ながら、後者の方にもベテランと大差のない仕事をすること
のできる優れものの「虎の巻」が、この5月から発売されました。上記トピック
スに記載したリーガルの『商業登記・会社法務書式集〔上下巻〕』ソフトです。

 今度の改訂版は、注釈付で、顧客のニーズに応じて自在に内容を変えられるよ
うにしてあり、実に便利です。会社法務書式部分も充実し、顧客から「〇〇の書
式はないか」と聞かれても、即座にメールの添付ファイルで送ることができます。

 (目次一覧)
  http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/shoshikishu_3.html
 (注釈見本)
  http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/shoshikishu_4.html

 それも、3万円台の破格の安さです(機能概要や注文部分をご確認下さい)。
われわれ編集者は、2倍の6万円でも安いと思っていましたが(今後10年以上
も使えますし、5年でやめても1日33円です)、新人司法書士にも購入するこ
とができるようにし、商業登記従事者の人口を増やしたいというリーガルさんの
熱意に打たれてしまいました。

 上記トピックス4の『会社法法令集』は購入者から絶賛されており、うれしい
限りですが、この書式ソフトも、そうなると秘かに期待しているところです。



2015.05.08(金)【商業登記従事者の減少対策】(金子登志雄)

 独立開業した新人司法書士で商業登記に従事している方がめっきり減ったよう
です。中小企業の役員の任期が10年になったため、商業登記の仕事が減少し、
高齢化社会の到来とともに、成年後見の仕事が多くなってきたためでしょう。

 自身が高齢者でもある私は成年後見の仕事はしていませんが、成年後見は毎月
の顧問料という安定収入のあるのが魅力のようです。その代わり、始終、呼び出
されたりするため、多数の顧問先を持つことは困難だと聞いています。

 こういう事務所にたまに商業登記の仕事が入っても、慣れていないため面倒に
感じるだけでなく、報酬が少ないことを含め、意欲が湧かないようです。

 意欲の湧かない司法書士に商業登記をやりなさいといっても無理ですから、商
業登記の依頼があったら、ぜひ、他の司法書士に仕事を回してあげてください。
こうすれば、顧客も「よい人を紹介してくれた」と感謝こそすれ、依頼を断られ
て困ることがないだけでなく、行政書士や税理士事務所に商業登記をお願いする
こともありません。

 幸い、当ESG法務研究会では、私に不動産や債権譲渡の仕事があれば(年に
1度くらいはあります)、それを得意とする仲間を紹介することができますので、
顧客が当グループの外に流れることはありません。

 司法書士会もこの仕組みを作ることに力を注ぐべきです。そうでなければ、商
業登記倶楽部の神崎先生が嘆いているように、商業登記の司法書士独占を開放せ
よという圧力が増え、司法書士会自身の存立に影響してしまうでしょう。

(ご参考:報道の自由)
 ネットで外国人による日本に関する報道をみる機会が多いのですが、報道ステ
ーションで報道の自由がないと元官僚の古賀氏が発言し問題になりましたが、外
国特派員協会で表彰されたようです。
  http://www.fccj.or.jp/images/election2015/2015.fop.awards.jp.pdf


2015.05.07(木)【事業報告にみる景況感】(金子登志雄)

 5連休でしたが、いかがお過ごしでしたでしょうか。平素の疲れは十分に癒さ
れたでしょうか。

 連休中のニュースによると、わが日本列島の地下でマグマが活発に活動してい
るのか、全国各地で火山の噴火警報が出ているようです。噴火の1次被害は自然
災害のため、あきらめもつきますが、2次災害として原発に影響しないかと不安
でなりません。火山大国日本で原発を推進しようというのは狂気の沙汰だと私は
思っているのですが、残念ながら、「安全よりカネ」の人達の力のほうが上回っ
ているようです。

 さて、連休が明けると、3月決算会社が定時株主総会招集通知の原稿を作る時
期になりますが、1月決算会社の定時総会招集通知をみると、建築業や不動産業
などは好景気と表現し、小売業などでは消費増税などの影響で「非常に厳しい環
境」と記載していました。業種によって景況感が大きく変わるようです。

 株価予想でも、近いうちに官制相場のバブルが崩壊し暴落が来るという意見と
安倍政権悲願の憲法改正までは何としても官制相場が維持されるので、少なくと
も株価は大丈夫だという相反する意見があります。

 経済原理どおりに株価が動いていないので近い将来の騰落さえ見通せませんが、
少なくとも社会生活の面では「勝ち組」と「負け組」の格差が拡大することだけ
は確かでしょう。

 もっとも、「勝ち・負け」の基準はその人の心にあります。世間の目からは、
サラリーマンとしては「負け組」でも、独立自営して成功した人は多数おります
から、同じく司法書士業に見切りをつけたとしても負け組とは限りません。

 こうしてみると景況感は、客観的な外部の景況感と、その人の心の中の景況感
の2つがあるのかもしれません。後者で順調だと思えた人が勝ち組でしょう。

(ご参考)
 5月3日は憲法記念日でした。今日の24時までですが、米国人の監督による
「映画日本国憲法」をネットで視聴してみませんか。1時間半ほどです。
  https://www.youtube.com/watch?v=N1gQtnDvMfM&feature=youtu.be


2015.05.01(金)【合名・合資会社の資本金】(金子登志雄)

 人的会社(合名・合資会社)と物的会社(株式会社・有限会社)を完璧に区分
していた旧商法時代には、合名・合資会社には資本金がないといわれていました。

 資本金というのは、会社運営の元手であり、いわゆる資本3原則によって守ら
れた会社債権者の最後の拠り所であり、会社債権者に無限責任を負う社員のいる
合名・合資会社には資本金を必要としないと教えられていたためです。

 ところが、会計の世界では、合名・合資会社であっても貸借対照表はあり、社
員が出資したものが資本金だと当然に捉えられていたようです。

 会社法は、資本3原則のような観念論に冷淡で、会計の世界を優先したのか、
合名・合資会社にも資本金を認め、組織変更して株式会社になることまで認めま
した。旧商法時代に組織変更というのは有限会社が株式会社になることでしたが、
人的会社と物的会社の垣根を取り払ったわけです。だからこそ、合同会社という
物的会社を持分会社に組み込みました。

 もはや、人的か物的かは対債権者との関係ではなく、構成員間の横のつながり
の強弱(組合型か、純粋の社団型か)の区別に変わったわけです。

 ここで、問題となるのは、株式会社の出資金は、資本金と資本剰余金(資本準
備金とその他資本剰余金)に完全に区分されるのに、合名・合資会社では、この
区別はないも等しいのが現実であることです。社員が債権者に直接責任を負いま
すから、資本金と資本剰余金を明確に区別する実益がないのです。

 そこで、合資会社の出資金合計が200万円だったとき、出資額100万円の
無限責任社員が死亡脱退し、会社法639条2項により自動的に合同会社になっ
たとみなされたとき、この200万円が合同会社の資本金になるのか、無限責任
社員の出資分を控除した100万円が合同会社の資本金になるのかという有名な
論点を議論する以前に、そもそも合資会社の出資金のうち、いくらが資本金で、
いくらが資本剰余金なのかにつき、会社自身も顧問税理士も誰も明確に認識して
いないのに、合同会社の資本金を決めてよいのかという問題が生じます。

 以上につき、仙台の立花さんが、きんざい「登記情報」の最新号で問題提起を
していました(「合資会社の唯一の無限責任社員の死亡退社による合同会社への
種類変更」)。

 そのとおりだと私も思います。おそらく実務上は、みなし変更時点で、この際、
無限責任社員の出資分を除いた100万円中の〇〇円が資本金だったということ
にして、それを合同会社の資本金にしているのではないでしょうか。


2015.04.30(木)【明日から改正会社法】(金子登志雄)

 いよいよ明日から改正会社法が施行されますが、商業登記の手続の面からは、
2月27日から施行された就任承諾書に住民票等を添付しなければならないとい
う商業登記規則の改正のほうが大きな衝撃であり、改正会社法の施行での混乱は
少ないと見込まれます。

 ………と思っているのは、改正会社法が分かっている司法書士だけで、分かっ
ていない司法書士は、きっと、いままでどおりの申請で本当によいのだろうかと、
目に見えない不安があるのではないでしょうか。

 というのは、改正会社法下の登記手続のような各論部分まで、司法書士会のセ
ミナーで行ったのは、都会地の司法書士会程度で、全国各地とは到底思えないか
らです。

 例えば、次のQの答えは、〇ですか、×ですか。
------------------------------------------------------------------------
Q:当社の定款には、「監査役の監査の範囲は会計に限定する。」と定めてある
 ので、登記申請の際は、事業目的等と同様に、定款の表現どおりに登記しなけ
 ればならない。

Q:平成27年5月1日にこの登記をしても経過措置があるので却下される。
------------------------------------------------------------------------

 回答はしません。分からなかった場合に、どう対応するかも開業司法書士に必
要な能力です。

 実に簡単なことで、知っている人と友人付き合いしておくことや、商業登記倶
楽部のようなところに加入して、常に、困ったときの対応策を平素から準備して
おくことです。

 全てにおいて専門知識を持つことは不可能ですから、〇〇問題についてはAさ
ん、××についてはBさん、△△についてはCさんという専門家を人脈に持って
いれば、不安もないでしょう。ただし、持ちつ持たれつの関係を築けないと疎ま
れるだけですから、この点はご注意ください。


2015.04.28(火)【認証後定款の誤記証明】(金子登志雄)

 商業登記書き入れ時の4月も終わりに近づき、いまだに登記完了予定日はいつ
もよりは遅いとはいえ、登記所の混雑も少なくなりました。

 私も今月は久々に多忙で、例によって、誤字脱字や上書きミスなどの小さなケ
アレスミスをいくつかやってしまいましたが(ありがたいことに登記所で見つけ
てくれますから、お客様には分かりません)、無事に4月を終えそうです。

 ところで、会社の設立の際に定款を作成し、公証人役場で認証する際は、私ど
もも相当慎重にチェックしますし、公証人役場でもチェックするため、誤字脱字
は少ないのですが、それでも気づかないことがあります。

 例えば、定款で設立時役員を定めたり、本店所在場所を定めた場合に、印鑑証
明等の書面が不要ですから、氏名を誤記したり、本店住所に脱字があっても気づ
かないものです。正しい本店住所は「〇〇西」なのに「西」が抜けていたなどと
いう類いのミスです。

 こういう場合は登記申請後であっても審査中である限り、公証人役場で「誤記
証明」をもらって、それを登記所に提出すればよいとされています。定款として
の同一性を失わないので、改めて認証する必要はありません。

   http://note100yen.com/en-130820.html

 しかし、また公証人役場に行って「ごめんなさい」というのも面倒ですから、
こういう誤記を避ける一番よい方法は、定款では、設立時役員や本店所在場所を
定めないことです。発起人決定書で定めれば、公証人役場のお手数を煩わせる必
要も、再度公証人役場に行く必要もありません。


2015.04.27(月)【演説と講師】(金子登志雄)

 きのうの26日(日)は事務所のある千代田区の区議会議員の選挙の日でした。
といっても、私は都民ではないので無関係です。私だけでなく知り合いの千代田
支部の司法書士達にも当社の社員にも千代田区民は、全くに近いほどおりません。

 千代田区内で歩いている人の30人に1人も千代田区民はいないでしょうから、
野原で空に向かって演説しているのと大差なく、ついつい選挙演説している候補
者に同情してしまいます。

 この点、セミナー講師は楽なものです。聴衆全員が講師の方を向いてくれ話を
聞こうとしてくれているからです。

 それでも、講義が始まって5分や10分もしないうちに、コックリしはじめる
人が必ず会場に1人や2人出始めるので、虚しくなることはありますが、それは
講義が詰まらないからで、講師の責任だと自覚しています。私自身も安定姿勢を
とると、すぐに居眠りを始める口ですから、人のことはいえません。

 ところで、5月は各司法書士会で春のセミナー時期です。ここ数年、各地の研
修担当者に会社法に関心が薄い人が就任してしまうのか、全国的に会社法・商業
登記セミナーの回数がめっきり減っていますので、改正会社法施行時期の今こそ、
会社法や商業登記のセミナーに力を入れてほしいものです。

 幸い、当欄に登場する仙台の立花司法書士など、若手で改正会社法のセミナー
講師を務まる人材が増えていますので、若手を講師にし、地元で、勉強会を開き、
その成果を発表してほしいものです。外から講師を呼ぶより、身に着くことが多
いはずです。講師に対する背後の支援は私にお任せください。


2015.04.24(金)【氏名と名称】(金子登志雄)

 子会社設立の定款の認証の際に、発起人が会社1社なのに定款の内容として
「当会社の発起人の氏名及び住所は以下のとおり」とするのはまずいのではな
いかという指摘を受けたことがありました。会社(法人)であれば、氏名では
なく名称というべきだということです。

 確かに、会社法では、「個人=氏名、法人=名称」ですが、旧商法では「発
起人の氏名及住所」であり、氏名を「姓名」ではなく、発起人の「呼称」と捉
えれば、間違いとはいえません。「商号又は名称」とあった場合には、名称で
なく商号と書かねばならないという論理と同じく、細かすぎます。

 そもそも名称とは、法令の名称、船舶の名称と使うように、呼称という広い
意味ですし、旧商法262条には「社長、副社長、専務取締役、常務取締役其
の他会社を代表する権限を有するものと認むべき名称を附したる取締役」、会
社法13条(表見支配人)には「会社の本店又は支店の事業の主任者であるこ
とを示す名称を付した使用人」とあるごとく、社長や支配人という肩書ですら
名称です。

 しかし、この指摘を受けて思いましたが、個人の名称は「姓」と「名」の2
つでできているのに、商号は「名」だけだといえるのでしょうか。〇〇ホール
ディングス、〇〇商事、〇〇工業、〇〇サービス」の〇〇が姓で、ホールディ
ングスや商事、工業などは、太郎や次郎と同じだと考えると姓名のような感じ
がいたしませんか。


2015.04.23(木)【商業登記規則61条5項ただし書】(金子登志雄)

 取締役会のある会社の取締役ABCが3月31日に辞任し、4月1日からDE
Fとなり、4月1日の取締役会でDを代表取締役に選定した事案につき、顧客は
几帳面に、3月31日のDEFの取締役の就任承諾書に住民票等を準備し(商登
規則61条5項)、4月1日の代表取締役の選定のための取締役会議事録のため
に選定者であるDEFの印鑑証明書を準備してきています(同4項)。

 私は面倒なので、商登規則61条5項ただし書に従い、4項の議事録に押した
印鑑につき印鑑証明書があるため住民票等はお預かりするだけにしています。登
記の添付書面としては利用しません。

(商登規則61条5項要約)
------------------------------------------------------------------------
 取締役…による変更の登記の申請書には、…取締役…が就任を承諾したことを
証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区
町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(…)を添付しなければならない。
ただし、登記の申請書に…前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市区町村
長の作成した証明書を添付する場合は、この限りでない。
------------------------------------------------------------------------

 このただし書が適用されるときは、取締役の就任承諾書に住所が必要かという
論点がありますが、厳密には不要だと思っています。

 というのは、規則61条2項~4項は、印鑑証明をつけよとあるから、押印は
実印でなければならないわけで、これと同様に、住民票等の本人確認書面をつけ
よとあるから、実際に住んでいるところは別だとしても、本人確認書面と同じ住
所を就任承諾書に書かねばならないわけで、上記61条ただし書では、印鑑証明
書をつけるときは本人確認書面は不要ですから、就任承諾書に住所を記載する必
要がないと考えるからです。

 この事案で法務局から電話がありました。「就任承諾書記載の住所と印鑑証明
書の住所が違っている」と。

 「住所の記載が漏れている」というのでは反論の余地もありましたが、住所相
違の場合は、せっかく印鑑照合で同一人物であることが強力に証明されても、そ
の反対証拠を自ら提出したようなものですから、これはまずいですね。素直に修
正に応じたことはいうまでもありません。



2015.04.22(水)【スーツ】(仙台・立花 宏)

 その日の仕事を終え、自宅に戻ると、着替えるため、洋服ダンスを開けました。
そして、その洋服ダンスの一番右側に掛けてあるスーツに目をやりました。古い、
そして、擦れ等の傷も目立つ紺のスーツです。

 洋服ダンスからそのスーツを取り出すと、私は久しぶりにそのスーツを羽織っ
てみました。10年以上、袖を通していなかったはずです。サイズも合わなくな
っており、もう、そのスーツを着て、外出することはないでしょう。

 そのスーツは、昔、私が大学を卒業し、就職した際、両親が買ってくれたもの
です。就職して以来、何年か、私と苦楽を共にしたスーツです。

 これまで、スーツは何着も購入しましたが、サイズが合わなくなったり、擦り
切れたり等で、古いものはほとんど、処分しました。しかし、そのスーツだけは
処分できず、今でも保管してあります。

 袖を通すと、就職した当時のことが思い出されました。楽しかったこと、うれ
しかったこと、悲しかったこと、そして、つらかったこと等、就職した当時の出
来事が、まるで、昨日のことのように、思い出されました。

 就職してから1~2か月くらいの頃だったでしょうか。私は、ある先輩から、
取引先に行き、書類を受領してくるように言われました。とても、重要な書類で
あり、急ぎの仕事であると伝えられ、とても緊張した記憶があります。

 ひとりで取引先に行くのは、はじめてのことでした。私はとても緊張しながら、
電車を乗り継ぎ、1時間程で、取引先に到着しました。

 取引先の事務室に行き、窓口の方に用件を伝えましたが、話がかみ合いません。
窓口の方が奥に行き、上席らしい方を連れてきてくださいました。すると、その
上席らしい方がおっしゃるには、書類を渡すのは来週であり、その日は書類を渡
せない、とおっしゃるのです。そして、1週間後に、再度、受領にくるように、
と指示をいただきました。

 私は途方に暮れ、その取引先を後にしました。すぐに、会社にいる先輩に連絡
をとろうとしました。当時はまだ、一般の方が携帯電話なんて持っていなかった
時代です。どこかに公衆電話はないだろうか、と走り回りました。しかし、その
取引先は郊外の工場地帯にあったせいか、なかなか、公衆電話が見つかりません。

 30分くらい、公衆電話を探して、走り回ったでしょうか。ようやく、緑色の
公衆電話を見つけて、会社に電話しました。そして、先輩に事情を話そうとする
と、その先輩は、「あ~、立花、悪い。立花が会社を出たあと、取引先から急に
電話があり、書類を受け取るのは来週に変更になったんだ」とおっしゃったので
す。

 それを聞き、ほっとすると同時に、どっと疲れがでました。とても重要な任務
だと聞いていたので、緊張していたのでしょう。ひととおりの報告を終え、電話
が済むと、私は公衆電話の近くにあったベンチに、倒れ込むように腰掛けました。
緊張して走り回ったせいか、汗びっしょりだった記憶があります。そして、その
手には、暑くて脱いだ、紺のスーツが抱えられていました。

 最近、街に出ると、真新しいスーツに身を包んだ、若いビジネスマンを目にし
ます。もしかしたら、新社会人の方かもしれません。これから、その真新しいス
ーツが、その新社会人の方と、いろいろな苦楽を共にしていくのだろうな、と思
いました。


2015.04.21(火)【定款添付の理由】(金子登志雄)

 取締役会設置会社で「第1号議案 定款一部変更の件」で、株主総会で代表取
締役を選定できると定款に定め、「第2号議案 取締役及び代表取締役選任の件」
で、Aを取締役及び代表取締役に定めたところ、管轄登記所より「規定により定
款の添付が必要ではないか」という問い合わせを受けました。

 この場合は大昔の商法時代から不要とされています。なぜでしょうか。先例か
慣例かと調べてみましたが、はっきりしません。

 そこで、原点に戻り、商業登記規則61条1項の「定款の定め…がなければ登
記すべき事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、
申請書に定款…を添付しなければならない。」の解読に挑戦してみました。

 第1に、本規定は、会社法の原則的手続に例外を定めた場合に適用されるもの
です。「Aである。ただし、定款でBとすることもできる」という場合に、Bを
証明するために添付するものです。

 会社法の原則によりますと、株式会社の取締役等には必ず任期があり、いつか
任期満了退任し、後任が選任されます。この任期満了と後任の選任は、会社法の
原則的手続ですから、株主総会議事録に「本定時株主総会の終結をもって取締役
の全員が任期満了退任するので、」とあれば、定款の添付が不要とされています
(昭53・9・18民四5003号回答)。いつが任期満了時期であるかまでは、
議事録に記載されている限り、定款で証明する必要がありません。

 第2に、例外であるBの場合も、別途、定款を添付せずとも、株主総会議事録
の内容から、定款の定めがあることが明白であれば、「無効又は取消しの原因が
存することとなる」とはいえないので、定款の添付が不要です。最初に示した例
がこれにあたります。

 では、応用問題として、「当会社の定款には代表取締役の選定は取締役の互選
によるという定めがあるので」や「当会社の定款には代表取締役は株主総会で定
めることができるとあるので」と議事録に記載すれば、定款の添付は不要になる
のでしょうか。

 上記第2からすると、肯定してもよさそうですが、上記の第2は、定款変更議
案の可決で議事録が直接証拠になるのに対し、この事例は、上記第1と同じく伝
聞形式の間接証明的です。しかも、第1と相違し、原則のAではなく例外のBに
該当します。間接証明では不十分だということで、定款の添付が必要だとされて
いるのでしょう。


2015.04.20(月)【場数の勝負】(金子登志雄)

 4月の人事異動は会社ばかりではなく、登記所内でも行われました。初めて
商業登記担当になった方も多いのか、「これ、なぜ、こういう登記になるので
すか。これこれこうではないのですか」という問い合わせのような電話をいた
だくこともあります。

 昔と相違し、いまの登記所は非常に丁寧な応対が多いので、こちらも気持ち
よく「それはですね。・・・」と応じ、相互の信頼感が深まるようでした。

 しかし、商業登記の担当になったばかりの新米の調査官が、この仕事一筋に
10年、20年・・・の司法書士の提出した書類をチェックするというのもお
かしな話ですが、それ以上におかしいのは、新米の調査官の指摘のほうが正し
いことのほうが多いことです。また、仮にその指摘が間違っていても、「ハイ、
分かりました」とその指示に容易に応じてしまう事務所が多いことです。

 おそらく補助者任せの大きな事務所で、登記が終わればそれでよいという感
覚でしょうが、われわれ司法書士自ら動く零細事務所としては、へたな実例を
作られるので困ったものです。「この前は他の事務所に納得してもらったので、
今回から運用を変えるわけには行かない」といわれてしまいます。

 新米の調査官でも正しい指摘をすることが多いのは、担当の商業登記ばかり
を毎日繰り返し調査し場数を踏んでいるからであり、申請する司法書士事務所
は、今日は不動産、明日は成年後見、久々に商業登記などと幅広く仕事をして
いるため、商業登記における「慣れ具合」で負けてしまうのかもしれません。

 情けないことですが、プロ意識のない事務所は、顧客が他の専門能力の高い
事務所と面識ができたら、そちらに鞍替えすることだけは確かであることを覚
悟したほうがよいでしょう。これで私の顧客が少しずつ増えてきたので、私に
とっては、ありがたいことですが。


2015.04.17(金)【社長と代表取締役】(金子登志雄)

 三連荘(れんちゃん)で飲んでおり、少々疲労気味ですが、この徒然がある
ため、深夜になると、シャキとしなければなりません。

 さて、今日のテーマは「社長と代表取締役」にしますが、次のような定款の
定めが少なくありません(次の例は清水建設です)。

----------------------------------------------------------------------
第22条 取締役会は,その決議によって代表取締役を選定する。
  2 取締役会は,その決議によって取締役の中から取締役社長1名を定め
   るものとし,必要に応じて,取締役会長,取締役副会長各1名及び取締
   役副社長若干名を定めることができる。
----------------------------------------------------------------------
 
 私は全く違和感がないのですが、「社長=代表取締役」だから、取締役社長
ではなく、代表取締役社長にすべきではないかといわれることが少なくありま
せん。公証人役場でいわれることもあります。

 しかし、この見解は誤りです。代表取締役は平成25年商法改正で新設され
た制度ですが、会社を代表する権限を持っているかどうかの問題であり、社長
は、専務や常務と同じく役職の問題です。平社員でいえば、部長や課長という
役職のことであり、代理権を持っているかどうかとは別の問題です。

 清水建設が社長「1名を定め」と規定しているのは、2名を定めることも不
可能ではないからです。
   
   http://bit.ly/1at9ihV

 未公開会社では代表権のない社長がたまに存在します。営業するのに便利だ
からです。表見代表になりますが………。


2015.04.16(木)【印鑑証明書と本人確認証明書】(金子登志雄)

 商業登記規則61条5項の「氏名及び住所」証明書(本人確認証明書)は法文
では「公務員が職務上作成した証明書」とあります。

 したがって、有限会社の取締役Aや株式会社の代表取締役Bが他社の取締役や
監査役に就任した際は、この登記簿謄本も本人確認証明書になります。

 閉鎖登記簿だったら、どうでしょうか。これも公務員が職務上作成した証明書
ですし、本人確認証明書には期限がないことを含めて考えれば、証明力に問題な
いということになるでしょう。

 以上の理屈からすると、住所が記載されない取締役Cでも、他社の取締役や監
査役に就任した際に、「〇〇会社の取締役Cを当社の取締役として選任したい」
などと議事録上同一人物であることを明記すれば、広義の再任(登記簿に2度目
の登場)として扱ってもよいように思いますが、登記所サイドからは抵抗があり
そうです。

 一方、登記簿に住所不要の平取締役や監査役の就任承諾書に住所を記載せず実
印を押して印鑑証明書をつけても、住所の記載がないことを理由に規則61条5
項違反になるのでしょう。

 就任承諾書に住所の記載は必要か、再任概念は印鑑証明書付の再任と本人確認
証明書付の再任の範囲を同一にみるかなど、規則61条5項問題は、いつか微修
正されそうな気がいたします。


2015.04.15(水)【監査等へ移行会社数】(金子登志雄)

 2か所の証券代行会社から聞きましたところ、監査等委員会設置会社へ移行す
る会社は、今年だけでも100を優に超えることは間違いないようです。

 インターネット検索をしてみたところ、三菱重工、サントリー、野村不動産な
どのほか、50社程度しかみつかりませんでしたが、まだ開示していない会社が
多いようです。

 多くは社外取締役が1人もいない会社であり、会社法の改正が原因というより
も、証券取引所の規則で社外取締役2名以上を要求されることになるため、それ
が理由で監査等委員会設置会社になるようです。

 要するに、積極的に移行しようとしている会社は少なく、制度が変わるから、
その制度に体を合せようとする消極的動機の移行組が多いようです。

 ということですので、都会地の開業者は私を含め監査等委員会設置会社と無関
係ではいられなくなりそうですので、準備を怠りなく。

 ところで、先般のセミナー講師の際に「社外取締役についてどう思うか」と聞
かれましたので、社長が社外取締役候補を選んでいる限り、監督機能が働くか疑
問であり、また、コンプライアンスは企業の問題というより、日本全体の風土の
問題で、臭いものに蓋をする日本の社会では制度をいじっても期待した効果がで
るかどうかは不明だと答えましたが、私と似た意見があることを偶然にネットで
みつけました。下記ですが、みなさんのご意見はいかがですか。

    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42352


2015.04.14(火)【司法書士報酬に思う】(金子登志雄)

 新規の顧客と報酬について協議すると、「前の先生は、いくらでした(高いじ
ゃないか)」といわれることも、「そんな程度でほんとによろしいのですか」と
いわれることもあり、まちまちです。

 前者については、司法書士は誰でもよく、要するに仕事が終わればよいという
前提での依頼であり、後者は弁護士や会計士と同じ専門職なのに、こんなに安い
のかと他と比較した上での発言でしょう。

 弁護士が高額なのは、業務がら1度限りのスポット依頼で、繰り返し仕事の依
頼があるわけではないというところもあるでしょうが、司法書士の仕事は1度限
りではないため、高いと思われると次の仕事が来ないと思うせいか、安い人と高
い人との間には大きな差がありません。せいぜい3倍程度の差でしょう。

 その3倍の理由は、事務所賃料が不要の田舎の自宅開業者かどうか、賃料の高
い都会地開業者かどうか、事務員が多いかどうかなど非業務的なものが主たる基
準であり、司法書士歴や能力とはあまり関係なさそうです。ベテランも新人も報
酬額の面からみれば大差ありません。

 これも不思議です。芸能人や俳優の出演料や、講演講師の場合は、下は数万円
クラスから上は数百万円という幅があるのに、司法書士は人によって大きな差が
ないのです。

 3倍といっても、少なくとも役員変更登記など日常的な商業登記案件であれば、
1万や2万円程度の差ですから、値切り交渉は得策とは思えません。というのは、
3万円が平均的相場のところ、1万円にしてほしいといわれると、カネの問題以
前に「私の仕事の価値をその程度に評価されているのか」とがっかりし、その仕
事に対する意欲が減退してしまうからです。

 この徒然を顧客の方がみていらっしゃいましたら、専門家はおだてて使うこと
です。その仕事以外の相談も無料で可能になるでしょうし、報酬額以上のサービ
スが帰ってくることは間違いありません。人は誰でも、自分を信頼し評価してく
れる人に礼を尽くしたいと思うものです。



2015.04.13(月)【地道にこつこつ】(金子登志雄)

 NHK朝ドラの「まれ(希)」では、大きな夢ばかり追って失敗ばかりしてい
る父親を反面教師として、「夢を追わず地道にこつこつと生きること」をモット
ーにした明るい少女を主人公にしていますが、夢を追うことと地道にこつこつは
両立すると思っています。

 夢の内容が一攫千金では実現の可能性が少ないでしょうが、こういう職業につ
きたいという夢であれば、地道にこつこつと努力すれば実現可能でしょう。

 芸能人に多いですね。極貧生活に耐えながら夢を追い、実現した人が少なくあ
りません。あの「ダメよ、ダメダメ」の女性お2人も電気、ガス、水道を止めら
れるほどの極貧生活の経験があったようです。

 もちろん、その背後には夢が実現せず挫折した人のほうが圧倒的多数ですが、
好きな仕事につきたいと頑張ったのですから、決して後悔はしていないでしょう。

 それよりも、確固たる夢を持てた人は人生の方針が定まるので、まだ楽なほう
だと思っています。わが人生を振り返ると、青い鳥の夢探し期間が長く、ずっと
方針が定まらずに、無為で怠惰な生活でした。

 論文を書くことや商業登記の面白さを知り、これを職業にしたいと真剣に思っ
たのは40歳過ぎてからでしたから、長い道草でした。それでも、好きな職業に
ありつけただけ、まだ幸運なほうでしょう。

 イソップ物語の怠惰なキリギリスさんも、きっと夢探し中だったのでしょうが、
いやだいやだと思いながらこつこつ働いているアリさんよりは、ストレスも少な
く後悔のない人生だったと想像します。

 実現可能な確固たる夢を持つことが重要で、これさえ持てば、地道にこつこつ
は、自動的についてくるというのが、私の経験則ですが、きっと「まれ」も番組
が進めば、夢のケーキ職人に進むのではないでしょうか。 


2015.04.10(金)【社外監査役と常勤監査役】(金子登志雄)

 先日の協同組合主催のセミナー講師の際には、「社外監査役Aが常勤監査役に
選任されたら、社外性喪失の登記をする。さて、これは正しいか」という問題を
出しましたが、皆様は、いかがですか。

 セミナー参加者の多数が正解していましたが、聞き方を変えて、「常勤監査役
は、社外監査役であってはならないか」と常勤監査役の方向から質問すると、正
解者はきっと少なかったはずです。「社外=非常勤」という固定観念があるため、
常勤監査役が社外監査役であることに妙に違和感を感じてしまうからです。

 「社外役員=非常勤役員」のことが多いことは確かですが、「社外性」は、そ
の役員の過去の経歴の問題であり、常勤か非常勤かとは無関係です。

 常勤は「常時勤務」という意味ですから、常駐ともイコールではありません。
私は、会社と同じビルのフロアに事務所を開設しているので、常駐監査役ですが、
会社の仕事については非常勤です。

 ついでながら、社長でありながら、常勤も常務に従事していない人も少なくあ
りません。親会社の社長が子会社の社長を兼務している場合はこうなります。社
長には「常勤」というイメージがないのでしょうか。



2015.04.09(木)【本人確認証明書の趣旨】(金子登志雄)

 相変わらず就任承諾書に添付する「本人確認証明書」でドタバタが続いてい
ます。就任承諾書に住所が記載されていない、就任承諾書上の住所と運転免許
証の写しの住所が一致しない、運転免許証の裏面の写しが漏れている………な
どが主だったところです。

 単身赴任しているサラリーマンは現在の住所と住民票の住所が異なっている
ことが少なくありません。つい、現在の住所を書いてしまうのでしょう。

 「住所」とは、民法によれば「生活の本拠」ですから、住民票の住所と一致
しているとは限りません。住民票は住民登録先のことであり、そこが生活の本
拠というわけではありません。

 したがって、商業登記規則61条5項も生活の本拠を証明するために添付す
るのではなく、実在する人間であることの証明を基本として、「田中実」さん
のように同姓同名者も多いことから、「どこどこの誰々」という意味で、本人
を識別する基準として住所の記載を求めているだけでしょう。

 この証明書を登記の通達で「本人確認証明書」といっていますが、この確認
とは他人との識別基準という意味だと私は理解していますが、本人の就任承諾
の意思確認だという説もあるようです。

 実印を押して印鑑証明書を添付するのは、その人専用の押印という意味で意
思確認でしょうが、意思確認は就任承諾書の役割で、住民票等の添付には、こ
の意思確認の要素はないと私は思っていますが、皆様はいかがですか。


2015.04.08(水)【出版記念講演】(金子登志雄)

 昨日は東京司法書士協同組合主催で、「改正会社法の実務論点」の出版記念
講演会でした。この多忙な時期なのに、さすが商業登記が盛んな都心部でした。
満杯の盛況であり、ご参加した方々に感謝です。

 終わった後は組合の理事長さんほか幹部の方々とともに打ち上げでしたが、
本が短期間で売れた最大の理由は、やはりタイミングだろうということに一致
しました。施行日2か月前で実務に関して十分な解説本がない時期のため、多
くの方のニーズがあったためです。

 第2に小冊子であったことです。気楽に買える値段だったためです。事務員
用にと数冊購入してくれた方も多かったのですが、1冊数千円ならこれは無理
なことです。

 第3に「実務本」だったことです。改正の趣旨などから説明したら、実務家
はあくびしてしまいますが、即本題に入り、講義形式もQA式、あるいはクイ
ズ形式で進めたため、居眠りする人もいませんでした。

 打ち上げでは、「また全国から講師依頼があるでしょう」といわれましたが、
私を講師に呼ぶより、この小冊子を1時間で2回読むほうがよほど勉強になる
でしょう。地方でこの小冊子をご購入なさった方は、ぜひ集中的に2回読みし
てください。それをしたら、明日から貴方が講師です。


2015.04.07(火)【商業登記ベテラン度】(金子登志雄)

 商業登記に慣れているかどうかは、登録免許税の別表をみずに登録免許税を
計算して申請しているかでも判断できます。

 慣れないうちは、商号変更と目的変更が一括して3万円かどうかも別表をみ
ながら確認していましたが、この道20年になると、別表をみることはまずあ
りません。それで間違うこともありません。

 しかし、やってしまいました。久々(数年ぶり)に、支店設置、支店移転、
支店廃止の3つを申請する仕事を受け、設置は特殊で6万円、その他は3万円
と無意識に対応してしまい、支店移転が本店移転と同様に、「その他」に括ら
れないことに注意が及びませんでした。

 補正電話を受けたとき、ベテランでなければ「確認してこちらから電話しま
す」となるのでしょうが、私は瞬時に自分のミスに気づきました。これも悪い
意味のベテランですね。

 かといって正しいと思い込んでしまったわけですから、別表を確認しようと
は今後もしないでしょうが、これで、少なくとも、支店移転については、間違
うこともないでしょう。私もまだまだ失敗を重ねて成長する半人前でした。


2015.04.06(月)【本人確認書面の普及度】(金子登志雄)

 役員変更登記に関する議事録等が顧客から送付されましたが、住民票等の本
人確認書面が同封されていなかった事例がいくつかありました。

 事前に、「こんな内容でどうだ」とメールの添付ファイルでチェックを求め
てきた顧客には、本人確認書面につき指示したのですが、単にメールで「役員
変更登記の必要書類を送るから登記をよろしく」とあるだけのところには、私
も書類待ちを優先したため、事前に対応しませんでした。こういうところが本
人確認書面漏れになりました。

 この例をみても、内容に自信のある顧客が思い込みにより失敗し、自信のな
い顧客は事前に確認するため失敗しないわけです。

 私が扱った登記の中では、住民票よりも運転免許証の写しのほうが多かった
といえます。やはり、働いている人にとっては住民票を役所に取りに行くのが
困難だったのでしょう。

 法務省のHPの見本が運転免許証の写し(謄本)に「原本と相違がない。取
締役甲野〇〇 印」とあったためか、年月日の記載のない例が少なくなかった
ようです。記載する意味がないとはいえ、わずかに違和感を感じました。

 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00085.htmll

 これ、商業登記規則によると運転免許証に限らず住民票の写しをコピーして
「原本と相違がない。取締役甲野〇〇 印」とすれば、住民票自体を添付する
必要がないのですが、そのような例はありませんでした。


2015.04.03(金)【改正会社法本ブーム】(金子登志雄)

 改正会社法ブームなのか、アマゾンの会社法本での改正会社法関係の書籍が
よく売れており、私どもがミニ解説を担当している「会社法法令集」も発売以
来、ベストセラー上位の高位置を維持しています。商事法務の条文集も高位置
です。時期的に、改正会社法本ブームなんでしょう。

  http://amzn.to/1yFYEcU

 偶然ですが、昨日は上記「会社法法令集」と、東京司法書士協同組合からの
「改正会社法の実務論点」の2つにつき、増刷の連絡が入りました。

 「改正会社法の実務論点」は単価1000円の小冊子で、1時間で分かる改
正会社法本として、1人で数冊購入してくれる方が多かったので(事務員用か
顧客に配布するためかは不明です)、売行きが早かったようです。

 こんなことを書いたり発言すると、すぐに、「儲かったでしょう」と言われ
てしまいますが、前者は条文集であり真の著者はお国ですし、後者は部数に無
関係の買取り報酬ですから、私の実入りに大きな影響はありませんので、ご安
心(?)ください。

 それでも、「そこに関与できた、関与しているものが好評だ」というだけで、
結構、幸せな気分になれるものです。世話のかかる子供につき、意外にも世間
からほめられた父親の心境と同じです。

 中央経済の「会社法法令集」には、改正部分につき薄青のラインが引かれて
います。これも売行き好調の理由の1つになっているようですから、ぜひ書店
でお手にとってご覧ください。


2015.04.02(木)【てんてこまい、その2】(金子登志雄)

 無事4月1日が過ぎ、ほっとしました。

 9時には出社し、昨日までに用意していた登記を電子申請で申請し、10時
半からは入社式の会場に行き、新入社員の前に偉そうに座っていました。

 この忙しい時期に毎年入社式がぶつかりますが、新人にとっては一生忘れな
い晴れ舞台ですから、司法書士業務の多忙を理由に休むようなことをしてはい
けませんので、必ず出席しています。

 いまの新人は昭和生まれはいません。大卒なら平成5、6年生まれです。当
社の新人男性の名前にオ(雄・男・夫)が付く人も、新人女性にコ(子)が付
く人もいませんでした(10名足らずのサンプルですが)。何と読むか分から
ない名前(読ませる名前)が増えたように感じました。時代ですね。

 午後には新宿法務局に行きましたが、補正日(登記完了予定日)は14日で
した。本局(東京法務局)と相違し、「ずいぶん遅いな、人手不足なんだろう
か」と思っていましたが、いまネットで確認しましたら、本局の補正日は、も
っと後の16日でした。

 大阪は4月7日、札幌、仙台、名古屋は9日、福岡は10日ですから、いか
に東京には会社が多いかということでしょう。完了予定日が遅いことよりも、
会社が多く仕事が多い地域に開業している幸運を感じなければなりませんね。


2015.04.01(水)【てんてこまい】(金子登志雄)

 東京では桜も満開になり、今日は多くの会社の新事業年度の開始日です。そ
のため、今日の登記準備で昨日はてんてこまいでした。4月1日付の組織再編
だけでなく子会社の役員変更が多いのです。多くは3月31日辞任、4月1日
就任です。

 せっかく今日のための登記資料が届いたのに、押印漏れがあったり、不足書
類があったり………。

 そこに、さらに4月1日付役員変更の依頼電話があったり、問い合わせがあ
ったり………。

 3月初旬の取締役会で4月1日付代表取締役の予選事案もありました。新取
締役がいるのに住民票等が付いてないものもありました。届出印のある代表取
締役の辞任も、届出印のない代表取締役の辞任もありました。

 契印をお願いしたのに、なされていないものもありました。訂正印を一切押
ない会社もありました。

 こういう問題に素早く対処するのは慣れているのですが、商業登記に慣れて
いない人だったら、予定日である4月1日に申請することが無理になることも
多いことでしょう。

 昨日に引き続き、今日もてんてこまいを堪能できそうです。いつもヒマです
から、たまには、こういう日があってもよいでしょう。



2015.03.31(火)【定款上の基準日】(金子登志雄)

 今日3月31日は3月決算会社の基準日です。基準日というと公告で定める
ものという意識が強いようですが、定款で定めておくことも可能です。次が例
であり、定時株主総会の議決権と剰余金の配当については、ほとんど全部の会
社が定めています。

----------------------------------------------------------------------
 第*条 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載された議決権を
    有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権
    利を行使することができる株主とする。

 第*条 剰余金の配当は、毎事業年度末日現在における株主名簿に記載され
    た株主又は登録株式質権者に対して行う。
----------------------------------------------------------------------

 では、3月決算会社が9月に臨時株主総会を開催し、剰余金の配当を決議す
る場合に、この定款規定の効力が及ぶでしょうか。

 議決権については及びません。定時株主総会の議決権に関する基準日である
ことが明らかだからです。

 ところが、上記定款規定では、剰余金の配当につき定時株主総会で決議した
配当についての規定だとの文言がありません。したがって、この臨時株主総会
による配当も3月末日の株主が権利者ということになります。

 改めて剰余金の配当についての基準日を株主総会で定めることさえ、定款に
反する決議になりかねません。

 こんな議論を避けるためには、剰余金の配当についても、定時株主総会で決
議された期末配当に限る旨を定めたほうがよいと思っていますが、臨時の配当
をすることはめったにないため、上記の定款の定めがいまだに主流のようです。


2015.03.30(月)【マッサンへの投資家】(金子登志雄)

 NHKの朝ドラのマッサンが終わりましたね。つい、ずっとみてしまいまし
た。戦国時代のザビエルといい、マッサンの奥様のエリーといい、西洋人の開
拓者魂というのはすごいですね。遠い遠い東の未開の国によく来たものです。

 マッサンでは、マッサンに出資した投資家のことがずっと気になっていまし
た。すごい開拓者魂だと感心していたからです。ネット検索してみましたら、
加賀正太郎という当時の実業家だったようですが、彼がいなければ、ニッカウ
ヰスキーも朝ドラもなかったわけで、仮に動機がカネ儲けや金持ちの道楽だと
しても、実にすごいことです。

 現在では、ベンチャーキャピタル(VC)がこういう個人らの投資家のカネ
を集めてファンド(投資事業組合)を組成し、将来性のありそうな会社に分散
投資していますが、成功確率はそれほどよいとはいえません。途中で挫折する
会社のほうが多数です。

 それでも5社中1社でも成功し、株価が6倍、10倍になれば採算が合うわ
けです。一時のVCブームは去りましたが、いまでもVCは多方面で活躍して
います。私もVC設立や投資事業組合の登記の仕事を時々受けています。

 現在のVCに当時のマッサンに投資する度胸があるかというと大いに疑問で
しょう。多数決で決したら、リスクが大きすぎると否定論が多数を占めたと思
われます。VC時代でも、加賀正太郎という方のように無謀な度胸?を持った
投資家の存在は必要なようです。


2015.03.27(金)【社外性の喪失と取得その2】(金子登志雄)

 昨日の続きです。

 社外取締役が業務執行に従事すれば社外でなくなりますが、取締役に選任さ
れる際に「社外取締役候補」として選任されながら、勝手に業務執行に従事し
てよいのでしょうか。

 同時に、昔、一時的に従業員であったため社外取締役とされていない取締役
甲が改正会社法基準の過去要件の緩和により、社外取締役の要件を具備したと
しても、「社外取締役候補」として選任されていないのに、社外取締役として
扱ってよいのでしょうか。

 問題は、次のAかBかということです。

 A:社外取締役(候補)として選任されたかどうかを重視すべきだ。
 B:選任行為は取締役にするかどうかであって、社外性はその人の属性ある
  いは略歴の1つであり、それが選任理由の1つとされたとしても、それは
  選任時の参考資料であり、選任後の変化まで拘束するものではない。

 検討しました結果、どう考えてもBだと思います。まず、取締役の資格要件
として社外性は規定されていません〈331条)。取締役には社内取締役と社
外取締役の2種類があるとはいえず、単に「取締役甲は社外要件を具備してい
る」というだけのことです。

 また、なぜ選任時に社外性を問題とするかというと、そういう人材を一定数
確保することが企業のコンプライアンスの姿勢に影響するからであり、社外役
員の員数が確保されていれば、役員個々の属性の事後的変化は会社法が当然に
認めていると考えられます。

 例えば、社外取締役の反対概念である業務執行取締役は「第363条第1項
各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役」と定
義されていますが、この「業務を執行した」に「社外取締役も業務を執行し業
務執行取締役に変わることがある」という意味合いが含まれているといえまし
ょう。そうであれば、いままで社外取締役でなかった者も社外要件を満たして
社外取締役になることもあるといえるのではないでしょうか。


2015.03.26(木)【社外性の喪失と取得】(金子登志雄)

 社外取締役が業務執行に従事すれば社外でなくなりますから、現行法では、
登記原因を「平成〇年〇月〇日業務執行」、改正会社法施行後は「平成〇年〇
月〇日社外性喪失」とする登記がなされます。

 では、昔、一時的に従業員であったため社外取締役とされていない取締役A
が改正会社法基準の過去要件の緩和により、社外取締役の要件を具備し、社外
取締役として登記が可能になった場合は、「平成〇年〇月〇日社外性確保」な
どといった登記がなされるのかという自然な疑問が生じることと思います。

 結論は、単に取締役Aの登記の部分に「(社外取締役)」の記載が追加され
るだけで、登記原因は記載されません。取締役の変更登記ではなく、社外取締
役の追加による新規の登記であり、変更登記ではないため変更原因も変更日も
ないのです。

 これは設立登記と解散登記の差と同様に、新規の登記は変更登記ではないか
ら変更原因も変更日も登記されず、抹消登記の際は、抹消原因とその日が登記
されるのと同じ関係でしょう。


2015.03.25(水)【商登規則61条5項ただし書】(金子登志雄)

 新設された商業登記規則61条5項は次の内容です(成立後の株式会社の取
締役部分だけを抜粋)。

----------------------------------------------------------------------
 取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書には、取締役が就
任を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所
が記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書を添付し
なければならない。ただし、登記の申請書に第2項又は前項の規定により当該
取締役等の印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付する場合は、この限
りでない。

(注)第2項は非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書には印鑑証明の添付
が必要だという内容で、前項(第4項)は代表者選任の議事録等に選任者であ
る取締役の実印を押し印鑑証明をつけよという内容です。
----------------------------------------------------------------------

 さて、これを読んで、一般の方は次の点をどう考えるのでしょうか。

 ① ただし書で印鑑証明書を添付するときは、就任承諾書に住所の記載が不
  要でよいのか。
 ② ①を肯定した場合、本文の証明書として印鑑証明をつけて実印を押捺し
  たときは住所の記載を省略してよいのか。

 5項ただし書の「前項により」の内容は、②の場合よりも住所の記載が必要
な場面ですから、②につき住所の記載を要求してはバランスを欠くでしょう。

 いまさらですが、新任者の就任承諾書に住所の記載を求めたために、各条文
間の関係が複雑になり、よく見えない部分が増えてしまいました。会社法も商
業登記法も要求していないことを規則で要求したために、各規定の整合性がと
れなくなったのではないでしょうか。


2015.03.24(火)【書き入れ時準備】(金子登志雄)

 多くの企業で新年度が開始する4月1日が近づきました。この日を効力発生
日とする組織再編や人事異動、また、3月末日までの今期内の減資や辞任等の
案件で、商業登記事務所は多忙になる時期でしょう。

 商業登記以外の仕事をせず(というより、なぜか商業登記以外の依頼があり
ません)、比較的に自由時間の多い私も、この時期ばかりは心理的に多忙にな
ります。心理的という意味は、依頼されている仕事を依頼された日に間違いな
く実行するよう忘れてはならないというプレッシャーがあるという意味です。

 同じ4月1日申請でも条件付き内容で午後に申請しなければならないものや、
合併や本店移転など同時申請では申請の順序がありますので、これらを間違え
ないようにしなければなりません。

 先日も質問を受けましたが、A社が新設分割でB社を設立し、同時にA社が
C社に合併される案件を同時に申請することができるかというケースなどでは、
先に合併解散が実行されてしまったら、新設分割の登記で分割会社が消えてし
まいます。新設分割の登記を先行させなければなりません。

 ふと思いましたが、この事案で、4月2日に新設分割の登記を申請し完了後
に、4月1日付効力発生の合併解散を申請したら、登記所はどういう対応をす
るのでしょうか。実体法的には、新設分割が無効ですが、登記上は吸収合併の
登記が却下になるのでしょう。

 こういう整合性にも配慮しなければなりませんので、神経をすり減らす週に
なりそうですが、これが私の仕事です。



2015.03.23(月)【再任の顕著な事実】(金子登志雄)

 ある大手法務局で、監査役を辞任して取締役に就任する場合(逆を含む)に
おいて、議事録の記載から、同一人ということが確認できれば、本人確認証明
書の添付は不要だとの回答があったようです。

 え? まさか、これでも「再任」かと俄かには信じられませんでしたので、
そのうち変わるかもしれないと公表しないようにしていましたが、いまは、こ
れは「再任」として扱われたのではなく、登記所も知っている明白な事実だか
ら、証明は不要であるという意味ではないかと考え直しました。

 民事訴訟法179条に「顕著な事実は、証明することを要しない」とありま
す。この「顕著な事実」とは、誰でも知っている公知の事実と、裁判所が職務
を行うに当たって知った事実の2つがあります。

 これと同様に、登記所ですら知っている事実に、なぜ、わざわざ本人確認を
求め、それを証明する必要があるのかという配慮ではないでしょうか。極めて
真っ当な見解であり、これなら、再任の定義と矛盾しません。

 この論理からすると、「平成26年6月〇〇日に任期満了退任した取締役A
氏を再び取締役として再選するものであります」などと議事録に記載すれば、
登記所にとって顕著な事実として、本人確認書面が不要とされる可能性も出て
まいりました。

 その大手法務局の運用に賛同するどころか、拍手喝さいを送ります。これこ
そ真の法律家らしい「法務」局の判断です。どこかの杓子定規の登記調査官ら
に爪の垢を煎じて配布してほしいくらいです。



2015.03.20(金)【隠れ社外取締役】(金子登志雄)

 5月1日から施行される改正会社法により、監査役「会」を置く上場会社が、
事業年度末日に社外取締役を置いていない場合には、当該事業年度に関する定
時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなけれ
ばならないとされています。事実上の社外取締役の義務付けです。

 上場会社の登記簿をみると社外取締役を置いていない会社が少なくありませ
ん。どうするのだろうかと他人ごとながら気になっていた担当司法書士も多い
ことでしょうが、意外にも(?)、隠れ社外取締役が存在する会社が結構ある
ようです。

 これにつき、社外取締役であったら、登記簿に掲載されていなくても、株主
総会の参考書類等に記載されているはずだから、隠れているわけではないと思
う人もいるでしょうが、会社法施行規則に次のような定義があります。

----------------------------------------------------------------------
社外取締役候補者 次に掲げる【いずれにも】該当する候補者をいう。
 イ~ホ (略)
 ヘ 次のいずれかの要件に該当すること。
 (1)当該候補者を法第373条第1項第2号………又は第427条第1項
   の社外取締役であるものとする予定があること。
 (2)当該候補者を当該株式会社の社外取締役であるものとして………株式
   会社が………資料に表示する予定があること。
----------------------------------------------------------------------

 つまり、社外取締役の要件を満たすが、上記の「ヘ」のいずれかに、とくに
(1)に該当しないため、資料等では社外取締役扱いされていない取締役もい
ます。たぶん、親会社等の出資者から派遣された見張り役の取締役などがこれ
に該当するのでしょうが、やっと自分の存在が日の目をみる日が来たというこ
とでしょうか。いや、きっと本人は、ずっと隠れていたかったでしょう。


2015.03.19(木)【小冊子効果】(金子登志雄)

 東京司法書士協同組合から上梓した『改正会社法の実務論点』は70頁未満
なのに、1000円の値段であるため、「こんな薄いのに1000円は高い」
といわれかねないかと心配していました。

 いわれたら、大量生産ではないこと、多くの人の時間を使い人件費がかかっ
ていること等々を説明しようと思っていましたが、何と「あの大改正を1時間
で説明してもらえるなどありがたい。今の時代は分厚い本は辛いので助かる」
などといった、「小冊子でよかった」という評価が多いので、少々、拍子抜け
しています。

 確かに、世に出ている改正会社法解説本は最初に読む本としては厚すぎます。
しかも、企業統治のあり方など大上段に構えられますと、「監査等委員会設置
会社などオレには関係ない」と読む気になれません。

 法務省の「1問1答」は監査等委員会設置会社で60頁以上ですが、私の小
冊子ではたったの7頁です。「1問1答」を読んだ人と、私の小冊子を読んだ
人に、監査等委員会設置会社について理解度テストをすれば、小冊子を読んだ
人のほうが点を取れるはずだという自信があります。少ない情報のほうが頭に
入りやすいからです。

 この小冊子の出版記念で4月7日に2時間半の講義をいたしますが、私の話
を前提知識なく2時間半も聞くより、この小冊子を1時間で読んだ方がよほど
有益だと思っているのですが、まぁ、たまには会場の司法書士会館に行ってみ
ることも必要でしょう。



2015.03.18(水)【再任の意味】
(金子登志雄)

 案の定、あちこちの登記所で「再任」の範囲が問題になっているようです。

 先般、私は、会計限定監査役である旨の定款の定めを廃止し業務監査権限に
変更したが任期が満了したことを知らずにいた会社がそれに気づいて同一人物
を再任した案件につき、札幌法務局と都内23区の法務局で住民票等をつけず
に申請しましたが、無事に再任として扱われました。

 昨年は辞任し登記もされた代表取締役の数日後の再任につき、印鑑証明もつ
けずに申請しましたが無事に登記されました。2、3年前に、その当時から数
年前に任期満了退任した取締役がまた取締役になった事案につき、非取締役会
設置会社でしたが印鑑証明もつけずに申請したところ、やはり無事に登記され
ました。

 先日、某大手法務局で、辞任し即就任した事案につき、住民票等の添付が不
要だとの回答がなされたようです。

 商業登記倶楽部の神崎先生の分類を参考に1つ追加すると、次の6つのケー
スが考えられますが、神崎先生のご見解によると、登記所内の伝統的な解釈で
も、③や④を再任に含めてよいだろうとのことでした。

 ① 重任
 ② 権利義務者の再任
 ③ 辞任したが即時に就任した場合
 ④ 辞任等で退任したが未登記中に再選し同時に退任と就任を登記する場合
 ⑤ 退任登記済みだが履歴事項に登載されている間に復帰した場合
 ⑥ 昔の役員の復帰(同一管轄の履歴事項に登載されていない者の復帰)

 徹底して申請会社の側に立ちたい私は、⑤についても再任として扱うべきだ
と考えています。上記にご紹介した事例のように、数日前に辞任した取締役が
真面目に辞任登記すると再任として扱われず、未登記のままにしたら④で再任
というのは不公平ですし、何よりも、世人の理解では⑤も再任になるだけでな
く、履歴事項の記載が住民票等の代わりになると考えているためです(住所の
記載はありませんが公的書面です)。


2015.03.17(火)【アマゾンの書評】(金子登志雄)

 アマゾンをみていましたら、やっと中央経済の「会社法法令集」が掲載され
るようになりました。この条文集の中の青字の重要条文ミニ解説は、私が中心
に担当しておりますが、おかげさまで第11版になりました。

http://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95%E3%80%8D%E6%B3%95%E4%BB%A4%E9%9B%86-lt-%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%80%E7%89%88-gt-%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%A4%BE/dp/4502136719/ref=pd_sim_sbs_b_3?ie=UTF8&refRID=0753ZBZN1F1K06JGD6XR

 青字解説が法律を専門としない方や国家試験の択一試験に役立つようで、企
業法務部や受験生に好評で喜んでいます。

 心配なのは、アマゾンの書評です。発言の自由があるとしても、他の方の意
見も聞いて、独りよがりな書評だけはやめてほしいものです。

 ちなみに、好評で重版され何度も増刷されている私の「募集株式及び種類株
式の実務」と「親子兄弟会社の組織再編の実務」に対する読者の書評は、ボロ
クソです。読者ターゲットである法律実務家や専門家からの批評ではないとは
いえ、ちょっと的外れじゃないかと思える内容ですが、これでも売り上げに響
くのですから困ったものです。

 これも有名税の1つと考え、放置していますが、政治家や芸能人は、もっと
風評被害を被っているでしょうから、私への批評など気にしていられません。


2015.03.16(月)【ずしんと理解】(金子登志雄)

 中学生時代の試験は、「下から正しいものの記号を選べ」でしたが、高校時
代の試験は、「かっこ内に用語を入れよ」であり、急に成績が落ちた記憶があ
ります。用語が完璧に頭に入っていなかったからで、生半可な知識では高校の
試験に対応できないことを知ったものでした。

 英会話も目の前に外国人がいると、身振り手振りで何とか意思を伝えること
ができますが、電話になるとお手上げです。

 会社法の知識についても同じです。改正会社法について人並み以上の総論的
知識があっても、「この問題を解け」に対応できなければ意味がありません。
メール(文書)の質問ではなく、電話での質問に対して、質問の意味を瞬時に
理解して返答できなければ、腹の底までずしんとした理解をしていないことに
なり、プロの実務家とはいえません。

 では、どうやって、そういう実戦的知識を自分のものにすることができるか
というと、実際に経験してみることが1番ですが、改正会社法など、まだ施行
されていないものには経験もできませんから、疑似体験をすることです。

 「もし、これこれをしたら」とさまざま模擬実験をしたと考えてみることで
す。これを私のように人前で発表するために、ブログなどに書いてみるともっ
とよいでしょう。外部に意見を発表しようとすれば、恥をかかないよう真剣に
考えますし、書くことによって自分の考え方を客観視することもできます。

 申請人側である私は「もし、こういう申請をしたら受理されるか。登記所は
どういう反応をしてくるか」と始終考えていますが、登記所側は「もし、こう
いう申請が出されたら、受理か、却下か」とお考えのことでしょう。

 だから、3月10日付本欄でご紹介したような「監査役会設置会社が監査等
委員会設置会社に移行し、取締役から監査等委員である取締役に変わった場合
に、新商業登記規則61条5項の規定による住民票等の添付が必要なのかどう
か」といった細かい論点に気づくわけです。

 これからは、まだまだ多くの不明点が出てくることでしょう。「改正会社法
の実務論点」程度は、早期にマスターしておかねばならないでしょう。
・・・長い前置きでしたが、要するに小冊子の宣伝でした。

  http://www.tsknet.jp/doc/topics/book_201503.pdf
  http://www.tsknet.jp/ のトピックス


2015.03.13(金)【取締役会書面決議】(金子登志雄)

 上場会社の子会社では4月1日付人事異動で、社長が3月31日に取締役を
辞任し、4月1日から新社長が就任する例が多く、毎日のように問い合わせを
受けています。

 柔軟性のある会社グループに対しては、代表者を株主総会で選任すれば予選
問題をクリアできると話しているのですが、組織内の伝統的なルールで、この
便利な方法を簡単に採用する会社は、そう多くはありません。

 そこで、4月1日付で書面決議をしようということになりますが(もちろん、
定款に許容規定のあることが前提です)、3月に前社長が4月1日付の議案を
提案することが可能かという質問を受けたことがあります。

 私は無理だと応えています。4月1日時点の議案に議決権のない者は議決に
加われないだけでなく、提案者にもなれないと考えているためです。

 そこで、私は「前社長が提案者にならなくても、他の取締役が提案者になれ
ばいいじゃないですか」と申し上げたところ、「いや、定款で、取締役の招集
権者が社長になっているので………」との答えをされたことがあります。

 さて、本欄閲覧者の皆様、どう答えますか。

 拙著(例えば、「事例で学ぶ会社法の実務」)の読者であれば、半数の方は
お分かりでしょう。

 370条の書面決議は見出しに「取締役会の決議の省略」とあるとおり、取
締役会(会議体)ではないのです。会議体(一堂に会して議論する仕組み)で
はないので、「招集」ということもありません。したがって、定款の招集権者
の規定は、ここでは適用されません。


2015.03.12(木)【株主でなくても議決権あり】(金子登志雄)

 委任状勧誘合戦で話題になっている大塚家具ですが、定時株主総会の基準日
時点では議決権の約10%を持っていた外資のブランデスは株式を売却して現
在では4.63%の保有になっているようです。

 それでも、基準日株主ですから、5.37%分につき、議決権を行使するこ
とができます。

 何か割り切れないですね。昔の紙や手作業の時代には、始終変動する株主を
固定し、その株主の確定作業に3か月程度の日時を要したでしょうが、いまは
ペーパレスのコンピュータ時代です。1週間もあれば株主の確定作業ができる
のではないでしょうか。

 かといって、議決権の基準日を定時株主総会の日に近づけることは現行法で
も可能ですが、それをしていない会社がほとんど(全部?)ですから、会社に
それを提案しても無理でしょう。

 定時株主総会は事業年度の計算書類を確定するものですから、議決権も剰余
金の配当基準日も期末日とするのが伝統的だからです。

 ブランデスに5.37%分は棄権せよというのが最も早いかもしれませんが、
今度は不統一行使の問題になります。1000個の議決権保有者が537個の
議決権だけ棄権するには手続が必要であり(313条)、面倒です。

 難しいもんですね。内紛を起こさない方が楽かもしれません。


2015.03.11(水)【サプライズ演出】(仙台・立花宏)

 「○○会長の2年間のご尽力に感謝し、ここで、花束贈呈を行いたいと思い
ます」

 司会者の言葉を合図に、見事な花束をもった女性がステージへとあがってい
きました。どうやら、サプライズ演出のようです。

 会長は、驚いた表情をしながら、その見事な花束を受けとりました。そして、
司会者の指名を受け、花束を大事そうに抱えながら、感謝の言葉と退任の挨拶
を述べました。

 それは、先日、ある任意団体の定時総会に出席したときの出来事でした。こ
の2年間、その任意団体のトップとして活躍してきた会長です。多くの会員の
気持ちをひとつにまとめ、その任意団体を発展させた仕事ぶりは、まさに賞賛
に値するものでした。そのかげには、多大なご負担があったのに違いありませ
ん。

 それを理解している会員達から、せめてもの感謝の気持ちとして、花束の贈
呈が行われたのです。その華やかな演出のあと、定時総会は閉会しました。会
長、いえ、前会長の周囲にはたくさんの会員が集まり、賑やかに談笑が行われ
ていました。また、あらたに就任した新会長の周囲にも、祝福するたくさんの
会員が集まっていました。

 しかし、私の視線はそこにはありませんでした。私はある、ひとりの男に視
線を向けていました。

 その男は、会場の出入り口のところで、会場に一礼し、会場をあとにしよう
としているところでした。

 その男は前会長、そして前々会長の任期、合計4年にわたり、副会長として
二人の会長を支え、この定時総会で任期満了し、退任した男でした。任意団体
に対し、多大な貢献があったことは、前会長にけっして劣るものではないと思
います。

 その男が、ひっそりと会場をあとにしようとしていたのです。その男は私の
視線に気づき、私に向かい、頭を下げました。

 私は恐縮し、深々と礼をしました。私が頭を上げると、その男は穏やかに微
笑み、そして、もう一度、かるく頭を下げ、出口へと体を向けました。その後
ろ姿は、すこし寂しげに見えました。

 その時です。ひとりの若い女性がその男に駆け寄り、声をかけたのです。
「副会長、ちょっと待ってください」

 その若い女性は、この総会で留任が決まったその任意団体の理事でした。そ
の手には、小さな花束が握られていました。

 「すみません、小さい花束で。副会長にお世話になったみんなから、副会長
にも花束をお渡ししよう、という話になって・・・。」

 どうやら、総会の演出とは別に、有志で任意に準備したもののようです。会
場を去ろうとしていたその男は、恥ずかしそうなそぶりで花束を受け取り、丁
寧にお礼を言い、深々と頭を下げ、そして、その女性にやさしい笑顔を向けな
がら、会場をあとにしました。

 私は、そのすてきなサプライズ演出に、なにかほっとしたような気持ちにな
り、事務所への帰路につきました。


2015.03.10(火)【取締役と監査等委員である取締役】(金子登志雄)

 監査等委員である取締役は、取締役と監査役の中間のような地位であり、純
粋の取締役ではありません。選任も任期も解任も条件が異なります。

 しかし、選任の329条、報酬の361条、組織変更計画の746条などで
は、1項で「取締役」と規定し、2項でその取締役とは監査等委員会設置会社
においては「監査等委員である取締役とそれ以外の取締役」だと規定していま
すから、両方とも取締役であることは間違いないところです。

 これを前提に、新任取締役の就任承諾書に住民票等を添付せよという新商業
登記規則61条5項をみると、その取締役とは、監査等委員会設置会社におい
ては「監査等委員である取締役とそれ以外の取締役」だという規定がありませ
ん。

 そうすると、監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行し、取締役か
ら監査等委員である取締役に変わった場合は、重任ではなく「退任と就任」だ
というのはよいとして、新商業登記規則61条5項の規定による住民票等の添
付が必要なのかどうかは、まだ、はっきりしません。

 これを指摘したのは、千代田支部セミナーにおける東京法務局の方でしたが、
よくもまぁ、こんな細かいことに気づいたものです。

 登記所の最終結論がどうなるかは現時点では不明ですが、会社法を前提とす
れば、「監査等委員である取締役とそれ以外の取締役」とは分けて考えよとい
うことですから、住民票等が必要だという結論になるでしょうが、これも再任
だとされる余地もあり、結論はどうなることやら。

 いざ、実務となると、こういう不明点が大量に出てきます。それを本にする
のですから、もし間違っていたら………という不安との戦いです。最後は、命
までは取られまいと居直るしかありません。


2015.03.09(月)【新著「改正会社法の実務論点」】(金子登志雄)

 3月12日の発売のようですが、下記を上梓します(上記のトピックスでも
触れておきました)。

  http://www.tsknet.jp/doc/topics/book_201503.pdf
  http://www.tsknet.jp/ のトピックス

 目次の一部は次です。
---------------------------------------------------------------------
第1講:会計限定監査役である旨が登記事項に
第2講:社外取締役等と責任限定契約と登記
  第2講(附録1):社外取締役等と株主総会の招集
  第2講(附録2):社外取締役強化の監査等委員会設置会社
第3講:募集株式等の総数引受契約
          (後略)
---------------------------------------------------------------------

 このように、監査等委員会設置会社とは無縁な99%以上の司法書士等の実
務家向けの内容です。

 2月6日の登記通達の発表後は、ずっと、こればかりやっていました。まさ
に誰も踏み切んでいない未知の世界に足を踏み入れるようで、登記所ですら今
後の運用を模索しているのに、実務本を書くのですから、書いては訂正、書い
ては追加で、たいへんでした。

 70頁にも満たない小冊子(1冊1000円)ですから、1時間で改正会社
法実務のポイントが分かります。ぜひ早めにご注文ください。


2015.03.06(金)【旧姓記載申出】(金子登志雄)

 「取締役 現姓良子(旧姓良子)」などと旧姓の登記が認められましたが、
そんなにニーズがあるのでしょうか。

 電車に女性専用車両が設けられたとき、某女性が「専用車両に乗らないと、
痴漢OKと思われやしないかと心配だ」と話していましたが、この登記も、旧
姓の登記がないと、「ワタシ、未婚です」と公示しているようなもので、決し
て女性にとって歓迎すべき登記とは私には思えません。

 さて、この登記申請ですが、下記のようにせよということです(3枚目)。

    http://www.moj.go.jp/content/001132285.pdf

 こんな長い文章、電子申請のときに困ります。法務省は電子申請を推進して
いたのではないでしょうか。

 条文では確かに申請書に申出事項を記載せよとありますが、登記すべき事項
も申請書の一部ですから、「登記すべき事項に記載のとおり旧姓の記録を申し
出ます」と書くだけで十分であり、戸籍抄本等も添付書面欄に1通と書けば済
むことです。

 依頼があったら、私は上記のようにしてみますが、たぶん、大丈夫でしょう。


2015.03.05(木)【新株予約権と株式併合】(金子登志雄)

 新株予約権の発行後に株式分割が行われたら、新株予約権の目的たる株数な
どがどうなるかということはよく問題とされますが、めったにない株式併合の
場合は、問題視されることが少ないといえます。

 では、みなさん、次の場合、すなわち、1個1株は、2株を1株に併合した
場合にどう変化しますか。

----------------------------------------------------------------------
新株予約権の目的である株式の種類及び数
 当社普通株式とし、各新株予約権の目的である株式の数(以下、「付与株式
数」という。)は1株とする。なお、当社が当社普通株式につき、株式分割又
は株式併合を行う場合、次の算式により付与株式数を調整するものとする。
  調整後付与株式数=調整前付与株式数×株式分割・株式併合の比率
 なお、上記の調整の結果生じる1株未満の端数は、これを切り捨てる。
----------------------------------------------------------------------

 1個1株が1個0.5株に変化するが、端数切捨てで、1個0株ですね。実
は上場会社を含め、こういう事例が大多数です。

 「各新株予約権の目的である株式の数=付与株式数」とせずに、「行使した
新株予約権の目的である株式の数=付与株式数」とすれば、2個行使した場合
は1株を交付されたのに、定め方のミスです。

 もっとも、上場会社の場合は、株式併合をほとんど致しませんし、したとし
ても、1個100株(1単元株数のこと)と定める例が多いので、2株を1株
に併合しても、1個50株になるだけですから、現実の問題にはなりません。

 しかし、3株を1株に併合すると、端数切捨てで、1個33株になります。
3個行使すると99株です。

 もし、端数を切捨てないと、1個3分の100株ですから、3個行使すると
100株取得できます。

 やはり、「各」新株予約権、つまり1個当たりの株数を調整するのは問題あ
りというべきでしょう。1個当たりではなく、行使個数に対応した株数の端数
が生じたときは切り捨てるという内容に変えるべきではないでしょうか。


2015.03.04(水)【インターネットの弊害 】(島根・根来川弘充)

 インターネットが普及しはじめたころ、ある方から、その利便性について、
「必要な人に必要な情報が、ダイレクトに、かつ、瞬時に取得することが出来
ることだ」と聞きました。

 今までは、それを恩恵として受けてきた気がしますが、『イスラム国』の勢
力が拡大している現状は、それが弊害になり、さらには脅威となって、大変不
安に思います。

 今となっては、インターネットが無かった時代の方が良かったのではとさえ
思う時もあります。

 具体的に一番問題に感じますのは、一度流出した情報を回収することが極め
て困難である点です。

 自分にとって不要な情報であれば見なければ済む話かも知れませんが、それ
を必要とした人が身近にいる場合、自分の意思にかかわらず目にしてしまうこ
とになります。

 もはや見ないで済むということでは無く、「いつでも嫌な情報に触れるもの
なのだ」という覚悟がいる時代なのかも知れません。


2015.03.03(火)【再任と住民票等】(金子登志雄)

 新役員の就任承諾書に住民票等が要求されてから2日経ちましたが、まだ未
経験です。それが不要の辞任や再任ばかりだったからです。

 この再任概念ですが、古い登記研究に「重任と権利義務者の再任に限る」と
あるようですが、どうして勝手にそんなことを決めるのでしょうか。そう決め
たのであれば、そのように商業登記規則に規定すべきであって、「再任」と規
定した限りは、世間一般の人の解釈と同様に、過去に同一役職を経験した人が
再度同じ役職に就任した場合と解釈すべきです。そうでなければ規則の信頼性
も権威も失墜するばかりです。

 上記の狭義説では、辞任して権利義務者にならなかったが未登記の場合に再
選された場合は住民票が必要だということになりますが、登記所からみても、
権利義務者の再選と大差がないのに、大きな差別です。

 数日前に辞任し辞任の登記済みの人が再選された場合などは、「つい先日、
住民票を出したばかりじゃないですか。また、もう1度出せというの」と、本
人申請であれば登記所に食ってかかることでしょう。

 私は同じ登記所内の履歴事項の登記記録に登載されていることが明白であれ
ば再任に含めてかまわないという説で、これまで、それで動いてきました。ま
だ数度しか経験がありませんが、一度も登記所からの異議もありませんでした。

 今後、この再任の範囲があちこちで問題になると思うのですが、私見のよう
に運用して頂きたいものです。また、もし、それが不可というなら、「印鑑証
明書あるいは住民票等は平成〇年〇月〇日申請の登記申請で提出済み」という
証明でよいことにしてほしいものです。

 ちなみに申請書その他の附属書類の保存期間は5年間です。しっかり探し出
してください。



2015.03.02(月)【一般社団の役員欄】(金子登志雄)

 家には仕事を持ち込まないという人も多いようですが、私は全く逆で、ほと
んど家で仕事をし、午後にしか行かない事務所は顧客と応待したり、座ったま
ま昼寝する場所になっています。若い頃から完全な夜型で、電話もかかってこ
ない深夜にならないと目が覚めません。

 この土日もそうでしたが、かばん(実際はリュック)には、常時、仕掛り中
の仕事の材料とノートパソコンが入っています。電話も、携帯電話で済ますこ
とがほとんどです。

 こうしていないと、顧客からの問い合わせや、登記所からの電話に対して、
さっと資料を出せず、「あとで資料を確認し、こちらから電話します」という
ことになりかねず、効率が悪いからです。

 昨日はメールの添付ファイルで送られてきた一般社団の定款チェックでした。
一般社団は私のところにはほとんど依頼がないため、新鮮な感覚でした。

 会社の監査役に対応する監事の任期が、補欠でなくても、定款で4年未満に
できること、監査の範囲を会計に限定することができる旨の規定がないこと、
指名委員会等設置一般社団法人も、監査等委員会設置一般法人もないことも確
認しました。株式会社の知識があるので、それと比較するため、すぐに記憶で
きました。

 ところで、法律知識とは無関係ですが、一般社団の役員欄につき、登記記録
例によると株式会社と類似して、理事、理事、・・・代表理事の順序になって
いるのに、なぜ、当面の取扱いが下記になっているのか、こればかりは判明し
ませんでした。不思議です。 

     http://www.moj.go.jp/MINJI/minji166.html


2015.02.27(金)【本人確認書類】(金子登志雄)

 やっと改正会社関係の商業登記に関する通達も出そろったようで、今日から
取締役等の就任承諾書に住所証明書等が必要になりました。

 一番心配であった再任の場合につき、住所証明書等は不要でも就任承諾書に
住所の記載が必要に変わったのかもしれないという疑問点は従来どおりのよう
で、ひとまずほっとしています。

 偶然ですが、今月は代表取締役等の住所の移転登記を何件か担当しました。
何の証明書の添付も必要ありません。委任状に、どこにいつ引っ越したと書い
ていただければ、それで足ります。

 新規就任のときは住民票等を要求しながら、住所移転には何の証明もいらな
いのはおかしいじゃないかと思うでしょうが、おかしくはありません。住民票
等の添付は実在証明のために添付するのであって、住所を証明するためではな
いからです。

 したがって、外国に居住する外国人を取締役等にする場合のように住所の証
明が困難なときは、成人の日本人2人に「〇〇は間違いなく実在します」など
といった証明で代用させてもよいと思うのですが、実在証明に住所の証明の方
法を採用してしまったため、手続が面倒になってしまいました。

 ところで、やや脱線ですが、何かの際に「ご本人確認のために運転免許証で
も」といわれた際に、写真付きの司法書士の会員証を出しましたら、「公的書
面ではないので、これでは困ります」といわれた経験があります。

 思わず苦笑してしまいましたが、それ以来、国立大学の学生証は公的書類に
なり、私立大学のそれは該当しないということになるのかという疑問を持って
いますが、どうなのでしょうか。


2015.02.26(木)【許認可と代表取締役の予選】(金子登志雄)

 24日は大学の先輩に引き連れられて、有名だという銀座の小料理屋さんに
行ってまいりました。おいしかったのですが、味音痴の私には、もったいない
ことでした。

 さて、私のところにも、3月31日に代表取締役である取締役の辞任、4月
1日に新代表取締役の就任という事案がいくつか入ってきました。予想どおり
でしたが、旬ですね。

 お任せください、こういうときは、株主総会で代表取締役を選定できるよう
に定款を変更して・・・と話し、ほとんどこれで済むはずでしたが、某社より、
「え、定款変更? 許認可の関係で、定款変更の都度、官庁に届けなければな
らない子会社があった場合はどうするの?」と鋭い質問をされてしまいました。

 すぐに定款を廃止するとしても、届けないわけには行かないでしょうから、
書面決議等の代案で処理するしかありません。

 金子案は万能ではありませんでした。むずかしいものですね。



2015.02.25(水)【まだまだこれから】(仙台・立花宏)

 先日、東北地方で、比較的大きな揺れを感じる地震がありました。津波注意
報も出たようです。

 その地震のとき、私は事務所で仕事をしていました。体の芯に響いてくるよ
うな揺れに不安を感じ、私は、身を固めたまま、その場から動くことができま
せんでした。

 あの、東日本大震災が思い起こされたからです。
 すると、事務所の同僚が、さっと事務所の出入り口のところに行き、ドアを
開けました。避難路を確保したのです。その冷静な行動に感心させられるとと
もに、私はなにもできなかった自分の意気地の無さを恥ずかしく思いました。

 ニュースでは、その地震が、東日本大震災の余震とみられると報道していま
した。

 余震の数はずいぶん少なくなったと思いますが、余震があるたびに、あの恐
ろしさがよみがえります。こころの面でも、東日本大震災は、まだまだ、私た
ちにとっては終わっていないことを感じさせられます。

 そして、司法書士業務を行うにあたっても、東日本大震災がまだまだ、終わ
っていないと実感させられることがあります。

 私たち司法書士は、お客様がご自宅を購入されたとき、不動産登記のご依頼
をいただくことがあります。普通に考えれば、とてもおめでたいことであり、
ご依頼いただく私たち司法書士も、とてもうれしく感じることが多いといえま
す。

 しかし、そのご依頼をいただいたとき、必ず確認することがあります。それ
は、そのご自宅を購入する理由です。

 前にお住まいだったご自宅が東日本大震災で被災し、その代替建物としての
取得でないのかどうかです。

 つまり、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する
法律」、いわゆる、「震災特例法」の適用があるかどうかを確認するのです。

 もし「震災特例法」の適用がある場合、その登記をする際の登録免許税が免
除となります。被災地である宮城県では、まだまだ、こういったケースがたく
さんあるので、必ず確認をするようにしています。

 この「震災特例法」は、平成33年3月31日まで受ける登記に適用があり
ます。

 少なくともそれまでは、私たち司法書士は、東日本大震災のことを忘れるこ
とはできないといえるしょう。

 そして、この「震災特例法」は被災地のみで適用があるわけではありません。
東日本大震災により、自宅等が被災され、被災地以外の場所に、代替建物を取
得される場合にも適用があります(※)。被災された方が被災地から遠く離れ
た地方で代替建物を取得される場合にも適用があるのです。

 この特例は、適用せずに登記してしまうと、あとで登録免許税の還付を受け
ることはできません。登記をお受けになられる方はもちろん、全国の司法書士
の先生方も、今一度、ご注意をお願いできれば幸いです。
 
(※)適用があるかどうかは、いろいろ要件等があります。詳しくは、法令を
ご覧いただくか、法務省等のホームページ等をご覧いただければと存じます。


2015.02.24(火)【代表取締役の予選の基準日】(金子登志雄)

 そろそろ、3月決算会社の3月末日及び4月1日付の人事異動が決まる頃な
のか、就任承諾書の住民票問題や、代表取締役の予選問題に関する問い合わせ
が増えました。商業登記倶楽部の質問コーナーにも代表取締役の予選の可否に
ついて、不安な質問が寄せられていました。

 例えば、取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社で、Aを3月末
日付で辞任させ、後任としてDを4月1日付で選任する臨時株主総会を招集す
るとともに、4月1日からの代表取締役をBと選定したとき、この代表取締役
の予選は認められるかという問題があります。

 これについては、登記情報2月号で、法務省商事課とわれわれとの座談会の
議論でお分かりのとおり、商事課内でも意見の相違があるようですが、多数意
見は否定説のようでした。

 有名な京都の司法書士内藤さんのブログにもコメントがありました。

  http://blog.goo.ne.jp/tks-naito/s/%CD%BD%C1%AA

 さすがです。あの座談会記事で、見解の相違点の所在を見事に指摘していま
した。

 そうなんです。われわれは、予選を「選定の効力発生日を選定時期より後ろ
に置いただけ」という期限付きのものと理解していましたが、商事課多数意見
は、効力発生日の4月1日を基準日に置き、本来、4月1日に開催すべき取締
役会を前もってしたのが予選だとお考えのようです。そのため、予選は選定時
と効力発生時とで取締役会の構成メンバーが変わらない場合に例外的に認めら
れるものだという見解になるようです。

 構成メンバーの一致は、全員が任期切れする定時株主総会を間に挟む場合だ
けの基準かと思っていましたが、そうでない場合にも、同じ基準であることが
座談会で示されました。

 予選の概念の捉え方も基準日も相違するのですから、これでは議論が平行線
になるのも無理がありません。

 なお、念のため、登記情報にもあるように、あの座談会は、個人的見解によ
るフリーなものです。だからこそ、背景の考え方まで分かり有意義でした。


2015.02.23(月)【リムーブ】(金子登志雄)

 お客様、とくに会社の総務担当者あたりから「合併などはじめての経験で」
などといわれることが多いのですが、私の返答は「それが一番助かります。生
半可に知っていると、契約書を自作したり、あれこれ問い合わせを受けて、や
りにくくて困ります」などと答えることにしています。

 公認会計士で、簿記3級はかわいいが、2級は反論してくるから困るなどと
言う方もおりました。

 生半可な知識が一番困るという点では、土曜日の深夜に経験してしまいまし
た。

 仕事用に常時携帯しているノートPCの接続であるWIMAXがどうも不調
で、インターネットもメールもみられません。これでは仕事にならないと、さ
まざま手を尽くしました。深夜ですから、誰からもアドバイスを得られません。

 プログラムからWIMAXを探し出し、アンインストールしないように、右
クリックなどしておりましたら、「変更」とか「修復」という案内が出ていま
したので、クリックしましたら、英文が登場し、そこに「remove」とあ
りました。

 どんな意味かご存知ですか。私の苦手な英語の知識では、「re」は「再び」
で、「move」は「動く」でしたから、そうか「また、正常に動くようにす
る」意味だろうと思って、これに触れてしまいました。事前の「修復」に引き
ずられてしまいました。

 もう遅い、アンインストールされ、完全にお手上げでした。翌朝、あちこち
に電話しまくり、何とか自宅にいたまま再インストールすることができました
が、ネット辞書によると、動かすという意味もありましたが、主として「取り
外す」という意味の方が多いようでした。

 完璧な英語オンチであれば、危ないところに近づかないのに、生半可に自己
流の解釈をするのは最も危険だと再認識し、こういう行動は以後リムーブしよ
うと堅く誓ったのはいうまでもありません。また、やりそうですが………。


2015.02.20(金)【大盛況セミナー】
(金子登志雄)

 昨日は夕方から東京法務局の登記官を迎えて不動産登記と改正会社法に関す
るセミナーがありました。主催は私の所属する東京司法書士会千代田支部です。

 開始は6時半でしたが、6時20分に私が会場に着いたときには、もう満杯
で400人以上はいたでしょうか。遅れてきた方には、配布するレジュメもな
いほどの大盛況でした。

 不動産登記の解説もあったため、参加者全員が改正法目当てとは限りません
が、さすがは首都圏の中心部に位置する千代田支部です。上場会社を顧客に持
つ司法書士も多いので、改正会社法のセミナーといえば、強い関心があるので
しょう。

 ただ、時間が限られていたため、改正法の概要の解説が主であり、各論につ
いては、登記所自体もまだ施行錯誤中のようでした。これは仕方ありません。
東京法務局だけで判断し決定することができないからです。

 例の就任承諾書の住民票問題にも少し触れていましたが、案の定、外国に居
住する外国人の住民票については苦心しているようでした。実在証明では足り
ずに住所まで証明しなければならないことになったからです。

 まだ2か月以上あるとみるか、もう2か月しかないとみるか、改正法の施行
日である5月1日が徐々に近づいてきました。



2015.02.19(木)【本店住所の変更】(金子登志雄)

 本店の登記が旧地番か不明ですが、「〇〇町100番2号」とされたものを
正しい住居表示で「〇〇町3番4号」と改める変更登記を経験したことがあり
ますが、これは更正登記かと迷いました。

 よくあることですが、本店移転する際に仲介に立った不動産屋の重要事項説
明書に所在地として「〇〇町100番2号」とでもあったのでしょう。そのま
ま本店移転登記をしたら、正しい住居表示は「〇〇町3番4号」だったなどと
いうことがあります。あるいは、それを知りながら、「〇〇町100番2号」
で登記するのが正しいと思って登記した場合もあります。

 変更の登記で申請しましたが、もし法務局から「更正ではないか」と電話で
もかかってきたら「錯誤とはBのつもりでAと登記した意思と表示の不一致の
場合だが、AのつもりでAとして登記したので錯誤がない」と主張するつもり
でした。錯誤の方が登録免許税上は申請人に有利ですが、申請人の認識には反
します。

 無事に変更登記で終わりましたが、これに関連して、「千代田区神田小川町
三丁目26番地野村不動産神田小川町ビル」となっていたとき、このビル名変
更に伴い「常和神田小川町ビル」に変更するには、取締役会議事録が必要かと
いう論点があります。

 本店登記は本店移転登記で明白のように、現実の事実を正しく表記すること
だと考えれば事実の変更に伴う変更だから不要説になり、現実に変更した事実
をどう表現するか(例えば、一丁目2番3号と表記するか、1-2-3と表記
するか)や、どこまで表記するか(ビル名を入れるかどうかなど)は決定事項
だから、それと同様に、ビル名変更でも取締役会決議が必要だという見解にな
るのではないでしょうか。

 もっとも、私見では、少なくともビル名の名称変更程度は、決定事項だとし
ても重要な決定事項ではないため、代表取締役の決定で十分だというものです
が、ビル名の削除は、現実の事実をどう表現するかの問題のため、取締役会の
決定事項だと思っています。 



2015.02.18(水)【登記相談方法】(金子登志雄)

 東京法務局から東京司法書士会に要請が入ったようです。
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 従前から、貴会会員の皆様方からの登記相談については、相談票、関係資
料及び資格者代理人としての見解等を示していただいた上で、窓口相談で対
応させていただく旨、お願いしているところですが、一部の会員からの、見
解も示さない口頭のみの相談や、電話による相談など、いまだ徹底されてい
ない状況にあります。つきましては………
--------------------------------------------------------------------

 ごもっともですね。プロなら「こういう資料もあり、私はこれでよいと考
えますが、いかがでしょうか」と質問すべきであり、「できますか、できま
せんか」の質問なら、素人も同然です。

 当グループのT先生は慎重で、多くの資料を持参し、よく相談窓口に行く
ようですが、不精な私は年に1度あるかどうかです。それも会社から、念の
ため確認してきてほしいと頼まれた場合がほとんどです。

 しかし、今度の改正会社法については質問したい事項がたっぷりあります。
私見と登記所の見解が違ったら、私に相談した人に申し訳ないからです。相
談に伺いたいのですが、登記所自体も現時点では見解が固まっていないでし
ょうから、時間待ちです。いま質問して、「現時点では貴見のとおりと思う
が、今後、変わる可能性もある」といわれても、こちらも困ってしまいます。

 結局、公権解釈も見定められずに、セミナー講師を引き受け見解を発表し
てしまうハメに陥りますが、平成18年の会社法施行時は、無謀にも法務省
の「1問1答」より先に解説書を出しましたし、平成19年の「組織再編の
手続」の際も類書はありませんでした。今回もそれで行くしかなさそうです。



2015.02.17(火)【官報公告期限】(金子登志雄)

 2月のちょうどいま頃は、4月1日付組織再編につき、合併公告や減資公
告などの債権者異議申述公告を官報屋さんに依頼しなければならない時期で
す。公告期間が1か月も必要ですから、2月中が限度です。

 ところが、上場会社系の会社は、子会社の合併でも取締役会で決定するま
では公告を依頼してはいけないことが多く、慣れている私でも、やきもきさ
せられてしまいます。公告だけは忘れたりミスしたら、取り返しがつかず、
組織再編自体が出来なくなりますから、早めに依頼しておき、ミスも早期に
発見ておきたいのですが、取締役会で決定するまでは、ゴーサインを出して
くれません。

 あせっているのは会社の担当者も同じであり、よく「早いうちに枠取りだ
けはお願いします」などといわれることがあります。

 何を勘違いなさっているのかと思い、昨日、官報屋さんに確認しましたら、
新聞公告との勘違いだそうです。新聞公告は早めに枠を確保しておけば、そ
こに文字の大きさ等を調整してバランスよく公告を掲載することができます
が、官報の場合は、文字の大きさも指定されているため、枠の確保という制
度がありません。単に、期限までに注文すればよいだけです。その代わり、
満杯で受け付けしないということもありません。

 この2月は28日が土曜日のため、官報の最終掲載日は27日になります。
号外に掲載される決算公告や解散公告は、もう2月中の掲載は間に合いませ
ん。決算公告をしていない会社が合併公告や減資公告の横に貸借対照表の要
旨を掲載する方法も号外への掲載ですから、4月1日を効力発生日とするも
のは間に合いません。どんなに頼み込んでも、ダメよ、ダメダメ~のあけみ
ちゃんです。


2015.02.16(月)【出版印刷不況?】(金子登志雄)

 土日は相変わらず改正会社法の個別論点と格闘しておりました。せっかく
原稿に仕上げたのに、ふと何かの拍子に、新たな疑問や間違いに気づいたり
しますので、またもや、ああでもない、こうでもないという自問自答の作業
の繰り返しがはじまります。

 しかし、ありがたいことです。原稿依頼がなければ人並みに表面的な知識
の習得で終わったのに、依頼による原稿書きによって、この格闘作業がはじ
まり、それを乗り越えれば、人並みの一歩先に進むことができます。老化の
防止にもなりそうです(煙草の吸引量は飛躍的に増えますけど)。

 その成果は3月中には形にして発表しますので、内容のご紹介は、その時
までお待ちください。

 さて、金曜日は中央経済社さんが3つの拙著の増刷本を持ってきてくれま
した。この増刷がないと売行きの悪い本ということになりますが、おかげさ
まで、過去の拙著のほとんど全部が増刷されており、出版社に対して顔向け
できない事態には陥っていません。

 ただし、印税生活には程遠い世界です。法律実務書は1万部に達すること
はまずありません。数千部も出れば御の字の世界です。しかも、インターネ
ット時代の進行により、本が売れなくなったためか、あるいは多品種少量生
産になったのか最初の部数も増刷部数も急減しました。昔は、いま忙しいか
ら、半年、1年待てなどという強気の立場だった印刷屋さんも、いまでは少
量の印刷も引き受けるように変わっているそうです。何の商売も栄枯盛衰が
あるものです。


2015.02.13(金)【社外性喪失】(金子登志雄)

 6日に発表された登記記録例はほとんどの司法書士がみていると思います
が、違和感を感じた部分はありませんか。

 私は年の功で、「まさかぁ」と直感した部分がありました。改正法附則4
条で「この法律の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終
結の時」に社外取締役でなくなる登記例の原因年月日が「平成27年10月
1日社外性喪失」になっているのです。

 つまり、平成27年10月1日が定時株主総会の日になっているわけです
が、月初に定時株主総会を開催する例はまずないでしょう。

 登記記録例の原因年月日は10月1日か4月1日に統一されていますので、
揚げ足取りだというのは重々承知していますが、この部分だけでも、現実に
ありそうな6月下旬の日付でしてほしかったと思っています。

 私も何冊か本を出していますから分かりますが、すぐにこういうことを出
版社に指摘してくる読者がいますので、出版のときは細心の注意を払います。

 その習慣からか、設立定款に関する顧客案に対しても、「および・または」
と「及び・又は」、「ただし」と「但し」が混在しているなどということも
指摘してしまうため、きっと、うるさい奴だと思われていることでしょう。

 話を戻しまして、この社外性喪失とは社外取締役や社外監査役が社外の要
件を満たさなくなった場合の登記ですが、これまでは「平成〇年〇月〇日業
務執行」、「平成〇年〇月〇日使用人兼任」などと具体的な根拠を登記する
ことになっていましたが、今後は一律に「社外性喪失」という登記になるよ
うです。

 「社外性喪失」よりも「社外性卒業」のほうが現代風で親しみやすい登記
になったのにと思った方もおられるかもしれませんね。


2015.02.12(木)【執筆疲れ】(金子登志雄)

 6日に改正会社法に関する登記通達と登記記録例が発表されたために、執筆
活動が急に忙しくなってきました。土日も昨日も終日書き物三昧でした。

 好きな仕事ですから苦にはならないのですが、長時間経つと文字がかすんで
見えなくなってくるので効率が上がらず閉口しています。

 歳のせいですが無理もないですね、12時間以上、パソコンとにらめっこし
ているのですから目への負担は大きいでしょう。

 これとは全く無関係でしょうが、煙草飲みは花粉症にならないという固い信
念も数年前に崩れてしまい、ただいま目薬を常時携帯するようになってしまい
ました。

 原因の花粉は何かダストかなどを調べるため医師に行きましたら「原因が分
かっても一生治らないよ」と冷たく宣告され、そのままです。

 われわれも「なぜ登記することができないのだ」と顧客にいわれたら、「理
由を知っても、永久に登記できませんよ。それでも理由を知りたいですか」と
冷たく応えてみたいものですが、そんなことをしたら、明日からの仕事がなく
なります。

 昔の司法書士は「通達でダメだとされている」という理由だけでも済んだで
しょうが、国家資格になった今の司法書士の世界では、「通達ではこうなって
いますが、これはこういう背景事情のもとでの結論ですから、今回の事案には
適用されませんので」くらいは説明できないと顧客が満足してくれなくなりま
した。

 あれ、話が違う方向に発展してきてしまいました。やはり執筆疲れがあるよ
うです。


2015.02.10(火)【地方の事業承継】(島根・根来川弘充)

 どこの町にも長く続き、町の人に愛されているお店があると思います。私が
住んでいる町にも何軒もあります。

 しかし、その中には、後継者問題になやみ、「今後10年内には無くなって
しまうのではないか。」というお店も少なくありません。

 そのお店の経済効果を考えると、売上だけでなく、雇用そして消費とありま
すので、もし、無くなってしまったならば、町にとっての大きな損失と言える
と思います。

 少し大げさと思われるかもしれませんが、私としては、町の衰退につながり
かねない大きな問題になるのではと不安にさえなります。

 一司法書士として、少なからず会社のお仕事をさせていただくのですが、こ
こ近年は、「この会社は、どの様に引継ぎをされるのだろう。」と気になる会
社が増えてきたように感じます。

 事業承継の問題は、企業が淘汰される都会よりも、地方の方が、より真剣に
取り組まないといけない問題なのかも知れません。


2015.02.09(月)【登記と文字数】(金子登志雄)

 新商業登記規則の改正で、旧姓の併記が認められますが、登記は次のHPの
中央部分に登記記録見本があります。

   http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00085.html

 さて、司法書士のベテラン度チェックです。この記録見本におかしいところ
はありませんか。

 どうでもよいことですが、設立段階でも、氏名の記載が就任年月日欄と縦の
列で重なることはありません。

 通常、取締役等の氏名は、3文字、4文字、5文字、6文字で登記記録に次
のように表記されます。

 取締役□□□□□■□□■□□■
 取締役□□□□□■□■□■□■
 (社外取締役)
 取締役□□□□□■□■□■□■□■
 取締役□□□□□■□■□■□■□■□■
 代表取締役□□□■□■□■□■

 会計参与や会計監査人になると、上記のスペースを置いたり置かなかったり
しますが、取締役や監査役の氏名では、上記が通例です。

 そして、この氏名はスペースを入れて13文字が限度です。次です。

 取締役□□□□□■■■■■■■■■■■■■
 
 とすると、東海林まさ子(仮名)さんの旧姓が金田一だったとすると、

 取締役□□□□□東海林まさ子(金田一まさ子
         )

 と、右カッコだけはみ出すのか、

 取締役□□□□□東□海□林□ま□さ□子
         (金□田□一□ま□さ□子)

 取締役□□□□□東□海□林□ま□さ□子
         (金田一まさ子)

 などと便宜的になされるのか、勅使河原さんや小比類巻さんはどうなるのか
と私は真剣に心配しているのですが、こんなことに気づいてしまう私は、やは
りオタクなのでしょうか。

 それはともかく、執筆を生業としていると、こういうことを早期に知らねば
なりません。法務省HPと相違し、社外取締役の記載に準じて、全て氏名の真
下に置かれる上記最後の2行形式になる可能性も高いのではないでしょうか。

 ちなみに、6日に改正会社法下の登記記録例が発表されましたが、11文字
の「監査等委員である取締役」については、どうなるのかと気になっていまし
たが、7文字目で改行し、次のようになりました。

 取締役・監査等□東□海□林□ま□さ□子 
 委員


2015.02.06(金)【新設型再編と就任承諾書】(金子登志雄)

 私が問題視している再任の場合の議事録の援用は従来どおりか(住所の記載
がなくてよいか)については、登記所の現場の方々はそう理解しているようで、
少しほっとしています。

 これによれば、非取締役会設置会社の取締役が就任するときも、住所なし就
任承諾書に個人の実印を押し、印鑑証明書を添付すればよさそうですが、新規
則61条5項ただし書の趣旨が、どちらかは、いずれ判明するでしょう。

 さて、新設型再編、例えば新設分割の計画には、「設立時取締役の氏名」を
記載することになっていますが(会社法763条)、住所までは不要です。

 そこに設立時取締役としてAを記載すると、登記申請の際には、Aの住所付
就任承諾書と住民票等が必要になります。

 パブコメの回答によると、就任承諾書に住所を記載しないと個人の特定にな
らないので、記載が必要だとのことです。

 確かに同姓同名者は存在しますが、この場面で同姓同名者が現れる確率は限
りなくゼロに近いでしょうし、登記においても、新設分割計画で選任されたA
と就任承諾書のAとの同一性の証明までは要求されていません。就任承諾書の
Aと住民票等のAの同一性だけを求める意味があるのでしょうか。

 登記は書面審査であり、申請人が提出した書面は正しいという前提で成り立
っています(そうでないと、警察のように調べ尽くさないと登記が永久に終わ
りません)。

 新設分割計画で選任されたAと就任承諾書のAは同一人物だとして申請人が
書面を提出すれば、これを信じて事務を進めるわけですから、仮に就任承諾書
に住所を記載しなくても、住民票等で実在証明をさせる意義があるわけです。

 というわけですので、せめて、従来どおり再任の就任承諾書には住所不要と
いう運用を望んでいます。

 なお、本欄読者の方の中にあっては、住所の記載程度で大げさな………と思
った方もいらっしゃるかもしれませんが、ご自分が経営者になった場合をお考
えください。司法書士から住民票や運転免許証の写しはまだかとしつこく迫ら
れ、その手間暇分まで報酬として請求されかねないのです。


2015.02.05(木)【再任就任承諾書の形式】(金子登志雄)

 昨日の本欄は、勉強熱心な司法書士各位に不安を与えてしまったようですが、
今日は、私が昨日の杞憂に至った理由につき、説明します。

 周知のとおり、商業登記法54条及び商業登記規則61条では、就任の登記
申請に次のものの添付が要求されています(委員会設置会社を除く)。

 A型:非取締役会設置会社の取締役と取締役会設置会社の代表取締役 
          →→「就任承諾書+印鑑証明」
 B型:監査役と取締役会設置会社の平取締役
          →→「就任承諾書」
 C型:会計参与と会計監査人
          →→「就任承諾書+資格証明書」

 ここで、B型についても、「就任承諾書+住民票等」にしたのが新制度です。

 現状では、ABC全てで就任承諾書に住所の記載が不要です。ですから、私
はパブコメでも、就任承諾書に住所の記載が必須であるかのような改正案はい
かがなものかと意見を出したわけです。

 しかし、どうも法務省と認識ギャップがあったようです。上記のA型とC型
は異なり、C型は就任承諾書の形式とは無関係に資格証明書が要求されるのに
対し、A型は印鑑証明の添付の要求が就任承諾書に実印を押させる根拠になっ
ています。

 私の当初の認識は、C型を前提としており、住民票等の添付が必要でも就任
承諾書に住所の記載は不要だというものでしたが、法務省の認識はA型だった
ようで、住民票等の添付を要求するということは就任承諾書には住所が必要だ
という前提だったものと思われます。

 こうして、「取締役等の就任(再任を除く)の登記申請には、住所付就任承
諾書に住民票等を添付せよ」というA型の新規定となったわけですが、次なる
私の関心は、この「再任を除く」の部分になりました。法務省見解は、次の乙
説ではないかという不安です。

 甲説:再任の場合には住所付就任承諾書である必要もなく住民票等も不要だ。
   なぜなら、住民票等を添付するときのみ住所付という趣旨だからだ。

 乙説:再任の場合は住所付就任承諾書のみでよく住民票等は不要だ。
   なぜなら、新任と再任で就任承諾書の形式が異なってはならないからだ。

 就任承諾書「及び」住民票等という規定であれば、甲説か乙説か不明ですが、
規定振りは、就任承諾書の住所「に」住民票等を添付せよですから、乙説では
ないかと思った次第です。 

 乙説に対しては、取締役・監査役の場合と会計参与・会計監査人の場合とで
就任承諾書の形式が異なる根拠は何かという議論を呼び込みますので、甲説で
あってほしいと願っていますが、甲説であったら、そもそも論として、実在し
た人間であるとの資格証明(?)として住民票等の添付が必要なわけだから、
C型として就任承諾書に住所の記載を要求する必要はないはずだと元の議論に
戻ってしまいます。さて、実務の運用はどうなるか。


2015.02.04(水)【再任の就任承諾書】(金子登志雄)

 司法書士にとっては周知でしょうが、昨日は商業登記規則の改正が公布され
ました。例の就任承諾書の住民票等の添付問題です。

 官報
http://kanpou.npb.go.jp/20150203/20150203h06464/20150203h064640001f.html

 法務省HP
   http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00085.html

 住民票に限らず運転免許証の写しでもよくなり、ほっとしたのも束の間、次
の文章に、釘づけになりました。私の想定と相違したからです。

----------------------------------------------------------------------
※ 株主総会議事録に当該取締役等の住所の記載がない場合には,別途,当該
取締役等が住所を記載し,記名押印した就任承諾書の添付が必要となります。
----------------------------------------------------------------------

 今まで私は、新就任の取締役候補者だけは、総会議事録に住所を書き、住民
票等を添付すればよいのだなと軽く考えていましたが、どうも、法務省見解は、
「登記に必要な就任承諾書であるためには、住所のないものは認めない」とい
うお考えのように感じました。

 そうすると、重任者(及び再任者)についても、総会議事録に住所の記載が
ないと、「別途,当該取締役等が住所を記載し,記名押印した就任承諾書の添
付が必要となります」ということでしょう(住民票等は不要でも)。

 私の杞憂であることを望んでいますが、これまでの役員変更登記の運用が大
きく変わりそうです。〇〇さんの住民票の取得が遅れているので、2週間以内
に登記できないという例も増えそうです。


2015.02.03(火)【1人取締役の解任】(金子登志雄)

 会社法になってから、取締役が1人しかいない株式会社も肯定されるように
なりました。上場会社の子会社にも、こういう例が少なくありません。

 さて、こういう会社のたった1人の取締役(社長)Aを解任し、登記申請す
ると、どのような手続が待っているでしょうか。

 司法書士なら知っている方も多いと思いますが、平成15年5月6日付法務
省民商第1405号通知(役員全員の解任を内容とする登記申請があった場合
の取扱いについて)というものがあります。

 これによると、申請を受けた登記所は「〇〇会社A様」宛で、「解任の登記
が申請されている」旨をお知らせすることになっています。 

 この通知は、株式会社には取締役が3人以上で監査役が1人以上必要だった
会社法施行以前のものであり、会社法施行以後の100%子会社で、雇われ社
長のA1人しかいないような会社を想定していなかったと思いますが、形式的
にみれば「全員の解任」になりますので、当方で、100%子会社だと説明し
ても、登記所はお知らせを出す運用をしています。

 解任などの内紛は弁護士マターですから極力近づかないようにしているので
すが、常連顧客のまともな会社の100%子会社の雇われ社長をクビにした程
度の案件であれば、問題児の従業員を解雇したのと大差ないため、何度か登記
を経験しました。

 面白いのは、登記所の対応です。この通知には、お知らせせよとあるだけで、
その後の対応策について何ら触れてないため、登記所の対応もまちまちでした。

 ① 解任された取締役宛の手紙だから、会社は開封しないで放置すべきだ。
  不在で手紙が戻ったら登記をする。
 ② 会社あての手紙だから会社の人が開封するのはやむをえない。その手紙
  を登記所に戻されたら登記をする。
 ③ 会社あての手紙だから会社の人が開封するのはやむをえない。それで登
  記を受理して差し支えないと連絡してくれれば受理する。その手紙は回収
  しない。
 ④ 期限を待って登記するだけ。

 いずれにしろ、登記が終わるには時間がかかります。



2015.02.02(月)【住民票問題】(金子登志雄)

 2月になりました。今月には改正商業登記規則第61条第5項が公布・施行
されます。

 司法書士にとっては周知のとおり、改正案では「就任を承諾したことを証す
る書面に記載した住所につき市区町村長その他の………」と、住民票等の添付
を要求していますが、これにつき私は本欄(2014.11.17)で、次の
ように書きました。

----------------------------------------------------------------------
 新設される商業登記規則第61条第5項につき、表現を改めていただきたい。

「就任を承諾したことを証する書面に記載した住所につき市区町村長その他
の………」とありますが、これでは、住所を記載しない場合は住民票等の添付
が不要であると勘違いされかねず、また、住所の記載のない就任承諾書は認め
られないという運用がなされる可能性があります。

 商業登記法では、取締役等の就任承諾書に住所の記載を要求していないため
(議事録を援用する場合も同じ。会計参与や会計監査人についても同じ)、こ
こは「就任を承諾したことを証する書面に市区町村長その他の………」とし、
「記載した住所につき」を削除していただきたい。
----------------------------------------------------------------------

 他の司法書士からも「実在性を証明するのだから、住所の証明というのはお
かしい。ここは『氏名及び住所につき』でしょう」という意見がありました。

 やっと、この「住所につき」の意味が分かりました。この61条2項に「就
任を承諾したことを証する書面の【印鑑】につき市区町村長の作成した……」
とあり、われわれも代表取締役の就任承諾書には個人の実印を押印してもらい、
印鑑証明書をつけています。

 ところが、商業登記法には、代表取締役の就任承諾書には押印せよとはどこ
にもありません。商業登記規則が押印を要求しているわけです。

 この論からすると、改正案では、住所の記載のない就任承諾書は認められな
いということになりそうな予感がしてきました。しかし、改正案61条5項た
だし書によると、押印し印鑑証明書をつける場合は住民票の添付が不要です。
この場合は住所の記載は省略してもよいのか、単に印鑑証明書をもって住民票
に代えるという意味かという問題が生じます(現状では、非取締役会設置会社
の取締役の就任承諾のケースがこれです)。発展して、代表取締役の就任承諾
書にも住所の記載が必須になるのか(取締役段階で添付したじゃないか)とい
う議論も出そうです。

 就任承諾の議事録援用の際にも住所の記載が必要かの問題もあります。総会
や定款の附則で取締役を選任した場合は氏名だけでよいはずですから、就任承
諾だけ住所が必要だとしても、選任した人と就任承諾した人が同一人物だとい
う証明にならないのに、なぜ住所の記載が必要なのかなど、さまざま問題があ
り、従来の方法を大幅に変更することになったら、しばらくの間、混乱が続く
ことは間違いないでしょう。


2015.01.30(金)【知識と知恵】(金子登志雄)

 1月も終わりに近づき、多忙でてんてこまいしている司法書士も多いことで
しょう。私も、来客中に電話が何本も入ったりするため、来客の目からは相当
多忙のように思われているようです。

 しかし、私は仕事大好き人間ですし、時間制限のない夜に仕事をするため、
少なくとも日中は多忙であるという実感が全くありません。この徒然も時間制
限のない深夜の作業です。

 来客中の電話の内容は、知り合いの司法書士等からの問い合わせを除くと、
お客様からの2月の会社設立の質問であったり、まだ先の4月の合併や解散、
資本金の額の減少の質問などが主たるものです。

 私にとっては慣れたものでも、お客様にとっては初体験だと、本の知識では
分かったつもりでいても、いざ自分が担当になると、さまざま疑問がわいてく
るようです。もちろん、私はその疑問に即答しています。

 これは、われわれも同様ですね。例えば、改正会社法では、「監査役の監査
の範囲を会計に関するものに限定する旨」が登記事項になり、その登記は経過
措置により、改正法の施行(5月1日)後に、監査役が就任・退任したときに、
その登記をすればよいことは、ちょっと改正法を勉強した人なら誰でも知って
いるでしょう。

 しかし、ここまでは頭の知識に過ぎません。自在に使いこなせる知恵にまで
至っておりません。実務家なら、では、監査役が4月30日に退任し、その退
任登記を5月になってからする際は、この登記は不要のようだが(就任・退任
時期基準で、登記申請基準ではないため)、あえて申請した場合は受け付けて
くれるのか、あるいは法律に厳格に従い、受け付けないのかなど、さまざま考
えなければなりません。

 そもそも、役員欄にどんな表現で登記されるのかも、まだ判明していません
し、それだけでなく、すでに私は、この監査役問題だけでも、数個の実務上の
疑問点を持ってしまいました。ちょうど、私に問い合わせ電話をくださる初体
験のお客様と同じ立場になっているわけです。

 とうぶんの間、ああだろうか、こうだろうかと、いつもの自問自答で、知恵
に達するまで頑張るしかありませんが、登記通達や質疑応答集が出れば、その
半分は解決することでしょう。自分の予想が当たっているか、待ちどおしいも
のです。


2015.01.29(木)【会社の住所と本店所在場所】(金子登志雄)

 会社法施行当時(平成18年)には、吸収合併契約の必要的記載事項や合併
公告に会社の商号及び【住所】を書けとあることに違和感を持つ方が少なくあ
りませんでした。

 住所というのは個人に使うもので、会社の場合は【本店所在場所】というべ
きだと思い込んでいたからです。

 住所と本店所在場所はどこが違うのかと真剣に考えたことはありませんが、
昨夜の夕食中に本欄のネタにしようと挑戦してみました。

 まず、住所とは個人に限定されず会社でも使います。これは旧商法でも、そ
の54条2項に「会社の住所は其の本店の所在地に在るものとす」とありまし
たので同じです。会社法4条にも「会社の住所は、その本店の所在地にあるも
のとする」とあります。

 次に、設立時の原始定款の必要的記載事項につき、旧商法には「発起人の氏
名及住所」、会社法には「発起人の氏名又は名称及び住所」とあります。名称
とは発起人が法人のときに使います。

 氏名と名称は、このように個人と法人で使い分けていながら、住所は使い分
けていません。会社を含む法人でも「住所」と使うわけです。

 一方、本店所在場所ですが、登記に関する会社法911条に「本店及び支店
の所在場所」とあります。これを「本店及び支店の住所」と書き換えられるで
しょうか。

 できません。住所というのは、人格の主体(個人や法人)が主語のときに使
うもので、支店には人格がありません。また、本店も主たる営業所のことであ
って人格の主体を表す用語ではありません。つまり、本店の所在場所とは、営
業所の存在場所のことであって、住所とは別概念です。

 ただ、「会社の住所は其の本店の所在地に在るものとす」ですから、住所と
本店の所在場所は場所としては一致するということでしょう。

 夕食時の思い付きですが、この考え方で、いかがでしょうか。


2015.01.28(水)【援用と兼用】(金子登志雄)

 株主総会で取締役としてAを選任したときに、「なお、被選任者は席上直
ちにその就任を承諾した」と議事録に記載すれば、登記申請書に「就任承諾
書については議事録の記載を【援用】する」と記載すれば、就任承諾書を別
途添付する必要はありません。

 ここまでは、よく知られた事実ですが、では会社法319条の書面決議で
これをしたときも認められるでしょうか。

 認められるわけがありませんね。実際に株主総会を開催していないのです
から、「席上」ということがありえません。

 では、同じ書面決議であっても、その取締役Aさんが議事録作成者になり、
次のように記載されていたら、いかがでしょうか。
--------------------------------------------------------------------
本議事録は取締役Aの就任承諾書を兼ねるものとする。
 平成〇年〇月〇日 〇〇〇株式会社
  上記のとおり、取締役への就任を承諾いたします(★)。
          議事録作成者 取締役 A  印
--------------------------------------------------------------------

 添付書面の枚数をできるだけ少なくしたい私は、この省エネの方法をいまま
で10回以上経験しましたが、全てOKでした。

 ただ、もっと確実にするためには、見出しを「臨時株主総会議事録(兼・就
任承諾書)」とするとか、登記申請書に「議事録の記載を【援用】する」では
なく「議事録と【兼用】する」などという表現にしたほうが、法務局調査官と
しては、より抵抗が少ないそうです。最近、このことを知りました。

 これも生活の知恵ですので、今後は「援用」と「兼用」を使い分けてみよう
と思っています。



2015.01.27(火)【人命の価値】(金子登志雄)

 土日のネットのニュースによると「日本で死刑制度容認派が80%を超え、
否定派を大幅に上回っていることが24日、内閣府の発表した『基本的法制
度に関する世論調査』で分かった」ということでした。

 「この世に死刑にしたい奴は5万といる」というのが日本の国民感情でし
ょうから、80%の数字には驚きませんでしたが、では、なぜ外国では死刑
廃止国が多いのかと、廃止国につき、ネット検索してみましたら、次のとお
りでした。

 http://homepage2.nifty.com/shihai/shiryou/abolitions%26retentions.html

 西ヨーロッパ諸国だけかと思っていましたら、意外にも、東ヨーロッパ、
中南米、アフリカ中南部、近くの国ではフィリピンまで廃止国でした。韓国
も事実上の廃止国でした。

 この国名リストをみて感じたことは、キリスト教の影響の強い国では死刑
廃止論が強く、仏教国はそうでもないこと、中東や北アフリカ諸国などイス
ラム教の影響の強い国々では容認論が強そうだということでした。

 私自身は人命の価値が高いほど、それに続く基本的人権も重視されるはず
だと思っていますので、その面から死刑廃止論に賛成していますが、国全体
でみれば、背景にある国民感情や文化(宗教観)の相違ですから、どちらが
正しいとか、文明が高いというものでもないでしょう。

 結婚式はキリスト教、葬式は仏教、家を建てたときは神道という、われわ
れ八百万(やおよろずの)神の信仰者からすると、いまだに残る世界の宗教
対立は理解できませんが、その背景にはさらに富の配分の不公平という貧困
があります。

 徐々に脱線してきましたので、ここまでにしますが、格差を作れば紛争や
犯罪が増え、紛争や犯罪が増えれば死刑容認論が勢いを増すことだけは確か
でしょう。



2015.01.26(月)【光陰矢の如し】(金子登志雄)

 日曜日は私の住む横浜市内のマンション居住者による毎年恒例の新年会でし
た。5階建てで29世帯(+管理室=30戸)しか存在しないので、ほぼ全員
が顔見知りです。その代わり、数年に1度、管理組合の理事役が回ってくると
いう不便さ(?)があります。

 このマンションを購入した時はみな30代、40代の働き盛りでしたが、い
まは全員が一斉に歳を重ねたため、高齢者専用住宅に近づいてしまいました。

 5階建てですからエレベーターがありません。昔は、上層階に住む人も窓か
ら富士山がみえると自慢していたのに、いまや階段が昇れずに引っ越していっ
た人もちらほら………。

 幸い、わが部屋は2階部分ですし、私もヘビースモーカーを維持できる健康
体のため、2階程度の階段の昇りは問題ありませんが、いずれ年老いて車椅子
生活にでもなったら、引っ越しを余儀なくされることでしょう。

 光陰矢の如し、あの中学生の制服の似合う、孫娘役のういういしいジュディ
オングさんも、木の木陰でGパンをはにかみながら脱いだかわいい大学生の宮
崎よし子さんも、いまやテレビドラマでお婆さん役ではありませんか。

 私も立派な老人になったわけですが、私の属す業界には、現役の大先輩が多
いので、まだ私も年齢をそう意識せずに済んでいます。経験(年齢)が力にな
り、定年のない司法書士の世界はありがたいものです。



2015.01.23(金)【公募の払込期日】(金子登志雄)

 昨年のことでしたが、上場会社の公募増資の登記に関与いたしました。もう
何度目かで私も慣れていましたので、発行価格と発行価額などの相違について
も新鮮な感じはしませんでした。

 公募といっても幹事証券が総数引受けするので、実際は第三者割当てと大差
ありません。気になったのは、次の表現です。

払込期日 平成〇年〇月〇日~平成〇年〇月〇日まで間のいずれかの日。
     ただし、発行価格等決定日から5営業日後とする。

 これで特定の払込「期日」といえるのでしょうか。

 こういうのは、何の説明もなく法務局に是か否かと事前相談すると、否とい
われ、黙って申請してしまうと「上場会社の案件ですね。適法性は十分に吟味
しているはずですよね」と思うのか、何もいわれずに登記は受理されます。

 受理されることは分かっていましたが、もし、調査官が細かい人で、「ただ
し書によって特定日を指定しているようですが、発行価格等の決定した日が分
からないと払込期日がいつか分からないので、その日を証明するため、取締役
会議事録をつけてください」といわれたら、どう答えようかと考えていました。

 ブックビルディング方式ですから実際は幹事証券が決めた日を代表取締役が
そのまま決めているだけで、実際には募集事項のうち払込期日を取締役会が決
めていないであろうと推測していたからです。

 そこで考えた私の返答は、「あの定めは、払込期日とあっても実質は払込期
間であって、その期間中の代表者が任意に決めた日に払い込むようにしようと
いうだけで、適法性には問題ないと考えます。もし、ご不信でしたら、いまま
で受理していた公募増資の事例をご確認ください。みな、こういう定めですか
ら」と答えようと待ち構えていました。

 管轄法務局が東京法務局だったためか、こういう事例に慣れていたようで、
何の問い合わせ電話もありませんでしたが、あの定めは、ただし書だけでは払
込期日として不明確なので、払込期間のような本文を置くことによって、適法
にしているのではないでしょうか。最初から払込期間一本にすれば、こんなこ
とも考えずに済んだのに、と思った次第です。


2015.01.22(木)【コンプライ・オア・エクスプレイン】(金子登志雄)

 昨日は生まれて初めて大相撲というものを観戦しました。全く無関心でし
たがモンゴルはじめ実に国際色豊かなのですね。外国人どおしの取り組みも
いくつかありました。

 「相撲社会=伝統的な親方社会」と、この国際色がどのようにマッチして
いるのか不思議でしたが、実力さえあれば、出身も学歴も皮膚の色も問わな
いという点においては相撲社会は実に素晴らしいですね。

 さて、会社法の国際化の話ですが、社外取締役を置くことが相当でない理
由を述べよという改正会社法327条の2につき、コンプライ・オア・エク
スプレイン・ルールという用語が登場します。

 英国やフランス・ドイツで採用されているルールのようですが、「規範を
遵守せよ、従わないなら訳を説明せよ」という意味のようです。

 しかし、ひねくれた私には「降参して白状せよ、白状しないなら無罪であ
る理由を説明せよ」と悪意に聞こえてしまったり、「交通ルールを守れ、守
らないなら訳を説明せよ」、「煙草を吸うな、ただし訳を説明すれば吸って
よい」と自分に都合よく聞こえてしまったりしますが、皆様の印象はいかが
でしょうか。

 日本的に「何が何でも命令に従え(よい子でおれ)」だけでなく、「言い
分があるなら聞く」という姿勢は、さすがに民主的なヨーロッパですね。


2015.01.21(水)【事前開示の省略】(金子登志雄)

 改正会社法によると、端数の生じる株式併合や新設される株式等売渡請求に
つき株主保護のために、合併手続等と同様に、その内容等につき事前開示の義
務が会社に課されます。

 解説書を読んでいつも不満に思うのは、株主が多数の会社を前提に解説され
ていることです。

 立法もその前提で立案されているので仕方ありませんが、われわれの顧客の
大多数は大企業の子会社であったり、株主が同族中心で10名以下のところば
かりです。

 したがって、事前開示も債権者のための情報提供でなく株主のための情報提
供である場合には、「株主全員の同意があるときは事前開示の手続を省略でき
る」とか、「株主全員に事前開示事項を通知したときは、その手続を省略する
ことができる」などといった条文を挿入するとか、解説で触れてほしいのです
が、いまだそのような解説をみたことがありません。

 株主全員の同意があることによって省略できるとの明文は、株主総会の招集
手続や決議・報告の省略に関する規定(300条、319条、320条)程度
で、解釈によって認められるは、株主割当増資の2週間の申込催告期間の短縮
の同意(202条4項)や反対株主の買取請求期間の短縮程度しか知られてい
ません。

 よって、多くの方は、事前開示手続は避けて通れないと無意識に思ってしま
うようですが、会社法の規律というのは、利害関係人の利益の調整のためです。
その利害関係人が既存の株主だけであり、その株主全員がその必要はないとい
う限り、その手続は省略できると考えるのが法律解釈というものですから、そ
ういうことも権威ある解説書に書いてほしいものです。


2015.01.20(火)【受験科目としての会社法】(金子登志雄)

 昨日の投稿の関係で司法書士試験科目を調べましたら、次のようになって
いました。

 司法書士法6条2項抜粋
-------------------------------------------------------------------
2 司法書士試験は、次に掲げる事項について………行う。
 一 憲法、民法、★商法★及び刑法に関する知識
 二 登記、供託及び訴訟に関する知識
 三 その他………業務を行うのに必要な知識及び能力
-------------------------------------------------------------------

 司法試験法第3条2項抜粋は次のとおりでした。
-------------------------------------------------------------------
2 論文式による筆記試験は、・・・次に掲げる科目について行う。
 一 公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。)
 二 民事系科目(民法、★商法★………に関する分野の科目をいう。)
 三 刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
 四 略
-------------------------------------------------------------------

 会社法という用語が一切ないのです。商法に関する知識、業務に必要な知
識、商法に関する分野などとして会社法が扱われているようです。

 会社法制定以後、商法の条文をじっくり読んだこともないのですが、お国
の立場からは、その商法が正妻で、私が愛し、生活の糧としている会社法が
表に出せない2号扱いだったとは驚きました。

 単なる立法者(国会)の怠慢なのでしょうが、社外取締役の義務づけより
も、こちらの改正のほうが先ではないでしょうか。


2015.01.19(月)【改正会社法と受験】(金子登志雄)

 土日は改正会社法の「監査等委員会設置会社」の勉強に充てましたが、会
社法の定める機関構成が内部統制システムとの関係で迷路のようになってし
まい、つくづく司法書士試験の受験生が気の毒だと思いました。

 従来の機関構成は、監査役制度採用会社を前提に、公開会社かどうか、大
会社かどうかが中心でした。取締役会も、社長、専務、常務………という軍
隊式序列の「重役会」という世間の常識イメージと大差ありませんでした。

 ところが、企業の国際化や法令遵守のニーズ(米国からの圧力?)から、
ここ数年は、社外取締役を中心とした業務執行の適正を確保するための会社
の内部統制の整備が求められており、取締役会も米国型の委員会制度を中心
としたモニタリング(業務執行の監督)機能をもった「業務執行監視組織」
に変わりつつあります。

 現状は、重役会機能と業務執行監視機能が入り乱れた状況ですが、受験生
としては、後者の機能の勉強にために、〇〇委員会についても勉強しなけれ
ばならないだけでなく、監査役制度採用会社と委員会制度採用会社とでは、
内部統制システムの決定でどこが相違するかなどの勉強も必要となり、会社
法は加減乗除の計算だけでなく微分積分の高等数学に変わってしまったかの
ようです。

 この迷路を迷路でない状態に置くには、監査役制度採用会社法と委員会制
度採用会社法の2つに分けるか、それが無理であるなら、受験では、後者の
内容は出題しないということにしないと、受験生があまりに気の毒だと感じ
ました。

 おそらく複雑怪奇になった改正会社法が原因で受験を途中で断念する者が
急増することでしょうが、断念せずに早期合格を目指すなら、委員会制度採
用会社には深入りしないことだと思いました。試験委員も、それらには詳し
くないので、出題も基礎的なものしか出ないでしょう。


2015.01.16(金)【322条2項の定款文言】(金子登志雄)

 昨日は、司法書士業務で親しい関係者たちと新年会でした。そこで公告文
案をどうするかの話題がでました。どの程度抽象的に書くか具体的に書くか
などの話です。

 さて、種類株式発行会社では、種類株主総会につき、会社法322条2項
(「種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる」)に従
い、定款規定を置いている会社が少なくないと思います。

 この定款文言につき、私の最初の著作では、「当会社は、法令に別段の定
めがある場合を除き、会社法第322条第1項に定める種類株主総会の決議
を要しない」としていましたが、「別段の定め」とは何かという質問をいた
だくことがありましたので、最近の著作では、より具体的に「当会社は、会
社法第322条第3項ただし書の場合を除き、同条第1項に定める種類株主
総会の決議を要しない」という表現にしています。

 しかし、どこがルーツの書式かは知りませんが、さらに具体的に「会社法
第322条第1項【第2号から】第13号に掲げる行為をする場合において
は、当該種類株主総会の決議を要しない」と定める例が少なくありません。

 「どちらでもいいじゃないか」と思うでしょうが、改正会社法では、1号
の2(第179条の3第1項の承認=特別支配株主の株式等売渡請求の対象
会社の承認)が1号と2号の間に挿入されました。

 この結果、上記最後の文案では、「1号の2」が補足範囲から外れてしま
いました。実質的にはその趣旨から考えて問題ないでしょうが、形式上は、
対象外のように読めてしまいます。とばっちりもいいところですが、金子文
案には影響がありませんので、一安心です。やはり、抽象的すぎると問い合
わせを受け、必要以上に具体的だと窮屈になり対応できないことが生じます
から、「ほどほど」がベストですね。


2015.01.15(木)【津軽三味線】(仙台・立花宏)

 先日、仕事を終えた後の帰宅途中に、駅の中を通りかかった時のことでした。
よくイベントを開催している広場の方から、情熱的でありながら、物悲しさを
も感じる音色が聞こえてきました。津軽三味線の演奏でした。

 心惹かれるものがあり、広場の方に行くと、たくさんの人たちがその津軽三
味線の演奏に聞き入っていました。どうやら、青森県の特産物をPRするイベ
ントを開催しているようです。私もしばらくの間、津軽三味線の演奏を楽しみ
ました。

 津軽三味線の音色は、生きる上での喜び、悲しみ、そして苦しさを表現して
いるというのを聞いたことがあります。

 生で聞く津軽三味線は、その弦を弾くたびに(正式には、ばちで弦を打つ、
すくう、指ではじく等、様々な動作があるそうです)、その弦の振動が、喜び、
悲しみ、そして苦しさという矢を私の心に放っているような、そんな迫力を感
じました。

 すばらしい演奏に満足した後、イベント会場で青森県の特産物を見て回りま
した。お菓子や漬物、日本酒等など、色々な品物に目移りしましたが、その中
のあるコーナーに目が留まりました。りんごのコーナーでした。

 赤や黄色のりんごのほか、青森県産のりんごで造った果実酒「シードル」も
展示されていました。このシードル、りんご王国青森を盛り上げていこうとい
う趣旨のもと、酒造会社等の技術指導により開発された商品だそうです。

 以前、本で読んだことがあります。りんご農家の所得は減少してきており、
現在、りんご農家の経営は厳しいのだそうです。毎年、多くのりんご農家が廃
業しているといいます(※)。そんな状況を少しでも変えるべく、商品開発等
の様々な努力が重ねられているのでしょう。

 私は、そのシードルとりんごを購入し、自宅へと戻りました。帰宅後、購入
したりんごを食べてみました。りんごの良い香りと、さわやかな酸味、甘みが
口の中に広がりました。私は思わず、心の中でつぶやきました。

 「美味しい」

 そして、思いました。この美味しいりんごが収穫できるまでには、りんご農
家の方々の様々な喜び、悲しみ、そして苦しさが重ねられてきたに違いない。
様々な喜び、悲しみ、苦しさが重ねられたからこそ、このような美味しいりん
ごが出来たのに違いないと。

 そんなことを思うと、そのりんごが、とても、貴重なもののように感じられ
ました。そして、そのりんごを、一切れ一切れ、大切に味わいました。

 シードルの栓も開けようと思いましたが、思いとどまりました。日をあらた
めて、週末にでもゆっくり、味わいたいと思ったのです。

 「津軽三味線のCDでも購入して、津軽三味線の音色を聴きながら、味わお
うかな」 そのシードルはまだ、自宅の冷蔵庫に大切に保管してあります。

(※参考文献) 事例にみる一般社団法人活用の実務(日本加除出版)



2015.01.14(水)【取締役の種類株式化】(金子登志雄)

 3連休は成人の日が理由でしたが、成人になったのは、はるか昔の過去にな
ってしまい、完全に無関心でした。それよりも、改正会社法に準拠した「会社
法法令集」の改訂その他の作業に追われていました。

 さて、街の司法書士の方には無関係ですが、改正会社法の目玉商品である監
査等委員会設置会社の監査等委員と、指名委員会等設置会社の監査委員とは、
職務的には似ていますが、法制上の差は全く違うことにお気づきでしょうか。

 指名委員会等の監査委員は取締役会で選定され、指名委員や報酬委員と兼任
することもできますし、委員でない単なる取締役になることも可能です。

 これに対して、監査等委員である取締役は株主総会で選任されます。監査等
委員をやめて、監査等委員以外の取締役に鞍替えしようとしてもできないわけ
です。

 つまり、監査等委員である取締役は、それ以外の取締役とは異種類の取締役
であり、監査役と普通の取締役の中間的な役員と思った方がよいでしょう。

 監査役の監査の範囲が業務監査か会計限定かは職務範囲の問題であり、異種
類の監査役とはいえないでしょうが、監査等委員である取締役は、われわれが
想定する取締役ではなく、会計参与と同じく新型の役員というわけです。

 したがって、定款で「当会社の取締役は10名以内とし、うち監査等委員で
ある取締役は4名以内とする」と定めるのではなく、「当会社の監査等委員で
ある取締役は4名以内、それ以外の取締役は6名以内とする」と定めるのが本
筋だと私は考えています。

 社外役員制度が普及したためか、徐々に、株式の種類化だけでなく、役員に
ついても種類化がはじまったわけですが、そのうち取締役会で議決権のない取
締役や、ストックオプション報酬優先取締役でも現れるかもしれませんね。


2015.01.13(火)【改正会社法準備時期】(金子登志雄)

 3連休はいかがお過ごしでしたか。

 さて、新年気分に浮かれている時期も終わり、改正会社法の勉強に本格的に
取り組まないといけない時期になってきたようです。司法書士会のセミナーで
も、これをテーマにしたものが多いようです。

 大改正であることは間違いないのですが、日々の業務への影響の面から考え
ると、平均的な街の司法書士としては、会計監査限定の監査役の登記を意識し
ておけば十分でしょう。

 しかし、執筆も生業(なりわい)とし、会社だけでなく同業者からの相談も
多い私は、そういうわけにはまいりません。

 聞くところによると、年内に、例の目玉商品の監査等委員会設置会社に移行
を検討している会社もいくつかあるようです。それらの会社が本年の定時株主
総会では様子見を決め込むのか、移行自体を実行するのか不明ですが、少なく
とも、この1、2年で、指名委員会等設置会社の数を上回るのは確実でしょう。

 監査役会設置会社として社外監査役を2名以上置き、さらに社外取締役を置
くのは費用の点でも負担ですから、安上がりで済む監査等委員会設置会社への
移行を検討してしまうわけです。

 その結果、おそらく、社外監査役がそのまま監査等委員の社外取締役に移行
するのでしょうが、社外監査役であるヤメ検弁護士や公認会計士は業務や経営
に詳しいわけではありません。法務監査や財務監査はできても、経営に対する
「監督」者としての能力については疑問です。

 制度初期だから仕方ないのでしょうが、そのうち、社外取締役派遣センター
でもできるかもしれませんね。


2015.01.09(金)【竹鶴正孝とリタは登記所で結婚式??】(富田太郎)

 皆様、正月休みはいかがお過ごしだったでしょうか?

 私は、正月から、今や某国営放送でも有名になったニッカウヰスキー創業者
である竹鶴政孝氏に関する書物を読んでいました。

 当然ウィスキーについても書かれている本なので、だんだん読んでいるうち
に、お酒を飲みたくなってしまいました・・・・・(汗)。

 実は、昨年1年間『禁酒、禁煙』を続けていたのですが、タバコは今後も禁
煙するとしても、『お酒は少しぐらいならよいだろう♪』と思いなおし、正月
から解禁しました。

 『久々のお酒は美味しいなぁ~♪』

 『チョイト一杯の、つもりで飲んで♪ いつの間にやら♪~』
  (スーダラ節 作詞 青島幸男)

 の歌ではないですが、気が付くと、正月3日間でボトル2本あけてしまいま
した・・・(猛省)。

 ところで、この竹鶴に関する本を読んでいて気になったのが
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 竹鶴政孝とリタはグラスゴーの『登記所』で結婚登録書に署名。『登記官』
が立ち会う結婚式? とありました。登記所で結婚式??? まさか登記官が
神父みたいなことするの??
―――――――――――――――――――――――――――――――――

 調べてみると、登記官も正装して登場し、「誓いの言葉まで」問いかけるよ
うです? それにしても、日本の法務局をイメージすると全く想像できません。

 実は、イギリスの結婚式には3つの方法があるようです。
 ① 教会での結婚式
 ② 登記所での結婚式
 ③ 1995年以降は「ホテル、城」等、役所の許可を受けている施設で結婚式

 なるほど、竹鶴政孝とリサの時代は①と②しかないわけなので、登記所での
結婚式も当然ありうる話になります。

 イギリスは日本のような戸籍制度はないため(詳細は省略しますが、身分登
録簿のようなものはあるが、国家による家族登録を行わない伝統を持つ)、重
婚に当たるかとか、近親婚に当たるとかを、異議申立てによりチェックしてい
るようです。

 ① 教会での結婚式の場合は、掲示板に40日間掲示し異議申立期間とする。
 ② 登記所での結婚式でも、21日間の異議申立期間がある。

 結局、重婚とか近親婚の異議申立制度から、結婚式に登記所がかかわってい
るようです。

 しかしなぁ・・・・、司法書士である私からすると、つい日本の登記所を思
い浮かべるため、登記所での結婚式???

 なにやら場違いの気がします。登記所より教会の方が絶対いいですよね!



2015.01.08(木)【取締役と代表取締役】
(金子登志雄)

 株式会社の登記では、取締役がAさん1人の場合でも、わざわざ2枠に分け
て、次のように登記されます。

   --------------------------------------------------------
     取締役     A 
   --------------------------------------------------------
     東京都千代田区神田小川町三丁目26番地
     代表取締役   A 
   --------------------------------------------------------

 取締役と代表取締役の地位が分化している取締役会設置会社であれば、取締
役と代表取締役という2つの地位を意識することができますから、取締役Aを
解任した場合は、「取締役A/年月日解任」と「代表取締役A/年月日退任」
という登記になることは理解できます。代表取締役の地位は解任されたわけで
はなく、基礎となる取締役の地位が喪失した結果として、代表取締役でなくな
るためです。

 代表取締役も取締役も解任した場合は、代表取締役については、会社法に従
えば「代表取締役A/年月日解職」という登記になるはずですが、「解職」と
いうのは、会社法用語であり、登記上は旧商法時代からの伝統に従い「解任」
で登記されます。

 これらに対して、取締役と代表取締役の地位が分化していない各自代表の場
合は、「取締役=代表取締役」ですから、取締役も代表取締役も「解任」で登
記されるのかと思うでしょうが、代表取締役については、やはり「退任」です。

 これを理解するには、会社法という実体法の面では地位が1つでも、手続で
ある登記法では地位が2つだと考えるしかないでしょう。

 しかし、そもそも「地位が2つ」という発想自体に私は疑問を持っています。
代表取締役は取締役の中から選定されるもので、必ず取締役でなければなりま
せんから、取締役は「地位」といえても、代表取締役は「取締役の役職」の問
題であって、次元が異なる問題だと考えるからです(だからこそ、選任・解任
ではなく、選定・解職という用語が使われたわけです)。

 あれこれ考えると混乱するばかりですが、会社法と登記法は、異なる文化を
持って生まれた異文化学問と捉えるしかないのでしょうか。ガラパゴス登記で
あってよいのかというのが私の問題意識なんですが………。


2015.01.07(水)【新年をむかえて】(島根・根来川弘充)

 皆様、明けましておめでとうございます。

 昨年末くらいから、ガソリンの値段が急に下がってきました。田舎での交通
手段として、自動車は必需品ですので、値段が安くなることは大歓迎です。

 ただ、値段が上がるときには、ニュースで取り上げられるのですが、下がる
ときにはあまりニュースになりません。日銀の金融緩和策で円安が進んでいる
中で、普通は輸入する製品が高くなるはずですので、急に下がることは何か不
自然なものがあり、気になりました。

 ところで、先の総選挙ですが、「消費税率引き上げを延期する」ことを安倍
首相は公約に掲げて大勝をおさめました。

 消費税率の引き上げを「する」か「しない」が、争点ではなく、「する」こ
とは、もはや前提になっています。国民としては、「良かった」という感を残
しながら、大事な事が決まってしまった気がします。今後、大きな決定が、同
じような方法で決定されてしまうのではないかと、気になりました。

 ふと、プロ野球で活躍された野村克也さんが、「人間として一番悪であるこ
とは鈍感であること」と言われたことを思い出し、新年を迎えるにあたり、最
近気になった点は何かを振り返ってみました。

 鈍感にならないようにすることを今年の目標にして頑張りたいと思います。


2015.01.06(火)【印鑑の話】(金子登志雄)

 新年早々であるため、昨日や今日は会社の設立や商号変更の登記がが多いの
ではないでしょうか。私も昨日は商号変更、今日は設立登記です。

 商号変更はAをBとするものでしたが、顧客から印鑑作りが間に合わないと
いわれたため、改印はやめて、Aの届出印をBの届出印にしたままにすること
にしました。我々にとっては常識ですが、知らないお客様が少ないようです。

 有限会社Aを株式会社Bにした場合も、有限会社Aの印鑑を利用してもかま
いませんし、社名入りでない印鑑でも、個人実印を会社届出印にすることも可
能です。

 時々、銀行の貸付係から、社名入りでない印鑑は困るなどといわれることも
あるようですが、当の銀行の届出印には、私の知る限り、銀行名のないことが
多いようです。合併その他で銀行名が変わることが多いので、最初から銀行名
を入れない印鑑にしているのでしょう。

 個人の実印を会社届出印にする際は、「印鑑の大きさは、辺の長さが1セン
チメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが3センチメートルの正方形に
収まらないものであつてはならない」と商業登記規則にあることに注意しなけ
ればなりません。

 外国人を取締役にする場合は、カタカナ名入りの認め印を作ることが多いよ
うですが、私の電子署名にはローマ字で「ESG」と入れています。そのうち、
数字入り印鑑や、シャチハタではなく本格的な絵入り印鑑も増えてくるのでは
ないでしょうか。幸運を呼ぶ印影でも考えたいですね。

  http://matome.naver.jp/odai/2137260565086857301



2015.01.05(月)【謹賀新年に代えて】(金子登志雄)

 新年おめでとうございます。

 お正月休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。私は、昨年25日から正月
1日まで英国(イギリス)の中心部を旅したほか、仕事や会社法から離れて、
のんびりと暮らしました。

 旅といっても、旅好きの妻のお供をしただけですから、修学旅行生と同じく
何をみてきたのかも記憶不鮮明ですが、異文化や異環境と接触するのは、井の
中の蛙を反省させてくれる点で勉強になります。

 異国の支配を受けたことのない日本と相違し、英国では、古くはローマ帝国
に支配されましたし、その後も北から東から南からと、たびたび侵略されたた
め、過去の王室の言語がフランス語だったりしましたし(英語になったのは、
フランスとの百年戦争後です)、逆に、それらの戦いの歴史が強大な中央集権
国家を作り、世界を侵略し、大英帝国を作りました。大英博物館は、まさに略
奪した海外からの戦利品ばかりでした。

 街には旧植民地からの移民であるインド系、アフリカ系、イスラム系などの
人も数多く、同国民でありながら国際色が豊かでした。過去の王室自体がフラ
ンス系であったり、ドイツ系であったり、スペインから王妃をめとったりして
ますから、その外交手腕は古い時代から磨きに磨かれていたようです。

 単一民族の日本で育った私など、おのぼりさんそのものでしたが、街中には、
灰皿付ゴミ箱が多く、首都でも歩行喫煙者が多く、この点では、私も居心地の
よさを満喫してきました(室内は厳禁でしたが)。

 米国もそうですが、こういう国際色豊かな国にあっては、種類株式も特殊な
株式ではないこと、いわゆる普通株式も種類株式の一種であり、最初に生まれ
た株式や最多数派株式とは限らないことが素直に受け入れられるのだろうなと、
またまた会社法と結び付けてしまいました。職業病ですね。

 ちなみに、本年5月からの改正会社法も、規律が取締役の「社外性」(生ま
れ育ち)よりも、業務執行従事者かどうかの「役割基準」に変わりますし、監
査役も非業務執行役員の一種として、取締役との距離が近くなります。

 こんな調子で、本年も、相変わらず金子式ユニークな切り口で会社法を論じ
てまいりますので、よろしくお願い申し上げます。


2014.12.26(金)【創造の翼】(金子登志雄)

 登記所は今日で終わりですから、司法書士事務所も仕事納めですね。

 さて、今年の当事務所の成績は、改正会社法が確定したため、著書の改訂版
を出せましたし、企業活動が活発になったせいか、相変わらず子会社の合併や
再編業務なども順調に受託することができ、悪い年ではありませんでした。き
っと商業登記専門事務所はみな同じでしょう。

 得意の「ラフに入ったボールをフェアウエイに出す仕事」、会社又は担当司
法書士が手詰まりになった「かけこみ寺業務」の仕事も少なくなく、これは自
分の存在価値を再認識させてくれるので、やり甲斐を感じる仕事でした。

 年齢の割に頭の柔軟さだけは自信があります。世間の常識とは別の方向から
考えることが多いからです。ここに何度か書きましたが、冷静に考えてみれば、
「鬼退治(異国侵略)の桃太郎よりも熊や自然との共生をはかる金太郎のほう
が正しい路線だ。公の席で無抵抗な老人に刃物を振りかざした乱暴者の主君の
仇討に徒党を組んで真夜中に押し込み殺人をするなど忠臣とはいえない。捜査
官と裁判官を兼ねる遠山の金さんは公平なジャッジができない。最後は権威を
カサにして威張る水戸黄門は尊敬できない」などというひねた見方もしてみる
ことが重要だと思っています。

 京の五条の橋では、大の男の弁慶が幼い牛若丸にわざと負けて遊んであげた
のだと解釈したのは著名な映画評論家でしたが、こういう角度を変えた見方が
仕事でのノウハウやアイデアを生み出しますから、皆様も時には創造の翼を広
げてみてはいかがでしょうか(「【想像】の翼」はどこかで聞きましたね)。

 来年も、若い人に負けずに、柔軟な発想で仕事に取り組みたいと思っていま
すので、ぜひ多くの課題や難問をご紹介ください。

 最後になりましたが、皆様にとって、来年もよい年になることを祈念してお
ります。



2014.12.25(木)【建前と本音】(金子登志雄)

 22日の月曜日に、東京都内の司法書士に、本年9月3日に東京司法書士会
と東京法務局(本局)との間で行われた「東京登記実務協議会」結果が回って
きました。

 商業登記に関して、それによると、
1.条件付委任状は現時点では認められない。
2.株主総会と普通株主の種類株主総会が共催された場合、議事録は2種類に
しないと不可。
 とありました。

 2については、平成19年に同一の回答をしたので、いまさら【公式には】
OKとはいえないのでしょう。

 東京法務局(本局)では経験はありませんが、東京以外の法務局で私は2に
つき1つの議事録で何度か登記を終わらせていますし、他の司法書士によると
東京法務局管内(本局以外)でも「同じものを2枚出してくれればよい、1つ
は株主総会議事録、1つは種類株主総会議事録として扱う」といわれたことも
あるようです。

 要するに、正面から質問すれば、東京法務局(本局)も建前で答えるが、申
請者が1つの議事録でいざ申請してみると、受理されてしまうことが多々ある
のです。板挟みになると、同じものを2つ出してくれとなるようです。

 法務局に限らず行政官庁というところは、まず従前の取扱いを改めません。
きっと、現在の東京法務局も本音では1も2もOKにしたいのでしょうが、昔、
先輩方がノーにしてしまったため、それを仕方なく踏襲しているだけでしょう
(なお、名古屋法務局は2につき肯定の回答をしています)。

 これに対して東京司法書士会の立場は、あの時はあの時、今は今です。平成
19年には、2につき「2種類にしないといけませんよねぇ」と質問しながら
(誰だ!こんな司法書士に不利な質問した奴は!)、今回は「議事録は会社が
任意に作るもので、必要事項が記載されていれば、まとめて1種類でよいはず
だ」と質問しているのです。

 矛盾していますが、あの時のメンバーと、この時のメンバーは違うわけです
から、これでよいのです。東京法務局も、先輩方の回答に拘束されずに「あの
時は当時の担当者がだめと答えたが、現時点では認める。今後、人が変われば、
だめになることも可能性としてはあり得る」とでも答えてほしいものです。こ
んな小さなことに、行政の一貫性など持ち出す必要はないでしょうから。


2014.12.24(水)【国民審査と議決権行使書】(金子登志雄)

 先般の選挙と同時に最高裁判事の国民審査がありましたが、あれは×をつけ
ないと賛成票になります。選挙というより、リコール制度だからです。これで
リコールされた人はいません。ほとんどが白紙だからです。「白紙=棄権」で
はないわけです。

 さて、12月も9月決算会社の定時株主総会がいくつかありました。拙著の
出版社である中央経済社もそうでした(私は株主ではありません)。出版社や
本屋さん関係は9月決算が多いようです。

 この場合の議決権行使書(書面投票)ですが、会社法施行規則第66条には
各議案について「賛否(棄権の欄を設ける場合にあっては、棄権を含む。)を
記載する欄」を設けよとあるだけで、棄権の欄は設ける必要がありません。

 また、この賛否「の欄に記載がない議決権行使書面が株式会社に提出された
場合における各議案についての賛成、反対又は棄権のいずれかの意思の表示が
あったものとする取扱いの内容」として、ほとんどの会社が、白票は賛成とみ
なすと扱っています。それだけでなく、株主提案があったときは、白票は否決
とみなすのが通常です。

 これでは、まるで国民審査と同じであり、かくして権力を握る多数派は常に
勝ち、弱い少数派は戦いのリングにも上がることもできず、敗北します。

 こう考えると、先般の選挙に行かなかった人の分は、棄権したというより賛
成票扱いされるのも同然ですね。これが社会の仕組みです。



2014.12.22(月)【報道の自由度ランキング】
(金子登志雄)

 選挙が終わった17日夜には安倍総理は、朝日・毎日・読売・時事など大マ
スコミの編集幹部や論説委員と寿司屋で会食したそうですが(中にはテレビに
よく登場する人物もいました)、総理が与党の党首としてマスコミを抱きこも
うとするのは分かりますが、なぜ、報道人は、こういう報道の自由を疑われる
ようなことに平気で応じるのでしょうか。

 権力者と親しいことが自慢の種になる日本社会の風土を前提としても、報道
機関は民主主義国では「第4の権力」といわれ、権力を監視するのが使命のは
ずなのに、これでは癒着を疑われても仕方ありません。一般企業でいえば、役
員自ら目玉商品の品質を疑われるような行動をしているわけで、許されること
とは思えません。

 これに関連して、「国境なき記者団」という団体が毎年、各国の報道の自由
度ランキングを発表していますが、さて、皆さん、日本は先進国のうち何番目
くらいだと思いますか。後進国で自由がないと思われているアフリカ諸国で日
本以上に報道の自由がある国が存在すると思いますか。

 正解はこれです。

        http://ecodb.net/ranking/pfi.html

 第59位であり、もと共産圏の東欧諸国にも負け、アフリカのうち8か国は
日本より自由で、東洋の韓国と日本はほぼ同順位です。

 「まさか」と思うでしょうが、数年前までは日本は10位程度の自由な国と
評価されていましたが、東北大震災以後、報道に対する締め付けが厳しくなり、
順位が急落しました。いわゆる原子力ムラを通じたスポンサーの締め付けも増
えたのでしょう。上記は本年2月の発表ですから、現時点では、もっと下だと
思います。

 昨年は国連の拷問禁止委員会でアフリカの委員から「日本の司法は中世並」
だと批判を受け、日本の人権大使が「シャラップ!」と怒鳴りつけて顰蹙を買
いましたが、報道の自由度も人権度も世界59位が日本の真の実力で、10位
だったのが何かの間違いだったのかもしれないとさえ感じてしまいます。

 ちなみに、法務局職員は司法書士と一緒に会食することさえしていません。
我々もお誘いできない雰囲気があります。これはこれで、健全な関係だと思っ
ています。日本の暮らし良さは、末端が健全に機能しているからでしょうか。 



2014.12.19(金)【登録免許税ミス】(金子登志雄)

 改正会社法が施行されると、監査役の監査の範囲が会計に限定される旨につ
き登記事項になりますが、その旨は役員区の「役員に関する事項」に登記され
ること、その結果、登録免許税は役員変更に含まれること(資本金1億円超な
ら3万円、1億円以下なら1万円)………、もう認識済みでしょうか。

 登録免許税については、私も何度か失敗しました。資本金3億円の設立(株
式移転)なのに、21万円しか印紙を貼らなかったこともありました。3億円
の0.7%が登録免許税額であるため、単純に3×7=21と計算したわけで
すが、30×7=210万円と計算すべきでした。

 先般は、某上場会社の子会社の「増資+役員変更」で、資本金が1億円超と
いうイメージを持ってしまい、役員変更分につき登録免許税3万円で電子申請
してしまいましたが、申請直後に2万円多かったことに気づきました。

 まだ電子納付はしていません。司法書士の皆さんは、こういう場合はどうな
さいますか。取下げして再申請しますか。

 不明でしたので、電話して登記所に聞きました。「取下げして再申請すべき
ですか。そのまま申請して指示待ちにしたほうがよいですか」と。後者だそう
です。

 予定どおり補正通知が来ましたので、登録免許税額を訂正して返信しました
が、どうやって正しい額を納付するのか分かりませんでした。

 電話がかかってきて、教えてくださいました。もう1度、補正通知を出すか
ら、課税標準金額なども再記載し、既納付額を0円にして正しい額を記載し返
信するのだそうです。

 返信後に納付の欄が反応しましたので、即座に電子納付しましたが、初体験
でした。これでまた、ベテラン度が深化したようです。


2014.12.18(木)【寄親・寄子の選挙】(金子登志雄)

 現金なもので、選挙が終わった途端に日経平均株価が大きく下がりました。
介護福祉も後退しました。当てが外れたと思ってはいけません。自由主義社会
は期待したり騙されるのも自己責任・自業自得です。

 選挙結果をみるとわが郷里の大臣を辞任した先生らも楽々当選していました。
別に、ここで選挙民を非難しようというのではありません。中世・戦国時代の
「寄親・寄子(よりおや・よりこ)」制度を思い出してしまっただけです。

 戦国時代は、殿様を頂点に幹部の家来として甲乙丙がいたとすると、甲乙丙
はそれぞれ、ABC、DEF、GHIという家来を持ち、ABC………もそれ
ぞれ家来を持ちというピラミッド階層になっていましたが、ABCは甲の家来
であって、殿様の直属の家来ではありません。甲が殿様を裏切れば、ABCも
甲に従います。

 これがあるため、本能寺の変が成り立つわけですが、この関係を「寄親・寄
子」といっていました。光秀を親と思っているから、信長を打てるわけです。
これが当時の道徳観でした。

 保守政党の有力候補者には、寄子として県会議員がおり、県会議員の寄子に
は市会議員や町会議員がおり、その下の寄子に町内会長がおり………という強
固な地盤の仕組みが作ってあるので、少々の不祥事があっても、選挙区を留守
にしても落選いたしません。

 みんなの党の前党首Wさんも、かつてはこの仕組みで楽々当選したのに、今
回はなぜ落選したかというと、選挙民の政治意識が高まったためではなく、き
っと県議クラスの寄子が一斉に離れてしまったのでしょう。地盤が崩壊したわ
けです。

 選挙結果をみると、日本は政治的にはまだ中世のような気がしてなりません
が、皆様の見立てはいかがでしょうか。ちなみにわがESGは、加入していて
も何のメリットもないので、寄親・寄子関係ではありません。というより、み
な武士社会の生活が合わないのか、どこにも士官したくないようです。



2014.12.17(水)【店員さん(後篇)】
(仙台・立花宏)

 今から20年以上前のことです。

 私は、公務員になる夢に破れ、大学を卒業後、ある会社に就職しました。配
属された職場はとても忙しい職場でした。毎日、寮に帰るのは深夜でした。そ
の職場のある先輩はとても優秀な方でした。そして、とても厳しく、とても怖
い先輩でした。毎日のように怒られました。

 いつしか私は、その会社を辞めようと思うようになっていました。そして、
夜、寮に帰った後、公務員試験の勉強をするようになっていたのです。

 翌年、ある公務員試験を受験しました。すると、運よく、一次試験を突破し、
面接試験に進むことができたのです。目の前がパッと開けたような気がしまし
た。

 ところが、その開けた目の前に大きな障害が立ちふさがりました。その面接
試験の日に、大事な仕事が入ってしまったのです。面接試験に行けなければ、
公務員になることはできません。なんとか、その仕事を休みたいと思いました。

 しかし、まさか、公務員試験があるから休みます、とは言えません。どうす
ることもできないまま、面接試験の前日となりました。その日、あの怖い先輩
と二人で、残業をしていました。きっと、私は、いつも以上に浮かない顔をし
ていたのでしょう。先輩が声をかけてきました。

 「どうしたんだよ。浮かない顔して」
 「いえ、なんでもありません」

 「そんなことないだろ。どうしたのか言ってみろよ」

 先輩から強い口調で言われ、私は少し、むっとしました。なぜ、仕事に関係
のない、個人的な悩みまで、話さなければならないのか。私は、もう、どうで
もいいや、という気持ちになり、先輩に伝えました。公務員試験を受けている
こと。一次試験は通ったが、面接試験が明日の仕事と重なってしまったこと。
そして、自分の夢をあきらめなければならないこと。

 すると、先輩は急に立ち上がり、怒鳴りました。

 「ばかやろう。なんで言わないんだよ」

 私は、ふてくされて、言いました。

 「仕事があるんだから、仕方ないじゃないですか」

 すると、先輩は私の両肩をぐっとつかみ、私の目をしっかりと見据え、さら
に大きな声で言いました。

 「お前の一生がかかっているんじゃないか。公務員はお前の夢なんだろう。
簡単にあきらめるなよ。お前の穴は、俺が埋めてみせる。遠慮しないで行って
来い」

 私は先輩の言葉に驚きました。怒られると思っていたからです。先輩が私の
一生ことを考えてくれるとは思ってもみませんでした。それに、先輩がいろい
ろな仕事を抱えており、これ以上、仕事を受けるのが無理なのは、隣にいてわ
かっていました。そんな状態なのに、私の仕事を肩代わりしてくれるというの
です。会社を辞めようとしている私のために。

 「いいな。明日はそっちに行け。仕事のことは気にするな」

 そういって、先輩は仕事に戻りました。

 その日、仕事を終え、深夜、先輩とともに、会社の寮に帰りました。私はな
かなか、寝つけませんでした。

 翌日、私は、電車に乗り、緊張しながら、目的の駅で電車を降り、目的の建
物に向かいました。そして、緊張しながら目的の部屋のドアを開けました。

 「先輩、おはようございます」

 「立花、お前、どうして・・・」

 「先輩。私はもう少し、先輩と一緒に仕事がしたいと思いました。私も先輩
のような○○(会社名)マンになろうと思います。これからも、よろしくお願
いします」

 先輩はあきれたように、そして、なぜか嬉しそうに言いました。

 「○○マンはつらいぞ」

 それから15年後、私は会社を辞め、司法書士になりました。ありがたいも
ので、今でも、先輩や、その会社の方から、仕事のご依頼をいただきます。

 私はまだ○○マンのつもりであり、その会社の方もまだ私を○○マンだと思
ってくださっているのかもしれません。

 そんなことを考えていると、ようやく、お店のシステムが復旧したようです。
店員さんは、レジへの案内してくれました。

 レジの担当は別の方でしたが、店員さんは、支払い等が終わるまで、そばに
いて、すべての手続きが終わるまで付き添い、最後まで見届けてくれました。

 そして、深々とお辞儀をして、売場を去る私を見送ってくれました。

 その店員さんの未来がどういうものなのか、私にはわかりません。将来、公
務員になっているのか、それとも、そうではないのか。でも、明るい未来であ
ってほしい。そう思わずにはいられませんでした。


2014.12.16(火)【店員さん(前篇)】(仙台・立花宏)

 先日、ノートパソコンを購入するため、電気店に行きました。これまで5年
ほど使用してきたノートパソコンの調子が悪くなり、思い切って買い替えよう
と思ったのです。

 しかし、パソコンに不案内な私が、なんの予備知識もなく、いきなり電気店
に行ったのです。どのノートパソコンを選んでよいのか、さっぱりわかりませ
ん。売場にあるパソコンには、それそれ、性能等が表示してあります。しかし、
それを読んでも、自分に必要な性能等がどのくらいなのかが検討がつかないの
です。値段の高い方が性能等がよいのでしょうけど、予算には限りがあります。

 どうしたものかと売場をうろうろしていると、何人かの店員さんが話しかけ
てくれました。みなさん、とても丁寧に、そして流暢に説明してくださいます。
それぞれのパソコンの良さや、値引きの可能性等がよくわかりました。しかし、
なんとなく、ピンとこないのです。申し訳なく思ったのですが、その都度、お
礼を言い、もう少し検討したい旨を伝えました。

 その日の購入をあきらめ、後日、また来店しようと、売場を離れようとした
ときのことです。別な店員さんが話しかけてきたのです。女子高を卒業したば
かりの新人さんといった雰囲気です。もう、その日は購入をあきらめたつもり
だったので、その旨を伝えようと思いました。話を聞いても、その日は購入す
る気持ちになれないと思ったのです。しかし、その店員さんの様子をみて、も
う少し話を聞いてみようという気持ちになりました。

 その若い店員さんの説明は、それまでの店員さんと違い、流暢ではありませ
んでした。たどたどしくさえ感じられました。しかし、こちらの使用目的など
を丁寧に聞いてくれ、一生懸命、応えようとしてくれるのです。とても好感が
もてました。パソコンに不案内な私にとっては、その説明のリズムが合ってい
たのかもしれません。いつのまにか、その若い店員さんの勧めるノートパソコ
ンを購入することに決めていました。

 いろいろな手続を終え、その店員さんとともに、レジへ向かいました。しか
し、レジは大混雑していました。どうやら、そのお店のシステムかなにかのト
ラブルがあり、レジでの支払いができない状況のようでした。その店員さんは、
申し訳なさそうに、イスのある場所に案内してくれました。そのイスで、レジ
が復旧するまで待つことにしました。

 待たせることを申し訳なく思ったのか、その店員さんは、隣に立ちながら、
いろいろな話をしてくれました。はじめは、パソコンの性能等の話でしたが、
時間がたち、間が持たなくなってきたのでしょう。徐々に、自分自身のことを
話してくれました。高校を卒業し、一昨年、地方から仙台に出てきたこと。公
務員をめざし、専門学校に通っていたが、公務員試験の結果は残念なものだっ
たこと。早く社会人になって、女手一つで育ててくれた母親を安心させたかっ
たため、今の会社に就職したこと。就職後、パソコンの売場の担当をしている
が、とても忙しく、仕事が大変であること。なかなか、休みがとれず、正月も
帰省できるかどうか、わからないこと。そして、公務員の夢を捨てきれず、夜
遅く、会社の寮に帰った後、勉強を続けていること。

 その話を聞き、私は、今から20年以上前、ある会社に就職したときの、自
分自身のことを思い出していました。

 (明日につづく)


2014.12.15(月)【テレビ会議の普及度】(金子登志雄)

 衆院選は、マスコミの予想どおり、惨敗の沖縄を除いて与党の圧勝でした。
消費税アップ(や憲法改正など)を堂々と掲げての勝利でしたからお見事とい
うしかありません。

 強い者(与党)はますます強く、弱い者(弱小政党)はますます弱くなると
いう自然界(自由社会)の掟のような結果でしたが、どうやら、日本社会は、
この路線を選択したということでしょう。経済社会でも「寄らば大樹の陰」の
動きが加速するでしょうが、われわれ個人事業者は、それもできませんので、
創意工夫で特色を出して生き残りをはかるしかなさそうです。頑張りましょう。

 さて、某上場会社の100%子会社が取締役会をテレビ会議でいたしました。
議事録には、開催した本店会議室と支店会議室の記載はありましたが「テレビ
会議方式で行う」としか書いてなく、取締役の誰がどこの場所にいたかも書い
てありませんでした。

 TV会議方式は相当浸透しているので私も何も考えずに申請したところ、補
正になりました。いわく「①取締役の誰がどこの場所にいたかも書いてほしい。
また、②出席者の音声等が即時に他の出席者に伝わり、相互に適時的確な意見
表明が可能な仕組みとなっていることも明記してほしい」とのことでした。

 先例をみると、上記のような記載のある議事録例をもって「これでよい」と
いう内容であり、上記の①②の記載が必須かは不明でしたが、必須であるとも
受け取れるので、会社の承認を得て補正に応じました。

 あと10年もしてテレビ会議が相当普及すれば、②については記載せずとも
よいことになると思いますが、まだ、その段階に至っていないということでし
ょう。皆様も、こういう方式の場合は、記載漏れのチェックをお忘れなく。


2014.12.12(金)【生活と政治】(金子登志雄)

 明後日は選挙なんですね。全く話題にもなりません。不気味ですね。

 さて、先日読んだものに「西洋では、生活=政治だが、日本では、生活と政
治は別のものだと思う国民が多い」とありました。

 確かに、消費税も円安物価高も原発問題も生活に密着しており、反対する意
見が多いのに、選挙になるとなぜか全く別の行動をとる方が少なくありません。

 勝手な想像ですが、江戸300年の長い平和な時代がそうさせたのでしょう
か。西洋の歴史では、権力の圧制が始終ありましたが、日本社会の権力闘争は、
侍(一種の地方公務員)の間でしかなされず、一般庶民は、それとは無関係に
生活してきました。

 また、日本では、消費税もフクシマも自然災害と同じように受けとめ、為政
者の責任追及に発展しません。ドイツでは戦後何十年もナチスの残党狩りに南
アメリカまで追いかけるしつこさがありましたが、日本では、あの戦争は一億
総懺悔で、みんなの責任にされてしまい、個に対する責任追及はなされません。
フクシマも、いつしかみんなで我慢しようということになってしまいました。

 オレオレ詐欺に騙されるようなオメデタイ国民は日本だけだといわれますが、
逆に落としたサイフが交番に届けられるのも日本だけでしょう。交番などとい
う権力の手先が市民社会に入ることさえ拒否するのが圧制に苦しんだ西洋社会
の考え方です。

 なんだかんだいっても、好人物が多く生活しやすい日本は素晴らしい国です
が、残念なのは、日本人にバランス感覚が欠けてきたように感じています。衆
参のねじれや、かつての社会党のように一定数の数を持った野党がいることに
よって、与党も暴走できない日本型のバランスの仕組みがありましたし、諸外
国が日本をどうみているかを気にする自意識過剰の傾向がありましたが、最近
は、それも薄れました。近隣諸国を馬鹿にする選民思想さえ増大中のようです。

 明後日の選挙も関心の薄い人が多いようですから、一時期流行った「チェン
ジ」はないのでしょう。私の選挙区でも行く意味に疑問がありますが、投票だ
けは国民の義務と思っていますので、必ず行くつもりです。投票もせずに世の
中を批評する人間にはなりたくありませんので。


2014.12.11(木)【パブコメにみる基本姿勢】(金子登志雄)

 商業登記規則の改正で取締役会設置会社の取締役の就任承諾書に、本人の実
在性を証明するため住民票等を添付することになりそうですが、それに対する
パブリックコメントをみると、意見提出者の姿勢がさまざまであることが分か
ります。

 就任承諾書には住所を明記させて住民票ではなく個人実印を押させて印鑑証
明書を添付させよなどという法務省商事課案以上に厳しい意見も多数耳にして
います。住民票程度では不十分だという性悪説に立脚しているのでしょうか。

 また、規制を強化したり手続を面倒にすると、素人が参入しにくくなり、わ
れわれ資格者(弁護士や司法書士)には有利に働きますが、ありのままの自由
をこよなく愛する私、民間の味方でありたいと思う私は、同じく性悪説でも、
「1万人に1人の不心得がいることによって、残りの9999人がなぜとばっ
ちりを受けなければならないのか。規制は罰則強化など事後規制で十分だ」と
考えてしまいます。

 したがって、私は、運転免許証の写しでもいいじゃないか、上場会社の取締
役候補は略歴まで総会招集通知に記載し会社が責任を持って対応しているし、
外国人も多いから例外にせよなどという手続が楽な方向で意見を提出しました。

 婚姻後の旧姓併記でも、それが記載されていないと未婚かと勘違いされる負
の効果もあろうと考えてしまいますし、商事課の管轄外ですが、夫婦別姓のほ
うが抜本的な解決策であろうにとも考えてしまいます。

 というわけで、「民」の世界では結構常識人間である私も、真面目な人の多
い法曹の社会では、相変わらず異端の司法書士のようです。


2014.12.10(水)【中間配当と事業年度】(金子登志雄)

 ちょうど今ころ、3月決算上場会社の中間配当金が送られてくる時期です。
私も予定外の臨時の小遣いが入りました。

 中間配当というと、事業年度の中間期末(3月決算なら9月30日)を基準
日として支払われる配当と思っている方が多いようですが、①取締役会設置会
社が②取締役会決議に基づき③1回に限り、④事業年度の途中で④金銭の分配
(現物は不可)をするものです(会社法454条5項)。

 非取締役会設置会社が期の途中で行う配当や、取締役会設置会社が「株主総
会」の決議によって期の途中で臨時に配当するものは中間配当とはいいません。
また、期の途中であればよく、中間期末を基準日にする必要もありません。

 もともと日本の上場会社では半年決算会社が多数で年2回の定時総会で配当
していましたが、監査役制度を大幅に改めた昭和49年の改正商法で監査期間
の延長に合わせて事業年度を1年にすることを認めたため、この中間配当制度
が商法に規定されました。

 ふと、半年決算会社も中間配当できるのかなと会社法の条文を調べましたが、
否定する理由はなさそうでした。

 事業年度が1年であることは、どこに規定されているのか調べましたら、計
算規則59条2項で、原則として1年を超えることができないとありました。

 ところが、解散後の清算事務年度については、会社法494条1項により、
1年限定の法定期間でした。

 臨時の小遣いで終わらせずに、会社法の勉強につなげるなど、会社法オタク
の私らしいですね。それだけ本欄ネタに苦労しているということです。お察し
ください。



2014.12.09(火)【常勤監査役の権利義務、補欠】(金子登志雄)

 昨日の続きですが、委員会設置会社の委員についても権利義務者制度や補欠
委員制度がありました(401条2項)。執行役や代表執行役については補欠
制度がありました(403条3項、420条3項)。受験生なら知っているこ
とかもしれませんが、全国に100社もない委員会設置会社については、われ
われ実務家は関心が薄く、新鮮な発見になります。

 一方、業務執行機関ではない監査役会設置会社の常勤監査役については、権
利義務者制度も補欠制度も直接の規定は見当たりませんでした。

 しかし、常勤監査役が任期満了や辞任して、監査役としての権利義務者にな
る場合は常勤監査役としての職務継続義務があるでしょうし、補欠監査役が就
任した場合は、改めて常勤監査役を選定すれば足り、わざわざ明文規定を設け
る必要はないという意味でしょう。補欠常勤監査役についても、条件付決議に
過ぎませんから、その選定も否定されないと考えます。

 常勤監査役というのは、常勤して監査役の職務に専念する監査役で非常勤は
不可というだけで、会社を代表する監査役という意味はありません。というの
は、監査役は裁判官と同じく個々独立して監査する立場であり、業務執行取締
役のように上下関係を設けることができないからです。

 ちなみに、当事務所は会社と同じフロアにありますから、私は常「駐」監査
役ですが常勤監査役ではありません。当社の常勤監査役は社外監査役です。常
勤と常駐、社外性………、その差を勘違いしないことです。代表取締役は常勤
である必要はありませんが、社外性とは両立しません。ややこしいですね。


2014.12.08(月)【代表取締役の任期と補欠】(金子登志雄)

 だいぶ寒くなりました。私もとうとうコートを着用することにしました。

 さて、会社法351条には「代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表
取締役の員数が欠けた場合には、【任期の満了】又は辞任により退任した代表
取締役は、新たに選定された代表取締役(…)が就任するまで、なお代表取締
役としての権利義務を有する」とありますが、「あれ? 代表取締役に任期が
あるのか」と考えたことのある方はそう多くはないと思います。

 というのは、「代表取締役の任期=代表権を有する【取締役の任期】」と考
えてしまい、代表取締役独自の任期についてまで考えないことが多いからです。
しかし、基礎となる取締役の任期の範囲内であれば、代表取締役独自の任期が
肯定されます。取締役の任期を10年にしても、代表取締役は2年ごとに交代
などという場合に有益でしょう。

 条文の「欠けた場合」で思い付くのは、権利義務者制度だけでなく、補欠制
度があります。「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の
員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる」とす
る329条2項ですが、権利義務制度と相違するところは、「欠けた」理由が
「任期の満了と辞任」に限定されないことでしょうか。

 相澤哲編著『新・会社法の解説』309頁では補欠代表取締役を肯定してい
ますが、329条2項の役員である「取締役」には「会社を代表する取締役」
も含むと考えられること、351条で代表取締役が欠けた場合の権利義務制度
があることからして、補欠代表取締役は否定できませんね。

 いままで、補欠代表取締役というのは、取締役が欠けずに代表取締役だけが
欠けた場合を意味するのかとの疑問もありましたが、代表取締役たる取締役が
辞任することによって「権利義務取締役」と「権利義務代表取締役」の2つに
なり、前者には補欠取締役が就任し、後者には補欠代表取締役が就任すること
に確信が持てました。



2014.12.05(金)【選挙と選任と選定】(金子登志雄)

 衆議院議員選挙中ですが、どうも盛り上がりに欠けますね。このまま行くと
投票率が大幅に下がり固定票の多い与党側優位という見方が多いようですが、
結果はどうなるのでしょうか。

 さて、選挙の場合は、定員1名のところ1名しか立候補しないと無投票当選
になり、複数名が立候補した場合は有効投票の最も多い者が当選することにな
っていますが、取締役や監査役の選任については、株主総会で選任方法を自由
に定めてよいのでしょうか。会社法の教科書にも何も書いてないようです。

 そこで考えてみましたが、まず、会社法329条に「役員(………)は、株
主総会の決議によって選任する」とありますから、無投票当選はなさそうです。

 次に、国政選挙では自ら立候補した人からの申込みに対して選挙民が承諾の
有無の返事をする仕組みですが、役員の選任では、株主総会(会社)が申込み
側であり、被選任者が就任の承諾をする仕組みになっています。したがって、
候補者の乱立はまずありません。

 株主総会の申込みは、「ABCDの4人の方は当社の取締役になってくださ
い。有効投票の多い順に3名の方に正式に申し込みます」などという失礼な方
法は現実に無理ですから「Aさんいかが」「Bさんいかが」「Cさんいかが」
と3人に個別に申込み、順に選任可決する方法にならざるを得ません(現実に
は一括して選任することが多いのですが、3つの議案というべきです)。

 ABCさんは株主である必要がありません。日本人である必要もありません。
これに対して、代表取締役(や常勤監査役など)の「選定」は、「取締役の中
から」などという限定があります。

 可決しても、これによって取締役が非取締役の代表取締役というものになる
わけではありません。代表取締役という取締役になるだけです。したがって、
同じ選任行為でも、「人選び」というよりも、同じ立場の複数名の間で各自の
役割(担当・任務・権限)分担を決めるという性格が強いのではないないでし
ょうか。代表権付与という用語も、人選びというよりも、権限付与という意味
合いですし、会社法が代表取締役につき「定める」と規定し、「選ぶ」としな
かったのもこういう理由でしょう。


2014.12.04(木)【設立時代表取締役の選定方法】(金子登志雄)

 合同会社ではなく株式会社の設立に関してですが、会社法の規定が十分に整
備されていないためか、非取締役会設置会社の設立時代表取締役の選定方法に
迷う人が少なくないようです。

 設立後であれば、取締役会設置会社なら362条、非設置会社であれば「定
款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議」と349条に規定
されています。

 取締役会設置会社の設立時代表取締役については、47条に設立時取締役の
互選で定めるとありますが、非設置会社の場合は、どこに規定されているので
しょうか。

 38条1項に「発起人は、…、設立時取締役(…)を選任しなければならな
い」とありますので、発起設立であれば、発起人が選定できることは問題なさ
そうです。この取締役には会社を代表する取締役も含むと考えられるからです。

 次に29条には定款に任意規定を置くことができるとありますので、定款で
直接に、又は定款に「設立時取締役の互選で」などと定めることも可能です。

 これで設立後の会社法349条と並ぶ関係になりましたが、設立時代表取締
役についても349序のような規定を設けておけば、迷いも混乱も生じなかっ
たのではないでしょうか。


2014.12.03(水)【合同会社を設立して】(島根・根来川弘充)

 昨年、10月に知人らと合同会社を設立して、丸一年が経過いたしました。

 設立した理由には、さまざまなものがあるのですが、その理由の一つとして、
業務として会社のご相談を受けるのですが、会社を持っていないのに果たして、
依頼者の立場になって相談が受けられているかという不安があったという点が
ありました。

 今回、はじめての決算をおえて、本当に会社を維持することの大変さを実感
いたしました。

 中でも一番苦労した点は、人件費です。当初予定していた人件費をまかなう
には、当初予定していた以上に、売上が無いと維持できないということを痛感
いたしました。

 費用が相対的に安くできるということで、合同会社にしたのですが、その費
用を気にしているようでは、合同会社にすべきでないのかもしれません。

 すべて厄年のためと思う事にし、また一年、気持ちを切り替えて頑張りたい
と思います。


2014.12.02(火)【会社内組織と会社外組織】(金子登志雄)

 昨日に関連する話題ですが、事業部の再構成など社内組織(組織図)を変更
すると、上場会社では「組織変更のお知らせ」というものを出します。

(例)
http://www.sumirin-crest.co.jp/news/pdf/140401.pdf#search='%E7%B5%84%E7%B9%94%E5%A4%89%E6%9B%B4+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 同時に人事異動を行うこともよくあるのですが、組織「再編」が会社の外と
の関係だとすると、組織「変更」は会社内部の事業組織の再編成です。

 ところが会社法でいう組織変更は株式会社が持分会社になること、あるいは
持分会社が株式会社になることです。会社内部の組織図の変更ではなく、会社
の種類を「株式」採用会社から「持分」採用会社に変更すること、あるいは逆
のことです。

 紛らわしいので、組織「転換」とでも名づければよいのにと思うのですが、
紛らわしいと思っているには、会社法を知っている人だけですから、一般社会
には影響のないことなんでしょう。

 持分会社の特徴は株主に相当する社員の直接経営が基本であり、株式会社の
取締役のように経営の専門家(個人)を使いません。したがって、社員が法人
でも業務執行者になれます。その代表を「代表社員」といいますが、法人でも
かまいません。

 法人が経営者になると、どう運営するのかと思うでしょうが、自社の従業員
等を、その持分会社担当として選任し(職務執行者という)、その者に持分会
社の管理を任せます。出資先子会社に対する派遣社長のようなものです。

 持分会社からみれば経営従事者ですが、持分会社の社員総会にようなもので
選ばずに、社員自身が選んで派遣してくる点が実にユニークです。

 商業登記の通達では、職務執行者につき支配人に準じて社員たる会社の取締
役会で選任することになっていますが、支店は親会社の組織であるのに対し、
子会社あるいは出資先の持分会社は別会社ですから、この通達に対しては、も
う少し緩和すべきではないかという意見が実務界には少なくありません。


2014.12.01(月)【社内カンパニー制】(金子登志雄)

 少し肌寒くなってきたなと感じていましたが、本年も最後の月になりました。
事務所のある東京、自宅のある横浜はコートを着用せずともまだ過ごせますが、
皆様のところはいかがでしょうか。

 今年は改正会社法の施行が来年に見込まれるなど「変化の前触れの年」でし
たから、例年よりも、私の活躍することのできる場が増えました。著作や組織
再編、会社の設立などの依頼が例年以上にあったためです。

 先日の組織再編の相談では、「昔は社内カンパニー制を採用するところが多
かったのに、最近はそういう話を聞きませんね。どうしてですか」と質問され
ました。

 社内カンパニー制度などとは、懐かしい用語です。平成9年の独禁法の改正
で持株会社が解禁になりましたし、平成13年4月には会社分割制度が旧商法
に定められましたので、社内分社化よりも社外への分社化が主流になりました。
独立採算制がより明確になります。

 拙著にも書きましたが、平成9年以前の昔は、部分的持株会社の事業目的は
「有価証券の保有及び運用」でしたが、持株会社解禁後は、「次の事業を営む
会社の株式・持分を取得・所有することにより、当該会社の事業活動を支配・
管理することを目的とする」が主流となり、多数の事業を列挙したものでした
が、現在は、その簡易版が多いようです。平成18年の会社法施行により、類
似商号の登記の禁止が廃止されたため、細かい事業目的の記載は不要となり、
「その他適法な一切の事業」などという包括的な事業目的で済むようになった
ためです。

 こういう経済活動に関係する法制度の改正は、経済社会を大きく変えますが、
改正会社法の監査等委員会設置会社や親子会社法制の見直しは、企業から要請
された大改革とはいえませんので、法律世界にも大きな影響はないと予測して
いますが、結果はどうでしょうか。


2014.11.28(金)【定款/刺身のツマ条項】(金子登志雄)

 内藤司法書士ブログ等で、もうご存知かも知れませんが、監査役の会計監査
限定の登記は、登記簿の会社状態区ではなく役員区に登記することになったよ
うで、登録免許税3万円の負担問題は無事に解決しそうです。

 これでわれわれ司法書士もお客様から、とばっちりのクレームを受けること
がなくなりました。法務省商事課をはじめとする関係各位のご努力に感謝申し
上げねばなりません。

 これにも関連して、昨日は、改正会社法後のリーガルの商業登記基本書式集
所蔵の定款内容等の改訂箇所についての打ち合わせ会でした。施行日である来
年5月からのことを今から準備しておかねばならないわけです。共同監修者の
神崎先生や鈴木司法書士も一緒でした。

 そこで、定款の決まり文句のように存在する「質権の設定及び信託財産の表
示」や「株主の住所等の届出等」などにつき、法律的にはなくても困らない条
項ですから、削除しようかという議論になりましたが、結局は「ツマがなけれ
ば刺身は引き立たない」ということになり残存させました。

 世の中そういうことが多いと思いませんか。脇役がいるから主役が引き立つ
わけです。脇役に泉ピン子がいるからマッサンの主役女優が引き立つわけです。

 俳優の世界では、主役はすぐに賞味期限切れするが、脇役は寿命が長く、声
がかかる機会が多いため、生涯の合計収入では主役クラスより脇役のほうが多
くなると聞いたことがあります。泉ピン子さんも、昭和50年頃のテレビ番組
ウイークエンダーのしゃべり手として人気を得てから、もう40年も最前線で
活躍し続けています(当時の彼女は漫談家でした)。

 私もいずれ賞味期限切れしそうですから、そろそろ脇役の刺身のツマを目指
そうかなとも思いますが、食べられずにあっさり捨てられたくもなしで、難し
いところです。

 なお、リーガル書式集は、大きく変化し、応用力の利く内容に変化します。
バージョンアップどころか新装開店並です。ご期待を裏切らないと思いますの
で、来年の発売をお楽しみに。


2014.11.27(木)【監査役提案議案?】(金子登志雄)

 株主提案がありますと、総会招集通知は次のような書き方をします。
----------------------------------------------------------------------
<会社提案(第1号議案から第2号議案まで)>
 第1号議案 剰余金の処分の件
 第2号議案 ・・・・・・・・
<株主提案(第3号議案)>
 第3号議案 ・・・・・・・・
----------------------------------------------------------------------

 第3号議案ではなく、株主提案の第1号議案としてもよさそうですが、そう
いう記載例があるのかは知りません。紛らわしさの防止の面から、会社提案の
次の番号を付すのでしょう。

 第3号議案が剰余金処分の件で、第1号議案も第3号議案も可決したら、た
ぶん賛成多数のほうが優先するのでしょうが、これも、そういう例があるかは
不明です(修正動議で取締役選任議案には実例があります)。

 さて、取締役会設置会社を前提に、会社提案と株主提案があるなら、取締役
提案というものはないのかという当然の疑問が生じるでしょうが、株主総会の
議題の決定は取締役会決議に限定されています(会社法298条4項)。

 いわゆる書面決議の会社法319条には「取締役………が株主総会の目的で
ある事項について提案をした場合において」とあり、取締役提案を認めていま
すが、319条は株主総会そのものではないからです。

 ところが、改正会社法344条では、会計監査人の選解任等の議案内容の決
定者が取締役会ではなく監査役(会)に変更されます。

 冗談半分に証券代行に、改正会社法施行後は、定時株主総会招集通知に、会
社提案のほかに「監査役(会)提案」の項目を設ける会社も出てくるかも……
と話しましたら。「まさかぁ」という返事でした。

 きっと、総会運営の実務上は、取締役会提案も監査役(会)提案も会社提案
に一括りにされるのでしょう。


2014.11.26(水)【ネット検索勉強法】(金子登志雄)

 常連の本欄閲覧者の方には、また、あの話題かと思われてしまったことでし
ょうが、昨日は、またもや本年2月5日の東京司法書士会千代田支部セミナー
での東京法務局とのQ&Aの項目をネタにさせてもらいました。

 同じテーマでも10か月間もああでもないこうでもないと考え続けていると、
少しずつですが推理が深まってくるものです。連休中にネット検索でウシオ電
機の開示を見つけたのが考えるヒントになりました。

 連休中には、ダイキン工業の次の情報開示もよい勉強材料になりました。

   http://www.daikin.co.jp/press/2014/140627_j/index.html

 ダイキン工業の定款第7条には、会社法165条2項に基づき、自己株式の
市場買付は取締役会決議でできるとあるのです。なぜ、わざわざ株主総会に付
議するのかと不思議に思いました。

 同社のHPをみる限り、以前からそうしていたからという理由しか思いつき
ませんでしたが、同時に、会社法の条文をみたら、定款で定めても、株主総会
でも決議できるという明文の規定があることに気づきました。

----------------------------------------------------------------------
第165条【市場取引等による株式の取得】
② 取締役会設置会社は、市場取引等により当該株式会社の株式を取得するこ
 とを【取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることが
 できる】。
③ 前項の規定による定款の定めを設けた場合における第156条第1項の規
 定の適用については、………第165条第1項に規定する場合にあっては、
 【株主総会又は取締役会】………とする。
----------------------------------------------------------------------

 定款でわざわざ取締役会決議でできるとしながら、株主総会で決議すること
などダイキン工業以外にあるのだろうかと、例によって、ああでもないこうで
もないと考え続けていましたら、ハタと気づきました。

 自社株式を購入せよという株主提案が結構あるのです。これを「当社定款の
定めにより株主総会決議事項ではありませんので、あしからず」とはいえない
ことが条文上も明白です。

 ネット検索のコツは「お知らせ」と入れてください。上場会社の情報開示に
は、この用語が必ず入ります。


2014.11.25(火)【代表取締役の予選の論理】(金子登志雄)

 今日は重要な話です。司法書士各位はしっかりと理論武装してください。

 さて、登記実務の世界では、代表取締役の予選につき、予選時と就任時の取
締役会の構成メンバーが一致していなければならないという不思議な論理が支
配的ですが、その背景論理がやっとみえてきました。どうも、人的要素の強い
非取締役会設置会社の「互選代表」と同様に考えてしまうようです。

 具体例:取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社において、AB
が3月31日に辞任するので、3月20日の取締役会で4月1日からの代表取
締役としてCを予選した。3月29日の緊急株主総会(書面決議)でABの後
任としてDEを選任した。

 上場会社の子会社でよくある事例です。4月1日にCDEが集まって取締役
会を開催すれば何の問題もないのですが、4月1日は期首の多忙な時期であり、
子会社の運営は親会社次第ですから、子会社の役員は、収益を生まない形式的
な取締役会よりも商売の方を優先するため、集まれないのです。こういう事情
を公務員である当局の方は想像さえしてくれません。

 そこで予選にしたわけですが、登記実務は、予選時の取締役と就任時の取締
役が異なるから、別個の取締役会だと考えてしまうようです。つまり、Cを代
表取締役として予選したのは「ABC取締役会」であり「CDE取締役会」で
はなく、ABCの総意とCDEの総意は不一致であることが明白だから、この
予選は無効になるという思考です。まさに、心裡留保は無効だという論のごと
しです。

 代表取締役は取締役の代表だから、CDEに選ばれなければいけないとも考
えるようです。

 しかし、これは「互選代表の論理」ではないでしょうか。互選代表であれば、
選任者ABCのうちABが4月1日までに欠けてしまいますから、委任契約の
委任者死亡と同様に、予選の効力が失効したと解釈してもよいでしょう。

 本事例で予選したのは「個」としてのABCではなく、「機関」である取締
役「会」ですから、いったんなされた機関決定は、被選定者のCが取締役でな
くなった場合は目的達成不能で無効になっても、選定側のABの事後事情で効
力が否定されることはないはずです。将来の支店設置決議や簡易合併決議が取
締役の交代に影響されないのと同じです。

 社外取締役の存在を考えるまでもなく、代表取締役は取締役の代表ではなく
会社の代表です。

 そこで、説明に窮するのか、便利な「合理性」を持ち出します。構成員が変
わるなら予選する必要もなく、合理性を欠くから無効だというわけです。一見、
説得的にみえますが、ABが急死した場合にも、合理性を欠くことになるとし
ますから、運・不運に左右される合理性などあるのでしょうか。

 会社はC代表取締役でよいと思っているから(合理性があると思っているか
ら)、自己責任で登記を申請しているわけで、これに対して登記所が合理性が
ないというのは適法性審査を超えた妥当性審査ではないでしょうか。形式的審
査権も超えており、会社としては余計なお世話だと感じることでしょう。

 新取締役のDEがC代表取締役に反対であれば、Cは就任承諾を撤回するで
しょうし、就任後でもDEはCに辞任を求めることができます。辞任しなけれ
ば解任です。こういうことは会社の自治問題です。もっとも、こういう予選事
例のほとんどが上場会社の100%子会社であり、実際は親会社の指示で動い
ているだけのため、このような紛争にはなりません。世の中の大多数の実態は、
代表取締役は親会社やオーナー社長が決めるのであり、取締役会は形式的な追
認作業でしかありません。

 自分が辞めた後の後任を選べるとしたら、非取締役が代表取締役を選んだの
と同様だという論についても、そもそもCは3月20日時点でも代表取締役に
なれる立場でした。就任承諾時期が遅れたのと同様に、就任時期をちょっとず
らしただけのことです。相澤哲編著『新・会社法の解説』309頁では補欠代
表取締役を肯定していますが、これも後任の予選の1つです。

 登記先例の事案は取締役全員の任期切れ重任(定時総会)を間に挟むため、
まだ別個の取締役会(今期取締役会と次期取締役会)だということに納得でき
る方も、全員が任期中の本事案にまで、この論を持ち込むことには違和感を覚
えるはずです。大多数の学者や弁護士にも通じない論理でしょう。

 本欄を当局の方が読めば、きっと苦々しく思うことでしょうが、私は当局に
逆らっているわけではありません。登記を愛する身として、登記は異質な法律
世界と思われたくないのであり、取締役会の独立性を認める健全な法律解釈に
戻っていただきたいだけです。今後も反対し続けますので、ご了解ください。

(注)下記のウシオ電機の事例は、9月17日の取締役会で10月1日の社長
を予選しています。もし、これが代表取締役の予選だとしたら、この間に1人
でも取締役が辞任・死亡したときに、この代表取締役の予選は認められるので
しょうか。社長の場合は可で代表取締役は不可というのもおかしな話です。
 http://www.ushio.co.jp/documents/NEWS/company/20140917/20140917_01.pdf



2014.11.21(金)【合理性判断】(金子登志雄)

 昨日「商事課の立場からは、無責任でいられるわれわれ民間人と相違し、責
任あるお立場ですから、これをOKにすると際限がなくなり、さまざま問題が
生じかねないという危惧から保守的な回答をしてしまうこともあるようでした」
と書きましたが、これが合理性根拠につながるようでした。

 たとえば、代表取締役の予選をする合理性がない、合理的期間でない………
などという理由付をすることで、際限なく予選が広がることを防止したいよう
でした。そのため、商事課の多数は、代表取締役の予選については、非常に狭
く捉えている感触でした。

 即座に反論しました。合理性というのは登記官が判断することではなく、裁
判所が判断することであって、会社が合理性があると判断して決定したことを
登記官の判断で否定するのはいかがなものかと。

 登記の却下事由は、適法性判断であり、判断者によって異なる合理性などと
いう曖昧な判断は可能な限り避けていただきたいのですが、企業と直接接触す
るわれわれは、この会社なら問題ないと「個別」判断して申請しているのに対
し、商事課は一般論で判断し、問題が起きたら困るという性悪説に立脚してし
まうようでした。

 立場が変われば結論も異なるのは致し方ないことですが、19日のような座
談会で官民交流が増えれば、こういうことも徐々に改善されることでしょう。
代表取締役を予選するような会社は上場会社の100%子会社が中心であり、
問題が生じることはまずありませんので、引き続き、民間の意見を声を大にし
て伝えたいと思っています。それまでは、拙著にあるように、定款で代表取締
役は株主総会でも選定できるようにし、総会で予選しておくのが無難です。


2014.11.20(木)【素晴らしい座談会】(金子登志雄)

 昨日は、きんざいの登記雑誌「登記情報」の新年号特集用に、法務省商事課
と元登記官である神崎先生を中心とする民間側(商業登記倶楽部関係者)で、
会社法施行8年を記念し、商業登記の諸問題につき座談会がありました。商業
登記倶楽部に関係する私と鈴木龍介さんが司法書士として参加しました。

 実に有意義な座談会でした。お互いの誤解も解けました。われわれ民間側は、
法務省のお役人様達は、さぞ頭が固いのだろうという先入観を持ってしまう傾
向がありますが、商事課課長様はじめ、実に気さくで非常に話しやすく、考え
方も柔軟でした。

 外部に発表されたものをみると、その柔軟なニュアンスが通じませんが、同
じ商事課内部でもさまざまな意見が飛び交うようで、少なくともわれわれと意
見を同じくする方がいらっしゃるとのことで、ほっとし、安心しました。した
がって、現時点では、商事課内部で少数説でも、われわれ民間側と同じ意見が
明日の多数派になる可能性も十分に残されているわけです。

 逆に、商事課の立場からは、無責任でいられるわれわれ民間人と相違し、責
任あるお立場ですから、これをOKにすると際限がなくなり、さまざま問題が
生じかねないという危惧から保守的な回答をしてしまうこともあるようでした
が、われわれ民間側の意見を聞き、ごくごく通常のありふれた出来事を、なぜ、
登記で受理してくれないのかという不満であることをご理解いただきました。

 座談会の内容は雑誌に掲載されますので、ここには書きませんが、このよう
な有意義な座談会を企画してくれた登記情報編集部には、感謝です。登記情報
は月刊誌ですが、年間たったの1万円程度です。ぜひ、ご購読のうえ、新年号
の座談会を読んでください。


2014.11.19(水)【株主総会と総株主の同意】(金子登志雄)

 新保司法書士のブログ(司法書士のオシゴト)に、株式会社が合同会社に組
織変更する場合に、効力発生日を払込期日とする募集株式の発行を条件にする
ことが可能かという問題提起がなされています。
      http://blog.goo.ne.jp/chararineko

 私自身は、条件付き組織変更で午前0時に効力が発生しないこともあるが、
効力発生日の前日までに総株主の同意が必要であるため(776条1項)、募
集株式の発行を条件にすることは無理だと考えています。

 組織変更や吸収型組織再編は、株式や持分の割当てが前提とされており株主
の確定が重要であるため、資本減少や定款変更の議題と相違し、総株主の同意
や株主総会決議は効力発生日の前日までにしなければならないとされています。

 ところで、AがB株式会社を吸収合併する際に、効力発生日のBの募集株式
の発行を条件とする合併は可能です。効力発生日の前日までのBの株主総会は
基準日株主を前提としており、効力発生日の新株主を除外しても問題ないから
です(募集株主の救済は合併の効力以外で検討すべきことです)。株主総会後
にBで新株予約権が行使され新株主が登場した場合と同じことでしょう。

 以上に対し、株主総会ではなく総株主の同意という場合は基準日問題があり
ません。会議の招集も必要ありません。したがって、「前日の総株主=効力発
生日の総株主」で株主の交代や新株主の登場を予定していないと考えられます。


2014.11.18(火)【国政選挙と取締役選任】(金子登志雄)

 沖縄知事選が終わったばかりなのに、年内に衆議院の解散、総選挙がありそ
うですが、株主総会による取締役の選任方法との差を考えたことがあるでしょ
うか。

 国政選挙では各選挙民は1人1票しか有せず、多数をとった者順に当選しま
すが、株主総会では個々の信任投票になっており、議案が「取締役3名選任の
件」で候補者がABC3名であったら、「第1号議案A選任の件」、「第2号
議案B選任の件」、「第3号議案C選任の件」という3つの議案が上程された
のと同じく、株主は候補者ごとに議決権を行使することができます(実務上は、
ABには賛成、Cには反対などと議決権を行使します)。

 議案が取締役2名選任の件のとき、候補者ABCの3名であったら、3名全
員が取締役になるか、多数順になるかは解釈問題になりますが、このような事
例は株主提案がなされたなどの特殊な場合に限られます。

 この結果、就任の登記においても、個別に考えればよく、ABだけ登記し、
Cについては後日に登記することも可能であり、3名を一緒に登記しなかった
としても、登記の遺漏にはなりません。


2014.11.17(月)【パブリックコメント】(金子登志雄)

 いつも貴重な情報を提供してくれる京都の内藤卓司法書士のブログで既にお
知りの方も多いでしょうが、取締役等の就任登記で住民票等が必要になるよう
で、「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関するパブリックコメント
を募集中です。

 http://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/15c9c54c2567f9ec190acad75a5842e9

 私もさっそく意見を出しておきました。
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 新設される商業登記規則第61条第5項につき、表現を改めていただきたい。

 「就任を承諾したことを証する書面に記載した住所につき市区町村長その他
の………」とありますが、これでは、住所を記載しない場合は住民票等の添付
が不要であると勘違いされかねず、また、住所の記載のない就任承諾書は認め
られないという運用がなされる可能性があります。

 商業登記法では、取締役等の就任承諾書に住所の記載を要求していないため
(議事録を援用する場合も同じ。会計参与や会計監査人についても同じ)、こ
こは「就任を承諾したことを証する書面に市区町村長その他の………」とし、
「記載した住所につき」を削除していただきたい。

 なお、住民票等については自然人である会計監査人の資格証明書と同様に期
間制限がない(作成後3か月以内等)と理解しました。
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 たぶん、私の意見は捨て置かれ、通達等で「住所の記載のない就任承諾書も
有効」などと説明されるだけでしょうが、へたな面子にこだわらず、誤解を招
きやすい部分につき柔軟に対応していただくことを願っています。


2014.11.14(金)【株券不発行証明】(金子登志雄)

 本年2月の東京司法書士会千代田支部セミナーの折に、次のようなQ&Aが
なされました。回答は東京法務局です。

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Q:株券不発行の証明書に、株主の住所氏名の記載は必須か。また、代表者が
 「全株につき、全株主より不所持の申出あり」等と記載された上申書をもっ
 て、株主名簿に代えることができるか。

A:株券を発行していないことを証する書面は、株主名簿に限られます。また、
 株主名簿には、会社法第121条に規定される事項が記載され、さらに、株
 券不所持の申出又は株券不発行の事実が記載されている必要があります。
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 上記のQは、商業登記法63条には、「株式の全部について株券を発行して
いないことを証する書面」とあるだけで、株主名簿とは限っていないので、上
申書でもよいと思うがいかがかと聞いているわけです。

 したがって、これに対しては、そのような簡易なものでは不十分であり、せ
めて株主名や、その持ち株数、不発行の有無程度の具体的な記載した証明書で
なければ受理しないと回答すればよいのに、よりによって、勇み足で「株主名
簿に限る。株主の住所も株式の取得年月日も記載が必要だ」などと商業登記法
を超えた無茶な回答をしてしまったわけです。

 この回答が全国に混乱を生じさせているようですが、今週、私は、いつもど
おりに「株主名、その持ち株数、不発行の旨」の3点しか書かず申請しました
が、登記はあっさり受理されました。

 皆さんも、回答の真意を読み取り、回答を文字どおり鵜呑みにしないよう、
お気をつけください。


2014.11.13(木)【エスカレータ大阪方式考】(金子登志雄)

 11日は大阪に行ってまいりました。大阪司法書士会(南ブロック4支部)
での会社法セミナー講師のためです(研修幹事の皆様お世話になりました)。

 ありがたいことに大阪、名古屋は進取の気性が強いのか、改正商法時代から
何度か講師に呼んでいただいております。

 それでも毎年新しい司法書士が増えているためか、金子講師ははじめてだと
いう人も少なくなかったようで、私が会社法・商業登記1本で自宅の抵当権の
抹消ですら自分でせずに、司法書士に依頼した話をすると、意外な顔をされま
した。

 宿泊でしたので、翌日は、まだ行ったことのない通天閣を見学してきました。
その近辺の新世界で大阪名物の串カツでも食べればよかったのですが、1人歩
きのため、今回はパスしました(以前、当会員の田中さんにご馳走になったこ
とがあります)。

 地下鉄の駅では、大阪名物のエスカレータの右並びを経験し、なぜ大阪だけ
なのか不思議に思い、ネットで検索しましたところ、諸説あるが「1970年
に大阪万博の時、阪急の梅田駅で混雑を防ぐ為、『お急ぎの方の為に左側をお
空けください』というアナウンスがあったから、という説が有力のようです」
とありました。

 たぶん、この説が正しいと思います。というのは諸外国では右並びが多いの
で、万博でそれに合わせたのでしょう。

 人の心臓は左にありますから、それを守るため、東京のように左並びのほう
が自然だとは思うのですが、右手を空けておくと、すぐに殴りかかかることが
できるので、礼儀作法として、右を抑制する右並びが世界標準なんでしょうか。

 ひょっとして2020年の東京オリンピック以降は、東京も諸外国に合わせ
て右並びに変わるかもしれませんね。


2014.11.12(水)【登記の抹消? 抹消の登記?】(仙台・立花宏)

 久しぶりに要件事実について体系的な勉強をしようと思い、『要件事実入門』
(岡口基一著 創耕舎)という本を読んでいます。実務について以来、要件事
実について体系的に勉強する機会があまりなかったので、とてもよい刺激にな
っています。

 同書の中に、無効な抵当権を抹消する際の訴訟物についての記載があり、
「所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消請求権」となっ
ていました。
 そして、次のような記載がありました。

 「本問の訴訟物を「~登記抹消請求権」とせず、「~登記抹消登記請求権」
と記載する例もありますが、「登記の抹消」と「抹消登記」は異なる概念であ
り、不動産登記法でも「登記の抹消」との用語を使用しています。」(※)

 確かに、不動産登記法第68条では、“権利に関する登記の抹消は、(省略)
申請することができる”(条文中、下線は筆者による)となっています。そし
て、当事者が登記の抹消を申請すると、登記官が登記を抹消するための手続を
することになります。このとき、登記の抹消をするための手続は不動産登記規
則第152条に規定されています。
“登記官は、権利の登記の抹消をするときは、抹消の登記をするとともに、抹
消すべき登記を抹消する記号を記録しなければならない”
 たとえば、登記記録の乙区には、1番抵当権設定の登記しかない不動産だと
します。当事者がこの抵当権設定登記の抹消を申請すると、登記官は、乙区の
2番に、“1番抵当権抹消”という登記(抹消の登記)をした上で、1番抵当
権の登記事項に抹消する記号を記録することになります。(なお、この抹消す
る記号は、登記事項証明書では、抹消に係る事項の下に線を付されることにな
ります(不動産登記規則第197条第5号))。

 当事者が申請することができるのは、不動産登記法第68条に基づく“登記
の抹消
”です。同書のとおり、訴訟物は「~登記抹消請求権」ということにな
るのでしょう。
 ところで、訴訟物が「~抹消登記請求権」となることはないのでしょうか。

 調べてみると、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関
する法律」(以下、「動産・債権譲渡特例法」という。)第10条第1項には
次のように規定されていました。
“譲渡人及び譲受人は、(省略)抹消登記を申請することができる”(条文中、
下線は筆者による)
 この規定によれば、当事者が申請するのは、“抹消登記”ということになり
ます。
 ということは、動産・債権譲渡特例法に基づき、動産譲渡登記や債権譲渡登
記を抹消することを請求する場合の訴訟物は、「~抹消登記請求権」となるの
だと思います。

 なお、同条第2項に、譲渡登記ファイルへの記載方法が規定されています。
抹消すべき登記を抹消する旨等を記録することとされています。(不動産登記
と違い、抹消に係る事項に抹消する記号を記録することにはなっていません。
ただし、動産・債権譲渡特例法第12条に基づき設けられる登記事項概要ファ
イルには、不動産登記と同様の記録がされます(平成17・9・30民商第
2290号民事局長通達))。

 同書を読み、法律を扱う職業に就くものとして、用語を正確に使うことの大
切さ、法律の条文の大切さをあらためて感じています。

(※)なお、同書では、さらに次のように解説されていました。
 「登記を抹消するのは登記官ですから、(省略) 正確には「登記抹消請求
権」ではなく、「登記抹消手続協力請求権」というべきものです。」


2014.11.11(火)【定款の作成「代理」】(金子登志雄)

 昨日と関連する問題ですが、電子定款の際に、われわれは発起人からの定款
作成と認証についての委任状に定款を添付したものを公証人役場に持参し、認
証してもらいます。

 この委任状と添付定款との間に契印(通称、割印)がなくても、東京や神奈
川の公証人役場では認証してくれますが(全公証人役場かどうかは不明)、埼
玉県をはじめ、それ以外の地方の公証人役場では、契印が1つでも漏れている
と認証してくれません。

 しかし、これでは、まるで、代行(子供のお使い)扱いであって、それなり
の権限を持った代理人としての扱いとは思えません。

 代理とは本人に代わって代理人が意思表示するものです。本人の意思を伝達
する使者・代行とは相違します。これが原則です。

 ただ、定款作成の代理権は、文書作成の代理権と思われますから、定款を確
定させるための合同行為の意思表示ではなく、確定した意思表示を文書定款に
どう表現するかという事実行為の代理権という側面があります。

 しかし、事実行為といっても、高度の法律知識を要する精神作用であって、
発起人が決めた定款内容を法律文書として代理表現する点で(法律文書への翻
訳権限?)、単純な事実行為と相違します。だからこそ、国家資格者のみに与
えられた作成「代理権」と表現されたものだと思います。

 行政書士法でも平成14年改正で「代理人として作成」と明確に代理行為と
されたようです。

 ちなみに「署名代理」という用語があります。銀行の支店長の記名押印を支
店長代理がするような場合に使います。これも単に「ハンコ押し代行」ではな
いでしょう。

 いずれししろ、委任状に添付する定款は、代理人である司法書士が作成した
ものですし、定款作成の代理権も代理権であり、国家資格者に与えられた代理
権ですから、委任状と添付定款との契印の有無については、もう少し代理人を
信じてもよいのではないでしょうか。東京・神奈川方式が全国に普及すること
を望んでいます。


2014.11.10(月)【定款の作成日】(金子登志雄)

 株式会社の設立手続において、本来は、定款認証後に出資金を払い込まねば
ならないが、定款作成日以降であれば、登記を受理するという取扱いがなされ
ています。

 では、11月4日に発起人全員で定款内容に合意し、5日に司法書士に電子
定款作成を委任し、司法書士も5日付でPDFで定款を作成したが、実際の電
子署名は10日にして、公証人役場に電子申請し、11日になって公証人の認
証を得たところ、登記直前に出資金の入金が7日になされていたという場合に、
登記は受理されるでしょうか。

 結論は受理されますが、先般、司法書士仲間からの情報で、某県の公証人役
場から、電子署名した日である10日が定款作成日だから、PDF定款の作成
日も5日でなく10日にすべきだといわれたそうです。

 もちろん、これでは登記に支障が生じるので、作成日は5日、電子署名の日
は10日にして認証してもらったようですが、私は定款の作成日は法の趣旨ご
とに異なり1つではなく、本件では電子署名が可能であった5日だと考えてい
ます。次の場合で説明します。

 1.発起人全員が合意し内容の確定日(内部的な効力発生日)・・・4日
 2.文書や電磁的記録として作成した日(文書化された日)・・・・5日
 3.この文書又は電磁的記録に署名した日(様式の完成日)・・・10日
 4.公証人の認証日(対外的に効力を生じた日)・・・・・・・・11日

 取締役会を開催し決議した日が4日で、取締役会議事録を作成し出席役員が
署名押印した日が5日だった場合に、取締役会の決議の日を5日だと主張する
人はいません。これと同様に定款作成日も合同行為が確定した4日だといいた
いところですが、定款の作成は「要式行為」だという特徴があります。取締役
会決議の効力発生と同視するわけには行きません。

 要式行為というのは結婚(婚姻契約)が役所への「届出」で効力を生じるの
と同じく、意思表示だけでは法律効果が発生しない行為をいいます。

 しかし、結婚と相違し、定款作成の要式行為は、押印の場合でいえば「作成
日4日、5日に押印」でも作成日は実務上4日と扱われるでしょうから、電子
定款で「作成日5日、電子署名日10日」でも、作成日は5日と扱うべきです。

 そうでなければ、5日に電子署名したのに、誤字があったので10日に電子
署名をし直した場合でも10日が作成日とされてしまいます。公証人役場で、
ここをこう直せと指示されたら、電子定款作成日が予定した日とずれてしまい
ます。

 したがって、対外的には電子署名日が定款作成日だとしても、発起人内部や
登記上は文書に記載された作成日をもって作成日と扱ってよいのではないでし
ょうか。少なくとも、定款作成と出資金入金日との関係では様式行為が完成し
た日ではなく、定款内容が書面として作成され、いつでも署名が可能になった
日として問題ないと考えます。


2014.11.07(金)【種類株主の2つの不利益】(金子登志雄)

 黒田総裁の第2弾バズーカ砲で、円がとうとう115円近くに達しました。
1ドル100円のとき、金1億円の預金をしていた方は、ドルベースでいうと、
100万ドルが87万ドルに値下がりし、逆に100万ドル預金していた方は
1億1500万円になったということです。

 私も預金が1億円もあればドル預金に鞍替えしようかなと真剣に思うところ
でしょうが、小口預金者が考えることではないですね。

 さて、昨日の形式的平等か実質的平等かの話に比べれば、会社法322条の
「ある種類株主に損害を及ぼすおそれ」の判定は、まだたやすいところがあり
ます。質的に異なるAとBを比べるのであって、量的問題である金持ちと貧乏
人の区別よりは簡単だからです。

 ただ、会社法によると、ある種類株主に不利益という場合には、2種類があ
ることにご注意ください。

 非公開会社で普通株式と(配当)優先株式を発行している会社があったとし
ます。ここで優先株式の新株を発行しようとすると、この発行が優先株式の発
行可能種類株式総数の枠内であれば、普通株式も事前に承認済みですから、会
社法322条の「普通株主に損害を及ぼすおそれ」があるとはいえません。

 ところが、同じ優先株主の範囲内で考えると、いままで筆頭株主だった者が
この新株の発行でその地位を奪われるかもしれません。つまり、同種の種類株
主の内部で持分比率が下がるという不利益がありますから、会社法199条4
項の種類株主総会が必要です。

 このように他種類との関係での不利益と同種類の枠内での不利益の2種類が
会社法に規定されています。

 したがって、普通株式のみ発行している会社において、普通株式の一部を完
全無議決権株式に変更する場合は、他種である無議決権株主がまだ不在ですか
ら、他の普通株主のみの不利益を考えれば足りますが(本例では不利益はなし
と考えられ、無議決権株式になる株主だけの同意で足ります)、完全無議決権
株式が発行済みであれば、その既存の無議決権株主の種類株式内部の持株比率
に変動が生じますので、その無議決権株主の同意も必要だということになるで
しょう。


2014.11.06(木)【2つの平等原則】(金子登志雄)

 消費税値上げ問題につき、値上げしても国民全員に平等の税率が課されるか
ら平等原則に適合しているとみるか、いや金持ちも貧乏人も同率であるのは庶
民いじめの税制で平等原則に反するとみるかについては、人によって見解が相
違するでしょう。

 前者は形式的平等、後者は実質的平等に着目した考え方ですが、同じことが
増資の株主割当てにも当てはまります。

 株主割当ては、株主に同率で平等に割り当てるのだから取締役(会)の決定
で済むと考えるか、即座に資金準備できる者とできない者とを差別することに
なるから、実質的平等の見地からは、原則として株主総会決議によるべきだと
考えるかです。

 会社法は公開会社については前者で、非公開会社については後者で規律して
います(会社法202条3項)。公開会社は、株主割当てに応じて資金準備が
できなければ、すぐに株式を売却して、株主でなくなればよいからです。

 では、日本国は公開会社か非公開会社かと考えますと、憲法22条で国籍の
離脱の自由を認めていますから、建前は公開会社ですが、現実には、そう簡単
なことではありません。明日から米国人や中国人あるいは無国籍になることが
できません。

 現実の日本国は非公開会社ですから、国民に平等に負担を与える消費税の決
定は国民総会で決めようじゃないかというのが会社法の考え方ではないでしょ
うか。お国もそうあってほしいものです。


2014.11.05(水)【戸籍と国籍】(島根・根来川弘充)

 私の住む島根では、先月の10月は千家様と典子様の結婚式で大変盛り上がり
ましたが、ふと、同職間での雑談で、「皇室に戸籍は無いから、典子様の戸籍は
どうなるのか」ということが話題になりました。

 「天皇も日本国民であり同じ国籍を有するのであれば、皇室も戸籍に記載され
ていないとおかしいのでは?」と思うのは自然な疑問です。

 念のため、戸籍法を調べてみたのですが、「日本国籍を有するものは戸籍に記
載する」といった文言はどこにもありませんでした。「国籍があるから戸籍も当
然ある」ということでは無さそうです。

 「戸籍」と「国籍」

 同じ「籍」という言葉を使っているのだから、誰がみても分かりやすい相関関
係がきっとあるだろうと思ってしまいますが、皇室のことは、「皇室典範」とい
う法律に規定されています。

 有名なのは女系天皇を認めない「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを
継承する」という第1条ですが、その第26条に「天皇及び皇族の身分に関する
事項は、これを皇統譜に登録する」とあります。この政令である「皇統譜令」の
定めによって、皇統譜という皇室専用の戸籍が作られるようです。


2014.11.04(火)【サプライズ効果】(金子登志雄)

 アベノミクスがうまく行っていないのか、先日の31日には、どでかいカンフ
ル注射が打たれました。日銀の更なる金融緩和の発表であり、通称、黒田総裁の
バズーカ砲とか異次元のサプライズなどといわれるものです。

 おかげで株価が急騰し、持ち株の含み損を抱えていた私も恩恵を受けましたが、
こういう官制相場ではマネーゲームでしかなく、自由主義経済の根幹をなす神聖
な証券市場が胴元主導のバクチ場と誤解されてしまい、素直には喜べませんでし
た。「異次元」という用語自体が胡散臭く神聖さを欠いています。

 この金融緩和が実需に繋がればよいのですが、狙いは消費税アップの側面支援
かと疑う人も多いようで、カンフル注射の最終結果が「吉」と出るかは不明です。
日銀内でも5対4の僅差での決定でした。

 証券市場のバブル化に反して、実質賃金の減少と雇用の不安定で庶民は生活防
衛に走っていますし、中小企業も原料費の高騰で厳しい経営が続き、廃業や倒産
が増えています。いわゆる円安倒産です。

 円が安ければ輸出が増えるといっても、輸出企業は海外生産にシフト済みです
し、日本の価値が下がることでもありますから、これも素人感覚では喜ぶべきこ
となのかは疑問です。海外旅行好きには、経費の増大です。

 原発問題もそうですが、最近の世相は、今がよければ明日のことは知らんとい
う風潮がはびこり、実に殺風景ですが、信用第1の農耕民族の司法書士としては、
騎馬民族のように、この時流に上手に棹さして生きるのは難しいため、いつもど
おり淡々と生きるしかありません。

 悲観的な内容になってしまいましたが、企業法務に従事する立場としては、こ
ういう企業社会の動向にも無関心ではいられませんので、ご了承ください。

 なお、「流れに棹さす」は、「流れに逆らう」という意味はありません。

http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2011_05/series_07/series_07.html



2014.10.31(金)【会社分割と併存的債務引受け】(金子登志雄)

 10月も今日で終わりです。単発のネタですが、会社分割と債権者保護の話に
しましょう。十分に理解されているとはいえないようですので………。

 さて、次の乙社から甲社への吸収分割で説明しますと、吸収分割に伴い債務の
移転が生じるBのみが債権者保護の対象であって、乙に残される債権者Aは対象
外です。

      (分割前)             (分割後)

    債権者A B            債権者A B
      / /                / \
     / /        ⇒       /   \
      乙社===⇒甲社          乙社===⇒甲社


 分社型の吸収分割であれば、乙は通常の場合に移転財産の対価を取得しますか
ら、乙の純資産額に変化はなく、残された債権者Aにも不利益がありません(無
対価の場合は横に置いておきます)。これが残存債権者に保護が不要の根拠です。

 債務が移転する債権者Bにとっては、債務者が乙から甲に変わるため、この吸
収分割に異議を出せますが、旧債務者の乙がその債務につき連帯債務を引き受け
ると(併存的債務引受けなど)、Bの不利益が消えて、依然として乙もBの債務
者になるため、この場合は、乙で債権者保護手続が必要ではなくなります。

 ここまでは会社法実務に詳しい方なら、よく知っていることですが、先般、こ
の吸収分割が分割型だとした場合に、乙が併存的債務引受けをしても、債権者保
護手続が必要かと考える事案に遭遇しました。

 分割型というのは乙が甲から受け取った対価を乙の株主に分配するものですか
ら、乙では純資産額が減少します。ですから、会社法上も、乙の債権者全員、こ
こではAにもBにも債権者保護手続が必要です。

 にもかかわらず、Bに対して併存的債務引受けをするなら、少なくとも、Bに
対しては保護手続を省略することができてもよいのかなと一瞬考えてしまいまし
た。

 しかし、分社型の場合に債務引受けをした乙は純資産額が従来のままであるの
に対し、分割型では従前よりも財産が減少した債務者による債務引受けになりま
す。極端な表現をすれば、債務者が金持ちから貧乏人に変化したかもしれないの
です。これでは、債務引受けをされても、分社型と同視するわけにはいかないで
しょう。やはり、Bに「異議あり」という権利を認めなければならないと思いま
した。


2014.10.30(木)【予選、補欠、効力発生日】(金子登志雄)

 非取締役会設置会社における業務執行は「取締役の過半数をもって決定」し
ますが(会社法348条2項)、取締役の過半数をもって代表取締役を決定す
ることを特に「互選」といいます(会社法349条3項)。

 このように役員の人事問題に関しては特殊な用語が用いられますが、では、
「予選」を通常の表現に直すとどうなるかというと、条件付あるいは期限付決
議ということになるでしょう。

 条件付決議の1つに「欠員補充の補欠」があります。これには補欠代表取締
役もあります(相澤哲編著『新・会社法の解説』309頁)。

 例えば、取締役ABC、代表取締役A、取締役が欠けた場合の補欠取締役D、
代表取締役が欠けた場合の補欠代表取締役Bと定めておいたところ、Aが突然
10月いっぱいで辞任した場合は、11月1日付でDが取締役、Bが代表取締
役に就任します(この辞任が取締役Aの任期満了退任の場合でもよいかは不明
ですが、不可とする根拠もなさそうです)。

 この場合に、新取締役のDが代表取締役の選任決議に参加していないから、
Bは代表取締役になれないという論は成り立たないでしょう。

 条件付あるいは期限付決議の1つに「効力発生日制度」があります。例えば、
取締役ABC、代表取締役Aにおいて、Bを代表取締役に定め、その選任の効
力発生日を11月1日にしておいたところ、やはり、Aが突然10月いっぱい
で辞任するというので、後任取締役Dを臨時株主総会で選任すれば、上記と同
じく、11月1日付でDが取締役、Bが代表取締役に就任します。

 これはまさしく予選ですが、効力発生日の方向から考えると、途中でDが取
締役に加わったからといって、B代表取締役の効力が発生しないのはおかしい
と感じませんか。


2014.10.29(水)【熟柿は青柿に学ぶ】(金子登志雄)

 青柿の割に歳食っている富田さん、久々の投稿、ありがとうございました。
もうすぐ熟柿の私も、「資産の総額」の登記を医療法人で経験していますが、
確かに勘違いしやすいですね。

 株式会社等の資本金は登記簿の前半に登記するのに対し、医療法人等の資産
の総額の登記は登記簿の後半に登記し、しかも、毎年数字が変化するものだか
ら、資本金と相違し、事業年度単位で登記するものだとつい思ってしまうのも
自然です。

 おかげで、いま考えている「代表取締役の予選」についても、よいヒントを
いただきました。というのは、「現在」の取締役が「次期」の代表取締役を予
選することの可否について考えていましたが、そもそも「今期」の代表取締役
や「次期」の代表取締役という表現自体にも問題があると気づいたからです。

 取締役や監査役の任期は会社法になって「定時株主総会の終結の時まで」が
基準になりましたが(会社法332条など)、任期は1年ごとであるとは限り
ませんし、特例有限会社のように任期制度自体のない場合もありますから、私
は「任期は事業年度単位」という思い込みに囚われすぎていたことに気づきま
した。医療法人の役員の任期についても、「2年を超えることはできない。た
だし、再任を妨げない」(医療法46条の2)であって、事業年度単位ではあ
りません。

 例えば、株式会社の取締役ABCD(代表取締役A)において、Aが今月末
で取締役を辞任するというので、後任の代表取締役としてBを来月1日付けで
予選することは問題がありません。

 しかし、Aが今月末に任期満了退任するという場合は、後任の代表取締役と
してBを来月1日付けで予選すると、その時点で取締役でないAが参加した取
締役会で代表取締役を選定したから違法だ、「次期」代表取締役を選定するこ
とはできないなどという論が有力に主張されているわけです。

 辞任の場合は後任の選任の効力発生時に取締役でなくてもよく、任期満了の
場合は不可というのは納得できません。ともに退任事由の1つでしかないから
です。

 「次期」代表取締役とは、「後任」代表取締役の1つに過ぎないことを昨日
の投稿により学ばせていただきました。これを「熟柿は青柿に学ぶ」といいま
すが、出典は本徒然ですので、誤解のないようお願いします。


2014.10.28(火)【青柿が熟柿弔う???】( 東京・富田太郎)

 以前、あるNPO法人の登記簿をみて驚いたことがあります。理事の変更登
記は、きちんと行われているのですが、なんと!  設立以来、『資産の総額』
の変更登記を一度もやっていない法人でした。

 そのNPO法人の理事曰く、「毎年、事業報告書等を、都庁に提出していま
す。また、顧問の専門家にも相談したところ(設立以来、増資もしていないの
で??)理事の変更登記以外は、特に(登記は)不要だと言われました。」

 勿論、皆様もご存じのように、『資産の総額』とは、『会社の資本金』とは
全く異なる概念で、資産合計から負債合計を差し引いた正味財産のことを言い、
毎年必ず「資産の総額の変更」登記をしなければなりません。この、毎年の変
更登記を忘れているNPO法人は結構あるそうです。

 富田曰く、『たぶん、その専門家とやらは、登記が苦手な方だったのかもし
れませんね・・・(やれやれ)。』

 ところで、先日、某NPO法人の登記を申請いたしました。某NPO法人、
実は休眠状態で、『資産の総額』が昨年と全く変わりませんでした(動きが全
くなく、昨年と同じ。1円の変更もない)。何も考えず、『資産の総額』の変
更登記を申請したところ、法務局より電話がありました。

 法務局曰く「昨年から変更のない場合は、登記不要です。」

 慌てて条文(組合等登記令第3条)を確認すると
----------------------------------------------------------------------
 組合等において第2項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内
に、その主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければならない。
----------------------------------------------------------------------

 なるほど! 条文は「変更が生じたときは・・・」ですね・・・(汗)。

 理事の場合は、たとえ同一人物が再任されても「重任の登記」が必要です。
これは、一旦任期が切れ、退任後、再任されているので変更があったことにな
るからです。されど、「資産の総額」はそのような概念はなく、全く変更がな
ければ登記不要・・・。

 ≪たぶん、その専門家とやらは、登記が苦手な方だったのかもしれませんね
・・・(やれやれ)。≫ などと、偉そうに言っていた私ですが・・・五十歩百
歩ですね・・(汗)。

 ※「青柿が熟柿弔う」(「あおがき」が「じゅくし」とむらう)の意味
 『熟していない青い柿が、自分もいずれ同じ運命になるのに、熟して木から
落ちた柿を見て嘲ること。未熟者が他人に対し、あれこれ言う愚かさのたとえ』
だそうです。はい。私、富田のことです・・・(涙)。
 (出典 人形浄瑠璃『傾城恋飛脚』)



2014.10.27(月)【意思表示論】(金子登志雄)

 土曜日は学生時代のゼミのOB会があり、参加してきました。恩師は、もう
現役を引退していますが、民法専門のN先生です。

 法律解釈に必要なバランス感覚に非常に優れた先生で、この先生のおかげで
私もリーガルマインドを鍛えてもらったと今でも深く感謝しています。これは
他のOBも同じであり、毎年、恩師ご夫妻を迎えてのOB会を開催しているの
も感謝の表れでしょう。

 OBの一人が「先生のように長く夫婦円満でいられる秘訣は何か」と質問し
たところ、先生は婚姻契約から発展して契約の意思表示の性格につき、持論を
話してくださいました。

 売買契約であれば、売りたい、買いたいという意思表示の合致と説明される
が、そう単純なものではなく、売る覚悟がある、買う覚悟があるという覚悟の
表明だということです。

 これは婚姻契約につき、お互いの欠点も十分に承知の上で、結婚する意思と
覚悟がある(もし違っていたら自己責任だ?)との決意表明だとの説明から発
展したものでしたが、法律上の「意思表示」は単なる「……したい」という感
情表現ではなく、法律効果が生じる最終的な重い決断だということでしょう。

 依頼者がわれわれに登記申請を依頼する際も「貴方を信頼してお任せする」
という覚悟をもっての依頼であり、われわれの受託も、「確かに受託した。責
任をもって対処する」という覚悟の表明です。

 登記申請意思も「この公示をお願いしたい」などといった簡単なものではな
く、税金(登録免許税)まで納めて、こういう内容の公示をすることを最終決
断したという覚悟の表明ですから、安易に更正登記を求めるのは覚悟が足りな
かったことになるのかもしれません。


2014.10.24(金)【ガラパゴス世界】(金子登志雄)

 新しいものにすぐに飛びつかない私もとうとうガラケー(ガラパゴス携帯)
をやめて、スマホ(スマートフォン)に変えました。この10月からです。

 スマホは、もはや新しいものとはいえないほど浸透してきたためか、2つ折
りのガラケーで電話していると「まだ、そんなの使っているの」という周囲の
視線を感じていたこと、今はよくても2年先や3年先を考えたら、今のうちか
らスマホに慣れておいたほうがよいと思ったからです。

 さらに、地震の折、周囲の方はみな携帯電話の警報がなっているのに、私の
それは無反応であったこと、情報の即時性(例えば株価が20分遅れでなくみ
られる)の必要性を感じてきたことです。

 10年前は、喫茶店等でノートPCを開く人をモバイラーといって、最先端
を行く格好いい人の代名詞でしたが、今はダサイ人にみえるようになりました
(私はいまだにこれですけど)。

 まさにスマホの天下かというと、韓国サムソンがスマホの売上不振に苦しみ
出したとのニュースも出始めました。

 あのソニーも、あの任天堂も、いまや飛ぶ鳥落とす勢いはありません。アマ
ゾンで会社法本の売り上げでダントツ1位だった江頭本も、今は順位を下げて
います。70%以上の支持率だった安倍人気も急降下中です。

 まさに、よいことも悪いことも長く続かないものですが、ありがたいことに
私の仕事である商業登記の世界では、いまだに昭和41年先例がどうのこうの
といったガラパゴスの世界です。ここでは経験豊富な長老の活躍が可能です。
前期高齢者の私もバリバリの現役でいられます。

 ということで、今日は法律とは無関係の話題でしたが、来週からはまたガラ
パゴスの世界に戻り、皆様が生まれる前の昭和〇〇年の先例がどうのこうのと
いう話に戻しましょう。この土日は、自分の生活基盤の世界に感謝しながら、
のんびり休むことにします。


2014.10.23(木)【実務に精通する】(仙台・立花宏)

 先日、地元の司法書士会主催の研修会を受講しました。「交通事故訴訟」が
テーマでした。

 私自身は、交通事故に関する相談等の対応をしたことがなく、個人的には、
あまり馴染みのないテーマでした。

 “はたして、司法書士が交通事故に関する相談を受けることがあるのだろう
か?” 受講する前は、そんな気持ちでした。

 講師の先生のお話によれば、交通事故の件数は減少しているのだそうです。
それに対して、交通事故訴訟の件数は増加傾向にあるとのことでした。交通事
故が減少しているのであれば交通事故訴訟も減少しそうなものです。不思議に
思いましたが、講師の先生のお話しを伺い、納得しました。

 自動車を所有していらっしゃる方は、自動車保険に加入している方が多いと
思います。

 自動車保険の特約に弁護士費用特約というものがありますが、自動車保険に
その弁護士費用特約を付加することが普及してきたのが原因のひとつなのだそ
うです。

 たとえば、自動車同士の軽微な衝突で、自動車の修理が必要になったとしま
す。修理費用が10万に満たないような損害なのですが、相手が修理費用を払
ってくれないため、訴訟を起こすことを考えました。

 しかし、訴訟を起こすために弁護士に依頼して、訴訟を行い、勝訴して、そ
の10万円に満たない損害を回収できることになっても、弁護士へ依頼する訴
訟費用は、おそらく10万円より少ないことはないでしょう。訴訟に勝ったと
しても、費用倒れになってしまうのです。

 しかし、自分が加入している自動車保険に弁護士費用特約を付加していると、
弁護士費用はその自動車保険を使うことにより、自分で負担する必要がないの
です。

 そんな理由から、これまで訴訟にならなかったような額の大きくない交通事
故訴訟が増えているのだそうです。

 請求額が大きくない訴訟が増加傾向にあるため、司法書士も対応できるよう
にしておかなければならない。それが地元の司法書士会の意図だったのだろう
と思います。

 研修会の休憩時間に、スマートフォンで損害保険会社のホームページ等を閲
覧すると、弁護士費用特約は、交通事故訴訟を司法書士に依頼した場合の報酬
も対象としている会社もありました(会社により扱いが異なるようです)。

 研修会終了後の帰り道、友人の司法書士と研修会で学んだことを話しながら
歩いていて、私は突然、背筋に冷たいものが流れ、立ち止まりました。もしか
したら、顔が青くなっていたかもしれません。友人の司法書士は怪訝な顔をし
て私を見ていたと思います。

 これまで、交通事故に関する相談を受けることはありませんでした。しかし、
もし、研修会で話があったような、それほど額の大きくない交通事故訴訟の相
談を受けていたとしたら、どうなっていただろうか。弁護士費用特約のことを
意識して、適切に対応できていただろうか。もしかしたら、よく調べもせずに、
“費用倒れになるから、やめた方はいい”なんて、アドバイスしていた可能性
はないだろうか。

 司法書士法第2条に、「司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令
及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」と規
定されています。(※)。

 弁護士費用特約のことは、法令に精通していてもわからないでしょう。“実
務に精通して”いなければ、意識できないものだろうと思います。

 司法書士法第2条の、”実務に精通して”の意味を考えさせられた研修会で
した。

(※)条文中、下線は筆者(立花)による。



2014.10.22(水)【再々:代表取締役の予選問題】(金子登志雄)

 本欄で何度も取り上げております代表取締役の予選問題は、理解の難しい問
題の1つですから、繰り返し取り上げます。

 代表取締役の予選を肯定した昭和41・1・20民甲271号回答の事例は、
現代風にアレンジすると、次のような内容であり、肯定する理由に2つの見解
があります。

----------------------------------------------------------------------
 取締役ABCD(代表取締役A)の取締役会設置会社甲において、取締役全
員が10月の定時株主総会の終結と同時に任期が満了するので、その定時総会
で重任(予選)決議し、直ちに(総会終結後に次期取締役として)就任承諾が
あった後、定時総会を中断しABCDで取締役会を開催し、本定時総会終結後
の次期代表取締役としてAを再任予選し、その後無事に定時総会が終結した。
----------------------------------------------------------------------

(甲説=全員重任条件説:当局の多数派?)
 次期代表取締役Aの選定は、定時株主総会終結後に次期取締役のABCDで
行わねばならず事前に行えないが、権限のない段階の事前に行っても、権限を
有するまでの期間が短く、かつ構成メンバーが一致しているから例外的に選定
の効力を認める。

 言い換えれば、ABCDは権限のないことを決議したが、全員が権限を有す
ることになるのを条件に決議し、実際に、その条件が満たされたのだから、有
効だという解釈でしょうか。

(乙説=被選定者だけにつき重任条件説:私ほか)
 現在の取締役が任期満了後の将来のことも決議することができるのは会社の
意思決定として当然のことであり、これは人事問題でも例外ではない。したが
って、本件は、現在の取締役が有効に取締役会を開催し、その権限に基づき、
取締役Aの重任を条件に次期の代表取締役としてAを選定したのであり、予選
決議自体は当初から有効な決議である。

 甲説と乙説の現実問題としての差は、BCDが総会終結直前に死亡した場合
に生じます。甲説では、条件未達成で効力を認められませんが、私見であれば、
肯定できます。もっといえば、乙説では、選定者側のBCDはその後に他の理
由で取締役でなくなってもAの代表取締役選定の効力が否定されません。それ
で不都合が生じたときは、その後選任された取締役を含んだ取締役会でAを解
任するなりの決議をすることで調整します。


2014.10.21(火)【FAX質問にお答えします】(金子登志雄)

 本欄の読者(司法書士の甲さん=直接の面識なし)からFAXでご意見をい
ただきました。本欄9月17日の【再び代表取締役の予選】についてです。

----------------------------------------------------------------------
 先生は「重任前の現任取締役」が「現任取締役の地位で」「次期代表取締役」
を選任するのであるから問題ないかのように書かれておりますが私が調べまし
た登記研究の書きぶりは基本的には予選取締役による予選代表取締役の選任を
言っていると解釈しました。
           (中略)
 これらからするとその取締役会は、つまり予選取締役会であると言うことだ
と解釈します。商法上においても会社法上においても取締役会の構成員は現任
取締役だけですが、規定はないけれども予選取締役会を開催することは可能と
考えます。
----------------------------------------------------------------------

 上記の「中略」の部分には、登記研究416号「6117」や529号58
頁以下の内容が書いてあり、資料も添えられていました。

 甲さん、ご意見ありがとうございました。登記研究は、実体法から攻める私
には必要ないので取っておりませんでしたから、資料も面白く拝見させていた
だきました。

 直接お返事しようと思いましたが、電話番号の記載もありませんでしたので、
ここでお答えします。

1.甲さんの登記研究の読み方は正しいと思いますが、登記研究を前提にした
 甲さんの後段の意見には賛成しかねます。

  登記研究には、時々、実体法に疎い登記の実務家の意見が掲載されること
 がありますが、これもその1つだと思いました。実務家は、ついつい実体法
 を無視して、経験で判断してしまう傾向があります。

  例えば、登記研究529の座談会は、「予選決議の有効性」と「予選決議
 内容の効力の発生(代表取締役の選任)」とを混乱しているように思いまし
 た。後者を基準に考えるから、構成メンバーの一致(遡及的継続?)などの
 非法律的解釈をしてしまうのです。いったん、有効に決議されたことは、そ
 の後のメンバーの異動を問わないのが法律解釈の基本です。

2.登記研究529の67頁に要旨「現在の取締役が次期の代表取締役を選任
 できるという問題ではない。次期の取締役として予選された者による代表取
 締役の予選だ」とありましたが、予選されただけで、まだ取締役でない者が
 代表取締役を予選できないというのは、一貫した登記実務の運用です。

  この登記研究との前後は不明ですが、実務相談や商事法務には、取締役と
 して予選される前でも次期代表取締役を予選できるかのように書いてありま
 す(詳細は、登記情報631号の拙稿参照)。それも、同じ昭和41年先例
 を根拠としています。

  やはり、ここは、登記研究とは逆に、「取締役として予選された者も現任
 取締役だから、代表取締役を予選できる」が正しい説明だというべきです。

3.もし、現在の取締役が次期の代表取締役を選べないとすれば、6月の定時
 総会で任期が満了する場合は、それ以前の5月の取締役会で10月1日付の
 簡易合併を決議することができないことになりますが、上場会社は頻繁に無
 効決議を行っているのでしょうか。代表取締役の人事問題だけ例外とすべき
 ではありません。

4.もし、予選取締役会というものが肯定されるなら、会社設立前でも、有限
 会社の取締役会設置会社への移行前でも、設立後・移行後の代表取締役を予
 選取締役会で選定できることになるのではないかとの疑問もあります。

  取締役会が存在することを条件に予選取締役会を肯定するのなら、その根
 拠も必要でしょう。

5.甲さんに逆質問します。取締役ABCDの全員が10月の定時総会で再選
 予選され、次期代表取締役を予選しました。しかし、その効力発生前にDは
 急死しました。この予選は無効になるのでしょうか。

  また、ABCは再選され、Dは退任予定だとします。ABCは次期代表取
 締役を予選できますか。Dに招集通知を出さずとも有効な決議ですか。逆に
 Dが加わると構成メンバーの不一致で無効ですか。



2014.10.20(月)【会社法38条1項問題】
(金子登志雄)

 わが郷里の名産である下仁田ネギが小渕大臣のおかげですっかり有名になり
ました。この宣伝効果は大きいでしょう。

 とはいいながら、台所に立ったこともなく食いものに関心の薄い私は下仁田
ネギがどういうものか明白には知りませんでしたが、下記のとおり太いネギで
薬味よりも料理用のようです。ああ、あれかと分かった方も多いことでしょう。

    http://vegetable.alic.go.jp/panfu/negi/negi.htm

 さて、下仁田ネギほど辛くない話ですが、ただいま普通株式の一部を他種株
式にする仕事を受けています。しかし、同種株式の全部の内容を変更する場合
は会社法322条1項に規定があるのに対し、一部分の変更の場合には規定が
ありません。

 この場合は原則として株主の全員の同意があればよいとされています。会社
の所有者は株主であり、公益に反しない事項に会社所有者がよいというのに、
登記所などの部外者がダメとはいえないからでしょう。私有財産制を採用する
自由主義国家の法解釈の基本中の基本です。

 この考え方からすると、会社法に規定があっても、強い強行規定でない限り、
株主全員がOKであれば登記所が余計なお世話で否定すべきではありません。

 よく問題になるのは、株式会社を設立する際に、発起人全員が出資する前に
設立時取締役は誰々さんにすると全員で決めた場合です。

 これにつき会社法38条1項に「出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立
時取締役を選任しなければならない」とあることを根拠に、否定する登記所が
あるのです。

 しかし、この規定は出資後持分比率に応じて議決権が発生してから資本多数
決で選定するという内容に過ぎず、発起人全員がOKであれば、持分比率も無
関係であり、出資の履行が完了する前であろうと何の問題もないはずです。

 登記は行政行為という側面がありますから、法の規定どおりに運用すべきで
あるということを前提にしても、法の趣旨を考えれば、こういう明らかなケー
スは健全な常識によって判断し登記申請を受理すべきではないでしょうか。


2014.10.17(金)【322条と買取請求権】(金子登志雄)

 一昨日の続きですが、会社法立案者によると「『吸収分割をする』という用
語は、分割会社がその事業に関する権利義務を他の会社に承継させる行為を指
すものであり、吸収分割により権利義務を承継する行為を指す場合には、『吸
収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承
継』と規定している」(相澤哲編著『新・会社法の解説』181頁)とありま
す。

 つまり、吸収分割は分割行為に限られ、承継行為は含まないとの説明ですが、
私は、この説明は誤解を招くと思っています。

 例えば、会社法799条には「吸収分割をする場合」は「吸収分割承継株式
会社の債権者」は異議を出せるとあります。この場合の「吸収分割をする」は
吸収分割承継行為のことです。

 なぜ、こうなったかというと、項目ごとに担当者が異なったので、矛盾した
説明が生じたものと思われます。われわれは、立法担当者の解説だからといっ
て、鵜呑みにしないことが重要です。万事、自己責任です。

 さて、一昨日の続きのもう1つですが、一昨日は「普通株式と配当優先完全
無議決権株式の2種類を発行している種類株式発行会社が分社型新設分割で子
会社を設立した場合には種類株主総会が不要のはずだ」と説明しましたが、こ
の無議決権株主は、この新設分割により不利益を受けなくても反対株主の買取
請求権を行使することができます。

 会社法322条1項2号の株式の併合等については、同条2項の種類株主総
会を不要とするとの定款の定めがなければ買取請求を行使することができない
のですが(116条1項)、組織再編の場合は、その旨の定款の定めがあるか
どうか、損害要件を充たすかどうかに関わらず、買取請求を行使することがで
きます。

 この差については、これまで深く意識していませんでしたが、組織再編とい
うのは会社の状況が抜本的に変わるものという考え方の下に、損害要件がなく
ても買取請求ができるわけです。損害を受けなくても、嫌なものは嫌だという
わけです。いいかえれば、通常の組織再編は株主でなくなることを認めた制度
だということでしょう。


2014.10.16(木)【セミナー講師】(金子登志雄)

 昨夜は、昨年に引き続き、東京司法書士会第1ブロック(東京の中心部であ
る千代田区、中央区、文京区、港区の司法書士支部の集まり)主催のセミナー
で会社法の講師を努めてまいりました。内容は、役員変更問題の捉え方と定款
対策であり、主として定款を上手に使う方法を説明しました。

 この地域は上場会社等を顧客に持つ最先端を行く司法書士が多いため、私の
講義で最も反応がよい地域の1つになります。個人的に質問に来た方も「上場
を目指している顧客が………」という内容のものが多くありました。

 会場の関係で定員300人のところ、数日で満杯になりましたから、まだま
だ金子人気は健在でした。ありがたいことです。いつ後進に追い落とされ、人
気が急降下するかとひやひやものですけど、年は取っても、頭の柔らかさだけ
は自信がありますので、当面は大丈夫そうです。

 講義では基礎から話しました。例えば、代表取締役たる取締役が辞任すると、
「取締役は辞任、代表取締役は退任」と登記されるが、代表取締役たる取締役
が死亡すると、「取締役も死亡、代表取締役も死亡」と登記される、それは取
締役に先に登記事項が生じたとみるか、代表取締役が先で取締役が後だとみる
かの差であるなどと理由づけで説明しました。

 また、これをクイズ形式にしたので、居眠りする人もなく好評だったようで
ホッとしています。



2014.10.15(水)【分割型も新設分割か】(金子登志雄)

 日本司法書士連合会の掲示板に「普通株式と配当優先完全無議決権株式の2
種類を発行している種類株式発行会社が通常の分社型新設分割で子会社を設立
した場合に種類株主総会が必要か」という質問が掲載されていました。

 会社法322条の問題ですが、質問者は種類株主に損害を与える可能性がな
いから不要だと信じて登記を申請したところ、管轄法務局から、普通株主と無
議決権株主の種類株主総会が必要ではないかといわれたそうです。これまた、
例によって杓子定規な反応です。

 私自身は、質問者と同じく会社法322条の損害要件を充たさないので不要
であることは明らかだと思っていますが、では、なぜ、322条1項10号に
「新設分割」が規定されているのかという疑問が生じます(8号の吸収分割に
も同様の問題が生じます)。

 沿革的には旧商法346条に規定されていたから、それを会社法が踏襲した
だけだということになりますが、では、なぜ旧商法に規定されたのかというこ
とになりますが、旧商法の新設分割は人的分割を含んでいました。

 それが理由で規定されたのであろうと調べてみましたら、法務省による会社
分割制定時の「1問1問」に「数種の株式を発行する会社が会社分割を行った
場合において、たとえば、優先株主と普通株主のいずれに対しても同一の比率
で分割によって設立する会社の普通株式を割り当てるときは、優先株主が損害
を受けることになります。そこで、優先株主の利益を保護するという趣旨のも
と、商法346条により、その種類株主総会の決議を要することとしたもので
す」とありました。私の推測はどんぴしゃりでした。

 これからすると、会社法322条の「新設分割」も分割型を指していること
が分かりますが、会社法では、分割型新設分割は「新設分割+剰余金の配当等」
の2つの行為に分解されたとの説明と整合しません。

 で、どう考えるべきかですが、「新設分割+剰余金の配当等」と2つの独立
した行為に分けるのではなく、「剰余金の配当等付新設分割」として、分割型
も新設分割の一種だと考えるしかないと私なりに結論づけました。

 ちなみに、810条によると「新設分割をする場合」には分割型を規定上も
含んでいます。



2014.10.14(火)【意思決定の方法その2】(金子登志雄)

 連休中は、九州のほうでは台風で大変だったようですね。台風、地震、噴火
は日本では年中行事で困ったものです。原発事故だけは年中行事にされては困
りますので、鹿児島の川内原発も再稼働しないでほしいと祈らざるをえません。

 さて、次の3つの規定を比較して、どこが違うか探してくださいとのお願い
については、ご検討していただけましたでしょうか。

-----------------------------------------------------------------------
第47条(設立時代表取締役の選定等)
 1.設立時取締役は、設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である
  場合には、設立時取締役の中から株式会社の設立に際して代表取締役とな
  る者(「設立時代表取締役」)を選定しなければならない。
 3.設立時代表取締役の選定は、設立時取締役の過半数をもって決定する。
----------------------------------------------------------------------
第369条(取締役会の決議)第1項
   取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、
  その過半数をもって行う。
----------------------------------------------------------------------
第393条(監査役会の決議)第1項
   監査役会の決議は、監査役の過半数をもって行う。
----------------------------------------------------------------------

 第1に、会議体かどうかという差に着目してください。取締役会と監査役会
は会議体ですから、招集の規定もありますが、第47条は、取締役会設置会社
であっても取締役会で選定せよとなっていません。会社の設立前には取締役会
が存在しないという前提です。こういう代表者決定方式を互選といいますが、
「互選」という用語を用いていないので、分かりにくい規定の1つです。

 第2に、設立時取締役が5名いた場合は3名の賛成で設立時代表取締役が定
められますが、会議体である取締役会の場合は、5名中3名が出席し、その過
半数の2名の賛成で代表取締役を定めることができます。こういう可決要件の
差があります。

 第3に、同じ会議体であっても、監査役会には定足数の定めがありません。
監査役が5名の場合に3名が出席し、過半数の2名が賛成しても有効な監査役
会決議になりません。この点で互選方式に似ていますが、1堂に集合し会議で
決しなければならない点で47条と相違します。非取締役会設置会社の会社法
348条2項は47条方式です。

 こういうことを意識して日々の業務を行っている司法書士は少ないようです
が、少なくとも非取締役会設置会社の意思決定は株主総会を除くと会議体では
ないことだけは確実に押さえておく必要があるでしょう。



2014.10.10(金)【意思決定の方法】(金子登志雄)

 今日は10月10日。50年前の1964年のこの日に東京オリンピックが
開催されました(だから国民の祝日が「体育の日」といいます)。台風時期も
過ぎ、スポーツするには適した時期の開催でした。新幹線もこの年に開通です。

 6年後の2020年の東京オリンピックは7月24日から8月9日までのよ
うですが、こんな真夏に開催し、大丈夫なんでしょうか。マラソン選手などは
特に大変です。熱中症オリンピックにならないことを願うしかありません。

 さて、体育の日効果で明日から3連休ですね。十分に時間があることでしょ
うから、いずれも抜粋ですが、次の3つの規定を比較して、どこが違うか検討
してください。意思決定の方法の差を比較してくださいという意味です。

-----------------------------------------------------------------------
第47条(設立時代表取締役の選定等)
 1.設立時取締役は、設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である
  場合には、設立時取締役の中から株式会社の設立に際して代表取締役とな
  る者(「設立時代表取締役」)を選定しなければならない。
 3.設立時代表取締役の選定は、設立時取締役の過半数をもって決定する。
----------------------------------------------------------------------
第369条(取締役会の決議)第1項
   取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、
  その過半数をもって行う。
----------------------------------------------------------------------
第393条(監査役会の決議)第1項
   監査役会の決議は、監査役の過半数をもって行う。
----------------------------------------------------------------------

 来週に、どういう差があるかを説明いたします。



2014.10.09(木)【代表取締役の氏名抹消】
(金子登志雄)

 平成18年5月の会社法施行以来、有限会社は設立することができなくなり
減る一方ですが、まだまだ大量に残っています。私のところにも、親しい行政
書士事務所から、時々、有限会社の登記が回ってきます。

 さて、今回は、取締役AB、代表取締役Aの特例有限会社で、Bも代表取締
役にする事案が来ました。これは初体験です。

 株式会社の場合は、「取締役〇〇、住所=代表取締役〇〇」の登記のため、
そのまま「住所=代表取締役B」を追加すればよいのですが、有限会社の場合
は「住所=取締役〇〇、代表取締役〇〇」のため、全員が代表権を有した場合
には、代表取締役の登記がなされないことになっています。

 そこで、「代表取締役A」の登記を抹消することになりますが、登記簿には
単に「年月日抹消」でよかったのか、それとも「年月日氏名抹消」か、あるい
は「年月日……により氏名抹消」と理由まで登記記録に表示されるのかについ
て忘れてしまっていたため、テイハンの『書式精義〔第5版〕』や松井信憲著
『商業登記ハンドブック〔第2版〕』を調べましたが出ていません。

 やむを得ず、仲間の司法書士に確認し、登記記録上も、理由付で「年月日会
社を代表しない取締役の不存在により抹消」と記録されることを確認しました
が、権威ある登記の解説書に一言も記載がないのは、不思議でした。受験時代
に必ず学ぶ重要部分なのに………。

 ついでながら、今日は株式会社の代表取締役の住所移転登記を申請しました
が、これも「年月日移転」だったか、「年月日住所移転」だったか、いつも迷
ってしまいます。管内本店移転は、「年月日移転」ですが、ここは「年月日住
所移転」でした。


2014.10.08(水)【新株予約権の行使と自己株式の交付】(金子登志雄)

 現在、表題の登記を受託中ですが、自己株式の交付ですから、発行済株式の
総数にも資本金の額にも影響がありません。単に、新株予約権の個数等の減少
の登記をするだけです。

 ここで疑問に持ったのは、新株予約権の一部消滅による個数の減少の登記は
委任状だけで済むのに、同じ新株予約権の個数の減少の登記でも、自己株式が
交付された新株予約権の「行使」の登記の場合には、わざわざ払込みを証する
書面が必要なのかということです。

 商業登記法57条2号によると「金銭を新株予約権の行使に際してする出資
の目的とするときは、会社法第281条第1項の規定による払込みがあつたこ
とを証する書面」を添付せよとあります。

 この「出資の目的」を資本金増加の目的と解釈すれば、払込みを証する書面
は不要でしょうが、これはちょっと屁理屈でしょう。

 しかし、新株予約権の個数減少の登記を目的とした申請だと考えれば、新株
予約権の消滅の登記とのバランス上、払込みを証する書面までは不要だという
理屈は十分に成り立つと思います。

 法務局とひと悶着ありそうですね。会社には払込証明を準備するよう伝えて
おきましょう。



2014.10.07(火)【定期預金の現物出資】(金子登志雄)

 皆さんに質問ですが、定期預金は現物出資の対象にすることができますか。
定期預金には譲渡禁止特約が付いているのが普通ですが、銀行の承諾があるこ
とを前提にした質問とご理解ください。

 銀行が承諾するわけがないと思うかもしれませんが、個人事業の法人成りや、
親会社が完全子会社に出資するような場合で、かつ出資者が銀行にとって優良
大口顧客であれば、銀行も承諾することがあるようです。

 こういう前提での質問ですが、最初は多くの方が分からないと答えます。登
記所の相談コーナーでもそうでした。

 最初に疑問に感じることは、定期預金は「預けるもの(預託金)」だから、
通常の金銭債権とは違うと感じるようです。しかし、これは契約の性質でいえ
ば、金銭消費「貸借」ではなく、金銭消費「寄託」だというに過ぎず、返還請
求権が金銭債権であって指名債権であることには変わりがありません。

 譲渡禁止特約付についても、それが理由でダメだとしたら、譲渡制限株式で
すら出資することができないことになります。

 ものの本によりますと、現物出資の対象となる財産は貸借対照表の資産とし
て計上できるものなら何でもよいとされています(例えば、松井信憲著『商業
登記ハンドブック〔第2版〕』74頁)。定期預金は典型的な資産項目です。

 ということで、私は現物出資の対象になることに全く問題ないと考えました。
インターネットで検索しても、商業登記に詳しい司法書士仲間に聞いても、有
力法務局に聞いても、銀行が承諾しているのなら問題ないでしょうという答え
でした。

 しかし、いざ実行しようとしたら、肝心の管轄法務局の1人の幹部が認めな
かったようで(理由は不明)、交渉する時間もなく、やむを得ず断念したこと
がありました。本年のことで、某有力法務局でした。

 他の方法で代用しましたので実害はありませんでしたが、昨日書いた吸収分
割の登記方法と同じく、こういう幹部がいる法務局に申請するときは、余計な
苦労をさせられてしまます。


2014.10.06(月)【同時申請】(金子登志雄)

 10月1日申請のやっかいな組織再編(合併と吸収分割)も無事に終わる見
込みがつき、一安心しているところです。

 司法書士業務は委任契約ですが、登記に関しては事実上「請負」扱いされ、
無事に登記が完了しない限り、仕事を果たしたことにならないので、どんなに
経験を積んでも、登記の申請後には試験合格発表待ちのような不安な心理にな
るものです。

 逆にいえば、このような心理にならなくなったら、大きなミスをしてしまう
ことでしょうから、不安になるということは、いいことだと思っています。

 さて、今回のAからBへの吸収分割は、①B→A、②A→Cという商号変更
付でした。ここで、Bの吸収分割承継の登記につき「Cから分割」と表記でき
るかという論点があります。

 私は、同時申請のため①②の前後は問わないという意見ですが、平成23年
に東京法務局に念のため問い合わせたところ、相談窓口ではOKでしたが、そ
の後ろにいる上司(登記官?)は「同時申請でも受付番号順に登記するから不
可だ」という見解でした。受付番号順だったら同時の申請にならないと思うの
ですが、昨年の東京司法書士会千代田支部セミナーでの東京法務局の説明でも
否定説でした。

 しかし、本年の東京法務局見解は肯定説に変わっています。おそらく否定説
の幹部が転勤したのでしょう。この否定説論者が他の法務局に転勤し商業登記
の担当になっていたとしたら、今度はその法務局での取扱いが否定説に変わっ
ているかもしれません。転勤先が私がよく申請する法務局でないことを祈るし
かありません。


2014.10.03(金)【M&Aと司法書士】(金子登志雄)

 直近の「登記情報」635号に、全国司法書士法人連絡協議会で行われた司
法書士のM&A業務に関するパネルディスカッションが掲載されていましたの
で、M&A業界出身の司法書士である私としては興味深く読ませていただきま
した。

 第1に、「司法書士法人」というのは経営に関心のある司法書士が作るもの
であるのに対し、全国の個人事業者である司法書士は、私同様に、経営者タイ
プではなく、人並みに生活ができればいいという「職人タイプ」が多いことで
しょうから、経営に疎い平均的な司法書士にはM&Aコンサルは無理でしょう。

 第2に、会計事務所や経営コンサル事務所は日常的に顧客企業の懐具合にま
で入り込んでおり、社長から経営や個人問題まで相談を受ける立場ですが、わ
れわれ司法書士は数年に1度だけ総務部長等が応対するスポットの仕事です。
M&Aに意見を出せる機会は少ないでしょう。

 第3に、司法書士がM&Aに関与するとしたら、座談会にもありましたが、
話がまとまった後の手続業務であり、株式譲渡や役員変更などです。これには
司法書士は大いに関与すべきです。

 実際にM&A業務に関与してみれば分かりますが、経営者の気持ちが朝令暮
改で変化したり、ドタキャンが日常茶飯事です。ですから、上記の第3を超え
て関与するのは非効率ですし、相当難しいでしょう。

 同業者のM&Aなら大丈夫かもしれません。そのうち金子事務所を売り出す
かもしれませんから、同業者の皆さん、いまから申し込みませんか。最低でも、
うん千万の価値になるよう私もこれから頑張りましょう。


2014.10.02(木)【消える!?相続放棄】(島根・根来川弘充)

 法律上の「相続放棄」とは、口頭でいうだけでは駄目で、家庭裁判所で受け
付けてもらわないといけません。

 そして、不動産の登記や、金融機関の手続きでは、家庭裁判所で受け付けら
れたという証明書が必要になります。

 ところが、家庭裁判所には書類保存期間というものがあります。もし、保存
期間が過ぎ、提出した書類が廃棄されてしまった場合、証明書が発行されない
ということになります。

 証明書がなければ、相続放棄がなかったことになってしまいます。つまり、
「相続放棄」は、消えてしまうのです。

 実務家としては、こういった事案の依頼を受けた場合、改めて法定相続人間
で遺産分割をすることくらいしか助言できません。

 もし、皆さんが相続放棄をする機会があった場合、証明書は、一部は手元に
大事に保管されることをお勧めします。


2014.10.01(水)【白蓮から学ぶ】(金子登志雄)

 10月1日です。4月1日に続いて組織再編登記の書き入れ時ですね。私も
いくつか抱えておりますが、今日は別の話題にします。

 さて、テレビはほとんどみない私ですが、NHKの朝ドラ「花子とアン」な
どはみていました。他との話題について行くためというよりも、いったん見始
めたら、途中でやめられなくなったというのが正確です。

 やめられなくなった大きな理由の1つが、主人公の「腹心の友」である仲間
由紀恵さん演じる「柳原白蓮」に、興味を持ってしまったためです。

 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%8E%9F%E7%99%BD%E8%93%AE

 姦通罪のあるあの時代に、華族及び億万長者夫人の地位を捨て、命懸けで年
下の若い男(迎え入れた本人及び親も実に偉大な人でした)と駆け落ちしたと
は驚きですが、それ以上に、料理さえしたことのないお姫様が一般家庭の主婦
になり、しかも亭主は結核持ちで収入のない生活によく耐えられたものだと思
います。

 しかし、何となく分かります。豊かに育った人は物欲はありませんし、貧乏
生活に対し、こういうものかと思い、意外に平気だからです。「やっかみ」と
いう貧乏人の品性とは無縁なお姫様が新鮮な庶民生活を楽しんだ部分もあるこ
とでしょう。

 白蓮事件をみていると、人の幸せは何かと考えさせられます。身分やカネで
はなく、愛する人との生活そのものでもなく、束縛されず自分の自由な意思に
従って生きることではないでしょうか。

 ・・・何だ、私の生き方じゃないですか。私は、幸せなんでしょうか。いや
いや、「やっかみ」や世間体という貧乏人の悲しき品性からは卒業することが
できておりません。


2014.09.30(火)【中間期末】(金子登志雄)

 3月決算会社にとっては中間期末ですね。この期間の業績が各社から11月
初旬に発表されますが、消費税で落ち込んだ第1四半期の売上がどの程度回復
したかが問題になりそうです。

 株価だけをみていると、いかにも景気がよくなっているようにみえますが、
やや強引な官制相場の傾向があり、公的資金なども株式市場に投入されている
ため、景気の実態と株価が連動しているのかは、私個人は疑問に思っています。

 企業業績はそれなりに好転したようですが、各種の経済指標(GDPや貿易
収支)も実質賃金の減少で一般庶民の生活も悪化していますから、全体として
みれば、景気がよいとはいえないと感じています。

 翻って、司法書士界の景気動向を探るため、インターネットで検索しました
ら、相も変わらず、「司法書士では食えない」という内容ばかりでした。おそ
らく、ベテラン受験生のうっぷん晴らしでしょうが、少々、度が過ぎた内容が
多いようでした。

 平素は、どんな商売だって座っているだけで食えるわけがないじゃないか、
仕入れも設備投資もいらない恵まれた仕事なのに、何が不満なのかと冷やかに
みているだけですが、やはり、開業時から人脈があるとか、ゼロで開業しても
数年を経たなどという事情がないと、生活できないのは当然でしょう。

 著作等で名前が知れている私のところにも、一見(いちげん)のフリの客は
全くありません。新規のお客様は、知り合いの司法書士や会計事務所などの紹
介がほとんどです。お客の立場からしても、一般論ですが、ツテがないと信頼
できる人物かなどという不安が芽生えて、頼みにくいことでしょう。

 人脈というと大げさですが、自由業は、仕事を紹介してくれる知り合いが多
いか少ないかによって、生計が成り立つかどうかが決まります。友人・知人の
少ない私ですら、いったん知り合ったお客様がリピーター客になってくれるた
め、開業数年で、人並みの生活を維持できるようになりました。



2014.09.29(月)【商業登記基本書式集】(金子登志雄)

 多数の被災者が出た木曽の御嶽山(おんたけさん)の噴火にはびっくりしま
した。ご冥福を祈るとともに、日本は地震国で火山国であることを再認識させ
られました。

 信州(長野県)に近い上州(群馬県)の片田舎で育った私は、子供の頃(昭
和33年)に経験した県境にある浅間山(あさまやま)の大噴火をよく覚えて
います。屋根には数センチの火山灰が積り、山頂からは噴煙がたなびき、自然
の脅威を感じたものでした。

 こんな国で原発を推進するなど狂気の沙汰だと思うのですが、いわゆる原子
力ムラがその資金力で政界やマスコミ界に隠然たる影響力を持っていますので、
世論もそれに動かされ、反原発が圧倒的多数派になれていません。同じ敗戦国
でもドイツとの相違は大きいようです。

 さて、土日は、リーガルの商業登記基本書式集の見直しを行っていました。
まだ先のことですが、会社法の改正を機に改訂版にするためです。

  http://www.legal.co.jp/products/h20/h20_1.html

 8年前の会社法施行当時は、会社法に準拠した基本的パターンの普及が最重
要でしたが、会社法に慣れた今日では、その応用型や発展形が重要になりまし
たので、そのニーズに応えた内容にしたいと思っています。

 いわば入門レベルから応用レベルに利用者が進化していますので、書式集も
グレードアップをはかります。私自身にとっても利用価値の大きいものを目指
していますので、出来上がりが楽しみです。


2014.09.26(金)【退任を証する書面】(金子登志雄)

 昨日は6月決算である当社(アクモス)の定時株主総会でした。昨年以来、
アベノミクス効果で株式投資に関心を寄せる方が増えたのか、出席者が急増し
ており、本年も一昨年の2~3倍の株主が参加しました。来年はより広い会場
にしなければならないのかを考えねばなりません。

 株主総会の議案は、剰余金処分の件、定款一部変更の件、監査役1名選任の
件の3つであり(会計監査人設置会社のため計算書類は報告事項です)、取締
役の改選議案はありませんでしたが、2年前の定時株主総会で再選された取締
役1人Mが任期満了退任いたしました。

 当社の定款には、増員や補欠取締役の任期短縮規定はなく、「取締役の任期
は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総
会の終結の時までとする。但し、株主総会の選任決議をもって、その任期を短
縮することを妨げない」とあるだけです。

 さて、司法書士の皆さん、この取締役の退任登記の申請にあたり、退任を証
する書面として定款の添付が必要でしょうか。

 株主総会中は、任期満了を証するため定款を添付しなければならないな、面
倒だなという意識しかありませんでしたが、当社は公開会社で、しかも上記の
とおり、任期は原則として法定任期です。

 であれば、退任を証する書面は退任日を証するため定時株主総会議事録だけ
で済みますね。ただ、法務局から定款の添付がないと電話がありそうなので、
登記の委任状に「Mの退任は法定の任期満了(定款の任期も法定どおり)によ
るものであり、定款の添付は不要と考えます」とメモ書きして申請しようと思
っています。

 なお、定款を添付して、株主総会の選任決議をもって、その任期を短縮して
いないことを証明する必要があるのではないかと思われた方もいらっしゃるか
もしれませんが、「(して)いないこと」の証明は不要です(清算人の登記に
は例外規定あり)。


2014.09.25(木)【AがダメならBで】(金子登志雄)

 これで問題ないはずだと思いつつ、一抹の不安があるので、安全を期して、
管轄法務局に事前相談すると、一抹どころか全面否定された経験が司法書士な
ら誰でも何度かあるでしょうが、昨日の私がそうでした。

 多くの場合が、その法務局にとっては初体験の「みたこともない登記申請事
案」の場合ですが、私にとっては、まさに想定外の反応でした。当然に通じる
と思っていたことが通じないのです。

 まだ登記申請前なので詳細は書きませんが、こういう時は、ほんとに困りま
す。東京法務局など他の有力法務局に確認しても問題ないというし、知り合い
の優秀な司法書士全員が問題ないと答えても、肝心の管轄法務局が「他が何と
言おうが、ここはここだ」と固執する限り、何をいっても無駄です。

 よくありますよね。昔、某地方法務局で「東京法務局が何と言おうと、大阪
法務局が何といおうと、ここは〇〇だ」といわれたこともあります。もちろん、
〇〇の勘違いです。

 こういうとき、並の司法書士は「登記は無理だそうです」と会社に報告して
終わらせますが、私は引き受けた以上、そう簡単には引き下がりません。

 その際の動きですが、多くの司法書士は、これで何とかせよと粘ったり、お
願いしたりで頑張るようですが、私の場合は、AがどうしてもダメならBでど
うだ、Cという方法だったらどうかと、別の方法を提案します。

 取締役会による代表取締役の予選に法務局が否定的であれば、代表取締役は
株主総会で選定できるように定款を変更してしまうのも、この一環です。

 登記だけで考えるとアイデアは浮かびませんが、実体法の知識を総動員する
と、何かみつかるものです。皆さんも、たまには、「AがダメならBで」を検
討してみてはいかがでしょうか。


2014.09.24(水)【代表予選は凧か矢か】(金子登志雄)

 休日の秋分の日になると、中学校時代の市内全校の陸上競技大会が思い出さ
れます。確かその日に開催されたからです。

 いまでは誰も信じてくれませんが、200m競争では、私が市内の中学3年
生で1番速く走れました。わが人生の体力のピークであり、その後は長期下落
中で、現在は昇りの坂道も階段も避けて過ごすテイタラクですけど。

 その代わり、頭脳の運動が好きになり、いつも何らかにつき、ああでもない、
こうでもないと考えている生活になりました。

 昨日は、今後のセミナーのレジュメを作りながら、代表取締役の予選はヒモ
付の凧型ではなく、弓矢型だと説明するのがよいかななどと考えていました。 

 例えば、本日の現任取締役ABCDが10月1日付でBを代表取締役に予選
したとします。これにつき、10月1日時点でも取締役がABCDでないと予
選の効力を認めないなどという愚かな見解が少数ながら登記現場にあるのです。
つまり、本日から10月1日まで、ずっとヒモ付で、取締役の構成が変わって
はいけないというわけです。これでは誰も辞任できません。

 私は、本日の予選が有効に決議されたなら、放たれた弓矢と同じで、あとは
矢が地面に落ちるかどうかであり、選任者のその後(辞任や死亡、任期満了退
任)を問うものではない。矢が地面に落ちるのは、被選任者Bが10月1日ま
でに取締役でなくなった場合だと考えています。

 ヒモ付凧型解釈からすれば、取締役会の議長につき、社長に事故あるときは
第1順位が副社長、第2順位が専務取締役などと取締役会で定めた場合に、社
長が死亡すると、構成メンバーが変化したので、副社長は議長になれず、改め
て議長を選任しなければならないとでもいうのでしょうか。

 任期切れする定時株主総会の前に10月1日付簡易合併を取締役会で決議し
た場合に、取締役の構成の変化を問わないのに、代表取締役の予選のときだけ、
これを問うのは、まっとうな法律解釈とはいえないでしょう。


2014.09.22(月)【合同会社セミナー】(金子登志雄)

 休日のハザマで、中途半端な日ですね。今日は、登記の仕事はなく来客によ
る相談案件だけです。

 さて、20日の土曜日は、全国の司法書士が会員である一大組織「商業登記
倶楽部」(神崎先生主宰)が中央経済社の講堂で、3日間にわたり「商業登記
スペシャリスト養成塾 合同会社完全マスターコース」を開校したので、平素
の御礼を兼ねて、その懇親会に参加してまいりました。

 参加者は北海道から沖縄まで50名近くがいらっしゃいましたから、みなさ
んの熱心さには頭が下がります。仙台の立花さんなど、各地の司法書士会の研
修担当者とも久々に再会いたしました。

 懇親会では私も講師をすればといわれましたが、合同会社や一般社団につい
ては詳しくありません。医療法人なども詳しくなく、私は司法書士でありなが
ら、司法書士業務のうち株式会社法しか分からない狭い人間だなと再認識させ
られました。株式会社の多い都心部でしか生きられない司法書士です。

 しかし、それが金子司法書士の特徴であり、会社の計算も組織再編も種類株
式も、上場会社の運用実務も、株式投資も………それなりに語れる司法書士は、
そうはいないでしょう。

 もっとも、私もお金を貯めて、賃貸マンションを保有したり、株式運用をす
る会社など対外的活動をしない(名刺を作る必要がない)会社を作るとしたら、
やはり株式会社ではなく合同会社にすると思います。出資金の半分以上を資本
金にせよという制約もなく、役員に任期がないのは、大きな魅力です。

 早く私も自分のために合同会社を作れる身分になれますように………。


2014.09.19(金)【合格発表】(仙台・立花宏)

 「そろそろ、時間じゃないか。遠慮しないで、はやく行きなさい」

 上司に言葉をかけられ、お礼の言葉を述べて、職場をあとにしました。その
日、早退することは以前から上司に伝えてあったのです。

 勤務先を出ると、電車とバスを乗り継ぎ、地元の法務局へと向かいました。 
法務局への向かう車中、窓の外を流れていく景色は、いつもと違い、つめたく、
そして硬質な印象を受けました。

 窓の外は、澄み切った秋晴れの景色でした。窓の外の景色のつめたく、そし
て、硬質な印象は、おそらく私の心の中の緊張感が窓に映し出されていたのだ
と思います。

 その年、私は3度目の司法書士試験を受験しました。結果はどうあれ、その
年で最後にするつもりでした。次の年は人事異動の年で、私は社内でも非常に
多忙といわれる部署への異動の内示を受けていました。おそらく、司法書士試
験の勉強を続けるのは難しく、これが最後のチャンスだと思っていたのです。

 その年の4年前、私は勤務先の関連会社への出向を命じられました。数年後
には勤務先に戻ることが約束されている、いわゆる“在籍出向”という立場で
す。出向先のポストも、当時の私の年齢等を考えれば、けっして不満を持つべ
きものではありませんでした。

 しかし、私は出向という人事に落胆していました。

 “自分は勤務先にとって必要のない人間なのだろうか”“勤務先を見返した
い”

 それが、私が司法書士試験を志したきっかけだったのかもしれません。

 その年に異動の内示を受けた次の職場は、望外な、勤務先でも重要な役割を
担うポストでした。その異動の内示を受けた時、私は自分が抱いていた思いを
とても恥ずかしく思いました。

 法務局での用件を済まし、外にでると、つめたく、そして、硬質な印象を受
けていた外の景色は、とてもあたたかく、そしてやわらかい表情にかわってい
ました。

 翌日、私は法務局で見た結果を、上司に伝えました。

 「おめでとう。異動先とあわせて、二重のお祝いだな」

 唯一、司法書士試験を受験していることを打ち明けていた上司は、我がこと
のように喜んでくださいました。
 
 あれから、10年になります。
 もうすぐ10月1日。今年の司法書士試験筆記試験の合格発表日です。

 受験生の皆さんは、いろいろな思いを抱いて発表を待っていらっしゃること
と思います。

 皆さんが見る景色が、あたたかく、そしてやわらかいものとなるよう、心よ
りお祈りしております。 


2014.09.18(木)【負と正の老】(金子登志雄)

 昨日は「『次期』取締役として予選された取締役が、取締役として重任の効
果が生じる定時株主総会終結時の到来を条件に、『次期』代表取締役を予選し
たのではなく、『現任』取締役が『次期』代表取締役を予選したのだと説明し
ました。

 これにつき、仙台の立花司法書士から、松井信憲著『商業登記ハンドブック
〔第2版〕』386頁にも「改選前の取締役が新代表取締役を予選することに
ついては」とあったことを教えてくれました。これで間違いないようです。

 さて、昨日は10月1日合併の準備をいたしましたが、老眼なので外字には
慎重に対処いたしました。1点しんにょうの「ツジ」、徳の心の上に横棒……、
こういうのはすぐに分かりましたが、葛飾区の「葛」や、茨城県の「茨」が外
字であるときは見過ごしやすいので気をつけています。

 先般もお客様から、「濱」ではない「濵」だと注意されてしまいましたが、
前者の「濱」だと思い込んでいたので、文字を拡大して確認することを怠って
しまいました。今後は、すべての場合に確認するようにしないといけないなと
反省した次第です。

 ついでながら、「茨城」県や大阪の「茨木」市は、何と読むと思いますか。
正しくは、いばら「き」です。こういうのは、「正の老(年の功)」ですね。


2014.09.17(水)【再び代表取締役の予選】(金子登志雄)

 連休中は、代表取締役の予選問題を考えていましたが、やっと考えがまとま
ってきました。その詳細は、いずれ何らかの形で発表しましょう。

 さて、代表取締役の予選を肯定した昭和41・1・20民甲271号回答の
事例は、現代風にアレンジすると、次のような内容でした。

----------------------------------------------------------------------
 取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社甲において、取締役全員
が3月26日の定時株主総会の終結と同時に任期が満了するので、その定時総
会で重任決議し、直ちに就任承諾があった後、定時総会を中断しABCで取締
役会を開催し、本定時総会終結後の代表取締役としてAを再任予選し、その後
無事に定時総会が終結した。
----------------------------------------------------------------------

 これにつき、「次期」取締役として予選された取締役が、取締役として重任
の効果が生じる定時株主総会終結時の到来を条件に、「次期」代表取締役を予
選したのだから、先例で肯定された――と、つい思ってしまいますが、予選と
はいえ取締役でない者が代表取締役を選任することはできません。

 したがって、これは「現任」取締役が「次期」代表取締役を予選したと考え
るしかないと思うようになりました。

 そうすると、次なる問題として、取締役として任期切れするのが分かってい
るのに次期代表取締役を予選することなどできるのか、次期取締役の選任権限
を侵害することにならないのかと考えてしまいませんか。

 しかし、任期切れ以後の将来の支店設置などを決議することができて、代表
取締役の予選だけができないわけがない、次期取締役がそれにつき不満があっ
たら、予選を撤回したり、新代表取締役を解任すればよいと考えるほうが正し
いと思いました。

 例えば、任期中であっても、取締役ABCがA表取締役を予選したところ、
その効力発生前に株主総会で増員取締役としてDEFGを選任することは可能
ですが、DEFGの代表取締役の選任権限を侵害したので予選が無効だと考え
るのではなく、不都合があったら、DEFGの就任後に取締役会を開催し、代
表取締役を解任するのが筋でしょう。といったようなことを考えて過ごしたわ
けです。


2014.09.16(火)【スパイ扱い】(金子登志雄)

 連休はいかがお過ごしでしたでしょうか。私の世代は、おおむね、子供も巣
立っているため、いつもながらの退屈な日々だったようです。私も同様でした。

 そんな時は、テレビドラマでもみるしかありませんが、NHK朝ドラの「ア
ンと花子」では、東京大空襲や英語翻訳を生業とし外国人とも知り合いの多い
主人公が近所の人達からスパイ扱いをされる場面をやっていました。

 外国人と知り合いがいるというだけで非国民のスパイ容疑を受けることなど
は、若い人には信じがたい世界でしょうが、戦争状態になると、こういう狂気
がはびこります。

 これで思い出しましたが、ちょうど40年前、当時の韓国朴大統領が在日韓
国人に襲撃され、奥様が殺害された1週間後に韓国に1人旅行した際に、ホテ
ルのボーイさんと親しくなりました。日本語を勉強したいようです。翌日、観
光案内をしてくれるというので、ロビーで待ち合わせしましたが、いませんで
した。

 ホテルを出たら、隠れていた彼が登場しました。「なぜ、約束のロビーにお
らず、ホテルの外で人目を忍んで待っていたのか」と質問しましたら、「外国
人と親しくしていることを知り合いにみられると、スパイと勘違いされてしま
う」との返事でした。

 デパートのお土産売り場では、豊臣秀吉が侵略者として悪役として描かれて
いました。「お国のため」とは、相手国からみると、日本が悪役の敵になるこ
とが、こういうちょっとした体験でもよく分かります。

 最近の日本社会も、マスコミが一方的な大本営発表しかしないため、こうい
う嫌な社会に近づいているような気がしていますが、皆様は感じませんか。自
由気ままを愛する者は、いつの世も、非国民とされてしまいます。


2014.09.12(金)【引当金の承継】(金子登志雄)

 会社法の定義によりますと、合併は「消滅会社の権利義務の全部」を承継さ
せるもので、会社分割は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」を承
継させるものです。

 では、貸倒引当金や退職給与引当金は権利義務といえるのか、これらを引き
継げるのかという当然の疑問が生じます。

 ネットで調べますと、どうも支配取得に該当する場合は「買収」だから時価
で計算するため引き継げないが、そうでない場合は簿価引継ぎになるため引き
継げるということのようです。

 引き継げるとすると、引当金も会社法上の権利義務の一種と考えるのだろう
と素朴に思っていました。つまり、この場合の権利義務とは、対応する権利者
や義務者が存在する場合の狭義の権利や義務ではなく、貸借対照表の資産や負
債に計上することのできるものといった意味であろうと考えていたわけです。

 しかし、いまは、権利義務は財産権であって引当金は含まれないが、合併や
会社分割の会計処理は、財産権を承継した後に、会計帳簿にどう計上すべきか
という問題だから、承継した財産を貸借対照表に計上する際に引当金等も一緒
に計上して計上する科目を調整してよいということであろうと考えるようにな
りました。

 このように承継する財産権(権利義務)とその後の会計処理とは別に考える
べきであって、会計処理で認められているから、権利義務でないものも合併や
会社分割で引き継がれると考えるべきではないと思うようになりましたが、こ
の私の見方はいかがでしょうか。


2014.09.11(木)【金銭と金銭以外】(金子登志雄)

 ここ数日、仕事場の東京でも居住地の横浜でも、1時間程度の集中豪雨が何
度かありました。

 仕事場にいるときは、帰宅時間を1時間も遅らせれば、豪雨も止み、傘も差
さずに帰れますが、帰宅途中の駅などで、これに遭遇すると、タクシー乗り場
には長い行列ができていますから、1時間も駅で待つ気にもなれません。仕方
なく、豪雨に突撃しますが、靴の中まで水浸しになり、嫌なものです。

 さて、「金銭」と「金銭以外」の微妙な差について、考えてみました。

 不思議なもので、募集株式の発行において、金銭を出資するときは、払込み
があったことを証する書面が登記の添付書面になりますが、金〇〇円の普通預
金債権の出資だと金銭債権の(現物)出資となり、払込みにはなりません。

 合併等対価として金銭が選択された場合に、効力の発生と同時に現金を交付
することはなく、効力発生日以降に振込み手続等がなされるのが通常です。こ
れでは効力発生日に全てが完了していないじゃないかと思うでしょうが、これ
は現金を対価にしたのではなく、金銭交付請求権を対価にしたと考えるしかな
いでしょう。

 剰余金の配当決議においても、配当財産を金銭としながら、実際には金銭と
の引換券(配当金領収証)を送付するだけです。

 預手(ヨテ。預金小切手のことで現金同等の価値がある)の交付は、通常の
売買取引であれば対価の交付として完璧な有効性が認められるでしょうが、募
集株式の発行に応じた出資として利用される場合は、現物出資の扱いになるも
のと思われます。

 こうしてみると、厳密に「金銭」にこだわるのは募集株式の発行等の場合だ
けで、その他の場合は、金銭同等物も金銭として扱われているように思います
が、皆様はいかがお考えですか。


2014.09.10(水)【天下取りの気分】(金子登志雄)

 昨日は港区の高層ビルにある某社を訪ねました。そこからは、何と、東京タ
ワーの大展望台(高さ150m)が眼下にみえるじゃないですか。素晴らしい
パノラマでした。

 昔は東京タワーの大展望台(タワーの中間にある展望台)が、豊臣秀吉の大
阪城と同じく、どこからも見える天下取りの象徴的な場所のようにも思えたも
のですが、いまや東京タワーのある港区には多くの高層ビルが立ち並び、ビル
の影になってしまい同じ港区でも東京タワーのみえない場所が増えました。

 昨日訪問した高層ビルのエレベターは通常よりちょっと広い程度でしたが、
港区の某高層ビルのエレベーターは、小型トラックでさえ乗せられるスペース
がありました。上には上があるものです。

 こういう高層ビルの高い場所に会社があると、豊臣秀吉のように天下を取っ
た気分になれるかもしれませんね。金子事務所もこうありたいものですが、家
賃も払えないでしょう。

 話がちょっと変わりますが、某小学校教諭によると、高層マンションで育っ
た子供は高さに対する本能的恐怖がなくなるそうです。将来、とび職になるの
ならともかく、本能まで退化してしまうとは怖い話だと思いませんか。

 ちなみに金子事務所はビルの4階です。天下取りの気分にはなれませんが、
高さに対する恐怖と庶民感覚だけは忘れずに済みます。


2014.09.09(火)【決算報告とは】(金子登志雄)

 5日のセミナーでは、株式会社の解散に関わる質問を受けました。決算報告
の書き方の問題です。会社の解散は、意外に多く、私も毎年、数件を経験して
います。今月も清算結了が1件予定されています。

 さて、決算報告というと、つい資産ゼロ、負債ゼロの貸借対照表でも作る必
要があるように思えてしまいますが、会社法施行規則150条によれば、次に
掲げる事項を内容とするものでなければならないとされています。
 1 債権の取立て、資産の処分その他の行為によって得た収入の額
 2 債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用の額
 3 残余財産の額(略)
 4 1株当たりの分配額(略)

 これでは、決算報告というより清算事務報告というべきだと思いますが、旧
商法時代からの慣例なのか、決算報告と表現されています。

 事業を営んでいる間は、決算といえば「計算書類及び事業報告」の2つを表
す用語だと思うのですが、清算が結了すれば、貸借対照表を作る意味もありま
せん。そこで、清算事務報告だけを決算報告というのでしょうが、この用語の
ために、貸借対照表を作成しなければならないと思い込み、債務免除された清
算結了直前の親会社からの負債が計上されたものを作成し、登記所から補正を
受ける司法書士が少なくないようです。清算結了した内容のものにするか、貸
借対照表は作成しないか、いずれかにするべきですので、気をつけましょう。


2014.09.08(月)【計算の目(視点)】(金子登志雄)

 5日の金曜日は、静岡県司法書士会富士支部で「会社の計算」をテーマに講
師を務めてまいりました。夕方だったため富士山こそみられませんでしたが、
東京から近いので、楽な日帰りツアーでした。研修担当のU先生、支部長G先
生ほか、皆様、お世話になりました。

 都内を別にすると、支部単位の研修会講師はめったに依頼されませんが、金
子限定でご指名いただいた場合には、喜んでどこにも参上しています。

 金子限定ではなく、ちょうど司法書士会の研修時期になったので、講師は誰
でもよいというニュアンスで依頼された場合は、全てお断りさせていただいて
おります。講師業は、仕事とは思っていませんので………。

 「計算」がテーマの講義は久々でしたが、計算のことが分かってくると、減
資や組織再編に対する新しい視点ができて、全体像がよくみえてきます。

 法律のどこが面白いのだと感じる人は多いようですが、世の中の事象や出来
事について、一般人の感覚だけでなく、「法律の目」からも捉えられるように
なれることが面白い理由の1つです。

 例えば、法律を勉強すれば、万引きについては「窃盗」、キセルは「詐欺」、
人身交通事故は「業務上過失」などという視点でも考えるようになりますが、
会社の計算を勉強すると、単なる合併も共通支配下関係で簿価取引になって…
……などと新しい視点やアプローチをするようになれます。

 講義でもいいましたが、貸借対照表に関する常識的知識と中学校1年生レベ
ルのプラス・マイナスの計算ができれば、計算規則の読解も難しくありません。
東京司法書士協同組合編『事例で学ぶ会社法実務【会社の計算編】』はそのお
手伝いをする本としては最適だと自負していますので、お持ちでない方は、ぜ
ひどうぞ(本HP上の左の回転盤にあります)。


2014.09.05(金)【似非合併】(金子登志雄)

 司法書士連合会の掲示板で、親会社が100%子会社を吸収合併する際の会
計処理は無対価の合併だから計算規則36条2項だとの主張がありましたので、
いや違う、その規定は100%子会社間合併という「横型」の合併で株式交付
省略型だから、親子間の「縦型」合併には適用されないと説明しておきました。

 100%子会社を吸収合併する際に株式を発行すると、子会社の株主は親会
社自身ですから、自分が自分に株式を割り当てることになりますので、会社法
では合併対価の交付を禁止しています(749条1項3号かっこ書)。当然で
しょう。これが認められば、自己割当て増資さえ認めねばなりません。

 私は、合併とは合併対価を交付するかどうかは別として対価を交付しようと
思えばそれができるものをいい、親子間合併のように対価を交付したくてもで
きないものは本来の合併ではないと考えています。

 合併とは「他人」の財産を受け入れるものです。100%子会社には他人性
がありません。家の中の子(1事業部門)を外の子にしていただけです。

 したがって、会計処理も財産の増減=株主資本の変動=はなく、子供に旅を
させた結果としての費用処理=損益計算書の問題=とされています。

 というわけで、100%子会社の吸収合併は、ニセモノの合併だと私は考え
ています。


2014.09.04(木)【445条4項は剰余金の処分か】(金子登志雄)

 昨日、某社の定時株主総会招集通知案をチェックしていましたら、次のよう
にありました。下記の2(その他の剰余金の処分に関する事項)は、剰余金の
配当の際には、その1割を準備金に積み立てよという会社法445条4項のこ
とです。

----------------------------------------------------------------------
第2号議案 剰余金処分の件
 当期の剰余金の処分につきましては、次のとおりといたしたいと存じます。
 1.期末配当に関する事項  (略)
 2.その他の剰余金の処分に関する事項
  ① 減少する剰余金の項目およびその額
     繰越利益剰余金〇〇〇円
  ② 増加する剰余金の項目およびその額
     利益準備金〇〇〇円
----------------------------------------------------------------------

 会社法445条4項は法律に基づく強制であって、決議する必要はないので
すが、この内容は狭義の剰余金の処分に含まれるのかにつき、考えてしまいま
した。

 拙著『事例で学ぶ会社法実務【会社の計算編】』(中央経済社)の29頁に
は、次のように書きました。

----------------------------------------------------------------------
 会社法452条に「損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分
(前目に定めるもの及び剰余金の配当その他株式会社の財産を処分するものを
除く。)」とあります。カッコ内も剰余金の処分ですから、次のとおりです。
 ① 剰余金の資本組入れ、準備金組入れ(前目に定めるもの)
 ② 剰余金の配当ほか財産処分を伴うもの
 ③ 財産処分を伴わない損失の処理、任意積立金の積立てその他の処分
 狭義では、③のみをいうと理解してよいでしょう。
----------------------------------------------------------------------

 会社法445条4項は上記①には該当しません。意思に基づく組入れではな
いからです。かといって、会社法445条4項では、会社財産が会社外に流失
しませんから、③なのか………と考えてしまったわけです。

 いまこれを書きながら、②であると結論づけました。剰余金の配当と会社法
445条4項は、不即不離の一体のものであって、「剰余金の配当」と「準備
金への1割積立て」という別々の2つではないと考えたためです。たぶん、正
しいと思っていますが、これにつき触れた文献は見つかりませんでした。


2014.09.03(水)【親等の計算】(金子登志雄)

 29日の本欄で「親戚のおじさんやおばさんなど名義貸し取締役も社外取締
役として……」と書きましたが、改正会社法が施行された後も、これらの親戚
は社外性を喪失しません。社外役員になれないのは、取締役等の「配偶者又は
2親等内の親族」までです。おじさん・おばさんは3親等ですから対象外です。

 ところで、本欄閲覧の非法律関係者の方は、親等の計算方法をご存知ですか。
これは、世代数で数えます。

1.縦線(直系)の関係
 父母や子供は自分からみて1世代の差ですから1親等、祖父母や孫は2世代
の差ですから2親等です。

2.横線(傍系)の関係
 兄弟など横の関係は共通の先祖まで上がって、また対象者まで下がります。
兄弟姉妹は2親等です。おじさん・おばさんは、祖父母まで2世代上って、ま
た1世代下がりますから3親等です。いとこは4親等です。

 民法によると「直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることが
できない」とされていますから(養子関係に例外あり)、いとこ同士は可能です。

3.配偶者と血族、姻族
 配偶者とはゼロの関係です。私の妻の親は、私と1親等の親族ですが、血族
ではなく姻族といいます。配偶者は自分の配偶者だけを指し、私と「兄弟の配
偶者の両親」は姻族になりません。

 民法によりますと、親族の範囲は「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻
族」とされていますから、私と「妻のいとこ」などは親族になりません。また、
相互の扶養義務は原則として「直系血族及び兄弟姉妹」とされていますから、
私は兄弟の子である甥や姪(3親等の「傍系」血族)には、老後の扶養をせよ
と請求できそうもありません。


2014.09.02(火)【豪雨災害】(島根・根来川弘充)

 先般、広島県で大きな水害がありました。被災された皆様には、心よりお見
舞い申し上げます。

 さて、東北大震災では、海岸沿いが危ないことを認識させられました。今回
の水害では、山間部も危ないことを認識させられました。

 被害の規模が違うとはいえ、大雨によるおおきな水害は、ここ近年、増えて
いると感じます。そうすると、大地震にも匹敵する災害ではないかとも思え、
大変、不安になります。

 自然災害に向き合うとき、自分でも想像がつかない状況が起こることを想定
した上で、どう対処するか考えなければならないということは、雲をつかむよ
うな話にも思えます。

 しかし、今回の災害で、日本に安全な場所がないのだと思えば、答えが出な
いであろうことを、あきらめずに考えることが大事に思います。


2014.09.01(月)【不審メールにご注意】(金子登志雄)

 9月に入りました。東京では、半そでYシャツでは少し寒くなり、晩夏から
秋の気配に移り変わりつつあります。

 さて、最近、当社はおかしなことでネットに名前が出てくるようになりまし
た。下記です。こんなことで会社が知られるのは残念でなりません。

 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13134685668

 当社は「アト株」なのに、この不審メールでは「マエ株」になっているため、
言い逃れができるようにしたのかなと思っていましたが、全く同じ電話番号で、
トライアイズさんも被害を受けており、こちらは正しく「マエ株」になってい
ましたから、単なる犯人の間違いのようです。

  http://www.triis.co.jp/pdf/2014/2014_0821.pdf

 こういう不審メールを撲滅するには、「またか」と思うほどの慣れが必要で
すが、ネットに慣れていない善良な市民は、つい反応してしまうものです。反
応すると「カモリスト」に掲載されてしまうようですので、少なくともネギま
では渡さないようご注意ください。

 防衛策としては、自由にカネを動かせないようにしておくのがよいでしょう。
私の親戚縁者にもオレオレ詐欺の電話がありましたが、幸いというか、恥ずか
しながらというか、渡せる預金もなく、被害を免れています。


2014.08.29(金)【社外取締役の登記】(金子登志雄)

 たまに「社外取締役として選任したい」などという株主総会議事録をみます
が、「社外」であるかどうかは、正しくは取締役の出自ないし経歴の問題であ
って事実の問題ですから、一定の役割を持った取締役として選任したいという
意味合いは、本来はありません。

 しかし、これでは、親戚のおじさんやおばさんなど名義貸し取締役も社外取
締役として登記することになってしまいますので、現行法では、責任限定契約
を締結するような業務執行監視役の任務が期待される社外取締役だけを社外取
締役として登記すればよいと解釈されています。

 ところが、改正会社法によると、この責任限定契約と社外役員との関係が切
断され、監査役設置会社では原則として社外取締役が登記事項でなくなります。

 例えば、当社(アクモス)には、取締役6名中2名の社外取締役がおり、登
記されていますが、それは定款に社外取締役に関する責任限定契約の定めが置
かれ登記されているためであり、改正会社法が施行されますと、この社外取締
役の登記を抹消しなければなりません。

 登記簿上は社外取締役がいない会社になりますが、改正会社法の趣旨に反し
ないのでしょうか。

 ところで、改正会社法によると責任限定契約は社外取締役に限らず、非業務
執行取締役等に拡大されます。その定款の定めは登記事項です。

 改正会社法の経過措置(22条2項)には、「この法律の施行の際現に旧会
社法第911条第3項第25号の規定による登配(注:社外取締役の登記)が
ある場合は、当該株式会社は、当該登記に係る取締役の任期中に限り、当該登
記の抹消をすることを要しない」とあります。

 この文面からすると、定款から社外取締役の責任限定の定めを削除しても社
外取締役の登記は抹消しなくてもよいのか、旧法に従い存在根拠を失うから抹
消しなければならないのか、旧責任限定契約の定めを非業務執行役員を含む新
責任限定契約の定めに改めた場合も「旧会社法第911条第3項第25号の規
定による登配」と扱われるのか、はっきりしません。

 こういう細かい部分は登記の通達が出て、質疑応答でもなされないうちは、
不明のままですね。改正会社法と登記の解説書などは、現段階では書けません。



2014.08.28(木)【決算期の運・不運】(金子登志雄)

 26日付け本欄でお知らせしましたが、改正会社法附則4条には「この法律
の施行の際現に旧会社法……に規定する社外取締役又は社外監査役を置く株式
会社の社外取締役又は社外監査役については、この法律の施行後最初に終了す
る事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、新会社法……の規定にか
かわらず、なお従前の例による」とあります。

 改正会社法の施行日が平成27年4月か5月の場合は、3月決算会社に社外
役員の新法が適用されるのは、「この法律の施行後最初に終了する事業年度」
である平成28年3月末日「に関する定時株主総会の終結の時」からですから、
平成28年6月定時株主総会終結時からです。

 ところが、当社のような6月決算会社では、「この法律の施行後最初に終了
する事業年度」が平成27年6月末日ですから、それ「に関する定時株主総会
の終結の時」は平成27年9月定時株主総会終結時からです。

 3月決算会社よりも5月末日や6月末日決算会社のほうが先に改正会社法を
研究しておかねばならないことになりそうです。

 いつもは、何か新しい事態が生じても、当社のような6月決算会社は3月決
算会社の苦労の成果をマネをすれば済んだのですが、今度の改正会社法につい
ては、斥候役を演じねばならないということです。

 一番大きい問題は定款変更でしょうが、証券代行会社の信託銀行等が見本を
作ってくれますので、これに右に倣えをすれば済むと思うのですが、この見本
に問題があると全国津々浦々に浸透してしまいます。過去にも問題事項があり
ましたので、私も注意しなければ………。


2014.08.27(水)【社外取締役を置かない理由】(金子登志雄)

 改正会社法によると、上場会社(大会社に限る)は「社外取締役を置くこと
が相当でない理由」を必ず定時株主総会で説明しなければなりません。事実上
の強制に近いといえます(新327条の2)。

 社外監査役が存在するため社外役員はこれで十分だというのは「相当でない
理由」としては不十分だといわれています。この「相当」は「適当」や「妥当」
という意味のようです。

 確かに業務執行の監督には人事権と取締役報酬の決定権を持たせることが重
要ですから、社外監査役よりは社外取締役のほうが監督の実行性という意味で
は強力でしょう。

 しかし、商法時代に監査役の権限を繰り返し強めて来ましたが、効果はあり
ませんでした。社外取締役を増やして効果が生じるのかは、私は疑問に思って
います。

 現状の社外取締役も、社長の知り合いやオトモダチであることが多く、そう
でない場合でも、経営のことを知らないヤメ検や弁護士などですから、取締役
会で上程される議題の適法性については審査できても、裏でなされる行為につ
いて十分に監督することができるかは疑問です。

 また、上場会社といっても、国際的に活躍する企業から近所の中小企業と大
差のない会社もあります。後者の株主総会では「監査役が4人は多すぎる。無
駄な出費だから1人減らせ」というのが株主の意見です。

 私の持論ですが、社外取締役が根付くまでは、上場会社全てではなく、株主
数がうん万人以上の会社に限定したり、会計監査人のように外部の業務監査人
の制度を設けたほうが効率的ではないでしょうか。


2014.08.26(火)【社外役員の経過措置に注意】(金子登志雄)

 改正会社法によると、親会社の取締役や従業員等は子会社の社外監査役にな
れなくなります。これは、もうご存じだと思います。

 ある大手法律事務所の改正会社法解説本にも、「改正会社法が施行されると、
その日以降に株主総会で選任する取締役、監査役の社外要件については改正会
社法によることになります。したがって、平成27年4月1日施行とすれば、
4月総会から親会社の財務部長を子会社の社外監査役としては選任できないこ
とになります」などと説明されていました。

 しかし、これは社外役員が施行時も不在の会社にしか通じない内容であるこ
とが、直近の商事法務2040号で明らかになりました。これは、経過措置に
関する改正会社法附則4条の解釈問題です。

 改正会社法附則4条には「この法律の施行の際現に旧会社法第2条第15号
に規定する社外取締役又は同条第16号に規定する社外監査役を置く株式会社
の社外取締役又は社外監査役については、この法律の施行後最初に終了する事
業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、新会社法第2条第15号又は
第16号の規定にかかわらず、なお従前の例による」とあります。

 これを施行時の社外監査役は当分そのままでよいが、新規に選任される者の
社外要件は新法によると読めば、前記の弁護士本は正しいことになりますが、
そうではなく、社外役員が存在する会社にあっては、当分、旧法の規定が適用
されるという意味であって、人単位ではなく、会社単位の規律であると法務省
のお役人が明言していました。

 したがって、改正法施行時に社外役員が存在する場合において、平成27年
4月1日施行とすれば、4月総会で親会社の財務部長を子会社の社外監査役と
して選任できるということになります(ただし、施行後最初に終了する事業年
度に関する定時株主総会の終結の時以降は社外性を喪失します)。

 改正法の解説本は、早く出すことに意義がありますから、上記弁護士本には
責任がありません。とはいうものの、著者はいま頃「しまった!」との思いで
いっぱいでしょう。出版というのは、いつもこういう危険と隣り合わせでいま
すから、私には他人事とは思えません。後講釈で、あの本は間違いだと批判す
るのは、安全地帯にいながら、前線で戦っている人を論評する無責任な評論家
と同じです。


2014.08.25(月)【社外役員の呼称】(金子登志雄)

 全国各地で豪雨災害が発生してますが、皆様のところは大丈夫でしょうか。
被災者の皆様にはお見舞い申し上げます。

 さて、土曜日の23日は、当社(アクモス)の創立23年目でした。私が司
法書士になる前の平成3年の創立です。例年、内輪だけで表彰式などちょっと
したパーティーを行っているため、役員として出席してまいりました。

 いまは監査役ですが、こういう内輪の会合では「金子監査役」と呼ばれるこ
とはめったになく、「金子さん」あるいは私が司法書士であることを知ってい
る社員からは「先生」と呼ばれることがほとんどでした。

 考えてみれば、社長、専務、常務などの業務執行役員には、そのまま氏名を
付けずに役職のみで呼ぶことが多いのに、社外取締役・監査役などの非業務執
行役員に対するよい呼称はないようです。

 仕方なく「〇〇取締役、〇〇監査役」と氏名入りで声をかけることはあって
も、単に「取締役」などとは声をかけないでしょう。相手が弁護士等の士業だ
ったら、「先生」と呼ぶことが多いのではないでしょうか。

 「〇〇取締役、〇〇監査役」という呼び名にも違和感があるのは氏名以外が
3文字だからでしょうか。社長、専務、常務、先生も、所長も奥様も、自然な
呼称は2語で成り立っています。

 こうしてみると、法務省も社外取締役を増やしたいなら、「理事」のように
2文字の役名にするとよいかもしれませんね。業務執行の監督・監視役ですか
ら、「監与」などという呼称はいかがでしょうか。「客分」はイメージが悪そ
うですから、「目付」もよいかもしれません。従業員上がりの非常勤取締役は
直参目付で、社外取締役は外様目付というところでしょうか。


2014.08.22(金)【法解釈の姿勢】(金子登志雄)

 まだ世間知らずの中学高校時代は、何が正しいのか分かりませんでしたが、
長じてくると、結局は、どの立場に立つかによって正しさの概念が相違してく
ることが分かってきました。

 単純な論理でいえば、労働者にとっては賃金の向上が「正」ですが、資本家
にとっては経費削減が「正」で賃金のアップは「悪」です。

 そこで、法律の解釈についても、企業の側に立つか、企業を指導・管理しよ
うという立場に立つかによって、答えが違ってきます。

 新保司法書士のブログ(司法書士のオシゴト)にもありましたが、後者に立
つと「1か月以上先の本店移転決議は認められない」と企業活動の自由を拘束
する考え方を平気でするのに対し、前者の立場に立つと、そんな規定がどこに
あるかという主張になります。

 徒然なるままに定款変更不要の本店移転は1か月先でもよいかにつき実例を
ネット検索してみました。

 取締役会決議5/13、移転日9/16(約4か月先)
http://www.sumitomo-soko.co.jp/images/topics/1399954694/1399954694_12.pdf#search='%E6%9C%AC%E5%BA%97+%E7%A7%BB%E8%BB%A2+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 取締役会決議2/12、移転日5/7(約3か月弱先)
http://ir.adways.net/irnews/140212.pdf#search='%E6%9C%AC%E5%BA%97+%E7%A7%BB%E8%BB%A2+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 こういう実例が多数あるのに、「1か月以上先は不可」などと主張する法律
家は、立場の論理以前に、「世間知らず」といわれても仕方ないでしょう。


2014.08.21(木)【無対価吸収分割の捉え方】(金子登志雄)

 着眼点がユニークといわれる私は、これまでに、吸収合併は合併して解散す
るのではなく解散が先で合併が後だ、旧商法時代の100%減資は減資して増
資するのではなく増資してから減資するのと同じだ(当時の最低資本金違反に
ならない)などと説いてきました。

 その延長で、分割型吸収分割についても、吸収分割して受領した株式を配当
するのではなく、剰余金の配当が先だと考えてみました。

 例えば、丙の100%子会社である甲が同じく丙の100%子会社乙に分割
型吸収分割することは、甲が株主丙に甲の事業財産を配当し、同時に丙が乙に
その配当された事業財産を新たに現物出資したと考えてもよいのではないでし
ょうか。配当は当然に無対価行為です。

      丙
     / \     
    甲   乙

 こう考えれば、甲から乙への無対価吸収分割の会計処理が株式を発行した場
合とほぼ同一処理であることが理解できます。

 では、親丙、その完全子会社甲、その完全子会社(孫)乙において、甲から
乙に対する吸収分割の場合はどうでしょうか。

      丙
     /
    甲
     \
      乙

 この場合は株式を対価にすると、丙が乙の株式を有することになり、甲が乙
の100%親会社ではなくなるので、分割型吸収分割はなされることはまずあ
りませんが、無対価であれば、その問題が生じないため、実行されています。
親丙の財産状況に変化がないことも同じです。

 なお、これにつき、もっと簡単に、分社型と構成し、現物出資の株式発行省
略型だと構成すれば十分ではないかという意見があります。現に、そのような
会計処理をした会社もあるようです。

 しかし、これを認めると、行く着く先は株主割当増資では株式を発行する必
要がないということになりそうで、現時点では認められた会計処理にはならな
いでしょう。



2014.08.20(水)【株主資本が変動する場合】(金子登志雄)

 今日は会社の計算の話で、とっつきにくいかもしれませんが、お付き合いく
ださい。

 さて、貸借対照表の純資産の部に「資本金」などが定められていますが、こ
らの項目の合計額を株主資本といいます。とりあえずは、「資本金や準備金
等のこと」とでも思ってください。

 この資本金等の合計額である株主資本は、商法時代からずっと「株式を発行
しない限り変動しない」という原則で成り立っています。

 しかし、株式を発行しないのに株主資本が変動(増減)することがあります
(資本組み入れなどは、コップの中の変動で、合計額の変動にならないので、
除外されます)。

 その1は、自己株式の取得です。
 自己株式の取得は発行した株式の回収行為のようなものですから、一種の株
式の発行の解除として、原則の裏返しであり株主資本が減少することにつき理
解することができると思います。

 その2は、剰余金の配当です。
 これも、考えようによっては、発行した株式の現在価値に対して、一部を払
い戻すようなものだと考えれば、やはり株式の発行の一部解除として、株式発
行の原則の裏返しとして理解することができます。

 その3は、分割型会社分割です。
 これは、発行した株式を複数の会社支配に分割したようなものですから、元
の会社の株主資本が減少するのは当然だといえましょう。

 その4は、無対価吸収合併です。
 100%子会社同士の吸収合併で認められていますが、これは株式交付を省
略した場合だと解されていますから、原則の変形と理解することができます。

 その5は、無対価吸収分割です。
 これにつき、分割会社が分割事業財産を株主に配当し(当然に無対価です)、
続いて株主がその受け取った財産を分割承継会社に現物出資したと考えれば、
分割会社の株主資本が減少するのは当然だということになるでしょう。

 以上のように考えると、根源はやはり「株式の発行=株主資本」あるいは、
「株式会社と株主との取引による変動」のようです。


2014.08.19(火)【勉強】(仙台・立花 宏)

 先週の月曜日11日に「専務取締役」という寄稿をさせていただきました。
もし、お読みいただき、覚えていてくださった方がいらっしゃったとしたら、
とてもうれしく思います。ありがとうございます。

 この「専務取締役」という投稿の内容ですが、実は掲載された内容は、最初
に予定していた内容とは異なっています。というのは、最初に予定していた内
容には問題点があったのです。私の法律を読む上での基礎知識がたりなかった
ことが原因で、内容に勘違いがありました。その点を金子先生やESG法務研
究会の諸先生方がご指摘をくださり、掲載時にはその問題点を解消した内容と
なっていたのです。

 私が、「代表取締役」という言葉が、法律上、いつ頃から使われていたのか
を調べるため、会社法旧法令集(信山社)という書籍を調べていた時のことで
す。明治44年改正時の商法第170条の見出しに【取締役の代表権、代表取
締役、共同代表】と記載されていました。本文には代表取締役という言葉が記
載されていなかったのですが、見出しに記載してありました。私はこれを見て、
「代表取締役」という言葉が当時も使用されていたのだと勘違いしたのです。

 原稿を書き上げ、寄稿したところ、先ほど記載したように、金子先生をはじ
め、ESG法務研究会の諸先生方よりご指摘をいただいたのです。
 「古い法律には、見出しはないはずだよ」と。
そのご指摘を受け、先日、掲載された投稿内容となったのです。

 後日、調べたところ、分かりやすい法律・条文の書き方[改訂版]という書籍
に、以下の記載がありました。

 “六法全書の中には、丸括弧でなく、かぎ括弧【 】で見出しが表示されて
いる法令がある。これは、古い法令で見出しがないため、編集者が便宜付加し
たものである”

 前述の会社法旧法令集をみてみると、先ほどの明治44年改正時の条文の見
出しはかぎ括弧で表示されていました。同じ会社法旧法令集でも、現在の会社
法の条文の見出しは丸括弧で表示されていました。

 法令の条項を読む上では、いろいろ、注意しなければならない点があるのだ
と反省させられました。そして、それを素早く指摘してくださった金子先生や
ESG法務研究会の諸先生方の深い知識に感心させられました。自分ひとりで
勉強していると、自分が勘違いしていることも気づかずに過ぎてしまうことが
あります。今回のことで、金子先生やESG法務研究会の諸先生方にご指導い
ただけることの幸せを実感いたしました。

 金子先生、ESG法務研究会の諸先生方、本当にありがとうございました。

 参考文献
  会社法旧法令集(信山社)
  分かりやすい法律・条例の書き方[改訂版](ぎょうせい)


2014.08.18(月)【入門書を読んでみた】(金子登志雄)

 アマゾンの会社法本ベストセラーで、江頭本と1、2位を争っている本があ
ります。

http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/500196/ref=pd_zg_hrsr_b_1_5_last

 近藤光男著『会社法の仕組み』(日経文庫)ですが、売れているのは値段だ
けが理由ではなさそうだと思ったことと(税込み929円)、知識よりも「モ
ノの見方、考え方、捉え方」を重視する私には、題名に「仕組み」とあること
に興味を持ったため購入して、お盆休み中に読んでみました。

 読後感ですが、一言でいえば、上手にまとめた概説書でした。「仕組み」と
いう題名には特別の意味はなかったようです。むずかしいことを易しく説明し
てあるので、評価が高いのだと思いました。年配の人にだけ通じる表現をする
と、民法のダットサン(我妻栄著)といったところでしょうか。

 私も、目指せ1万部で、こういう売れる入門書を書こうと挑戦したこともあ
りましたが、書いているうちに論じ始めてしまい、入門書の域を超えてしまい、
やめました。また、私のイメージ(独特な視点で論点につき解説する人)にも
合わないでしょう。拙著の読者は各論重視の実務家なので、その期待を裏切る
体系的入門書を書くべきではないと思い直しています。

 なお、本欄閲覧の初学者の方で、この本を読んだ方にアドバイスするなら、
「いま、あなたは会社法が分かったような気分でいるだけで、何も身について
いません。さらにステップアップするには、読むことよりも、やさしい問題集
を手に入れ大量の問題を解いてください。さすれば、知識が実感として身につ
いてきます」といったところでしょうか。

 読むという「受け」だけでは不十分です。判断する、書く、という「攻め」
が実務では大事です。自分の口で自分流の表現で「〇〇とは」と語れるように
ならないと、実戦では使えません。

 実務家の司法書士各位も、そろそろ「監査等委員会設置会社とは」と自分の
口で語れるようにしないといけないですね。



2014.08.12(火)【役員変更登記業務】
(金子登志雄)

 昨日の立花さんが提示した旧商法につき、仲間内で話題になり、古い規定に
つき調べましたら、何と昭和25年から昭和49年までは監査役の任期が1年
でした。毎年、役員変更登記が必要だったのです。当時の司法書士にとっては、
ありがったことでしょう。

 旧商法では、昭和25年以降に限って言えば、監査役の任期が1年→2年→
3年→4年と変化してきたのに対し、取締役の任期は、ずっと2年でしたが、
ご存じ、司法書士つぶし(?)の会社法の施行(平成18年5月)で、非公開
会社では任期を10年まで延長することができるようになったため、ただでさ
え会社数の少ない地方では、商業登記の件数がめっきり減ってしまいました。

 いま、任期1年といえば、会計監査人ですが、会計監査人設置会社は上場会
社程度ですから、役員変更登記の減少の歯止めにはなっていません。

 こうして商業登記に詳しい司法書士も減少し、商業登記は司法書士なら誰で
も扱える仕事から、徐々に特殊な専門家の仕事に変化してきました。種類株式、
新株予約権、合併再編等まで扱えないと商業登記だけでは暮らしが成りたたな
くなってきました。

 商業登記を扱う司法書士は専門家・プロ化してきたのに、この申請を審査す
る法務局側は、公務員の人事異動で、専門的でない調査官や登記官が増えたの
か、最近は、各地で小さな衝突が生じているようです。法務局によって、人に
よって、聞く時期によって回答が異なるのですから、困ったものですが、これ
をいかに説得しクリアするかも、われわれの腕ですから、頑張りましょう。決
して妥協しないことです。他の人に迷惑が及びますから。

 さて、13-15日の本欄はお休みします。私自身は年中無休のコンビニエ
ンス司法書士ですから休みませんが、本欄の管理者も会社もお盆休みのため、
私一人が出勤する気にもなれないので、仕事については、自宅にて携帯電話と
メールで対応いたします。ご遠慮なくどうぞ。



2014.08.11(月)【由緒ある肩書―専務取締役】(仙台・立花 宏)

 先日、大学時代の友人とお会いする機会がありました。彼は、大学卒業後、
東京に出てサラリーマンとなりましたが、現在は実家に戻り、家業を手伝って
いるそうです。名刺をいただいたところ、肩書が“専務取締役”となっていま
した。

 「専務取締役か。格好いいね」
 「実家の小さい会社の役職だよ。実態は親父の会社の単なる従業員さ。でも、
たしかに、専務取締役って、歴史のありそうな肩書で格好はいいな」
 「たしかに、歴史のありそうな肩書だな」

 友人の謙遜しながらも、まんざらでもない様子を眺めながら、“専務取締役”
という言葉は、はたしていつ頃から使われていたのだろうか、ということが気
になりはじめました。たしか、平成18年に施行された会社法(以下、「会社
法」という)の表見代表取締役のところに、その名称が使われていたはず、と
思いながら、自宅に戻りました。

 自宅に戻り、会社法の条文を見てみると、第354条(表見代表取締役)の
条文には、使われていると思っていた“専務取締役”という言葉は使われてい
ませんでした。どうやら、会社法では、表見代表取締役の条文から“専務取締
役”という言葉は削除されていたようです。いままで気付かなかったことを恥
ずかしく思いました。

 気を取り直して、本棚から会社法施行前の六法を取り出し、会社法施行前の
商法(以下、「商法」という)第262条の表見代表取締役の条文を見ると、
“専務取締役”という言葉が使われていました。昭和13年に本条追加となっ
ていますから、どうやら昭和13年には“専務取締役”という言葉は、会社の
役員の役職名として使われていたのでしょう。

 会社法旧法令集(淺木槇一編 信山社)という書籍でさらに調べてみると、
明治23年に制定された商法(以下、「旧商法」という)の第185条第2項
に規定がありました。

 “取締役ハ同役中ヨリ主トシテ業務ヲ取扱フ可キ専務取締役ヲ置クコトヲ得
(以下、省略、)”(条文中、下線は筆者による)

 この旧商法は、日本で最初の商法典です。その後、旧商法は明治32年に一
部を除き廃止され、新しい商法典が制定されたのだそうです。この明治32年
に制定された商法が、商法の原型です。探してみましたが、その明治32年に
制定された際の商法では、“専務取締役”という言葉は使われていませんでし
た。

 ちなみに、“代表取締役”という言葉は、いつから条文に登場したのでしょ
うか。前述の会社法旧法令集を見てみましたが、“専務取締役”が記載されて
いた旧商法には見つけることができませんでした。さらに探してみると、明治
44年に改正された商法第170条の表題に、はじめて見つけることができま
した。

 この表題(条文の見出し)は、当時は法律に属さないものでしたが、当時か
ら代表取締役と表現していたものとすると、日本の法律上は、“専務取締役”
の方が“代表取締役”より古い肩書といえるかもしれせん。そんな由緒ある肩
書をもった友人をちょっぴり羨ましく思いました。

 参考文献
 「会社法旧法令集」 淺木槇一編 信山社
 「新訂版 商法改正の変遷とその要点」 秋坂朝則著 一橋出版



2014.08.08(金)【会社分割と譲渡承認】(金子登志雄)

 分割型吸収分割というのは、A社が事業財産をB社に吸収分割し、見返りに
取得したB社株式をA社の株主に現物配当するものです。

 B社が非公開会社である場合は、A社からA社株主へのB社株式の配当につ
いても、B社で譲渡承認決議が必要だとされています(相澤哲ほか編著『論点
解説 新・会社法』Q898)。

 ここまではよいのですが、先般、甲社が乙社を新設分割する分割型新設分割
を経験した際に、乙社の譲渡制限承認はどうやってするのかと迷ってしまいま
した。乙社は非取締役会設置会社で株式の譲渡承認は株主総会の権限になって
います。

 迷った理由は、この現物配当は乙社の成立と同時です。承認したとしても事
後承認にならざるをえませんが、それでは、会社成立の日に法的な瑕疵なく配
当したことになりません。また、株主総会で承認しようにも乙社の株主が現物
配当後のA社の株主とみるのは自己矛盾です。配当が有効であることを前提と
しているからです。乙社の株主を分割会社甲とみれば、乙社の成立と同時の現
物配当になりません。

 結局、承認は不要だと判断しましたが、振り返って分割型吸収分割でも不要
だと考えるべきではないでしょうか。吸収分割承継会社であるB社でも株主総
会あるいは取締役会で分割型の会社分割であることを承認しているわけですか
ら、この上さらに、株式の譲渡だけを取り出して別途承認せよというのもおか
しな見解です。

 会社分割は承認したが、株式配当は承認しないことができるのでしょうか。
できるわけがありません。また、譲渡制限株式の発行・交付となる関係で、吸
収分割承継会社の会社分割承認決議は株主総会の特別決議になります。それで
分割型であることを承認しているわけですから、別途、株主総会の普通決議や
取締役会決議による譲渡承認は不要というべきでしょう。

 分割型新設分割との均衡からしても、分割型会社分割における株式の配当は
株式譲渡制限の承認は不要だと解釈すべきではないでしょうか。


2014.08.07(木)【この時期に思うこと】(金子登志雄)

 昨日は原爆記念日でした。広島も長崎も平和記念館を訪問したことがありま
すが、まさにピカドンによる地獄絵図でした。

 国内3回目の被ばく(被爆ではなく被曝ですが)はフクシマでしたが、地震
国日本では、いつ4回目が起こるか分かりませんし、全国各地の原発がテロで
狙われることも、今後は可能性としてありそうです。

 いま世界では、イスラム国家、中南米諸国、ロシア、中国と米国と親しくな
い国のほうが多いのに、集団的自衛権で米国の戦争に駆り出されては、まき沿
いを食う可能性のほうが大きいと思うのですが、日本は沖縄以外に自国内で外
国と戦った経験がないせいか、危機感もいまいちのようです。前期高齢者の私
自身も戦争を知らない戦後生まれですから、平和ボケでしょうか。

 一時はエコノミックアニマルといわれた日本国民は、平和よりも金儲けの話
になると急に熱心になりますが、ちょうど今、3月決算会社の第1四半期(4
-6月)の業績発表が開始されはじめた時期に当たります。

 その発表で株価が急騰したり急落しているため、庶民投資家は一喜一憂とい
うところでしょうか。昨年は投資すれば誰でも儲けられる相場でしたが、今年
は儲けている人は少ないでしょう。

 脱線しましたが、いつもの会社法の話に戻しますと、この四半期決算は年次
決算ではなく正式なものではありません。したがって、4-6月に大きな利益
が出ても、また大きな損失が生じても、これは「期間損益」という損益計算書
上の損益であって、正式な年度決算の貸借対照表の「その他利益剰余金」では
ありませんから、利益の資本組入れも、損失の処理の対象にもなりません。拙
著で繰り返し説明していることですが、もう大丈夫ですか。


2014.08.06(水)【本箱必備本】(金子登志雄)

 月曜日は出版社の担当者と飲みました。拙著の出版が一段落したためです。

 彼の話によると、いまは書店の売行きよりもアマゾンなどのネット販売によ
る売行きのほうが多いそうです。書店のテリトリーは狭く、わざわざ足を運ば
ねばなりませんが、ネットは全国規模でパソコンの置かれた部屋の全部が売り
場ですから、こればかりは仕方ないことですね。

 出版社近くの大手書店にも立ち寄ってみましたが、その1つでは法律書の販
売を取り止めにしたようで、売り場がありませんでした。これも時代の流れで
しょうか。

 幸いにも拙著は発売したばかりのため、ネット販売での売行きは現時点では
まぁまぁの状況であり、たまにはアマゾンの会社法本売行きベストセラーの第
1位を占めることもありました。

 しかし、完全に3日天下でした。突然、大型台風が押し寄せてきたからです。
そう、江頭第5版の発売です。

http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/500196/ref=pd_zg_hrsr_b_1_5_last

 江頭本は体系書のため司法書士業務に直接役立つかどうかはともかく、この
本を持っていないと一人前の法律家とはいえないイメージがありますから、私
も改訂のつど購入してきました。著書に「江頭〔第何版〕何頁参照」などと書
く必要もあり、旧版の頁数ではまずいためです。

 このように、読む読まないは別として、本箱に置いてないと一人前の法律家
とはいえないといわれるような本を書いてみたいものです。


2014.08.05(火)【DNA鑑定と親子関係】(島根・根来川弘充)

 先日、DNA鑑定を有力な証拠とする親子関係不存在の訴えについて、最高
裁の判決が出されました。

 判決は複数ありましたが、いずれもDNA鑑定で親子関係が否定されても、
それだけでは、法律上の親子関係を否定できないという判決要旨でした。

 医学の進歩がすすみ、子の出生にも様々な形態が出てきています。民法が制
定された当初予想されなかったことなので、一刻も早く法整備が望まれるとは
思うのですが、今後さらに急激に進歩することも予想され、いたちごっこにな
ってしまうのではとも思います。

 もし最高裁が、親子関係が無かったことを認め、例外事例を増やしたならば、
今後、下級審の判決で、判断が分かれる判決を増やすことになり、混乱にもつ
ながると思われますので、今の法律により、一線を引いた今回の最高裁の判決
は、大いに意味があったことと思います。

 社会事実から法が成立するので、今の社会が法とかけ離れているのであれば、
新たな法律をつくる必要があると思いますが、一方で、法が理想とする社会を
考えることも重要かと思います。

 今回の判決は、いろいろな方向から考えさせられる判決でした。



2014.08.04(月)【会社法124条3項ただし書】
(金子登志雄)

 会社法124条3項に「株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の
2週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなけれ
ばならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるとき
は、この限りでない」とあります。

 このただし書につき、相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』187頁か
ら推測すると「定款に定めがあるときは公告する必要がない」というだけでな
く、「定款に定めた基準日までに2週間を空ける必要がない」という解釈にな
るはずですが、「当該定款の定めは、基準日の2週間前までに存在することが
必要である」との見解が判旨の1部として東京地裁から出ました(直近の商事
法務2039号17頁)。この見解だと、株式分割を1日でできなくなってし
まうが、どう思うかと電話質問を受けました。

 実は私も基準日というのは名義書換えをしていない実質株主に早く名義書換
えをしないと権利行使できないぞと知らせる機能を持った株主を固定化させる
制度ですから、これから定款で基準日を定める場合も2週間空けないとまずい
だろうと思ったこともありますが、法令解釈としては、以下の理由で東京地裁
説には無理があると思っています。

 1.ここは定款の効力の問題であり、明文がないのに、定款の定めの効力に
  条件や期限を付すのは妥当ではない。

 2.基準日は定めずともよく、定めたときに2週間前の公告が必要だとされ
  ているため、その中間領域(2週間を空けない基準日)があってもよいは
  ずである。

 3.東京地裁の考え方だと、3月30日に新設した株式会社の定款に定める
  定時株主総会の議決権の基準日が3月31日だとすると、この会社の第1
  回定時株主総会では議決権につき基準日を定めていたことにならないが、
  それでよいのか。

 いずれにしろ、この地裁の事案は種類株主総会の基準日につき公告もせず、
定款にも定めていなかったケースでしたし、地裁段階ですから、登記実務を左
右するほどの影響力はないでしょう。『論点解説 新・会社法』に従って問題
は生じないと考えます。


2014.08.01(金)【仮会計監査人が本会計監査人に】(金子登志雄)

 6月下旬から7月いっぱいは6月定時株主総会の結果を受けて役員の改選な
どの登記があり、商業登記の書き入れ時でしたが、残念ながら終わってしまい
ました。今日から暇なニッパチが始まります。

 この書き入れ時に「仮会計監査人A監査法人」を定時株主総会で正規の会計
監査人に選任する事案がありました。

 仮会計監査人がAであるのに、正規に会計監査人Bを選任し、Bの就任登記
をすれば仮会計監査人Aは退任の登記になると思った方も多いでしょうが、そ
うではなく登記所が仮会計監査人の登記を職権で抹消します(商登規則68条
1項)。申請ではAについて何もする必要がありません。

 しかし、「仮会計監査人A監査法人」が正規の会計監査人になったときは、
「重任」などの登記の可能性もあるのかなと思って調べましたら、上記のBに
なったときと何も変わりませんでした。

 「仮会計監査人A監査法人」の部分に抹消線が引かれ、順序どおり、その次
の枠に「会計検査人A監査法人」という登記がなされるのかと思っていました
が、実例をみると逆で、「会計検査人A監査法人」が「仮会計監査人A監査法
人」より前の枠に記録されていました。取締役が監査役より前の位置に登記さ
れるのと同様に、正規の会計監査人が仮会計監査人よりも前の位置に登記する
仕組みになっているようです。


2014.07.31(木)【持分会社と株式会社】(金子登志雄)

 毎日、すごい暑さですね。東京法務局に行きましたが、徒歩を避けて、タク
シー利用の人が多かったようです。私も同じです。タクシーの運転手さんと、
こんな暑い時期に6年後の東京オリンピックを開催したら、海外からのお客が
熱中症になり、日本に嫌な印象を持って帰るのではないかなどと雑談してしま
いましたが、本気でそう思います。

 さて、昨日ご紹介しましたとおり、会社法331条2項本文には、「株式会
社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない」と
あっても、株主自ら取締役になることが少なくありません。

 しかし、法人株主は自ら取締役になれません(331条1項1号)。そこで、
株主たる法人(会社)の役員や従業員が子会社の取締役・代表取締役に選任さ
れます。

 これに対して、合名・合資・合同という持分会社にあっては、社員自ら直営
ですから、法人も業務執行社員・代表社員になれます。しかし、肉体がないの
で、職務執行者という者を選任しその者に担当させます(598条)。

 実質的には似たようなものですが、株式会社の取締役は子会社の株主総会で
選ばれる間接統治形態であるのに対し、持分会社の職務執行者は親会社の取締
役会などで選任される直接統治形態という差があります。

 株式会社の親会社と子会社は、株式保有という赤い糸で結ばれているだけで、
株式の売却によって、いつでもこの糸を切断できるが、持分会社の親子関係は
親権者と未成年の同居の子の関係のように、不即不離で結ぶ糸の入り込む余地
がありません。

 こうして考えると、持分会社は個人事業あるいは個人間の共同事業に過ぎず、
株式会社のように独立した法人といえないような気がしませんか。民法上の組
合と独立法人との相違でしょうか。

 ここ数日、何となく持分会社と株式会社の相違のイメージが深化したような
気がしています。


2014.07.30(水)【所有と経営の分離】(金子登志雄)

 会社法331条2項に「株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を
定款で定めることができない。ただし、公開会社でない株式会社においては、
この限りでない」とあるのに対し、会社法590条1項には「社員は、定款に
別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」とあります。

 つまり、持分会社では、「企業所有者=経営者」が原則だが、株式会社では
「企業所有者≠経営者」であり、所有と経営は分離しています。

 ここまではよく知られた内容ですが、取締役は企業所有者から選ばれて経営
を委任される立場だから、そこに委任契約があり、選任行為と就任承諾行為と
いう2つの法律要件事実が必要だが、業務執行社員は法律上当然の地位であっ
て、原則として選任行為がないため、就任承諾も原則として必要ないというこ
とに気がつきました。

 会社法593条は会社と業務執行社員との関係を委任に準じた関係とみて善
管注意義務などを課していますが、これは共有者の一員として共有物の管理だ
からでしょう。

 言い換えれば、AB夫婦共有の自宅をAが管理するのは当然であり、管理者
になることに就任承諾は不要だが、AがAB夫婦から第三者の立場で管理を委
任された場合には就任承諾が必要だということのようです。

 持分会社の業務執行社員や代表社員は「当事者的地位」、取締役は「第三者
的地位」ということでしょうか。

 持分会社の仕事は私にはめったにないので、こんな基本中の基本に意識が及
ぶことが少なかったのですが、持分会社の仕事が多い同業者は、意識している
のでしょうか。


2014.07.29(火)【期間不明天下】(金子登志雄)

 取締役Aが7月31日24時に任期満了して退任という場合は、「平成26
年7月31日退任」という登記がなされ、同時に重任すると「平成26年8月
1日重任」という登記になります。

 日付が変わりますが、これは「終了(退任)は期間の末日だが、開始(重任
=就任)はその終了日の翌日である期間の始まりの日を登記する」ということ
でしょう。同様に、旧商法時代の減資、例えば資本金5000万円を1000
万円にする場合で、債権者異議申述公告の期間満了日が7月31日だったとす
ると、「8月1日変更」という登記になりました。7月31日時点では資本金
5000万円であり、資本金1000万円が開始したのは8月1日だからです。

 では、新株予約権の行使期間が7月31日(24時)までだったとすると、
この新株予約権の行使期間満了による抹消の登記の日付は、いつになるでしょ
うか。また、定款に定める会社の存続期間が7月31日までだとすると、この
存続期間満了による解散の登記の日付はいつになるでしょうか。

 上記の「終了の登記は期間末日、開始の登記はその翌日」という原則からす
ると、7月31日付のはずですが、登記実務では「8月1日行使期間の満了」、
「8月1日存続期間の満了による解散」とされています。

 しかし、上記の重任や減資の場合と相違し、これらには登記事項の「開始」
がありません。8月1日は新株予約権でないことの開始であり、清算の開始で
あって解散の開始ではありません。解散は登記事項でも、清算の開始は登記事
項ではありません。解散が8月1日なら清算事務年度の開始は8月2日だとで
もいうのでしょうか。

 いつからこういう誤った登記になったのか不明ですが、これはいまだに天下
取りをしています。本年1月末発売の「登記情報627号(2月号)」でこれ
を指摘しましたが、いつか改められる日が来ることでしょう。


2012.07.28(月)【50年天下】(金子登志雄)

 お約束どおり、50年間も天下取りをしていた悪玉解釈の紹介ですが、おそ
らく、どなたも私が何を題材にするかを予想できなかったことでしょう。

 昔むかし、監査役につきA1人の会社(取締役会設置会社)がありました。
Aは任期を1年残して辞任したたため、後任の補欠としてBを選任しました。
このBの任期は残り何年でしょうか。なお、当時の法律では、監査役の任期は
次のようになっていたとします(その後3年や4年に延期されましたが)。

-----------------------------------------------------------------------
旧商法第273条(監査役の任期)
 1 監査役の任期は就任後2年内の最終の決算期に関する定時総会の終結の
  時迄とす
 2 (略)
 3 前2項の規定は定款を以て任期の満了前に退任したる監査役の補欠とし
  て選任せられたる監査役の任期を退任したる監査役の任期の満了すべき時
  迄と為すことを妨げず
-----------------------------------------------------------------------

 Bは補欠として選任されたのだから、前任者Aの任期を引き継ぎ、あと1年
に決まっているじゃないかと思いませんでしたか。

 そのとおりです。昔は、正しくそう考えていました。しかし、昭和30年代
におかしな先例で出て、「補欠規定は全員の任期を同時に満了させるためのも
のだから、本件のように全員が辞任する場合には適用されない」とされ、Bの
任期は、新規の就任と同様にあと2年だとされてしまいました(昭36・8・
14民事甲2016号回答参照)。

 若い人は「うそだ~!」と思うかもしれませんが、ベテラン司法書士に聞い
てみてください。きっとベテランさんは、「オレもそう信じ込んでいた」と答
えることでしょう。

 登記とは別の場所からこの世界に入った私は、最初から、「この登記慣例は
おかしいぞ~」と思っていましたが、誰1人として私に賛同してくれる人はい
ませんでした。法務局に「それは慣例ですよね。商法の解釈ではなく」と尋ね
たときも、「いや、商法の正しい解釈ですよ」といわれる始末でした。

 補欠は前任者の任期を引き継ぐものであって、他の役員と任期を合わせるも
のは増員です。他の役員がいない場合は増員とはいいませんが補欠にはなり得
るのです。

 会社法が施行され、このおかしな解釈は否定され、昭和30年以前に戻りま
したが、不思議なのは、それ間の50年間、法務省の担当部門をはじめ誰一人
として、この解釈に疑問を抱かなかった点です。その世界にどっぷり漬かって
しまうと、こうなってしまうようです。

 このおかしな先例も会社法の施行という外圧がなければ未だに改められない
ままだったことでしょう。期限付解散の例をみても、自主的改革を期待するほ
うが無理なのかと悲観的になってしまいます。

 しかし、会社法及び登記をこよなく愛する私はそう思いたくないのです。奇
人変人扱いされても、おかしいものはおかしいと今後も言い続けることにしま
しょう。今日の少数派も明日の多数派になれるのですから。


2014.07.25(金)【10年天下】(金子登志雄)

 昨日は3日天下の話でしたから、今日は10年以上も天下取りをしていた悪
玉解釈の話題にしましょう。

 資本金1億円の会社Aが資本金1000万円の会社Bを吸収合併するときの
合併公告ですが(ABが完全親子関係であっても同じ)、昭和60年頃までと
平成9年以降は「AはBを合併しBは解散するが異議のある債権者は述べよ」
という合併公告内容ですが、昭和60年頃から平成9年までの間は「資本金の
合算額1億1000万円を1000万円減少するが、これにも異議がないか」
と「合併並びに資本減少公告」が必要だとされていました。

 実におかしなことですが、法務省の担当官が商事法務という雑誌に、合併と
は2つ以上の会社が1つになることだから、資本金も合算されるのであり、資
本金をそのままにしたければ同時に資本減少公告も必要だという論文を発表し
たために全国の法務局が「お上のお達しが出た」と右に倣えをしてしまったの
です。通達でもない単なる1論文なのに、です。

 たった1人の少数説の私見がその地位の力で全国を席巻してしまったわけで
すから驚きです。今度の期限付解散も事務連絡ですが同じようなもので、全国
の法務局も、不承不承、お上のお達しに従っているだけのようです。

 この悪玉解釈は平成9年の合併法制の改正で完全否定されました。こういう
法制の改正でもないと、非常識な解釈が改まらないという縦型社会も困ったも
のです。右か左かという思想の問題ではないのですから、もっと気楽に改めて
もよいと思うのですが、いかがでしょうか。

 ちなみに会社法立案担当者は軽いですよ。自分で作った法務省令を知らん顔
して改めてしまったことも何度かありました。

 会社法は、改めることを躊躇しない時代即応型の新興国であり、商業登記は
法令の変更や判例などの外圧でもない限り、決して改めない歴史のある重厚型
の守旧国家のごとくです。目まぐるしく社会が変化している今日、前者のほう
が支持を集めやすいといえるでしょう。

 月曜日はもっとすごい50年天下の話にしましょう。



2014.07.24(木)【登記における3日天下】(金子登志雄)

 NHKの軍師官兵衛は、中国大返しから光秀の3日天下の時期に入りそうで
すが、登記の先例にも3日天下だったものがいくつかあります。

1.会社を解散したら「株式を譲渡により取得するには【取締役会】の承認を
 得なければならない」も定款変更し登記申請しなければ解散登記は受け付け
 られないとする誤った取扱い(正しくは定款の文言が空振りするだけです)
 は、全国を不安に陥れましたが、1日天下もなかったようです。全国から反
 発の大返しがあったためです。私も無視して申請したものでした。

2.株主総会と普通株主の種類株主総会を共催した場合は議事録を分けねばな
 らないという回答も1日天下もなかったようです。それはそうでしょう。議
 事録の作成法まで干渉する権限は法務局にはないからです。他の法務局から
 も異論が出て、天下取りはできませんでした。

3.新株予約権の1株当たりの行使価額を議事録に「平成○年6月各日の平均
 市場価額に1.05を乗じた価格」と決めていた場合は、この具体的価格が
 〇〇円と決まっても、算定方式のまま登記せよという回答は、数か月間天下
 を取りました。しかし、従前の取扱いに対する謀反は明らかでしたから、や
 はり全国から反発の大返しがあり、現在は旧に返っています。

 上記はいずれも大手法務局に人事異動があり、新登記官が張り切って出した
新取扱いですが(と推測しています)、いくら権限があっても、それが独裁的
かつ独善的決定であり、過去の取扱い例や法律の趣旨をじっくり検討した上で
の変更でない限り、支持されないことを表しています。支持されないどころか、
法的センスを疑われるようなことをしては権威が失墜するばかりでしょう。新
登記官さんは部下のベテラン職員さんの意見に耳を傾け、張り切りすぎないこ
とが重要です。

 さて、今日あたりから「事例で学ぶ会社法実務【設立から再編まで】」がぼ
ちぼち発売されます。上記についてもふれていますので、ぜひ参考にしてくだ
さい。
http://www.amazon.co.jp/%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%81%A7%E5%AD%A6%E3%81%B6%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%80%90%E8%A8%AD%E7%AB%8B%E3%81%8B%E3%82%89%E5%86%8D%E7%B7%A8%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%80%91-%E9%87%91%E5%AD%90-%E7%99%BB%E5%BF%97%E9%9B%84/dp/4502107611/ref=zg_bs_500196_7


2014.07.23(水)【選定・解職】(金子登志雄)

 本を書くときに、いつも迷うのが代表取締役につき「選任」とするか「選定」
とするかです。

 「選定」とは選ばれた者の中から更に選ぶことだとされていますから、「取
締役の中から代表取締役を定める」場合には素直に「選定」と書けるのですが、
最初から「各自代表」の場合には、選定行為がないじゃないかと抵抗があるわ
けです。

 それ以上に使いにくいのが「解職」です。代表取締役の解職とは一般にも使
わないため、書籍の多くは「解任」にとどめているのではないでしょうか。

 上場会社ではどうしているのかなとネット検索してみましたら、オリンパス
や川崎重工は「解職」、セイコーホールディングスは「解任」でした。意外に
使われているというよりも、会社法用語がそうなっているので、正式文書には
その用語を使ったまででしょう。

 いずれにしろ、各自代表は選定なのか解職なのか、いまだに分かりませんと
いいたいところでしたが、念のため、相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』
を調べましたら、「非取締役会設置会社における代表取締役の選【任】登記」
などとありましたから(288頁)、立法担当者は選定されない各自代表の場
合には「選任」を使っているようです。



2014.07.22(火)【代表取締役の定め方】(金子登志雄)

 3連休でしたが、いかがお過ごしでしたか。私は、することもなく退屈な日
々でした。ワークホリックのつもりはないのですが、無趣味人間のため、原稿
書(ネタ切れです)など集中するものがないと、どうも退屈でなりません。

 さて、会社法349条3項には「株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、
①定款、②定款の定めに基づく取締役の互選又は③株主総会の決議によって、
取締役の中から代表取締役を定めることができる」と3つの方法があることを
規定していますが、取締役会設置会社では、どんな方法があるでしょうか。

 1.取締役会………根拠は362条3項
 2.定款……………根拠は29条
 3.定款の定めに基づく株主総会………根拠は295条2項、29条

 これだけでしょうか。

 4.定款の定めに基づく種類株主総会………商登規則61条4項1号参照
 5.定款の定めに基づく取締役の互選………根拠は会社法29条

 この5も私は可能だと考えています。設立の段階ではこの方法です(47条
1項)。1との相違点は、会議を経る必要がないという点です。その他、定款
の定めに基づく取締役間でのくじ引きでも、最年長者にするでも違法とはいえ
ないでしょう。

 旧商法時代は、学説の多数が3を肯定していましたが、登記実務が否定説で
運用されていたため、いまだに設立時で定款の附則で定めることを除き、代表
取締役は取締役会以外では選定することができないと凝り固まった頭脳の持ち
主が多いのですが、会社法は選択肢を大幅に広げているのです。

 NHKの朝ドラではありませんが、「想像の翼を広げて」会社法に接し、時
代遅れといわれないようにしましょう。想像が創造に発展すれば、新先例を出
してもらえるようになります。


2014.07.18(金)【本年の出版】(金子登志雄)

 この7月には出版が重なりますので、上記トピックスの5のとおり整理して
おきました。普通は、たった2か月程度で4冊も出せるわけがないのですが、
いずれも改訂版か焼き直しでしたから出来たわけです。

 お客様や友人の中には、金子から例年どおり贈呈されると期待している方も
おられるでしょうが、改訂版なので、それはしていません。今回は、悪しから
ず、ご了承ください。

 上記の(4)には、会社法29条と会社法295条2項を利用したテクニッ
クを書いておきました。

 昨日もありましたが、非取締役会設置会社には新取締役が就任すると印鑑証
明を用意しなければならない面倒さがあります。これに対して取締役会設置会
社は、代表取締役の選定にも本店移転先の決定にも、いちいち取締役会を開催
しなければならないという面倒さがあります。

 しかし、後者であっても定款に「当会社の株主総会は、会社法第295条第
2項に基づき、代表取締役の選定のほか業務執行行為の全てにつき決議するこ
とができる」と定めてしまえば、株主総会の開催だけで済みます。

 その代わり、定款添付という面倒さがありますので、そう思ったときは、取
締役会を開催すればよいのです。株主総会でも取締役会でも決定することがで
きるので、私は、この手法は今年、相当流行るとみています。

 なぜ、流行るようになったのかは、代表取締役の予選などで登記所の対応が
厳しくなってきたので、民間が知恵を働かせた結果でしょう。皮肉なものです
ね。ご興味のある方は、(4)の発売をお待ちください。



2014.07.17(木)【期限付解散の事務連絡】
(金子登志雄)

 司法書士の手による「商業登記全書」第8巻がやっと出るようです。その
巻の編者である内藤司法書士のブログにも掲載されていました。

http://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/c7efe6f5d7c569176da6d45bfd84708b

 出版前ですが、昨日、中央経済の方とあった際に、みせてもらいました。
その6頁に、平成22年11月25日付の「期限付解散の決議に基づく登記
の申請(土手補佐官事務連絡)」が掲載されていました。2週間以上先の期
限付解散は認められないとしたものです。

 その最初の文章は「解散日を数箇月後の日とするいわゆる期限付解散決議
をした株式会社が当該決議に係る株主総会議事録を申請書に添付して解散の
登記を申請した場合、当該解散の登記は、することができる旨の見解が掲載
された書籍・雑誌(商業・法人登記300問(テイハン)310頁、月刊登
記情報570号59頁)を根拠として、当該解散の登記が可能ではないかと
の相談が幾つかの法務局にされています」が、認められないという内容です。

 さて、この文章で目の敵にされたテイハン300問や登記情報570号の
書き手は誰でしょうか。

 もうお分かりですね。商業法人登記総合研究5人委員会(神崎代表)を代
表して私が筆を執りました。

 旧商法時代から、無対価合併の可否など、さまざま登記の新先例に貢献し
てきましたが、私見が潰されたのは、これが初めてです。

 しかし、10年後になるか、20年後になるか分かりませんが、この問題
に関しては、いずれ必ず肯定されるという自信があります。現時点では注釈
会社法の平出見解(否定説)が大手をふるっていますが、否定説論者の方が
声が大きいというだけで、声なき声の多数派は当方側にあると信じています。
その証拠に、そういう登記申請が頻出したわけです。

 9か月先の合併による解散や会社を抜け殻とする吸収分割が期限までに何
の登記もせずに許容されていながら、1か月先の期限付解散は存続期間の登
記をしないのは不当だという論に説得力があるとは思えません。


2014.07.16(水)【各庁混雑比較】(金子登志雄)

 7月1日に申請した組織再編で2つの法務局に関わるものが、2週間以上
も経つのに、まだ終わっていません。単に「合併し解散」とか「………に分
割」と記録するだけのことですが、繁忙期のため、順番待ちのようです。

 われわれ司法書士の感覚だと、もっと早く終わってもよいと思えるのです
が、申請はプロの司法書士がするとは限りません。税理士さんや行政書士さ
んが本人申請を代行したり、純粋の本人申請があると、間違い登記が多いの
で、これらにも対応しなければなりません。時間がかかるのも無理ないこと
でしょう。

 お客様から「まだか、まだか」とせかされている司法書士も多いことでし
ょう。そこで、いかに全国的に混雑しているかを、大手法務局につき調べて
みました。下記のとおりです。

 7/15午後申請で一番早い7/18の完了予定日が高松、一番遅いのが
仙台の7/28でした。7/22は広島、7/23は名古屋、7/24が札
幌、東京、大阪で、7/25が福岡でした。

 会社数の多さや法務局の人員数で1日か2日の誤差がある程度で、全国的
に真夏日であることが分かります。しょうがないですね。


2014.07.15(火)【期限付解散とみなし定款変更】(金子登志雄)

 日本司法書士連合会の掲示板に「1か月先の期限付解散の可否」について
質問が載っていました。もちろん、なぜ認められないのかという自然な疑問
です。

 この問題につき、登記実務や江頭本では、解散の決議と定款変更の決議は
ともに株主総会の特別決議だから、2週間を超える期限付解散は存続期間の
定めを定款に設けたものとみなす考え方を採用しています。

 しかし、会社法になってからは、株式併合の場合も株式の消却の場合も自
動的に発行可能株式総数が減少するような解釈は一切認めておらず、改正会
社法においても、株式併合の際に発行可能株式総数の変更を定めた場合には、
これをもって「定款の変更をしたものとみなす」と、わざわざ明文をもって
定めています(新182条2項。その他「みなし廃止」として112条)。

 会社法は「AはA、BはB」という考え方であり、AとBとの関係につい
ては、勝手に解釈してはならず、明文なき限り、無関係という建付けです。

 にもかかわらず、登記実務の運用は、会社法に明文もないのに、定款の変
更をみなすもので、会社法の趣旨に反すると私は考えていますが、このあた
りに関しては、全く説明がなされていません。

 よく『実務相談株式会社法』も消極説だといわれますが、それは旧商法時
代の内容ですし、その書き手は、斉藤一道さんという当時宮崎地方法務局登
記部門登記相談官の方でした。つまり、登記実務の立場を述べたものに過ぎ
ません。

 期限付解散を決議したのに登記しないのは困るように主張してますが、数
か月後の合併解散であっても、登記がなされません。

 ぜひ、会社法立案担当者の意見を聞いてみたいものですが、残念ながら、
葉玉ブログにも、相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』にも載っていま
せん。この問題は、いつ解決に至るのでしょうか。この際、会社法解釈の担
当部門である法務省参事官室と商業登記を管轄する商事課でご協議のうえ、
早期に時代遅れの解釈・運用を改めてほしいものです。


2014.07.14(月)【親子本第2版も近々発売】(金子登志雄)

 アマゾンで「事例で学ぶ会社法実務【会社の計算編】」をみたら、まだ発
売もされていないのに、ご注文をいただいているようです。中身もみないで
注文してよいのかと心配になりましたが、信頼されているようで、うれしい
ことです。

 それ以上に驚いたのは、「親子兄弟会社の組織再編の実務〔第2版〕」が
予約受付中で、もう注文が入っているようです。

http://www.amazon.co.jp/%E8%A6%AA%E5%AD%90%E5%85%84%E5%BC%9F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AE%E7%B5%84%E7%B9%94%E5%86%8D%E7%B7%A8%E3%81%AE%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%80%90%E7%AC%AC2%E7%89%88%E3%80%91-%E9%87%91%E5%AD%90-%E7%99%BB%E5%BF%97%E9%9B%84/dp/4502107719/ref=pd_sim_sbs_b_1/378-4900906-5014137?ie=UTF8&refRID=0DGM8BBGHZVTB70JBSWN

 著者の私は、まだこの本の第2版の見本さえ手にしていないどころか、発
売予定日が7月19日であることも知りませんでした(単に私が聞こうとも
していなかっただけで出版社の責任ではありません)。

 情報化社会とはいえ、本人も知らないことがネット上に出ているなんて、
新鮮な驚きでした。すごいことですね。

 親子本の第2版は背景色を山吹色にしてもらいました。青系や緑系は、本
の背景色としてはイマイチなので、白系や黄色系、クリーム色系が個人的に
は好みですが、初版がそれだったので、今回は山吹色にしてもらいました。

 山吹色というと、女性の和服に多いのですが、時代劇では「小判」を指す
のか、先般のテレビ時代劇では、「あの奉行は山吹色がことのほか好きで」
などとやっていました。悪人が好きな色なのでしょうか。

 隠れて皆様に山吹色を送ることはできませんが、ぜひ、本屋で山吹色を手
にしてください。何せ「グループ再編のバイブル」ですから(中央経済さん
もうれしい標語をつけてくれたものです)。



2014.07.11(金)【書き入れ時が過ぎて】(金子登志雄)

 6月下旬からの登記の書き入れ時を振り返って、今回は意外に上書きミス
などの補正がないなと思っていました。登記簿などを紙で印刷し、それと照
らし合わせるなどの慎重なチェックをしていたからです。

 しかし、先日は登記完了後に登録免許税の過誤納に気づきました。上書き
ミスです。やはり、人間の行為では、こういうケアレスミスが避けがたいで
すね。簡単な役員変更登記でしたから、慎重にも慎重を重ねてと自分に言い
聞かせていても、無意識で、慎重さを欠くようです。

 その代わり、複雑な登記には、無意識に(?)慎重になりますから、ミス
は生じません。今回も、合併・吸収分割・商号変更………本店移転など6連
件再編がありましたが、まだ終わっていませんけれど、本店移転前登記所の
審査は無事に済みました。

 車の運転でいうと、くねくれした複雑な道だと事故を起こさないが、真っ
直ぐな道だと事故を起こすというのと同じですが、思い起こせば、初心者の
時は真っ直ぐな道でもおっかなびっくりの慎重運転でした。慣れの副作用と
いうことでしょうか。

 さて、お待たせしました。「事例で学ぶ会社法実務【会社の計算編】」が
やっとネットに登場しました(アマゾンにも登場しています)。

http://www.biz-book.jp/%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%81%A7%E5%AD%A6%E3%81%B6%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%80%88%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AE%E8%A8%88%E7%AE%97%E7%B7%A8%E3%80%89/isbn/978-4-502-10531-9

  協同組合本を購入し漏れた方は、ぜひどうぞ。通読せずとも、各事務所に
1冊は必要な本と思っています。


2014.07.10(木)【高校野球】(仙台・立花宏)

 先日、テレビを見ていたら、地元の高校野球地区予選会の結果を伝えてい
ました。

 もう、そんな季節になったのか、とテレビに見入っていたところ、ある高
校球児が涙をこらえることができず、泣き崩れている姿が映りました。最上
級生でしょうか。きっと残念な結果だったのでしょう。多くの高校球児にと
って、甲子園大会出場が目標であり、そして、甲子園から優勝旗を持ち帰る
のが夢なのだと思います。その目標や夢に向かい、一生懸命に打ち込んでき
たからこそ、涙を抑えることができなかったのでしょう。

 高校球児の中で栄冠をつかむことができるのは、ほんの一握りの人間だけ
です。多くの高校球児は、最上級生としての最後の試合に敗れた時、甲子園
大会への出場という目標への道が閉ざされ、高校野球の活動を終えることに
なります。泣き崩れていた高校球児にとって、高校野球での経験は、これか
らの人生でどのような意味を持つことになるのでしょうか。

 私も高校時代、野球ではありませんが、あるスポーツをやっていました。
最上級生として臨んだ最後の試合に敗れた時、やはり、なんともいえない虚
脱感におそわれました。しかし、本当につらかったのは、試合に敗れた翌日
からでした。もう、練習をする必要はありません。部活動に行く必要もあり
ません。目指すべき目標もなくなりました。何とも言えないさびしさだけが
残りました。

 大学に進学してからも、そのスポーツをやる気にはなれませんでした。再
びそのスポーツをプレーしたのは、社会人になってからでした。私が就職し
た会社の業界では、私がやっていたスポーツの対抗戦がありました。入社し
て少したったころ、会社の先輩が、私がそのスポーツをやっていたことを知
り、4年間のブランクがあるのを承知の上で、試合にでないかと誘ってくれ
たのです。

 4年間のブランクは大きかったと思います。思うようにはプレーできませ
んでした。しかし、久しぶりにするプレーはとても気持ちがよく、楽しいも
のでした。試合もなんとか、勝ち越すことができました。

 「すごいじゃないか!」と先輩は褒めてくださいました。あとで聞いた話
ですが、先輩は、入社したばかりの私が、あまり元気がなかったため、会社
でやっていけるかどうかを心配していたようです。なにか自信をつけさせた
い、という気持ちで、試合に誘ってくださったのだそうです。

 その試合に出たことがきっかけで、私は正式に会社のクラブに入りました。
そして、その後もたくさんの試合に出場し、会社の内外で、たくさんの友人
を得ることができました。

 あの、泣き崩れていた高校球児は、これからも野球を続けるのだろうか。
続けるにしても、続けないにしても、きっと、今までの経験はいつか役に立
つ。君にとって、今までの経験はとても大切な財産だよ。いつの間にか、私
はそんな言葉を、テレビの画面に語りかけていました。



2014.07.09(水)【登記中の追加申請】(金子登志雄)

 今日は司法書士にしか通じないネタですが、オンラインで登記を申請する
場合に、まずは「会社・法人情報」で対象のA社を探し出して、A社の情報
(商号・本店・法人番号)を取り込みますが、その際にA社が登記手続中だ
と、情報が取り込めません。さて、どうしましょう。

 昨日、これを初体験しました。過去にA社の登記をしたのが残っていたの
で、それを再利用して即座に申請しましたところ、申請直後に、同じ区内で
本店を移転していたことに気づき、あわてて取下げを申請いたしました。

 改めて、A社の登記を申請するため、正しい本店を入力するため、A社を
検索したら「登記手続き中」の表示です。自分で自分のクビを締めてしまい
ました。

 「これじゃ、今日中に登記申請できないじゃないか」とあせってしまい、
法務局に電話し、新しい申請をどうするのか尋ねましたら、丁寧に「登記・
供託オンライン申請システム操作サポートデスク」の電話を教えてくれたの
で、そこに電話し、方法を教わりました。

 何のことはない、「会社・法人情報」を利用せずに、直接、手入力して申
請するだけでした。

 いま、ある会社の吸収分割に関わっていますが、その会社は同時に3つの
吸収分割をしています。3つの承継会社ごとに司法書士が違いますが、最初
に申請したのは私でした。きっと、残り2名は「あれ、登記手続き中じゃな
いか。どうやって会社情報を取り込んで申請したらよいのか」とあせったこ
とでしょう。

 本欄閲覧の司法書士の方は、いつか同じ場面に遭遇するでしょうが、もう
大丈夫ですね。


2014.07.08(火)【1株6円25銭の配当金】(金子登志雄)

 上場会社では、定時株主総会が無事に終了すると、株主に期末配当金を支
払う手続がありますが、銀行振込みの手続をしていない株主には、「期末配
当金領収証」というものを送付し、それを持って郵便局で現金にする方法が
採用されています。

 私のところにきたそれには、1株当たりの配当金として6円25銭と記載
されていました。1000株の株主Aさんには税込みで6250円です。

 さて、1001株所有の株主Bさんには、6256円25銭という計算に
なりますが、この端数の25銭についてはどうすると思いますか。

 切り捨ててしまえ――25銭とはいえ、他人の財産にそんなことはできま
せん。

 切り上げてしまえ――決議済みの配当金総額が変化してしまいませんか。

 結論から言うと、切上げでBさんには、6257円を支払います。たった、
75銭ですから、株主平等原則を問題にするほどの金額でもありません。

 会社の経理上は、配当金総額はそのままにし、この追加額は雑損処理しま
す。75銭を得した株主が1万人いたとしても、7500円の雑損に過ぎま
せん。

 以上については、東京司法書士協同組合での本に書いたため、そのリニュ
ーアル版・中央経済社刊『事例で学ぶ会社法実務(設立から再編まで)』に
記載してあります。今月中には発売になるでしょう。『事例で学ぶ会社法実
務(会社の計算編)』は、来週には発売される見込みです。



2014.07.07(月)【可決?否決?】(金子登志雄)

 ある証券代行さんに教わったのですが、今年の上場会社の定時株主総会で、
非常に珍しい決議がありました。会社提案の取締役5名(ABCDE)選任
の件が可決した後に、株主提案の取締役2名(FG)選任の件を決議したと
ころ、FGも過半数の賛同を得たというのです。

 通常であれば、取締役はABCDEFG7名ということになりますが、こ
の会社の定款には、「取締役は、5名以内とする」と定めてありました。

 さて、どうするのかと思いましたら、賛成数の多い順にし、最終的にはA
BCDEが選任され、FGは否決ということになりました。調べましたとこ
ろ、5位は144,657票、6位は144,445票で、たった212票
の差でした。この会社の株価でいうと120万円弱ですから、1人の株主で
も結果を左右することができたわけです。

 こんなこともあるのですね。もし、定款の定めがなかったら、もし、1人
でも会社側の株主が議決権行使を怠っていたらと思うと、経営陣は冷や汗も
のだったでしょう。

 なお、上場会社に対する外国人の持株比率は、30%を超えたようです。
これじゃ、社外取締役を増やせという黒船の圧力に抗しきれませんね。その
圧力回避のため、監査等委員会設置会社に移行する上場会社も、私の当初の
見立てに反して増える見込みだそうです。勉強しなければ………。



2014.07.04(金)【解釈グレーゾーン】(金子登志雄)

 7月第1週となり、6月定時総会後の登記も山場を過ぎたようです。仕事大
好き人間の私としては、また退屈な日々が続きそうです。

 さて、司法書士なら誰でも、微妙な事例につき登記所と見解の相違で困った
ことがあるでしょう。そんなとき、多くの司法書士は、登記が遅れては困るた
め、不承不承、登記所に従うものですが、私は「全国の司法書士の代表」とい
う意識がありますから、そう簡単には引き下がりません。ましてや著作に書い
たことが否定されては、私の立場がありません。

 時には「司法書士生命をかけてもよい」とまでいい、頑張りますが、先例や
実例がない事案のときは、どうもやりにくくて仕方ありません。仮に、権威あ
る書籍の見解であっても、それは「〇〇の私見に過ぎない」といわれたら、不
毛の論争になってしまいます。

 グレーゾーンに関する登記所の言い分は「受理するという先例がないから応
じられない」であり、私の言い分は「ダメ(黒)だという先例がないから、純
粋に法律解釈をして白と思えるなら受理してよいはずだ」です。

 しかし、我々の交渉相手は、1事務官であったり1登記官です。彼らは行政
機関の一員として、全国に影響する新実例を作ってはいけないと思考しがちな
立場にあるため、そう無理もいえません。

 やはり大手法務局や登記を管轄する法務省と交渉し、新しい先例や実例を作
るのが商業登記の最先端を行く司法書士の役割でしょう。幸い、当業界一大勢
力の商業登記倶楽部主宰者の神崎満治郎先生はじめ登記所OBの方々も、現役
でご活躍中ですから、そのご意見も取り入れて、商業登記実務をさらに発展さ
せるため、頑張るしかないようです。



2014.07.03(木)【補欠の補欠】(金子登志雄)

 なぜか今年の仕事は監査役の任期満了退任が少なくありませんでした。そ
れも、昨年や今年に就任したばかりの監査役です。

 一見、任期中じゃないかと思いましたが、履歴事項をみると、平成22年
6月定時総会で監査役Aが重任したが、平成24年6月定時でAは辞任し補
欠としてBが就任したところ、今度はBが平成26年3月で辞任し、その補
欠としてCが就任していたので、Cが本年の定時総会で任期満了だというわ
けです。

 何年も上場会社の子会社の役員変更に従事してきましたが、補欠の補欠の
任期満了退任がいくつも集中したのは今年が初めてでした。

 昨日申請した事案は本店移転しているので、その新法務局にある登記簿で
は上記の過程がみえません。私は本店移転前の履歴事項で確認しましたが、
新登記所ではここまでしないでしょう。

 一瞬、サービスで本店移転前の閉鎖事項を添付してあげようかと思いまし
たが、株主総会議事録に「当社定款の定めによりCは本総会終結と同時に任
期満了退任するので」であったので、これでよしとしました。

 こういう事例が多いと、任期計算を勘違いしてしまう会社も多いことでし
ょうが、自己責任でよいのではないのでしょうか。仮に任期満了でなくとも、
退任を本人も認めていたなら、辞任が退任として登記されただけですから。


2014.07.02(水)【相続登記と電子メール】(島根・根来川弘充)

 不動産を相続する登記をする際、遺産分割協議書を作成するケースが、かな
りあります。その協議書には記名押印した法定相続人の印鑑証明書が必要にな
りますが、法定相続人の方で海外に住所を移転されている場合、印鑑証明書が
取得できないので、大使館または領事館で署名証明書と在留証明書をいただく
ことになります。(他にも方法がありますが、ここでは省略します。)

 このうち署名証明書ですが、遺産分割協議書に署名をし、その署名に認証を
いただくことになるので、遺産分割協議書を大使館または領事館に持参してい
ただかなければなりません。

 約10年前、初めて署名証明書が必要な相続登記の依頼を受けたのですが、
依頼を受けてから登記が完了するまでに、かなり時間がかかったことを覚えて
います。特に問題があった事案ではないのですが、海外の法定相続人の方とは、
日本にいる法定相続人を通じて、連絡をとっていただいたのですが、時間を時
差の問題で電話連絡をとる時間に制約ができたり、エアメールでの書類の往復
に、かなり日数を要したりしたためでした。

 つい昨今、久しぶりに署名証明書が必要な相続登記の依頼を受けました。
10年前と決定的に違うのは、電子メールが普及したことです。今回は、海外
におられる法定相続人の方とは、直接、電子メールでの打ち合わせが何度もで
き、また、遺産分割協議書もpdfファイルの形で送付できましたので、はじ
めて連絡をとってから約半月で、登記申請をすることができました。こちらか
ら郵送する費用も削減でき、時間と費用のコストを大きく削減ももちろんなの
ですが、電子メールでのやり取りが頻繁に出来たことに、大変便利さを感じま
した。こちらにおられる法定相続人の方より、より多く打ち合わせをしたかも
知れません。


2014.07.01(火)【学者VS実務家】(金子登志雄)

 会社法319条1項に「取締役又は株主が株主総会の目的である事項につい
て提案をした場合において、当該提案につき株主(略)の全員が書面………に
より同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議が
あったものとみなす」とあります。いわゆる書面決議です。

 これにつき会社法の大権威である江頭憲治郎著『株式会社法〔第4版〕』の
341頁には「書面決議は、本来会議を経た上で決議することを要するケース
につき、議事の省略を認めるものに過ざない。したがって、取締役会設置会社
において取締役が取締役会の決議を経ないで提案した場合には、決議取消事由
となる」とありますが、会社法立案担当者は「取締役会の決議は不要」と説明
しています(相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』487頁の表参照)。

 さて、あなたは、どちらの見解を支持しますか。

 私の場合でいうと、世間知らずの学生時代や若い頃は、学者の方が実務家よ
り深く研究していると錯覚していましたから、学者見解を優位にあると思った
ことでしょうが、今は、実務家には学者を超える人が多いことを知っています
ので、どちらかといえば実務家に肩入れしてしまいます。

 この問題については、原田司法書士のブログの連載が面白いので、ぜひみて
ください。
      http://shihoushoshi.main.jp/blog/

 そもそも会社法319条は、会議体ではありません。議論不要の各自同意方
式であって、極論すれば、提案者など誰だってかまいません。株主全員の同意
がポイントであって、これは組織変更の総株主の同意や、持分会社の社員全員
の同意と同じ方式です。

 非会議体方式で「議論して決議」したわけでないのに、「決議」取消事由に
なるなどあり得ないことですし、仮に該当するとしても、株主や取締役がそれ
を訴えるわけがありません。

 一部の顧問弁護士が江頭見解に立って、企業に取締役会を開催せずに提案し
た場合の会社法319条のリスクを説くのは、自らの世間知らずぶりをアピー
ルしているだけのように私には思えてしまいます。その原因は、その方は日常
的に企業法務に従事していないため、実務書を読んでいないからでしょう。実
務の定説を知らずに学者の権威に寄りかかっているとしたら恥ずかしいことで
す。



2014.06.30(月)【総会での代表者選定】
(金子登志雄)

 定時株主総会のピークである6月も最後の日になりました。商業登記書き入
れ時の山場が続いていますが、法務局もコンピュータ化に慣れたのか、登記の
出来上がりも数年前より早くなったようです。昔は、2週間も待たされたもの
でしたが………。

 定時株主総会による定例の人事異動以外に、6月30日付で代表者が取締役
を辞任し、7月1日付で新取締役及びその者を新代表取締役にしたいという事
案がいくつかありました。

 このような場合に、同族の中小企業であれば、7月1日に取締役会を開催し
新代表取締役を選定するのは容易ですが、上場会社の子会社のように取締役が
全国に散っている場合は、この方法は無理です。そこで各社とも取締役会の書
面決議などを工夫していましたが、私の提案で、定款で「株主総会で代表取締
役を選定することができる」と定め、それを実行した会社がいくつかありまし
た。もちろん、後任を選任する臨時株主総会は会社法319条の書面決議です。

 これであれば7月1日午前0時から新社長が就任するため、会社も喜んでい
ましたから、100%子会社のように、所有と経営が分離していない会社では、
メジャーな方法になることでしょう。


2014.06.27(金)【頻繁な役員改選】(金子登志雄)

 今週は、サッカーW杯一色でした。マスコミ上は、サッカーに関心を示さな
い者は非国民だという雰囲気でしたが、私の周囲では全く話題にも出ませんで
した。

 もう1つ、今週は3月決算会社の定時株主総会のピークの週でしたから、私
のところにも、役員改選登記の依頼が少なくありませんでした。

 そこで発見したのですが、上場会社及びその子会社では、監査役につき補欠
任期の者がほとんどだったということです。

 例えば、監査役ABのうち、Aが任期途中に辞任した場合の後任Cにつき、
私ならCの任期を満期の4年にすると思うのですが、上場会社やその子会社は
Aの任期を引き継ぐように決議していたということです。

 おそらく上場会社系は頻繁な人事異動を行うので、取締役や監査役について
も任期は短い方が好都合だという発想でしょう。子会社の役員には、親会社の
従業員を兼任している者が多いため、従業員の人事異動に合わせて子会社の役
員を改選しているのでしょう。

 最近は親会社に合わせて取締役の任期を1年にする会社も増えたように思い
ます。われわれ司法書士の感覚では、毎年、任期満了による役員改選の登記で
は登録免許税がもったいないじゃないかと思いますが、任期が2年であっても、
必ず定時株主総会の際に誰かが辞任していましたから、登録免許税の結果は同
じです。


2014.06.26(木)【一日一日を大切に】(仙台・立花宏)

 「僕たちは、一日一日をとても大切に生きているんだよ。」
 先日、発売になったばかりのDVD「風立ちぬ」(宮崎駿監督作品)を購入
し、視聴しました。映画館で公開された際は残念ながら見ていなかったので、
これが初見です。これから視聴される方もいらっしゃるでしょうから、ストー
リーについての詳細な紹介は避けたいと思います。ただ、個人的な感想として
は、とても印象深い、すばらしい作品だと思いました。冒頭の一文は、「風立
ちぬ」の中に出てきた、主人公のセリフのひとつです。

 「風立ちぬ」は大正末期から昭和初期の時代設定です。
 当時は、関東大震災後、金融恐慌、世界恐慌があり、そして、戦争に向かっ
ていくという時代でした。そのような時代背景の中、主人公が、美しい飛行機
を造りたいという自分の夢に向かい、まっすぐに歩んでゆく姿を描いたアニメ
ーションです。
 
 その頃の産業別人口構成をみると、日本は、当時の資本主義諸国の中では、
際立って第一次産業(農業等)の就業者数の比率が高かったようです。他の資
本主義諸国(アメリカ、ドイツ等、以下同じ)は第一次産業の就業者数の比率
が30%前後であったのに対し、日本のそれは55%程でした。農業国であっ
たといってよいでしょう。それに対し、第二次産業(工業等)の就業者数の比
率は、他の資本主義諸国が30%以上であったのに対し、日本は22%程でし
た。しかも、日本の第二次産業は、他の資本主義諸国と比較し、金属・機械工
業の比率が低く、繊維工業の比率が高いという構成でした。

 そのような状況の中、他の交通産業(自動車等)の国産化が遅かったのと比
べ、航空機産業の国産化は早かったようです。当時、自動車は輸入等に頼って
いました。それに対し、航空機産業については、陸海軍の要請に応えて、各企
業が1920年代には外国の模倣をしながら技術を習得し、1930年代には
技術的に自立し、そして、次第に世界水準の製品を製造するにいたったのだそ
うです(※)。

 「風立ちぬ」でも、企業が製造した航空機を、牛が引いて運ぶシーンがあっ
たのですが、こういった時代背景を象徴していたのかもしれません(舗装され
た道路が少なかったこともあるのかもしれません)。

 厳しい経済状況の中でも、列強に追いつこうと努力する人々の姿、そして、
主人公が自分の夢に向かってひたむきに歩んでいく姿がとても印象的でした。
自分の夢が、戦争の道具になることに迷いを覚えながら・・・。

 はたして、自分の夢はなんだろうか。私はその夢にむかって、一日一日を大
切に生きているだろうか。そして、その夢の先にあるものは何だろうか。そ
んなことを考えさせられました。

(※)参考資料 「概説日本経済史 近現代」(三和良一著)東京大学出版会


2014.06.25(水)【とばっちり】(金子登志雄)

 富田さん、「6か月経った今は、特に吸いたいと思わなくなり、また、人が
吸っていても気にならなくなりました」――、全く信じていませんので、まだ
まだ飲み会のお誘いは控えますね。

 最初から吸わない人は喫煙者に寛大ですが、こういう途中でやめた人が実に
うるさく、喫煙者を犯罪者か麻薬中毒者のように扱う傾向が高いといえます。
富田氏にも、その傾向が少し出始めたのかと心配になりました。
 
 今や喫煙者はアイヌやインデアンのような少数民族と同じく、へき地に追い
詰められており、肩身の狭い日々を送っていますが、先般の都議会でのセクハ
ラヤジについても私の年代は、とんだとばっちりを受けています。

 先日は少し酔いのまわった中年女性から、「金子さんの年代は、ヤジを飛ば
さなくても、オンナは家にいて子供を育てるのが仕事だと思っている年代よね。
オンナは男の前を歩いてはいけない、オンナは男に逆らってはいけないと思っ
ており、オンナに逆らわれると男のプライドが傷つけられたと思うのよね」と
ネチネチと絡まれてしまいました。まるで喫煙者と同じく、わが世代の存在自
体が社会悪かのようでした。

 こういう攻撃は、私よりもっと上の石原慎太郎さんの世代に向けてほしいと
思って聞いていましたが、酔っ払い相手でしたから、決して反論もせず、ノー
コメントに徹しました。やはり、天気の話と会社法の話がトラブルにならなく
てよさそうですね。次回から、また、話を戻しましょう。


2014.06.24(火)【タバコは必需品だった(過去形)??】(富田太郎)

 私が司法書士になった頃、「職業柄、タバコは司法書士の必需品だなぁ~」
と思ったことがあります。

 不動産取引の決済の時、書類確認後、融資の実行・抹消銀行の着金確認まで
時間がかかるため、「では、お開き~!」となるまで、待ち時間がかなりあり、
業者さん(不動産業者)が売主、買主などの場合は、喫煙者が多いのか、部屋
は「濛々たるタバコの煙の渦」になっていました。

 しかし、今や、決済場所である銀行などはタバコが吸えないことが多くなり、
そのような光景も過去の話となりつつあります・・・。

 さて、前置きが長くなりましたが、私、富田も本年1月8日付の本徒然で
「私的 禁煙宣言」に書いたとおり、昨年末から、禁煙を始めましたが、6か
月経過現在、何とか禁煙を継続中です♪

 思えば、好奇心から高校2年生の頃から喫煙をはじめ、それから38年!
当初、1箱150円だったマイルドセブン(現 メビウス)も、今や430円!
(禁煙中に、消費税値上がりにより410円から430円へ!)毎日、高価な
煙を吸っていたことになります・・・。

 禁煙中、辛かったのは、最初の1週間と3か月目でした
----------------------------------------------------------------------
◎《最初の1週間》
 頭がスポンジのようにスカスカになり、思考能力がゼロになる。ひたすら、
「タバコ吸いたい!」という思念のみが駆け巡る。
          ↓
 しかし、それを過ぎると、ニコチンが体から抜けたのか、気にならなくなっ
たのですが、-----------------------

◎《3か月目》
 またもやタバコが吸いたくなり、血眼になって事務所の押入れ、キャビネッ
トに1本ぐらいタバコが落ちていないか、1時間ぐらい探しました。幸か不幸
か・・1本も見つからず・・・(号泣)。
----------------------------------------------------------------------

 まさに、タバコは麻薬だと思いました・・・(汗)
6か月経った今は、特に吸いたいと思わなくなり、また、人が吸っていても気
にならなくなりました・・・(やれやれ)。

 この「人を魅了する♪タバコ」、歴史書を紐解くと、もともと、中央アメリ
カのマヤ族の風習で、コロンブスが第1回航海(1492年)からの帰国後、
ヨーロッパにタバコをもたらし、その100年後の1592年に、日本にも葉
タバコが伝わったそうです。

 秀吉・淀君などが喫煙者となり、あっという間に庶民にも広がり、タバコ伝
来?から15年後の、1607年、時の将軍「徳川秀忠」が日本で最初の禁煙
令を出しています。

 伝わってから15年目で禁煙令? もの凄い早さで、広まったことがわかり
ます。う~ん。まさにタバコは人を魅了する嗜好品だったことが分かります。

 禁煙6か月目、なんとか、このまま成功させたいものです。

PS。
 ちなみに我がESGでも、喫煙者はK先生(ヘビースモーカー)、Sさんぐ
らいかと思います。司法書士も今や、非喫煙者が多くなり、時代は変わりまし
た。


2014.06.23(月)【会社法の改正】(金子登志雄)

 会社法の改正が決まったようですね。日常の業務に関係する部分は少ないの
で、私の周囲の関心はイマイチのようですが、条文の分量が増え、国家試験の
受験生は気の毒です。

 さて、改正の目玉である監査等委員会設置会社を理解するには、その前に株
式会社には2系統があることを知っておくとよいでしょう。

 第1は、立法・行政・司法の三権分立型の監査役制度採用会社です。立法が
株主総会、行政が取締役、司法が監査役であり、相互に抑制しあう関係です。
取締役会と代表取締役は議院内閣制でしょうか。

 第2は、米国型の委員会設置会社です。監査役制度はなく、取締役を業務執
行担当取締役と社外取締役に分ける統治機構です。

 周知のとおり、日本の会社はドイツ系統で第1の型でしたが、統治機構の監
視を強化するため、監査役の任期を取締役より長くしたり、社外監査役を設け
たりで監査役機能を強化してまいりましたが、十分に機能してこなかったこと
から、平成14年の改正で委員会設置会社が日本に導入されました。会社法改
正案の監査等委員会設置会社も監査役を置けない会社ですから、第2類型に属
し、この改正の流れの中にあります。

 第1類型か、第2類型かは企業の選択に委ねればよいことですが、最悪なの
は、第1類型なのに社外取締役を増やせという会社法改正動向です。A型の血
液にB型を輸血するようなもので、うまく適合するのでしょうか。

 コンプライアンスや情報開示の面からみれば、冤罪・不祥事多発の日本の司
法機関よりも、民間上場会社のほうが余程厳しいといえます。欧米と比較して
足りないのは、日本がまだ民度を含めて本物の先進国ではないためでしょう。

 社外取締役の増強は、わが国の現状では、経営に疎い官僚やヤメ検の天下り
先を増やすだけに終わらないかと危惧してしまいますので、この際、社外取締
役には、コトをなぁなぁで済まさない外国人を選任したほうが効果が大きいの
ではないでしょうか。株主である外国のハゲタカから社外役員を迎え入れる度
胸ある会社はないものでしょうか。



2014.06.20(金)【単元株式の歴史】(金子登志雄)

 株式分割しても同時に単元株式で同率で議決権を制限すれば、議決権の個数
が増加しません。13日の本欄で「A種株式につき1株を2株に分割し、1単
元2株とすれば優先株式にする必要もありません」と書いたとおりです。

 これは上場会社が推進していた「1株を100分割、1単元100株」と全
く同じ手法であり、われわれの間では常識的知識ですが、昔を知らない若い方
(特に会社法だけで育った若手)は、単元株式については、どうも苦手なよう
です。

 そこで、単元株式の歴史について触れてみることにしました。

(第1期:額面5万円全盛時代)
 昭和56年商法大改正で額面株式の額面の最低額が5万円になりました。そ
れまでの額面50円会社(主に上場会社)や額面500円会社は、原則として
1単位(=1議決権)が5万円になるように、議決権につき1単位1000株
や1単位100株にすることができるようになりました。まさに「5万円にあ
らずんば株式にあらず」の思考でしたが、同時に、単位未満株に合わせて額面
5万円会社は端株制度(0.01単位まで)が設けられました。

  額面5万円未満・・・単位株制度
  額面5万円以上・・・端株制度

 単位株制度は純粋に議決権の個数の問題でしたが、端株制度は自益権の権利
も有する内容でした。

 ちなみに、現在の1単元の株式数は、会社法施行規則34条において、数に
おいて1000株以下とされているのは、額面50円会社の影響であり、率に
おいて発行済株式総数の200分の1以下でなければならないのは、旧・最低
資本金1000万円を最低額面5万円で除した値です。こういう歴史的背景が
あります。

(第2期:額面廃止)
 いわゆる金庫株大改正で平成13年10月から額面株式が廃止され、株式の
小口化が全面的に自由化されました。革命です。それまでは株式分割後も1株
5万円の純資産がなければ株式分割さえできないとされていたのに、大変革で
した。

 単位株は単元株と名称が変わり、全ての株式会社で定款で単元株式制度を採
用できるようになりました。定款で端株制度の廃止も可能になりました。

(第3期:会社法時代)
 会社法によって、端株制度と単元株式制度が統合され、新・単元株式制度が
設けられました。単元未満株式に自益権が認められるのはこのためです。

 現在、全ての上場会社に単元株式制度が強制されましたから、今後は「単元
株式制度採用会社=上場会社」というイメージが膨らむのではないでしょうか。


2014.06.19(木)【多忙という自覚症状】(金子登志雄)

 定時株主総会時期のためか、都市部の商業登記中心事務所は超多忙のようで、
ブログの更新も進んでいないようです。全く、うらやましい限りです。

 商業登記中心事務所の典型例である当事務所は、なぜ、書き入れ時の現在で
もヒマそうにしているのでしょうか。

 流行っていない事務所で仕事が少ない点が第1の理由ですが、それ以外でい
うと、仕事は事務所ではなく自宅で夜にしているからだと思います。完全な夜
行性動物になっており、日中はボーとしています。

 夜になると、メールの添付ファイルで来た総会招集通知案や定時総会議事録
案の相談やチェックに応えたり、代わりに議事録案を作成したりで、次々と仕
事を片付けます。好きな仕事で慣れていますから、平均的司法書士の数倍は早
いのですが、夜は営業時間の制限がないので、追いかけられているという自覚
はありません。必要なら、夜の3時や4時まででも頑張ります。

 仕事を先延ばしにすると忘れたり、期限を徒過するおそれがありますので、
「今日できる仕事は決して明日に回すな」を実践しており、すぐに依頼仕事を
片付け、その仕事のことは忘れます。

 それはよいことなんでしょうが、お客様から1週間後あたりに「あの増資の
件で質問」といわれても、何の増資だったか思い出せないこともしばしばあり
ます。そんなときは、自分では気づかなくても私もひょっとして忙しいのかな
と思ってしまいますが、自覚症状は全くありません。これは、きっと、幸せな
んでしょう。いや、老化現象でしょうか。


2014.06.18(水)【議決権行使書】(金子登志雄)

 旬ですね。3月決算上場会社の定時株主総会招集通知が何社か届きました。
ハガキ台の大きさの議決権行使書をみると、小さい文字ですが、実にうまく
出来ています。

 取締役候補者がABCD………と10名もいた場合に、会社法施行規則に
よると「2以上の役員等の選任に関する議案である場合」は「各候補者の選
任」につき、賛否を表示できるようにせよとありますから、10名の名前を
列挙するのかと思うでしょうが、一括して賛否の欄があり、その横あるいは
下に「次の候補者を除く」とあります。賛否の「賛」に〇をして、その欄に
Bと書けばBには反対となり、「否」に〇をしてBと書けばBには賛成とな
ります。

 賛否に反応せずそのまま送付すると、棄権扱いになるのでしょうか。小さ
い文字で「各議案につき賛否の表示をされない場合は、賛成の表示があった
ものとして取り扱います」などとあります。あれ「賛成の意思表示」ではな
く、なぜ「賛成の表示」なのだろうかと思いましたら、各証券代行(信託銀
行が多い)によって流儀が異なるようでした。

 面白いなと思ったのは、株主番号であり、8桁と9桁の会社がありました。
たぶん、証券代行の相違だと思います。9桁ということは、株主が10億人
直前まで大丈夫ということでしょうが、株を売った人の株主番号を欠番にし
たとしても、日本の人口から考えると、そこまでは必要ないのでは、と感じ
ました。

 早く欠番になりたいものです。こういう長期に売れない状況を「塩漬け」
といいます。


2014.06.17(火)【清算会社の監査役の任期】(金子登志雄)

 会社法480条2項には、「第336条【監査役の任期】の規定は、清算株
式会社の監査役については、適用しない」とあります。

 しかし、登記のバイブル本的存在の松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第
2版〕』509頁には、「清算手続中の監査役については、法律上の任期の上
限はないが、通常の会社は定款で任期を定めているため、当該定款の定めに従
い、監査役は退任する(監在役の任期に係る定款の定めが解散により当然に無
効となるとみることは、条文上困難に思われ、会社の定款自治に属する事項と
して、会社の意思により監査役の任期を無期限とすることができるものと解す
るのが穏当ではなかろうか。実務相談5・426頁参照)」とありました。

 これにつき、司法書士連合会の掲示板で「解散前からの監査役は清算中に任
期切れするのか」について議論されていました。

 私は次のように意見を表明しました(要約です)。
----------------------------------------------------------------------
 恥ずかしながら松井見解(任期の適用有)を知りませんでしたが、私は下記
の理由で反対です。
1.監査役の任期は「事業年度」基準なのに対し、清算株式会社には事業年度
 がなく、「清算事務年度」である。任期計算ができない。
2.「(事業)株式会社」の監査役と「清算株式会社」の監査役は別のもの。
3.会社法480条2項により、会社法336条を根拠にした定款の任期伸長
 規定も当然に適用されない。
4.商事法務刊「実務相談」は機関構成の変化に無頓着な旧商法時代の解釈で
 あり、会社法下では前提とすべきではない。
5.任期切れがあるなら、清算結了や会社継続の際に、監査役の登記漏れ過料
 を科せられる会社が増え、好ましくない。
----------------------------------------------------------------------

 その後、ESGの富田氏から、小川・相澤編著『通達準拠/会社法と商業登
記』257頁に「旧商法では、………清算会社の監査役であっても、営業活動
中における監査役と同様に、任期満了によって登記事項に変更を生じた場合に
は、その旨の変更登記を要するとされていた。これに対し、会社法では、……
…監査役の任期は、清算会社の監査役については適用されない」(要約です)
と記載されていると連絡がありました。

 通達作成者の松井氏と通達準拠本と見解が相違するとは面白い現象ですが、
どうも、この論点は後者の内容で決着済みのようです。


2014.06.16(月)【代表取締役の予選関連4】(金子登志雄)

 法人である「事業協同組合」の代表理事の予選は、業界がそれを雛形として
公表しているという情報がありましたので、ネットで調べましたら、下記がヒ
ットしました。

  http://www.chuokai-niigata.or.jp/syosiki/pdf/272.pdf#search=

 上記の最後の部分に次のような注記があります。
---------------------------------------------------------------------
(注)総会における役員選挙の結果、当選した理事が旧理事と異なることにな
った場合、総会を中断して理事会を開催し、代表理事の予選を行うことはでき
ません。総会が終結した後、理事会を開催し、代表理事を選定しなければなり
ません。
----------------------------------------------------------------------

 総会で理事予選の決議が済んだら、総会を中断し代表理事を予選してよいが
理事の全員が重任の場合に限るということのようです。

 もうお分かりのとおり、この注記は、代表取締役の予選に関する昭和41年
先例を前提にしたものでしょうが、確かにこの先例は取締役重任予選者が代表
取締役を予選した事例でしたが、一部でも就任予選の新役員が含まれていた場
合には不可だとまでは一言も述べていません。

 たまたまそういう事例であって、それに回答しただけなのに、勝手に余計な
条件を付け加えるのはいかがなものでしょうか。 

 先例の紹介には、こういう独自の解釈が多すぎるように思っています。その
ように解釈するのは勝手ですが、その解釈を公表するなら、他にも影響するこ
とですから、なぜいまだ役員にもなっていないのに、重任予選はよくて就任予
選は不可なのかを納得できるように説明すべきではないでしょうか。

 期限付き解散の3日先の解散は受理できるという昭和34年先例についても、
1か月後や3か月後はだめだとは一言も書いてないのに、いつしか2週間後は
不可とされてしまいました。これについては、その後、一応の説明がなされて
いますが、これを含め、先例というのは必ずその背景事情がありますから、勝
手に背景事情を拡大し、これもだめ、あれもだめとする解釈は大いに問題があ
ると感じています。法律解釈の王道に反しています。



2014.06.13(金)【配当「優遇」株式?】
(金子登志雄)

 「A種株式には普通株式の2倍を配当する」という優先株式を定めたいとい
う相談を受けました。今年、2回ほど質問を受けたように思います。

 定めることはもちろん可能ですが、こういうのは伝統的な配当「優先」株式
とはいえません。

 配当優先というのは、先取特権のようなもので、配当する財産が1000だ
とすれば、そのうち200を優先的に取得し(先取りし)、残りの800につ
いても参加できるものを参加的優先株式、参加できないものを非参加的優先株
式といいます。200を配当されないときに、翌年に繰り越すのが累積的、繰
り越さないのが非累積的優先株というものです。

 ところが、質問された案は、配当率では優遇されていても先取りする優先部
分がありません。金額が確定していないので、配当されない場合に翌年に繰り
越す累積的定めも不可能です。

 A種株式につき1株を2株に分割し、1単元2株とすれば優先株式にする必
要もありません。やはり、こういう配当「優遇」株式の定めは避けるべきでは
ないでしょうか。



2014.06.12(木)【代表取締役の予選関連3】(金子登志雄)

 代表取締役の予選がなぜ生じるかは、実際に会社の総務部員などの立場で議
事録案でも作成してみるとよく分かります。

 例えば、募集株式の発行の議事録案を作る際に、「臨時総会招集のための取
締役会開催→臨時株主総会→募集株式割当ての取締役会」では取締役会が2度
手間なので、総会招集のための取締役会の段階で条件付きで割当決議をしてし
まおうと考えるのが通常です。

 同様に、「定時総会招集のための取締役会開催→定時株主総会→代表取締役
の選定取締役会」………、こんな議事録案を作っていると、なぜ、取締役会を
2回も開催しなかればならないのか、総会招集を決定する取締役会の段階で条
件付きで代表取締役を選定しまえばよいではないかと思ってしまうものです。

また、本欄閲覧の非法律家の方は同意してくれると思いますが、誰にも迷惑
がかからないし、実に効率的なアイデアなのに、なぜ金曜日の事案がいけない
のかと不思議に感じていることでしょう。

 私もそう思っています。会社法というのは会社に関係する株主や債権者・取
引先らの利害を調整する規律であって、利害調整の必要がない事案は肯定する
のが正しい法律家の姿勢です。

 ところが、車が全く走っていない無人島でも赤信号のときは信号を渡っては
いけないと幼い子供を指導するように融通の利かない真面目人間(?)が公務
員には多いのです。愚かな民とそれを指導するお上という構図でしょうか。

 昔、著書に「法律(規制)の役割を考えよ。無人島だったら赤信号は無視し
てもよいのだ」と書きましたら、出版社の校正者から「無人島には信号があり
ませんが、この記載はどうしましょうか」と揚げ足をとられてしまいました。
民間でこういう内ゲバをしているからいけないところもありますね。

 不利益を被る人がいない限り、よきに計らえ――法律以前の自然法です。


2014.06.11(水)【キャッシュアウト法制】(金子登志雄)

 合併等対価の柔軟化で吸収合併や株式交換でも現金を対価にすることが可
能になっていますが、現実には、効力発生日に支払われる例はほとんどあり
ません。

 これでは、効力発生日までに全てが完了していないので効力が発生してい
ないというべきではないかと思われるでしょうが、「速やかなる現金交付請
求権」という請求権が対価だと考えれば完了しています。

 では、みなさん、効力発生日が過ぎて何日経っても支払われなかったら、
多数決で株をとられた(?)少数株主はどう対応すべきだと思いますか。

 民法では、同時履行の抗弁権といって、相手が金を支払わない限り、こち
らも株を渡す必要がありません。しかし、会社法では、そのような規定もな
く、先に株の権利が相手に行ってしまいます。

 反対株主の買取請求もそうです。効力発生日に株の権利は会社に渡ってし
まったのに、会社が一向に代金を払ってこない可能性もあります。

 もっとも、以上は、会社と株主との関係ですし、相手会社の支払い能力も
情報開示されていますから、支払われない可能性は少ないでしょう。そのた
め、いままで問題視されることもありませんでした。

 ところが、個人を含む大株主からの売渡し請求の場合には、この可能性が
高くなります。そう、会社法改正案の特別支配株主からの売渡請求のケース
です。

 もうご存知の方も多いでしょうが、参議院の会社法改正の審議で野党の小
川元法務大臣がこの点を追及したところ、政府側も「支払われない場合は契
約解除もあり得る」などという素人目にもおかしな答弁をし、しどろもどろ
でした。個別取引ではないのに契約解除とは………。

 というわけで会社法改正案の行く末が不透明になってしまいました。たぶ
ん、法務省令で対策することで政府側は逃げ切ると想像しますが、キャッシ
ュアウトに関する支払保証制度が今後の会社法改正あるいは法務省令の改正
の大きなテーマとなることは間違いなさそうです。


2014.06.10(火)【代表取締役の予選関連2】(金子登志雄)

 先週の金曜日の話題にこだわっていますが、増員見込みの取締役が加わった
次期取締役で構成される取締役会で次期代表取締役の予選が可能かについて、
どうやって登記所に分かってもらおうかとさまざま検討しているのですが、何
か妙案はありませんか。

 設立手続だって、会社が成立前に代表取締役を選定しているじゃないか――
この論は通じにくいでしょう。登記を効力要件とする設立、新設型再編、特例
有限会社の株式会社への移行では、登記前には取締役会が法律上の概念として
も存在しないとされているからです。設立を条件にすればよさそうにも思いま
すが、ここまで緩和した解釈はないようです。

 通常の株式会社で、取締役全員が任期満了退任する定時株主総会の終結を跨
ぐ場合は、今期取締役で構成される取締役会と次期取締役で構成される取締役
会の差はあっても、取締役会が存在する株式会社を前提とした議論です。

 ここで、今期取締役しか取締役に出席できないのは当然ではないかと考える
と、増員取締役は出席の余地がありません。しかし、昭和41年先例などの趣
旨は、次期取締役候補が全員出席することに重点を置いており、今期取締役で
あることに主眼があるとは思えません。

 設立との対比でいうと、ここは定時株主総会という「効力発生日」の前に効
力発生日現在の取締役が効力発生日前に代表取締役を予選しても、そのままメ
ンバーが変更せずに効力発生日が到来した場合は、これを認めてよいかの問題
です。

 付属中学の3年生のクラスが高校1年生のクラス替え案が決まった後に、ク
ラス委員長を予選するのはだめだが(設立や移行の場合)、中学2年生のクラ
スが中学3年生のクラス編成案が決まった後に、クラス全員が集まって3年生
時の委員長を予選しても、そのとおりクラス編成が実行されれば、これを認め
てよいというのが先例の趣旨だと私は思っているですが・・・。


2014.06.09(月)【出版予告と不安】(金子登志雄)

 土日は相変わらず著書の校正三昧でした。会社法が変わるだけでなく、会計
基準も一部改正がありますので、それにも対応しなければなりません。つくづ
く改訂不要の小説家がうらやましくなります。部数も当方の実務書は数千部が
限度なのに、万人を対象とする小説は売れれば数十万部の世界です。NHK朝
ドラ(モデルは赤毛のアンの翻訳者)をみながら、私も童話作家に転身しよう
かななどと思ってしまいます。

 さて、今年の出版は下記を予定しています。

1.『「会社法」法令集』第10版………既に販売中
2.『募集株式と種類株式の実務』第2版………既に販売中
3.仮題:『事例で学ぶ会社法実務〔会社計算編〕』………7月初旬予定
4.仮題:『事例で学ぶ会社法実務』………7月中旬予定
5.『親子兄弟会社の組織再編の実務』第2版………7月中・下旬予定

 3・4は東京司法書士協同組合から司法書士向けに出版した3冊の焼き直し
ですが、中央経済社のお力で非司法書士にも販売する目的で組合編で出版いた
します(4には新しい論点も盛り込みました)。

 ということで、いずれも改訂版のようなものですが、初版で終わる作品が多
い中、改訂版が出せるということは、著者としてはこの上ない喜びです。

 しかし、出版したら出版したで大きな不安があります。中央経済社での最初
の作品『これが新商法だ!これが新登記だ!』の出版の際に、共著者とともに
「印税はいらぬ。全部本をくれ」といい、初版が売れ残り在庫の山となり出版
社に迷惑をかけないことだけを強く願った初心はいまも決して忘れていません。
改訂版が在庫の山になりませんように………。


2014.06.06(金)【代表取締役の予選関連】(金子登志雄)

 昨日は、私が雑誌「登記情報」に下記などの代表取締役の予選について投稿
していることも知らない地方の司法書士さんから問い合わせを受けました。

----------------------------------------------------------------------
 Q:3月決算で取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社(甲)に
おいて、6月1日の決算承認取締役会において、きたる6月28日付定時株主
総会の終結時にABC全員が任期満了し退任するため、ABC全員を重任させ
ることとし、同時に、重任後の代表取締役としてAを予選した。
 さて、6月28日の定時株主総会で予定どおりABCを取締役に再選し全員
が重任したが、Aの代表取締役就任登記も無事に受理されるか。
----------------------------------------------------------------------

 質問内容は上記の例でいうと、取締役候補に増員のDEがおり、6月1日の
取締役会で、ABCDEで次期代表取締役を予選したが、問題ないでしょうね
という確認でした。皆様はどうお考えですか。

 先例や肯定されている例は、「再選」条件付き代表取締役の予選であって、
増員という再選でない者が加わっていては無理だろうと思う方が多いと想像し
ますが、再選も「退任+新規選任」ですから、法律論からしたら、肯定すべき
だと思います。予選時とその効力発生時である総会時と構成メンバーも変わり
ません。

 再選を前提とした場合はABC出席の正式な取締役会といえるが、ここにD
Eが加わったら正式な取締役会といえないとの主張も考えられますが、前者で
あっても、まだ議決権のないことを議決しているのであって、ABCとDEの
身分に差があるとは思えません。ともに次期の取締役候補者にすぎません。

 ただ、ここに何度も書いていますが、法務局は行政官庁の1つでもあり、裁
判所と違い個別案件ごとに融通を利かせることが困難で、先例のないことには
拒否反応を示すところがありますから、円滑に登記受理になるかどうかは不明
です。私が登記官なら、もちろん受理します。


2014.06.05(木)【計算本のニーズ】(金子登志雄)

 昨日は、「会社の計算」本の最後の校正が終わり、出版社の中央経済社に
渡しました。順調に行けば7月初旬頃には出版することができると思います
ので、もうしばらくお待ちください。たぶん、書名は「事例でみる会社法実
務〔会社の計算〕」あたりに落ち着くと思います。

 この本は、東京司法書士協同組合から出した本とほぼ同一内容ですが、評
判が広がったか、最近になって、弁護士事務所や証券会社から、著者の私な
ら1冊くらい持っているだろうとの問い合わせがいくつかありました(私も
自分用の1冊しか持っていません)。

 不思議に税務会計事務所からの問い合わせはありません。現場の会計実務
家は税制適格かどうかしか関心がなく、会計処理に関心が薄いようです。

 したがって、合併の会計処理などは、司法書士の方が町の税理士より詳し
い状況であり、「会社の顧問税理士がこう言っているが、どう思うか」とい
う司法書士からの問い合わせが少なくありません。会社の計算に関心がなく
とも「会社計算規則」は会社法の一部という意識が司法書士にはあるので、
司法書士はそれを無視することができないのでしょう。

 弁護士や証券会社は上場企業に対してコンサルティングをする関係で、会
計のことを知りたいようです。幸か不幸か、素人向けの会社計算規則の解説
本がほとんどありません。

 会計のド素人である私が書いた計算本にニーズがあるとは、私自身もびっ
くりですが、非専門家と同じ目線で書いているのがよかったのでしょうか。
いずれにしろ、私の手から離れました。あと1か月お待ちください。


2014.06.04(水)【定款の工夫1(商号)】(金子登志雄)

 会社の設立の定款案などをみせられる機会が多いのですが、素人作成のも
のは論外として、司法書士の作成するものも、あまりに既存書式のマネが多
すぎるように感じます。これでは、臨機応変の対応の頭脳の訓練になりませ
ん。私は、習性として、相手次第でさまざま変化させます。

 そこで、定款ネタにしますが、今日は定款第1条(商号)を取り上げます。

 定款第1条は、ほとんど全部が「当会社は、〇〇〇株式会社と称する」で
すが、「当会社の商号は、〇〇〇株式会社とする」や「当会社は、〇〇〇株
式会社と名乗る」が、なぜないのか不思議でなりません。

 山梨県甲府の会社であったら、「オラ達の会社のことは、〇〇〇株式会社
と呼んでくりょう」でもいいのではないでしょうか(NHK朝ドラを視聴し
ていない人には通じませんね)。

 その後に、「英文では………」と続くことも多いのですが、先般は「英語
では」となっていたので、珍しいなと思いました。ドイツ語では、フランス
語では………は、まだお目にかかったことがありません。

 末尾は、「Co., Ltd.」「Inc.」「Corporation」と
いろいろありますが、日本社名と英文社名の一致は必要ありません。合併前
の新日本製鐵は、NIPPON STEEL CORPORATIONでした。

 株式会社の位置は、「アト株」が多いようです。「AB株式会社」であれ
ば、社名を聞かれたときに、「ABです」といえても、「株式会社AB」だ
と、マエの部分を省略して「ABです」といいにくいからでしょうか。


2014.06.03(火)【憲法9条とノーベル平和賞】(島根・根来川弘充)

 先日、「憲法9条を守ってきた日本国民にノーベル平和賞を」という運動を
テレビで見ました。

 もともと一主婦の発案なのだそうですが、その受賞には現実性が出てきてお
り、もし、受賞した場合、憲法9条改正に積極的な安部総理が国民の代表にな
るのでは、などと憶測もでているそうです。

 「日本国民が受賞ということは、私自身も受賞者になれるのか」と思います
と、ノーベル賞を身近に感じてうれしいところはあるのですが、ただ、不安な
ところもあります。

 それは、平和賞受賞者が、戦争を引き起こしている例が過去にあることです。
旧ソビエト連邦のゴルバチョフ初代大統領や、アメリカのオバマ大統領は、受
賞後に他国に軍隊を派遣しました。

 もっとも、そうでない受賞者も多数おられるので、例外かもしれません。た
だ万が一にも、将来、日本が平和をおびやかすことが将来あるのであれば、受
賞したことを後悔することになる気がします。

 重大な責任を隠すように「受賞」という言葉だけが、一人歩きにならないよ
うになってほしいと思います。


2014.06.02(月)【校正】(金子登志雄)

 土日はこれから出す著書の校正三昧でした。事前に出版社のエディターチェ
ックがあるのですが、この頁は「数か月」なのに、この頁は「数ヶ月」になっ
ているとか、「もって」と「持って」、「おります」と「います」、「致しま
す」と「いたします」と「します」、「過ぎる」と「すぎる」が、何頁と何頁
で違っているなどの指摘のほか、「一人」ではなく「1人」だとか、引用文だ
ろうがおかまいなしに細かい点を散々指摘され、少々、辟易気味です。

 「行く」も「いく」にされましたが、これは無視しました。不思議に「いう」
と「言う」は、ほとんど指摘されませんでした。エディターさんにも個性があ
るものです。

 しかし、こういうことにこだわることは必要です。定款で、「及び」と「お
よび」、「又は」と「または」が無秩序に混在していることがよくありますが、
度を過ぎるとみっともない定款になります。

 上場会社では、いま定時株主総会招集通知の文案の校正中でしょう。エディ
ターチェック以外に気になるのは、「当期のわが国経済は………」で始まる文
章でアベノミクスにどう触れるかがが悩みの種ではないでしょうか。

 アベノミクスに賛意を示せば、反安倍の株主の反発があるでしょうし、触れ
ないわけにも行かずで、いかに誰からも反発されない表現をするかが招集通知
担当者の腕の見せ所でしょうか。

 なお、6月1日より当事務所所在のビル名が野村不動産神田小川町ビルから
常和神田小川町ビルに変わりました。常和はジョウワと読みます。常和ホール
ディングスという上場会社がありますが、その系列です。今後はビル名が変更
せずに常に平和でありたいものです。


2014.05.30(金)【拙稿紹介】(金子登志雄)

 上記トピックスの6のとおり、「登記情報」に拙稿「代表取締役の予選」が
掲載されましたので、ぜひ、ご覧ください。

 次の3つのQに回答しています。
----------------------------------------------------------------------
Q1:取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社(甲)において、親
 会社の意向でAは甲の取締役を事業年度末日の3月31日付で辞任すること
 になった。そこで、甲は、3月20日の取締役会において、取締役Bを4月
 1日付で代表取締役に予選するとともに、3月29日に臨時株主総会を招集
 し、Dを4月1日付でAの後任として取締役に選任した。さて、予選決議時
 点の取締役はABC、代表取締役就任時点の取締役はBCDという構成にな
 ったが、Bの代表取締役の就任は認められるか。
----------------------------------------------------------------------
Q2:3月決算で取締役ABC(代表取締役A)の取締役会設置会社(甲)に
 おいて、6月1日の決算承認取締役会において、きたる6月28日付定時株
 主総会の終結時にABC全員が任期満了し退任するため、ABC全員を重任
 させることとし、同時に、重任後の代表取締役としてAを予選した。さて、
 6月28日の定時株主総会で予定どおりABCを取締役に再選し全員が重任
 したが、Aの代表取締役就任登記も無事に受理されるか。
----------------------------------------------------------------------
Q3:Q1の事例で、Bではなく、3月下旬の臨時株主総会で選任するDをA
 の後任として4月1日付で取締役及び代表取締役にしたいが、4月1日に取
 締役会の開催が困難の場合に、どのような方法があるか。
----------------------------------------------------------------------

 Q1は、いまホットな問題です。Q2は、先例があると思い込んでいる方が
多いのですが、その昭和41年先例は事案が違います。Q3は、今後、徐々に
流行っていくであろう方式を紹介しました。


2014.05.29(木)【ホヤ】(仙台・立花宏)

 先日、友人に誘われ、久しぶりに国分町に出かけました。国分町は仙台の最
大の歓楽街です。あまり人付き合いの良くない私にとっては、どちらかという
と縁のない場所といえるかもしれません。

 東日本大震災のあと、仙台には、全国から多くの方が震災からの復興のため
に応援に来てくださっています。その影響もあり、仙台は景気が上向いている
といわれています。久しぶりに見た国分町は多くの人々が往来し、とてもにぎ
わっているように感じました。

 待ち合わせのお店に入ると、友人は先に到着していました。
「おう、久しぶり。待たせてしまったかな。スマン」
「いや、俺も今、来たばかりさ。ちょうどよかったよ。飲み物は生ビールでい
いか?」

 そんなやりとりをしながら、飲み物と2、3のつまみを注文しました。
「最近、不動産登記の依頼も多いし、会社の登記も少し増えているかな。設立
登記とか」

 司法書士である友人との会話なので、仕事の話題が多くなります。
「そうだな。たしかに、設立登記の依頼を受けることが増えたような気がする」

 実際、仙台では、設立の登記も増えているようです。法務省のHPで統計を
みてみたところ、仙台法務局管内(宮城県内)における株式会社の設立登記の
件数は、平成22年には1,071件でしたが、平成24年には1,545件
と、約1.5倍に増えています。

 全国の合計をみると、平成22年には80,535件であったのに対し、平
成24年は80,862件でほぼ横ばいでした。それとくらべると、仙台法務
局管内(宮城県内)の設立登記の件数は、増加傾向にあることがうかがわれま
す。

「でも、依頼を受けるのは、仙台の中心部の案件がほとんどかな。沿岸部の市
町村はどうなのだろう」

 友人も私も仙台の中心部で仕事をしています。沿岸部の市町村の案件を受任
することは多くはありません。しかし、東日本大震災の際、津波で被害を受け
た沿岸部の市町村では、まだまだ、仙台の中心部と比べて復興も進んでいない
のではないか、設立登記の件数も増えていないのではないか、という気持ちが
ありました。残念ながら、法務省のHPにはそこまで詳しいデータは掲載され
ていませんでした。

 そうしているうちにお通しが運ばれてきました。気仙沼産のホヤの酢の物で
した。気仙沼は、東日本大震災の際に津波で大きな被害を受けた、仙台から車
で3時間程の沿岸部の都市です。気仙沼産のホヤを見て、私たちはとてもうれ
しい気持ちになりました。

「きっと、沿岸部の市町村でも、設立登記は増えてくるさ」

 その気仙沼産の新鮮なホヤの酢の物を口に運びながら、私と友人は、そんな
ことを語り合いました。



2014.05.28(水)【株券不発行証明その後】(金子登志雄)

 昨日は、株主名簿管理人である某信託銀行主催のベンチャー企業向けセミナ
ーで講師を努めました。そこで、ある信託銀行マンから、「先日、法務局の相
談窓口で株券不発行証明書は株主名簿に限られ、株主の住所も株式の取得年月
日も必要だといわれましたが、本当でしょうか。当社としては、無理な相談な
んですが………」といわれてしまいました。

 4月17日の本欄で、次のように書いたことが証券代行にまで飛び火してい
るとは驚きました。
--------------------------------------------------------------------- 
 先般(2月5日)の千代田支部セミナーにおける東京法務局の回答では「株
券を発行していないことを証する書面は、株主名簿に限られます。また、株主
名簿には、会社法第121条に規定される事項が記載され、さらに、株券不所
持の申出又は株券不発行の事実が記載されている必要があります」というもの
でした。

 どうして、こういう回答になるのでしょうか。会社法121条に従って株式
取得日まで書けというのは、中小企業では無理な話ですし、そこまで要求する
意味もありません。株主の住所の記載もプライバシー保護の点から顧客は嫌が
ります。書いたところで、調べるわけでもないため、意味がありません。
 (中略)

 また、基本通達に「株主名簿その他の当該場合に該当することを証する書面」
とあり、株主名簿そのものに限っていませんから、株主名簿に準じた株主名と
株主ごとの持ち株数と株券番号記載欄に不発行である旨を記載した自己証明書
面で十分だというべきでしょう。

 東京法務局の回答の真意も、私と同じだと思うのですが、こういう不用意な
回答があると、杓子定規に「株主の住所が記載されていない」「取得日が記載
されていない」と言い出す生真面目な(?)法務局職員が出てくるので、もう
ちょっと慎重に回答してほしいものです。
----------------------------------------------------------------------

 都内の某法務局でも、「今回に限り従前の形で受け付けるが、次回から株主
名簿そのものをつけるように」といわれ、法務省の基本通達よりも東京法務局
見解が上位にあるのかと驚いたという司法書士仲間もいます。

 そもそも、株券を発行していないことを証する書面は、株主名簿に限られま
せん。株主名簿管理人や公平な第三者である弁護士の証明書であってもよいは
ずです。

 上記のように、基本通達を前提にすれば、東京法務局の真意は、住所や株式
取得年月日の記載まで必要だというものとは思えませんので、司法書士各位は、
委縮しないことです。単に聞かれたから「株主名簿をつけてください」と答え
た程度のことだと私は確信しています。現に多数の法務局で従来どおりの書式
で受け付けられています。


2014.05.27(火)【司法書士の権威】(金子登志雄)

 昨日、経験豊富な司法書士と経験の少ない法務局職員との差を年季差・格闘
技戦と表現しましたが、昔は司法書士の意見は権威がありませんでした。

 登記研究という雑誌をご存じだと思いますが、あの登記相談の回答は当局の
方です。だから、疑問に思える意見でも全国に通じます。

 登記情報というキンザイの雑誌をご存じだと思いますが、われわれ司法書士
が論文を投稿したり、相談室の回答をしています。

 実は昔は司法書士の回答など権威がないとされ(単なる1個人の意見でしか
ない)、相手にされていませんでした。ですから、当然に、雑誌で司法書士が
実務相談の回答をすることなどあり得ないことでした。

 変わってきたのが平成13年の金庫株改正あたりからです。額面株式が廃止
され、伝統的な登記実務が通じなくなり、当局の回答にも???と思うものも
出てきました。

 いまでも思い出すのが平成13年の金庫株改正時に、合併比率1:0.5な
どの場合は、消滅会社で2株を1株に併合して合併比率1:1にしてからでな
ければ合併することができないから、株式併合の先行登記が必須だなどという
信じがたい回答もあり、これが全国を席巻(せっけん)しそうでしたので、組
織再編のプロを自認する私は1人で猛然と反対したものでした(最終的には不
要ということになりました)。

 ところが、当時は、司法書士が雑誌で意見を出せる場面がありませんでした。
そこで、私が、登記情報の編集長に提案したのが、「泣き笑い」でぼかして回
答すれば、当局の面子も立つでしょうということで、商業登記「泣き笑い掲示
板」を始めました。おかげ様で、10年以上も経た今でも同誌に連載中です。

 こういう経緯や実績を経て、平成21年からは、全国の一大組織である商業
登記倶楽部(神﨑代表)の強力なご支援を得て、商業登記総合5人委員会の名
前で実務相談の回答を登記情報に出せるようになり、司法書士あるいは民間の
意見も全国的に通じるようになりました。最初の投稿は、補欠監査役は欠員が
生じた場合に限らないという内容で、今では当然視されていますが、当時では
通じにくい意見でした。

 平成13年から始まった相次ぐ商法の改正から平成18年の会社法施行まで
の改革が、今では会社法は弁護士よりも司法書士のほうが詳しいといわれるよ
うになり、司法書士の権威を高めたわけです。雑誌・登記情報の果たした役割
は大きかったと感謝しております。編集長が若く、さまざまな実験をしてくれ
たおかげです。

 今度の登記情報には、全国で混乱中の「代表取締役の予選」につき、5人委
員会の名前で、回答していますが、皆様もご意見がありましたら、同誌に投稿
してみてはいかがですか。明日の多数説になり得る見解であれば、掲載が適う
でしょう。


2014.05.26(月)【少なくとも】(金子登志雄)

 簡易合併を証する書面や資本金計上証明書を作る際に、会社の人に純資産額
を教えてくれ、株主資本等変動額を教えてくれといっても、「まだ数字が固ま
っていません」といわれることがほとんどです。

 そんなときどうするかですが、簡易合併を証する書面であれば、5分の1以
下を証するため、資本金計上証明書であれば、増加資本金額よりも株主資本等
変動額のほうが大きいことを証明すれば十分ですから、概算額を書けば十分で
す。

 それでも生真面目な会社の担当者は、「概算でも分かりません」と答えてき
ます。さぁ、どうしましょう。

 簡単です。単位を100万、億と上げていけばよいのです。これで答えられ
ない人はいないでしょう。1億9999万円でも切り捨てで概算1億円でよい
のです。

 この概算額の記載に後ろめたい場合は、旧商法時代の法務省の書式のように
「少なくとも」・「多くとも」と前に付ければよいのですが、最近は、これを
付けると、「こんなのみたことない」と拒絶反応を示す登記所もあるようです。

 つまり、最近の登記調査官は人事異動で担当になっただけで、旧商法時代の
ことを知らないのです。司法書士のように、この道一筋うん十年で生活してき
た人が、つい最近担当になったばかりの調査官に「これはだめだ」といわれる
のですから、たまに、年季差の格闘技戦が生じるのも仕方ないですね。


2014.05.23(金)【契約書名義】(金子登志雄)

 募集株式の総数引受契約書案の契約者名義が「A株式会社〇〇事業部長C」
となっていたので、管轄法務局に確認しましたら、押印までは調査しないが名
義は代表取締役でないと困るとの回答でした。予想どおりでした。

 しかし、不思議なもので、株式申込書になると、実務では、そうこだわりま
せん。カネさえ出せば誰でもいいといった雰囲気です。添付書面として「株式
の引受けの申込みを証する書面」とあるせいかもしれません。任意組合でもよ
いためかもしれません。

 また、契約書の場合も「A株式会社代表取締役B/代理人〇〇事業部長C/
C印」であれば、委任状も必要なく、受理される法務局がほとんどでしょう。
名義は代表者ですから。

 こういう場合は、代理人である事業部長名を省略して、「A株式会社代表取
締役B/Cの印」が最も通りやすいと私は思っていますが、まだ実例をみたこ
とはありません。

 では、合併契約書などでは、どうでしょうか。

 想像ですが、「A株式会社代表取締役B/代理人〇〇事業部長C/C印」で
あれば、委任状を要求されることもありそうですが、「A株式会社代表取締役
B/C印」なら、書面審査上、印鑑までは調査しませんから、無事に受理され
るはずです。

 何か建前社会のようですが、これが一般社会のルールということでしょうか。
こういうことに疎いと、商業登記に強い司法書士になれないことも事実です。


2014.05.22(木)【資本金計上「証明者」】(金子登志雄)

 法務省のHPによると、新設合併の際に提出する資本金計上証明書には、新
設会社の代表者が登記所に届け出る印鑑を押すことになっています。

   http://www.moj.go.jp/content/000057790.pdf

 ところが、新設分割や株式移転では、代表者が登記所に届け出ている印鑑を
押せとあります。

   http://www.moj.go.jp/content/000057791.pdf
   http://www.moj.go.jp/content/000057792.pdf

 これが混乱の種で、Aが新設分割でBを設立した際は、Aの届出印を押すの
であってBではいけないのではないか、AがBの管轄外だったら印鑑証明書を
付けないと届出印かどうか不明だがどうするのか、甲乙が丙を新設分割する際
の共同分割では甲乙2社で押印するのかなどの疑問が生じてしまい、法務局自
身も混乱しているところがあります。混乱した司法書士は、設立会社との連名
で押印する者もいるようです。

 結論から言うと、AでもBでも、どちらでもかまいません。考え方としては、
新設分割の登記申請人であるBが自ら添付書面を準備するのが原則だから、B
作成のもので十分だが(私はこの方法を採用しています)、提出者がBであれ
ば、証明者はAであってもよいということです。

 これは、合併の際に提出する消滅会社の債権者に催告したことを証する書面
につき、催告者である消滅会社が証明して、それを存続会社が提出しても、合
併登記申請人である存続会社が自ら消滅会社の分まで証明してもよいのと同じ
ことです(私は後者方式です)。

 したがって、法務省のHPは、新設合併では消滅会社は消滅しているという
前提だから「届け出る」印鑑としただけで、また、新設分割の際に「届け出て
いる」としたのは、商業登記法20条に「登記の申請書に押印すべき者は、あ
らかじめ、その印鑑を登記所に提出しなければならない」とあることを前提と
したためか、あるいは、ABどちらでもよいという趣旨を匂わせたもので、深
刻に考えるほど深い意味はないというべきでしょう。

 AとBの管轄が相違し、A作成の証明書をBが提出する際は、Aの印鑑証明
書を添付してAの届出印である旨を証明する必要もありません。証明書の例の
1つであって「ねばならない」ものではないからです。


2014.05.21(水)【本店ビル名変更】(金子登志雄)

 当社は現在「千代田区神田小川町三丁目26番地8野村不動産神田小川町ビ
ル」で本店登記をしていますが、ビルの売却があったようで、この6月1日か
ら「常和神田小川町ビル」とビル名が変更になります。

 そこで、本店登記につき、3つの選択肢があります。
(1)現状のまま放置する
(2)ビル名変更を登記する
(3)ビル名削除の登記をする。

 (2)に関しては東京法務局は委任状だけで済みますが、取締役会議事録を
要求する法務局もあるようです。後者については、この程度のことが重要な業
務執行の決定に該当するという判断でしょうか。私には疑問です。

 委任状だけで済む理由は行政区画の変更など会社の決定によらない外部事実
の変化だからなのか、それとも取締役会ではなく代表取締役の決定でよいとい
う意味なのかは不明です。

 代表取締役や取締役会の決定を要するとすると、(1)であっても、決定す
るまでは登記しなくても違法ではないことになります。来年の4月1日付けで
決定すれば、その日から2週間以内に登記すれば足り、本年6月1日から10
か月遅れの登記ということにはなりません。会社にとっては、こちらの解釈の
ほうが助かります。

 (3)については、取締役会の決定が必要だというのが東京法務局見解です。
この場合は、どこまで詳細に表示するかは会社の決定次第ということでしょう。

 結局、当社は(3)を選択しました。こういうことがあるから、本店登記に
はビル名は記載しない会社が増えそうですね。私も設立登記では、そのように
アドバイスすることにしました。


2014.05.20(火)【異種格闘技戦】(金子登志雄)

 旧商法の古い時代には、法務局で大声を出して喧嘩しているのは、弁護士や
会計士さんが少なくありませんでした。法律や会社には強いという自負があっ
たため、補正に納得できないことと、法務局職員の態度にカチンときたせいで
しょう。

 昔の法務局は、サンダル履きのお兄さんが受付に立っていましたし、お上意
識もありました。いまの若い人には信じられないでしょうが、登記官が転勤で
引っ越しをしようものなら、司法書士がお手伝いに行っていた時代もありまし
た。私が司法書士になる前の昭和時代の話です。公務員上がりで昔からの司法
書士さんに「貴方のように法務省の参事官室にまで商法の質問の電話をするの
は相手に失礼だ(頭が高い)」と叱られたこともありました。

 それが司法書士試験が国家試験になり、法務局の付属機関というイメージが
すたれ、平成時代になると、小泉改革等の成果で、窓口では「金子サマ~」と
呼ばれるようになり、お昼休みも申請を受け付けるようになり、8時半から営
業開始になり………と、行政サービス機関になってからは、窓口での喧嘩を目
の当たりにすることがなくなりました。

 弁護士・会計士の側も法務局や司法書士に敬意を払うようになり、代書屋風
情との見下しはなくなりました。昔の司法書士は、都道府県単位の簡単な試験
で合格でき(会員番号が全国共通でないのはこのためです)、法務局の周囲の
3坪店舗で、法務局を定年退職した人がひっそりと商売する代書屋イメージに
ぴったりでしたが、いまはビルの中や住宅街に事務所を設け、国家試験予備校
が年商1000万円を超える有望な資格などと宣伝したため、イメージがだい
ぶ変わりました。

 いまや、大法律事務所の職員さえ登記相談窓口に頻繁に訪れるようになり、
異種格闘技戦はなくなりました。司法試験崩れの私は、弁護士の言い分も法務
局の言い分も両方とも背景や原因まで分かりましたから、この異種格闘技戦が
なくなったのは、少々、寂しい気もします。この異種格闘技戦があったから、
法務局も弁護士側もよい方向に変わってきたわけですから、先人の努力の1つ
といえましょう。



2014.05.19(月)【法務部と司法書士】(金子登志雄)

 16日金曜日は、顧客上場企業某社の法務部の方々との久々の懇親会でした。
ありがたいことです。自分が役立っていると意識させてもらえますし、司法書
士冥利につきます。

 某社では私が関与するまでは、自社で法務局に相談に行っており、そこでだ
いぶ苦い思いもしたようですので、法務局に通じる独特の言語で法務局と交渉
してくれる代弁?司法書士の存在価値を高く評価してくださいます。

 この登記が無事に通るかどうかで企業には、莫大な損益に影響することもあ
るといわれましたが、この視点は、法務局やわれわれの側には、少ないようで
す。あっさりと「それは無理ですね」と返してしまう相談官や司法書士も少な
くありません。本当にダメでも他の方法を考えるのがプロですから。

 登記が無事に通ることが最重要ですから、私のように、時たま法務局に「納
得できません」と逆らう司法書士はまずいのではないかとひそかに思っていま
したが、さすがに一流企業の法務部でした。自社で十分に法律的検討を経た結
果を上手に説明してくれる司法書士を求めていたようです。

 法務局に通じる独特の言語………深い意味はありません。重任、補正、却下
事由、取下げ、調査、校合、記帳、商業登記ハンドブック、商事法務、登記研
究、登記情報などという業界人であればすぐに通じる用語を会話のはしばしに
出すことで、「この人は登記のプロだ。十分に検討してきたであろうから、う
っかりした返答をしてはいけない」と思ってもらい、プロ同士の会話をするこ
とが重要なわけです。結論よりも論理過程や理由づけが重要です。

 法律に精通していても弁護士さんや法務部とでは、このあたりがわれわれと
の相違点のようです。言い換えれば、法律世界の土俵と登記世界の土俵とでは、
ちょっと違うということでしょう。われわれであれば、ガチンコ勝負でも異種
格闘技戦になりませんから。


2014.05.16(金)【募集株式と種類株式〔第2版〕】(金子登志雄)

 お待たせしました。表題の改訂版が5月20日に発売されます。初版をお持
ちの方は、わざわざ購入しなくてもよいでしょうが、お持ちでない方に、ぜひ
ご紹介ください。

 偶然ですが、昨日も、司法書士から「種類株式発行の仕事を受けたけど、こ
の本で助かった。種類株式を初めて発行するときに、登記では年月日設定では
なく年月日変更とするなど、実務家でなければ気づかない視点であり、かゆい
ところに手の届くよい本だ」とお褒めの言葉をいただいたばかりです。

 全く別件ですが、昨日、社外役員の責任軽減の登記のことを聞かれ、当社の
登記簿をみたら定時株主総会の日付で「平成18年9月27日変更」とありま
した(当社は6月決算です)。

 おかしいな、会社法制定後に定めたのだから、「設定」のはずだがと思って
しまいましたが、理由が分かりません。本欄閲覧の皆様で瞬時に分かった方は
いらっしゃいますか。

 たまたま存在した過去の謄本をみたら、旧商法時代も社外役員の責任軽減の
登記があったため、それを変更したから、「年月日変更」の登記になっただけ
でした。あれから、7年以上、すっかり忘れていました。

 話を戻しまして、「募集株式の発行等」という用語があるなら「募集によら
ない株式の発行等」もあるはずですが、何だと思いますか。

 取得請求権付株式・取得条項付株式・全部取得条項付種類株式の対価として
株式が交付される場合、株式無償割当てをする場合、新株予約権の行使があっ
た場合、組織再編として実行される場合などです。計算規則13条2項に書い
てあります。

 「募集によらない」とは、募集決議が不要だという意味でもあります。新株
予約権が行使されて、わざわざ新株発行の決議をしないのはこのためです。


2014.05.15(木)【承継自己株式対価】(金子登志雄)

 100%子会社が親会社を吸収合併する際には、旧商法時代の古くから合併
で自己株式となった子会社株式を合併対価として用いており、実例も多数ある
のですが、弁護士から「リスクがあるからやめよ」といわれたという情報があ
るMLに載っておりました。

 大法律事務所である長島・大野・常松法律事務所による商事法務刊『合併ハ
ンドブック』85頁が根拠だそうです。そこには、次のようにありました。

----------------------------------------------------------------------
 消滅会社が存続会社の株式を保有している場合に、合併により存続会社が承
継する自己株式を合併対価として消滅会社の株主に交付することができるかと
いう点についてはあまり議論がされていないと思われるが、会社法は、新設合
併における合併対価として新設会社の株式、社債または新株予約権のみを認め
ており(法753条1項6号~11号参照)、新設会社が消滅会社から承継す
るその他の資産を合併対価とすることは認めていないこととの均衡からは、吸
収合併の場合についても、合併により存続会社が承継する自己株式を合併対価
として消滅会社の株主に交付することを認めることには、疑義があるところで
ある。
----------------------------------------------------------------------

 つまり、新設合併では承継した財産を合併対価としていないのだから、それ
との均衡上、吸収合併においても、承継財産(本件では自己株式)を対価とす
るには疑義があるということのようです。

 しかし、これは会社法の制定過程を無視した見解です。商事法務1752号
8頁には「対価の柔軟化が認められるのは、吸収型再編のみである。新設型再
編は、………新たに会社を設立するという性質を有するものであり………」と
し、新設型再編には対価の柔軟化を否定しているのに、それとの均衡を根拠に
しても意味がありません。吸収型再編と新設型再編は性質の異なる制度であっ
て、均衡を議論する対象になりません。

 承継自己株式を合併対価にするのは、全く問題なしというべきです。旧商法
時代の大昔から、繰り返しなされています。


2014.05.14(水)【2つの代表取締役の予選】(金子登志雄)

 せっかくですから、連休中に書いた代表取締役の予選問題のエッセンスを
ご紹介しておきます。

 取締役ABC(代表取締役A)、3月決算、6月28日の定時総会終結で
全員が任期切れを前提にします。

(1)6月28日定時総会中の午前にABC再選、重任承諾、総会休憩中の
お昼休みにABCは会合をもって次期代表取締役としてAを予選。定時総会
は午後2時に無事終了。

 ABCは午後2時に次期取締役になるのに、その前に代表取締役を予選し
ていますが、予選時と次期取締役が同一メンバーであり、短期間だから予選
は肯定されます。これが昭和41年先例事案です。

(2)6/1決算取締役会で6/28の議題として取締役ABCの再選を決
議し、 ついでに、ABCで次期代表取締役としてA予選。6/28定時総
会で予定どおりABC再選。

 この場合は、(1)と相違し、次期取締役として予選もされていないのに
次期代表取締役を予選しています。先例がある(1)の趣旨から肯定するの
が多数ですが、次期取締役に予選されていないことを理由に否定する登記所
もあるようです。

(3)3/20取締役会で4/1付けでBを代表取締役に予選。3/31に
Aは取締役辞任、4/1付けで後任としてD選任

 このケースは、(1)(2)と相違し、取締役の任期満了を跨いだ代表取
締役の予選ではありません。任期中の代表取締役の交代でしかありません。

 ところが何を勘違いしたのか、3/20と4/1の取締役会の構成メンバ
ーが相違するから予選は不可とされることがあるようです。

 (1)と(2)は、その期の取締役がその期の代表取締役を選任していな
いので、取締役会の構成メンバーが選任権限を正式に有するまで同一メンバ
ーかを問題にする必要がありますが、(3)は既に権限を有しているので、
予選時と効力発生時のメンバーの同一性は問題外です。余計なお世話解釈に
引っかからないようにしましょう。 


2014.05.13(火)【余計なお世話その3】(金子登志雄)

 古い登記研究に、取締役の予選中に新株の発行があると、新株主の取締役
選任権を侵害するから取締役の予選はできないという意見が掲載されている
のですが、どう思いますか。

 私はこれも余計なお世話だと思っています。どこの法律にもダメだと書い
てないのに、勝手にダメにされては、登記所は国会や裁判所以上の権限を持
つ機関になってしまいます。

 妥当でないことは十分に分かりますが、事前に情報を開示して新株主も承
知の上で株式を引き受けるでしょうし、それをしなかったら、会社と株主と
の信頼関係が崩れ、取締役の解任騒ぎになったり、騙し討ちだ株を引き取れ
という問題に発展します。

 そういう事後処理の自治に委ねるのが正しく、決定した事項を根拠なく無
効にするのは、法律解釈とはいえません。

 登記できないというなら、先に取締役変更の登記をし、間を空けて新株発
行の登記をするだけです。申請単位での審査ですから、これなら問題なく登
記が可能です。

 幸い、本件の内容は先例扱いまでされておりませんが、登記に関係する雑
誌に掲載された当局担当者の意見や現場の取扱いには、こういう法律を超え
たものが多すぎます。

 それは、われわれ司法書士に「おかしいじゃないか」と反論するほどの知
識も能力もなかったことも一因です。試験に合格した時が実力のピークだと
いう人が多いせいでしょう。

 しかし、こういう問題は知識ではありません。貴方の法律的感性(リーガ
ルマインド)の問題です。それを侵害されておとなしく引き下がるようでは、
情けないと思いませんか。



2014.05.12(月)【余計なお世話その2】(金子登志雄)

 金曜日の「余計なお世話(解釈)」は、我ながら気に入った表現です。今
後は全国に流行らせたいと思っていますので、皆さんもぜひ使ってください。
登記の審査は却下事由に該当するかどうかだけの適法性審査にとどめ、妥当
かどうかなどの余計なお世話はしないでくれという場合に使いましょう。

 さて、3月20日に4月1日付で代表取締役の選任を決議し、3月20日
から31日の間に、その日付で司法書士に「代表取締役変更」の登記申請委
任状を作って渡したとすると、この登記は無事に受理されるでしょうか。

 先日一緒に飲んだ司法書士さんによると、ほとんどの登記所で受理される
が、某管内では補正になるとのことでした(どこかわかる人は、商業登記の
相当な「通」といえます)。この司法書士は私と同様に、納得できないこと
は納得できないといい、登記所の能力向上に貢献(?)している方です。

 この委任状は違法といえるでしょうか。まず9割以上の法律家が適法だと
答えるでしょう。にもかかわらず、登記の受理を拒否されて補正になるとし
たら、これも、「適法」審査ではなく余計なお世話の「妥当性」審査の1つ
といえます。

 補正指示する登記所としては、登記というのは原則として全てが完了後に
報告として登記するものだから、全てが完了する前に委任するのは筋が通ら
ず妥当とは思えないという解釈でしょう。

 しかし、妥当かとか筋が通らないという問題は登記所に審査権がありませ
んし、そういうことは人によって判断が異なることです。登記申請する司法
書士も「登記というのは原則として全てが完了後に報告として登記するもの」
というのは十分に承知しているから、上記の例でいえば、4月1日以降に申
請しているのであって、3月日付の委任状だからといって、3月に申請した
わけではありません。

 就任承諾書は、「きたる3月20日の取締役会で4月1日付で代表取締役
に選任されました場合は、その就任を承諾します」も有効です。なぜ、登記
の委任状だけはいけないのでしょうか。余計なお世話解釈としかいえません。


2014.05.09(金)【余計なお世話】(金子登志雄)

 代表取締役の予選をテーマとする原稿の資料として、古い登記研究という
雑誌の内容などを仲間から送ってもらいましたら、「合理的な期間内(たと
えば1か月)内であれば、取締役会において、次期の代表取締役をあらかじ
め選任することができる」などといった見解にお目にかかりました。

 若い頃は、「ふ~ん、そういうものか」としか思いませんでしたが、それ
なりの経験を積んでくると、「何たる余計なお世話だ」という感想しかあり
ません。

 会社によっては、3か月先が都合がよいこともありますし、3か月後に代
表取締役が無事に就任し、会社もそれでよいといっているのに、1か月を超
えるから登記は受理できないなどということがあったら、まさに余計なお世
話であり、企業活動への妨害です。

 株主総会の開催は手間暇がかかるが、取締役会の開催は容易だから1か月
もあれば十分だなどと書いてありましたが、株主が1名で取締役が5名であ
ったら、株主総会の開催のほうが5人も集まらなければならない取締役会の
開催よりも、ずっと容易です。私の顧客の中には、株主は1名なのに、取締
役が30名という会社さえあります。

 そもそも却下事由に該当するかどうかの登記審査において、なぜ、予選期
間が1か月を超えている・いないなどといった非法律的判断を加えるのか、
私には信じられません。合理的期間などという美しい表現を使っていますが、
その論理は実に非合理的です。

 日本の法律関係者には、こういう企業に余計なお世話を焼く非合理主義者
が少なくありません。それをぶち壊したのが、革命家の会社法立案者であり、
会社の好きにおやりなさいという会社法を作ってくれたのですが、現実の運
用には、まだまだ壁があります。

 困ったものですが、人の意識はそう簡単に変わらないので、仕方ないので
しょうか。


2014.05.08(木)【期限付決議と予選】(金子登志雄)

 どこにも出掛けなかった連休中は、ヒマつぶしに原稿を1つ仕上げました。
テーマは「代表取締役の予選」です。そのうちキンザイ「登記情報」さんに
掲載してもらうつもりです。

 いつも思うのですが、役員の予選だって期限付又は条件付決議の1つなの
に「人」の問題になると登記所も急に厳しくなります。なぜでしょうか。

 商号や目的という定款変更であれば9カ月先であっても肯定されているの
に、「人」の予選になると、せいぜい3か月先までといわれています(規定
があるわけではありません)。

 条件付決議の1種である補欠役員の規定があるため、それとの関連で制約
を受けるのは理解することができるのですが、補欠役員ですら次の定時株主
総会開始までの原則1年先が許されるのですから(定款で定めれば延長可)、
半年先程度の予選も許されてよいと思うのですが、いかがでしょうか。

 人の気持ちは変化するので、半年先までは約束することができないという
のなら、就任承諾書に限り就任日の3か月以内にすればよいことで、選任行
為自体を短期間に制約する理由はありません。

 困るのは3か月と1日先の場合はどうか、4カ月先は完全に不可かの基準
がなく、現実には登記所の裁量に委ねられてしまうことです。そして、あの
登記所はOKだが、ここの登記所は不可だというローカルルールが生じます。

 この際、土地管轄を外して、どこの登記所でも申請を受け付けるように制
度を変更してくれれば、ミシュランさんが☆をつけに来て、人気登記所と不
人気登記所が生じ、サービス合戦をしてくれるのになと思いましたが、原稿
書に疲れ、夢をみてしまったようです。


2014.05.07(水)【憲法の日】(金子登志雄)

 連休中はいかがお過ごしでしたか。私はどこにも出掛けず、会社法におけ
る企業統治の問題などを考えながら、原稿書などでのんびり過ごしました。

 「そもそも企業経営は、株主の厳粛な信託によるものであつて、その権威
は株主に由来し、その権力は株主の代表者である取締役がこれを行使し、そ
の福利は株主がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この会社法
は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の法令及び
通達を排除する」。

 お分かりですね。憲法の日にちなんで、憲法の前文の「そもそも国政は、
国民の厳粛な信託によるものであって………」を会社法ならこうなるかなと
思って書き直しただけです。もちろん、「株主に由来し」は株主が主役のこ
とで、「福利は株主が享受する」は、株主配当のことになります。

 このように「会社は株主のモノ」というのが基本ですが、会社に関わる人
には債権者も従業員も新株予約権者もいるので、その利害調整が会社法の解
釈学になりますが、中小企業の現実では、税務署や許認可権を有する監督官
庁との利害調整のほうが難問であり、憲法や会社法の理屈どおりに行かない
ことが多いことでしょうか。

 日本国憲法に対しては、最近、再軍備の方向への解釈改憲の動きが強まっ
ておりますが、この憲法が存在したから、朝鮮戦争にもベトナム戦争にも参
戦せずに済み、赤紙1枚で徴兵されることもなく、いいたいこともいえ、企
業も自由活動が保障され、日本経済の発展の礎になったということを考えて
ほしいものです。まずは、格調高い日本国憲法を味わってみましょう。
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html


2014.05.02(金)【景気の受け止め方】(金子登志雄)

 昨日お会いしたお客様(上場企業の総務部員で新卒の採用も担当)の話だ
と、今年は売り手市場で、優秀な新卒社員の採用が難しく、昨年とは雲泥の
差だとか。生まれた年がたった1年違うだけで、こうも運・不運の開きがあ
るのでしょうか。

 しかし、そんなに景気がよいのでしょうか。大手マスコミは完全に政府の
広報機関に成り下がっているので(政権トップと新聞社の社長が個人的に会
食したりゴルフをするのは、私には職業倫理の面から信じられません)、よ
いことばかり書きたてますが、結論から言うと、政府の大手企業優遇策によ
って、大手にはよくて、中小企業には先行き不安が大きいというのが大方の
見方のようです。

 消費税が典型例ですが、庶民から薄く広く税金を取り、大手企業には減税
等の優遇策で応じ国際競争力をつけさせようということのようですから、い
ずれは日本も韓国のように少数の大手企業だけが生き残り、中堅企業が減っ
てしまうのでしょう。

 バブル時代には、日本の強さは、特別な大金持ちも極貧も少なく中流階級
が多いことだといわれていましたが、いまや格差社会にまっしぐらというと
ころでしょうか。

 司法書士サイドからいうと、ここ10数年、解散・清算の仕事が増えてい
ますし、中間層の減少で、住宅ローンによる持家率が減ってきたように感じ
ていますが、他の司法書士の受け止め方はどうなんでしょうか。

 決算期の過ぎた上場会社の事業報告書をみても、業種によって、いまの景
気の受け止め方が随分と異なります。
 
 これから3月決算会社の定時株主総会招集通知のチェックの仕事が増えま
すが、ご承知のように上場会社の事業報告書は「当期における我が国経済は
………」で始まりますから、各業種によって、表現の微妙なニュアンスに注
目してみたいと思っています。



2014.05.01(木)【解約と書面】(島根・根来川弘充)

 先般、建物の借主の相続人という方から相談をうけました。

 相談内容は、「建物は故人一人暮らしで、相続人は複数いるが、誰も住ま
ないので解約をしたい。しかし、その旨を大家さんに相談をしたら、『相続
人を確定する戸籍と、相続人間で借主が1人になった旨の遺産分割協議書と
解約書面を作成するまで、解約にならない』と言われた。協議書や解約書面
とはどのようなものか。」というものでした。

 賃借権も相続財産の一部で、遺産分割協議の対象となるというのは、もっ
ともだと思います。

 しかし、通常の賃貸借の解約だったら、解約書面などつくらず、鍵を渡し
て終了というのが、一般的ではないでしょうか。

 それが、これから使用することが無い建物について、遺産分割協議書や、
解約の書面まで必要だと言われているのですから、賃借人にとっては、あま
りに過度な負担と思えます。

 相談者の話では、「大家さんは、専門家からそのようなアドバイスを受け
た」とのことです。

 専門家が入って話が複雑になったのなら、専門家の意味がないのではない
かと思います。同じ専門家として、そのようなことがないよう、つとめたい
と思います。



2014.04.30(水)【昭和】(金子登志雄)

 昨日の「昭和の日」は、著作原稿の校正三昧でした。会社法795条2項
の「合併差損」のところで考え出してしまい、ほとんど進まなかったどころ
か、しまいには文字もかすんでみえてきたので切り上げました。昭和の日を
(昭和)天皇誕生日と言い換えないと、ぴんと来ない古い昭和生まれですか
ら老化現象でしょう。

 といっても、平成生まれが会社の社長になるのはまだ少し早いようです。
登記の際に示される印鑑証明書をみても、まだ生年月日に「平成」のつくの
をみた記憶がありません。平成生まれの社長がいる会社の登記は何度か経験
しましたが、設立や代表取締役の変更には関与していないためです。

 ところで、上場企業の中には社内文書を西暦表記に統一しているところも
少なくないようです。国際企業として、海外に支店や子会社があるのに、和
暦では困るのでしょう。西暦のほうが情報通信(コンピュータ)に合うとい
う面もあるかもしれません。日本語の社内文書なのに、横書にしているのと
同じようなものです。

 また、「昭和」というと戦争被害を受けた中国や韓国の国民によい印象を
与えないようです。豊臣秀吉や伊藤博文は日本では英雄でも、韓国にとって
は侵略者になるのと同じです。

 かといって、高校卒業年度や司法書士合格年度を西暦でいえといわれても
私にはいえません。近代では、私の誕生年だけ西暦でいえる程度です。ニッ
サンのゴーン社長は自分の誕生年を昭和29年といえるのでしょうか。



2014.04.28(月)【何じゃこれは!】(金子登志雄)

 土日は、「会社の計算」本の校正作業をしていました。東京司法書士協同組
合から出した本が好評で売り切れているため、今度は組合編で中央経済から出
すことになりました。組合本を買いそびれた方は、しばらくお待ちください。

 それにしても「会社の計算」は実に楽しい規定です。

 会社法でいう剰余金が「その他資本剰余金とその他利益剰余金のこと」であ
ることは、もう十分にお分かりでしょうが、会社法446条1項1号に次のよ
うにあります。「イ+ロ-ハ-ニ-ホ」です・・・・・・・・・・・・・①
-----------------------------------------------------------------------
 最終事業年度の末日におけるイ及びロに掲げる額の合計額からハからホまで
に掲げる額の合計額を減じて得た額
  イ 資産の額
  ロ 自己株式の帳簿価額の合計額
  ハ 負債の額
  ニ 資本金及び準備金の額の合計額
  ホ ハ及びニに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上し
た額の合計額
----------------------------------------------------------------------

 ところが、このホの法務省令である会社計算規則149条には、次のように
あります。
----------------------------------------------------------------------
 法第446条第1号ホに規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額
の合計額は、第1号に掲げる額から第2号から第4号までに掲げる額の合計額
を減じて得た額とする。
  1 法第446条第1号イ及びロに掲げる額の合計額
  2 法第446条第1号ハ及びニに掲げる額の合計額
  3 その他資本剰余金の額
  4 その他利益剰余金の額
----------------------------------------------------------------------

 つまり、「1-2-3-4」、すなわち「(イ+ロ)-(ハ+ニ)-その他
資本剰余金の額-その他利益剰余金の額」です・・・・・・・・・・・・②

 この②式を①式に代入すると、次のようになります。
----------------------------------------------------------------------
 イ+ロ-ハ-ニ-((イ+ロ)-(ハ+ニ)-その他資本剰余金の額-その
他利益剰余金の額)
 =その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額
----------------------------------------------------------------------

 何じゃこれは、馬鹿にするのもいいかげんにせい! と思いませんでしたか。

 お腹立ちはもっともですが、これが易しいことを難しく説明する「会社の計
算」規定なんです。私は、こういう人を食った説明が面白くて仕方ありません。


2014.04.25(金)【スクイーズアウト】(金子登志雄)

 オバマさんで、すっかり有名になったミシュラン3つ星の寿司店「すきやば
し次郎」のお任せコースは「3万円~」のようです。

  http://www.sushi-jiro.jp/contents/oshinagaki.html

 寿司ネタは調理していないわけですから、きっとネタの品質とその管理が秀
でているのでしょう。3万円の「~」が気になりますが、私でもたまには行け
そうな金額です。ただ、味音痴ですから、カ「ネコ」に小判でしょう。ミシュ
ラン3つ星よりも、場末のおばちゃんの食堂のほうが私には似合っています。

 それよりも、司法書士事務所に星をつけてくれるミシュランはいないのでし
ょうか。5つ星をつけてもらえる自信がありますので、ホームページに「お任
せコース100万円~」と書いてみたいものです。司法書士報酬は新人もベテ
ランも大差ないので、ミシュランさんに風穴を開けてもらいたいものです。

 さて、自称5つ星司法書士としては、種類株式の全部取得条項付種類株式だ
けが未経験だったため、歯がゆい思いでしたが、今年は、少数株主の締出し策
(スクイーズアウト)として経験させてもらいました。端数処理の裁判所手続
も実行しました。これは生涯で2度目です。

 中小企業でも少数株主が元従業員で会社に恨みをもっていると金額如何にか
かわらず株式を売却してくれませんし、少数株主が行方不明や認知症というこ
ともありますので、こういう場合はスクイーズアウトも仕方ないことでしょう。

 会社法改正案では、大株主が行うスクイーズアウトとして「特別支配株主に
よる株式の強制売渡請求」が認められますから、改正後は、それによる事例が
増えることでしょう。何年後になるか分かりませんが、いずれは、これも経験
したいものです。


2014.04.24(木)【今でしょ!のリスク】(金子登志雄)

 いつものことながら、4月の登記も役員変更などのやさしい(簡単な)登記
は、上書きミスを中心として内容面以外の部分で初歩的ミスをいくつかしてし
まいましたが、難しい登記はこれまたいつもどおり完璧でした。

 やさしい登記も慎重に扱っているつもりなのに無意識に緊張度が違うのかと
今までは思っていましたが、そうではなく、やさしい登記の多くが顧客からの
事前相談もなく、郵便物等で届けられたら即座に申請するのに対し、難しい登
記は事前打ち合わせなどがあるため時間をかけているのでミスがないのだとい
うことに気づきました。

 人を待たせるのも待たされるのも大嫌いですから、登記依頼の郵便物が届け
ば即座にチェックし申請します。予備校の林先生の「いつやるか。今でしょ」
を、とうの昔から実践しています。

 可能な限り同じミスをしないよう対策をとっていますが、試験であれば80
点をとれば間違いなく合格点であるのに対し、登記では100点を要求される
ため、今後もしてしまいそうです。

 それにしても、登記所はすごいですね。適法かそうでないかの判断ミスは多
いのに、誤字脱字などの小さいミスの発見能力は感嘆してしまいます。きっと、
自分の作ったものはだめでも人の作ったものは、すぐに気づくのでしょう。こ
れはわれわれも同じですから。


2014.04.23(水)【バランス栄養食】(仙台・立花宏)

 先日、仕事で何箇所かをまわる必要があり、車で出かけたときのことです。
道路が混雑していたために移動に時間がかかり、なかなか昼食をとる時間がと
れませんでした。

 午後3時過ぎにようやく少し時間がとれたので、国道沿いのコンビニエンス
ストアに寄り、食事をとることにしました。しかし、次のアポイントの時間が
せまっていました。なるべく早く食べられるものと思い、店内を見回しました。
すると、ある食品が目に留まりました。黄色い箱に入った、「バランス栄養食」
と呼ばれている食品です。その食品をみると、なにかとても懐かしく感じまし
た。

 この「バランス栄養食」は、数十年前、たしか私が高校時代に発売になった
と記憶しています。当時は、その食品を食べることがとても恰好よく感じまし
た。

 高校時代、私はある運動部に所属していました。個人戦もあるスポーツで、
大会に参加し、勝ち進むと1日で何試合かをすることになります。

 同じ部に所属していた友人は県内ではトップクラスの腕前で、大会に出場す
るといつもトーナメントを勝ち進んでいました。勝ち進むと食事をするタイミ
ングにも気を使います。試合の前におなかいっぱいに食べてしまうわけにはい
きません。私の友人は、発売になったばかりのこの「バランス栄養食」を試合
の合間にすこしずつ食べ、コンディションを調整していました。

 当時はそれがとても先進的に見えました。私もマネをして、大会のたびにか
ばんの中に「バランス栄養食」をしのばせていました。しかし、たいてい、午
前中のうちに負けてしまい、試合の合間ではなく、試合後のおやつ(?)とし
て食べることになりました。

 それから数十年たちました。私はその「バランス栄養食」を購入し、コンビ
ニエンスストアの駐車場に停めた車の中で食べました。とても懐かしい味に感
じました。

 高校時代は、試合後のおやつとして食べ、試合の合間に食べることはありま
せんでした。しかし、今回は仕事後のおやつとしてではなく、仕事の合間に食
べています。

 仕事はある意味、お客様との真剣勝負の場であるのかもしれません。おなか
いっぱいに食べて、眠たい顔でその場に臨むわけにはいきません。

 私はその「バランス栄養食」を食べ終えると、まるで、これから決勝戦に臨
むような気持ちになり、次の仕事場へと向かいました。



2014.04.22(火)【たかが名刺されど名刺】(金子登志雄)

 ヨロズヤで思い出しましたが、司法書士の名刺をみると、「司法書士・土地
家屋調査士」あるいは「司法書士・行政書士」という名刺をよくみます。

 これ、専門化している都会では、逆効果だと私は思っています。もし、私が
「司法書士・土地家屋調査士」という名刺をいただいたとしたら、私は、「こ
の方は不動産専門で会社関係は詳しくないのだな」と無意識に思ってしまうこ
とでしょう。

 「司法書士・行政書士」も、「ボク、何でも屋で専門分野がありません」と
宣伝しているように感じてしまいます。

 「公認会計士・税理士」も「ボク、監査や企業評価は不得手です」というイ
メージがあります。

 は? 私の名刺ですか。「合併・企業再編他.会社法務専門」と付けていま
す。これは専門分野を宣伝しているというよりも、「不動産登記や成年後見、
訴訟などのことをボクに聞かないでね」という暗黙のアピールです。

 建設関係専門などと名刺につけている行政書士さんも、きっと建設には自信
があると宣伝しているだけでなく、「建設以外は聞いてくれるな」という効果
を狙っているのでしょう。

 たかが名刺で仕事が増えたり減ったりすることはないでしょうが、少なくと
も会社関係中心の業務を目指す限りは、会社員や社長業のお客が自分の名刺を
みて、どういうイメージを持つかにつき、配慮が必要と思いますが、同業者の
皆さんはいかがですか。


2014.04.21(月)【登記の急所】(金子登志雄)

 韓国船の遭難で被災者が当局に猛烈に抗議している姿をテレビでみるにつけ、
その痛ましさに胸が締め付けられる思いですが、同時にフクシマはじめ日本人
は何ておとしい国民なんだろうと感じてしまいます。「怒り」こそ民主主義の
発展なのに、何でも受容してしまう従順な国民性は宗教観の相違でしょうか。
不思議です。

 さて、某所より社会人向けの商業登記の講演を依頼されましたが、講師が司
法書士のためか「登記の急所」を話してほしいようです。

 登記の「要点」といった意味に過ぎないのでしょうが、改めて登記の「急所」
とは何だろうかと自問してみると、意外に難問です。というのは、商業登記の
難しさ・面白さは、登記申請行為ではなく、登記というゴールに向けた前段階
の手続にあるからです。

 増資手続でも、会社法の規定どおりの正規の手続で行くか、総数引受けで行
くか、総会議事録は319条の書面決議で行くか、自己株式を利用するか、払
込期間で行くか………、その時々の状況に応じて適切なアドバイスをすること
がわれわれの仕事(商業登記の醍醐味)であり、登記自体にはないからです。

 司法書士は登記する人と思われていますが、仮に登記するだけの場合も、こ
の前段階の手続が登記申請に耐えられるだけの適法性を十分に備えているかを
チェックしますから(私の場合はお節介にも手続の適切さまでチェックしてし
まいます)、単なる御用聞き的な代行業ではありません。

 講義では、第1には、登記を軽んじ本人申請するリスクについて、第2には、
医者に内科・外科・小児科・産婦人科………と各専門分野があるように、弁護
士や司法書士にも専門分野があるから、相談する人を間違わないようにと話す
つもりです。少なくとも都会地では、ヨロズヤは少ないですから。


2014.04.18(金)【ないことの証明】(金子登志雄)

 株券不発行の証明以外に「ないことの証明」がもう1つあります。清算人の
登記にあたり、定款に清算人会の定めがあるかないかを証明するため、定款の
添付が必要とされていることです(商業登記法73条1項)。

 しかし、本来、証明というのは「ある」ことを証明するものであって、「な
い」ことを証明するものではありません。刑事事件でも「有」罪を証明するの
であって、被告人が「無」罪であることを証明するものではありません(日本
の司法の現実は違うようですが)。

 非取締役会設置会社で取締役の互選で代表取締役を定めたら、互選規定が定
款に「ある」ことを証明しなければなりませんが、株主総会で代表取締役を定
めた場合に、互選規定が「ない」ことを証明する必要はありません。

 先般、有限会社の清算人登記の依頼を受けましたが、この場合は整備法33
条で有限会社には清算人会を設けられないので、定款の添付は不要です。整備
法という法律が「ない」ことを証明してくれているわけです。

 通常の株式会社の解散・清算人登記のたびに定款を準備するのは面倒なもの
ですから、せめて、「当社の定款には清算人会の定めは存在しません」という
自己証明で済ませられるように立法的解決をしてもらいたいものです。


2014.04.17(木)【株券不発行証明】(金子登志雄)

 「議事録は原本でなく原本証明付写しではだめか」と顧客に質問されたこと
のある司法書士は少なくないでしょう。

 「だめ」と答えるのは簡単ですが、理由まで答えていますか。理由は、条文
がそうなっているのです。

----------------------------------------------------------------------
商業登記法第46条(添付書面の通則)
1.登記すべき事項につき株主全員若しくは種類株主全員の同意又はある取締
 役若しくは清算人の一致を要するときは、申請書にその同意又は一致があつ
 たことを証する書面を添付しなければならない。
2.登記すべき事項につき株主総会若しくは種類株主総会、取締役会又は清算
 人会の決議を要するときは、申請書にその議事録を添付しなければならない。
----------------------------------------------------------------------

 つまり、1項では「………あったことを証する書面」でよいのですが、2項
では、議事録そのものが必要です。

 原本が必要なのは、金銭債権の現物出資(いわゆるDES)の債権の存在を
証する「会計帳簿」も同じです(商登56条3号ハ)。

 勘違いされているのは、株券不発行証明用の「株主名簿」です。条文上は、
「株券を発行していないことを証する書面」(商登63条)ですから、株主名
簿の原本自体である必要はありません。

 ところが先般(2月5日)の千代田支部セミナーにおける東京法務局の回答
では「株券を発行していないことを証する書面は、株主名簿に限られます。ま
た、株主名簿には、会社法第121条に規定される事項が記載され、さらに、
株券不所持の申出又は株券不発行の事実が記載されている必要があります」と
いうものでした。

 どうして、こういう回答になるのでしょうか。会社法121条に従って株式
取得日まで書けというのは、中小企業では無理な話ですし、そこまで要求する
意味もありません。株主の住所の記載もプライバシー保護の点から顧客は嫌が
ります。書いたところで、調べるわけでもないため、意味がありません。

 なぜ、株主名簿が証明に適しているかといえば、株券が発行されていれば、
株主名簿に株券番号を記載することになっているので(121条4号)、その
部分だけを示し、「ほら、株券番号が書いてないでしょ」と証明すれば十分な
はずです。

 また、基本通達に「株主名簿その他の当該場合に該当することを証する書面」
とあり、株主名簿そのものに限っていませんから、株主名簿に準じた株主名と
株主ごとの持ち株数と株券番号記載欄に不発行である旨を記載した自己証明書
面で十分だというべきでしょう。

 東京法務局の回答の真意も、私と同じだと思うのですが、こういう不用意な
回答があると、杓子定規に「株主の住所が記載されていない」「取得日が記載
されていない」と言い出す生真面目な(?)法務局職員が出てくるので、もう
ちょっと慎重に回答してほしいものです。


2014.04.16(水)【本店移転と電子申請】(金子登志雄)

 司法書士なら誰でも知っていることですが管轄外への本店移転は移転先の登
記所から移転元の登記所に完了通知があってはじめて全部が完了します。

 今回の東京から神戸への本店移転の例でいいますと、4月1日の申請で4月
9日に東京法務局で審査を終え、同日に東京法務局は神戸地方法務局に本店移
転書類を送付しました。たぶん10日か11日には神戸に到着したのでしょう。
神戸で審査が終わったのは4月14日でした。その連絡が東京に届いたのは昨
日の4月15日でした。

 さて、司法書士の皆さん、申請代理人の私が本店移転先の神戸の謄本を取得
することができる日はいつでしょうか。

 全部が終わったのが15日なら15日に決まっているじゃないかと思う方は
ベテランとはいえません。東京が終わらなくても神戸では14日に終わってい
るのですから神戸の謄本であれば14日に取得することができます。

 紙申請だと神戸の完了がすぐに分からないのですが、電子申請の謄本取得だ
と社名をいれて常時チェックしていると、神戸で14日に終わったことが判明
しますので、東京法務局からの全部の完了通知を待つまでもなく、謄本がとれ
るわけです。

 電子申請で調べると、同じ法人番号の会社が2つ登場し、神戸のものはすぐ
に謄本がとれるようになっており、東京は登記中の表示がでます。不思議な感
覚です。一瞬、東京法務局に神戸のものを申請すると、同じ法人番号だから、
東京住所のものが送られてくるかと不安に駆られましたが、東京は登記中の表
示のままなので謄本は取れませんね。安心して14日に申請し顧客のもとには
謄本が届いていますが、その後の15日の夕方になって全部の完了通知が来ま
した。

 急ぎの謄本取得の場合は、これを知っていると便利ですよ。


2014.04.15(火)【本店と支店の意味】(金子登志雄)

 4月1日申請案件がほぼ終わりました。残ったのは2か所の登記所に関わる
本店移転登記だけになりました。

 ところで、会社であれば、本社・支社というべきで、なぜ本「店」、支「店」
というのかと考えたことはありませんか。

 勝手な想像ですが、江戸時代の農業国家のときは、「お主も悪よのう」の越
後屋とか上州屋とか、販売業の「商店」のみが存在し広域の製造業などがなか
ったため本「店」というのであり、また、電話やFAXもないため、地域割り
し、その地域を統括する販売拠点が必要だったため、本店も支店も「場所」を
示すのではないでしょうか。

 会社によっては、本店と同じ場所に支店があるところもあります。本社機能
と営業拠点を分けているせいでしょうが、これは伝統的な地域割りに反するよ
うに思います。同じ場所に支店が2つあることもあります。業種別でしょう。
インターネット支店などというものもあるようです。

 現状では、製造業はほとんど支店を登記していません。トヨタもニッサンも
登記上の支店はありません。これに対して金融機関は支店が多数です。手形取
引や取立てなどに裁判の代理権を有する支店長が必要だからでしょうか。

 こうなれば、支店長を置く営業所を支店と定義したほうが時代にマッチして
いるといえないでしょうか。


2014.04.14(月)【会社法が難解な理由】(金子登志雄)

 もう来年卒業生の面接採用が行われているようですね。まだ1年も先なのに。

 医学部や理工系の学生は就職先が限られますが、法学部出身者など文科系は、
どんな業種にも進めるので、かえって「どういう業種に行こうか」と進路で悩
んでしまうものです。金融系か、製造業か、サービス業か………、だから数年
で退職し転職する人も増えます。私も長続きしませんでした。

 これと同様に、旧商法は合併対価も株式に限定されていましたし、その手続
もパターン化されており、知識があればマニュアル本を横におきながら手続が
可能でしたが、会社法では対価は株式に限定されず、多くの手続も順序を問わ
ず………で、選択肢が大幅に拡大したため、さて、どれを選択すべきかと悩む
文科系学生並になってしまいました。

 進路のように個人問題であれば、全て自己責任で何を選択しようが自由です
が、会社からの仕事の依頼に対して、「Aにしましょう」といえば、「なぜ、
BやCはいけないのですか」などという質問を受け、返答に窮したことのある
同業者も多いことでしょう。

 和食も洋食も中華も「何でもあり」の会社法だからこそ、選択肢は多くなけ
ればなりません。インド料理もタイ料理もなければいけません。全く使われて
いない特別取締役制度も誰かが必要とするかもしれないので廃止しませんし、
どこの会社が採用するのかと思われる監査等委員会設置会社という機関構成も
改正で選択肢に加わりそうです。

 この「何でもあり」が会社法の難しさではないかと感じるようになりました。
言い換えれば、会社が作った書類をもとに申請代行するだけでは不十分で、こ
の場合は、カロリーの少ない和食がいいとコンサルできないと満足した仕事に
ならなくなってきたわけです。

 何が重要かのメリハリをつけた勉強をするには、それなりの人生経験が必要
ですから、若い人には会社法が難しいかもしれません。
 
 こんなに面白い法律はないとまで、私は思っているのですが、ここでは結論
として、何をするにも一筋縄ではいきませんよということにしておきましょう。


2014.04.11(金)【「会社法」法令集】(金子登志雄)

 上記トピックスでご案内のように、「会社法」法令集が第10版になりまし
た。まだ書店には並んでいないかもしれません。

 手前味噌ですが、この法令集の青字のミニ解説は、判例付六法と同じように
結構役立ちます。書いた本人の私も、忘れていたことを、ああそうだったのか
と再認識させられ重宝しています。

 ひよっこ支部長ブログの原田先生からは以前「金子さんは、かつては目から
ウロコ(本)の先生と呼ばれていたが、いまは若い人から青字の先生といわれ
ている」といわれたこともありました。若い人が受験時代に、条文読み込みの
択一試験用に使ってくれていたのでしょう。著名会社法学者の先生からも出版
社にお褒めの言葉があったと聞いております。

 おかげさまで、会社法条文集のシェアとしては、筆頭の地位のはずですが、
意外にも、地方のセミナーへ行くと、存在すら知らない人が多いことに驚かさ
れます。都会と違って、商業登記案件が少ないことと、ネットや横の情報網が
都会地ほど活発でないことが原因のようです。

 改訂版になる都度購入する必要はありませんが、10版には改正案が掲載さ
れていますので、ぜひご利用ください。

 なお、この本は私の著作では最も売れている本ですが、下記には到底かない
ません。無料配布に勝るものなしですね。下記は法務局の窓口にあるかと思い
ますので、こちらもどうぞ。

  http://kanpou.npb.go.jp/images/s_guide.pdf


2014.04.10(木)【代文業】(金子登志雄)

 丸田さん、素晴らしい内容の投稿ありがとうございました。裁判の相手方か
らも仕事の依頼があるなんて、すごいですね。きっと、「勝った・負けた」と
いう下世話な結果ではなく、事件の真の「解決」を求めているのがよい結果を
産んでいるのではないでしょうか。

 私は会社法・商業登記専門ですが、幸いなことに、合併等の再編だけでなく、
「種類株式などの考案、株主総会の招集、株主への通知」などという1、2か
月程度の時間を要する仕事が多いため、何となく、事件を扱っている気分には
なっています。

 顧客が言っていましたが、弁護士さんは法律的事件でコメントは出してくれ、
そこで終わるが、司法書士は、種類株式案、総会招集通知案まで作ってくれ、
目にみえる形でたたき台を作ってくれるので、稟議を書く立場からは非常に助
かると。

 こういう仕事は、課題を解決するための創造力、それを表現する文章力が必
要ですから、少なくとも商業登記専門は、代「書」屋というより、代「文」業
でしょう。

 お互い、お客様に感謝されるのが一番うれしいと思うタイプのようですから、
代書業、代言業、代文業に励みましょう。丸田さんの次の投稿を楽しみにお待
ちしております。

 閲覧の皆様、上記、トピックス4もご検討ください。



2014.04.09(水)【法務局は敵ではなく商業登記実務の同志】(福岡・丸田幸一)

 私も金子先生と同様の感覚を感じています。法務局はもちろんのこと、紛争
解決業務においては、裁判官・書記官・相手方代理人弁護士そして相手方本人
も、みんな「紛争解決の同志」だと思っています。

 自分の依頼者の納得だけでは物足りない私は、関係各位の全員がより納得の
いく判決や和解を目指します。さらに、第三者や社会から見たときにも「なる
ほど」と頷かせる紛争解決をしたいと常々考えています。

 その「想い」は、多分私の訴状や準備書面、そして法廷実務に顕れていると
思います。なので、本人訴訟においてさえ、傍聴席の私に質問をするなど裁判
官は十分に私を活用してくれますし、弁論準備手続も当然のごとく傍聴させて
いただきます。

 高裁の上告審の傍聴席から喋りまくったり、同じく高裁の上告審の和解期日
に傍聴させていただいたこともあります。

 要は、裁判官や相手方代理人が「この司法書士なら上質な審理に貢献してく
れる。」と思うかどうかではないでしょうか。

 また、ガチンコ裁判や示談交渉が終わった数か月後に、相手方本人から「丸
田さん、別件で相談があるんですが。」という電話をいただくことがあります。
決して安易に譲歩しているわけではありませんが、何故か相手方本人とも信頼
関係ができてしまったりするのです。利益相反の関係上、受任はしにくいです
が・・・。

 勿論、私の依頼者との水平な信頼関係の構築については、ほかのどの司法書
士にも弁護士にも負けたくありません。

 要するに、関係各位の全員が、私にとっては「より上質な紛争解決を実現す
るための同志」なんです。

 ちなみに、以上は「業者事件を除く民事一般事件」の話です。

 話を商業登記に戻します。時々、「資本金の額」の減少や「発行済株式の総
数」の変更の依頼をいただきます。今も1件準備中です。

 その度に、金子先生の書籍を読み返しては取り組んでいるのですが、何度や
っても雲をつかむような感覚になります。いわゆる「減資」の目的(欠損填補
? 株主への払い戻し?)や、有償無償の選択、準備金・剰余金の動き、自己
株式の取得と消却などなど事案ごとに税理士と実体確認をし、議事録を作るの
ですが、どこかしっくりこないんです。

 以前に「資本金」と「株式数」が無関係になった影響もあるでしょうし、
「資本金」が単なる係数であるというのも原因のようです。

 そんな、もやもやを解消しようとこのテーマで資料を作って講義をしたりも
しましたが、その後も事案が来るたびに雲をつかんでいます。

 私が作った議案の流れでいいんだろうか、税理士は本当にそれを理解し確認
してるんだろうか、などと思いながら、今日も一日が過ぎていきます。

 最後に余談ですが、以前、このブログに投稿させていただいて以来、金子フ
ァンの皆様に時々私のブログにもアクセスいただいているようです。この場を
借りて御礼申し上げます。

(以下、金子が追加)
http://shi.shigyo.info/maruta/


2014.04.08(火)【中間領域の会社】(金子登志雄)

 定款に「代表取締役は株主総会で定めることもできる」とか「支店の設置を
株主総会で決定できる」と定めた場合は、この取締役会設置会社は非取締役会
設置会社に近づいたことになります。

 一方、「代表取締役は取締役の互選で定める」と定めた非取締役会設置会社
は意思決定において取締役会設置会社に近づいたことになります。

 こうして、典型的非取締役会設置会社と典型的取締役会設置会社との間には
多数の中間形態があるのが分かります。

 代表者選任方法を中心に登記上問題となるのは、この中間領域ですが、こう
してみると、取締役会設置型か非取締役会設置型かとこだわるのが、ばかばか
しくなりませんか。

 今後、この中間領域につき、もう少し検討しようと思っています。


2014.04.07(月)【最先端の法務部】(金子登志雄)

 4日金曜日に「会社法29条と295条2項」のことを書きましたら、何た
る偶然か、定款に「代表取締役は株主総会で定めることもできる」と定めた取
締役会設置会社A社から代表取締役変更の登記依頼がありました。

 A社は某一流上場企業の孫会社ですが、その議事録が会社法及び商業登記法
の最先端のテクニックを駆使した素晴らしいものでした。A社の担当者の話に
よると、この議事録案は、上場会社の法務部の指示で作ったものだそうです。
定款内容も同じでしょう。

 どんなテクニックかは、まだ登記申請中であり、法務局の反応も不明なため、
ここには書きません。というのは、最近の法務局は、法務局というより行政局
といったほうがよいほど、一部の職員が、適法かどうかよりも、通達や先例に
準拠した内容かどうかを基準に判断し、「経験したことのない登記」に拒絶反
応を示す傾向があり、運悪く、そういう職員に当たると、この登記の受理に苦
労しそうだからです。

 わがESGのお仲間からも、こんなメールをいただきました。
----------------------------------------------------------------------
 金子先生は例外ですが、多くの司法書士は、「法務局に何か言われれないよ
うに無難な書類、無難な書類~」を作ってしまいます。そして、法務局もそれ
に慣れ見たこともない書類だと、???? 「これ、見たこともない。ダメだ
よぉ~」となりがちですね・・・。
----------------------------------------------------------------------

 法務局OBで商業登記の神様といわれる神崎満治郎先生が、「法務局の言い
なりにならないことが法務局を育てることになり、商業登記を発展させ、司法
書士にも法務局にもよい結果を産む」とおっしゃっていましたが、私も同じで
あり、法務局は敵ではなく商業登記実務の同志だと思っていますので、異論が
あったら、「適法な内容であることに司法書士生命をかけてもいい。再検討し
てほしい」と反論したこともあります。

 しかし、上場企業の法務部が登記のテクニックについても急速に進化してい
るのに、わが司法書士界、法務局は、それに着いて行けているのでしょうか。
今後、あちこちで、最先端の法務部と先例主義の法務局職員との間に挟まれて、
双方から疎まれる司法書士が増えそうな気がしています。プロの司法書士にな
るか、法務局出入り商人に陥るか、あなたの生き様が問われています。


2014.04.04(金)【会社法29条と295条2項】(金子登志雄)

 会社法29条によると「株式会社の定款には、………この法律の規定に違反
しないものを記載し、又は記録することができる」とあります。

 事業年度が典型例ですが、定款で代表取締役を定めることもできます。取締
役会設置会社でも同じです。非設置会社から設置会社に移行する際に、よく利
用しているとおりですが、この根拠条文が29条です。

 登記情報539号19頁に、会社法立案担当者が「代表取締役の選定につい
て、取締役会設置会社においては、取締役会決議による方法(会社法362条
3項)、★定款をもって直接選定する方法(会社法29条)★及び定款にその
旨の定めを設けることによる株主総会決議による方法(会社法295条2項)
があり………」と書いているとおりです。

 本規定は設立の章に置かれていますが、上記からも、定款記載事項一般につ
いての規定であることは明らかです。
 
 上記の会社法295条2項は「取締役会設置会社においては、株主総会は、
この法律に規定する事項及び★定款で定めた事項★に限り、決議をすることが
できる」という内容です。定款で定めれば、株主総会で代表取締役を定めるこ
とができますが、取締役会の選定権限を奪うことができませんので、権限は併
存します(相澤哲ほか編著『論点解説 新・会社法』265頁)。

 もうお分かりでしょうが、定款で直接定めるのが29条で、株主総会という
ワンクッションを置く間接方式が295条2項ですが、この関係がまだ十分に
理解されていないようです。

 他の例でいいますと、取締役会設置会社が定款で「平成26年4月1日をも
って大阪市………に支店を設置する」と直接定めるのが29条で、定款で「株
主総会で支店を設置することができる」と定め、株主総会で「平成26年4月
1日をもって大阪市………に支店を設置」と決議するのが295条2項です。

 定款の本文に定めようが附則に定めようが、定款の効力に差はありません。
ネット情報によると、間接方式はよいが直接方式は無理と思っている公証人な
どもおられるようですので、ネタにした次第です。


2014.04.03(木)【さよなら特例民法法人】(島根・根来川弘充)

 2008年12月に特別法が施行されてから、それ以前に成立した民法法人
は「特例民法法人」と言われ、公益法人、もしくは、一般法人とは、区別され
ていました。

 特例民法法人は、昨年11月末までに公益法人か一般法人に移行しなければ、
解散したことになってしまいます。

 移行の登記は、主務官庁の認可(もしくは許可)を受けてから、主たる事務
所で2週間以内にすれば良いことになっているのですが、3月も半ばを過ぎて
から、「一般法人への認可を受けたので、移行の登記申請をしてほしい」とい
う依頼を受けました。

 私は、昨年11月以降、特に相談を受けたこともなかったので、特例民法法
人について何か申請することは、もうないだろうと思っていただけに、私とし
ては、最後の申請になるかと思うと、何か感慨深いものを感じました。

 今まで、特別法施行前から、会社以外の法人の登記を多くしたというわけで
はありません。ですので、たまに依頼を受ける法人の登記と言えばそれまでで
すが、それでも、制度上、無くなってしまうのかと思うと、やはり、さびしい
ものを感じています。

 一方で、無事に、公益法人もしくは一般法人に、移行できた特例民法法人は
どのくらいの割合であるか、気になっています。今後、無事に移行できなかっ
た特例民法法人から、相談を受けることが無いことを、祈るばかりです。


2014.04.02(水)【本は知識の宝庫・心の栄養ですね♪】(富田太郎)

 昨年に続き(2013.11.07付本徒然参照)今年の初めに、またもや、
「旧根抵当権」の案件がありました。

 もっとも、今回は、不動産の量も多く、事案がより複雑で、平成に入って司
法書士となった私には、未知&神話の世界?でした。

 現在の根抵当権は、昭和47年4月に法制化されたもので、それ以前の根抵
当権はいわゆる「旧根抵当権」と言って、今の法律の根抵当権とは内容が異な
るため、現行法の根抵当権に変更しなければならないのです。

 詳細は省略しますが、主登記で極度額増額登記がされていたので、分割の登
記を入れたり、債権の範囲等を変更したり、物件も多く、また、通達では触れ
られていない論点もあり、ちょっと苦戦しました・・・・。

 どちらかというと、商業登記中心の私ですが、何故、旧根抵当権案件が、零
細「富田事務所」に来るのか?しかも、かなり癖のある案件・・・・。わが身
を嘆きました。

 以前も書きましたが、そんなとき役に立つのは資料・本です。ESGにはい
ろんな経験をされている司法書士がおり、渡部さん、鈴木さん、から紹介され
た下記本には、今回も助けられました♪

 ① 根抵当登記実務一問一答 金融財政 昭和52年発行
 ② 例解 新根抵当権の実務 商事法務 昭和47年発行

 それから、比較的新しい本ですが、

 ③ 根抵当権の実務 社団法人地方銀行協会編 金融財政 平成13年発行

などは、旧根抵当権から新根抵当権に変更するための「根抵当権分割」等の変
更契書式例まで記載されており、本当に重宝しました。

 40年前の法改正案件であっても、専門書等を読めば理解できる♪ 本って、
素晴らしいですね♪

★追伸★――――――――――――――――――――――――――――――
 ESGの仲間(鈴木隆介さん&山本浩司さん)と下記本を出版しました。
ご興味のある方は、是非!ご覧ください♪

 『もう知らないではすまされない 著作権』中央経済社 1700円+税

 奥田百子(監修)鈴木隆介・山本浩司・富田太郎著
――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本は素晴らしいですね♪

 えっ?上記、新刊本のことを書きたかったから、無理やり本を題材にした徒
然を、書いたのでは・・・・・って??
 いぇ・・・・違います・・・・(汗)。



2014.04.01(火)【司法の民主化は遠い】(金子登志雄)

 新年度が始まりました。コートを着ている人がめっきり少なくなりました。
外では桜が咲いています。春は気持ちがいいですね。

 これから何かよいことが始まるような陽気なのに、袴田事件が即時抗告され
ました。逃げも隠れも証拠隠滅もしないでしょうから、裁判の確定をなぜ待た
ないのでしょうか。

 袴田事件は昭和41年だそうですから、前期高齢者の私が高校生時代です。
あれからずっと、いつ死刑が執行されるかと恐怖に怯える毎日だったことでし
ょう。信じがたい生涯です。

 冤罪の可能性が非常に高いので、法務大臣は誰もゴーサインを出さなかった
ようですが、袴田氏はそのことを知らずに生きてきました。いまでも車いすを
勧められると、執行の場に連れていかれると恐怖におののくとか。

 数年前にはずっと冤罪を主張していた方が死刑執行されました。ほんとは無
実だったかもしれません。死刑に至らない軽罪の冤罪(痴漢や政治事件)は、
相当な数にのぼるようです。「執行猶予だからこの辺で妥協しないと周囲に迷
惑がかかる」と計算させて嘘の自白をしてしまうようです。これは教養の高い
人を落とす方法です。

 刑事犯罪の冤罪の多くは、無職でちょっと知能程度が低く、世間から気持ち
悪がられている男がターゲットに狙われ、自白を強要されてしまうことが多い
ようです。世間もあの人なら、やりかねないと思っているので、当局も正義の
味方のつもりになれるのでしょう。こういう人は、恫喝されれば3日も持たず、
迎合してやっていないこともやりましたといってしまう傾向があるようです。

 PC遠隔操作事件の片山氏は、取り調べの様子を可視化してくれれば何でも
しゃべると上手にがんばったため、拷問まではされなかったようですが、その
代わり、1年以上も外に出してもらえませんでした。

 小沢秘書の石川さんは自殺の恐れ(証拠隠滅)がないのに、勝手にそういう
ことにされ国会議員でありながら逮捕されてしまいました。猪瀬前知事やみん
なの党の渡辺氏は全く逮捕される様子もありません。あの非民主的な魔女狩り
の猛威のようだった無実の小沢バッシングと比較して、司法の不平等を責める
マスコミはありません。わが国における司法の民主化は道遠い………。


2014.03.31(月)【期末の辞任】(金子登志雄)

 今日は3月決算会社の事業年度末日ですから、人事異動で「辞任」の登記
がいくつかあります。後任の就任が新年度の4月1日ですから、実際の登記
は明日になります。

 中小企業であれば「辞任」は、「あれ、内紛でもあったかな」と思うこと
もありますが、上記はほとんどが上場会社の役員や子会社の役員のことです
から、定例の人事異動です。サラリーマン世界の話です。これがあるから、
私の仕事も成り立っているわけで、ありがたいことです。

 中には、子会社の社長の交代もあります。新社長の印鑑証明書をみると、
近県の通常のマンションに住んでいるらしいことが分かります。

 「社長=高級一戸建て居住」ではないのです。上場会社の役員も、子会社
の社長も、オーナー社長でない限り、われわれと同じ長屋生活です。仮に運
転手付の自動車に乗っていてもそれは会社の財産であって個人のものではあ
りません。

 定年辞任もあるでしょう。安倍さんのオトモダチになればNHKの委員に
してもらえて失言でもしていればよいのでしょうが、そういう後ろ盾がない
と庭いじりで時間をつぶそうにも長屋生活では庭もありません。・・・つい
つい、定年辞任する方の今後の退屈な生活を想像してしまいました。お暇だ
ったら、司法書士試験でも挑戦しませんか。


2014.03.28(金)【資本金の多寡とゼロ】(金子登志雄)

 昨日は減資(いまは資本金の額の減少といいます)の登記を申請しました。
資本金数億円を1億円以下にして外形標準課税対策にしようとするものです。

 これに対して、今日は、利益剰余金の資本組入れの登記申請があります。
今日の会社は許認可の関係で資本金が大きいほど都合がよいようです。

 ということで、業種によって資本金の価値が異なりますが、ふと、日本で
1番資本金の大きい会社はどこかと調べてみましたが、どこだと思いますか。

 上位3つは、案の定、銀行系でした。1位が(株)三井住友フィナンシャル
グループの2兆3378億円で、2位はみずほ、3位が三菱UFJでした。
4位になってはじめて事業会社が登場しますが、東京電力でした。ここまで
が1兆円以上で、5位以下は単位が1桁相違しました。

 逆に上場会社でありながら、資本金が1億円に満たない会社も17社あり
ました。上場の際に公募したはずですから、途中で減資でもしたのか理由は
不明です。

 さすがに資本金0円はないようです。現在は、これが許されます。資本金
以外でゼロが許されるのは、100%減資の際の発行済株式の総数でしょう
か。それ以外にも、たまに、「普通株式〇〇〇株、A種種類株式0株」など
という登記簿をみますが、こういう場合のゼロは登記すべきではないと思っ
ています。何も書いてないことで、ゼロだと分かりますから。


2014.03.27(木)【日本語講師】(金子登志雄)

 昨日は久々の会社法講師で、まだ雪の残る山形県米沢市に行ってまいりまし
た。地酒とともに松阪牛・神戸牛と並んで日本三大和牛に数えられる米沢牛を
ご馳走になってまいりました。味覚音痴の私にはもったいないことでしたが、
セミナー担当のT先生ほか皆様お世話になりました。

 セミナーでは全問をQ&Aにしてみました。眠くならずに済むからです。

 簡単な問題を1つご紹介しましょう。

 会社法349条には、「定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決
議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる」とあるので、
文字どおり、株主総会で代表取締役を定めた場合も定款の添付が必要となり、
また取締役全員を代表取締役に定めることはできない―――〇か×か。

 この前段を「定款の定めに基づく取締役の互選又は定款の定めに基づく株主
総会の決議」、後段を「取締役の中から適任者を選び出す」と解釈してしまう
方がおられるので、Qにしてみましたが、本欄閲覧の方は大丈夫ですか。

 非取締役会設置会社の株主総会は万能で何でも決められますから、定款の定
めは不要です。条文は「株主総会の決議又は定款の定めに基づく取締役の互選」
という配列にすべきでした。

 「取締役の中から代表取締役を定める」は、取締役の中から一部の適任者を
選ぶという意味ではなく、代表取締役は取締役でなければならないという意味
ですから、取締役全員を代表者にすることもできます。会社法362条3項の
「取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない」も同じ
解釈であり、全員を代表者に選定することが可能です。

 これじゃ、まるで日本語講師ですね。立法担当者は誤解を招かない日本語の
文章に疎かったようです。


2014.03.26(水)【割当てもどき】(金子登志雄)

 21-23日の3連休は拙著『募集株式と種類株式の実務』(前身は『これ
が新増減資だ種類株式だ』)の改訂版作業をしておりました。会社法改正案が
落ち着いたため、やっと改訂版に着手することができました。

 2年以上経て読み直してみましたが、(手前味噌ですが)我ながら濃い内容
に驚きました。もうちょっと平易な内容の本と思っていましたが、論文かのよ
うでした。

 この本の最大のインパクトは。募集と割当ての相違を明らかにしたことでし
た。それまでは、第三者割当てを株主総会で決議したのに、なぜ取締役会で再
度割当決議をする必要があるのかと疑問に思われていたからです。

 そこで私は株主総会で決議したのは募集行為の1つの「割当てもどき」であ
って、割り当てられる権利を付与した真の割当てではないと説明しました。

 すなわち、親戚知人に「出資しませんか」と声をかけるのが縁故募集だとし
たら、特定のAさんやBさんに「あなた達だけにお願いします。出資しません
か」と出資を勧誘するのが世間でいう第三者割当てであって、これはAさんや
Bさんが申し込んできても自動的に割り当てたことになる「割当てを受ける権
利」を付与したわけではないので、「割当てもどき」だと説明しました。

 ですから、株主をその持ち株比率に応じて平等に扱う場合でも、株主に「割
当てを受ける権利」を付与しなければ、これは第三者割当てであって、総数引
受契約でも実行することができます。

 いまは100%子会社での増資はほとんどこれでしょう。その先鞭をつけた
本として、私にとっても愛着のある本でした。改訂してもニーズがあるか不安
ですが、なるべく早く出したいと思っています・


2014.03.25(火)【解散と清算株式会社】(金子登志雄)

 3月31日が近づきました。例年、この日に解散する会社が多く、4月1日
の官報には多数の解散公告が掲載されます。

 先日、3月31日をもって解散と事前に決議した場合は、31日24時の解
散だから4月1日付解散になるのかと質問されました。私の返答は、「会社が
どういうつもりで解散したか次第でしょう。午前0時に解散のつもりだったか
もしれませんし……。また、たとえ24時解散だとしても、4月1日付けでは、
会社の意思に反すると思う。清算会社の事務年度の開始時期が解散日の翌日に
なっているため(494条1項)、会社としては3月31日に解散し、4月1
日から清算会社という意向だから」というものでした。

 その質問の中に株主総会で同時に選任した清算人の就任は登記事項ではない
が4月1日になるのかというものがありました。

 しかし、31日午後5時に解散しても、清算事務年度は4月1日からになり
ますから、会社法494条1項は、事務年度を日の単位で区切っただけであり、
「解散時点=清算会社への移行時点」は、やはり午後5時というべきです。

 こう考えると、清算人の株主総会での選任は常に「予選」になりますね。本
例で清算会社になった4月1日以降に清算人を選任してもよさそうに思います
が、この場合は、「法定清算人→株主総会選任清算人」ということになるでし
ょう。持分会社から株式会社に組織変更した場合は、組織変更後に取締役の就
任承諾があれば足りますが、清算人の場合は解散後では無理のようです。

 通常の会社から清算会社になることは、組織変更とは似て非なるものと思い
ました。



2014.03.24(月)【ゴーストバスター】(金子登志雄)

 合資会社は無限責任社員と有限責任社員で成り立ち、合同会社は有限責任社
員だけで成り立つ会社です。たった1人の無限責任社員が死亡し相続人がその
地位を承継しないと、合資会社とはいえなくなります。

 そこで、会社法639条2項は「合資会社の無限責任社員が退社したことに
より当該合資会社の社員が有限責任社員のみとなった場合には、当該合資会社
は、合同会社となる定款の変更をしたものとみなす」と規定しています。

 この規定をみれば誰でも、無限責任社員の死亡の日が3月1日であれば、そ
の日に「合同会社となる定款の変更をした」と解釈するでしょう。これが常識
的解釈というものです。

 ところが、数年前の1時期、東京法務局で「合同会社〇〇」と商号まで決め
なければならないから、それを決めた日(例えば3月10日)が合同会社にな
った日だという見解が出されました。どうも、その見解が全国の法務局に伝染
していたようで、いまだにその亡霊が生き残っていることを知りました。地方
の某大手法務局で、3月1日付けで申請したら10日に訂正させられてしまっ
たという情報が司法書士連合会のネットに載っていたからです。

 この見解では、新商号等を決めるまでずっと無限責任社員が存在しないのに
合資会社のままになってしまうじゃないか、法務省の担当者の著書である『商
業登記ハンドブック』や『通達準拠/会社法と商業登記』の見解に反するじゃ
ないかと書いた2年前の拙稿(一昨年の登記情報605号55頁)を示しても
効き目がなかったそうです。

 拙稿には、商号が決まらないうちは合同会社といえないのなら、3月1日に
生まれた乳児は親が名前をつけるまで人間ではないのかとまで皮肉を込めて書
いたのに、通じなかったようです。理屈ではなく、その法務局の統一方針とい
う行政の論理が優先したとのことです。

 しかし、少なくとも、この亡霊見解の発信元である東京では、この見解は生
き残っていないはずです。現在でも生き残っているのは、たぶん、その大手法
務局だけだと思いますが、登記官の個人的意見ではなく、その法務局の統一見
解というのなら、全国的にも影響するため、地元の司法書士会さん、早めに退
治をお願いします。


2014.03.20(木)【隠ぺい文化】(金子登志雄)

 最近の刑事ドラマは、警察内部で不祥事が起こると幹部が隠ぺいをはかり、
正義の主人公がそれを阻止するという内容が多いように感じていますが、昔か
らだったでしょうか。

 さて、一昨日は、ネットで、恐ろしいドキュメンタリー番組を見てしまいま
した。フランスの報道番組のようです。

https://www.youtube.com/watch?v=6JdXl7Ol5_U&feature=player_embedded#t=137

 最もショックな部分は、フクシマの学校に置かれている放射能測定器の値が
低くなるように測定会社に国が圧力をかけていたことでした。また、28年前
になるチェルノブイリ時代のソ連よりも、先進国?の日本の現状の安全基準が
圧倒的に低いということでした。ソ連政府では居住を許さない場所に、いまで
も日本人が安全だといわれて住み続けているとのことです。まるで、人体実験
じゃないですか。

 国民は無知だから不安をあおってはいけない、真実は一部の支配階級が知っ
ていればよいというのは後進国の論理です。事実を知らねば正しい判断は誰も
できません。また都合の悪いことは隠せという隠ぺい体質は、ムラ社会の論理
であって、ムラの外にとっては、えらい迷惑です。

 もっと取り締まりを強化せよと思う人もいるでしょうが、隠ぺい体質は日本
全体のもので、国の組織である警察や検察組織のほうが一般社会以上にひどい
状態ですから、絶望的気分です。

 こういうときこそ真実の情報を求めるマスコミの出番ですが、日本にはまと
もな報道機関がありません。社長が政権幹部と夜の宴席を共にし、親交を深め
ている国です。先進国並みの覚醒した国民による民主国家への道はまだまだ先
のようです。



2014.03.19(水)【ハンコ文化】(金子登志雄)

 流行っている事務所は12月決算会社の定時株主総会でご多忙なようですが、
当事務所の顧客には、12月決算会社がほとんどありません。ほとんどが3月
決算会社です。

 したがって、今あるのは、3月31日付け辞任と4月1日付け役員就任の手
続の相談が中心になっています。代表取締役の交代もあります。

 それらの相談過程で議事録案を作ることが多いのですが、100%子会社な
ら株主が1名ですから、会社法319条のみなし総会(株主全員の同意による
書面決議)が最も容易ですが、お客様の中には、ちゃんと取締役会を開いて、
臨時株主総会を招集して……という手続にしないと困るという会社もあります。

 取締役会を開催して議論してハンコを押さないと、役員の仕事を全うした気
分になれないのかもしれません。われわれも登記申請書にハンコが不要といわ
れたら、きっと有難味がなくなり、寂しい気分になることでしょう。

 ところで、最近の代表取締役就任者等の印鑑証明書をみると、これで実印か
と感じるものが増えました。三文判と大差がないのです。実印らしい印影も多
いのですが、正式(?)に氏名全部の入った実印をみる機会が減りました。

 きっと、急に実印を登録しなければならないことが過去にあり、急遽、いつ
も使っていた身近にあるハンコを登録して、そのままにしているのでしょう。

 「他と識別できるその人独自の印影のもの=実印」という概念は廃れつつあ
るように感じていますが、他の司法書士さんはどうでしょうか。インターネッ
ト時代ですから、仕方ないとはいえ、100年後の日本にハンコの習慣や文化
が残っているのか疑問に感じています。


2014.03.18(火)【毎月末日現在】(金子登志雄)

 新株予約権が2月中に6個(4日に1個、5日に2個、14日に3個)行使
されたとすると、3つの登記を個別に申請するのが原則ですが(3つを同時に
申請することもできます)、会社法915条3項に「毎月末日現在により、当
該末日から2週間以内にすれば足りる」とあるため、例外的に2月末日付で一
括して6個の行使があったと登記することもできます。実務上は、この一括登
記のほうが主流です。

 さて、この新株予約権の行使期間が「平成26年2月20日」までになって
いたら、2月末日付では登記できません。そこで、原則に戻って、個別に登記
するしかないのか、行使期間満了日の20日付なら一括登記も受理されるのか
という質問が商業登記倶楽部にありました。

 私は、行使期間満了日付の一括登記が可能だと思うと回答しましたが、これ
に対して、都内A法務局では一括登記を認められなかった経験があるとの情報
が商業登記倶楽部に寄せられたとのことです(矛盾したことに14日に全部行
使がなされた場合は一括登記を肯定するのだとか)。こういう情報が多く寄せ
られることは、ありがたいものです。

 想像ですが、A法務局では、上記のようなケースは明文がないのだから原則
どおり個別でしか申請できないと考えたのでしょう。

 しかし、この条文の「毎月末日現在により」とは、月次決算と同様に毎月月
末締めで、その月の分をまとめて登記してよいというものでしょう。重要なこ
とは、一括登記が可能だということであって、毎月末日は、行使期間中の通常
の場合を意味するだけだとみるのがリーガルマインドではないでしょうか。

 2月末日で締めたら、6個の行使があったので、行使期間の満了日が20日
だったため、その日付で一括登記したいというのが自然な流れです。

 たぶん、上記の法務局と同じA法務局だと思うのですが、地元のある有力司
法書士さんが、つい最近、A法務局に尋ねたところ、「当法務局では一括登記
を受理する」との回答でした。一時的にNOと答えても、落ち着いて考えれば、
肯定説になるものです。

 あるいは、聞く人によって、回答する人によって、内容が異なり、法務局を
代表した見解でないこともよくあります。また、単に、YESかNOかと聞く
のではなく、私はこれこれの根拠でこう考えましたが、これでよいでしょうか
と聞かないと、おかしな回答になることが少なくありません。

 重要なことは法務局の誰かさんがどう答えたかではなく、自分がどう考えた
かではないでしょうか。



2014.03.17(月)【専門家格差】(金子登志雄)

 土日は会社法の講演レジュメを作っていましたが、改めて商業登記の専門化
傾向を確認しました。年々、私の作るレジュメのレベルを下げざるを得なくな
ってきているからです。旧商法時代には当たり前のように通じた話が通じにく
くなってきました。

 第1に、地方では商業登記を扱う登記所が1県1か所程度になったため、商
業登記知識の普及度が減少し、扱う人が減少してきたこと。この結果、扱う人
と扱わない人とのレベル差が拡大したこと。このまま行くと、平均的司法書士
の会社法知識が税理士並に落ちるのではないかと危惧してしまいます。

 第2に、会社法改正動向をみるまでもなく、多機能化のバージョンアップが
進み、分量が増えてきたこと。現行会社法がウインドウズXPとすれば、改正
会社法は8.1です。ますます?使いにくくなります。監査等委員会など、採
用する会社が日本全体でも何社になるのでしょうか。現行委員会設置会社です
ら100社に達していません。特別取締役制度採用会社など聞いたこともあり
ません。機能ばかり増えて、無用な機能を排除しないのですから、六法も厚く
なります。どうせなら、枕に代用できるほど厚くしてほしいくらいです。

 第1の部分に関しては、都市部でも同じであり、種類株式・新株予約権・組
織再編あたりの論点を電話だけで議論できる司法書士は限られてきました。会
社法が改正後には、さらに進むでしょう。

 アベノミクスは、米国並に1%の金持ちと99%の平民を作る経済政策です
が、このまま行くと、司法書士も1%の会社法・商業登記のプロと99%の平
民司法書士に分化しそうです。1%側の私にとっては一見ありがたいことのよ
うですが、肝心の収入の面では99%の側ですから、少しもありがたくありま
せん。もっともっと議論できる司法書士が増えてくれたほうが、楽しみが増え
るというものです。


2014.03.14(金)【ゴーストライター】(金子登志雄)

 立花さん、投稿ありがとう。相変わらず、書き出しが上手ですね。ゴースト
ライターでも、開業したらいかがですか。

 私は、ゴーストライターにさほど違和感を持っていません。りっぱな職業で
あり、本人のへたくそな文章を読むくらいなら、ゴーストライターの分かりや
すい文章を読むほうがよほどマシだと思っています。

 あの作曲家の問題でも、製造と販売を分担していただけなのに、もう少し、
上手な着地があってもよかったのではないでしょうか。

 日経新聞に「私の履歴書」というのがありますが、私は、あれは新聞記者が
書いている、あるいは相当に手を入れていると思っています。内容が分かりや
すすぎます。素人はもっと下手な文章を書くはずですし、あの枠内に字数ぴっ
たりに終わらせることは無理です。

 それでも本人が「このとおりでした。これで結構です」と納得すれば、それ
で十分ではないでしょうか。総理大臣や社長の演説原稿を部下や取り巻きが作
文しているのと大差ありません。

 ところで、3.11問題ですが、なんと、あの放射能地域に取り残された犬、
猫、牛、だちょうを世話している方がいるのをご存じですか。最も放射能汚染
を浴びている方になります。外国メディアでは有名人のようですが、原発推進
の日本のメディアはわざと無視しているのでしょうか。下記サイト中段のドイ
ツ新聞の翻訳をご覧ください。

    http://ganbarufukushima.blog.fc2.com/


2014.03.13(木)【闇】(仙台・立花宏)

 その日、私は仕事が終わると、明るい街の中を避けるように帰宅しました。
帰宅後、電灯はつけず、暗い部屋の中で、懐中電灯の明かりを頼りに夕食をと
りました。夕食といっても、メニューは家に残っていたせんべいやビスケット、
そして、冷蔵庫に入っていた牛乳です。

 まだ、寒い季節ですが、暖房も使いませんでした。暖房のない自宅の部屋で
の生活はこんなにも寒いものだったのだと不思議な感慨を覚えました。テレビ
はつけず、携帯ラジオからの声に耳を澄ませていました。

 「あの日から3年、経ったのだな。」
 そうです。その日は3月11日。その日からちょうど3年前、東日本大震災
が発生しました。その日、私は、東日本大震災が発生した3年前のあの日の夜
の生活をあらためて体験してみようと、電気やガス等を使わずに過ごしてみた
のです。ほんの数時間ですが、電気やガス等を使わない生活というのは、非常
に不便なものだと実感しました。なによりも感じたのは、真っ暗な部屋の中で
の生活というのは、なんともいえない不安な気持ちになるものだということで
す。

 先日、週刊将棋新聞という新聞に、将棋の名人になったことがある故米長邦
雄氏の言葉が紹介されていました。「私は教育で一番大事なことは、子どもに
“闇を与える”ことだと思っています。例えば明かりひとつない森の中に子ど
もたちをぽんと放り出すと、怖いから誰かの手を握ろうとします。それが連帯
感になるんです。そして、自然に対する畏敬の念が生まれ、健全な心が育つん
です。しかし今は電気が24時間ついていて、画面を見ながらピコピコやって
います。それでは連帯感が生まれないし、親子関係もおかしくなります」

 あの日、私たちは天から“闇を与えられ”ました。単に明かりがない、とい
うだけの意味ではありません。将来が見えない状況という“闇”です。その闇
の中、私たちは不安な気持ちを抱えて生活していたはずです。当時、その“闇”
の中を生きていくために、皆、お互いを思いやり、助け合いました。連帯感が
ありました。

 そして今、街の中には再び、光が溢れるようになりました。スイッチを押せ
ば、電灯も、テレビも、そしてパソコンも使えます。溢れる光は、今だけでな
く、将来までも照らしているような感覚になります。

 子どもだけではありません。大人だって、24時間、光に照らされた生活が
当たり前になってしまうと、自然への畏敬の念が薄れ、感覚がおかしくなりか
ねません。

 あの日の“闇”だけは、けっして忘れないようにしよう。私は、そんな気持
ちで、その夜を過ごしました。


2014.03.12(水)【自己株に出資】(金子登志雄)

 先日は、司法書士連合会の掲示板の質問に間違って答えてしまいました。

 質問内容は、金銭で新株予約権の行使がなされ、全て自己株式が交付された
のだが、金銭の払込みに関する証明書が必要かというものでした。

 旧商法時代の私の記憶では、間違いなく(?)不要だったので、「自己株式
が交付された場合は発行済株式数も資本金も増えないのだから不要です。通達
で添付書面の部分をご確認ください」と答えてしまいました。

 通達のその部分には、「金銭を新株予約権の行使に際してする出資の目的と
するときは払込みがあつたことを証する書面」とありましたので、やはり「資
本金額が増加する出資の目的」がない限り不要であることに間違いないと事前
に確認していました。

 ところが、あとで質問者から結果は必要だったといわれ、「まさか!」と思
い、あわてて調べましたら、私自身も旧商法時代に「銀行の保管証明書が必要
だから気をつけましょう」とお客に説明していた資料まで出てきました。

 いつから、なぜ間違った思い込みをしてしまったのかは、いまだに不明です。
なぜか、自己株のときは、銀行も保管証明さえ出してくれないと間違った思い
込みをしていました。

 それ以上に、驚いたのは上記の「出資の目的」です。新株の発行と自己株式
の処分を規定している会社法199条にも、「金銭以外の財産を出資の目的と
するときは」などとありますから、この「出資の目的」は、発行済株式数や資
本金の増加を目的とすることではなく、単なる出資の対象という意味で、財産
の種類を表すだけでした。

 間違った思い込みをしていると、見慣れた表現さえ異なった受け止め方をし
てしまうものだと妙に不思議な感覚でいます。



2014.03.11(火)【あれから3年】
(金子登志雄)

 あれから3年ですね。

 被災者はいまだに故郷に帰れず、放射能の後遺症や2次被害に苦しんでいる
というのに、責任追及はうやむやにされ、「絆」・「ひとつになろう日本」な
どという標語のもとに、いつしか日本人全体の総ざんげ問題にされてしまい、
それを理由に消費税アップの口実に使われてしまいました。

 今や、のど元過ぎればで、東京オリンピックの開催決定やソチオリンピック
のお祭り騒ぎや、反韓・反中国に目を向けさせられで、政権及び大マスコミの
国民誘導作戦は大成功のようです。被災地の人は、東京オリンピックのせいで
復興が遅れると困惑しているようですね。

 この4月からは消費税が大幅にアップしますが、「消費税アップ→国の税収
増加→官僚が使えるカネが増える→利権の拡大と公務員天国→庶民は地獄」と
私は思っていますので、これで「→更なる不況の深化→失業の増大→無差別殺
人や放火の増大、他国蔑視の右翼思想の拡大」がますます増えるのではないか
と心配しています。

 生活が苦しくなると、精神も劣化し、俺が不幸なのは世の中が悪いからだと
思い犯罪が増えますし、精神のバランスを保つため、他を蔑視する傾向が生じ
ます。

 生活の底上げこそ平和社会につながると私は思っていますが、被災者や弱者
切り捨ての格差社会が今後も続きそうですから、庶民の我らは、生活防衛に努
力するしかないのでしょうか。若者は、弁護士や司法書士よりも公務員を志望
するようになりそうです。


2014.03.10(月)【確定申告と著作の改訂】(金子登志雄)

 今週は、個人の確定申告のピークで、会計事務所に雑談の電話でもしようも
のなら、怒鳴られても仕方ない時期です。

 私は、面倒な経理や税務申告は親族に任せているので、確定申告ももう済み
ました。

 結果は、前年よりも納めなければならない税金が大幅に減りましたが、これ
は、喜んではいけませんね。収入が減ったという意味ですから………。

 固定顧客中心の司法書士業務は、例年どおりでしたが、印税や講演料という
余禄(?)の雑収入が会社法バブルの崩壊で、いまだに減少し続けています。

 しかし、たぶん、昨年で底打ちしたでしょう。今年あたりから、会社法の改
正を前提に、著作の改訂版を出す時期になるからです。

 著作の改訂は校正と同様に見直し作業に似ており、自由な創造力を十全に発
揮できる場面ではないので、意欲はわきませんが、改訂版を出せるという意味
は、自分の作品がまだ世の中から利用価値を認められているという証拠ですか
ら、うれしいことでもあります。

 いまや伝説の名著(?)になった『組織再編の実務』(商業登記全書)も、
今年か来年には改訂版を出したいと思っています。


2014.03.07(金)【募集によらない新株の発行】(金子登志雄)

 司法書士駆け込み寺の当事務所では、この時期、全国からの問い合わせが増
えますが、近年は、種類株式の質問が増えてまいりました。

 さて、次のように株式が発行されており、甲種株式は、甲種株式1株を会社
に取得請求すると、普通株式1株が交付される内容だとして、いま100株を
取得請求したら、次はどう変化するでしょうか。

  普通株式        1000株
  取得請求権付の甲種株式  100株

 甲種株式が0株になって、普通株式が100株増えると思い込みしている人
(登記官を含む)が多いのですが、取得請求というのは、甲種が普通株式に転
換(変身)することではなく、甲種は会社が取得して自己株式となり、その取
得の対価が交付されるという物々交換方式です。よって、甲種株式数はそのま
まで、普通株式が100株増えます(新株の交付の場合)。

 続いて、新株の普通株式が100株増えることに、新株の発行決議が必要だ
と思い込んでいる方が少なくありません。

 この新株は募集株式ではなく、募集によらない甲種株式との引換株式ですか
ら、新たに発行決議をする必要がありません。自動発行です。株式の無償交付
も株式分割も、募集によらない新株の発行だから、資本金が増えないのです。


2014.03.06(木)【ソチオリンピック】(根来川弘充)

 2月に無事開催を終えたのソチオリンピックに大変興奮いたしました。私は、
昔スキーに真剣に取り組んだ時期があるのですが、人間、板一枚、思い通りに
扱えないものだということを、身にしみて感じております。

 もし、間違って自分が同じ場所に立っていたなら、雪山の斜面も、スケート
リンクも、まともに立つ事さえできないだろうと思います。

 そんな場で、競技をしている選手を見るだけで、とても興奮してしまい、仕
事に支障が出るとは思いつつも、ついつい遅くまでテレビを見てしまいました。

 ところで、このオリンピックについて、「メダルがとれない選手は、税金の
無駄遣いだ」という意見をインターネットの記事で目にし、すこし考えさせら
れました。

 税金を使ってスポーツをする場が他にないかと考えて浮かびましたのは、学
校の体育です。こちらは、憲法が義務づける教育の場だから、当然なのでしょ
う。

 私は、教育の資質の向上につながるのだから、オリンピック選手に税金を使
うことは、メダル獲得の有無に関わらず、必要だと思っています。

 しかし、何か少し説得力に欠ける気もしています。今は小さい記事かもしれ
ませんが、立法的な解決も必要なのかもしれないとも思いました。



2014.03.05(水)【縁起のよい会社】(金子登志雄)

 平成16年6月の定時総会で就任した取締役が平成18年6月の任期満了直
前の定時株主総会で任期を10年に延長したとすると、本年に任期満了です。

 やっと会社法によって任期が10年に延長された取締役の任期満了に遭遇し
そうです。今年は、こういう案件がぼちぼち入ることでしょう。

 通常は、途中で辞任したり死亡があるので、あるいは目的などの変更がある
ので、10年間登記しない会社は少ないのですが、もし、10年間全く登記せ
ずに済んだ会社があったら、実に縁起のよい会社といえましょう。誰も死なな
かったし、解任騒ぎもなかったということですから………。

 そういう会社は身近にはなく思い出せませんが、他の司法書士はいかがでし
ょうか。

 10年前の事件記録をみれば、いくつか出てくるでしょうが、とっくに他の
司法書士のところで役員変更をしている可能性のほうが大きいでしょう。

 私に限らず常連客以外のお客様は、その時々で司法書士を変えることが少な
くありません。

 先般の千代田支部の懇親会でも、ベテランの司法書士さんから「金子さんに
電話で相談したら、株式交換ができるといわれた人が、うちに依頼に来たよ」
といわれてしまいました。

 なぜ、当事務所に来なかったのか不明です。へたに名前が知られてしまった
ために報酬が高いとでも勘違いされたのでしょうか。それとも、不明点だけ解
決すれば、依頼する司法書士は近くの方で十分だと思ったのでしょうか。見知
らぬ人からの電話相談の場合は、こういうことも、たまにあります。



2014.03.04(火)【ハンコの押し方】(金子登志雄)

 今日はどうでもいい話かもしれません。

 さて、司法書士業務は押印する機会が多いのですが、角印である職印(司法
書士金子登志雄印)は文字数も多く10年以上も使っていたため、目詰まりし、
印影が汚くなったため、ネットで調べて、石鹸水を付け、歯ブラシで目詰まり
を除去し、同時に朱肉を変えました。

 朱肉を購入する際に、上手に押す方法を印鑑屋さんに聞きましたら、朱肉に
ドブっと浸すな、軽くポンポンと3度くらい叩き、押すときは「の」の字を書
くように、全部に均等に圧力をかけよ、とのことでした。どの世界にもノウハ
ウというものがあるものですね。

 さっそく実行してみましたら、新しい朱肉のおかげで、見違えるような印影
になりましたが、圧力のかけ方で、ムラが生じることもありました。

 ところで、まるでスタンプ印かのように文字がよく読める印影の委任状等を
もらうことがあるのですが、これ、たぶん、朱肉ではなく、朱色のスタンプ台
を使ったのではないでしょうか。

 押印は朱肉をつけよという決まりはないでしょうから、試しに私も朱色のス
タンプ台を入手し、使ってみましたら、やはりくっきりした印影が現れました。
新しい朱肉と新しい朱肉色のスタンプ台での印影は、私の目には、区別がつき
ませんでした。

 朱肉のほうが長持ちし、スタンプの場合は変色するそうですから、朱肉にし
ますが、多忙のときは、スタンプにし、黙っていることもあるかもしれません。


2014.03.03(月)【権威】(金子登志雄)

 今日はひな祭りですね。兄弟姉妹も子供も男ばかりの私には、ずっと無縁の
お祭りです。

 さて、上記トピックスの登記情報への投稿は、伝統的な登記実務への異論で
あり、ビジネス法務へのものは大手法律事務所や信託銀行の見解に対する異論
でしたから、私のことを「権威に逆らう人」と思う方も出てきそうです。

 これまでも、一般的見解に異論を唱えることが多かったので、そう思われて
も仕方ありませんが、当方としては全くその気がなく、法務局も大手法律事務
所等も、ともに会社法や商業登記を研究し発展させる同志であり、切磋琢磨す
る同業者としか思っていません。

 しいて言えば、私が逆らうのは日本の学者様に対してです。欧米の学者は実
務の研究にも熱心なのに、日本の学者は、机の上でしか研究しません。外国法
と比較して、日本法を論じているだけです。会社法学者でありながら、会社の
経営者の苦労を知ろうともしません。そういう方の主張に実務家の立場から反
発することが多いというだけです。

 20代、30代の頃は、権威ある学者本の見解と自分の見解が違うと、自分
の勉強が足りないと思いました。40代の頃は、お互いの立場が違うと感じま
した。50代を過ぎると、自分の見解に自信がつき、学者見解を批判すること
ができるようになりました。学者見解の背景までみえるようになったからです。

 歳をとるのも悪いものではありません。経験が増えると、みえないものもみ
えるようになります。権威に対して、従順にならずに済みます。


2014.02.28(金)【同時公告】(金子登志雄)

 今日は、4月1日合併等の公告掲載の最終日です。4月1日は組織再編の効
力発生日のピークですから、ここ数日、大量の公告が官報に掲載されています
ので、インターネット官報でも、ご覧ください。

 同時公告は官報の号外に掲載されますが、27日付官報でも大量に掲載され
ていました。組織再編よりも資本金の額の減少の方が多い印象でしたが。

http://kanpou.npb.go.jp/20140227/20140227g00039/20140227g000390112f.html

 しかし、こんなに同時公告があるということは、言い換えれば、いかに決算
公告をしていない会社が多いかということでしょう。

 無理もありません。北海道の片田舎の小さな株式会社でも全国に向けて決算
公告をせよというほうが無茶というものです。

 会社法制定時には、決算公告を大会社に限定しよう、公開会社に限定しよう
という動きがあったのですが、中小企業団体の代表が情報開示はいいことだと
いう発想で、決算公告の制限の緩和を要求しなかったため、旧商法時代と同様
に、すべての株式会社に必須のものとされてしまい、今日に至ります。

 最低資本金制度のない会社法の下では、資本金1円の会社も設立することが
できます。この会社も決算公告するときは約6万円の費用がかかります。資本
金の6万倍の費用負担ということになります。これでは、合併等の公告をする
ときだけ決算公告をするという会社が圧倒的多数になるのも無理ありません。

 なお、昨日「官報を決算公告掲載場所としている会社にあっては、同時公告
を行うことによって、結果的に決算公告をしたことになる」と説明しましたが、
これは通常の場合であり、当然ながら、損益計算書も公告しなければならない
大会社には通じません。大会社は決算公告しているところが多いので、ほとん
ど問題になりませんけど。


2014.02.27(木)【同時公告後の催告】(金子登志雄)

 ネタがなくなったら、先般の千代田支部セミナーです。

 そこの質問4に、次のようにあるのですが、東京法務局の回答は例によって
「後日回答」でした。

----------------------------------------------------------------------
 組織再編における債権者への催告書の記載内容について

 合併等組織再編の際にいわゆる同時公告(合併等の公告とB/S要旨公告を
同時に掲載)をした場合、債権者への催告書にはB/S要旨を掲載すべきか。
----------------------------------------------------------------------

 確認しましたところ、これは、公告方法を官報とする会社が、次のような同
時公告をした場合、催告書の発送の場合は、貸借対照表の要旨を掲載せずに、
この官報の頁を記載するだけでよいかという質問のようです。

 http://kanpou.npb.go.jp/20140226/20140226g00038/20140226g000380083f.html

 拙著『親子兄弟会社の組織再編の実務』51頁には、「官報を決算公告掲載
場所としている会社にあっては、同時公告を行うことによって、結果的に決算
公告をしたことになる。したがって、この場合には、同時公告後に催告する場
合には、貸借対照表の要旨を催告書に記載せずに、その官報の掲載頁を催告書
に記載することによって、有効な催告となる」と説明していますから、後日回
答の結果が「その方法は不可」となれば、私の信用問題です。

 商事法務1766号72頁で、会社法立案者の相澤哲・和久友子氏が「なお、
この公告は、会社の公告方法を官報で行うこととしている場合には、以後決算
公告として取り扱うことができるが、電子公告や日刊新聞紙である場合には、
別途決算公告をしなければならない」と書いているとおり、われわれ商業登記
のプロの間では常識的知識です。

 なのに、なぜ、いまさら、東京法務局が、こんな程度の質問を法務省照会に
回し、「後日回答」としたのかは、分かりません。


2014.02.26(水)【強制辞任届】(金子登志雄)

 昨夜のニュースによると、失言でおなじみのNHK会長が全理事から日付空
白の辞表を集めていたようですが、非民主的なワンマン社長のよくやる手です。
おれのいうことを聞かないと、いつでもやめさせるぞということでしょう。

 こういう辞表に勝手に日付を入れるのは私文書の変造にならないのでしょう
か。

 そういうおそれがあっても、本人の署名押印付であれば、真意に基づかない
辞任であることの証明が難しいでしょうし、白紙委任した手前、辞任させられ
たご本人も戦うことに後ろめたさが残ることでしょう。

 こういう手法は、ソフトウェア開発とか、コンサルタント会社のように、各
自の創意工夫が必要な頭脳系の業種では使えません。体育会系の効率を重視す
る業種だけに有効です。ブラック企業といわれる会社(居酒屋や小売り業種)
もそういう業種です。

 NHKのような報道機関は、つい頭脳系の組織と思ってしまいますが、実態
は体育会系なのかもしれません。辞表を提出した理事も理事ですから。

 最近は、ケネディ米国大使が偏向したNHKの取材を拒否したり、欧米のマ
スコミがNHKらの姿勢を批判しているのに、またもや自分でニュースのネタ
を提供するとは、あきれた報道機関ですが、受信料集金のおじさんも、さぞや
やりにくいことでしょう。私は口座の自動引き落としですから、集金のおじさ
んに嫌味もいえませんが。


2014.02.25(火)【民法規定140条ただし書】(金子登志雄)

 上記のお知らせ3のとおり、中央経済社の「ビジネス法務」に、「吸収型再
編の効力発生日と期間計算に関する考察」を掲載してもらいましたので、ぜひ、
ご覧ください。

 内容は、昨年の11月、12月の本欄に書いたことをさらに発展させてまと
めたものです。新保さゆり司法書士の「司法書士のオシゴト」の中の「期間の
ハナシ」を発端としたもので、ご本人の了解を得て掲載しました。

http://blog.goo.ne.jp/chararineko/s/%B4%FC%B4%D6%A4%CE%A5%CF%A5%CA%A5%B7

 中心的内容は、吸収合併等の効力が効力発生日の午前0時に生じたとしても、
期間計算の面では民法140条ただし書(初日算入)で計算すべきではないと
いうもので、一般的見解に対して異論を唱えました。

 上記のお知らせ2も、登記実務の運用に疑問を提起したものですが、ほんと
期間計算については、学説も十分ではなく実務に混乱が生じている部分です。

 司法書士連合会の掲示板でも、民法580条の「買戻しの期間は、10年を
超えることができない」の期間計算では、戦前の判例を根拠に、初日を算入し
て計算すべきだという意見が掲載されていました(私は反対意見)。

 民法140条ただし書は、お騒がせ規定になっていることだけは確かです。


2014.02.24(月)【株式分割と行使価額の調整】(金子登志雄)

 土日は、講演レジュメ作業をしていました。

 さて、上場会社は本年4月までに「1単元100株」とするため、単元株式
制度未採用の会社が、1株を100株に分割し、1単元100株を定めていま
すが、その際に、案の定、新株予約権の行使価額でびっくりしているようです。

 拙著でも本欄でも「新株予約権は『個』で数えるものであって、株数基準で
はないから、行使価額も1個当たりにすべきだ」と説明しているのですが、右
に倣えの上場会社のほとんどが行使価額につき1株単位で定めています。次の
とおりです。

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 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額は、新株予約権の行使によ
り交付を受けることができる株式1株当たりの払込金額(以下「行使価額」と
いう)に付与株式数を乗じた金額とする。
 なお、新株予約権発行後、当社が株式分割または株式併合を行う場合、次の
算式により行使価額を調整し、調整による1円未満の端数は切り上げる。
                    1
 調整後行使価額=調整前行使価額×―――――――――
                 分割・併合の比率
----------------------------------------------------------------------

 この1株当たりの行使価額が1234円だったとすると、1株を100株に
分割すると、1株当たり12.34円になるところ、端数切り上げで13円に
なります。「1個1株」だったとすると、分割後が「1個100株」になりま
すから、1234円が1300円になり66円の値上がりです。

 1000個でも6万6000円の増加ですから、気にする金額ではないとは
いえ、新株予約権の設計ミスでしょう。もっとも、「赤信号、みんなで渡れば
怖くない」で上場会社のほぼ全部がこういう設計になっています。



2014.02.21(金)【先端手続と意識】(金子登志雄)

 昨日、本欄で、組織再編の仕事がないと嘆きましたら、偶然にも電話があり、
近々に依頼されそうです。グッドタイミングでした。こういうお客様は、大事
にしないといけないですよね。

 さて、仲間内の司法書士同士の会話でも「お客が『資本金÷株数=整数』で
ないと気持ち悪いようだ」などと、いまだに額面株式の発想から抜けきれない
ことを話題にすることが少なくありません。

 株主総会等の書面決議(会社法319条)を受け入れることのできない顧客
もあります。正式に株主総会を開催しても、出席取締役が議事録に押印しない
ことに抵抗をもたれる顧客もあります。

 せっかく会社法が簡易で便利な方法を定めても、長年しみついた意識がそれ
について行けないわけですが、こればかりは世代の問題もあって、いかんとも
しがたい部分があります。

 当の私も、スマホなどという便利なものを拒否し、いまだにガラケー(ガラ
パゴス携帯という意味らしいですね)ですし、私と同世代の友人司法書士は、
インターネットやメールさえ使っていません。司法書士は個人事業主ですから、
パソコンの操作を教えてくれる上司もいませんし、それで仕事上、何も困って
いないのであれば、パソコンを覚える必要もないでしょう。

 商業登記を仕事の中心に置く限りは、パソコンは必須です。情報収集に役立
ちますし、インターネットで、官報をみることもできます。下記の日新製鋼の
合併公告はいかがですか。

 http://kanpou.npb.go.jp/20140220/20140220h06233/20140220h062330027f.html

 自己株式を承継することにも触れているのは、株主向けの公告内容ですから、
債権者向けの官報公告には記載不要ですが、情報開示の一環として任意に開示
しているものです。また、日新製鋼ホールディングスが純粋持株会社をやめて
事業会社に戻ることが分かります。


2014.02.20(木)【場数を踏む】(金子登志雄)

 2月中旬が過ぎたというのに、予定を書き込みしている司法書士手帳は連日
真っ白の状態です。4月の組織再編の仕事は今のところありません。これで組
織再編専門司法書士といえるのでしょうか。

 しかし、不思議なもので、突発的な質問が電話やメールで寄せられ、事務所
に行けば、登記依頼の郵便物が舞い込んでいたりで、ここ毎日、バタバタして
おります。

 司法書士駆け込み寺の業務は、時節柄、盛況です。その半分以上がお金にな
らない相談ですが、質問されるのは自分の勉強にもなり好きですし、人の役に
立っているという意識を持てますので、生きがいの少ない老人の身としては、
うれしいものです。

 質問は新株予約権や種類株式に絡むものが多いのですが、最近は、新株予約
権付社債や全部取得条項付種類株式による少数株主排除策など、高度な質問が
増えてきたので、結構、喜んで質問を受けています。

 ほとんどが経験済みですが、仮に未経験の質問でも、類似事例を経験してい
たり、質問等により疑似体験をしていますので、場数だけは私の財産だと思っ
ています。

 登記は、習うより慣れろとは、よくいったものです。慣れただけで学習しな
ければ応用力がつきませんけど。


2014.02.19(水)【任期の起算点問題その2】(金子登志雄)

 昨日の続きです。

 任期の起算点である「選任後」というのは、任期の満了日を示す基準だとの
私の説明から、会社法立案者が「この選任というのは選任決議時のことであっ
て、株主総会で選任の効力時点を定めても不可」と説明していることが何とな
く理解できませんか。

 松井信憲著『商業登記ハンドブック〔第2版〕』435頁などは、取締役の
任期につき株主総会のコントロールを及ぼすという立法趣旨からすると、やや
硬直的すぎると批判していますが、登記実務上は、「選任の効力を〇〇日から」
と株主総会で定めても、任期は決議時から起算する運用になっています。

 例えば、3月決算の上場会社(公開会社)が平成25年6月の定時株主総会
で、平成26年4月1日を合併の効力発生日として、その日から甲を取締役と
定めても(選任の効力発生日をその日と定めても)、甲の任期は合併効力発生
日から2年ではなく、平成25年の定時株主総会の決議時から2年になります。

 こうしてみると、やはり任期の短縮というのは、起算日を後ろにずらすこと
よりも満了時点を手前に移動させることだと立法担当者は考えていたといえる
のではないでしょうか。

 たぶん、ここが立法担当者と松井氏との認識ギャップでしょう。


2014.02.18(火)【任期の起算点問題】(金子登志雄)

 会社法332条1項によりますと、「取締役の任期は、選任後2年以内に終
了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げな
い」とあります。そして、2項により、非公開会社であれば、選任後10年以
内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで
伸長することができます。

 この任期の起算点である「選任後」を旧商法時代と同様に「就任後」とする
ことができるのかという論点があります。旧商法時代は「就任」時基準でした。

 この問題を考える際には、会社法332条は、期間の満了日を規定している
だけだということを忘れないでください。同条には、任期の起算点につき「選
任後」とありますが、これは満了時点を定めるための起算点であって、具体的
に任期が開始するのは就任後です。取締役と会社との関係は委任契約ですから、
委任の承諾があったときから始まるのは当然のことです。

 「選任後」を「就任後」に変えると、期間の満了時点が動いてしまうことが
あります。たとえば、3月決算の公開会社で、本年3月31日に選任された取
締役は、平成27年5月か6月の定時株主総会の終結時までの任期であるのに、
4月1日に就任承諾し、就任を基準に計算すると、平成28年5月か6月の定
時株主総会の終結時までになり、この定款規定は無効になります(下記図の①
と②の関係です)。

(満了日が伸びるのは原則として不可)
 ① 選任後――――――――――――――――――――――→|
 ②  ×就任後――――――――――――――――――――――――→|
 ③  〇就任後――――――――――――――――――――→|

 しかし、上記の×印の②も、非公開会社であれば、任期の上限の枠内ですか
ら、任期延長規定として無効とはいえません。公開会社であっても「就任後1
年以内に………」であれば、合法です。

 また、決算期前に選任され決算期後に就任承諾したような特殊例を別にする
と、通常の場合は、選任後も就任後も任期の満了時点は同じです。①と③の関
係だからです。

 いずれにしろ、「選任後」を「就任後」と定款変更したいという場合に、上
記のことを十分に分かっているのか疑問です。③の意味での定款変更であった
ら、意味がありません。

 結局のところ、任期の短縮は任期の満了時点を短縮することができるという
のが本意ですから、起算点を「就任後」と定める意味は、大きいものではあり
ません。


2014.02.17(月)【本店ビル名の変更】(金子登志雄)

 世はオリンピック一色ですね。たぶん、こういう状況になるのは、世界で日
本と韓国くらいでしょう。

 さて、金曜日に続いて第2弾です。

 先般の東京法務局をお迎えしての千代田支部セミナーに、次のような質問項
目がありました。

----------------------------------------------------------------------
 本店所在のビル名が変更されたことを原因として本店又は主たる事務所の変
更登記の添付書類として取締役会議事録は必要か。
----------------------------------------------------------------------

 東京法務局の回答は、「後日回答」でしたが、この問題は、外部の事実の変
化に過ぎないから、委任状に記載すればよいと長い間実務で運用されてきたこ
となのに、その慣例に疑問でも生じたのでしょうか。

 こんなことまで本省照会する必要はなく、東京法務局見解を堂々と出してほ
しいものです。法務省と見解が相違しても、法律解釈ではよくあることですか
ら、何の問題もないと思うのですが………。

 そもそも、本店所在場所は、現実に存在する場所の中から「ここを本店所在
場所にする」に選択したということであって、現実にあり得ない場所を選ぶこ
とはできません。東京タワー頂上から100メートル上などという本店を定め
たら却下されることでしょう。

 本店が△△町にあったのに、これが〇〇市に合併されたら、取締役会決議と
は無関係に、本店所在場所は〇〇市になります。本店ビル名の変更も同様であ
り、会社の意思と無関係に外部要因で変更が生じたのですから、取締役会決議
など無関係のはずです。

 取締役会決議必要説は、取締役会で決議したものだけが本店所在場所だとい
う発想ですから、東京タワー頂上も取締役会決議で定めれば本店場所になれる
という思考でしょうか。

 「後日回答」………合格発表を待つような、長年培ってきた登記実務の伝統
が壊されていく不安を持たせる表現です。


2014.02.14(金)【質問の仕方】(金子登志雄)

 先般の東京法務局をお迎えしての千代田支部セミナーに、次のような質問項
目がありました。

----------------------------------------------------------------------
 定時改選時に代表取締役を予選することについて、改選前後(選定時と代表
取締役就任時)における取締役に変動が生じない場合は許容されているところ
(★)、改選時ではなく、次の事例のように任期途中で辞任する代表取締役の
予選についても、同様に許容されるか。

 12月10日付取締役会(取締役ABCD4名)
 ---12月31日付をもって取締役辞任予定の代表取締役Aの後任として、
1月1日付をもってBを代表取締役に選定。

 12月20日付株主総会で取締役Cが辞任。後任の取締役としてXを株主総
会で選任・就任。

 1月1日代表取締役B就任(取締役BDX)
----------------------------------------------------------------------

 東京法務局の回答は、慎重を期して「後日回答」でしたが、このどこが問題
なのか私には理解できません。精鋭揃いの東京法務局らしくありません。

 おそらく代表取締役B選任時の取締役会メンバーと効力発生時のそれが相違
してもよいのかという疑問でしょうが、では、この12月10日の取締役会で
「きたる1月1日をもって、………に支店を設置する」と決議したら、この支
店設置は無効とでもいうのでしょうか。代表取締役の選定も同じであり、12
月10日の取締役会決議は有効であり、私は何の問題もないと考えています。

 構成メンバーの相違は問題外です。上記★部分は、ABCDが重任前に重任
後の代表取締役を予選した場合であり、本件とは相違します。

 また、本件で、A辞任、B代表取締役就任を先に登記し、日を空けてC辞任
及びX就任を申請すれば、どこの登記所でもフリーパスです。

 一昨年のことでしたが、新日鉄と住金は、株式交換して同日に子会社となっ
た住金を吸収合併いたしました。吸収合併を決議したときの住金の株主と効力
発生時の株主は全員が交代しています。

 株主が決議時点と効力発生時点で異なることは、組織再編でよくあることで
す。なぜ、取締役会の場合は、だめだと思うのか不思議でなりません。

 質問者も質問者です。こういう質問をするときは、「代表取締役の選定と支
店の設置を一緒に決議したのですが、両方とも有効だということで問題ないで
すよね」と、上手に質問すればよいのに、わざわざ「ノー」の回答を出しやす
い質問形式にしています。

 まさか、だめという回答がでることはありえないと思っていますが、一抹の
不安がありますので、この徒然で先手を打って取り上げてみました。当局の皆
様がみてくれているかは、はなはだ疑問ですが………。


2014.02.13(木)【オリンピック】(仙台・立花宏)

 いよいよソチオリンピックが開幕し、毎日、熱戦が繰り広げられています。

 オリンピックは4年に1度しか開かれない大会。選手たちはこの大会に向け
て最善の調整してくるはずです。その大会のなかでは、いろいろなドラマも生
まれます。そして、そのドラマの強い印象は、人々の心に様々な思いを残すこ
ともあります。皆さんは、オリンピックにどんな思い出がありますか。

 私が冬季オリンピックで思い出すのは、黒岩彰さんというスピードスケート
短距離の選手です。1984年、私が思春期だったころ、黒岩選手はサラエボ
で開催されたオリンピックに出場しました。前年の世界選手権で総合優勝して
おり、そのオリンピックでも500mの優勝候補の筆頭にあげられていました。

 日本中が優勝を期待していたと思います。というより、多くの人々が、当然、
優勝するものと思っていたように思います。黒岩選手には大きなプレッシャー
がかかっていたことでしょう。

 当時の500mは、一発勝負でした。インスタートとアウトスタートがあり、
アウトスタートは後半のコーナーがイン側で、スピードが落ちやすく、不利と
いわれていました。

 サラエボオリンピックでの黒岩選手のスタート順は、抽選の結果4組のアウ
トスタートでした。また、天候の影響でスタートが遅れたりしたそうで、アウ
トコーススタート以外にも不利な状況があったといわれています。

 結果は、10位。日本中が落胆したと思います。

 黒岩選手の心中はどのようなものだったでしょう。私は、結果よりも黒岩選
手がどんな気持ちなのかが気になりました。どのような心境で帰国するだろう。
周囲の人たちにどのような顔をするのだろう。スケートは続けるのだろうか。

 もちろん、黒岩選手になんの責任があるはずもありません。しかし、時とし
て人の期待は、それに応えられなかった者に、大きな心の傷を与えることがあ
ります。帰国した黒岩選手は一言も言い訳をしなかったと思います。

 そして4年後、黒岩選手はカルガリーで開催されたオリンピックの舞台に帰
ってきました。4年間、きっと、ひたむきな努力を積み重ねてきたはずです。

 この大会も一発勝負。スタート順の抽選がありました。その結果、なんと黒
岩選手のスタート順は4組のアウトスタート。4年前と同じです。なんという
因縁でしょう。これは、悪夢の再来なのか。それとも、神様が準備してくれた
雪辱の舞台なのか。

 結果は見事、銅メダルを獲得。私は不覚にも、目頭が熱くなった記憶があり
ます。

 先日、地元の新聞のコラムに、フィギアスケートの金メダリスト、荒川静香
さんのコーチの言葉が紹介されていました。

 「オリンピックはゲームなのだから楽しまなくてはいけない。しかし、本当
に楽しむ権利を獲得できるのは、死ぬほど苦しんで準備した人だけだ。」

 私はこれまで、黒岩選手にとって、栄光の舞台であるはずのオリンピックは、
はたして楽しいものだっただろうか、と思い悩んでいました。しかし、この記
事を読んで、ようやく確信しました。黒岩選手はオリンピックに向けて死ぬほ
ど苦しんで準備をしたはずです。楽しむ資格はあったはず。いや、きっと楽し
かったはずだと。

 ※この記事を書き終えたあと、スキー女子ジャンプの高梨選手の結果を知り
ました。高梨選手にとって、これからの4年間は何物にもかえがたい貴重な4
年間になるはずです。
 きっと、神様が、オリンピックの本当の楽しさを4年後にとっておいてくれ
たのだと思います。



2014.02.12(水)【職務執行者の辞任就任登記】(金子登志雄)

 都知事選の結果を受けて、政府は早速、大多数の「民意」で肯定されたとし
て、原発再稼働の動きに入ったようです。手抜き工事をしないことと、地震が
来ないことを祈るのみです。
  
 (マスコミが伝えない反原発候補の敗戦の弁)
  http://tanakaryusaku.jp/2014/02/0008741

 さて、合同会社など株式会社ではない会社(持分会社)では、法人も役員に
なれます。業務執行「社員」、代表「社員」であり、法人株主がそのまま業務
執行機関になるのと同じです。

 ただ、法人は肉体がありませんから、手足用に「職務執行者」を選任し、そ
の者に合同会社の経営を担当させます。登記簿では「社員に関する事項」の部
分に次のように記録されます。

 住所・・・・
   代表社員 甲株式会社
 住所・・・・
   職務執行者 A

 Aの就任承諾書も選任機関である甲株式会社に対してするものであり、担当
する合同会社に対してするものではありません。

 では、このAが辞任し、甲株式会社がBを選任した場合は、どんな登記にな
るでしょうか。

 通常の思考であれば、「A辞任」と「B就任」という2つの登記でしょうが、
社員自体が交代したわけではありません。したがって、一括して「代表社員変
更」の登記がなされます。重任登記と同じく別枠を作りません。

 初体験の登記でしたが、登記記録はよくできているものだと改めて感心いた
しました。


2014.02.10(月)【設立時役員選任時期】(金子登志雄)

 土曜日の大雪の際に、これで都知事選の投票率が大きく下がり、公明党など
の組織票で有利な舛添さんの勝利は間違いなさそうだ、安倍政権は、まだまだ
運が味方しているようだと思っていましたら、そのとおりになりました。

 小泉さんの2月5日のツイッターには「テレビや新聞の都知事選報道が限定
的、時には一方的だと感じるのは僕だけだろうか。原発の争点隠しにも見える」
とマスコミ批判をしていましたが、さすがの小泉劇場も、マスコミの意図的無
視には勝てなかったようです。

  https://twitter.com/J_Koizumi_Japan

 日本の行く末を決める大事な選挙でしたから、投票率の低さには情けない思
いですが、長いものには巻かれるのが江戸300年からの日本人の伝統文化み
たいなものですから、仕方ないのでしょうか。

 こういう話をすると私も日本の将来に悲観的になるので、いつもの会社法の
話に戻しますと、日司連ネットに「会社法の条文では、資本金入金後に役員を
選任することになっているが、事前に選任してもよいのではないか。法務局に
よって対応が違うようだが」という投稿がありましたので、私も次のように投
稿しておきました。

----------------------------------------------------------------------
 東京本局では補正になります。「発起人1名の事例だったら資本多数決と無
関係で問題ないはずですが」と反論しても、「条文どおり」と言われます。裁
判所であれば立法趣旨から個別対応ができても、法務局では通達でもないと限
界があるのでしょう。某地方法務局では何もいわれずに受理されましたけど。

 こういうのは、へたに統一しないほうが私はよいと思っています。「今回に
限り……」という対処が無理になり、われわれのクビをしめてしまいますから。

 もし、日付を訂正できないのであれば「なお、この選任は出資を条件に効力
が生じる」と挿入したら受理されるかもしれません(保証はできません)。ま
た、非取締役会設置会社の代表取締役は発起人が選べるのに、取締役は選べな
いのかと聞いたら、どういう反応があるのでしょうか。

 定款での選任は認められ、その定款を作った発起人が選んだらダメというの
もおかしな論理だと思っていますが、いずれにしろ、グレーはグレーで、白黒
つけないのもいいものですよ。
----------------------------------------------------------------------


2014.02.07(金)【職務執行者の変更】(金子登志雄)

 昨日も東京は非常に寒かったです。都知事選候補者は大変だったでしょう。
私は、優雅に外出時はタクシーを使いました。たまには、この程度のぜいたく
も許されるでしょう。

 それだけ久々にバタバタと動き回りました。その中の1つに、合同会社の代
表社員の職務執行者ABをCDに交代させる登記申請がありました。

 申請書を作成中に登録免許税(別表)を確認しましたら、職務執行者の変更
がないのです。まさか、会社の支配人に準じて3万円ということはないだろう
と思いましたが、ふと、登記簿謄本をみたら、職務執行者は法人代表社員の登
記の1部になっていることに気づき、「職務執行者の変更の登記=代表社員の
変更の登記」だと分かりました。これなら、通常の役員変更と同じに考えれば
よいわけです。

 さて、都民の皆さん、いよいよですね。日本の行く末を決めるような重要な
都知事選ですが、残念ながら、私は都民ではなく投票権がありません。

 投票には必ず行きましょう。行かないと、後日、「あの人に投票して正解だ
った」とか、「あんな奴を書かなければよかった」などという反省も感想もわ
きません。マスコミによって作られた空気で動かずに、自分の頭で選択するこ
とを期待しています。


2014.02.06(木)【ヤブヘビ】(金子登志雄)

 昨日は東京司法書士会千代田支部において、東京法務局の相談官等を講師と
したセミナーがありました。主として、事前質問に答える形式で進みましたが、
法務局の考え方が分かるので、こういうセミナーは助かります。企画をしてく
れた支部役員に感謝です。

 詳細は支部からそのうち公表されるでしょうから、ここには記載しませんが、
事前質問の中には、「後日回答」というのがいくつかありました。1法務局だ
けでは決められないと判断したり、法務局内部で意見が分かれたりしたのでし
ょう。上位機関(法務省)に確認をするなど、他と調整のため後日となったわ
けです。

 このように、登記の世界でも、登記官によって意見が違うことが多々ありま
すし、法務省内部でも、その担当役席が現在は誰かになっているかによって意
見が異なったりします。

 これらは、人間社会では致し方ないことですから、われわれベテラン司法書
士は、それを知りながら上手に世渡りしてきたわけです。

 ですから、この質問に対して、自分が長年実行している実務慣行と違う回答
がでたら困ると思えるような「ヤブヘビ」の質問をみると、「そっとしてくれ
ればよいのに、これで今までの緩やかな運用が厳しい運用になりかねない」な
どと心配してしまうわけです。

 われわれ司法書士は、これ専業で何十年と生きてきましたから、実務の長年
の慣行や運用をよく知っています。ところが、法務局や法務省は国家公務員の
世界ですから、人事異動で昔のことや実務慣行を知らない人も偉くなって赴任
してきます。そういう方が回答すると、長年の実務慣行に反した回答が生じて
しまうので、「ヤブヘビ」の質問だけはしてほしくないと思ってしまうわけで
す。


2014.02.05(水)【2種類の登記官】(金子登志雄)

 昨日の東京は雪交じりで非常に寒かったです。日経平均(ダウ)は610円
という信じがたいほどの暴落でしたし、世の中の変わり目かと思わせるものが
ありました。ひょっとして、小泉劇場の再来を起こさせないようにしているマ
スコミの都知事選に関する情報操作に対して、お天道様がお怒りなのかもしれ
ません。そのせいか、盛り上がらないですね。まだ選挙カーにすら遭遇したこ
とがありません。

 さて、昨日の登記の仕事は設立1件だけでした。大安だったせいでしょうか。
場所は東京法務局でしたが、そこに行ったついでに、知り合いの職員の方に偶
然鉢合わせしたため、「東京法務局で種類株主総会と共催しても議事録を分け
よといわれた人がいる」「〇〇について、東京法務局で取り下げさせられた人
がいる」などと最近の情報をお伝えしましたら、却下はできないから受理せざ
るをえないと思うとの返答でした。

 そうなんです。前にも書きましたが、登記調査官には2種類があり、却下事
由に該当するかどうかと適法性を基準に考える人と、先例どおりの申請かどう
かという書式重視派があり、後者の方は、「こんな登記初めてだ」となると、
受理に抵抗します。

 私のように「日本初」を喜ぶ司法書士にとっては、前者はお仲間であり、面
白いこと考えたねぇと評価してくれますが、後者の方に遭遇したときは、説明
に骨が折れます。もう慣れてしまい、説明書や類似事例を一緒に添付するよう
にしてますが……。幸い、ネット検索が上手になり、そういう資料を探すのに
苦労しなくなりました。


2014.02.04(火)【種類株主総会との共催】(金子登志雄)

 群馬司法書士会のメンバーの方から、拙著に従い臨時株主総会と種類株主総
会を共催し、1枚の議事録に両方の内容を織り込んだところ、某大手法務局か
ら「共催はよいが、議事録は2つにしてほしい」といわれたと聞きました。

 もっとも、同じものを2枚出してくれれば、それでよいとなったようですが、
まだ、そんなことをいう担当者が残っているとは驚きです。

 次の招集通知をみてください。

http://www.mxmobiling.co.jp/html/news/articles/topics/pdf/2013-08-01_01.pdf

 共催ですから、臨時総会も種類株主総会も同時に開催され、種類株主総会独
自の開始時間などはどこにも書いてありません。これで、2つの議事録にせよ
というのは、無理というものです。「臨時株主総会議事録 兼 種類株主総会
議事録」でも、1枚に2つの議事録があるので、何の問題もないはずです。

 旧商法時代は臨時株主総会議事録の中に「本総会は種類株主総会を兼ねる」
と書くだけで済みました。

 上記のように2つに分けよとなったのは、実に迷惑なことに、愚かな人が相
談コーナーで「2つに分けないといけませんよね」と質問し、東京法務局が「
ご意見のとおり」と答えてしまったのが最初でした。

 余計な質問をしてくれたもので、東京法務局も「まぁ、それでいいんじゃな
い」と気楽に答えただけでしょう。「ねばならない」という回答とは思えませ
ん。現に、私は、何度か、これで登記を終わらせています。

 というわけで、とっくに改められたと思っていましたが、いまだに亡霊のよ
うに生き残っているようですから、早期に改善してもらいたいものです。


2014.02.03(月)【久々の前橋訪問】(金子登志雄)

 金・土曜日は、久々に群馬の県庁所在地である前橋市に行ってまいりました。
群馬司法書士会のお招きにより、会社法の講義のためでした。

 土曜日の開催なのに、会員300名強のところ100名以上の参加がありま
したので、ありがたいことでした。研修担当のK先生ほかのご努力のたまもの
です。お世話になり、ありがとうございました。

 「会社法の勉強はあきらめて、仕事は拒否せず、あっせんに徹したら……」
などというメチャクチャな話をしてきましたが、4時間の間、眠り続ける方が
少なかったので、まぁまぁ、好評だったのではないかと思っています。

 群馬県は私の故郷ですが、群馬では西と東で学区制が敷かれており、西の住
民であった私が東の前橋を訪問することは、それほど多くはありません。

 それでも司法書士や弁護士を営む旧友がいますし、父親の墓もありますので、
自己費用で前泊して、30年ぶりに旧交を暖め、数年ぶりに墓参りしてきたわ
けです。

 旧友も古くからの知人もみな元気で、現役で仕事をしており車の運転もして
いました。定年退職のない司法書士・弁護士は、車の運転ができる限りは現役
を続けることができ、ありがたいものだと再認識した次第です。いまだに熱心
にタバコ税を納めている元気者は私1人でしたけど。


2014.01.31(金)【株式の交付と発行ほか】(金子登志雄)

 ある吸収分割契約書に、「甲は、乙に対して、分割対価として金銭400万
円のほか、株式200株を交付する」とあったとします。

 この株式200株の交付が甲で200株の新株を発行することであろうと、
ぴんと来るでしょうか。

 慣れないと難しいと思いますが、会社法2条21号に、新株予約権とは「株
式会社に対して行使することにより当該株式会社の【株式の交付】を受けるこ
とができる権利をいう」とあるように、「株式の交付」という場合は、新株の
発行と自己株式の交付の2つの場合がありますが、自己株式を保有している会
社は少ないので、通常は新株の発行を意味します。

 次に、このケースにおいて、移転する純資産額が簿価でも時価でも1000
万円だとした場合に、この甲における株主資本等変動額(=現物出資額のよう
なもの)は、いくらになるでしょうか。

 1000万円と答える方が多いのですが、甲における純財産増加額は、ここ
から400万円を控除したものですから、600万円です。

 このうち半分(300万円)以上を甲の資本金に計上しないといけないよう
に思っている方が少なくありませんが、組織再編ですから、資本金増加額はゼ
ロ円でかまいません。

 以上のようなことを会社の方や担当会計事務所さんが分かっていないことが
少なくないようですので、気をつけてアドバイスしましょう。


2014.01.30(木)【専門化する商業登記】(金子登志雄)

 昨日の続きですが、商業登記を行政書士にも開放せよという行政書士会の動
きがある一方で、商業登記から離れる司法書士もいます。前者は商業登記の大
衆化であり、後者は専門化ですから、相反する動きだといえましょう。

 一部の行政書士さん(もともとは司法書士事務所の補助者だった方が多い印
象です)がいう「商業登記は簡単で誰でもできる」という論は、「書式に従っ
て必要箇所を穴埋めするくらいは誰でもできる」という論ですから、無茶な話
です。

 ネットで会社の設立を安価で引き受けている事務所は、そういう事務所であ
り、「質問は禁止です。答えられませんから」という意味を含んでいるとみて
よいでしょう。

 種類株式発行会社の設立手続ができるのかなどと嫌味をいうまでもなく、監
査役に業務監査権限がある場合とない場合で定款の文章のどこがどう変わるの
かを答えられないのなら、設立手続に関与すべきではありません。

 子会社の設立であっても、会社の担当者から、必ず10回以上も質問されま
す。彼・彼女が稟議を書く際に、理解していないといけないからです。それだ
け、本来は内容が深いものです。

 それに即答することのできる人は専門家のはずの司法書士であっても、誰で
も可能ではありません。弁護士さんであれば、なおさら答えられません。普段、
会社法の業務とは付き合っていないからです。

 商業登記を取り扱う法務局の減少及び会社法の複雑化の改正方向に伴い、商
業登記が徐々に専門家の仕事というイメージが強化されているように思います。
そのため、多くの司法書士にとっては「商業登記の開放は、俺の仕事には関係
ない」と思うか、「ますます開放は無理になった」とみるか、どちらでしょう
か。



2014.01.29(水)【商業登記を担う司法書士の減少】(金子登志雄)

 冬になると、当事務所には、みかんの入った段ボール箱が置かれ、気分転換
に食べていますが、ネット情報によると、エアコンの普及でコタツが減り、そ
れに伴い、みかんの消費量が急減しているのだとか。

 まるで、風が吹けば桶屋が儲かるの類の話ですが、わが業界では、商業登記
を取り扱う法務局が1県1か所程度に集約化されてしまいましたので(東京だ
けはまだですが)、商業登記を扱う司法書士が減少傾向のようです。

 理由としては、近くの登記所の窓口で相談しながら行うことができなくなっ
たこと、パソコンに弱い高年齢者が電子申請することができず、紙による郵送
申請では補正が生じた場合のことを考え、どうせ商業登記案件が少ないのだか
ら、今後は不動産一本で行こうなどと考えたためではないでしょうか。

 中小企業の役員の任期が10年まで延長できるようになったこと、新しい会
社法に着いていけなくなったことなども大きいことでしょう。

 そうすると、会社の登記としては設立がメインになりますが、この分野は税
理士や行政書士が本人申請で対応してしまうことも多いので、ますます、やる
気がなくなってしまうのかもしれません。

 しかし、この状態は、商業登記を担う司法書士制度の危機でもあります。せ
めて、仕事を受託し商業登記に詳しい人に任せるべきです。共同受託であろう
と、復代理であろうと方法は問いません。受託せずに、周旋に徹してしまうの
もよいかもしれません。

 せっかくお客がいるのに「モッタイナイ」ですから、「オモテナシ」の心で
顧客に接しましょう。


2014.01.28(火)【安全確認と事故その2】(金子登志雄)

 県庁所在地に原発があるのは島根だけみたいですが、もともとは郡部地区に
あったのが、市町村合併で県庁所在地になったとネットで知りました。

 しかし、日本の原発が県庁所在地に置かれていないということは、安全に不
安がある証拠でしょう。ほんとに安全であれば、国会議事堂や都庁の横におい
てもよいわけです。少なくとも、電力会社の本社の敷地に置くくらいの覚悟を
示してくれないと困ります。

 原発のない関東人としては、フクシマやハマオカが脅威であり、地震が起き
るたびに、震源地はどこだとビクビクしてしまいます。原発賛成者は、怖くな
いのでしょうか。自分のことより、子孫のことが心配です。

 それにしても「原子力ムラ」といわれる電力会社の資金力によるマスコミ支
配はものすごいですね。相変わらず、都知事選を前に、手の込んだ世論誘導を
していますが、そうして作られた空気でモノを判断しない賢い有権者として投
票に臨んでほしいものです。

 話変わって、下記のような運動があるようです。私も賛同し署名しました。
私や息子が徴兵されなかったのも、この憲法のおかげですから。

(日本国憲法第9条を保持している日本国民にノーベル平和賞を授与して)
   ネット署名:http://chn.ge/1bNX7Hb


2014.01.27(月)【安全確認と事故】(島根・根来川弘充)

 皆様、こんにちは。本年2回目の登場です。

 さて、都知事選でも論点と言われている原発問題ですが、私の住む島根県で
は、県庁所在地に原発があり、その再稼働について、昨今、大きく論じられて
います。

 ここで、知事や各市町村長が、その再稼働の条件として、「事故をおこさな
いという、安全が確認されれば・・・」という意見を良く耳にするのですが、
私は、この意見には、どうしても違和感を覚えます。

 そもそも、原発に限らず、「(人間が)安全を(事前に)確認できる事故」
など、存在するのでしょうか。人間が細心の注意をはらっても、おこってしま
うのが、「事故」であり「災害」なのではないかと思います。

 事故は発生することを前提として、議論がされれば、これによる危険とはな
にか、発生する損害の規模はどのくらいなのか、そして、その損害が回復、も
しくはそれを代償できるのかといった点が、もっと論じられても良いと思うの
ですが、あまり目にすることがありません。

 議論がすり替わっているようで、そのこと自体に、とても不安に感じます。


2014.01.24(金)【変更と消滅登記】(金子登志雄)

 会社法909条に「登記した事項に変更が生じ、又はその事項が消滅したと
きは、当事者は、遅滞なく、変更の登記又は消滅の登記をしなければならない」
とあります。

 この変更の登記と消滅の登記とは何でしょうか。広義では、設立など創設の
登記以外を変更の登記といい、消滅の登記も含みますが、狭い意味で使う場合
です。

 まず間違いなく、狭義の変更の登記は「AがBに変わった」という登記で、
消滅の登記は「Aのまま消えた」ということでしょう。消滅の結果は登記簿か
ら抹消されることでしょうから、取締役の退任や支店の廃止も含むと考えます。

 「変更」を分析すると「Aが消えてBに生まれ変わったこと」といえます。
これが同日であれば何の問題もありませんが、Aが消えたのが3月31日24
時で、Bが誕生したのが4月1日午前0時だという場合に、「3月31日A消
滅」「4月1日B誕生」という2つの登記をせずに、まとめて「4月1日Bに
変更」と登記するのが一般的です。

 ですから、廃止や消滅の登記は、その半分の「3月31日A消滅」のみの消
滅日を記載した登記です。

 やはり、「3月31日行使期間満了(により新株予約権消滅)」が正しく、
「4月1日行使期間満了」は正しくないというべきでしょう。

 ちなみに、民法140条には「期間は、その末日の終了をもって満了する」
とありますが、どう読んでも、「満了日=期間の末日」としか読めないように
思いますが、いかがでしょうか。



2014.01.23(木)【縁起の悪い日?】(金子登志雄)

 今日は仏滅ですね。会社の設立は少ないでしょう。

 会社の設立を受託したときは、かならず設立日を選ぶかどうかを確認してい
ます。大安を選ぶかどうかなどです。

 仏滅の設立でも数日を経れば、みな忘れてしまいますから、どうでもいいこ
とだと思いますが、子会社の設立の場合と相違し、個人での設立の場合は、い
つでもいいなら仏滅は避けるという結論になることが少なくありません。

 念のため、これ仏教とは縁もゆかりもないどころか、仏教では気にすること
を戒めているそうです。
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 仏滅や友引という、仏事と関連のあるように見える言葉が多く使われている
が、仏教とは一切関係ない。仏事と関連のあるように見える言葉が多いのは、
まったくの当て字による。釈迦は占いを禁じている。また、浄土真宗では親鸞
が「日の吉凶を選ぶことはよくない」と和讃で説いたため、迷信、俗信一般を
否定しており、特にタブーとされている。仏教においては本質的に因果関係に
よって物事が決まり、六曜が直接原因として物事を左右することはない。
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 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E6%9B%9C

 ついでですが、13日の金曜日が縁起が悪いというのは、一部の国だけだそ
うです。
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 キリスト教の影響が強い国であっても、イタリアで不吉な日は17日の金曜
日であり、スペイン語圏では13日の火曜日が不吉だとされている。13日の
金曜日を不吉とするのは、英語圏とドイツ、フランスなどに限られる。ただし
フランスでは宝くじの売り上げが急上昇する、幸運な日でもある。
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http://ja.wikipedia.org/wiki/13%E6%97%A5%E3%81%AE%E9%87%91%E6%9B%9C%E6%97%A5

 13日金曜日で仏滅の日に設立が依頼されたら、報酬は半額にしてあげたい
くらいです。


2014.01.22(水)【PCの餅屋】(金子登志雄)

 昨年末に、ウインドウズ8.1のノートパソコンを購入したのですが、全く
手に終えなかったため、いらいらが募りましたので、そのまま放置し、私のパ
ソコン顧問である司法書士ソフトのリーガルさんにお願いして、昨日、担当の
営業マンさんに来てもらい、動かせるようにしてもらいました。もちろん有料
です。

 さすがはプロですね。デスクトップ上のフォルダーやメールまで、素早く新
しいパソコンに移してくれただけでなく、登記の電子申請から定款の電子認証
まで出来るようにしてくれました。

 インターネットの「お気に入り」まで、そのままですから、あとは、パスワ
ードなどを私の手で再設定するだけです。

 登記のお客様にも申し上げているのですが、怪我したのに内科医に行く人は
いないのと同様に、何ごともプロの専門家にお任せなさい、合併手続でも慣れ
ない司法書士が10日かかるところを私なら半日でできる、その代わり、その
司法書士が半日で終わらせる不動産登記を私は数日かかると話していますが、
このパソコン問題も同じですね。

 数年前までは私でも何とかなったのですが、この8.1だけは無理でした。
営業マンさんによると、機能の変化が早いため、専門家でも追いつくのが大変
で、依頼も多いとのことでした。

 それにしても助かりました。皆さんも、8.1に四苦八苦するくらいなら、
プロを呼んだらいかがですか。皆さんの「時給×時間」の数分の1で済みます。
私の場合は、時間が人一倍多いでしょうから、数十分の1で済みました。


2014.01.21(火)【午後12時はいつ?】(金子登志雄)

 「午後12時」といわれた場合に、瞬間的に、お昼の時間と思いませんでし
たか。午後12時は正確には24時のことで、お昼は「午前」12時です。

 「午後13時に会いましょう」という表現は受け入れられますか。午後1時
は「午前」13時のことです。

 きのうの問題につき、「3月31日24時に行使期間が満了すると、これを
4月1日午前0時であることに着目して、『4月1日行使期間満了』と登記す
る」………、以上の表現につき、仙台の立花さんより、24時のときは午前・
午後に触れずに、0時のときだけ午前と断るのはいかがなものかというご意見
を出されたことがあります。

 理屈上は全くそのとおりなんですが、0時の場合は午前か午後かはっきりさ
せないと誤解を招きますが、24時であれば誤解を招かないということで、私
は0時のときだけ午前をつけるようにしています。

 ちなみに、24時は「午前」の24時のことです。午後24時は、お昼の午
後0時、午後1時・・・と進んで24時間後ですから、翌日のお昼の午前12
時のことです。

 「今日の24時は翌日の0時」………これで、登記の日は今日付けか翌日付
けかという難しい問題に発展してしまうわけですが、昨日の結論のように、終
了を登記する際は今日付けで、効力の発生を登記する際は翌日付けだというの
が私の結論です。「消滅」は前者であって、消滅の効力発生と捉えるべきでは
ありません。  



2014.01.20(月)【新株予約権の行使期間満了】(金子登志雄)

 新株予約権の話題が出たついでですが、新株予約権の行使期間が「平成26
年3月31日まで」あった場合に、現行の登記実務では翌日付で「平成26年
4月1日行使期間満了」と登記します。

 これにつき、本欄10月28日には、これは新株予約権の消滅の開始の登記
だから4月1日付けになるのだろうと松井信憲著『商業登記ハンドブック』第
2版を引用して説明しましたが、どうも煮え切らない結論で、登記の慣例とい
うことにしてしまいました。

 しかし、今は、4月1日には新株予約権ではないのに、その日に消滅したと
いう登記は、やはり無理があると思うようになりました。

 平成26年4月1日から中学生になる場合を「平成26年4月1日中学生」
という表現は正しくても、「平成26年4月1日小学生期間満了」では、4月
1日も小学生だったように思いませんか。

 終了の登記と効力発生の登記の2つがあるとすれば、新株予約権の行使期間
満了は終了の登記であって、消滅の開始の登記ではありません。消滅したなら
新株予約権ではなくなっており、非新株予約権は登記事項ではないのですから、
4月1日付けは、やはり無理があると思います。

 当面は登記の慣例ということで4月1日にせざるを得ませんが、そのうち実
務が変わるような予感がします。


2014.01.17(金)【社債付新株予約権】(金子登志雄)

 本年最初の仕事は、年末に申請した新株予約権付社債の登記の添付書面を某
地方法務局に届けに行くことでした。9連休でしたから、さすがに郵送は、は
ばかれました。大事な議事録や総数引受契約書を放置するような気がしたから
です。

 新株予約権付社債は社債なのに、なぜ登記が必要かと考えたことはありませ
んか。社債であれば登記不要です。社債付新株予約権と考えることによって、
これは新株予約権だから登記が必要だということになります。

 一般的には、新株予約権の名称を単に「第何回新株予約権」とせず、「第何
回無担保転換社債型新株予約権付社債に付された新株予約権」などと「新株予
約権付社債に付された新株予約権」であることを登記でも明記します。

 「転換社債型」というのは、新株予約権の行使にあたり、セットされている
社債を現物出資するということですから、新株予約権の登記申請に際しては、
金銭出資の場合と相違し、「金銭以外の財産を各新株予約権の行使に際して出
資する旨並びに内容及び価額」という項目が追加されます。

 この項目は新株予約権の発行要綱には、そのものずばりでは記載されておら
ず、「新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」の
部分から抜き出して記載することになります。

 ついでながら、金融用語で、転換社債のことをCB、新株予約権付社債のこ
とをWB(ワラント債)ともいいましたが、転換社債型新株予約権付社債のこ
とは何というのでしょうか。CWB?


2014.01.16(木)【五無斎時代】(金子登志雄) 

 そうか、13日は成人式でしたね。還暦を過ぎると、成人式の思い出を書こ
うという発想さえなくなってしまい、立花さんとの年齢差を感じてしまいます。

 私が、一番、年齢を意識する時は、どんなときだと思いますか。目が遠くな
った、坂道が辛いなどは、40代の頃からですから、それではありません。

 中学時代の同窓会などに出たものなら、「孫が……、孫が……」という挨拶
ばかりで、嫌になってしまいますが、これでもありません。

 30代の人と話していて、その父親の年齢の話になった時です。なんと、会
話相手の父親が私より年下ではないですか。ボーゼンとしてしまいます。相手
との間にベルリンの壁ができてしまいます。

 私は晩婚だったせいで、子供も未婚であり、まだ孫はおりません。そのせい
か、まだ若い意識でいるのです。

 30代半ばまでは、独身でフリーターみたいな自由人で生きてきました。親
はあっても「妻無し子無し版木(はんぎ=仕事)無し金も無けれど死にたくも
無し」の五無斎を気取っていました。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q148615674

 なぜか、その頃も少しもあせりませんでした。高度成長期に青春を送ってい
ますから、真から、生活その他につき、そのうち何とかなるさと思っていまし
たし、人が70歳まで生きるなら、オレは80まで生きる、だから今は20代
と同じだと勝手に思っていたからです。

 幸い、友人・知人に恵まれ、何とかなりました。車も家も持てました。家の
中にトイレがあり、蛇口をひねるとお湯が出てきます。これだけで、農業が主
の田舎で育った私の世代にとっては、快適な文化生活です。

 定年のない自由業(司法書士)にもなれました。仕事があって、自分が人の
役に立っていると思えること(必要な存在であると思えること)が、どれほど
幸せなことでしょうか。自由な五無斎時代には、味わえない喜びでした。



2014.01.15(水)【成人式】(仙台・立花宏) 

 先日、地元、仙台市で成人式が開催されました。全国各地でも、成人式が行
われたようです。成人された皆様には心からお祝いを申し上げます。

 テレビに流れる成人式のニュースを見ながら、自分自身が成人を迎えた頃の
ことを思い出しました。当時ももちろん、成人式はありましたが、私は出席し
ませんでした。

 当時、私は学生でした。卒業はまだ先で、自立するめどもたっていない身で
したから、成人といわれてもピンとこなかったのです。

 それに、成人式に出席するために着る背広を買う余裕がなかったこともあり
ました。まあ、成人式に出席するのに、背広が必須ではなかったのでしょうが、
恰好をつけたかったのだと思います。

 多少のアルバイトはしていましたが、ほとんどは書籍の購入や生活費に使い
ました。正直なところ、成人式が終わったあと、しばらく着る予定もない背広
を買うお金があれば、その分、書籍代や生活費に充てたいという気持ちがあり
ました。これは、私に限ったことではなく、当時はそういった学生も多かった
と思います。

 当時、成人式の日、私は大学の図書館にいました。たぶん、提出期限がせま
っていたレポートか何かを書いていたのだと思います。図書館には、同じ学部
の仲間が何人もいました。彼らも成人式は欠席です。私と同じようにレポート
を書いたり、調べものをしたりしていたようでした。

「おう、立花。おまえも成人式に行かないのか?」
「ああ。将来、自分自身が一人前になったと思えたら、自分自身で成人式をや
るさ。」

 仲間の問いかけに、そんな強がりを言っていたかもしれません。

 夜、暗くなった夜空を見ながら、いつものように自転車に乗り、いつものよ
うに自宅に帰った記憶があります。そして、いつものように着替えて食卓に行
きました。すると、テーブルの上にお赤飯とケーキがありました。両親が成人
のお祝いにと準備してくれていたのです。

 両親は、私と私の兄、あわせて2人の学生を養っていました。けっして家計
は楽ではなかったはずです。そんな中、きっと、精一杯のお祝いだったのだろ
うと思います。いつか、いつか、きっといつか、このお赤飯とケーキにふさわ
しい成人になろう。そんな気持ちになったと思います。

 それから二十数年がたちました。果たして、自分は、成人式の日に友人に強
がったように、一人前になったと思える自分になれただろうか。あの時、両親
が用意してくれたお赤飯とケーキにふさわしい成人になれただろうか。

 成人式のニュースを見ながら、ぼんやりとそんなことを考えました。



2014.01.14(火)【共存共栄】(金子登志雄) 

 年末・正月の9連休は実に退屈でしたが、こう休みが続くと、9日分の仕事
がまとめて来て、たまには当事務所も忙しくなるということを発見した正月明
けでした。この3連休も、原稿書き等で、退屈せずに済みました。

 さて、岡山の宮川さんは新年早々に事務所の開設だとのこと。おめでとうご
ざいますといいたいところですが、これからがたいへんですね。顧客数は積み
重ねですから、数年間は辛抱しなければなりません。

 私も、開業後数年間は、年間数十件(いや十数件だったか)の仕事しかあり
ませんでした。確定申告の際に、月別の売上高を書く欄がありますが、半分以
上の月が月商ゼロ円でした。もっとも、当時は、会社の取締役管理部長の仕事
がメインで、司法書士は副業みたいのものでしたが………。

 雑用業務中心の管理部長の仕事と相違し、法務の仕事は好きでしたし、ヒマ
でしたから、それまでのM&Aや法務コンサルの経験をベースに本が書けたと
もいえます。

 その内容が従来の司法書士の先例紹介の登記手続の本と相違し、登記に至る
までの実体法のテクニックが中心だったので、風変わりな司法書士が現れたと
評判になり、徐々に講演等を依頼されるようになりました。

 その講演を聞いた司法書士が「こういう面倒な仕事は、金子が相応しい」と
仕事を回してくれるようになり、今日に至りますから、私にとっては、他の司
法書士は同業者のライバルではなく、ありがたい顧客紹介先です。上場会社の
商業登記を紹介されたこともあります。

 本やHPをみてお客が飛び込みで来たということはありません。債務整理な
どの個人客と相違し、企業は、人の紹介でもない限り、司法書士や弁護士に依
頼することがないからです。

 宮川さんも、会社法や消費者関係業務に詳しいため、県内の同業者から面倒
な仕事を回してもらえるようになることでしょう。そういう奇特な司法書士は、
当然ながら不動産等の日常の仕事で潤っており、生活にゆとりのある方に限ら
れます。そういう事務所と親しくなれば、きっと専門分野で頼りにされること
でしょう。同業者はライバルではなく、持ちつ持たれつの関係です。


2014.01.10(金)【事務所開設】(岡山・宮川康弘)

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 さて、私事ですが,この正月には,年明けのほかに,もう1つめでたいこと
がありました。それは,この1月6日に,地元岡山県で,自分の事務所を開設
したことです。

 勤務司法書士4年7ヶ月,消費者庁での任期付公務員4年を経て,やっと自
分の事務所を開設することになりました。それ以前の法務局での登記コンピュ
ータ化のアルバイトや,司法書士事務所の補助者時代を含めると,本当に長過
ぎる?道のりでした。

 まだ開業したてですし,最近まで岡山を離れて東京に住んでいた関係で,仕
事を依頼してくる人も少なく,まずは新築の事務所で,ゆっくりとコーヒーを
楽しんでいます。

 「今,私に事件を依頼すると,会社法務と消費者法務に経験豊富な司法書士
が,時間をかけてじっくりとスキーム等を検討することができます。」……な
どとこの場に書いてみたりして,初めての経営者兼営業担当者の気分も楽しん
でいます。

 この開業当初の余裕(?)がいつまで続くか分かりませんが,今年も,仕事
も勉強も頑張っていきたいと思います。

 皆様,よろしくお願いいたします。



2014.01.09(木)【ブラック企業】
(金子登志雄) 

 愛煙家の富田センセも禁煙ですか。愛煙仲間が減って寂しいなどとはいいま
せんから、頑張ってください。

 というのは、私の毎年の目標は「平常心」だからです。心を動かされるのは、
喜怒哀楽の「喜怒楽」の場合に限定し、「哀」などのマイナス感情は持たない
ようにしているからです(つい持ってしまうから、持たないように心がけてい
るともいえますが)。

 自由業になって本当によかったと思えるのは、この平常心でいられることで
しょうか。「嫌だ。ノーだ」といえる幸せです。勤務していた頃は、会社の方
針、上司の指示で、気乗りしないこともしなければなりませんでしたが、自由
業の場合は、自分が経営者ですから、そういう問題が生じません(明日の飯に
ありつけるかという別の心労に悩まされますが、これは自己責任です)。

 昔(30代のフリーター時代)、生活のため、何も知らずに新聞の求人広告
をみてブラック企業に勤めてしまったことがありましたが、一言、反抗的意見
をいったところ、翌日に解雇されました。たったの2週間の勤務でした。

 こういうブラック企業の共通点は、経営者がワンマンで理不尽な恐怖政治を
敷くことでしょうか。人を育てようなどという発想は全くなく、使い捨てます
から、従業員の個性を重視しない小売業や飲食業に多いのも頷けます。

 人は意思を持ち生きがいをもって動きますから、これを制約したところで、
うまく行くわけがなく、ブラック企業が長続きするとは思えません。従業員だ
けでなく、顧客も社会も離れます。私が勤務した会社も、先ほどネット検索し
たところ、業績不振で買収され、いまは存在しませんでした。

 富田センセも、正月2日から働くのような自身の体にブラックを続けていて
は禁煙の効果も怪しいものです。私のように、疲れることは一切しない「箱入
り体」にしておけば、きっとホワイト仕事の良縁が舞い込むでしょう。



2014.01.08(水)【私的「禁煙宣言」!
        (但し、禁煙ファシズムには断固反対!)】
(富田太郎) 

 今年もよろしくお願いいたします。

 皆様も今年の目標をたてられた方もいらっしゃるかと思いますが、私、富田
も昨年末から、あることを目標にしています。

 それは、
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★企業統治の強化策を盛り込んだ『会社法改正案』(2013年11月29日
 国会提出)
★「産業競争力強化法案」(国立大学法人等によるベンチャーキャピタル等へ
 の出資の特例に関する法案)
----------------------------------------------------------------------
これらの条文・内容等のマスター???
いえ!違います。

 実は、今年の目標は、『禁煙』なのです。昨年末から、禁煙をしております。

 思えば、高校3年の頃、映画『灰とダイヤモンド』の主人公、マチェックや
『カサブランカ』のボギーのタバコの吸い方に魅せられ、タバコを吸うように
なりました。

 当時、私は『名古屋の進学高』から『都立高校』に転校したばかりで、都立
高校には制服などなく、私服で学校に通っており、街で吸っていても注意され
ることもありませんでした。

 また、転校した都立高校は、暴走族の集まりのような2流高校で、その中、
私は『文学と知性』を愛する文学青年であり、タバコを吸っていても、特に教
師からも注意を受けたこともありませんでした。

 さらに、自宅で隠れて吸っていても、親が危ないと思ったのか、黙って机に
灰皿を置いてくれました。以来、自室でも堂々と吸っていました。

 あれから、37年・・・・タバコを吸い続けていましたが、今年こそ、禁煙
することに致しました。

 ただし、禁煙に成功しても、禁煙ファシズムの風潮(注)には染まらないつ
もりです。

 (注)NPO法人日本映画学会なる団体が、昨年アニメ『風立ちぬ』の喫煙
シーンに苦言を呈していました。巷では、芸術美学を知らない野暮な「たばこ
バッシング」(禁煙ファシズム)が多いですね。

 しかし・・・本当に禁煙できるでしょうか・・・(汗)。それが問題ですね
・・・。

 もし、皆様が本局あるいは港の法務局の喫煙所で、私、富田を見かけた場合
は、タバコを吸っているのではなく、禁煙パイポを吸っているのだと思ってく
ださいね・・・。



2014.01.07(火)【日本の顔】(島根・根来川弘充)

 新年おめでとうございます。

 2013年もあっと言う間にすぎてしまいました。
2013年の大きな出来事を考えますと、やはり、東京へのオリンピック招致
をあげたいと思います。

 ところが、その東京では某知事が失脚するという事態になってしまいました。
テレビでの某知事の弁明は、誰がみてもお粗末だったと思います。やはり、権
力とお金は切り離せないものだと、国民に知らしめる結果となったことは、と
ても残念です。

 ところで、新たな知事がこれから選ばれることになるのですが、東京五輪開
催時の知事になる可能性が高いのではないでしょうか(私の勘でしかないので
すが・・・)。

 そうすると、今度の選挙の候補者の中から、選ばれることになります。島根
県民である私には、残念ながら投票権がありません。都民の皆様には、是非、
この点も考えて投票していただきたいと願います。

 また、この時の総理大臣は一体だれになっているだろうかとも、ふと、思い
ました。

 現在のA総理大臣が、つづけているとは、いままでの総理大臣の任期から推
測すると、少し考えにくいです。

 こちらは、間接的ながら、選ぶ権利があるのかと思いつつも、ひょっとする
と、憲法が変わって大統領制みたく、直接投票になっているかもしれないとも
思いました。直接投票によって選べる日が来る方が怖い気がします。

 いずれにせよ、先を考えると不安がますばかりです。目の前のことに、一所
懸命取り組んでいきたいと思います。

 本年が、皆様にとって良い年でありますように。



2014.01.06(月)【謹賀新年】(金子登志雄)

 新年おめでとうございます。

 年末および正月休暇、最長9連休は、いかがお過ごしでしたでしょうか。私
は、例年であれば、上州(群馬県)の田舎に帰省していたところですが、今回
は都合により久々に横浜の自宅で正月を迎えました。近くのコンビニに行った
以外は、どこにも出かけませんでした。

 お年玉を渡す甥や姪ももう社会人ですから、そのような対象者もなく、何も
することのない中途半端な立場でしたので、会社法改正案を1読したり、原稿
や講演レジュメの再チェクをしたり、テレビをみたりの怠惰な生活でした。た
ぶん、1、2キロは太ったでしょう。

 今年は太った「豚年?」ではなく「午年」のようですが、なぜ「午」が「馬」
になるのかとネットで調べましたら、訓読みで似ていたから「馬」を当てただ
けで、全く関係ないようです。

 「午」は「正午」でお分かりのとおり、12支の真ん中(7番目)を意味す
るようです。真ん中は「6」で「7」ではないじゃないかと思われるでしょう
が、中間は「6の終わり時点=7の始まり」のため、「7」で正しいわけです。

 我が人生は、年齢でいえば、とうに真ん中を過ぎてしまっていますが、コト
司法書士業務では、経験が増せば増すほど有利になりますので、今が旬(しゅ
ん)の「午」かもしれません。

 本年も経験を増やし、腕を磨き、どんな暴れ馬でも乗りこなせるよう準備し
ておきますので、相変わりませず、当ESG法務研究会をよろしくお願い申し
上げます。

過去徒然

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