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TOPICS

徒然日誌


2013.12.27(金)【よいお年を!】(金子登志雄)

 本年最後の徒然になりました。ここまで無事に来れたことを感謝しないとい
けないですね。
 
 本年を振り返って、強烈に思い出に残る仕事は何かと自問しても思い出せま
せん。平凡に可もなく不可もなく終わったということよりも、少しくらいの刺
激のある仕事では何も感じなくなったのかもしれません。

 執筆・講演業務は、会社法のピークも去ったこと、会社法改正法案が国会を
通過していないことから、著作の改訂版も出せず、ヒマでした。

 最も時間をかけて「ああでもない、こうでもない」と考え続けたのは、ブロ
グ「司法書士のオシゴト」で新保司法書士が問題提起した吸収型再編で「効力
発生日から」というのは初日算入で期間計算するのかという問題だったでしょ
うか。

 これに関しては、徐々に考え方がまとまってきましたので、来年の2月には
「ビジネス法務」(中央経済社)に私見が掲載されます。登記とは直接の関係
がないので「登記情報」(キンザイ)ではありません。

 来年は、会社法改正も予測されていますので、久々に本格的な著作活動に復
帰することができそうです。「ESGここにあり!」を示そうと、全国のお仲
間ともども頑張ります。

 本年はありがとうございました。よいお年を。明年は正月6日からです。


2013.12.26(木)【司法書士Xを目指そう】(金子登志雄)

 自由業の強みで、仕事の合間をみて、のんびりと、パソコンでドラマなどを
みることもあるのですが、スタイル抜群の米倉涼子さん主演のフリーランスの
外科医「ドクターX」は面白かったですね。残念ながら、番組改編期で終了し
てしまいました。

 名セリフ「私、失敗しないので」は、私も使いたいものです。銀行員半沢直
樹の「倍返しだ!」は、失敗を前提としているので、使いたくありません。

 「金子先生、これ大丈夫でしょうか。何とかなりますか」
 「お任せください。私、失敗しないので」

 こういってみたいですね。そして、仕事を完成させた後には、

 「ひょっとして、あの伝説の司法書士Xとは、先生のことですか」
 
 などといわれる妄想もたまにはしてみたいものですが、顧客が原因の印鑑相
違だとか、既存の書類に上書きしたための年号相違などの小さな失敗は、何度
も経験していますので、到底「私、失敗しないので」とまではいえません。

 幸い、大きな失敗はありませんが、それをしたら、即、引退でしょう。他の
方も同じであって、自慢できることではありません。

 ただ、手の技術優先の外科医は年取れば腕が鈍るでしょうが、知力の司法書
士は経験が増せば増すほど技術が向上しますので、まだ私にも、決して失敗し
ない司法書士X2号や3号になれる時間は残されていると信じています。

 現在は、Xの2つ前の司法書士V程度にはなっていると思っていますので、
来年はXの直前の司法書士Wあたりを目指しましょうか。

 私以外のESGメンバーは、かなり前から司法書士Wの領域に達しているよ
うです。あ、違った司法書士WP(ワーキングプア?)でした。来年は、ぜひ
XPになってください。不肖私が、来年4月8日まではサポートしますから。


2013.12.25(水)【財産の価額の算定方法】(金子登志雄)

 金曜日の本欄をみた非司法書士の方から、驚きの声をもって、下記のような
登記が存在するのかとの疑問を提起されました。

----------------------------------------------------------------------
新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
 各新株予約権の目的である株式の数を乗じた価額とし、行使価額は、割当日
の属する月の前月の各日の取引の終値の平均値に1.05を乗じた金額とし、
1円未満の端数は切り上げる。
----------------------------------------------------------------------

 大量に存在しますが、当然の疑問ですよね。これじゃ、金額も分からず、公
示の目的を達せません。

 なぜ、こんな馬鹿げた登記が存在するのかというと、平成20年春頃の某大
手法務局の回答に「登記申請時に、その算定方法に従って具体的な価額が定ま
るべき場合であっても、『価額』が算定方法に従った正しい内容のものか否か
を申請書及び法定の添付書類に基づき登記官が判断することはできないことか
ら、あくまで『算定方法』を登記すべきである。『価額』をもって登記の申請
がされた場合には、商業登記法第24条第9号により却下することとなる」と
いう恐ろしいものが出たことがあったためです。

 この当時の某大手法務局は、解散登記と同時に譲渡制限の「取締役会」も変
更登記しなければならないとか、納得できない見解をよく出していました。

 算定方法だといっても、割当日の前月という過去のことですから割当日及び
登記申請時には具体的な金額が出ているのですから、ひどい回答です。この回
答は、いまでもそのまま残っていますが、いまでは、ほとんどの方が無視して
います。

 私も、某法務局の1意見だと割り切って、この回答を無視して行動しました
が、その法務局でも、無事に完了しました。

 なぜ、こういうことが生じたかといいますと、新規に赴任してきた方が張り
切りすぎて実績を残したいと思うあまり従来の慣例を変更してしまうのです。
市長が代わると新庁舎を作りたい、新知事になるとオリンピックを誘致し、実
績を形に残したいというのと同じです。会社でも部長や支店長が交代すると、
従来の慣例が急変しますよね。それと同じです。

 こういうときは、また交代するまでの間だけと思って、指導を無視すればよ
いだけですが、中には、すぐに指導に従ってしまうプロ意識の希薄な司法書士
も多いわけです。いまだに、この指導に従っている方には、少しは自分の頭で
考えよと猛省を求めたいものです。


2013.12.24(火)【新株予約権の目的たる株式の数】(金子登志雄)

 先週、新株予約権のことを書きましたら、仲間内で「新株予約権の目的たる
株式の数」は、全体の株数を書くのか、1個あたりの株数を書くのかという話
になりました。

 会社法立案者の葉玉氏は、平成18年9月に、そのブログで次のように答え
ています。
----------------------------------------------------------------------
Q1 新株予約権についてお教えください。
 新株予約権の内容の1つである「当該新株予約権の目的である株式の数又は
その数の算定方法」(会社法236条1項1号)とは、新株予約権1個当たり
の目的となる株式の数(たとえば1000株)でしょうか、それとも、その総
数(1個当たりの株式数×新株予約権の総数)でしょうか。236条は新株予
約権の基本的な内容を定めるものであり前者だと思うのですが、いかがでしょ
うか。

A1 新株予約権1個当たりの目的となる株式の数です。
----------------------------------------------------------------------

 ところが、登記実務は、総数説です。私も登記実務が正しいと思っています。

 会社法236条1項1号と7号をよく読んでください。
----------------------------------------------------------------------
1【当該新株予約権の目的である株式の数】(…)又はその数の算定方法
7【当該新株予約権】について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条
 件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
 イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及
  びその事由
 ハ イの事由が生じた日にイの【新株予約権の一部】を取得することとする
  ときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法
-----------------------------------------------------------------------

 第〇回新株予約権は全部で100個、1個1000株という前提で話します
と、1個説では、上記の「新株予約権の一部」を「当該新株予約権1000株
中の一部」と読むことになり、おかしな結論になります。ここは、100個中
の一部という意味ですから、「当該新株予約権」とは「第〇回新株予約権」の
ことであり、「当該新株予約権の目的である株式の数」は10万株ということ
です。

 旧商法時代は、新株予約権は「第〇回新株予約権」で本来は1個だが、それ
を何個かに分割できるという発想でした。次のとおりです。会社法になって、
考え方が急変したとは思えません。

----------------------------------------------------------------------
 旧商法280条の20第2項
1 其の決議に基き発行する新株予約権の目的たる株式の種類及数
2【複数の新株予約権に分割して発行するときは】発行する新株予約権の総数
----------------------------------------------------------------------


2013.12.20(金 )【株式分割と新株予約権の調整】(金子登志雄)

 新株予約権の話になったついでに、司法書士からの質問で、「株式分割をし
たが、調整式が登記されているので、新株予約権の行使によって得られる株数
や行使価額ついて変更の登記が必須か」というものが少なくありません。

 「登記しなければならない」との見解もありますが、それは行き過ぎであり、
「登記したほうがよい」程度が無難な見解だと思っています。実務上もそう扱
われています。

 昔、最初及び第2回目の株式分割の際に変更登記せず、第3回目の株式分割
を行った際に、私の担当になり、担当法務局に確認したところ、「全く登記し
ていない会社も多いですよ」といわれ、安心したこともあります。

 さて、登記する場合に、1株を10株に分割したとして、新株予約権が次の
ようになっていた場合はどういたしますか。

--------------------------------------------------------------------
(共通の内容)
  新株予約権の数 1000個
    新株予約権1個当たりの目的となる株式数は1株。ただし、調整有。
  新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法
    普通株式1000株。ただし、調整有。
  ------------------------------⊸
(例1)
  新株予約権の行使に際して出資される財産の価格又はその算定方法
    行使価額は1株100円とする。ただし、調整有。
(例2)
  新株予約権の行使に際して出資される財産の価格又はその算定方法
    当初の行使価額は1株100円とする。ただし、調整有。
(例3)
  新株予約権の行使に際して出資される財産の価格又はその算定方法
    各新株予約権の目的である株式の数を乗じた価額とし、行使価額は、
   割当日の属する月の前月の各日の取引の終値の平均値に1.05を乗じた
   金額とし、1円未満の端数は切り上げる。
-------------------------------------------------------------------

 上記の場合、例1であれば、次のように、株数を10倍にし、行使価額を
10分の1にします。1個100円は変わりません。
-------------------------------------------------------------------
  新株予約権の数 1000個
    新株予約権1個当たりの目的となる株式数は【10株】。……
  新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法
    普通株式【1万株】。ただし、調整有。
  新株予約権の行使に際して出資される財産の価格又はその算定方法
    行使価額は1株【10円】とする。ただし、調整有。
-------------------------------------------------------------------
 
 例2では、わざわざ「当初の」と断っていますので、迷うところですが、株
数だけ調整するのではバランスを欠くので、変更登記する人も少なくないでし
ょう。どちらでもよいと思います。

 例3は変更の前提として具体的な数値がありません。そうすると、株数だけ
変更登記することになりますが、「新株予約権1個=株数×1株当たり行使価
額」において、株数は10倍にし、行使価額は未調整ということになります。
こればかりは、いまさらの感がありますから、私も、株数のみを変更登記する
か放置するかケースバイケースで対応すると思います。

 逆に、本例で、10株を1株に併合した場合に、「1個当たりの目的たる株
式数は0.1株」(注:10個単位で行使すればよいので問題ありません)、
「行使価額は1000円」と変更登記するでしょうか。やはり、変更登記せず
に、そっとしておくことも選択肢の1つでしょう。


2013.12.19(木)【新株予約権要綱作り】(金子登志雄)

 今月も種類株式の考案や新株予約権の要綱案作りの仕事がありました。私が
作成すると登記に必要な部分はA4用紙1枚を超えることはありません。

 ところが、弁護士さんが作成すると、私の数倍の分量になります。登記のこ
とを全く考えていないからです。

 いまは株券も不発行が原則で、新株予約権証券も作らないことが多いのです
が、それを作成する場合には、種類株式や新株予約権の内容を証券(の裏面)
に書き込まねばならないのです。そういうことを全く考えていないのが弁護士
さん作成のものです。

 それも「本18項③に記載する………」みたいな表現が大量に登場するため、
そのまま登記することもできず、登記簿表示上は、「後記する………」などと
文章を変えたりしなければなりません。

 また、行使価額の調整式程度はいいのですが、その調整式をいつから適用す
るかなど細かいことまで調整式の部分に記載されますと、それも登記から除外
できません。登記項目とは別の部分で細目としてまとめてくれれば、登記申請
で省略することも可能ですが、そういう配慮も全くなされていません。

 内容的にも、資本の減少をしたときも行使価額を調整するようになっている
例がほとんどですから、ほんとに考えて作っているのか疑問です。会社法にお
ける資本金の額の減少は、いわゆる無償減資に限定され、株主資本の内訳が変
わるだけで株数には影響しません。旧商法時代の雛形をそのまま利用して、そ
れに気づいていないとしか思えません。

 何とかしてもらいたいものですが、そういう弁護士さんらしい要綱をみると、
ひそかな優越感を感じさせてもらえますので、余計なことはいわないほうがい
いかもしれませんね。頑張ってくださいとだけいっておきましょう。



2013.12.18(水)【議長に一任】(金子登志雄)

 以前(10月25日)、本欄で株主総会の議題が「取締役選任の件」とだけ
書いて、議案である取締役候補者名を示さずに株主総会を招集することができ
るかを問題にしたところ、読者の方から、「そういえば、次のような表現の議
事録が多いですね」といわれました。

----------------------------------------------------------------------
 議長は、取締役全員が、本株主総会終結と同時に任期満了退任することにな
るので、これを改選する必要がある旨を述べ、その選任方法を総会に諮ったと
ころ、出席株主中よりその指名を議長に一任したいとの発言があり、全員異議
なくこれに賛成した。
 議長は下記の者を指名し、その賛否を議場に諮ったところ、全員一致をもっ
てこれに賛成した。
----------------------------------------------------------------------

 ベテラン司法書士なら、すぐにお分かりのとおり、これは旧商法の古い時代
からの法令様式あたりの書式例の決まり文句です。

 旧商法では、原則として特別決議には議案の要領の記載が要求されていまし
たが、取締役の選任などの普通決議には、それが要求されていなかったため、
上記のような議事録案が見本として示されていたのでしょう。

 会社法下の実務では、「議長は、………これを改選する必要がある旨を述べ、
別紙総会招集通知の参考資料のとおり、下記の者の選任を諮ったところ、全員
一致をもってこれに賛成した」などとすべきでしょうか。

 旧商法時代を含め、総会前には候補者が決まっており、議長の指名に一任す
るようなことは、まずあり得ません。それでも、前記のような書式例が幅を利
かせていたのですから、今から考えると不思議です。


2013.12.17(火)【監査等委員会設置会社の早わかり】(金子登志雄)

 会社法改正の目玉である「監査等委員会設置会社」といっても、まだぴんと
来ない方も多いでしょうが、上場会社である監査役会設置会社が監査役会を外
して監査役の全員を取締役に変えたものといえば、イメージが湧くでしょうか。

 株式会社甲 
     取締役(会メンバー)  ABCDE(全員が業務執行に従事)
     監査役(会メンバー)  PQR(QRは社外監査役)

 甲を監査等委員会設置会社にすると、
     取締役(会メンバー)  ABCDE・PQR
     監査等委員(会メンバー)PQR(QRは社外取締役)

 大きな差は、PQRが取締役会で議決権を行使することができるようになる
ことです。

 しかし、そのためだけだったら、あたかも衆議院と参議院の2院制のように、
取締役会の重要な決定につき、監査役会に拒否権を持たせるなど(取締役会の
決議の優越を定めることも必要でしょうが)の方策もあったと思います。

 日本社会では、監査等委員たる取締役候補を取締役会(実質は社長)が決め
て株主総会で選任するのでしょうから、制度をいくらいじっても、抜本的な対
策にはならないと私は思っていますが、いかがでしょうか。

 国策(?)ですから、圧力で上場会社のいくつかが、この委員会設置会社へ
の移行を検討するでしょうが、検討過程で、2流イメージ・中途半端イメージ
の監査等委員会設置会社になるくらいだったら、思い切って1流イメージ・本
格イメージの指名委員会等設置会社に移行しようとするのではないでしょうか。
後者のほうが株価にも好影響でしょう。

 監査等委員会設置会社は、そもそも、企業から強いニーズがあって(望まれ
て)産まれた制度ではないという決定的な難点があります。まだ、正式に産ま
れていませんが、今から、この子の将来が心配でなりません。


2013.12.16(月)【先代の番頭との確執】(金子登志雄)

 北朝鮮のナンバー2の処刑は、悲惨でした。まさに前近代社会でした。切腹
の権利を与えられる江戸時代の方がまだマシのようにも思えてしまいます。

 報道では、「なぜ、後見人である叔父を?」という論調の疑問形が多いよう
ですが、私には、「後見人だから」としか思えませんでした。

 企業経営にもよくあります。2代目や3台目の社長にとっては、先代からの
番頭が小姑と同じく煩わしくてならないのです。すぐに先代と比較され、「先
代はこうしたのに、貴方は……」と、上から目線でお説教してくるからです。

 誰だって、子供の頃のことまでよく知っている人と、一緒に仕事をしたら煩
わしくてならないでしょう。安倍首相だって、小学生時代の家庭教師だった平
沢勝栄議員が煙たいようです。

 また、ひょっとして、番頭も、2代目、3代目のボンボン社長より自分の方
が経営者に相応しいのに、血筋で負けたという悔しさがあるのかもしれません。
クーデターを考えてもおかしくない場合も多いでしょう。

 この点、医者や司法書士の2代目、3代目は資格という武器があるので、先
代の番頭よりも圧倒的優位な立場ですから、内紛が生じることはありません。

 いずれにしろ、名経営者は耳障りな助言を重視し、取り巻きをイエスマンば
かりにしないものです。正確な情報が入ってこないからです。

 お友達やイエスマンばかりを重視し、秘密保護や報道規制に熱心なトップは
自信のなさの裏返しでしょう。御社のトップはいかがですか。


2013.12.13(金)【定跡に挑む】(仙台・立花宏)

 先月まで行われていた将棋のタイトル戦「竜王戦」で、挑戦者の森内俊之名
人が勝利し、竜王位のタイトルを獲得されました。竜王位は、将棋のタイトル
で、名人位に並んで称されることもある、権威のあるタイトルです。

 これで、森内俊之名人は、名人、竜王位の2つのタイトル保持者となりまし
た。43歳でのタイトル奪取で、竜王位のタイトル獲得の最年長記録なのだそ
うです。若手が有利といわれる将棋界で、力が落ち始めるといわれる40代で
のタイトル奪取は見事というほかありません。

 そして、私がさらに注目したのは、その戦いぶりでした。

 挑戦者森内俊之名人の2勝1敗で迎えた7番勝負の第4局、若きタイトル保
持者、渡辺明竜王(※)は、森内俊之名人をある局面へと誘導します。それは、
これまでの定跡研究で、渡辺明竜王側が不利と結論付けられた局面でした。な
んの準備もないはずはありません。おそらく、不利と結論付けられた局面を打
開する研究を重ねた上でのことでしょう。

 それに対し、森内俊之名人は落ち着いた差し回しで、その研究を打ち破り、
勝利をおさめます。相手の研究に臆することなく飛び込んでいく姿勢に感心さ
せられました。

 また、負けはしましたが、タイトル戦という大舞台で、自分の方が不利とい
われていたこれまでの定跡に一石を投じてみせる若きタイトル保持者にも尊敬
の念を抱かずにはいられませんでした。

 しかし、驚いたのは、次の対局である第5局での森内俊之名人の作戦です。
なんと、森内俊之名人は前局で渡辺明竜王が誘導したのとまったく同じ局面に
誘導します。しかも、今度は、森内俊之名人が不利といわれる側を持つ形です。

 もちろん、深い研究の裏付けがあるに違いありませんが、なんという大胆さ
だろうと思いました。森内俊之名人は、その将棋を勝ち切り、見事、竜王位の
タイトルを奪取したのです。

 すでに結論が出ているという局面に挑もうとする若き渡辺明竜王の姿勢に、
そしてそれに応え、あらたな研究で対抗する森内俊之名人の姿勢に心が震える
思いがしました。

 私は森内俊之名人の年代に近い年齢です。負けないように頑張らなくては、
と思いました。もっとも、司法書士の世界では、まだ、若手といわれる年代な
のかもしれません。渡辺明竜王にも負けないように、頑張ります。

(※)渡辺明竜王は、このタイトル戦で竜王位を失い、現在は前竜王(別に、
王将位と棋王位の2冠を保持している。)となっていますが、この文章中は、
渡辺明竜王と記載しております。


2013.12.12(木)【議案の決定権者】(金子登志雄)

 会社法改正案に伝統的なスタイルからすると、不思議な規定が出現します。

---------------------------------------------------------------------
現行344条
 監査役(会)設置会社においては、取締役は、次に掲げる行為をするには、
監査役(会)の同意を得なければならない。
 1 会計監査人の選任に関する議案を株主総会に提出すること。(後略)

改正後
 監査役(会)設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任及
び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役(会)
が決定する。
---------------------------------------------------------------------

 株主総会に上程する議案は取締役会が決定し、これを会社提案で総会にかけ
るものでしたが、上記のとおり、会計監査人については監査役が決定すること
になります。同意権が決定権に出世したわけです。

 この場合も会社提案でよいと思いますが、ひょっとして次のようになるのか
という疑問が生じます。

---------------------------------------------------------------------
<会社提案(第1号議案から第3号議案まで)>
 第1号議案 剰余金の処分の件
 第2号議案 取締役5名選任の件
 第3号議案 監査役3名選任の件

<監査役会提案(第4号議案)> ★独立させるのか?
 第4号議案 会計監査人選任の件

<株主提案(第5号議案から第7号議案まで)>
 第5号議案 定款一部変更の件(1)
 第6号議案 定款一部変更の件(2)
----------------------------------------------------------------------

 いずれにしろ、社外取締役強化の路線は取締役と監査役との境界を徐々に不
明確にしていくことになりそうです。



2013.12.11(水)【手帳の更新】(金子登志雄)

 昨日は午前中に取締役会がありましたので、午前6時起きしたため、日中は
眠くて何もできませんでした。しかし、そこは自由業の強みで、誰からも干渉
されることなく、居眠りを堪能しました。

 取締役会では来年の取締役会の日の予定が発表されたため、あわてて来年用
の司法書士手帳を取り出し、メモしたため、今年の手帳はそのまま用済みにい
たしました。スマホが流行っても、手帳だけは紙が便利です。会社用の手帳も
あるのですが、ポケットに入らない大きさのため、黒塗りの司法書士手帳を愛
用しています。

 来年は8月31日が日曜日のため、9月1日付組織再編が要注意のようです。
債権者保護手続の満了日が8月31日日曜日では、翌日に延長され、吸収合併
等に支障が生じるためです。

 もっとも、その日が吸収型再編の効力発生日に相応しい2月、8月決算会社
は私の顧客にはないので、私には影響が少ないようです。1社だけ2月決算会
社がありましたが、今年、決算期を3月に変更しました。

 2月決算の会社としては、小売業が多いようです。ニッパチの多忙な時期で
はないからでしょう。紀伊国屋書店も8月決算のようです。

 手帳も更新し、顧客から来年のカレンダーが届き、忘年会も続き、徐々に来
年の気分になってきましたが、そう思えるのも、いままで無事に過ぎたからで
しょう。ありがたいことです。


2013.12.10(火)【会計監査限定監査役の将来】(金子登志雄)

 司法書士の間では周知のことですが、会社法が改正されますと、監査役のう
ち会計監査限定の監査役であることが登記事項になります。

 我々司法書士にとって最大の関心ごとですが、経過措置によって、監査役の
就任(注:再就任を含むでしょう)の際に、ついでに登記すればよいとなって
いますが、おそらく、監査役設置会社の登記の部分に「会計監査限定」などと
いった記載を追加するのだろうと、一般に思われています。これであれば、登
録免許税は3万円です。

 上場会社の子会社では、この負担をしぶしぶ受け入れてくれるでしょうが、
圧倒的多数の中小企業の顧客は、「冗談じゃない。増税じゃないか」と抵抗し、
我々は板挟みになりかねません。

 そのときは、「仕方ないですね。では、この任期満了(または辞任)・再任
の機会に、定款を変更して、監査役には業務監査権限を持たせましょうか。取
締役会に出席義務が生じ、招集の通知も必要ですが、ご親族ですから、現実は
従来とそう変わらないでしょう」とでもいうしかありません。

 これであれば、監査役再任の登記は必要ですが、監査役設置会社の部分は現
状のままで済むはずです。これが流行ると、会計監査限定監査役は、半減する
かもしれません。

 しかし、やはり会計監査限定のままにしたいという場合には、事業目的など
の定款変更の機会に、同時に会計監査限定の登記をすることになるでしょうか。
これであれば、目的変更と一括して3万円で済みます。この方式の方が多いか
もしれません。

 司法書士としては仕事が増えてありがたいことですが、顧客のことを思うと、
「法律が改正されたのです。3万円は必要経費です」と冷たく宣告することが
できません。たかが3万円とはいえ、卵を産むニワトリを購入させるわけでは
なく、回収不能な純粋のコストですから、何とかしてあげたくなります。他の
司法書士の皆さんは、そのとき、どうするのでしょうか。いまから考えておい
たほうがよいでしょう。


2013.12.09(月)【会社法改正案】(金子登志雄)

 法務省のホームページに下記がアップされたためか、法律家や税理士等のブ
ログや掲示板で話題になっています。

---------------------------------------------------------------------
 会社法の一部を改正する法律案
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00138.html

 会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00139.html
---------------------------------------------------------------------


 概要に関しては、改正要綱で説明済み(著書のずばり解説!にも所蔵)です
ので繰り返しませんが、この土日に、新旧対照条文だけに、ざっと目を通して
みました。

 予想どおりとはいえ、まるで、会社法が普通の会社には使われない条文ばか
りのゴミ屋敷になったようでした。新しい機関設計として「監査等委員会設置
会社」を追加したのなら、全くに近いほど採用されていない特別取締役制度を
廃止するなどの取捨選択があってもよいのに、圧倒的多数の会社にとっては、
無関係な条文の追加、追加………でした。

 現状の委員会設置会社は「指名委員会等設置会社」と名称が変更されます。
これで3度目の名称変更です(旧商法特例法時代は委員会「等」設置会社)。
現在、この機関設計を採用している会社は、全国で100社もありません。
「監査等委員会設置会社」も、採用する会社がどれだけあるのか疑問です。

 にもかかわらず、会社法条文の中で委員会設置会社関連が相当なスペースを
占めることになりますから、会社法を勉強する国家試験受験生達は辟易してし
まうことでしょう。会社法大好き人間の私でさえ、いい加減にしてほしいと思
ってしまいました。

 監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は、一言でいえば、監査役制
度を認めないアメリカ型の会社組織であり、伝統的な我が国の会社制度とは異
なります。したがって、「委員会設置会社法」とでもいう特別法でも作って会
社法から除外してくれれば、会社法が実にすっきりするのですが、現実は、逆
に進んでいます。これも米国からの圧力でしょうか。そのうち、監査役のある
会社が会社法から追い出されかねない勢いです。

 ますます素人には複雑怪奇で理解困難な会社法になるのは、われわれ専門家
にとっては商売上有利ですが、ゴミ屋敷化だけは何とか対策をというのが一読
した感想でした。



2013.12.06(金)【額面株式と株式交換】(金子登志雄)

 久々に株式交換を経験(登記)しました。同一グループ内の株式交換でした
が、他の組織再編に比べると、数は少ないといえます。

 親会社は種類株式発行会社でしたので、種類株主総会も必要でした。もちろ
ん、拙著に記載したように、株主総会と種類株主総会は共催にし、総会議事録
もまとめて1枚にしました。もう、慣れているので、迷いもありませんでした。

 ところで、日本最初の株式交換は、当社(アクモス)でしたが、額面株式時
代の平成11年9月の契約でした。株式交換制度の施行が翌月10月でしたの
で、施行を見越しての条件付き契約でした。

 その時、確か、資本金は1円も増加させませんでした。その記憶が確かだと
すると、額面株式時代で、当社の登記簿謄本にも額面50円とあったのに(額
面5万円を私が50円に変えました)、なぜ、資本金を増やさなくて済んだと
思いますか。

 今でしたら、かなりの人が正解するでしょうが、当時は全くに近いほど正解
者はいませんでした。登記簿謄本に額面50円と記載されていたからです。額
面分は必ず資本金に組み入れなければならなかったからです。

 正解は、無額面株式の発行でした。額面株式時代の当時は、額面株式を発行
しようが無額面株式を発行しようが自由だったのです。

 登記簿謄本に額面金額が登記されていても無額面株式を発行することができ
たのですが、当時は額面株式全盛時代でしたから、それを知っている人がほと
んどいなかっただけでなく、発想にものぼらなかったようです。その盲点を突
いたのが、株式を発行しながら資本金を増加させない組織再編でした。

 いったん発行されてしまったら、1株は1株で、額面株式と無額面株式の権
利の差はありません。額面の有無は種類株式ではないからです。額面株式を無
額面にすることも容易でした。

 今となっては額面株式時代が懐かしく思い出されますが、そんなことを人前
でいったら、「昭和生まれのジイサン」扱いされるのは、あと数年先でしょう
か。昭和も遠くなりました。


2013.12.05(木)【5000万円の重さ】(金子登志雄)

 表題は、猪瀬都知事の話ではありません。猪瀬氏の件だけでなく、テレビで
みる刑事ドラマの身代金も5000万円が多くなったなという感想です。数年
前のドラマの身代金は3000万円程度だったような記憶がありますので、お
カネの価値が下がったのかもしれません。5000万円では、まともな都心の
新築マンションさえも買えませんから。

 元銀行員ですから、1000万円の束は何度も目にしています。銀行員にと
っては商品であり、お金という感覚はありませんでした。M&A業務に従事し
ていた頃は、バッグに企業買収代金1億円を銀行に運んだこともありました。
片手でやっと持てる重さでした。

 5000万円だと厚さが50センチ、重さは5キロです。テレビでは、身代
金を要求された母親が軽々と運んでいましたが、あり得ないことです。紙袋に
は入るでしょうが、底が抜けるか、ヒモが切れるかと不安になる重さです。

 先般のドラマ「オリンピックの身代金」では、1億円では重くて逃走に不便
だからという理由で8000万円を要求していましたが、頭のいい犯人でした。
8キロだったら、持って走れるという計算でしょう。

 ふと、時代劇では、強盗が千両箱を肩に担いで去るシーンがありますが、紙
以上に重いので不可能ではないかと思い、ネット検索してみましたら、15キ
ロ程度が一般的な重さのようです。これなら肩車した子供より軽いので十分に
可能ですね。

 それにしても、子供は勝手に大きくなるのに、お金はどうして勝手に増えて
くれないのでしょうか。両方ともアシがありますから、親から逃げて行く点は
同じですけど。


2013.12.04(水)【払込期日と効力発生日】(金子登志雄)

 株式交換に関する旧商法359条1項では、株券の提出期限を「株式交換の
日の前日迄」と規定していたのに、会社法219条1項では「効力が生ずる日
まで」となっており「前日」が消えています。

 ずっと不思議でしたが、やっと判明しました。新株の発行の効力との絡みで
した。

 株式交換が商法に規定されていた当時は、新株発行の効力は「払込期日の翌
日」に生じるとされていたため、株式交換の効力も、効力発生日の前日までに
終わらせる必要があったのです。「紙」全盛の時代には、明確な基準が必要だ
ったのでしょう。

 ところが、ペーパーレス時代となり、平成16年10月施行の改正商法では
株主名簿閉鎖制度が廃止され、株券も不発行が認められました。このとき、新
株発行の効力は払込期日に生じることに改められました。出資したのに、すぐ
に株主になれないのは、まずいからでしょうか。コンピュータ時代には、株主
名簿への書き込みも時間がかかりません。

 この関係で、株券提出期限でも「前日まで」とする必要がなくなり、それが
会社法219条に結実したわけです。

 新株発行の払込期日と吸収合併の効力発生日には相似性があります。ともに、
財産の移動が行われ、新株主等が誕生する日です。相違点は、包括承継である
吸収合併においては、出資行為が不要で自動的に財産が移転することです。

 その結果、新株発行の効力は払込期日の全部の出資がなされた時点だが、通
常の吸収合併の効力は、効力発生日の午前0時に生じることになります。

 ここまではよいのですが、「払込期日から」は初日不算入で、「効力発生日
から」は原則として初日算入となるのか、そんなわけがない、まさかと考えて
いるのですが、いまだ試行錯誤中です(少しずつ前に進んでいますが)。


2013.12.03(火)【師走をむかえて】(島根・根来川弘充)

 はやいもので、2013年も最後の月を迎えたためか、こちらも雪がちらつ
くようになりました。

 11月の下旬には、扇風機とこたつが同時にあることに気づきました。片付
けわすれただけのことかもしれませんが、11月に入って急に寒くなった気が
しています。

 先日、役員変更登記の依頼をうけた会社にお邪魔したのですが、そちらの課
長との雑談の中で、「カメムシが大発生する年は、大雪になりますよ」といわ
れました。

 都市伝説ならぬ「田舎伝説」なのかもしれませんが、確かに、私のまわりで
もカメムシを良く見る気がします。

 長期の天気予報も寒波が厳しいと新聞かテレビかで見聞きしましたし、これ
からもっと寒くなると覚悟しておいた方が良いかもしれません。

 雪が降ると、交通渋滞があちこちでおき、一日のスケジュールが立てにくく
なるので、できるだけ無理な予定を立てないようこころがけたいのですが、年
内で目処を立てなければならない仕事が多くあることに気づきました。残り一
月、精一杯頑張りたいと思います。



2013.12.02(月)【期限と条件】
(金子登志雄)

 早いもので、今年もあと1か月になってしまいました。この歳になりますと、
年齢を重ねたくありませんので、「時よとまれ!」といいたいところですが、
こればかりは抵抗のしようがありません。

 さて、先週の金曜日は、某社勤務の元弁護士の方と打ち合わせをかねて飲み
ました。そこで、「期限と条件」の話題が出ました。

 期限というのは、時の経過によって必ず法律効果が生じるもので、条件は必
ずとはいえないものです。「もし、雨が降ったら」というのは、必ず、いつか
雨が降りますから期限とされています。

 そこで私が、「もし、東京で雪が降ったら」は期限でしょうが、「もし、沖
縄に雪が降ったら」は条件ですねと申し上げましたら、冗談半分に、常夏のハ
ワイだって山の上に行けば雪が降ると聞いてますから、沖縄も分かりませんよ
といわれてしまいました。異常気象の昨今は、何が飛び出すか分かりません。

 こうなると、「もし、サハラ砂漠に雨が降ったら」も、条件か期限か分から
なくなりますが、法律判断としては、向こう10年や20年以内の前提でしょ
うから、やはり条件でしょう。

 「司法書士試験に合格したら」というのは、合格率3%未満ですし、どんな
に優秀でも、必ず合格するとは限らないので、条件とされていますが、試験に
強い富田司法書士や山本講師にとっては期限も同じでしょう。試験に不向きな
頭脳の持ち主である私にとっては、まさしく条件です。運、不運の丁半バクチ
に近い条件です。

 結局、期限と条件は確度(到来の確実性)の差ですが、場所によって、人に
よって異なる尺度ですね。

 「将来出世したら」というのが微妙な事例として判例で問題になっています
が、協調性のない私にとっては、不能条件でしょうか。


2013.11.29(金)【定款の任意規定】(金子登志雄)

 先般、会社設立の相談を受けました際に、相談者が持参した原始定款案には、
次のような条項がありました。

----------------------------------------------------------------------
第X条 取締役会の招集通知は、会日の7日前までに各取締役および各監査役
   に対して発する。
第Y条 当社の監査役は、会計に関するものに限り監査を行う。
----------------------------------------------------------------------

 会社法によりますと、第Y条のような監査役は、取締役の業務を監査する必
要がありませんから、取締役会に出席する義務がありません。取締役会の招集
通知を監査役に対して発する必要がないということです。

 相談者に「第X条から『および各監査役』を削除しましょう」と提案しまし
たところ、「いや、関係する会社はこの方式だから、このままにしてほしい」
といわれ、そのままにしました。定款には強行法規に反しないことなら、何で
も定めることができるからです。

 その後、全く無関係な別の会社の定款をみていましたら、何と「株主名簿閉
鎖制度」が定められているのです。平成16年10月から基準日制度に一本化
されたのにもかかわらずです。歴史のある古い会社では、よくあることでもあ
ります。

 今までは、これに気づいた際には、すぐに時機をみて定款変更するようにア
ドバイスしていましたが、ふと「このままでは違法か。強行規定に反するのか」
と自問してしまいました。上記の監査役事例での反省に基づきます。

 しかし、一定の期間、名義書換できないということは、やはり株主権への侵
害でしょう。結論として、強行法規違反だが、名簿閉鎖期間の前日を基準日と
して定めた効果はあると考えました。


2013.11.28(木)【最終事業年度】(金子登志雄)

 月末になると会社の解散の仕事が増えるのですが、これに関連して、以前、
仲間内で次が問題になりました。

---------------------------------------------------------------------
 3月決算のA株式会社が定時株主総会を待たずに4月30日に解散決議をし
たが、定時株主総会は必要か。必要でないとすると、確定申告はどうするのか。
----------------------------------------------------------------------

 まず、平成25年3月期(平成24年4月ー平成25年3月)の定時株主総
会は必要ありません。解散後の5月1日から清算事務年度に入るので、事業年
度に関する定時株主総会の規律は適用されなくなるからです。

 したがって、株主総会で計算書類の承認なくして、確定申告をすればよいよ
うです(このあたりは税理士さんのテリトリーのため、詳細は不明です)。

 では、平成25年3月期あるいは「平成25年4月1日ー4月30日」期は
最終の事業年度といえないのかという疑問を持ってしまいますが、そのとおり
です。会社法によると、最終事業年度とは、定時株主総会で計算書類の承認を
受けた最も遅い事業年度のことですから(会社法2条24号)、前年の24年
3月期が最終事業年度です。

 今年の25年3月期と、25年4月1日から解散時までも事業年度というの
かは、会社法に何も書いてないので、はっきりしませんが、計算書類の承認を
受けない事業年度とでもいうのでしょう。

 最終の事業年度の後に、また事業年度があるというのは、おかしな表現です
から、最終事業年度は、最終「確定」事業年度と理解しておけばよいかもしれ
ません。確定とはもちろん決算(計算書類)の確定のことです。これであれば、
確定後にも事業年度が存在することを素直に受け入れられます。



2013.11.27(水)【効力が生じた時】(金子登志雄)

 会社法には、効力発生【日】とか効力が生じた【日】というのが大量に登場
しますが、「効力が生じた【時】」というのもあります。時間にこだわる場合
として何が考えられるでしょうか。

 すぐにお気づきになりましたでしょうか、役員等の任期計算(満了時)です。
例えば、監査役の任期は、「監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変
更の効力が生じた【時】に満了する」などと使われます。定款の効力が生じた
【日】に任期が満了するわけではありません。

 もっとも、吸収合併の効力発生日のように【日】を基準に定めた場合でも、
吸収合併の効力が生じた【時】以降であれば、効力発生日に合併の登記を申請
することができるなどといった効果がありますから、【時】にこだわっていな
いわけではありません。法律効果は、原則として「日」でなく「時(点)」に
生じます。

 日を基準にして規定する場合と、時を基準にする場合の差は何かと、会社法
条文を検索してみましたが、決定的な理由は分かりませんでした。伝統的にそ
うしてきただけで、深い意味はないのかもしれません。

 皆さんの中には、日を基準にした場合は、その日のどこかで効力が生じれば
よいが、時を基準にした場合は、その日のいつでもよいわけではないという差
があると思った方もおられるでしょうが、将来のことであればともかく、「効
力が生じた」という過去の場合には使えません。

 今日はお役に立てる内容はありませんでした。あいかわらず「時とは何か」
「効力発生日とは何か」と悶々と自問自答し続け、哲学の世界に入り込んで、
抜け出せないでいる私でした。結構、楽しんでいますけど。


2013.11.26(火)【期間の種類】(金子登志雄)

 民法には、期間の計算において初日の不算入が原則で、期間の満了日が休日
であれば翌日に延びるとありますが、期間であれば何でもかんでも初日不算入
で満了日が延びるわけではありません。

 典型例が事業期間です。「4月1日から翌年3月31日まで」という事業期
間においては、当然に、初日を算入し、3月31日が日曜日でも、翌日に延び
ません。

 3月決算会社が6月の定時総会で決算期を9月に変更した場合の変更した後
の最初の事業年度は過去の4月1日から将来の9月30日までですが、当然な
がら、4月1日の午前0時より開始し、初日不算入にはなりません。

 これらからして、事業年度は期間でないのか、「期日から期日」の期間なの
かなどとも考えましたが、期間にはいろいろな種類があるということでしょう。

 「先月1日から1か月間は東京にずっといましたか」と過去の事実を問題と
する場合も、初日は算入され、満了日の延長は考えられません。

 なぜ、民法が上記のように規定しているかというと、民法の定める期間は取
引期間あるいは権利行使・請求期間だからでしょう。本日の午前9時に「今日
から5日以内に債務を支払え」という場合に、本日は丸1日フルに使えなかっ
たのですから、切り捨ててもらわないと困ります。翌日起算で5日後の12月
1日の日曜日に支払いに訪問したら、相手が休日で会えなかったというのも困
りますから、満了日が翌日に延長されるわけです。

 こんな基本中の基本である当然な内容を民法の教科書で読んだ記憶がありま
せんが、皆様はいかがですか。誰も読んでいないとすれば、日本の学者の怠慢
でしょうか。


2013.11.25(月)【初日算入規定】(金子登志雄)

 新保ブログ(司法書士のオシゴト)の「期間のハナシ」は何と19回も連載
されました。しかし、私も新保さんも、完全燃焼はしていません。誰も問題視
しなかった部分であり、正解のない世界だからです。まるで、ゴルフでやっと
グリーンに到達したのに、肝心のホールが見当たらないで右往左往中のような
心境です。

 というわけで、私も、まだこだわっていますが、会社法に次のような表現が
あるのを発見しました。

----------------------------------------------------------------------
 A:公告の日から2週間(796条4項など)

 B:公告が効力を生じた日から起算して2週間(902条2項など)
----------------------------------------------------------------------

 Bには「起算して」がありますから、明らかに初日算入ですが、Aには、そ
れがありませんので、原則どおり初日不算入(翌日起算)です。

 では、公告が午前0時になされたとき(電子公告ならあり得ます)、Aも例
外として初日算入になるのでしょうか。

 そう考える法律家がほとんどでしょうが、私の会社法第六感がそれを拒否し
てしまうのです。

 Aの規定は公告をみて、簡易合併等を知り、それに反対する期間を定めたも
のですが、午前0時に公告をみることを前提としているとは思えません。午前
0時だろうと1時だろうと、公告を知るべき時点から判断すれば、過去の時間
は切り捨てるべきです。

(私的連絡事項)
 さぬきうどんを一飲みする転職した法務部のTさん、Yさんから元気だと聞
き、ほっとしています。落ち着きましたら、また、一発芸をみせてください。


2013.11.22(金)【補欠監査役の要件】(金子登志雄)

 会社法329条2項に「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定め
た役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができ
る」とあります。

 これを補欠役員といいますが、欠員が生じないと正規の役員になれないため、
野球でいえば、ベンチに坐っている控えの補欠のようなものです。

 補欠取締役も当然に可能ですが、現実には、監査役が3名以上で、その少な
くとも半数が社外監査役でなければならない監査役会設置会社における補欠監
査役に限られています。3名の定員割れや、社外監査役の最低員数を割ってし
まうおそれが最も高いからです。

 ということで、監査役を3名しかおいていない会社にあっては、安全策とし
て補欠監査役を定時株主総会で選ぶことが多いのですが、監査役1名が突然に
辞任したり死亡したりで、補欠監査役を予選したときには、すでに欠員が生じ
ていたなどというアクシンデントがないわけではありません。

 例えば、監査役ABCの会社で、Cの任期が切れるので、Cの再選と、念の
ため補欠監査役としてDを予選しようとしたところ、Cの再選議案が否決され
てしまったという場合に、Dの予選決議の運命はどうなるでしょうか。

 そのまま補欠監査役になって、欠員補充で正規の監査役になればよいじゃな
いかと思うでしょうが、会社法329条2項の条文からして、「予選の後に欠
員」が生じないと補欠監査役とはいえません。

 ふとこんなことを考え出してしまい、本日発売の中央経済社の「ビジネス法
務」1月号に「想定事例でみる補欠監査役の就任」を投稿し、私見を披露して
みました。

 こういう、どこの本にも書いてないことのクイズを解くのは、推理力・応用
力で売っている私の得意とするところです。ぜひ、書店でご覧ください。


2013.11.21(木)【合併交付金】(金子登志雄)

 よく質問されるのですが、例えば、合併比率の関係で、消滅会社の一部の株
主のみに、1株未満の端数が生じる場合に、これだけを現金交付にしようとす
る会計事務所さんが意外に多いようです。

 しかし、剰余金の配当で、一部の人だけに現金以外のものを配当することが
できないのと同様に、これでは株主の平等に反します。

 端数が現金にできるのは、例えば合併比率が「1対1.01」になったとき
に、消滅会社の1株に存続会社の1株と現金100円を割り当てるなどといっ
た場合です。端数の0.01分を現金にしたわけですが、全株主が対象で、株
主平等ですから、問題ありません。

 旧商法時代は、これを合併比率調整のための「合併交付金」などといってい
ましたが、会社法になってからは死語になったようです。単に合併対価が「株
式+現金」というに過ぎないからです。

 ただ、分割型会社分割で分割会社の株主に交付するものは承継会社から受領
した株式に限りますが、5%未満なら現金でもかまいません。これが、会社法
758条8号イの「株式に準ずるもの」です。この場合は分割交付金というべ
きでしょうけど(会社法施行規則178条参照)。


2013.11.20(水)【会計監査人は非役員】(金子登志雄)

 先週14日の会社法セミナーにおいては、都心部の司法書士相手でしたので、
上場会社の顧客も多いであろうと思い、会計監査人の説明からはじめました。

 会計監査人の基本は、会社外部の人で、役員ではないということです。会社
法329条にも「役員(取締役、会計参与及び監査役をいう)及び会計監査人」
とあり、役員は取締役や監査役を指し、会計監査人は除外されます。

 ですから、法定員数を欠いた場合の補欠会計監査人も、辞任・退任後の権利
義務者制度もありません。

 では、唯一の会計監査人が辞任したら、わざわざ株主総会を開催して後任を
選任しなければならないのかとの疑問をお持ちでしょうが、仮会計監査人(会
計監査人の職務を一時行う者)制度はあり、しかも、裁判所ではなく、監査役
(会)で機動的に選任することができます。この事例は決して少なくありませ
ん。私も登記で経験済みです。

 実務で面白いのは、会計監査人が辞めるときは、辞任届よりも「監査契約合
意解除契約書」が使われることが多いことです。

 初めてこれをみた時は「年月日合意解除」なんて退任事由の登記はみたこと
ない、どうしようかと迷いましたが、辞任を証する書面として扱い、「年月日
辞任」で登記しました。これが一般的なようです。


2013.11.19(火)【新株予約権は個数基準に】(金子登志雄)

 1株を100株に分割する株式の集約化が進んでいるようですが、やはり新
株予約権を株数基準で設計するのは誤りだとつくづく思います。

 新株予約権は何個と数えます。1個10株といった具合です。新株予約権の
行使価額も1個1万円なりと個数基準で定めればよいのに、前身の株式引受権
の流れを受けて、「1株1000円とし、付与株式数(ここでは10株)を乗
ずる」などと行使価額を株数基準で定めるのが一般的です。

 つまり、個数基準で、「1個=10株」「1個1万円」ではなく、株数基準
で、「1個=10株×1株当たりの行使価額1000円=1万円」と定めるの
が一般的です。

 この場合に、株式の集約化で1株を100株に分割すると、株数は100倍
にし、1株当たりの行使価額は100分の1に調整するのが通常です。

 1個=(10株×100)×(1000円÷100)=1万円

となり、1個当たりの行使価額は変わりません。

 しかし、会社によっては、株式分割を予定していなかったところもあり、株
式分割に伴う株数の調整式はあっても、1株当たりの行使価額の調整式は定め
ていないことがあります。非上場会社では珍しいことではありません。

 そうすると、

 1個=(10株×100)×(1000円ママ)=100万円

と、1個当たりの行使価額が100倍になってしまいます。

 行使価額を個数基準で定めておけば、「1個=10株×100」に変化して
も、「1個1万円」に変化はありませんから、そろそろ、株数基準から卒業す
べきではないでしょうか。


2013.11.18(月)【グリーンシューオプション】(金子登志雄)

 寒くなりました。私も先週14日からコートを着用しています。

 さて、その14日には東京司法書士会第1ブロック(千代田、中央、港、文
京支部)主催の会社法セミナーで講師を務めました。食傷気味な会社法がテー
マでも、会場の定員が300名のところ、すぐに埋まりましたから、都心部の
司法書士は相変わらず会社法に熱心です。

 そのため、私の講義に対する反応が非常によいので、実に話しやすいといえ
ます。ただ、私の講義は、中堅以上の司法書士には「面白かった」「非常に役
立った」といってもらえても、経験の少ない方には「ついていけなかった」と
いわれることが多いので、大勢の聴衆が満足してくれたかは不明です。

 それでも、壇上からは、居眠りしている人が1人しかみえませんでしたので
(この方は講義前からうつらうつらでしたから、私の講義のせいではなさそう
です)、若い方もついてこようと頑張ってくれたようです。

 さすが都心部の司法書士だと思えるエピソードをご紹介しますと、事前質問
に、オーバーアロットメントのグリーンシューオプションについてのものがあ
ったことです。おそらく、都心部であっても、複数の上場会社と関係していな
い司法書士には、初耳の単語でしょう。

 上場会社で10万株の公募をしたとします。希望者が殺到し、公募後も株価
が高騰して証券市場がギャンブル場と化しては困りますので、幹事証券が会社
の大株主から貸株を受けて(株式の消費貸借)、市場の過熱を冷やします。売
り浴びせるわけです。この貸株が10万株をオーバーする割当て(アロットメ
ント)という意味で、オーバーアロットメントといわれるものです。

 その後、市場が落ち着けば、証券会社は借りた株を返さねばなりませんが、
市場で調達しては元も子もないので、会社から第三者割当てを受けて、株式を
取得して貸主に返却します。この新株発行がグリーンシューオプションという
ものであり、グリーンシュー(緑の靴)という会社ではじめて用いられたので、
この名前がついています。法律的には単なる第三者割当てに過ぎません。


2013.11.15(金)【「前の日」の起算日】(金子登志雄)

 昨日ご紹介した消費税法では、事業年度開始の日(平成25年4月1日)の
2年前の日が平成23年4月2日だという点にびっくりなさいませんでしたか。

 国税通則法によると、税法における期間計算は民法に準じた内容ですから、
平成25年4月1日の2年前の日は平成23年4月1日のはずなのに、なぜ、
こうなるのか不思議でなりませんでした。

 税理士さん達のMLに問い合わせてみましたが、満足できる回答はいただけ
ませんでした。

 もんもんと、なぜだ、なぜだと、駅から事務所に向かって歩きながら、習性
となった1人問答をしていましたら、やっと、ひらめきました。

 ほぼ間違いないと思っていますが、消費税法の「事業年度開始の日」は過去
の日のことだろうと気づいたわけです。平成25年11月の現時点から過去を
振り返ってみると、平成25年4月1日は、すでに済んでおり、逆算する時は
同日の24時からスタートさせねばなりません。

 会社法で「効力発生日の20日前の日」は、これから到来する将来の日です
から、何もしていない効力発生日を1日として計算することができないため、
前日の起算になるわけです。おそらく、これで合っていると思っています。

 ところで、話変わって、皆さまにお尋ねしますが、4月1日夜に生まれた赤
ちゃんが1歳になるのは、翌年の何月何日と思いますか。

 民法の原則に従って翌日起算にしますと、翌年4月1日の日中に誕生祝いを
してもウソになりますから、年齢計算に関しては、法律で初日算入とされてい
ます。

 では、翌年4月1日0時だということになりますが、公法上は、3月31日
24時に1歳だと扱われています。これも、びっくりですね。

  http://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/TomoLaw/NenreiKazoekata.html


2013.11.14(木)【「前の日」1人問答】(金子登志雄)

 ここずっと、「前の日から」と「前から」にこだわってきましたが、今日は
ヒマを持て余していましたので、いつもやっている1人問答を再現してみまし
た。もう1人の私をT、現実の私をKとします。

 T:Kよ、君は「前から」も「前の日から」も大差がないというが、厳格な
法律用語で、そんなことはありえないとはいえないか。

 K:法律は人間が作るものだから、そうだといえないことも多々ありますよ。
その具体例は別の機会として、私の想像ですが、「前から」を「前の日から」
と表現するのは最近の法律の特徴だと感じています。例えば、旧商法282条
の「定時総会の会日の2週間【前より】5年間」が会社法442条になると、
「定時株主総会の日の2週間【前の日から】5年間」になりました。また、旧
商法282条の「株主総会の会日の2週間【前より】」が、会社法782条で
は、「株主総会の日の2週間【前の日】」からになっています。これでも、大
差があるといえるのですか。

 T:しかし、「前の日」とすることによって、その日が休日だった場合に、
前に延びるかどうかの差が明確になるのではないか。

 K:司法書士新保さん紹介のみずほ信託説ですね。しかし、旧商法358条
では、「(株主の反対通知)期間の満了の日より」買取請求することとされ、
通知期間の満了と買取請求期間の始期との間に日数の隙間(すきま)がありま
せんでした。であれば、会社法でも「効力発生日の20日前まで」の株主への
通知と、「効力発生日の20日【前の日から】」の買取請求の始期との間には
隙間のないように解釈すべきではないでしょうか。20日前までの通知期間で
民法の期間計算が適用されるなら、20日前の日にも適用されるべきです。

 T:しかし、効力発生日の変更に関する会社法790条に「変更後の効力発
生日が変更前の効力発生日【前の日】である場合」とあり、この日は期日だか
ら休日でもよいはずだ。同様に、20日前の日も期日のはずだ。

 K:その点は異論がありません。私がいうのは、「効力発生日の20日前の
日」における20日の計算で民法が適用されるかどうかという問題です。だか
ら、期日だからといって、その期日の決定にあたり民法の適用がないとはいえ
ないのです。

 T:そこまでいうなら、君にギャフンといわせる根拠を示そう。消費税法に
「事業年度開始の日の2年前の日の前日」とあるが、この2年前の日は、3月
決算会社(事業年度は1年間)で当該事業年度が開始した日(平成25年4月
1日)の2年前の日は平成23年4月2日だと解されている(初日算入)。こ
の日が休日だったら、前に延びるとでもいうのか。

 http://oshiete.goo.ne.jp/qa/7868481.html

 K:Tさん、ものを多方面からみるのはよいとしても、趣旨を考えるべきで
すよ。民法や会社法の期間は権利行使や請求の期間だから満了日が休日では困
るわけです。これに対して、消費税法における期間は事業期間の問題だから休
日を問わないのです。同じ期間であっても区別して考えることですよ。


2013.11.13(水)【司法書士試験】(金子登志雄)

 昨日、ご紹介されていましたが。司法書士試験の合格者が発表されていまし
た。まずは、次をみてください。

 http://www.moj.go.jp/content/000115682.pdf

 平均年齢が34.78歳というのは、何かうれしく感じませんか。司法試験
や公認会計士試験と違って、学生だけではなく多くの社会人が受験していると
いうことです。

 それだけでなく、この試験の大好きなところは学歴不問ということです。実
に平等な試験ですから、社会人の皆様も挑戦してみませんか。合格率3%未満
ですから、過酷な試験ですが、合格しなくても、法律の目で社会をみる訓練が
でき、現在の仕事にプラスになるでしょう。

 私が目指したのは45歳(ただし法律知識は合格レベル以上にありました)
で合格は48歳でした。今回の試験でいえば昭和40年生まれですが、それ以
前が何と20人以上います。

 最高年齢の67歳の方も、還暦過ぎてから勉強を始めたのかもしれません。
67歳より若い私には、その気力はもうありません。駅の階段さえ避けてエス
カレーターを探して乗っている状況ですから、そのエネルギーに脱帽です。

 しかし、この仕事は体力が不要ですから、67歳でも70歳でも十分に務ま
ります。特に、人生経験が必要な商業登記に合っているでしょう。

 昨日の立花さんの投稿でもお分かりのとおり、他の業界と相違し、同業者で
ある司法書士同士はライバルではありません。法務局さえ、敵ではありません。
共に、仕事のゴールを目指して協議しあう仲間ですから、いままでの社会人経
験以上に厳しい環境にはならないはずです。

 合格者の皆様の今後のご活躍を願っております。


2013.11.12(火)【同期】(仙台・立花宏)

 先日、隣県で開催された研修会に参加してきました。

 研修の内容も充実したものでしたが、それ以上にうれしかったのは、ずっと
お会いしたいと思っていた方にお会いし、久しぶりにお互いの近況をお話しで
きたことです。

 その方とは、数年前、司法書士試験に合格した後に受講した1か月半近くに
及ぶ研修で知り合いました。その1か月半近くに及ぶ研修で同じグループにな
り、切磋琢磨し合った、いわば「同期」の司法書士です。

 登録している単位会が違うことから、その研修が終わったあとは、あまりお
会いする機会がありませんでした。たまに、全国規模の研修会でお見かけした
ことはあったものの、なかなか、お話をする時間がとれず、すれ違いざまに挨
拶の言葉を交わすことがあった程度でした。

 久しぶりにお話をしたその方は、終始、にこやかな笑顔をされていました。
以前とかわらない、とてもすてきな笑顔でした。

 しかし、その笑顔には、以前にはなかった自信というか、人間としての厚み
というか、なにか不安を抱えて相談にいったら、その笑顔を見るだけで安心感
を覚えるような印象が加わっていました。きっと、司法書士としてたくさんの
経験を重ねてきたのでしょう。

 また、昨年は出産を経験されたとのこと、人間としてもいろいろな経験を重
ねてきたはずです。もともと、とても優秀だった彼女のことです。私よりも一
歩も二歩も先をいっているのかもしれません。“私も負けないように、がんば
ろう”そんな前向きな気持ちをいただきました。

 そして、「同期」っていいものだなと思いました。もう何年もお話していな
かったにもかかわらず、話をはじめると、とても懐かしく感じるばかりか、い
まだに一緒に研修をうけているような、そんな気持ちにもなります。お互いの
成長に刺激を受け、がんばろうという気持ちになり、そして、お互いのがんば
りを応援したくなります。

 先日、今年の司法書士試験の合格者が発表になりました。その合格者を中心
に、来年1月下旬から、1か月半近くに及ぶ研修が始まります。受講する方た
ちは、その研修で知識の習得はもちろん、たくさんの友人やライバルを得るこ
とでしょう。そこで得た友人やライバルはきっと一生ものになるはずです。

 私は前回に引き続き、その研修の運営に携わることになりました。すでに準
備は進めております。受講者の皆様に気持ち良く研修を受講していただき、知
識の習得はもちろん、一生ものの友人やライバルを得られるような場としてい
ただけるよう、努力してまいりたいと思います。



2013.11.11(月)【重要:Uターン計算の始期】(金子登志雄)

 いまだに混乱があるようですので、今日も期間計算の説明にします。特に、
私の勝手な造語ですが、期間計算において「Uターン計算」の概念を広めたい
と思っています。

 会社法459条には「定時株主総会の終結の日【後の日】」、会社法施行規
則には「事業年度の末日【後の日】(を臨時決算日とする)」などとあります。
この例でお分かりのとおり、「後の日」や「前の日」という場合は、特定日を
指すのですが、基準となる日の翌日や前日とは限りません。

 ところが株式買取請求期間のように「〇日前の日【から】~日まで」と、期
間計算の始期として機能する場合には、「〇日前の日」であればいつでもよい
というわけには行かないので、「〇日前の日」が固定されるわけです。また、
「前から」でなく「前の日から」とされているのは、時間ではなく日数をもっ
て計算せよということでしょう。

 さて、金曜日の復習ですが、本日(11日)の3日後とは、14日ですか、
15日ですか。3日前の場合はいかがですか。

  ←3日前|3日|2日|1日|★本日|1日|2日|3日|3日後→
  ――――|――|――|――|   |――|――|――|――――
  今月 7| 8| 9|10|11日|12|13|14|15
       ← 3日間  →     ← 3日間  →

 3日後とは、翌日から計算して3日間(72時間)を経過後の日(「中(な
か)3日間」を置いた日のことですから、11日に4(3日+1)を足した日
である15日のことです。

 同様に、「3日前まで」は「11日-4」で「7日まで」のことです。上場
会社の株主総会の開催日が28日だとしたら、総会招集通知の発送期限である
「2週間前まで」は、「28日-15」で13日までということになります。

 このように、「3日前までに」は「3日前」を含みます。それは「効力発生
日まで」や「前日まで」と同様です。「3日後から」も「3日後」を含みます。

 混乱しやすいのが逆算計算で「から」の付いた「3日前(の日)から」です。
「3日前から溯って〇日」などとストレートに逆算する場合は「11日-4」
で「7日(24時)から起算し溯って〇日間」ということで問題ないのですが、
「3日前から本日まで」というように、Uターン計算をする場合には、「7日
(24時)から本日まで」という表現をせずに、7日24時を8日0時に言い
換えて、「8日から」となるわけです。

 これが原因で「3日前の日」は「7日」か「8日」かと混乱してしまうので
はないでしょうか。「効力発生日(10月1日)の20日前から効力発生日の
前日まで」は、9月10日24時から、すなわち「9月11日から9月30日
まで」のことです。

 ついでですが、「本日の3日後から本日の翌日まで」というUターン計算も
15日0時から逆算するため、14日から12日までということになります。

 結論:〇〇日後から、〇〇日前から、〇〇日まで、などという場合において、
その日の0時(逆算なら24時)にはじまる場合はその日を含むが、Uターン
計算の場合は、その日の24時間を使えないため、初日不算入で、その日を含
まない。


2013.11.08(金)【点(時)と線(日)】(金子登志雄)

 相変わらず、期間計算のことで、ああでもない、こうでもないと試行錯誤し
ています。課題を与えてくださった新保司法書士には、感謝です。

 さて、再度、私見を披露しておきましょう。

(1)2日後とは、法律上「2日間空けた日」であり、2日めの日ではない
 
 本日8日(金)の午後6時に「2日後の午前9時に会いましょう」といわれ
れば、本日を起算日にして2日後の10日(日)の午前9時と理解するのが日
常です。しかし、これでは、時間単位で計算すると、39時間後であり、2日
(48時間)経っておりません。

 法律では、疑義があってはなりませんから、日をもって計算するときは翌日
を起算日として、原則として「中2日(48時間)」経過した日(11日)が
2日後です(8日+3日)。

 しかし、法律は「2日猶予ください。必ず2日(経過)後には弁済しますか
ら」などといった取引を規律するものですから、「中2日」だけでなく、翌日
起算の中2日目(満了日)が休日だと1日延長させます。本件では、中2日め
の11月10日が日曜日となるため、本日の午後6時から2日後とは、例外的
に11月12日(火)のことになります(以上、民法140条以下)。

 このように「2日後(の日)」という表現では誤解を招きやすいためか、法
律では、「中2日」を表すため、一般的に「(翌日を起算日として)2日を経
過した日」と表現します(922条など)。

 同様に、「本日午後6時から2日前(の日)」は、逆算の翌日に対応する昨
日を起算日として「中2日」を経過した日ですから、11月5日(火)のこと
です(8日-3日)。株主総会の招集通知の発信日である「2週間前までに」
につき、「総会日-15日」で計算するのと同じです。

 なお、念のため、翌日は「中0日」であり「1日後」ではなく、同様に前日
は、遡って「中0日」ですから、「1日前」のことではありません。

(2)「~(日)まで」と「~日から」は、その日を含むと思え

 「11月10日まで」は「11月10日(午前0時から)24時まで」とい
う意味です。すなわち、その日を含みます。

 よく、吸収合併の効力発生日が10月1日(午前0時)なのに、なぜ、株券
提出手続を規定する会社法219条は「効力発生日まで」となっているのか、
これでは合併で会社が消滅しているのに10月1日24時まで提出せよという
ことになるではないかとの疑問の声を聞きます。

 株式交換に関する旧商法359条では「前日迄」と規定されていましたので、
この疑問はもっともですが、会社法の趣旨は、「10月1日午前0時まで」を
日の単位で表現し、「効力発生日まで」と表現したものでしょう。効力発生時
「点」のことを効力発生「日」と表現したわけで、吸収合併消滅会社の事前備
置期間が「効力発生日まで」となっているのも同じ理由でしょう(782条)。

 「11月10日から」という場合も、午前0時からはじまるときは、翌日起
算の例外として、当日起算になります(民法140条ただし書)。

(3)逆算で「前(の日)まで」と「前(の日)から」

 本日8日から「2日前まで」は、(1)や(2)のとおり、「中2日」を置
いた「11月5日(24時)まで」ということになり、5日の日を含みます。

 本日8日の「2日前(の日)から」という場合も、「11月5日から」とい
うことですが、最短期間では「11月5日24時から」ですから、これをもっ
て「11月6日(午前0時)から」と表現するのが一般的です。すなわち、
「〇〇日前(の日)から」の場合は、結果的に、その日の翌日起算となります。

 株式買取請求の「効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間」
も10月1日を効力発生日とすると、「中20日」空けた20日前の日(9月
10日)の24時からですから、これを「9月11日から9月30日まで」と
表現します。

(4)「20日前から」と「20日前の日から」

 以上より、10月1日の「20日前から」も「20日前の日から」も、遡っ
て20日間を経過した「中20日」の9月10日24時から、すなわち「9月
11日午前0時から」という意味であって、逆算の満了日である9月11日が
休日であれば、1日前にずれるだけでなく、「前から」も「前の日から」も、
単に「日」を単位に正確に表現したかどうかだけの表現上の差に過ぎないと私
は考えています。

 20日というのは、法律上、20日「間」という意味ですから、「20日前
の日」を「遡って20日めの日で、休日であっても前に伸びない」という見解
には、よほどの根拠を示していただけない限り、賛同することができません。


2013.11.07(木)【時代が経過しても、残る価値のある本とは】(富田太郎)

 数か月前、旧根抵当権の処理案件をやりました。

 今現在、われわれが見る根抵当権は、昭和47年4月1日施行されたもので
すが、それまでの旧根抵当権は、「極度額」ではなく「債権極度額」「元本極
度額」のような記載がされており、「債権の範囲」などの記載もなく、また、
主登記で増額の登記がされており、初めて見る私は戸惑いました。

 登記簿の旧根抵当権の「権利者その他の事項」の欄
----------------------------------------------------------------------
原   因 昭和28年2月26日銀行取引契約
      昭和38年4月22日設定
元本極度額 金7000万円
(一部省略)
----------------------------------------------------------------------

 本来は、新法施行時に、「債権の範囲」に変更したり、「主登記の増額部分」
を分割して別個の根抵当権にする必要があるのですが、稀にそのままになって
いたりします。

 当初、初めて見る私は、なにから手を付けてよいのかわからず、途方に暮れ
ていましたが、そこは天下のESG! ESGの鈴木さん、渡部さんから、資
料や貴重な当時の本を貸していただきました。

-----------------------------------------------------------------------
① 根抵当登記実務一問一答 金融財政 昭和52年発行 金2700円
② 例解 新根抵当権の実務 商事法務 昭和47年発行 金2800円
-----------------------------------------------------------------------

 これらの本により、旧根抵当権の処理については理解できたのですが・・・。
本&資料オタクの私としては、「絶対ほしい!この本! 事務所のコレクション
にしたい♪」ということで、アマゾンで購入したところ、何と1冊9000円もしま
した・・・(汗)。

 やはり未だににニーズがあるのでしょう。
40年たっても、高額の価値のある本! 凄いことだと思いませんか!
常々、思っていたことですが、
『時代が経過しても、残るような価値のあるものを書かなければならない。』
というのが私の持論です(きっぱり)!



2013.11.06(水)【合同会社設立】(島根。根来川弘充」

 先月知人らと合同会社を設立しました。会社の相談を受ける職業として、い
つか自分も会社を持たなければいけないと思っておりましたところ、ようやく
その機会を得ました。

 株式会社も考えたのですが、やはり、設立の登録免許税が9万円も合同会社
の方が少なく、そして、定款には公証人の認証をいただく必要がありませんか
ら、この公証人手数料もあわせると、14万円以上の節約になります。合同会
社を選んだ理由は、やはりこれになります。

 私のこの会社での役割は、おもに会計事務を中心とする総務といったところ
です。会計は、事務所の会計とは異なり、いままで仕入れなどない帳簿でした
から、最初から四苦八苦しております。

 一方で、社会保険関係は、商工会議所に相談をして、助成制度があるという
ことで、安心して社会保険労務士さんにお願いする事になりました。

 専門家に任せられるというのは、良いことですね。私も、すくなからず感謝
されていると思えました。本業も、ぬかりなく頑張りたいと思います。



2013.11.05(火)【「前から」と「前の日から」】(金子登志雄)

 連休は「友、遠方より来たる」でしたので、横浜の中華街で一緒に食事した
りで、楽しい時間を過ごしました。中華街は子連れや若者で大層な混雑でした。

 さて、先週は原田ブログとの勝手なコラボでしたので、今回は勝手に新保ブ
ログとのコラボにしました。

 新保ブログの10月31日「期間の話その5」は素晴らしい問題提起でした。

   http://blog.goo.ne.jp/chararineko

 気になったのは、買取請求の「効力発生日の20日前の日から効力発生日の
前日まで」の「20日前の日から」からの解釈につき、「『企業再編手続ガイ
ドブックP198』によりますと、『20日前の日』というように、一定の日
を定めている場合は、民法142条の適用はない」とあったことです。逆算の
期間の満了日である20日前の日が休日でも前日に遡らないという意味です。

 はじめは、「なるほど。期間の満了日は動くことがあっても、それが起算日
としても機能するときは、固定されていないといけないのだろう。よい勉強を
させてもらった」と感じ入っていました。

 会社法の条文でも「前の日から」ではなく、「前から」とされているのは、
株主提案権の「議決権を6箇月前から引き続き有する株主」という部分だけで、
その他は全て「前の日から~の日まで」とされていました。会社法施行規則で
も「2週間前の日から~の日まで」であって「2週間前から」とはされていま
せんでした。

 しかし、徐々に、「〇〇日前から」と「〇〇日前の日から」で「〇〇日」の
解釈が異なるのは、同じ法律内で、おかしいのではないかとの疑問が生じてき
ました。

 金融商品取引法で検索したところ、ほとんどが「前の日から~の日まで」で
したが、101条の3だけは「5日前から~の日まで」であって「5日前の日
から」とは、されていませんでした。こういう例もあるわけです。

 想像ですが、「~から~まで」を文章にする際に、「~の日まで」(「効力
発生日の前日まで」など)とあるので、それと対(つい)にする関係で、「~
から」のほうにも「の日から」を挿入しただけではないでしょうか。

 やはり、最初の解釈は、「企業再編手続ガイドブック」(みずほ信託証券代
行部編、商事法務)の勇み足であって、「前から」と「前の日から」は差がな
いというのが私の目下の結論ですが、新保さん、いかがですか。


2013.11.01(金)【戻ってきました】(岡山・宮川康弘)

 私のこのコーナーへの投稿は4年以上前になります。皆様,御無沙汰してい
ます。

 「この4年間何していたの? もう4年前のことなんて覚えていないよ。」
と言われる方もいらっしゃるかもしれません。実は,2009年11月1日か
らこの10月31日まで,本業の司法書士業はお休みをして,消費者庁という
国の行政機関で,任期付公務員をしていました。

 「任期付公務員」と言うと,たまに「アルバイトの公務員ですか?」と聞か
れる方もいらっしゃいます。いえいえ,アルバイトの公務員ではありません。

 「一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(平成12年法律
第125号)」という,「一般職の職員について、専門的な知識経験又は優れ
た識見を有する者の任期を定めた採用……に関する事項」など(同法1条)を
定めた法律があって,それに基づいて採用されていたものでした。

 弁護士は,この法律に基づいて多くの方が国の行政機関で採用されています
し,実際,消費者庁でも多くの方が任期付公務員として採用されています。し
かし,国の行政機関で,常勤の任期付公務員が採用されたのは,どうやら私が
最初のようです。

 本日11月1日から再び司法書士業に戻りましたので,今後は当コーナーの
消費者法(+会社法)担当として,時々,出てきます。今後とも,よろしくお
願いいたします。

 (「消費者法? 事業者の読者が多いこのコーナーで消費者の法律の話をす
るの?」とか言わないでくださいね。後日お話をすることもあるかと思います
が,消費者法は,フェアな B to C 取引をしている事業者の利益を守ってい
る側面もあるのです。)

(注)
「BtoC」とは、企業(business)と一般消費者(consumer)との関係。


2013.10.31(木)【印鑑カード問題その2】(金子登志雄)

 原田ブログをみていただいたと思いますが、商業登記規則9条の4からして
議論の余地もないほど明らかなのに、主要法務局の中には「代表取締役個人の
住所・代表取締役の氏名の記載も可だが、『本店・商号・資格・氏名』が望ま
しい」と答えるところもあるようです(もっとも、公式見解ではありません)。

 もし、「本店・商号・資格・氏名」を書くのだとしたら、個人の住所が記載
されず、商業登記規則9条の4違反になります。

 にもかかわらず、なぜ、こういう回答になるのかといえば、書式に〔登記所
に提出した印鑑〕を押せとあるので、代表取締役の資格で申請するものと勘違
いしてしまうからでしょう。

 商業登記規則をみると、印鑑届の場合(9条1項)と相違して、カード申請
の場合には押印を要求していません(9条の4第1項)。

 だから、本人申請の場合は、次のようになり、申請者の押印がないのです。

    http://www.moj.go.jp/content/000011584.pdf

 本人申請のときに押印は不要で、代理人申請のときは押印が必要だという根
拠もありません。

 〔登記所に提出した印鑑〕で押印すると、1枚に同じ印鑑を2箇所に押すこ
とにもなります。押す意味もありません。

 きっと、委任状だから、押印はあったほうがよいが、個人の実印という規定
もないため、会社の届出印がふさわしいだろうとの想定で、あのような書式に
なったのでしょうが、これが誤解のもとになったと私はみています。

 こんな些細なことで法務局と争う気はありませんが、印鑑届と同じく個人印
を押してしまっても、受け付けていただきたいものです。

 司法書士業務ソフトのリーガル書式集をお使いの方にも、リーガルのHPで
注意を喚起しておきました。ご参考まで。

    http://www.legal.co.jp/products/h20/seal.pdf



2013.10.30(水)【重要:印鑑カード交付申請人】(金子登志雄)

 今日は全国の司法書士に関係する話です。

 印鑑カード交付申請書は、現在、下記の書式(新書式)であり、代理人申請
の場合は書式の下の委任状に委任者の住所氏名を記載し、押印しなければなり
ません。

   http://www.moj.go.jp/content/000011584.pdf

 ここの委任者欄の書き方につき、一般に下記のように説明されています。

http://blog.livedoor.jp/houmu4180/tag/%E5%8D%B0%E9%91%91%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E4%BA%A4%E4%BB%98%E7%94%B3%E8%AB%8B%E6%9B%B8

 のみならず、法務局で配布されている書式には、委任者欄に「商号(名称)、
本店(事務所)、資格・氏名 印〔登記所に提出した印鑑〕」と印刷されてい
るものさえ(旧書式)、出回っています。旧書式しか置いてない法務局も存在
するようです。

 しかし、本人申請のときは個人の住所・氏名を記載し押印も要らないのに、
代理人申請の際は、会社の住所・商号・代表取締役にして届出印を押せという
のはおかしくありませんか。

 このあたりは私も深く考えていなかったのですが、後記の原田ブログをみて、
原田先生と電話でやり取りし、委任者個人の住所・氏名を書くのが正しく、押
印も不要ではないかと思うようになりました。

 理由は、印鑑届は会社ではなく代表者個人が出すものだから、印鑑カードの
交付申請も印鑑届出者である代表取締役個人がするものだということです。上
記のサイトがいうように法人が委任するものであったら、代表取締役Bの印鑑
カードの交付申請を代表取締役Aが委任してもよいことになってしまいます。

 商業登記規則9条の4にも「印鑑の提出をした者は、その印鑑を明らかにし
た上、印鑑届出事項のほか、氏名、住所、………を記載した書面を提出して、
印鑑カードの交付を請求することができる」と明記されています(これに気づ
いて旧書式を新書式に改めたのだと推測します)。

 今後は、このあたりの取扱いが各法務局で異なる可能性がありますので、十
分に気をつけましょう。

 原田ブログの10月23日以降は、司法書士必見です。

 http://shihoushoshi.main.jp/blog/


2013.10.29(火)【期限付解散と存続期間】(金子登志雄)

 昨日に関連した話題です。

 すでに何度か批判的にご紹介しておりましたとおり、2週間先までの期限付
解散は認めるが、それ以上先の場合は、定款に存続期間を定めたものとみなす
というのが登記実務です。定款変更など決議していないのに、です。

 そのため、本日の総会で、「きたる10月31日をもって解散する」と決議
した場合は「平成25年10月31日株主総会の決議により解散」と正当に登
記されますが、「きたる11月30日をもって解散する」と、2週間以上先の
日付をもって期限付解散を決議した場合は、存続期間の登記をし、その存続期
間の満了を根拠に解散の登記をしなければなりません。

 この登記に批判的である私は、こういう登記、しかも登録免許税を2回も支
払う登記を恥と思っているため、経験したことがありませんが、もし仕方なく
受託した場合は、うっかりと「存続期間 平成25年11月30日まで」と登
記してしまいそうです。

 こう登記をした場合の存続期間の満了を根拠にする解散の登記は、昨日の説
明のとおり「平成25年12月1日存続期間の満了により解散」となってしま
います。

 仮に期限付解散が認められれば「平成25年11月30日株主総会の決議に
より解散」ですから、これは当事者の意思に反しますので、正しくは、「存続
期間 平成25年11月29日まで」と登記しなければなりません。

 間違って登記してしまった例が多いのではないでしょうか。


2013.10.28(月)【期間満了】(金子登志雄)

 取締役や監査役の任期が本日24時に満了した場合は、「平成25年10月
28日退任」という登記になります。

 募集株式の発行で払込期間を定め「10月28日まで」とした場合も、会社
法915条2項に「当該期間の末日現在により、当該末日から2週間以内にす
れば足りる」とありますので、当該末日である「10月28日変更」という登
記になります。

 では、新株予約権の行使期間が本日10月28日に満了した場合は、どんな
登記になるでしょうか。

 「平成25年10月28日行使期間満了」に決まっているじゃないかと思う
でしょうが、「平成25年10月29日行使期間満了」と登記します。

 何か不自然に感じませんか。私も、なぜ、「28日行使期間満了」ではない
のかと、ずっと不思議に思っていた時期がありました。

 松井信憲著『商業登記ハンドブック』第2版367頁に、「当該行使期間が
満了したときは、新株予約権は、消滅する。例えば、平成20年5月1日まで
と定められた場合には、同月2日(の到来時)に、新株予約権の消滅の効力が
生ずる」とあります。

 もうお分かりでしょうが、この登記は「消滅」の登記だということです。上
記の任期満了や払込期間は「変更」の登記だから(退任も役員変更登記の1つ
です)、期間の末日を変更日にして登記したのであり、新株予約権の行使期間
の満了は、新株予約権が消滅した日を登記する関係で、行使期間の満了日の翌
日としたわけです。

 それでも28日24時消滅ではないか、変更だって翌日0時に効力発生では
ないかという理屈は成り立ちますが、AがBに「変更」した場合は、Aの終了
日に着目し、Aが「消滅」した場合は消滅の効力発生日に着目するというだけ
の差であって、理屈の問題というより、慣例の取扱いと考えたほうが納得でき
るかもしれません。



2013.10.25(金)【議題と議案】(金子登志雄)

 以前、神崎先生主催の商業登記倶楽部に、「取締役選任の件」とだけ書いて
取締役候補者名を示さずに株主総会を招集することができるかという質問があ
りました。

 これを上手に説明することのできる法律家は少ないと思います。ふだんの業
務とは無関係な「議題」と「議案」の区別の問題だからです。

 取締役選任の件はまさしく議題(議論のテーマ)です。この議題の中身とし
て、取締役としてABCを選任してほしいという提案が議案(決議案)です。
通常は会社提案になります。株主提案は、未公開会社ではほとんどありません。

 この関係で、本来は、第1号議「題」(会社提案の議案は………)、第2号
議「題」(会社提案の議案は………)とすべきところ、慣例なのか、第1号議
「案」、第2号議「案」という呼称にする会社がほとんどです。

 したがって、会社提案の候補者名が記載されていないのに、第1号議「案」
「取締役選任の件」という言い回しも、許容範囲でしょう。

 候補者名は決議案ですから、仮に会社がABCを候補者にしても、株主総会
で、DEFを選任することができます。

 であれば、最初から候補者名を提案しないで株主総会でゼロから決めたいと
いうことも可能であり、株主総会の場で議長提案や株主提案に基づき、取締役
として誰がよいのかを審議し決定することになりますが、株主が多い場合には、
きっと審議が紛糾し収拾がつかない可能性も高いでしょう。その場合は継続会
を提案することになります。


2013.10.24(木)【億ション即売】(金子登志雄)

 皇居近くの億ションが即日完売したというニュースをどう感じましたか。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130917/biz13091715560010-n1.htm

 景気がよくなったのだと思った方も多いでしょうが、この景気はみせかけに
過ぎません。株と不動産に資金が流れているだけで、庶民の暮らし向きは悪化
しています。ただ、その事実を報道すると、景気に水をさす非国民扱いされる
空気があるので、マスコミもみせかけのお祭りに参加しているだけです。

 都心とはいえ、億のカネを出しても、たかが1DKから3DKしか買えない
のか、カネの価値が下がったものだと感じた方も少なくないでしょう。

 私は、購入者と購入目的に興味を持ちました。おそらく医者、弁護士、経営
者などが多いでしょうが、ステイタス及び賃貸目的の保有で、そのうち転売し
て儲ける投資目的だと推測します。金持ちが1DKに住むわけがありません。

 こうして、金持ちはますます金持ちになり、貧乏人はますます貧乏になると
いうのが自由主義社会の掟です。これは避けられませんから(最低生活の保障
などを別途考慮するかは別問題です)、われら貧乏人も、才覚と努力で成り上
がるしかありません。

 その近道が弁護士、会計士などの資格を取ることでしたが、いまはご承知の
とおりの有様で、せっかく資格をとっても勤め口もない状況です。

 では、会社勤務にするかと思えど、勤務先の会社が倒産しないか、倒産しな
いまでもリストラされないかという不安が付きまといますので、怖くて住宅ロ
ーンも組めないでしょう。ましてや、企業のために解雇の自由化まで論議され
ている時代です。

 住宅ローンの取組みが少なくなると、不動産登記も少なくなる………、司法
書士にとっても厳しい時代になりそうです。

 悲観的な話になりました。変化こそチャンスです。自由主義社会のよいとこ
ろは、貧乏人も才覚と努力で金持ちになれることです。万馬券を当てるよりは
ずっと確実でしょうから、せめて「万」ションを買えるよう頑張りましょう。


2013.10.23(水)【また不統一表現】(金子登志雄)

 会社法346条4項と5項は下記ですが、何か感じませんか。
----------------------------------------------------------------------
4項:会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場
  合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は、一時
  会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。
6項:監査役会設置会社における第4項の規定の適用については、同項中「監
  査役」とあるのは、「監査役会」とする。
----------------------------------------------------------------------

 会社法195条1項では、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、
取締役会の決議)」、200条1項には「募集事項の決定を取締役(取締役会
設置会社にあっては、取締役会)に」とあるのですから、346条4項の監査
役を「監査役(監査役会設置会社にあっては、監査役会)」とすればよいのに、
わざわざ6項設けているわけです。

 皆様の中には、「そんなこと、どうでもいいじゃないか」と思う方も多数で
しょうが、上場会社の招集通知では、「及び」と「および」が混在していると
か、「割り当てる」はよいが、名詞のときは「割当て」だなど、相当細かいチ
ェックをいたします。

 出版でも同じです。他の出版社から「あの出版社は、いいかげんだ」といわ
れてしまうので、「いう」なのか「言う」なのかなどまで、チェックします。

 それだけ、会社法の制定は、整備法などもあり、分量が多く突貫工事だった
というでしょうが、こういう部分があるからこそ会社法が面白いともいえます
ので、ご愛嬌ということにしておきましょう。


2013.10.22(火)【デフォルトとは】(金子登志雄)

 投資家が心配していた米国のデフォルト危機も一段落し(先延ばしですが)、
今週の日本の株価は順調にスタートしました………こういう文章における「デ
フォルト」が債務不履行の意味であることはすぐにお分かりのことでしょうが、
法律雑誌等には、異なった意味で登場することが少なくありません。

 例えば、「まず、デフォルトの選択肢が、今回の改正でどのように広がった
かをみてみよう。単純化のため、実務的に重要な構成員が全員有限責任を享受
できる企業形態に絞って検討する」(商事法務1775号18頁)などです。
デフォルト・ルールなどという単語で登場することもあります。

 この単語が出始めの頃は、意味が分からず、辞書を引いても実感として受け
入れることができず、覚えることもできず、その表現に遭遇するたびに辞書を
引いて確認していました。どうも、コンピュータ用語のようで、「標準的な仕
様」といった意味で使うことが多いようです。

http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%87%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%88/

 したがって、上記は、「標準的な機関構成としてどれを選択するか………」
といった意味でしょう。

 学生の頃は、刑法の教科書に「メルクマール」というドイツ語の単語が登場
し、意味が分からず困ったものでした。指標や目印という意味ですが、当時は
パソコンも普及していないため、調べるのも難儀でした。

 学者というのは、読者が理解することができるかを考えずに、オレはこうい
う単語を自在に使える教養人だと自慢したいのかもしれません。米国帰りの渉
外弁護士もこういった側面があります。困った人達ですね。カタカナ語ではな
く実務知識で勝負せよといいたくなってしまいます。


2013.10.21(月)【決算公告の見方】(金子登志雄)

 金曜日にご紹介したドイツのテレビ番組は、いかがでしたか。同じ敗戦国の
イタリアでは、ナチスの戦犯を埋葬もできないようです。

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131018-00000041-jij_afp-int

 日本の戦犯は靖国神社にも祭られ神様扱いですし、首相にもなれました。同
じ敗戦国なのに、ずいぶんと文化の差(?)があるものです。

 さて、官報における株式会社の決算公告をみて、その会社が、大会社か、非
大会社かはすぐに分かります。大会社の場合には、損益計算書の要旨も公告さ
れているからです(非大会社では、損益計算書の代わりに「当期純損益金額」
が公告事項になります)。

 では、公開会社か、非公開会社かを区別することができるでしょうか。例え
ば、下記をみてください。

http://kanpou.npb.go.jp/20131010/20131010g00221/20131010g002210063f.html

 答えは、計算規則139条3項にあります。
----------------------------------------------------------------------
 公開会社の貸借対照表の要旨における固定資産に係る項目は、次に掲げる項
目に区分しなければならない。
 1 有形固定資産
 2 無形固定資産
 3 投資その他の資産
----------------------------------------------------------------------

 固定資産の部が上記のように細分されていれば、公開会社です。

 非大会社で非公開会社でありながら上記の左側にある会社が一番小さい公告
にせず、この公告をしたのは記載事項が多く、枠が足りなかったからでしょう。


2013.10.18(金)【期限付本店移転】(金子登志雄)

 実際に引っ越し作業する日は10月20日の日曜日で、新しい場所で営業を
開始するのは翌21日の月曜日だが、登記すべき本店移転の日は20日である
か、21日か、などという質問をたまに受けることがあります。

 皆さんはどちらだと思いますか。

 結論は、どちらの日でも会社が決めた日になりますが、通常は営業開始日に
します。会社は事業を営む組織であり、本社移転は事業を営む場所を移転した
と評価される日だからです。

 では、実務上、2週間を超える期限付解散は不可、3か月以上先の役員の予
選は問題だなどとされていますが、本店移転の場合は、何か月先まで許される
でしょうか。

これに関しては半年後でも、問題とされることがありません。

(例)  http://ke.kabupro.jp/tsp/20130920/140120130920026012.pdf#search='%E6%9C%AC%E5%BA%97%E7%A7%BB%E8%BB%A2+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 半年先の期限付商号変更や事業目的の変更だけでなく、本店の移転も許され
るのに、なぜ期限付解散や役員の予選はいけないのかと思うでしょうが、これ
は私を含めて実務家のほとんどが同じことを感じています。

 ある時、そういうことを言い出した人がたまたま権威ある人で、その意見が
先例として残ってしまい、こういう結果になっているわけです。亡霊のような
ものです。仲間と一緒に亡霊退治に頑張ったこともありますが、亡霊の力が強
く退治できませんでした。法律の改正でもない限り、改まらないようです。

※下記は、ネットサーフィンでみつけた「恐ろしい動画」です。ドイツのテレ
ビ放送のようですが、日本人として恥ずかしくなる内容でした。原発に批判的
だったため、検察とマスコミに潰された佐藤元福島県知事も登場します。ぜひ、
土日に視聴してください。30分程度です。

http://blog.goo.ne.jp/tarutaru22/e/1c95b10610c16cb25d96becf10a05f04



2013.10.17(木)【明るい兆し】(仙台・立花宏)

 「東北地方の新規就農者数が過去最多(東北農政局の調べによる)」

 先日、地元の新聞を見ていたら、そんな記事の見出しを見かけました。過去
最多、といっても統計を取りはじめたのが1992年からのようですから、こ
こ20年程の間でということのようです。

 不勉強な私は、新しく農業をはじめる方は減り続けているとばかり思ってい
たので、とても意外な記事の見出しでした。

 記事を読んでみると、新規に就農した方の内訳は20歳代が約36%、30
歳代が約35%を占めており、それに加えて19歳以下の方も10%近くいら
っしゃったようです。若い世代で8割程を占めていることになります。

 就農形態別では、実家の農業を継ぐパターンが48%程で、農業法人等に雇
われる、雇用形態が40%のようです。そして、新規参入も11%程あるよう
です。

 東北農政局の担当者は、昨年度からスタートさせた給付金制度が若い世代の
就農を促したと分析しているようです。給付金制度は、45歳未満の新規就農
者に5年で最大750万円を給付するという内容のようです。

 もちろん、就農者の方は給付金が目当てというわけではないでしょう。自分
の職業を選ぶのに、目先のことばかり考えるはずはありません。もともと、農
業を自分の職業としたいという思いはあったものの、あと一歩を踏み出せずに
いたという方が結構いらっしゃったのではないでしょうか。給付金はそういっ
た方たちの背中をほんの少し、押してあげたのだと思います。

 近年、農業従事者の高齢化が叫ばれてきました。農業の世界に入る若い世代
が増えたということは、農業にとって明るい兆しだと信じたいと思います。

 今年、安部首相は10年で農業の所得を倍増させると宣言しました。農地の
集約や、6次産業化(※)等による付加価値の増大、そして、輸出の拡大が柱
とされているようです。いろいろな改革も求められることになると思います。
しかし、ぜひ、この明るい兆しを明るい未来へとつなげていっていただきたい
と思います。

 ところで、自分の職業、司法書士を振り返ってみると、ここ数年、受験者数
が減少しています。このまま受験者数がどんどん減少すると、はたしてどうな
ってしまうのでしょうか。そんな不安な気持ちになります。私たち司法書士も、
明るい兆しを見つけるために、なにか成長戦略を見つける必要があるのかもし
れません。

 ※6次産業化
 1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(流通、販売)の1、2、
3を乗じると6になります。この3つの産業を一体化して、あたらしいビジネ
ス(6次産業)を生み出すということのようです。



2013.10.16(水)【台風】(金子登志雄)

 10月中旬となり仕事も一段落するはずだったので、今日から北海道に船旅
の予定でしたが、台風の影響でフェリーが欠航し、旅行社から中止通告を受け
てしまいました。

 ある意味では、ほっとしています。群馬の山育ちですから、海が怖いのです。
船酔いで苦しむ心配もなくなりました。

 また、仕事も一段落しなかったからです。会社都合で、私への登記の書類の
送付が大幅に遅れており、旅行中に書類が到着したら、どうしようかと思って
いましたし、常時携帯中のノートパソコンも旅行先では電波が入らず、メール
での連絡にも支障が生じる状況だったからです。

 しかし、10月に大型台風などとは非常に珍しいですね。地球の温暖化でも
関係しているのでしょうか。今後もこの調子だと、7年後の東京オリンピック
も10月の開催は大丈夫なのかと余計な心配をしてしまいました。

 群馬の山育ちだといっても、山の田舎には台風被害がないとはいえません。
がけ崩れや川の氾濫で、人的被害が生じたりしますし、古い木造の家では屋根
が飛ばされたりします。

 私が小学生の頃は、近くの学校に家族で避難したこともありました(そこで
食べたスイカのことを妙に記憶しています)。 

 今は田舎でも家屋構造が頑丈になり、屋根を飛ばされることも、雨漏り用の
洗面器も、停電用のローソクも準備することがなくなったでしょうが、がけ崩
れによる被害は昔と変わらないではないでしょうか。

 何はともあれ、被害のないこと、特に東日本の住民としては、フクシマの原
発に影響のないことを祈るしかありません。


2013.10.14(火)【花の山】(金子登志雄)

 土曜日は、大学時代のゼミ(民法の新田敏ゼミ)のOB会に参加してまいり
ました。この先生のおかげで、法律的な素養が身に付いたと、いまでもたいへ
ん感謝しておりますので、OB会には可能な限り出席しております。

 同窓会もそうですが、こういう会合には、生活が落ち着いていないと出席し
にくいもので、私も定職につかず、貧乏生活のときは時間があっても欠席して
いました。「いま何をしているのか」という話題を振られたくないからです。

 逆にいうと、勝ち組(引退者を含む)の人だけが集まりますので、参加する
と、よい刺激を受けるものです。ほとんどがサラリーマンとして順調に生きて
きた方達ですが、40年ぶりに会った同期のA君は、外資系会社を脱サラ後、
いまでは国際的なビジネスを営む会社を経営しているとのことでした。

 他にも、そういう国際畑の方が数人おり、人口1億の国内市場より10億の
中国市場が近くにあるのに、日本は反中国の政治姿勢のため、ドイツや韓国に
遅れをとっているなどという話をしていました。

 内輪ですから、こんな本音の話もできますが、外では非国民扱いされ国内の
仕事にも影響してしまう………、こんな風潮では日本は世界に対抗することが
できないだろうというのが話の落ちになります。人と違うことをすると皆で足
を引っ張る日本の同質社会の弊害ですね。人の成功は妬みの対象で、人(成功
者)の没落は蜜の味という庶民感情を煽るのが日本のマスコミです。

 ソ連の崩壊で東西の冷戦は終わり、いまや経済戦争の時代に突入しています。
アメリカでさえ中国とは強い経済的絆で結ばれているのに、日本の政治やマス
コミは、いまだに井の中の蛙で東西冷戦時代の短絡な思考から抜け切れていな
いのでしょう。

 株式投資の有名な格言に「人の行く裏に道あり花の山」というものがありま
すが、自分の頭を使って考えずに、付和雷同する者には決して成功はありませ
ん。OB会に参加して、同じことを思っている人が少なくないことを知り、国
際畑で活躍する勝ち組は、やはり視野が広いと妙に安心してしまいました。


2013.10.11(金)【シャワートイレ】(金子登志雄)

 真面目に会社法の話が続きましたので、今日は雑談です。

 さて、昨日は1964年の東京オリンピック開会の日であり、昔の祝日であ
る「体育の日」でした。あの頃から、喫茶店で若者が「コーラ」を注文するよ
うになったと記憶しています。

 当時は、「スカッとさわやかコカ・コーラ」のコピーが強烈だったためか、
コーラといえば、コカ・コーラであり、コカ・コーラといえばコーラでした。
商品名のはずのコカ・コーラが普通名詞かのように使われていました。いまは、
ペプシコーラの追い上げで、そうとはいえませんけど。

 これに関連して、温水洗浄便座の「シャワートイレ」は普通名詞でしょうか。
スーパーで販売しているトイレットペーパーに「シャワートイレ用に作った吸
水力2倍の………」などと書いてありましたから、普通名詞のように思えます。

 しかし、ネット検索によると、ウオッシュレットはTOTOの、シャワート
イレはINAXの商標とのことです。TOTOさんとしては、シャワートイレ
が一般用語として定着することにあせってしまうことでしょう。

 日本での普及率は70%程度とのことですから、昨年の野村HDの株主提案
に次のようなものが登場したのも納得です(2012.06.15の本欄に掲載)。

----------------------------------------------------------------------
 第12号議案 定款一部変更の件(日常の基本動作の見直しについて)
 提案の内容:貴社のオフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株
価四桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする。

 提案の理由:貴社はいままさに破綻寸前である。別の表現をすれば今が「ふ
んばりどき」である。営業マンに大きな声を出させるような精神論では破綻は
免れないが、和式便器に毎日またがり、下半身のねばりを強化すれば、かなら
ず破綻は回避できる。できなかったら運が悪かったと諦めるしかない。
----------------------------------------------------------------------

 この株主提案ではありませんが、いまの若い人は不便な生活に耐えられなく
なってしまったでしょう。

 いいことですね。軍隊生活や過酷なブラック企業に耐えられない人が増えれ
ば、戦争もブラック企業もなくなるかもしれません。


2013.10.10(木)【会社法447条3項】(金子登志雄)

 昨日ご紹介しましたとおり、会社法447条3項には、「株式会社が株式の
発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効
力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないとき」は、
取締役(会)で減資の決議をすることができるとありますが、この規定につい
ては十分に議論されておりません。

 第1に、株式の発行決議と減資の決議は同時でなくてよいのか。

 例えば、資本金3000万円の甲が10月1日に12月25日付で2000
万円を増資すると決議し、10月15日に12月25日を効力発生日として、
2000万円の減少を決議した場合も含むのでしょうか。

 規定からすると、効力発生の同時性は要求しても、決議の同時性までは要件
とされていないため、問題なしと考えます。

 第2に、上記につき減資を先に登記し、「3000→1000→3000」
万円とする登記順序でもよいのか。

 規定の趣旨は、増資の登記を先行させて「3000→5000→3000」
というものでしょうが、減資を先に登記申請しては絶対にいけないとはいえな
いでしょう。

 第3に、なぜ「株式の発行と同時」とされているのでしょうか。利益の資本
組入れと同時の場合も含んでよいのではないでしょうか。

 これは規定文言からして無理ですが、会社法制定時には、資本と利益を峻別
すべしという考えから、「利益の資本組入れ」が認められていませんでした。
そのため、募集株式の発行と同時であることを要件にしたのだと推測します。

 第4に、会社法447条3項は株主総会決議を排除するものではありません
が、株主総会決議にする場合は、特別決議でしょうか。

 これにつき、小川・相澤編著『通達準拠 会社法と商業登記』245頁だけ
は普通決議でよいとしてますが、他書にはなく、私も半信半疑です。


2013.10.09(水)【増資減資】(金子登志雄)

 会社再建策である100%減資、例えば、資本金1億円の会社が100%減
資で資本金0円にし、同時に1億円の増資をする場合は、減資が先だと考えま
す。

 一方、会社法447条3項に、「株式会社が株式の発行と同時に資本金の額
を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金
の額が当該日前の資本金の額を下回らないとき」は、取締役(会)で減資の決
議をすることができるとありますが、この場合は、増資が先で減資が後だと考
えます。資本金の額は現在の額から減少しないという前提の規定だからです。

 同じ、資本金の額を1億円減少する場合でも、前者の登記の資本金の推移は、
「1億円→0円→1億円」ですが、後者は「1億円→2億円→1億円」です。

 結果は同じなのに、なぜ、このような差を設けるかといえば、前者の場合は、
既存株主にけじめをつけさせるため、発行済株式の総数を0株にする登記が必
要のため「株数0株=資本金0円」の登記を必要とするが、後者は、いわゆる
名義上の減資で株数を減少させないため、その必要がないといえましょう。

 AとBが同時に行われるとしても、登記では、Aを先に登記するか、Bを先
に登記するかによって、こういう差が生じます。昨日の問題も、辞任を先に登
記するから辞任登記でよいということでしょう。


2013.10.08(火)【任期満了辞任】(金子登志雄)

 昨日の「就任して辞任」かの問題で思い出しましたが、会計監査人の定時株
主総会の終結(任期満了)と同時の辞任問題があります。

 会社法338条2項によれば、会計監査人は、「定時株主総会において別段
の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみ
なす」とあります。

 これ、何となく、賃貸借契約の期間満了前に何らの意思表明をしないときは
自動更新するという規定に似ていませんか。

 そう考えたのかは不明ですが、会社法施行当初は「重任」登記は不要と考え
た人が少なくありませんでした。相談すると、そのように答えた法務局もあっ
たと聞いたこともあります。

 会社法施行の翌年には、会計監査人が「きたる定時株主総会の終結と同時に
辞任します」と辞任届を提出した場合に、これは「みなし重任」と「辞任」の
登記の2つが必要かと問題になりました。辞任というのは、任期中に行うもの
で、任期満了と同時の辞任などあり得ないからです。

 現在は、これを辞任として扱っています。辞任したと同時に任期満了時期が
来たと考えるのでしょう。減資と同時の増資を増資が先で減資が後だと考えて
もよいのと同じです。


2013.10.07(月)【事前の就任承諾】(金子登志雄)

 会社法施行規則第74条第1項第2号に次のようにあります。

----------------------------------------------------------------------
 取締役が取締役の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類
には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 2 就任の承諾を得ていないときは、その旨
----------------------------------------------------------------------

 つまり、上場会社あたりで取締役選任議案を株主総会に付議する場合は、事
前に就任承諾を得ているわけです。6月下旬が定時総会で、招集通知を中旬に
発送するとしたら、その前の6月上旬には、「定時株主総会で選任されました
場合は、その就任を承諾します」という確約を得ているということです。

 であれば、株主総会で選任すれば直ちに就任の効力が生じるはずですが、世
の中はそう簡単には進みません。株主総会で選任された後に「考え直した結果、
就任はしたくない」などと、とんでもないことを言い出す候補者がいるのです。

 これ、本来であれば、「就任し、辞任した」という登記が必要ですが、実務
上は、就任承諾がなかったことにし、就任の登記をいたしません。

 いや、そう考えるのではなく、事前の就任承諾は仮承諾(内定)で、選任後
に特段の反対の意思表示がなされない限り、就任の効果が自動的に生じるが、
「就任は取りやめた」という特段の意思が表明された場合は、就任承諾がなか
ったと考えないといけないのでしょう。

 会社の業績が傾き始めますと、泥船に乗って責任を取らされるのが嫌で、こ
ういうことがたまに生じますが、いずれにしろ、会社にとっても、候補者ご本
人にとっても、恥ずかしいことです。せめて、次の定時株主総会までは期待に
応えるのが大人でしょうに。


2013.10.04(金)【登記申請権限】(金子登志雄)

 10月2日開催の臨時株主総会で目的を変更したので、代表取締役Aの名前
で3日に申請したが、あとで聞いたところによると、9月30日に代表取締役
はAからBに代わっていたという場合に、この登記は有効でしょうか。

 商業登記法24条の却下事由の1つである「登記すべき事項につき無効又は
取消しの原因があるとき」には該当しません。登記内容は正しいからです。却
下事由の「申請の権限を有しない者の申請によるとき」には該当しますが、登
記官にはこの事実が分かりません。

 この件に関し、ずっと考えているのですが、登記内容が事実に合致している
限り、無効抹消は無理でしょう。誰が申請したのであろうが、正しい結果は生
じているからです。

 これを登記官には書面審査権限(形式的審査権)しかないから登記も有効だ
と考えるのか、申請の無効(無権代理)は動かせないが、登記内容が事実に合
致しているので何人も無効を主張できないだけで、登記に公信力がないことを
含め、既成事実として結果的に有効だと同視されるだけで、当然に有効だとは
いえないと考えるべきかについてははっきりしません。形式的審査主義の補足
領域をどの範囲で認めるかにつき、仲間内でも議論があって結論は不明です。

 申請人の代表者の住所が移転していたのに登記簿の住所で申請したとか、本
店が移転していたのに、登記簿の本店住所で申請したという場合は、特定に欠
けるところはないので申請行為自体も有効でしょうが、本件は申請権限自体が
ないので、同じ問題とは思えません。

 さて、東京の甲が横浜の乙から11月1日に吸収分割を受けることになりま
した。ところが、乙の代表取締役Aが10月31日に辞任し、11月1日には
Bが代表取締役になるとのことです。この代表者変更登記を待っていては吸収
分割の登記を11月1日にすることができないので、11月1日付の代表取締
役Aからの委任状で吸収分割を申請してよいでしょうか。

 司法書士のコンプライアンス上もまずいですね。これが新設分割だったら、
予定した11月1日に新設分割の登記をするのに、一苦労です。吸収分割なら
遅れて登記しても問題ありません。


2013.10.03(木)【仮会計監査人の選任】(金子登志雄)

 仮会計監査人は監査役(会)が即座に選任することができるので、予選は必
要ないし、予選は無効だというのが立法担当者のお考えのようですが、さて、
選任決議の要件はどうなっているでしょうか。

 監査役会の場合は、会社法393条1項に「監査役会の決議は、監査役の過
半数をもって行う」とありますから、これによることになります。

 蛇足ですが、「議決に加わることができる監査役の過半数が出席し」という
定足数の規定がないことに気づきましたでしょうか(取締役会に関する会社法
369条1項対比)。

 私は、商売柄、ぴんと来ましたが、監査役は「監査役独立の原則?」で独任
制ですから、こういう規定になっているのでしょう。つまり、出席者の過半数
ではなく、監査役全員の過半数の賛成を要するということです。

 これに関係して監査役会のない会社で監査役が2人以上いた場合も、取締役
のような「過半数をもって決定する」(会社法349条2項参照)という規定
がありませんから、監査役1人1人に仮会計監査人を選任する権限があります。

 監査役甲は仮会計監査人Aを選任し、監査役乙は仮会計監査人Bを選任した
場合は、ABともに仮会計監査人になるということでしょう。そういう事例が
あったら、みてみたいものです。



2013.10.02(水)【自治会所有の土地と納税義務者】(島根・根来川弘充)

 不動産には毎年、固定資産税が課されます。当然不動産の所有者に課される
税金なのですが、所有者は登記簿で確認されることになります。

 ところが、自治会(町内会)が所有する土地というのは、市町村から地縁団
体の認可を受けない限り、登記簿上の所有権者になることはできません。一般
的には、単独か複数の個人名義になっています。

 先日、ある自治会からのその所有する土地に関する登記の依頼で、その土地
の評価証明書を役場から取得する必要があったのですが、「納税義務者は個人
名義なので、自治会会長名では取得できない」と役場の方に言われました。

 私は、納税義務者をどのように確認したのか聞きましたら、「登記簿で確認
した」と予想通りの答えが返ってきましたので、登記簿上、自治会名義で登記
ができないことを、くどくど説明をしましたところ、なんとか証明書を出して
くれました。

 自治会の土地であるのに、個人の名で固定資産の課税台帳に納税義務者とし
て載ってしまっている例は、数多くあることと思います。不動産登記の弊害を
実感した一日でした。



2013.10.01(火)【効力発生日の延期】(金子登志雄)
 
 今日10月1日は、例年、4月1日と同様に合併等の組織再編の効力発生日
とされやすい日ですが、中には手続が間に合わず、効力発生日を延期した会社
もあることでしょう。
 
  資本金の額の減少、組織変更、吸収合併、吸収分割又は株式交換においては、
業務執行機関である取締役(会)の決定で、効力発生日を変更することができ
ます(会社法449条7項、780条1項、790条1項)。
 
 ここまではよく知られた事実ですが、神崎満治郎先生主宰の「商業登記倶楽
部」の実務相談室に、「株券廃止の効力発生日の延長の可否」に絡んだ質問が
あり、この効力発生日は取締役(会)で、なぜ延期ができないのかと考えてみ
ました。
 
 この効力発生日には、明文のある株式併合、株式分割、株式の無償割当てな
どだけでなく、定款変更等で任意に定めるものもあります。募集株式の払込期
日も効力発生日の1つです。
 
 いろいろ考えました結果、明文で、効力発生日を取締役(会)で変更できる
場合は、いずれも債権者保護手続を必要とする場合、言い換えれば1か月以上
の期間を必要とする場合です。
 
 相手が債権者だから効力の発生日を変更することができるというよりも、期
間が長いので、その間に、何が起こるか分からないから、延期せざるを得ない
場合もあろうとの配慮でしょう。
 
 債権者保護手続が不要な株券の廃止や株式の併合などにおいては、期間は主
として2週間(買取請求は20日間)ですから、突発的事象は生じないだろう
との配慮のほか、相手が株主ですから、公告せずに通知だけで済む場合もある
ので、早めに通知しておけば、効力発生日を変更する必要が少ないであろうな
どといった配慮でしょう。手続も債権者保護に比し簡単です。
 
 やはり、取締役(会)での延期(変更)は、原則として、難しそうです。


2013.09.30(月)【基準日と権利確定日】
(金子登志雄)

 本日9月30日は3月決算会社の中間期末ですから、中間配当の基準日です。
また、電子公告をみると、10月1日付株式分割の基準日として本日を設定し
ている会社が数多くあります。

 (例)http://www.asj.ad.jp/notification/bunnkatsu20130913.pdf

 では、本日中に株主になれば中間配当も株式分割を受ける権利も取得するこ
とができるかというと、上場会社の場合は、そうだとはいえません。手続上の
理由で3営業日前(今年の場合は9月25日)に株主にならないと、30日付
株主として株主名簿に登載されないからです。

 この基準日より3営業日前の日が権利確定日といい、翌日を「権利落ち日」
ということが多いので、覚えておきましょう。中間配当目的で株価が上昇して
も権利落ち日には、ガタンと値下がりします。1株を100株に10月1日付
で分割する場合は、9月26日株価が100分の1相当になります。

 10月1日合併の場合は、10月1日が効力発生日であり、その日が基準日
だといえますが、10月1日の午前0時が基準時点ですから、「9月30日最
終の株主=10月1日最初の株主」と考えるため、実質は9月30日が基準日
であり、9月25日までに消滅会社の株主になっていないと合併会社の株主に
なれません。


2013.09.27(金)【ご清栄とご高配】(金子登志雄)

 昨日は当社の定時株主総会でした。驚いたことに、実際に出席した株主様が
例年の4倍もありました。ひょっとして、アベノミクス効果で、はじめて株式
投資を経験した方が株主総会というのはどういうものかと様子を見に来たので
しょうか。当社は地方の株主様も出席しやすいようにと、午後2時開催にして
いますから、出席しやすかった点はあると思います。

 さて、上場会社における定時株主総会招集通知の最初の挨拶表現は、かつて
は「ますまますご清栄のこととお慶び申し上げます」が決まり文句だったので
すが、東日本大震災直後は一斉に「平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し
上げます」に変わりました。被災者のことを考えると「ご清栄のこと」とは、
間違ってもいえないからです。

 ふと、現時点ではどうなっているかとネット検索いたしましたら、「ご清栄」
派に戻っている会社が少なくありませんでした。

 たぶん、深い意味はないと思いますが、福島を中心とする東北地方の株主が
招集通知を受け取ったときに、何かを感じるとしたら、配慮不足の表現だと思
います。

 それとも、オリンピックに浮かれ、被災者のことは忘れてしまったのでしょ
うか。反省するときは、責任のない庶民まで「一億総ざんげ」で反省させられ、
時を経ると、責任のある者まで責任を問われなくなる日本(ネット情報による
と東電の前社長はドバイで悠悠自適とか)、信義を重んじ平和を愛する国民性
の大きな負の側面ですね。


2013.09.26(木)【痛み止め】(仙台・立花宏)

 最近、歯科医院に通っています。

 中学生の頃に奥歯の1本がひどい虫歯になり、治療したことがありました。
そのとき治療した歯に詰めた金属が、先日、食事をしていた最中にポロリと、
とれたのです。とくに痛みもなかったので、それを再度、歯につけてもらえば
終わりだと思っていました。

 しかし、歯科医院に行き、その歯を診てもらうと、残念ながらそれだけでは
済まないようです。歯が再度、虫歯になり、治療が必要だというのです。しか
も、歯の根っこの方も化膿していて、あまりよくない状況だということでした。
あまり自覚症状はありませんでした。ただ、思い起こしてみると、ときどきそ
の歯のあたりの歯茎が腫れることがありました。たいしたことはないと、甘く
見たツケでしょう。

 歯科医さんの丁寧な説明で納得し、その日から治療がはじまりました。麻酔
をして、1時間程の治療を受けた後、歯科医さんから治療の説明を受けました。
歯の根っこの方まで治療をしたので、麻酔が切れると痛みがでるかもしれない、
ということでした。そして、痛みが出たときのため、痛み止めを処方してくだ
さいました。1週間後に再度、治療にくる予約をして、その日の治療は終了し
ました。

 治療した日も、その翌日も痛みはでませんでした。しかし、2日後くらいか
ら治療した歯のあたりの歯というか歯茎というか、そのあたりが痛くなってき
ました。食べ物を噛むのにも苦労するような状況です。処方してもらった痛み
止めを飲もうかと思いました。

 しかし、はたしてこのくらいの痛みで痛み止めを飲んでよいものだろうか、
と迷いました。がまんできないほどの痛みではないのです。この程度の痛みで
痛み止めを飲むなんて情けなくないだろうか。痛み止めって、我慢できないく
らいの痛みのときに飲むものではないだろうか、といった考えが頭の中に浮か
んできました。痛み止めは痛いときに飲むのには違いないけれど、どのくらい
の痛みから飲んでよいのだろう。それ以前に今の自分の痛みはどのくらいなの
だろう。どのくらい痛いのか、それを言葉で表現できるだろうか。

 そして思いました。
 日頃、仕事をする上で、お客様からいろいろなご相談を受けることがありま
す。そのとき、お客様はいろいろな悩みを抱えているはずです。相談を受けな
がら、その悩みの深さを想像はしています。しかし、お客様の心の中の苦しさ
や痛みを本当の意味で理解できていただろうか。お客様は自分の心の苦しさや
痛みを言葉で表現できず、そして、私もそのつらさを理解できていないという
ことはなかっただろうか。

 痛み止めは痛みを和らげるだけで、根本的な治療にはならないかもしれませ
ん。でも、つらい痛みを和らげることができます。私たちが受ける相談も、す
ぐには解決できないような内容であることもあるかもしれません。そんなとき、
まずはお客様の心の痛みを和らげる“痛み止め”のような対応も必要なのかも
しれないな、と思いました。

 私の痛みは次に歯科医院に通院する日まで続きました。歯科医院に行き、歯
科医さんにその旨を告げると、歯科医さんは「痛いときは我慢せずに、痛み止
めを飲んでくださいね」と言ってくださいました。
「痛い時は我慢せずに」ですね。



2013.09.25(水)【議決権行使の期限】(金子登志雄)

 今週は、6月決算上場会社の定時株主総会のピークです。当社もこれであり、
久々に上着を着用しネクタイを締めて臨みます。

 さて、会社法299条によると、総会日の2週間前までに招集通知を発しな
ければなりませんから、27日(金)開催であれば、12日(木)が発送期限
です。同じ金曜日の13日の発送では「中14日」である2週間前までに発送
したことになりません。

 27日(金)が開催だとした場合に、書面投票である議決権行使書利用の上
場会社の場合には、総会招集通知に「当日ご出席願えない場合は、書面によっ
て議決権を行使することができますので、お手数ながら、後記株主総会参考書
類をご検討いただき、同封の議決権行使書用紙に賛否をご表示いただき、平成
25年6月26日(木曜日)午後6時までに到着するようご返送いただきたく
お願い申し上げます」などと記載するのが普通です。

 はじめてこれをみたときは驚きました。12日発送で26日期限では2週間
に不足するからです。

 証券代行に聞きましたら、上記の「26日午後6時まで」は議決権行使の期
限を定めたわけではなく、議決権行使書の送付を早くしてくださいというお願
いに過ぎないと理解すれば問題ないでしょうということでした。

 もっとも、最近は、ぎりぎりの「中14日」で発送する会社は激減し、3週
間前あたりに発送する例が増えました。コンピュータの発達で、決算が早期に
まとまるようになったのが原因でしょうが、総会招集通知担当者にとっては過
酷な日程になりました。


2013.09.24(火)【サラリーマンの悲哀】(金子登志雄)

 「半沢直樹」の最終回は、大活躍したのに左遷(子会社への出向)という意
外な結末に終わりましたが、この番組は、サラリーマンの悲哀がよく出ていま
した。

 「銀行員同士の会話は金と人事の話」、「転勤、出向命令には逆らえない」
は、番組でもいっていましたが、その他に、サラリーマン道としては、「二日
酔いの日も定時に出勤せよ。あとは医務室で寝ていてよいから」というのもあ
ります。

 銀行に限らず全国・世界をテリトリーとする大企業であれば、同期の桜は何
百人となり出世競争は激烈で、支店も子会社も多数になりますから、どこに飛
ばされるか分かったものではありません。派閥もあるでしょう。

 したがって、就活中の学生にアドバイスするなら、出世したければ競争の激
しくない不人気の業種・会社にせよ、転勤・出向が嫌なら、支店のない会社に
せよということでしょうか。

 学生時代の同期をみても、勉強ができて都銀などの金融機関に勤めた人は、
最後は出向させられていましたが、勉強が苦手で就活で不人気の業種に勤めた
人は、本社の部長にまでなりました。もっとも、給料や厚生福利の面では、ど
ちらが得かは分かりません。

 信託銀行という金融機関に勤めた私は、早々と落ちこぼれてしまいましたか
ら、20年、30年とサラリーマンを続けた人は尊敬の対象です。その胃袋の
頑丈さも並ではありません。酒にも強く体力がなければ、偉くなれません。

 こんな私が転職に転職を重ねたのに、今の会社で20年以上続いたのは、社
長が公認会計士で業務内容が経営コンサルだったため、体育会系の頭ごなしの
命令もなく、社員個々の個性や能力を伸ばすことを優先してくれ、短所に目を
つむってくれたからです。

 自分に合った職業、会社に巡り合えた私は、幸運でした。


2013.09.20(金)【補欠監査役と仮会計監査人】(金子登志雄)

 監査役には権利義務者制度があるが、役員とはされていない会計監査人には
その制度がないと金曜日に説明しました。

 もう1つ、役員である監査役には補欠監査役制度があるが、役員でない会計
監査人には補欠制度がないことも重要な差です。

----------------------------------------------------------------------
第329条(選任)
1項:役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。)及び会計監査人は、株主
  総会の決議によって選任する。
2項:前項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員が欠
  けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなる
  ときに備えて【補欠の役員】を選任することができる。
----------------------------------------------------------------------

 上記のように、補欠の役員に会計監査人は含まれていません。会計監査人が
欠けた場合には、監査役(会)で一時的な後任である「仮会計監査人」を選べ
ばよいので、予選の補欠が不要ということでしょう。

 ただ、小川・相澤編著『通達準拠/会社法と商業登記』214頁に「なお、
会計監査人の辞任を見越し、辞任を停止条件として一時会計監査人の職務を行
うべき者を予選しておき、辞任の登記と併せて一時会計監査人の職務を行うべ
き者に関する登記を申請することはできない。予選時においては、会計監査人
が欠けておらず、当核子選は会社法法346条策4項に規定する要件を満たし
ていないことによる」とあるのは、一般論としては賛成することができても、
例えば、今月末に辞任すると予約された場合にも、来月にならないと選任でき
ないという意味であったら、厳し過ぎるのではないかと思っています。

 松井信憲著『商業登記ハンドブック』第2版472頁も私と同意見ですが、
機動的に選任することができるため、厳しい運用も仕方ないという結論にして
いました。


2013.09.19(木)【監査契約の合意解除】(金子登志雄)

 会計監査人が辞めるときに、辞任届ではなく、監査契約の合意解除契約書が
使われることが少なくありません。

 はじめての経験のときは、迷いました。退任事由に「委任契約の合意解除」
というものが見当たらなかったからです。

 管轄法務局に電話し、「いまさら辞任届をもらうのも大変なので、この合意
解除契約書を辞任を証する書面として使ってよいか」と問い合わせましたとこ
ろ、OKでしたので、それで登記しました。

 そのときに思ったのですが、退任事由というのは「会計監査人という立場」
がどうなったのかを登記するもので、会社と会計監査人との間の契約の効力を
登記するものではないということでした。

 私も、監査役を辞任するときは辞任届ではなく、「監査役委任契約の合意解
除契約書」にしてみようと思うのですが、「辞任を証する書面」として認めら
れるでしょうか。お勤めの方も、辞めるときは辞職願ではなく「雇用契約の合
意解除契約書案」を提示してみてきてください。「明日から来なくてよい」と
いわれても責任はとれませんが………。

(ご参考:日本のメディアは信頼できないと、ユニークなテレビ番組があるの
ですね。1時間必要です)
 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=d14qwx1iWDw


2013.09.18(水)【八重の桜と半沢直樹】(金子登志雄)

 ほとんどテレビをみない私も、日曜日の夕食後だけは家族とともに「八重の
桜」→「半沢直樹」を視聴しています。

 「八重の桜」もヤソ(キリスト教)の宣教師である新島襄と結婚し、同志社
を始めたあたりから、俄然、面白くなりました。お寺がたくさんある京都の地
に、ヤソの学校を作るわけですから、それは大変だったことでしょう。イスラ
ムの国に仏教寺院を作るようなものです。当時の庶民であれば、石の1つも投
げ込みたくなるでしょう。

 しかし、ふと、マスコミの発達していないあの時代だったから、1地方問題
で済んだのかもしれないと思いました。現在であれば、政治の殉教者である小
沢一郎らに対するテレビや新聞での数年間にわたる執拗なネガティブキャンペ
ーンや、中国や朝鮮に対するネットでの差別や排外主義から推測して、新島襄
に対するネガティブキャンペーンや、同志社排斥デモが京都を襲ったことでし
ょう。

 異教徒として少数派の新島襄と、反権力(反薩長)として少数派の会津出身
の八重との同士的結びつきをやっと理解することができました。

 今になってみると、京都は都を江戸に奪われた積年の恨みがありますし、伝
統文化の自信もあり、中小企業が多く革新府政も長期に続いたところですから、
同志社は江戸や大坂よりも京都に合っていたのかもしれません。

 もう1つ、倍返しの「半沢直樹」も非常に面白いのですが、唯一不満なのは、
銀行のトップである頭取(北大路欣也)はよい人で、常務(香川照之)が悪代
官であることです。

 これじゃ、権力者はよい人で、悪いのは取り巻きの一部の管理職だという水
戸黄門の世界じゃないですか。国王をもギロチンにかけた西洋と、天から民主
主義が降ってきた日本との差でしょうが、個性派俳優の香川ファンとしては、
徹底した悪頭取を香川に演じてほしかった気もします。


2013.09.17(火)【上場会社の株式併合】(金子登志雄)

 かつて株主だった上場会社から「株式併合に伴う割当株式数のご通知および
単元株式数変更のお知らせ」が届きました。

 割当株式数300株とあったので、一瞬、株式分割があって300株増えた
のか、もう株は手放したけど、基準日現在に株主だったのかな、ラッキーだと
喜びましたが、よく読むと、株式併合ではありませんか。

 上場会社が株式を併合することなど、めったにないはずでしたので、不思議
に思い、ネット検索してみましたら、何社もありました。例の「売買単位の集
約に向けた行動計画」の先取りのようです。

(行動計画)
http://www.tse.or.jp/listing/seibi/b7gje60000005zkl-att/20120119_a.pdf

(例)
http://www.howa.co.jp/stock/image/13051402.pdf#search='%E6%A0%AA%E5%BC%8F+%E4%BD%B5%E5%90%88+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 1単元1000株の会社が1単元100株にするためには、株式併合、単元
株式数の変更、発行可能株式総数の変更の定款変更が必要であり、株式分割の
ように取締役会の決定だけでは済ませることができません。端数処理も必要に
なり、結構、面倒な手続になります。

 登記簿謄本をみて、資本金が大きく、監査役会設置会社、会計監査人設置会
社であれば上場会社であろうと推測を付けられますが、今後は「1単元100
株」とという登記がなされているかで判断されるようになりそうですね。


2013.09.13(金)【仮監査役と仮会計監査人】(金子登志雄)

 監査役1名の会社で監査役が辞任しても、後任が選任されるまでは、辞任の
登記も受け付けられず、権利義務者として監査役の職務を継続しなければなり
ません。

 では、会計監査人1名の会社で、会計監査人が辞任した場合も同じかという
と、そうではありません。

 勉強の初期に混乱しがちな問題ですが、全ては会社法346条を正確に理解
しているかどうかにかかっています。

----------------------------------------------------------------------
会社法346条
1項:役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠け
  た場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任され
  た役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、
  なお役員としての権利義務を有する。
2項:前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、
  利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任すること
  ができる。
4項:会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場
  合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は、一時
  会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。
6項:監査役会設置会社における第4項の規定の適用については、同項中「監
  査役」とあるのは、「監査役会」とする。
----------------------------------------------------------------------

 上記の1項の役員は、取締役、会計参与、監査役に限定されており(会社法
329条)、会計監査人は含まれません。ですから、会計監査人には、権利義
務者制度がありません。

 また、2項及び4項(6項)からお分かりのように、仮会計監査人は仮監査
役などと相違し、裁判所が選任するのではなく、監査役(会)が選任すること
になっています。すぐに選任することができるので、権利義務者制度を必要と
しないともいえるでしょう。


2013.09.12(木)【仮取締役の登記記録例】(金子登志雄)

 マスコミでは、7年後の東京オリンピックで大騒ぎのようですが、皆様の周
囲ではいかがですか。私の周囲では、司法書士仲間、会社の同僚、顧客との間
でも全く話題にでません。

 それだけ日本社会も成熟したということでしょう。オリンピックは、国威発
揚の場ですから、発展途上の社会では、おおいにメリットがあるのに、成熟社
会では、いまさら国威発揚でもないからです。

 私も、トイレが壊れて垂れ流しを放置したままでご近所に迷惑をかけている
のに、それを直そうともせず、世界中からお客様を呼ぼうというご主人様の神
経が信じられず、このオリンピックに対しては、冷めた目でみてしまいます。

 さて、拙著『ずばり解説!株式と機関』195頁で「一時取締役のことを仮
取締役という人もいます。どちらが正しいのですか」という問いに対して、私
は、「会社法346条に『一時役員の職務を行う者』とありますので、仮取締
役のことを一時取締役という方がいますが、この表現は『役員の職務を一時行
う者』という意味で、一時は副詞です。その証拠に870条以下に『一時取締
役、会計参与、監査役………』とあり、『一時取締役、一時会計参与、一時監
在役………』となっていません。また、旧民法56条では『仮理事』とされて
いますし、商業登記規則68条の見出しも『仮取締役………』です」と回答し
ました。

 これに追加ですが、「会社法の施行に伴う商業登記記録例について(依命通
知)」〔平成18年4月26日付法務省民商第1110号〕90頁に「仮取締
役」の登記記録例が掲載されています。

 これを根拠にあげればよかったと反省中ですが、執筆当時は、登記記録例が
あることまで気づきませんでした。


2013.09.11(水)【即時就任の効果】(金子登志雄)

 仮に、本日深夜11時に定時株主総会が開催され、翌日12日の午前1時に
終わったとします。本日中に審議が終了した議案は「監査役2名選任の件」で、
候補者はAとBですが、Aは総会終結時に任期が満了するため、重任者になり、
Bは新人で増員監査役だとします。

 さて、皆さんは、次のどちらの登記をしますか。

 第1案:Aは9月12日重任、Bは【9月12日】就任
 第2案:Aは9月12日重任、Bは【9月11日】就任

 要するに、Bは11日に就任承諾したが、それをもって即時就任したと判定
するのか、選任行為自体が総会終結時に効力を生じさせる趣旨だから、Bの就
任承諾も総会終結時から効力が生じるとみるかの差です。

 結局は会社の意思がどうであったかによりますが、私は第1案が原則だと思
っています。第2案では、増員取締役のとき、定款に増員取締役は他の在任者
と任期を同一にするとあったら、11日就任、12日任期満了退任になってし
まいます。

 以上は、7月5日付本欄【即時就任時期】をみながら、作成した想定問題で
すが、長く企業法務の世界にいると、決してありえない話ではないと思ってい
ます。


2013.09.10(火)【復代理は本人を代表】(金子登志雄)

 前日に続いて、民法の話題をもう1つ。

 代理行為の場合は「本人のためにすることを示して」(民法99条)法律行
為をしなければなりません。「甲代理人乙」と本人甲を示す必要があるという
ことですが、これを代理行為の顕名(けんめい)主義といいます。

 では、本人甲の同意を得て代理人乙が選任した復代理人丙の顕名はどうすべ
きでしょうか。「甲代理人乙、乙復代理人丙」でしょうか。

 つい、そう思ってしまいますが、民法107条1項に「復代理人は、その権
限内の行為について、本人を代表する」とありますから、「甲代理人丙」で何
の問題もありません。

 こういうことに手続のプロである司法書士は詳しいのですが、法律の専門家
でも司法書士以外は意外と知りません。私も、司法書士になる前に、司法書士
に登記の復代理の委任状を送ったとき、「副代理」と誤字を使ってしまい、そ
の司法書士に「副ではなく復です。『また代理』するのであって、主従関係で
はありません」といわれてしまったことがあります。

 ところで、条文には、復代理人は「本人を【代表】する」とあり、「代理す
る」になっていません。その他の民法条文をみると、親権者は子を【代表】し、
後見人は被後見人を【代表】するなどとありますから、代表という用語は法人
の機関(代表取締役など)だけでなく、本人が直接選任した者でない関係にも
使うようです。つまり、本人が直接委任した場合は代理だが、そうでない場合
は本人の身代わりという意味合いを込めて「代表」と使うようです。


2013.09.09(月)【婚外子相続】(金子登志雄)

 7年後の東京オリンピックが決まりました。フクシマにとってよいことかど
うかは分かりませんが、「フクシマに蓋」とならないよう、オリンピックのた
めにも、フクシマの復興を急いでほしいものです。かつ、われわれも、報道を
監視して行きたいものです。

 さて、きのうの日曜日は姪の結婚式でした。最近流行りの手作りのジミ婚で
したが、式場の入り口の案内板は、例によって、「〇〇家△△家」でした。

 個と個の結び付きではなく、家と家との結び付きだという伝統的な発想です
が、この発想に基づき、民法900条4号ただし書には、「嫡出(ちゃくしゅ
つ)でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」とあります。

 要するに、外で生まれた子供の相続分は家で生まれた子の半分だという内容
ですが、先般、最高裁が違憲判決を出しました。あちこちの司法書士や税理士
のブログで、オリンピック並に話題になっているところです。

 確かに被相続人からみれば嫡出子も非嫡出子も、半分は自分の血であって、
残りの半分が正妻の血か、そうでない血かどうかだけの差ですから、差を設け
る合理的理由はないといえましょう。フランスあたりを中心に、事実婚が増え
ていますから、これも時代の流れでしょうか。

 もし、私に婚外子がいても嫡出子と差別してほしくありませんから、判決は
正当だと思っています。

 は? 「そういうことは相続分でもめるほど資産家になってからいえ」です
って。そのとおりですね。残念ながら、私の相続では、マスコミ報道で推奨の
オリンピック銘柄で大儲けでもしない限り(こうやって、庶民の目をフクシマ
からそらされてしまうのです)、もめる可能性は全くありません。


2013.09.06(金)【社外役員の職業】(金子登志雄)

 補欠監査役につき、調べていると、補欠監査役の職業の圧倒的多数が会計士、
弁護士であることが分かります。社外監査役の要件を明らかに具備していますし、
一流の資格者というイメージがあるからでしょう。

 会社法が改正され社外取締役が急増したら、やはり会計士、弁護士を選任する
ことが多いでしょう。

 司法書士の立場からは、増えすぎた会計士、弁護士の救済策かいな、ヤメ検の
天下り先を作っているのじゃないかと、ひがみたくもなりますが、職業の知名度
や能力のイメージの点では司法書士は負けてしまいますので仕方ないですね。

 司法書士については行政書士との区別もつかない方が多数ですし、昔は国家試
験ではなく、司法書士になるのも易しい試験だったため、いまだに地位を低くみ
られがちです。

 もっとも、おかげで風当りも少なく、助かっているところが多々あります。最
後は「そういう問題は弁護士さんに聞いてください」と逃げられます。逃げられ
ない弁護士業は気の毒です。

 しかし、役員に弁護士や会計士がいるのに、自己株式を計算に入れずに蛸配当
をしてしまったり、株式分割や会社分割の公告を忘れてしまったりと、事前に司
法書士に相談しなかったためのミスも散見されますので、徐々に司法書士のお目
付役も必要だということが浸透して行くことでしょう。

 会社法が試験科目になっている職業は弁護士、会計士だけでなく、司法書士も
あることを、もっともっと知っていただきたいものです。

 (小沢潰しの後は山本太郎潰しがきっと来ると想像していましたが、子供にま
 で………。日本人の道徳観はどこに行ったのでしょうか。ご本人も円形脱毛の
 ようです)。

http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2013/09/04/kiji/K20130904006550630.html


2013.09.05(木)【合同会社の設立】(金子登志雄)

 合同会社の設立は何件かいたしましたが、いずれも出資額全部が資本金でした。
今回はじめて出資額の1部を資本金にする設立を経験いたしました。

 仮に1億円の出資だとしても、合同会社であれば、資本金は0円から1億円の
範囲で自在に決めることができます。資本金0円なら登録免許税は6万円です。

 株式会社の場合は、半額以上を資本金にしなければなりませんから、出資額1
億円なら資本金の最低額は5000万円で、登録免許税は0.7%の35万円で
す。

 株式会社では1円の出資のときに、資本金を50銭あるいは0.5円とするこ
とができませんから、最低資本金は1円です(新設型組織再編であれば0円も可
能です)。それでも登録免許税は15万円です。

 合同会社には、こういうメリットがあるのですが、そんなに流行っているとは
いえません。やはり世間が慣れていないのでしょう。営業マンが名刺を出したと
きに「合同会社〇〇〇」とあれば、「合同会社って何ですか。よく分からない会
社とは取引できません」といわれてしまいそうです。

 また、子会社として設立しにくい点があります。合同会社の場合は会社も代表
社員になれますが、会社には肉体がないため、その合同会社の運営のために、代
表社員たる会社は職務執行者を選任します。

 この職務執行者は支配人に準じる地位のため、代表社員たる親会社の取締役会
で選任しなければならないというのが登記実務の運用です。

 天下のトヨタ自動車が資本金100万円の合同会社を設立したとしても、トヨ
タ自動車の取締役会議事録を準備せよというわけです。トヨタくらいの会社では、
部長の決済で十分でしょう。これでは、設立する気力がなくなってしまいます。


2003.09.04(水)【取得条項付株式の自己株】(金子登志雄)

 また、会社法で不統一表現を見つけてしまいました。

 さて、たまたま会社が普通株式と引き換えられる取得請求権付株式を自己株式
として保有していた場合に、この株式の取得を請求して普通株式と引き換えられ
るでしょうか。

 自分が自分に請求するというのは会社法は認めないでしょうから、これは無理
だと思います。

 では、会社が普通通株式と引き換えられる取得条項付株式や全部取得条項付種
類株式をを自己株式として保有していた場合に、この株式を再取得して普通株式
と引き換えられるでしょうか。

 これには明文があり無理です。取得条項付株式については、会社法172条2
項に「取得条項付株式の株主(【当該株式会社を除く】)」とありますし、全部
取得条項付種類株式については、会社法173条3項に「【当該株式会社以外】
の全部取得条項付種類株式の株主」とあります。

 青汁のキューサイの全部取得条項付種類株式は33,012,210株で、こ
の100万株と引換えにA種種類株式1株を交付する内容でしたが、100万で
割れば交付されるA種種類株式は33株になるはずなのに、登記簿をみると32
株になっています。きっと、100万~1,012,210株が自己株式だった
のでしょう。

 話が横道にそれてしまいましたが、172条と173条と、たったの1条しか
違わないのに、同じことをいうのに、一方では「(当該株式会社を除く)。」と
カッコ書にし、他方では「当該株式会社以外の」という修飾語にするのは、何か
変ですね。

 立案担当者に聞けば、「172条はA君担当で、173条はB君担当だったか
ら」とでも答えるのでしょうか。


2013.09.03(火)【表現ミス?】(金子登志雄)

 会社法447条1項と3項は、次のような内容です。
--------------------------------------------------------------------------
① 株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株
 主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
  1 減少する資本金の額(2、3は省略)
③ 株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資
 本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下
 回らないときにおける第1項の規定の適用については、同項中「株主総会の決
 議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の
 決議)」とする。
--------------------------------------------------------------------------

 3項からして、1項後段は「取締役の決定(…略…)によって、次に掲げる事
項を定めなければならない」と読み替えられます。

 文字どおりに読みますと、取締役の決定(…略…)によって、次に掲げる事項
を【定めなければならない】のであって、決して株主総会の決議で決定してはな
らないと読めないでしょうか。

 なぜ、単元株式数の減少・廃止に関する会社法195条1項のように、第1項
の規定にもかかわらず「取締役の決定(…略…)によって、………【することが
できる】」と、株主総会決議を排除しない表現にしなかったのでしょうか。

 実務の解釈は、株主総会の決議を排除していませんし、先般の司法書士試験問
題でも、何の説明もなく株主総会の決議で行っていました。

 これ、深く詮索しても無駄でしょう。私の推測は、単元株式の部分と減資の部
分は条文の作成者が別人で、後者の担当者は、こういう配慮が行き届かなかった
のだというものです。簡易合併・略式合併の規定で、株主総会決議の規定を「適
用しない」と定めた担当者にも同様のことがいえます。


2013.09.02(月)【予選補欠と本選補欠】(金子登志雄)

 9月に入りましたが、依然、暑中お見舞い申し上げますといいたい今日この頃
です。

 8月最後の土日は、相変わらず、自宅の自室で暇つぶしの原稿書きに勢を出し
ていました。クーラーもない部屋のため、扇風機を回しながらの作業でしたが、
自室は喫煙室を兼ねているため、愛煙家としては、暑さよりも喫煙が優先です。

 原稿のテーマは「補欠監査役」でしたが、予選によらないで後任を補欠として
選任した場合の監査役には、一般に、その用語を使わないため、比較する際に書
きにくくてなりません。便宜、予選補欠と本選補欠として書いてみました。

 本選補欠については、国政選挙と同じく「補選」と書こうかなと思いましたが、
本選補欠は、法定あるいは定款所定の定員割れだけでなく、現任数割れも含むの
に対し、補選は前者に限られるでしょうから、これは使えそうもありません。

 補欠監査役は欠員が生じた場合に備えて予選される補欠だと原稿に書いても、
欠員には上記のとおり「現任数割れ」も含みますから、また書き直しになったり
と、どうも、このテーマは書きにくいところがあります。

 いま、ふと思いましたが、欠員の「事前補欠」と「事後補欠」という表現のほ
うが分かりやすいかもしれませんね。予選補欠は将来の欠員に対する準備ですか
ら事前補欠で、欠員が生じたので選任される補欠が事後補欠です。しかし、一般
的な用語ではないので、これも使えそうもありません。

 この原稿は頼まれ原稿ではありません。自分の考えをまとめるためにやってい
るだけですが、知識は増えなくても、説明が上手になるという効果がありますし、
教科書を熟読するよりも、ああでもない、こうでもないと書いては消しているほ
うが、少なくとも私にとっては勉強になります。紙の原稿ではないため、ごみも
増えません。灰皿だけは満杯になります。


2013.08.30(金)【簡易分割の株主への影響】(金子登志雄)

 乙会社が「総」資産の20%以下のA事業を甲会社に承継させる吸収分割にお
いて、甲でも「純」資産額の20%以下の受入れであれば、分割対価が譲渡制限
株式でない限り、甲乙双方にとって株主総会不要の簡易分割になります。

 しかし、甲では株主の一定数がこの分割に反対すると株主総会を開かざるを得
ませんが、乙にはそのような規定がありません。規定がないどころか、株主に分
割のことを知らせる必要もありません。

 大きな差ですが、なぜでしょうか。やはり株主への影響の問題のようです。

 乙会社では発行済株式の総数が増えません。不動産や事業を譲渡して代金等の
対価を受領したのと同じ場面です。会社の財産は動いても、通常の場合は株主へ
の影
響は軽微です。

 甲会社では対価が新株であれば、発行済株式の総数が増えます。対価が現金の
ときも株主は反対の声をあげられます。

 しかし、甲で対価が現金のとき、高く買い過ぎたため、株主に影響すると考え
るなら、乙でも安く売り過ぎた場合には、株主に影響するはずですが、前者では
株主が反対の声をあげられるのに対し、後者ではその制度がありません。不動産
を安く
売り過ぎた場合と同様です。

 結局、この制度は、旧商法からの沿革で、株主に強く影響する株式対価を前提
に作られていると考えるしかないのでしょうか。


2013.08.29(木)【はだしのゲンその2】(金子登志雄)

 根来川さん、投稿ありがとうございました。松江は島根県でしたね。ついでで
すが、高校野球で優勝した前橋育英は、わが郷里の群馬県でした。

 さて、「はだしのゲン」騒動は、あちこちに飛び火しているようですが、庶民
による言論統制の1つとして怖いものを感じているのは私だけでしょうか。

 つい数年前までは、外交の材料にも使われた日本政府お墨付きの代表的漫画と
の評価だったのですが………。

 http://www.47news.jp/CN/200704/CN2007042901000192.html

 日本の戦時中は英語が敵性語として排斥され、甲子園の高校野球でさえ敵性ス
ポーツとして中止させられましたが、最近の世相は、その入り口に近いように感
じています。

 共産中国でも文化大革命時代(1946年当時)には、赤信号を「進め」にせ
よなどという子供っぽい主張までありました。

 「はだしのゲン」の内容が仮に統制賛成派のいうように自虐史観に立っていよ
うがいまいが、自分の気に食わない思想や考え方の存在を認めるのが民主主義で
す。相手が子供だからといって、判断の材料となる情報を意図的に遮断すべきで
はないでしょう。図書館に反対意見の漫画も置けばよいことです。

 原爆問題といえば、私の中学時代の音楽の先生が広島での被爆者でした。授業
中には、ほとんどそのことに触れませんでしたが、1度だけ話してくれたことが
ありました。

 詳細はここでは省略しますが、実体験に基づく実に生々しい内容で、広島平和
記念資料館でみた光景どころの話ではありませんでした。何か体調が悪くなるた
びに、「とうとう原爆症が出たか」と、何年経っても、原爆の恐怖から抜けきれ
ない生涯のようでした。

 こういう語り部も少なくなった現在、「はだしのゲン」さえ見せない・読ませ
ないで、大本営発表ばかりの情報では、純粋培養の無知な国民が増えるばかりで、
日本の国益にも反すると考えます。

 ちなみに、私の小中学生時代は部落問題につき「知らしむべからず」でした。
長じて、それをはじめて知ったときは、己の無知を恥じるとともに、意図的な教
育に情けない思いでした。


2013.08.28(水)【「はだしのゲン」騒動】(島根・根来川弘充)

 恥ずかしながら、島根県が注目をあびました「はだしのゲン」騒動ですが、先
日、市の教育委員会は、図書館での閲覧制限を撤回しましたので、おそらく事態
は終息するものと思われます。

 ところで、私は恥ずかしながら、いままで「はだしのゲン」を読んだことがあ
りません。小中学校に通っていたのは今から30年くらい前の話になりますが、
同年代の方何人かで話題にしましたが、小中学校の図書館では、はだしのゲンど
ころか、いわゆるコミック漫画を見た事がないという方がほとんどでした。きっ
と、私の小中学生時代には、漫画自体が閲覧制限を受けていたということなのだ
ろうと思います。

 今回の事件は、議会への陳情が否決されたことが発端で、市の教育委員会が別
の理由をつけて、閲覧制限をしたことで、騒動になったようです。

 「はだしのゲン」以外にも、すばらしい漫画はたくさんありますので、今後は、
「あの漫画を図書館に」という陳情で、騒動が起こるのかも知れません。


2013.08.27(火)【公告内に商号の明記】(金子登志雄)

 8月最後の週ですが、この時期は10月1日付組織再編の債権者異議申述公告
掲載締切時期であり、官報にも大量の公告が掲載されています。

 それをみて、新設分割公告では「新設分割により新設する〇〇〇株式会社(住
所東京都………)に対して」と、設立する新会社の商号及び住所まで記載されて
いるのに、組織変更公告では「株式会社に組織変更することにいたしました」と
設立する新会社の商号さえ記載されていないことにお気づきでしょうか。

http://kanpou.npb.go.jp/20130826/20130826h06117/20130826h061170030f.html

 これは深い意味がなく、公告の記載事項として会社法810条には「設立会社
の商号及び住所」と明記されているのに、組織変更の公告には、それが記載され
ていないという理由に過ぎません。

 同じ新会社設立行為なのに、なぜ、こういう差を設けたのでしょうか。旧商法
では、新設分割の公告に「設立会社の商号及び住所」の記載は不要でした(官報
公告のひな形では「商号」だけは記載事項になっていましたが)。というより記
載事項があいまいでした。合併ですら相手会社の商号を記載せよという条文にな
っていませんでした。

 おそらく、会社法は吸収合併や吸収分割では「どこの誰と」の関係かを明記せ
よと定めたので、新設合併や新設分割でも、この延長で「どこの誰という新会社」
との関係かを明記させたのでしょう。新設分割も「新会社との吸収分割」と思考
し構成したためだと私は推測しています。

 これに対して、組織変更は実体法的にみれば単なる商号の変更であり、住所を
変えてはいけないものですから、本来の商号変更と同様に、変更後の商号や変更
しない住所の記載は不要だと考えたものだと思われます。

 しかし、公告の時点で新設分割の新会社の商号や住所まで決めておくのは、実
務上、きつい部分があります。別の商号や場所にしたいと気が変わることもない
わけではありませんので。


2013.08.26(月)【会社の寿命30年】(金子登志雄)

 金曜日は当社の創立記念日で会社が休みでしたので、同じフロアにある当事務
所も来客予定もなかったことからお休みしました。その代わり、土曜日は、社内
でちょっとしたパーティーがあり、休日出勤でした。

 創立記念日といっても平成3年設立ですから、まだ22年の歴史しかありませ
ん。もちろん、設立登記は創業役員である私がいたしました。司法書士資格は取
得していませんでしたが、生きた企業法務の知識だけは持っていました。

 よく、会社(事業)の寿命は30年といいますが、当社のたった22年の歴史
をみても、大きく変化しました。半導体、人材事業、ソフトウェアを中心に進出
いたしましたが、いまは前2事業からは撤退しています。

 いつか必ず努力が報われると信じて、なかなか目が出ない事業に固執していた
ら、とっくに潰れていたでしょう。稼ぎ頭の事業でも、数年経過後にはお荷物に
なってしまうこともあります。ここが個人の生き方との大きな相違点です。

 酒造業、酒店、米屋、印刷屋、燃料屋、旅館などは、この道一筋の歴史のある
企業が多いのですが、それでも、いまはコンビニ経営をしながら所有不動産の賃
貸業に変わったところが多いように、環境に適合しない事業は廃れるのみです。

 取締役管理部長で会社の収益向上に貢献できず、経営能力もない職人肌の私が、
会社のお荷物になってきたと責任を感じて、半自立を目指し、平成8年に司法書
士資格を取ったのも、会社に対する貢献策(お荷物からの卒業)のつもりでした。

 こんな激変する企業経営の環境の真っ只中にいると、この世で最も難しい仕事
は会社の経営ではないかと思ってしまいますから、設備投資も不要で経営が楽な
会計事務所や司法書士事務所が企業経営者に対して偉そうに経営のウンチクを説
いている姿をみると、私には笑止千万に思えてしまいます。 

 やはり、弁護士、会計士、司法書士などは経営のプロではないのですから、社
外監査役になっても、社外取締役にはなるべきではないでしょう。


2013.08.23(金)【総会決議不要の定款変更】(金子登志雄)

 昨日の続きですが、株主総会によらないで定款を変更できる場合として、次の3
つがあります。

 ① 株式分割の比率に応じて発行可能株式総数を増加する場合(184条2項)。
 ② 株式分割の比率に応じて1単元の株数を増大・設定する場合(191条)。 
 ③ 1単元の株数を減少・廃止する場合(195条)。

 ところが、①についてだけ、現に2以上の種類の株式を発行している場合に認め
らません。この理由は、会社法322条1項1号の、ある種類の株式の種類株主に
損害を及ぼすおそれがあるときの種類株主総会の要否につながるからだろうと、考
えていました。

 しかし、普通株式とA種種類株式の2種類を発行し、普通株式もA種種類株式も
1単元100株のとき、A種につき1株を3株に分割し、1単元の株数については
300株ではなく200株に増大した場合は、A種の株主には利益であっても、普
通株主には議決権の個数の面で不利益ですから、会社法322条1項2号のほうの、
ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときの種類株主総会の要否
につながります。

 A種種類株式についてだけ、1単元の株数を廃止した場合も同様です。

 こう考えますと、なぜ、②や③については、現に2以上の種類の株式を発行して
いる場合を除かなかったのでしょうか。

 もっかの推測は、322条1項1号と2号以下の相違だと思います。1号は定款
変更議案だからです。単元株式数の変更も株式の内容の定款の変更であり、形式的
には1号に入りますが、実質は「議決権の分割や併合」と同じですから、2号以下
の問題として扱われています(322条3項ただし書のかっこ書参照)。

 2号以下の場合は定款に定めれば種類株主総会を不要にすることができますが、
1号についてはできません(322条3項本文、4項)。この差ではないかと推測
していますが、いかがでしょうか。


2013.08.22(木)【発行可能株式総数と発行可能種類株式総数】(金子登志雄)

 定款に「当会社の発行可能株式総数は5万株とし、その内訳は普通株式4万株、
A種種類株式1万株とする」とあったとき、何も感じませんか。

 これ厳密にいうと間違いです。各種類の株式の発行可能種類株式総数は全体の発
行可能株式総数の内訳ではありません。前者の合計と発行可能株式総数とは一致す
る必要がありません。

 ところで、上記のような定款を有する会社の発行済「普通株式」の総数が2万株
で、A種種類株式は未発行だったとします。この場合に、取締役会で1株を5株に
分割し、発行可能株式総数は25万株とすることができるでしょうか。

 会社法184条2項によると、「現に2以上の種類の株式を発行している」場合
を除き、株式分割の比率に応じて発行可能株式総数の定款を変更するのは株主総会
の決議が不要だとありますので、一見、可能のようにみえますが、「普通株式の発
行可能種類株式総数4万株」という定款の障害がありますので、取締役会決議だけ
では、この株式分割を実行することができません。

 であれば、「現に2以上の種類の株式を発行している」場合だけでなく、未発行
でも種類株式発行会社を除外すればよいじゃないかという気もしますが、この会社
でも、普通株式1株を2株に分割し、普通株式の発行済みを4万株にするまでなら、
取締役会の決議で発行可能株式総数を10万株にすることができます。

 「現に2以上の種類の株式を発行している」場合を除外したのは、普通株式の分
割や発行可能株式総数の拡大は、A種種類株主の種類株主総会の承認を要すること
になり、取締役会だけでは決定できないからでしょう。しかし、それでも一部に疑
問がありますが、それは明日の問題とします。


2013.08.21(水)【衆民の模範】(金子登志雄)

 昨日は、親しい士業の先生の黄綬褒章受章パーティーに行ってまいりました。

 褒章と勲章の区別もつかず、黄綬(おうじゅ)褒章(ほうしょう)の意味も分か
りませんでしたので、事前にネットで調べました。

 お国や公共に対して手柄を上げた人を対象とするのが勲章で、各業界で活躍した
人に授けるのが褒章といったイメージでした。

 その中で、黄綬褒章は、その道一筋に業務に精励し衆民の模範である方を対象と
するようですから、司法書士や行政書士等の士業はこれでしょう。もっとも、弁護
士は、藍綬(らんじゅ)褒章だと聞いたことがあります。

 http://www8.cao.go.jp/shokun/shurui-juyotaisho-hosho.html

 たぶん、皆さんの中には「おれだって、その道一筋に業務に精励し、うん十年だ
ぞ」といいたい方もおられるでしょうが、「衆民の模範」という要件のほうで大丈
夫でしょうか。会務その他のボランティア活動に長年精励し、会などからの推薦も
必要だと推測します。

 私は、司法書士歴ですら20年もないため、前半の要件だけではねられ、鼻から
対象外ですが、仮に30年、40年と業務に精励しても、会務にも消極的な路地裏
の職人では相手にもされません。

 こんな私が欲しかったのは、新しい独自の視点から商法・会社法を解説し続けた
出版の功績につき、何か賞でもないかなということでした。酒の席で、冗談半分に
中央経済社に「法律書の世界でも芥川賞や直木賞を作って、私に新人賞でも頂戴よ」
と申し上げたことがありました。

 何と、その返答は「とんでもない。そんなことをしたら、他の著者から『なぜ、
おれの出版は対象にならないのか。おれの本が売れないのは出版社の努力が足りな
いからだ』というクレームの嵐で仕事になりませんよということでした。

 物書きは個性的な(大人気ない?)方が多く、中にはモンスター並も多いことで
しょう。物書きに「衆民の模範」となれる人は少ないようです。だから、政治家や
都知事を目指すのかな。


2013.08.20(火)【次元の相違】(金子登志雄)

 かつて、ある税理士さんが「オーナーの甲が拒否権付株式1株と普通株式99株
で会社を設立し、社長となり、普通株式99株を専務の息子の乙に譲渡した場合に、
甲が何かしようとしても株主総会の多数派である息子の乙に反対され何もできない
じゃないか、拒否権付株式よりも息子には無議決権株式を渡すべきだ」と得意そう
に主張されていました。

 この論法を皆様はいかがお考えですか。

 この論法は、甲が会社の運営者だという前提に立っていますが、甲が拒否権を持
つということは、息子を会社の運営者にするが、暴走しては困るので、自分が拒否
権を持っておくという趣旨です。主役は息子に代わるという前提です。

 発想どころか、立ち位置が違う論法なので、拒否権条項付株式に対する批判とし
ては的外れでしょう。

 ところで、拒否権条項付株式を発行しているとき、「拒否する場合は種類株主総
会の決議が必要だ」と、ついつい書いてしまいますが、拒否しない場合にも種類株
主総会の決議が必要です。

 要するに、株主総会の議案などと同一事項を種類株主総会の議案にし賛否を決め
ることで、そこで株主総会と不一致の結論が出たら、拒否権株主の種類株主総の決
議が優先されるということであって、同じ結論になるときも種類株主総会の決議が
必要です。拒否権を有する株主は1名ということが多いでしょうから、その開催は
容易です。


2013.08.19(月)【定款変更】(仙台・立花宏)

 先日、ある株式会社の社長が、定款を一部変更したいと相談に来られました。株
主総会の特別決議の要件を緩和したいというのです。

 株主総会の特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要
ですが、この要件を緩和して、出席株主の議決権の過半数の賛成で決議できるよう
にしたいというのです。

 理由を聞くと、定款変更をしやすくしたいというものでした。

 その会社は社長の父親が創業し、現在は、社長、社長の弟と姉の3人が取締役、
社長の母親が監査役を務める取締役会設置会社です。株主は社長、社長の弟と姉の
3人で、社長が4割、弟が4割、姉が2割保有しています。

 社長は新しい事業をはじめるため、会社の目的を追加したいと考えています。会
社の発展のため、そして経営リスクの分散のため、事業の多角化が必要だと考えて
いるのです。

 姉はこの方針に賛成していますが、弟が反対しているそうです。反対している理
由は、創業者である亡くなった父親の意思にあるようです。創業者である亡くなっ
た父親が現役だったバブル期、父親は不動産開発事業に手を出しました。地域の不
動産を購入し、開発を始めたのですが、ほどなくバブルは崩壊。父親は事業に失敗
し、地域の方々に迷惑をかけたことがあったようです。迷惑をかけたのにもかかわ
らず、地域の方々は会社を再建する際、たくさんの支援してくださったそうです。

 そういった経緯から父親は、会社が再建できた後は本業を重視し、事業を多角化
することに慎重な態度を示していたようです。お世話になった地域の人たちにご恩
を返し、無用な不安を与えないような経営をしたい、そんな気持ちがあったという
のです。

 それに対し、社長は主張します。父親は事業に失敗はしたが、再建計画に基づき
債務は完済した。そして、その後、地域の発展にも身を粉にして尽くしてきた。過
去は清算済だ。過去に縛られる必要はないというのです。

 社長はさらに主張します。いまの定款は過去に事業の失敗を経験した父親が、再
建計画を遂行するにあたり、関係者からの意見を押し付けられて作成したものであ
る。再建を果たし、現在、会社を経営しているのは自分達だ。定款は今、会社を経
営している自分たちの経営方針に合うよう、変更するべきだというのです。

 取締役会でも多数派であり、株主総会における議決権の過半数を有する社長と姉
が賛成しているのに、株主総会における議決権の半数未満しかもっていない弟が反
対しているために定款変更ができないのはおかしいのではないか。ただ、弟を説得
するのは難しそうなので、定款変更の要件を軽減してしまおうというのです。

 しかし、そんな定款変更をしようとしたら、弟は反対するのではないか、と私が
言うと、社長は言いました。

「そこを強調するのではなく、他の変更もあわせ、静かにやるんですよ」

 株式会社の定款変更は株主総会の特別決議が必要ですが、この要件は基本的に軽
減できません。定足数を議決権の3分の1まで軽減することは認められますが、出
席株主の議決権の過半数で決議可能にはできません。私は社長にその旨を告げ、社
長の要望するような特別決議の要件の軽減はできないことを説明しました。
 
 定款は会社の根本規則。定款変更することは、株主や利害関係人との関係も含め、
会社の今後の行く末を決めることにもなるだろうと思います。少数派の意見も聞き、
慎重に判断する必要があるのではないかと思いました。


2013.08.16(金)【私の倍返し】(金子登志雄)

 いやー、暑いですね。信じられない暑さが続いています。暑さには強い方だと思
っていましたが、首の付け根や腕の折り返し部分にアセモだらけ状態です。

 私の若い頃は、クーラーなどない時代でしたが、普通に眠れました。いまはクー
ラーなくして眠れません。あちこち、この状態なのに、節電しなくても大丈夫のよ
うですから、原発推進派の「電力不足になる」は大嘘だったようですね。

 さて、13日-15日と会社が休みだったため、同じフロアにある当事務所も閉
めたままにし、出勤せず、自宅でのんびり書き物などをしていました。読書などイ
ンプットは嫌いですが、ああだこうだと思考しながらアウトプットするのは好きな
作業です。少しも苦痛ではありません(目には苦痛ですが)。

 何度も著作等に書いていますが、会社法の「取引の思考」は実に素晴らしい着想
だと再認識しています。合併も取引だから、合併新株の発行も合併対価の支払いで
すし、株式で支払う企業買収です。募集株式の発行も自己株式の処分と同様に、新
株式の売却です。

 その株式の売却益が「資本金等増加限度額」で、合併差益(損)が「株主資本等
変動額」です。

 合併差益の計算も、受け入れる財産の時価よりも、対価時価、すなわち支払う代
金のほうから計算するなどの逆転の思考は、旧商法時代には考え付きませんでした。

 新株の売却で受入れ対価(出資財産)が安すぎて損をしても(有利発行問題)、
その損は会社の損ではなく既存株主の損だから債権者には少しも影響がないなどの
考え方も会社法になってから鮮明になった見方です(これが株式以外の対価=既存
資産の流失=の株式交換で債権者保護が必要な理由です)。

 お盆休み明けを機会に、一層、会社法に精励しようと思いました。これが私の休
暇に対する倍返しです。半沢直樹のように、うまく行くかどうかは疑問ですが。


2013.08.12(月)【固定電話と普通株式】(金子登志雄)

 お盆休みの会社・事務所も多いようですが、そんなことを全く意識していません
でした。お中元もお歳暮もお盆も正月も私には無縁で、全く季節感のない人間とし
て育ってしまいました。

 休みのときは、書き物をしながら、暇つぶしにパソコンで刑事ドラマなどををみ
ることが少なくありません。先日のドラマでは、19年前に書いたといわれる小説
の原稿に「固定電話」とあることで、これは贋作だと見破るシーンがありました。
当時は携帯電話がなく、固定電話という表現がなかったからという理由です。

 我田引水ですが、拙著でも、商業高校や工業高校があるから普通高校というので
あって、他に比較するものがなければ「普通」とはいわない、だから普通株式も種
類株式であって、普通株式と種類株式という区分けは本来は正しくないと書いてき
ました。同じことですね。


 ときどき普通株式のことを「会社法第108条第2項各号に定める事項について
の定めを設けない株式」と定義する会社がありますが、非公開会社では株式に譲渡
制限が定められているため間違いです。公開会社の場合は、いわば公開株式のこと
ですが、その会社が種類株式である普通株式をそのように定義しただけのことで、
意味のある内容とは思えません。

 種類株式の名称は会社が自由に定められ、普通株式に全部取得条項付種類株式の
内容を追加しても普通株式と呼ぶ会社も多い状態であり、普通株式という名称だか
らといって「会社法第108条第2項各号に定める事項についての定めを設けない
株式」に限られるわけではありません。

 普通株式に全部取得条項付種類株式の内容を追加して「全部取得条項付株式」と
名称変更する会社もありますが、これも当然に有効です。会社法によれば、全部取
得条項付【種類】株式であって、「全部取得条項付株式」という名称は間違いだと
批判する人もいますが、普通名詞である全部取得条項付【種類】株式と、固有名詞
である「全部取得条項付株式」とを混乱した批判に過ぎません。

 ※13-15日の本欄はお休みします。
 本欄を管理している外注先が休みのため、本欄も休みます。コンピュータに弱い
私には、この欄を1人で管理する能力がありませんので、ご了承ください。



2013.08.09(金)【補欠監査役の就任登記】(金子登志雄)

 5日付の本欄のとおり、上場会社では、補欠監査役を選任しておくことが多いの
ですが、実際に就任した例を知りませんでしたので、ネットで検索してみました。

 ありました。

http://www.wesco.co.jp/news/n1372403822/f1

http://www.okato-holdings.co.jp/press/pdf/press20130702.pdf#search='%E8%A3%9C%E6%AC%A0%E7%9B%A3%E6%9F%BB%E5%BD%B9+%E5%B0%B1%E4%BB%BB+%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B'

 上の例は、辞任です。中小企業相手の登記ばかりしていると、辞任しても定員割
れのときは後任が選任されるまで権利義務者になり、引き続き職務に従事しなけれ
ばならないという感覚のほうが強いのですが、補欠が存在すれば、即座に後任が就
任し、権利義務者になりませんね。なるほどと思った次第です。

 この例は、平成24年10月25日に補欠監査役に就任し、平成25年6月28
日に監査役です(監査役に「就任」ですという表現に、何となく抵抗を感じます)。

 下の例は何と本年6月27日に補欠に就任したばかりなのに、3日後の30日に
は監査役です。さぞ、ご本人も驚いたことでしょう。

 私自身、こういう登記の経験はないのですが、富田司法書士とも電話で話しまし
たが、上の例でいえば、平成24年10月25日頃に書いてもらった「補欠監査役
就任承諾書」を登記に添付するのでしょう。決して、補欠ではない監査役の就任承
諾書ではないと思います。

 しかし、欠員が生じるかどうか不明な段階で、文書で補欠監査役の就任承諾書ま
でもらっておく会社は、そんなに多くはないと想像します。いま時点で昨年付けの
就任承諾書を書いてもらうのも不自然ですから、「私は、平成24年10月25日
開催の貴社定時株主総会において補欠監査役に選任されましたが、同日付で就任承
諾したことを証明します。平成25年〇月〇日」と、証明書にするとよいかもしれ
ません。当然に昨年の選任議事録も登記に必要です。



2013.08.08(木)【社外取締役の必要性】(金子登志雄)

 会社法改正案(「会社法制の見直しに関する要綱」)によると、上場会社など有
価証券報告書提出会社に対して、社外取締役を置かない理由を事業報告で説明する
義務(開示規制)を課しています。

 嫌らしいですね。独身中年男女に結婚しない理由を開示させるような陰湿なイジ
メに感じてしまいます。

 上場会社の中には、いまだ社外取締役を1人も置かない会社が、キヤノンはじめ
少なくありません(キヤノンの「ヤ」は「ャ」ではありません。念のため)。

 そもそも置く必要があるのでしょうか。

 取締役会にも国会と同様に強力な「野党」(ご意見番)がいないと民主主義的な
運営が成り立たない、「社長―専務―常務………」という縦社会組織では、暴走の
ブレーキがないのも同様だという意見はそのとおりなのですが、米国の制度では監
査役が不在であるのに対し、(ヨーロッパ)大陸法系の日本では監査役(会)があ
るのです。野党の仕事やブレーキの仕事は監査役が担う仕組みがあるのに、この上
さらに社外取締役が必要なのか、血液型A型の日本社会に米国型のO(オー)型の
制度を輸血することがほんとに正しいのかという疑問を私は持っています。

 そのよい例が弁護士数の増大です。日本は弁護士が足らないという米国の要求に
従い弁護士数を急増させたら、いまや雇ってくれる事務所もなく年収200万円に
満たない弁護士が多数です。

 日本には米国と相違し、税理士や司法書士という街の法律家がいるのに、それを
計算に入れずに、弁護士を増やしたための分かり切った大失策です。

 TPPもそうですが、世界のルールを米国のグローバル企業に都合のよいように
変えようとしても、それぞれの国情を無視したら、無理が生じますし、世界中が同
じルールになったら、ちょっとした一国の経済の破たんが世界中に飛び火し、世界
同時不況にもなります。

 イスラム諸国にはイスラム諸国の、旧共産圏には旧共産圏の、反米の中南米諸国
には中南米諸国のルールがあるのですから、気に食わないからといって、その国の
ルールや歴史を尊重するのが成熟した大人の社会というべきではないでしょうか。

 どうせ押し付けてくるなら、米国の誇る「臭いものに蓋をしてはいけない」「何
ごともフェアでなければならない」の文化を日本の政治・司法・マスコミの世界に
求めてほしいものです。


2013.08.07(水)【社外の意味】(金子登志雄)

 田中さんは、釣り好きですね。私は、じっとして待っているのは耐えられません。
ましてや、魚が近寄ったのかもみえず、エサが取られたのかもみえず、よくもまぁ
我慢できるものだと釣り人を尊敬してしまいます。

 さて、社外監査役の「社外」よりも、社外取締役の「社外」のほうに私は違和感
感じています。このまま行くと、経営者側株主でない一般株主のことを「社外株主」
と表現する人もでてくることでしょう。排外主義みたいで、嫌な命名ですね。

 で、改名するとしたら何がよいでしょうか。業務執行に従事したかどうかが基準
ですから「業外取締役」がよいかなと思えど、「業外監査役」はおかしいですね。
監査役は本来的に業務執行に従事しないわけですから。特任、専任………と、いろ
いろ考えても名案が浮かびません。

 ところで、将来的には、次の改正がなされます(「会社法制の見直しに関する要
綱」より)。

【規制強化】
1.親会社の取締役・使用人は社外取締役・社外監査役になれない。
2.親会社の監査役は社外監査役になれない。
3.兄弟会社の業務執行取締役・従業員は社外取締役・社外監査役になれない。
4.一定の配偶者・親族も社外取締役・社外監査役になれない。

【規制緩和】
1.過去10年以上前は原則として不問
2.責任限定契約に非業務執行取締役・非社外監査役を加える(社外かどうかの基
 準を業務執行者かどうかの基準に変更)→911条3項25号と26号は削除する。

 私、40年以上前の学生時代に日本通運で事務のアルバイトしましたので、現行
会社法では、もう同社からお声をかけていただいても、社外取締役にも社外監査役
にもなれないのかとがっかりしていましたが、この改正がなされれば、就任するこ
とができます。日通さん、お待ちしていますよ。


2013.08.06(火)【社外監査役の社外とは】(大阪・田中利和)

 皆さん、暑中お見舞い申し上げます。久々の投稿です。

 金子代表、私は、この土日は、土曜日は子供をプールに連れて行き、日曜日は近
所の釣り堀にへら鮒釣りに行きで、充実した日を送っていました。

 さて、昨日の社外監査役ですが、なるほど、補欠を選んでおく必要のない体制は
「社内1、社外3」であり、こうしている上場会社も少なくなく、常勤監査役と社
外監査役は両立する概念ということなのですね。

 先日、「社外、社外」と言われると、部外者のようにも聞こえるので、この「社
外」の旨の登記を抹消できないか? という相談を受けました。

 結論としては、社外監査役が取締役や支配人に就任した場合には、兼任禁止の規
定に違反するので、監査役そのものを退任することになりますが、単に社外の旨を
抹消する登記はできません。

 会社法が規定する社外監査役の社外とは、「過去に当該株式会社又はその子会社
の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若
しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがない」ことをいいます(会
社法2条16号)。

 これは、過去の経歴について規定しています。過去は変えられませんからその点
からも、「社外」のみを抹消することはできないというべきでしょうか。

 もちろん、日常に使用するところの”部外者”という意味でもありません。

 ちなみに、私が行く釣り堀では、鮒(ふな)のことを「じゃこ」と呼び、一匹と
はいわず「一枚」と数えます。

 じゃこ? 私は「じゃこ」といえば,”ちりめんじゃこ”を想像してしまいます。

 鮒釣りの世界では、全国的にも概ね同じような呼び方・数え方だと思いますが、
会社法の世界にしても、釣りの世界にしても,専門用語は難解ですね。

 ESGの雑魚(じゃこ?)といわれないよう、また投稿に頑張ります。


2013.08.05(月)【監査役4人体制】(金子登志雄)

 土日は、することもなく、たいくつな日々でした。

 さて、上場会社を中心とする公開大会社は、監査役「会」設置会社であることを
要し、「監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければなら
ない」とされています(会社法336条4項)。

 「社内1(人)、社外2(人)」の最低員数の会社は、1人でも欠員が生じれば、
監査役選任のためだけに臨時株主総会を招集しなければならないため、補欠監査役
を選んでおくことが多いといえます。

 「社内2、社外2」の場合も、社外監査役に欠員が生じれば「半数以上は、社外
監査役でなければならない」という会社法の要求に反しますから、補欠の社外監査
役を選んでおく必要があります。

 補欠を選んでおく必要のない体制は「社内1、社外3」であり、こうしている上
場会社も少なくありません。常勤監査役と社外監査役は両立する概念です。

 しかし、株主総会の場では、株主から「監査役4人は多すぎる」といわれること
が少なくありません。学者の皆さんは、「経営監視体制を強化せよ」と主張します
が、実際の株主は、「余計な経費は使うな。監査役を4人置くなど浪費だ」と主張
するわけです。

 現場にいると、こういうギャップがよく分かります。長年取締役に従事し、数年
前に監査役に変わった私など、きっと老後の生活の救済策とでも思われていること
でしょう。

 いずれにしろ、非常勤の監査役報酬など、責任の重さに比して、たかが知れてい
ますから、監査役3人も4人も、経費負担としては大きいものではないことも知っ
てほしいものです。


2013.08.02(金)【会社解散と株券】(金子登志雄)

 株式が消滅する事由の1つに会社の清算結了があります。会社が存在しないのに
株式だけ生き残ることはできません。

 清算結了が不要な合併解散や組織変更による解散でも同じです。AとBが合併し、
AがBの株主に合併対価を交付するときでも、Bの株式は消滅し、以後、株券は合
併対価引換請求権証書に変わります。

 では、合併対価のない無対価合併のとき、Bの株式が消滅するのは当然として、
株券はどうなるのかという問題があります。

 旧商法時代は、合併対価引換証券の効力もないから、単なる紙切れなので、株券
の提出手続は必要ないと解釈されていましたが、会社法では、その219条に何ら
の限定もないため、株券提出公告も合併登記の添付書面だとされてしまいました。

 しかし、何の意味もない紙切れを回収する必要があるでしょうか。もし、それで
も必要だというなら、清算結了手続にも、株券の提出を要求すべきではないでしょ
うか。

 この会社法の新解釈には、強い疑問を禁じえません(実務上は株券を不発行にし
てしまえばよいので、大きな問題になっていません)。

 なお、会社法や官報公告は、株券の「提出」なのに、登記の通達などでは、伝統
的に、株券「提供」公告などと表現しています。これも改まるべきだと思うのです
が、民事「局長」発の通達なので、誰も言い出せないのかも。

(ご参考)
 土日にでもご覧ください。日本の司法の前近代性の話題の1つです。

  http://nobuyoyagi.blog16.fc2.com/blog-entry-694.html



2013.08.01(木)【買い物袋と段ボール】(島根・根来川弘充)

 先日、清掃会社の方とお話をする機会がありました。

 昨今スーパーでは、買い物袋が有料のところが多いのですが、買い物袋をもって
こられなかった方の中には、スーパーにある廃棄用の段ボール箱で持ち帰る方もい
るそうです。

 私が住む地域の場合、もともと廃棄用段ボールは、業者が廃棄料を負担するそう
で、業者としては負担が減って良かったことになります。

 しかし、その一方では、それらが家庭ゴミとなって出たときは、行政が負担する
(税金で負担する)ことになるのだそうです。

 業者にとっては、とてもありがたい話なのでしょうが、当初の目的である環境保
全やコスト削減につながっているかは、大変疑問に感じました。

 また、その方のお話では、昨今は、インターネットによる通信販売が多いためか、
段ボールの量は、ますます増えているとも言われました。

 私としても、どちらも身に覚えのあることが多くあり、申し訳ないと思うばかり
です。

 「段ボール問題」などと、マスコミで取り上げられる日は、そんなに遠くないか
もしれません。


2013.07.31(水)【組織内司法書士】(金子登志雄)

 直近の月刊「登記情報」(金融財政事情研究会)最終頁の「実務の現場から」で、
ある上場会社の総務業務に関与している早川司法書士が「組織内司法書士」の協会
を作ろうと呼びかけていました。

 弁護士には、すでに「日本組織内弁護士協会(JILA)」というものがありま
すから、その司法書士版でしょうか。

          http://jila.jp/

 企業内司法書士といわずに組織内司法書士というのは、期限付き公務員として行
政庁に勤務している人も含むからです。2010年の経営法友会の調査だと上場企
業等の約1000社で、54名もいるとのことです。もっと広げて、法律事務所勤
務の司法書士や資格予備校の専任講師などを含めれば、簡単に3桁の数になること
でしょう。もっとも、弁護士と違い、大半が未登録のようです。
 
 司法書士が勤務してはいけないとされているのは、法律で「司法書士は、事務所
を設けなければならない」とか、「引き続き2年以上業務を行わないと登録を取り
消す」などとあり、独立業を前提としているせいかと思いますが、実際には法律の
規制というより司法書士会の入会審査の「運用」によるところが多いのではないで
しょうか。

 確かに、不動産会社やサラ金会社に勤務し、その会社の業務を独占して受託され
ても困りますし、特定企業との癒着の可能性もあるので、司法書士会の現状の運用
については理解することもできますが、実情は法律知識を活かして組織の業務に関
与しているだけで、司法書士業務を行っているわけではありません。

 また、今後ますます雇用形態は多様化しそうですから、「勤務=正社員」とみる
ことも困難になるでしょう。弊害は懲戒処分等の事後規制にし、事前に入会を拒否
するのは行き過ぎです。

 多数の税理士や公認会計士が一般企業に勤務している実情をみると、法律資格の
組織は時代遅れの厳しい運用が多すぎるように感じます。公益に従事する資格だと
いう自負(営利企業に関与するのは悪だという潜在意識)が逆に一般社会の感覚と
ずれてしまっているという現実もあります。

 組織内司法書士が全員入会し、司法書士として会費を納めてくれれば、われわれ
の会費(東京の場合は月1万7000円強)も少しは下がるだろうという身勝手な
思惑を込めて、「組織内司法書士協会」の設立とご活躍に期待します。


2013.07.30(火)【株式の誕生と死亡時期】(金子登志雄)

 選挙が終わってから株価が急落しており、またもや日経平均が1万4000円を
割ってしまいました。安倍自民党には、運も味方しているのでしょうか。

 そんなニュースを横目で見ながら、昨日は、パソコンの前で、株式の誕生と死亡
について、考えてみました。

 会社法199条は、新株の発行と自己株式の処分を同一の規定に統合しています
が、これにつき私は、新株の発行を新株の売却と捉えれば、自己株式の処分と大差
ないと説明しています。しかし、新株の最初の株主に会社がなるわけではありませ
んから、これは比喩に過ぎません。

 「株式はいつ誕生するのか」といえば、募集株式の場合は、払込期日か、出資し
た日でしょう(209条)。この日が株式の誕生日です。株券の発行は株式の発行
後遅滞なくすればよいので、株式の誕生日に影響しません。

 これに対して、株式の死亡日は、会社が存続していることを前提とすると、自己
株式として消却した時です(178条)。

 この消却の効力につき、株券を廃棄した時だという説がいまだに亡霊のように残
っていますが、株式の誕生のときは株券と無関係に誕生しながら、死亡のときは株
券の廃棄に影響されるとは、小学生さえ説得できない論理でしょう。

 株式を存続させたまま株券の廃止を決議することもできるのですから、株式と株
券を運命共同体のように考える必要はないというべきです。


2013.07.29(月)【都心開業司法書士】(金子登志雄)

 7月も終わりに近づき、関東地方では、お中元のピークも過ぎましたが、お世話
になっている皆様、いつものことながら全く何もせずに申し訳ありません。同時に、
送っていただいた方に、返礼もせず申し訳ありません。

 私には、そういう意味の社会性が欠如していることは十分に自覚しているのです
が、生来の無精者で、この重症の病気は生涯治らないとあきらめています。

 さて、偶然でしょうが、2人のお客様からそれぞれ別々に「不動産登記はしない
のか」と聞かれてしまいました。

 不動産登記を依頼したいのだが「しないのか」と聞かれたときは、「喜んでいた
します。ただし、仲間と一緒に動きます」と答えるようにしていますが、「なぜ、
会社法や商業登記の専門なのか」という意味の商売と無関係なご質問の場合には、
「開業直後はやる気はあったのですが、M&A手続のコンサルタントの経歴からし
て、来るのは会社関係ばかりで、全く不動産の仕事が来ないのです。登記法の改正
で権利証がなくなり、新しい勉強をするのが面倒だったので、それを機にやめまし
た」と答えています。

 これを不動産専門の人に置き換えますと、「商業登記もやる気はあったのですが、
全く仕事が来ないし、会社法に変わって、新しい勉強をするのが面倒だったので商
業登記はやめました」となるのでしょうか。

 都心でビルの1室で開業していますと、事務所の存在にも気づかれず、飛び込み
客は全くありませんので、どうしても、専門化してしまうようです。

 会社法が改正になれば、新しい勉強が必要になり、また商業登記から離れる人が
増えて行くことでしょう。しかし、都心で開業する限り、新しい勉強をするよりは、
自分の専門分野をさらに深めたほうがよいと私は考えていますが、こんなことをい
うと、ライバル(競業者)の減少を求めているように思われてしまいそうですから、
やめておきましょう。もう、熟年のため、ライバル(跡継ぎ)の出現は大歓迎です。


2013.07.26(金)【単元株数の限度】(金子登志雄)

 単元株式数の説明で、昔の単位株制度について説明しましたら、若い方にも興味
を持ってもらえたようです。

 単位株は平成13年9月までの制度でした。昭和56年改正商法で額面500円
が5万円になったので、つまり、5万円で1議決権になったので、額面500円会
社にも1単位100株(5万円分)と定めることを可能とし、1単位1議決権にし
たものです。歴史のある古い会社の額面50円会社では、1単位1000株(5万
円分)です。

 これが現在の1単元の株式数は1000株を限度とするとした規定(会社法施行
規則34条)の背景です。

 一方で、平成2年にできた最低資本金1000万円で額面5万円だとすると、株
数及び議決権は200株・200個になります。これが、現在の1単元の株式数は
発行済株式の総数の200分の1を限度とするという規定(会社法施行規則34条)
の背景です。

 つまり、1単元1万株や10万株では株主の権利を制限しすぎるし、発行済株式
の総数が1万株程度の会社で1単元1000株にしたら、議決権は10個になって
しまうので、これも株主の権利を制限しすぎるから、昔の最小資本金の会社でも発
行済みの200分の1が議決権1個だったのだから、議決権の制限の限度は、数に
して1000、率にして200分の1までにしようというのが会社法施行規則34
条です。

 発行済み10万なら、200分の1は500ですから、これが限度です。
 発行済み30万なら、200分の1は1500ですから、1000が限度です。
 
 200分の1が1000になるのは発行済株式の総数が20万株です。これに昔
の額面50円を乗ずると、昔の最低資本金の1000万円になります。

 昔を知っているということは強みです。老齢も悪くはありません。


2013.07.25(木)【法定拒否権の範囲】(金子登志雄)

 定款で定める拒否権条項付の種類株式は、「物事を勝手に決めるな。オレの意見
も聞け」という内容を持った種類株式ですが、会社法322条の「当方に損害が及
びそうな決定は、当方の了承がないと無効だ」と主張できる全ての種類株主に認め
られた権利は「法定の拒否権」といえないでしょうか。

 その損害が及びそうな事項、すなわち法定拒否権の対象は、会社法322条1項
に列挙されており、第1は、株式の内容に関係する定款変更と株数の限度枠の変更
(1号)です。勝手に他の種類株式に配当優先権を付けられたり、株数を増大でき
るようにされたら困るからです。

 第2は、株式併合や分割などという無償の行為(2号から5号)です。勝手に当
方が併合させられたり、他の種類株式で分割が行われたら、困ります。

 第3は、組織再編行為(6号から13号)です。合併等の対価の割当てで、種類
株式ごとに不平等の割当てがなされては困ります。

 この法定の拒否権は会社法322条1項「2号から13号及び単元株式数の変更」
の場合には、定款で放棄することができます(同条2項以下)。もちろん、当方全
員の同意があってのうえです。

 その定款の定め方として、2号の決定については拒否権を放棄するが、それ以外
の決定については不可と個別に定められるのかという議論があります。

 法務省見解は、条文に包括的に「前項の規定による種類株主総会の決議を要しな
い旨を定款で定めることができる」とあることなどを根拠に、個別事項ごとに定め
ることはできないとしています。

 この解釈の背景には、2号以下は例示列挙だから、投網を打って定めておかない
と、類似事例への応用が利かないということのようです。

 個別事情は定款で定める拒否権付種類株式の対象にすればよく、法定の権利は、
幅広く対象を捉えておかないと、さまざまな不都合が生じかねないということでし
ょうか。どこかに、例示の具体例があると、分かりやすいのですが………。

 今日は難しい話でしたので、何のことか分からなくてもお気になさらないよう、
お願いします。一言でいえば、322条1項2号以下は例示列挙か、限定列挙かの
論点に関する話題です。



2013.07.24(水)【資本金「等」】(金子登志雄)

 昨日、株式投資関係の方と話す機会があったので、選挙結果の市場の反応につき
聞いてみましたら「自民党が70を超えたら、サプライズだったが、65では予想
の範囲内だから、市場は反応しなかった。今後は、ねじれ解消で政権は言い訳がで
きなくなってしまった(野党のせいにできず全責任を負うことになった)。みせか
けの経済と相違し実体経済は決してよくなっていないので、今後は返って難しい政
局運営になるだろう。ここ1、2か月は市場も様子見だ」とのことでした。

 私も同意見です。従業員に過酷なブラック企業が増えているのは、実体経済がよ
くない証拠でしょう。最近は、夜遅くまで働かされる若い社員が多いようですが、
営業職など自分の裁量範囲が広ければ、結構、耐えられるようです。逃げ場のない
職場の人が鬱病になるのでしょう。

 さて、会社を設立すると、利益と無関係に法人住民税均等割りがかかります。東
京都の場合は、資本金1000万円以下は7万円、1000万円超は18万円です。

 http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kintou_zeiritu.pdf

 では、資本金800万円の会社が400万円を増資するとき、半分だけ資本金に
に組み入れ、増資後の資本金額を1000万円にしておけば、7万円の均等割りで
済むでしょうか。

 友人の税理士さんに電話確認し、自分でもネットで確認しましたら、そうは問屋
が下ろさないようです。次のとおり、基準は、資本金額ではなく、資本金「等」で
あって、資本準備金も計算に入ります。

 http://www.tax.metro.tokyo.jp/shitsumon/tozei/index_a1.htm#d02

 実務家なら、この程度のことを税理士さんに聞くのは恥ですね。つい忘れてしま
うので、備忘録として、ここに記録しておきましょう。


2013.07.23(火)【譲渡制限と取得制限】(金子登志雄)

 選挙結果を受けた株価は、歓迎して高値で始まったものの、すぐに下がり前日の
値まで割ってしまいましたが、後場は少し切り替えして、終値だけみると、ほとん
ど反応しないのも同様でした。

 結果を織り込み済みだったというよりも、一応の結果が出た後の先行き不透明感
から迷っている印象でした。私もブレーキ(野党)の壊れた暴走政治により、日本
の経済や社会、文化がどこに行くのか心配です。

 さて、旧商法時代は、株式の譲渡制限の定めで最も多い表現は「当会社の株式を
【譲渡するには】、取締役会の承認を受けなければならない」というものでしたが、
会社法施行以後は、譲渡制限株式の定義内容である「譲渡による当該株式の取得に
ついて当該株式会社の承認を要する旨」を受けて、「当会社の株式を【譲渡により
取得するには】、取締役会の承認を受けなければならない」に変わりました。

 では、「譲渡を制限」と「譲渡による取得の制限」と、どこが違うのでしょうか。

 これに関連して、皆様に質問ですが、「当会社の株式を東京都民以外に譲渡する
には取締役会の承認を受けなければならない」と定めた場合に、有効に登記するこ
とができるでしょうか。「当会社の株式を東京都民以外が譲渡するには取締役会の
承認を受けなければならない」の場合はいかがでしょうか。

 司法書士試験受験勉強中の方なら、すぐにお分かりだと思いますが、後者の場合
は株主平等に反しますが、前者は反しません。なぜなら、株式の取得者という、ま
だ株主になっていない者に対する不平等だからです。

 ぴんと来たでしょうか。株式の譲渡制限とは、譲渡先、すなわち株式の取得側を
制限するものであって、譲渡者側を制限するものではありません。総会屋や暴力団
など会社の好まない者が株主になるのを制限するものです。

 こうして会社法は【譲渡するには】ではなく、【譲渡により取得するには】と定
めたわけですが、「当会社の株式を【譲渡するには、譲渡先につき】取締役会の承
認を受けなければならない」としたほうが日本語らしかったと思うのですが。


2013.07.22(月)【国民代表と代表取締役】(金子登志雄)

 参院選挙は予想どおりの結果に終わりました。安倍政権の経済優先戦術と、大手
マスコミの作った空気の勝利でしょうか。

 これで、安倍総理の関心が経済から国防軍創設の憲法改正に向かわないことを祈
るのみです。どうせ憲法を改正するなら、ねじれが解消し、参院が衆院と同じ意見
なら二院制の意味がありませんから、参院の廃止でも優先的に検討してほしいもの
です。

 さて、国政選挙は「国民の代表」を選ぶ選挙ですが、この「代表」とは、どうい
う意味でしょうか。

 これは、委任による「代理」と相違し、どこの選挙区から選任されようが、その
選挙区の指示に拘束されることなく、全国民の代表として行動しなければならない
という意味です。

 代表取締役の「代表」も同じであり、支持母体の株主や取締役会の多数派の「代
理人」ではないという意味合いが込められています。

 しかし、現実の選挙は各種圧力団体の支援でなされますから、その「代理人」の
ごとく行動しないと、次の選挙が危ういでしょう。企業の代表取締役も同じですが、
大きな相違点は、企業は営利団体で株主はみな利益を求めて株主になっていること
でしょうか。利益を出さない「代表」は、存在意義がありません。

 選挙結果を受けて、今日の株価は、どう動くか注視してみようと思っています。
選挙結果を歓迎して上がる、選挙結果はとっくに織り込み済みで材料出尽くしで下
がる、安倍政権が当面の目標を達成し、経済に関心がなくなるので下がるなどと、
さまざまな意見が出ていますが、どういう結果になるやら………。


2013.07.19(金)【新株予約権の消滅】(金子登志雄)

 人が「誕生、生存、死亡」するように、会社も「設立、活動、消滅」し、権利も
「発生、行使、消滅」の過程を経ます。

 株式は企業所有権の変形ですから、容易に消滅せず、会社の清算結了と自己株式
の消却の場合にだけ消滅します。会社法276条1項に「株式会社は、自己株式を
消却することができる」とあり、「消滅」という用語は用いていませんが、株式の
消滅になり、発行済株式の総数が変化します。 

 債権の性質を有する新株予約権は、会社法287条1項で、自己新株予約権の消
却だけでなく「新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくな
ったときは、当該新株予約権は、消滅する」とされています。会社の行為によらな
い「消滅」になります。

 ここで考えてしまいました。人の死亡の場合は医者が判定し、会社の死亡は清算
結了の決議が必要なのに、「新株予約権者がその有する新株予約権を行使すること
ができなくなったとき」につき、誰がどうやって判定するのかと。

 実務上は会社からの登記の委任状に「平成〇年〇月〇日に新株予約権〇個が消滅
した」とあれば、それで登記を申請することができますが、どうもおかしな規定だ
なという印象から抜けきれません。消却の決議が不要で委任状だけでよいので、わ
れわれにとっては、便利この上ない規定でもありますが………。

 ところで、自己株式の消却についての会社法178条と自己新株予約権の消却に
関する会社法276条は、ほぼ同一の規定振りで、2項はいずれも「取締役会設置
会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければな
らない」であり、1字1句異なりません。

 非取締役会設置会社についての消却決定機関につき規定していない点も同じです。
にも拘わらず、江頭本第4版260頁に非取締役会設置会社の自己株式の消却は株
主総会で決定するとありますので、自己新株予約権の消却については、どういう見
解かと同書を開いてみましたが、何も書いてありませんでした。ここは、やはり株
式の場合を含め、取締役の過半数の一致でよいというべきでしょう。


2013.07.18(木)【募集という概念】(金子登志雄)

 参議院選挙の日が近づき各党は盛んに支持を募集していますが、勝敗がみえてい
るためか、盛り上がりに欠けているようです。

 重要な争点ともいうべき原発、尖閣、TPPなどは、どこに行ってしまったので
しょうか。忘れやすく空気に流されやすい日本国民に対して、大手マスコミが率先
して各党の政策の相違を示すべきなのに、大政翼賛会のような一色に染められた最
近の日本社会では、今後も今まで同様におかしな国・日本で終わってしまうのかと、
少々あきらめ気味です。

 さて、会社法には、「募集」という用語が頻繁に登場します。募集株式、募集新
株予約権、募集社債、募集設立が主だったところですが、募集とは何かにつき触れ
た文献はあるのでしょうか。少なくとも私は知りません。

 募集というのは、声をかけて人を集める行為(正確には引受けの申込みを勧誘す
る行為)です。その後、会社と外部の人との関係(申込み、割当て、引受け)が生
じます。株式でいえば、株式引受契約に発展します。契約の履行行為が会社に資金
等を投入することで(新株予約権は将来の投入)、その結果、外部の人は、株主、
新株予約権者、社債権者になります。

 一方で、募集によらないもの、例えば、株式や新株予約権の無償割当て、株式分
割などでは、この引受契約が存在しません。剰余金の配当と同じように、株主に対
価を要求せず、会社が一方的に無償で交付する単独行為です。

 こうしてみると、旧商法時代に、通常の新株の発行と特殊な新株の発行という区
別をしていたのと同じではないでしょうか。「通常の」が「募集」に変わっただけ
だと思います。


2013.07.17(水)【期首の株式分割】(金子登志雄)

 来年の4月からは、全ての上場会社は、証券取引所の要請で、取引単位を100
株か、1000株にしなければなりません。

http://www.tse.or.jp/listing/seibi/b7gje60000005zkl-att/20120119_a.pdf


 そこで、1株を100株に分割し、かつ1単元100株と定めることが多いので
すが、3月決算会社で株式分割の基準日を3月31日にし、効力発生日を4月1日
にした場合の定時株主総会の招集通知は、分割前を基準にするのか、総会時点であ
る分割後の株式数を基準にするのかという問題が生じます。

 例えば、期末の発行済株式の総数が1万株のとき、4月以降は100万株ですか
ら、6月初旬に発送する定時株主総会の招集通知につき、1万株で出すのか、
100万株で出すのかという複雑な問題が生じます。

 これを避けるには、中間期末の6月末日を基準日にして翌7月1日を効力発生日
にすればよいのですが、中には期末を基準日にした会社も少なくありません。

 株式分割は株式を細分化しただけだから、基準日後の株数である100万株を基
準にしてもよさそうに感じますが、結論からいいますと、分割前の1万株で総会招
集通知を出します。なぜなら、1株を100株に分割するということは、法律構成
上は、1株に対して99株の新株を交付するということですから、99株について
は、3月31日時点の株数にカウントされません。ちょうど、基準日以後に新株の
発行があったのと同じく、この99株には議決権も配当もありません。

 しかし、基準日現在で1株100円の配当だったら、「おれは総会時点で100
株の株主だから、配当は1万円か」と勘違いする株主もいそうですね。


2013.07.16(火)【うなぎ】(仙台・立花宏)

 土用の丑の日には少し早いのですが、先週の日曜日にうなぎを食べに行ってきま
した。正午前だったこともあり、そのうなぎ専門店の店内は、まだそれほど混雑し
ていませんでした。

 注文したうなぎが出てくるのを待っていると、隣の席に1組の男女が案内されて
きました。どうやら母親とその息子のようです。

「母さん、このまえボーナスも出たし、一番いいのを注文するね。ごちそうするよ。」
「そう。今年、就職したばかりなのにボーナスもでたの。よかったねぇ。」
「じゃあ、うな重の松でいいよね。注文するよ。」
「ありがとう。でも、私はうな丼でいいわ。うなぎは好物だけど……。歳をとった
のかしら。うなぎのようにこってりしたものは、それほど量が食べられなくなった
の。」
母親はやさしい笑顔で、息子に言いました。

「母さん、遠慮しなくていいんだよ。今日は親孝行させてよ。」
「遠慮してるわけじゃないわ。本当にうな丼で十分なの。」
「でも、せっかく………。」
息子は言葉を続けようとしましたが、どうやら母親を説得するための言葉が見つか
らないようです。

「じゃあ、そのかわり、お父さんのために持ち帰りのうなぎ弁当を注文してもいい
かしら」と母親が言うと、しょんぼりしかけていた息子にやさしい笑顔が戻りまし
た。

「そうだね。お父さんにも持って帰ろう。僕たちだけで食べたら、お父さんに悪い
よね。」

 そんなやりとりの後、うな丼2つと持ち帰り用のうなぎ弁当を注文すると、息子
は席を立ちました。どうやらお手洗いのようです。

 そこに店員さんがやってきました。
「お茶のおかわりはいかがですか。」
そういって、母子のテーブルの湯飲みにお茶を注ぎました。

「ありがとうございます。」
「優しい息子さんですね。お父さんの分のお土産まで注文するなんて。」
「就職したばかりで本当にボーナスなんて出たのかどうか。でも、ありがたいこと
ですよね。」
「本当に、最近では珍しいくらい、いい息子さんですね。」

 そんなやりとりをしていると、息子が席に戻ってきました。店員さんは、うなぎ
が焼きあがるまでもう少し時間がかかる旨を告げ、厨房の方へと戻っていきました。

「本当にありがとうね。お父さんの分まで。きっと喜んでくれるわ。」
「うん、お父さん、うなぎが大好物だったからね。」
「そうね。お仏壇にうなぎは反則かもしれないけれどね。」

 “そうか。父親は亡くなっているんだ”と思いました。と同時に、私は二十数年
前に他界した自分の父親のことを思い出しました。親孝行といえるようなことはな
にもできなかったと思います。

 私は店員さんを呼びました。そして、伝えました。
「持ち帰り用のうなぎ弁当をひとつ、追加で注文したいのですが。」


2013.07.12(金)【司法書士試験その3】(金子登志雄)

 試験内容とは無関係ですが、試験問題の中の定款には「補欠又は増員により選任
された取締役の任期は、その選任時に在任する取締役の任期の満了すべき時までと
する」とありました。6月18日付本欄でご紹介したトヨタ自動車の定款も「増員
または補欠のため選任された取締役の任期は、他の現任者の残任期間とする」で、
ほぼ同じ内容です。

 この内容だと、取締役ABC全員が辞任して、補欠としてDEFを選任した場合
に、在任取締役(他の現任者)が不在になってしまうという問題が生じます。つま
り、補欠として選任したのに前任者の任期を引き継げません。

 補欠に対応する用語は前任者で、増員に対応する用語が他の在任者ですから、通
常は「補欠又は増員により選任された取締役の任期は、【前任者又は】他の在任取
締役の任期の満了すべき時までとする」といたしますが、【 】部分を抜いた理由
は不明です。試験内容と無関係ですから、検討もしなかったのでしょうけど。

 では、取締役ABCのうちCが辞任したので、補欠としてDを選任した場合のD
の任期はどうなるかというと、上記の内容によれば、他の在任者ABの任期の満了
すべき時までになります。

 しかし、そうであれば、Dを増員として選任すればよく、補欠について定款に定
める意味もありません。補欠の場合は、「補欠だよ」といって選任する必要があり
ますが、増員の場合は「増員だよ」という必要もありません。

 補欠規定を置く意味は、前任者の任期を引き継がせるためですから、トヨタ自動
車を含め、私は上記の定款内容に批判的です。

 1人監査役の場合と相違し、現実には取締役が全員交代して、後任を補欠として
定めるようなことは、まずありませんので、以上はどうでもよいことですが、本欄
閲覧の受験生の皆さんに、こういう「こだわり」が会社法の理解に必要だと知って
ほしいと思い取り上げてみました。

 もっとも、そういうこだわりを持つと、早期合格は無理だと山本先生にいわれて
しまいそうですね。いずれにしろ、大量の定款をみ、大量の問題を解いていくうち
に、こういう些細な相違点にも気づくようになりますので、頑張ってください。

 来週からは平常の内容に戻します。


2013.07.11(木)【司法書士試験その2】(金子登志雄)

 山本ブログ効果、恐るべし。本欄の閲覧件数がここ数日、急増しています。とな
ると、もう少し試験の話題に触れましょう。といっても、不動産登記を忘れて、裏
のお山に捨てられそうなカナリヤ司法書士の私は、商業登記しか語れませんし、記
述式しかみていませんが………。

 受験生の皆さま、改めて、ようこそ。先日は、当初はやさしい問題だと思ったな
どと失礼なことを書いてしまいました。その理由は、私がこういう問題に慣れてい
るから、やさしく感じただけだと後で気づきました。

 受験生の皆さまからは、何だ、単に株主と役員を全員入れ替えるだけだったら、
株式を無償で譲渡させ、かつ役員を辞任させればよく、減資も株式の消却も不要じ
ゃないかと今になって思いませんか。

 理屈の上ではそのとおりなんですが、旧株主に責任を取らせ、けじめをつけさせ
るために、無駄なこととは知りながら、減資や株式の消却をするわけです。そのた
めには、会社法447条3項の株主総会決議の省略方法を使わせず、株主の意思に
よる減資の決議を求めることが少なくありません。

 役員については全員から辞任届をもらうのがけじめをつけさせる通常の方法です
が、これでは試験の論点にならないので、定款で任期を短縮させて退任させたり、
成年後見で資格喪失をさせたのでしょう。試験委員の苦労を感じました。

 その他、取締役会設置会社にするなど、なかなか工夫した様子がみられ良問だな
と思いましたが、営業所の移転など、つまらない論点追加があったのはいただけま
せんでした。

 ところで、取締役会「設置」会社になったので、年月日「設置」とした人はいま
せんか。定款で定めたのだから、「設定」となります。「設置」を使うのは、株主
名簿代理人と支店だけだと覚えておくとよいでしょう。この頁の上で宣伝中の『ず
ばり解説!株式と機関』には、そういうどこの本にも書いてないことが書いてあり
ますので、よろしかったらどうぞ。


2013.07.10(水)【登記記録例の効力】(金子登志雄)

 解散の登記を申請いたしました。

 「平成25年6月30日株主総会決議により解散」で申請しましたら、登記所よ
り電話があり、登記記録例では「株主総会【の】決議により」だから「の」を挿入
してよいかと聞かれましたので、「何の問題もありません」とお答えしました。

 ふと、興味を持って、ここ2年の間にした解散登記を確認しましたら、私の申請
どおりに受け付けてくれた登記官、「の」を挿入して登記した登記官の2種類があ
りました。

 合併解散でも登記記録例は「合併し解散」ですが、私はこれまでに何度か「合併
し【て】解散」で申請していました。ほとんどがそのまま受け付けられていました
が、ある登記所に「合併し、解散」と直されて以来(これは松井信憲著『商業登記
ハンドブック』第2版546頁の影響と思われます)、「合併し解散」にしていま
すが、登記事務官には、登記記録例は「例の1つ」と割り切り、ご自分で判断し、
これで問題なしと受け付ける方と、登記記録例を順守すべき先例と受け止め、先例
どおりの記載にこだわる2種類のタイプの方がいるようです。

 ところで、皆さん、平成25年6月20日の株主総会で、「平成25年6月30
日をもって解散」と決議した場合は、「平成25年6月20日株主総会の決議によ
り解散」という申請で、よろしいでしょうか。

 答えは不可です。この年月日は株主総会の日ではなく解散の日ですから「平成2
5年6月30日株主総会の決議により解散」になります。紛らわしいので「株主総
会の決議により平成25年6月30日解散」で申請してみたいのですが、これはほ
ぼ確実に直されてしまうでしょう。

(ご参考)
 組織の指示で動いて逮捕された前田元検事の告白のようです。少し反抗的な前田
氏と、忠実な田代元検事の対照に考えさせられてしまいます。

 http://bylines.news.yahoo.co.jp/maedatsunehiko/20130707-00026133/



2013.07.09(火)【7日は司法書士試験】(金子登志雄)

 昨日の閲覧件数はいつもの1.5倍でした。どうも、会友の山本先生がブログに
書いてくださったからのようです(発見者は富田先生)。

  http://plaza.rakuten.co.jp/yamamotokoji/

 山本先生のブログにもありますが、7日は司法書士試験の日だったようです。そ
こで、昨夜は商業登記の記述式試験問題だけみてみました。

 はじめは随分とやさしい問題だなぁと思いましたが、後ろの方に「取締役は後見
開始の審判を受けた。支店が移転された」などと、論点の無理やりの追加があり、
登記の事由が大量になることが分かりました。これでは、制限時間内に書ききれな
い可能性があり、かつ論点漏れをしてしまいかねないという意味で難問だと思いま
した。

 試験問題では、非取締役会設置会社の取締役ABCのうちACだけの決定で自己
株式の消却を決定していました。これ、会社法の大家である江頭本第4版260頁
では、株主総会決議が必要だとされています。江頭先生が受験したら、きっと不合
格間違いないでしょう。

 さて、山本ブログ閲覧の受験生の皆さま、今回の試験に関係する本徒然は以下の
とおりです(2013年以外は、この頁の一番下の「過去徒然」にあります)。

 2013.02.13(水)【互選の意味】
 2012.11.02(金)【減資増資と増資減資】
 2012.07.18(水)【取締役の一致】
 2012.01.27(金)【2種類の取締役】
 2011.02.04(金)【無理心中株式】
 2010.08.20(金)【取締役会の決議によらなければならない】
 2009.12.18(金)【減資と同時増資】
 2008.02.25(月)【100%減資】

 役員の任期問題については、私の講義用レジュメの下記をどうぞ。

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(登記簿)

      取締役 A   平成21年6月28日重任

      取締役 B   平成24年6月27日就任

      取締役 C   平成25年4月 1日就任

    代表取締役 C   平成25年4月 1日就任

      監査役 D   平成24年6月27日就任



(定款)

第25条 取締役及び監査役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち

   最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

  ② 任期満了前に退任した取締役の補欠として、又は増員により選任された取

   締役の任期は、前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。

  ③ 任期満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期は、前

   任者の任期の残存期間と同一とする。



【問題】

   上記の取締役会設置会社が平成25年6月の定時総会で、定款第25条1項の

  「10年」を「2年」に短縮し、かつ会計限定の監査役から会計限定を削除す

  ることにしました。役員変更登記の必要な範囲は?

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2013.07.08(月)【公開会社】(金子登志雄)

 6月の定時株主総会の登記も、7月1日付組織再編の登記もほぼ完了し、これか
ら日々退屈な日が続くなと思っておりましたら、某所より会社法の入門的な解説の
連載を頼まれ、少々退屈から解放されました。私にとって、登記の仕事も会社法の
原稿も大好きな趣味の延長のようなものですから、苦痛ではありません。

 会社法の入門書については、過去何度か挑戦してみましたが、書いているうちに、
持ち前の性癖から論じてしまい、入門書の域を超えてしまい、挫折を繰り返してい
ました。私の興味は論点に関して自説を主張することだからです。

 ところが今回の依頼は、テーマごとに説明すれば足りるので、これなら続けられ
そうです。本欄を4年間も続けてきたのと同じような作業だからです。

 昨日は「公開会社」につき原稿を書きました。会社法2条の定義によると、公開
会社とは「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取
得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」です。

 会社法案発表直後は、この意味を勘違いし、一部でも譲渡制限株式を発行する会
社は公開会社ではないなどと主張なさる方が専門家の中にも少なくありませんでし
た。確かに、分かりにくい定義です。

 きっと、この定義を「一部にも譲渡制限を定めていないこと」と読み取ったので
しょうが、「株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認
を要する旨の定款の定めを設けていない」の部分を「公開株式(非譲渡制限株式)
であること」と読めば、「全部が公開株式であること、又は一部が公開株式である
こと」が公開会社の条件となり、一部が譲渡制限株式であることは公開会社だと分
かります。

 今では誰も疑問に思わなくなりましたが、「慣れ」とは恐ろしいものですね。経
験やベテランであることは、武器になります。



2013.07.05(金)【即時就任時期】(金子登志雄)

 6月の定時株主総会の終結時に現任取締役ABC3名全員が任期満了退任するの
で、「取締役5名選任の件」という議題で、議事録には「現任取締役全員(3名)
が本総会終結と同時に任期満了退任するため、また、経営体制強化のため、取締役
2名を増員することとし、ABCDE5名の選任をはかったところ、満場一致によ
り選任された。なお、被選任者は席上即時就任を承諾した」とありました(念のた
め、仮定の話です)。

 株主総会議事録には、出席取締役名を列挙しなければなりませんから(会社法施
行規則72条4項)、「出席取締役ABC」といたしました。

 ここで、「増員取締役DEも即時就任したのなら、総会中に取締役になったのだ
から、出席取締役として記載すべきだ」という登記事務官がいたとか。後記する松
井見解の誤解による影響でしょうか。

 皆さんどう思います?

 議事録に「ABCの【後任して】ABCDE」とあれば誤解を招かないでしょう
が、仮に「後任として」という記載がなくても、この場合は、本来の増員(任期中
の取締役に新取締役を追加)ではないでしょう。ABCが定時総会「終結」と同時
に任期満了するため、DEの選任・就任の効力も、総会終結時であって、「即時」
就任の用語に惑わされるべきではないからです。定款に「増員取締役の任期は他の
在任者の任期の残存期間とする」とあれば、本総会終結時に任期満了退任してしま
うという不都合も生じます。

 では、ABCは翌年の定時総会終結時まで任期があって、今回の定時総会でDE
を選任した場合はどうでしょうか。

 この場合も会社の選任意思としては、総会終結後に取締役としてスタートすると
いうもので、総会中に取締役になったと考えるべきではないと私は思っています。
総会中に取締役になったのなら、議事録に「出席役員」として書く前に、総会議場
の役員席に坐るべきですが、そうしないところをみると、取締役としてのスタート
時点は、やはり総会終結後というべきでしょう。そう解釈しないと、新取締役は株
主総会の議案につき説明義務が生じてしまいかねません(314条)。株主は新取
締役に会社のことをいろいろ質問してもよいのでしょうか。

 登記実務上は、「総会の席上において新任の役員等が就任承諾をして即時就任の
効果が生ずる場合(金子注:既存取締役のCが席上辞任し、新たにDが席上就任承
諾した場合など)において、議事録をもって就任承諾書に援用するときは、当該議
事録の『出席した役員』に後任者の氏名も記載することとなるので、注意が必要で
ある」とされています(松井信憲著『商業登記ハンドブック』第2版148頁)。

 もっとも、この松井見解には「即時就任の効果が生ずる場合」とありますから納
得することができますが、現実には「即時就任」とあっても、総会終結後から取締
役になることを即時に承諾した場合のほうが多いのではないでしょうか。いずれに
しろ、こういう問題が生じますので、株主総会中の就任か、総会終結後からの就任
か、はっきりさせる株主総会の運営が望まれます。


2013.07.04(木)【知識よりの信念……(恥)】(富田太郎)

 「知識こそ力なり」

 日頃、この言葉を座右の銘としている私ですが、なにか議論・論争があった場合、
勝つのは「知識」よりも「信念」ではないかと思っています。なまじ、知識に頼る
と、相手の主張に対して「もしかして、自分の知らない文献・資料に基づいている
のでは???」と自説に疑問を抱くようになることもあります。

 さて、今は昔、私が司法書士(勤務司法書士)になって3日目のこと。お客と一
緒に会社設立(B株式会社の設立。発起人はA株式会社)の定款認証のために公証
人役場へ行きました。

 B株式会社(設立会社) ←出資 A株式会社(発起人)

 発起人はA㈱であるため、新規設立会社B㈱の目的にA㈱の目的を入れなくては
ならないのですが、新人司法書士の私は、全く知らず、設立会社の目的にA㈱の目
的など全く入れていませんでした。

 公証人に駄目だといわれても、自分の方が正しいと思い込んでいたので、
 私「商法のどこにそんなこと書いている(怒)!!」とまくしたて、その勢いに
諦めたのか、公証人の先生は、黙って定款認証をされました。

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 お客曰く「あの公証人、何も知らない方でしたね・・・。さすが!富田先生は、
実務をよく御存じですね♪」

 私 「いえ、プロとして、当然のことですよ(きっぱり)!」
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 今となっては「赤面の至り」ですが、私の間違いは、さておき(おいておくなよ!)、
自分に正しいという信念があれば、何事も乗り切れるのではないでしょうか。ちょ
っと、強引な結論ですが・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 「活動的な無知(馬鹿な人間)より恐ろしいものはない。」(By ゲーテ)
ですね・・・・・・(反省)。



2013.07.03(水)【行為無価値と結果無価値】(金子登志雄)

 昨日の根来川さんの「『何が悪いのか』そして『罰は相当なものであるのか』を
考えるという点は、刑法に通じるものがある」という文章で、刑法学説の行為無価
値論と結果無価値論を思い出しました。

 ずいぶんと難しい用語を使うものですが、簡単にいえば、「悪い(犯罪)」とは
その人の心と行いが道徳・倫理違反だからであり、刑法は最低限度守らねばならな
い道徳を規定したものだと主張するのが行為無価値論で、法は道徳とは違い、法益
(人の生命・肉体・財産など)を侵害するのが「悪い」ということだと主張するの
が結果無価値論です。

 前者であっても、異性をみてよこしまな欲望を抱いたり、丑の刻参りをする程度
のことまでは犯罪扱いしませんが、主として、行動に出た道義違反の処罰を刑法の
理念とする考え方です。

 通説はもちろん結果無価値論(法益侵害説)ですが、昔でいえば、団藤教授(の
ちの最高裁判事)、大塚、福田などという学者の本(受験用の教科書)は、ほとん
どが前者だったため、私は馴染めず刑法は不得手でした。

 馴染めなかった理由は、微妙な問題になると、道徳の違反程度と法益侵害の程度
の全体を客観的に観察して社会通念で違法性(行為の無価値程度)を判断するなど
と、わけのわからないことを言い出すからです。結果無価値論からすれば、法益侵
害程度が少ないので、処罰に該当せずなどと、数学の計算のように結果を出せるこ
とも行為無価値論になると、「心の悪性」にまで入り込んで全体的に判断するので、
判断者の主観次第ということになりそうです。

 その後、刑事訴訟法学者である東大の平野龍一教授が刑法総論という本を出し、
国家は道徳を教えるところではない、結果無価値論こそ憲法の定める人権重視の考
え方だと主張したので、やっと私に合う本が出たと喜んだものでした。それからは、
刑法も得意科目になったことはいうまでもありません。

 世界をみると、宗教国家や北朝鮮あたりは、宗教や将軍様に反感を抱いただけで
目をつけられて処罰されてしまうようですが、日本でも、国(為政者)の方針に逆
らう人や目障りな人は、検察とマスコミのキャンペーンで、上手な方法で悪人のレ
ッテルを貼られて抹殺されていますから、現実社会は、どこの世界でも、国からみ
ての行為無価値論が支配しているのかもしれませんね。怖いものです。


2013.07.02(火)【体罰問題について】(島根・根来川弘充)

 つい先日、学校教育における体罰について考える機会がありました。その折、学
校教育法により、体罰(許されない行為)と懲戒(許される行為)とが使い分けら
れていることを知りました。

 どちらの行為も、児童・生徒が悪い事をした場合になされるということは共通な
のですが、よく考えてみると、「『何が悪いのか』そして『罰は相当なものである
のか』を考える」という点は、刑法に通じるものがあると思いました。

 刑法での議論においても、大変分かりにくいところがあるのですから、教育現場
で、すぐに判断を求められる先生にとっては、とても判断に困る問題だろうと思い
ました。

 もし、私が先生の立場でしたら、何かあってもいけないですから、「懲戒すら一
切しない」と考えるでしょう。

 そして、皆がそう考えれば、懲戒すら無くなっていくことになるのですから、こ
れは、とても歓迎されることだろうと思うかもしれません。事実、先生の中にはそ
のような対応をしておられる方もおられると聞きました。

 しかし、一般社会では、法に触れる悪い事をすれば、罰せられます。学校教育は、
一社会人を育てるために必要であるというならば、「悪い事をすれば制裁を受ける」
ということを知っておくことは、それはそれで、大事なことではないかとも思いま
す。

 私は、もちろん体罰は反対です。でも、その一方で、学校教育の現場と一般社会
が離れていくのではないかと、不安を感じてしまいます。



2013.07.01(月)【電子公告調査期間】(金子登志雄)

 6月も過ぎ、各社とも無事に定時株主総会を乗り切ったようです。紛糾したら継
続会にして何時間でも徹底的に議論すればよいと思う人もおられるでしょうが、そ
れは法律の形式論理であって現実論ではありません。決議通知や配当金領収証(郵
便局や銀行で配当金を受領できる証書)が定時株主総会の翌日に発送するように印
刷済みですから、今さら刷り直しは困難ですし、発送を担当する証券代行等にも迷
惑をかけてしまいます。

 さて、昨日の6月30日は日曜日でしたが、同日を基準日とした場合に、2週間
前の基準日公告(124条3項)は、いつまでに掲載しなければならないでしょう
か。また、その場合の電子公告調査期間はいつからいつまででしょうか。

 基準日は日曜日でもかまいませんし、2週間前とは「中14日」空けることです
から6月15日が正解です。

 しかし、電子公告の調査期間としては、16日からでよいようです。下記を開い
て「光通信」で検索してみてください。剰余金の配当の基準日が公告されています
が、会社のホームページには14日に掲載済みでありながら、調査期間は16日か
らとなっています(ケネディクスやノバレーゼも同様です)。

 http://e-koukoku.moj.go.jp/

 であれば、2週間の公告期間の終期は6月29日ではないかと考えてしまいます
が、会社法940条1項1号によって、基準日の6月30日が終期です。

 光通信の文章に「剰余金の配当の支払いを受ける」とあり、「剰余金を配当され
る」ではありません。会社法が105条などで「剰余金の配当を受ける権利」とし
ているせいでしょう。



2013.06.28(金)【袋とじと原本還付】(金子登志雄)

 原本還付とは、議事録などの原本を提出する代わりに、写しを提出し、原本と同
一内容であることを登記所に示して、原本を返してもらうことですが、先日、東京
法務局の原本還付の窓口で並んでおりましたら、私の前の司法書士らしい方が袋と
じの議事録の裏表紙で押印だけの部分まで写しを提出しているのをみてしまいまし
た。いまだに、こんな無駄なことをする人がいるのですね。

 前に書いたかもしれませんが、私は先例に従い、登記と関係ない部分は写しを提
出いたしません。つまり、原本の謄本ではなく抄本を提出する省エネに徹しており、
袋とじの裏表紙など提出する意味のない部分などは商業登記の仕事に関与してから
20年近くで、たったの1回しか提出した経験がありません。

 この1回は忘れられない思い出です。10年以上も前のことでしたが、都内の某
法務局に袋とじの合併契約書のうち裏表紙を省略して原本還付をお願いしましたら、
窓口で裏表紙の写しが足りませんといわれてしまいました。

 「何年もこの仕事をしているが、そんなことをいわれたのは初めてです。東京法
務局の本局ではあり得ないことだ」と反論しましたら、窓口係さんは「いつも司法
書士の先生には、『ああそうでした。すいません』といってもらえるのに反論され
たのは初めてだ。裏表紙の写しを出さない限り受理することはできません」と強く
いわれてしまいました(素直な司法書士は他の司法書士の迷惑です!)。

 これでは押し問答だと思い、「上司に確認してくれ」といいましたら、窓口係さ
んは上司のところに行き、何かを話し、帰ってきて「上司も私と同意見でした」と
いうではありませんか。

 これ以上、議論しても仕方ないと思い、その場でコピーし提出したのが最初で最
後の経験だったというわけです。

 事務所に戻り、その窓口係さんに電話し、「提出不要だという先例をFAXしま
すから、FAX番号を教えてください」と申し上げましたら、「部外者にはFAX
番号を教えることができません」と返事をされてしまいました。

 あの窓口係さんは、いまどこの法務局にいるのでしょうか。なお、東京法務局は
じめ大手法務局は実に丁寧で親切です。こういう問題が生じても人手が多く、ベテ
ラン職員がいますから、すぐに「それは問題ないよ」と口添えしてくださいます。



2013.06.27(木)【総会議事録の記名と押印(金子登志雄)

 先日申請した役員変更登記の添付書面である定時株主総会議事録には議事録作成
者の氏名だけで押印がありませんでした。

 はじめての経験です。単に会社の担当者が押印を忘れただけでしょう。ただ、会
社法施行規則72条3項6号には「議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名」
とあるだけで、押印を要求していないため、登記では受け付けられます。

 では、定款で、株主総会議事録に出席取締役の署名又は記名押印を要求している
とき、上記のような議事録を作成して登記を申請することが許されるでしょうか
(定款違反になるでしょうか)。

 この点に関しては著作にも書きましたが、私は議事録は1つしかないという考え
方をしていません。定款のとおりの議事録は会社保存用の議事録に対する要求だと
考え、会社が認めれば、取締役Aが作成した議事録、Bが作成した議事録、Cが作
成した議事録があってもよいではないかと考えています。

 議事録というのは作成者の思想を表す文書ではなく、総会の日時、場所、議事の
経過の要領・結果、出席役員などを記録するものですから、極論すれば、誰が作成
してもよいはずです。会社法が作成者として取締役であることを要求しているのは、
責任をもった人の作成にし、記録の信憑性を担保しているだけでしょう。実際には、
事務局が記録作成し、担当役員が名義上の議事録作成者になるだけでしょうけど。

 登記の委任状に会社の実印を押し、添付書面をつけて申請し、添付書面が偽変造
であれば犯罪にもなるわけですから、押印の有無や定款どおりの議事録である必要
はないというべきではないでしょうか。


2013.06.26(水)【総会事項のインターネット開示】(金子登志雄)

 川崎重工が6月13日に長谷川社長らを解任し、本日(6月26日)開催の定時
株主総会における取締役候補からも除外したことは、報道等でご存知かと思います。

 http://www.khi.co.jp/ir/pdf/syousyu_fix_190.pdf

 これにつき、昨日、私の周囲で話題になり、ある人が「法的には何の問題もない」
といわれたので、調べてみました。私が問題にしたいのは、「第3号議案 取締役
13名選任の件」を「10名選任の件」にしたのは、議案の修正にならないかとい
うことと、小さな論点ですが、元の総会招集通知の発送者が解任された長谷川社長
になっていることでした。

 まず、インターネット開示には2種類があることを知ってください。株主総会参
考書類が膨大になることを避けるため、定款の定めにより、総会招集通知と同時に
会社のHPに注記表などを掲載し、参考書類への掲載を省略すること(会社法施行
規則94条ほか)と、参考書類に修正が生じた場合のHP開示です(同65条)。

 川崎重工の定款第16条は、次のような内容です。
---------------------------------------------------------------------------
(株主総会参考書類等のインターネット開示とみなし提供)
第16条 当会社は、株主総会の招集に際し、株主総会参考書類、事業報告、計算書
類及び連結計算書類に記載又は表示をすべき事項に係る情報を、法務省令に定める
ところに従いインターネットを利用する方法で開示することにより、株主に対して
提供したものとみなすことができる。
--------------------------------------------------------------------------

 川崎重工の総会招集通知2頁中段に「本招集ご通知に際して提供すべき書類のう
ち、連結計算書類の『連結注記表』及び計算書類の『個別注記表』につきましては、
法令及び定款第16条の定めに基づき、当社のホームページに………」とあるのが施
行規則94条の関係であり、2頁末尾に「添付書類及び株主総会参考書類に修正を
すべき事情が生じた場合は、インターネットの当社ウェブサイトにおいて、修正後
の事項を掲載させていただきます」とあるのが65条の関係です。

(招集通知)
 http://www.khi.co.jp/ir/pdf/syousyu_190.pdf

 さて、議案の修正の点につきましては、本件は13名を16名などにしたわけで
はなく、会社提案による議案の一部撤回ですから、株主総会の場でも可能だと考え
られますから、問題ないと私も考えます。

 次に、総会招集通知の発出時点では、長谷川氏が社長だったわけですから、この
点も問題外でしょう。

 結論として、「法的には問題ない」と私も思いました。今日の総会では問題にな
るでしょうか(解任後に株価が上がったので、株主は歓迎かも)。


2013.06.25(火)【株主総会委任状への押印】(金子登志雄)

 3月決算会社の定時総会のピークですが、株主の代理人が株主総会に出席する際
に株主からの委任状を持参していたとします。この委任状の押印は会社届出印でな
くてよいでしょうか。

 ほとんどの会社が定款あるいは株式取扱規則に「①当会社の株主………は、当会
社所定の書式により、その氏名又は名称及び住所並びに印鑑を当会社に届け出なけ
ればならない。届出事項等に変更を生じた場合も、同様とする。②当会社に提出す
る書類には、前項により届け出た印鑑を用いなければならない」と定めていますか
ら、この規定を根拠に「会社届出印でなければならない」との考え方もあるでしょ
う。

 しかし、議決権行使の委任状がこの規定の「当会社に提出する書類」として想定
されていたのか疑問ですし、この規定の適用があるとしても、会社の事務処理の便
宜のための規定ですから、会社が届出印である必要はないという場合にも、この規
定を遵守しなければならないと考える必要もないでしょう。

 上場会社の場合は、議決権行使書用紙や議決権の委任状用紙を会社が作成します
から、その用紙を持参さえすれば、議決権行使の権限があると推定し、押印の有無
を問わず、議決権行使を認めています。

 また、そうしないと数千人、数万人が一堂に集まる著名大企業では、円滑な総会
の運営が困難です。そのためか、会社法のもとでは、旧商法時代と相違し、議決権
行使書への押印も不要になりました(施行規則66条1項5号)。

 結局のところ、株主総会は与党株主による多数決で決まりますから、少々おかし
なものが混じっていても、大勢に影響はないという配慮でしょうか。


2013.06.24(月)【割り当てられる】(金子登志雄)

 例によって、また会社法用語に引っかかってしまいました。認め「られる」とい
う用語はありながら、「割り当てられる」という表現は皆無でした。「割当てを受
ける」と使います。

 会社法204条は「株式会社は、申込者の中から募集株式の【割当てを受ける】
者を定め、かつ、その者に【割り当てる】募集株式の数を定めなければならない」
であり、「募集株式を割り当てられる者を定め、かつ、その者が割り当てられる募
集株式の数を定めなければならない」ではありません。

 本欄を日常的に閲覧なさっている方はお分かりでしょうが、会社法では「募集株
式の割当て」を1単語と考えているのでしょう。株式「を」分割する、株式「を」
併合するではなく、「株式の分割(をする)」、「株式の併合(をする)」と同様
に「株式の~」を1単語として扱っているのと同様です。

 「定款の変更」も1語扱いのようですから、上場会社が「定款の変更をする」と
きの議題は「定款の一部変更の件」とする例があるかをネットで検索しましたとこ
ろ、「の」はなく「定款一部変更の件」がほとんどでした。

 株式の併合の議題については、多くが「株式併合の件」でしたが、「株式の併合
の件」もありました。


2013.06.21(金)【有限責任あずさ監査法人の抄本取得】(金子登志雄)

 定時株主総会のピークである6月下旬が近づきましたので、顧客先の会計監査人
である「有限責任あずさ監査法人」の抄本を取得しようとしましたら、えらい苦労
でした。

 まず、「登記情報提供サービス」で、「あずさ」で検索しましたら、お目当ての
法人が登場しません。確か、以前も同じ苦労をしたなと思い出し「有限責任あずさ」
で検索しましたら、見つかりました。新日本有限責任監査法人や有限責任監査法人
トーマツの場合は、「新日本」「トーマツ」でよいのですが、「あずさ」は、そう
はいきませんので、気をつけましょう。

 続いて、あずさの謄本は厚いので、会計監査人であることの証明としては監査法
人であることだけ分かればよいので、抄本を申請しようと、電子申請に使う「申請
用総合ソフト」で、「一部事項(抄本)」をチェックし、最低限の内容でよいので
「その他」を指定し、申請書を完了させようとしましたら、請求事項が未設定のた
め、完了できないという表示がでます。よく読むと、小さな文字で(登記事項の最
低限である)「商号区のみが必要な場合は、『その他』の横にある空白に商号区と
入れよ」とあります。

 そのとおりにしましたら、エラー表示が出ずにOKが出たため(申請書が完成し
たため)、さっそく管轄の新宿法務局に電子申請しましたら、即座に「中止/却下」
の通知が来ました。却下理由は「当該会社法人の証明書請求において、請求事項区
に指定できない事項が指定されています」というものでした。意味が分からず、こ
こがおかしいのかなと、いろいろ試してみましたが、また、「中止/却下」です。

 あきらめて、電子申請に詳しい松山聡司法書士に電話し、アドバイスを求めまし
たところ、「商号区」という表現が不可で、会社でない法人の場合は「名称区」に
してみたらどうかといわれ、試しましたら、成功しました。申請用総合ソフトの
「商号区のみが必要な場合は………」は、誤解を招く表現です。


2013.06.20(木)【先生】(仙台・立花宏)

 「立花さん」

 ある日、横断歩道を渡るために信号待ちをしていたときのことでした。聞き覚え
のある声で自分の名前を呼ぶ声がしたのです。声の主の方に振り返ると、かぶって
いた白い帽子をとり、女性がベビーカーを押しながら懐かしい笑顔で近づいてきま
した。
 
 「立花さんですよね。ご無沙汰していました」

 声の主は、以前、ある銀行の融資の窓口にいらっしゃった女性でした。当時、不
動産の決済などの仕事でよく顔を合わせていました。その女性はまだ若いにもかか
わらずテキパキと仕事をこなす、とても優秀な方でした。2~3年前から顔を見か
けなくなっていたので、別の支店に異動されたのだと思っていたのですが、どうや
らそうではなかったようです。

 久しぶりに再会できたことがうれしく、少しの間、そのままお話しをさせていた
だきました。当時の思い出話やその後のことなど、とても楽しい話が続きました。
もっと話を続けたかったのですが、残念ながら私は仕事に向かわなくてはならず、
心ならずも話の途中で失礼させていただきました。

 仕事に向かう途中、ずっとその女性との会話を思い出していました。というのは、
話をしていたとき、懐かしくは感じつつも以前と違うような感覚がありました。以
前より会話をしているときの雰囲気に親しみが感じられたのです。

 仕事をしているときとプライベートのときとの違いなのだろうか、とも考えまし
た。でも、なんとなくすっきりしませんでした。

 そんなことを考えているうちに、仕事先の会社に到着しました。担当者に挨拶す
ると、担当者は私を打ち合わせの場所である会議室へと誘導しました。

 「立花先生、こちらにどうぞ」

 そのとき、私は、先ほどの女性との会話で感じた違和感の理由がわかったような
気がしました。以前、その女性が銀行にお勤めだった頃、その女性は私のことをず
っと「立花先生」と呼んでいたのです。でも先ほど話をしたときは、私のことを
「立花さん」と呼んでくれました。私たち司法書士は職業柄、「先生」をつけて呼
ばれることが多いのですが、私はそのことにそれほど意味を感じていませんでした。
「先生」をつけて呼ばれるのも「さん」をつけて呼ばれるのも違いがないと思って
いたのです。

 でもやっぱり違うのでしょう。「先生」をつけて呼ばれるときも「さん」をつけ
て呼ばれるときも、仕事に対する意識を変えることはありません。でも「先生」と
呼ばれるとき、そう呼んでくださるお客様にとって、私は「立花さん」ではなく
「立花先生」なのだ。お客様が私に求めているのは「先生」としての役割なのだ。
そんなことを考えつつ、仕事先での打ち合わせに入ったのでした。


2013.06.19(水)【増員取締役の任期】(金子登志雄)

 次のような定款の定めがあったとします。

--------------------------------------------------------------------------
(取締役の任期)
第*条 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに
   関する定時株主総会の終結した時に満了する。
  2 増員により選任された取締役の任期は、他の在任者者の残任期間とする。
--------------------------------------------------------------------------

 さて、3月決算会社(取締役会設置会社)で6月が定時総会時期として、次のよ
うな事例のとき、補欠ではなく「増員」として選任されたDEFは、25年6月の
定時総会で任期が満了するでしょうか(定員割れでもDEFが増員であることは、
『ずばり解説!株式と機関』183頁参照)。

   23/6月    24/9   24/12   25/6
    A重任――――――――――――――辞任
    B重任―――――――辞任
    C就任―――――――辞任
             D就任―――――――――――――?
             E就任―――――――――――――?
                    F就任――――――?

 定款の2項により、当然に任期満了だと一般には考えられるでしょうが、増員時
の在任取締役Aは任期満了時には不在です。このような場合にも、不在の取締役と
同時に任期を満了させるのが定款を定めた趣旨といえるのでしょうか。

 結論としては、会社がどういう趣旨で、この定款規定を設けたかによりますが、
「他の在任者」とは任期満了時点でも在任していることを前提に、このような規定
を設けたつもりの会社も少なくないでしょう。

 そこで、どういう内容で定めれば、そういう会社の意向にそうことになるのかと
考えました結果、次のような定め方はいかがでしょうか。

--------------------------------------------------------------------------
(取締役の任期)
第*条 取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに
   関する定時株主総会の終結した時に満了する。
  2 前項により任期が満了する取締役が存在するときは、他の全取締役も同時
   に任期を満了する。
--------------------------------------------------------------------------

 なお、この問題は親愛なる仲間の司法書士M先生が考え付いた問いかけでした。
考えたこともない問題提起をいただき感謝です。


2013.06.18(火)【取締役の任期規定】(金子登志雄)

 トヨタ自動車の定款に次のような規定があります。

--------------------------------------------------------------------------
(取締役の任期)
第18条 取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに
   関する定時株主総会の終結したときに満了する。
  2 増員または補欠のため選任された取締役の任期は、他の現任者の残任期間
   とする。
--------------------------------------------------------------------------

 これをみた人から、任期が1年なら、第2項は無意味じゃないかと質問されまし
たが、皆様はどう思われますか。

 結論からいいますと、無意味ではありません。まず、第1項の解釈ですが、選任
後1年以内の対象は最終の事業年度(決算期)のことであり、定時株主総会のこと
ではありません。

 次に、トヨタ自動車は3月決算ですが、4月に増員取締役や補欠取締役が生じた
場合、第1項だけでは、その増員者・補欠者の任期は翌年の定時株主総会の終結の
時までになり、取締役全員が一斉に任期満了になりません。第2項があって、はじ
めて全員が一斉に任期満了になるわけです。

 パイオニアなどは第1項しかありませんから、取締役全員が一斉に任期満了にな
らないことがあります。企業防衛上は、このパイオニア方式のほうがよいでしょう。

 ところで、内容は結果的にトヨタ自動車と同じですが、第1項と第2項とを分け
ずに実に簡潔にまとめた上場会社がありました。新日鐵住金ですが次の内容です。
実にうまい方法ですね。他社のまねをせず、自社で文章を考える姿勢が素晴らしい
と思います。

--------------------------------------------------------------------------
第17条 取締役の任期は、選任後最初に開催される定時株主総会の終結の時までと
   する。
--------------------------------------------------------------------------

 なお、トヨタ自動車の定款の定め方では、法令が「終結した【時】」なのに「と
き」としていること、補欠取締役につき「前任者」ではなく「他の現任者」と任期
を一致させている点に、表現上の特異性がありますが、お気づきでしたか。


2013.06.17(月)【種類株式発行会社の定時総会】(金子登志雄)

 コンビニエンス司法書士を標榜しているためか、ここのところ土日にかかわらず
毎日のように定時株主総会に関する質問が寄せられています。「旬」ですね。 

 さて、土日は、種類株式発行会社である某社の定時株主総会議事録案を作ってい
ました。この会社では、任期満了による取締役の選任は種類株主総会の権限で、監
査役の選任や代表取締役の選定には拒否権条項があり………で、会社の方には議事
録案さえ作成困難だからです。

 種類株式の発行には何とか対応することできても、その後の運営は結構難しいも
ので、おかげさまで、金子事務所の存在価値を示すことができています。

 中小企業の場合は株主が少数のため、私は、株主総会と種類株主総会の共同開催
を提案し、議事録も「第〇回定時株主総会議事録及び各種の種類株主総会議事録」
として、まとめて作成するようにしています。

 上場会社の場合は、招集通知でいうと、次のような方式が通常です。

http://www.aozorabank.co.jp/ir/event/stockmtg/pdf/2013stockmtg.pdff

 上場会社の場合は普通株式以外には議決権がなく、定時株主総会での議決権者と
普通株主の種類株主総会でのそれは一致するため、共同開催が自然ですが、中小企
業での種類株式は議決権があることが多く、本来であれば別々に開催すべきなので
しょうが、全部含めても株主数が10名もいないのに、別々の開催は面倒だと思い、
共同開催にしているわけです。

 共同開催議事録で登記したことが何度かありますが、1度も議事録を分けよとい
われたこともないので、登記上も何の問題もないといってよいでしょう。


2013.06.14(金)【本店移転と支店設置】(金子登志雄)

 本店移転の登記に関与しました。仮定の話でいいますと、東京都千代田区の甲が
6月1日に本店と同じ住所と横浜市の2か所に支店を設置し、同日、横浜市に本店
移転します(移転先は支店所在場所とは別ですが法務局の管轄は同じ)。

 これにつき依頼者はとにかく急ぐから支店を設置してから本店を移転してくれと
のことでしたが、この方法だと、旧本店の謄本が支店登記用に作り替えられること、
せっかく作った横浜市の支店登記記録が本店移転とともに閉鎖されること(本店登
記簿に記載されているため)から(商業登記規則65条4項、5項)、私は、「急
ぐことだけのために、こんな登記をしたら、登記所にも余計な負担をかけるから、
本店を移転してから支店設置の登記を申請するよう提案し、飲んでもらいました。

 本店移転も支店設置も同じ6月1日ですから、この登記に納得していただけると
思いますが、では、本店移転日が6月3日だった場合に、金子方式は使えるでしょ
うか。

 つい時系列で登記を申請しなければならないと思い込んでしまいますが、この場
合には順序を問いません。先に横浜市に本店移転し、その本店登記簿に支店設置の
登記をすれば足ります。

 そして、本店移転の登記の完了を待たずに、横浜市の登記所に本店移転の資料が
到着したことを確認したら、すぐに支店設置の登記を申請すれば、顧客の「急げ」
の要求に応えることができます。


2013.06.13(木)【就任承諾の時期】(金子登志雄)

 定時株主総会では取締役の改選がなされる例が多く、登記の添付書面として就任
承諾書が利用されることが少なくありません。

 その際、司法書士に頼むと「本日開催の株主総会で取締役に選任されましたので、
その就任を承諾します」という内容で作られることが少なくありません。私も原則
として、そうしています。

 しかし、上場会社の場合は「きたる平成〇年〇月〇日開催予定の株主総会で取締
役に選任された場合は、その就任を承諾します」という事前の就任承諾書のほうが
適切です。

 こういう事前の就任承諾書でも登記上問題はないのかと思う方もいらっしゃるよ
うですが、こちらのほうが正式です。

 根拠は、会社法施行規則74条1項です。
--------------------------------------------------------------------------
第74条(取締役の選任に関する議案)
 取締役が取締役の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、
次に掲げる事項を記載しなければならない。
 1 候補者の氏名、生年月日及び略歴
 2 就任の承諾を得ていないときは、その旨
--------------------------------------------------------------------------

 つまり、事前に就任の承諾を得ているから、取締役候補者として総会招集が発せ
られているわけです。


2013.06.12(水)【剰余金配当の決定機関】(金子登志雄)

 甲と乙という2つの上場会社から定時株主総会の招集通知が私の自宅に来ました。
甲では、もう15年以上も株主です。証券会社に勧められて購入したのですが、長
い間株価が低迷したため、私の関心が薄れて、塩漬けを超えて放置状態になってい
る株式です(その間、投資額以上になったこともありましたが、ウオッチしていま
せんでした)。

 乙では、もう株主ではありません。3月31日の基準日に株主だったため、招集
通知が来たわけです。株主総会時点では株主でないのに、議決権もあり配当ももら
えるというのは、何となく後ろめたいものですが、そういう制度になっているので、
ありがたく配当だけいただくつもりです(総会に出ると、お土産がもらえるかも)。

 2つの招集通知を見比べますと、乙の第1号議案は「剰余金処分の件」であり、
定時株主総会で可決したら、配当をもらえることになっていますが、甲では議案に
剰余金配当の件がなく、決定済みの配当金計算書が入っていました。

 なぜ、こういう差があると思いますか。会社法459条が根拠です。甲は会計監
査人設置会社・監査役会設置会社で、取締役の任期が1年の会社であるため、定款
で剰余金の配当の決定機関は取締役会だと定めているわけです。

 剰余金の配当まで取締役会の権限にしてしまったら、定時株主総会の決議事項が
なくなるじゃないかと一瞬思ってしまいますが、毎年、取締役の改選が議題の1つ
になりますので、その心配は杞憂です。


2013.06.11(火)【自社株買い】(金子登志雄)

 昨日、「株主総会担当者にとっては、あと半月、市場の落ち着きを祈るような気
分でみていることでしょう」と書きましたら、さっそく、定時株主総会前に自社株
買いを決議した会社がありました。もちろん、十分に財源のある会社です。

 上場会社は定款に「当会社は、取締役会の決議によって市場取引等により、自己
の株式を取得することができる」と定めており、これで自社株買いを実行します。
会社法165条です。

 こう話すと、ほとんどの方が「安い時に買って高い時に売れば、会社も儲けられ
ますね」と反応しますが、これは無理です。

 第1に、市場で買えても市場での売却はできません。会社法案の際は、179条
で、これをできるようになっていましたが、国会審議の過程で野党の反対で同条は
削除されました。

 第2に、相場操縦の防止のため、毎月一定の時期に一定金額の範囲で定期的に買
うようになっており、安い時を選んで購入することはできません。

 購入した株式は自己株式となり、これを処分するには募集株式の発行と同じ手続
が必要になりますので、当面は、金庫に保管しておくしかないでしょう(金庫株)。
合併等の際や新株予約権の行使の際に代用新株として利用することは可能です。

 会社にとってメリットがあるかどうかは疑問ですが、流通株式が減れば、需要と
供給の関係で供給が少なくなるため、株価の面では、株主に歓迎され、株価アップ
につながります。


2013.06.10(月)【株主総会担当者の祈り】(金子登志雄)

 上場会社の定時株主総会が近づき、株主総会担当者は自社の株価を気にし始めま
した。自社の株価が急降下しているため、株主総会で「何とかせよ。IRをもっと
やれ。自社株買いは強化しないのか」などなどの質問(要望?)が増えることが明
らかだからです。

 株価に関心のない方には、ぴんと来ない話でしょうが、下記の日経平均(ダウ)
のチャート(株価の動きの地図)をみてください。

http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=998407.O&ct=z&t=3m&q=c&l=off&z=m&p=m65,m130&a=

 5月初旬までは、みなアベノミクス万歳であり、少なくとも7月の参議院選挙ま
では株価は下がらないと予想して動いていたのですが、その予想に反し、5月中旬
から急降下です。これで損をした人が多いため、八つ当たりとは知りつつも、株主
総会の折に、一言、いいたくなってしまうのも無理からぬことでしょう。

 これに対して「われわれ経営者は業績向上には責任がありますが、市場の動きに
は責任がありません」などと冷たく突っぱねるわけにも行かないため、「厳粛に受
け止め、全社一丸となって経営計画を遂行いたします」などと官僚答弁のように答
えることが多いといえます。

 それで納得しないと、「われわれは御社を応援するため株を購入して損をしてま
で苦労しているのに、持ち株ゼロの役員がいるのはどういうわけだ」と役員への個
人攻撃も予想されます。

 株主総会担当者にとっては、あと半月、市場の落ち着きを祈るような気分でみて
いることでしょう。

 (ご参考:田中良紹さんの意見) 
  http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakayoshitsugu/20130606-00025498/

2013.06.07(金)【端株原簿名義書換代理人の廃止】(金子登志雄)

 関与した会社の登記簿謄本をみましたら、端株原簿名義書換代理人の登記が未だ
に残っておりました。平成18年5月1日施行の会社法によって、端株制度が廃止
されたのにもかかわらずです。ですから、登記簿上も「株主名簿代理人」ではなく、
旧商法時代のまま「名義書換代理人」として登記されていました。

 しかし、登記の基本通達に、「端株の制度は、廃止され、単元未満株式の制度に
統合された。ただし,整備法の施行の際現に存する端株(端株原簿の名義書換代理
人の登記を含む。)については、なお従前の例によるとされた(整備法第86条第
1項)」とあり、その会社に端株が残存する限り、この登記も有効です。

 会社に確認しましたら、会社法の施行時にも端株はなかったとのことでしたので、
「平成18年5月1日廃止」で登記申請しましたら、補正になってしまいました。

 次のような質疑応答があるのをすっかり忘れており、探すこともできず、富田先
生から送ってもらいました。

---------------------------------------------------------------------------
Q (会社法)施行前に端株原簿名義書換代理人の登記をしている会社が現に端株
 を発行していない場合において、施行日後、端株制度が廃止されたことに伴い当
 該登記の廃止による変更の登記をするときに必要な添付書面は何か

A 会社法施行後の株主総会において端株原簿名義書換代理人の廃止の定款変更を
 し、その株主総会の議事録を添付すれば足りる。

コメント 端株原簿名義書換代理人は定款で定められている(旧商法220条ノ2
 第5項・206条第2項)。この定めは、現に端株が存する場合には有効である
 ことが整備法86条第1項の規定により明らかにされているところ、現に端株が
 存しない場合には同項の適用はないものの、当然に定款の定めが無効になるとの
 条文もない。したがって、現に端株が存在しているか否かにかかわらず、端株原
 簿名義書換代理人の登記の廃止による変更の登記の申請書には、端株原簿名義書
 換代理人に関する定款の定めの廃止を決議した株主総会の議事録の添付を要する。
--------------------------------------------------------------------------

 この結論には賛成ですが、コメントには異議があります。定款の定めは無効であ
ることは明らかです(いわゆる「空振り状態」)。「定款内容は無効だけれど、定
款の定めの廃止を受けて登記を受理することにしている」というべきでしょう。ち
ょうど、会社が解散したのに、定款を変更しない限り、株式譲渡制限規定の「取締
役会の承認を受けなければならない」を変更登記することができないのと同じでし
ょう。

 このように、「登記は定款の一部を公示するもの」という要素があり、法令に従
い無効だから廃止登記してよいとはいえない部分があります。額面株式のように登
記所が職権で廃止してしまうものもありますけど………。


2013.06.06(木)【公人の品位】(金子登志雄)

 昨日訪問した某地方法務局の窓口で「急ぎでお願いします」といいましたら、「
皆さん、急いでますから」といわれてしまいました。そのとおりでしょうが、「ご
希望は承りました。その旨、担当に伝えます。ご希望にそえればいいですね」程度
の愛想のある返事ができないのでしょうか。どうも、都内の法務局と相違し、地方
は接客(?)に慣れていないようです。

 さて、司法書士法第2条(職責)に「司法書士は、【常に品位を保持し】、業務
に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならな
い」とあります。

 弁護士法第2条(弁護士の職責の根本基準)にも「弁護士は、常に、深い教養の
保持と【高い品性の陶やに努め】、法令及び法律事務に精通しなければならない」
とあります。

 われわれ専門職には「品位」や「品性」を要求しながら、政治家や官僚様の品位
はどうなっているのでしょうか。橋下大阪市長の従軍慰安婦問題の暴言や猪瀬都知
事のイスラム国蔑視発言が世界中で日本人の品性の問題とされているときに、先ご
ろは、上田という人権大使が何と国連の委員会か何かで、檀上で各国の代表に向か
って「黙れ!」と大暴言を吐いたようです。

 アフリカの国の代表から「被疑者の取調べに弁護人の立会いもない日本の刑事司
法は中世並だ」といわれて腹が立ったようですが、「シャラップ!」はないでしょ
う。アメリカやヨーロッパの代表から同じことをいわれても。「シャラップ!」と
いえるのでしょうか。

 http://koike-sinichiro.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-99bb.html

 日本の刑事司法が密室における自白偏重で、遠山の金さんや大岡越前の時代と大
差ないことは、ちょっと法律をかじった人の常識ですが、その中世ですら、武士に
は武士の矜持(きょうじ、「きんじ」は慣用読み)があり、人前で感情をあらわに
することを恥じる文化がありました。

 一介の私人に過ぎない私ですら、みっともないことをすると、顧客や司法書士界、
会社、家族に迷惑をかけるという自制があるのに、国の代表の大使や政党や地方公
共団体の代表がどなったり、ツイッターで人の攻撃ばかりしているのは、いかがな
ものでしょうか。もっとも、それを選んだのは、われわれ国民ですが………。


2013.06.05(水)【過ギニシ薔薇ハ タダ名前ノミ、虚シキソノ名ガ今ニ残レリ】
         (富田太郎)

 先日、大学時代の某グループの同窓会に20年ぶりに出席しました。

 久々の出席でしたが、私など、勤めていた金融機関が倒産していたので、「あい
つ(富田)、生きているのだろうか?」と毎回のように話題になっていたと知らさ
れ、唖然としました。

 前回(20年前)、出席したときは、皆30歳代の働き盛りで、
--------------------------------------------------------------------------
 ・いかに自分が、会社の重要なポジションにいるか
 ・いかに大きな仕事をやっているのか
 ・いかに忙しいか
--------------------------------------------------------------------------
と、自慢合戦のような雰囲気でした。

 なかでも、金融機関就職組は、当時、「勝ち組?」を豪語し、毎回、大きな顔を
していたのですが、そのうち何人かは、勤め先が倒産・消滅………。

 逆に、無名会社に就職し、負け組?と言われていたのが、今や有名企業となって
いたり、まさに栄枯盛衰の感がありました。

 さて、今回は皆50代半ばということもあり、自慢合戦などなく、
--------------------------------------------------------------------------
 ・定年後、どうしようか
 ・子会社にいければよいのだけど
 ・富田はいいよ………定年なんかないのだから
--------------------------------------------------------------------------
と、ほぼ定年退職後のことが話題の中心でした………。

 私など、40歳になって司法書士になったせいか、「これから、事務所をどうし
ていくか? まだまだ、頑張らねば………」などと思っていたのですが、何やら自
分も、人生の後半戦にいると実感させられました………(汗)。

 されど、………あの元気だった「20年前の自慢合戦」が懐かしい………。昔の
栄華など、今となっては過去のものなのでしょうか………。

 「過ギニシ薔薇ハ タダ名前ノミ、虚シキソノ名ガ今ニ残レリ」

‐映画『薔薇の名前』より引用.原詩『中世の秋』バーナード・オブ・モーレー‐
(意訳:どのように咲き誇った過去の美しさも、時が過ぎるにつれ、その美しさは
無くなってしまう。そして、今残るのは過去の美しかった頃の思い出だけだ。)


2013.06.04(火)【松江ゴーストツアー】(島根・根来川弘充)

 ご存知の方はおられるかもしれませんが、松江市では、小泉八雲が有名です。松
江城の近くの観光名所である武家屋敷では、小泉八雲の書斎などが公開されていま
す。

 先日、NPO法人松江ツーリズム研究所が企画する「松江ゴーストツアー」に参
加する機会がありました。小泉八雲が書いた怪談にちなんだ名所をめぐりながら、
語り部さんによる怪談話が聞けるというツアーです。

 夕方からの出発で、だんだんとあたりが暗くなり、また、各名所ではお話だけで
はなく、いろいろ演出があったりと、大変楽しかった(怖かった)です。

 ガイドの方が、「最後にNPOなので、宣伝費がないので、皆さんに宣伝してく
ださい。」と言われましたので、この場を借りて、ご紹介させていただきます。

 これから暑くなりますので、より良いかと思います。皆様も松江に来る機会があ
りましたら、是非、ご参加くださいませ。「松江ゴーストツアー」で検索すれば、
ホームページがすぐ見つかると思います。詳しくはそちらを御覧下さいませ。


2013.06.03(月)【定時株主総会招集通知】(金子登志雄)

 6月に入りました。今月下旬は上場会社の定時株主総会が目白押しです。もう、
各社とも総会招集通知の発送の準備は出来上がっていることでしょう。

 旧商法232条には「総会を招集するには会日より【2週間前に】各株主に対し
て書面を以て其の通知を発することを要す」とありましたので、15日以前の早い
段階で発送してよいのかと不安を漏らす総会担当者が少なくありませんでしたし、
現実にも「中14日」の2週間前の日に発送することが多かったのですが、会社法
299条では「株主総会の日の【2週間前までに】」と規定したため、また、コン
ピュータの発達により決算のまとめが早まったためか、最近では3週間前あたりに
発送する上場会社が増えました。6月27日が定時総会日であれば、6月5日付で
の発送です。

 こんなに早く発送するのは、株主を大事にしているというイメージ戦略だけでな
く、できるだけ議決権を行使してほしいという理由もあることでしょう。一般株主
は、招集通知を受け取っても、返事をしなかったり、すぐに議決権行使書を送る行
動に移らないことが多いためです。

 旧商法時代には、これがために定款変更の議決に必要な総株主の議決権の過半数
が集まらず議案が可決しない会社もあったため、平成15年4月から定款で総株主
の議決権の3分の1まで定足数を下げることが可能になりました。これが会社法
309条2項に引き継がれています。

 こういう歴史を知らない方が会社の設立で定款を作成するときに、上場会社のま
ねをして定足数を3分の1にしてしまいますが、中小企業では定足数の充足に苦労
していないわけですから、その必要はありません。

 なお、総会招集通知の特徴は「通知を発しなければならない」(299条)とあ
るとおり、旧商法時代から発信主義が採用されており、2週間前までに株主に到着
する必要はありません。


2013.05.31(金)【特別支配会社】(金子登志雄)

 特別支配会社については。会社法468条1項に定義されていますが、分かりや
すく要約すると、「ある株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を他の会社【
及び】当該他の会社の100%子会社が有している場合における当該他の会社」の
ことです。

 下記の①図で、AとBが合計でCの議決権の9割以上を所有していれば、AはC
の特別支配会社です。

    ①図             ②図   ③図

    A              A    A
    |\100%子会社      |    |
    | B            B    |
    |/             |    |
    C              C    C

 では、上記の②及び③図の場合は、AはCの特別支配会社といえるのでしょうか。

 いままで何の疑いもなく肯定していましたが、会社法の定義をみると、「A及び
B」が主語になっており、「A単独」や「B単独」の所有は含まないように読めて
しまいます。そんなわけがありません。③などは典型例のはずです。

 ちょっと調べてみましたら、法令の表現では、【AもBも】という場合で、A単
独やB単独を強調しない場合は、and&or の【A又はBは】ではなく、【A及びB
は】と表現することが多いようです。

 また、会社法468条1項も「【Aが有している場合】及び【Bが有している場
合】」と読むのでしょう。

 しかし、こう読むと今度は、「【A及びB】が有している場合」を含まないと解
釈されそうですね。おそらく、A単独やB単独は【もちろん】のこと、AかつBの
場合【をも】という勿論解釈なんでしょう。

 法律解釈って、ほんとに楽しいですね。え? 付き合いきれない? 


2013.05.30(木)【株式価値】(金子登志雄)

 純資産額がたっぷりの甲社と債務超過会社の乙社が合併するとき、乙社の株式は
マイナスだから合併比率を立てられないと思い込んでいる方が少なくありません。

 しかし、債務超過会社であっても株式には価値があって、株価がマイナスという
ことはありえません。乙に将来性があれば株価も高く評価されますし、将来性がな
くても、ゼロ以下のマイナスにはなりません。

 株式価値の評価は質屋や銀行の発想(担保価値の発想)で純資産額(貸借対照表)
だけでするものではなく、証券会社や街金の発想で、収益の将来性(損益計算書)
なども含めてしなければならないのです。

 では、株式投資で100万円を突っ込んだら、値下がりして損が出たという場合
に損失の限度額はいくらでしょうか。

 株価にマイナスがあり得ないのなら、ゼロに決まっているじゃないかと思いませ
んか。

 しかし、これは半分正解でしかありません。空売り(先に売りから入り、買いで
精算する方式)の場合は、投資後に株価が300万円になったら、200万円の損
失であり、投資額を超えてしまうのです。
 アベノミクス効果で誰でも株式投資で儲けられたのは5月の連休までで、いまは
株価も乱高下していますから、素人は近寄るべきでない時期に入りました。儲ける
のはいつも計算高い外国人の投資家(機関投資家)で、いよいよ恐れていたアベノ
「リスク」に突入でしょうか。



2013.05.29(水)【虎穴型と釣り餌型】(金子登志雄)

 1か月ほど前だったか、パソコンで刑事ドラマをみていた時の殺し屋2人の会話
が妙に記憶に残っています。

 殺しのターゲットが警察の保護下のホテルの1室にいるため、殺し屋Aが「虎穴
に入らずんば」でホテル内に突入する強行策を主張したところ、その兄貴分の殺し
屋Bが「頭を使えよ。エサを示してホテルから外に出させるのだ」と教えるシーン
でした。

 これ人生のいろいろ場面に使えそうですね。愛する彼女に思い切って告白するか、
エサを巻いて彼女にその気にさせるか。

 飛び込み訪問の営業で仕事を取るか、ダイレクトメールやホームページでエサを
まいて顧客を待つか………。

 出不精で腰の重い私は、エサさえまいていませんが、著作が結果的に販促ツール
になっている部分は否定できません。

 それも会社自体ではなく同職や弁護士・会計事務所の方が「そういう案件は金子
という司法書士が専門家だから、そちらに聞いたらどうですか」と宣伝してくださ
るようです。

 私の腕が悪いのか、電話相談だけで終わることも少なくなく、エサだけ取られて
針には噛みついてくれませんが、それも広報活動の1つと思い、誠実に対応してい
ます。

 釣り餌型は、一見、効果的でリスクが少ないのですが、実に効率が悪いといえそ
うです。


2013.05.28(火)【同時申請】(金子登志雄)

 ある地方の登記所で会社の設立登記が終わったので、印鑑カードの取得と印鑑証
明書の交付申請書を返信用封筒付で送りましたら、昨日戻ってきましたが、印鑑カ
ードしか入っておらず、印鑑証明書交付申請書は、そのまま突き返されてしまいま
した。「当地方法務局管内では同時申請は受け付けていません」との文書も同封さ
れていました。

 登記の申請と同時に登記事項証明書の申請をするような場合に「同時申請」とい
う用語を使いますが、印鑑カードと印鑑証明書の申請も「同時申請」というのかと
驚くと同時に、こんな対応をする登記所が未だにあることに驚きました。

 印鑑カードの発行係と印鑑証明書の交付係が違うから同時に申請されても困ると
いうことでしょうが、外部から見れば、同じ登記所であって、係の相違は登記所の
内部の問題ですから、民間では考えられないお役所仕事ですね。

 おそらく他の登記所では、ここまでしないでしょう。たぶん、今回に限り受付し、
「次回からお気をつけください」という対応をしてくるのではないでしょうか。

 しかし、総じていえば、お役所仕事で愛想が悪いといわれていた登記所も小泉改
革の頃からだいぶ親切になりました。窓口係がサンダルをはいたお兄ちゃんやオジ
サンということはなくなりました。謄本の交付窓口でも、それ以前は「〇〇会社申
請の金子さーん」と呼ばれていたのに、その頃から気持ち悪いくらいに「金子サマ
~」といわれるようになりました。今は、大病院と同じく、「〇〇番は出来上がっ
ています」という電光掲示板ですが………。

 いずれにしろ、登記所によって対応が異なるのは困ったもので、せめてホームペ
ージに、「当法務局の対応」をアップしてほしいものです。であれば、知らなかっ
た私が悪いことになりますから。


2013.05.27(月)【選任懈怠の回答】(金子登志雄)

 金曜日に出した問題はいかがだったでしょうか。

【回答】

 登記簿に取締役ABCの全員が平成22年6月25日重任と登記されている公開
会社甲において、甲の取締役の全員が昨年6月28日開催の定時株主総会の終結と
同時に任期満了退任しているのに、本年の定時株主総会議事録に、「議長は、取締
役全員が当社の定款の定めにより平成24年6月28日開催の定時株主総会の終結
と同時に任期満了退任したので、後任を選任する必要がある旨を述べ………」など
という記載でもしておかないと、退任を証する書面として昨年の定時株主総会議事
録だけでなく定款を添付する必要があります。

 確かに、会社法では、公開会社の取締役の任期は「選任後2年以内に終了する事
業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定められている
わけですから、取締役の任期の満了を証明するために定款の添付は不要のようにも
思えてしまいます。

 しかし、この定時株主総会議事録が「選任後2年以内に終了する事業年度のうち
【最終のもの】」かどうかは定款で事業年度を確認しなければ分かりません。

 例えば、ひょっとしたら昨年5月に決算期を5月31日に変更しているかもしれ
ません。その場合は、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関
する定時株主総会」は7月か8月に行われたものになり、6月の定時株主総会時点
では任期満了退任していないことになります。

 書物によると定款の添付が必要な理由として「定時株主総会の開催時期の証明に
必要だ」とありますが、これだけでは意味不明ですね。


2013.05.24(金)【選任懈怠の問題】(金子登志雄)

 初の試みですが、本欄読者の司法書士の皆さんに問題を出します。土日にお暇な
方はお考えください。

【問題】

 登記簿に取締役ABCの全員が平成22年6月25日重任と登記されている公開
会社甲があります。

 甲の取締役の全員が昨年6月28日開催の定時株主総会の終結と同時に任期満了
退任いたしましたが、その総会で再選あるいは後任を選任漏れしています。

 本年の定時株主総会議事録に、「議長は、取締役全員が当社の定款の定めにより
平成24年6月28日開催の定時株主総会の終結と同時に任期満了退任したので、
後任を選任する必要がある旨を述べ………」などという記載をしておけば、これを
もって退任を証する書面になりますが、この記載がないと、退任を証する書面とし
て昨年の定時株主総会議事録と定款を添付する必要があるとされています。

 旧商法時代は取締役の任期の原則が2年固定でしたから、定時株主総会の終結と
同時に任期満了退任すること(任期)の証明として定款の添付が必要だったのは分
かります。しかし、会社法では、公開会社の取締役の任期は「選任後2年以内に終
了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」が原則だ
と定められているわけですから、定款の添付は不要とは考えられないでしょうか。

 書物によると「定時株主総会の開催時期の証明に必要だ」とありますが、定時株
主総会議事録をみれば。事業年度末から3か月以内に開催されていることはすぐに
分かるはずです。

 さて、会社法のもとで、定款の添付が必要でしょうか。必要だという場合には理
由も説明してください。


2013.05.23(木)【右に倣え】(金子登志雄)

 金曜日の投稿の「売買単位の集約」に絡んで、「単元未満株式についての権利」を
定款に定める場合は、ほとんどが次のような内容にします。

---------------------------------------------------------------------------
第*条 当会社の株主は、その有する単元未満株式について、次に掲げる権利以外の
  権利を行使することができない。
(1)会社法第189条第2項各号に掲げる権利
(2)会社法第166条第1項の規定による請求をする権利
(3)株主の有する株式数に応じて募集株式の割当ておよび募集新株予約権の割当て
  を受ける権利
---------------------------------------------------------------------------

 問題は上記の(2)です。(2)の会社法第166条第1項は取得請求権付株式の
取得請求についての規定ですが、上場会社のほとんどが、この株式を発行していない
のに(2)を定めているのです。

 理由は簡単です。書式例がそうなっているから、他社がそう定めたから………であ
って自分の意志ではありません。

 仮に(2)がないと、「あれ珍しい定め方ですね。どうしてこういう内容にしたの
ですか」と聞かれるのも面倒ですから、右に倣えが最も簡単で安全です。

 自分だけ目立ってはいけない、他と変わったことをしてはいけないというのが普通
の日本人の安全な生き方だとしても、こういうことまで真似する必要もないと思うの
ですが………。

 なお、今日の内容は、昨年5月15日の【単元未満株式の権利】の繰り返しですが、
ご了承ください。



2013.05.22(水)【生涯現役】(金子登志雄)

 先日、30年近くの長いお付き合いのあるM&A担当の銀行員氏が退職の挨拶に
訪れてくれました。定年後も銀行で仕事をしていたのですが、65歳が限度だった
ようです。

 こんなとき必ずいわれるのが「司法書士さんはいいですねぇ。定年がないから」。

 そのとおりです。まだまだ働きたい私は、司法書士資格に大いに感謝しています。
商業登記専門であれば、60歳代はちょうど脂が乗りきった働き盛りだともいえま
すから、余計に充実感があります。

 しかし、自由業はよいことばかりではありません。体が資本で病気になっても会
社が生活の面倒をみてくれません。仕事がなくても無職とはいえず失業手当がもら
えません。大勢の部下に命令できるという組織人ならではの経験もできません。交
際費も自腹です。

 とくに住宅ローンなどの際に、不安定な自由業は水商売と同じで不利です。ボー
ナス払いもできません。私も、住宅ローンでは、共稼ぎの妻がいなければ、十分に
貸してもらえませんでした。

 こんな自由業ですが、嫌な上司もおらず、9時‐5時の拘束もなく、昼寝も自由
ですから、こればかりは羨ましがられても仕方ないでしょう(働けど、働けど……
の我がESGのお仲間は昼寝もできないようですけど)。

 結局、子育てなどが必要な若い頃は収入の安定した勤務がよく、子育てが終わっ
た後は、時間が自由の勝手気ままな自由業のほうがストレスも少なく、生きやすい
ように思います。

 司法書士の中には、定年退職後に司法書士になった方も少なくありませんが、皆
さん、収入は不安定でも今の時間自由の生活に満足しているようです。

 人生80年時代には、定年後の第2の人生をどう生きるかが極めて重要になりま
した。西洋人のように、「やっと仕事から解放された。あとは家族とともにのんび
り暮らしたい」と喜ぶ日本人は少ないですから、何か考えておかないといけないの
でしょう。


2013.05.21(火)【種類株式発行会社の運営】(金子登志雄)

 ただいま種類株式発行会社の新株予約権の発行について相談に乗っていますが、
やはり種類株式があると会社単独では使いこなせないようです。

 例えば、発行済みが普通株式1000株、甲種株式200株とし、甲種の内容に、
「会社が募集株式又は新株予約権を発行するときは甲種株式の種類株主総会の決議
が必要である」などとあったときに、この会社が従業員に新株予約権を発行する場
合は、どんな決議が必要だと思いますか。

 非公開会社を前提とすると、臨時株主総会の他に甲種株主の種類株主総会が必要
であることはわかりますが、それだけでなく、新株予約権を行使したときに交付さ
れるものが普通株式であれば(これが通常です)、会社法238条4項により普通
株主の種類株主総会も必要です。

 3つも総会を開催しなければならず、総会招集通知はどうするのかなどなど、専
門家でなければ対応することができません。

 ベンチャーキャピタル(VC)はこういう種類株式の発行を求めますが、VCに
も株主総会や種類株主総会を指導することができる専門家はいないようです。結局、
高い報酬を払って弁護士や司法書士に依頼するしかありませんが、ベンチャー企業
は赤字会社が多いので、その負担も大変です。VCがベンチャー企業の経営を妨害
しているところがなきにしもあらずだと感じてしまいますが、ご経験者は十分な報
酬を請求することができたのでしょうか。出世払いでしょうか。


2013.05.20(月)【効力発生の直前】(金子登志雄)

 先週の14日火曜日(先日付の委任状)と15日水曜日(後日付の証明書)の投
稿に絡んで、株式交換における買取請求権の問題があります。

 甲が完全親会社、乙が完全子会社とし、株式交換契約を締結し、効力発生日が平
成25年6月1日だとします。

 乙の発行済株式の総数が1000株だったところ、100株が株式交換に反対で
反対株主から買取請求がなされたとすると、この買取りの効力は株式交換の効力発
生日である平成25年6月1日に発生し乙の自己株式になります(786条5項)。

 このまま株式交換を実行し、甲が株式交換の対価である甲株式(とする)を乙に
交付すると、株式交換後には子会社が親会社の株式を保有することになります。

 これは困るということで、事前にこの自己株式の消却決議が実務で認められてい
ます(親子兄弟会社の組織再編の実務59頁、ずばり解説!株式と機関9頁)。

 つまり、効力発生日に株式交換の効力が生じ、その時に自己株式となるが、前者
の直前に自己株式の消却の決議が認められているのです。同時に効力が生じるが、
後者が先で前者が後だとしてよいということですから、わざわざ、効力発生は6月
1日午前0時ではなく午前10時とするなどと定める必要もありません。

 事前の自己株式消却の条件付決議も効力発生日付の消却も認められるなら、先日
付の委任状もよいとすべきですし、合併効力発生日付合併消滅会社の証明書も効力
発生の直前に証明したと考えることで何の問題ないと考えられるのではないでしょ
うか。


2013.05.17(金)【売買単位の集約】(金子登志雄)

 新聞の株式面をみると、1株100円だったり、1株1万円だったりと各社まちまちで
すが、この金額が最低投資単位になるわけではありません。前者が1単元100株であっ
たら、1単元分の1万円が最低投資単位(取引単位)です。後者が単元株式制度を採用し
ていなければ、やはり1万円です。

 これではややこしいので証券取引所が平成19年に「売買単位の集約に向けた行動計画
を定め、将来は全上場会社を「1単元100株」にしようとしており、現時点では、上場
会社に来年の4月1日までに、取引単位を100株か1000株にするよう求めています

 http://www.tse.or.jp/listing/seibi/b7gje60000005zkl-att/b7gje6000001ik6a.pdf

 そこで、単元株制度を採用していなかった会社は、承知のとおり、取締役会で、①1株
を100株に株式分割すること、②同時に1単元100株する単元株制度を採用すること
③発行可能株式総数を100倍に拡大することの3つを決議し、実行することができます

 しかし、単元未満株主の権利(④)については、定款変更事由になり、株主総会決議事
項ですから、この①②③④をどういう順序で決議するかという問題が生じます。

 1つの方法は、①②③を取締役会の決定で済ませ、④については株主総会にかかるパタ
ーンです。当社もこの方式です。

 https://www.release.tdnet.info/inbs/140120130516044442.pdf

 2つめは、すべてを総会決議事項とするパターンです。

 https://www.release.tdnet.info/inbs/140120130513039993.pdf

 前者については、取締役会の決議で定款の条数の変更まで決議することができるのかと
驚いたことを過去徒然に書きました(2012.09.14(金)【条文番号は定款内容
か】参照)

 後者については、総会の決議にかけるなら、発行可能株式総数の拡大は100倍までに
限定されないし、会社法が取締役会決議でよいとした意味がないじゃないかという疑問が
生じます。

 皆さんが総務担当者であったら、どちらを選択しますか。



2013.05.16(木)【新人】(仙台・立花宏)

 先日の朝、テイクアウトでコーヒーを購入するために、あるチェーン店の喫茶店
に立ち寄ったときのことでした。その喫茶店には毎日のように立ち寄るので、そこ
の店員さんとは顔見知りです。しかし、その日に対応してくれた店員さんは、はじ
めて見る方でした。

 「おはようございます」

という挨拶や、笑顔になにかぎこちない印象がありました。どうやら新人の店員さ
んのようです。ずいぶん、練習した様子がうかがえますが、メニューを示しながら
注文をとろうとする様子からは緊張が伝わってきます。

 「テイクアウトでコーヒーをひとつ、お願いします」

と注文する私も、なぜか緊張してしまいました。その新人らしき店員さんが厨房に
入り、コーヒーのテイクアウトの準備をはじめると、ようやくほっとしたような気
持ちになり、気持ちにも余裕ができました。そして、ふと、注文カウンターの奥に
目をやると、いつも対応してくださるベテランの店員さんが自分の仕事の手を止め、
心配そうにその新人らしき店員さんの一挙一動を見つめています。その顔には緊張
が感じられます。いまにでも、新人らしき店員さんの仕事に手を貸したそうです。
しかし、その気持ちをじっと抑え、新人らしき店員さんの行動を見守っているよう
です。そうしているうちに、ベテランの店員さんが私の視線に気づいたようです。
ベテランの店員さんは私の方を向き、いつもの笑顔で挨拶してくれました。

 「おはようございます。いつもありがとうございます」

 そして、申し訳なさそうな視線を私に向けてきました。

 「おはようございます。コーヒーの代金、ここに置いておきます」

 私はベテランの店員さんに精一杯の笑顔で挨拶を返し、コーヒーの代金をカウン
ターの上に置きました。すると、ちょうど新人らしき店員さんがテイクアウトの準
備をしたコーヒーを持ってきてくれました。

 「お代金、ちょうどいただきます。ありがとうございました」

 ひととおりの仕事を終えてほっとしたのか、新人らしき店員さんは、先ほどの強
張った笑顔とは違い、すてきな笑顔になっていました。

 「ありがとう」

 そういって新人らしき店員さんに笑顔を返し、私はその喫茶店をあとにしました。

 事務所に到着し、自分の席でコーヒーを飲みながら、自分が社会人になった頃の
ことや今の事務所に就職したときのことを思い出しました。きっと、たくさんの先
輩やお客様が心配しながらもあたたかく見守ってくれていたはずです。そんなこと
を考えていると、あたたかいコーヒーが、心まであたたかくしてくれるのを感じま
した。


2013.05.15(水)【後日付の証明書】(金子登志雄)

 きたる6月1日は土曜日のため、合併の効力発生日だとしても登記を申請すること
ができません。

 そこで、6月3日の月曜日以降に登記を申請することになりますが、甲が合併存続
会社になって、乙を吸収合併するにあたり、「債権者から異議がありませんでした。
以上、証明します。平成25年6月3日/乙株式会社代表取締役〇〇」という消滅会
社の書面を提出したら、登記は無事に受理されるでしょうか。

 この文書は法定の提出書面ではない点を横に置くと、やはり問題書面です。なぜな
ら、登記が効力要件だった商法時代と相違し、現在は6月1日午前0時に乙は合併に
より解散消滅していますので、「平成25年6月3日/乙株式会社代表取締役〇〇」
が存在しないことになっているからです。

 では、「平成25年6月1日」だったらどうでしょうか。

 私はこれまで「適当ではない」と説明してきましたが、乙が丙を吸収合併し、同時
に乙が甲に吸収合併される事案では、乙丙間の合併登記の委任状を効力発生日にする
のが通常ですから(2013.01.22(火)【重複再編と登記申請人】参照)、
それを肯定する限り、本件も不可とはいえません。理念的には、6月1日に合併の効
力が発生する直前に証明書を書いたと考えればよいことになります。

 しかし、紛らわしいので、5月31日付で作成するか、6月1日付で合併存続会社
が「消滅会社でも異議がなかった」という証明書にしたほうがよいでしょう。拙著の
書式は、後者になっています。


2013.05.14(火)【先日付の委任状】(金子登志雄)

 司法書士会の掲示板に「5月1日付合併登記」の申請にあたり、「4月30日付
委任状」で臨んだら、これでは登記を受理できないと大手法務局からいわれたが、
どう思うかという話題が、先般、掲載されていました。

 たぶん、登記は原則として終わった事実を報告し登記簿に表示するものだから、
合併の効力が発生した以降の日付でないと困るという意味でしょう。平成5年頃の
法務省の解説文(例えば、当時の『書式精義』)にも「委任状作成の日付は、委任
した日であることはいうまでもない。登記事由(例、取締役退任の事実等)が発生
しない前に、その登記の委任ということはあり得ないから、その日付が登記事由発
生以前の日付であってはならない」とあるようです。(兵庫県のT司法書士の話)。

 しかし、合併の効力発生を条件とする条件付の委任状が無効とはいえませんから
(現在の書式精義からは、上記の後半の「登記事由……」はカットされています。
以上は兵庫県のT司法書士が発見しました)、法務局の対応は行き過ぎです。現に
不動産登記では肯定されていますから、商業登記に限り不可とはいえません。

 こんな議論があることを元登記官で商業登記の神様といわれる神崎満治郎先生に
話しましたところ、「却下事由に該当しないので受理すべきだ」とのご意見でした。

 そうなんです。本物の登記(事務)官は却下事由に該当するかどうかと判断する
のに対し、そうでない方は、常識的にみておかしくないかという非法律的判断でジ
ャッジします。後者に当たると法律論争ができず、われわれが一番苦労させられる
ところです。登記の完了が遅れるという不利益から、いやいや妥協してしまうケー
スが多いようですが………。


2013.05.13(月)【組織再編の定義規定】(金子登志雄)

 土日の休み中に、また、おかしなことに気づいてしまいました。こういうことに
気づく限り、私がまだモウロクしていない証拠ですから、うれしいものです。

 さて、会社法の定義によりますと、吸収合併は「会社が他の会社とする合併であ
って、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させ
る【もの】をいう」、新設合併は「2以上の会社がする合併であって、合併により
消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させる【もの】を
いう」です。

 これに対して、吸収分割については「株式会社又は合同会社がその事業に関して
有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させる【こと】をいう」、
新設分割は「1又は2以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利
義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させる【こと】をいう」にな
っており、株式交換、株式移転、組織変更も「ことをいう」でした。

 なぜ、合併だけ「ものをいう」になっているのかと、徒然なるままに考えてみま
したが、おそらく、規定の仕方と合併の特徴が理由でしょう。

 上記のとおり、会社法で、吸収合併や新設合併については定義されていますが、
「合併であって、合併により」とあり、合併自体については定義されていません。
これは、従来から、合併については概念の大枠が決まっており、いまさら定義する
に及ばないと考えられたためです。

 そこで、吸収合併については「合併のうちで、会社が他の会社とする【もの】」
とすれば十分だったのですが、その内容についても説明し、「【すなわち】、合併
により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させる【もの】
をいう」を付け加えたのでしょう。吸収合併と新設合併は、前段と後段で同じこと
をいっているわけです。

 吸収分割も、同じ文章形式で「株式会社又は合同会社が他の会社とする【会社分
割であって、会社分割により】分割する会社の事業に関して有する権利義務の全部
又は一部を分割後他の会社に承継させる【もの】をいう」とすればよかったのでし
ょうが、この形式だと別途「会社分割」についても定義しなければならないと立法
者は恐れ、かつ、旧商法時代の吸収分割・新設分割・株式交換・株式移転が「〇〇
〇〇を為す【こと】を得」であったため、この定義方式を避けたのでしょう。

 吸収合併を吸収分割と同様の形式で定義すると「会社がその権利義務の全部を合
併後存続する会社に承継させて【会社を消滅させること】をいう」となり、「承継
させる」で終わらずに「会社を消滅させる」という他の組織再編には存在しない部
分を加えねばならないことに抵抗があり、「会社が消滅する再編(=合併)であっ
て」という内容を先に出したのかもしれません。

 ついでながら、このように合併の特徴は権利義務の承継ではなく、会社の消滅で
す。旧商法で解散の節に規定されていたとおりです。


2013.05.10(金)【弁護士は高給?】(金子登志雄)

 皆さんの年間所得(いわゆる「手取り」)は、弁護士のそれと、どのくらいの
差があると思いますか。

 あれ、意外や、意外………
------------------------------------------------------------------------
 弁護士の大半は個人事業主として活動しているが、その2割は、経費などを引
いた所得が年間100万円以下であることが国税庁の統計で分かった。

 500万円以下だと4割にもなる。弁護士が急増したうえ、不況で訴訟などが
減っていることが主原因とみられる。一方、1000万円超の弁護士も3割以上
おり、かつては「高給取り」ばかりとみられていた弁護士業界も格差社会に突入
したようだ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130508-00000025-mai-soci
------------------------------------------------------------------------

 これじゃ、弁護士資格をとるまでの経費と時間を考えると、全然、採算に合い
ませんね。法科大学院も定員割れのところばかりのようです。

 また、こんな収入では弁護士が成年後見等に関与した際に、預かった金銭など
を横領しかねないのではないかと危惧するマスコミもありました。

 なお、司法書士の場合は、高所得者と低所得者との格差は弁護士ほどではあり
ません。唯一、中間層の多い業界かもしれません。格差があるとしても、せいぜ
い、飛行機をファーストクラスにするかどうかの格差でしょう。専用の所長室が
あって、秘書を雇っている司法書士には、まだお目にかかっていません。私が知
らないだけかもしれませんが………。


2013.05.09(木)【人生の天井】(金子登志雄)

 野球の松井選手が若干38歳で国民栄誉賞を授与されました。お目出度いこととは
いえ、これからの人生がお気の毒です。自分だけでなくご家族も周囲の目を気にして、
賞にふさわしく生きなければならないという制約を負ってしまったわけで、飲んでハ
メをはずすことも、乗ったタクシーの運転手と喧嘩することもできないでしょう。

 かつての王さんといい、松井さんといい、ハメをはずすタイプではないので、杞憂
だと思いますが、この問題で、人生の頂点はいつがふさわしいかといえば、やはり晩
年でしょう。

 孔子のように「40にして惑わず。50にして天命を知る。60にして耳順がう。
70にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。」というのは無理でも、それなりの
年齢になれば、写真週刊誌にまずいところを写されてしまうようなこともしなくなる
ものです。

 逆に若いうちに人生の頂点に達してしまうと、あとが悲惨です。売れっ子の子役が
売れなくなって犯罪に走った例がいくつかありましたし、売れっ子芸能人が売れなく
なって鬱病で苦しんでいる例もいくつか耳にしています。先般、話題になった牧伸二
さんも、最後は悲惨でした。

 幸いにも、わが人生は、売れっ子とは無縁でしたが、しいていえば、会社法改正特
需で毎月のように講演に呼ばれていた平成18年から20年あたりが頂点だったかも
しれません。ちょうど、還暦に差し掛かった時期ですので、浮かれずに済みました。

 しかし、私自身の内心では、その時よりも今のほうが会社法の実力も上だと思って
いますし、頂点を超えた下り坂の人間として残りの人生を送りたくありません。

 ところで、株の世界に「2番天井」という用語があるのをご存知でしょうか。株価
が急騰して天井をつけても、それで終わることなく、もう1度、2番天井をつけ、そ
の後下げのトレンドに入ることです。金子銘柄はまだ2番天井をつけておりませんの
で、会社法ブームが去っても「金子は終わった」は禁句ですよ。


2013.05.08(水)【悪徳業者撃退方法】
(島根・根来川弘充)

 私のところには、毎月のように、悪徳業者による被害相談が数件あります。

 一般的には、「身に覚えのない請求を受けたら、まず法律専門家に相談を」と、
いろいろな機関で宣伝されていると思います。しかし、悪徳業者による被害額は、
近年、減っているといっても、とても多額なものです。

 そう考えると、先の宣伝文句では、不十分なのだろうと思います。おそらくは、
相談する時間を与えない口実を、悪徳業者がいろいろ考え出すからなのでしょう。

 ところで、請求に対して支払いをしなかったとしても、債権者は、勝手に自分
の家におしかけて、財物を奪っていくということをしてはいけません。なぜなら、
日本の法律は、これを禁止しているからです。

 したがって、万が一にも債権者が押し掛けて来て、自分の意思に反して、財産
を奪われることがあれば、それこそ、犯罪が成立するのであり、警察を呼べば、
その債権者は逮捕されるということになります。

 もし、身に覚えのない請求を受けて、相手が「家に取り立てにくるぞ」と言っ
てきたら、相手に日時を指定すると同時に、それにあわせて、警察の方に、自宅
を巡回してもらうことをお勧めします。

 もっとも、相手が、悪徳業者でしたら、自分の身元が知れることを一番恐れて
いますから、まず、来ることはないと思いますが。


2013.05.07(火)【芦部憲法とキャッシュアウト】(金子登志雄)

 長い連休でした。連休中の5月3日は「憲法の日」でしたが、日本国憲法をみる
と、「昭和21年11月3日憲法」などとあり、「5月3日」は登場しませんが、
昭和21年11月3日は公布の日であり、昭和22年5月3日が施行の日です。そ
れまでは、いわゆる明治憲法下でした。私の兄の世代は、戦後生まれでも明治憲法
下生まれになります。

 まだまだ若い(?)私は、現憲法下の生まれであり育ちですが、戦争放棄の新憲
法のおかげで徴兵にとられることもなく、よい時代に生まれたものだと世代の幸運
を天に感謝しています。

 さて、私よりも若い戦後世代でありながら改憲論者の安倍首相は、憲法学の権威
である芦部信喜氏の名前さえ知らなかったようですが(そもそも新憲法を読んだこ
とがあるのかも疑問ですが)、皆様はいかがでしょうか。

 30年前くらいになるでしょうか、この人の登場は司法試験受験界でも衝撃でし
た。当時の憲法の教科書が基本的人権は重要だから内在的な制約にとどめるべきだ
程度しか論じていませんでしたが、芦部氏は、基本的人権を表現の自由などの精神
的自由と経済的自由の2つに分け、前者こそ民主主義の根幹だと説きました。いわ
ゆる「二重の基準」の主張です(その他、明白かつ現在の危険の法理など多くの憲
法基準を主張していました)。

 確かに、条文からしても、憲法29条など経済的権利には、「財産権の内容は、
【公共の福祉】に適合するやうに、法律でこれを定める」などと「公共の福祉」と
いう制約を課しているのに、憲法21条など精神的自由については、「表現の自由
は、これを保障する」としか規定せず、「公共の福祉」という制約がありません。

 このように、論理的(数学的?)な理屈で説明してくれるので、刑法学の平野龍
一氏とともに、私にとっては相性の合う学者でした。

 ところで、現金を支払うことで株主でなくしてしまうキャッシュアウト(例えば、
事実上同じ機能を有する全部取得条項付種類株式の利用による株式の非公開化)に
つき、弁護士さんあたりは財産権の侵害だと批判的ですが、私は、上記「二重の基
準」の考え方を敷衍し、株主であることは経済的権利であるから、適正な対価が交
付される限り、認めるべきだという意見です。企業経営の効率性や必要性(少数株
主が存在すると、円滑な企業運営が疎外されやすい)を重視した立場ですが、皆様
はいかがお考えですか。


2013.05.02(木)【決算短信】
(金子登志雄)

 今月は、3月決算会社の決算発表が続々と続きます。

http://kabuyoho.ifis.co.jp/index.php?action=tp1&sa=column&p=cat01_20110428_2

 決算発表は「決算短信」といいますが、次のようなものです(いまは、連結決算
を中心に開示されます)。

   https://www.release.tdnet.info/inbs/140120130312098800.pdf

 「短信」というくらいですから、要旨でよいはずですが、実際には上記のように
非常に詳しい内容になっており、会社も手を抜けません。

 短信1頁の一番下に当期の業績予想が掲載されますから、25年3月期の業績予
想が許容範囲を超えて相違しそうな場合は、この決算短信発表の数日又は数週間前
に「業績予想の修正」について開示がなされます。

 これで株価が大きく変動しますので、株式の投資家にとっては、今月は気を抜け
ない月になるわけです。

 さて、先日、某社の定時株主総会議事録を登記申請の添付書面として提出しまし
たら、管轄の登記所から「登記とは無関係ですが、決算承認をしていないで報告に
なっていますよ」とのご連絡を受けました。

 当初は私も「登記に関係ないし、株主1名ですから、いいじゃないですか」など
と対応していたのですが、ハタと気づき、「その会社は会計監査人設置会社ですか
ら報告でいいのです」と申し上げたところ、登記所も「あ、そうでした。失礼しま
した」と答えてくれました。

 ここの登記所、優秀ですね。そこまで知っている登記官は少ないからです。皆さ
んは大丈夫ですか。会社法439条です。


2013.05.01(水)【旧商法時代の吸収分割公告】(金子登志雄)

 昨日、旧商法時代は吸収分割の連名公告は官報では認められていなかったと説
明しましたが、若い世代から、意外感を持たれました(ついでながら、資本金と
準備金を一緒に減少する公告も旧商法時代には官報の雛形にありませんでした)。

 旧商法時代の吸収分割公告は、次のように個別に行っていました。
--------------------------------------------------------------------------
(承継会社)
吸収分割につき異議申述公告
 当社は、平成〇年〇月〇日開催の臨時株主総会において、〇〇〇株式会社(本
店所在地:〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号)から〇〇〇事業部門の営業を承継する
吸収分割を行うことを決議したので、この会社分割に異議のある債権者は、本公
告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。なお、当社の最終の貸借対照表
は………

(分割会社)
吸収分割につき異議申述公告
 当社は、平成〇年〇月〇日開催の臨時株主総会において、株式会社△△△(本
店所在地:△県△市△町△丁目△番△号)に対して〇〇〇事業部門の営業を承継
させる吸収分割を行うことを決議したので、この会社分割に異議のある債権者
は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。なお、当社の最終の貸
借対照表は………
--------------------------------------------------------------------------

 旧商法374条の16では「会社は其の一方の営業の全部又は一部を他方に
承継せしむる為吸収分割を為すことを得」と規定していました。つまり、旧商
法時代の吸収分割も定義上は「承継させる」行為のような規定振りでしたが、債
権者異議申述の関係では「営業を承継する吸収分割」という文言でした(旧商法
374条の20参照)。

 したがって、旧商法時代から、手続の面では、「承継させること」も「吸収分
割により承継すること」も包括的に吸収分割と表現していたわけです。

 こういうさまざまな検討を経て、現在の法定公告文案が作成されただけでなく、
法務省の複数の関係部門のチェックを経て現在に至っていることをご理解いただ
きたいものです。


2013.04.30(火)【左記会社は吸収分割して………】(金子登志雄)

 やっと本格的な春の陽気になり、ゴールデンウイークも始まりましたが、いかがお
過ごしですか。

 無趣味人間の典型である私は正直言って長い休みは苦痛です。出歩くのは面倒です
し、テレビはもともとみないほうなので、専らパソコンで、あちこちのサイトを覗い
ているしか時間をつぶせません。

 さて、暇つぶしに官報公告を閲覧しておりましたが、甲が乙と合併するときの連名
公告の表現は「左記会社は合併して………」で、乙が甲に吸収分割するときの連名公
告は「左記会社は吸収分割して………」となっております。

 これに対しては、吸収分割とは分割会社(乙)の行為だから(会社法2条29号)、
あたかも吸収分割承継会社である甲も吸収分割するかのような公告表現で適当ではな
いとのご批判があります。

 優れたご指摘ではありますが、他に適当な表現があるでしょうか。
念のため、司法書士鈴木龍介さんともども、原文案作成者の1人として、なぜ、そう
いう表現にしたかを説明しておきます。

 第1に、吸収分割が官報において「連名」で法定公告することができるようになっ
たのは会社法からです。そこで、連名の合併公告の表現に準じて「左記会社は吸収分
割して………」という表現を採用いたしました。
 確かに、会社法2条29号の定義からは、「乙は吸収分割して、甲はこれを受け」
のようにすべきでしょうが、連名公告であるため、甲と乙を同時に主語にするのが自
然であると考えました。本来であれば、「左記会社は吸収分割【関係に立ち】……」
とすべきだったのかもしれませんが、合併公告との文章上の整合性を優先させました。

 第2に、会社法によれは吸収分割承継行為も「吸収合併等」に含まれます。会社法
799条1項によれば、吸収分割承継会社の債権者は吸収分割承継会社が「吸収分割
をする場合」に異議をのべることができると規定しています。
 つまり、会社法2条29号で吸収分割は吸収分割会社の行為であると定義しながら
も、吸収分割の手続上は、吸収分割承継行為も「吸収分割をする場合」に含まれてい
るのです。

 ということで、法定公告文案の「左記会社は吸収分割して………」は、会社法の面
からみても、ご批判を受けるほど不適切な表現とは思えませんが、いかがでしょうか。


2013.04.26(金)【規則61条の定款の添付】(金子登志雄)

 商業登記規則61条1項に「定款の定め……がなければ登記すべき事項につき無効
又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に、定款……を添付し
なければならない」とあります。

 にもかかわらず、昨日の事例のように、取締役会設置会社の株主総会で「代表取締
役は株主総会で選定することができる」と定款の変更を決議すると同時に、その株主
総会で代表取締役を選定したときなどは、定款の添付を要求されたことがありません。

 確かに規則61条1項には「定款を添付しなければならない」とありますが、それ
は「定款の定めがあること」を証明するためだから、株主総会で定款を変更したのな
ら、「定款の定めがあること」が明らかだからでしょう。ちょうど、「定款の定めの
存在は株主総会議事録を援用する」と書いた場合と同様だからです。登記には無意味
なことを要求されません。

 では、代表取締役が「当社の定款第〇条には、『当会社の代表取締役は株主総会で
選定することができる』とある」と上申書的なものの添付でもよいのでないか、それ
がダメとしても、「定款の抜粋」でもよいのかという点がかつて仲間内で議論になり
ました。

 これはおそらく現行実務は認めないでしょう。株主総会議事録での決定は重い決定
ですし、定款の全文は重い添付書面です。それ以外の軽い資料の添付では不可とされ
そうです。

 ………これでは納得できませんね。仲間内の最後の結論は、要は、登記の調査官も
サラリーマンであり、上司に怒られないことが受理するかどうかの判断の基準だから、
「規則に明確に定款の全文を添付せよとあるのに、なぜ、これを受理した」といわれ
たくないため、上申書や定款の抜粋ではダメと答えるのだろうという非論理的な結論
に至りました。昨日の事例のように、同一の株主総会で定款を変更した場合にも、改
めて定款を添付せよという上司はいないでしょう。

 次なる問題として、司法書士試験の回答で添付書面として「定款」と書かなくてよ
いのかという質問を予備校の講師から受けたことがあります。これに関しては、不要
だと断言することができる人はいないでしょう。たった2文字だから、書いたほうが
安全でしょうと回答しておきました。足りないのは減点対象ですが、こういう余事記
載は減点にならないからです。


2013.04.25(木)【株主総会で代表者選定】
(金子登志雄)

 取締役会のある会社における代表取締役の選定は取締役会の権限であって、株主
総会ではありませんが、定款で定めれば、株主総会で選定することもできます(松
井信憲著『商業登記ハンドブック』第2版389頁)。

 この場合は取締役会でも株主総会でも選定することができるとされています。取
締役会の固有の権限まで否定しては取締役会を設けた意味が半減するためです。

 便利な方法の割に実例が少ないなと思っていましたら、先般、遭遇いたしました。
ある上場会社の完全子会社です。4月1日付けで、取締役DをABCに追加して、
代表取締役をAからDに変更し同時にAが辞任する事例です。

 株主は1人、取締役は3人とすれば、取締役会を開催するよりも、全員出席の株
主総会のほうが容易です。

 ただ、面倒なのは株主総会で選定した株主総会議事録のほかに定款の添付が登記
申請に必要なことでしょう。これが流行らない原因だと私は思っています。

 先般の事例は、定款変更すると同時に代表取締役を選定したため、わざわざ無意
味な定款を添付する必要がありませんでした。こういう場合には有効な方法だとい
えましょう。


2013.04.24(水)【勝ち組と負け組】
(金子登志雄)

 相変わらず安倍政権の人気は高いようで、私も長期に塩漬けしていた持株の値が
戻りつつあり恩恵を受けていますが、実体経済がよくないのに株式や不動産はバブ
ルのようで、いつバブルが破裂するかとヒヤヒヤものです

 それに絡めてTPP(環太平洋連携協定)への参加で、日本はどうなるかという
問題の懸念として、私は農業問題よりも米国式文化の負の面の日本侵略を一番恐れ
ています。

 米国式文化の負の面とは、勝ち組と負け組を峻別し、共存共栄を目指さないこと
ですが(共存共栄は社会主義?)、例えていうならば、「進学塾型・桃太郎型」と
「大衆塾型・金太郎型」の差だと私は思っています。

 進学塾は、成績のよい一部の生徒をよい学校に入れることが目的で、大多数の生
徒は月謝を持ってくるただのお客さんでしかありません。これに対して、大衆塾は
生徒全体のレベルアップ(底上げ)を目標にしているため、成績のよい子供にとっ
ては不満が残りますが、疎外された側がテロに走ることはありません。

 日本の寺子屋は大衆塾でしたが、今後の日本社会は進学塾方式で、成績の悪い人
は切られていく殺伐した社会に向かうような気がします。企業社会も終身雇用制や
中産階級中心の社会から、米国式文化を先取りした小泉改革で、地方はシャッター
街となり、格差社会に変わってしまいました。

 桃太郎は子分を従え異国を侵略し富を略奪する騎馬民族でしたが、金太郎は動物
や自然との調和を重んじる農耕民族でした。TPPへの参加は騎馬民族の米国が金
太郎社会の縄張りの垣根を取り払うことですから、果たして金太郎型日本は、郵便
貯金や国民皆保険等の国民財産を守れるのでしょうか。

 こういう勝つか負けるかの競争社会の時代を前に、我々も「勝ち組」の1員にな
れるよう日々努力しなければなりませんが、できることなら米国式文化のよい点、
例えば、日本社会にはない「フェア(公正)」や「個人の自律」が浸透し、マスコ
ミによって大本営発表の世論(空気)が作られる後進国から脱皮したいものです。


2013.04.23(火)【減資効力発生日の資本金額】(金子登志雄)

 会社法447条2項によると、「減少する資本金の額は、効力発生日における資
本金の額を超えてはならない」とされています。

 これを、例えば、資本金額が1000万円のところ、600万円を減少すると、
資本金額400万円を超えることになるので、減少する資本金の額は現在の資本金
額の半分までだと解釈なさる方がいらっしゃることを知り、「なるほどなぁ」と考
えてしまいました。

 会社法445条2項により、増資の時には出資額の半分を資本金にしなければな
りませんから、減資の時も「2分の1ルール」でもあると感じたのでしょうか。

 確かに減資後の資本金額400万円も効力発生日の資本金額であることに変わり
がありませんが、これから減資しようという場合には、減資直前の1000万円が
「効力発生日における資本金の額」と捉えるのが普通ではないでしょうか。

 こういう勘違いの解釈は立法趣旨を理解していないことから生じます。本規定は、
資本金額の減少は資本金額がゼロ円になるまで減少することができるという趣旨で
すから、上記の例では、1000万円以外に考えられません。

 また、447条3項に「株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、
当該資本金の額の【減少の効力が生ずる日後の資本金の額】が【当該日前の資本金
の額】を下回らないときにおける………」とあり、資本金1000万円の会社にお
いて、4月23日に資本金を200万円増加し、同日に800万円減少し資本金を
400万円にしたとすると、「減少の効力が生ずる日後の資本金の額」は400万
円、「当該日(=効力発生日)前の資本金の額」は1000万円です。当該日自体
の資本金の額は減資直前の1200万円という前提での規定であり、当該日の資本
金の額が減資後の400万円としたら、わざわざ「減少の効力が生ずる日【後】の
資本金の額」という文言は採用しなかったことでしょう。

 立法趣旨を考えずとも、会社法の規定自体からも、減資後の資本金額は減資の効
力発生日の資本金額というべきではありません。


2013.04.22(月)【専業の強みと弱み】(金子登志雄)

 藤田さん、金曜日は投稿ありがとうございました。事業協同組合の登記ですか。
こればかりは経験がありません。

 というより、当事務所への仕事の依頼は非常に偏っており、同職の皆さんがよく
話題にする公益法人も一般社団も全くといってよいほどありません。不動産の仕事
も、成年後見も同じです。

 私も上州の郷里で開業していたら、農転(農地を宅地に)に絡んだ仕事や成年後
見の仕事をしていたかもしれませんが、M&A業務の延長で司法書士になった関係
や、飛び込み客が皆無の目立たない都心のビルの4階の1室に事務所を設けている
関係からか、仕事がバラエティに富むことはありません。

 いわば、司法書士業務のデパート(万屋?)ではなく、会社法及び商業登記専門
店といったところですが、ありがたいことに、専門店には、専門店ならではの仕事
が来ますので、何とか暮らしが成り立っています。

 ある時、4月1日に合併の仕事を受けたので、無事に終わらせ「6月下旬の定時
株主総会で取締役の任期が満了しますので、登記を忘れないように」と話していた
お客様から、7月初旬になっても、役員変更登記の依頼が来ないことがありました。

 「おかしいな」と思って「登記を失念していませんか」と電話しましたところ、
「あ、すいません。役員変更登記はいつもの先生に依頼し無事に終わっています」
と答えられてしまいました。

 そうなのです。当事務所には「いつもの仕事」は来ず、合併などの冠婚葬祭の時
だけしかお声がかかりません。

 同職からは「おいしい仕事は金子事務所でうらやましい」といわれますが、冠婚
葬祭は1つの会社でめったにあることではありません。いつもの役員変更登記の数
をこなしていた方が事務所の経営は安定します。

 とはいえ、仕事に面白さを求めるか、経営の安定を求めるかといったら、私は間
違いなく前者ですから、兼業の出稼ぎ仕事(執筆など)をしながら、冠婚葬祭の仕
事の依頼が来るまで今週も待機していましょう。


2013.04.19(金)【事業協同組合の組織変更】(名古屋・藤田智弘)

 金子代表には遙か遠く14万8000光年ほど及びませんが、4月1日は当事務所でも
吸収合併と組織変更が各1件ずつ効力発生日を迎え、同日に申請をいたしました。なかで
も後者は、事業協同組合から株式会社へ組織を変更するという、開業以来初めての案件で
した。

 依頼を受けてからは、参考となる書籍や資料を検索しましたが、いずれも会社法施行前
のものしかありません。数少ない資料に根拠法となる法令を読み込んで当てはめていくな
どして、手続についての依頼人に対するアドバイスや登記に必要な書類の作成を慎重に進
めていきました。

 どうにか登記申請までこぎ着けた数日後、管轄法務局から電話がありました。ドキドキ
しながら話を聞きますと、「公告したことを証する書面に記載されている貸借対照表を見
ると債務超過となっているようだが、法令違反にならないか?」とのことです。

 もしや条文の見落としか?と思い根拠となる条文を尋ねますと、中小企業団体の組織に
関する法律第100条の8だとおっしゃる。

 手元にあった資料の条文を見ますと「組織変更に際して資本準備金として計上すべき額
その他組織変更に際しての計算に関し必要な事項は、主務省令で定める。」とあり、主務
省令(中小企業団体の組織に関する法律施行規則第96条・第97条)を確認しても組織
変更後株式会社の株主資本の定め方を規定しているだけです。

 その旨を伝えつつ調査担当者とやりとりしましたが、どうも話がかみ合いません。よく
よく話を聞きますと、どうやら担当者は、申請書類の調査にあたって会社法の施行に伴っ
て改正された根拠法の改正前に出版された書籍を参照していたようです。

 確かに改正前の第100条の8では「組織変更後の会社の資本の額は、組織変更時に組
織変更前の組合に現に存する純資産額を上回ることができない。」とあるため、債務超過
の組合は組織変更できないこととされていたのですが、改正によりこの規制は撤廃、すな
わち、債務超過であっても組織変更できるようになっていたのでした。

 数日後、組織変更により設立された株式会社の登記事項証明書を手にし、監督官庁への
届出も終了して、胃の痛くなる日々を終えました。


2013.04.18(木)【任期短縮の定款変更】(金子登志雄)

 先日は、面白い問題に遭遇しました。取締役の任期の短縮です。

 3月決算の甲社では毎年6月下旬に定時総会を開催していましたが、甲社の取締
役ABCDのうちABCは平成23年6月28日就任、Dは平成24年4月1日就
任でした。取締役の任期は法定任期と同様の選任後2年以内の最終の事業年度に係
る定時総会の終結までであり、増員取締役は在任取締役と任期が一緒に満了すると
いう定めもあります。このままであれば、取締役全員が今度の平成25年6月の定
時総会の終結と同時に任期が満了するところです。

 しかし、甲社では、この平成25年4月1日の臨時総会で取締役の任期を「選任
後1年内の」と定款を変更し。ABCDを再選いたしました。

 変更後の定款で任期を計算すると、ABCの任期は昨年である平成24年6月の
定時総会までになってしまいますから、定款変更の効力が発生した平成25年4月
1日に任期が満了すると解釈されています(松井信憲著『商業登記ハンドブック』
第2版383頁)。

 ここまではよいのですが、平成24年4月1日に就任したDは、まだ1年が経過
していません。退任させてよいものか悩みましたが、富田氏の意見も聞いたところ、
やはり増員取締役としてABCと一緒に退任させるのが定款の趣旨だろうというこ
とで意見が一致しました。

 任期短縮の定款変更で任期が満了するのは、変更後の定款で計算すると、過去の
日付で任期が満了したことになる取締役だと思い込んでいましたが、こんな例もあ
るのですね。なお、登記は無事に終了しました。


2013.04.17(水)【訴訟行為】(金子登志雄)

 立花さん、相変わらず読ませる投稿、ありがとうございます。

 裁判官主役のドラマとは珍しいですね。実際の裁判に何度か当事者として関与し
たことがありますが、大量の事件を抱えているためか、とにかく早く和解させて裁
判を終わりにさせたい(判決を書く手間がはぶける)という魂胆がみえみえの裁判
官しかみておりませんので、判決を選んだことに、どうも実感がわきません。

 さて、裁判の話題のついでに、民事裁判の訴訟行為につき、世間一般の勘違いを
解いておきましょう。

 世間一般では、原告と被告が向かい合って丁々発止をし、それを裁判所がジャッ
ジするもの(相撲型)だと誤解しているようですが、訴訟行為は原告と裁判所、被
告と裁判所の関係で(子供と先生の関係)、原告と被告の向かい合った構造ではあ
りません。下記でいうと(1)ではなく(2)です。


   (1)   裁判所    | (2)   裁判所
                |       ↑ ↑
        原 → 被   |       ↑ ↑
        告 ← 告   |      原告 被告


 要するに、「言い付けごっこ」であって、裁判所が両者の言い分を聞いて、ジャ
ッジするものです。

 「言い分」だから口頭弁論というのですが、実際には、期日と期日の間が長く、
途中で裁判官が交代することもあるので、言い分を書いた書面で判断される傾向に
あります。

 いずれにしろ、他人の紛争に関与する裁判官や弁護士はお気の毒というしかあり
ません。勝っても負けても依頼者から恨まれます(勝ち方が悪い、もっと勝てたの
に………と)。「島の裁判官奮闘記」の代理人弁護士は、依頼者から恨まれずに済
んだでしょうか。



2013.04.16(火)【休日】
(仙台・立花宏)

 忙しかった3月、そして、4月1日の登記業務も一段落し、先日の日曜日は久しぶ
りにゆっくりと過ごすことができました。

 そこで、前から見ようと思っていたDVDを視聴しました。数年前、NHKで放映
された「ジャッジ 島の裁判官奮闘記」というドラマです。

 ある若手のエリート裁判官三沢恭介が南の島の裁判所に赴任した、という設定です。
その島には裁判官はひとりしかいません。その島の裁判はすべて三沢が行います。島
独特の文化や人間関係、経済状況を背景にした事件を担当し、単純な善悪のものさし
では計れない判断を迫られ、戸惑い苦しみながらも成長していく三沢の姿を描くとい
うドラマです。ちなみにこのドラマは、初回のシリーズと続編のシリーズがあり、今
回は続編のシリーズの第1回を見ました。

 ある日、島の小学校で事件は起こります。
 休日開放されていた小学校の校庭の中のテニスコート。そこでテニスを楽しんでい
た一組の夫婦。夫婦がテニスに夢中になる中、その夫婦の幼い子供がテニスの審判台
にのぼり、そして、背もたれを乗り越え、背もたれの方から降りようとします。その
瞬間、審判台が倒れ、夫婦の幼い子供が大怪我をしてしまいます。

 夫婦は、その小学校施設の設置管理者である町の設置管理に落ち度があったとして、
町を相手に損害賠償請求訴訟を起こします。

 すぐ傍にいた保護者である夫婦にも落ち度があるのではないか、というのが三沢の
心証のようです。島という、せまいコミュニティの中での出来事。三沢は和解での解
決が望ましいと考えます。

 しかし、訴訟を起こした夫婦は、あくまでも町の責任を追及したいと考えており、
態度が強硬で和解はうまくいきません。

 そんなある日、ある出来事が起こります。三沢の娘の友人達数人が三沢の自宅に遊
びに来ていました。小学校低学年である子供たち。家の中を走り回ります。そのうち、
子供のひとりがテーブルに頭をぶつけ、怪我をします。数針縫う、大きな怪我です。

 三沢は、次の休日、怪我をした子供の自宅に行き、保護者である親に謝罪します。
 しかし、その親は言いました。
「せっかくご自宅を子供たちの遊び場に提供してくれたのに、こんなご迷惑をおかけ
してすみません。これに懲りず、また、三沢さんのご自宅で遊ばせてくださいね。」

 ほっとして自宅に戻ろうとするその途中、三沢は裁判の対象となっている小学校の
前を通りかかります。すると、小学校に看板があり、校庭の休日開放は中止し、休日
は立ち入りを禁止すると書いてあります。校庭で遊ぼうと学校に来たのに入れず、残
念がる子供たち。楽しみにしていたゲートボールができないと、がっかりして帰路に
つく老人たち。そんな姿を見かけます。

 自宅での出来事、三沢の自宅で怪我をした子供の親との交流、そして小学校の校庭
の休日開放の禁止。そんな出来事を見て、三沢は思い悩みます。

 三沢は、裁判の当事者に和解を中止し、判決を書かせてほしいと宣言します。望む
ところだ、と意気込む夫婦。不安な表情を浮かべる町の担当者。

 後日、三沢は原告、つまり夫婦の敗訴の判決を出します。判決に不満をいだき、怒
りに震える夫婦。夫婦の代理人弁護士は、夫婦を事務所につれていき、判決理由を説
明します。勝訴を勝ち取れなかった代理人弁護士にも不満な態度を示す夫婦に、代理
人弁護士は夫婦の目をしっかりと見ながら、ゆっくりと、落ち着いた態度で語りかけ
ます。

 「今回の事故は、幼児が審判台の背もたれの側からおりるという、設置管理者の予
測し得ない危険な行動から生じた。設置管理者の予測し得ない、あらゆる行為から生
じる不測の事態について、設置管理者に責任を負わせるということは、設置管理者に
不可能を強いることになる。その結果、設置管理者はそこまでは責任を負えないと子
供たちが校庭で遊ぶことを禁じ、子供たちは危険な路上で遊ぶことになる。それでよ
いのだろうか。そして、この社会の中で子供たちの命を守るのは果たして誰なのだろ
うか。この判決はそのようなことまで問いかけた判決なのだと思います。」

 この判決の是非についてはいろいろな考え方があると思います。
 しかし、私は判決の是非よりも、三沢、そしてこの代理人弁護士の姿勢に考えさせ
られました。

 私たち司法書士も法律を扱う職業です。依頼人の意向と法律との挟間で思い悩むこ
ともあります。司法書士である自分は、そのとき三沢のように、そしてこの代理人弁
護士のように、事件に、そして依頼人に向き合い、真摯に対応することができている
だろうか。

 このドラマのおかげで、充実した休日を過ごすことができました。



2013.04.15(月)【新島襄のふるさと】
(金子登志雄)

 土曜日は日帰りで上州(群馬県)に帰省しました。帰省先は上州の妙義山と信州
(長野県)の浅間山が美しくみえる県境の町(碓氷=うすい=峠の麓)であり、以
前は碓氷郡といいましたが、いまは市町村合併で安中(あんなか)市の一部になっ
ています。そのため、私自身にとっては、「安中=郷里」という意識がなく、隣町
でしょうか。

 この安中を郷里とする有名人の1人に新島襄がいます。NHK大河ドラマ「八重
の桜」の八重の夫で同志社大学の創始者といったほうが若い人には通じやすいかも
しれません。

 (新島襄旧宅)
  http://hazukimap.sakura.ne.jp/guide/10g/annaka/10211K002.htm

 安中市にはキリスト教系の中学・高校として新島襄の安中の弟子達が作った「新
島学園」もあり、私も受験したことがあります(最終的には公立高校を選択しまし
たが)。

 そこの先生が指導する町内の学習塾にも中学3年生の時に通ったことがありまし
たが、簡単な英会話を指導してくれた外国人教師が「kaneko」を「カヌケ」と発音
するので、「まぬけ」と呼ばれたような気分に陥ったことを今でもよく覚えていま
す(フランス語系統は、「ne」を「ヌ」と読みますから、この先生のルーツはフラ
ンス語系だったのかもしれません)。

 新島襄は、「夫が東を向けと言ったら、3年も東を向いているような女性は嫌」
だと八重と結婚したそうですが、当時はそういう女性が多かったのでしょうか。
「夫が東を向けと言ったら、3年も【西】を向いているような女性」の多い現代に
生きている我ら男性陣からすると、当時に戻ってみたいものですね。


2013.04.12(金)【見極め能力】
(金子登志雄)

 商業登記専門司法書士は、書入れの4月1日申請の登記もほぼ終わり、顧客に登
記後謄本と請求書をお届けし、ほっと一安心している頃でしょうか。私も1日付申
請の案件はほぼ9割がた終わりました。

 合併や吸収分割の案件もあり、最近は、登記だけでなく事後開示書面のことまで
相談を受けることが増えましたので、まだ完全に仕事が終わったというわけではあ
りませんが、山を越えたという心境です。

 ところで、組織再編手続が典型例ですが、最近は、契約書案や議事録案につき、
われわれに丸投げせずに、会社自身で作成することが増えたように感じていますが、
皆様のところではいかがですか。

 それはそれでよいことなんですが、私の流儀は省エネで、できるだけ簡潔で明瞭
なものを目指しますが、会社のご担当者の方は、できるだけ詳しいものを目指す傾
向にあり、当方のチェックも気を使います。

 例えば、会社のご担当者は合併契約書の中に定款変更内容や増員役員の氏名を加
えたがりますが、私はそれは避ける趣旨です。前者の方式ですと、合併契約の中の
定款変更内容や取締役候補の氏名と株主総会議案の内容と完全に一致しているかな
どのチェックも必要となり、手続の負担が増えてしまいます。
 
 合併契約の中の定款変更の目的では、ある部分が「及び」なのに、株主総会では
「および」だった、合併契約の中の取締役候補の氏名が「髙橋一朗」なのに、株主
総会議案では「【高】橋一【郎】」だったなどということがよくあります。

 こういうチェックも仕事のうちですが、せっかく熱心に作っていただいた書類に
対して、「ここをこう直していただけませんか」と要求するのは気が引けますので、
これなら登記も大丈夫という見極めの判断がわれわれに求められるようになったと
いえましょう。


2013.04.11(木)【法務心理カウンセラー】(金子登志雄)

 いまだに、合併で株式を発行するが、資本金は増やさなくていいのかという化石
のような質問を同職からよく受けます。

 ほんとうは不要であることを頭では分かっているのでしょうが、経験が少なく不
安のため、私に「大丈夫だ」と背中を押してほしいのでしょう。

 こういうとき多くの商業登記専門家は「大丈夫だよ。何度も経験してるから」な
どとだけ答えるようですが、私はちゃんと理由を説明します。これができなければ
一人前の法務心理カウンセラーとはいえないと思っています。

 私だったら「株式を発行して資本金を増やすのは額面株式の発想であり、無額面
に一元化された平成13年の金庫株改正法以来、合併や株式交換で株式を発行して
も1円も増やす必要がありません。設立や増資の際は出資額の半分以上を資本金に
しなくてはなりませんが、合併等の組織再編は会社法445条5項で、そうする必
要がありません」と丁寧に答えます。

 これにプラスして、「先日、新日鐵と住金が株式交換したときも、ゼネコンのハ
ザマが安藤建設が合併したときも同じだよ。上場会社をはじめ大量の事例があるか
ら心配しなくていいよ」と実例をあげて説明することもあります。

 相手が優秀な方の場合は、会社計算規則の条文を示すこともあります。

 商業登記に詳しい同職の方も、条文の根拠、背景、実例………このうち2つ程度
を示して、不安な方の背中を押してあげましょう。


2013.04.10(水)【転換から取得へ】(金子登志雄)

 地方の司法書士と話していましたら、地方では種類株式が少ないため、いまだに
旧商法時代の株式の「転換」と新会社法の株式の「取得」の差が十分に理解されて
いないとの話でした。

 さて、次の左側の会社のA種種類株式100株が取得請求され、普通株式100
株が交付された場合には、右側のような登記(A種種類株式は100株減で普通株
式が100株増、発行済みは不変)になるということでよろしいでしょうか。

 発行済株式の総数         |  発行済株式の総数
   1200株          |    1200株  
 各種の株式の数          |  各種の株式の数
   普通株式    1000株  |    普通株式    1100株
   A種種類株式   200株  |    A種種類株式   100株

 結論から言うと大間違いです。

 旧商法時代は、A種が普通株式に【転換】(種類の変更)するものだとされてお
り、原則として上記でよかったのですが、会社法では、転換ではなく会社がA種を
【取得】し、対価として普通株式を交付されるものだとされています。

 つまり、株式の種類の変更はなく、A種のうち100株が会社に【取得】され自
己株式になり(会社法155条4号)、対価たる普通株式が新株であれば普通株式
100株が増え、対価が普通株式の自己株式であれば(会社計算規則13条2項参
照)、普通株式の株数も変わりません。

 したがって、対価が自己株式であれば変更登記は必要ではなく、新株式であれば、
上記の左側が「発行済み株式の総数/1300株、普通株式/1100株、A種/
200株」という変更登記が必要になります(資本金額は変わりません。会社計算
規則15条)。

 この場合に、全体の発行済株式の総数を変えたくない場合は、同時に自己株式と
なったA種の消却手続が必要です。

 会社法が施行され、7年目に入った現在、転換と取得の差くらいは完全にマスタ
ーしておきたいものです。


2013.04.09(火)【独自の会社法表現】(金子登志雄)

 1つの文章の中に、「提案【を】する」と「提案する」が混在したら、悪文とい
われます。何と、会社法にこれがありました。

(例)
 319条
  ……株主が株主総会の目的である事項について【提案をした】場合において
 213条1項2号
  ……当該株主総会に議案を【提案した】取締役として法務省令で定めるもの

 たぶん、後者は前の文節が議案「を」となっているので、「議案を提案をした」
とすると日本語にならないから「提案した」にしたのでしょう。前者についても前
の表現を「株主総会の目的である事項【を】」としたら「提案した場合」とするの
でしょうが、1つの会社法に、このような表現が混在するのは適切ではありません。

 これだけでなく、会社法107条は「(の)【承認をした】ものとみなす」です
が、850条3項では「(を)【承認した】ものとみなす」です。

 思い出しました。昨年10月28日の本欄に書きましたが、466条では「定款
を変更する」ですが、他の部分では「定款の変更をする」でした。

 今になって考えますと、会社法の用語では、組織変更、株式交換、株式移転であ
って、組織の変更、株式の交換、株式の移転と使いませんが、株式分割、株式併合
については、株式の分割、株式の併合で1単語のようです。条文には「株式の分割
をする」とあり、「株式を分割する」という表現はありません。この流れからする
と「定款の変更をする」が正しく、「定款を変更する」のほうがミスかもしれませ
ん。

 ばかばかしいことのようですが、会社法の解釈について論文や解説を書くときの
注意事項の1つと戒めています。


2013.04.08(月)【登記申請基準日】(金子登志雄)

 土日の春の嵐は、当地区はほとんどの影響がありませんでしたが、所によっては
被災を受けた方もいらっしゃるようで、素直には喜べません。

 さて、4月4日の出版記念講演会では、「ずばり解説!株式と機関」の中から、
登記申請に際しては変更時点と申請時点のどちらを基準にするのかという点を中心
に話しました。

 例えば、平成24年6月28日横浜市在住の代表取締役Aの重任登記を現時点で
申請する場合に、Aが本年4月1日に東京都に住所を移転していたら、次の甲案と
乙案のどちらで申請するかなどといった論点です。

 甲案:【横浜市】代表取締役A、平成24年6月28日重任――――①
    【東京都】代表取締役A、平成25年4月1日住所移転―――②

 乙案:【東京都】代表取締役A、平成24年6月28日重任

 どちらの申請も可能ですが、私は乙案が本来の姿であって、登記申請時点の住所
で、「現在、東京都の住所のAがあの時(平成24年6月28日)代表取締役とし
て重任した」と登記すべきであって、「平成24年6月28日に(当時)横浜市在
住のAが代表取締役として重任した」という登記では不十分だと思うからです。

 なぜなら、上記①は②とセットではじめて完成品であり、①だけの登記を独立に
申請すると、登記申請人として記載する住所(東京都)と登記内容の住所(横浜市)
とで齟齬が生じてしまいます(住所移転の証明書をつければ①だけでも登記できま
すが、それはそれとしての話です)。

 平成25年4月1日にA社がB社を吸収合併し、それを停止条件にA社がC社に
商号変更した場合のB社の登記は「A社に合併し解散」ではなく「C社に合併し解
散」とするのが通常ですから、これと同様に、代表取締役の登記においても、申請
時点の商号や住所を基準にするのが本則だと私は考えています。


2013.04.05(金)【株主割当増資と割当通知】(金子登志雄)

 昨日の夜は、東京司法書士協同組合主催の「ずばり解説!株式と機関」と出版記
念講演会でした。終わった後は主催者と飲み会でした。

 講演会は、申込者多数でお断りしていたようで、出席できなかった方はごめんな
さい。

 さて、講義後に若手司法書士のKさんという方から「会社法204条3項に払込
期日の前日までに株式申込人に割当通知をしなければならないとありますが、株主
割当増資にもこの規定は適用されますか。どこの本を調べても書いてないので、登
記所に相談したら、必要だといわれましたが、先生はどう思いますか」と質問され
ました。

 そのときは、飲み会を前にして気が焦っていたので、「不要のはずですよ。条文
が手元にないので、あとで調べて回答します」と答えましたが、家に帰って条文を
みましたが、やはり不要でした。

 株主割当ての割当株数の通知は204条3項ではなく、202条4項です。
204条は3項までが株主割当てでない場合の規定になり、株主割当てには3項が
適用されませんから、期間短縮の同意書があれば1日で決議から登記まで可能です。

 ところで、Kさん!、私の前で「どこの本を調べても書いてないので」は、実に
まずいですよ。下記の本をお持ちですか。

http://www.amazon.co.jp/%E5%8B%9F%E9%9B%86%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%A8%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AE%E5%AE%9F%E5%8B%99-%E9%87%91%E5%AD%90-%E7%99%BB%E5%BF%97%E9%9B%84/dp/450299880X/ref=pd_sim_b_4

 この本の25頁「4.割当てに関する会社法204条の構造」や60頁に、その
ものの「ずばり解説!」が書いてありますよ。金子本の特徴は他のどこにも書いて
ないことが書いてあることです。さっそく買ってくださいね。


2013.04.04(木)【照会番号付登記情報】(金子登志雄)

 4月1日申請の登記の調査も着々と進んでいるようです。

 さて、会計監査人の登記や合併の登記においては、監査法人や合併消滅会社の登
記事項証明書を添付する必要がありますが、照会番号付の登記情報でもよいことに
なっています。

 その際は、登記申請書の添付書面の欄に、次のように記載します。

 登記事項証明書
  発行年月日:2013/03/29
  照会番号 :0092****01

 はじめてこの方法を知ったときは、「こんな便利な方法があるのか。同時に数社
の会計監査人の登記を申請するときは、全部にこの照会番号でいいのだろうな。こ
れで費用が安くなるじゃないか」と思い、実行してみましたら、「この照会番号で
は登記情報が閲覧できない」と登記所から電話が数件入りました。1申請に1個の
照会番号が必要のようで、2番目以降の後発登記所から電話があったわけです。

 また、この照会番号で申請中に、その照会番号の法人が登記中だと登記情報が取
得できないようで、登記の完了が遅れてしまうことがあることも知りました。

 4月1日に九州のA社が中国地方のB社を吸収合併し、同時に東京のC社がA社
を吸収合併する登記をしましたが、東京の登記申請用にA社の照会番号を取得して
いましたが使うのをやめました。なぜなら、九州で登記審査中はA社の登記情報が
取得することができないため、東京の合併審査が進まなくなってしまうからです。

 九州の合併登記ではB社につき照会番号を利用しました。こういう操作が上手に
できるようになったのも、照会番号で失敗した経験が役立ちました。皆様も1度、
失敗してみませんか。机上の知識が血となり肉となりますよ。


2013.04.03(水)【自治会に感謝】(島根・根来川弘充)

 私事ですが、昨年4月1日から先月の3月31日まで地元の自治会の会長をして
おりました。

 30世帯も満たない小さな自治会なのですが、それなりに、いろいろなお仕事が
ありました。各総会の出席をはじめとして、体育行事、福祉行事、清掃行事、お祭
りなど、付随した行事への下手間、市報の配布など、いままでほとんど関わってこ
なかっただっただけに、やってみて初めて実感しました。

 これらの仕事を次期会長に引き継がなければならないと思い、3月になってあわ
てて整理をしていたのですが、3月といえば、3月11日に東日本大震災があった
月です。被災された方には、家を失った方が多数おられます。これらの方々は、家
だけでなく自治体を失っておられる方も多数おられると思います。自治会を失うと
いうことは、本当に大変なことだろうと、改めて考えさせられました。

 自分が子供のときから知っている方々に囲まれてくらせる安心感というものは、
歴史を積んで得られるもので、決して一朝一夕には手には入れられないと思います。
この1年間、当たり前のもののありがたさに気づかされ、大変良い経験になりまし
た。


2013.04.02(火)【書き入れ時】(金子登志雄)

 昨4月1日は商業登記専門の司法書士事務所にとっては1年のうち最も書き入れ
時になります。4月1日付役員変更や組織再編がこの日に集中するためです。

 いつもは仕事の少ない私もこの日ばかりは数件の重要な登記の仕事があったため、
早起きして午前8時前から頑張りました。

 早起きしたのは午前10時半から当社の入社式があり、役員(監査役)として、
それに欠席するわけにも行かないため、それまでに全部の仕事を片付けねばならな
かったからです。

 こんなとき、愛用のパソコンが壊れたらどうしよう、電子申請が大量の申請でパ
ンクしたらどうしようなどと万が一のことまで心配してしまいますが、そのような
アクシデントもなく無事に申請も終わり午前10時には近所の東京法務局に添付書
類を届けることができました。

 東京法務局は例年であれば原本還付専用の出店が出ているのですが、今年は出て
おらず、思いのほか閑散としていました。あとで知ったのですが、今年は特に混雑
するとの見通しから、部屋の奥が専用の還付場所になっていたようです。

 入社式での新入社員は平成2年生まれでした。昭和はますます遠くなります。

 ちょうど知り合いに平成2年生まれがいますが、彼は監査法人に入社しました。
監査法人は3月決算会社への対応で、ただいま書き入れ時なので、入社式は2月に
済ませ、2月、3月は研修期間だったようです。

 当事務所も新人の入所式を2月に行うほど4月1日の仕事を増やしたいものです
が、長屋暮らしのお助け屋司法書士を気取っているようでは、永久に無理ですね。
人を採用すればその責任も重大ですから、いまの独り身の生活を満喫するほうが私
にはあっているでしょう。



2013.04.01(月)【効力発生日はいつまで延期できるか】(金子登志雄)

 今日から新年度の会社が多いですね。気持ちも新たにがんばりましょう。

 さて、株主総会で商号変更や目的変更を決議した場合に、その効力発生日はどの程度の
先まで大丈夫でしょうか。

 ある司法書士は1、2か月程度の先までが限度だといいます。もし、同様に思う方がい
らっしゃいましたら、ぜひ「ずばり解説!株式と機関」をご購入ください。そこに、6月
の定時総会で翌年4月1日の商号変更等を決議している事例が紹介されています。手間と
費用を考えると株主総会を簡単に開催できないので、9か月先でも許容されて当然です。

 では、合併等組織再編の効力発生日はどの程度延期することができるでしょうか。

 これに関しては、私は「できる・できない」以前に、1年も先に延期するニーズもない
だろう、長期の延期はいったん中止し、再決議すれば十分だからと思っていました。

 しかし、次をみてください。

 http://www.tsukubabank.co.jp/ir/denshi/pdf/tk/pub_20130312.pdf

 はじめは目を疑いました。平成26年7月1日は誤植で平成25年の7月の間違いだろ
うと思っていましたが、どうやら間違いなさそうです。

 http://www.tsukubabank.co.jp/ir/management/disclosed/pdf/130312_001.pdf

 筑波銀行は銀行であり上場会社でもありますから、きっと法務省等関係方面との調整も
済んでいることでしょう。

 いや、それにしても驚きました。私は、こういう常識に囚われずに斬新なことをする会
社が大好きです
(注:効力発生日の変更公告は消滅会社がなすものですから、上記は任意
公告です。念のため)。



2013.03.29(金)【会社分割の債権者】(金子登志雄)

 吸収分割する際に、分割会社でも債権者保護手続をすることが少なくありません
が、このときの催告書送付先につき、実務では全債権者にしてしまいますが、実は
債務が移転する債権者だけに催告すればよいことに気づいている法曹は意外に少な
いようです。債権者側から考えてください。    

       債権者A(引き続き甲の債権者)
      /債権者B(債務が乙に引き継がれる債権者)
     //
     甲(吸収分割会社)――――――――→乙(吸収分割承継会社)

 上記において、Aにとっては吸収分割があっても債務者は甲に変わりがありませ
んが、Bにとっては債務者が甲から乙に変わるのです。

 免責的債務引受けに債権者の承諾が必要であるのと同様に、Bは、この吸収分割
によって影響を受けますから、Bは債権者異議申述の催告先になりますが、Aはな
りません(注:分社型の吸収分割を前提にしています)。

 ただし、この吸収分割がAに対する詐害行為であれば、吸収分割とは別の法理で
Aを保護することが可能です。

 先日、債権者Aに対して詐害行為にならないのに、Aから吸収分割に異議が出さ
れたという相談を受けましたが、以上を十分に理解したうえで、債権者と話し合い
が必要でしょう。


2013.03.28(木)【2つの期間の満了日】(金子登志雄)

 会社の設立登記が終わりました。何と3月決算です。すぐに決算期が到来してし
まいますから、最初の事業年度を「会社成立時から平成26年3月31日まで」と
できないかなと考えましたが、会社計算規則59条2項には「【事業年度の末日を
変更する場合】における変更後の最初の事業年度については、1年6箇月(まで)」
となっており、無理のようです。

 もっとも、設立直後に定款を変更して「平成26年3月31日まで」とするのは
可能でしょう。

 ところで、民法142条によると、期間の末日が休日の場合は期間の満了日が翌
日に延びるとされています。今年の3月31日は日曜日ですから、この会社の決算
期は4月1日になるのでしょうか。

 そんなわけはありませんね。「4月1日から3月31日まで」という期間の定め
方の場合は「期日から期日まで」ですから、末日が休日でも期間は延長されません。

 民法142条の規定は、期間を1週間、10日間、1か月、1年などという定め
方にした場合のことでしょう。

 では、定款に「当社の事業年度は毎年4月1日から1年間とする」と定めた場合
は末日が休日であれば、翌日に延びるのでしょうか。

 こういうところに法律解釈の面白さがあります。機械的に考える人は民法の規定
に従い延びると主張し、バランス感覚(リーガルマインド)のある人は、そのよう
に定めても、定めた趣旨は翌年の3月31日までというものだから、3月31日が
休日でも翌日に延びることはないと考えるものです。

 満了日が1日延びて4月1日になるとしたら、翌期は「毎年4月1日から」とい
えなくなりますから、やはり後者が正しいというべきですね。


2013.03.27(水)【ずばり解説!会社の計算/完売御礼】(金子登志雄)

 昨年1月に発売しました拙著・東京司法書士協同組合刊「ずばり解説!」の第2
弾『会社の計算』が第1弾本同様に完売しました。ありがとうございました。

 印刷は確か3000部でした。東京会に所属する司法書士は3000人強(全国
では3万人)、その中で商業登記の仕事に従事している人が多くみて2000、そ
のうち「会社の計算」にまで関心のある人が都市部中心に700人程度(全国でも
1000~1500人か)とすると、よくもまぁ、売り切れたものです。きっと、
購入は非司法書士の方も多かったのでしょう。

 発刊は組合幹部の司法書士倉石裕子さんの発案でしたが、「会社の計算」がテー
マでは司法書士の間で売れるわけがないという周囲の声が多い中、倉石さんは「絶
対に売れる!」と確信を持っていたようですから、たいしたものです。

 私も書店で販売するのなら会計事務所を中心に4000部でも売れると思ってい
ましたが、書店販売なくして3000部は相当きついと思っていましたので、倉石
さんの見通しには脱帽です。

 以上に対して、全国の司法書士3万人中の少なくとも1万人に関心のあるはずの
「ずばり解説!」の第3弾『株式と機関』は売れ行きのスピードが『会社の計算』
よりもやや遅めなのは、なぜでしょうか。

 次から次へと会社法の本が出てきて食傷気味であることは理解できますが、第3
弾本には「増員と補欠」の差など、普通の本には書いてない実務の盲点など重要な
問題を多く取り上げていますので、やや意外な感がいたします。

 きっとまだ十分に出版が知られていないのでしょうが、来年の今頃は、「完売し
ました」と本欄でご報告できるよう、さらに頑張ります。


2013.03.26(火)【役員変更の登録免許税】(金子登志雄)

 季節の変わり目のためか、風邪を引いてしまい、土曜日は1日不調でしたが、翌
日には煙草もおいしく感じるよう復活していましたから、もう大丈夫です。

 さて、登録免許税法の別表によると、取締役等の辞任や交代などの役員変更に関
する登録免許税は「1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社又は一般社
団法人等については、1万円)」とあります。

 つまり、資本金1億円超の会社の役員変更の登録免許税は3万円で、資本金1億
円以下は1万円です。このあたりは司法書士の常識です。

 では、資本金1億円超の会社が減資し、資本金1億円以下になっり、それを登記
後数日を経て、資本金1億円超時代の取締役の辞任登記でも申請した場合の登録免
許税はいくらでしょうかという質問を受けました。

 申請時点を基準にすれば資本金1億円以下の会社の申請ですから1万円で、役員
変更の効力発生時点を基準にすれば3万円ということになります。まず間違いなく
当局は後者でしょうが、前者も一理ありそうな気がしませんか。このあたりは登録
免許税法もはっきりした書き方をしていません。

 お客様から辞任登記を頼むといわれ、登記簿をみたら、資本金が1億円以下だっ
たとすると、われわれも登記所も、うっかり、そのまま申請してしまいそうですね。


2013.03.25(月)【お花見】(金子登志雄)

 金曜日の夕方、当社の若い社員が集まっているので、どうしたのかと聞きました
ら、みんなで上野公園にお花見に行くのだとの答えでした。
 
 もう、そんな時期ですね。東京法務局からみえる皇居の北の丸公園の桜も満開で
すし、近くの靖国神社の桜も同様です。このままでは、入学式の時に桜が散ってし
まうのではと心配になるくらい早い開花です。

 北の丸公園にある武道館では大学の卒業式が行われますが、昔は「桜の咲く時期
の入学式」でしたが、地球の温暖化とともに、今後は「桜の咲く時期の卒業式」が
思い出になるのでしょうか。

 私は、中学校卒業式の答辞で、確か「3年前のあの桜の咲く時期の入学が昨日の
ように思い出されます」などという決まり文句を使った覚えがありますが、今後は
この表現が使えなくなるじゃないかと余計な心配をしてしまいました。

 もっとも、南北に長い日本での北海道や九州地区では、もともと「あの桜の咲く
時期の入学式」という表現は使えませんね。北海道の南端の松前城の桜は250種
類もあり、実に見事でしたが、今年は4月中下旬あたりが見どころでしょうか。ま
だまだ、満開でない場所が日本には多数あります。

   (さくら名所100選)
   http://www.mapple.net/sp_sakura/100.asp

 お花見といえば、春夏秋冬の四季のある国の特権であり、雨を表す単語も五月雨、
時雨、にわか雨、通り雨………と多数あり、これが日本語の優れているところだと
いわれていますが、ほんとにそうでしょうか。騎馬民族の西洋には、肉の種類とし
て、ロース、サーロインなど日本語にはない多数の表現がありますから、環境と歴
史の産物であり、言語の特徴とはいえても、優秀かどうかは別問題でしょう。



2013.03.22(金)【疑問の新人研修】(金子登志雄)

 立花さんは新人研修のご担当だったのですか。会の研修ですね。それなら認めま
す。

 昨日の投稿にあるように、司法書士試験合格者を対象とした新人研修は2か月間
近くあります。①全国の研修、②関東地区などブロック単位の研修、③地元司法書
士会の研修の3つです。

 この3つの研修を受けないと、司法書士会への入会を認めないところもあると聞
きましたが、実際はどうなのでしょうか。

 弁護士法には「司法修習生の修習を終えた者は、弁護士となる資格を有する」と
いう明文の規定がありますが、司法書士法にはありません。

 【修習も不要、学歴も不問、即開業できる】というのが司法書士の魅力と思って
いる私は、この①と②の研修には大きな疑問を持っています。

 私の場合は、合格証書をもらってすぐに登録しました。平成8年の12月のこと
でしたが、研修を受けたかは質問されませんでした。今から考えると、受験は神奈
川県で入会が東京だったため、どさくさに紛れたのかもしれません。

 したがって、研修は司法書士になってからのことでしたが、①と②の研修は泊ま
り込みで日中だったので拒否しました。役員を務める会社が株式公開したばかりで、
私自身多忙でしたし、カリキュラムをみても、憲法講義など実務に役立つとは思え
ない内容だったからです。

 また、私自身、若い頃の司法試験の受験経験やM&Aコンサルタントしての経歴
から、憲法でも民法・刑法・商法でも商業登記の実務でも、並の司法書士よりは、
ずっと詳しいという自信があったためです。

 仕事に影響の少ない夜の研修である東京会の研修には8割がた真面目に出席しま
したが、こちらのほうでは、私より若年の講師による「君たちは………」という上
目目線の講義に、「司法書士である前に社会人としての研修を積んで来い」と反発
したものでした。定年退職後に資格を取った方が共通に感じる感覚のようです。

 立花さんは脱サラ司法書士ですから、このあたりの配慮は行き届いていたと思い
ますが、入会の条件のようになっている研修の事実上の義務化についてはなんとか
ならないものでしょうか。会社を退職して無収入になっても受けなければならない
ほどの内容とは到底思えませんし(会社役員や他士業との兼業司法書士を目指して
いる人が2か月も仕事から離れるのは困難です)、研修は入会後でも十分に可能で
すから………。


2013.03.21【報告書】(仙台・立花宏)

 日曜日の午後、私は事務所の机に向かい、どのように報告書を書こうかと悩んで
いました。窓からは、春らしいやさしい陽射しが差し込んできています。

 その陽射しに、ほっとした気持ちになり、視線をパソコンの画面から窓の外へと
移しました。窓の外の春の景色に、なんとなく懐かしさを感じました。

 “7年前のあの日もこんな日だったな。”

 7年前、私は十数年間勤務した会社を退職しました。そして、おもに司法書士試
験合格者を対象とした2ヶ月ちかくに及ぶ新人向けの研修会を受講しました。はや
く一人前の司法書士になるんだ、と意気揚々と会社を退職したのはよかったものの、
司法書士としての進路はきまっておらず、研修を受けている間は無収入です。研修
を受けてみると、自分の実力のなさを思い知り、しばらくすると、心細く、不安な
気持ちばかりが湧いてきました。

 “会社を退職したのは正解だったのだろうか。”

 研修会の最終日、カリキュラムが終わり、帰宅するために会場を出て、ふと空を
見上げました。すると、やさしい春の陽射しが私に降り注いていることに気がつき
ました。

 まるで、空が、雲が、そして太陽が、“心配することないよ。きっと大丈夫。”
と語りかけてくれているようでした。

 「地元に戻って落ち着いたら連絡するよ。立花も進路が決まったら教えてくれよ
な。」、不意に、後ろから声をかけられました。一緒に研修を受けてきた仲間でし
た。

 “自分はひとりぼっちじゃない。”

 陽射しだけでなく、その言葉も、私の心にあたたかく降り注いだような気がしま
した。

 当時を思い出しながら私は視線をパソコンの画面へと戻し、報告書作成を再開し
ました。

 1月下旬から3月上旬までの約1ヶ月半、今年もおもに前年の司法書士試験合格
者を対象とした研修会が行われました。今年、私はその研修会の運営にたずさわる
機会をいただきました。その研修会の報告書を作成していたのです。

 受講生には、いろいろな経歴の方がいらっしゃいました。昔の私と同じように、
試験に合格後、長年勤めた会社を退職してこの研修に参加していた方もいらっしゃ
いました。きっと、一人前の司法書士になれるのか、司法書士としてやっていける
のか、そして成功できるのか、そんな不安な気持ちを抱えていたのに違いありませ
ん。

 私の担当した地区の受講生は、それぞれ個性はありましたが、皆、まじめで、思
いやりのある方ばかりでした。欠席や遅刻も許されない(やむを得ない事由の場合
は除きますが)厳しい研修です。受講生たちはお互い助け合いながら、この研修を
のりきりました。

 “この厳しい研修をのりこえたのだから、きっと大丈夫。それに、この研修で助
け合い、一緒にのりきった仲間はきっと、一生の財産になりますよ。”

 私はそんな気持ちになり、報告書を書き終えたのでした。



2013.03.19(火)【「0」と「―」の差】(金子登志雄)

 前期と当期の貸借対照表の比較表などをみておりますと、例えば「利益準備金0
(千円)」と「利益準備金―(千円)」とがありますが、その相違はご存知でしょ
うか。

 利益準備金が456円で、単位が「千円」であれば、切捨てで「0(千円)」と
し、利益準備金が0円(完全なゼロ)のときは、「―(千円)」と書きます。

 後者の場合は単年度では記載する意味もなく利益準備金の項目を設けないことで
対応しますが、前期には利益準備金があったため数値を記載し、当期を空白にする
のは適当ではないので、「―」を使うのでしょう。

 ところが、単年度でも資本金については項目を設けざるを得ません。ある決算公
告に「資本金―(千円)」とありましたが、これには違和感がありました。会社法
上は、0円もりっぱな資本金額とされており、「資本金なし」や「資本金―円」は、
数値を表示したとは思えないからです。

 となると、資本金456円と完全ゼロ円と単位を千円にしたときに区別して表記
できません。これも困りますね。どうしましょうか。


2013.03.18(月)【「0円以下」と「0円未満­」】(金子登志雄)

 土日を含め12日から事務所を留守にし旅行していました。平日で4日間連続で
休んだのは司法書士になって初めてです。3月でも、当事務所は月の中央は比較的
に時間をとれますし(言い換えると仕事も少なく、ヒマです)、ノートPCを持参
していれば、旅先でも仕事をできるからです。

 私と違って、うらやましいことに3月になってますますご多忙の司法書士新保さ
ゆりさんのブログ「司法書士のオシゴト」を旅先でみていましたら、新設分割の資
本金計上証明書で、「株主資本変動額0円以下」で登記を受理された例があること
が紹介されており、興味を持ちました。

 http://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/9bea4e3b626adb2d263b95acfadbd8b3

 改めて、会社計算規則49条2項をみますと、同条項には「新設分割設立会社の
資本金及び資本剰余金の額は、株主資本等変動額の範囲内で、新設分割会社が新設
分割計画の定めに従いそれぞれ定めた額とし、利益剰余金の額は零とする。ただし、
株主資本等変動額が【零未満】の場合には、当該株主資本等変動額をその他利益剰
余金の額とし、資本金、資本剰余金及び利益準備金の額は零とする」とありました。

 つまり、株主資本変動額が「0円以上」の場合は、その範囲で資本金を決めれば
よく、「0円未満」の場合は、決定するまでもなく、資本金は0円とするという規
定です。

 したがって、この規定からは、株主資本等変動額が「0円未満です」とだけ証明
すれば、「会社計算規則に従って資本金を計上した」という証明になるかなと思い
ましたが、「0円以下」では「0円」を含みますから、表現としては、不適切かな
と思いました。規定上は、株主資本等変動額が「0円」の場合も、0円と決定する
必要性があるからです。

 また、株主資本等変動額が3000万円強で、資本金への計上額が1000万円
のときは、「株主資本等変動額は金1000万円以上です」との証明では会社計算
規則49条2項に従って資本金額を1000万円にしたという証明書では不十分だ
とされている限り、「0円未満」もダメとする登記所もあるだろうと感じました。
いずれにしろ、面白い申請だと感じました。最初に実行した方の度胸(?)には、
驚きました。


2013.03.15(金)【債務超過会社の合併仕訳】(金子登志雄)

 債務超過会社の兄弟会社間の合併の計算が拙著を読んでも分からないといわれま
した。どうも、合併仕訳に違和感があったようです。

      甲                  乙(債務超過会社)
 ――――――――――――――――   ――――――――――――――――    
 資産100|負  債    10   資産80|負  債    100
      |資 本 金    10       |資 本 金     10
      |その他利益剰余金80       |その他利益剰余金△30


 上記の甲乙合併で、計算規則35条の通常の合併の場合は、甲の貸借対照表に、
乙の資産、負債、株主資本(資本金とその他利益剰余金の合計△20)が次のよう
に加算されます。

                 甲             
            ――――――――――――――     
            資産+80|負  債+100
                 |株主資本+△20

 この「株主資本+△20」とは、甲の「その他利益剰余金が20減少する」とい
う意味ですから、そのまま上記の株主資本をその他利益剰余金に書き直せばよいの
ですが、仕訳では、△を使いません。右側の「その他利益剰余金」が減額される場
合は、次のとおり左側に書くのです。

                 甲             
          ――――――――――――――――     
          資産      80|負債100
          その他利益剰余金20|

 右側の勘定科目が減少する場合は仕訳の左側に書くというだけのことですが、こ
れが理由で、苦手意識を持つ司法書士が少ないようです。皆さんは大丈夫ですか。



2013.03.14(木)【文章力向上】
(金子登志雄)

 2月21日付本欄の富田氏の投稿に「人に伝える文章を書くことの難しさを実感
し」とありましたが、物書きは誤解を与えない文章を作らなければなりません。

 先般、会社法318条2項の「株式会社は、株主総会の日から10年間、前項の
議事録をその本店に備え置かなければならない」につき、「株主総会の日から備え
置かなければならない」と誤解して読む人がいることをご紹介しました。

 それを知ったら、「株式会社は、株主総会の日から【起算して】10年間、前項
の議事録をその本店に備え置かなければならない」と【起算して】を挿入した解説
書にすればよいわけです。

 会社法349条3項に「株式会社は、定款、【定款の定めに基づく取締役の互選
又は株主総会の決議】によって、【取締役の中から】代表取締役を定めることがで
きる」とあります。

 これを「定款の定めに基づく株主総会の決議」と読む人や「取締役の中から」を
「取締役の中から適任者を」と読んでしまう人がいます。こう読んでしまうと取締
役全員を代表取締役に定めることができない解釈になりがちですが、この「取締役
の中から」とは、株主の中から取締役を選ぶという定款のよくある定めと同様に、
代表取締役は取締役以外から選んではいけないという意味に過ぎません。

 誤解されないためには、この文章を「株式会社は、その取締役を、定款、株主総
会の決議又は定款の定めに基づく取締役の互選で代表取締役に定めることができる」
とすればよいわけです。文章的には「株式会社は、株主総会の決議により、又は定
款、定款の定めに基づく取締役の互選により、その取締役を代表取締役に定めるこ
とができる」の配列のほうがすっきりした日本語になるでしょう。

 物書きは、こういう試行錯誤も必要ですが、他の物書き司法書士の皆さんは、意
識しているだろうか。


2013.03.13(水)【人騒がせなツジ(辻)の字】(金子登志雄)

 昨日に引き続き、文字の話ですが、皆さんのお手元のパソコンで、「辻」と打っ
てください。これでパソコンの新旧が分かります。

 古いパソコンだと、「辺」の左側と同じ「1点シンニョウ」ですが、新しいパソ
コンだと「迄」と同じく「2点シンニョウ」で出てきます。

 ツジさんという役員の登記で、あわててしまいました。登記簿では「1点シンニ
ョウ」なのに、その文字が愛用のパソコンになかったからです。こんなありふれた
文字がないわけがないと、探しまくってしまいました。

 あきらめて、ネットで原因を究明してみましたら、次でした。

  http://legal.blogat.jp/legal_blog/2013/02/post-c608.html

 このブログのリーガルさんは、靴の会社ではありません。愛媛県にある司法書士
ソフトの会社であり、私も親しくさせてもらっています。私のパソコン顧問といっ
たほうが正確かもしれません。いつも助けてもらっています。

 ツジさんの会社に問い合わせましたら、印鑑証明は「1点シンニョウ」だったそ
うです。試しに、古いパソコンから「1点シンニョウ」のツジをメールしましたら、
新しいパソコンでは「2点シンニョウ」で出てきました。

 当面は印鑑証明に合わせて登記しておきますが、正字としては「2点シンニョウ」
のようですから、ツジさんの戸籍謄本をみてみたいものです。


2013.03.12(火)【同時申請と受付番号】(金子登志雄)

 Aが同一管轄のBに吸収分割し、同時にAをCに商号変更したとします。この時
の登記は次のようにします。

(1/2申請:Bの登記)
       Aから分割(Cから分割?)
(2/2申請:Aの登記)
       Bに分割
       Cに商号変更

 「Cに商号変更」を2/2の分割と一緒に申請すると、登録免許税が3万円助か
ります。

 さて、1/2申請ですが、Aから分割は何の問題もありませんが、Cから分割と
することはできないでしょうか。

 先般の東京法務局との質疑応答に「登記官は受付番号順に登記しなければならな
い」とし、「Aからの分割」だとありました。別の問題点の関連で、そう答えただ
けで「Cからの分割」を否定したものかは不明ですが、もし、否定したものだとし
たら、「受付番号順」ということと吸収分割の「同時申請」との関係について質問
してみたいと思いました。

 商業登記界の大御所である神崎先生に確認したところ、古くから上記のような場
合は、例えば、受付番号11、受付番号12とするが、備考欄に同時申請である旨
を受付番号欄に記載するとのことです。

 したがって、私は、受付番号を11、12のように順に記載したとしても、これ
は、同時に申請されたので、正しくは「11の1」と「11の2」のことだから、
「Cからの分割」も可能ではないかと思っています。

 なお、平成21年4月に、某上場会社が東京法務局管内で、「Cからの分割」で
登記をしています。

 ちなみに、本文とは無関係ですが、商業登記法21条は「受【付】番号」であり
ながら、23条は「受【附】番号」でした。途中で改正されたのでしょうが、見落
としですね。


2013.03.11(月)【株式投資】(金子登志雄)

 アベノミクスかアベのリスクか知りませんが、ここ数か月間、株価が上がり続け
ていますね。参議院選挙までは、この勢いを維持させるのがアベ戦略でしょう。

 http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=998407.O

 私も、バスに乗り遅れるなと、4月に納付する所得税と消費税分として準備して
いる資金を利用して短期勝負しようと、某銘柄を「指値(さしね)」で先週の1週
間注文していましたが、その値段まで下がることなく買えませんでした。きっと、
神様が今回はやめておけと指示してくれたのでしょう。

司法書士で株式投資をする人は少ないようですが、私は証券業務も営む信託銀行
出身ですし、過去の1時期、投資顧問業の会社の立上げにも参加したことがありま
すので、若い頃は、よくやっていました。

 何度か大損もしましたが、振り返ってみると、そのほとんどが証券会社や人に勧
められて、あるいはお付き合いで購入した場合でした。その人に遠慮して逃げ足が
鈍ったためです。

 だいたい、こういう誘いに応じてしまうのは、懐が豊かな時です。オレオレ詐欺
と同じで、ゆとりがなければ、お誘いには応じられません。

 それを含めて、損をしても決して他人や会社のせいにしないという「自己責任」
の勉強には、株式投資はうってつけでした。

 また、株式投資のことも知っているため、上場会社に対する法務コンサルティン
グにも幅ができたようです。上場会社では顧客からのクレームと同様に、株主から
のクレームに敏感だからです。

 3月を過ぎれば、6月の定時株主総会の準備に、司法書士の応援が必要ですね。
登記できない議案であっては困りますから………。私の場合は、それだけでなく、
株主からもクレームが来ないような表現をしているか、誤字脱字はないかのチェッ
クもしています。


2013.03.08(金)【機関設置と株主名簿管理人】(金子登志雄)

 株主名簿管理人についての別の話題です。

 会社法326条2項に「株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、
監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を【置くことができる】」とありますが、
機関設置の問題なので、定款には「(取締役会を)置くことが【できる】」といっ
た定め方をしてはならないとされています。

 この定款の定め方では、結果的に置くのか置かないのかの決定を定款以外で決定
することになるからだとされています(『論点解説/新・会社法』271頁)。

 こういうと、本欄閲覧の方は、「では、なぜ条文に『置くことができる』などと
いう表現をしたのか」と疑問に思うでしょうが、これは「定款の定めによって置く
ことができるのであって、定款以外では置いてはいけない」という趣旨です。

 一方、会社法123条には「株式会社は、株主名簿管理人を【置く旨】を定款で
定め、当該事務を行うことを委託することができる」とあり、「株主名簿管理人を
置くことができる旨」となっておりません。

 株主名簿管理人は機関ではありませんが、結果的に置くのか置かないのかの決定
を定款以外で決定してはいけない点は同じでしょう。

 しかし、「置くことができる」と定款に定めている会社も存在します。

 http://ke.kabupro.jp/tsp/20090513/140120090512085697.pdf
 http://www.mito.co.jp/ir/pdf/teikan65.pdf
 http://www.yokogawa.co.jp/cp/corporate/cp-corp-teikan.htm

 この差を考えると、私は相澤他編著『論点解説/新・会社法』が「置くことがで
きるとの定めは無効」としているのは行き過ぎで、「置くことができる」という表
現を定款に定めることが許されるが、置くのか置かないのかが自由であるという趣
旨であってはいけないという意味だと解釈しています。

 機関の場合は機関設置を定めたら、速やかに機関を置かねばならないが、株主名
簿管理人を実際に置くのは、遅滞なくでよいといった解釈が株主名簿管理人につい
ては「置くことができる」という表現が公認されている理由ではないかと思ってい
ます。

 ほんと、法律家はどうでもよいこと(?)に、こだわりますね。


2013.03.07(木)【株主名簿代理人の登記】(金子登志雄)

 株主名簿代理人の廃止の登記をしました。登記すべき事項は「平成〇年〇月〇日廃
止」と思うでしょうが、正しくは「平成〇年〇月〇日株主名簿管理人○○信託銀行株
式会社を廃止」です。そのとおりに登記に記録されます

 支店の廃止の場合も登記記録上は「平成〇年〇月〇日廃止」ですが、登記すべき事
項では「平成〇年〇月〇日横浜市〇〇区………の支店(を)廃止」とします。支店所
在地の登記記録も同じです。

 なぜ、支店の場所まで特定して記載・記録するかというと、支店は複数存在するこ
とができるので、そのうちのどれかを特定しなければならないからです。

 これから推測して、株主名簿管理人についても複数存在することが許容されている
ので、「平成〇年〇月〇日株主名簿管理人○○信託銀行株式会社を廃止」と特定する
のでしょう。もっとも、株主名簿管理人を複数「設置」した会社はみたことがありま
せん(実例がありましたら、ぜひご連絡ください)。

 もう1つ面白いのは、支店と株主名簿代理人は「平成〇年〇月〇日設置」という登
記であって、決して「平成〇年〇月〇日設定」とか「平成〇年〇月〇日就任」などと
しません。

 株主名簿代理人の登記すべき事項は「名称及び住所並びに営業所」です。したがっ
て、株主名簿代理人という「人」を登記するというよりも、「営業所という場所」を
登記することに主眼があるのです。

 ふだん、こんなことを考えもしませんし気づきもしませんが、何かの拍子に、ふと
気づくことがあります。そんなとき、また「プロ度(合い)」「ベテラン度」が増し
たかなと、ちょっといい気分になってしまいます。

 は? ヒマすぎるから? そうかもしれませんね。



2013.03.06(水)【SNS】(金子登志雄)

 根来川さんが本欄でSNS(ソーシャルネットワークシステム)を取り上げたら、
何の偶然か、私のお客様の1人から「LinkedInでつながってください。よろしくお
願いいたします」というメールが舞い込みました。

 SNSとは登録会員制のネットコミュニティーで掲示板みたいなものですよね。
PC音痴にとっては全く分からない別世界ですが、信頼できるお客様ですから、お
っかなびっくりOKしましたら、自己紹介のプロフィルを登録せよなどという画面
になりましたので、そこで止まってしまいました。

 同居しているアクモス(上場会社です)の管理部長をしていた頃、株式掲示板で
株価などの面で、いろいろご批判を受けた経験がありますので、できるだけ自分を
晒さないようにしています。私の画像もネットではみつからないはずです。

 本徒然がブログ形式でないのも、私見の表明の内容が多いので(たまにはブログ
が炎上するような意見も出します)、質問や反論に対応していては仕事にも影響が
あると考えるからです。

 また、新しいものを受け入れる気力という年代の問題もあります。ちょうど80
歳代の年配者が銀行預金のカードも拒否し、ワープロさえ使わないのと同様に、私
の世代では、メールとインターネット検索ができれば十分で、それ以上の最先端に
まで進むには心理的な壁を乗り越えなければなりません。

 登記が電子申請になっても依然として紙申請しかしない司法書士事務所が多いの
も頷けます。私も、電子申請のセットアップは他人に任せ、操作だけ覚えました。

 昔、ビデオカメラで「私にも写せます」という次のような有名なCMがあり(こ
の女優さんはのちの参議院議長です)、素人でも購入するようになりました。

 http://www.youtube.com/watch?v=d9qahQrWmoI

 私より年配の女優さんが「私にも操作できます」というCMでもあり、仕事や私
生活に役立つと思えたらSNSに参加することにしましょう。



2013.03.05(火)【監視社会】(島根・根来川弘充)

 最近、犯人が逮捕されるにあたって、監視カメラが役に立っていると思います。安心し
て暮らすためには、犯人がすぐに逮捕されることは、とても良い事だと思います。

 ところで、昨年あたりから、私が出席した会合や行事について、それらに同席していな
い方から、「あの時、○○におられましたよね」とか、「○○さんと一緒でしたよね」と
いったことを言われるようになりました。聞けば、○○さんの某SNS(ソーシャルネッ
トワークシステム)の写真の中に私が写っていたというのです。

 私は、自分の個人情報については、インターネットを利用する場合は、割と気をつけて
いた方だと思います。

 SNSは、架空名義も、本人になりすますこともできると耳にしましたので、勧められ
ることは度々ありましたが、しない方が良いだろうと思い、まったくしていませんでした
(ちなみに、今もしていません。)

 しかし、このような事が、昨今身の回りで増えてきており、自分の知らないところで、
自分の情報が出回っていると思うと、もはや、自分がいつでも監視を受けているようで、
とても恐ろしい思いにさせられます。

 SNSを利用している方々は、大抵は「(私を)知り合いの中でしか情報は共有してい
ない」と思われているかもしれません。しかし、それが「知らない方には一切広まらない
」とまでの断言は、インターネットの性質上、まず誰もできないと思います。

 すでに何か犯罪事件で利用がされていたということも耳にしましたが、もっと大きな問
題になることは、そんなに遠くない将来だと思います。



2013.03.04(月)【予選補欠と定時総会】(金子登志雄)

 土日は田舎(群馬県)に帰省したところ、寒くて、「さすが東京より数度は寒い」
と思ってしまいましたが、低気圧の影響で全国的に寒かったようですね。県境の浅
間山も真っ白でした。皆様のところは、いかがだったでしょうか。

 さて、株主総会の決議はいつまで有効かについては会社法に規定がありませんが、
唯一,補欠役員については、会社法施行規則96条3項が「補欠の会社役員の選任
に係る決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがある場合を除き、当該決議
後最初に開催する定時株主総会の【開始の時まで】とする」と定めています。

 任期の場合は取締役でも監査役でも「定時株主総会の【終結の時まで】とする」
と定めているのに、補欠の場合は選任の効力の問題ですが「開始の時まで」です。
なぜでしょうか。

 これは、株主総会を開催するのであれば、その総会で改めて役員を選任すればよ
いので、次の株主総会の権限までを犯すのは行き過ぎだという発想でしょう。

 しかし、上記のとおり、定款で定めれば、補欠選任後第2回目以降の定時総会の
権限まで侵食することができます。

 そこで、監査役Aの補欠としてBがいるのに、Aが第2回目の定時総会終結と同
時に辞任すると意思を表明した時に、Aの後任としてCを選任することができるか
という問題が生じます。

 私は、補欠というのは容易に後任を選任することができない場合に備えた予備要
員(ピンチヒッター)だから、本件のように株主総会を開催して後任を選任するこ
とができる場合にまで予備要員の効果を認める必要はないという考えですが、皆様
はいかがお考えですか。


2013.03.01(金)【取締役選任権付株式】(金子登志雄)

 PC遠隔操作事件は、(マスコミ報道を信じない私にとっては案の定でしたが)、
冤罪の疑いが濃厚になってきたようです。警察が間違うことはあり得ると思います
が、許せないのは旧態依然とした報道の姿勢です。警察のリークに応じて、オタク
だ、非モテだと散々人権侵害しておきながら、今は知らぬ顔です。今にはじまった
ことではありませんが………。

 さて、2月6日の東京法務局との質疑応答に次のような内容がありました。

--------------------------------------------------------------------------
Q 取締役選任権付種類株式は全部の株式について定めなければならないのか。定
 款で取締役の員数を4名と定めている株式会社が、一部の種類株式についてのみ
 「取締役1名選任することができる。」といった定めを設けることができるか。

A できない。会社法108条1項9号の定めを定款に置くときは、取締役等を通
 常の株主総会で選任することはできず、全ての取締役等を種類株主総会において
 選任しなければならない(会社法347条)。また、会社法108条1項9号の定
 めは、会社法又は定款で定めた取締役等の員数に足りる数の取締役を選任するこ
 とができないときは、廃止されたものとみなされることから(会社法112条)、
 定款で取締役の員数を4名と定めているにもかかわらず、上記のような定めを設
 けると残りの3名が選任できないこととなる。この場合は、他の種類株式につい
 て「取締役を3名選任することができる。」といった定めを設けるか、「全ての
 種類株主が共同して開催する種類株主総会で取締役3名選任することができる。」
 といった定めを設ける必要がある。
---------------------------------------------------------------------------

 拙著『ずばり解説』ファイル2-27では、上記の定款の定めにつき、「全ての
種類株主が共同して開催する種類株主総会で取締役3名選任することができる」と
善解するものでしたが、東京法務局は、それを否定する見解でした。

 東京法務局の見解が全種類の株式について定めなければならないとするものかは、
まだ断定できません。法務省の登記記録例に次のような内容があります。

--------------------------------------------------------------------------
 普通株主は、種類株主総会において、定款所定の定数全ての取締役を選任するこ
とができる。
 第一種から第三種までの優先株主は、種類株主総会において、取締役を選任する
ことができない。
--------------------------------------------------------------------------

 取締役の全員を普通株主のみで定められるから、下2行はなくてもよいのか、全
種類に定める必要があるから、下2行も定めないと違法扱いになるのかです。

 はっきりいって、これは立法ミスでしょう。旧商法222条7項には、「全部の
種類の株式」について、定款で取締役を「選任することの可否」を定めよとありま
したが、会社法108条2項9号には、「当該種類株主を構成員とする種類株主総
会において」としか規定していないからです。当該種類株式以外にも定めよとは規
定していないのです。

 いずれにしろ、善解してくれないようですが、登記済みの場合にまで、定款変更
しない限り、役員選任登記を受け付けないとまでは断定できませんので(こういう
質疑応答は個別の回答であって一般化するのは危険です)、今後の処理に迷うとこ
ろです。



2013.02.28(木)【生き残る司法書士事務所】(金子登志雄)

 2月も今日で終わりですが、司法書士各位は確定申告は済んだでしょうか。

 さて、日曜日は、のんびり司法書士受験生のネット掲示板などをみて過ごしま
したが、相変わらず「司法書士では食えない」などという話題ばかりでした。中
には、現役司法書士の廃業挨拶のような投稿もありました。

 私のような年代になりますと、この投稿は現役司法書士を騙(かた)った受験
ライバル落としの投稿あるいは万年受験生のひがみ投稿だとすぐに分かりますの
で相手にしませんが、真面目に反応している人も少なくありませんでした。

 資格をとって他事務所で数年間修行して開業しただけで食えるわけがありませ
ん。そんなのは当たり前のことで、弁護士や医者でも同じことです。

 そんなことよりも私は司法書士業の魅力の1つは設備投資が要らないことだと
思っています。街を歩いていると、飲食店が開業し数か月後に廃業している場面
をよく目にしますが、あの設備費用はいくらだったのだろうか、経営者や従業員
は今後どうして生活して行くのだろうかと、つい思ってしまいます。

 司法書士の場合は、設備投資も不要で従業員を雇う必要もないのですから、こ
んな恵まれた商売はないとさえ思っています。机1つだけでできる仕事は、それ
ほどあるものではありません。

 ただし、いきなりの開業はやはりリスクがありますので、はじめのうちは雇わ
れ司法書士、次はボスの事務所で机を借りてボスの仕事もし、自分の仕事も取っ
てくるという半独立にし、それで自分の顧客が増えてから独立するのが理想的で
しょう。

 ………と偉そうなことを言っていますが、私自身、事実上は兼業司法書士です
から、専業司法書士の独立の苦労は知りません。ただ、仲間の富田氏などの独立
の苦労を横目でみていますと、一旦ついたお客から信頼され、次の仕事も任され
たり、他の顧客を紹介してもらえるような「実力と信頼」を勝ち得た司法書士だ
けは今後も生き残るということでしょうか。


2013.02.27(水)【名前のつけ方】(大阪・田中利和)

 山本さん,確かに名前のつけ方は難しいですね。子供に名前につける「命名」も
その一つでしょう。字画等を気にすると,使いたい字で名付けられなくなったりし
ます。私も自分の子供に名前をつけるとき苦労した覚えがあります。

 さて,会社法の世界においては,株式に種類があれば,その種類の株式に名前
(名称)をつけ,その内容と共にこれを登記します。

 当初から発行している株式を普通株式とし,その内容に優先配当が付されている
株式を新たに発行する場合には,A種類株式,甲種類株式といった名称をつけるこ
とになるでしょう。

 しかし,会社法上,特に株式の名称のつけ方には規定がないように思いますから,
釣り好きの私が起業し,種類株式を発行する場合には,理屈の上では,「鮭株式」
「アマゴ株式」「鮎株式」などとネーミングすることも可能でしょうか(^_^;)

 例えば,鮭株式には全部取得条項を付けたとすると,官報に株券提出公告をする
場合は,「当社は,全部取得条項付種類株式である”鮭株式”の全部を取得するこ
とにいたしましたので当該株券を所有する方は・・・いついつまでに当社にご提出
ください」などと公告することになるのでしょうね。

 鮭株式であるが故に,生れた(=発行された)川(=会社)に戻ってる。このよ
うな種類株式の名称も,味わい深い名前のつけ方だと思うのですが・・・。



2013.02.26(火)【あなたは何をする人?】
(岡山・山本直樹)

 当事務所のお客様に佐藤工務店(仮名)という会社があります。本格木造住宅を
建築する住宅メーカーです。

 その社長から、新入社員(大工)の採用面接をする際にびっくりするような話を
されることがあるんですよという話を聞きました。

 なんと、採用応募してくる方から、「佐藤工務店は、家も建てているですか?」
と逆質問されるのだそうです。

 質問した方は、佐藤工務店が会社近くの公共物の改修工事をしていたため、「ゼ
ネコン等の下請業者」という風に誤解していたみたいでした。

 就職斡旋の会社の方の話によると、市内の住宅メーカーのほとんどが「○○住宅」
「○○ハウス」という建物を連想させる会社名であり、「工務店」の会社名で住宅
を建築しているのは2、3社とのこと。

 佐藤社長は「会社の認識」と「一般の方の見方(イメージ)」があまりに乖離し
ていたのでびっくりされていました。

 私は、ときどき離婚の相談を受けるのですが、「司法書士も離婚の相談を聞いて
くれるのですね。」とびっくりされることがあります。

 たしかに「司法書士」というネーミングでは、何をしてくれる人かわかりにくい
ですね(苦笑)

 一般の方で「行政書士」と「司法書士」の違いを正確に理解している方はあまり
いないのではないしょうか。

 私は「司法書士」と「行政書士」の兼業者ですので、依頼者の方が間違っていて
も、あえて訂正していません(笑)

 それにしても名前のつけ方は難しいですね!


2013.02.25(月)【大阪訪問(原本還付の地域性)】(金子登志雄)

 23日の土曜日は大阪司法書士会で「会社の計算」についての講義でした(研修
担当の皆様、お世話になりました)。旧商法時代から通算すると、大阪は4、5回
目の久々の訪問になります。

 4時間の講義でしたが、1時間ごとに休みをとりましたので、居眠りしている人
もほとんどおらず、何とか成功に終わったのではないかと思っています。

 講義後に聞きましたところ、大阪では商業登記庁が4つに、京都、兵庫、奈良、
滋賀、和歌山は1つに統合されていました。

 この結果、近くに登記所がなくなった司法書士は会社の設立や役員変更のような
日常的な仕事を除き、商業登記(増減資や再編)全般には関心が薄くなったのか、
商業登記に熱心な司法書士は都市部に限られてきたように感じました。この日の参
加者も都市部の事務所に勤務している若手らしい雰囲気の方が多かった印象です。

 これに対して登記所サイドのほうは、人事異動の関係もあり、必ずしも商業登記
に詳しい法務事務官が調査官になっているとはいえないのか、募集株式の発行で払
込期日前の申込証拠金を払込期日での入金でないことをもって否定する低レベルの
調査官もおられたとの話を聞きました。

 意外だったのは、原本還付に関する取扱いの地域性です。東京や横浜では、登記
申請時に原本を還付してもらえますが、大阪や名古屋では登記が完了するまで原本
を預けねばならないようで、それも想像以上にかたくななようです。これでは、郵
送処理しない場合は、登記申請時と原本還付時の2回も登記所に行かなければなら
ず、時代の流れに反するのではないでしょうか。

 12日の本欄で、会社法318条2項を根拠に、株主総会議事録は株主総会の日
から本店に備え置かなければならないという意見が登記所内にもあったと紹介しま
したが、この株主総会議事録が登記の添付書面であったら、登記所が会社の本店で
の備置義務の妨害をしていることになります。全国の登記所で登記申請時の原本還
付を認めるべきではないでしょうか。


2013.02.22(金)【本日も待機中】(金子登志雄)

 富田センセいわく、「金子先生の背中が見えない」―――、何をおっしゃいま
すか、それは私の前を走っているからでしょうに………。

 確かに会社法については、知識も経験も私の方が上ですが、富田さんのように、
不動産登記も〇〇も△△もというオールラウンド・プレーヤーではありません。
富田さんご専門(?)のプロレスや腕時計の知識に至っては「ない」も同然です。

 富田さんはじめ、司法書士会には優れた先生が少なくありませんが、たまたま
会社法の世界では、会社法「職人(オタク?)」が少ないというだけの話です。

 10年前に大阪で講演した際には、紹介者の土井司法書士から「金子先生は酒
の席でも会社法の話しかしない先生だと聞いています」と紹介され、苦笑してし
まったことがありますが、確かに、話し相手が法律関係の人だと、思い当たるこ
とばかりです。法律関係以外の人が相手だと、人並みに政治などの井戸端談議を
しているのですが………。

 司法書士の中に、会社法「職人」が少ないのは、商業登記だけでは生活が成り
立たないことが原因でしょう。先日お会いした都内の商業登記中心の事務所の方
も、役員変更登記がめっきり減ったため(取締役の任期が10年になったため)、
仕事量が商法時代の3分の1に減ったと嘆いていました。

 私の場合は、合併等のスポット仕事が中心で、もともと日常的に安定した仕事
があるというわけではないため、仕事が減ったという実感はありませんが、それ
以上に、専門店は「待機」も仕事の1つと割り切っていますから、「待機」中に、
腕を磨くためにも、物書き作業をやっているだけです。

 まるで893の用心棒のようなもので、重要な「出入り」でもない限り、声が
かからない立場です。

 先般、会社設立の話があり、ある程度準備中だったのですが、突然「本日中に
設立することにした。午後3時に書類を持って行く」という緊急要請がありまし
た。午後5時までの2時間で、ご希望どおり、定款作成、定款認証、設立登記ま
で終わらせました。

 こういう緊急事態のためにも、「職人(又は用心棒)」はいつでも動けるよう
にしておかなければならないわけです。待機中は無収入ですから、これでは、熱
海に別荘を買うことは絶対に無理ですね。犬小屋あたりにしておきましょう。


2013.02.21(木)【私的『これが新商法だ!これが新登記だ!』論】(富田太郎)

 『これが新商法だ!これが新登記だ!』(中央経済社)………懐かしいですね。発
売日は平成15年2月25日。今から10年も前のことです。

 当時、私は『不動産受験新報』(住宅新報社)という受験雑誌に、登記法の連載を
始めて4年ほど経っており、『怖いもの知らず』、『生意気盛り』の頃でした。
--------------------------------------------------------------------------
・『執筆? 文章? そんなの、簡単じゃない??』

・『師匠である金子先生の背中が見えた♪ まぁ~ あと3年内に(商法の知識)
 追いつけるなぁ(ニヤリ)』(注)

 (注)当時、大きな勘違いをしていました。あれから10年経ちましたが、
  「追いつく」どころか、背中すら、まったく見えません………(涙)
-------------------------------------------------------------------------

 ところが、金子先生の『これが新商法だ!~』の執筆作業・姿勢を見ているうち
に商法、商業登記法の奥の深さ、人に伝える文章を書くことの難しさを実感し、も
う一度、文章について深く考えるようになりました。

 さらに、この本が出版されると、見知らぬ司法書士から『質問の電話』がくるな
ど、その反響の大きさに驚いた記憶があります。

 また、この本を発売する3か月前に、住宅新報社の編集長から、雑誌の連載を単
行本化する企画があったのですが、同社の上層部から、
 「とみた・たろう?? そんな無名の司法書士の本なんか売れるわけがない!」
と企画却下………。

 ところが、『これが新商法だ~』を出版すると、急転直下、『すぐに当社からも
単行本を出版しましょう♪ 締切日は▼■○です。急いで~』との連絡がありまし
た………(汗)。

 本当に、あの本のおかげで、その後の司法書士人生が大きく変わったと思います。
感謝、感謝です♪

 PS:≪エピローグ?≫
  以後、本業のかたわら、執筆生活に入り単行本等を出版しました。
 当時の私
 「まぁ~。単行本の4~5冊ぐらい書いて、熱海に別荘でも買おうかな♪」
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 あれから10年、確かに単行本は、何冊も出版しましたが………
おかしい????  未だにコンビニ弁当生活??? 一向に別荘など買える状況
にはありません………。

「専門書では、別荘など買えない!」、これが、10年経っての結論でした(涙)



2013.02.20(水)【出版と戦友】
(金子登志雄)

 13日は東京司法書士協同組合の西田理事長や出版担当で一緒に苦労してくださ
った倉石総務部長ほか皆様から、『ずばり解説(株式と機関)』に関する慰労会を
開いていただきました。神崎先生にもご出席いただきました。ありがたいことです。

 著者は誰でも、出版後には売れ行きが心配でならない状態になりますが、いまの
ところは出足が好調のようで、ほっとしています。

 一般論ですが、本というものは出版すれば自動的に書店に置かれて売れるものだ
と勘違いなさっている方が少なくないようですが、とんでもないことです。自分で
は傑作で大勢に売れると思っても、他の人がそう思うとは限りません。

 私が39歳の時の最初の(共)著作(プレジデント社刊『実戦M&A事典』)は、
1万5000部を超え、当時(昭和の後期)のベストセラーになりましたが、2弾
目の『新事業承継戦略』は自信作でありながら、全く売れず、出版社から在庫を裁
断されてしまいました。死刑宣告です。2匹目のドジョウはいませんでした。

 これがトラウマになり、それから15年後、中央経済社から最初に出す本で失敗
したら、2度と本を出せないと思い、何とか売れるようにと試行錯誤を繰り返し、
題名を『これが新商法だ!これが新登記だ!』と、「著者が学者や弁護士でないか
らといって舐めんじゃないよ」と、挑発的で刺激的なものにし、縦書にするために
対話調を選択しました。

 ベストセラーの多くが縦書であることに気づいている方は少ないと思いますが、
新聞が縦書になっているように日本人には縦書のほうが親しみやすいようです。横
書だと教科書で勉強している気分になり、肩が張るのでしょうか。

 それでも不安でしたから、「印税はいらん。全部、本でくれ!」と中央経済社に
啖呵(たんか)を切って、部数の拡張に自腹を切ったものでした。もちろん、共著
者の富田氏らにも、印税の代わりに現物(本)給付でした。

 おかげさまで毎月のように増刷され大成功に終わりましたが、もし、『これが新
商法だ!』が不首尾に終わったら、今日の私もESG法務研究会もなかったわけで、
いまでも出版を受け入れてくれた中央経済社の当時のS編集長には感謝しています。

 通常は原稿を持ち込んでもはねられることがほとんどですし、仮に受け入れられ
ても他の出版社であったら、題名から何から干渉されて、不完全燃焼に終わったこ
とでしょう。
 
 S編集長とは、よい本を作ることで、随分と言い争いもしましたが、最終的には
表紙に至るまで私の要望を受け入れてくれ、知名度もない司法書士にかけてくれま
した(表紙まで指定する著者は私が初めてだったようです)。

 (吊革広告のような表紙といわれてしまいました)
  http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/large/4502907502.jpg

 その後は、S氏も私の協力で、重要条文ミニ解説付『会社法法令集』を発行する
ことができ、「会社法の中央経済」というイメージアップをはかれたことを喜んで
くれましたから、お互いに「持ちつ持たれつ」の関係になり、いまでは恩人である
と同時に会社法出版戦国時代をともに戦った戦友の関係です。



2013.02.19(火)【監査役を置く】
(金子登志雄)

 会社法2条9号には、監査役設置会社の定義として「
監査役を置く株式会社(そ
の監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを
除く。)
」とあります。


 
会社法327条2項には「取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)は、
査役を
置かなければならない」とあります。

 会社法426条には「第424条の規定にかかわらず、
監査役設置会社(取締役
が2人以上ある場合に限る。)………は」とあります。

 会社法427条には「第424条の規定にかかわらず、株式会社は、社外取締役、
会計参与、
社外監査役又は会計監査人………」とあります。

 実にややこしいことですが、会社法においては、その426条のように、単に
「監査役設置会社」とあるときは、業務監査権限を有する監査役を置く会社であり、
327条2項や427条のように、単に「監査役」「社外監査役」「監査役を置く」
とあるときは、会計限定監査役を含みます。

 つまり、会社法の条文では、「監査役を置く会社」と「監査役設置会社」は意味
又は範囲が異なります。前者だからといって、会社法426条が適用されるとは限
りません。これに対して、登記上は区別できないから、改正案になったわけです。

 立法時に「第1種監査役設置会社」「第2種監査役設置会社」とでも名付けてく
れれば分かりやすかったのでしょうが、法律を素人にも分かりやすくすると、われ
われの商売が成り立たなくなりますので、痛し痒しといったところです。

 なお、改正案では、監査役を置けない「監査・監督委員会設置会社」(仮称)が
導入されます。ますます素人には分かりにくい会社法に突き進んでいますが、同時
に一般の弁護士や司法書士にも分かりにくい会社法になりますから、会社法・商業
登記専門司法書士の存在価値はますます上がることでしょう。

 と、歓迎したいところですが、この設置会社は中小企業実務とは無関係でしょう
から、収入増には結び付きそうもありません。

 喜ぶのは改正特需が予想される出版社で、最大の被害者は勉強の負担が倍加する
受験生だろうとみる方が多いのですが、出版社にいわせると改正前の書籍が返品さ
れてしまうという大被害があるようです。改正で喜ぶ人は誰でしょうか。



2013.02.18(月)【会計限定監査役その2】
(金子登志雄)

 藤田さん、投稿ありがとうございます。

 藤田司法書士というと、一時は日司連の掲示板であるNSR2で、会社法の話題
によく登場しましたので、「ああ、あの方か」と記憶を呼び覚ました方も少なくな
いでしょう。

 最近はNSR2で会社法の話題が登場することも少なくなり、藤田さんの出番も
私の出番もなくなってしまいましたが、今回も会社法改正案に関する投稿ですから、
相変わらず会社法に関心を持っていただいていることを知り、うれしく感じました。

 藤田さんの投稿で感じた方もおられるでしょうが、もともと立法担当者は会計限
定監査役を認めていませんでした。それに対して中小企業団体から、旧商法にあっ
た会計限定監査役を残せという要望が出されたため、後付で会社法に導入されたも
のです(だから、ああいういびつな内容になっています)。

 会社法の立案者の方々は、実に物わかりのよい人達ばかりで、圧力団体の要望を
何でも受け入れました。それが中小企業団体の要望に基づく会計限定監査役であり、
税理士会の要望に基づく会計参与でした。その他にも、資本金0円会社の設立や募
集設立なども、要望に応じたものといえるでしょう(純粋の設立での資本金0円会
社は途中で挫折してしまいましたが)。

 司法書士会も力があれば、会社法にきっと「総務参与」が定められていたと思う
のですが、残念ながら、その力がありませんでした。

 米国には監査役制度がなく経営の監視は「社外取締役」の役割ですから、この際、
米国の圧力を必要以上に受け入れて、監査役設置会社の全部を廃止し、監査役だっ
た人全員を社外取締役にしてしまえば登録免許税3万円負担の問題も生じないので
すが、そこまでは親米路線のわが政権も独立国家の面子にかけてもしないでしょう。

 会計限定監査役を置く株式会社は100万社以上ありますから、何の措置もしな
い限り300億円以上の税負担です。改正要綱を作った法制審議会にも、少しは責
任を感じてほしいものです。


2013.02.15(金)【会計監査限定監査役】(名古屋・藤田智弘)

 みなさま初めまして。金子代表からの「強い」お誘いもあり、初めて投稿させて
いただきます。

 年末にかけて混沌としていた政局のおかげで棚ざらしになり、今また国会上程は
参議院選後の臨時国会以降と噂されている会社法改正案ですが、おそらく今年度中
に成立・来年度以降に施行されるのではないかと思います。

 改正の論点はいろいろありますが、中小・零細株式会社をメインの顧客とする我
々にとって頭が痛いのが「会計監査限定監査役」の登記です。

--------------------------------------------------------------------------
(要綱)監査役の監査の範囲に関する登記

 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会
社について、当該定款の定めを登記事項に追加するものとする。
--------------------------------------------------------------------------

 改正要綱の字面どおりに考えますと会社登記簿の「監査役設置会社」の記録のほ
かに「会計監査限定監査役設置会社」と追記する方法か、あるいは「監査役設置会
社」を「会計監査限定監査役設置会社」に変更する方法のいずれかになるのではな
いかと思います。

 ただ、現行の会社法第911条第3項第17号で、登記簿上の監査役設置会社は
「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会
社を含む。」とされていますが、第2条第9号では、会社法上の定義として「監査
役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定
款の定めがあるものを除く。)又はこの法律の規定により監査役を置かなければな
らない株式会社」とあり、そもそも会計監査限定監査役を置く会社は監査役設置会
社ではないとしています。

 ならば、「監査役設置会社」の登記を抹消すれば、法律との整合もとれるではあ
りませんか。(現に、監査役を置く特例有限会社の登記簿でも「監査役設置会社」
の記録はありません。)

 次に、その登記は誰がするのでしょう。職権登記は法務局が該当する株式会社で
あるか否か判断しかねるので難しいでしょうから、おそらく該当する株式会社から
の申請によることになるでしょう。

 では、登録免許税はどうなるのか? 非課税? 3万円?

 法律が変わったから、3万円(プラス我々が代理申請するのであれば我々の報酬)
をよこせというのは何ともあこぎです。

 不況の影響で経営が青息吐息のところが多い中小零細企業の負担を軽減するなら、
非課税で、かつ、改正法施行から10年以内の最初にする登記の際に添付書類不要
で「監査役設置会社」の登記を抹消する登記をすべしとするべきだと思いますが、
いかがでしょうか。


2013.02.14(木)【手袋】(仙台・立花宏)

 先日、仕事を終えて帰宅する途中、歩道に手袋が落ちているのを見つけました。
小さい真赤な毛糸の手袋です。大きさからいって、小学校低学年くらいの子供用で
しょうか。だいぶ使い込んでいる様子です。

 まさか、そんなところに捨てる訳はないでしょうから、おそらく落し物でしょう。
すぐ近くに小学校があるので、そこの生徒のものだろうと思いました。

 もう遅い時間だったので、翌日の朝、落し物として届けようとその小学校に寄っ
てみました。まだ、朝早い時間だったので、小学校はあいていないかもしれないな、
と思ったのですが、小学校の門は既に開いていました。玄関に行くと、若い女性と
出会いました。その小学校の先生のようです。

 事情を話すと、職員室のとなりにある応接室に招き入れられました。応接室に向
かう途中、たくさんの先生方を見かけました。まだ朝早いというのに、もうたくさ
んの先生方が出勤して仕事をしているようです。学校の先生の仕事は忙しい、と聞
いたことがありますが、けっして誇張ではなさそうです。

 手袋を拾った場所などを詳しくお伝えし、一応、身分と連絡先もお伝えしました。
ただ、変に気をつかわせたくないので、落とし主が見つかっても連絡先は伝えない
でほしい、と付け加えました。すると、それでは落とし主の代わりに、とその若い
先生から丁重なお礼の言葉をいただきました。

 実は私は、自分が小学生のころ、誕生日のプレゼントにと両親が買ってくれた手
袋を、不注意ですぐになくしてしまったことがあり、そのことを思い出していまし
た。その手袋は結局、見つかりませんでした。なくしてしまったことのショックも
ありましたが、買ってくれた両親への申し訳なさというか後ろめたさというか、そ
んな気持ちで、しばらく気持ちがおちこんだままだったことを思い出したのです。
“手袋の落とし主がみつかるといいな。”そんな気持ちで、学校をあとにしました。

 数週間後、手袋のことを忘れかけていたとき、先日の若い女性の先生から手紙が
届きました。手袋を届けた数日後、持ち主がわかったのだそうです。その顛末を知
らせてくれたのです。

 持ち主は5年生の女の子でした。思っていたより年長です。その女の子が2年生
の頃、仲のよかった同級生の男の子が転校したのだそうです。そのとき、その男の
子がお別れにとプレゼントしてくれたのが、その手袋だったそうです。そのプレゼ
ントされた手袋を、大事に大事に使っていたのだそうです。きっと、サイズも合わ
なくなっていたのではないでしょうか。それでも使っていたのですから、その女の
子にとっては、きっと大切な思い出の手袋だったのでしょう。

 “手袋とだけでなく、その男の子ともまた、会えるといいね。”

そんな気持ちになり、手紙を読み終えたのでした。



2013.02.13(水)【互選の意味】(金子登志雄)

 同じく6日の質疑応答に次のようなものがありました。

--------------------------------------------------------------------------
Q 法令又は定款の互選規定により代表者を定める場合に互選人(理事又は取締役)
 は全員互選に参加する必要があるでしょうか。それとも過半数を超えていればよ
 いでしょうか。
A 互選の趣旨からすれば全員で互選をするべきであるが、登記申請の添付書面と
 しては、取締役の過半数の一致があったことを証する書面が添付されれば足りる。
--------------------------------------------------------------------------
 
 質問者には申し訳ありませんが、こういう質問は司法書士仲間に問い合わせれば
済むことですから、当局には質問しないでいただきたいと思っています。われわれ
の権威が失墜してしまいます。

 今度のずばり解説196頁にも、私は次のように説明しています。
--------------------------------------------------------------------------
 取締役の互選については、その語句の響きから「協議のうえで決定」というニュ
アンスがありますが、単に、会社法348条2項の「取締役の過半数をもって決定
する」を代表取締役の選定の場面で表現しただけで、協議は不要ですし、1か所に
集まることも不要です。
 具体的には、会社設立手続における発起人の決定と同じく、取締役の1人が「代
表取締役として〇〇が相応しいと思うがどうか」という呼び掛けに対して、他の取
締役が同意し、それが過半数に達すれば、決定です。
--------------------------------------------------------------------------

 ところで、互選の特徴として、自らも被選任者になれるというものがありますが、
会社法599条3項には「持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選に
よって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができ
る」とあるのです。業務執行権を有しない社員も互選に参加できるのでしょうか。
これは立法ミスというべきでしょう(松井信憲著『商業登記ハンドブック』第2版
600頁参照)。



2013.02.12(火)【株主総会議事録作成日】(金子登志雄)
 株主総会議事録につき規定する会社法318条2項に、「株式会社は、株主総会
の日から10年間、前項の議事録をその本店に備え置かなければならない」とあり
ます。

 この規定を根拠に、株主総会議事録は株主総会の日には出来上がっていないとい
けないというのが会社法の趣旨だという意見もあると、先般の千代田セミナーで講
師がおっしゃっていました。

 私の文書による質問内容に「議事録は開催日以降に作成することが多い」とあっ
たのに対する別の見方をご紹介くださったわけですが、こういう意見があると知り、
新鮮な印象を受けると同時に驚きました。長年、企業法務の世界にいた人間は決し
てそう読まないからです。

 この意見は上記の条文を「株主総会の日から………備え置かなければならない」
と読んだのでしょうが、この規定は「株主総会の日から起算して10年間」、備え
なければならないというだけで、「株主総会の日から」は「備え置かなければなら
ない」を修飾していません。前身の旧商法244条5項が「議事録を10年間本店
に、………備置くことを要す」でしたから、いつから10年間か不明だったため、
単に「株主総会の日から」を挿入しただけでしょう。

 旬刊商事法務1983号の株主総会白書にも、「総会議事録は、会社法上、株主
総会の日から10年問本店に備え置かなければならないとされており、そのため総
会終了後すみやかに作成する必要がある。また、総会決議事項が登記事項に該当す
る場合には、登記申請の際の添付書類となることから、総会日から2週間以内とい
う登記期限にも留意する必要がある」と解説するだけで、現実に、開催日当日に作
成した会社は、調査対象1845社中の450社(24%)であることを紹介して
いました。

 仮に総会開催日後数日後に作成したとしても、株主総会議事録の末尾に記載する
日付は総会開催日にし、作成日にすることは、まずありません。それは「本日、こ
れこれのことがありました」という発想で、その日に立って作成するからです。本
来であれば、開催日と作成日を分けるべきですが、作成日を記載する意味が薄いこ
ともあるでしょうし、作成日とは署名日かなどの議論を避ける意味もあるでしょう
から、無難に株主総会の日を記載しているに過ぎません。

 なお、会社法806条3項に「株主総会の決議の日から2週間以内に………通知
しなければならない」とありますが、これについては、期限を定めただけで株主総
会以前に通知をしても差支えないと会社法立案担当者が説明しています。


2013.02.08(金)【東京法務局見解とずばり解説】(金子登志雄)

 一昨日、2月6日の東京司法書士会千代田支部では、東京法務局商業法人登記相
談官の徳永氏により、東京法務局の現時点の見解が紹介されました。

 当局の見解が紹介されることはありがたいことであり、会場も満席に近く、講義
が終わった瞬間、自然に拍手が生じていました。幹事の皆さんに感謝です。

 さて、ずばり解説(株式と機関)との関連部分をご紹介します。

1.本書File2-27(取締役選解任権付株式)

 ここで、私は、定款に、「甲種種類株主は、種類株主総会において、取締役1名
を選任することができる」という規定のみを設けることは疑義が生じ不適当だが違
法とは思えないと解説しましたが、東京法務局は否定説でした。旧商法時代と同様
に全種類の株式に定めなければならないというわけです。

 本書は、定款に定めて登記された後の話であり、東京法務局の質疑応答は、これ
から定款に定めることの可否ですから、場面がやや異なりますが、登記された後も
否定されるニュアンスでした。

2.File4-18(株主総会議事録の作成者)

 取締役ABC全員が株主総会終結と同時に任期満了し、後任としてDEFが選任
された場合につき、私はDEFも作成者になれるとし、『商業登記ハンドブック』
第2版149頁の見解に反対しましたが、東京法務局もDEFにつき肯定説でした。

 1は、それほどある登記ではありませんが、定款に定める場合は気を付けてくだ
さい。定めて登記されている場合は、定款変更が必要かにつき迷うところでしょう。

 詳細に関しては、来週にもご紹介します。



2013.02.07(木)【株主全員の同意書】(金子登志雄)

 会社法の規定の中には、「総株主の同意」や「種類株主全員の同意」を要求する
ものがありますが、株主が20人や30人もいたら、この同意書を集めるのも一苦
労です。

 では、登記申請で、どうやってそれを証明すると思いますか。全員の同意書を添
付しても、登記所サイドからしたら、「この人、ほんとに株主なのか」と思うだけ
で数十枚の同意書をみても面倒に感じるだけでしょう。

 債権者保護手続の「催告をしたことを証する書面」では、催告書見本と催告先リ
ストをつけて、「ちゃんと催告しましたよ」という上申書的なもので差支えないと
されていますし、新株予約権の申込書でも、申込書見本と申込者リストで代用され
ています。

 ここから推測すると、株主の同意書も「同意があったことを証する書面」でよい
とされていますから(商業登記法46条1項)、同意書見本と株主名簿をつければ
よさそうですが、実務的には、会社法319条に準じた方法が採用されています。

 会社法319条の書面決議は、株主全員から同意を得て、それを株主総会議事録
の形式にまとめるものですが、総株主の同意などの場合は、株主総会議事録の中に
「全員の同意があった」と書けば済み、この議事録を援用することができます。

 債権者や新株予約権者の場合と比べて有利すぎると感じるかもしれませんが、そ
もそも、株主総会議事録に「過半数の賛成を得た」とあっても、株主の誰と誰が賛
成したと記載する必要がありません。全員の同意も同じはずです。また、株主総会
を開催したのであれば、株主から見張られた会議です。ウソをしにくい場面ですか
ら、氏名まで明らかにする必要はないでしょう。

 なお、これに関連して、神崎先生主宰の商業登記倶楽部の「解説・実務相談室」
に「会社法322条4項の同意書式について」を掲載してもらいました。同じ内容
が株式会社リーガルのHPに掲載されています。下記です。

   http://www.legal.co.jp/products/h20zoku/322_4.pdf


2013.02.06(水)【有名司法書士?】(金子登志雄)

 2月になったためか、4月1日の組織再編等に向けた動きがはじまりました。そ
れを企画するコンサルタント会社などからも私への質問が増えました。

 本格的相談なので、「ところで、この仕事は私に回ってくるのですか」と聞いて
みると、「そうしたいのですが、会社さんにはお抱えの司法書士さんがいますので、
そちらを使いたいようなんです。悪しからず」という答え。

 何だ、私は前座の露払いかとがっくりくる瞬間ですが、もう慣れました。ほとん
どのケースがこれですから。

 ときたま、その司法書士の名前を教えられることがあります。例えば、「会社が
使っている司法書士さんは、〇〇に事務所のある△△さんという方だそうですが、
商業登記の世界では、かなり有名な方だそうですね」と。

 しかし、私には初耳の名前です。どうも、同業者の皆さんも、営業トークの自己
宣伝に頑張っていらっしゃるようです。

 仕事の妨害は本意ではないので、「すいません。存じません。あまり業界のこと
は詳しくないもので………」と、お茶を濁して答えていますから、自称・有名司法
書士の皆様はご安心ください。

 もっとも、私自身も、司法書士や会計事務所相手の営業マンから「先日、都内の
司法書士事務所を訪問し、雑談の時に『有名な金子司法書士と懇意だ』といったら、
『そんな人知らない』といわれてしまいました」と笑っていわれたことがあります。

 彼によると、司法書士事務所よりも会計事務所のほうで私の名前が知られている
ようです。会計事務所は会社法と必ず縁がありますが、不動産や債務整理、成年後
見を中心とする司法書士事務所は会社法とは無縁に生活しているのかもしれません。


2013.02.05(火)【反逆者映画】(金子登志雄)

 日曜日は、NHKの大河ドラマ「八重の桜」をみましたが、前作の平清盛といい、
ここのところ、反逆者を主人公とするドラマが増えたと思いませんか。

 単にネタ切れなだけでしょうが、正月のテレビ東京では北大路欣也氏が主役の7
時間ドラマ「白虎隊」でしたし、つい最近のNHKのBS放送では、「火怨・北の
英雄アテルイ伝 」でした。

 アテルイというのは、奈良時代に大和朝廷の蝦夷(東北地方)征伐に抵抗した蝦
夷の英雄の名前のようです(最後は、歴史上の人物である坂上田村麻呂の率いる圧
倒的兵力に敗れて斬首されます)。当時は蝦夷のことを「エニシ」と呼んでいたよ
うですが、たぶん、今のアイヌ人のことでしょう。ネイティブ日本人です。

 ところで、私の子供の頃の西部劇映画は未開地に居住するインデアンが一方的に
悪役でした。しかし、ベトナムで負けたアメリカは徐々にパックス・アメリカーナ
を反省し、90年代には「ダンス・ウィズ・ウルブス」という映画が流行りました。

 この映画はみた方も多いでしょうが、白人男がインデアン女と恋愛する西部劇で、
インデアンを悪役としない画期的な作品でした。今では、インデアンはネイティブ
のアメリカ人として尊敬されているようです。

 こうしてみると、日本社会もやっと「ダンス・ウィズ・ウルブス」の共生文化を
見直しはじめたのかなという気もしないでもありませんが、いまだに長州出身の首
相を頂き、弱肉強食の米国式新自由主義の強権政治を東国にも推し進め、それに抵
抗する蝦夷地のアテルイ小沢を犯罪人扱いして政治的に斬首刑にしているようでは、
まだまだ遅れた未熟社会かなという気もします。

 狼とダンスをしたくても、日本では絶滅してしまいました。せめて熊とダンスが
できる金太郎型の共生社会(日本の伝統的風土)だけは絶滅させたくないものです
が、先般の選挙では夷狄(いてき)征伐の桃太郎型の政党が圧勝でした。日本社会
は、どこに向かっているのでしょうか。


2013.02.04(月)【体罰指導対策】(金子登志雄)

 土日は帰省し、のんびりとテレビなどをみていましたが、女子柔道の体罰問題が
相変わらずニュースでとりあげられていました。大阪の桜ケ丘高校のバスケット部
問題の延長でしょうか。

 この問題は実に深刻ですね。日本社会のすみずみにまで及ぶ問題だからです。体
罰まで行かずとも「辞めてしまえ」などのパワハラは私のいた信託銀行でも、そう
いう上司がいましたし、最も法律に忠実であるべき日本の警察や検察組織にもあり、
これが冤罪を生む原因(上司怖さによる自白の強要)の1つにもなっています。

 幸い私は要領がよかったのか、親が教師だったために他の教師が遠慮したのか、
体罰を受けた経験はありませんが、学生時代に下宿の近くの空手道場に入門したら、
小学生の先輩にも後輩としての挨拶を強要されたり、道場の神棚や壁に張った日の
丸に最敬礼を強要されるのが嫌でなりませんでした。お金を払っているのは私なの
に、体育会の部活と同じでした。引っ越しと同時に1か月でやめましたが、民主的
な指導を受けていたら、黒帯になるくらいまでは頑張ったことでしょう。

 体罰対策として、あるブログに面白い経験談が書いてありました。教師からの数
度の往復ビンタに我慢しきれず、とうとう先生に反撃し、殴り返してしまったのだ
そうです。

 どうなったと思いますか。退学処分だと思いますか。全くの逆で、教育的指導の
体罰が、それを機に先生と生徒の喧嘩という構図になり、先生の立場がなくなり、
その日から先生の態度が急に変わったのだそうです。その先生が担当する科目の成
績も1ランクアップしたそうです。世間や教育委員会に黙っててくれという先生か
らの暗黙のサインでしょう。

 体罰を受けたら殴り返せ、ただし怪我をさせない程度に、ということでしょうか。
首から上に反撃してはいけません。向こう脛(脛の前面)を思い切り蹴るのが有効
でしょう。ただし、その結果について、当方は一切の責任を負いません。


2013.02.01(金)【巳年をむかえて】(島根・根来川弘充)

 辰年、巳年というのは、一般的に景気が良くなる年だと言われているようです。

 政権交代のためか、幸いにも株価が上昇しており、この言い伝えに当てはまっている
ようです。良い話は、できるだけ長く続いてほしいと願うばかりです。

 ところで、新年早々、島根県が主催する「島根ふるさとフェア」というイベントが広
島市で開催されました。

 私は、そのイベントで、地元の安来の方のお手伝いをする機会がありました。お手伝
いといっても、ラーメンを販売することだったのですが、これが結構な行列ができて、
11時前から15時すぎくらいまで、ほぼ働きっぱなしでした。しかも、2日目もあり、
同じように行列ができましたので、結構大変でした。

 ただ、物が売れるというのは、実際に体感してみるとやはり楽しいもので、普段の仕
事では味わうことが決して味わう事が出来ない、心地よさというものを感じました。

 イベントの2日目は、全国都道府県男子駅伝が、まさに広島で開催され、トップがゴ
ールした時には、お祝いの花火が数発あげられ、現物とラジオの両方から、その音が聞
く事ができ、忙しさも相まってか、とても楽しい雰囲気を味わえました。

 週末いそがしかったので、その疲れが週明け一気にでるのでは、と思っていたのです
が、幸いにもそんなことはありませんでした。普段とちがうことをするというのは、そ
れなりに大事なことかもしれません。今年は、仕事はもちろん遊びも、いままでしなか
ったことに挑戦しようと思います。

 遅くなりましたが、皆様、本年もよろしくお願いいたします。



2013.01.31(木)【代表取締役の住所移転】(金子登志雄)

 今週の本欄は「住所」の特集みたいになってしまいましたので、表題の問題につ
いても触れておきましょう。

 さて、1月25日の定時株主総会及び取締役会で「千葉市………代表取締役A」
と登記されているAが重任したとします。

質問1:Aは1月15日に横浜市に住所を移転していました。1月31日に申請す
 る登記は、「15日横浜市へ住所移転」と「25日横浜市で重任」の2つの登記
 が必要でしょうか。

 登記先例で、いきなり「25日横浜市で重任」が認められています。

質問2:Aは1月30日に横浜市に住所を移転していました。1月31日に申請す
 る登記は、「25日千葉市で重任」「30日横浜市へ住所移転」と2つの登記が
 必要でしょうか(2登記説)。それとも、いきなり「25日横浜市で重任」とい
 う1つの登記でよいでしょうか(1登記説)。

 結論として、両説とも認められていますが、私自身は、登記申請時点の住所で登
記すべしという考え方ですから、1登記説です。

 1登記説には、数年前の重任登記を漏らしていた場合も、現在の住所で登記する
のは不自然だという問題がありますが、2登記説の決定的難点は、2つの登記をワ
ンセットでしないと、申請人代表者の住所と不一致が生じるということでしょう。

 数年前の「千葉市でのAの重任」登記を「横浜市のA」が申請することになれば、
どの道、両者が同一人物であることの証明が必要となるからです。

 登記というのは「あの時、今のAは………した」という内容なのか、「あの時、
あの当時のAは………した」という内容なのかは、いまだ確定していませんが、後
者の登記の場合は、「なお、Aは現在………」という登記を一緒にしないと面倒に
なりますし、公示の面からは、現在のAを基準にするのが本則だと思うからです。

 「群馬県在住の金子は1967年に高校を卒業した」というよりも、「横浜市在
住の金子は1967年に高校を卒業した」と、当時のことでも現在の内容で公示す
るほうが公示目的に適うと思うわけです。

 なお、以上は、『ずばり解説!株式と機関』177頁でも触れています。



2013.01.30(水)【本店所在場所と住所】(金子登志雄)

 会社法の条文で「氏名又は名称」とあった場合は、氏名は個人(自然人)、名称
は法人のことです。

 では、本店所在場所と住所はどこが違うのかと、徒然なるままに考えてみました。

 会社の登記簿の本店のところに「東京都千代田区神田小川町三丁目26番地」な
どとあった場合に、これは住所でしょうか、場所でしょうか。

 会社法911条3項3号には、登記事項として「本店及び支店の【所在場所】」
とありますから、一応は「場所」と答えたほうがよさそうです。

 しかし、会社法4条には「会社の住所は、その本店の所在地にあるものとする」
とありますから、「会社の住所=本店の所在場所」でもあります。

 合併契約書などには、合併当事会社の「商号及び【住所】」を書くことになって
いますし(会社法749条など)、合同会社の代表社員が法人のときの登記事項も
「名称及び【住所】」です(同914条)。株主名簿代理人の登記事項も「その氏
名又は名称及び【住所】並びに営業所」です(同911条3項11号)。

 結論として、「会社」を特定する場合は「住所」、本店のあり場所を示すときは、
「所在場所」というのでしょう。

 「本店移転」の登記を「住所移転」として申請したら、どう反応があるかなと、
つい思ってしまいますが、そういう実験は、残念ながら、登記のプロである司法書
士にはできません。


2013.01.29(火)【本支店、住所の登記】(金子登志雄)

 本支店や代表取締役の住所の登記で、「1丁目2番3号」で申請すると、「1丁
目」は「一丁目」と直されて登記されます。この部分は「本町」とか「富士見町」
などと同様に固有名詞の町名だからです。

 個人の印鑑証明などでは、市町村が「1丁目2番3号」とアラビア数字を使うこ
とが多いようですが、登記は、この点で非常に几帳面です。

 ある時、会社の依頼で、以上を承知の上で、「1丁目」で登記してほしいと登記
所宛てにメモ書きして申請したら、出来上がりは「一丁目」でした。クレームを申
し出たら、「1」では登記できないようになっているといわれてしまいました。コ
ンピュータが対応しないのでしょうか。

 しかし、こういう几帳面な側面がある半面で、「1-2-3」で申請すると、そ
のとおりに登記されます。はじめてみたときは驚きましたが、司法書士が関与しな
い会社の本人申請では時々みかける登記です。

 ビル名やマンション名はあえて登記しない例も少なくありません。私も印鑑証明
書が「1丁目2番3号〇〇マンション405号」とあっても、依頼者と相談して、
「一丁目2番3号」で止めるか、「一丁目2番3-405号」としてしまうことが
少なくありません。本支店のビル名も付けたり、付けなかったりです。

 いったん付けたビル名を消すのは本店移転ではなく、本店変更の登記になります
が、ほんのたまにあります。「1-2-3」を「一丁目2番3号」にするのも変更
登記ですが、これはまだ経験がありません。「一丁目2番地の3」かどうかは必ず
チェックしますけど………(顧客で間違えている例が少なくありません)。


2013.01.28(月)【営業所と本支店】(金子登志雄)

 土日は常時携帯しているノートPCを事務所に置き忘れ、自宅で何もできません
でした。一人遊びの道具をとられた子供と同じで、たいくつこの上ない土日でした。

 さて、会社法の勉強の初期は、製造業なのに本社のことをなぜ法律は「本店」と
いうのかなどと考えてしまうものです。会社は商人とされていますので、本店とい
うのでしょうけれど、違和感は残ります。

 また、学生から社会人になったとき、本店にも支店長(法律上は支配人)がいる
ことにびっくりするものです。本店ですから、支店(長)ではなく、本店長という
のなら分かりますけど。

 では、社会人の皆さん、営業所と本店・支店の差が分かりますか。言い換えれば、
支配人の登記は、商業登記法44条により、次のとおり(登記記録例より)、支配
人の住所、氏名、支配人を置いた営業所を登記することになっていますが、この営
業所は会社の本店又は支店以外でもよいと思いますか。

--------------------------------------------------------------------------
 支配人に関する事 |東京都千代田区神田駿河台四丁目2番地
 項        |甲野太郎
          |営業所 東京都千代田区丸の内一丁目1番1号
--------------------------------------------------------------------------

 この登記記録例だけみると、「へぇ、支配人というのは営業所とセットなんだ」
と思うだけで、この営業所と会社の本店や支店との関わりに気づく人はいません。

 ところが、会社法10条(支配人)に「会社は、支配人を選任し、その【本店又
は支店において】、その事業を行わせることができる」とあるのです。

 つまり、支配人を置いた営業所は、本店か支店でなければならないのです。なら、
支配人を置いた「本支店」とでも定めればよいのですが、旧商法時代の伝統からか、
商業登記法の規定どおり「営業所」という言い回しをします。

 結論として、会社の営業所とは、本店又は支店のことです。


2013.01.25(金)【報告なのに承認とは】(金子登志雄)

 会社法438条3項によると「取締役は、………事業報告の内容を定時株主総会
に報告しなければならない」とあります。決議事項ではなく報告するだけでよいと
いうことです。

 同じく清算株式会社の会社法497条3項にも、「清算人は、………事務報告の
内容を定時株主総会に報告しなければならない」とあります。事業報告ではなく、
清算株式会社では事務報告といいます。

 ところが、清算結了に関する会社法507条3項は「清算人は、決算報告を株主
総会に提出し、又は提供し、その承認を受けなければならない」とあります。

 決算報告というのは、清算結了という結果の報告ですが、報告なら承認は不要で
はないかという気がしてしまいます。

 これにつき、何となく違和感を持っていましたら、松井信憲著『商業登記ハンド
ブック』第2版516頁の注記に「株主の所在不明等の理由により、決算報告の承
認に係る株主総会を開催することができない場合には、株主総会の決算報告は清算
結了の効力要件ではないことから、監査役又は一時監査役の職務を行うべき者が作
成した証明書(株主総会を招集することができない事情を記載したもの)を添付す
れぱ、清算結了の登記を受理して差し支えないとされている(実務相談1・784
頁)」とありました。

 「株主総会の決算報告は清算結了の効力要件ではない」………断定してますね。
決議事項ではないということでしょうか。そうであれば、法律を改正し、もっと明
確な内容にすべきではないでしょうか。どうも、イマイチ納得しかねる断定です。



2013.01.24(木)【登記されていないことの証明】(金子登志雄)

 先日、東京法務局4階に行き、就職に必要だというので、親族名義の「登記され
ていないことの証明書」を代理申請し、取得してきました。

  http://www.moj.go.jp/content/000072231.pdf

 現・東京法務局の所在するビルでは、3階が商業登記、4階が不動産と後見登記
の部署です。信じていただけないかもしれませんが、司法書士でありながら商業登
記専門の私が4階に行くのは、数年ぶりでした。

 就職する親族は、若いため、戸籍謄本・抄本、戸籍身分証明書、登記されていな
いことの証明書を見たこともなく全く知りませんでした。本欄を閲覧の非司法書士
の方はいかがですか。

 仮に、お知りにならなくとも何も感じませんよね。若い頃は、知らないことが社
会性の欠如とイコールと勘違いし、不安になったものですが、ある程度、社会経験
がありますと、「知らないのは自分だけでない」という自信(?)を持てますから、
不安を感じなくなるものです。

 「登記されていないことの証明書」の申請中に思ったのですが、私が依頼者の生
年月日を間違えても氏名を間違っても、出してくれるものでしょうか。「登記され
ていない」のだから、きっと出してくれると思うのですが、そうであれば、架空人
からの申請でも証明をもらえるものでしょうか。

 この「ないことの証明」と「悪魔の証明」との相違も待ち時間に考えていました。
「〇年〇月〇日生まれで〇〇〇という氏名の者はいない」という完璧な証明は事実
上困難で「悪魔の証明」になるでしょうが、「〇年〇月〇日生まれで〇〇〇いう氏
名の者は登記されていない」というのは、登記所が「そんな登記はしたことがない」
という証明ですから十分に可能ですね。

 「登記されていないことの証明」ではなく「登記したことがないことの証明」と
いう表現が正しいのでは、と思った次第です。


2013.01.23(水)【死後に生あり】(金子登志雄) 

 昨日の内容ですが、鈴木事務所の熱田司法書士から「清算結了の登記の場合でも、
株主総会で決算報告の承認決議があった時点で、会社の法人格は消滅すると考えら
れているにもかかわらず、その後の登記は会社名義で代表清算人が申請しますので、
実体と登記手続の相違が生じるという事態は珍しいことではありませんね」という
ご意見をいただきました。

 まさに「う~ん」です。会社が消滅(死亡)しており、清算人も存在しないはず
なのに清算人が清算結了の登記を申請しているのです。商業登記法には、設立の登
記にあっては、「会社を代表すべき者の申請によつてする」という規定があります
が(47条)、清算結了の登記申請人については、「清算会社を代表していた者の
申請によってする」などという規定が存在いたしません。なぜか、当然のごとく申
請人は代表清算人が務めると解釈されています。

 例によって、また、あれこれ考えてしまいましたが、会社の死亡時期と「登記上
の会社」の死亡時期は異なるのだと考えるしかないようです。

 つまり、清算結了の登記をするまでは、登記上は会社が存在するのです。同様に、
合併解散の登記申請が管轄法務局に届くまでは、会社が存在するのであり、その代
表取締役から登記申請があれば、書面審査が中心の法務局としては受けざるをえな
いということでしょう(昨日の事例は合併契約書や公告から書面審査でも会社の消
滅が法務局に分かってしまうため、問題なのですが)。

 ところで、交通事故等により即死した場合に、死亡者本人の死亡に基づく損害賠
償求権の相続が判例で認められていますが、死亡したら、本人に権利能力がないの
に、なぜ本人が死に関する損害賠償請求権を有するのだ、「死前に死あり、死後に
死あり」じゃないかという有名な議議論があります。

 つい、この議論を思い出してしまいましたが、登記申請人の問題は「死後に生あ
り」ですね。


2013.01.22(火)【重複再編と登記申請人】(金子登志雄)

 きたる4月1日をもって、大阪のBが福岡のCを吸収合併し(第1合併)、それ
を前提に同時に東京のAが大阪のBを吸収合併する(第2合併)とします。

(注)合併では、まとめて3社合併にすれば済みますので、BC間が吸収分割で、
  B又はCがAに合併される例の方が多いといえますが、考え方は同じです。

 旧商法時代は登記が効力要件でしたから、次の順序で登記を申請しました。

(第1合併)
 ①-1 大阪法務局でBの吸収合併の登記
 ①-2 大阪法務局でCの合併解散の登記(審査後福岡に回されます)

(第2合併)
 ②-1 東京法務局でAの吸収合併の登記
 ②-2 東京法務局でBの合併解散の登記(審査後大阪に回されます)

 しかし、会社法では、登記が効力要件ではなくなったため、①よりも、②の合併
登記の申請を先にしても問題ありません。②-2が大阪法務局に到着するよりも前
に①を申請すればよいだけです。

 ②を①よりに先に申請するかどうかとは無関係に、会社法では①-1の「登記申
請人は誰か」という問題が生じます。登記申請時には、BはAとの合併により解散
消滅しているため、Bには権利能力がないはずだからです。

 そこで、会社法に忠実に「申請人Bこと合併承継人A」として、Aの委任状にす
ると、大阪法務局では委任状の印鑑につき印鑑照合ができませんから、Aの印鑑証
明書を付けなければなりません。

 しかし、Aが4月1日に商号をDに変更し、代表取締役もdに交代していたとす
ると東京でその申請をし登記が完了していない限り、印鑑証明が準備できません。
これは現実に無理な話です。もたもたしていると、①の登記を申請していないのに、
Bが登記上も消滅してしまう危険もあります。

 また、申請人である「Bこと合併承継人A」の資格審査として、大阪法務局でも
合併の審査することになり、たいへんな作業になります。

 結局、登記の面からは、①-1の申請は「Bからの委任状でよい」とするのが最
も便宜で、これで登記した人が少なくないようですが(同一管轄であれば、私も何
度も経験済みです)、問題はその理論構成です。

 Bの委任状の日付を権利能力のあった3月31日にするのが最も分かりやすいの
ですが、効力発生後の日付による委任状でないと法務局が不慣れで嫌がる可能性が
高いといえます。法的には問題ないはずですが………。

 そこで、4月1日付委任状にしたとしても、①の合併の効力の発生と同時に4月
1日に委任状を作成し、同時に②の合併の効力が生じたと考えればよいのではない
でしょうか。

 また、4月1日午前0時に登記申請しようと思ったら、登記所が開いていなかっ
たので、午前9時に申請したのに、Bの委任状ではダメだというのもおかしな話で
す。午前0時の申請が午前9時に届いたのと大差がないからです。

 実は、登記ではこういう事態は頻繁に生じます。合併と同時の本店移転であって
も、旧住所で合併登記申請し、続いて新住所で本店移転の登記を申請するのが通常
です。旧住所でなす合併登記申請は無効だという論理はありません。

 あれこれ考えますと、やはり、登記法の形式重視(申請書ごとに辻褄が合うこと
が重要)からは、上記①-1はBの委任状で十分だというべきでしょう。


2013.01.21(月)【株式交換における「数」と「額」】(金子登志雄)

 19日の土曜日は宮城県司法書士会において、会社法の総復習をテーマに講師
を務めてまいりました(鈴木会長以下、皆様お世話になりました)。本欄に登場
してくださる立花さんとも会ってまいりました。実は顔もよく知らなかったので
すが、想像どおり、まじめな好青年でした。

 さて、講義でも話しましたが、株式交換完全子会社で株式交換に反対する株主
が株式の買取請求を行うと、株式交換の効力発生日に子会社の自己株式になりま
す。そのまま株式交換を実行すると、自己株式に親会社株式が割り当てられる結
果、子会社が親会社の株式を保有することになります。

 これを避けるため、買取りの効力発生時点における自己株式全部の消却を行い
たいというニーズがあるのですが、認められるでしょうか。

 会社法178条には、「消却する【自己株式の数】を定めなければならない」
とあるため、「効力発生時点における自己株式全部」というような定め方でもよ
いのかという問題ですが、東京法務局の回答で、肯定されています。特定できれ
ば問題ないはずですから私も賛成です。

 株式交換で新株を発行した場合は、全額とも資本準備金に計上するのが一般的
です。吸収合併のように「その他資本剰余金」に計上するためには、この準備金
を取り崩すしかありませんが、会社法448条には【減少する準備金の額】を定
めよとあります。

 しかし、事前にはその額が判明しません。そこで、自己株式と同じように【株
式交換で増加した準備金の全額】といった表現でもよいのかが問題になります。

 準備金の額は登記事項ではありませんから、法務局の回答はありません。著名
上場会社2社が昨年中に実行済みでもあり、私も問題ないと考えます。登記情報
584号6頁以下の拙稿「株式対価の株式交換と任意債権者保護」が2社の後押
しをしたのであればうれしいものです。 


2013.01.18(金)【資本金計上証明書の要否】(金子登志雄)

 火曜日、水曜日に書いたことに絡めて整理してみました。

------------------------------------------------------------------------
商業登記規則61条5項
 設立の登記又は資本金の額の増加若しくは減少による変更の登記の申請書には、
資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従つて計上されたことを証する書
面を添付しなければならない。
------------------------------------------------------------------------

①設立の登記の場合

 最も多い金銭出資のみの場合は添付不要(H19・1・17民商91号通達)

②資本金の額の増加の登記の場合

 吸収合併等では商業登記法80条4号のような規定があるため本条は不適用。
 準備金等の資本組入れは商業登記法69条があるので本条は不適用。

③資本金の額の減少の登記の場合

 登記簿から分かるから本条不適用(H18・3・31民商第782号通達)
 
ということで、結果的に規則61条5項は、増資や新株予約権の行使があった時
に適用される規定ということになります。

 しかし、規則というのは法務省令であり、国会が作る法律ではなく、法務省が
作るものです。

 自分で作っておいて、自分が作る通達や規則の解釈を通じて、「あれは適用さ
れない」と解説するのは自己矛盾ではないでしょうか。

 「あれをせよ」と命令し、次の時に「あれは無視してよい」と同じ人物が述べ
ているわけです。

 もっとも、われわれには規制緩和ですから歓迎ですが、「規則を改正せよ」と
声をあげたくなりませんか。

(お知らせ)
 お待たせしました。『ずばり解説!株式と機関』(トピックス参照)は、
本日発刊され、申込者に発送するとのことです。


2013.01.17(水)【ライバル】(仙台・立花宏)

 正月が過ぎ、また今年もこの時期がやってきました。

 数年前から健康のためにジョギングしているのですが、実は毎年、この時期にやって
いることがあります。

 それは、ライバルとの対決です。近所の陸上競技場の周囲、約3kmのコースを真剣
勝負です。普段はのんびりと走りますが、この日ばかりはそうはいきません。

 昨年は負けてしまったので、今年は特に気合が入っていました。正月もお酒を控えめ
にして(注:控えてではありません。)、今日の勝負に向け、体調を整えてきました。
事前にコースをゆったりとしたペースで走ってウォーミングアップします。どうやら調
子は悪くありません。今年はよい勝負ができそうです。

 いよいよ、スタート時間が迫ります。どのようなレースとするか、頭の中でイメージ
します。序盤は抑えて、後半勝負とするか。それとも前半、早いペースで走り、逃げ切
りを目指すか。“よしっ、今年は、序盤は抑えて様子をみながら、後半勝負としよう。”
そんな戦略をたて、スタートラインにつきます。

 緊張が高まるなか、いよいよ、レースはスタートしました。最初のチェックポイント
であるコーナーで、腕時計に目をやります。タイムは予定通り。ライバルはすぐ後ろあ
たりを走っているはずです。

 “予定を変えて、ペースをあげ、引き離すか?”
 調子の良さに、そんな思いが湧いてきます。しかし、今年は勝負に徹し、後半に体力
を温存することにしました。

 レースの中間点を過ぎたところでは、ほぼ昨年と同タイム。レースプランどおりです。
ライバルはまだ、私のすぐ後ろにいるはずです。しかし、正月の不摂生のせいか、ライ
バルの息遣いが荒くなっています。

 ライバルを引き離すチャンスだと思い、一気にペースを上げます。まだ足にも呼吸に
も余裕があります。今年は勝てる、そんな気持ちになります。

 残り1kmの地点ではおそらくライバルを5秒ほど引き離していたはずです。そこか
らさらにペースをあげて、ライバルを引き離します。

 結局、ライバルには15秒ほどの差をつけてゴールしました。

 さて、次の勝負はまた来年。そしてそのレースの相手は今年の自分です。そうです。
今年のレースの相手は昨年の自分だったのです。

 昨年の自分に勝てたのだから、昨年の自分よりほんの少し進化ができたのではないか。
そして、体力だけでなく、司法書士としても、昨年の自分より進化できるようにがんば
ろう。そんな気持ちになり、今年のレースを終えたのでした。



2013.01.16(水)【規則61条7項】(金子登志雄)

 準備金の減少は株主総会の決議によるのが原則ですが、「株式の発行と同時に準備金
の額を減少する場合において、当該準備金の額の減少の効力が生ずる日後の準備金の額
が当該日前の準備金の額を下回らないとき」は、取締役会の決議でよいと会社法448
条3項にあります。

 例えば
 資本金   1000万円
 資本準備金 1000万円
 
の会社が資本準備金全額を減少すると同時に、「増加資本金1000万円、増加資本準
備金1000万円」という募集株式の発行を行えば、資本準備金は「△1000万円と
+1000万円」で変わりませんから、取締役会決議で済みます。

 さて、皆さん、次の商業登記規則61条7項は、どんな場合でしょうか。

------------------------------------------------------------------------------
 「資本準備金の額の減少によってする資本金の額の増加による変更の登記(会社法第
448条第3項 に規定する場合に限る。) の申請書には、当該場合に該当することを
証する書面を添付しなければならない。」
------------------------------------------------------------------------------

 「資本準備金の資本組入れで、資本準備金が減少しない会社法448条3項の場合」
とは、ちょっと考えられないケースです。
 上記の例で、資本準備金1000万円を資本組入れして、資本金を2000万円にし
たいなら、増資額の全額2000万円を増加資本金にすればよいだけで、資本組入れな
どする必要がありません。

 たぶん、当初のように決議した後で、資本金は最終的に2500万円にしたいと気が
変わったが、既に株式の発行に伴う増加資本金は1000万円までと決めてしまったた
め、追加の500万円を決議するような場合でしょう。稀有のケースですね。

(参考)
 昨日の最後の問題ですが、「商業登記法69条があるから、剰余金の資本組入れには
規則61条5項の資本金の額の計上証明書は添付不要」と『通達準拠/会社法と商業登
記』243頁に記載されていると、仙台の立花氏から教わりました。準備金の額の減少
については、同書も何も触れていませんでした。


2013.01.15(火)【準備金の資本組入れ】(金子登志雄)

 昨日は、とんだホワイト成人式でしたが、一生忘れない日になったことでしょう。

 さて、連休は某社の司法書士受験問題を校正していました。試しに、自分で解いて
みましたが、すぐにひっかけ問題に引っかかったり、細かい点で疑問が生じてしまい、
完璧答案は作れませんでした。実務能力と受験能力はかなり相違します。

 例えば、利益準備金を1000万円取り崩し、500万円を資本金に組み入れたと
いう問題の添付書面として、つい債権者保護手続書面と書いてしまいましたが、実体
法の手続として債権者保護手続は必要でも、資本組入れの添付書面としては不要でし
た。普通に考えれば分かることも、試験問題を前にすると、正解できないものです。

 また、準備金の資本組入れの添付書面として、資本金の計上に関する証明書がなぜ
不要とされているのか考えてしまいました。
 
 商業登記規則61条5項には「資本金の額の増加………による変更の登記の申請書
には、資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従つて計上されたことを証する
書面を添付しなければならない」とありますから、文字どおりであれば、必要のはず
です。

 商業登記法69条には「資本準備金若しくは利益準備金又は剰余金の額の減少によ
つてする資本金の額の増加による変更の登記の申請書には、その減少に係る資本準備
金若しくは利益準備金又は剰余金の額が計上されていたことを証する書面を添付しな
ければならない」とあります。これは一種の資本金計上証明書です。

 また、吸収合併等の組織再編では、商業登記法80条4号等に「資本金の額が会社
法第445条第5項の規定に従つて計上されたことを証する書面」が添付書面だとい
う規定があります。

 あれこれ考えると、規則61条5項の「資本金の額の増加」とは、募集株式の発行
のときに限定されそうです。しかし、そんなことは私の知る限り、どこにも書いてあ
りません。どうなっているんですかね。どこかに説明がありましたら、ぜひメール等
で教えてください。



2013.01.11(金)【監査役選任と319条】
(金子登志雄)

 会社法319条1項は、「取締役又は株主が株主総会の目的である事項について
提案をした場合において、当該提案につき株主(………)の全員が書面又は電磁的
記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議
があったものとみなす」と定めています。

 これを「書面決議」ということが多いのですが、条文の見出しに「株主総会の決
議の省略」とあるとおり、株主総会の決議そのものではありません。議論もなく、
個別に全員が同意することをもって足ります。したがって、取締役会による招集決
議なども必要ありません。

 この319条1項の提案者である「取締役」につき、江頭本(4版)341頁に
は「取締役会設置会社において取締役が取締役会の決議を経ないで提案した場合に
は、決議取消事由となる」とありますが、上記のとおり「株主」の提案でもよいわ
けですから、これは間違いというべきです。取締役だろうと株主であろうと、誰が
提案しようが、株主全員が同意すればよいという思想に基づく規定だと思われます
し、決議でないのに「決議」取消というのもおかしい論理です(ありゃりゃ、また、
天下の大御所に逆らってしまった。組織では出世できない性格ですね)。

 さて、この319条で監査役を選任するとき、他の監査役の同意が必要かという
質問を受けました。343条には「取締役は、監査役がある場合において、監査役
の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(………)の同意を得なけ
ればならない」とあります。

 319条が本来の株主総会ではないことを強調するなら、この同意は不要という
ことになりますが、そうすると、取締役が他の監査役の同意権限を無視する運用を
しかねません。

 文献では解説が見つかりませんでしたが、葉玉ブログ(会社法であそぼ)による
と、319条の「提案」は343条の「議案の提出」を含むようです。343条は
監査役を株主の意思で選任する場合の規定と解釈するのでしょう。妥当な解釈と思
います。もっとも、株主提案にすれば問題ないでしょうけど。


2013.01.10(木)【正月の登記雑感】(金子登志雄)

 今年の正月は、正月1日付組織再編が2件あったので、4日も出勤し、法務局にも
顔を出してきました。

 案の定、がらがらでした。のみならず、法務局周辺の司法書士事務所もカーテンを
閉めたままのところが多いように感じました。

 しかし、これは、たぶん、所長は仕事をしていたが、所員を休ませるためでしょう。
法務局が開店しているのに、司法書士事務所が閉店しているとは、元サラリーマンの
私には信じられないことだからです。

 ただ、事務所には行かないが電話は携帯電話に転送され、自宅で仕事をしていた人
も多いことでしょう。電子申請であれば事務所に行く必要もありません。私は、出勤
途上で、法務局にノートパソコンを持ち込み、そこから申請したこともあります。

 組織再編の1つは吸収分割でした。「平成25年1月1日東京都…〇〇会社から分
割」と登記したわけですが、「平成25年【正月】1日東京都………」で申請したら
どうなるのかなと考えました。

 平成1年のときは平成【1】年ではなく、平成【元】年と登記する習わしでしたか
ら、【1月】を【正月】としたら、どう反応されるのかと興味をもったわけです。

 たぶん、コンピュータ化された現在は、平成元年も平成1年としなければならない
のではないかと想像していますけど………。

 ちなみに、会社の要求で「1丁目」と、アラビア数字で登記してほしいと依頼した
ところ、「一丁目」でないとコンピュータがはじいてしまうようです。会社の要求は
認められませんでした。

 組織再編のもう1つは、地方での新設分割でしたが、電子申請ですから、何の苦労
もありません。昔は、法務局に直接出頭しなかればならなかったため、1人事務所の
当事務所は、東に飛び西に飛びで大変でしたが、今はほんとに楽になりました。

 電子申請のおかげで、昔の3倍は案件をこなせるようになりましたが、肝心の案件
数は昔と変わっていません。出歩かなくなっただけ、メタボがひどくなったという負
の効果も生じています。


2013.01.09(水)【ESG「48」】(金子登志雄)

 AKB48にひっかけてESG48と申し上げただけですが、渡部さんは年男の
48歳でしたか。

 そんなおじさんでも東京五輪後の生まれだとは驚いてしまい、思わず、手帳の年
齢早見表で確認してしまいました。今年48歳なら間違いなく昭和39年東京五輪
後の生まれでした。

 私の48歳は、平成8年で、司法書士試験に合格した年であり、会社が上場した
年です。よい年でした。きっと、渡部さんにもよい年になることでしょう。

 さて、AKB48の「48」には何か意味があるのかとネット検索してみました
ら、特に深い意味はないようです。2、3、4、6、8で割り切れるし、ちょうど
1クラスの人数程度という意味で、治まりのよい数字ということでしょうか。

 48人限定ではないようで、実際はもっと多いようです。大江戸八百八町と同じ
です。

 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1444179429

 ついでに、大阪の八百八橋は多すぎるようで、実際は200程度だそうです。

 http://www.kankou.kotomeguri.com/bridge/river/river_index.html

 会社法立案者の著作である「100問」と「1000問(の道標)」をみました
ら、ぴったりの数字でした。われわれの300問(テイハン)もぴったり300問
です。法律家の真面目さがこんなところにも現れているわけですね。もっと、サバ
を読んでもよかったのに………。『ずばり解説!会社法技法48手』とか………。

 さらに、ついですが、法律家の皆さんは、「やくざ」は「893」から来ている
ことをご存知ですか。「48」枚で構成される花札賭博で、0点の無意味な存在と
いう意味です。学生時代に犯罪学の先生から教わりました。今はネットですね。

 http://gogen-allguide.com/ya/yakuza.html


2013.01.08(火)【謹賀新年】
(島根・渡部浩義)

 「あなたは一体、誰?」と言われそうです。当ESGの新人ではありません。
2011年10月に2度登場(19日、24日)して以来、1年以上“留守”を
しておりました。このコーナーへの投稿の仕方も忘れかけていたくらいです。が、
戦力外通告を受けなかったことに感謝したいと思います。

 新年早々から言い訳けですが、前回の投稿の折の話題、『商業登記倶楽部』の
東京研修会から帰ってみると、商業登記所はおろか不動産登記所まで私の近傍か
らなくなっており、その対応に追われた1年以上でした。
 
 本年最初の投稿で金子代表が指摘されたとおり、平成の世も四半世紀の時間が
過ぎようとしています。登記所の統廃合や登記のネット申請の一般化など“環境”
の変化も相俟って、「変わらなければならないこと(もの)、変えてはならない
こと(もの)」を個人的に強く意識させられる昨年一年でした。

 『アルゴリズム』という言葉が、ネットが広く普及して、私のような片田舎の
一般の者でもよく耳にするようになりました。固定観念にとらわれずに、同じ結
果にたどり着くために、どのような方法をとるか…、といったことも強く意識す
るようになりました。

 「君は若いからタイプはやらずに日本語ワープロを研究しろ。」
昭和の末に私が司法書士の業界に足を踏み入れたときに、当時のボスから言われ
た言葉の一つです。この四半世紀は間違いなく私と司法書士の世界との25年で
もありました。その間の世のうねりの大きさは、戦争の時期を除けば、過去どの
25年間よりも大きかったのではないのでしょうか。

 「ほう、この世界にも東京オリンピックを知らない歳の人たちが入って来るよ
うになりましたか。」と、駆け出しの私をみて、取引先の多くの方から珍しい物
を見る眼差しを向けられたものでしたが、最近は、自分が平成生まれの同業者の
出現に驚きの眼差しを向けています。

 実は私、今年は年男(巳歳)なんです。48歳になります。金子代表の指摘に
よれば、当ESGの平均年齢あたりなのだそうですが、年齢は平均的でも実力の
ほどは…?の状態です。「時代の最先端をいくESG48……」と、金子代表が
メンバーを鼓舞すべく、新年早々より大きく出られたので、私も山あいの地で笑
われないようにしたいと思います。

 本年も、よろしくお願いいたします。


2013.01.07(月)【今年もよろしく、たのめすじゃ~】(富田太郎)

 皆さん、本年もよろしくお願いいたします。
 富田事務所は、WP(ワーキング・プア)事務所らしく、仕事始めは、1月2日
からでした。

 今年、最初の仕事は、青森の津軽地方から来られた 高齢の「Aさん」との打ち
合わせでした。

 実は、このAさんとは3年前からのお付き合いなのですが、津軽弁がもの凄く、

----Aさんとの会話-------------------------------------------------------

 「どーも おはよごすー。 センセ、おんろ かみがだ かえじゅー?」
  ⇒(おはようございます。センセ おやまぁ 髪型変えた?)

 「めやぐだばって、それ取ってけねが。なんぼ かがさね えんぺつ だば」
  ⇒(悪いけど 鉛筆、取ってくんない?書いても字がみえにくい鉛筆だなぁ)
------------------------------------------------------------------------

 えっ???何て言ったの??  

  ????

 結局、一部「Aさんの娘さん」に通訳してもらわないと、意味が把握できません
でした。

 私は、相談業務については、正確な内容を把握するため、依頼人の了解のもと、
「会話を録音」することがあるのですが、今回は、「あまり意味のない作業」……
…であることに気が付き、途中から録音するのをやめました………(汗)。

 ところで、「Aさんの娘さん」によれば、昭和30年代の「方言撲滅運動」(学
校で方言を話すのを禁止する行政指導)の影響で、生粋の津軽弁を話す人は少なく
なったそうです。

 でも、この津軽弁、何やら「民謡?フランス語?」のようで、標準語には無い
「温かさ」を持っています。その日1日、「ほのぼの~」と心が丸くなりました♪

 皆様、今年も我々「ESG」を、よろしく、たのめすじゃ~!

(PS)
 その後、すっかり津軽弁に魅せられてしまった私♪
 早速「津軽弁死語辞典」(泉谷栄/小野印刷企画部・北方新社)なる本を買いま
した。津軽弁は、古代の大和言葉が色濃く残っているようです。しかし、方言って、
本当に味がありますね。



2013.01.04(金)【謹賀新年】(金子登志雄)

 新年おめでとうございます。

 もう平成も25年目に入るのですね。驚きです。当時、私は(株)日本M&A研
究所という日本最初のM&A専門会社の取締役事務局長で、港区の赤坂に勤務して
いましたが、小渕官房長官が「平成」の色紙を高く掲げたのがつい昨日のように思
い出されます。

 新入社員は全員が平成生まれですし、新人司法書士も旧商法を知らない人が増え
ました。これではわれわれも歳をとるわけです。

 この平成年度は「失われた20年」といわれる如く、バブルの崩壊、貧乏人にも
公平に(?)課税される消費税の導入、金融引締めなどを端緒として不況が長期化
している時代のためか、時代に強く影響される商法・会社法も大きく変化しました。

 平成9年10月の独禁法改正による持株会社の解禁、合併法制の見直しが大改正
のスタートでした。平成11年10月の株式交換・株式移転制度の新設。平成13
年4月の会社分割制度の新設。平成13年10月の額面株式の廃止、金庫株の解禁。
それに続く相次ぐ商法改正があり、総まとめとして平成18年5月の会社法の施行
がありました。

 念願の会社の上場を果たし、M&A業界から司法書士業界に私が飛び込んだのが
平成8年で、富田氏が金融業界から飛び込んだのが平成9年でしたから、われわれ
は実にラッキーでした。まさに、フォローのウインドにうまく乗れました。

 それまでの司法書士の仕事がお客様が作った書類を前提に登記申請書を作り登記
する仕事だったのに、私の動きは、M&Aコンサルタント経歴や会社の上場経歴を
活かした合併契約書の作成から議事録案の作成まで、新しい法律に基づきアドバイ
スするものであり、新時代の司法書士として時代の波に乗れました。

 司法書士が会社法などの実体法の解説本を出版するなど考えられなかった時代に、
『これが新商法だ!』と学者本や弁護士本に対抗意識丸出しの題名で出版したのも
大成功に終わりました。いまでは会社法手続は司法書士という世間の評価がだいぶ
浸透したと自負しています。

 本年は会社法の改正があるかもしれません。私の勝手な思い込みですが、経営コ
ンサルタント並に会社法を語るには50歳以上にならないと顧客に与える安心感・
信頼感がイマイチだと思っていますから、当ESG主要メンバーは、ますます脂が
乗ってきたといえましょう。

 メンバーの平均年齢は48歳程度でしょうか。本年も時代の最先端を行くESG
48をよろしくお願い申し上げます。

過去徒然

ESG法務研究会メンバー書籍集




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