本文へスキップ

こんにちはESG法務研究会です

TEL. 03-5217-3377

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-26
  神田小川町三丁目ビル4階

確かな技術と自由な発想 新しいライフスタイルをご提案します

ESG法務研究会は、合併再編等会社法手続の実績は最大級!

TOPICS


1.最近の出版は次のとおりです。いずれも実務書であり、アマゾン等で、
 ご確認ください。
 (1)『募集株式と種類株式の実務〔第2版〕』…………2014年5月発売
 (2)『親子兄弟会社の組織再編の実務〔第2版〕』……2014年7月発売
 (3)『「会社法」法令集〔机上版〕』……………………2015年5月発売
 (4)『改正会社法と商業登記の最新実務論点』…………2015年11月発売
 (5)『会社法務書式集〔第2版〕』………………………2016年3月発売
 (6)『組織再編の手続〔第2版〕』………………………2016年7月発売
 (7)『論点解説/商業登記法コンメンタール』…………2017年2月発売
  (8) 『商業登記実務から見た中小企業の株主総会・取締役会』
                       …………2017年4月発売
  (9)『総務・法務担当者のための会社法入門』…………2017年10月発売
 (10)『事例で学ぶ会社法実務【全訂版】』………………2018年4月発売
  (11) 『商業・法人登記360問』……‥‥‥‥‥………2018年5月発売
  (12)『事例で学ぶ会社の計算実務』………………………2018年9月発売
  (13)『「会社法」法令集〔第13版〕』…………………2021年3月発売
 (14)『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論〔第2版〕』
                       …………2021年5月発売
 (15)『「株式交付」活用の手引き』………………………2021年7月発売

徒然日誌


2021.10.25(月)【コロナ下での仕事ぶり】(金子登志雄)

 衆院選の真っ只中ですね。外出もせず、テレビもないので分かりませんが、
選挙の街頭演説に人は集まっているのでしょうか。

 この選挙では前回の参院選でブームを巻き起こした山本太郎氏の「れいわ新
選組」に注目しています。前回は彼の俳優時代のイメージとは全く違う政治家
山本太郎の驚くほどの名演説で支持率がうなぎ上りだったのに、突然のコロナ
禍で、お得意の街頭演説ができなくなり、勢いに冷や水をかけられてしまいま
した。まだコロナ禍の最中ですが、そのブームあるいは勢いがどの程度残って
いるのかを知りたいと思っています。

 同じ新勢力の立花孝志氏のNHK党は、マツコさん攻撃や度重なる党名変更
(現在の党名は「NHKと裁判してる党 弁護士法72条違反で」)で一時の
勢いが下火になりましたが、ここの勢いにも興味があります。

 コロナ禍といえば、飲食業や旅行業への影響が大きいのですが、人が外出し
なくなったため、クリーニング屋さんにも大きな影響があるようです。外出し
ないので着替えもしないため、クリーニングの需要が減ったためです。コロナ
禍の前は私も毎週訪問していたのに、いまは月1回程度に減りました。出勤も
来客がない限り普段着に変わりました。

 情けないことに、先週は2日しか出勤せず、あとはノートパソコンとスマホ
によるテレワークでした(通勤定期券がもったいないです)。事務所からそう
遠くないところに住む弟が午後に事務所に行ってくれ「郵便物は原本が〇〇法
務局から戻されただけ」とか「仕事依頼の郵便なし」などと知らせてくれるの
で、わざわざ私が出勤する必要がなかったためです。

 テレワーク中でも顧客からはメールや電話質問が寄せられていますが、この
顧客自体が会社から連絡しているわけではなさそうで、仕事の仕方がずいぶん
と変化したものです。

 10年ほど前までは、仕事の電話として携帯電話(今はスマホ)を利用して
いることに驚かれたものですが(補正電話も携帯にかかってきます)、今は多
いのではないでしょうか。私の自宅には固定電話さえありません。

 ノートパソコンとスマホのおかげで、金子事務所は「いつでもすぐに対応し
てくれ、仕事が早い」と評判です。私自身、待たされるのも待たせるのも嫌い
な性格です。せっかちといわれることもありますが、仕事の面では、よい効果
を産んでいます。皆様もいかがですか。


2021.10.22(金)【新著(株式交付)3か月経過】(金子登志雄)

 『「株式交付」活用の手引き』を出版した後、旬(しゅん)ともいえる3か
月が経過しました。これからは売行きが減少するでしょうが、とりあえずは、
この重要な期間を無事に乗り切れました。アマゾンで、会社法本カテゴリーで
上位50位以内にまだ位置し続けてきたためです。

https://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/500196/ref=pd_zg_hrsr_books

 この間、増刷もあったので、なんとか出版社には顔向けできました。出版に
は、最初の大きなハードルとして出版社が出版に応じてくれるかというものが
ありますが、その次が出版後の売行きです。第1刷が売れ残ると、次の出版は
ないので、発売3か月は気になって仕方ありません。

 さて、株式交付というのは特定の他社の株主から株式を譲り受けて、その他
社の議決権の過半数を取得し子会社とし、対価として自社の株式を交付するも
のです。いわば、募集株式の発行等において他社株式が現物出資されるような
ものですが、組織再編の1種ですから、現物出資規制(検査役調査など)はあ
りません。

 申し込みされた他社株式を受け入れるかどうかについての「割当て」手続は
ありますが、この割当てを決定した取締役会議事録が登記の添付書面になるか
については、いまだ不明です。登記の通達にも一言も触れられていません。

 今週届いた連合会の「月報司法書士」での解説では、通達を受けたのか、理
由もなくあっさり不要と断言されていました(特例有限会社も対象外と断言さ
れていました)。

 なぜ、触れられていないかというと、組織再編の添付書面は、原則として、
それを決定した株主総会議事録だけで済み、募集株式の発行のような「発行決
議+割当決議」という2つの決議で構成されていないためでしょう。

 したがって、商業登記法に必要だという規定がないので不要説でよいと思い
ますが、商業登記法46条の一般規定を持ち出せば必要説になりますし、株式
交付は、吸収合併や株式交換と相違し、全株主に割り当てるものではなく、割
当てという選択手続が必要であるため、本当に割当ての決定書は不要でよいの
でしょうか。私には規定漏れとしか思えません。

 よく高齢になった後にできた子供はとりわけ愛しいといいますが、本書は私
にとって、それに該当します。100頁程度の小冊子ですが、株式交付に関心
がなくとも、会社法や商業登記に関する私の執務姿勢(金子らしさ)が満載で
すから、きっと役立つと信じていますので、ぜひ、ご利用ください。


2021.10.21(木)【「割当て」とは】(金子登志雄)

 「割当て」という概念は、結構、難問です。新株予約権の割当てと割当日は
無関係と思っていた方がよいでしょう。後者は効力発生日のことだからです。
なぜ、効力発生日を割当日と名付けたかというと、無償発行で発行されること
が多いため、付与日の意味で割当日としたのだと思います。

 割当てを法律行為の面から分類すると次のようになります。

 1.株式(又は新株予約権)無償割当ての「割当て」は純粋な単独行為
 株式分割などと同様に、株主に向けた申込不要の単独行為です。不要だと思
うなら割当てを受けた後に権利行使しないか、放棄すればよいだけです。  

 2.株主割当の「割当て」は解除条件付単独行為
 ここは複雑で、割当てを受ける権利(引受権)の付与として単独行為ですが、
申込みしないことを解除条件としています(204条4項、243条4項)。
この申込みは形成権というか、法律事実ではなく単独行為になります。

 3.第三者割当の「割当て」は契約の法律要件事実
 いわゆる割当契約や総数引受契約です。Aさんに割り当てると決議しても、
「引受契約=申込み+承諾」の承諾に該当する行為が申込みより先になされた
だけで、Aさんからの申込みがなければ契約も不成立のため、申込みは法律行
為の附款である「条件(停止条件と解除条件)」とはいえません。一時存在し
た申込みを条件にすると議事録に記載しなければ補正になるとの見解は、明白
な誤りです。

 取締役や従業員に向けた新株予約権については、事実上2に近いところがあ
り、新株予約権「付与」契約などと称することがありますが、これも引受契約
であることに変わりがありません。また、募集株式の発行では、株式割当(引
受)契約であることに変わりがありません。

 個別割当契約と総数引受契約との相違は、他の人と一緒に全部を引き受ける
という共同引受けの意思が全員にあるかどうかだけの相違であり、現実のスト
ックオプション目的の新株予約権の発行では前者であっても他の役員・従業員
と一緒に全部を引き受けるという意思が全員にあるでしょうから、実質的には
大差ありません。にもかかわらず、前者には「ひな形」処理が認められ、後者
には認めない登記所があるのは、理解することができません。


2021.10.20(水)【スペシャリスト】(藤沢・酒井恒雄)

 最近(・・・というか開業以来ずっとかもしれませんが)、司法書士って何
のスペシャリストなのですか? と問われたときに、答えに窮しております。
「登記のスペシャリスト?」「簡裁裁判のスペシャリスト?」「成年後見のス
ペシャリスト?」「財産管理のスペシャリスト?」。

 職務範囲を色々と説明した後、「つまりは街の法律家です!」と締めくくっ
てしまうが故に、結局、司法書士って何? という堂々巡りに陥ります。つい
あれこれ説明してしまうのは、かつて広報部に所属していたせいかもしれませ
ん。

 ではあなたは何のスペシャリストですか? と問われたなら、私であれば
「商業登記と会社法のスペシャリスト」と答えます。しかし、精鋭が揃ってい
るESGメンバーの前では、そんなふうに答えるのも気が引けてしまいます・
・・。ほんとスゴイ人ばかり・・・。

 でも決して敷居が高いわけではなく、近づくのも恐ろしいような人達でもな
く、皆さんやさしい人ばかりで、真摯に相談・疑問等に答えてくださいます。

 いざとなれば、そんな頼もしい人達の後ろ盾があるのです。商業登記はバラ
エティーに富んでいるので初めて遭遇する案件も多いかと思いますが、積極的
にどんどん受託してみましょう!


2021.10.19(火)【休眠有限会社への対応】(東京・鈴木龍介)

 通常の株式会社については、12年以上登記を行わない会社を休眠会社として
職権により解散登記をするという制度が設けられています。

 休眠会社のみなし解散の制度は、昭和49年の商法改正(昭和49年4月2日法律
21号)によって創設されたものですが、当時の制度の趣旨として、①商号選定
の支障、②登記の信頼性の失墜、③犯罪等への悪用への対処であることがあげ
られていたが、②・③については現時にも要請があるとともに、とりわけ③に
ついてはよりクローズアップされていることから、近時においては毎年、休眠
会社のみなし解散が行われています。

 一方、休眠会社のみなし解散の制度は、定期的に登記申請義務が発生するこ
とを前提としており、定期の取締役の変更登記が予定されていない特例有限会
社(以下、単に「有限会社」)は対象となっていません。

 すなわち、有限会社については、半永久的に実体の伴わない登記が残置され、
②登記の信頼性の失墜、③犯罪等への悪用の温床となる可能性があるというこ
とです。

 ちなみに平成2年の商法改正において、最低資本金制度の導入による既存の
株式会社と有限会社に対し、同改正法施行の日から5年以内(平成8(1996)
年3月31日までに)に所定の最低資本金(有限会社については300万円)に達す
るよう増資等をすることが求められ、対応をしなかった場合には職権で解散登
記がなされたことにより、一定数の休眠有限会社は整理されました。

 休眠有限会社の放置に問題があるということに異論はないと思われますが、
現行では、それを解消する制度は存在しません。そこで、どのような制度を導
入することにより休眠有限会社の解消をすることができるかを検討してみたい
と思います。

 1つ目としては有限会社に取締役の任期を設け、通常の株式会社と同様に休
眠会社のみなし解散の制度の対象にすることが考えられます。また、特則的位
置づけである有限会社について、時限を定めたうえで、通常の株式会社への商
号変更もしくは持分会社への組織変更をすることを求め、それらを行わない有
限会社をみなし解散とすることも考えられそうです。しかしなから、いずれの
やり方も休眠有限会社の解消に一定の効果はあるものの、既存の有限会社のあ
る種の利益を奪うことになり、少々乱暴であるように思われます。

 2つ目としては、登記簿の情報をベースに、有限会社のうち、たとえば〇年
間、何らの登記もしていない会社をピックアップし、会社法における休眠会社
のみなし解散と同様のかたちで整理するというのはどうでしょうか。このやり
方は、現行の仕組みのなかで行うことができるとともに、毎年、実施すること
により休眠有限会社の解消に一定の成果が期待できるものと思われます。

 ちなみに、いわゆる法人マイナンバーン導入時に各社へ通知がなされました
が、そのなかには通知が不着であった有限会社も相当数あったと聞いています
が、それに伴って休眠有限会社のみなし解散等の処理を行えば相当の成果があ
ったのではないかと思われるところです。

 3つ目としては、抜本的な制度の変更となりますが、行政間の情報連携を利
用し、各社が毎年の税務申告を行った際に登記簿になんらかの記録を付し、そ
の記録がない有限会社について会社法における休眠会社のみなし解散と同様の
かたちで整理するというのはどうでしょうか。このやり方は、毎年、実施する
ことにより一定の成果が期待できるとともに、他の会社・法人についても活用
ができ、商業・法人登記制度の会社・法人の実在性証明機能の向上にも資する
ものと考えます。


2021.10.18(月)【同意証明書の方式】(金子登志雄)

 今月は、株主ABCDE5名の会社で、株主Aの有する普通株式の一部を優
先株式に変更する手続に関与しました。ご承知のとおり、先例により、会社と
Aとの合意書と普通株主全員の同意書が必要です。

 念のため株主全員から同意書をもらっておきましたが、登記申請には添付せ
ず、種類株式を定める定款変更を議題とする(株主全員参加の)株主総会の中
で株式の種類の変更についても合意及び同意してもらい、この株主総会議事録
を「合意・同意があったことを証する書面」として利用しました。

 同意の方式は問いませんので、一堂に集合した議事録形式でも可能なことは、
合併対価が持分会社の持分である場合(783条2項参照)の総株主の同意は
合併承認の株主総会形式が自然ですし、法務局のホームページ内にある下記の
「株式会社の組織変更(株式会社→持分会社)」についても、総株主の同意を
株主全員参加の株主総会で行い、この議事録を総株主の同意があったことを証
する書面にしています。これらと同様に、普通株式の一部を優先株式に変更す
る場合も、議事録で対応することが可能です。

  https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252682.pdf

 総株主の同意を証する書面が総株主参加の株主総会議事録でよいのなら、総
数引受契約を証する書面も権利者全員による「別紙の契約内容によって総数を
引き受けたという証明書」でもよいはずだと金曜日の問題にもつながるわけで
す。

 総数引受契約の場合は「契約書そのものの存在が登記原因事実を端的に証明
しているもの」だから原本を提出せよという一部の登記所の見解は、どうみて
も他の場合とのバランスを欠いているとしか思えません。 


2021.10.15(金)【引受証明書とは】(金子登志雄)

 商業登記法56条に、募集株式の発行による変更の登記の申請書には、募集
株式の引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面を添付せよとあります。
簡略にいえば「申込証明書」又は「総数引受契約証明書」です。

 では、甲社が乙社に募集株式1万株を割り当てたのですが、総数引受契約が
長文の投資契約であったため、「引受証明書」あるいは「引受書」という表題
のもとに「甲社御中/確かに1万株を引き受けました。/令和〇年〇月〇日/
乙社代表取締役〇〇」とし、内容には発行要綱や契約日も記載されていた場合
に、これで登記が受理されるでしょうか。

 これで上記の「総数引受契約証明書」になるとみれば解決ですが、これでは
「契約」を証する書面としては不十分でしょう。では「申込証明書」になるで
しょうか。結論からいうと、肯定してよいと思っています。次の差です。

(申込先行の通常型)
 「発行決議ー申込みー割当て(引受け)」型→→「申込みを証する書面」

(事前割当型)
 「発行決議ー事前割当てー申込み(引受け)」→「引受けを証する書面」

 商業登記法に「引受けを証する書面」との表現はないのですが、株主割当の
ように新株引受権付与の第三者割当においては、申込みよりも先に割当てがな
されるため、「申込み=引受け確定」となるためです。

 ちなみに、新株予約権発行に関する平成14・8・28付民商第2037号
通知にも、「発行会社の代表者が作成した新株予約権の申込み又は【引受けが
あったことを証する書面】に」とあります。これもストックオプションの新株
予約権は事前割当てでなされるのが通常だからです。

 大手の上場会社が海外で発行する転換社債型新株予約権社債では、幹事証券
数社の代表幹事が発行会社と総額買取契約を行いますが、契約書を作成するに
もかかわらず、登記では代表幹事の「買取引受証明書」という1,2枚の簡単
なもので受理されています。

 この証明書も「契約内容」証明書としては不十分ですから「総額引受契約証
明書」というよりも(注:社債の場合は総「額」ということが多い)、引受人
全員の「引受けを証する書面(事後申込証明書)」として扱い、無事に受理さ
れているのではないでしょうか。実際に契約しても、次のとおり、申込みや引
受けを含んでいます。

(総数契約型)
 「発行決議ー総数契約(事前割当てと申込み)」→「引受けを証する書面」


2021.10.14(木)【職務執行者と就任承諾】(仙台・立花宏)

 法人である社員(注1)が合同会社の代表社員に就任する場合、職務執行者
も登記する必要があり ます(会社法914条8号)。そして、その登記には、
選任に関する取締役会議事録と、就任承諾を証する書面を添付する必要があり
ます(商業登記法118条、97条、94条)。この就任承諾を証する書面と
は、具体的にはどのような書面でしょうか。法人社員との契約関係は、委任契
約や雇用契約等さまざまな形態が考えられますから(注2)、一概には言えな
いということになります。いろいろ、場合分けして検討してみます。

 実務上は少ないケースだと思いますが、まず、職務執行者が、会社の従業員
等ではない、第三者の場合はどうでしょうか。この場合は、取締役の場合と同
様に、委任契約を締結することが典型的でしょうから、就任承諾を証する書面
は、取締役の場合と同様に考えることができると思います。

 次に、法人社員の従業員の場合はどうでしょう。職務執行者は支配人に準ず
る包括的な権限を有すること等から、登記実務上、選任は取締役会で行う必要
があるものとされていますが、就任承諾については、どう考えるべきでしょう
か。支配人の選任の場合は、委任関係ではなく、雇用関係であることを理由と
して、就任承諾は不要であるため、就任承諾書の添付は不要とされています
(注3)。従業員が職務執行者になる場合も同様に考えることができるでしょ
うか。

 たしかに、社員としての法人の職務を行うので、社員の職務を行う包括的な
権限を有するといっても、あくまでも法人内部の職務だと考えると、それは雇
用関係であり、就任承諾は不要のようにも思えます。しかし、職務執行者にな
ると、雇用契約のある会社とは違う会社で職務を行うことになるのであり、通
常は、出向という形がほとんどだろうと想像します。出向は、雇用契約を結ん
だ会社とは別の会社の指揮命令下での業務となるため、原則として、本人の同
意が必要とされています(注4)。ただ、職務執行者は、経営者としての職務
を行うのですから、合同会社の指揮命令下というのは適切ではないかもしれま
せん。合同会社との関係については、委任に関する規定が準用されることにな
ります(会社法598条、593条)。そうしたことから、従業員が職務執行
者となる場合は、やはり、この同意が必要であり、それを就任承諾と表現でき
るのではないかと思います。よって、登記手続では、その承諾(同意)を証す
る書面を添付することになるといえるでしょう。

 最後に、法人社員の取締役の場合はどうでしょう。職務執行者が支配人に準
ずる地位だと考えると、当該合同会社の職務を担当する業務執行取締役に選定
される、あるいは、もともと業務執行取締役であった場合は、あらたに当該合
同会社の職務を担当する業務を委任すると考えられますから、就任承諾は必要
だといえるでしょう。よって、この就任承諾を証する書面を添付することにな
ると考え ます。

 ところで、代表取締役を職務執行者として選任した場合はどうでしょうか。
職務執行者は支配人に準ずる地位を有しています。その支配人につき、支配人
の権限よりも広範な代表権をもっている代表取締役は、支配人として選任する
実益がないため、支配人を兼ねることができないとされています(注 5)。
職務執行者の場合も同様に、会社の包括的な業務執行権を有する代表取締役に
ついては、職務執行者として選任しなくても、当然に法人社員の職務執行者と
しての権限を行使することが可能であ り、職務執行者に選任することは不要
という考え方もできるように思いました。

 そう考えると、就任承諾は不要ということになります。この点をどのように
考えればよいのでしょうか。この場合の選任と就任承諾は、あらたな委任をす
るわけではありませんが、合同会社に出資し、業務執行社員の職務を行うこと、
そして、代表取締役がその社員の職務執行者の業務を担当することを、取締役
会で協議するでしょうから、選任とはその意味にとらえることになるだろうと
思いました。そして、本人の意思と無関係に職務執行者として登記されること
を避けるために、本人がその決定を受け入れていることの意思確認の意味で、
就任承諾書の添付が求められているといえるのではないでしょうか。そうする
と、代表取締役が職務執行者となる場合は、就任を承諾した旨の記載がない場
合であっても、選任された取締役会の議事録に、当該代表取締役が署名又は記
名押印している場合は、それを就任承諾書と扱ってもよいのではないかと思い
ました。

 以上のことは、あくまでも、いろいろなケースを検討してみた個人的な考え
に過ぎませんが、いままで、当然のことと思って行ってきた合同会社に関する
登記実務も、いろいろ考えてみると、まだまだ、悩ましいことが多いように思
いました。

 注1)取締役会を設置している株式会社であることを前提とします。
 注2)相澤ほか『論点解説新・会社法』(商事法務)580頁
 注3)「登記研究」527号152頁
 注4)例外的に、出向の諸条件等が、労働協約や就業規則で、制度として
  明確にされている場合は、個別の同意は不要とされています(松山地裁
  昭和55年4月21日)。
 注5)「登記研究」527号154頁


2021.10.13(水)【ご無沙汰しております】(藤沢・酒井恒雄)

 久しぶりに投稿させていただきます、神奈川の酒井です。

 気付けば最後の投稿から1年半以上経っていました。まさかこの間に、これ
ほど世の中の状況が変わるとは想像もしていませんでした。

 コロナ禍においての取締役会や株主総会の開催について、オンラインで開催
できることの可否や議事録の記載内容等で一時期混乱がありましたが、今では、
当たり前のようにオンラインでの総会等の開催がされ、受領した議事録も不備
なく記載されていることが殆どです。環境の変化のスピードは速いですが、そ
れに対して人が応じるスピードも速くなっているようで、いつの間にかずいぶ
んと自分も速足になっているなと感じています。

 そんな中、ふと立ち止まったとき、一体自分はどこに向かって進んでいるの
だろうかと考えることも増え、「キャリア」というもが非常に気になっている
今日この頃です。

 キャリアについて考えるようになっている理由は他にもあり、私は起業家支
援拠点でメンターとして相談を受けているのですが、例えば起業の相談がした
いという人の話を聞いてゆくと、かなりの頻度で、自分はこれからどうやって
生きていくといいのか、何がやりたいのか、といった相談内容になります。周
りに起業家が多いので、自分も起業した方がいいのではないかと焦っていると
いう話になることもあります。起業というよりキャリアの相談になるのです。

 司法書士がそこまで相談に乗るべきなのかという意見もあるかと思いますが、
株主リストを添付せよとか、実質的支配者申告書を提出せよとか、いつの間に
か本来の仕事ではないこと(・・というと怒られてしまいますが。)にも司法
書士は対応範囲を広げているのだから、相談範囲も広く考えた方がいいと思っ
たりしています。また、プロボノ活動としてやった方がいいという意見もある
かもしれません。しかし、純粋なプロボノ活動とも違うと思っていまして、相
談者が将来の顧客となる確率は高く、案件受託へ向けての信頼関係構築の第一
歩と考えるのがいいのかなと思ったりしています。

 久しぶりの投稿が、ちょっと真面目な話になってしまいましたが、次からは
日頃のゆるいネタを中心に投稿したいと考えております。引き続きよろしくお
願いいたします。

2021.10.12(火)【『商業登記・会社法務書式集 改訂版』】
                           (東京・鈴木龍介)

 このたび、神崎満治郎先生、本コーナーの主宰である金子さんとともに私が
編集に携わりました『商業登記・会社法務書式集 改訂版(上下巻)』がリー
ガル社から発行されました。
 http://www.legal.co.jp/products/shoshikishu/shoshikishu_1.html

 本改訂版は平成27年発行の『商業登記・会社法務書式集(上下巻)』を近時
の会社法・商業登記法・商業登記規則等の改正にあわせて、大幅に書式や注釈
等の改訂・追加を行ったものです。特に押印規定の見直し対応にともない、各
書式で求められる印鑑の種類と必須・任意が一目でわかるよう表記を改めまし
た。

 また、改訂版ではニューノーマル時代に即した会社運営のために、オンライ
ンシステム等を利用したリモート出席型議事録を追加したほか、書面報告・書
面決議による定時株主総会の提案書や同意書、議事録の充実を図っています。

 アレンジできるWord版ソフトと注釈付解説本という構成については、従来の
ものと同様です。

 手前味噌ですが、中小企業の支援に携わる司法書士のみなさんにとっては非
常に使い勝手のよい、損はしないお買い物かなと思っておりますので、どうぞ
よろしくお願いいたします。

(金子から)
 私からも推奨します。内容の分かっている私は顧客から本人確認証明書見本
を送れ、印鑑届を送れ、定款見本を送れ、株主名簿見本を送れ・・・などとい
う場合に重宝しています。実に優れものです。高額ですが、役員変更2回分で
すし、元はすぐに取れますので、よろしくお願いいたします。


2021.10.11(月)【再び商業登記規則61条4項と7項の解釈】
                             (金子登志雄)

 商業登記規則61条4項と7項は、要約すると、次の内容でした。
 4 非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書に押印した印鑑につき印鑑証
  明書を添付しなければならない。
 7 取締役の就任承諾書に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記
  載されている本人確認証明書を添付しなければならない。ただし、4項の
  場合はこの限りでない。

 7項が後に新設されたわけですが、この結果、4項でも就任承諾書に住所が
必要になったというのが当局の解釈です。

 確かに、7項には、「取締役会設置会社の取締役」という限定がないので、
そういう解釈もありそうですが、7項新設の理由は、監査役や取締役会設置会
社の取締役には何の証明も不要であったため、死者や有名人を騙った架空人を
役員として登記することができたので、この対策として実在性の証明を求めた
ものです。住所の証明が必要になったわけではありません。

 次に4項の解釈ですが、本文だけみれば実印を押せとは規定されていません。
印鑑証明書を添付せよという内容から、この押印は実印にしなければならない
と分かるわけです。同様に、7項も氏名・住所付本人確認証明書を添付せよと
あるので、就任承諾書にも本名と住所を書かなければならないのです。

 商業登記規則61条は「添付書面」の規定であって、就任承諾書の記載事項
に関する規定ではありませんから、改正で就任承諾書には住所の記載が必要に
なったという解釈は本末転倒です。

 いや、当局の見解は7項の新設で就任承諾書には住所の記載が必要になった
というものではなく、7項の新設で添付書面との住所の照合が必要になったと
いうことだから、4項にもその趣旨が及ぶようになったのだとの反論も考えら
れます。しかし、前回も記載しましたが、「ただし、・・・この限りでない」
は本文全部の適用を排除するものであって、4項が適用される場合は、7項の
適用がありません。

 この私見に対しては、4項の解釈につき、印鑑の合致だけで実在性を証明す
るものだとすれば、就任承諾書に住所を記載した場合に、この住所と印鑑証明
書上の住所が不合致でもよいのかといわれそうですが、これは添付書面の間に
矛盾があったときは却下という商業登記法24条の問題であり、本件の問題で
はありません。「印鑑証明書発行後に住所を移転しました」という証明をつけ
れば却下事由の解消になり問題ないはずです。

 以上ですが、いうまでもなく、私見に従うと補正になりますので、ここは不
満でも当局の運用に従ってください。私見と同じ考えの現場の登記官も、補正
通知を出さざるをえないのです。


2021.10.08(金)【押印不要登記実験】(金子登志雄)

 10月1日付け設立登記で、本店所在場所や設立時取締役・設立時監査役の
選任に関する発起人(2名)決定書につき、押印なしで申請しましたが、無事
に完了しました。株主総会議事録に押印は任意とされているため、発起人の決
定書に押印が要求される可能性は薄いと自信がありました。

 設立時取締役による設立時代表取締役の選定については、押印しました。押
印に関する通達(令和3・1・29民商第10号)には、「ある取締役の一致
があったことを証する書面については、取締役会議事録に準ずるものとして、
引き続き、署名又は記名押印を要するものとする」とあり、設立時取締役の一
致については触れられていませんが、同様に解釈される可能性が高いと判断し
たためです。ここはグレーゾーンです。

 10月1日の吸収合併では、株主リスト、資本金計上証明書、登録免許税法
施行規則第12条第5項の証明書、株券不発行証明書、催告を証する書面につ
き押印なしにしましたが、これは実例が多いのか、あっさり受理されました。

 9月下旬に申請した新株予約権の発行登記については、押印なしで発行会社
と権利者全員を当事者として列挙した総数引受契約にしましたが、これも無事
に済みました。

 新株予約権割当契約であれば、契約のひな形と対象者リストが可能でも、総
数引受契約については、ひな形処理を肯定する先例がなく、登記所次第のとこ
ろがあるため、安全な(?)押印なしで実験してみたわけです。

 この延長で合併契約書や吸収分割契約書なども押印不要で問題なさそうです
が、企業の意識がそこまでは進んでいないでしょうから、押印なしの実例が生
じるのはまだ先だと思います。収入印紙を貼るべき書面に押印なしは違和感が
あります。

 皆様もさまざま実験してみてください。そして情報共有したいと思います。


2021.10.07(木)【海外在住者の就任承諾書と印鑑証明書】(金子登志雄)

 取締役の就任に関して、商業登記規則61条4項と7項には、次の趣旨が規
定されています。
 4 非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書には印鑑証明の添付が必要。
 7 取締役の就任承諾書には住所を記載し、住所付の本人確認証明書が必要。
  ただし、4項の場合はこの限りでない。

 これにつき、私見は、4項の場合は印鑑照合で、7項は住所の照合で本人確
認をするものだから(住所証明ではなく実在証明です)、4項の就任承諾書に
は住所が不要であるというものですが、当局は7項の新設で4項でも住所記載
が必要になったという解釈です。

 つまり、7項のただし書は、住所の記載を必要とする前段までを除外するも
のではないという解釈です。「ただし、・・・この限りではない」は、本文全
部の適用を除外するものとみるのが通常のため、当局の解釈は他に類例をみな
い稀有な解釈です。

 この見解の差が海外居住の非取締役会設置会社の取締役就任承諾書にも影響
するとは思いませんでした。

 先週、親しい司法書士から海外在住の非取締役会設置会社の設立時取締役に
ついて、「住所付き就任承諾書/年月日/自署」につき日本大使館の証明書が
あるものを示され、これで十分かと聞かれました。

 私は住所が記載されているし、サイン証明にもなっているので、これで4項
を満たしていると判断し、問題ないと思いましたが、詳しいわけではないので、
こういう面に詳しい知り合いの東京会の草薙司法書士に支援を求めたところ、
就任承諾の文言が記載されていても、これはサイン証明にすぎず、住所の証明
にはなっていない(公的機関が発行した住所証明ではない)ので、別途、本人
確認証明書(在留証明書など)が必要だと説明されました。

 私見では、印鑑証明書の代用である自署証明書があれば、就任承諾書に住所
は不要というものですが、当局の解釈によれば、こういうことになるわけです。

 もし、日本の印鑑証明書に住所が記載されていないとしたら、当局の解釈に
よると、非取締役会設置会社の取締役の就任承諾書には、住所の記載が必要で
印鑑証明書と本人確認証明書の2つを添付することになります。7項のただし
書は何の意味もなくなります。

 やはり、当局の解釈は勇み足だというべきでしょう、いずれにせよ、昨日の
古山さんの投稿ではありませんが、専門家人脈も持っていると、容易に登記実
務上の正解を得られるので助かります。


2021.10.06(水)【ESG事務所?金子事務所?】(東京・古山陽介)

 金子先生が10月1日に書かれた「情報通」の記事を拝見していて、私も恵
まれた環境に身を置かせていただいていることを改めて実感しました。
 
 金子先生を中心とした商業登記業務に従事している先生方と交流させていた
だいているおかげで、自分がまだ携わっていない事例の情報や新しい申請方法
に関する現状の法務局の取扱い等を知ることができたり、また、自分が抱えて
いる事案についても、一人では解決できないような論点について質問を投げか
けると、親身に回答をして下さったりと、皆活動は異にしているにも関わらず
一つの事務所に属している感覚になります。

 先月、事業協同組合から株式会社への組織変更の手続を行ったのですが、そ
の際にも、受任時に、ブログ「司法書士のオシゴト」で有名な新保さゆり先生
にお力添えをいただきました。

 初めて受託した案件でレアな事例でもあるので、書籍を読んでみても本当に
知りたい論点について触れられていなくて困ったのですが、ネットで検索して
みたところ、新保先生のブログが出てきまして、早速、問い合わせをさせてい
ただいて、ある程度、疑問点が解消できた状態で手続に入ることができました。
この場で改めて、新保先生には御礼申し上げます。

 自分自身も周りに還元できるよう、日々の経験を充実されなければと感じる
次第であります。


2021.10.05(火)【日本登記法学会 第6回研究大会】(東京・鈴木龍介)

 今回は、私が理事を務めております「日本登記法学会」の第6回研究大会の
お知らせです。

 いまだ不穏なコロナ禍ということもあって、昨年と同様、当学会会員のみの
オンラインにより、以下のとおり開催するはこびとなりました。

 参加につきましては、
当学会HPに参加申込フォーム(http://www.toukihou.jp/event.html)を準備
しておりますので、こちらから申し込みをお願いいたします。ちなみに、当学
会には今からでも入会いただけます。

 日  時:令和3年11月27日(土)10:00~17:30
 開催形式:オンライン会議システム「ZOOM」
 共  催:日本登記法学会、日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会
      連合会
 後援予定:法務省
 内  容:テーマ「デジタル社会と登記」
      〇商業・法人登記関係(午前)
       報告① 小塚荘一郎氏(学習院大学法学部教授)
       「登記のDXとDX時代の登記(仮)」
       報告② 早川 将和氏(司法書士)
       「IT社会において商業登記が担うべき役割とその課題(仮)」
      〇日本登記法学会 定時総会
      〇不動産登記関係(午後)
       報告① 小西 飛鳥氏(平成国際大学法学部教授)
       「IT化と登記―不動産登記簿の公開(仮)」
       報告② 隂山 克典氏(司法書士)
       「デジタル化時代の司法書士実務(仮)」
       報告③ 今瀬  勉氏(土地家屋調査士)
       「リモートセンシングデータの登記利用について(仮)」
 定  員:250名(当学会会員のみ)
 参加費用:無料


2021.10.04(月)【3Dプリンター】(島根・根来川久充)

 新型コロナ禍、いろいろな団体に所属をしているのですが、人を集める会合
が、まず、困難な状況です。

 そこで情報発信をする際に、インターネットを利用することになるのですが、
現在、情報発信の事業として、動画配信を考えています。

 ただ、講演模様を録画して放映するより、人形劇にして放映しようと準備を
しております。

 人形作成から業者にお願いをするのですが、3Dプリンターで製作いただく
ことになりました。

 そこで、先日、製作現場に立ち会いました。専用のCADでの作成から、プ
リンター用へのファイル変換、そして製作と、一センチ程度の人形に3時間を
要しましたが、簡単に製作ができました。

 すでに家の製作も可能という話もうかがいました。そうなるともはや「家」
は「不動産」でなく「動産」ではないかと思います。建物の登記に大変革をあ
たえる時代は、そう遠くないかも知れません。


2021,10.01(金)【情報通】(金子登志雄)

 ここのところ、鈴木日司連副会長様は、FATFだ、BOリストだと我々に
役立つ情報を提供してくださり、助かります。副会長の職務を十分に果たして
いらっしゃいます。

 情報通といえば、京都の内藤先生の有名なブログも、実に幅広く、このブロ
グではじめて知る情報も多く、ありがたいことです。

 と書きつつ、本徒然は、少しは皆様のお役に立っているのでしょうか。司法
書士でもそれぞれ関心の矛先が違うようで、私は会社法・商業登記の論点しか
関心がなく、「私はこう思う」ということしか書く気が起きません。新保先生
のブログは電子署名に関心があるようですし、立花さんは合同会社の深堀に熱
心です。

 こういう知り合いが身近にいるおかげで、怠惰な私は多くの情報その他に詳
しくなろうという気もなく、いざとなったら、あの人に聞けばいいと怠けてい
ます。

 言い訳がましいですが、みなが同じ方向に向いているより、このほうが便利
だと思いませんか。

 1か月前に、飲食物の呑み込みの際に、のどに違和感があり、それが続いた
ため、耳鼻咽喉科か消化器科か、内科かと、どこの専門医にかかってよいのか
分からず、社内の詳しい方に聞いたら、〇〇科、△△科、◇◇科ともっと多数
の専門分野を教えられました。何とかいう大手の病院には、その判定をする専
門分野もあるのだとか(最終的に、とりあえず近所の大きな耳鼻科にみてもら
ったところ、異常なしでした。違和感も半月ほどで消えました)。

 これと同様に、どうしてよいか分からないときは、情報通に問い合わせ、会
社法科だと分かれば私に、合同会社科だと分かれば立花さんに、電子申請科だ
と分かれば新保さんに・・・と、専門医についての情報通になることが必要で
す。

 先日、某地方(郡部地区)の司法書士から紹介されたと、地方の会社から種
類株式の相談を受けました。私より年配の司法書士の方のようでしたが、こう
いうあっせん先の情報にはお詳しいようでした。町医者が大学病院を紹介する
ようなものです。当事務所の病床はまだまだゆとりたっぷりですので、ご紹介
をお待ちしています。商業登記の重症患者歓迎です。


2021,09.30(木)【新株予約権と目的たる株式の「数」】(金子登志雄)

 月曜日の立花さんの投稿を受けて、新株予約権の総数あるいは目的となる株
式の数につき私も考えてみました。

 まず、新株予約権の前身である新株引受権については、「取締役又ハ使用人
ニ対スル新株ノ引受権ノ付与」とされていました。会社が一方的に無償で株式
を引き受ける権利を付与するものだったわけです(新株予約権「付与」契約と
いうのは、この名残です)。申込みの有無を問わないため、「目的たる株式 
〇〇〇株」が登記事項でした。

 ところが平成14年4月施行の改正で、これが新株予約権と名称変更され、
株式の割当てと同様に契約型に変更されました。付与ではなく、申込みと割当
てになったわけですが、旧商法第280条の20第2項は新株引受権の影響を
受けて次の配列でした。
1 其の決議に基き発行する新株予約権の目的たる株式の種類及数
2 複数の新株予約権に分割して発行するときは発行する新株予約権の総数

 すなわち、まず「対象株式数」が先に存在し(例えば1万株)、続いて、こ
れを何個の新株予約権に分割するかを決めるものでした。100個に分割する
なら、新株予約権1個につき100株であり、これを「各」新株予約権と名付
けました。

 では、この新株予約権を登記申請する際に、「新株予約権100個、目的と
なる株式数1万株」としてよいかというと、不可であり、株式発行と同様の契
約方式にしたため、引受け数にしなければなりません。このことを誤解のない
ように実務では、次のように定めます。

 新株予約権の数100個。
 上記総数は、割当予定数であり、引受けの申込みがなされなかった場合等、
割り当てる新株予約権の総数が減少したときは、割り当てる新株予約権の総数
をもって発行する新株予約権の総数とする。
 
 そこで、80個しか引受けがないと、「新株予約権の数80個、目的となる
株式数8000株(又は1個当たり100株)」と登記します。

 したがって、端玉ブログにあるように、目的たる株式数は総数のことではな
く1個当たりの株式数だと考えた方が「内容」としては分かりやすいといえま
すが、だとしたら「算定方法」はなぜあるのか、目的たる株式数とは今回決議
して交付する【第〇回新株予約権の目的たる株式の総数だ】という旧商法時代
の解釈及び登記方法と違うじゃないかという問題に発展します。

 結局のところ、目的たる株式数は内容であるが、新株予約権行使と引換えに
取得することのできる株式数のことですから、新株予約権の割当てが確定して
はじめて確定する数だと思っていた方がよさそうです。

 いずれにしろ、立花さんの「気づき」は相変わらずすごいですね。


2021.09.29(水)【定時株主総会】(金子登志雄)

 昨日午後3時からは、当社(アクモス株式会社)の30回目の定時株主総会
でした。年1回の重要イベントです。6月決算会社のためです。

 総会招集通知には、他社同様に、コロナの関係で「ご来場はお控えください」
と決まり文句を挿入したためか、会場の株主数よりも、当社役員やスタッフの
ほうが多い状況でした。この30年間で初めての経験です。

 株主総会も様変わりです。私が常勤役員で管理部長をしていた頃(平成16
年9月まで)は総会屋対策などで、事前に総会場を管轄する警察に警備の相談
に行ったりするのが慣例でしたし、株主席の前方には動員された従業員株主が
陣取っていたものですが、いまはそれもなくなりました。総会屋もいなくなり
ましたし、問題を起こす個人株主もまれです。

 また、せっかく来場していただいたのでという感謝の気持ちを示すため、お
土産を渡すのが慣例化していましたが、数年前にこれを廃止する動きが急拡大
し、お土産目当ての年金生活者株主が来なくなり、来場者が急減しました。そ
して昨年からのコロナです。これは決定的でした。

 それでも当社は遠方の株主も来場しやすいようにと、創業からずっと午後の
開催にし開かれた総会を目指しています。こういう当社の姿勢からは、完全な
バーチャル総会は、遠方の株主も参加しやすいというメリットがある反面で、
株主の質問が怖くて株主に会いたくないためではないかと、ややうがった見方
もしてしまいます。

 総会招集通知も変わりました。昔は事業報告などが先にあり、議案は後ろに
位置していましたが、この位置が逆転しました。役員選任議案にも個々の略歴
以外に一覧表がつくようになり、登記の際は実に便利になりました。誰が新役
員で誰が社外役員か1頁の表で全部わかるようになりました。インターネット
での議決権行使もより簡易化しました。

 ここ数年の特徴は、ガバナンスコードの影響で「取締役のスキルマトリクス」
なるもの(各自の得意分野の一覧表)をつける例が増えました。私の場合は法
務や会計M&Aなどに〇がついていました。

 いまはほとんどが招集通知はカラーです。当社には7000人もの株主がい
ますが、印刷代や郵送料、会場の賃借料などを考えると、完全バーチャルも経
費の面からは魅力的です。逆に印刷会社や会場賃貸のホテルなどは、ますます
追い詰められる時代になりそうです。


2021.09.28(火)【実質的支配者情報リスト】(東京・鈴木龍介)

 前回、取り上げましたFATF対応の一環?ともいえる「実質的支配者情報
(Beneficial Owner)リスト」(通称「BOリスト」)制度が創設され、来年
(令和42022)年)の1月31日から運用が 開始となることとなりました。

 BOリスト制度は,株式会社(特例有限会社を含みます。)が商業登記所の
登記官に対し、会社が作 成した実質的支配者に関する情報を記載した書面
(実質的支配者情報の一覧図)を所定の添付書面とともに提出し、その保管と
登記官の認証文付きの写しの交付の申出を行うことができるというものです。

 ザックリいうと、会社がその本店の管轄法務局に株主名簿を提出して、登記
官が認証した実質的支配者情報の一覧図の写しの交付を受けることができると
いうものです、ちなみに、無料で何通でも交付を受けることができます。

 どんな場面での利用が想定されるかというと、FATF・犯収法等に基づき
金融機関や司法書士等の士業の求めに応じてということになりそうですが、許
認可等の申請の添付書面になるかも知れません。

 私自身も検討途上というところでして、詳細につきましては以下をご参照く
ださい。

~参考~
 法務省
 「実質的支配者情報リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)」
  http://mm.shojihomu.co.jp/c/bOaeadlQi5lWttaj

「実質的支配者リスト制度Q&A」
  http://mm.shojihomu.co.jp/c/bOaeadlQi5lWttak

「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則の施行に
伴う事務の取扱いについて(通達)」(令和3年9月17日民商159号通達)
  http://mm.shojihomu.co.jp/c/bOaeadlQi5lWttal


2021.09.27(月)【新株予約権の目的である株式の数】(仙台・立花宏)

 今年3月から施行された改正会社法では、新株予約権に関する内容も含まれ
ています。私自身は新株予約権の案件に関与することはそれほど多くはないの
ですが、仕事道具ともいえる会社法の内容ですから、勉強しなければならない
と思い、少しずつ条文を読み込んでいます。今回は、その中で、気になった点
について考えたことを書いてみます。

 まずは、改正の内容ではなく、その前の前提知識からです。
 株式会社が新株予約権を引き受ける者を募集しようとするときは、募集事項
を定めなければなりません。その募集事項の中に、新株予約権の内容及び数が
あります。いうまでもありませんが、後者の「数」は、新株予約権を何個発行
するかということです。そして、前者の「内容」には、新株予約権の目的であ
る株式の数又はその数の算定方法というものがあります。

 新株予約権の数が100個だとして、新株予約権を1個行使すると100株
の株式が付与されるという内容だとすると、登記実務上、新株予約権の目的で
ある株式の数は1万株(新株予約権の数100個×1個当たり100株)で、
新株予約権1個につき100株といった定め方も新株予約権の数を乗じれば目
的である株式の数が出てくるため算定方法だと解釈されています(注)。

 さて、そこで、改正会社法で追加された規定を見てみます。指名委員会等設
置会社でないという前提です(会社法236条3項・4項参照)。

 今回の改正により、上場会社では、取締役の報酬等として、募集新株予約権
を発行することができるようになりました。そのためには、定款又は株主総会
の決議で一定の事項を定めなければなりません。その定めなければならない事
項の中に「募集新株予約権の数の上限」と「新株予約権の目的である株式の数
又はその数の算定方法」があります(会社法361条1項4号、会社法施行規
則98条の3第1号)。

 ここで気になったのは、募集新株予約権の数は上限を定めるとあるのに、新
株予約権の目的である株式については、「数(又は算定方法)」となっていた
ことでした。実際にこの制度を利用して募集新株予約権を発行するには、取締
役会で募集事項を決定する必要があり、その中で、実際に発行する新株予約権
の数とその目的である株式の数(又は算定方法)を定めることになり、これは
新株予約権の内容です。その新株予約権の内容を決定する取締役会の前段で、
株主総会の決議によって定められた新株予約権の目的である株式の数は新株予
約権の内容として、取締役会の決議内容を拘束してしまうのか、という問題で
す。

 つまり、株主総会で新株予約権の目的である株式の数を1万株と定めたら、
取締役会でそこまでは必要ないと考えた場合に、それより少ない数字を定める
ことはできないのだろうか、ということでした。
 
 何か混乱があるような気がしていましたが、金子先生にも相談し、よくよく
考えた結果、どうも募集数の上限の問題と、新株予約権の内容とを混乱してお
り、次のようなことであろうと気づきました。

 まず、ここは取締役の報酬としての枠のことですから、対象取締役に対して
新株予約権何個を上限とすると定めます。ここは募集の数の問題です。

 次に、この募集する新株予約権はどういうものかを明らかにしなければなり
ません。というのは、新株予約権は、いつ発行しても発行済株式の総数が増え
るだけの株式と相違し、割当日ごとに第何回新株予約権と名付けられ、個性が
あるためです。

 そこで、こういう内容の新株予約権だという意味で、「新株予約権の目的で
ある株式の数又はその数の算定方法」などを定めなければならないということ
でしょう。

 金子先生式に具体例で考えてみました。
 業務執行取締役を対象に報酬として上限で年間新株予約権100個を与える。
その新株予約権は、1個あたり100株で、新株予約権の目的である株式の数
は、1万株(1個100株×100個)までだと報酬対象の新株予約権の内容
を定めるわけです。

 その後、ある年には、業績目標を達したので、今回は、第X回新株予約権
(1個100株の新株予約権の数60個まで)を割り当てるとするのだと思い
ました。年間報酬ですから、翌年には、1個100株の第Y回新株予約権を、
翌々年には、1個100株の第Z回新株予約権を発行することもできます。

 ところで、前記の事例で、年間新株予約権の上限を100個と定め、新株予
約権1個あたりの目的である株式数100株と定めること(算定方法方式)は
もちろん可能ですが、後者を定めず、目的である株式の数として、単に1万株
とだけ定めることは可能でしょうか。

 条文そのままの定め方ですし、否定はされないのだろうと思います。算定方
法方式は、最終的な報酬限度額といえる株式の数を算定方法(年間新株予約権
の上限×新株予約権1個あたりの目的である株式数)から導くのに対し、確定
数を定めた場合は、それがそのまま報酬限度額となるからです。

 しかし、理屈の上ではそうであっても、実務上は、そうした定め方はせず、
わかりやすさからいっても、算定方法方式で定めることが多いのではないかと
想像しました。

 そこで、インターネットで検索し、取締役の報酬等として新株予約権を発行
することを目的事項に含む上場会社の株主総会の参考書類をいくつか見てみま
したが、やはり、新株予約権1個あたりの目的株式数を定めているケースばか
りで、私が見たものの中では、新株予約権の目的である株式の数(総数)のみ
を定めているケースはありませんでした。

 新しい法令が施行されると、私達実務家にとっては、勉強が大変ですが、法
令や実務についての理解を深めるための機会だと思うよう、心がけたいと思い
ました。

注)金子登志雄ほか『事例で学ぶ会社法実務全訂版』(中央経済社)139頁


2021,09.24(金)【権力争いと敬老の日】(金子登志雄)

 今週は休日ばかりでした。敬老の日もあったのに、老人の私を大事にして
くれる人もなく、もっぱら、アマゾンプライムやネットフリックスで、権力
争いの韓国・中国・ヨーロッパなどの時代劇をみて時間をつぶしていました。
今週は、オスマン帝国ものと始皇帝ものを中心にみましたが、戦いが中心で
はなく老人には無縁の愛憎ものが中心でしたので、やや退屈でした。

 ただ、歴史の勉強や国民性の勉強になります。始皇帝などは紀元前ですし、
例の諸葛孔明が活躍した三国志時代は日本では、まだ弥生時代でした。生き
るか死ぬかの究極の戦乱が科学技術を発展させてきた証拠であり、平和な日
本は後進国でした。

 国民性の面では、モンゴルが世界を支配した元時代は、宗教に寛容であっ
たため、イスラム商人が活躍しました。戒律が厳しい砂漠から生まれたキリ
スト教やイスラム教であったら、異教徒は出世できなかったでしょう。

 権力争いといえば、今度の自民党総裁選も同じです。マスコミではさまざ
まな情報が飛び交っていますが(いずれも陣営のリークですから、まともに
受け取らないことです)、「安倍・麻生」VS「菅・二階」の権力争いで、
前者に煮え湯を飲まされた菅さんが傀儡を拒否し河野・小泉ジュニアを巻き
込み、そこに石破も加勢し、世代交代を働きかけたという見方が最も本質を
ついていると私はみています。そのためか、派閥の締め付けが利かない珍し
い総裁選になっています。

 結果予想は控えますが、年齢よりも頭脳が若いことを基準にして選んでほ
しいものです。好き嫌いは横に置き、最も頭脳が若く、ジェンダー問題(女
系天皇制などを含む)などで国際的感覚の持主はどなたでしょうか。


2021,09.22(水)【効力発生日は内容か】(金子登志雄)

 先日16日の【譲渡制限新株予約権とは】で、「この譲渡制限は新株予約
権の内容ではない。新株予約権の内容について規定している会社法236条
に規定されていない」と書いてしまいましたが、あとで「236条1項6号
に規定されており、譲渡制限も内容の1つでした」と恥ずかしい追記訂正を
してしまいました。言い訳がましいですが、この「内容」の意味・範囲は意
外に曲者です。

 神崎先生主宰の商業登記倶楽部実務相談室に、要旨「会社法449条2項
によると、減資の内容を官報公告等に掲載することになっているが、『会社
の計算』(森・濱田松本法律事務所編)196頁には、減資内容に効力発生
日も含むような記載があるため、効力発生日も減資公告に記載が必要か」と
いう質問がありました。
 
 会社法447条1項により、株主総会の決議事項には効力発生日も加わっ
ていますが、現実には減資公告に誰も記載していません。記載しても任意的
記載事項でしょう。

 これで思ったのですが、ちょうど新株予約権の内容に登記事項と非登記事
項があったように、減資でも株主にとっての内容と債権者にとっての内容が
区別されるのではないでしょうか。

 債権者にとっては、効力発生日は重要なことではありません。株主にとっ
ても、それほど重要なことではないため、取締役(会)で、いつでも変更す
ることができ、効力発生日変更公告も不要です(449条7項)。

 もし、効力発生日が減資公告の必要的記載事項だとしたら、減資には賛成
だが効力発生日には反対だと債権者は異議を出せるのでしょうか。この異議
を出した債権者に弁済したり相当の担保を提供が必要だとは思えませんから、
効力発生日は会社法449条2項の減資の内容には含まれないというべきで
しょう。

 一般に5W1H(誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように)のうち
狭義の内容は「何を・どのように」の部分ですから、この面でも効力発生日
は除外してよいと考えます。


2021.09.21(火)【「FATF」って?】(東京・鈴木龍介)

 「FATF」ってご存じでしょうか?(なにかの会話の中で初めて“ファト
フ”と聞いて、何それ?と思った記憶があります。)

 さて、FATFとは、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する政府
間会合である 「Financial Action Task Force」の頭文字をとった略称ですが、
ザックリ言いますと、国としてマネロン対応ができてますかというテストみた
いのを定期的に行い、フォローアップしていきましょうというものです。

 先ごろ(2021年8月30日)、日本を対象として行われたFATFの第4次相
互審査の結果が公表され、「重点フォローアップ国」として、その取組み等に
関する報告書の提出を求められることとなりました。

 ちなみに、一部報道では実質不合格とも報じられていますが、合格水準とさ
れる「通常フォローアップ国」はごく一部であって、アメリカや中国なども日
本同様に「重点フォローアップ国」です。

 FATFの相互審査の結果については、国際社会における信用度・レピュテ
ーションに大きく影響し、円滑な国際取引の阻害を招きかねないことになりま
すので、日本としても頑張って対応する必要があるわけです。

 FATFの主要ターゲットは金融機関ではありますが、司法書士等の職業専
門家もその対象となっています。

 今回の指摘の中には、職業専門家に対して、マネロン・テロ資金供与対策義
務を周知徹底し、監督ガイドラインを策定したうえで、厳格な顧客管理措置の
向上に取り組むべしとなっています。とりわけ私たち司法書士の業務と密接に
関連するところとして、法人・信託の悪用防止措置を講じるとともに、法人等
の実質的支配者情報の確認の強化が求められています(すでに商業登記で導入
された「株主リスト」はこの取組みの1つです。)。

 具体的な施策等はこれからということになりますが、司法書士の実務という
観点からも今後の動向を注視しておく必要があります。


2021,09.17(金)【押印不要添付書面】(金子登志雄)

 押印について審査を要しないという通達について、顧客に連絡したら、委任
状以外に押印のない書類が郵送されてきたりで、私の顧客も楽しませてくださ
います。

 この前は届出印を提出していない代表取締役の辞任届につき押印なしで申請
しましたら、無事に成功しました。今回は新株予約権の総数引受契約につき押
印なしで申請しました。顧客が押してこないのです。

 原本還付は最初の1枚だけ押印し、残りは押印も契印もなしで対応していま
すが、これだけは、ご近所の東京法務局管内だけにし、遠方の場合は契印付き
にしています。ご近所なら何かあってもすぐに対応できるからです。

 いま同時に商号変更や株券廃止を含む10月1日合併の準備をしていますが、
添付資料が多いので、株主リスト、催告したことを証する書面、株券不発行証
明書、株券提出手続不要の証明書、資本金計上証明書、登録免許税法施行規則
第12条第5項の証明書については、押印なしで申請しようと思っています。地
方の法務局なので若干の不安はあります。

 また、設立登記で、発起人の本店所在場所決定書や取締役等の選任書につい
ても押印なしでやってみようと思っていますが、設立時取締役の設立時代表取
締役の互選書については思案中です。商業登記規則61条5項は適用されない
ことは分かっていますが、どうしましょうか。

 ところで、設立登記の定款認証委任状と定款との間に契印せずに、認証に臨
んだところ、契印がないと公証役場からいわれてしまいました。同じ公証役場
で数年前に「契印がないのでよいか」と聞いたら、問題ないといわれましたし、
横浜市内の某公証役場でも同じ経験をしていますので、それを話し、かつ「契
印が必要な法的根拠を教えてください」と登記通達で学んで知識を申し上げた
ところ、認証してもらえました。いろいろ、実験してみるものですし、皆様も
ぜひやってください。登記所や公証役場にも慣れてもらうことが必要です。


2021.09.16(木)【譲渡制限新株予約権とは】(金子登志雄)

 譲渡制限新株予約権とは、新株予約権であって、譲渡による当該新株予約権
の取得について株式会社の承認を要する旨の定めがあるものをいいいます(会
社法243条2項2号)。

 この募集については割当決議でも総数引受契約の承認でも取締役会の決議が
必要だとされています(会社法243条2項、244条2項)。

 この譲渡制限は株式の場合と同様に新株予約権の内容でしょうか。新株予約
権の内容について規定している会社法236条には規定されていません。

 ところが、同条に規定されていないのに「行使条件」は登記事項であるとさ
れていますから、行使期間と同じく、行使につけた条件や期限は一体として内
容になるというべきです。

 譲渡制限は狭義の行使条件ではなく登記事項でもありません。税制適格のた
めに割当契約に定める譲渡禁止特約は債権契約の内容に過ぎず、新株予約権の
内容ではありません。

 さまざま考えるに、新株予約権には普通新株予約権と譲渡制限新株予約権の
2種類があり、その種類は新株予約権の性格を表すものだが、新株予約権の内
容にまでは高められていないというのが目下の妥当な解釈かなと思いました。

(訂正追記)
 236条1項6号に規定されており、譲渡制限も内容の1つでした。単に登
記事項ではないというだけでした。訂正します(9月18日)。


2021.09.15(水)【牧口書評と株式交付の使い道】(金子登志雄)

 中央経済社に「旬刊経理情報」というハイレベルの雑誌がありますが、その
9月10日発売号(9/20号)において、下記の著作その他で有名な税理士
牧口晴一先生が拙著「『株式交付』活用の手引き」について書評を掲載してく
ださいました。
         http://u0u0.net/BvOZ

 同じ実務家として、株式交付は非公開会社でも使えるとした拙著の想定事例
を大いに褒めてくださいましたが、そこに「紙幅の部合で載せられてはいない
が、おそらく筆者には浮かんでいるだろう。たとえば、小さいほうの会社が株
式交付親会社にもなれる。これは面白い使い方が連想されそぅである」とあり
ました。

 どんな場合でしょうか。いろいろ想定されます。例えば、知名度のある小さ
い会社を知名度はないが資産たっぷりの大きい会社が買収しようとする際に、
逆に前者を株式交付親会社にすれば、知名度も財務体質も両方を兼ね備えた会
社になります。一種の逆さ合併方式です。小さい会社がベンチャー企業であれ
ば、これでIPO(株式上場)も早まります。

 また、牧口先生の想定は、持株会社化かもしれません。例えば、個人の甲が
ABC3社の大株主だったとすると、Dを設立し、そこが3社の持株を株式交
付で取得すれば、D社は3社の持株会社であると同時に甲の株式資産の一元管
理会社にもなります。資産管理会社として合同会社を設立する例が多いのです
が、株式譲渡を使うしかなく、税務上優遇されている株式交付は使えませんの
で、株式会社はこの点で有利です。

 牧口先生ご指摘のように、このような想定事例も思い浮かびましたが、既に
稿了後でした。当時は議決権制限株式を取得したらどうなるのか、非公開会社
でも本当に使えるのかなどにつき、法務省本・学者本・弁護士本のどこにも説
明されていなかったため、権威ある法律家達の常識の世界に、たった一人でバ
ンザイ突撃するかのような孤独な挑戦に一抹の不安が残り、そちらに意識が集
中しており心理的な余裕がありませんでした。

 牧口先生も同じでしょうが、著者はみな出版後の落ち着いた時期に、あそこ
はこうしておけばよかったと思う部分が多々見つかるものです。改訂版の機会
でもありましたら、想定事例に追加しておきましょう。

 なお、牧口先生ご自身はお忘れでしょうが、確か岐阜司法書士会の会社法セ
ミナーで一緒に講師を務めました。名刺交換したかは定かでないほどでしたが、
会社法に明るい勉強熱心な税理士さんがいるものだと強く印象に残っています。

 いつもいうように、弁護士は会社法まで勉強すればよい、司法書士はそれに
追加して登記法の勉強も必要だ、税理士は、さらに追加して税法まで勉強しな
ければならない立場ですから、お気の毒というしかありません。会社法、商業
登記、税法の3つに詳しい牧口先生は全国の税理士の中でも希少な存在といえ
ます。講演その他でご多忙にもかかわらず書評を書いてくださいましたことに
感謝しています。私にとって、よい記念になりました。


2021.09.14(火)【所在不明株主対応の特例】(東京・鈴木龍介)

 会社法では、株主に対しての通知等が5年以上継続して到達しない場合、そ
の株式を会社が買い取ることができますが、今般、「中小企業における経営の
承継の円滑化に関する法律」(平成20年法律33号/経営承継円滑化法)の改正
により、そのような所在不明の株主からの株式買取りまでに要する期間を短縮
する特例が設けられ、本年8月2日から施行されました。

 具体的には、経営承継円滑化法の認定を受けることを前提に、会社法の「5
年」の期間を「1年」に短縮するというものです。

 事業承継の場面では株式の承継がマストですが、所在不明株主の株式につい
ては承継をすることができませんので、会社法上の所在不明株主の株式買取り
というのは有効な手段といえます(先日、ほぼ1年がかりの所在不明株主の株
式買取案件が1つ完了しました。)。一方で5年という月日を待たなければな
らないとなると事業承継の支障になるということから本特例が設けられたわけ
です。

 ちなみに、この認定を受けるには、①経営困難要件(代表者が年齢、健康状
態その他の事情から事業活動の継続に支障が生じていること)、②円滑承継困
難要件(所在不明株主により後継者に承継させることが困難であること)のい
ずれも満たす必要があります。

 結構、該当する会社もありそうなので、企業法務に携わる者として。この特
例は抑えておくべきかと思います。

~参考~
 中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」「4.所在不明株主に関する会
社法の特例の概要」
  https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm


2021.09.13(月)【持分の相続と他の社員の承諾】(金子登志雄)

 本欄のネタ不足のため、金曜日の立花投稿に便乗することにしました。

 持分会社の定款で「社員が死亡した場合には、その相続人は、【他の社員の
承諾を得て】、死亡した社員の持分を承継する」旨を定めていた場合には、こ
れを認めるなどという論理はどこから来るものでしょうか。相続の論理からす
ると、まともに法律を勉強した人には通じないでしょう。

 そもそも相続というのは、意思表示を不可欠とする法律行為ではなく、人の
死亡という偶然の事実によって法律効果が当然に生じるものです。他の承諾な
どによって、相続が発生したり、しなかったりするようなものではありません。
死亡と同時に効果が生じるはずなのに、死亡後の他の承諾時期に効果が生じる
というのもおかしな話です。

 したがって、相続の論理ではなく、他の社員の承諾は相続を認める定款の効
力発生の停止条件とみるしかありません。しかし、それでも、死亡が先で、停
止条件の成就があとになりますから、遡及効を認めるしかなく、遺産分割の効
果と同じ問題が生じます。

 定款で相続を肯定し、遺産分割協議の結果、特定の相続人が承継した場合も、
民法909条に、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生
ずる。【ただし、第三者の権利を害することはできない】。」と規定されてお
り、他の社員や債権者の権利を害してはならないはずですから、金曜日の立花
見解が正当です。

 実に面倒な理屈なので、死亡によって退社し、払戻請求権を相続した者が入
社したいのなら、他の社員が承諾する限り、その時に払戻請求権を出資し社員
として入社することを認めるとしたほうがよほど法律関係が整理され楽に済む
と思うのですが、いかがでしょうか。

 なお、業務執行権や代表権は一審専属権で相続することはできないのではと
疑問に思った方もいらっしゃるでしょうが、この権利は委任に基づく地位では
なく、共有物の管理処分権として共有持分権に含まれるものです。相続の対象
になります。当然相続ではなく定款の定めに任せたのは、社員間の結合の関係
でしょう。組合の論理でもあります。


2021.09.10(金)【持分の相続承継と遺産分割】(仙台・立花宏)

 ご承知の方も多いと思いますが、商業登記における権威書ともいえる商業登
記ハンドブックの第4版が発刊されていたため、少しずつ、内容を確認してい
っております。その中で、気になった記載が追加になっていましたので、しば
らく、その考え方を自分なりに整理していました。

 その追加された内容は、持分会社の持分の承継に関する内容で、656頁の
下から始まる注1の最後の段落です。その内容は、「定款で「社員が死亡した
場合には、その相続人は、他の社員の承諾を得て、死亡した社員の持分を承継
する」旨を定めていた場合には、(略)共同相続人全員の加入の登記をする必
要はないと解されている(櫻庭倫「平成26年商業・法人登記実務における諸
問題」民事月報70巻5号49頁)。」というものです。なお、もととなる櫻
庭氏の論考は、月刊登記情報645号に掲載されているものと同じだと思いま
す。

 不動産登記の先例ですが、債務の共同相続があった場合に、債権者の承認を
得て、遺産分割協議により特定の相続人が債務を引き受けた場合は、相続の日
に遡って当該相続人が債務を承継したことになるというものがあり(昭和33
年5月10日民事甲964号)、同様に考えることができるかを検討します。

 持分会社では、債権者のところは、他の社員と会社の債権者と解釈すべきだ
と思いますが、まず、他の社員について考えると、合名会社、合資会社、合同
会社のいずれも、他の社員の承諾を得ることは可能で、この点では、遺産分割
の遡及効を認めても構わないことになります。

 次に、会社の債権者について考えると、合名会社、合資会社では社員が会社
の債権者に直接責任を負いますが、持分を承継することについて、債権者異議
申述手続等、債権者の承諾を得る(あるいはそれを擬制する)ような手続が法
定されておりません。そのため、承諾を得ることができず、これらは認められ
ないでしょう。それに対し、合同会社の社員は、会社の債権者に直接責任を負
わないため、債権者の承諾は得る必要がなく、この点で他の持分会社の社員と
異なり、遺産分割の遡及効を認めても構わないという結論になりそうです。

 しかし、持分会社の社員の地位には、業務執行者や代表者としての地位も含
まれており、業務執行済の効果については遡及効になじむのかという問題があ
ります。この点について、遡及効を認める前記見解は、「相続開始時から遺産
分割時までに他の共同相続人が会社を代表してした行為については、一義的に
当該他の共同相続人が責任を負うべきもの」という理由で、遡及効を認めてい
ます。

 この点について、個人的には、遺産分割時までに他の共同相続人が会社を代
表してした行為は、相続人全員で1人の社員として行った行為であり、責任は
相続人全員で負うことになるのではないかと思います。というのは、株式を相
続して準共有している場合(最判平成27・2・19)と同様、相続人は被相
続人の持分を準共有しているのであり、社員としては一人です。そのため、持
分に基づく権利行使は、原則として、準共有者である相続人全員が関与し、持
分の過半数で決定しているはずだからです。

 よって、私見は、従来の先例と同様、持分の相続について、他の社員の承諾
等があったとしても、遺産分割の遡及効を認めることには消極的に考えていま
す。


2021.09.09(木)【同一法人番号の登記記録の取得】(金子登志雄)

 先日は不思議な体験をしました。都内A出張所管内の有限会社甲を株式会社
甲に商号変更し、埼玉県に本店移転しました。司法書士なら誰でも知っている
ように、法人等番号は変わらず、全部が同じです。

 本店移転完了通知がきたので、①埼玉県の株式会社甲、②A出張所の株式会
社甲(閉鎖)、③A出張所の有限会社甲の登記記録(閉鎖)各1部を都内B出
張所に申請したら、すぐに反応があったので、インターネットで納付しようと
したら、1000円になっていたのです。3部だから1500円のはずです。

 B出張所に電話したら、③は却下になっていますとの返事。とっくに完了通
知が来ており、ネット謄本もとれるのにです。B出張所では理由が分からない
からA出張所に聞いてくれというので、電話したら、すぐ取れますよという返
事で、同じ法人番号で管轄も同じだから、同時に申請して1つをはねられたの
ではないですかという話。

 ではと思い、B出張所に、有限会社甲の登記記録(閉鎖)のみを請求したら、
1分以内に却下されました。続いて、それをA出張所にしたら、10分経って
も到達の表示だけでしたので、電話しましたら、同じ法人番号のものが2つあ
るので、どちらになるのかを審査していたので、時間がかかったとの返事でし
た。

 これで思ったのですが、管轄法務局でないと、上記の②と③の同時申請だと
2番めの申請が却下されるのかもしれません。でも、なぜ2つとも却下されな
いのかは不明です。

 登記供託オンラインシステムに電話したら、下記を教えてくれました。1の
(2)の部分です。

    https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00053.html

 申請直前に直接入力に変更し、法人等番号を消せば大丈夫なようです。


2021.09.08(水)【増員取締役の任期に関する金子異説】(金子登志雄)

 金曜日後半の続きです。

 某社は非取締役設置会社で、定款には「取締役の任期は、選任後2年以内に
終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとす
る。/任期満了前に退任した取締役の補欠として、又は増員により選任された
取締役の任期は、前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする」
とあります。

 さて、次の増員取締役Bは本年9月の定時株主総会の終結と同時に任期満了
退任するでしょうか。

 取締役 A 令和1年9月24日就任 令和2年11月30日死亡
 取締役 B 令和2年9月25日就任
 取締役 C 令和3年1月20日就任

 退任説は、Bが就任した令和2年9月25日時点では、在任取締役としてA
の増員取締役として選任されたわけだから、Bの任期もAの任期満了時である
本年9月の定時株主総会終結時までであり、増員取締役Cも他の在任取締役B
と一緒に退任すると説きます。たぶん、司法書士の多数派だと思います。

 任期延長説は、定款の解釈は選任時で判断するのではなく、現時点で判断す
べきだから、令和2年11月30日にAが死亡した時点以降は、Bは定款でい
う増員取締役ではなくなり、任期計算の基準になる最古の在任取締役に変化し
たのだから、令和4年9月の定時株主総会終結時までだと説きます。定款規定
の趣旨は在任取締役の任期を一斉に終了させることに意義があるため、この解
釈で問題ないと説きます。

 この会社がAの死亡後に管轄外本店移転していれば、登記記録上、Aが登場
しないため、司法書士の多くは、Bを基準に任期計算してしまうでしょう。退
任説からいうと、おかしな結果です。

 以上の差は、定款で定めた「他の在任取締役」が選任時の在任者か、任期満
了時の在任者か明らかでないことにあります。同時に、前者だとしても、Bに
とっては選任時の在任者がAとしながら、CにとってはAでなくBでしょう。
何となく違和感がありませんか。

 また、登記記録面からは分かりませんが、ひょっとしてA自身も増員取締役
だったかもしれませんから、過去にさかのぼって閉鎖登記記録を調べなければ
なりません。

 結局のところ、定款を定めた会社の意思確認をして、会社が単に現任の全員
を一斉に任期満了させたいだけだというのなら、任期延長説で対応してよいの
ではないでしょうか。意識せずに、この方法で任期計算している司法書士のほ
うが多いように思います。

 決算期を変更すれば在任取締役の任期も変動しますから、任期計算の基準と
なる取締役の退任によって、他の在任取締役にも変化が生じるという後者の解
釈に私は魅力を感じています。


2021.09.07(火)【東証の市場再編】(東京・鈴木龍介)

 前回予告しましたとおり、今回は株式会社東京証券取引所(東証)の上場市
場区分の再編成について取り上げたいと思います。

 東証には、現在5つの市場区分(市場第一部、市場第二部、マザーズ、JA
SDAQスタンダード、JASDAQグロース)がありますが、これを「プラ
イム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」というあらたな3つの
市場区分を設け、令和4(2022)年4月4日付での実施に向け、その準備が進
められています。

 あらたな市場区分をもう少しくわしく見てみますと、「プライム市場」とは、
多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、よ
り高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心にすえて持続的
な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。市場
第一部のうちグローバル企業をはじめとする名実ともに大企業が属する市場と
いうイメージです。したがって、現在の市場第一部に上場している企業がすべ
て、この「プライム市場」に移行するわけではありません。

 次に「スタンダード市場」ですが、市場における投資対象として一定の時価
総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、
持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
現状の市場第一部に上場している企業の一部、市場第二部に上場している大部
分の企業とマザーズ・JASDAQスタンダードに上場している企業の一部が、
この「スタンダード市場」の対象になるのではないかと思います。

 さいごに「グロース市場」は、高い成長可能性を実現するための事業計画と、
その進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実
績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場です。現状のマザーズ・J
ASDAQスタンダードの一部とJASDAQグロースの大部分が、この「グ
ロース市場」の対象になるのではないかと思います

 喫緊の実務上の課題として、既存の上場会社は本年9月1日から12月30
日までの間にあらたな市場区分の選択申請手続を行う必要があります。個人的
には変なプライドみたいなものにこだわらず、身の丈に合った選択をすべきか
なと思っています。

 一方、これから上場を目指す企業については、どの市場に上場するかを決定
する必要がありますが、その方向性が明確でなければ、個人的にはガバナンス
等の基準の厳しい「スタンダード市場」で準備を進め、ケースによっては「グ
ロース市場」にシフトするのがよいかなと思っています。


2021.09.06(月)【成年被後見人の役員等への就任】(仙台・立花宏)

 本年3月1日から施行された会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第
70号)により、成年被後見人が取締役になることができるようになりました。
この場合、その成年被後見人の同意を得たうえで、成年後見人が成年被後見人
に代わって就任の承諾をする必要があります(会社法331条の2)(注1)。

 では、当該成年被後見人が代表取締役に就任する場合はどのように行う必要
があるでしょう。この点については、会社法に明文では規定されていないよう
に思います。

 まず、各自代表(会社法349条1項)の会社の場合はもちろん、代表取締
役を定款や株主総会の決議によって選定する会社の場合、取締役として選任さ
れると当然に代表権を有し、後者によって、特定の取締役を代表取締役と定め
た場合は、それ以外の取締役の代表権が制限されることになります。よって、
取締役としての就任の承諾には、代表取締役への就任の内容も当然に含まれて
いることになります。そのため、あらためて、代表取締役としての就任の承諾
は不要です。

 次に、代表取締役を定款の定めに基づく取締役の互選としている会社や、取
締役会設置会社の場合はどうでしょう。これらの会社の場合は、株主総会で代
表権のない取締役として選任されますから、取締役としての就任の承諾には代
表取締役としての就任の承諾は含まれていないことになります。そのため、あ
らためて、代表取締役としての就任の承諾が必要ということになります(注2)。

 この就任の承諾には、新設された会社法331条の2の規定は適用されるの
でしょうか。この点については、令和3年1月29日付法務省民商第14号通
達では、適用されることを前提に記述されていると思いますので、取締役への
就任の承諾と同様の手続が必要となると考えます。

 ところで、合同会社においては、社員が後見開始の審判を受けることは法定
退社事由ですが、定款で法定退社事由から除外することができます。よって成
年被後見人が社員となることも想定され、さらに、業務執行社員や代表社員と
なることも可能です。では、この場合の就任の承諾はどのように考えるべきで
しょうか。

 この場合でも、原則として、社員には業務執行権や代表権があり定款で代表
社員を定めた場合でも、それ以外の社員の代表権を制限したということであり、
通常は、就任の承諾は問題となりません。しかし、代表社員を定款の定めに基
づく社員の互選としている場合には、登記の添付書面として就任の承諾を証す
る書面が必要とされています。この場合の就任の承諾はどのように考えるべき
でしょうか。

 そもそも、この就任の承諾は、会社と代表社員との間の委任関係を前提とし
たものではありません。互選の場合は、「社員の過半数で定めることができる
ため、代表社員と定められた本人が自身に代表権が集中することについて、納
得しているのかどうかを確認する」(注3)趣旨であり、登記の審査のための
書類だといえます。

 そして、登記実務上、互選書に代表社員と定められた社員の署名や記名押印
があれば(注4)、就任承諾した旨の文言がなくても、登記は受理されている
と思われますので、この就任の承諾は、互選書を補完するものだと考えられる
と思います。

 よって、成年被後見人が互選をするに際し、意思表示をする方法と同様の方
法である必要があると思います。そうすると、成年被後見人が代表社員となる
場合には、自身に代表権が集中するのですから、民法13条1項3号の「重要
な財産に関する権利の得喪を目的とする行為」に該当するとして、取締役への
就任の承諾と同様の手続により行う必要があるのではないかと考えました。

 成年被後見人が代表社員として定められるケースは、私自身は実務の経験が
なく、登記実務上、どのような扱いがなされているのかはわかりませんが、実
際に受任することになったら、以上のように考えて実務を進めることになるだ
ろうと思いました。

 注1)後見監督人がある場合には後見監督人の同意も必要となります。
 注2)登記実務上の考え方です。
 注3)拙著『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論第2版』
   (中央経済社)113頁
 注4)商業登記の添付書面の押印については、一定のもの以外は審査されな
  い扱いとなりましたので、記名のみでも可能と扱われていると思われます。


2021.09.03(金)【増員取締役の任期】(金子登志雄)

 今週の1日は数年ぶりに特例有限会社の株式会社への移行の登記をいたしま
した。その他利益剰余金の資本組入れが同時にあり(資本金額300万円から
1000万円に変更)、かつ管轄外本店移転付きです。

 数年ぶりですが、そこは商業登記ですから、手慣れたもので、①移行の登記、
②移行による解散登記、③本店移転、④移転先への本店移転の申請書案を事前
に作っておきました。

 ところが、いざ1日に申請しようとし、間違いに気づきました。有限会社に
は10年以上前の設立時からの取締役Aと5年間の就任者Bの2人が存在し、
株式会社の任期は10年に設定したため、まだ任期中のBにつき移行と同時の
辞任にしていたのです。

 しかし、株式会社の定款には、増員取締役は他の在任取締役と任期を一致さ
せる旨の通常の規定が存在したため、Bも任期満了退任のAと一緒に退任じゃ
ないかと気づいたわけです。

 ここで、もし取締役Aが2年前に辞任済みで登記もされており、登記記録上
は取締役B一人だった場合に、増員取締役として任期切れでしょうか、それと
も辞任が必要でしょうか・・・というような議論があってもよさそうですね。


2021.09.02(木)【非登記事項】(金子登志雄)

 先般、ある上場会社が、電子公告の予備的方法で「官報又は日刊〇〇新聞」
と定款に定め登記申請したところ、却下されたことが我々の間で話題になりま
したが、会社法939条3項ただし書に「同項第1号(注:官報)【又は】第
2号に掲げる方法(注:日刊〇〇新聞)の【いずれか】を定めることができる」
と明記されていますので、これは却下も仕方ないですね。

 しかし、見過ごされたのか過去には登記実例があります。新株予約権につい
ても、〇〇.〇個という小数点付は認められないはずですが、これも登記実例
があります。

 これに対して過去には「この株式交換に異議のある債権者は・・・」と条文
に根拠のない債権者保護手続をして、株式交換の登記をした会社がありました
が、対価が自己株式であれば登記事項が生じないようにできますし、仮に対価
の全部が新株式だけだとしても、増加資本金額をゼロにし株主資本等変動額の
全額を登記とは無関係な資本準備金にも計上することができるので、こういう
案件の登記申請依頼を受けても気楽です。

 先般、英文商号につき、変更したいという相談がありましたが、登記とは無
関係なので好きにしてくださいと答えましたが、登記と無関係だと我々も気楽
です。登記と無関係な決算期変更だけは取締役等の任期計算に影響しますので
例外ですが。


2021.09.01(水)【東京オリンピック・パラリンピック】
                          (島根・根来川久充)

 新型コロナにおびえる日々が続く中、今年の大きなイベントが終了しようと
しています。

 昨年から1年延期され、ほぼすべての競技が、無観客となりました。開催が
決まったときに、このようなことになるとは、国民誰もが思わなかったことで
しょう。

 今回の開催の評価は、感染拡大の影響が明らかになるまで、長い期間で検証
されるものになると思います。

 また、今後の開催地決定に当たって、立候補する都市は、新型ウイルス対策
は重要不可欠になるとも思います。

 前回以前のように、大きな心配をすることなく、競技を楽しめる時代がくる
ことは、当面難しいかもしれません。

 それでも、今回の開催には希望がある未来へ大きな意味があったと、個人的
には感じています。

 一個人にすぎませんが、開催にあたってご尽力された皆様、そして選手の皆
様に、心より御礼申し上げます。


2021.08.31(火)【株式上場とは】(東京・鈴木龍介)

 最近、余剰資金の行き場所であったり、証券取引所の再編成(次回に取り上
げる予定)であったりということで上場株式に注目が集まっています。一般的
な司法書士が株式の上場や上場会社の実務に携わることは限定的かも知れませ
んが、今回は、この株式の上場について整理しておこうと思います。

 「株式上場」(IPO:Initial Public Offering)
とは、自社の株式を証券取引所(金融商品取引法上は「金融商品取引所」)の
開設する証券市場において、流通(売買)の対象にすることをいい、「株式公
開」と呼ばれることもあります。

 株式上場するメリットとしては、会社の知名度と社会的信用力の向上、資金
調達の円滑化・多様化、従業員の士気向上、社内管理体制の充実、創業者利益
の確保等があげられます。一方で、株式上場するデメリットとしては、経営自
由度の低下、情報開示義務等の負担増大、敵対的買収のリスク、厳格な管理体
制の整備の必要性等があげられます。

 株式上場のための準備の期間としては最短でも3年間が必要で、その費用と
しては最低でも5000万円程度かかります。また、証券会社(主幹事証券)・公
認会計士(監査法人)・証券代行会社(株主名簿管理人)の関与が不可欠です。
そのうえで、上場する市場とタイミングを決定することになります。ちなみに、
現行の日本の証券取引所はいずれも株式会社形態ですが、東京(東証)・名古
屋(名証)・福岡(福証)・札幌(札証)の4つがあり、東証と名証には市場
第一部(一部)と市場第二部(二部)が設けられています。一部や二部の本則
市場とは別に新興企業向けの市場としてマザー ズ(東証)、セントレックス
(名証)、キューボード(福証)、アンビシャス(札証)があります。 また、
2009年にプロ投資家向けのTOKYO PRO Market(東証)が設けられました。

 なお、各市場に単独で上場するのが基本ではありますが、たとえば、東京証
券取引所と名古屋証券取引所の両方に重複上場することもできます。

 株式上場のための準備として、具体的には①資本政策、②組織・機関の整備、
③内部管理体制の整備、④関係会社との取引関係の整備、⑤会計制度の整備等
が必要となります。なお、上場前の一定期間に行う募集株式の発行等について
は、上場しようとする証券取引所のルールにしたがわなければなりません。

 準備が整いますと、会社の申請に基づき、証券取引所の「上場審査」がなさ
れます。上場審査は、投資家保護と公正円滑な取引の確保という観点から行わ
れ、形式要件としては、①株主数、②流通株式、③時価総額、④事業継続年数、
⑤純資産額、⑥利益額等について各市場の基準をクリアする必要があります。

 また、実質基準としては、①継続性・収益性、②経営の健全性、③コーポレ
ート・ガバナンス・内部管理体制の有効性、④企業内容等の開示の適正性等が
審査の対象となります。

 晴れて証券取引所の上場の承認を受けますと、上場会社として株式が市場で
取引されることになりますが、上場時には公募による発行や創業者等の既存の
株主の売出しにより市場に株式を提供するこ とになります。

 上場後は、会社には有価証券報告書等の法定開示や投資情報として重要な事
実の適時開示等の情報開示、インサイダー取引防止への対応などを行う義務が
生じます。


2021.08.30(月)【監査役の権限】(金子登志雄)

 会社法2条9号によると、監査役設置会社は「その監査役の監査の範囲を会
計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く」であるのに対し、
登記記録上の監査役設置会社は会社法911条3項17号により「監査役の監
査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む」
です。これでは区別が困難ですが、現在は会計限定権限しかないことが登記事
項になりましたので、それを併せれば登記記録上でも区別が可能です。

 会計限定監査役設置会社が会社法426条の役員等責任免除規定を定款に定
めることはできません。上記により同条の監査役設置会社は業務監査監査役設
置会社に限られるからです。

 では、逆に役員等責任免除規定を登記している業務監査監査役設置会社が定
款の変更で会計限定監査役設置会社に変更した場合は、この責任免除規定を併
せて削除しなければならないでしょうか。
 
 原則は削除すべきですが、同時申請義務はありませんし、将来また業務監査
権限を持たせる定款変更をする可能性もあるので、空振り規定として定款に残
存させてもよいと私は思っています。

 会社設立定款をみてほしいというので、送ってもらいましたら、会計限定監
査役でしたが、条項の一部に「監査役は取締役会に出席し意見を述べることが
できる」とありました。

 会社法383条1項に「監査役は、取締役会に出席し、必要があると認める
ときは、意見を述べなければならない」とありますが、会計限定監査役には適
用されません(389条7項)。

 しかし、出席して会計のことにつき意見を述べる権限は当然にあります。よ
って、定款に「監査役は取締役会に出席し意見を述べることができる」とあっ
ても不可とはいえませんが、どうも気になって仕方ありません。

 と思っていたところ、発起人が自主的に削除してきました。ほっとしました
が、公証人はどう反応するかを知りたかったので、残念な気もします。


2021.08.27(金)【電子情報とは何か】(金子登志雄)

 今週も無事に終わりそうです。商業登記案件の端境期なのか、顧客に6月決
算会社が少ないためか、仕事が少なかったので、無事だったわけですから喜ぶ
わけには行きません。

 おかげさまで、新著(「株式交付」活用の手引き)は、発売後1か月経過し
た程度のためか、まだ新鮮味を失わないようで、アマゾンの会社法カテゴリー
で依然として上位の位置にいますので、こちらは喜んでいます。

 さて、今月は、電子情報とか電磁的記録などという言葉にからきし弱い私も、
電子情報とは何か、文書とは何かと真剣に考える機会がありました。

 結論は、何だ、大差ないじゃないかです。例えば、登記の委任状案をパソコ
ンで作成し、それを印刷し、ハンコを押すと紙文書、印刷せずにパソコン上で
電子署名すると電子情報、それをオンラインの添付ファイルで送るのがオンラ
イン申請、CDに格納しCDを添付するのが半オンライン方式というものです。

 つまり、電子情報か紙文書かは、ハンコか電子署名か以前に、パソコン内の
情報のままか、印刷しパソコンの外部の世界に出したものかが本来の差です。
パソコン空間と現実の世界との差のようなものです。

 現在、就任承諾書の押印については審査しませんが、この場合の押印はハン
コのことで紙文書の話です。印刷しない電子情報のままでの就任承諾書には通
用せず電子署名がなされているかどうかが審査対象になります。プロによると、
この電子署名により改ざん防止効果があるのだそうです。

 どちらが楽かといえば、完全オンラインでない限り、前者です。ハンコ不要
を知っている顧客が再任代表取締役の就任承諾書にも押印してこず、こちらが
びっくりしましたが、登記は無事に終了いたしました。これも原本ですから、
原本還付して顧客に返還いたしました。

 蛇足ですが、紙であれば、原本と写し(謄本)の差が生じますが、電子情報
のコピーは原本と同視されます。まるで細胞分裂のようで、原本還付ができま
せん。


2021.08.26(木)【選挙と選任】(金子登志雄)

 日曜日は私の住所地である横浜市長選挙がありましたが、残念ながら私は
居所のある都内で突発的なアクシデントがあり、投票には行けませんでした。
20歳で選挙権を得てよりほとんどの選挙に参加してきましたので、今回は
残念でした。

 選挙といえば知事や市長を選ぶ場合は、最多得票者が当選ですが、市議会
議員選挙などは定員があって最多得票者順に定員数が当選します。

 では、株主総会の招集通知に「取締役3名選任の件」とありABCDEの
5名が候補者になった場合は、どう決めるのでしょうか。

 会社法には規定がなく、株主総会で決めるのが原則だと思いますが、慣例
なのか、本来は各候補者ごとに選任しますから、一種の信任投票型でしょう
か。5名中4名あるいは5名全員が過半数の賛成を得たということも理屈の
上ではありそうですが、そのときは得票数順でしょうか。

 もっとも現実にはあり得ません。議題が「3名選任の件」なのに会社提案
による候補者が5名ということはあり得ず、あるとしたら会社提案候補AB
C3名、株主提案候補DE2名という場合でしょうが、前者が可決し、株主
提案は審議もされないのが通常だからです。

 上場会社の場合は議決結果につき臨時報告書を提出しなければなりません
が、ほとんどが98%以上の賛成で選任されています。


2021.08.25(水)【再編対価無額面株式と資本金】(金子登志雄)

 19日のセミナーのテーマは「株式と資本金」であったため、平成13年
9月30日までの額面株式全盛時代の話から説き起こしました。

 当時は額面5万円株式時代で、額面分は全額とも資本金に計上しなければ
ならなかったため「資本金≧額面×株数」が基本ルールでした。資本金1億
円なら「額面5万円×2000株」が最低限でした。

 この会社が吸収合併で新株500株を発行した場合は、2500万円の資
本金増加で最終資本金額は1億2500万円(2500株)になりました。

 ところが平成13年10月から額面株式が廃止され欧米式に無額面株式オ
ンリーの時代になると、吸収合併で500株を発行しても、増加資本金額は
ゼロでよくなりました。資本金1億円のままで発行済株式の総数2500株
です。

 ですから、合併で新株を発行しても資本金を増加させずに済むようになっ
たのは平成18年の会社法施行の効果でなく、平成13年10月からです。
ここは勘違いしている方が多いようですので気をつけましょう。

 もっというと、額面株式時代も定款で定めれば無額面株式も発行すること
ができ、合併で500株発行しても、増加資本金ゼロが可能でした。ただし、
額面株式も発行することができるようにしたままにすることが多かったため、
資本金1億円で発行済株式総数が2500株だと、「資本金≧額面×株数」
の基本ルールに反しますから、合併前の資本金が1億2500万円以上の会
社に限定されました。

 こういう額面株式時代に、変わり者の私は資本金1億円で発行済株式の総
数2500株を実行することができました。どういう手品だと思いますか。

 実に簡単です。額面5万円を定款の変更で4万円以下に変更するだけです。
こんな簡単なことですが、当時は額面の変更は不可能と信仰にも等しいほど
固く信じ込まれていたため、誰もこれができると思っていませんでしたので、
手品が成り立ちました。

 既成概念にとらわれないことを心掛けていると、法務アイデアが浮かんで
くるものです。皆さんも、「すぐ先例は?」と尋ねる先例の奴隷にも等しい
司法書士にはならないでください。貴方の頭脳の主人は貴方自身です。


2021.08.24(火)【倒産法の整理】(東京・鈴木龍介)

 企業法務に携わっていますと、「倒産」と無縁でいることは難しいように思
います。顧客自体が倒産状態に瀕してしまうというケースもありますし、顧客
の取引先が倒産してしまったというケースもあります。そんなことで、今回は
「倒産」について法務という観点で整理してみようと思います。

 まず「倒産」という言葉自体はよく耳にしますが、法律で定義された用語で
はなく、一般的に債務者の経済的破綻状態を指します。具体的には、2回の手
形不渡りにより銀行取引の停止処分を受けたときや、裁判所に対し破産等の法
的整理手続の申立てがなされたときということになります。私的整理を開始し
たときも経済的破綻状態に陥っていることが明らかになったといえますので倒
産に該当するといえます。

 次に「倒産法」ですが、倒産状態に陥った企業または個人について、その財
産の清算または再建と債権者への配当を規律する法律の総称であって、倒産法
という単独の法律があるわけではありません。

 倒産法は清算型と再生型の大別することができますが、清算型としては、破
産法に規定される「破産」と会社法に規定される「特別清算」があります。再
生型としては、民事再生法に規定される「民事再生」と会社更生法に規定され
る「会社更生」があります。

 なお、裁判所における調停手続の特例である特定調停(特定債務等の調整の
促進のための特定調停に関する法律)の制度や、裁判外の私的整理も倒産法の
類型といえます。倒産法の手続では、原則として破綻した債務者が債務の支払
いを免れることになりますが、債務者は自己の財産を減少させたり、債権者間
での公平を欠くような弁済等を行うことは許されず、そのようなことに対して
は管財人等から各行為の法的効力を失わせる否認権が行使されることとなりま
す。

 倒産法の中でもっとも利用されることが多いのが「破産」です。破産手続で
は、債務超過に陥った債務者である破産者の財産からなる破産財団が債権者に
公平に分配され、会社が破産者である場合には、破産手続の終結により会社は
消滅することになります。破産者の財産に抵当権等を有する担保権者は、別除
権者と呼ばれ、破産手続によらずに、担保権の実行によって債権の回収をする
ことができます。ちなみに、破産手続での債権者への配当率は数パーセントに
とどまることが多いといわれています。

 もう1つの清算型である「特別清算」は、解散により清算手続に入ったなか
で債務超過の疑いなどがある株式会社を対象とした裁判所の監督下のもとで会
社の清算人が清算業務を行うというものです。

 再生型の場合、債務者の経済的再生等の目的のために債権者の権利は清算型
の場合よりも強い制限を受けることになります。「民事再生」では、原則とし
て破産手続と異なり、管財人が選任されず、債務者自身が財産管理処分権等を
持ちますのでそれまでの経営陣が自ら経営を続けることができます。民事再生
手続においても担保権者は、別除権者として民事再生手続によらずに担保権の
実行によって債権を回収できますが、一定の場合には、担保の実行の中止が命
じられることがあります。

 もう1つの再生型の倒産手続である「会社更生」は、株式会社を対象とし、
比較的大規模な会社での利用が想定されていますが、実際の利用は限定的です。
更生管財人が必ず選任され、それまでの経営陣は会社の経営から離脱するのが
一般的です。更生会社の事業の維持・更生という目的のために、債権者の権利
は民事再生手続よりも強く制限されます。ちなみに再生型の債権者への平均弁
済率は10%台といわれていますが、中には100%近い弁済となるケースもあり
ます。

 私的整理は、裁判外で債権者・債務者問の話し合いに基づいて行われる倒産
処理手続です。一般に、裁判所の関与がないため、簡易かつ迅速に処理ができ
るというメリットがありますが、一方で、手続の不透明さや公平性の確保がで
きるかという問題点もあります。

 なお、事業再生ADRについては、公正中立な専門家である第三者が関与し、
事業再生計画が満たすべき要件や、再生計画の成立に向けた手続等が法定され
ており、私的整理でありながらも手続の透明性や公平性が高いものと評価され
ています。


2021.08.23(月)【再編対価自己株式と資本金】(金子登志雄)

 19日のセミナーでは、債権者保護をした組織再編は、「募集株式の発行
+減資+剰余金の資本組入れ」の合成行為であり、いったんは資本金や資本
準備金に計上しても減資行為でその他資本剰余金に変更することができるか
ら、この再編では資本金・資本準備金・その他資本剰余金に自由に配分する
こともできるし、自己株式交付もあり自己株式交付差益(その他資本剰余金)
が生じれば、これを資本金に計上することもできると話しました。

 債権者保護をしない株式交換や株式交付は、上記のうち「減資」がないか
ら、基本は資本金と資本準備金への計上であり、自己株式交付が加われば、
その差益は、その他資本剰余金への計上だが、それを資本金に計上すること
もできると話しました。

 さて、熱心な本欄の読者から質問がありました。令和3年1月29日民商
第14号通達には、「対価として株式交付親会社の自己株式を交付する場合
には、登記すべき事項の変更が生じない」とあり、この解説記事の商事法務
2269号43頁末尾にも同じことが書いてあり、金子の説明と違うじゃな
いかという問い合わせでした。

 セミナーを受講した方は私の代わりに説明してください。セミナーで話し
ましたとおり、試しに自分で条文に当てはめて実験すればよいのです(想定
事例による検証が本を読むより重要だとセミナーで話しましたが覚えていま
すか。金子式独学勉強法です)。

 計算規則39条の2ただし書には「株式交付親会社の資本金及び資本準備
金の増加額は、株主資本等変動額に対価自己株式の帳簿価額を加えて得た額
に株式発行割合(略)を乗じて得た額から株主資本等変動額まで(略)の範
囲内で、株式交付親会社が株式交付計画の定めに従いそれぞれ定めた額とし、
当該額の合計額を株主資本等変動額から減じて得た額をその他資本剰余金の
変動額とする」とあります。

 受入れ株式5000万円、自己株式100株(帳簿価額1000万円)の
み交付だと、株主資本等変動額に対価自己株式の帳簿価額を加えて得た額に
株式発行割合(略)を乗じて得た額(5000×0%=0円)から株主資本
等変動額(4000万円)まで(略)の範囲内で、株式交付親会社が株式交
付計画の定めに従いそれぞれ定めた額ですから、0円から4000万円まで
資本金・資本準備金に計上することができます。

 自己株式交付でも資本金を増加することができるのは、募集株式と相違す
る組織再編の特徴であり、吸収合併でも会社分割でも同じです。同時に、そ
の他資本剰余金の資本組入れがなされたと考えればよいわけです。

 ただ、セミナーでも話しましたが、拘束性の大きい資本金等にせず、その
他資本剰余金に全額計上するのがほぼ100%でしょうから、通達の結論は
そのまま受け入れて支障はありません。

 例外的に、この際に切れ目のよい資本金額(990→1000万円など)
にしようなどという場合には使われるかもしれませんが、会社にそこまでの
知識があるかどうかによります。

 この場合の登記の事由は「株式交付(による資本金の額の変更)」であっ
て「その他資本剰余金の資本組入れ」ではありません。


2021.08.20(金)【組織再編の変遷】(金子登志雄)

 昨19日は東京会でズームセミナー講師を担当しました。初体験です。か
つ久々の講師でしたが、定員480人近くの申込みがあったようで、まだ、
「あの人は今」の状態ではないようです。

 テーマは「株式と資本金」(資本金等増加限度額と株主資本等変動額の差)
であり、募集株式の発行と組織再編につき話してまいりました。

 さて、もうご存じでしょうが、新しい組織再編である株式交付は、株式を
譲受けて相手会社を子会社にする制度です。

 組織再編というと包括承継(まるごと全部の承継)というイメージがある
のに、この株式交付にはそれがありません。ただ、公開会社であっても株主
総会の決議を要することや債権者保護手続の面では組織再編らしさを感じま
す。

 この包括承継の面からみると、組織再編というのは第3期に入ったと感じ
ています。

【第1期】合同行為時代
 平成9年あたりまでは組織再編は、合併しかありませんでした。そして合
併とは複数の会社が1つになるものだという合同行為のごとく扱われていま
した。資本金2000万円の会社と1000万円の会社が合併すると、資本
金は合算されて3000万円になるため、資本金を変更しないのなら、減資
が必要だなどと扱われていました。

【第2期】一斉現物出資時代
 株式交換、会社分割制度ができ会社法が制定されてくると、組織再編が消
滅会社側が相手会社に事業財産の全部又は一部や株式全部を取得「させる」
現物出資類似行為だと扱われてきました。

 ここでは財産の一部も肯定されたため「組織再編=包括承継」が崩れてき
ましたが、一部に反対者がいても株主総会の多数決で相手会社に財産や株式
を渡す制度でしたから、集団処理という面が残されました。

【第3期】企業買収時代
 今度の株式交付は、株式譲受け会社の単独行為ですから、消滅会社側の集
団処理がありません。個々の株式譲渡という意思を重視した制度です。

 拙著に「歌と同様に組織再編も世につれ」と書きましたが、合同行為から
企業買収(経営支配)型に徐々に変化してきたと感じませんか。 


2021.08.19(木)【「及び」と「又は」の解釈】(金子登志雄)

 若い頃、司法試験の受験経験があるので分かりますが、勝つか負けるかの弁
護士になる修行では細かいことを覚えずに、いかに自説を論理的に組み立てて、
裁判所を説得することができるようにするかという勉強が主ですが、手続業務
の司法書士の修行では、条文を細かく吟味しなければなりません。

 例えば、中小企業の臨時株主総会の開催につき、顧問弁護士はすぐに基準日
を定めていないようだがよいのかと質問してきますが、司法書士は条文に「定
めることができる」であって「要す」ではないので問題ないと答えられます。
「以上か超か」なども司法書士はこだわらなければなりませんが、司法試験で
は手続部分は重視されていません(だから弁護士は手続が主になる根抵当権、
相続、会社設立について実感として把握していないところがあります)。

 これに関連して「及び」と「又は」の解釈は難物です。例えば、株式交換に
関する計算規則39条2項ただし書には、「資本金及び資本準備金の増加額」
については規定されていますが、それが100だった場合に、いくらを資本金
にし、いくらを資本準備金に計上するのかは規定されていません。解釈によっ
て、一方がゼロでもよいとされていますから、この「A及びB」には「AとB
両方に」という意味と「AにでもBにでも」という意味がありそうです。

 「A又はB」は、一般に「AかBかのいずれか」、「AでもBでも」の2つ
の意味があります。電子公告の予備的方法については、939条3項ただし書
に「事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることがで
きない場合の公告方法として、同項第1号(注:官報)【又は】第2号に掲げ
る方法(注:日刊〇〇新聞)の【いずれか】を定めることができる」と明記さ
れていますので、前者です。

 非取締役会設置会社の代表取締役の定め方に関する349条3項ただし書に
は「定款、定款の定めに基づく取締役の互選【又は】株主総会の決議によって、
取締役の中から代表取締役を定めることができる」ありますが、これは、「A
でもBでも」型です。定款に「取締役の互選又は株主総会の決議によって」、
代表取締役を定めることができると定めても差し支えありません。

 こう定めるとたまに「どこかに先例があるのか」と問い合わせを受けること
もありますが、先例ではなく法令の勿論解釈であり、非取締役会設置会社では
業務執行につき取締役の過半数で定めても、万能の決議機関とされる株主総会
のどちらで定めてよいのと同じです。


2021.08.18(水)【お役所仕事】(金子登志雄)

 単身赴任のサラリーマンだけでなく、住民票の住所のほかに、仕事用の居住
場所を持つ方が増えました。私の知り合いにも数人います。

 私もその一人であり、横浜の自宅からだと事務所まで1時間半もかかるのに、
都内居住地からはその半分で済むので快適です。大学生に戻ったかのように、
家族から監視されない自由を満喫しています。これも贅沢の1つですね。

 ただ、こういう場合に困るのは、自宅宛ての郵便物につき、帰宅した時しか
みられないことです。何かよい方法はないものでしょうか。

 そこで、1か月ほど前に、インターネットの「e転居」手続により、自宅宛
ての郵便物を事務所に転送してもらうようにしました。会社等への転送は不可
とありましたが、個人事務所なので問題はないと判断しました。

 しばらくは実に便利でした。ところが、その後、クレジットカードや国民健
保の保険証など「転送不要」の重要郵便物が全部送り手に戻されていることに
気づきました。国民健保の保険証などは、本人が取りに行くといっても認めて
もらえませんでした。

 仕方なく、インターネットで「e転居」を解除しようとしたら、その方法は
なく、移転先から移転元に転居したというe転居申請して解除せよという案内
になっていましたので、それを申請しました。

 いかがですか。インターネットの指示どおりに転送を解除しただけですが、
何か不都合がありますか。

 大ありです。その手続をした後に、はたと「まずい。事務所宛ての郵便物全
部が自宅に転送されてしまうじゃないか。オール・オア・ナッシングであり、
転送解除の範囲を超えている」と気づき、あわてて取下げや訂正を行おうとし
ましたが、そのような手続はネットには存在しませんでした。仕方なく、翌朝
一番に管轄郵便局を訪問し、事務所から自宅への転送解除と、自宅から事務所
への転送解除を申請してきました。

 登記では、取下げも訂正もオンラインで容易にできるのに、区役所と元は役
所だった郵便当局も融通性の点において登記所に負けていました。役所全般相
手の行政書士よりも法務局相手の司法書士のほうが恵まれていると感じました。


2021.08.17(火)【会社印鑑のあゆみ】(東京・鈴木龍介)

 先般の商業登記法の改正で会社の印鑑の提出の任意化がなされましたが、今
回は会社の印鑑に関する変遷をたどってみたいと思います。少々長文になるこ
とをお許しください。

 我が国の商法のベースとなった、ロェスレルによる商法草案(ロェスレル草
案)では、株式会社限定ではありますが、社名が刻印された社印(会社届出印)
を作製し、登記所(裁判所)に届け出たうえで登記申請書類等への押印を義務
づけました(ロェスレル草案200条・202条・203条)。

 おおむね ロェスレル草案を踏襲した、いわゆる旧商法(明治23年法律32号)
では、すべての会社について会社届出印を作製し、登記所に届け出たうえで登
記申請書類等への押印を義務づけました(旧商法70条~72条)。なお、旧商法
下の商業登記関係省令である「商業及ヒ船舶ノ登記公告ニ関スル取扱規則」
(明治23年法務省令8号)では、登記所に会社印鑑帳簿を備えることが規定され
ていました(同省令4条)。

 明治32年に制定された商法(明治32年法律48号/現在の商法です)では、旧
商法での会社届出印に関する規定は削除されましたが、明治32年商法下の商業
登記関係省令である「商業登記取扱手続」(明治32年法務省令13号)で、登記
申請書に押印すべき者はあらかじめその印鑑を登記所に提出することを義務づ
けました(同省令6条)。その後、同様の規定が昭和24年の改正非訟事件手続法
(昭和24年法律137号)に引き継がれ(非訟事件手続法150条ノ4)、商業登記法
に踏襲されました(商業登記法 20条/現在は削除)。

 印鑑の提出については、当初から当該印鑑を明らかにした書面によることと
されていました。たとえば、株式会社であれば、会社届出印の印影とともに、
商号・本店・代表者の資格と氏名を記載した用紙を登記所に提出することにな
ります(現行の商業登記規則9条1項)。なお、昭和42年の改正商業登記規則
(昭和42年法務省令43号)の施行(昭和42年9月20日)以降は、当該代表者の市
町村長作成3か月以内の、いわゆる個人の印鑑証明書を添付することとされ
(現行の商業登記規則9条1項)、これは申請人の同一性の担保をより強化する
ものと評価できるでしょう。

 つまり、会社届出印の提出と登記申請書への押印義務は、商業登記制度創設
時から一貫して登記申請ならびに登記すべき事項の真実性を担保する仕組みと
して機能しているといえるわけです(ただし、令和元年法律71号改正商業登記
法以後は電子署名・電子証明書での代替も許容されています。)。

 次に会社の印鑑証明書ですが、昭和24年の改正非訟手続法(昭和24年法律
137号)で導入され(同法150条ノ5)、同年6月1日から運用が開始されました。
当時はたとえば印鑑証明書を2通請求するのであれば、交付請求書3通を提出し、
うち2通に登記所が証明を行うという,いわゆる直接証明方式が採用されていま
した(昭和24年法務府令8号改正商業登記取扱手続20条ノ2)。

 この方式は、その後もしばらく続きましたが(旧商業登記規則16条→商業登
記規則24条)、昭和55年に指定された登記所から順次、いわゆる間接証明方式
に切り替わっていきつつ(昭和55年法務省令7号改正商業登記規則24条の2)、
あらたにコンピュータ化された登記所ではデータ化された印影を出力する、い
わゆるコンピュータ方式が登場しました。つまり、この時期の印鑑証明書の交
付には3つの方式が混在していたということになります。

 その後、平成10年に指定された登記所から順次、いわゆる印鑑カード方式が
導入され(平成10年法務省令29号商業登記規則24条、平成10・5・1民四876号通
達(登記研究606号150頁~)、現在はこの方式に一本化されました。


2021.08.16(月)【ストライクゾーン】(金子登志雄)

 野球やソフトボールのストライクゾーンは、誰が判定しても、そう差は生じ
ないのですが、不動産鑑定では相当の幅があります。もっとひどいのが企業評
価です。純資産額基準や類似業種との比較だけでなく、事業計画に基づく将来
の収益予測の判定によって評価額が大きく変わります。

 本年、ネットでみた某社の評価額(買収価額)は純資産額の100倍の評価
だったので驚き、知り合いの公認会計士に疑問をぶつけたら、この評価者はま
ともなところだから正しい評価ではないかといわれ、納得することができず、
今度はM&Aに詳しい知り合いの公認会計士に聞いたら、企業評価など将来の
事業計画につき鉛筆を舐めて作れば、プロがいくらでも高評価をしてくれるも
のだといわれました。だから、間違い評価とはいえないが、こんな評価を信じ
て買うとは信じがたいということでした。

 要するに企業評価の世界では、ストライクゾーンがあってないようなものの
ようです。評価する人によって大きく異なるのは、あばたもえくぼにみえる美
人評価とか、この食事はうまいかどうかというのと同じですが、こと企業評価
については、もっとひどい状況かと思いました。

 このストライクゾーンは法務の世界でもありますね。合法か違法か、安倍前
首相の行為は不起訴相当か、不起訴不当かだけでなく、われわれも、申請した
登記が補正か、受理かと、このゾーンの大きさに左右されています。

 幸い、私の申請先が多い東京法務局管内などでは案件も人員も多く、些細な
ことで補正にしていたら業務が回らないためか、地方に比し、ストライクゾー
ンが広く、私も助かっています。決して審査が雑というわけではなく、大量の
様々な申請内容をみなれているせいか、先例(マニュアル)どおりでなくとも、
先例の趣旨に外れていないとか、何が重要で何がそうでないかといった本質に
根差した審査をしてくれるからで(時々、とんでまない正反対の審査官もいま
すけど)、私のスタンスと合っています。

 司法書士も刑務所の塀の上を歩く際に、ここまでは大丈夫、これ以上だと塀
の中に落ちる(補正になる)という判断がつくようになるとベテランです。そ
のためには、様々な実験(の申請)をしてみることをお勧めします。いつも同
じパターン化した申請ではスキルが磨けません。

2021.08.13(金)【点と線(効力発生日について)】(金子登志雄)

 お盆だというのに、東京法務局に電話すると話し中ばかりで、なかなか通じ
ません。登記申請してから完了までに2週間もかかっています。なぜ、この時
期、こんなに混雑しているのでしょうか。混雑していないのは当事務所だけか
もしれません。

 さて、特例有限会社を株式会社に移行し、移行の登記(効力発生)と同日に
合併等の組織再編を実行したいが可能かという質問がありましたので、実例も
あり可能だと応えました。この登記の日を9月1日だとしましょう。

 こういう問題のとき、合併の効力は効力発生日の午前0時に生じると思い込
んでいる方は、この問題をどう説明するのでしょうか。移行の登記を条件とし
ているので、合併の効力は午前0時には生じません。

 拙著『「株式交付」活用の手引き』には記載したのですが、会社法は主とし
て「日」を基準に規定されています(例外は任期満了時点の定時株主総会終結
時)。基準日も払込期日も「日」を基準としており、基準点や払込時点とは規
定されていません。

 ところで、「点と線」という用語がありますが、0時0分0秒は点というイ
メージがありますが。0時0分はいかがですか。0分0秒から1分までに60
秒ありますから、短い線ともいえます。したがって、「0分まで」というのは。
正確には「1分直前(便宜0分59秒)まで」のことであって、0分0秒まで
という意味ではありません。

 同様に、「9月1日の効力発生日まで」というのは同日の24時までのこと
であって、「9月1日に効力発生」という場合は、9月1日0時から24時の
どこかという意味です。したがって、まだ終わっていないのに(24時になっ
ていないのに)、効力発生日に合併の登記を申請し、払込期日に増資の登記を
申請することができます。登記申請前の時点で効力発生済みとして申請してよ
いからです。同様に、株式分割の基準日に株式分割し、登記することも可能で
す(この場合は基準日につき午前9時とか時間指定したほうが無難ですが)。


2021.08.12(木)【オリンピックを終えて】(金子登志雄)

 オリンピックが終わりましたが、テレビをみない私には、無関係な出来事で
した。ただ、日本はメダルを58個もとり第3位だったとネットで知り、少々
驚きました。

    https://2020.yahoo.co.jp/medal/olympic/

 ただし、調べましたら、1964年開催の東京オリンピックでも第3位でし
た。開催国に有利な種目を設けられるせいでしょうか。柔道も確かそのオリン
ピックからでした。ソフトボールは、次回のオリンピックにはないようです。

 それでも、経済の先進国で、かつ人口の多い米国や中国がメダル数で圧倒的
だとしても、人口1億人当たりのメダル数では日本のほうが多い計算になりま
すから、実によく頑張りました(人口1700万人しかいないオランダの36
個こそ本物の第1位でしょう。オランダ人は体格がよいせいでしょうか)。

 前回の東京オリンピックの際、私は高校生でした。女子バレーの大松監督・
河西選手、重量挙げの三宅、柔道の猪熊、体操の小野・遠藤とか、いまでも金
メダリストの名前を何人かいえますが(もっと有名なのはマラソン銅メダルの
円谷選手です)、無関心だった今回は一人もいえません。13歳の金メダリス
トもいるようですが、こんな年齢で頂点では、今後の人生が心配になりました。

 残念ながら、このオリンピック開催時期に新型コロナ感染者数が急増いたし
ましたが、オリンピックとの因果関係については不明ですから、現時点では関
係者を責めるのは早計でしょう。オリンピック後がどうなるかですが、お盆休
暇もあるので、感染拡大の原因は不明のまま終わりそうです。

 オリンピックの負の面については、下記をどうぞ。ジャーナリスト田中良紹
氏のモノの見方・考え方・捉え方には教えられることが多々あり、彼の世相へ
のコメントは必ず拝見しています。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakayoshitsugu/20210809-00252436


2021.08.11(水)【改訂版の特徴の差】(金子登志雄)

 今日は机の前に貼ってあるカレンダーでは休日になっているのに、実際はそ
うではないという不思議な日ですね。

 当社(アクモス)は今週いっぱいお盆休暇の夏休みですが、同じフロアにあ
る当事務所は法務局が休みではないので営業中です。といっても、今日はたぶ
ん仕事がないでしょう。

 さて、昨日、鈴木さんが紹介してくれた松井ハンドブック4版と江頭8版は
私も購入済みです。購入理由は鈴木さんのあげた理由の2つ目であり、拙著に
引用する際に、「旧版〇〇頁」では格好がつかないためです。

 権威者の著作はこういう買い手が多いので、安定した売上が見込まれ、出版
社も喜んでいることでしょう。商業登記倶楽部の質問コーナーで、「金子先生
の〇〇本には」とよく書かれますが、最新版であることはほとんどありません。

 ただし、立花合同会社本第2版は、改訂版でありながらアマゾン会社法部門
で頻繁に50位以内に入り、よく頑張っています。たぶん、合同会社の運用面
の理論的解明の点で類書がないせいでしょう。権威本と同じく、通読のためで
はなく、何かあったときに参考にするためだけかもしれませんが、「積読」も
ありがたい読者です。

 会社法599条3項に「定款の定めに基づく【社員】の互選によって、業務
を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる」とあ
り、松井本や登記実務はこの【社員】を「業務執行社員」と狭く解釈している
のに対し、立花本は非業務執行社員を含むと反論しています。

 立花本がかなり普及したので、松井4版でこの点につき何かコメントされて
いるかを確認しましたが、予想どおり、ありませんでした。江頭本でもそうで
すが、権威本の改訂は追加だけで、過去の内容の見直しや改訂はしないことが
多いようです。なぜかはよく分かりません。

 立花本や拙著の改訂では過去の内容の見直しや、より分かりやすい説明に変
更するなど大幅に改訂するため、この作業に大量の時間を要しますが、江頭先
生や松井氏と相違し、これに集中できる立場であるため、日数的には多くは必
要ありません。論点に切り込むことが多いので、結構、楽しんで改訂作業に没
頭しています。解説本だったら、改めるところも少ないのかもしれませんが、
鈴木著改訂ではいかがでしょうか。


2021.08.10(火)【商業登記ハンドブック(第4版)】(東京・鈴木龍介)

 ついに(ようやく?)『商業登記ハンドブック(第4版)』(商事法務)が
発刊されました。
  https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=15244547

 同書は商業登記に携わる司法書士にとっては座右の一冊であり、当事務所で
もおそらく使用頻度がもっとも高い書籍だと思われます(ですから、第3版も
けっこう傷んでいる感じです。)。

 また、商業登記関係の書籍や論文を書くにあたっても引用・参照の書として
外せません。私自身、現在、商業登記関係の書籍を執筆中なのですが、同書に
あわせるかたちで脚注等の見直しが必要であり、まあまあの一仕事という感じ
です(今年のゴールデンウィーク前に江頭憲治郎先生の『株式会社法(第8版)』
が刊行され、同様の見直しをしたところでしたが、グズグズしている私が悪い
ということで、やむを得ませんね。)。

 著者の松井信憲氏ですが、同書の著者紹介では「法務省民事局総務課長」と
なっていますが、つい先日の7月16日付で「法務省会計課長」になられまし
た(たぶん、出世コースなんだと思います。)。もともとは民事局の商事課の
局付や課長を務められた、いわゆる官側での商業登記のオーソリティです。

 さて、第4版ですが、第3版と比較して746ページから763ページに増
えています(価格は5,300円のままです。)。目次を見る限り、あきらか
に加わったのは令和元年改正会社法で創設された「株式交付」ですが、「はし
がき」を見ると、令和元年改正会社法関連と、最近、頻繁に行われている商業
登記手続の見直しをカバーしているとのことです。

 これまでどおり、同書については必要な箇所等を参照するという使い方にな
ると思いますが、お世話になることは間違いないところですので、気になる記
述がありましたら徒然させていただこうと思っています。


2021.08.06(金)【株式交付の子会社要件】(金子登志雄)

 昨日の立花投稿で問題にしてくれましたが、株式を譲り受けて相手会社の議
決権の過半数を握る株式交付において、既存の解説書のどこにも無議決権株式
も対象になるのかどうかにつき触れられていませんでした。

 こういう状況のとき、一実務家の私が無議決権株式は対象外だと断定するこ
とには勇気が必要でした。そのため、制度趣旨から自己株式や完全無議決権株
式については対象外だと断定してみましたが、この無議決権株式が議決権株式
の取得請求権付であったらどうなのかという問題意識のほうが大きく、内容が
雑多な一部議決権制限株式については、具体的な内容を示してもらわない限り
書きようがありませんでした。

 例えば、議決権基準の子会社の判定は昨日の立花投稿のとおりだとしても、
乙の議決権総数100個、うち普通株式が40個、取締役選任議決権のない種
類株式が60個とした場合に、後者株式全部を譲り受けて議決権の過半数を握
ったとしても、株式交付の想定した子会社といえるのでしょうか。

 まさしく議決権の過半数を握ったが、子会社には拒否権条項付株式が残って
いるとき、これでも子会社にしたといえるのでしょうか。というわけで、一部
議決権制限株式については書きようがないのです(実務では事前に調整される
でしょうけど)。

 相互持合関係株式については他の会社と該当子会社との持合い関係について
は触れましたが、自社の株式の25%以上を有する株主である会社を子会社化
することは少ないであろうと、触れませんでした。

 BがAの25%の議決権を保有しているのに、Aが株式交付でB株式の議決
権の100%を新たに取得するのは、議決権基準では子会社にならないとして
も、発行済株式の総数を取得する形式基準の株式交換は可能です。

 結局のところ、株式交付は、①形式基準で行使することができるかどうかを
問わず議決権ある株式の過半数を握ればよいのか、いや、株主総会で「行使す
ることのできる議決権」の過半数取得でなければならないのか、その「行使す
ることのできる議決権」に取締役の選任が含まれないとまずいのではないのか、
②そもそも、株式交付は、企業買収型組織再編として実質的支配が必要で、そ
のためには「完全に行使することのできる議決権」であることを要するのでは
ないのか、などという根本問題になります。

 こんな基本中の基本につき、商事法務に掲載された改正会社法の解説にも、
法務省の『一問一答』にも、学者や弁護士による改正会社法解説本にも一言も
触れていないことが実務家の私には大いに不満でした。多くの方が、株式交付
の使い道が分からないと感想を漏らしているのも、このためです。

 そういう意味で、今度の新著の出版には私一人が突出するかのようで勇気が
必要でした。これから出版される株式交付本は、以上の点やグループ再編に使
えるかなどといった拙著の問題意識を無視することができないでしょう。問題
点を投げかけただけでも出版の意義があったと思っています。

 なお、本書は株式交付を素材にしていますが、内容では、なぜ株主総会の承
認決議は効力発生日の前日というぎりぎりでよいのか、突然、株主総会にテレ
ワーク出席を求められた場合はどうするのか、書面決議の前に取締役会での議
案決議が必須か、組織再編の会計処理一般はどうなのかなどなど、会社法全般
の問題点を100頁程に凝縮していますので、株式交付には関心のない方にも
役立つ内容だと思っています。

 最後になりましたが、本日は広島に原爆が投下された日です。犠牲者の方に
黙とうのうえお見舞い申し上げます。私の中学時代の音楽教師も犠牲者でした。
 

2021.08.05(木)【『「株式交付」活用の手引き』で疑似体験】
                           (仙台・立花宏)

 先日、鈴木龍介先生が本欄において、金子先生の新著『「株式交付」活用の
手引き』を、「株式交付案件が飛び込んできたときに備えて、事務所の蔵書に
しておくべき1冊」と評価されていらっしゃいました。それを見て、早く読み
たいという気持ちが強くなり、遅ればせながら、私も休日に時間をとって熟読
し、勉強させていただきました。

 金子先生のご著書は、これまでの書籍も、実務をイメージしやすい、私達実
務家にとってはありがたい内容でしたが、今回の新著を読んでみて、これまで
と同様、あるいはこれまで以上に実務をイメージしやすい書籍だという感想を
持ちました。

 個人的に、以前から、この「株式交付」という制度が実務において、どのよ
うに利用されるのかということが気になっていました。私達司法書士にとって
は、「株式交付」の案件を受任する場合、その手続がどのような目的を達成す
るためものなのか、ということがとても重要な意味を持つからです。会社様か
らのご依頼にしろ、会計事務所様からのご紹介にしろ、なんらかの目的を達成
するため「株式交付」を行うのであり、ご依頼をくださった方は、単に「株式
交付」の登記手続を依頼しているという意図ではないはずです。

 そうした観点でこの書籍を見てみると、鈴木先生もお書きになっていらっし
ゃいましたが、7つの仮想事例が記載されおり、この「株式交付」という新し
い制度がどのような目的で利用されるのかということについて疑似体験でき、
今後、はじめて、ご依頼をいただいた場合でも、スムーズに実務に入っていけ
るように思いました。

 そして、この新著には、そうした疑似体験だけでなく、実務で相談があった
ら悩ましく感じると思われる論点が、Q&Aとして記載されています。金子先
生のお許しを得て、ひとつ紹介させていただくと、たとえば、「株式交付」の
ご依頼をいただき、その内容として、「子会社としたい会社の株主から普通株
式とあわせて、無議決権株式も譲り渡しを受けたい」という内容が含まれてい
たらどう回答すべきでしょうか。

 パッと相談されると、悩ましく感じるように思います。この新著では、それ
に対する答えや考え方が記載されています。「株式交付は総株主の議決権数の
過半数を握り子会社化する制度」(注1)のため、無議決権株式は対象となら
ないと記載されています。

 ちなみに、金子先生からは一部議決権制限株式や相互持合関係にある株式に
ついては、まだ確定した結論はでていないと聞いています。これについて、ち
ょっと調べてみたところ、旧商法第211条の2の第4項と第5項では、親子
会社の判定の議決権の過半数を算定する際には含めて計算することになるよう
ですが(注2)、会社法の子会社の定義からはこれが抜けています。

 参考までに、会計基準(注3)をみると、一部議決権制限株式については含
めて計算するようにも思えます。また、相互持合関係にある株式については、
議決権の過半数を算定する場合には含めずに計算すると解釈しているようです
(注4)

 一方、相互持合関係に関する会社法第308条第1項、会社法施行規則第
67条によると、実質支配の基準として、議決権制限株式は原則として含むが
「役員等(会計監査人を除く)の選任及び定款変更議案の全部に議決権がない
場合」は除外されていますから、この判断基準を株式交付の子会社要件で考慮
してよいのかにつき、不明確でした。これでは、うっかり書籍に書けないのも
無理はないと思いました。

 いずれにしましても、この書籍には、単に、答えが書いてあるだけでなく、
考え方、理解の仕方が書いてあります。100頁程の小冊子ですが、この書籍
があれば、「株式交付」の実務に対応するための基礎力とそれを応用する力が
養え、かつ問題点も見つかる、貴重な書籍であると感じました。

 注1)金子登志雄著『「株式交付」活用の手引き』(中央経済社)35頁
 注2)「旬刊商事法務」No.1606、8頁(前田庸「商法等の一部を
    改正する法律案要綱の解説 (上)」)
 注3、4)企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社
    及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」5(3)。なお、相
    互保有株式については、相沢哲ほか『論点解説 新・会社法 千問
    の道標』(商事法務)167頁に、算定には含めずに計算する旨の
    記載があります。


2021.08.04(水)【7月豪雨被害】(島根・根来川弘充)

 7月頭豪雨水害が全国各地でありました。島根県でも大きな被害がでた地域
が複数あり、私も地元消防団活動でボランティアに携わりました。

 私がボランティアをした地域では、小さい川ではありましたが、いくつも氾
濫しているところがあり、よく見る町並みでさえも、水に隠されるともともと、
そこに何があったのかも、意外に思い出せませんでした。

 知人の中でも、被害にあわれた人が何人もおられ、実際、もう一日長く降っ
たなら、もっと大変な被害になっていたと思います。

 新型コロナによって、経済活動が制限される中、気候が少しは過去に戻るの
ではとすこし期待をしていた部分もあったのですが、例年より早く梅雨入りし、
また、例年もしくはそれ以上に、水害に悩まされたことを考えますと、やはり、
今後もこのような豪雨は考えないといけないと、考えを改めました。


2021.08.03(火)【少数株主の排除】(東京・鈴木龍介)

 中小企業でも、いつの間にか、何らかの事情で少数の株式のみを保有する株
主(少数株主)が出現してしまうことがあります。少数株主の存在自体がダメ
ということではありませんが、会社経営の負担や紛争の火種になることもあり
ます。

 たとえば少数株主でも株主代表訴訟の提起権はあります。また、中小企業に
ついては少数株主であっても“少数株主権者”に該当することも多く、株主総
会の招集権や帳簿閲覧権を有する場合もあり、厄介な事態になりかねません。

 では、中小企業がこのような少数株主を排除するためには、どのような手法
があるでしょうか。

 まず、当事者間での相対での取引が考えられます。具体的には、大株主であ
るAさんが少数株主のBさんが保有する株式を売買契約により取得するという
ものです。契約ですから売買価額を含め双方の合意によるわけで理想的といえ
ます。

 また、少々手続的には煩雑にはなりますが、会社がBさんの株式を買い取る
―自己株式の取得―ことも考えられます。Bさんとしても会社の支配権もなく、
配当も事実上期待できないところで、買取金額次第かもしれませんが、“渡り
に舟”ということで応じてくれるケースも少なくありません。

 一方で、これまでの経緯などから任意での交渉が難しいというケースもあり
ますが、その場合にはどのような手法があるでしょうか。つまり、大株主が少
数株主の有する株式を少数株主の承諾を得ることなく買い取るということにな
るわけですが、このような手法はスクィーズ・アウト(Squeeze Out)と呼ばれ
ています。

 具体的には、大株主であるAさんが90%以上を保有しているのであれば、
特別支配株主の株主売渡請求を使うことができます。この制度は、いわゆる平
成26年改正会社法で創設された、100%化のための株式強制買取りであり、
少数株主であるBさんの意思にかかわらず、その保有株式をAさんに買い取ら
れてしまうという、けっこう強烈なものです。

 また、スクィーズ・アウトのみを目的とする場合には少々リスクはあります
が、株式併合により少数株主であるBさんの保有する株式を1株未満となるよ
うな併合比率とすれば、Bさんは株主でなくなり、その1株未満の端数株式に
ついては、裁判所の許可を得て会社が買い取ることになります。くわえて、相
続人等に対する株主売渡し請求の定款の定めがあれば、少数株主の相続の際に
は会社がその株式を買い取ることができます。

 その他に、全部取得条項付種類株式や現金対価の組織再編を使って少数株主
を排除するという手法も考えられますが、通常の中小企業の場合、M&A等の
特別な事情がない限り、それらを使うのはちょっとやりすぎのような気がしま
す。


2021.08.02(月)【顧客も上書きミス】(金子登志雄)

 仕事の速さでは、たぶん全国の司法書士の間で10人以内に入るという自信
がありますが、その反面で、どうしても慌て者の上書きケアレスミスが避けら
れません。

 先般、同じ住所の子会社の申請書に親会社の申請を上書きし、申請人が子会
社のまま申請してしまったときは、さすがに私も恥ずかしく、すぐに取り下げ
て再申請しましたが、本店移転や設立の登記申請書に上書きし、変更登記を申
請してしまったような場合は、そのままにします。表題がおかしいだけで、申
請内容は正しいため、無事に完了します。

 経験(?)からすると、申請書内のミス、例えば就任承諾書の通数をミスし
たり、印鑑証明書を添付書類に書き漏れしたが添付しているような場合は補正
にもなりません。補正は登記すべき事項と添付書面のミスのときが中心です。

 添付書面のミスは顧客に起因することが多いです。一番多いのは、昨年の議
事録に本年度の内容を反映させたため、議事録の末尾は2021年〇月〇日に
なっているのに、議事録の最初が2020年〇月〇日になっていたようなケー
スです。

 登記所の方の話だと、令和が平成のままであったり、代表者が交代している
のに前年度の書類に上書きしたのか、旧代表者のままのものがあったりと、添
付書面上のミスが多いのだとか。

 無理もありません。官報に掲載された法令でも誤記が避けられませんし、数
十人の目でチェックする上場会社の株主総会招集通知でも誤記が多く、インタ
ーネット上で訂正されている例が多いことをみると、誤記があるのが自然であ
り、誤記があるからこそ血の通った人間の営みである証拠ではないかという気
さえしてきます。重要なことは、法令解釈の誤りをしないことと、誤記程度の
ケアレスミスにとどめておくことではないでしょうか。


2021.07.30(金)【代表取締役の予選/実体験】(金子登志雄)

 ネットニュースはオンピック一色ですが、平日は都内のテレビもない第2事
務所(書斎という名の喫煙室)で一人暮らしの私には、別世界です。テレビく
らい買えばよいのですが、横浜の自宅でNHKの受信料を払っているのに、こ
こでも二重に払う気は起きず、そのままです。だから、書き物に勢力を注げる
ともいえますが。

 さて、昨日の立花投稿を受けて、株式会社で次の場合はどうなりますか。

 Q:7月29日の定時株主総会で取締役ABCDが任期満了するので、AB
EFを選任すると同時に、8月1日付けで合併の効力が発生するので、同日付
けで合併消滅会社からGHIを取締役として迎える選任の決議をした。定時株
主総会終結後のABEF出席の取締役会でAを代表取締役に再選すると同時に、
Eを8月1日付けで新体制の代表取締役に選定した。Aからは7月31日終了
と同時に代表取締役のみの辞任届が提出された。さて、E代表取締役の8月1
日付け予選は有効か。

 これについては我々は全く問題ないという意見ですが、当局の見解は肯定説
と否定説の2つがあります(登記情報639号13頁のQ2では否定説が主で、
肯定説は従でした)。

 本年これを経験しました。念のため事前相談しましたが、もちろんイエスか、
ノーかではなく、どうすれば予選を有効と認めてくれるかという相談でした。
その登記所では、E代表取締役の就任は8月1日午前0時だから、GHIの就
任承諾書の日付が8月1日になっていれば、午前0時以降の就任と判断される
ので受理するとのことでした。

 もし、皆さんも同一局面に立ったら、取締役就任承諾書の日付を調整するだ
けでなく、就任承諾書の宛先を、わざと「〇〇会社E代表取締役 殿」にして
おけば、さらに安全です。昨日の立花投稿の前段の問題についても、Cの加入
申込書や出資の受領証を8月1日付けにし、わざと加入申込みの相手方を〇〇
合同会社代表社員A殿に、出資受領証も代表社員Aの名前で作成しておけば大
丈夫かなと思いました。

 ほんのちょっとしたことですが、商業登記は、こういうことを工夫するのが
楽しいと思いませんか。こんなことはまともな文献(?)にはどこにも書いて
ありません。まともでない実務書の拙著や立花本程度しか、こういうことを取
り上げません。

 我々からいえば、まともな文献が怠慢であり(というより実務に疎いので問
題意識もない)、実務書であったら、こういう問題にも触れるべきです。

 おかげさまで、まともでない実務書の拙著『「株式交付」活用の手引き』は、
このまともでないことが支持されているのかアマゾン会社法部門でずっと高位
置を占めています。今日は、メダルの位置を確保することができているでしょ
うか。
         http://urx.space/lVXP


2021.07.29(木)【代表社員の予選】(仙台・立花宏)

 社員がAとBの2名の、各自業務執行・各自代表の合同会社であることを前
提にします。この会社において、AとBが7月29日に、定款変更することに
同意し、代表社員は社員の互選により定めることができる旨、そして8月1日
付であらたにCを社員として加入させることを定めました。もちろん、この内
容についてはCも同意(承諾)しています。AとBは、同日、互選し、8月1
日付でAを代表社員とすると定めました。Cは8月1日の午後に出資を履行し、
社員となりました。
 
 さて、以上のような過程を経て、業務執行社員Cの加入と代表社員Aの就任
の登記を法務局に申請した場合、この登記は受理されるでしょうか。というの
は、社員の互選によりAを代表社員と定めたのは、7月29日ですが、その効
力の発生を8月1日とする期限付の決定(注1)で、いわゆる予選となります
が、8月1日付で社員となるCが互選に参加していませんから、その可否が問
題となるように思われます。8月1日付でCも社員となる旨を決定しているの
であり、Cが参加していないAとBのみによる互選はCの代表社員選定権限を
奪うことになるのだから、許されず、ABC3名による互選によらなければな
いという見解もあり得るように思います。

 しかし、8月1日になった時点で互選の効力が生じ、Aが代表社員になった
と考えると、Cは同日の午後に出資し社員になったのですから、互選の効力発
生時の社員はAとBのみであり、効力発生時の社員全員が参加して互選してい
るのだから、この予選は問題がないと考えられるようにも思います。 

 ただ、法務局での審査を考えると、登記官は、出資時が8月1日の午後であ
ることを通常は把握できないでしょうから、受理するのを悩ましく感じるかも
しれません。そのため、こういうケースの場合は、定款変更の際、附則に、8
月1日付の定款変更の効力発生後の最初の代表社員をAとする旨を定めておく
のがわかりやすいといえます。

 なお、この場合に、代表社員をAではなく、Cと定めたいというニーズもあ
るでしょう。この場合はどう考えるべきでしょうか。定款附則に、Cの加入に
伴う定款変更後の最初の代表社員をCと定めることはできるのでしょうか。と
いうのは、この場合は、定款変更はCが社員となることを条件としていると思
いますが、定款変更に同意したのは、ABのみであり、Cは定款変更の手続
(会社法637条)には参加していないからです。

 しかし、この定款変更は、Cの(会社法637条の)同意なしに定められた
とはいえ、社員となったCは、会社の憲法ともいえる定款の規定に拘束される
でしょうし、Cは、社員間の組合契約の内容ともイメージできる定款の変更案
の提示を受けたうえで社員となるでしょうから、Cは自分が代表社員となると
いう契約内容を承知の上で社員となったといえ、ABC全員が当事者となって
いるといえ、許容されると思います。

 では、このケースで、7月29日にABCが、Cが社員となることを条件に、
Cも参加の上、Cを代表社員と定める互選をすることはできるでしょうか。先
ほどの定款変更と当事者は同じですし、同様に考える余地はあるでしょうか。
しかし、7月29日にはCは社員ではなく、互選に参加する資格はありません。
すくなくとも、登記実務は不可と扱われると思います。よって、やはり、定款
附則に定めるのが無難といえるでしょう。

 ちなみに、余談にはなりますが、定款の定めに基づく社員の互選が、「定款
に定めた」場合に含まれると考えることができるのであれば(注2)、AB2
名で、8月1日以降の代表社員を誰にするか(Cにすること)を定款の内容と
して特定し、定款変更した(?)と考え、許容されるのでしょうか。個人的に
は消極的に感じました。やはり、定款の定めに基づく社員の互選は、「定款に
定めた」場合には含まれないと考えるべきだと思いました。

 注1)効力の発生する8月1日に代表社員は社員の互選により定めるという
   定款規定の効力が生じますから、その効力の発生を条件とした互選であ
   るともいえます。
 注2)本欄の本年5月24日(月)、26日(水)及び6月3日(木)のコ
   ラムをご参照ください。


2021.07.28(水)【『登記法入門』を読んで】(金子登志雄)

 新しいものに興味を示す鈴木さんらしいですね。もう拙著を読んでくれ書評
をあげてくれました。ありがたいことです。オリンピック休暇中に事務所や会
社に配送されたためか、まだ読んでいない人が多く、感想を寄せてくださった
のは鈴木さんが最初でした。

 鈴木さんに続く読者からの感想でも「具体的にどんな利用があるのかという
のが、いま一つイメージがつかめていなかった」というものが少なくありませ
んでした。そのとおりで、改正会社法解説本には全くに近いほど記載されてお
らず、制定経過や株式交換との相似点ばかりに焦点が当てられ、実務のことま
では手が回らなかったようです。その意味で、新著はまさに実務書です。
 
 鈴木さんからの投稿原稿を受け取り、ありがたいと思うと同時に、あわてて
返礼を兼ねて鈴木龍介編著『登記法入門』の第1章総論と第3章商業・法人登
記部分を中心に目を通しました。

 さすがです。いつも感じていることですが、鈴木編著は、まとめ能力、簡潔
説明が抜群に優れていますが、今回もそれを強く感じました。つい、最初の第
1章を読みながら、上手だな、誰が執筆したのだろうと、後ろの著者欄をみて
しまったくらいです(誰がどこを担当したかの記載はありませんでした)。事
務所に1冊備え置き、本職がざっと目を通したのちに、新人補助者などに読ま
せるには最適の本だと思いました。

 ご承知のとおり拙著は論点に切り込むことが中心であるため、下手をすると、
こねくり回しすぎだとも思われるのか、法律専門家以外の読者がついてこられ
ず低い評価を受けてしまうこともありますが、鈴木編著はいつでも誰からも好
評です。2019年2月22日の本欄【論評する人、解説する人】で書きまし
たが、私は論評する人で、鈴木さんは解説が得意な人です。

 自説の意見表明本である拙著と分かりやすい解説本の鈴木編著では自ずから
読者層も相違するのかなと思えど、アマゾンで拙著をみると、下の方に「この
商品を買った人はこんな商品も買っています」という欄があり、何と『登記法
入門』が加わっているではありませんか。本欄の立花さんの合同会社本(論文
と解説の中間路線?)も加わっていますから、本欄登場人物で相互に相乗効果
が出ているとしたら、うれしいものです。
       http://ur0.work/Yvf9


2021.07.27(火)【『「株式交付」活用の手引き』を読んで】
                           (東京・鈴木龍介)

 本コーナーの主筆でもある金子登志雄さんの新刊『「株式交付」活用の手引
き』を、この連休中に読んでみました。ご本人が何度かとりあげられていると
ころではありますが、読者としての感想というか、雑感を徒然させていただき
たいと思います。

 ご存じのとおり株式交付は令和元年改正会社法であらたに誕生した組織再編
行為の1つですが、具体的にどんな利用があるのかというのが、いま一つイメ
ージがつかめていなかったところ、「第1章 株式交付とは何か」の7つの仮
想事例によって、なるほどねと合点しました。

 組織再編では一般的に計算のところがポイントの1つになるわけですが、司
法書士にとっては苦手な領域といえます(私もご多聞に漏れずですが・・・)。
そんなわけで「第3章 株式交付と会計処理」は司法書士目線の解説がありが
たいですね。

 実務家にとって、やはり気になるのが登記を含む手続のところですが、「第
4章 株式交付の手続」では、想定される論点がおおむねカバーされているよ
うに思いました。

 さいごになりますが、本書のはしがきにもあるとおり、私たち実務家として
は目の前の事案が最高の教材です。ですから、株式交付案件が飛び込んできた
ときに備えて、事務所の蔵書にしておくべき1冊かなと思います。


2021.07.26(月)【質問及び回答の仕方】(金子登志雄)
 
 連休中はいかがお過ごしでしたか。この暑さに競技するオリンピック選手は
気の毒ですね。冷房のある部屋で静かにしているのが一番です。

 さて、金曜日の古山さんの「法務局の相談も登山と一緒で、たとえ簡単だと
思っても、けっして軽装で挑むべきではなく」という表現は、面白い譬えだと
感心してしまいました。

 この意見のとおり相談については、十分に調べずに「これこれについて差し
支えないか」と「イエスかノーか」という質問の仕方は素人のやり方です。回
答する人間の心理として、現状維持を求め責任を回避しますからノーと答える
可能性が相対的に高くなるのです。

 質問する際は気楽にイエス(貴見のとおり)といわせるように、例えば「こ
れこれについて周囲の詳しい人などと相談した結果、こういう意見が多数でし
た。別紙のとおり〇〇文献にもこうありました。よって、こうしたいのですが、
差し支えないか念のため確認させてください」などと用意周到に検討して質問
していることを示すことが必要です。

 回答の仕方についても、6月25日の本欄での疑問を当局になったつもりで
考えてみました。
----------------------------------------------------------------------
 株式交付への反対株主の株式買取請求について規定する会社法816条の6
第2項に、「反対株主とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める
株主をいう。
 一 株式交付をするために株主総会(略)の決議を要する場合(略)
 二 前号に掲げる場合以外の場合 全ての株主」
と規定されています。

 この第2号については、いまだに何の意味か分かりません。合併などでは略
式再編で株主総会の決議を要しない場合の特別支配会社でない少数株主が例だ
と分かりますが、816条の6は株式交付の規定であり、略式再編はありえま
せん。簡易再編は平成27年改正で、そもそも株式買取請求権がないことにな
りました。というわけで分からないのです。
----------------------------------------------------------------------

 これにつき当局がどう答えるかというと、おそらく「貴見のとおり第2号は
現時点では無意味な規定だが、将来、それに該当する立法がなされる可能性も
あるので、今度の改正でも他に合せてそのまま残したものである」ではないで
しょうか。6月25日の他の部分もきっと「将来、適用場面が生じる可能性が
あるので」という回答でしょう。


2021.07.21(水)【今年の定時総会の傾向】(東京・古山陽介)

 3月決算の定時総会シーズンが私の事務所でも一段落しましたので、今年の
傾向を簡単にまとめさせていただきます。

 ① WEB開催が多かった。
 ② 株主総会・総会後の取締役会ともに役員全員出席の会社がほとんどなか
  った。
 ③ 取締役会議事録の押印に時間がいつも以上にかかった。
 ④ 外国籍を含めて非居住者の役員の選任が増えた。
 ⑤ 決算直後からの相談が多かった。

 ①については、コロナが起爆剤となって昨年から議論が活発になり、上場企
業はもちろんのこと、上場企業の子会社や非公開会社(中小企業)でも浸透し
てきています。そのため、⑤のとおり、4月上旬から定時総会の準備に関する
相談が非常に多くありました。

 ②についても、WEB開催であることも影響があると思いますが、総会の開
催場所以外の他県(遠方)に在住している役員については、出席を控えた会社
が多く、欠席役員の就任承諾書を準備してもらうことに少し苦労をしました。 

 ③については、WEB開催の影響が強く及んでおり、金子先生も記事を書い
ておりましたが、この点については、法改正も検討されるべきところではない
かと感じています。WEB出席とはいえ、「出席」ですので、出席役員の記名
押印は必要となり、議事録を持ち回りする時間に相応の日数がかかってしまい
ます。これは電子署名での対応というよりは、署名(記名押印)役員をそもそ
も限定するような法改正が必要となるのではないかと考えます。

 ④については、「本人確認証明書」の事前準備(相談)に時間を費やしまし
た。中でも1件、当然に添付書類として認められると考えて、簡単な確認程度
の心づもりで法務局に相談をかけたところ、「(単体では)不可」との回答を
得てしまい、その後、金子先生をはじめとした商業登記仲間の先生方にお力添
えいただいたにも関わらず、法務局から納得のいく回答を得られなかったもの
もありました。

 ここで改めて実感したのは、法務局の相談も登山と一緒で、たとえ簡単だと
思っても、けっして軽装で挑むべきではなく、しっかりと装備をして挑むべき
だということであります。

 そして、相手方は公的機関であるため、一度出した結論は、そう簡単に変え
てはくれません。実務の現場では臨機応変、柔軟な対応が必要ですが、そうは
いかない場面もあるということを忘れてはいけないということであります。

 オリンピック開催方針は変えず、実社会との温度差の中で繰り返される非常
事態宣言、飲食店関係への一極集中攻撃と突き進んだ道の是非を考察しない国
ですから仕方ないのかもしれません。

 ただ、オリンピックに参加する選手たちにとっては、仕事現場であり生活が
かかっていますので、やる以上は全力で頑張ってもらいたいです。

 定時総会の雑感から最後は話が飛躍しすぎてしまいましたが、今年の定時総
会については、以上です。


2021.07.20(火)【新刊『登記法入門』】
(東京・鈴木龍介)

 このたび、私が編著者として携わりました『登記法入門-実務の道しるべ』
(商事法務)が刊行されました(今年3冊目の新刊ですが、改訂版や雑誌連載
のとりまとめでない純然たる書き下ろしは1冊目)。

 本書は、登記全般に関する入門書という位置づけでして、かねてから企画を
温めていたもので、念願の一冊でもあります。

 装丁や本文レイアウトなどもよい感じに仕上がっているかなと自画自賛して
います(私の手柄ではないですね)。よろしければ手に取っていただけると嬉
しいです。
    http://www.suzukijimusho.com/books

 以下、本書の紹介を兼ねまして、「はしがき(抜すい)」です。
----------------------------------------------------------------------
 「登記」はさまざまな場面で登場する重要かつ不可欠な法務手続の1つとい
えます。しかしながら、実務に即したかたちで登記をマスターすることは容易
ではありませんし、とりわけ登記の基本を学ぶ機会は限定的であり、手探りで
対応しているのが実情であるように思われます。

 そのような点を踏まえ、かねてより登記全般にわたる入門的な書籍が必要で
あろうと考えていましたところ、このたび本書を刊行する機会に恵まれました。

 本書の特徴として、1つ目には登記の具体的なイメージをつかんでいただく
ために、多くの記載例や図表を登載しました。2つ目には実務や学習の端緒や
契機となるように登記関連の多様な分野を取り上げるとともに、可能な限り根
拠法令を明示しました。3つ目には執筆陣に現場の第一線で活躍中の司法書士
・士地家屋調査士を迎え、常に実務を意識した内容としました。あわせて、本
編では触れにくいものの、登記に関して知っておいていただきたい知識やトピ
ックスについては、「NOTE」というかたちで提供するとともに、巻末によ
り深く登記を習得するために有用と思われる文献等を紹介しています。

 本書については、まず法律を学んでいる法学部生や法科大学院生に手にして
いただき、登記を身近なものと感じてもらえればと思っています。次に登記実
務を専門とはされていない弁護士・税理士などの士業の先生方が傍らに置き、
インデックス的に活用いただければと思っています。さらに企業法務に携わる
皆様には実務で遭遇する登記に関する諸間題への対処のヒントが提供できれば
と思っています。
----------------------------------------------------------------------


2021.07.19(月)【感謝、感謝、大感謝】(金子登志雄)
 
 金曜日の本欄で新著「『株式交付』活用の手引き」がアマゾンに登場したこ
とを書きましたが、その反響が気になり、同日の午後4時40分にアマゾンの
「会社法売れ筋ランキング」を開いてみたところ、わが目を疑いました。何と
第1位になっていました(土曜日も第1位でしたが、いまの順位は下記です)。

        http://urx.blue/4enV

 本欄以外では出版を告知していませんので、本欄閲覧者の方がアマゾンに注
文してくださったことになります。いったい、何名の方が内容もみずに予約し
てくださったのか分かりませんが、感謝に堪えません。

 ところで、ここ数日間ずっと、アマゾンプライムで「三国志 ~司馬懿 軍師
連盟~」という長編ドラマを視聴しておりました。司馬懿(しばい)とは、6
月10日付本欄【死せる孔明生ける仲達を走らす】の司馬仲達(ちゅうたつ)
のことで、諸葛孔明のライバルであり、三国(魏・呉・蜀)の争いを終焉させ
た魏の後継である「晋」の実質的な生みの親のことです。

 そのドラマに「(陛下)万歳、万歳、万々歳」というお決まりのセリフが何
度も登場していましたので、感謝の気持ちを強調するには同じ単語を三唱する
のもよいかなと思い至り、今回の表題で使ってみました。おふざけと思われま
したら、素直にごめんなさいですが、こういうウイットも私の文章の特徴です
ので、ご了承ください。

(東京会所属司法書士の方にお知らせ)
 東京会で8月19日にZoomウェビナーによる「会社の計算」に関する研
修があり、久々に講師を務めます。ご興味のある方は東京会のHP経由でお申
込みください。Zoomウェビナー講師は初体験です。 


2021.07.16(金)【新著は7月20日発売】(金子登志雄)
 
 7月初旬には出版されるだろうと書いてきました「株式交付」の小冊子です
が、出版社の中央経済からは7月20日出版になったと知らされ、見本まで私
の手元に届けられているのに、アマゾンに出ないなぁと思っていましたら、私
の探し方が悪かったのか、下記のとおり掲載されていました。久々の新著であ
り、私も、やっとアマゾンに登場したかと喜んでいます。

          http://urx.red/WYht
  
 ご覧のとおり表紙に「経験豊富な実務家が・・・」と出版社が書いてくれま
したが、昔なら、恥ずかしいからやめてくれというところですが、私もワクチ
ン優先接種の対象にもなる高齢者になったため、そう書かれても、恥ずかしい
という思いがなくなりました。要するに「老人実務家が」ということでしょう。
そのとおりであり、事実は私も受け入れざるを得ません。

 株式交付は自己株式が対価とされると株式交換と同じく登記事項になること
はほとんどないでしょうが、株式交換と相違し、無対価がありませんので、新
株式が対価とされる可能性は株式交換よりも大きく、その限りにおいて必ず登
記事項が生じます。

 また、株式交付は「株式で支払う株式の譲受け」ですから、株式の譲渡人が
一部は現金でほしいと要求することも予想され、債権者保護手続が必要になる
可能性も株式交換と相違し相対的に高いといえます。

 そのため、司法書士に手続の相談があります。企業法務手続コンサルタント
業を目指す方には必要な知識ですので、ぜひご購入をご検討ください。100
頁程度ですから、司法書士の方なら1時間で読めます。


2021.07.15(木)【コロナと2週間以内の登記義務】(金子登志雄)
 
 13日夕方は第2回目のワクチン接種を受けてきました。いまのところ、副
作用は生じていません。階段を上がるのも億劫な運動嫌いで体力のない私です
が、根は丈夫のようです。

 第1回目は注射されたのかも気づかないくらいあっけなく終わりましたので、
今回は神経を研ぎ澄まして注射されたかを感じるように努めましたところ、わ
ずかにチクリを感じました。映像でみると、ブスリというイメージですが、全
く痛みもないものでした。子供でも泣かないのではないでしょうか。

 さて、7月も半ばだというのに、6月定時株主総会の役員変更登記をまだし
ていない会社がいくつか残っています。代表者が交代した会社です。

 コロナ流行以前の例年の株主総会では任期満了する役員も新たに就任する役
員も全員が出席し、その後の代表取締役の改選(交代)議案でも、事前に個人
実印と印鑑証明書を持参せよと会社から通知されているので、この登記も株主
総会終結後の数日以内に登記資料の全部が揃っていたのに対し、今年は役員が
リモート参加にしたため、取締役会議事録のハンコが容易に揃わないのです。
社外役員のいる会社では個人実印の押印のために会社に呼び出すわけにも行か
ず、取締役会議事録の押印も持ち回りにしているようです。

 上場会社の100%子会社であれば、株主総会で代表取締役を選定すればよ
いとアドバイスしたのですが、定款変更が稟議事項になっていることと、脱法
行為のような後ろめたさがあるのか、採用してくれません(孫会社の場合は何
度か経験しました)。

 このコロナ時代に代表取締役選定議案がある場合は、監査役まで含む出席役
員全員の個人実印及び印鑑証明書を要求する商業登記規則61条6項は時代遅
れとしか思えません。株主リストと同様に、総取締役数の3分の2以上が個人
実印を押せばよいなどと改正してほしいものです。法律の改正ではないため、
それほど難しいことではありません。


2021.07.14(水)【持分承継の定め】(仙台・立花宏)

 先日、ある方から、配偶者が亡くなられたとのことで、配偶者が所有してい
た不動産の相続手続のご相談をいただきました。私は、商業・法人登記に特化
して業務を行っていますので、その相続手続については、知人の司法書士を紹
介させていただきました。ただ、その他に気になることがありました。

 その方(以下、「Aさん」とします。)からは、以前、合同会社の設立登記
手続のご依頼をいただき、担当させていただいたことがありました。定款作成
の際、万が一のことを考え、Aさんが亡くなった場合には、相続人が持分を承
継して社員となる旨の条項(以下、「相続承継の定め」という。)を入れるこ
とを提案させていただき、規定しました。

 ちなみに、合同会社設立時には、Aさんの推定相続人は息子さんと前記の配
偶者のお二人でしたが、その後、息子さんが亡くなり、配偶者以外に推定相続
人はいない状況となっていたとのことでした。

 さて、今回、不動産の相続登記の手続の相談を受け、気になったのは、前記
の合同会社の相続承継の定めを残しておくべきかどうかということでした。

 仮にAさんが亡くなった場合、合同会社はどうなるでしょう。相続承継の定
めがなければ、社員が欠けたことを原因として合同会社は解散します。社員が
不在となるので、定款で清算人を定めておかなければ、利害関係人が裁判所に
清算人の選任を申し立てる必要があると思います。

 それに対し、相続承継の定めがあった場合はどうなるでしょう。相続人がい
ないので、やはり社員が欠けたことにより解散することになるのだろうと思い
ますが、はたしてどのような手続が必要でしょう。すぐに解散手続に入ること
ができるでしょうか。

 というのは、相続人が戸籍上いない場合(戸籍上最終順位の相続人が、欠格
事由に該当したり、排除されたり、また、相続放棄をした場合も含む)も、相
続人があることが明らかでないとして(注1)、民法952条以下の手続を踏
むことが必要になるのではないでしょうか。そうすると、民法958条の相続
人の捜索の公告を行い、その期間内に相続人としての権利を主張する者がない
ことが確定しない限り、社員が欠けたのかどうかが確定せず、事業会社として
存続しているのか、それとも解散しているのかがはっきりしていない状態にな
ってしまうのではないかと思われたのです(注2)。

 後日、Aさんに尋ねたところ、将来的に合同会社を承継するような方もいら
っしゃらないそうです。合同会社には不動産等の資産もありますが、借入れ等
もあります。万が一の際は、債権者にはできるだけ迷惑をかけないようにした
いとのご意向でした。

 幸い、Aさんには以前から付き合いのある経営者がいるということで、万が
一の場合にはその方に会社の清算手続を依頼するとのお話をいただきました。
そして、打ち合わせした結果、定款から相続承継の定めを削除し、社員が欠け
たことにより解散した場合は、前記の経営者を清算人とする旨及びその際の報
酬等をあらたに規定させていただくことになりました。

 正直なところ、これが最適の方法だったのかどうか、いまだに悩ましく感じ
ていますが、実務の難しさをあらためて実感させられた出来事でした。

 注1)谷口知平・久貴忠彦編集『新版注釈民法(27)相続(2)相続の効
   果』(有斐閣)675頁
 注2)合同会社の持分はA相続財産法人の一部になりますが、これは相続人
  (一般承継人)ではなく、社員になるものではないと思います。


2021.07.13(火)【「属人的株式」の実務】
(東京・鈴木龍介)

 非公開会社に限り、ⅰ)剰余金の配当、ⅱ)残余財産の分配、ⅲ)株主総会
の議決権について、株主ごとに異なる取扱いをすることを定款で定めることが
できるとされています(会社法109条2項)。これは、株主平等原則(同条1項)
の特則として「属人的定め」と呼ばれています。

 属人的定めを定款に設けるには、総株主の半数以上で、かつ総株主の議決権
の4分の3以上にあたる多数による株主総会決議が必要とされています(会社法
309条4項/特殊決議)。

 ちなみに属人的定めは、従来の商法(株式会社法)にはない制度であり、会
社法であらたに設けられたものです。その背景としては、旧有限会社法で社員
の持分権に属人的定めと同様の定款に別段の定めを設けられていたことがあげ
られています(旧有限会社法39条・44条・73条)。

 それでは、実際に属人的定めを利用するケースについて考えてみたいと思い
ます。たとえば、X株式会社に株主A(75株)と株主B(25株)がいる場合、
株主Aの意思のみで株主Bの剰余金の配当を受ける権限を奪うという属人的定
めの定款変更が法文上はできてしまいます。

 でも、これってどうでしょう? 株主Bとしては、意に反して株主の基本的
権利を剥奪されてしまうのは、不合理であるといわざるを得ません。

 裁判例でも特殊決議要件を充足したからといって、株主平等原則に反する差
別的な取扱い―属人的定め―に必要性や相当性を欠くような場合には公序良俗
に照らし無効であると判示しているものもあります。また、旧有限会社下にお
いても、同様の定款の別段の定めを設ける場合には、差別的な取扱いを受ける
株主の同意を要するというのが通説的な理解でした。

 以上を踏まえますと、安直に属人的定めを利用することはリスキーであり、
仮にクライアントがそれを導入したいと言ってきた場合でも慎重な態度で臨む
べきでしょう。自戒を込め、“生兵法は怪我の元”であり、“策士、策に溺れ
る”ことのないように気をつけたいと思います。


2021.07.12(月)【株式交換差損】(金子登志雄)

 6月4日の本欄【株式の特別勘定】で、次のようなことを書きました。
----------------------------------------------------------------------
 甲が△1000万円の債務超過の兄弟会社乙の全株式を株式交換で受け入れ
る場合、甲の負債の部に「乙株式 1000万円」と計上する。これを株式の
特別勘定という(計算規則12条)。
----------------------------------------------------------------------

 さて、会社法795条2項3号に「株式交換完全親株式会社が株式交換完全
子会社の株主に対して交付する金銭等(株式交換完全親株式会社の株式等を除
く。)の帳簿価額が株式交換完全親株式会社が取得する株式交換完全子会社の
株式の額として法務省令で定める額を超える場合」は株主総会で説明義務があ
り簡易株式交換不可とされています。

 この解釈ですが、対価が株式交換完全親株式会社の株式だけの場合は、上記
から除外され、簡易株式交換が可能になるのでしょうか。

 この法務省令で定める額は会社法施行規則195条5項で、次の第1号と第
2号の合計額から第3号に掲げる額を減じて得た額です。
----------------------------------------------------------------------
 1号 株式交換完全親株式会社が株式交換により取得する株式交換完全子会
   社の株式につき会計帳簿に付すべき額
 2号 会社計算規則第11条の規定により計上したのれんの額
 3号 会社計算規則第12条の規定により計上する負債の額(略)
----------------------------------------------------------------------

 対価が株式のみの場合の簿価取引(同一企業グループ内の取引)では、のれ
んを計上することができず第2号はゼロですから無視すると、上記につき、第
1号と第3号は同額だから、簡易株式交換が可能だと読めませんか。

 まさかですよね。典型的な簡易株式交換不可の事例だと思うのが常識です。
いままで、もやもやしていましたが、このからくりにやっと気づきました。

 まず、第1号の会計帳簿に付すべき額とは、貸借対照表の「資産の部」への
計上額を前提としているようで、本件では「0円」とするようです。次に第3
号は「負債の部」への計上額ですから△1000万円でなく1000万円です。
よって、「0円-1000万円=△1000万円」で、株式交換完全親株式会
社が交付する金銭等0円が上回るから簡易手続不可ということです。

 要するに、この株式交換で増加した純資産額を「増加資産額-増加負債額」
で計算しているだけでした。

 カッコ内の「株式交換完全親株式会社の株式等を除く。」は対価が株式等の
場合は簡易手続の可否とは無縁と読むのではなく、自己株式等を対価としたよ
うな際でもその部分は、この計算上の対価から除外するというだけの意味のよ
うです(正確な内容については私もまだ解明できていません。改正前の計算規
則の説明とも違うようです)。

 いずれにせよ、なんたる分かりにくさでしょうか。単に、この株式交換で、
会社から出て行ったもの(自己株式などは除外)が入ってきたものより大きく
株式交換完全親株式会社の純資産額が減少する場合には、株主総会で説明義務
があり簡易株式交換は不可と規定するだけで十分でした。

 この分かりにくさのおかげで、私の著作活動ができるので、痛しかゆしでは
ありますけど。今頃、株式交換について気づいたのは、新組織再編の株式交付
の計算を考えていたためでした。内容は一致します。


2021.07.09(金)【原本とカラーコピー】(金子登志雄)

 顧客から募集株式発行の登記書類一式が郵送で届きましたが、総数引受契約
書がモノクロコピーでしたので、原本が必要ですから送ってくださいと電話で
依頼いたしました。

 原本に限ると指示しなかった私の落ち度ですが、何も指示しないと顧客の方
から「コピーでもいいのですか」と聞いてくることが多く、今回は何も聞いて
こないので、分かっているのだと思い込んでおりました。

 そのため、他は原本なのに、なぜ総数引受契約書だけモノクロコピーなんだ
という疑問を持っていたのですが、電話が終わった後にメールがあり、「議事
録も原本が必要ですか。お送りした議事録は全部がコピーですが」といわれて
しまい、びっくり仰天です。カラーコピーだったため、全く気づかず、原本と
思い込み、私は原本還付のためにモノクロコピーしていたのです。

 最近のカラーコピーの精度はすごいですね。顧客は大きな会社でしたので、
精度の高い高額なコピー機を使ったのでしょう。当事務所の安物のコピー機で
はこうはなりません。

 何度見ても原本にみえましたので、知らぬ顔をして原本として示してしまえ
ばよいとも思いますが、日本の登記所職員のこういう面の能力は世界一です。
きっと見破られます。

 以前も、印鑑の大きさが若干違うということで補正になったことがありまし
た。顧客が原本をコピーの代わりにスキャナーにかけて私のコピーの手間を省
いてくれたので、そのまま提出したら、スキャナーだと等倍にならないことも
あるようで、微妙な大きさの差を指摘され、登記所職員のプロの腕前に驚嘆し
たものでした。

 全部をカラーコピーにしてくれていたら、私はいまだに気づかず、そのまま
申請しており、ひょっとしてそのまま終わってしまう可能性もあったのにと、
少々残念な気もしています。

 以上、本日はカラー部分に関しての私の老眼度でした。こういうのを見破る
老眼メガネはないですよね。


2021.07.08(木)【名字の読み方】(金子登志雄)
 
 コロナマスクのせいで、鼻息でメガネが曇るため、もう何か月もメガネをか
けていません。近眼ですが、軽度なので、日常生活には支障はありません。た
だ、最近、登記申請書作成の際はメガネをかけるようにしています。

 もちろん、老眼用メガネです。数年前に興味本位で100均で購入したもの
が今になって役立っています。主に本人確認証明書の氏名の確認やオンライン
申請の漢字検索の際に使っています。渡「邉」か渡「邊」か、1点シンニョウ
か、2点かなどを確認するためです。

 姓といえば、先日来所した顧客の担当者のうちお一人は全国で1000人も
いない珍しい姓でした。「島」がついていたので、「シマ」ですか、「ジマ」
ですかと聞きましたら、「うちはシマです」とお答えでしたが、戸籍にはルビ
がないので、親からの口伝でしょう。ニホンとニッポンのどちらでもよいのと
同様に、日本語はそういうことにこだわらないというのが私の持論です。ケン
モツ(剣持)さんに、私の郷里の群馬県では、ケンモ「チ」さんですよと申し
上げたら、「親戚です」といわれたこともありました。

 小島、中島は「ジマ」で、大島は「シマ」であるのも口調に過ぎないでしょ
う。ありふれた私の金子姓でも、下記サイトによると、カナコ、キンコ、キネ
コ、カネゴ、カメコもいるようです。カメコは、おそらく「ネ」を発音できな
い地域でしょう。もし私が親からうちは代々カメコだといわれても、私の代か
らはカネコにします。

    https://myoji-yurai.net/

 なお、昨日の投稿につき、センタイのタテハナさんが、京都のウチフジ司法
書士のブログにあると、下記を送ってくださいました。お上にとって、当分と
は10年程度は入りません。

https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/48f5b1f4f1a3edb3e8bd8593dd0458df


2021.07.07(水)【役員欄の配列】(金子登志雄)

 先週は、不慣れな一般社団の設立が無事完了し、ほっとしました。

 出来上がり登記記録をみると、私は、法務省の登記・供託オンライン申請シ
ステムの申請用総合ソフトに内蔵されている書式を転記し、株式会社の役員欄
と同様に「理事氏名、理事氏名、理事氏名→住所/代表理事氏名」の順序で申
請したのに、法務省ホームページの書式例のように「住所/代表理事氏名→理
事氏名、理事氏名、理事氏名」の順序に直されていました。

 理由は不明です。担当者がそういうものだと思い込んで修正したのか、コン
ピュータシステムがそうなっているのか。しかし、後者であったら、申請用総
合ソフトは誤解を招くので修正すべきでしょう。

 もし前者だとすると、株式会社も「住所/代表取締役氏名→取締役氏名、取
締役氏名、取締役氏名」の順序で申請し、そのまま登記されてもおかしくあり
ませんが、そういう例はみたことがありませんので、機会があったら聞いてみ
たいものです。もし、お分かりになる方がいらっしゃいましたら、教えてくだ
さい。

 ちなみに
 監査役設置会社の役員欄
  取締役ー代表取締役ー監査役
 会計参与が加わると
  取締役ー代表取締役ー会計参与ー監査役
 監査等委員会設置会社
  取締役ー取締役・監査等委員ー代表取締役
です。

 真打あるいは大将ともいうべき立場の代表者は中央や後ろに位置すべきなの
か、登記記録筆頭者として最初に位置すべきなのか・・・。どうでもよいこと
ですが、気になります。


2021.07.06(火)【議事録のデジタル化】(東京・鈴木龍介)
 
 従来から株主総会や取締役会の議事録については、“紙”のほか電磁的記録
で作成することが認められており、その場合に署名等を要する取締役会議事録
等には「電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年法律102号。以下、
「電子署名法」といいます。)に基づく電子署名が求められています(会社法
369条4項等、会社法施行規則225条)。また、登記申請に添付する議事録につ
いては会社法上の署名義務の有無にかかわらず所定の電子署名が必要とされて
います(商業登記規則36条3項・102条2項)。

 コロナ禍におけるテレワーク推進や脱ハンコ等の議論の中で、従来は厳格で
あった電子署名の要件に関する解釈が緩和され、いわゆる事業者署名型(立会
人型)電子署名についても電子署名法に規定する要件に合致しうるとの解釈が
示され 、議事録のデジタル化の機運が急速に高まりつつあります。

 非取締役会設置会社の株主総会議事録については、会社法上の署名義務がな
いことから、PDFファイル等で作成すれば足ります。ただし、当該議事録を
登記申請に添付する場合には、議事録作成者がPDFファイルに所定の電子署
名をすることになります(商業登記規則36条2項・3項、同規則102条2項)。こ
の電子署名については、一部の事業者署名型(立会人型)電子署名も認められ
ています。

 取締役会議事録については、出席取締役・監査役に会社法上の署名義務があ
ることから、PDFファイル等で作成したうえで、出席取締役・監査役が電子
署名をしなければなりません(会社法施行規則225条)。

 当該議事録を登記申請に添付する場合には、代表取締役の選定議案の有無に
より、利用可能な電子署名が異なりますが、代表取締役の選定議案がない場合
には、所定の事業者署名型(立会人型)電子署名で足ります。一方、代表取締
役の選定議案がある場合には、原則としてすべての電子署名について、事業者
署名型(立会人型)でない比較的厳格な電子署名が必要となるのが原則です。
ただし、変更前の代表取締役が、いわゆる商業登記電子証明書(商業登記規則
33条の8第2項・102条3項1号)、公的個人認証サービスまたは特定認証業務
にかかる電子証明書に基づく電子署名による場合にあっては、他の出席取締役
・出席監査役については、所定の事業者署名型(立会人型)電子署名で足りま
す(商業登記規則103条)。


2021.07.05(月)【顧客ファースト】
(金子登志雄)

 月末30日と月初の1日はドタバタしたと書きましたが、2日の金曜日も結
果的に同じでした。金曜日だったせいでしょうか、その週の申請と想定してい
なかった数社分の登記申請依頼が午後1時過ぎに郵送されてきたためです。い
ずれも定時株主総会後の役員変更です。ありがたいことです。

 ただ、近隣の東京法務局管轄以外でしたら、郵送処理にしているため、5時
15分までに申請すればよいので余裕ですが、今回は多数が東京法務局管轄だ
ったため、4時半までには申請しないと、その日の持ち込みに間に合いません。

 半数以上が事前に添付ファイル付のメールで相談にのっていた案件だったた
め、申請書案は作ってありましたが、メールでは全部の資料が送られてくるわ
けではないので、最終チェックでは、結構、ミスがみつかります。

 会社に電話すると「担当は自宅勤務です」といわれ、担当者の携帯に電話す
ると出てこないこともよくあり、その日の申請ができるかとあせってしまいま
す。たぶん、担当者は登記書類は郵送したから、これでやれやれと思い、自宅
勤務に変更し、書類の不備で電話が来るとは考えなかったのでしょう。

 幸い、1時間程度もすれば電話がかかってきて、訂正の許可やその日のうち
の申請でなくともよいという許可をもらい、私もほっとします。

 司法書士によっては、今日郵送されたとしても慎重なチェックが必要だから
明日の申請で十分だという方も多いでしょうが、私はこれができないのです。
顧客ファーストというよりも、単なる性分で待つのも待たせるのも苦手です。

 ただ、東京法務局への持参や、それ以外への郵送処理の郵便局行きは、身内
に手助けしてもらっているので、まだ恵まれているほうでしょう。ふと、純粋
に1人事務所の方はどうしているのかと気になりました。たぶん、翌日の申請
になるのは仕方ないと思い、慎重さを優先し、夜遅くまで残業なさるのでしょ
うが、それが正解です。

 顧客ファーストは早さだけではありません。私も年相応にもっと鷹揚になら
ないといけませんが、こんな日は1年に数日しかない平素はヒマな事務所のた
め、鷹揚に慣れる訓練ができません。


2021.07.02(金)【定時総会時期なのに】(金子登志雄)

 6月も終わり定時総会の開催時期のピークだったというのに、今年は何とな
く例年と相違した雰囲気を感じます。例年だと総会日の翌日には登記してほし
いといわれることが多かったのですが、本年はそう急がないのです。五月雨式
に依頼が来るので、おかげで例年並みにアタフタしたのは月末・月初のこの2
日間だけでした。

 昨日が多忙であったのは、1日付けの社長交代案件が多く、1社で印鑑証明
書10通近くもあり、コンビニ取得の印鑑証明だと原本還付のためには裏まで
コピーしなければならず時間がかかったためです。これ何とかなりませんかね。
実に面倒です。

 例年並みのバタバタがないのはコロナの影響かもしれません。担当者が交代
で出勤していることも影響しているでしょう。電話しても「本日は出社してお
りません」といわれることが増えました。

 また偶然かもしれませんが、上場会社の定時株主総会は年1回の最重要イベ
ントという意識がいままではあったため、入院等の病欠以外で欠席する役員は
いなかったのですが、今年は私の知っている上場会社数社で欠席者がいました。
病欠かどうかは聞いていませんが、重症ではなさそうです。

 これもコロナの影響でしょう。軽度の体調不良でも集会に参加するのがはば
かられる雰囲気があるためです。昔なら、体調不良なのによく出てきた、えら
いと褒められたものですが、いまは非難されてしまいます。

 よきにつけ悪しきにつき、コロナは文化や社会生活、ものの考え方や生き方
にも影響するようになりました。今後、どうなるのでしょうか。人口減で総務
部員にも外国人が増えてきましたし、出社もしないとなれば仲間意識も希薄に
なり、会社に対する忠誠心も薄くなるでしょう。


2021.07.01(木)【WEBによる総会】(島根・根来川弘充)

 6月は、会社等法人において総会を開催されたところは多いと思います。

 今年は、WEBによる参加を認めている総会も多いということで、総会開催
方法の主流になっていくのだろうと感じました。

 昨年からWEB方式による会議や、研修が増えましたが、集音マイクや、カ
メラなどの備品も安価で手に入れることができ、既存のパソコン、タブレット、
スマホの利用により、個人単位で、気軽に利用できる環境にあったことは、普
及の背景にあったとも言えるのでしょう。

 これからは、ワクチン接種だけでなく新薬の開発もすすみ、新型コロナの問
題もだんだんと沈静化すると思います。

 その後は、ウイルス等の感染拡大にそなえた生活スタイルというものを、考
える必要があります。

 国や都道府県、各市町村を主体とした対策は、一律に個人の行動を制限する
ことになり、私個人としては、法治国家の根本として、大きな問題があったと
考えています。多くの方が議論して、良い未来につながることを期待したいと
思います。


2021.06.30(水)【就任承諾書と住所】(金子登志雄)

 先週、都内の某登記所より「代表取締役の就任承諾書に住所が記載されてい
ない」と補正通知がありましたので、電話しましたら、「あれ、金子先生です
かぁ」と親しみを込めて返事されました。私は、登記所内でも結構有名人です。
令和を平成にしたりのかわいらしいミスが多いので愛されているのかもしれま
せん??。

 「あの補正の件ですが、数年前も某出張所で問題になり、東京法務局に問い
合わせて、不要の回答をもらっています。取締役の就任には必要でも、代表取
締役は取締役の中から選定されるので、不要です」と話し、あっさり補正を撤
回してもらいました。

 こういう経験をブログ「司法書士のオシゴト」の新保先生に話すと、「それ
は金子先生だからですよ。他の司法書士がいってもそう簡単には済みません」
と反応されることが少なくありませんが、そう簡単に済まない経験は私もたび
たび経験しています。数年前ですが、某大手法務局に、定款の附則に本店移転
先を書いて本店移転登記を出したときは、何丁目何番地は取締役会で決めなけ
ればならないと登記研究にもあるいわれ、そんなことは重々承知のうえでして
いることが通じないことに少々腹が立ち徹底抗戦しました。

 何度説明しても通じないので、「上司と直接話すからを出してほしい」「い
え、上司も私と同じ意見です」「会社法29条で認めているじゃないですか」
「あれは設立の時だけでは」「定款の附則で代表者を定めることもあるじゃな
いか。設立時に限らず」……というような問答でした。司法書士の資格をかけ
てもよい、引っ込めないとまで話して抵抗しました。

 翌日電話があり「所内の登記官全員で協議した結果、却下事由には該当しな
いという結論に達しました」で一件落着でしたが、面子にかけて「当方の勘違
いでした」とはいってこないことには、もう慣れました。こういう経験がある
ので29条方式でなく295条2項方式のほうが通じやすいと判断し、以後は
定款の附則に「本店移転事項は株主総会で定めることができる」と記載する方
法に変更したわけです。

 ところで、就任承諾書の住所問題については、非取締役会設置会社の取締役
の就任であれば印鑑証明書を添付し、印鑑照合で本人確認しますから、私は住
所の記載は不要だと確信していますが、登記所の対応は、取締役会の有無を問
わず住所が必要だと凝り固まっているため、こればかりは仕方なく住所を記載
しています。私見に賛成の登記官も多いと思うのですが、登記所も行政官庁の
1つです。全国一律の運用になるため、少々の妥協は仕方ありません。


2021.06.29(火)【日司連 副会長】(東京・鈴木龍介)

 去る6月25日(金)に渋谷ヒカリエで日本司法書士会連合会(日司連)の
第86回定時総会が開催され、私も、代議員として初出席しました。コロナ禍
を踏まえ、例年の2日日程を半日に短縮し、来賓も招かず、出席者自体も極力、
絞ったかたちで行われました。

 本年は役員改選期にあたり、本来なら定時総会で選挙を行うことになるので
すが、こちらもコロナ禍の影響があったかどうかはわかりませんが、会長をは
じめすべての役員の立候補が定数どおりで、結果、選挙はなしで決定いたしま
した。

 ということで、私もおかげ様で副会長に就任することとなりました。これま
で多くの皆様にお力添えをいただきましたところ、こちらをお借りして御礼申
し上げます。

 これまで日司連の委員はいろいろと長きにわたり務めさせていただきました
が、役員は初めてです。司法書士制度を取り巻く課題は山積されていますが、
優先順位を定め、着実に成果をあげていきたいと考えています。微力でござい
ますが、2年間、どうぞよろしくお願いいたします。重ねて皆様のご支援をお
願い申し上げます。


2021.06.28(月)【上場会社との株式交付比率】
(金子登志雄)

 皆様にクイズです。

 Q:上場会社甲が非公開会社乙を株式交付で子会社にすることにしました。
この場合の甲対乙の株式交付比率(株式価値の差)ですが、次の①と②の可能
性のどちらが大きいでしょうか。

   ① 1対0.1など甲側が大きい比率
   ② 1対100など乙側が大きい比率

 回答は後回しにし、合併比率などは5対4とか、4対5と表さずに、左側を
1にして、1対0.8とか、1対1.25と表すのが通常です。乙の1株に対
して甲の株式0.8株(又は1.25株)を交付するなどと記載します。

 3対1のときは、どうするのでしょうか。1対0.333でしょうか。現実
には、ぴったり3対1にならないので、問題視されておりません。

 さて、上記の回答ですが、いままで公表された株式交付の実例3つでは次の
とおりでした。

  株式交付第1号 1対68.747+現金
      第2号 1対3.677+現金
      第3号 1対2588.14

 いずれも非公開会社の株価のほうが圧倒的に高いのです。まさかと思いませ
んか。思いますよね。

 私は思いませんでしたが、あまりの大差には正直驚きました。カラクリは株
式分割と単元株式です。非公開会社であれば1株5万円以上にして設立するこ
とが多いのですが、上場すると、1単元100株が強制されますし、流通性促
進から、頻繁な株式分割で株価を下げようとします。投資しやすようにするわ
けです。ちなみに上記上場会社の金曜日の終値は下記でした。

  株式交付第1号会社 1株当たり金2120円
      第2号会社 1株当たり金3070円
      第3号会社 1株当たり 金205円

 これでは1株価値で非公開会社に負けるのは当然ですね。上場会社は時価総
額が高いとはいえ、1株値段は低いので、②が正しいということになります。

 なお、7月初旬あたり出版される拙著の小冊子は1対0.2などの例ばかり
にしましたが、非公開会社同士の株式交付を前提としたためです。


2021.06.25(金)【雑が増えた会社法令規定】
(金子登志雄)

 株式交付への反対株主の株式買取請求について規定する会社法816条の6
第2項に、「反対株主とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める
株主をいう。
 一 株式交付をするために株主総会(略)の決議を要する場合(略)
 二 前号に掲げる場合以外の場合 全ての株主」
と規定されています。

 この第2号については、いまだに何の意味か分かりません。合併などでは略
式再編で株主総会の決議を要しない場合の特別支配会社でない少数株主が例だ
と分かりますが、816条の6は株式交付の規定であり、略式再編はありえま
せん。簡易再編は平成27年改正で、そもそも株式買取請求権がないことにな
りました。というわけで分からないのです。

 気を取り直して会社計算規則をみていましたら、吸収合併に関する35条2
項に「ただし、株主資本等変動額が零未満の場合には、当該株主資本等変動額
のうち、対価自己株式の処分により生ずる差損の額をその他資本剰余金(当該
吸収合併存続会社が持分会社の場合にあっては、資本剰余金)の減少額とし」
とありました。このカッコ内の意味が分かりますか。

 持分会社では自己持分があり得ず、対価として交付することができないので
す。5月31日の本欄で書きましたが、この「株主資本等変動額が零未満の場
合」に「株式発行割合は正、自己株式処分割合は負で、後者が前者より大きい
場合」を含むのかはっきりしません。平成21年改正前は、「吸収型再編株主
資本変動額が零未満であるとき」でした。

 相次ぐ改正で、法令の緻密さが失われてきたというしかありません。清算株
式会社や特例有限会社は株式交付子会社になれるのかという点もありました。

 改正時に「その改正で、ここがおかしいことになる」と誰も指摘することが
できないほど、会社法法令が細かくなりすぎたのでしょうが、国家の威信にも
かかわることですから、何とかしてほしいものです。

 いや、お前(金子)の勘違いだと思う方は、ぜひご指摘ください。勘違いで
あってほしいです。

 ところで、昨日、株式交換につき検討していたのですが、株式のみを対価と
した場合に、任意に債権者保護手続をしても、その他資本剰余金にできないと
いうのが法務省見解及び定説なのですが、江頭第8版は、いまだに少数説の肯
定説のままなんですね。こちらも、反論くらいしてほしいものです。


2021.06.24(木)【会社法208条3項】(金子登志雄)

 会社法208条3項は、要約すると「募集株式の引受人は、払込み又は給付
をする債務と株式会社に対する債権とを相殺することができない」とあります。

 株式引受人から相殺は禁じられていますが、会社からの相殺は禁じられてい
ません。

 では、会社に対する金100万円の金銭債権を有する甲が債権出資(いわゆ
るDES)をする際に、たまたま会社が甲に対して金100万円の貸付金を有
していたとしたら、会社の方からであれば相殺は認められるでしょうか。

 認めらるわけがありません。この質問はひっかけであり、これでは株主資本
に変動がありません。規定の相殺は、出資の履行義務=会社からの出資履行債
権と甲が会社に対して有する債権との相殺のことだからです。

 例えば、株式の募集に応じて、甲が金100万円の出資の引受けをしたとし
て、甲は会社に対して金100万円の金銭債権を有するため、これと相殺しよ
うとしも不可だが、会社の方から相殺するのは差し支えないという趣旨です。
つまり、結果的にDESがあったと同様になります。

 ここまでは、すぐに分かりましたが、この相殺したことを証する書面が商業
登記法でいう「払込みがあつたことを証する書面」として認められるのかどう
かです。

 これにつき立花さんと議論しましたが、実体法上は会社からの相殺を肯定す
ることができても、登記実務上は肯定しにくいため、管轄登記所と相談するし
かないという結論しか導くことができませんでした。というのは、おそらく経
験者はいないに等しいでしょうし、いったん、金銭で払込みを受け、直ちに弁
済すれば、相殺するまでもありませんし、あるいは、最初から会社に対する金
100万円の金銭債権の現物出資ということに切り替えれば、それで解決する
ことだからです。


2021.06.23(水)【代表社員の就任承諾書の要否】(仙台・立花宏)

 定款に、「代表社員は社員の互選により」定める旨の規定がある合同会社で
あることを前提とします。この会社で社員の互選により代表社員を定めた場合、
登記実務上、当該代表社員の就任承諾書の添付が必要だと扱われています
(平成18・3・31民商第782号)。

 互選で定められた代表社員といっても、株式会社の代表取締役と異なり、会
社と代表社員との間に委任契約が存在するわけではないため、この就任承諾書
は、委任関係の成立を証する書面ではありません。その趣旨は、「互選書のみ
では、被選任者が知らないうちに変更登記の申請がされてしまうというおそれ
も懸念され」(注1)ることから、当該代表社員が自らに代表権が集中するこ
とを納得しているかどうかを確認する趣旨だとされています(注2)。そのた
め、代表取締役の就任承諾書の扱いと異なり、「代表社員の選定に関する書面
に当該代表社員が社員として記名押印しているのであれば、就任承諾書の添付
は不要」(注3)と登記実務上は扱われていました。

 ところで、今年2月15日から、商業・法人登記手続に関して、押印規定の
見直しが行われ、法令上、押印又は印鑑証明書の添付を要する旨の規定がない
書面については、押印の有無について審査を要しないものとされました(令和
3・1・29民商第10号)。

 社員の互選書についても、法令上、押印又は印鑑証明書の添付を要する規定
がありませんので、押印の有無は審査されないことになります(注4)。そう
すると前記の「当該代表社員が社員として記名押印しているのであれば」の部
分は、「当該代表社員が社員として記名しているのであれば」と読み替えるこ
とになるのだろうと思います。記名がない場合は、就任承諾書の添付が必要と
なりますが、この就任承諾書も、法令に基づくものではなく、通達に基づく添
付書面であり、押印の有無は審査されません。

 しかし、互選書に定められた代表社員の記名のみがあり、押印がない場合、
また、就任承諾書が添付されているとしても、記名のみで押印がない場合、そ
れらの書面で当該社員が納得しているかどうかの確認ができるのでしょうか。
少なくとも、民事訴訟法228条4項により、当該文書が真正に成立したもの
と推定されることはないと思います。

 そこで、司法書士が前記の登記手続を受任する場合、登記手続上の扱いは別
にして、互選や就任承諾の意思の真実性の担保のために、実務上は前記の書面
については、記名のみでなく署名又は押印をお願いしていることが少なくない
だろうと思います。通達は承知しているのですが、私自身も、お客様には、い
まだに従前のとおりに押印をお願いしています。

 押印規定が見直され、必要のない押印が廃止されていくことは望ましいこと
なのかもしれませんが、実務家としては、その対応について、とても悩ましく
感じることが少なくないと感じています。

 注1)月刊登記情報701号29頁
 注2)立花宏『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論 第2版』
   (中央経済社)113頁
 注3)登記研究編集室編『商業登記書式精義全訂第六版』(テイハン)
    1395頁の代表社員の就任承諾書の(注)
 注4)令和3・1・29民商第10号では、「ある取締役の一致があった
    ことを証する書面についても、取締役会議事録に準ずるものとして、
    引き続き、署名又は押印を要する」とされていますから、社員の互
    選書についても同様の解釈をしている法務局もあるかもしれません。


2021.06.22(火)【印紙税~その2~】(東京・鈴木龍介)

 今回は、前回の「印紙税」続きです。

 どんな文書でも印紙税の対象になるかというとそうではなく、印紙税法別表
1に掲げられた20種類の文書に限られます。たとえば、不動産の売買契約書
は課税文書ですが、動産の売買契約書は不課税文書(ちなみに非課税文書は本
来課税文書であるところ法令の規定により課税の対象とならないものです)で
す。ちなみに、登記の委任状もかつては課税対象でした。

 中小企業の法務で気をつけておきたいのは4号文書にあたる株券です。会社
法施行前からある株式会社は、格別の手当をしていなければ株券発行会社とい
うことになります。ただし、株主の請求がなければ、株券を現実に発行する必
要はありません。そのような会社でも株券発行会社である以上、株式を譲渡す
る場合には、株券の交付が効力要件となります。つまり、株式の譲渡に際して
は、あらたに株券を発行し、株券に収入印紙を貼付しなければならないという
ことです(厳密にいえば、印紙税の納付は実体上の効力発生―株式譲渡―に影
響を与えませんが・・・)。

 印紙税の課税文書のメインは契約書ということになりますが、その文書のタ
イトルとは関係なく、内容で判断することになります。たとえば、タイトルは
「覚書」であっても、内容が不動産の売買契約であれば、1号の1文書(不動
産~の譲渡に関する契約書)に該当します。また、「予約」契約書も課税文書
になります。

 やっかいなのが1つの文書で2つ以上の内容を含むものです。たとえば、継
続的に行われる売掛債権の譲渡に関する基本契約書については、7号文書(継
続的取引の基本契約書)と15号文書(債権譲渡または債務引受けに関する契約
書)の両者に該当することになりますが、この場合、号数の若い号の文書を適
用することになり、7号文書としての課税ということになります。このあたり
は法・通達で細かく定められています。

 印紙税を節税する古典的な手法としては、本来2通作成するのが一般的な契
約書の作成を1通で済ませるというものがあります。たとえば、不動産の売買
契約書の場合、売主保管用で1通、買主保管用で1通作成するところ、買主保
管用の1通だけを作成するというやり方です。この手法では、売主は原本を保
有せず、手元にはコピーだけということになってしまいますので、グループ会
社間の取引などに限定した方がよいかも知れません。また、契約書の末尾に
「本契約締結の証として原本を1通、その写しを1通作成し・・・」といった
ような記載をしてしまいますと、写しも契約成立の証であるという当事者間の
了解が明らかにされているため、写しの方も課税文書となってしまいかねませ
ん。となると、いろいろな意味で絶対安心な印紙税の節税手法としては、契約
書を電子文書化し、電子署名するということに行きつくわけですが、電子署名
・電子証明書の技術革新や社会の認知度を踏まえますと、時代にもマッチする
スマートなやり方といえるのではないでしょうか。


2021.06.21(月)【不慣れな仕事】(金子登志雄)

 この2週間で数年ぶりに事業協同組合の代表理事交代と一般社団の定款認証
をいたしました。こういうのは苦手です。会社であれば目をつぶっていても分
かるのに、会社以外については目を開けていなければならず、面倒だと思って
しまいます。歳のせいでしょうか。かといって、会社の登記と親せきの登記み
たいなものですから、専門外を理由に断るわけにも行きません。

 事業協同組合は代表理事交代の理事会議事録を預かったのですが、登記記録
に「理事会設置会社」とありません。何じゃこれはと思い、詳しい司法書士に
理事会は登記事項ではないのかと聞きましたら、イエスという回答でした。

 時間があったとき、中小企業等協同組合法を確認しましたら、36条の5に
「組合は、理事会を置かなければならない」とありました。任意設置ではない
から登記事項でないのかと納得しました。会社法以前の株式会社がそうでした
から、それとの対比ですぐに納得することができました。こういうのは年の功
ですね。

 一般社団の設立は個人Aが経営する2社が設立時社員でしたから、定款認証
の実質支配者で、Aが「①出資、融資、取引その他の関係を通じて、設立する
法人の事業活動に支配的な影響力を有する自然人となるべき者」に「レ」を記
したら、公証人さんから一般社団の実質支配者は②でよく「設立する法人を代
表し、その業務を執行する自然人となるべき者」にしてくれといわれました。
そういうものなのでしょうか。

 また、法務省のホームページにある記載例は、なぜ「役員に関する事項」の
筆頭を住所付き代表理事にしているのですか。電子申請の総合ソフトでは、株
式会社と同一の配列です。

 会社の登記の仕事であれば難問であればあるほど意欲がわき徹夜も辞さずに
よい方法を考えますが、なぜこういう差が生じてしまうのか自分でも不思議で
す。たぶん、職人根性なんでしょう。


2021.06.18(金)【分割発行は1つの募集行為】(金子登志雄)

 非公開会社がA種種類株式を新規に発行することとし、6月1日の臨時株主
総会で定款にそれを定め、9月30日までを払込期間として合計で1000株
を発行することにしたところ、6月3日に200株の払込みがあったので、す
ぐに登記しました。そして、本日、また100株の払込みがありました。

 さて、すでにA種種類株式は200株が発行済みですから、100株を追加
登記する際には、この種類株主総会が必要でしょうか。

 必要なわけがないですよね。6月3日分と本日分を9月30日付けで一括申
請することもできるのに、後者だけ種類株主総会議事録が必要だとはいえませ
ん。必要なのは6月1日の発行決議の際のA種種類株主総会であって、その時
は種類株主が1人もいなかったのです。

 ここまではよいとして、会社法200条1項に基づく取締役会への委任によ
り、9月30日までに何回かに分けてA種種類株式を発行する場合はどうでし
ょうか。第2回目の100株の発行の際には、第1回目に発行されたA種種類
株式が存在するため、種類株主総会が必要になるのではないでしょうか。

 都内の登記所では不要説が確定していますが、地方の登記所だと必要だとい
われることもあるのだそうです(2人の司法書士から経験談を聞きました)。

 会社法200条4項の解釈問題ですが、そこには「種類株式発行会社におい
て、第一項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、【当該種類の株式
に関する募集事項の決定の委任は】、当該種類の株式について前条第4項の定
款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株
主総会の決議がなければ、その効力を生じない」とあり、発行の都度必要とさ
れておらず、最初の委任決議の時に必要だとされているだけです。

 不要である理由は取締役会に委任し何回かに分けて発行する場合であっても、
払込期間を定めた場合と同様に「1個の募集決議」とみるためだと思われます。
有利発行の場合も同様で、発行の都度、株主総会の承認を要しません。

 譲渡制限株式を交付される新株予約権の発行でも、発行決議の際に要求され
るだけで、行使の都度、要求されてはいません。

 結論から言うと、分割発行であろうと分割行使であろうと、基本となる発行
決議(又は委任決議)のときだけ種類株主総会の要否が問題とされるだけです。


2021.06.17(木)【コロナワクチン接種体験】(金子登志雄)

 6月11日の金曜日の夕方、神奈川県民ですが職場に近く交通に便利な東京
大手町のコロナワクチン大規模接種会場でワクチン接種を体験してきました。
私もりっぱな老人の一人です(孫もいないので実感はありませんけど)。

 (会場の大手町合同庁舎第3号館は、東京法務局が以前存在したところです。
司法書士試験の口述試験も私はここで受けました。)

 行く前は免疫不全になるなどというネット情報で、乗り気でなかったのです
が、接種しないと周囲から警戒される雰囲気(非国民?)もあり、顧客を安心
させるためにも接種したほうがよいと考え、こわごわ行ってまいりました。

 多数の老人が集まっており、大混雑でした。おかげで怖さはなくなりました。
これだけ同じ立場の多数の仲間がいることに安心したためです。

 「はい、次の5名様どうぞ」と、次々に集団で呼ばれる始末で、まさに集団
接種でしたが、スタッフが多く、イライラもしておらず親切でした。

 接種は女医から腕に触れられたとしかの感覚しかなく、2秒で終わりました。
本当に注射されたのかも怪しくチクリとも感じませんでした。翌日に接種され
たところを触ると軽い痛みがあったので、やはり接種されたのかと感じた程度
でした。

 接種後は15分程度の経過観察の待機時間があり、それを過ぎて無事帰宅し
ました。感想は、実にあっけなかったというものです。
 
 ただ、副作用は第2回目に生じることが多いようですが、6月定時株主総会
のピークが過ぎた7月中旬なので、仮に副作用が生じても顧客には迷惑をかけ
ずに済みそうです。


2021.06.16(水)【相見積もり】(金子登志雄)

 今日は雑談です。

 当方のパソコンのメールのトレイに知らない会社名のものがあったので、開
いて確認しましたら、数年前に弁護士に紹介された会社でしたが、相見積もり
で断られた会社でした。

 どうも他より当事務所は報酬が高そうに思われたか、あるいは腰が重そうだ
とみられたかのどちらかのようです。確かに一般の街の司法書士事務所と比較
すれば高い方かもしれませんが、それなりに名の知れた事務所や一流といわれ
る事務所の中では当事務所は安い方なのですが、相手の担当者がある程度法務
について分かると、使いやすくフットワークのよい事務所で安い事務所を選ぶ
傾向があります。

 不動産業務では相見積もりは日常茶飯事のようですが、商業登記ではそれほ
どないので、私も慣れておりません。つい、「え、相見積もりだったのですか。
最初からいってくだされば、応じませんでしたのに」などと、嫌味を返してし
まいます。

 そもそも商業登記では見積もりは困難な部分が多いといえます。ただいま、
6月下旬の定時株主総会に向けて相談を受けることが多いのですが、毎日のよ
うに相談や、これをチェックしてくれと来るところから、ほとんど来ないとこ
ろもあります。終わってみなければ、何ともいえないのが商業登記です。単な
る役員変更と思っていたら、社長の交代が含まれていたなどということもあり
ます。

 弁護士業務の世界では相見積もりはないでしょう。勝つか負けるかの真剣勝
負ですから、勝てる事務所に依頼しなければ意味がありません。相見積もりが
なされる業界は、誰でもできる仕事と思われている証拠であり、それだけ地位
が低いことになります。当事務所は弁護士事務所ほどではありませんが、武士
は食わねど高楊枝で気位が高いので、今後も相見積もりがあったら、失礼じゃ
ないかと返してしまいそうです。

 武士の商法でも、営業力がなくても何とか生活できる司法書士でよかったと
思うことがしばしばです。鈴木龍介・日司連副会長様(確定しました)も、こ
のあたりを強調して、頭を下げずに済む武士のコンサルタント業としての司法
書士の魅力を宣伝してみてはいかがでしょうか。


2021.06.15(火)【印紙税~その1~】(東京・鈴木龍介)

 「脱はんこ」や「ペーパーレス」が叫ばれている今日この頃ですが、現場で
は、まだまだ契約書等の“紙”の存在は小さくありません。

 そんな“紙”と密接に関連する税金に「印紙税」というものがあります。こ
の印紙税は中小企業にとっても司法書士にとっても、まだまだ実務的には見過
ごすことはできません。 

 そもそも、印紙税とは、印紙税法に基づく国税であり、一定の書面を作成し
た際に課税されるというものです。ここでいう書面には、電子(デジタル)文
書は含まれず、物理的な“紙”の文書が対象になります。

 日本の印紙税の歴史は古く、明治6(1873)年に導入されました。諸外
国でも印紙税(Stamp Duty)を課している(いた)例はあります。たとえば、
イギリスでは不動産の売買契約書を印紙税の課税の対象としています。一方、
ドイツは1992年に印紙税を撤廃しました。近時の国際的な潮流としては、
印紙税の対象となる文書の限定化が進んでいるとともに、印紙税を廃止する傾
向にあるようでして、日本においても税の中で課税する合理的な理由のない不
合理なものとの批判も少なくありません。

 日本における印紙税は、“紙”に収入印紙を貼って、それに割印(消印)し
て納付するのが一般的です(課税文書が継続的に多量に発生する場合に税務署
の承認を受けて金銭納付するなどといった方法もあります)。税収という観点
から見ますと、公式の統計等はありませんが、収入印紙の売上からの推計で、
年間2,800億円にのぼるというデータがあるようです。

 印紙税の不納付の場合には、本来納付しなければならない額の3倍に相当す
るペナルティ(過怠税)が課されます。ただし、自己申告をした場合には
1.1倍ですみます(印紙税法20条)。ちなみに印紙税にも、法人税や所得
税と同様に、税務調査があり、相当な過怠税を徴収されたという例も少なくあ
りません。一方で、納付すべきでないのに納付したり、所定の額より納付した
場合には還付を受けることができます。

(少々長くなりそうなので、次回に続くということで。)


2021.06.14(月)【新株予約権と端数】(金子登志雄)

  新株予約権につき、10.5個などという発行が可能かが問題とされてきま
した。神崎先生主宰の商業登記倶楽部での質問コーナーにもありました。

 新株予約権は行使することによって株式と引き換えられる権利ですから、旧
商法では、まず引換えの対象である株式数を決め(例えば1000株)、続い
て、1個100株で10個にしようとか、1個10株にして100個にしよう
などと複数に分割し、この個々を「各新株予約権」といいました。

 証券で考えると分かりやすいです。1個(10株)証券を100枚発行にす
るか、10個証券10枚にするかということです。この証券で考えれば、1個
10株にした場合に、5株だけ行使するなどの一部行使が認められないのは明
らかです。行使条件として定めるまでもないことでした(株券の分割と同様に
10個証券を1個証券10枚に分割するのは可能です)。

 会社法になると、大きな塊の新株予約権を分割発行したという考え方がどこ
かに飛んでしまい、「各新株予約権」が基本に据えられたのか、1個何株の新
株予約権を何個発行するのかという発想に変わったかのようです。

 しかし、それでも、10.5株の募集株式の発行が無理なように、10.5
個の発行も、1個10株のうち0.5個の5株だけの一部行使も会社法の下で
も認められないと考えます。これが認められるなら、0.1個や0.01個も
認めなければならず、想定外のはずです。

 現に取得請求権付株式で新株予約権を取得した際は端数を切り捨てよとか、
端数株式の処理に関する234条でも、その6項で新株予約権端数処理を規定
しています。端数個の登記実例もありますが、実例があるからといって正しい
というものではありません。

 ちなみに、1個0.5株や1個につき3分の1株などは認められています。
複数個あるいは3の倍数個を同時に行使すれば問題ありません。


2021.06.11(金)【現場感覚の強み】(金子登志雄)

 このゴールデンウイークには改正会社法の「株式交付」について実務を中心
に100頁弱の小冊子を書きましたが、昨日は第2校目でした。この調子だと
7月初旬には出版できそうです。

 株式交付の「実務」といっても、まだ実例も出る前の段階で、書いてしまう
のですから、我ながら度胸があるものです。もちろん、参考文献はほとんどな
く、参考にしたのは、旬刊商事法務、法務省の『一問一答』、日弁連本(弘文
堂)だけでした。

 意外に思われるかもしれませんが、怠惰な私には、こういう環境のほうが書
きやすいのです。何といっても調べるものが少ないのが助かります。いままで
の著作のほとんどがこういう状況下でした。書物に頼らずに生の具体的事例を
想定して、これこれこういう場面ではどうなるかと試行錯誤を繰り返して行く
のが私に合っています。

 ただ、自信はあっても、どこにも私の想定と同じ又は近い内容が書いてない
ということは、結構不安なものです。ひょっとして、独りよがりで、とんでも
ない勘違い(妄想?)をしているかもしれませんし、その見解を公表(出版)
したら、長くミステイクの記録が残ってしまいます。評価を上げるには時間が
かかりますが、下げるのは一つのミスで簡単に下がります。

 そこで、不安を解消するために、2週間前の初校時には、急遽、アマゾンで
検索し、改正会社法の解説本5冊を購入し、株式交付の部分だけ、ざっと目を
通してみました。TMI本、西村あさひ本(以上、商事法務)、野村教授の本
(有斐閣)、田中教授本(弘文堂)、大学教授と弁護士の共著本(加除出版)
でした(実務書中心の中央経済はありませんでした。改正会社法の啓蒙時期が
済んだため、これからが同社の動く時期でしょう)。

 5冊をざっとみた感想は、残念ながら、いずれも、改正会社法の制定経緯の
紹介と内容の説明が中心で、実務家である私の知りたいこと(それが何かは出
版までお待ちください)は全く書いてありませんでした。改正法の啓蒙書です
から仕方ありませんが、誰でも疑問に思うことが書いてないのは残念でした。

 そこで思ったのですが、われわれ実務家は、常にこれで「登記が通るか」な
どを意識して事例を想定して考えるのに対し、大学教授や弁護士は、改正法の
丁寧な紹介と解説(翻訳?)に意識が集中し、こういう場合にどう使うか・使
えるかは、あまり意識しないのだなということです。

 批判ではありません。実務家と研究室にいる方々との思考の相違みたいなも
のです。われわれ現場の者がこういう問題点があると気づき、それについて判
断を仰げば、大学教授も弁護士も回答を考えてくれますが、改正条文だけで、
事前に問題点に気づくのは、われわれ現場の人間のほうが早そうです。

 逆にいうと、ここに現場の人間の著作の価値があるのではないかと思ってい
ますので、ぜひ、皆さんも、様々な問題点を発信してみてはいかがでしょうか。


2021.06.10(木)【死せる孔明生ける仲達を走らす】(金子登志雄)

 合同会社の社員がA1名で定款の「業務執行社員はA」という定めは、Aが
存命中で社員が1名のままであれば確認的意味あいしかないとしても、社員数
が増えた場合や、社員が死亡し相続人が事業を引き継いだ場合を考えれば、単
なる確認規定とはいえないなどと、昨日の立花投稿は、よく気づいたものです。

 1人株主又は社員が死亡しても、相続されれば営利社団としての会社は存続
します。その定款に記載された商号、目的、機関構成、決算期なども引き継が
れ、相続人もそれに拘束されます。「業務執行社員はA」「代表社員はA」な
どという定款内容も、残っていれば、その存在を無視することはできず、当社
は業務執行社員や代表社員を定款で定める会社であるという趣旨を相続人を受
け継ぎ、その規定を変更しなければ、相続人が業務執行社員や代表社員になれ
ないとの解釈に私も賛成です。

 そういう憲法を持った会社に入社したわけですから当然の解釈ですが、人的
側面からみると、まるで遺言書ですね。株式交換やM&Aで株主が全員交代し
た場合も同じですから、引継書というべきでしょうか。場面はちょっと違うの
ですが、三国志ファンならお馴染みの「死せる孔明生ける仲達を走らす」を思
い出してしまいました。

        http://u0u0.net/TJ0w


2021.06.09(水)【一人合同会社の業務執行社員の定め】
(仙台・立花宏)

 社員が1人のみ(Aとします)の合同会社において、定款に「当会社の業務
執行社員はAとする」というような定めを設けるケースがあります。これには
どのような意味があるでしょうか。社員は定款に別段の定めがなければ当然に
業務執行社員であり(会社法590条1項)、社員が1人のみの合同会社にお
いては、確認的な意味合いの定めであるという見解があるようです。

 これについて、次のケースについて検討してみます。
 冒頭の会社において、あらたにBが社員として加入したとします。前記の業
務執行社員の定めは特に変更していません。

 この場合、Bは業務執行社員とはなりません。定款で業務執行社員を定める
ことは、それ以外の社員は業務執行社員ではないことを明らかにする意味があ
るからです。逆に、定款に前記の規定がなければBは当然に業務執行社員とな
ります。

 次に、冒頭の会社において、社員Aが死亡したとします。なお、定款に社員
が死亡した場合は相続人が持分を承継して社員となる旨の規定があることを前
提とします(会社法608条)。

 社員Aの相続人がCとDだとすると、CとDが持分を承継して社員となりま
すが、この場合CとDは当然に業務執行社員となるでしょうか。私見はならな
いと思います。もし、CとDを業務執行社員とするのであれば、前記業務執行
社員の規定を削除する定款の変更か、業務執行社員をC及びDとする旨の定款
の変更をする必要があると考えます。

 Aが死亡したことにより、「業務執行社員はA」という定款内容は失効した
としても、業務執行社員は定款で定めた者に限るとする定款の趣旨は依然とし
て継続しており、その限りにおいて前記定款規定は効力を有するからです。こ
れは、定款で定められた代表社員が死亡しても、代表社員は定款で定めた者と
するという定款の効力が持続し、当然には他の業務執行社員が代表社員となら
ないものと扱う場合と同様です(「松井ハンドブック667頁の注」参照)。

 よって、仮に相続承継したCとDが、業務執行社員をCとする定款の変更を
したとすれば、Dの業務執行社員としての加入の登記は不要で、Aの退社とC
の業務執行社員としての加入する変更登記をすることになると考えます(注)。

 以上のことを考えると、前記定款規定は、社員が1人のみであれば、あまり
意識することはありませんが、単なる確認的な意味以上の意味があるように思
えました。

 注)Cの代表社員就任の登記も行うことになります(代表社員の定款変更等
が必要であれば当該変更等も含む)。


2021.06.08(火)【会計参与の現状】(東京・鈴木龍介)

 会社法で創設された「会計参与」制度ですが、当初、会計参与を導入した中
小企業への融資に対して通常より金利を優遇等するといったサービスを始めた
金融機関もありましたし、建設業における経営事項審査の評点のアップにもつ
ながるものとして、約2000社が会計参与を設置したという話もありました。
実際、私も数社ではありますが、会計参与を設置する手続に関与しました。

 一方、現在、積極的かつ多数の中小企業が会計参与を利用しているかという
と、そのようなことはないように思います。

 では、なぜ会計参与が利用されていないのかを、その担い手であることを標
榜されていた税理士の視点から推察してみたいと思います。データとしては若
干古いかも知れませんが、平成27(2015)年3月に日本税理士会連合会が取り
まとめた「第6回 税理士実態調査報告書」を参照してみますと、アンケート
の回答者(30,217人)のうち2.0%(600人)が会計参与に「就任している」、
1.4%(423人)が「今後就任する予定」と回答をした一方で、90.5%
(27,350人)が「就任する予定はない」と回答しています。

 ちなみに会計参与に「就任する予定はない」との回答の理由としては、「関
与先からの需要がない」がもっとも多く、次いで「責任が重すぎる」、「報酬
が期待できない」というものでした。以上を踏まえると、今後もよほどの状況
の変化がない限り、税理士が積極的に会計参与に就任することは期待できず、
その利用は進まないように思われます。

 会計参与はあくまで任意の設置ですから、制度自体を即廃止するには及ばな
いと考えますが、その主眼とされる中小企業の会計の適正の確保は現時点にお
いても課題であるわけですから、会計参与制度の見直しを含めたなんらかの手
当てを構築する必要があるのではないでしょうか。


2021.06.07(月)【役員の旧姓併記の申出について】(東京・古山陽介)

 最近、役員の旧姓併記について、ちょっとしたやり取りがいくつかあつたの
で、書いてみました。

 平成26年の改正商業登記規則によって、役員の就任等の変更登記の際、婚
姻後の姓とともに、婚姻前の旧姓も併記する旨申出することによって旧姓も記
録することができる点については、周知のとお りです。

 ポイントとなるのは、旧姓併記は「登記申請」ではなく、「申出」により記
録される点であります。ですので、旧姓併記の申出に関する申出事項や添付書
類等は全て登記申請書とは別枠のその他事項に書くものと取り扱われています。

 つい先日、うっかり登記申請書の添付書類欄に戸籍抄本と記載して申請しま
したら、管轄法務局から、その他事項に書くようにと補正の連絡を受けてしま
いました。

 また、こんな質問も受けました。
 旧姓併記が既に登記されている役員の、重任登記を申請する場合にも戸籍は
必要かどうかという内容のものでした。

 確かに、会計監査人が監査法人である場合、重任登記の申請書には、毎回、
監査法人の登記事項証明書の添付が必要となることか、旧姓併記が既になされ
ている役員の重任登記の申請書にも、戸籍の添付が必要と考えてもおかしくは
ありません。

 ただ、上記のとおり、旧姓併記は「登記申請」によるものではなく、「申出」
によるものですので、 登記の添付書類とは別に考える必要があります。

 これについては、商業登記規則第81条の2第4項に規定が設けられていま
す。簡単に要約しますと、次のとおりです。

 登記官は、旧姓併記がされた役員の再任による変更登記が申請された場合、
申請人から旧姓併記を希望しない旨の申出がある場合には、旧姓を記録しない
ものとする。

 つまり、重任の場合、再度の申出も要求されておらず、また、申請人からな
んら申出がなければ、自動的に旧姓併記する扱いなのです。よって、旧姓併記
がされた役員の重任登記申請においては、戸籍等の書類の添付は不要というこ
ととなります。

 以上、実務の現場からの報告でした。


2021.06.04(金)【株式の特別勘定】(金子登志雄)

 債務超過会社の合併や債務超過事業の吸収分割による受入れで、マイナスを
受け入れることは理解しやすいのですが、株式交換や株式交付で株式をマイナ
スで受け入れることがあるのをご存じですか。

 あり得ないことで、マイナスなら、企業買収で金をもらえるのかと思ってし
まいますが、株式交換や株式交付の比率は適正な評価額でしますが、会計の世
界は、それとは無関係に簿価受入れということがあります。

 合併等で相手の簿価を引き継ぐ方法で財産を受け入れることがあるのと同様
に、株式の場合は1株当たりの簿価純資産額が簿価になります。この純資産額
が△1000万円で、発行済みが1000株なら、1株あたり△1万円です。

 例えば、上場会社の100%子会社である甲と乙の間で吸収合併や株式交換
がなされるような場合は、同一企業グループ内の組織再編ですから、利益操作
ができないように、財産も株式も相手会社の簿価のままで受け入れます。

 甲が乙の株式1000株を△1000万円で受け入れるようにしないと、会
計の世界ではつじつまが合わなくなりますから、マイナスのまま受入れ、甲の
負債の部に「乙株式 1000万円」と計上します。△1000万円の純資産
の事業を新設分割したときも、新設会社の株式につき同じ処理がなされます。

 これを株式の特別勘定といい、計算規則12条には「会社は、吸収分割、株
式交換、株式交付、新設分割、株式移転又は事業の譲渡の対価として株式又は
持分を取得する場合において、当該株式又は持分に係る適正な額の特別勘定を
負債として計上することができる」とあります。

 企業買収など第三者との関係では生じませんが、同一企業グループ内の組織
再編では、こういうこともありますので、インプットしておいてください。


2021.06.03(木)【定款で業務執行社員を定めるとは】(金子登志雄)

 5月24日と26日の本欄で、会社法591条の「業務を執行する社員を定
款で定めた場合」に、登記実務のように「社員全員の同意(又は過半数の一致)
で定める(=定めた者)」という場合をも含めるのはおかしいじゃないと書き
ました。

 これが記憶にあったのか、拙著『会社法実務【全訂版〕』のQ1-1-7に
次のように書いたことを思い出しました。

----------------------------------------------------------------------
 登記情報539号18頁に、会社法立案担当者が「代表取締役の選定につい
て、取締役会設置会社においては、取締役会決議による方法(会社法362条
3項)、定款をもって直接選定する方法(会社法29条)及び定款にその旨の
定めを設けることによる株主総会決議による方法(会社法295条2項)があ
り………」と書いているとおりです。
----------------------------------------------------------------------

 会社法29条は定款には任意的定めを置くことができるという規定であり、
295条2項は、取締役会設置会社でも定款に定めれば、代表取締役の選定な
ど取締役会決議事項を株主総会でも決議することができるという規定です。

 代表取締役を業務執執行取締役(社長、専務、常務など)に置き換えると、
業務執行取締役を直接定めるのが会社法29条、定款に株主総会で定めること
ができるというワンクッション置くのが会社法295条2項ということになり
ます。

 これから考えても、「業務を執行する社員を【定款で定めた場合】」とは、
固有名詞や創業社員などと、「誰」であるかを特定した場合の話であり、「社
員全員の同意(又は過半数の一致)で定める(=定めた者)」では、社員の決
定というワンクッションが入りますから、定款で定めた場合には含まれないと
いうべきでしょう。


2021.06.02(水)【死亡後の携帯電話代金について】(島根・根来川弘充)

 最近ふえつつある業務として、財産管理業務があります。いろいろなケース
がありますが、代表的なものでは、相続人がおられても、遠方や会社のご都合
などにより、預貯金を中心とする相続手続を代理で行う任意の相続財産管理の
業務です。

 先般、1年くらい経過したのち、ご本人に単独相続が発生していることがわ
かり、依頼を受けた案件がありました。

 携帯電話代が通帳から引き落とされていましたので、1年前に死亡している
旨を伝えましたが、死亡時以降の使用料の返金があるどころか、相続人による
解約手続終了まで、しっかり請求されました。

 NHKの受信料も引き落とされていましたが、こちらは、死亡時の月を基準
として返還されるとのことでした。

 継続的な利用料が発生する契約の中には、いろいろあると思います。死亡時
の解約について、どのようになっているか、皆様、ご確認されることをお勧め
します。


2021.06.01(火)【法制審 担保法制部会】(東京・鈴木龍介)

 以前、少し取り上げましたが、法制審議会(法制審)の担保法制部会の審議
が令和3(2021)年4月からスタートしました。

 ちなみに法務大臣から法制審への諮問は以下のとおりです(諮問114号)。
 「動産や債権等を担保の目的として行う資金調達の利用の拡大など、不動産
以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み、その法律関係の明確化や
安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しを行う必要があると思
われるので、その要綱を示されたい。」

 見直しの主眼は諮問にもあるとおり、動産と債権の担保がターゲットであり、
特に譲渡担保がどのように立法化されるかが注目されます。そのなかでも登記
を含む対抗要件は重要論点の1つといえます。

 そのようなこともあり、同部会に純粋な民法の部会としては初めて司法書士
が委員に抜擢されました(ちなみに商法・会社法における部会の委員等に司法
書士が選ばれたことはありません)。これは画期的なことで、大変嬉しく思う
反面、司法書士業界一丸となってバックアップすべきと考えます。

 どの程度の時間をかけて法制審で審議がなされるかは不明ですが、おおよそ
月1回の頻度で会議が開催され、現在のところ2回まで終了しています(コロ
ナ禍ということでオンライン開催のようです)。なお、議事録等の詳細につい
ては、以下のホームページで公開されています。私自身も関心の高い分野です
ので、今後もその動向には注視していきたいと思っています。
  http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003008.html


2021.05.31(月)【計算規則にミス規定?】(金子登志雄)

 21日の本欄で、会社法施行規則213条の8に特例有限会社を挿入したの
は立法ミスかという問題を取り上げましたが、ゴールデンウイークに株式交付
の小冊子を書いている際、合併に関する会社計算規則35条2項ただし書に不
適切な規定があることに気づきました。会社分割の37条2項ただし書、株式
交換の39条3項、株式交付の39条の2第3項も同じです。

 35条2項ただし書は「ただし、株主資本等変動額が零未満の場合には、当
該株主資本等変動額のうち、対価自己株式の処分により生ずる差損の額をその
他資本剰余金(略)の減少額とし、その余の額をその他利益剰余金(略)の減
少額とし、資本金、資本準備金及び利益準備金の額は変動しないものとする」
という内容です。

 これは、合併により新株式と自己株式の交付が併存し、受け入れ財産額が負
の場合を前提とした規定ですが、株主資本等変動額が零未満の場合には、新株
式分は正だが、それ以上に自己株式対応分の負が大きい場合もあります。

 例えば、グロスの受入額が400万円で、これに対して新株式80株、自己
株式20株(自己株式の簿価500万円)を交付したとすると、ネットの株主
資本等変動額は負の100万円です(受入額400-支出額500)。

 しかし、新株式対応分は400の80%である320万円、自己株式対応分
は400の20%である80万円から費用分の500万円を控除した△420
万円です(通算すると株主資本等変動額の△100万円になります)。

 この場合は、通算した△100万円がその他資本剰余金から減額されるだけ
で、その他利益剰余金の減額はありません。にもかかわらず、対価自己株式の
処分により生ずる差損の額(△420万円)をその他資本剰余金の減少額と規
定しているように読めてしまい不適切です。ここは、「株主資本等変動額に対
価自己株式の帳簿価額を加えて得た額(つまり、グロスの受入額)が零未満の
場合には」と規定すべきでした。

 平成21年の計算規則大改正以後10年以上経て気づいたのは、株式交付の
39条の2第3項のおかげでした。何かの改正のついでに、改められることで
しょうが、法務省もまだ気づいていないでしょうから、いつの日になるかは分
かりません。会社法学者はいままで何をしていたのでしょうか。


2021.05.28(金)【物書きのこだわり】(金子登志雄)

 本日は皆様にはどうでもよい話ではありますが、私には重要な問題です。

 さて、会社法205条に「募集株式を引き受けようとする者がその総数の引
受けを行う契約を締結する場合には」とあり、この契約のことを一般に「総数
引受契約」といいます。

 株式交付については、774条の6に「株式交付子会社の株式を譲り渡そう
とする者が、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の
株式の総数の譲渡しを行う契約を締結する場合には」とあります。

 譲り受ける株式の譲渡しの契約をするとは、実にひどい日本語ですね。買う
ために売る契約をするのかと異議を出したいくらいです。

 ここで悪文だなで止めては進歩がありません。悪文の理由を探り、書き改め
てこそ次の飛躍になります。

 悪文の理由は「Aが、Bが」と主語2つが並んでいることと、主語Aと述語
の「契約を締結する」が離れすぎているためですから、「株式交付親会社が株
式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式を譲り渡そうとする者が総数
の譲渡しを行う契約を締結する場合には」としたら、ぐっと分かりやすくなる
はずです。主語を動かさないのであれば、「株式交付子会社の株式を譲り渡そ
うとする者が、株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社
の株式につき、総数の譲渡しを行う契約を締結する場合には」でしょうか。

 それはさて置き、この契約は何と表記したらよいでしょうか。私は、株式交
付親会社を主語にしたほうがよいと考え、今度の著書の原稿では「総数譲受け
契約」と表記しました。ところが、弁護士本2冊は「総数譲渡契約」で、法務
省の『一問一答』は「総数譲渡し契約」でした。登記通達(民商第14号)も
法務省用語に準じています。

 株式交付というのは子会社となる側の議決権の過半数を握り子会社化するこ
とですから、株式交付親会社を主語にした私の「総数譲受け契約」が最も適し
ていると思うのですが、世の中の慣例に合わせなければならないので、最終的
には「総数譲渡し契約」で書くことにしました。弁護士本は「じょうと契約」
ですが、お上は「ゆずりわたし契約」と表現するわけです(注:会社法法令集
では文字数を少なくするため総数譲渡契約にしてあります)。

 株式も新株予約権も事業も会社法では「譲渡」なのに、なぜ、株式交付だけ
「譲渡し」なんだと、ここでも文句をいいたいところですが、仔細に会社法条
文をチェックしますと、「株式の譲渡しの申込み」などともあり、「じょうと」
と「ゆずりわたし」が混在していました。会社法に登場する反対語は、「譲受
会社」を別にすると「譲受け」ですから、「譲渡」よりも「譲渡し」が本来の
使用法かもしれません。

 では、会社法の「事業を譲渡した」は「じょうとした」と読むのか、「ゆず
りわたした」と読むのか分かりますか。ここは動詞として使っていますから、
後者であれば「譲り渡した」と「り」が入りますので、前者が正しいことにな
ります。

 続いて、では、なぜ募集株式の場合は「総数引受け契約」ではないのかとい
う疑問が生じるでしょうが、上記205条をみてください、動詞の場合は「引
き受ける」、名詞の場合は「引受け」でも、漢字の熟語になると、引受人など
と「け」をつけないのが公用語のルールだからです。会社法の「譲受会社」は
「じょうじゅ会社」か「ゆずりうけ会社」かは分かりません。正解はなさそう
なので、考えるのはやめましょう。


2021.05.27(木)【食事するところがない】(金子登志雄)

 内閣参与の経済学者の方がまたもや「さざ波」「笑笑」「屁みたい」とツイ
ッターで失言してしまいました。安倍政権以来、知性や品性を欠く方が多数、
我が物顔で登場するようになってしまいましたので、またか程度にしか感じま
せんが、いつまでこの状況が続くのかとうんざりです。

 非常事態宣言ですが、コロナ以前に私がよく通っていた飲食店が3つも閉店
してしまい、コンビニ弁当三昧でしたが、その行き付けのコンビニも先日閉店
してしまいました。平日は都内で一人暮らしの生活を中心にしていますが、食
事を作るようなことをしませんので、栄養失調も同然ですが、幸い、当事務所
は閉店せずに済んでいます。

 ところが、食生活急変のせいか、この3月下旬には、急に下腹部が激痛に襲
われ眠りから覚めました。病院で検査したところ、腎臓内に石がみつかったせ
いでした。初体験でしたが、医師や周囲に聞くと生活習慣病のようで「おれも
経験者」という男性ばかりで、救急車で運ばれたという人が3人もいました。

 医師からは、1か月以内に確率7割で石が排泄される際に激痛が来るから覚
悟せよといわれていましたが、幸いにも10日程度で、私が気づかないうちに
排泄されていました。運動嫌いですが、根は丈夫なようで親に感謝です。

 健康とは健康のことを考えない状態というのが怠惰な私の定義であり、いま
だにヘビースモーカーであり、健康診断や人間ドックなどというのも行きませ
んし、インフルエンザの予防接種も受けたことがありません。自分の血圧も知
りません。

 今度のワクチン接種だけは受けるつもりですが(高齢者のため接種券が来て
います)、ネット予約も全くつながりません。6月になると大量の入荷がなさ
れ、菅政権としては7月中には高齢者全員に摂取させ、オリンピックに間に合
わせたいようですが、オリンピックが理由でワクチン接種が急がれるとは、お
かしな理由です。うまく行けば、これで菅政権の支持率も上がるかもしれませ
んが、品性を欠く方々の再復活だけはご免こうむりたいものです。


2021.05.26(水)【業務執行権と定款の定め】(金子登志雄)

 相変わらず立花さんは問題点の指摘が鋭く、鈴木さんはまとめ能力が秀でて
いますね。古山さんは私と同じタイプで、課題対処能力でしょうか。それぞれ
特徴があって面白いです。

 24日の立花投稿は、持分会社では定款自治が強調されすぎて、法律の定め
る「権限の分配」がおざなりに解釈されているという指摘だったのですが、そ
の真意は通じましたでしょうか。

 さて、混乱しやすい次の①②③の3つを整理しておきましょう。

 第590条 社員は、【①定款に別段の定めがある場合】を除き、持分会社
の業務を執行する。
 第591条 業務を執行する社員を【②定款で定めた場合】において、業務
を執行する社員が二人以上あるときは、持分会社の業務は、【③定款に別段の
定めがある場合】を除き、業務を執行する社員の過半数をもって決定する。

 ①は社員に当然に帰属する業務執行権限を定款で制限することができるとい
う意味です。株式会社でいえば、完全無議決権から部分的議決権制限などのこ
とです。

 ③は「社員の過半数をもって決定する。ただし、定款に別段の定めがある場
合を除く」と書き換えればお分かりのとおり、決定方法や決定要件についての
定款の定めのことです。

 問題は②です。固有名詞の記載や創業社員などといった特定人が分かるよう
に定款に定めず、登記実務のように「社員全員の同意(又は過半数の一致)で
定める(=定めた者)」という場合をも含めると、定款で業務執行社員を定め
たのではなく、定款を根拠に社員の同意で定めたのと同じじゃないか、これで
は、定款で代表社員を定めた場合と定款の定めに基づく社員の互選で代表社員
を定めた場合の区別も曖昧になってしまうとの鋭い指摘が月曜の立花投稿だっ
たわけです。

 株式会社でも株主総会の決議で株主権に係る種類株式を定めますが、定款に
定めないと株式の内容にはなりません。このように定款専属事項と定款を通じ
ての社員の決定事項とは明確に区別すべきです。

 しかし、いまさら実務の運用を狭める解釈をするのもどうかと思い、月曜の
立花投稿の最後の結論に至るわけです。

 いかがですか。株式会社と相違し、持分会社については、まだまだ議論が不
十分でこなれていないため、未購入の方は、ぜひ、問題点指摘満載の立花合同
会社本をお手に取り、一緒に考えてみませんか。少なくとも、合同会社につき
実に詳しい人と周囲から評価されるようになるでしょう。


2021.05.25(火)【再確認「有限会社」】(東京・鈴木龍介)

 有限会社が廃止されてから15年が経ちます(会社法施行され早15年というこ
とになります。)。私の世代ですと、有限会社が中小企業の実務の中心でした
が、近頃は有限会社について、あまり知らない司法書士の方々も増えてきたよ
うな気がします。他方、会社法施行時には株式会社より有限会社の方が多数で
あり、今現在も相当数の有限会社が存在します。

 そこで、今回は、現場実務の視点から有限会社について再確認してみたいと
思います。

 まず、有限会社とは、昭和13年に制定された「有限会社法」の規定に基づく
会社類型の1つです。有限会社は、小規模でありながら、所有と経営の分離が
可能な有限責任という特徴があります。また、株式会社と比較して各種の規制
が緩やかで、低コストでの設立や運営が実現できます。

 そのような中、平成17年に制定された会社法により有限会社法が廃止されま
したが、既存の有限会社は、会社法上の株式会社(通常の株式会社)に各種の
特則を設けられた「特例有限会社」と位置付けられました。ちなみに、特例有
限会社というのは法律上の呼び方であり、“特例”の文字については、名刺や
看板などに付記する必要はなく、登記簿にも記載されることはありません。な
お、それらの特則については、いわゆる整備法に規定されています。

 では、どのような特則が設けられているかということですが、非公開会社で
あるとともに、資本金や負債の多寡にかかわらず「大会社」でない会社に分類
されます。

 実務的に重要であると思われる特則について列挙してみますと、1つめは株
主総会(旧社員総会)の特別決議要件です。具体的には、総株主(旧社員)の
半数以上で、かつ議決権数4分の3以上の多数によることになります。いわゆ
る頭数要件については、従来の規定では議決権を行使できない社員は除外され
ていましたが、この特則では議決権のない株主についても含んでカウントする
必要があります。

 2つめは、特例有限会社の機関設置です。具体的には、設置が必須なのは株
主総会(旧社員総会)と取締役で、監査役は定款の定めに基づき設置すること
ができます。それ以外の取締役会等については定款に定めたとしても設置する
ことはできません。

 3つめは役員の任期です。取締役・監査役ともに任期の定めはなく、無期限
ということになります。したがって、通常の株式会社のように定期的な役員改
選と役員変更登記は不要ということになりますし、いわゆる、みなし解散に関
する規定の適用もありません。

 4つめは、いわゆる決算公告を要しません。したがって、特例有限会社が減
資や組織再編に際して債権者異議申述公告を行う場合に、決算公告事項を掲載
する必要はありません。

 5つめは、いわゆる株式譲渡制限規定の固定化です。特例有限会社の場合、
“当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社の承認を要する。
当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社が承
認したものとみなす。”という文言は定型であって変更することはできません。

 さいごに登記上の違いです。まず、いわゆるヒラの取締役(監査役)につい
ては氏名と住所が登記されますが、代表取締役については氏名のみが登記され
ることになります。そして取締役が1人の場合、その人が当然に代表取締役に
なるわけですが、格別に“代表取締役”の登記はされません。

 さて、この先、特例有限会社はどういう道をとることができるでしょうか。
まず、通常の株式会社への移行があげられ。おそらく法律上の着地として予定
されているものと思われます。次に持分会社に組織変更するということ可能で
す。そして、特例有限会社は経過措置的な存在ではあるものの時限の定めがあ
りませんので、このままずっと有限会社でいるという選択もあります。ある種
の見方をしますと有限会社は少なくとも15年超の社歴のある会社ということを
意味します。なお、有限会社のままでいる場合、それまでの規定や文言は通常
の株式会社のものに読み替えられ(たとえば「社員名簿」は「株主名簿」)、
定款も従来のままでも法律的には問題はありませんが、定款の本来の目的やわ
かりやすさという点を踏まえますと、仮に何らの変更がなくてもリニューアル
しておいた方がスマートでしょう。

 ちなみに、ひとたび有限会社から通常の株式会社や持分会社となった場合に
は、後戻りは許されず、ふたたび有限会社となることできません。また、吸収
合併等の組織再編については、有限会社を存続会社とすることはできません。
したがって、有限会社と有限会社同士の吸収合併は認められないということに
なります。


2021.05.24(月)【定款で定めた場合と定款の定めに基づく互選】
                           (仙台・立花宏)

 拙著『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』も、この5月20日に
第2版が発売となりました。これも、拙著を好意的に評価してくださった皆様、
そして、金子先生をはじめ、たくさんの方々のご指導のおかげです。この場を
お借りして、心より御礼申し上げます。

 さて、先日、金子先生が本欄で「定款の定めに基づく互選」について取り上
げていらっしゃいました。「互選」がどういうものかについては、金子先生の
おっしゃるとおりだと思います。ただ、個人的には別の意味で、「定款の定め
に基づく互選」とは何だろうと思っております。

 持分会社は、「定款」又は「定款の定めに基づく社員の互選」によって代表
社員を定めることができます。では、「定款」で代表社員を定めた場合とは何
でしょうか。通常は定款に直接、社員のうちの誰を代表社員とするかを規定す
ることだと思います。そして、定款に直接定めることのほか、定款を通して
(定めることにより)、社員の過半数で定めることができるようにしたのが、
「定款の定めに基づく社員の互選」ではないかと思います。

 ところで、持分会社は各自業務執行が原則ですが、こちらも定款で業務執行
社員を定めることができます。これは、「定款の定めをもって、業務執行権を
有する社員と有しない社員を分けること」(注1)であるとされています(注
:業務執行社員かどうかは、株式内容と同様の社員権限の問題ですから定款の
定めが必要になります)。

 この定め方も、定款に直接、業務執行社員を定めるのが標準的だと思います
が、登記実務上、定款に総社員の同意により定める方法等があるとされていま
す(注2)。そして、この定める方法には、総社員の同意のほか、ある社員の
一致により行うことが可能と記載しているものもあり(注3)、定款の定めに
基づく過半数の一致により定めることも許容されていると思います。

 つまり、この定めを「業務執行社員は、社員の過半数の一致で定めた者とす
る」と読み替えて、特定の社員を「定款で定めた場合」として扱うわけですが、
そうすると、「定款の定めに基づく社員の互選」により業務執行社員を定める
こともできるということになります。

 はたしてそのように考えてよいでしょうか。というのは、代表社員の場合は
「定款」又は「定款の定めに基づく社員の互選」により定めることが可能です
が、同じように考えると、後者の互選は「定款」で定めることに含まれること
になり、後者の互選をあえて規定する意味がなくなってしまうからです。

 そうしたこともあり、前記拙著では、業務執行社員を定款で定めた場合とは、
固有名詞を記載するだけでなく、定款の定めに基づき、ある社員の一致で定め
た場合であっても、業務執行社員を特定した定款の定めとして肯定しつつ、そ
の定めの有効性の議論を避けるために、直接、固有名詞で定める方法を推奨さ
せていただいております。

 注1)神田秀樹編『会社法コンメンタール14持分会社〔1〕』
   (商事法務)133頁
 注2)松井信憲『商業登記ハンドブック第3版』(商事法務)611頁、
   登記研究編集室編『商業登 記書式精義全訂第6版』(テイハン)
   1213頁の定款記載例
 注3)立花宜男『持分会社の手続』(日本法令)568頁


2021.05.21(金)【剣ヶ峰の特例有限その2】(金子登志雄)

 12日の本欄に取り上げた会社法施行規則213条の8とは、株式交付で株
式以外に金銭等を交付し債権者保護手続をする場合には、株式交付で親会社に
なる会社と子会社になる側の貸借対照表についても債権者に対する公告や催告
に開示せよという規定です。

 そこに清算株式会社が規定されていないため、清算株式会社は株式交付の親
会社にも子会社にもなれないのだなと推測することができるのに対し、特例有
限会社は規定されているため、整備法38条で親会社になれないことは明白だ
が、子会社にはなれるのだなと読み取れます。

 にもかかわらず、問い合わせに対して法務省が子会社にもなれないと回答し
ているのであれば、立法ミスということかと問題になるわけです。

 この点につき、某所に意見を求めてみましたら、立法ミスではなく、特例有
限会社も効力発生日までに通常の株式会社になれば問題ないのだから、その場
合は貸借対照表につき「公告義務がありません」とすればよいという意味だと
説明されました。

 司法書士の皆さんであれば、この回答が話にならないことが分かるでしょう。
第1に、それでよいのであれば、清算株式会社であっても、効力発生日までに
会社継続すればよいので、規定が設けられているはずです。第2に、特例有限
会社も株式会社への移行を条件とすれば合併存続会社になれますが、株式会社
として合併するのだから貸借対照表の開示が必要だというのが登記実務です。

 この混乱はまだまだ続きそうです。

(追記)
 ネット検査したところ、株式交付1号がでました。
  
http://urx.red/bivH

 入稿済みの拙著のはしがきに「まだ実例はない」と書いたのに・・・。


2021.05.20(木)【決議機関等の規定がない】(金子登志雄)

 愛知県知事リコール署名事件の捜査結果がなかなか出ないので気になってい
ましたが、やっと予想どおりの方が逮捕されました。会社でいえば専務か常務
が逮捕されたわけですから、高津社長も河村会長も「知らんがな」では済まな
いでしょう。逃げ足の速い保守言論人の中で気骨を示してほしいものです。
 
 さて、取締役の互選に関する議決要件の明文規定がないことを取り上げまし
たが、決議機関まで含めれば、こういう例は会社法の中に多数存在します。

 例1:非取締役会設置会社の株式の消却は、取締役の決定か、株主総会か
 例2:吸収合併等の効力発生日の変更につき、決定機関が規定されていない
 例3:極小の簡易再編でも代表取締役が決定してはならない理由があるか
 例4:職務執行者の選任に取締役会決議が必須か

 半月前に株式交付につき執筆している際に、会社法774条の5の株式割当
機関につき何も規定されておらず、「株式交付親会社は、・・・定めなければ
ならない」としかないので、困ってしまいました。募集株式発行の割当てにつ
いては204条に詳細に規定されているのに、株式交付親会社が決めるとしか
ないのです。私なりに思うところがあっても、うっかりしたことを出版物には
書けません。

 法務省に問い合わせてみましたら、重要な業務執行であれば取締役会で、そ
うでない場合は代表取締役という一般論の回答をされました。実に正しい回答
ですが、登記の添付書面としては前者だけとされる可能性が大きそうです。

 代表取締役の互選は業務執行の決定とは思いませんが、会社の代表者を決定
する重要な意思決定だから、定款で業務執行機関である取締役の権限と定めた
のであれば、会社法348条2項と同様に過半数の同意とするのが定説であり
実務です。取締役会設置会社でも業務執行の決定も代表取締役の選定も同じ条
項内に規定されており、過半数の決議とされているため、非取締役会設置会社
も同様に考えられます。

 これにつき、会社法348条2項は定款の別段の定めを許容しているので、
互選についても、選挙と同様に最多得票者を代表取締役とすると定められるか
という質問を受けました。

 私の回答は、定款自治が幅広く認められる持分会社と相違し、利害関係者の
多い株式会社については強行規定が原則だし、会社法348条3項で支配人の
選任については代表取締役等に委ねてはならないとありますから、代表取締役
の互選につき過半数を緩和するような別段の定めは無理だと思うというもので
した。その別段の定めは、定款に任意取締役会を設置し、議論で決めよなどと
いう場合だと思います。取締役会決議でも議決要件の緩和は定款をもってして
も不可能だとされています(369条1項)。


2021.05.19(水)【鈴木さん、期待しています】(金子登志雄)

 鈴木さん、司法書士法人の経営者、法人協の理事長、上場会社の役員、大学
講師と幅広いご活躍のうえに、さらに日司連までとは、周囲から勧められて、
その期待に応えようとするエネルギーには、ほとほと感心してしまいます。体
力は大丈夫そうにみえますが、お気をつけください。

 私も、鈴木さんの年代の頃は、会社の管理部長など雑用の多い何でも屋の総
合職をしていましたが、いまはオタク族にも等しい会社法専門バカの生活で、
あの頃の気力もありません。サラリーマンなら、とっくに定年退職した年齢で
すから、許されると信じて面倒な地位には近寄らないようにしています。

 投稿にもありましたが、受験生の減少は著しいようですね。理由はよく分か
りませんが、デジタル化社会の進展で、すぐに答え(成果)のでない法律学の
魅力が減ってきたこともあるのかもしれません。こんなに面白い学問はないと
私は思っていますが、人それぞれです。

 ただ、いまの合格者は40代が中心です。働きながら勉強した転職組が多い
のでしょう。いったんは別の職業についても、何らかの事情で、資格取得や自
由業を目指す方はいつの時代にも一定数が存在しますので、こういう方々の受
け入れ先としては魅力のある職業の1つといえるのでないでしょうか。60代
でも第一線で活躍することのできる職業はそうはありません。

 ところが、残念ながら、こういう転職組は、家業を引き継いだ2世や3世の
司法書士と相違し、司法書士を単に魅力のある多数の職業のうちの1つとして
しか捉えない傾向が強く、最初から1代限りのつもりですから、危機意識はや
や鈍いといえます。私も司法書士というよりは、会社法務の手続のプロという
意識のほうが強いといえます。

 その代わり、こういう転職組は転職しなかった昔の同僚達に司法書士の魅力
を無言で示しています。苦労の経験があっただけ魅力的人物が多いですし、そ
の存在や活動自体が広報活動になっています。

 兼業司法書士とはいえ転職組に近い私も、会務はせずとも、会社法という実
体法の著作等で、学者本や弁護士本に対抗し(私の登場以前は司法書士の本=
登記の本でした)、「実務家(司法書士)ここにあり!」と世間にアピールし
ており、司法書士の地位向上には、結構、役立っているつもりです。

 交際範囲が広く、著作も多い鈴木さんが業界の幹部になると、こういう私や
転職組司法書士の目にみえない貢献度を評価してもらえるようになるかもと、
ちょっと期待してしまいます。


2021.05.18(火)【日司連 副会長 立候補】(東京・鈴木龍介)

 司法書士以外の方にはあまり関係ない話題になりますが、このたび日本司法
書士会連合会(日司連)の副会長に立候補いたしました。

 これまで日司連では企業法務や法改正などの委員等を10数年もやってきまし
たが、ずっと役員への就任は固辞してきました。そのような中、なぜ今回、役
員(副会長)に立候補したかといいますと、一番は「司法書士」業界への危機
感です。受験生もどんどん減ってきていますし、あまり明るい未来像が描けな
い感じがしています(私が資格を取ったころは結構、希望にあふれていたよう
な気がします)。司法書士という同じ船に乗っている以上、船が沈むのを黙っ
て見過ごすわけにもいきません。私自身30年弱ほど司法書士をやってきて、大
袈裟にいいますと今、生きていられるのも司法書士という仕事(資格)のおか
げだと思っています(向いているかどうかは?ですが)。そして微力ながら何
とか、自分を育ててくれた恩返しをしたい(しなければ)という気持ちもあり
ます。

 日司連の役員選挙は何分、はじめてでして戸惑うことも少なくありませんが、
いろいろとよい経験をさせていただけていると思っています。ちなみに副会長
の立候補枠の定員は3人でして、投票日は6月17日です。今回は、コロナ禍
ということで初の電子投票です(翌日には結果が判明するようです)。

 以下は私の所信、経歴になりますので、ご高覧いただけますと幸いです。

     http://www.suzukijimusho.com/senkyo

 関係者の皆様、ご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。


2021.05.17(月)【改めて「会社法の互選」とは】(金子登志雄)

 表題につき、Q&A式で整理してみました。Q10とQ11が本稿のメインです。

 Q1:概念が曖昧だといわれる「互選」につき、会社法に定義が置かれてい
ないのは、なぜですか。
 A1:少なくとも会社法上の「互選」は、学説上も実務上も曖昧だとも思わ
れておらず、定義せずとも十分に通じると思われているからです。私の手持ち
の基本書(江頭、前田、神田、弥永)にも定義や説明がありませんでした。

 Q2:では、互選につき、どういう意味か説明していただけますか。
 A2:互選とは「同じ地位にある者がその中の者を法定の会議によらずに特
定の地位又は役職担当者として定めること」です。

 Q3:特定の地位又は役職担当者とは、例えば何ですか。
 A3:同意方式により選任された役職のことです。代表取締役や株主総会へ
の報告担当監査役などが会社法で明記されていますが、発起人の決定、監査役
会のない複数の監査役の決定や清算人会のない複数の清算人の決定で選ばれる
役職などです。

 Q4:Q2の同じ地位とは、どういう意味ですか。
 A4:松井ハンドブックの「選任母体と被選任資格とが一致する状況」のこ
とです。法文の「取締役の互選で取締役の中から定める」も、代表取締役は取
締役でなければならないという意味であり、一部を選ぶという意味ではありま
せん。全員を代表者にすることも可能です。

 Q5:同じ地位かどうかの判断で争いはないのですか。
 A5:会社法599条3項の「社員の互選によって、業務を執行する社員の
中から」につき、同じ地位とはいえず、互選する者も業務執行社員に限るとい
う松井見解があります。おそらく、社員は株主、業務執行社員は取締役に近い
地位とお考えになったのでしょうが、業務執行社員も社員そのものですから、
「株主の互選によって普通株主の中から」というのと同様に、同じ地位だとい
うのが私及び立花宏著『合同会社の運営と理論』(今週に第2版が発売!)の
見解です。
 会社法47条1項の「設立時取締役は設立時監査等委員でない設立時取締役
の中から」も互選とみてよいでしょう。なお、この互選については、同3項で
過半数と明記されています。

 Q6:Q2の定義における「法定の会議によらず」につき説明してください。
 A6:法定の会議は「招集→会場に集合→議論(議事)→多数決で決議」と
いう順序を経ますが、取締役会によって代表取締役を選定するのがこの会議方
式であり、いわば「決議」による代表取締役になります。互選は、方式自由の
同意方式ですから、集まって会議形式を採用するか、選挙方式の投票によるか
なども自由であり、多数の同意を得た者が選ばれます。

 Q7:ある判例の判旨に「互選は選挙であり、会議の議事ではないから、多
数決による互選というものはありえない」とあるそうですが。
 A7:その判旨は、互選は会議による議論を経た上での多数決決議でないと
いっているに過ぎず、同意方式による多数決を否定したものではありません。

 Q8:互選は選挙なんですか。
 A8:会議方式でない点と人を選ぶという点で選挙も互選も同様ですが、選
挙は選任母体の員数が大勢で被選任者は少数、かつ定員ありという場合を前提
としているため定員が埋まるまで多数の順番に当選しますが、会社法の互選は、
選任母体が少人数で、通常は1名を選ぶことで、若干、想定場面が相違します。
少人数で1名を選ぶことも選挙というなら、この部分は同じです。

 Q9:互選の選定は選挙と同様に最多数によるのですか。
 A9:互選という用語が初めて商法に導入された昭和13年改正時の立法担
当者は、互選は方式自由で定款に定めがなければ、例えば選挙と同様に最多得
票者とするなどを想定していたようです(前記の立花さんから提供された江頭
編著『合同会社のモデル定款』50頁にありました)。全員一致はこの時から
想定もされていません。

 Q10:では、過半数説は定説ではないわけですか。
 A10:いいえ、少なくとも会社法における互選については、この最多得票者
説の見解は過去の遺物であり現在では廃れています(昭和13年当時も定説だ
ったかどうかはかなり疑問です)。時代背景を考えてください。
 取締役会の強制設置は昭和25年大改正以後、譲渡制限の設定の許容は昭和
41年改正以後のため、戦前の株式会社は全て非取締役会設置会社で、かつ大
規模公開会社が前提とされていました。
 そこでは取締役が多数でしたから、取締役数十名中、代表者を同時に3名を
選ぶにあたり得票の多い順に、あるいは1名を選ぶにあたり最多得票者という
こともあったのかもしれませんが、昭和25年改正以後の互選は旧有限会社の
ことでしたし、非取締役会設置会社は平成18年会社法施行以降しか存在せず、
これらの会社では小規模会社が想定されていたため、取締役の員数は多くとも
5名でしょう。複数人を同時に選定する場面を想定することができません。
 こうして、戦後の解釈は、取締役の意思決定は定款の定めなき限り過半数の
同意だとされているため(旧有26条も)、互選も当然にその規定が適用され
るのだと私は思っています。会社法47条3項も過半数説を前提にしています。

 Q11:なるほど。「互選以外の意思決定」と「互選」とを分けるから、互選
は方式自由だ、可決要件が規定されていない、実に曖昧だという意見になりま
すが、互選も意思決定の1つで会社法348条2項に過半数の同意という明文
規定があるとみれば、曖昧さはなくなりますね。例えば、これと相違する定款
の定めもないのに、7名の中からA3票、B2票、C2票でAを選定したら、
BC連合が反旗を翻し大もめしそうですから、その見解に納得です。こういう
理解でよろしいでしょうか。
 A11:なぜ、互選に可決要件が定められていないのだと考えれば、必然的に
そういう結論が導かれるはずだと思っています。取締役会設置会社は過半数で、
互選は最多数というのでは、同じ会社法内で矛盾してしまい、支持されないで
しょう。実質的にみても、私の顧客の非取締役設置会社では、ほぼ全部が取締
役3名以下です。他の司法書士さんの顧客も同じようなものでしょう。わざわ
ざ定款で可決要件を定めるニーズもないと私は思っています。

 Q12:最後に、追加で何かコメントすることはありますか。
 A12:現状の非取締役会設置会社の多くが株主が1名や同族の数名です。こ
ういう会社では簡単に株主総会を開催し代表者を選定することができますし、
所有と経営が一体化しているため、それを分離した互選規定の存在意義があり
ません。廃止をお勧めします。登記申請にあたり、互選書と定款の2つも準備
するのも、面倒です。もし、互選規定を残してほしいといわれたら、「ただし、
株主総会で選定することを妨げない」と定款に追加しておくことです。


2021.05.14(金)【取締役の互選の意味】(金子登志雄)

 本欄閲覧者(司法書士)から、下記につきどう思うかと情報の提供がありま
した。有名な内藤先生のブログで紹介されていた見解のことです。

 https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/fddc9625488b2fa0beb18cecc43ff335

 さっそく「選任・選定・互選の意味~互選は過半数ではない by あなたのま
ちの司法書士事務所グループ」を閲覧してみました。

 「よく調べたなぁ」「表現ぶりからして書き手は司法書士とは思えない」と
いうのが当初の感想でしたが、HPによると、兵庫県内の8司法書士事務所グ
ループさんのようですね。投稿は代表の司法書士S先生でしょうか。もし、本
欄をみていらっしゃいましたら、はじめまして。論争相手の登場は歓迎です。

 以下、当ESGグループを代表して反論します。情報提供者や名指しされた
司法書士もそれを期待しているでしょうから・・・。もし、以下に失礼な内容
がございましても、20歳以上の年長及び業界の先輩に免じてお許しください。

 その前に、「松井先生を除き『互選』を過半数の賛成を指すと解している登
記実務家が多いように思われます」とありましたが、松井さんは、全員一致と
も過半数とも一言も著書で触れていません。最近はお会いすることもなくなり
ましたが、たぶん過半数説だと思いますよ。

 さて、取締役会のある会社では代表者は出席取締役の過半数で選定します。
取締役会のない会社でも、同じことをできるようにするため、旧有限会社法の
規定を受けて会社法349条3項に「定款の定めに基づく取締役の互選」を設
けたとみるのが自然な解釈だと思いませんか。

 そもそも全員一致というのは各々が拒否権を持つのと同様であり、代表取締
役を選定することができなくなります。資本多数決の株式会社では派閥も生じ
やすく、全員一致を定めるとは思えません。よって非営利の農業委員会等の判
例を根拠に、営利法人の取締役の互選を論じるのはいかがなものでしょうか。

 また、選任・選定の「選」は、一般に多数決を前提にしていると思いません
か。ちなみに、取締役会、監査役会・・・と「会」がつくと、3人以上が必要
です。偶数だと2派に分かれて決着がつかないためです。

 株主総会で議長がいないときは、出席株主の「互選」で議長を選任しますが、
全員一致では、総会が始まらないと思いますが、いかがですか。

 互選が曖昧だから定款で定めよと主張なさっていますが、互選は会社法用語
です。その意味を探るのが先行するはずです。会社法340条には「監査役の
全員の同意」と「監査役の互選」とあるが、なぜ、後者には「全員」とないの
かなどと検討するのが先行するはずです。

 商登法47条には「発起人全員の同意又は【ある発起人の一致】」とありま
すが、この後者については過半数の同意と解されています。頭数か議決権基準
の多数かの争いはあっても、過半数の意味であることは古くからの定説であり、
貴グループさんもよくご存じのはずです。

 であれば、同46条1項の「株主全員の同意又は【ある取締役の一致】」も
取締役全員のうちの一部の賛成者を「ある取締役」と表現しているのであり、
その一部とは過半数のことだと思いませんか。取締役の互選もこの1つなのに、
「ある取締役」は取締役全員といえますか。なお、同法には略式合併の承認な
どでは「取締役の過半数の一致」という表現を使っています。これは46条よ
りあとに規定されたためでしょう。意味は同じだと思います。

 ちなみに、『商業登記法逐条解説』(平成17年加除出版)に有限会社につい
てですが、「取締役の互選をもって会社を代表すべき取締役を定めた場合には、
取締役の過半数の一致があったことを証する書面の添付が必要となるわけであ
る」とありました。

 なお、情報提供者の司法書士から、平成27年の登記研究810号33頁以
下の法務省の方2名の共同論考に、医療法人の理事長選任の理事の互選は理事
総数の過半数の同意だと明記されているとの情報をもらいました(同39頁)。
また、全員一致で選定した後の解任も全員一致かという疑問が寄せられました
ので、併せて、情報提供します。


2021.05.13(木)【3月31日「をもって」その2】(金子登志雄)

 4月30日本欄の続きです。同日の本欄に、募集株式の払込期日の場合は、
払込期日に登記申請することが可能ですと書きましたが、平成16年10月施
行の商法改正からであり、それ以前は翌日の効力発生でした。

 その改正では、株主を確定するための株主名簿閉鎖制度が廃止され、基準日
制度に一本化されたり、株券不発行も認められました。

 何となく時代の流れを感じませんか。すなわち、手作業の昔は、漏れを回避
するため、作業終了日の翌日に一斉に効力を発生させていたが、コンピュータ
作業の時代になり、動いている特定日に効力を発生させても支障がないように
なったわけです。

 吸収合併についても、旧商法時代は合併期日と合併の日を分けており、合併
の日は登記申請日とされていましたが、会社法で登記は効力要件ではなくなり
ました。

 ただ、吸収合併承認の株主総会が効力発生日の前日までとされているのは、
債権者保護など手続が多いので、手続終了日の翌日に一斉に効力を発生させる
ため効力発生日が設けられているのであって、資本金の額の減少などとは相違
します。

 払込期日が終わらないのに募集株式の発行の登記申請が払込期日に可能であ
るのと同様に、株式分割の基準日が終わらないのに基準日を株式分割の効力発
生日にすることができます(相澤哲ほか他編著『論点解説 新・会社法』のQ
258参照)。

 これらからしても、「日」とは0時から24時の間のどこかであり、0時だ
と決めつけることも24時と決めつけることもできません。3月31日をもっ
て辞任は、3月31日に辞任の登記が可能であるといえます。

 3月31日終了をもって辞任の場合は、3月31日には登記が無理ですが、
翌日以降に登記しても効力発生日の「3月31日辞任」として登記されます。
後任は4月1日就任になります。


2021.05.12(水)【剣ヶ峰の特例有限】(金子登志雄)

 連休中は、改正会社法の「株式交付」につき、物書き三昧でした。中央経済
社から株式交付の小冊子を依頼されたためです。当初は、70頁程度しか書け
ないだろうと思っていましたが、何とか90頁以上を書けました。

 株式交付というのは、相手会社の株式を譲り受けて議決権の過半数を確保し
子会社にする組織再編であり、カネでなく株式で支払うものです。部分的株式
交換といわれていますが、株主の意思に基づき譲渡してもらうわけですから、
会社間の契約ではありません。株式交付「計画」という単独行為です。

 さて、会社法509条に清算株式会社については、「会社法第5編第5章中
株式交換、株式移転及び株式交付の手続に係る部分は、適用しない」と規定さ
れました。同一内容が、特例有限会社につき、整備法38条にあります。

 問題は、清算株式会社と特例有限会社は、株式交付の相手方(株式交付子会
社)になるのは差し支えないのかです。

 法務省の『一問一答』と登記の通達は、清算株式会社は不可、特例有限は記
載なし、日弁連の解説本は清算株式会社可、特例有限は記載なし、江頭本は、
清算株式会社も特例有限も不可です。

 ところが、面白いことに会社法施行規則213条の8は、清算株式会社は不
可、特例有限は可です。しかし、京都の内藤先生の有名なブログその他からの
情報によると、どうも法務省は特例有限も不可と口頭で回答しているらしいの
です。施行規則は立法ミスなのでしょうか。

 私は基本的には日弁連説です。株式交付子会社は株式交付の当事者ではあり
ませんし、上記条文でも「清算株式会社の株主については適用しない」とはな
っていないのです。株式譲渡の自由を制約する解釈は疑問です。ただし、施行
規則では不可説を前提に清算株式会社を除外していますので、こと清算株式会
社については、否定説が確定したも同様な状況にあります。

 いまのところ、清算目的に反するから除外されたのであり、上記条文から導
かれるものとは思えないこと、また、施行規則が立法ミスとは信じられないの
で、特例有限は可と暫定的に思っていますが、今後の展開に要注目です。


2021.05.11(火)【「一般社団法人」選択の視点】(東京・鈴木龍介)

 今回は、「一般社団法人」について取り上げますが、法人登記に関する論点
ではなく、新規に事業等をする際の法人形態(ビークル)の選択肢としての指
針を整理してみました。なお、そのような趣旨ですので、公益社団法人への移
行を前提としたもののほか、法人税の特例を受けるために一定の要件を充たす
必要がある非営利性が徹底されたものや共益的活動を目的とするもの以外の一
般社団法人を対象に株式会社や合同会社と比較検討してみたいと思います。

 一般社団法人は、平成20(2008)年に公益法人改革の一環として施行された
「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に規定される非営利型の法人
です。比較的新しいビークルですが、緩やかながらその数は増えており、今で
はけっして珍しい存在ではなくなったように思います。

 一般社団法人が行う事業については何らの制約はなく、公益や共益のほか通
常の会社が行う収益事業もOKです。また、会社と同様に設立に関しての許認可
も不要ですし、監督官庁もありませんが、行う事業にはよるかと思いますが、
何となくパブリックなイメージを醸し出すにはよいかも知れません。このあた
りも一般社団法人を採用するメリットでしょうか。

 では、もう少し具体的に見ていきますと、一般社団法人の設立については、
いわゆる一人法人を認める株式会社や合同会社と異なり、2人以上の設立時社
員が必要です。また、原始定款には、株式会社と同様に、公証人の認証が必要
です。出資という概念はありませんので、設立登記申請の登録免許税は一律6
万円です。一般的な設立時のコストという観点では、株式会社よりは低く、合
同会社よりは高いということになりそうです。
 
 一般社団法人の機関についてですが、社員のほか、最低限必要なのは社員総
会と理事が必須であり、このあたりは株式会社の株主・株主総会・取締役に対
応するものといえます。

 一般社団法人の社員については、設立時には2人以上が必要ですが、その後
は1人で足ります。また、社員の地位は、株式会社の株主と異なり、相続の対
象にはなりません。

 一人社員である一般社団法人の場合で、その一人社員が死亡したときには法
定退社事由に該当することから退社となり、結果として社員不在により解散と
なってしまいます。なお、合同会社の場合と異なり、それを回避するための定
款の定め等の手当はないように思います。

 一般社団法人の基本的な資金調達についてですが、会社とは異なり、資本金
という概念がありませんから、いわゆる増資によることはできません。したが
って、法定されている基金(劣後債のようなものですが、引受手にあまりメリ
ットがないことから利用されていません。)によるか、借入によることになり
ます。ちなみに一般社団法人の場合、銀行等からの融資を受ける際の「信用保
証協会」の信用保証制度を受けることができません。

 一般社団法人の運営面に目を転じますと、理事の任期は2年であり、株式会
社の取締役のように定款の定めにより10年に伸ばすことはできません。です
から2年に1回の登記はマストということになります。

 いわゆる決算公告についても、株式会社と同様に義務付けられていますが、
株式会社とは異なり、事務所への掲示が認められています

 中小企業の恩典ともいえる「小規模企業共済」や「倒産防止共済」について
は、株式会社や合同会社と異なり、利用することはできません。

 非営利法人である一般社団法人は、制度的に社員に対して剰余金の配当はで
きません(そもそも中小企業では配当を行わないのが一般的ですが・・・)。

 一般社団法人は株式会社や合同会社に組織変更することはできませんし、合
併についても、その相手方は一般社団法人か一般財団法人に限られます。また、
会社分割のような制度も設けられていません。

 税務面については、ここで取り上げる一般社団法人の場合、基本的に株式会
社や合同会社と同様の取扱いです。1つ特殊なものとして、同族の理事が過半
数を占める場合で、その同族理事が死亡したときには一般社団法人に相続税が
課されます。

 非営利法人である一般社団法人か解散した場合の残余財産の帰属先を構成員
である社員と定款に定めることはできませんが、社員総会で帰属先を決定する
ことができ、結果として帰属先を社員とすることは可能です。


2021.05.10(月)【設立手続時の本店所在場所の決定】(仙台・立花宏)

 合同会社を設立する際に、定款には本店の所在地につき、最小行政区画まで
しか定めていない場合、具体的な本店の所在場所はどのように決定するのでし
ょうか。松井・ハンドブック第3版616頁には、業務執行社員の過半数の一
致による旨が記載されています。では、業務執行社員が法人である場合、この
意思表示は誰が行うことになるでしょう。同書617頁によれば、職務執行者
ではなく、当該法人社員の代表者が行うものとされています。「会社の成立前
は、登記申請行為に関するものを除き、業務執行社員となる法人につき選任さ
れる職務執行者には、何ら権限がない」ことを理由としています。

 参考までに、有限責任事業組合契約の登記の場合は、組合員たる法人の職務
執行者が行うものとされているようです(注)。同登記は組合契約の成立要件
ではなく、登記の前に組合契約は成立しているため、合同会社とは異なる扱い
になっているものと思われます。

 しかし、もし、そうだとすると、合同会社の場合は、業務執行社員の過半数
の一致ではなく、社員の過半数の一致で決定すべきだという見解もありえるか
もしれません。業務執行社員は合同会社の業務を執行しますが(会社法590
条1項)、合同会社成立前は、業務執行社員とそれ以外の社員という区別はな
く、業務執行社員には業務執行者としての地位・権限はないと考えることもで
きるからです。

 では、なぜ、具体的な本店の所在場所の決定を社員の過半数ではなく、業務
執行社員の過半数の一致によるという扱いになっているのでしょうか。

 この点について、設立段階の業務執行社員の過半数の一致は、業務執行者の
立場ではなく、業務を執行する(種類の)“社員”という立場で行うのではな
いかと考えました。そうすると、意思表示を代表者が行うことも自然なことだ
と感じます。

 ちなみに、株式会社を設立する場合、具体的な本店の所在場所は発起人の過
半数の一致で決定します。仮に、設立する株式会社が種類株式発行会社であり、
議決権のある種類の株式と議決権のない種類の株式がある場合、後者の株式の
みを引き受ける発起人は、本店の所在場所の決定に参加できるでしょうか。

 この点については、広島の幸先裕明先生が、月刊登記情報690号で論考を
発表されており、参加できるとする見解と参加できないとする見解があること
を説明の上、幸先先生ご自身は、後者の見解である旨を述べていらっしゃいま
す。私も幸先先生の見解に説得力があると感じました。

 そして、幸先先生のご見解を参考にして、合同会社設立時の具体的な本店の
所在場所の決定について、決定者である業務執行社員を前記議決権のある種類
の株式を引き受けた発起人に置き換えて考えると、この場合の業務執行社員は
業務を執行する(種類の)“社員”の立場で決定に参加し、意思表示をするの
は代表者ということになり、前記の登記実務の扱いがスムーズに理解できるの
ではないかと思いました。
 
 注)法人登記書式精義〔第3巻〕(テイハン)523頁

(金子注)
 立花さんの名著の改訂版が近々出るようです。私の名前のほうが目立って
しまい申し訳ないです。

  https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-38951-1



2021.05.07(金)【怒濤の2ヶ月間】(東京・古山陽介)

 前回の投稿からだいぶ月日が経ってしまいました。4月に2回も金子先生と
遭遇しまして、投稿をしなければと焦りながら、ゴールデンウィークにようや
く書いたという次第であります。

 その間に、私もようやく40歳となり不惑を迎えたのですが、そんな区切り
に浸る余韻などなく、業務がこれまでにない繁忙となり、怒涛の3月と4月を
過ごしていました。

 この2ヶ月間、2回目の緊急事態宣言が解除されたと思ったら、マンボーと
いう言葉が出現し、その矢先に、またまたお馴染みのイベント的な緊急事態宣
言(3回目)が発令され、遂には「令和の禁酒令」まで飛び出して、仕事の疲
れを癒してくれる晩酌する場所までなくなる始末です。

 格好つけた言い方にはなりますが、それぞれが置かれた状況下でどのように
考え行動すべきかが問われていて、正解は一つではなく、個々で導き出した考
えや言動に自信を持つことが必要な時だと感じています。

 それは、登記手続においても同じことが言えると思います。

 4月1日によくある案件として、吸収合併があります。合併のタイミングに
合わせて、存続会社が合併の効力発生日と同日に商号変更、目的変更、本店移
転(管轄外)、代表取締役の交代を含む役員変更を行うことがあります。

 この場合、登記申請の方法はいくつか考えられます。(方法については、割
愛します。)

 クライアントが何を最優先にしているのかをヒアリングしながら、いくつか
ある選択肢の中から、その案件の登記手法を導き出したりします。

 また、外国会社が絡んでくるような事例で、宣誓供述書の内容をはじめとし
て外国会社が用意した書類が不完全なものであることはよくありますが、3月
末に登記した案件は実務ではまだ曖昧な合同会社を舞台としたM&Aで、いか
にして与えられた材料で登記を無事に終わらせるかを考え、法務局から指摘や
質問が飛んできたときの対応策も練りながら手続きを行ったようなこともあり
ました。

 この案件は、法務局の担当者から鋭い質問を受けながらも、何とか無事に切
り抜けた印象に残るものとなりました。

 最終的には、クライアントが望む結果を出すことが使命でありますので、案
件一つ一つ知恵を絞って満足度を上げることで、商業登記専門の司法書士とし
て生き残らなければと改めて実感した令和3年の春でした。

 と半ば強引ではありますが、ありきたりな結論で今日の徒然を締めさせて頂
きたいと思います。


2021.05.06(木)【ネットバンキングの注意点】(島根・根来川弘充)

 先般、ネットバンク口座を持つ方の財産管理を行いました。通帳等があるわ
けではなく、関係者がもっていた資料は、カードのみでした。そして、カード
に記載があるのは電話番号のみでした。

 依頼者は、おそらくインターネット経由で申込みをされていると思いました
ので、金融機関のHPを調べたところ、最終的には「電話で問い合わせをして
ください」というページまででした。

 仕方なく、電話で問い合わせると、案の定、結局数カ所電話をかけることに
なりました。

 多くの方の場合、地元の金融機関で通帳もありますので、範囲がわかります
が、ネットバンクが主流になると、調査だけでも大変なことになると思います。

 休眠預金が現在でも多くあります。今後ますます増えるかもしれません。
ネットバンク口座を持っておられる方は、充分ご注意くださいませ。


2021.04.30(金)【3月31日「をもって」】(金子登志雄)

 この4月にもありましたが、「取締役甲は3月31日をもって辞任するため、
後任として乙を選任する。乙は直ちに就任を承諾した」と事前に決議した場合
に、乙の就任日はいつですか。3月31日ですか、4月1日ですか。

 3月31日「をもって」だから、3月31日24時辞任であり、後任は4月
1日午前0時就任だと決めつける見解も多いようですが、私は大反対です。

 賛成の方に伺いたい。「4月1日をもって辞任」も「4月1日24時辞任」
ですか。「4月1日をもって合併は4月1日午前0時」という見解が多いので
すが、これとの関係はどう考えるのですか。

 3月末決算の会社では、31日終了をもって辞任であり、4月1日午前0時
の合併効力発生が多いというだけで、全部がそうではなく、結論からいえば、
午前0時から24時までの間のどこかであり、これだけでは分からないという
べきです。したがって、後任の乙につき3月31日就任でも、4月1日就任で
も登記は受理されるはずです(司法書士としては、明確化すべきことはいうま
でもありません)。

 本欄で時々書いていますが、募集株式の払込期日の場合は、払込期日に登記
申請することが可能です。合併や資本金の額の減少の効力発生日もその日に登
記することができます。これと同様に、3月31日をもって辞任も3月31日
を効力発生日として辞任するという意味にすぎません。3月31日付けで辞任
も同じでしょう。

 登記は何時何分かを問わず「日」を単位に規定を置いており、定時株主総会
終結時の任期満了退任は例外として位置づけられます。


2021.04.28(水)【商業登記にみる地域格差】(金子登志雄)

 ここ数年の傾向として、監査役会設置会社の上場会社でも、取締役の任期を
1年にするところが多く、その関係で子会社の役員も任期1年とされ、上場会
社の多い都市部の司法書士にとっては、役員変更も貴重な収入源になりました。

 同時に、上場会社で新株予約権の発行があったり、各地にある子会社の吸収
合併や子会社間の組織再編もあり、都市部の商業登記専門事務所のレベルがか
なり上がっています。上場を目指すベンチャー企業も都市部に集中しています。

 これに対して、上場企業もベンチャー企業も少ない地方では、同族企業の役
員の任期が10年とされ、辞任や死亡でもない限り、あるいは設立案件でもな
い限り、商業登記案件に巡り合わないケースも多いことでしょう。

 以上は商業登記に関する司法書士の取扱い案件に関する量と難易度の地域格
差ですが、これに比例して、法務局の地域格差も今回の4月の申請で強く感じ
ました。東京法務局を中心とする関東地区の法務局に申請すれば何の問題もな
く受理される内容が、関東以外の地方では、そのとおりにならないことがあり
ました。

 補正まではなりませんが、例えば、委任状の原本還付はどうしても必要か、
4月1日合併で消滅会社の債権者異議がなかった旨の証明は、3月31日付け
の消滅会社の代表者のものに変更してくれるとありがたいなどともいわれまし
た。東京及び近郊で、ごく当たり前になされていることが地方では異端の申請
として引っかかるようです。

 これは人員数の影響も大きいと私はみています。職員の多い都市部の法務局
では、これでよいのかという問題をベテラン職員の同僚に確認することができ
るので、私の申請のように変わった内容でも実例がありすぐに受理されるのに
対し、担当職員が少なく、しかもお山の大将のボス格の上司が杓子定規の頭脳
の持主だと、こんなのみたことないから、見慣れた内容に変更してくれるとあ
りがたいという要請になるわけです。

 要するに、担当職員(調査官)としては、見慣れない内容だが問題ないと判
断しても、あの細かくて杓子定規の上司に何かいわれそうだなと思い、こうし
てくれるとありがたいと要請してくるわけです。先般記載した債権者である親
会社への催告もこれに近いところがありました。

 この改善には、都市部と地方との間で幹部の人事交流を増やせばよいのです
が、実際にしていると思います。しかし、地方のボス格が都市部の法務局に異
動すると、都会の流儀を否定して自分流にすることもあります。数年前のある
時には、東京の某大手出張所において、部下の皆が肯定し、東京法務局の相談
でもOKとされたのに、一人で頑として私の申請を否定する地方から転勤して
きた偏屈の迷惑上司がいました。

 まぁ、どこの組織にもへんな上司がいるものです。たまには、こういう迷惑
もよい刺激です。本欄のネタの貴重な提供者になってくれ、ありがたいと思っ
ています。


2021.04.27(火)【新刊『実務に活かす 判例登記法』】(東京・鈴木龍介)

 このたび、私も編者の末席に名を連らねております『実務に活かす 判例登
記法』が金融財政事情研究会(金財)から刊行されました。

 本書は、私が携わった本年初の新刊本ということになりますが、以下のはし
がきの抜すいにもあるとおり、同じく金財の雑誌である「月刊登記情報」に掲
載されたものを整理し、再構成したものです。登記に関する重要判例のインデ
ックスにはなると思いますので、ご関心のある方は手にとっていただければ幸
いです。
  https://store.kinzai.jp/public/item/book/B/13555/

 権利変動のメルクマールになる登記について、研究者の理論的な詰めに不足
はないか、実務家の日常執務に揺らぎはないか。それを検証してぃくためには、
登記判例に理論的鍬入れが必要ではないか。こうした編著者一同の思いから、
「月刊登記情報」において「実務に活かす 判例登記法」と題する連載は始ま
った。本書は、平成29(2017)年4月から令和元(2019)年10月までの論考を
整理し、一書にまとめたものである。

 本書は、4部で構成される。「第1章 判例についての基礎知識(登記実務
との関係)」は、判例と登記の関連について本書のために書き下ろしたもので
ある。「第2章 鼎談」には、「月刊登記情報」の連載の最初と最後に、本書
の編者等で行ったディスカッションの内容を収録した。「第3章 総合判例研
究」では、理論と実務の両面において重要な3つの論点を取り上げ、関係判例
を横断的かつ網羅的に掘り下げた。「第4章 個別判例研究」は、各種の登記
に関わる重要判例をピックアップし、評釈をしたものである。

 本書は、「登記」について理論と実務の両面から考察しているが、執筆陣に
注目されたい。研究者と実務家である司法書士・士地家屋調査士が、自らの専
門性を活かしつつそれぞれの立場から全力で問題群にアプローチした点に、本
書の第1の特色がある。

 また、「月刊登記情報」の連載にはなかったものであるが、第3章・第4章
の各判例評釈に対し研究者と実務家がそれぞれクロスするかたちで、実務家の
評釈には研究者による「理論の視点」と題した関連・派生したコメントを、研
究者の評釈には実務家による「実務の目線」と題した関連・派生したコメント
を付した。これにより、議論の豊饒化を意図した点に、本書の第2の特色があ
る。


2021.04.26(月)【電子署名】(仙台・立花宏)

 先日(3月31日(水)、4月5日(月))、本欄で金子先生が電子署名の
ことを取り上げていらっしゃいました。私自身は、登記のオンライン申請に司
法書士としての電子署名を利用するくらいで、この関係はあまり得意ではあり
ません。

 このままでは時代に取り残されてしまうと思い、金子先生も本欄で紹介され
ていた土井万二編集代表『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成
実務Q&A』(日本加除出版)を読みながら勉強しています。とてもわかりや
すい説明がされていて、素人の私でも、「これならなんとか、時代についてい
けそう」という気持ちにしてくれる、私のようなデジタル初心者の司法書士に
とっては、バイブルにもなりそうな本だと思いました。

 商業登記の申請に印鑑登録が必須ではなくなり、また、商業登記の申請に、
商業登記電子証明書だけでなく、公的個人認証電子証明書等を利用することが
できるようになりましたし、商業登記の世界も、デジタル化されていくのだろ
うと思います。

 先日、地元の法務局の法人登記関係の窓口に行った際、商業登記電子証明書
の発行申請をしていらっしゃる方がいらっしゃいました。おそらく、何かの手
続に利用する必要が生じ、会社自身で申請しに行かれたのでしょう。今後、商
業登記の際に添付する書類(情報)も書面ではなく、電磁的記録を提出するこ
とが増えていくかもしれません。

 そんな折、私も、いわゆる事業者署名型といわれる電子署名を利用して契約
を締結する機会がありました。ある事業者署名関係業者様から、中央経済社様
からのご依頼ということでメールをいただいたのです。メールには、契約書の
内容を確認し、問題がなければ、オンライン上で受領・署名するよう指示があ
りました。操作はとても簡単で、デジタル音痴の私でも、ものの数分で手続を
完了することができました。電子署名の中でも、操作が簡単なものだからだと
思いますが、使ってみると、便利だと感じました。このあたりから入門して、
徐々にステップアップしていくとよいのかもしれません。習うより慣れよ、で
しょうか。

 ところで、その中央経済社様と締結した契約ですが、これは『商業登記実務
から見た合同会社の運営と理論』の改訂版(第2版)の出版に関するものです。
初版出版後に得られた情報を反映して最新バージョンとし、さらに、あらたな
分野として、主に解散後に問題となる論点を加えました。解散後の社員の異動
を理解すると、事業会社である合同会社の社員の異動についてもさらに理解を
深めることができると思います。5月中には発売になると思います。最後は宣
伝になってしまいましたが、発売になりましたら、よろしければ、お手に取っ
ていいただければ幸いです。


2021.04.23(金)【合併相手の親会社に催告は必要?】(金子登志雄)

 吸収合併等では債権者に対する異議申述の催告が必要ですが、債権者が親会
社だけだった場合は、催告につき、どうなさいますか。親子間合併や完全子会
社間合併の事例ではこれが多いといえます。

 私は債権者から異議なかった旨を証する書面に「なお、債権者は株主である
親会社1社のため、知れている債権者に向けた各別の催告はする必要がありま
せんでした」などと記載して対応しています。

 拙著の組織再編本にも繰り返しこれを記載していますが、読者から「登記所
から催告は避けられない」と補正連絡を受けたと数年前にメールで連絡をいた
だいたことが1度だけありました。どういう合併だったかは不明ですが、企業
社会の常識に疎い登記官もいるのだろうとその時は感じました。

 この4月の親子間合併の事案で、ある地方の某大手法務局より補正ではあり
ませんが、これにつき問い合わせを受けました。初体験です。何か先例でもあ
るのかという内容でした。

 腹が立ち「当たり前すぎて先例はないが、私は旧商法時代から組織再編中心
に30年以上もこの仕事をしている。登記取扱い件数は日本1多いと思ってい
る。これまで全国各地の登記所で登記をしてきたが、何もいわれたことがない。
常識で考えてください。親会社の指示で合併を決定し、合併承認の株主総会で
も合併に賛成していることが議事録から分かるのに、債権者だからといってわ
ざわざ催告書を送付するわけがないじゃないですか。著書にも、その経験を書
いているので、立場上、修正のご希望には応じられません」といい、何度かや
りとりし、調査官には納得してもらいましたが、上司がかたくなのようでした
ので、板挟みの調査官が気の毒になり、「債権者は合併存続会社であり、合併
承認の株主総会でも承認しており」などといった、さらに催告しなかった理由
を加える差し替えには応じました(押印不要だったから差し替えに応じた面も
あります)。

 なお、合併効力発生日の20日前の通知(会社法785条3項)については、
親会社(特別支配会社)には通知する必要がないという明文規定があります。
この株主が債権者だったら、催告せよというのには、どうみても無理があるで
しょう。少数株主であれば、合併に賛成だが、債権者としては即座に支払って
ほしいから異議があるということも可能性としては考えられますが、親会社で
は可能性さえありません。親子間合併の親会社ならなおさらです。広義の禁反
言の法理でしょうか。


2021.04.22(木)【司法書士と登記所のチェックの相違】(金子登志雄)

 私の場合は、既存のオンライン登記申請書を再利用し、上書きで申請書を作
成するせいか、ケアレスミスの補正をよくやってしまうのですが、この4月に
は1件も補正通知が来ないので本人もびっくりでしたが、とうとう昨日、4月
16日の申請分につき補正通知をもらいました。

 4月1日付けのネット謄本をみて申請書を作成したら、登記所から代表者の
住所が登記記録と相違すると指摘されました。私に連絡なく、この間に住所変
更登記がなされていたわけです。

 しかし、補正通知を受けても新住所が分かりません。登記中で登記記録がみ
られないからです。それを調査官に申し上げましたら、あれ、印鑑届(管轄外
本店移転案件です)は登記記録どおりですよといわれました。そこで手元にあ
る印鑑カード交付請求書を参考に移転先住所で補正登記を申請し、何とか補正
完了です。

 私が顧客に送った印鑑届その他は移転前の住所で作成し、それを顧客に送付
したところ、顧客が住所を訂正し、送り返してきたのですが、何の連絡もなか
ったので、私は、私が送付した内容どおりと早合点し、申請してしまったわけ
です。

 このように、我々司法書士は案文は自分で作ったという意識があるため、漏
れがないかなどのポイントチェックしかしませんが、申請案件に初めて触れる
登記所のチェックは全文チェックです。法律解釈の見解の相違はともかく、こ
の全文チェックや印鑑照合の細かさが日本の登記所の特徴かつ優れた点ではな
いでしょうか。

 氏名につき「琢」で申請したら、本人確認証明書では中に点があるがどうす
ればよいかと電話をもらったこともあります。まったく気づきませんでした。
老眼も少しは影響していますが、主たる理由はポイントチェックしかしていな
いせいでしょう。だから私は人一倍仕事が早いのですが、この経験を活かし、
ポイントチェックでも補正にならないよう気をつけることにしました。


2021.04.21(水)【組織再編とコンピュータシステム】(金子登志雄)

 4月1日には、東京の乙株式会社が同一住所の甲に吸収分割すると同時に、
名古屋の丙を合併で吸収する案件がありました。

 事前の3月22日に、念のため、
 1/3 甲の吸収分割による変更
 2/3 乙の甲に対する吸収分割による変更と吸収合併による変更
 3/3 名古屋の丙の合併解散
で、申請するが問題ないかと東京法務局に照会票を提出しましたが、相談案件
が多く3月31日までに回答を出せないというので、仕方なく、吸収分割と吸
収合併は別々に申請しました。3日以内にOKの返事があると予想していまし
のでがっかりでしたが、3万円の登録免許税が余計に必要かどうかだけの問題
であるため、ここは安全策を採用いたしました。

 上記のような重複した連件申請は全部の会社が同一管轄の例が多いのですが、
今回は丙が異管轄であるため、法的には可能な申請でも、コンピュータシステ
ム上の理由で受理することができないとなったら、困るためです。

 登記申請の数日後に受理する旨の回答をいただきましたが、1/3と3/3
は連件関係ではなく、吸収分割の2/2と吸収合併の1/2が重なっただけで
すが、組織再編登記では登記システム上の可否まで考えなければならず、面倒
なものです。

 例えば、東京都千代田区のA社が同一場所に新設分割でA社を設立し、同時
に管轄外に本店移転する場合、電子化以前の時代には、同時に本店移転するか
ら同一場所・同一商号禁止に反しないという対応でしたが、いまはコンピュー
タシステム上の理由で不可のようです。


2021.04.20(火)【会社補償(その3)】(東京・鈴木龍介)

 引き続き「会社補償」ですが(これで最後です)、今回は手続等の実務面に
ついて取り上げます。

 補償契約の内容の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)
の決議を要します。これは監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社であ
っても特定の取締役や執行役に委任することはできません。なお、補償契約の
当事者となる取締役は「特別の利害関係」を有するものと考えられ、当該取締
役は議決に加わることができないと解されています。

 補償契約の内容に基づき実際に補償をすることの決定については、取締役会
の決議によらなければならないとはされていません。つまり、代表取締役が決
定することができるということになります。ただし、取締役会設置会社におい
て、個別具体的事情によっては、「重要な業務執行の決定」に該当し、取締役
会の決議を要するというケースもありえます。また、取締役会設置会社では、
補償契約に基づく補償をした取締役(一般的には代表取締役)と補償を受けた
取締役は、遅滞なく、補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければ
なりません。

 補償契約は役員等の職務の執行の適正性に影響を与えるおそれがあり、株主
にとっても重要な情報であることから、株主総会参考書類の役員等の選任に関
する議案においては、候補者と会社との間で補償契約を締結しているとき、ま
たは補償契約を締結する予定があるときには、補償契約の内容の概要を記載す
る必要があります。

 事業報告においては、補償契約を締結している現任の役員等の氏名と補償契
約の内容の概要を記載する必要があります。また、会社が補償契約に基づき補
償をした場合には、補償した旨と補償額を記載する必要があります。

 有価証券報告書においては、事業報告に記載した内容と同じものを記載する
必要があります。

【参考文献(全3回分)】
 ・阿南剛「令和元年改正会社法関係書類の作成実務の解説(1)」
  資料版商事法務442号(2021年)16頁~24頁、
 ・邉英基『会社補償 Q&Aとモデル契約』(商事法務、2021年)
 ・田中亘『会社法(第3版)』(東京大学出版会、2021年)378頁
  ~381頁


2021.04.19(月)【同時経由申請の申請先】(金子登志雄)

 今年の4月初旬の当事務所の担当した案件の特徴としては、合併等の組織再
編は例年並みの件数でしたが、本店の移転案件が多かったことです。コロナの
関係で会社の業績に変化が生じたことや、事務所賃料が下がったこと、社員の
テレワークで事務所が広くなくてもよくなったことなどが関係しているのかと
想像していますが、顧客に尋ねたわけではありません。

 さて、東京法務局管内の甲株式会社が横浜地方法務局管内の乙株式会社を合
併で吸収したり、横浜に本店を移転した場合には、東京法務局に2つの申請書
を提出しますが(合併なら甲社と乙社の2つ)、2つめの登記の申請先は東京
法務局でしょうか、横浜地方法務局でしょうか。

 不慣れな司法書士なら同時経由申請といって東京法務局に決まっていると返
答しそうですが、これは間違いです。1つめは申請先が東京法務局でも、2つ
めについては横浜地方法務局であり、後者の申請書の【提出先】が東京法務局
だというだけです。

 こういう細かいことは意外に意識しませんが、オンライン申請では「宛先登
記所」が東京法務局、「経由」の宛先が横浜地方法務局と記載すると、「受付
のお知らせ」は東京法務局発行となり、受付番号も東京法務局の番号になりま
すが、登記の際に提出する「書面により提出した添付情報の内訳表」では、自
動的に横浜地方法務局御中という表示になります。

 よくできているものです。これに慣れるまでは、東京法務局に申請したのに、
横浜地方法務局御中と表示されて、一瞬、管轄違いで申請してしまったような
不安に襲われたものでした。


2021.04.16(金)【ギャップ】(金子登志雄)

 4月も半分経過し、当事務所の書き入れ時のピークは過ぎました。

 一番多忙だったのが4月1日でしたので、その日の当社の入社式は欠席いた
しました。新入社員にとっては、一生忘れない日になるので、非常勤とはいえ
役員である私の欠席は本当に申し訳ないことでしたが、顧客に迷惑をかけるわ
けにはまいりません。

 私が大卒で入社したのは信託銀行(現在の三菱UFJ信託)でしたが、当時
は、みなソロバンで作業をしていました。小学生のときにソロバンをいじった
だけの私は、当然にそれを必要としない営業に回されました。こういう世代で
すから、現在のインターネットやスマホは魔法の機械にも等しく、これらを上
手に使えるかどうかの世代ギャップには大きいものがあります。

 当時の司法書士も、和紙の登記用紙に1文字1文字活字を埋めて印字してい
たはずですから、到底、なりたい職業としての魅力はありませんでした。大半
が法務局定年退職者で事務所は登記所の周辺の3坪店舗でした。それが、ワー
プロ→パソコンと進化し、現在のオンライン申請にまでなり、女性や若者にも
人気の職業になるとは、当時は予想もできないことでした。便利な時代になっ
たものです。登記完了通知までオンラインで教えてくれます。

 ところで、先日、地方の登記所から原本が郵送で戻ってきたのですが、何と
「オンライン申請をご利用くださりありがとう」みたいなメモが添えられてい
ました。

 その地方ではオンライン申請が少ないのかもしれませんが、オンライン申請
を行っている都会の司法書士が電子署名問題でアタフタしていることのギャッ
プに可笑しさを感じてしまいました。

 昔を懐かしんで「老兵は死なず、単に消え去るのみ」ではなく、「老兵は死
なず、経験を生かして新しい時代を生き抜くのみ」で頑張るしかありません。


2021.04.15(木)【押印不要経験】(金子登志雄)

 印鑑廃止の流れで、1月29日付け民商10号の通達押印を要求した規定が
ない限り(取締役会議事録などは記名押印義務あり)、押印の有無は登記で審
査しないことになりました。

 しかし、押印がないと原本らしさがないので、従来どおり押印してもらって
いるケースが多数ではないでしょうか。通達も審査しないとあるだけで、押印
不要とまでは踏み込んでいません。

 現実に助かっているのは訂正印ではないでしょうか。先日も新規就任承諾の
住所が本人確認証明書と相違するが訂正印がないという事例で助かりました。

 登記所から、株主総会議事録は15日なのに、株主リストは総会日が25日
になっているという指摘を受けたときも(25日予定の総会でしたが、会社が
急遽15日に開催したのですが株主リスト案の修正までしなかった事案)、会
社の了解を得て、押印のない株主リストを作成し差し替えました。

 こういう差し替えのときは、私も押印のないものを利用しますが、申請時に
は押印したものにしています。例えば、株主リストを顧客が忘れて送付してこ
なかったなどの場合は、株主が1人程度であれば、会社の了解を得て委任状の
余白に株主リストを記載しています。委任状兼株主リストにするわけです。

 いずれにせよ、押印につき審査しないというのは補正の常連には朗報です。


2021.04.14(水)【企業買収のインセンティブ条項】(金子登志雄)

 もうご存じでしょうが、私は昭和62年設立の日本最初のM&Aコンサル会
社の法務担当役員の間に、司法書士資格を取得し、兼業司法書士として出発し
ました。いまではM&A仲介会社数社が上場し高業績でありM&Aが完全に社
会に認知されていますが、我々は創業が早すぎました。平成8年に司法書士資
格を取得したのも、将来の生活不安が最大の理由でした。

 しかし、優秀な仲間とともにこの業務で培った問題解決に対する姿勢や技術
は司法書士業務にもおおいに役立っています。

 さて、皆さん、甲株式会社が株式買収型M&Aで乙株式会社の経営支配権を
取得する際に、甲側の不安は何だと思いますか。

 それは、M&Aが成功するか(乙が順調に発展してくれるか)です。これは
買収直後には分かりません。不安の理由は乙の業績好調は乙のオーナー社長の
能力や人望であることが多く、この社長が退任したら、優秀な役員も幹部従業
員も一緒にやめてしまうのではないかなどといったものです。

 そこで、この対策をどうするかというと、90%買収にして、残りの10%
をオーナー社長に残しておき、引き続き社長や会長として、事業が円滑に引き
継がれるまで残ってもらうとか、全株買収でも10%は1年後に事業の引継ぎ
状態を勘案して支払うなどと、様々な対策をします。人質みたいなもので、要
は乙の社長に売り逃げされないようにするわけです。

 ところが、最近は、この面でもインセンティブを働かせる方法が増えてきま
した。すなわち、仮に全株買収を1億円でしても、社長のままでいてもらい、
一定期間後に想定されていた業績を上げたなら、成功報酬として3000万円
を支払うなどといった方法です。これをアーンアウト条項(Earn out Clause)
といいます。

 以上、昨日の鈴木さんの投稿の「インセンティブ」に反応し、ふと思いつい
たネタでした。インセンティブ(やる気を起こさせる)、成功報酬制にする、
これから多方面で流行るのではないでしょうか。補助者に顧客を獲得したらと
か、子供の成績が上がったらスマホを買ってあげるとか‥‥。


2021.04.13(火)【会社補償(その2)】(東京・鈴木龍介)

 前回に続き「会社補償」についてです。

 会社補償の趣旨ですが、繰り返しになりますが、会社が役員等として優秀な
人材を確保するとともに、役員等がその職務の執行に関しての第三者への損害
を賠償する責任を負うことを過度に恐れることによりその職務の執行が委縮す
ることがないように適切なインセンティブを付与するというものです。

 同趣旨のものとして、非業務執行役員等の責任限定契約がありますが、会社
補償契約とは相互に補完的な関係にあるものと考えています。会社補償契約で
は、裁判費用や対第三者への賠償金についてカバーされますが、対会社への賠
償金はカバーされません。

 一方で、責任限定契約では、対会社への賠償金が軽減されるわけです。また、
同様の趣旨である今回の改正で会社法に導入されたD&O保険との関係ですが、
これも補償契約とは両立するものと考えています。D&O保険はあくまで民間
の保険商品ですからさまざまな設計が考えられ、内容面での会社法の規制は受
けません。したがって、契約の内容次第ということにはなりますが、補償契約
でカバーできなかった部分をD&O保険でカバーすることも想定されるものと
考えています。

 たとえば、社外取締役が善管注意義務違反で代表訴訟されてしまったケース
で、その訴訟費用は会社補償契約もしくは(および)D&O保険で賄うことが
考えられます。そして、仮に敗訴等して賠償金が確定したところで責任限定契
約に基づき軽減がなされ、そのうえで当該賠償金をD&O保険で支払うという
イメージで、特段その導入に対してのハードルはないように思いますがいかが
でしょう。


2021.04.12(月)【印鑑カードの再発行】
(金子登志雄)

 先週9日は東京法務局で、偶然にも、本欄に登場する古山さんとお会いしま
したが、4月初旬の商業登記書き入れ時のピークを過ぎた当事務所と相違し、
まだまだご多忙真っ盛りのようでした。商業登記専門の若い方が多忙であるの
は、商業登記業界にとっては明るい展望であり喜ばしいことです。

 東京法務局を訪問した理由は数年で交代する甲乙という2人の職務執行者が
存在する合同会社(大手企業の子会社)で、印鑑カードが見つからないため、
本当に発行されていたのか、そもそも2人とも印鑑を届けていたのかを調べる
ためでした。合同会社では印鑑証明書の発行を求めることが少ないため、あり
得ることですが、このたび、職務執行者乙を丙に変更するため、印鑑カード引
継ぎの可否が不明になり、それを法務局に電話で問い合わせるは失礼にあたる
と思い、訪問したわけです。

 この際の再発行の手続はどうするのかご存じですか。私は未経験です。その
旨の申請書の書式はネットで探してもありませんでした。某司法書士のブログ
によると、廃止届と発行申請書の2枚を提出するのだそうです。ただ、東京法
務局に聞いたところ、それを1枚にまとめた書式でも受理してくれるようです。

 結果は私が質問した部署では正確なことが分かりませんでしたが、職務執行
者甲には印鑑カードが発行され、職務執行者乙は印鑑を届けていなかったらし
いことが判明しました。乙が丙に交代する事案ですから、再発行せずとも申請
に支障がないのですが、初体験の再発行を経験しようと思っています。申請人
の身分証明書(運転免許証など)が必要のようです。これでは、事務所所在場
所の証明にならないので、司法書士会員証でやってみるつもりです。東京法務
局内でも有名人の私も顔は知られていないので、顔パスは通じません。


2021.04.09(金)【例え話で説明】(金子登志雄)

 徒然ネタ不足ですので、本日は、私と同じデジタルオンチの方に役立つ雑文
にしてみました。

 さて、そもそもアナログとデジタルの差につき、誰にでも分かりやすい説明
をするとしたら、どうすべきでしょうか。デジタルは、0と1の組み合わせと
いう説明では、ほとんど通じません。

 実は当社の社名であるアクモスは、英文ではもともとA&CMOSであり、
アナログのアと、デジタル回路の1つであるシーモスの合成語です。アナログ
とデジタルを融合した水晶発振器に関するファブレスの半導体製造会社として
出発したためであり(現在は、半導体を廃業しICTの会社に変身したため、
ACMOSに変更済み)、決して「悪のモスラ」ではありません(モスラは若
い方には通じないかもしれませんが、日本映画で作られたゴジラの次に有名な
イモムシ風の架空の怪獣です)。

 半導体会社の際に技術者の社長が私に「アナログとは線で例えると、間断な
き曲線であり、デジタルはこの曲線が人間の目ではみえない階段状になってい
るものだ。だからデジタルは人の手で作れるが、アナログ曲線を作るのは難し
い。当社はそれに挑戦している」というようなことを教えてくれました。

 なるほどと思いませんか。直線でいえば、人の目からは両方とも直線にみえ
るが、アナログは間断なき直線で、デジタルは点線ですね。蛇足ですが、ホー
スで飛ばされる水も水滴の集団であり、川の水とは違います。

 一方、ICTの会社になった今日、同僚にクラウドがどうも実感としてつか
めないと話しましたら、いままでは自社のサーバーや業者のサーバーを利用し
てインターネットを利用していたが、そういう時代ではなく、今後はイメージ
でいうと宇宙空間に大きなサーバーがあり、それを誰でもどこからも利用でき
るようになり、ソフトをインストールなどせずに済むような時代になったとい
ったような説明を受けました。これなら、実感として分かりませんか。いわゆ
る完全バーチャル総会も、会場がなく架空の宇宙空間で行われる株主総会と捉
えればよいでしょう。

 上記いずれも「例え話」です(若干、私が勝手に補強しましたが)。本当に
詳しい人は「例え」が上手です。私も著作で、「言い換えると」とよく使いま
すが、読者に好評なので、例え話が通じているのだと思っています。

 いま話題の電子証明書は、いままで電子【印鑑】証明書であり、印鑑を届け
ていないと発行されないものだと思っていましたが、届出印がなくとも発行さ
れるようになったため、どうも「電子資格証明書兼サイン証明書」であり、印
影のある印鑑とは無関係だと気づきました。


2021.04.08(木)【社員の持分の譲渡と定款変更】(仙台・立花宏)

 無限責任社員がA及びB、有限責任社員がC及びD、定款で業務執行社員を
A及びBと定めている合資会社において、有限責任社員Cが持分の全部をEに
譲渡します。定款に別段の定めがないことを前提とすると、Cは業務を執行し
ない社員であるため、業務執行社員A及びBの承諾があれば、Eに持分を譲渡
することができ(会社法585条2項)、この「持分の譲渡による定款の変更」
もA及びBの同意のみで行うことができます(会社法585条3項)。

 ところで、前記の定款の変更において、Eを業務執行社員と定めることはで
きるでしょうか。私見はできないと考えます。業務執行社員の持分の譲渡は、
他の社員全員の承諾が必要ですが(会社法585条1項)、これは、「業務執
行社員の変動は社員全員に影響を及ぼす可能性がある」(注)からであり、特
定の社員も業務執行社員を定めるという重要な人事案件は、業務執行社員のみ
で変更ができる前記の定款の変更の範囲には含まれないと考えるべきでしょう。
Eを業務執行社員と定める場合には、別途、総社員の同意により定款の変更を
する必要があると考えます。

 では、前記の定款の変更において、Eを無限責任社員にすることはできるで
しょうか。Eが無限責任社員として加入しても、それだけで社員としての権限
が大きくなるわけではなく、会社の信用という面からいっても、無限責任社員
が増えることは他の社員にとってプラスではあれ、マイナスではなく、可能な
ようにも思えます。

 しかし、個人的には、これも会社法585条3項に規定する「持分譲渡によ
る定款の変更」は、責任を変更することまではその範囲に含まず、業務執行社
員であるA及びBの同意のみではできないように思えました。この点を解説し
ている書籍は見つけることができませんでしたが、書式精義第6版(テイハン)
を見ると、無限責任社員から持分の譲渡を受けた者が有限責任社員として加入
する例は掲載されているものの、有限責任社員から持分を譲り受けた者が無限
責任社員として加入する例が掲載されていませんでした。これは、前者は総社
員の同意により譲渡の承認と定款の変更を行うため、責任の変更ともいえる内
容も決定できるということではないかと推測いたしました。

 個人的な考えですが、結局、会社法585条3項に規定する「持分譲渡によ
る定款の変更」は、持分の譲渡に伴う社員の脱退や加入、出資の価額の減少や
増加に限定され、その範囲を超える定款の変更は、通常の定款変更手続によら
なければならないと考えます。そう考えると、「持分の譲渡」についての承諾
と、それに関する会社法585条3項の「定款の変更」についての同意は、前
者は「持分の譲渡」という法律行為の要件であり、後者は「定款の変更」とい
う法律行為の要件という違いはありますが、この2つは一体のものではないだ
ろうかと思いました。

 注)『立案担当者による新・会社法の解説』(商事法務)158頁


2021.04.07(水)【順次増資の適法性】(金子登志雄)

 本稿は徒然ネタとして2年前に書いたものですが、掲載を自粛していました。
ところが、最近、商業登記倶楽部の相談室に、第1号議案で3月に増資、第2
号議案で5月に増資(割当先は共通)の質問がありましたので、掲載する気に
なりました。

 さて、Aを株主とする非公開会社から、次のような増資議事録(案)を示さ
れたとして(無関係部分は省略)、これは適法とみてよいでしょうか。問題点
は、第2号議案のCへの増資決議にBが参加していないことです。
----------------------------------------------------------------------
 第1号議案 募集株式発行(1)の件
  (1)募集株式の数  上限600株(総額600万円)
  (2)払込金額    1株あたり金1万円 
  (3)払込期日    2021年4月30日
  (4)割当方法    Bに割り当てる
 第2号議案 募集株式発行(2)の件
  (1)募集株式の数  上限300株(総額300万円)
  (2)払込金額    1株あたり金1万円 
  (3)払込期日    2021年5月31日
  (4)割当方法    Cに割り当てる
----------------------------------------------------------------------

 公開会社の上場会社では公募と第三者割当てで、このような異時増資が行わ
ていますが、情報開示が十分になされているので問題ないのでしょうが、非公
開会社では募集決議に株主総会の決議が必須のため問題になります。

 非公開会社でも、払込期日が第1号議案と第2号議案で同日であれば、一体
のものとして許容されます。新株の発行と自己株式の処分、金銭出資と現物出
資で議案を分けることがよく行われていますし、募集対象者ごとに議案を分け
ていけない理由もないでしょう。また、異時でも全て実質が株主割当てでAだ
けに割り当てるのであれば、これも許容されますし、私も経験済みです。

 払込期間の方法を採用した、次の方法であれば問題なく可能です。
----------------------------------------------------------------------
 議 案 募集株式発行の件
  (1)募集株式の数  上限900株(総額900万円)
  (2)払込金額    1株あたり金1万円 
  (3)払込期間    2021年4月8日から同年5月31日まで
  (4)割当方法    B及びCに割り当てる
----------------------------------------------------------------------

 この方法でも会社法915条1項を根拠に、4月30日に600万円の増資
を登記し、5月31日に300万円の増資を登記することができると考えます
が、依頼者の意向と若干離れることが気になります。

 その場合は、会社法200条による委任方式がよいでしょう。
----------------------------------------------------------------------
 議 案 募集株式発行の件
  (1)募集株式の数  上限900株(総額900万円)
  (2)払込金額    1株あたり金1万円 
  (3)割当方法    B及びCに割り当てる
  (4)その他     2021年5月31日までに2回に分けて発行す
            ることし、詳細は取締役(会)の決定に委任する。
----------------------------------------------------------------------
 
 これができるなら、株主総会だけで済ます次の方法も可能でしょう。
----------------------------------------------------------------------
 議 案 募集株式発行の件
  (1)募集株式の数  上限900株(総額900万円)
             ただし、2回に分けて募集する。    
  (2)払込期日    第1回 2021年4月30日
             第2回 2021年5月31日
  (3)割当方法    第1回 Bに割り当てる
             第2回 Cに割り当てる
----------------------------------------------------------------------

 結論として、最初の議事録案が第1号議案と第2号議案が一体とした1つの
募集株式の発行といえるのかが基準となり、合計900株の発行を2回に分け
て行う趣旨が議事録から読み取れるなら、許容されてよいと結論付けましたが、
皆様のご意見はいかがですか。


2021.04.06(火)【会社補償】(東京・鈴木龍介)

 今回は、令和元年改正会社法で創設された「会社補償」につきまして、結構
わかりづらいところもあ りますので整理しておきたいと思います。

 ます、会社補償とは、会社と役員等との契約で、会社が役員等に対して次の
①~③の費用等の全部又は一部を会社が補償するという制度です。なお、上場
会社や公開会社だけでなく、すべての株式会社で 導入することが可能です。

 ① 役員等がその職務の執行に関し法令の規定に違反したことが疑われ、又
  は責任の追及に関する請求を受けたことに対処するために支出する費用
 ② 役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任
  を負う場合に当該損害を役員等が賠償することにより生ずる損失
 ③ 役員等がその職務の執行に関し第三者に生じた損害を賠償する責任を負
  う場合において当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成
  立したときは、当該役員等が和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる
  損失 

 つまり、株主代表訴訟については弁護士費用の補償はされますが、敗訴や和
解した場合の賠償金や和解金は補償されないということになります。

 次に会社補償の趣旨ですが、会社が役員等として優秀な人材を確保するとと
もに、役員等がその職務の執行に関しての第三者への損害を賠償する責任を負
うことを過度に恐れることによりその職務の執行が委縮することがないように
適切なインセンティブを付与するというものです。

 ちなみに、会社補償の契約を締結していたとしても、次の(a)~(c)に
ついては補償の対象とな りません。
(a)前記①の防御費用のうち通常要する費用の額を超える部分
(b)会社が役員等に代わって第三者に対して損害を賠償した場合で当該役員
  等に対して求償することができる部分
(c)役員等がその職務を行うにつき悪意重過失があったことにより第三者に
  対して損害を賠償する責任を負う場合の賠償金・和解金
 
 会社が前記①の防御費用について、会社が補償をした後に当該役員等が自己
や第三者の不正な利益を図り、又は会社に損害を加える目的で職務を執行した
ことを知ったときには、会社は役員等に返還請求することができます。


2021.04.05(月)【電子署名に挑戦その2】(金子登志雄)

 先週、マイナンバーカードを使って、「PDF文書に電子署名したが、金子
が電子署名したとの証明がどこにも出てこない。これで取締役会議事録などに
使えるのか」と書きましたが、ド素人である私の勘違いでした。「署名パネル
→すべてを検証→OK→証明書詳細表示」の順にクリックすると、何と私の個
人情報である生年月日や住所まで出てきてしまいました。

 これは私がパソコン操作で困ったときに頼ってしまうリーガルの重松取締役
に教わりました。というのは、某社より電子公告調査結果報告書がメールの添
付ファイルで送られてきたのに、証明者情報が出てこないので、重松氏に教え
を求めた際に、ついでに教わったものです。

 次に、私は取締役会議事録に取締役が電子署名するには、取締役各自が自分
のPCに署名ソフトをダウンロードするのだと思い込んでいましたが、いまは、
その必要がなく、電子証明を請け負う業者を経由して、極端にいえば、受信し
た情報にボタン1つで電子署名すればよく、いとも簡単になっているのだと当
社の営業社員に教わりました。重松氏にも確認しました。

 これをクラウドサインを利用した「事業者署名型(立会人)電子署名」とい
うのだと下記書籍にありました。電子公告調査会社の草分けで、司法書士業界
で最も本件に詳しいであろう大阪の土井司法書士編集本です。購入予定でした
が、某著者より贈呈されましたので、この土日に目を通しました。私のような
素人にも分かる内容でしたし、類書もありませんので、お勧めです。

        http://urx.blue/9wwT

 こんなに簡単であれば取締役会議事録でも流行りそうですね。問題は上場会
社の取締役会議事録は、極端な場合、資料込みで数十頁にもなることです。紙
であれば、登記と無関係な部分を除いてコピーを提出すればよいのですが(原
本還付)、添付書面情報とした場合には、これが不可能です。

 また、紙であれば登記調査官が鉛筆でチェック印をつけてスピーディーに審
査することができますが、添付書面情報ではこれができません。会社としても
登記と無関係な内容を登記所に知られるを嫌がるでしょうから、会社がどうい
う対応をしてくるかは、現時点ではみえません。

 かなり前から、これからはペーパーレス時代といわれながら紙が廃れないの
は、紙には紙のよさがあるからです。カレンダーなどは一覧性に優れた紙に限
ります。登記でも完全オンラインは、ケースバイケースになるのではないでし
ょうか。


2021.04.02(金)【一般社団の買収と不動産M&A】(金子登志雄)

 ときどき変わった質問が寄せられますが、先月は一般社団の買収についての
質問がありました。不動産を有する一般社団を買収したのだが、不動産につき
どんな登記をするのかという質問でした。

 株式会社や持分会社では持分を買収し、経営支配権を握ればよいわけですが、
一般社団には持分がありません、医療法人や学校法人などもそうです。

 「買収」といっても、その目的は経営支配権の獲得ですから、被買収側の経
営陣に高額の退職金を支払い、経営から去ってもらい、経営者(理事)を交代
させることが持分のない法人の買収方法です。

 経営者が変わっただけで法人はそのままですから、法人所有の不動産につい
ては登記の変更はありません。

 もし、この法人の財産が不動産のみとすると、この買収は不動産の取得が目
的ですが、こういうのを不動産M&Aなどといいます。

 事業は廃れたが不動産はあるという会社を買収するのが典型例ですが、不動
産取引にかかる税率と持分取得にかかる税率を比較し、後者が下回れば、益の
多い買収になるわけです。


2021.04.01(木)【特定商取引法及び預託法の改正について】
                         (島根・根来川弘充)

 今国会において特定商取引法と預託法の改正法案が提出されています。

 消費者被害が多い現実から、規制強化の方向が改正の意図と思いましたが、
なぜか、書面交付の義務について「電子化」が検討されているということです。

 書面交付義務というのは、業者側に課せられた義務であり、法律が定めた適
切な書面が交付されない限り、いつまでも消費者は、クーリングオフが可能に
なります。

 これが電子化されるということは、業者が作成すべき書面が、簡単に作成さ
れることになり、実質書面交付の義務が骨抜きにされてしまうかもしれません。

 そもそも書面とデータは、別物であり、「電子化の名をもとに、すべての書
面がデータ化できる。」という発想に、大変違和感をおぼえます。

 今国会でこのような改正がなされることがないよう、見守りたいと思います。


2021.03.31(水)【電子署名に挑戦】(金子登志雄)

 ハンコ廃止で電子署名時代になるというので、今月後半は、マイナンバーカ
ードを利用した公的認証の電子署名に挑戦してみました。この程度はできない
と恥ずかしいと思ったためです。

 税務申告は私の代わりに弟が「イータックス」を利用しているので、文書に
電子署名をする方法を聞いてみたところ、知らないというので、鈴木龍介さん
聞いたら、文書をPDF化してするのだとか。電子定款と同じですね。

 そこで常用しているノートPCで電子署名する方法をインストールしようと
したのですが、老人の私にはできませんでした。困って、事務所の隣室に位置
する当社の子会社の社員10数名に尋ねたら、マイナンバーカードによる電子
署名の経験者は若い女性1人だけでしたので、彼女に手伝ってもらいました。

 やっとPDF文書に電子署名することができましたが(JPKI PDF SIGNERとか
いうものでした)、印影のない不可視署名だったためか、文書には何も表示が
でません。欄外に「署名パネル」とあったので、そこに触れると、署名済みと
いう表示が現れるのですが、金子が電子署名したとはどこにも出てきません。

 電子署名につきセミナー講師をした方に問い合わせたところ、税務署とか法
務局のような官庁では誰が電子署名したか分かるが、民間では分からないのだ
とか。

 これで取締役会議事録などに使えるのでしょうか。うれしくなりました。当
分、流行らなそうだなとちょっと安心したからです。

 そんなことを思っていましたら、顧客の上場会社A社の担当者から、合併契
約を電子契約でした場合は登記で使えるのかとメール質問が来ました。問い合
わせたところ、単に聞いてみただけだというので、ほっとしました。

 ところが、翌日になったら、顧客のB社から、「当社では取締役会議事録の
押印を電子署名にするが・・・」というメール問い合わせがありました。驚い
て電話で確認したところ、公的認証サービスではなく、業者が運営する有料サ
ービスを利用してするようです。こういう会社もあるのですね。

 覚悟しました。3月24日の本欄(電子公告調査結果通知書)で書いたとお
り、顧客がメールの添付ファイルで送ってくれた電子署名付PDF文書をその
まま電子申請のファイル添付を利用して添付して申請するだけじゃないか、我
々は詳しくなる必要はないのじゃないかと。

 なお、いまのところ、私の顧客のほとんどが電子署名に関して目立った動き
がありません。ハンコ廃止でも「紙文化」はそう簡単には崩れないでしょう。


2021.03.30(火)【「合同会社」選択の視点】(東京・鈴木龍介)

 今回は、合同会社の大家である立花さんを差し置き、「合同会社」について
取り上げます(立花さん、間違いや漏れ等があればご指摘くださいね。)。

 とはいうものの、会社法や商業登記の難しい論点ではなく、新規に事業等を
する際、法人形態(ビークル)の選択肢としての指針を整理してみたいと思い
ます。

 合同会社は、会社法により創設された比較的新しい会社形態ですが、平成18
(2006)年に会社法が施行されてから約15年が経ち、だいぶ馴染んできたよう
に感じませんか。登記統計等を見ても、その数は増加傾向にあります。ですか
ら、当初「合同会社」に感じた違和感や抵抗感はほぼ払しょくされたといって
もよいでしょうが、やはり株式会社と比べると小規模で閉鎖的という印象は否
めません。
 
 合同会社も会社の一種ですから、行う事業については、一部特殊な業種・業
態(中小企業にはあまり関係ないかもしれませんが、サービサーや証券会社)
を除き、株式会社と同様、格別の制約はありません。ちなみに合同会社は、株
式会社(ただし非公開会社)とともに、農地所有適格法人(従前の農業生産法
人)となることもできます。

 合同会社は1人でも設立できることや、設立時の資本金に制約がないことは
株式会社と同じです。また、原始定款の作成は必須ですが、公証人の認証や出
資金の銀行等への払込みが不要なのは、株式会社と比べて手続的な負担が少な
くてすみます。

 株式会社でなく合同会社を設立するメリットとしてあげられるのは、ずばり
コストでしょうか。具体的には公証人の定款認証手数料(約5~6万円)がかか
らず、設立登記の登録免許税の下限が株式会社15万円のところ合同会社6万円
ですから、株式会社と比較して合計15~16万円のコスト減ということになりま
す。

 合同会社の法定された機関は社員のみです。株式会社の株主総会・取締役・
監査役という仕組みは法定されていませんが、たとえば「社員総会」といった
ような任意の機関を設けることも可能ではあります。

 合同会社の社員には、業務を執行する者と業務を執行しない者とを定めるこ
とができますが、業務執行をしない社員であっても株式会社の株主と同様に出
資は必要です。したがって、株主会社の取締役のような出資をしない役員とい
うのはいないということになります。なお、合同会社の場合、業務執行社員の
氏名(代表社員の場合は氏名と住所)は登記事項となりますが、業務を執行し
ない社員の氏名は登記されません。

 一人社員である合同会社の場合で、その一人社員が死亡したときには法定退
社事由に該当することから退社となり、結果として社員不在により解散となっ
てしまいます。それを回避するためには、定款に社員の地位を相続人が承継で
きるような定めを設けておく必要があります。

 合同会社の基本的な資金調達は、株式会社と同様に、借入をするか、増資を
するかということになります。合同会社であっても融資を受ける際に信用保証
協会の信用保証を受けることができますし、日本政策金融公庫といった政府系
の金融機関からの融資を受けることも可能です。

 合同会社には、設立時や増資時において、株式会社で規定されている出資金
のうち2分の1以上を資本金に組み入れるという制限がありません。たとえば
1,000万円の出資に対して、資本金は1円、その残額の999万9,999円を資本剰余
金とすることも可能です(合同会社には資本準備金というものはありません)。
ちなみに、合同会社は、株式会社と異なり、資本金や負債による会社区分はあ
りませんので、いわゆる大会社規制もないということになります。

 合同会社は、社員が意思決定し業務執行も行うという、シンプルな運営が基
本です。株式会社の取締役等と違い、業務執行社員に法定任期はなく、定期的
な改選や登記も必要ありません。また、株式会社で規定されている、いわゆる
決算公告も不要です。

 社員の加入・退社には定款変更や登記が必要となり、税務・会計といった面
での処理も煩雑になりますので、実際の合同会社においては、社員が頻繁に入
れ替わることを想定していないと思われます。

 当たり前と言えば当たり前ですが、合同会社はIPO(株式上場)することはで
きません。仮にそのようなシチュエーションとなった場合には、株式会社に組
織変更することになります。


2021.03.29(月)【決算報告の内容】(金子登志雄)

 清算結了に関する決算報告として、会社法施行規則150条に従い、
----------------------------------------------------------------------
1.債権の取立て、資産の処分その他の行為によって得た収入の額  金0円
2.債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用の額 金X円
3.残余財産の額                        金0円
----------------------------------------------------------------------
程度しか記載せず登記申請した場合に、登記は受理されるでしょうか(Xは具
体的な数字です)。

 結論からいいますと全く問題なく受理されますが、登記所によっては「費用
が収入より多いから債務超過会社であり、債務免除の過程を記載してないのは
困る」あるいは「債務免除益が収入に計上されていないから不備がある」と補
正指示してくることもあります。後者は私が昨年に経験しました。前者は私の
親しい司法書士が最近受けました。

 前者は完全な勘違いです。現金残高がX円以上あれば、この会社は債務超過
会社ではありません。

 150条1項2号には「費用の額」とありますが、その前の「支払」と1号;
の「収入」に着目し、下記サイトをみてください。
 
 https://bizwell.jp/2018/05/17/syuunyuusisyututosyuuekihiyou/

 「収入・支出」は現金の出し入れを意味します。損益とは無関係です。続い
て会社法481条をみてください。
 「清算人は、次に掲げる職務を行う。
   一 現務の結了
   二 債権の取立て及び債務の弁済
   三 残余財産の分配」
とあります。

 この481条2号の「債権の取立て及び債務の弁済」を受けて、会社法施行
規則150条が清算人の活動で得られた現金収入と支出した現金を記載するで
あり、金100万円の債務につき70万円の免除を得て30万円を支払ったら、
30万円の支出だけが決算報告に記載され、債務免除益70万円は「損益」の
問題であって、現金収入にはなりません。

 ということで、まだまだ勘違いが多いようですから、今度の「会社法法令集
第13版」には、「会481条1項と連動した内容であり、損益状況を示すも
のではないため、収入には債務免除益を含まない」というミニ解説を挿入して
おきました。


2021.03.26(金)【任期計算の「選任後」】(金子登志雄)

 いまの時期、上場会社の子会社では親会社の指示による人事異動で、取締役
や監査役を3月31日終了をもって辞任させ、後任を4月1日付けで選任する
例が少なくありません。私も数件の依頼を受けています。

 例えば3月26日の臨時株主総会(会社法319条の書面決議)で「監査役
Aは(本事業年度末日の)本年3月31日終了をもって辞任するため、後任と
してBを(期首の)本年4月1日付けで選任する」などと決議します(念のた
め、後任は補欠とは限りません)。

 これにつき、3月の選任だから、任期4年としたら、2023年の定時株主
総会の終結時になってしまうが、そのまま登記申請依頼を受けてよいものかと
いう同職からの質問が本年もありました。
 
 昨年のきんざい登記情報703号に、2024年の定時株主総会終結時まで
任期があるとみて問題ないという論文を投稿したのですが、まだ十分には普及
していないようです。

 それを見越して、今度の「会社法法令集第13版」の332条(取締役の任
期)や336条(監査役の任期)のミニ解説に
 ◆本条の任期は在職期間というよりも在職可能期限(終期)のこと。定款に
 「就任後」と定めても、始期ではなく終期の起算日のことと思われ、非公開
 会社で2項の制限内であれば適法だといえる。
を挿入いたしました。

 336条1項の「監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のう
ち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とは、選任された瞬間に
監査役になるのではなく就任時からですから、本規定は始期・終期の在職期間
というよりも選任時を起算日として任期の最終期限を定めたものです。

 非公開会社であれば、この期限を延長できますが、その延長の方法として、
「選任後5年以内の」と年数を増加する方法以外に、期限の起算日を後ろに伸
ばす方法もあるはずです。例えば、「(選任時を始期として)【就任後】4年
以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時ま
で」とする方法があります。つまり、始期は選任時だが、終期の期限の起算点
を就任時や選任の効力発生時に定める方法で任期を延長するわけです。

 したがって、定款に336条1項と同一文章の任期を定めても、会社の意思
は同条2項の延長任期のつもりで定めたものであり、定款に「選任後4年」と
あっても、この選任は「選任決議時」のつもりではなく「選任の効力発生時」
のつもりだから、3月中旬に4月1日付けで選任した会社の意向どおりに扱っ
てよいという論法です。

 というわけで、私は顧客に3月31日の選任にしなくてもよいのですかとい
った問い合わせはしていません(31日なら翌日起算の関係で4月1日選任と
同じ結果となる)。


2021.03.25(木)【1人社員合同会社の利益相反取引】(仙台・立花宏)

 合同会社の業務執行社員が当該合同会社と利益相反取引をしようとするとき
は、当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならないとされていま
す。ただし、定款に別段の定めを置くことが可能です(会社法595条)。

 ところで、社員が自然人1人のみの合同会社の場合はどのように考えればよ
いでしょう。たとえば、合同会社がこの唯一の社員に不動産を売却することを
想定します。形式的には利益相反取引ということになり、前記の承認が必要と
なりますが、他の社員がいないため、どのように考えるべきかが問題となりま
す。

 この点につき、他の社員がいないため、承認が受けられず、定款に承認を受
けることを排除する旨の規定が必要だという見解があるようです(注1)。し
かし、この規定の趣旨は、他の社員の保護だと思いますので、他の社員が不在
であるなら、この承認手続は不要と考えるべきだと思いました。

 インターネットで検索すると、他に社員がいないことを証するために定款を
添付することで不動産登記申請は受理されているという記載を見つけました。
私自身は不動産登記を受任する機会がほとんどなく、経験がないのですが、お
そらく、このような扱いがなされているのではないかと思います。ただ、社員
が1人のみの場合は、疑義を避けるため、定款に承認が不要な旨を注意書きの
意味で記載しておくことも検討できるでしょう。社員が1人だけですし、取引
をする際に定款に定めることも容易です。

 ところで、合同会社の社員が法人だった場合に、当該法人の職務執行者が当
該合同会社と利益相反取引をする場合はどうでしょう。会社法598条で職務
執行者についても会社法595条の規定が準用されているため、この場合も、
当該社員以外の社員の過半数の承認を受ける必要があるとされています。
 
 では、この合同会社の社員が当該法人1人のみだった場合はどうでしょう。
他の社員がいないため、自然人1人のみの合同会社の場合と同様に考えてよい
でしょうか。

 この点につき、業務執行社員が法人の場合は、「当該社員の承認、かつ、当
該社員以外の社員の過半数の承認」が必要だという見解があるようです(注2)。

 職務執行者は社員たる法人の代理人のような形で職務を行うのであり、その
行為は社員自身が行ったものと評価されるはずです。社員自身の行為について、
当該社員自身の承認が必要という表現には、個人的にはなんとなくひっかかり
ました(注3)。

 もちろん、当該社員たる法人の保護が必要だとは思いますが、それは、合同
会社の社員としての立場で図るのではなく、当該法人の内部において図るべき
ものではないかと思いました。というのは、当該法人と職務執行者との間には
雇用契約等、なんらかの契約関係があるはずです。通常は、前記のような利益
相反と評価されるような取引を行い、職務執行者個人の利益を図ることは、前
記契約において定めた職務執行者の権限には当然含まれないと解すべきですし、
契約の趣旨に反することになると思うからです。

 もし、そうした取引を行うのであれば、当該法人において、当該合同会社の
社員としての意思決定を行う業務の決定機関において決定し、その決定に従い、
職務執行者が業務執行社員として執行していくことになるのではないでしょう
か。前記の「当該社員の承認」の趣旨はそういう意図なのだろうと思いました。

 ただ、不動産登記の添付書類として、その決定を証する書面が必要なのかと
言われれば、個人的にはやや消極に感じ、悩ましく思えました。この点、不動
産登記の実務では、どのような扱いがなされているのでしょうか。

 注1)東京法務局民事行政部不動産部門監修「相談事例 合同会社の利益相
  反行為について」(「登記インターネット」88号85頁)
 注2)内藤卓「持分会社に関する登記実務上の諸問題」
  (「登記情報」611号20頁)
 注3)仮に承認するとすれば、当該社員の職務執行者名義で行うのではなく、
   代表者名義で行うことになります。


2021.03.24(水)【電子公告調査結果通知書】(金子登志雄)

 4月1日が近づきました。3月決算会社の多いわが国では、この日は役員の
交代や合併等の組織再編の効力発生日であることが多く、商業登記業務の書き
入れ時になります。

 合併等の債権者異議申述手続が電子公告がなされると、登記申請の際に「電
子公告調査結果通知書」というものを添付しますが、これをみたことがあるで
しょうか。

 紙にすると約10ページ前後のものですが、紙を添付するよりは、業者から
メール送信された電子署名付きのものを登記のオンライン申請にファイル添付
するほうが効率的です。ちょうど、株式会社の設立登記の際に、紙の原子定款
謄本を添付するよりも、電子定款をファイル添付したほうが楽であるのと同様
です。

 電子公告は下記でみられます。合併存続会社であれば、会社法条文の799
を半角で検索欄に入れると表示されます。

    http://e-koukoku.moj.go.jp/

 そこに「公告アドレス」が掲載されていますが、これは登記記録に記載され
ているアドレスそのものではなく、公告文面自体のアドレスです。電子公告調
査結果通知書では、登記アドレスと公告アドレスの2つが分けて記載されてい
ます。

 なぜ10頁前後の厚さになるかというと、数分ごとにシステムが中断なく正
常に起動していたかが記録されているためです。

 この電子公告調査結果通知書を添付するたびに、完全なオンライン申請とい
うのは、委任状も議事録も添付書面の全部がこういう形になったものだと分か
りますが、登記申請人たる会社が添付ファイルの全部を電磁的記録にし電子署
名にするのは、まだまだ時間が必要でしょう。とくに取締役会議事録の電子署
名が困難です。

 ということで、ハンコ廃止による完全オンラインには関心が薄いのですが、
ひょっとして株主総会議事録も取締役会議事録も「決議通知」の電子署名でよ
いと商業登記法の改正がなされると一挙に完全オンラインが進行するのではな
いでしょうか。アナログ世代の私としては、それを希望していませんが。


2021.03.23(火)【日司連の役員】(東京・鈴木龍介)

 先般、日本司法書士会連合会(日司連)の役員選挙について取り上げました
が、今回は、そもそもの日司連の役員について取り上げてみたいと思います。

 まず、日司連の役員に関するルールは「日本司法書士会連合会会則」(会則)
の第2章の第1節に定めが設けられています。

 日司連の役員としては、会長が1名、副会長が4名以内(現在は4名)、理
事が12名~24名(現在は22名)、監事が4名以内(現在は4名)となっていま
す。

 理事のうち専務理事1名、常務理事1名、常任理事6名以内(現在は6名)
については会長が任命し、それらの理事と会長・副会長は司法書士でなければ
ならないとされています。

 なお、現実的には、慣行(?)として理事のうち1名は司法書士以外が就任
し(現在は消費者団体の役員の方です。)、その他の理事は司法書士で構成さ
れています。また、監事についても1名は司法書士以外(現在は公認会計士の
方です。)が就任するようです。

 ちなみに日司連については、組合等登記令が適用される法人ですから、登記
される役員は代表者である会長(氏名・住所)のみです。

 日司連の業務執行については、会長・副会長・理事で構成される理事会で決
定することとなっています。なお、会長・副会長・専務理事・常務理事・常任
理事で構成される常任理事会という常務の執行の決定機関も設けられています。

 役員の任期は就任後2回目の定時総会の終結の時までとなっています。つま
り、2年に1回は改選されることになりますが、再選を排除する規定はありま
せんので、いわゆる「多選」も可能ということになります。


2021.03.22(月)【印紙からの解放】(金子登志雄)

 株式会社の設立で紙の原始定款にすることは、司法書士なら、もうしていな
いでしょう。収入印紙4万円を顧客に負担させては、無能な司法書士と思われ
てしまいます。

 最近、顧客が送ってくる合併契約書の多くが、「本書1通を作り、甲が原本
を保有し、乙はその写しを保有する」となっていました。甲乙合併で契約書を
2通作成したら、4万円の収入印紙が2通分(8万円)も必要になり、もった
いないからです。10社合併なら、40万円です。

 ご承知の方も多いでしょうが、この方法は私が著書に書いたため、全国に広
まったものです。

 私が自宅マンションを買替えのために売却した際に、当事者双方が署名押印
し、印紙を貼る前に、私はそのコピーだけをもらい、原本は買主だけが作成し
ました。知り合いの税理士の勧めで、印紙税を節約するためでした。

 ところが、翌年3月に税務署で確定申告する際に、その契約の写しが問題に
なり、私は、印紙税係まで連れて行かれました。まるで脱税の取調べです。

 そこで事情を説明したところ、印紙税係さんから「そういう趣旨でしたら、
この不動産売買契約書の末尾を、『本書1通を作り、買主が原本を保有し、売
主はその写しを保有する』としておけば、無用な誤解を受けずに済んだのに」
と聞かされ、これは使えると思ったのが最初でした。

 なお、商業登記法(80条)では合併契約書が添付書面になっていますが、
会社法では合併契約となっているだけですので、登記に添付する合併契約につ
いては、印紙の有無は審査されていないようです。会社法が根拠か、印紙の有
無は合併契約の有効性と無関係であるためかは不明です。新設分割計画書では
貼られていないほうが多いのではないでしょうか。


2021.03.19(金)【ハンコ原理主義から解放】(金子登志雄)

 商業登記に従事する人なら、ご承知のとおり、印鑑提出が任意化されました。
これを「ハンコ時代の終焉→電子署名時代の幕開け」と、アナログ世代の私に
は、今後が憂鬱でした。

 一方で、法律の根拠がないのに、株主リストや資本金計上証明書には登記申
請人の届出印を押せ、払込証明書と払い込まれた通帳の写しとの間には契印を
押せという、会社法施行以後の登記実務の運用には抵抗がありました。

 委任状に届出印を押して登記の申請を担保しているのに、法律上の根拠もな
いのに添付書面にも届出印を押せというのは行き過ぎだ、登記実務を届出印原
理主義のカルト宗教の世界にするのかと反発していたわけです。

 ところが、今回の改正で「ハンコ時代の終焉→法律上の根拠がない添付書面
には押印の有無について審査を要しない」とされました。

 非公開会社の募集株式の発行でいうと、株主総会議事録だけでなく、払込証
明書、資本金計上証明書、総数引受契約も押印なしでも受理されると思います。
役員就任登記であれば、認印で足りた就任承諾書や本人確認証明書も同じです。

 しかし、押印もないとすると、「証する書面」らしさがなくなります。単に
必要事項が記載された印刷文書に過ぎないため、お勧めは致しません。

 なぜ、このような対応が許されるのかについては、委任状との間に契印はあ
りませんが、それとともに提出された書面ですし、申請人が提出した文書とい
うことで登記の真正を担保することに変わったのだと考えるしかありません。

 口頭でもよいとする「契約自由の原則」と同様に、誰でも押せる認印では証
明力が弱いことを含め、これを「添付書面の形式自由の原則」と受け止め、ハ
ンコ原理主義からの決別として好意的に評価したいと思います。

 なお、添付書面に押印もないとすると、その写しをもって原本還付する際に
若干の行き違いが生じているようですから、押印のある原本だけを還付の対象
にしたほうが安全です。


2021.03.18(木)【法定清算人の辞任】(金子登志雄)

 法定清算人は辞任することができるのかという論点があるようですね。学説
がどうなっているのかの詳細は知りませんので、以下は会社法の条文からの推
理です。

 さて、会社法478条1項に次のように定められています。
----------------------------------------------------------------------
第478条 次に掲げる者は、清算株式会社の清算人となる。
 一 取締役(次号又は第三号に掲げる者がある場合を除く。)
 二 定款で定める者
 三 株主総会の決議によって選任された者
----------------------------------------------------------------------

 この1号が法定清算人というものですが、2号や3号が会社からの委任に基
づく地位とされているのに、その委任がない場合に、清算人とされます。

 委任がないのなら委任契約の一方的解除である辞任もできないのかと思うで
しょうが、株式会社の実務では疑問も持たれず辞任登記が認められています。
会社法479条4項で清算株式会社でも役員が任期満了又は辞任で欠員した場
合の権利義務者制度が認められていますので、辞任は問題なさそうです。私も、
うろ覚えですが、昔、経験したような記憶があります。

 おそらく法定の地位だとしても、委任に基づき就任した取締役の委任の中に
会社が解散した後に定款や株主総会で選任された清算人が登場するまで清算人
となることの委任が含まれていると考えるのでしょう。

 ところが、持分会社の場合は、業務執行社員が法定清算人になります。業務
執行社員は委任に基づく地位ではありません、清算持分会社では、権利義務者
制度も準用されていません。

 そのためか、松井ハンドブック3版715頁では持分会社の法定清算人は辞
任することができないという見解が紹介されていましたが、旧商法時代の文献
の見解のため、会社法下でも通じるのかという疑問を感じました。

 立花合同会社本の改訂版(4月か5月に発売)では、立花さんと議論のうえ、
辞任肯定説を展開しました。きっと皆さまも賛成してくださることでしょう。
どんな論理展開かは、改訂版の出版までお待ちください。


2021.03.17(水)【紛らわしい実務用語】(金子登志雄)

 本欄に『「会社法」法令集〔13版〕』をご案内したら、翌日のアマゾンで
会社法本の売行きランキングで1位になりました、御礼申し上げます。

 さて、3月1日施行で「株式交付」という組織再編制度が設けられましたの
で、どこかの会社が実行したかなとネット検索しましたら、例えば、三菱商事
が「経営人材株式交付制度の導入に関するお知らせ」を開示していました。

 気が付きましたか。この「株式交付」は組織再編の株式交付ではなく、取締
役等を対象にしたインセンティブ報酬として交付する自社株式の給付制度です。

 株式交付信託という制度があるようですが、信託を使わない場合は譲渡制限
付株式といいます。譲渡制限株式ではありません。「付」がついています。株
式の内容として譲渡制限が付されているのではなく、割当契約で譲渡制限が付
されているだけです。

 前にご紹介した報酬としての事後株式交付では、株式引受権という会計用語
が登場しました。

 ヒマに任せて、金子式分かりやすい表現に変えてみました。

1.組織再編としての「株式交付」・・・「半株式交換」
  株式交換は100%子会社を作るものですが、これは議決権の50%超を
 取得することですから、半株式交換のほうが分かりやすいでしょう。

2.役員報酬としての「株式交付」・・・「株式支給」
  報酬ですから支給といったほうが通じやすいでしょう。

3.「譲渡制限付株式」・・・「譲渡制限契約付株式」

4.株式割当日までの「株式引受権」・・・「株式(報酬)申込積立金」
  株式申込証拠金みたいなものです。


2021.03.16(火)【印鑑提出の任意化(再)】(東京・鈴木龍介)

 以前、商業登記規則改正のパブコメ中に一度取りあげました「印鑑提出の任
意化」につきまして、商業登記規則が制定され、関連通達も発出され、2月15
日から施行となりましたので、あらためて自分なりに整理してみました。

 印鑑の提出とは、登記所に会社の代表者の印鑑(会社届出印。)を届け出る
制度のことですが、会社届出印とともに印鑑提出者の市町村長作成の印鑑の証
明書(個人印鑑証明書)にかかる印鑑(個人実印)を押印し、必要事項を記載
した「印鑑届書」に個人印鑑証明書を添付して登記所に提出します。

 これまでは、登記の申請人に対し、印鑑の提出を義務付けていたところ(旧
商業登記法20条1項)、本規定が削除されるとともに、一律に印鑑の提出又は登
記所において作成した印鑑証明書(会社印鑑証明書)の添付を求める規定(旧
商業登記法51条1項・87条3項・91条3項、旧商業登記規則36条の2)及び印鑑の
提出を前提とした申請の却下規定(旧商業登記法24条7号)が削除されました。
また、改正省令では申請書に押印すべき印鑑に関する規定が置かれたほか、登
記所に印鑑が提出されていない会社が存在することを前提に、代表者の印鑑に
ついて個人印鑑証明書の使用に関する規定の整備がなされました。

 印鑑の提出をするかどうかは、登記申請人が任意に決めることができること
となったわけですが、任意化後の態様としては、ⅰ)これまでどおりに印鑑の
提出、ⅱ)商業登記電子証明書の利用、ⅲ)印鑑の提出と商業登記電子証明書
の併用、ⅳ)公的個人認証サービス又は特定認証業務にかかる電子証明書の利
用、ⅴ)印鑑の提出とⅳ)にかかる電子証明書の併用が考えられます。

 一方で、書面により登記の申請する場合や登記申請にかかる委任状(商業登
記法18条)を書面で作成する場合には印鑑の提出が必須であり、登記申請書又
は委任状に会社届出印の押印が必要となります。また、会社印鑑証明書の交付
を受けるためには、当然に印鑑の提出が必要となります(商業登記法12条)。

 現時点では、会社印鑑証明書を求められることが少なくないという取引慣行
を勘案すると、前記ⅱ)又はⅳ)の電子証明書のみの利用とし、登記所に印鑑
を提出しないという選択は考え難いと思われます。
 
 印鑑の提出がなされていない場合があることを前提に、商号譲渡にかかる会
社である譲渡人の承諾書について、商号の譲渡人の承諾書に押印した印鑑と当
該譲渡人にかかる会社届出印とが同一であるときを除き、代表者の個人実印を
押印し、個人印鑑証明書を添付しなければならないとされました(商業登記規
則52条の2)。また、代表取締役等が辞任したことを証する書面(辞任届)につ
いて、辞任届に押印した印鑑と当該代表取締役等にかかる会社届出印とが同一
であるときを除き、個人実印を押印し、個人印鑑証明書を添付しなければなり
ませんが(商業登記規則61条8項)、すべての代表取締役等が印鑑の提出をして
いなければ、すべての代表取締役等の辞任の場合に当該規定が適用されること
になります。

 上記の規定は、あくまで承諾書や辞任届が書面で作成された場合の取扱いで
あり、それらが電磁的記録で作成された場合には、所定の電子証明書を送信等
することになります。なお、この取扱いは、実務で頻出する代表取締役の就任
にかかる登記申請に添付する取締役会議事録等の代表取締役等の選定を証する
書面に関する規定(商業登記規則61条6項)においても同様です。すなわち当該
取締役会議事録等が電磁的記録で作成された場合には、書面が作成されること
もなく、押印もないことから個人印鑑証明書を添付する余地はありません。


2021.03.15(月)【損な役回りの監修、校正】(金子登志雄)

 先週金曜日の立花さんの投稿によると、令和元年の会社設立数が、株式会社
87,871件、合同会社30,566件のようですが、私自身はここ数年間
合同会社の登記とは無縁です。

 かつては会計事務所などから依頼されて合同会社や一般社団の設立を何件か
経験しましたが、ここ数年は、それがなくなりました。私とお付き合いのある
会計事務所が関心を示さなくなったのかもしれません。あるいは都心事務所で
上場会社の子会社がメインの顧客だからでしょう。

 いま合同会社と私との関係は、立花合同会社本(上記トピックスの(13))
の監修作業だけです。株式会社との相違を知るうえで、私自身の勉強にもなっ
ていますし、立花原稿で私自身も新たな発見があり、お互いの役に立っていま
す。立花さんからの連絡によると、改訂版のゲラ再校正が終わったとのことで
すので、4月か5月に増補改訂版が出版されるでしょう。

 監修作業は、別の面からいうと、嫁いじめの小姑のごとく、立花さんの原稿
に、妥協せずに、ここはだめ、ここはこうしたらどうかとやかましく意見をい
っていますが、立花さんは少しも怒らないのですから、人格の高潔さに感心し
ています(腹の中は分かりませんが)。

 昔(1988年)、プレジデント社から出した『実戦M&A事典』では編集
を担当し、弁護士や会計士に執筆してもらいましたが、ダブった内容などもあ
りましたし、分量オーバーや不足もありましたので、私が調整し、内容面でも
私がだめ出ししたり、ここはこうしたらどうかなどと執筆者に同意を求めたと
ころ、そのたびに烈火のごとく、お叱りをいただいたものでした。
         http://urx.space/w7Lg

 当の私も出版社の校正が気に入らず、怒りをぶつけたことが何度もあります
ので、人のことはいえません。皆、自分の文章や作品に誇りを持っているもの
です。出版も監修も校正もプロとプロの戦いです。こうしてよいものが出来上
がって行きますので、耳障りな意見も重要だと思っています。 


2021.03.12(金)【増加する合同会社】(仙台・立花宏)

 コロナ禍の中、昨年の株式会社や合同会社の設立数はどのくらいあったので
しょうか。様々な自粛をしながらの生活のため、経済活動も消極的になり、設
立数は減少しているかもしれないと個人的に想像していました。

 法務省の登記統計は毎年5月下旬頃にならないと前年の集計がホームページ
に公開されませんが、月ごとの集計は翌月くらいに公表されています。個人的
に、特に合同会社の設立数がどのくらいあったのかが気になり、公開されてい
る月ごとの集計を合計してみました。

 すると、株式会社の設立数は85,688件、合同会社は33,236件で
した。令和元年の設立数が、株式会社87,871件、合同会社30,566
件でしたから、株式会社の設立数が少し減少したのに対し、合同会社の設立数
は約1割弱の増ということになります。

 5月頃に前年の集計が公開されたら、あらためて確認しますが、手集計をし
てみた限りでは、全体の設立数は、それほど変化はなかったけれど、合同会社
が選択される割合がさらに大きくなったということだと思います。

 設立費用や運営費用(業務執行者に法定の任期がない)が安いことなどが評
価されているのだろうと推測いたしますが、設立後のことを考えると、けっし
て株式会社よりも法務面・会計面は簡単・明快というわけではなく、使用目的
によっては、それほど使い勝手は良くないと個人的には思っています。しかし、
そうした難しさは、設立時には認識されず、数年後、会社が大きくなり、業務
執行者や出資者を増やしたり、事情によりそれらを減らしたりといった場面で
はじめて認識されるということも少なくないのかもしれません。

 そうした難しさが認識され始めているためか、2年ほど前、中央経済社様か
ら『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』を出版させていただいて以
来、いくつかの司法書士会様からお声がけをいただき、研修講師を務めさせて
いただきました。

 司法書士にとっては、株式会社のように定期的に役員改選登記等に携わるよ
うなことがなく、実務に関する経験を積む機会が少ないため、会社法施行後も
なかなか登記実務やそれに関連する法務に精通しきれていないという意識がで
てきているのではないでしょうか。年々、合同会社の数が増加するにつれ、そ
うしたその難しさを実感することが増え、研修のニーズが高くなってきている
ということなのだろうと思います。

 合同会社の数がさらに増えていけば、設立後の合同会社の運営に関する法務
の難しさが認識されていくだろうと思います。そうしたニーズにお応えできる
よう、ますます、精進していきたいと思います。


2021.03.11(木)【会社法法令集13版発売】(金子登志雄)

 今日は宣伝です。

 3月からの会社法改正を織り込んだ中央経済社の「会社法」法令集13版が
アマゾンに数日前から掲載されていたようです。
 
     http://ur0.work/U8lV

 重要条文ミニ解説担当の私よりもアマゾンのほうが情報が早いようで、表紙
の色が緑だと知ったのは、私は一昨日でした。その日に見本を中央経済社から
渡されたためです。

 アマゾンによると16日発売です。重要条文にミニ解説が必要ですから、条
文だけの商事法務「織込版 会社法関係法令全条文[全訂第2版]」よりは発売
時期が遅れると予想していましたが、同書は25日発売のようですから、先駆
けることができました。

     http://ur0.work/XHFE

 もう13版になったのかと感慨深いものがありますが、「会社法」法令集の
前身に下記の「会社法『現代化』法案」がありますので、これを含めると会社
法施行の1年前の2005年から続いています。

     http://ur0.work/sWI9

 現代化法案が出た瞬間に拙著の中央経済の編集者S氏(現在は定年退職済)
から「中央経済でも新会社法について条文集を出すことにした」と聞かされ、
私が「条文集は条文を本にするだけだから出版といえるのか、商事法務なども
出すだろうから、やめたほうがいいよ」とため口をしましたところ、S氏が怒
って、「じゃあ、どうすればよいのだ」というので、私が三省堂の判例付六法
(模範六法)が法律家の間で評判なので、それを真似したらどうか。ただし、
新会社法には判例がないので条文にミニ解説をつけたらどうか、いま自分用に
作っているところだ」と話したところ、「ぜひ、それを利用させてくれ」とい
われたのが最初でした。

 当時は、ここまで続くとは考えもしませんでしたが、中央経済のみやすい編
集にも助けられ、不動の長期ベストセラーになりました。

 来週には書店にも並ぶでしょう。ぜひご検討ください。


2021.03.10(水)【仮常勤監査役】(金子登志雄)

 取締役の員数は3名以上と定款で定められている取締役会設置会社の取締役
がABCDの4名(Aは代表取締役)でしたが、Aが死亡してしまいました。
BCDは非常勤取締役であり、誰も代表取締役になる気がありません。株主が
多数の会社であるため、臨時株主総会を開いて後任の代表取締役である取締役
を選任するのも容易ではありません。

 こういう場合は会社法351条2項で仮代表取締役の選任を裁判所に求める
しかないでしょう。裁判所が選任する仮役員というと弁護士を選任することが
多いようですが、代表取締役にはふさわしくないため、会社の方で適任者をみ
つけて、選任をお願いするしかありません。

 では、この会社が監査役会設置会社で監査役PQRS(Pは常勤監査役)で
Pが死亡し、QRSは弁護士や会計士で常勤になる気がなかった場合は、仮常
勤監査役を選任することができるでしょうか。

 こういう質問を受けたのですが、仮代表取締役と相違し、会社法には仮常勤
監査役の規定がありません。そこで、私は、いったんは無理でしょうと答えた
のですが、監査役が3名存在しても社外監査役が法定員数を欠けば、仮社外監
査役も認められるため、もしかしたらと思い、ネット検索しましたら、下記が
みつかりました。

      http://urx3.nu/gLC
     
 この会社ではPQRSのうちPQRの3名が社外監査役ですから、Pが退任
しても社外監査役の定数を満たしているため、仮社外監査役を選任する必要は
ありません。単に常勤監査役が欠けた場合になります。上記の開示によると、
これも「会社法346条第2項に定める仮監査役の選任」とありますが、その
規定に補足範囲に入るのでしょうか。法の規定の不備としか思えませんでした。


2021.3.09(火)【日司連の役員選挙】(東京・鈴木龍介)

 前回は、日本司法書士会連合会(日司連)の役員選挙の見直しがなされたこ
とをお伝えしましたが、今回は、そもそもの日司連の役員選挙について取り上
げてみたいと思います。

 まず、日司連というのは、その名のとおり各法務局単位で設けられている全
国50の司法書士会(単位会)が構成されています。そして、日司連の役員と
しては会長・副会長・理事・監事があり、基本的には司法書士の中から選挙で
選ばれます(指名枠や推薦枠というのもありますが、ここでは割愛します。)。

 現在、司法書士は約23,000名いますが、各司法書士に選挙権があるわ
けではありません。選挙権のある有権者は、各単位会の会長と各単位会で選出
された代議員の合計約300名です。イメージとしてはアメリカ大統領選挙み
たいな感じでしょうか。

 次に、各単位会の代議員ですが、所属している司法書士100名につき1名
の割合で代議員が振り分けられ、端数は切り上げることになっています。たと
えば198名の司法書士が所属している単位会の代議員枠は2名で、205名
の司法書士が所属している単位会の代議員枠は3名です。ちなみに所属してい
る司法書士が100名を切る単位会の代議員枠は1名となっています。つまり、
さきほどの各単位会の会長を加え、少なくとも各単位会の1名の代議員の都合
2名の有権者がいるということになります。

 なお、各単位会での代議員の選出の仕方は一律ではありませんが、所属する
司法書士が少数の単位会では会長の指名で、多数の単位会では会長の指名と選
挙というのが一般的です。ちなみに東京司法書士会の代議員の選挙の場合には、
さらに各支部(千代田とか新宿とか)に支部代議員が割り振られ、支部代議員
の投票によることになります。

 具体的な日司連の役員選挙の方法はというと、会長・副会長・監事について
は、有権者1名が1票を持ち投票します。理事については有権者1名が3票を
持ち、最大3名の候補者に投票することができます(累積投票制度は採用され
ていません。)。

 各有権者はもちろん個人の考えに基づいて投票をするわけですが、バックボ
ーンや地縁といった、悪くいえば“しがらみ”の影響も少なからずあるようで
す。とはいうものの、僭越ながら業界を牽引する人を選ぶわけですから、各単
位会の会長ならびに代議員になられたか方々には見識と覚悟をもって、本当に
役に立つ人を選んでほしいと思います。


2021.03.08(月)【押印、捺印、拇印】(金子登志雄)

 愛知県知事リコール不正署名問題の捜査が進んでおり、事務局を仕切ってい
た政党「維新」に逆風が吹いているようですが、それはともかく、この不正署
名には拇印が多いようです。サインしたのに、何らかの押印まで必要のようで
すが、登記で拇印は通じるでしょうか。

 管轄外本店移転の印鑑届の委任状の個人としての押印欄に会社実印が押され
ていたことがあります。皆さんだったら、どうしますか。差し替えてくれとい
いますか。私は「ここの押印には印鑑証明が不要なので、これでも問題ないと
考えます」と付箋を貼って提出しましたところ、無事に終わりました。

 もし、ここが拇印であったら、もし、就任承諾書の記名押印が拇印であった
ら、登記は無事に終わるのか実験したいものですが、経験ある方はいらっしゃ
いますか。印鑑照合が不要ですし、証する書面としては適式だと思うのですが、
受理されるかどうかは不明です。

 そもそも偽造が簡単な認印の場合は押印の意味があるのでしょうか。ないと
しても記名だけでは印刷文書も同様で意味がないので、ご本人の意思表明のハ
ンコが押されていると信じて意味があると考えるしかないでしょう。

 ところで、ネット検索したら、押印と捺印は意味が相違するのだそうです。
記名に対してハンコを押すのが押印であって、署名(サイン)に対して押印す
るのが捺印なんだそうです。しかし、昔習った手形法や小切手法には、「記名
捺印」とありましたので、決めつける必要はないと考えます。

 手形法で習いましたが、署名欄に「金子登志雄」とサインし、鈴木のハンコ
で押印しても有効です。金子の届出印として鈴木印を届け出ていた場合の話で
す。商号変更でも有限会社が株式会社に移行した際でも旧印鑑を届出印にした
ままにできるのはこのためです。登記の印鑑届で拇印は無理です。拇印は「印
鑑」とはいえませんし、印鑑照合が不可能であるためです。


2021.03.05(金)【WEB会議その4(議事録署名不要方法)】
                           
(金子登志雄)

 WEB会議の連載で「親会社の役員が子会社の役員を兼任し非常勤役員の多
い上場会社の子会社を中心にだいぶ浸透している」こと、現実に身体を出席さ
せたわけではないので取締役会議事録の押印に時間がかかることを問題にして
きました。ここで、究極の方法をご提案しますが、何だと思いますか。

 取締役会を廃止してしまえばよいという意見もあるでしょう。これも1つの
方法です。非取締役会の決定方法は会議ではないため、取締役個々の同意書を
集めれば足ります。

 しかし、上場会社では子会社も取締役会設置会社にして、権威を保つところ
がありますので、この方法は採用しにくいでしょう。では、どうすればよいで
しょうか。

 拙著の読者であれば気づいた方もいらっしゃると信じていますが、「出席取
締役の署名を集めるのが大変→署名のない方法にすればよい→株主総会で決定
すればよい」と思考すればよいのです。簡単な話です。

 定款に「会社法第295条第2項に基づき、取締役会決議事項の全て(又は
登記事項に関わる取締役会決議事項の全て)につき、株主総会で決議すること
できる」と定めておけばよいのです(いちいち登記申請の都度、定款を添付
するのが面倒だと思ったら、その都度、臨時に定めればよいのです)。

 これで代表取締役の選定も管轄外本店移転も自己株式の消却も株主総会で定
めれば、取締役個々の署名が不要になります。株主1名ですから、319条の
書面決議ですればよいのです。この方法は、取締役会の決議で定めることを排
除していませんから(排除はできません)、会社に不利益は何1つありません。

 ・・・と私が提案しても、何か後ろめたいことでもする意識があるのか、定
款変更が稟議事項であるためか、採用してくれる上場会社の子会社は少ないと
いえます。波風を立てないのがサラリーマンとして生きる道だからでしょうか。
取締役会のWEB会議が増えて行けば、きっと金子方式も増えて行くと信じて
います。


2021.03.04(木)【WEB会議その3(議事録署名)】(金子登志雄)

 金曜日の本欄は結構反響がありましたが、WEB会議後の取締役等の押印に
つき、早期に完了させるよい方法はないかといったご意見も寄せられました。

 事務局が取締役の印鑑を預かっておき、議事録案をメールの添付ファイルで
送付し、取締役個々の明確な承諾を得て事務局が代理して記名押印する例が多
いのですが、会社によっては、コンプライアンスの関係で、これを嫌うところ
もありますので、確かに押印には時間がかかります。自署(サイン)まで要求
する会社もあります。

 私としては、後者の厳格な会社にあっても、登記に関係する議案だけの取締
役会議事録を作成し、これについては代理記名押印方式にし、全議案に関する
会社保存用議事録は時間をかけてご本人自ら記名押印又はサインする方法が最
も便利だと考えます。議案ごとに議事録を作成してはいけないとの規定はあり
ませんし、議事録は1つとは限らないと考えているためです(前者の場合に、
議事録「抄本」などと余計な記載をすると原本でないことを自認したのも同様
ですが、各自の記名押印があれば登記でも受理されています。「抄本=写し」
ではなく、「抄本=原本の一部」として善解されるのだと思っています)。

 なお、遺産分割協議の証明書のように相続人各自が個々に証明したものと同
様に、取締役各自が議事録に押印し、全員分の議事録を提出した場合にも受理
されることもあるようですが、会議体の議事録としては不適切でしょう(昭和
36年5月1日民事四第81号も否定説)、各自が記名押印しただけの文書を
1つの議事録に合綴する方法であれば問題ないでしょうが、そこまでするなら、
代理押印のほうが自然でしょう。やはり、ハンコ文化は便利です。


2021.03.03(水)【相続登記の義務化について】(島根・根来川弘充)

 先月(2月)不動産について相続登記が義務化される法改正がなされること
が、報道されました。

 なんとなくではありますが、相続登記について相談が増えた気がします。日
常の業務として相続登記に関わるものとして、以下、皆さんの参考になればと
思います。

 一般の方が相続登記をする際、一番大変な作業と思われますのは、戸籍収集
です。親から子といったケースは収集しやすいのですが、故人の兄弟、相続人
の兄弟といったケースは、たちまち困難になります。主となって動かれる相続
人に負担が大きくなる状況は、避けて欲しいと思います。

 また、不動産の調査については、一般的には固定資産が課されていることか
ら、各自治体が発行する固定資産課税台帳を参考にするケースが多いです。

 見落としてしまうおそれがあるのは、課税がされていない不動産です。固定
資産の評価額が低く、非課税の対象となっている不動産は多々あります。

 また、共有地の場合、他の方の土地として課税台帳に記載されていることか
ら、気づかないといったケースもあります。

 今回の改正では、法務省が不動産一覧を発行するとのことですので、この問
題が解消されることを期待したいと思います。

 また、ご依頼を受ける立場としては、どれだけふえるのか、今から不安に感
じる点はあります。専門職ですら不安を感じるのですから、この不安に乗じて、
悪質商法が出てくることも十分考えられます。

 正しい情報を正しく伝える体制を、国だけで無く司法書士界全体で、整備す
る必要があるだろうと思います。


2021.03.02(火)【日司連の臨時総会】(東京・鈴木龍介)

 今回は、司法書士の皆さんにしかわからない(関係ない)話題かもしれませ
んが、先週の2月24日(水)に日本司法書士会連合会(日司連)の第85回
臨時総会が(リアルで)開催されました(通常は 年1回の定時だけです。)。

 今回、臨時総会を開催してまで決めなければいけなかったのは、日司連の役
員選挙の仕組みの見直しです。議案は1つだけであり、“連合会役員選任にお
ける電子的投票による選挙のための「日司連役員選任の特例に関する規則」の
制定”であり、原案どおり可決されました。

 同規則は、コロナ禍(他の災害等の場合も適用することができる特例ではあ
ります。)を勘案し、これまで定時総会当日、リアルに紙で投票していた日司
連の役員選挙について、オンラインによる投票を可能にするというものです。
具体的には本来の役員任期である定時総会前に、オンラインによる投票を行い、
定時総会ではその結果を踏まえて信任投票を行います。事実上、オンラインに
よる投票によって当落が決まるということになります。
 
 コロナ禍における今年の日司連役員選挙は同規則が適用されることになるわ
けですが、いわゆる選挙運動についても、これまでとは異なったものになろう
と思われます。どのような変化や影響があるのかはわかりませんが、司法書士
界のあらたなリーダーを決める選挙になりますので、その動向には注目してお
きたいと思います。


2021.03.01(月)【WEB会議その2(議事録形式)】(金子登志雄)

 金曜日の本欄は結構反響がありました。本欄投稿者の古山さんからは、関東
地区の数か所の登記所に取締役全員がWEB参加の議事録を提出したが、何の
問い合わせもなく無事に受理されたと連絡がありました。

 親会社の役員が子会社の役員を兼任し非常勤役員の多い上場会社の子会社を
中心にだいぶ浸透しているようです。そうでない中小企業では取締役全員が業
務執行に従事しているため、出社しているでしょうし、家族経営の会社では、
WEB参加のニーズが少ないためです。

 WEB会議と書きましたが、この会議については、電話会議、テレビ会議、
ビデオ会議、リモート会議など様々な表現がなされており、混乱しやすいので
すが、ほぼ同じとみて差し支えありません。ただ、音声だけで画面のない電話
会議や設備に費用のかかるテレビ会議はもう時代遅れでしょう。

 次に電話会議時代の古い議事録には、本店と〇〇(支店や工場)の会議室を
利用するなど、複数の会場にし、前者には取締役AとBが、後者にはCとDE
が出席し………などと記載されることが多かったのですが、現在は、会場は本
店会議室のみで、取締役CDEにつきWEB出席などと記載する例がほとんど
です。

 なお、「本会議システムでは、出席者の音声が即時に他の出席者に伝わり、
出席者が一堂に会するのと同等に適時適確な意見表明が互いにできる状態にな
っていることを確認し」などと記載するのが通常ですが、記載せずとも登記が
受理されているという報告も受けたことがあります。WEB会議に慣れてきた
証拠でしょう。私も現在では議事録への必須記載事項とは思っていませんが、
単にWEB会議にてではなく、ZOOMを利用して……などと「出席者が一堂
に会するのと同等に適時適確な意見表明が互いにできるシステム」の名称を明
記したから順調に受理されたのだと想像しています。

 また、システムの中断がなかったと記載する例も時折みかけますが、これは
完全に不要だと思います。電子公告でもあるまいし、中断があっても再開した
から会議が無事に終了したはずだからです。

(追記)
 清算目的で登記したという札幌法務局での実例を教わりました。平成27年
のものでした。登記所によって対応が異なるのか、依頼者又は司法書士によっ
て異なるのかは依然不明ですが、登記可能説がやはり優勢だと思いました。 


2021.02.26(金)【取締役全員がWEB参加の取締役会議事録】
                           
(金子登志雄)

 昨日顧客から示された簡易合併決議の取締役会議事録は本店会議室を会場と
するWEB会議で、何と取締役及び監査役の全員がWEB参加でした(私が勧
めたのですが)。これで登記は無事に受理されるでしょうか。

 ネット検索等によると、弁護士見解は社長の自宅を会議室にすれば大丈夫な
ような書きぶりでした。

 結論からいうと全く問題なく、社長の自宅を会場にするなどは実務に疎い人
の発想です。現実に自宅に押し掛けられたら、社長のご家族も迷惑でしょう。
それ以前に、取締役会には事務局が書記として参加しますから、本店会議室が
最も便利であり、招集場所も本店会議室として招集するのが一般なはずです。
会議には「招集」という概念があることをよく考えるべきです。

 次に、会議への「出席」とは、会社法施行規則101条(総会は72条)に
「当該場所に存しない取締役、………が取締役会に出席をした場合における当
該出席の方法を含む」とあるとおり、議事(討論)や決議に参加することであ
って、肉体を会場に存在させる必要はありません。

 実例もあります。ソフトバンクの昨年6月24日開催の定時株主総会(取締
役全員改選議案あり)及びその直後の取締役会(代表者選定議案あり)には取
締役及び監査役の一人もリアル出席をしておらずビデオ会議システムにより参
加と記載されています。

 念のため、私も昨年の8月5日に東京法務局に照会し、11日にOKをもら
っていますので、不慣れな管轄登記所に申請する際は、その旨を説明してくだ
さい。

 なお、バーチャル総会(4月21日本欄の鈴木解説参照)と勘違いされやす
いのでお気を付けください。バーチャル会議はインターネット空間での会議で
あって、現実の会議室がありません。WEB会議は会場があり、肉体は会場の
外にあっても画面や電話で議事に参加する方法でありリアル会議の1つです。
相澤ほか編著『論点解説 新・会社法の解説』Q637により、自宅から参加
とか、喫茶店から参加などに触れる必要もありません。


2021.02.25(木)【株式に関する単独行為と契約】金子登志雄

 3月1日施行の改正会社法で相手会社の株式を譲り受けて議決権の過半数を
取得し子会社にする「株式交付」という組織再編が登場することは、もうご存
じだと思います。

 ユニークなのは、新会社の設立ではないため吸収型再編の1つとされながら、
「株式交付計画」という単独行為とされていることです。子会社候補との契約
ではありません(株式交換と対比)。ただし、その実行においては、子会社の
株主との個々の株式譲渡契約が必要です。

 現行の募集株式の発行等の一つである株主割当ては、株主の承諾が必要では
ないため単独行為とされています。株式引受権の付与です。株主が申し込めば、
その効果として株式引受契約が成立します。株主割当自体は単独行為だが、そ
の最終効果は契約の発生というわけです。

 改正会社法では、上場会社の取締役(及び執行役)を対象に現実の出資が不
要な募集株式の発行等が認められました。出資が不要なら、株式の無償割当て
と同様に単独行為かなと思えど、募集株式の交付とされ株式割当契約の1つで
す。贈与契約かなと思えど、職務執行(役務提供)の対価とされていますので、
純粋の無償ではありません。有利発行とは解されないため負担付贈与ともいえ
ないでしょう。

 何をいいたいかというと、社会が複雑化し、従来の「単独行為、契約、合同
行為」という単純な分類の維持が徐々に困難になってきたということです。機
関構成の代表権付与のときから、これを感じていますが、とうとう株式問題で
も生じてきました。

 分かりやすい法律を目指して会社法が成立したはずなのに、ますます複雑怪
奇なものになり、会社法が理解できずに弁護士や司法書士になるのを断念する
方が増えるのではないでしょうか。


2021.02.24(水)【犯罪事実の認定の難しさ】(金子登志雄)

 愛知県知事リコール問題では、佐賀県内でアルバイトを雇い不正署名が大量
になされたことが発覚していますが、リコール署名運動の責任者である高須氏
や河村名古屋市長は、「知らない、無関係だ、印象操作だ」と激怒するポーズ
をするだけで、責任者として事務局が本当に業者に発注したのかなどの内部調
査もしていないのか実に無責任であり、ネットでも批判が渦巻いています。

 この問題に関連して、犯罪に問われるのは誰かと考えていますので、たまに
は刑事犯罪の話題を取り上げてきました。「ものの見方、考え方、捉え方」の
訓練に役立ちそうだからです。

 まず、佐賀県内で有権者名簿の書き写しをしたアルバイトは相当な数になる
はずなのに、名乗り出てくる人が少ないのは、偽造犯に問われる恐怖があるか
らでしょうか。

 法律の素人の方には単なるアルバイトには故意がなく偽造になるわけがない
と思うでしょうが、リコール署名を書き写しているという「事実の認識」があ
るので「故意」はあります。途中から偽造に気づいたでしょうから違法性の意
識もあったでしょう(この意識は判例では犯罪の要件とはされていませんが)。
よって、偽造の実行正犯にはなりますが、一種の群衆と同じで、彼・彼女らが
起訴されるとは思えませんので、安心して名乗り出てほしいものです。

 次に、このアルバイトを単なる道具とみて、アルバイトを監督し指導してい
た者を間接正犯に問えるでしょうか。しかし、上記のように私はアルバイトを
道具とは思えませんので、間接正犯というよりも犯罪現場での指揮者として実
行正犯だと思っています。偽造を知りつつアルバイトを募集した広告会社の幹
部も同様でしょう。

 問題は広告会社に依頼したリコール事務局です(事務局は依頼を否定してい
ますので、依頼したという前提です)。最も罪が重い立場ですが、偽造を依頼
したのではなくリコール活動に従事する人材の募集を依頼しただけだと言い逃
れした場合には、犯罪の立証が難しく感じます。

 これは米国での議会乱入にトランプ氏の言動が犯罪になるのか難しいのと同
様です。トランプ氏としては「議事堂に行き抗議の声を上げようと呼びかけた
が、乱入までは教唆していない」と言い逃れるでしょう。

 というようなことを徒然なるままに思っているのですが、事実に争いの少な
い商業登記と相違し刑事問題は難しいものだと思うこの頃です。


2021.02.22(月)【吸収型再編の甲と乙】(金子登志雄)
 
 不思議なもので、事業譲渡契約書の場合は、譲渡側を甲、譲受側を乙とする
ことが多いのに、吸収合併になると、吸収側を甲、被吸収側を乙にします。と
ころが、会社法2条の定義では、吸収合併とは「会社が他の会社とする合併で
あって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承
継させるもの」とあり、吸収合併するのは消滅会社です。

 会社法2条によると吸収分割も「株式会社又は合同会社がその事業に関して
有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させること」です。

 ところが、登記においては吸収合併でも吸収分割でも吸収する側を基準に規
定が設けられており、債権者異議の公告でも吸収する側を甲としています。

 事業譲渡契約に準じて吸収分割契約でも分割会社を甲、承継会社を乙とする
事例が少なくありません。この場合の連名公告につき、公告のひな形に応じて
承継会社を甲とする内容にすることが多いのですが、分割契約書に合わせて分
割会社を甲にし「甲は承継させ乙は承継する」という内容の公告も当然に有効
です。

 いま相談を受けている事例では、ある会社では承継会社を甲、別の会社では
分割会社を甲にしました。前者は会社が公告文案を送ってきたためであり、後
者は私が2種類の文案を作成し、どちらにしますかと聞き、後者にしたもので、
他意はありません。

 慣れないうちはひな型どおりにしても、慣れてくると創意工夫したくなりま
す。これも商業登記の面白さの1つです。


2021.02.19(金)【清算目的の登記の可否その2】(金子登志雄)

 1月29日の本欄で、清算目的(会社法第2編第9章の定めるところにより
清算することを目的とする)を登記することができるかにつき問題にしました。

 読者から定款に「株券を発行しない」と定めても登記することができないの
と同様に無意味なことは商業登記法24条2号の「申請が登記すべき事項以外
の事項の登記を目的とするとき」に該当し却下事由になるのではないかという
ご意見をいただきましたので、再び、取り上げてみました。

 まず、会社法911条3項の登記事項につき「株券発行会社であるときは」、
「新株予約権を発行したときは」などと条件付で登記事項とされているものは、
条件が成就しないと登記できませんが、「目的」「商号」「本店の所在場所」
「資本金の額」などは必要的登記事項であり、条件付ではないため、必ず何ら
かを登記しなければなりません。

 次に、この「目的」は事業目的のことで、清算目的を含まないという考え方
は可能でしょうか。しかし、松井ハンドブック第3版524頁に「一般に、清
算の目的に反しない限り定款の変更は可能である(新版注釈会社法03)264頁)
とされ、本店移転その他定款の変更による変更登記については、解散前の会社
と同様に、可能であるものと解される」とあり、これには清算目的に反しない
「目的」も含まれると思います。

 無意味という意味では、事業会社であっても「営利事業」と目的を包括的に
定めるのは無意味ともいえそうですが、全ての営利事業を目的とし、違法な事
業は目的としないという意味では意味があるといえるでしょう。

 民法34条に「法人は、・・・定款・・・で定められた目的の範囲内におい
て、権利を有し、義務を負う」とあるのに、上記の目的は会社法476条「清
算をする株式会社は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではな
お存続するものとみなす」そのものであり、定款で定めた目的とは言い難いと
論拠はいかがでしょうか。しかし、会社は「清算することを目的とする」と包
括的に定款に定めたのであって、会社法476条そのものではありません。

 やはり、申請したら受理されてよいのではないでしょうか。


2021.02.18(木)【商業登記規則改正】(仙台・立花宏)

 ちょうど、布団に入り、気持ちよく眠りに落ちた直後でした。家の障子等が
カタカタと音を立て始めたのと同時に、体が背中から強く突き上げられるよう
な、そんな感覚に襲われました。

 もう少しで東日本大震災から10年になりますが、その直前ともいえる2月
13日の大きな地震には、個人的には、東日本大震災以来ともいえるような恐
怖を感じました。

 ただ、今回の地震で被災された方には申し訳ない気持ちになりますが、自宅
は机の上に積んであった本が床に落ちた程度で済みました。なお、翌日、事務
所に出てみると、パッと見たところ本が落ちたりした程度でしたが、よく事務
所の中を見回すと、なんとなく、レイアウトに違和感を覚えました。よく見る
と、コピー機や机等が10センチ以上、動いてずれていたのです。さらに、賃
借している事務所にもともと備え付けてあった100kg以上はあると思われ
る耐火金庫も10センチ以上動いてずれているのを見つけました。自然の力を
まざまざと見せつけられた思いがしました。

 なお、地震の直後から、友人等から安否確認のご連絡をいただきました。お
かげさまで、不安な気持ちから、落ち着きを取り戻すことができました。この
場をお借りして、御礼申し上げます。

 その地震の翌々日の2月15日から改正商業登記規則が施行されました。印
鑑の提出が任意になった等の変更点がありましたが、どのくらい実務に影響が
あるのかは、まだ実感できず、個人的には様子見の状況です。

 ひとつ気になっているのが、今後、印鑑提出や商業登記電子証明書を取得せ
ず、公的個人認証サービスの電子証明書を利用して登記を申請するのがどのく
らい普及するだろうかという点です。特に、このケースの場合、代表取締役の
変更登記の際に、取締役会議事録等には、原則として出席取締役及び監査役全
員が公的個人認証サービスの電子証明書を記録することになるのだろうと思い
ますが(注)、商業登記規則第61条6項のただし書の扱いはどうなるのでし
ょうか。

 取締役会議事録を書面で作成している場合は、印鑑提出をしていれば、変更
前の代表取締役がその提出している印鑑を押印することにより、他の取締役及
び監査役の印鑑についての印鑑証明書の添付は不要です。しかし、前記のケー
スは、商業登記電子証明書すら取得していませんから、署名義務のある取締役
及び監査役は全員、公的個人認証サービスの電子証明書を記録しなければなら
ないようにも思えます。もっとも、変更前の代表取締役が商業登記電子証明書
を記録した場合に、他の取締役及び監査役が他の電子証明書でよいのかという
点も、商業登記規則や通達からは個人的にははっきり読み取れませんでした。

 そこで、法務省のホームページを確認したところ、以下の添付書面情報の注
6にコメントがありました。

   http://www.moj.go.jp/MINJI/minji41-1.html

 要約すると、「変更前の代表取締役が商業登記電子証明書又は公的個人認証
サービス電子証明書を記録すれば、他の取締役はそれ以外の一定の電子証明書
で足りる」というものです。

 代表取締役が公的個人認証サービスの電子証明書を記録することにより、商
業登記規則第61条6項のただし書の適用があるというのは、個人的には意外
に感じました。取締役会議事録を書面で作成した場合でいえば、代表取締役が
個人の実印を押印し印鑑証明書を添付したのと同じようなイメージで、この場
合は、他の取締役及び監査役の実印での押印と印鑑証明書の添付は省略できな
いからです。

 推測にすぎませんが、電子証明書を利用する場合は、商業登記規則第61条
6項の「議事録の印鑑と変更前の代表取締役が登記所に提出している印と同一
であるとき」の部分を、「電磁的記録である取締役会議事録に変更前の代表取
締役が、会社の登記を申請する際に利用することが可能な電子証明を記録して
いるとき」等と読み替えて解釈しているのかもしれません。

 今後、このあたりの詳しい解説が出ることを期待したいと思います。

 注)特定認証業務電子証明書については、今回のコラムでは省略させていた
  だきます。


2021.02.17(水)【立法者本 VS 弁護士本】
(金子登志雄)

 法律学は暗記ものではなく解釈学ですが、規定が不親切・不明確なせいで生
じた興味ある解釈をご紹介します。

1.会社法810条2項
 A社とB社が新設合併・共同新設分割・共同株式移転する場合の債権者保護
手続に関する公告・催告文には、次の事項を記載しなければなりません。
 一 新設合併等をする旨
 二 他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所
 三 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
 四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

 では、A株式会社が単独で公告する場合に、B株式会社の計算書類について
の記載が必要でしょうか。

 3号の「消滅会社等」の解釈問題ですが、立法担当者の解説は「含む」であ
り(『新・会社法の解説』207頁)、弁護士本は「含まない」です(森・濱
田松本『組織再編』265頁)。要は「消滅会社等」とは自社のことか、共同
者も含むかの解釈問題です。

2.改正会社法509条1項3号
 本条で清算株式会社には「第五章中株式交換、株式移転及び株式交付の手続
に係る部分」は適用しないとあり、株式交付が加わりました。

 株式交付とは相手会社の過半数の議決権を握る半株式交換みたいなものです
が、「株式交付計画」でもお分かりのとおり、契約ではありません。相手会社
の個々の株主から取得する行為であり、相手会社は契約当事者ではありません。

 では、清算株式会社も株式交付子会社にはなれるのか、いや「手続に係る部
分」とあり子会社側の株主の譲渡を含むから、なれないというべきか。立法担
当者の『一問一答』196頁では「なれない」と説明し、日弁連『改正会社法』
241頁では「なれる」と説明しています。

3.結論
 規定の趣旨からすると立法担当者の説明も理解することができますが、それ
を明確に表現しなかったので、弁護士本のような解釈が生じるわけです。1に
ついては2号に「他の」とありますから、3号では「全消滅株式会社等」とす
れば誤解が生じませんでした。2については「手続に係る部分」とありますか
ら「結果的に」清算株式会社は株式交付子会社になれないのと同様であると説
明すべきでした(「『会社法』法令集」のミニ解説では立法担当者見解を採用
しましたが、弁護士本の解釈には無理もないと同情しています)。


2021.02.16(火)【民法・不動産登記法の改正】(東京・鈴木龍介)

 法制審議会で検討されていました民法・不動産登記法の改正について、「民
法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」がとりま
とまられ、今国会に法案が上程される見込みとなりました。

 要綱案のタイトルどおり、政策課題でもある所有者不明土地を解消するため
の立法ですが、以下のようなあたりがポイントかと思われます(個人的な一言
コメント付)。

1.土地・建物の相続登記を義務化
  相続開始から3年以内に誰が、どれだけ相続するかを登記し、登記しなけ
 れば10万円以下の過料
 ・・・どうやって過料の対象を探索し、どのような手続になるのでしょうね。

2.相続人申告登記制度を新設
  登記期限に間に合わない場合、相続人の氏名・住所などを登記
 ・・・この登記には司法書士が関与するのでしょうかね。

3.不動産所有者の住所、氏名変更登記を義務化
  住所変更などを2年以内に登記し、登記しなければ5万円以下の過料
 ・・・どうやって過料の対象を探索し、どのような手続になるのでしょうね。

4.遺産分割協議の期間を設定
  相続開始から10年を過ぎると原則として法定相続割合で相続
 ・・・“相続放置”(放棄ではないです)に効果があるのでしょうかね。

5.土地所有権の国庫帰属制度を新設
  国が一定の条件を満たす土地を引取り
 ・・・ある意味、画期的ともいえる“所有権放棄”ですね。


2021.02.15(月)【時代遅れのオッサン文化】(金子登志雄)

 13日深夜の福島・宮城沖の震度6の地震は関東地方でも大きく揺れました。
被災地の皆様にお見舞い申し上げます。仙台の立花さん、大丈夫でしたか。

 さて、五輪組織委会長問題で川渕さんはご本人も認めるとおり、実に迂闊で
した。持ち前のサービス精神で、森さんに外堀を埋められ断れなかった(官邸
も小池知事その他も了承済という意味でしょう)、森さんの泣きにほだされた
とか、森さんを相談役にとか饒舌な浪花節で語ってしまい、会長選任のルール
やプロセス、世論動向などを完全に失念していました。

 森さんとしては後任がお仲間でないと自分のこれまでの行いの数々が表にで
て困るということも計算したのでしょうが(安倍さんが強引に黒川弘務氏を検
事総長にしようとしたのと同じく、えてして権力者はこういう動きをします)、
川渕さんの真正直発言で、その目論見は崩れました。

 きっと、川渕さんも森さんもボス歴が長く、関係するボス同士の交渉で決ま
れば、あとは形式的な事後承認があるのみと思ってしまったのでしょうが、い
まや、日本のオッサン文化、すなわち安倍政権の後ろ盾になった「日本会議」
風の「オンナ子供(及び下っ端)は黙っておれ」(物事はまともな大の男が決
めるものだ)が通用しない時代になっていることを見誤ってしまいました。

 これを機に、今後は、オッサン文化の巣窟である自民党内でも、表向きは女
性活躍時代などといいながら、夫婦別姓や女性天皇制には反対し、伊藤詩織さ
ん問題や長年の慰安婦問題などへの対応も、徐々に改善されて行くのではない
でしょうか。そうしなければ世界に遅れをとり少子高齢化も改善されません。

 五輪問題よりも私はもっと深刻な米国のトランプ問題と女性議員の反撃のほ
うに関心があります。トランプ氏による女性差別等に反発し、立ち上がってい
る女性として、民主党では、反トランプ急先鋒のペロシ下院議長、若手のオカ
シオ・コルテス議員、共和党では、リズ・チェイニー議員などがいます。

 現状ではチェイニー議員など共和党内の少数の反トランプ議員は、トランプ
支持の多い共和党支持者の間で裏切者扱いされ次の選挙も危ういのに、信念を
貫いているのですから、立派というしかありません。今後何年かかるかわかり
ませんが、トランプ氏の悪行が徐々に明らかにされ、彼に対する熱病も冷めて
行くでしょうから、歴史は間違いなく彼女らを評価すると思っています。

 ネットにオッサン度(内なる喜朗度)チェックがありました。皆様もどうぞ。
私は安全圏でした。昭和オヤジですが、変わり者の多い団塊の世代で、かつ体
育会系ではないことが幸いしたのかもしれません。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6e351e6fdcb278af6552ec701eb6798c4cfe2914


2021.02.12(金)【無償株式報酬と資本金】
(金子登志雄)

 3月施行の改正会社法で現実の出資不要(又は一種の労務出資)の株式報酬
が上場会社の取締役限定で認められますが、出資がないのにどうやって資本金
の額を決めるのかとずっと疑問に思っていました。

 インセンティブ報酬だから今後提供される一定期間の役務の対価だといって
も、取締役ごとに役務の対価が相違する点はどうするのでしょうか。そういう
問題もあるので、利益剰余金の資本組入れが最も妥当だと思っていました。

 新会計基準が1月下旬に公表され、やっと分かりました。計算規則でいうと、
42条の2と3であり、次の方式です。

(1)事前交付型
 権利譲渡の禁止期間を今後3年間(36か月)、その間に提供される役務の
対価として金〇〇万円の株式報酬を渡し、最初の決算期末までに6か月だとす
ると、期末時点で36分の6を資本金等に計上し、次の決算期末には36分の
18から前期分までを控除した金額を計上し………で、毎決算期ごとに資本金
等を増加させます。

 言い換えると、それまでの間、金銭報酬費用を支出せずに済んだ会社の利益
の資本組入れみたいなものです(この点で私の上記想定は3割程度だけ合って
いました)。まるで、資本金の分割払いのごとしです。

(2)事後交付型
 上記を決算期ごとに「株式引受権」として計上し、期限が来たら、それを資
本金等に振り替えます。株式申込金の積立みたいなものです。

 なるほどと思いました。株式報酬として交付すると決めた段階で報酬額が決
まっており、それを経過期間で案分するのであって、今後の役務の価値をその
都度計算するのではありませんでした。貢献度(報酬額)については過去のそ
れを基準に、A取締役には100万円、Bには80万円などとしているので、
将来の働き具合は計算に入れないようです。

 上記のうち事後交付なら、株式の発行と資本金の計上時期が一致するので従
来の路線の延長で理解しやすいのですが、一定期間は譲渡禁止といっても事前
交付の資本金計上は、慣れるまでは違和感を禁じえません。


2021.02.10(水)【成年被後見人の就任承諾書】(仙台・立花宏)

 3月1日から改正会社法が施行されることになりますが、その改正の内容で、
成年被後見人であることが取締役の欠格条項から削除されます。これに伴い、
成年被後見人であっても、取締役に就任することができるようになります。こ
の場合の就任承諾は、成年被後見人の同意を得た上で、成年後見人が成年被後
見人に代わってしなければなりません(改正会社法331条の2第1項)(注1)。

 この改正について考えていたときに、私がふと思ったのは、あいかわらず、
合同会社のことでし た。合同会社においては、成年被後見人であっても、代
表社員になることができると思います。

 代表社員の定め方は、定款に定めるか、定款の定めに基づく社員の互選によ
ることになります。後者により代表社員を定めた場合、登記実務上は、その就
任承諾書の添付が必要となりますが、この就任承諾書は誰が作成するのでしょ
うか。

 改正会社法において、取締役の就任承諾につき、前記のように定められたの
は、「成年被後見人等の取締役等への就任の承諾を取り消すことができること
とするのは相当でなく、成年被後見人等が取締役等に就任する場合には、取締
役等への就任の承諾の効力が確定的に生ずるような方法によらなければならな
い」こととするのが相当と考えられたからです(注2)。合同会社の代表社員
としての就任承諾も同様に考えてよいでしょうか。

 しかし、合同会社の代表社員としての就任承諾は、取締役の就任承諾が委任
契約の申込みに対する承諾を意味するのと異なり、実体法上の意思表示ではな
く、取締役の就任承諾とは意味が異なります。就任承諾書の添付が要求される
のは、互選は代表社員と定められた者の意思にかかわらず、社員の過半数で定
めることができるため,代表社員と定められた本人が自身に代表権が集中する
ことについて納得しているのかどうかを確認する趣旨のものです(注3)。

 登記実務では,互選書に署名又は押印があれば,互選書に就任承諾したとの
文言が記載されていなくとも就任承諾書の添付を求められていないこともこの
ことを裏付けているといえるでしょう。

 そうすると、登記実務上は、この就任承諾書は互選書の一部というか、互選
書を補完するものと認識されているのかもしれません。

 以上のことからすると、合同会社の代表社員としての就任承諾書の作成者は、
社員の互選の当事者として意思表示をする者と考えるのが自然でしょう。

 では、この意思表示をするのは、成年被後見人でしょうか。それとも、成年
後見人が代わって行うのでしょうか。互選を業務執行者としての互選ととらえ、
業務執行社員の互選ととらえる立場からは、成年被後見人と考えることになる
でしょう。取締役の職務が成年被後見人の財産に関する法律行為に該当しない
(注4)のと同様、代表社員の業務執行者としての職務は成年被後見人の財産
に関する法律行為に該当するとはいえないからです。

 しかし、社員の互選は、業務の決定ではなく、組合契約の内容ともいえるべ
き社員権の問題だと考えると、成年後見人が代わって意思表示を行うと考える
のことになると思います。

 私見は後者の立場ですので、合同会社の代表社員としての就任承諾書の作成
者は成年後見人だと考えます。ただし、自身に代表権が集中することについて,
納得しているのかどうかを確認する趣旨ということを重視すると、成年被後見
人の同意も得ておくのが望ましいのではないでしょうか(民法859条2項)。

注1)後見監督人がいる場合には、後見監督人の同意も必要です。
注2)竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務)253頁以下
注3)詳細は、「座談会 会社法・商業登記法の改正と今後の登記実務の展望」
 (登記情報701号)29頁を参照願います。
注4)竹林・前掲260頁


2021.02.09(火)【みなし解散】(東京・鈴木龍介)

 最近、「みなし解散」の問い合わせが結構、舞い込んできます。

 「みなし解散」とは、最後の登記から12年を経過した株式会社のことを休眠
会社といい、その休眠会社が官報公告後2か月以内に「事業を廃止していない」
旨の届出をするか役員変更等の登記申請をしないと解散したものとみなされる
ことをいいます(会社法472条)。

 そして、解散したものとみなされた場合には、登記官の職権により、いわゆ
る「みなし解散」の登記がなされます(商登法72条)。なお、一般社団法人と
一般財団法人についても同様の規定があり、こちらは最後の登記から5年を経
過しているものが対象です(一般法人法149条・203条)。

 休眠会社等を放置すると、事業を廃止して実体のない会社等が登記上公示さ
れたままとなり登記の信頼性が損なわれるとともに、休眠会社等が犯罪に利用
されるおそれがある、という理由からこの制度が設けられています。

 休眠会社の対象が最後の登記から12年経過したものとなっているのは、役員
の任期と関係があります。株式会社の場合は、取締役の任期は最長でも10年な
ので(会社法332条)、少なくとも10年に1回は取締役の変更登記がなされるは
ずだからです。したがって、その期間を超えて何らの登記もしていない株式会
社は、事業を廃止している可能性が高いということで休眠会社として整理され
ることになっています。

 この休眠会社等の整理作業については、平成26(2014)年度以降は毎年行わ
れています。たとえ「事業を廃止していない」旨の届出をしても、役員の任期
が切れたまま登記が放置されている状態には変わりないため、何らかの登記が
されない限り、翌年も休眠会社等として「みなし解散」の対象となります。

 なお、「みなし解散」の登記がされても、3年以内であれば会社等の継続を
することが可能です(会社法473条、一般法人法150条・204条)。

 役員の任期の定めのない特例有限会社や、合名会社・合資会社・合同会社と
いった持分会社は、「みなし解散」制度の対象外となっていますが、これらの
会社をどう整理するのかは今後の課題の一つといえるのではないでしょうか。


2021.02.08(月)【森発言雑感】(金子登志雄)

 ネットの話題は五輪組織委・森会長のジェンダー差別発言一色です。SNS
で瞬時に世界中に情報が伝わり、いまや国際的な炎上状態ですから、会社法の
話題を中止し、私もこの話題を取り上げてみました。

 まず、責任の在りかですが、老害というよりも、彼は過去に何度も失言して
おり、いつかこうなることは分かっていましたので、ご本人よりも戦前生まれ
の昭和オヤジ感覚の持主を会長に据えたほうに責任があると私は思っています。

 ネトウヨで有名な高須医師のように「無報酬で働く病身の高齢者にひどい仕
打ち」だとか「集団いじめ」だとかの森さんへの擁護意見もありますが、五輪
には莫大な利権がありますし、視点を病身の高齢者への同情に向けるのは論点
ぼかしというしかありません。

 確かに、発現内容に関しては、世代が大いに反映しています。昔は、女性は
家にいるものだとされ、職業でも、看護婦、スチュワーデス、保母などと呼称
されていましたが、いまや、タクシーどころかダンプカー運転手や大工、左官
と男女を問わない時代ですから、心の中では「オンナは・・・」と思っても、
公の席で口にするのは「恥」だという認識もないことこそが問題です。

 次に、橋本大臣も小池知事もスポーツ界のボスである森会長をクビにできず、
JOC山下会長もボスに何もいえない日本社会が批判を受けていることも認識
すべきです。「バカな大将、敵より怖い」を認識することのできない組織や社
会は自滅するしかありません。これ以上、大将や組織を傷つけないよう辞任を
お勧めするのも取り巻きや後輩の仕事のはずです。コンプライアンス重視の民
間ではそうしないと顧客が離れてしまいます。

 さらに、IT(アイティ)をイットと発言した森さんや、簡単な漢字も読め
なかった過去の2人の総理など、なぜ日本社会は、こういう方を楽々と政治家
に当選させ、重要な地位に就かせるのかといいたかったのですが、嘘ばかりの
トランプさんを大統領に当選させ、銃保持者で陰謀論のQアノン信奉者を下院
議員に当選させたような国もあるので、これは封印しておきます。

 森さんの辞任は時間の問題だと思いますが、もう遅く、オリンピックの開催
は、さらに遠のいたといえます。スガ政権としては、コロナが下火になった春
とオリンピックが支持率回復の好機だと周到に戦略を練っていたことでしょう
が、またもや前政権の置き土産に足を引っ張られ、天運が味方してくれていな
いことを嘆いているのではないでしょうか。


2021.02.5(金)【会社法はどこへ行く?】(金子登志雄)

 この週末は私が重要条文ミニ解説を担当している「『会社法』条文集」(中
央経済社)の改訂作業に従事していました。改正案の一部の施行が3月からな
されるためです。会社法施行後15年目なのに、この改訂で第13版目です。
いかに頻繁に改正されていたかが分かります。

 単に今年3月から施行される改正部分にコメントを入れ、古い内容を削除す
るだけなら簡単ですが、項番号や号番号まで変わっている個所が多数ありまし
たので、既存コメントの引用条項が間違っていないかのチェックが必要で、全
面見直しに近くたいへんな作業でした。

 前回の平成26年改正でも簡易合併の796条3項が2項に、株券発行会社
の定義である117条6項が7項に変わったりしましたが、項目の削除は削除
にし、項番号を変えないようにしてくれないと、既存の著作物にも影響し、実
に迷惑千万というしかありません。

 それにしても会社法は複雑怪奇な巨大な化け物に近づいてきました。法務省
令の分量が会社法本体の分量に近づいてきましたし、実務では縁のない重要財
産委員会も相変わらず掲載されています。司法書士試験には絶対出てこない社
債部分や今度の改正で挿入された役員との補償契約や保険契約まで挿入され、
圧倒的多数の中小企業に必要な部分の占める比重が改正の度に減少してきてい
ます。不明な部分の多い第3編の持分会社など、全く改正されていません。

 独学の受験生はどの部分が重要か分からないため全部を勉強しますから、時
間ばかり費やし合格が遠のきます。予備校に通い「ここは出ないから無視せよ」
と効率的な受験マシーンにならないと早期合格は無理です。

 愛する会社法が徐々に国際的大企業である上場会社専用の高度・難解なもの
に進み、我々とは疎遠になって行くようで、この先どうなるのかと憂鬱な改訂
作業でした。蛇足ですが、本徒然の1日の閲覧件数が300に達しない日が続
いています。会社法につき手に負えないとあきらめた人が多いのかもしれない
と心配です。せめて登記所職員よりは上を行くよう頑張りましょう。


2021.02.04(木)【司法書士試験最終結果】(金子登志雄)

 司法書士試験の最終結果発表があったようです。コロナの関係で昨年の試験
の最終発表が本年にずれ込みました。発表があったことは、本欄読者の受験生
の方(もちろん合格者)から教わりました。下記の状況でした。

   http://www.moj.go.jp/content/001339811.pdf

 合格者の平均年齢が40.02歳だとは、うれしいですね。オジサン・オバ
サンの資格になりました。ある程度の人生経験のある方に有利な資格ですから、
この程度がちょうどよいでしょう。

 最高年齢73歳とはすごいですね。私より年長です。そろそろ引退を考えて
いる老人司法書士(私のことではありません)にはよい励みになります。

 合格率は5.17%でした(595人÷11,494人)。私の時(平成8
年)は確か2%台でしたから、数字だけみれば、だいぶ合格しやすくなったと
いえますが、受験生のうち合格圏内は昔も今も3,000人程度でしょうから、
その中の競争という意味では変わらないでしょう。

 出願者は14,431人なのに最後まで受験したのは11,494人のよう
ですから、3,000人も受験しなかったのかと最初は驚きましたが、中には
受験中に「ああ、今年もだめだ」で午後の受験を放棄したのでしょう。それで
も多いのは、合格平均年齢から推測して、仕事を持つ受験生が多く都合がつか
なかったのかもしれません。

 昔、書きましたが、平成8年の受験終了後に私も「ああ、今年もだめだ」と
思い、筆記試験の合格発表もみませんでした。当時は、記述式試験が満点に近
くないと合格は無理だといわれていたのに、商業登記の記述式が7割か8割の
出来だったためです。筆記試験の合格発表日も知らず過ごしていたところ、あ
る日、家族から郵便受けに合格通知のはがきが来ていたと電話で知らされ、驚
いたのが昨日のように思い出されます。職業の面で人生の転機でした。

 合格者の皆様、おめでとう。下記サイトをみると、やりがいを喪失した司法
書士も多いようですが、そういう先輩とは付き合わないことです。当ESG法
務研究会メンバーのように、日々生き生きと活躍している先輩と交流しましょ
う。今日から本欄を閲覧してください。いつかお会いする日もあることを楽し
みにしております。
        http://honne.biz/job/ac160/


2021.02.03(水)【2021年を迎えて】(島根・根来川弘充)

 新型コロナのため、今年の正月は、親戚と集まることもなく、また、外出も
できるだけ控えましたので、どこかもの足りない一年のスタートとなりました。

 そんな中、先日、子供が持ち帰った小学校からのお便りを見ておりましたら、
「季節」について、校長先生が触れられていました。

----------------------------------------------------------------------
 季節の「節」とは、「ふし」と訓読みし、それはいわば「区切り」です。
「区切り」がもし、無くなったら人間は怠惰な生活をおくるものになってしま
うのだそうです。
 季節にかぎらず、年月日、時間を設けるのは、怠惰な生活をおくらないよう、
人間が生み出した知恵です。
----------------------------------------------------------------------
 と概略ですが、書かれていました。

 ふと、このお便りを目にして、自分の正月の生活を振り返りました。そして、
ただ残念だと思うだけではいけないと考えさせられました。

 新型コロナ終息が見えない中、本年も活動が制限されることと思います。そ
んな中でも、感染拡大が広がる前の生活をより意識して生活することは、とて
も大事であると思いました。

 本年は、新型コロナが発生する前の生活を「意識して」行動をしていく、一
年にしたいと思います。


2021.02.02(火)【本人確認の重要性】(東京・鈴木龍介)

 契約等において、当事者が本人であるかの確認は重要ですが、登記の場面に
おいても同様です。

 近時、不動産売買の場面で、売主になりすます、いわゆる「地面師」事件が
頻発しています。これらは、取引時における本人確認がきちんとできていなか
ったことに起因しているといえます。取引の安全や透明性の観点等から、司法
書士が登記手続に携わる際には当事者の本人確認を行うことが求められていま
す。

 司法書士が求められている本人確認には、まず「犯罪による収益の移転防止
に関する法律」(ゲートキーパー法)に基づくものがあります。これはマネー
ロンダリングやテロ資金の供与といった、犯罪による収益の移転を防止するた
めに、司法書士等が特定の業務に関する取引の当事者の本人確認を行い、その
記録の作成を義務づけているものです。たとえば不動産売買の登記手続の場面
では、売主と買主について運転免許証やマイナンバーカード等の提示をしても
らうことになります。

 もう一つが司法書士はその職責に照らした本人確認です。ゲートキーパー法
の対象は特定の業務に限定されていますが、職責による確認はすべての業務が
対象となります。ただし、ゲートキーパー法のように法令で規定される画一的
な確認方法に限られず、司法書士が専門家として、その職責に照らして適切と
認められる方法によることができます。

 現在の本人確認については対面により確認書類の提示を受けるという方式が
原則となっていますが、デジタル化が進行していく中、今後はオンライン等を
活用した、非対面による方式についての対応も必要になってくるものと思われ
ます。


2021.02.01(月)【ハンコ廃止より西暦表記を】(金子登志雄)

 本日より2月になり、「令和3年」にも慣れて来ましたが、皆さんは、次の
質問に即答することができますか。

 ① 平成30年6月定時総会で就任した任期4年の監査役は今年任期満了か。
 ② 会社法の施行は平成18年5月だが、今年で何年目か。
 ③ 昭和56年生まれは今年で何歳か。

 令和3年の今年は令和に30をプラスするだけで足り平成33年になります
から(あるいは平成30から12を引き、その年は西暦2018年だと分かり
ますから)、①②は数分で計算することができますが、旧商法の大改正があっ
た昭和56年の③については私も即答することができず、司法書士手帳の年齢
早見表を開かざるをえません。

 自分の生年についてはすぐに西暦でいえても、父母や子供の生年を西暦でい
えといわれても、私も分かりません。もちろん、元号ならいえます。ですから、
生きていれば父は何歳、母は何歳だといえません。これはちょっと異常に感じ
ます。何とかならないものでしょうか。

 何をいいたいかというと、ハンコの廃止よりも、公文書や公用文書では元号
表記でなく西暦表記を基準にしてほしいと思ったからです。それをすれば、日
常生活でも西暦が中心になるでしょう。

 いま上場会社の株主総会招集通知は、ほとんどが西暦表記です。登記でもコ
ンピュータ処理の関係か、令和元年でなく令和1年と表記しなければなりませ
ん。元号が3文字以上になったら、就任年月日も2行になるのでしょうか。

 日本文化を愛せよというのとは別問題だと思いますし(同問題だとするなら、
登記書類も官庁の書類も全部につき縦書にせよといいたくなります)、困って
いる人も少ないであろうハンコの問題よりも優先してほしいものです。


2021.01.29(金)【清算目的の登記の可否】(金子登志雄)

 昨日、会社法477条5項で監査等委員会設置会社が解散すると、監査等委
員である取締役が自動的に監査役になる。法2条9号の「この法律の規定によ
り監査役を置かなければならない株式会社」になるのだと説明しました。

 念のため、解散決議と同時に定款で監査役設置会社を定めているかなと思い、
ネット検索しましたら、不思議な登記記録をみつけました。監査等委員会設置
会社(公開会社)の解散事例ですが、解散決議の株主総会招集通知によると、
同時に第2号議案で定款を次のように変更していました。
----------------------------------------------------------------------
 1.目的を「会社法第2編第9章の定めるところにより清算することを目的
とする」に変更
 2.取締役・取締役会・監査等委員会・会計監査人等の条項を削除する。
 3.(清算人・)監査役の条項を新設する。
 4.取締役の責任免除の条項を削除し、監査役の責任免除の条項を設ける。
----------------------------------------------------------------------
 第3号議案は清算人選任議案であり、監査役選任議案はありませんでした。
会社法477条5項で監査等委員が自動的に監査役になります。

 以上において、2は商業登記規則第72条で職権抹消されるで除外すると、
清算人の登記を除き1も3も4も登記されていないのです。司法書士が関与し
ているとしたら、えらい度胸です。

 解散と同時申請義務があるわけではないので、違法ではありませんが、すで
に登記懈怠になっており不思議に思って、総会招集通知を保存中の平成29年
の他社事例(同じく公開会社で監査等委員会設置会社)の登記記録を閲覧して
みましたら、法務省の登記記録例どおりに真面目に3と4も監査役についても
登記していました。しかし、1については未登記でした。どうも1については、
登記していない例の方が多い印象です。

 さらに、ネット検索しましたら、いつも有益な情報を提供してくれる京都の
司法書士内藤先生の有名なブログに次のような内容がありました。

https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/15f4d82cba27735ab6c91aca6dad12ff

 私は、「会社法第2編第9章の定めるところにより清算することを目的とす
る」という平成20年の登記実例(非公開会社)をパソコンに保存しており、
登記可能と思っていましたが、その後、禁止説が登場していることまでは知り
ませんでした(実例は都内23区内の出張所です)。
 
 これにつき、無意味だから登記せずともよく登記懈怠を問わないというのな
ら大歓迎ですが、申請しても受理されないという禁止説は正しいのでしょうか。

 おそらく、禁止説は、定款上の目的は営利事業でなければ不可という論拠か
と推測しますが、それをいったら、清算会社は営利法人(会社)ではないこと
になってしまいます。即却下です。

 会社法482条1項には「清算人は、清算株式会社の【業務を執行】する」
とありますし、清算のために在庫を処分し収益活動もし、残余財産分配額を増
やす努力をしますから、「残りの営利活動を継続しながら事業を終息し会社を
清算させることを目的とする」も営利法人性を失わないというべきです。

 次に例えば不動産会社が解散し上記のように目的を変更したら、不動産業の
会社の清算かどうか不明になり適当でないからという理由が考えられます。し
かし、上記の目的は「現に営む事業を終息し会社を清算させる」ということで
すから、これも障害にならず、私は登記申請すれば受理されるべきだと思って
います。禁止説の根拠が分からないので、的外れな反論かもしれませんが。


2021.01.28(木)【清算会社の法定監査役】(金子登志雄)

 1月14日の本欄で「代表取締役と代表社員との決定的な差は、役員(受任
者)と本人(企業所有者)の差で、任期(受任期限)があるかどうかという差
もある」と記載しました。

 これに対して、役員である清算人や清算会社の監査役には任期がないじゃな
いかと突っ込まれるかと思っていましたが、どこからも反応がありませんでし
た。皆様はどう思われますか。私は、清算人も監査役も清算結了までという不
確定期限の任期があるという意見です。

 確かに会社法480条2項には「第336条の規定は、清算株式会社の監査
役については、適用しない」とあります。これを任期の上限を撤廃しただけで、
解散しても定款の任期の定めは有効であり任期満了時期に退任するとの見解も
ありますが(松井ハンドブック3版521頁)、私は事業会社の監査役の任期
の規定は清算株式会社では適用しないというものだと理解しています。

 会社法は事業会社時代の監査役と清算会社の監査役は全く別の地位と捉えて
おり、私はこれを取締役が法定清算人になるごとく監査役は法定監査役になる
のだと説明しています。

 会社法477条5項や6項をみると、監査役が存在しないはずの監査等委員
会設置会社や指名委員会等設置会社が解散すると、監査等委員である取締役や
監査委員の取締役が監査役となると規定されています。これらに定款の任期が
適用されるとは思えず、まさに法定監査役といえないでしょうか。

 問題は監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社は監査役設置会社でな
いことです。当初は、なぜ、監査役設置会社とする旨のみなし規定がないのか
と考えていましたが、会社法2条9号の「この法律の規定により監査役を置か
なければならない株式会社」(法定又は強制監査役設置会社)となり、定款に
定めを置く義務のある会社になったのだといまは理解しています。

 これらの会社は解散決議と同時に定款変更が必要であり、それを忘れたら、
臨時株主総会を招集し定めなければなりません。それまでは、監査役の登記が
受理されません。監査役設置会社と併せて登記する義務があるためです。


2021.01.27(水)【遅い遅い新年のご挨拶】(東京・古山陽介)

 遅ればせながら、本年もどうぞよろしくお願い致します。

 投稿は年明け最初になりますが、金子先生には年始早々何回か質問のメール
や電話にて相談に乗っていただいておりまして、大変助けられているところで
あります。

 非常事態宣言中ではあるものの、一人事務所ですので職場感染のリスクもな
く、クライアントからの書類が届くため、毎日変わらず出勤して、気ままに業
務をしています。

 ただ、都内は飲食店が20時までの時短営業になっているので、業務に追わ
れていたり、調べものにハマっていると、ファミレスですら閉まっていて、近
所の牛丼チェーン店のテイクアウトやコンビニ弁当になってしまう、いわゆる
夕食難民の日もあります。

 国や地方自治体の対応には、各々言いたいこと等あると思いますが、兎にも
角にも、自身でできる限りの対策を講じて生活するしかありません。

 前向きな話はそう多くはないのですが、年末の株式上場(IPO)ラッシュ
の中に自分のクライアント企業も1社ありまして、証券取引所が事務所の近所
ということもあって、上場セレモニーの前に役員の方々が立ち寄ってくださっ
た時のポジティブな表情は非常に印象的で、少しは役に立てているような気持
ちになりました。

 周りには、企業法務のスペシャリストはもちろんのこと株式上場に携わる司
法書士仲間がいますので、皆さんとお酒を飲みながらざっくばらんに情報交換
をしたいところではありますが、このご時世、会合してしまいますと、どこで
何を言われるかわかりませんので、楽しみは取っておくこととします。

 他愛もない話でしたが、今年もクライアントの満足を追求しつつ、楽しみな
がら実務と向き合っていきますので、金子先生を始めとしまして、皆様のお力
添えをお願い申し上げます。


2021.01.26(火)【労働協同組合】(東京・鈴木龍介)

 「労働者協同組合法」という厚生労働省所管の法律が去る第203回臨時国
会で成立し(令和2年12月4日法律78号)、新たな非営利の法人形態とし
て「労働者協同組合」が誕生することになりました(一般社団・財団法人以来
でしょうか)。

 しっかりと条文を読み込んだわけではないですが、WEBの資料等を見たと
ころでは、「労働者協同組合」(当組合)とは、労働者である組合員が当組合
に出資し、当組合に定める事業に従事するという法人ということです。

 当組合の特徴としては、以下のとおりです。
 ① 出資配当は認めず、剰余金の配当は従事分量によること
 ② 当組合と組合員が労働契約を締結すること
 ③ 組合員の議決権は出資額にかかわらず平等となること
 ④ 当組合の設立にあたって許認可等は不要であること
 ⑤ 行政庁の監督があること
 ⑥ NPO法人から当組合に組織変更できること

 具体的に当組合が行う事業として想定されているものとしては、介護・福祉
関連(訪問介護等)、子育て関連(学童保育等)、地域づくり関連(農産物加
工品直売所等の拠点整備、総合建物管理等)、若者・困窮者支援(自立支援等)
があげられています。

 ちなみに当組合は法人ですから、当然に登記も必要となります。施行前には
通達が出されることになりますので(公布後2年以内の施行ということですの
で、令和4(2022)年のどこかでということになります。)、その時点で
あらためて勉強することとして、今はとりあえずの備忘に留めておきたいと思
います。

<参考>
 厚生労働省 労働者協同組合
   https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14982.html


2021.01.25(月)【組織変更と増資問題の混迷原因】(金子登志雄)

 米国での政権の移行は大きな混乱もなく済んで一安心ですが、いまだに怪し
い情報がネットで拡散されていますので、要警戒です。トランプ批判の急先鋒
であるペロシ下院議長が逮捕されたという証拠写真は写真としては本物だが警
官に護衛されて歩いている姿でした。

 さて、先週の本欄は合同会社を株式会社に組織変更をすると同時に増資が可
能かの話題が中心になりましたが、なぜ執拗にそんなことにこだわるのかと思
われた方もおられることでしょう。

 簡単です。実務では「あ、そう。だめなのか」で済ませても、自分の見解を
公表する著作活動に従事していますと論点から逃げられず、何らかのコメント
をしなければならないためです。だからこそ、自分の勉強にもなるわけで、メ
リットのほうが多いのですが。

 本件で迷った理由の1つは基本通達(H18・3・31民商第782号)の有限会社か
ら株式会社への移行(商号変更)のところに、次のようにあったことです。立
花さんがみつけました。

 「ただし、1の定款の変更と同時に、【資本金の額の増加】その他の登記事
項の変更が生じた場合において、移行による設立の登記の申請書に当該変更後
の登記事項が記載されたときは、【組織変更による設立の登記と同様に】、こ
れを受理して差し支えない」。

 これを組織変更と同時に増資が可能だと読むと迷路に陥ります。幸い私は権
威に対して素直でありませんし、組織変更で同時増資は無理だと思っていたた
め、上記は「移行の商号変更と同時に目的を変更するなどは組織変更と同様に
可能であり、これには資本金の額の増加も含めてよい」と移行に限定した内容
だと読みましたが、誤解を招く表現であることは間違いありません。

 この理解までは順調でしたが、待てよ、資本組入れなら肯定することが可能
ではないかと一歩進んだ迷路に入り込み、そもそも組織変更とは何ぞやにはじ
まり、出口探しに広島の幸先さんまで巻き込み悶々としていました。

 うっかりしたことを書き、それが書店に並んだら、目も当てられませんので、
「悶々」は執筆者皆が通る道ですが、SNSのような炎上がないだけマシかも
しれません。


2021.01.22(金)【「移行」と「組織変更」雑感】(仙台・立花宏)

 現在、拙著『合同会社の運営と理論』(中央経済社)の改訂を目指して、金
子先生のご指導を仰ぎ、作業を進めております。まだ、少し時間はかかりそう
ですが、良いものを作るべく、日々精進を続けております。

 1月20日(水)、21日(木)の金子先生のコラムは、その作業にも関係
しております。

 合同会社から株式会社への組織変更と同時に資本剰余金を資本組入れするこ
とが可能なのか、また、可能とすれば、有限会社から株式会社への移行の登記
と同様の扱いができるのかどうか、そんなことを、悶々と考え続けています。

 そんな中、金子先生の視点とは異なりますが、私なりに感じたことがありま
したので、記述してみたいと思います。金子先生のような理論的な話ではなく、
感覚的な話といえるかもしれません。

 有限会社から株式会社への「移行」と合同会社から株式会社への「組織変更」
は、なぜ、異なる用語を使っているのでしょう。もちろん、その内容や意味が
大きく異なることは、1月21日(木)の金子先生のコラムに詳しく解説があ
りました。おかげで、私の理解も少しずつ、進めることができました。

 ただ、それからもいろいろ考え、ふと思ったことがあります。法人格が同一
のままである点では同じですが、有限会社から株式会社への「移行」と合同会
社から株式会社への「組織変更」は、当事者である会社にとって、なにが違う
のだろうか、という点です。

 有限会社と合同会社は同じ間接有限責任の社員(株主)で構成されています
が、合同会社の統治構造は、有限会社と違い、組合型であるという違いがある
ことは金子先生のご説明のとおりです。合同会社の組織変更は、その統治構造
を組合型から株式会社型へと変更する点は大きな違いでしょう。

 ただ、感覚的に、そのほかにも、大きな違いといえることがあると思いまし
た。それは、後戻りできるかどうかです。合同会社から株式会社に「組織変更」
しても、理論的には、会社法上の「組織変更」の手続を踏んで、合同会社に戻
ることが可能です。それに対し、有限会社から株式会社に「移行」した場合は、
後戻りできません。平成18年の会社法施行に伴い、有限会社法が廃止されて
いるからです。これは、当事者にとって、大きな違いのように感じました。そ
のため、当事者の意思だけではなく、登記を効力要件として、後戻りできない
という線をよりはっきりさせたという意味もあるのではないかと考えました。

 なお、民法改正により、一般社団・財団法人として存続した民法法人が、整
備法で規定される移行期間内に通常の一般社団・財団法人となる場合も「移行」
という用語が使用されていました。この場合も、登記が効力要件でしたが、民
法の民法法人に関する規定が削除されたため、後戻りができませんでした。

 「移行」という用語が法律上、どのような意味があるのかを調べたわけでは
ありませんが、異なる法律に基づく法人形態となる場合に使用され、おそらく、
多くの場合は片道切符であり、後戻りできないのではないかと思いました。そ
ういう意味では、有限会社や民法法人の「移行」は商号・名称変更ではありま
すが、ある意味、当事者にとっては、「組織変更」よりも大きな覚悟が必要な
ことなのかもしれないと思いました。


(注)民法法人は移行期間が設けられていましたが、有限会社は設けられてい
ません。しかし、法律が廃止されているため、新しい設立はできませんし、片
道切符しかないことは、いずれ、有限会社形態の会社を整理(なく)したいと
いう意図があるのかもしれません。


2021.01.21(木)【移行と組織変更の差】(金子登志雄)

 昨日の続きとして、同じ法人格の継続とされる、有限会社から株式会社への
移行と持分会社から株式会社への組織変更の差を思いつくまま書いてみます。
文献に比較表でも掲載されているかもしれませんが、何もみないで頭だけで考
えるのが生来不精な金子流ですので、ご了承ください

(移行)
 特例措置の株式会社の解散→→(商号の変更)→→通常の株式会社の設立
  *同じ所有と経営の分離型である株式会社間の変更にすぎない
  *会社の種類の変更ではなく商号の変更にすぎない
  *そのため債権者保護不要
  *明確な線引きが必要だから登記を効力要件とする
  *取締役は継続するが、任期付に代わる

(組織変更)
 持分会社の解散→→→→→(組織の変更)→→→→→株式会社の設立   
  *所有と経営の一致型から分離型に大変化する
  *大変化だから総社員の同意や債権者の承認が要る
  *業務執行担当者も社員から経営のプロの取締役に代わる
  *戦前の会社から戦後の会社に変化したかのよう      
  *旧式会社の解散と新式会社の設立に近いが、会社の歴史は承継
     
 まさに商号の変更と組織の変更の差ですね。例えてみると、移行は単なるバ
ージョンアップに過ぎないが、組織変更はラジオからテレビへ、ガラケーから
スマホへのような大変化です。つまり、移行は現代での横の変化、組織変更は
旧式組織から新式組織への引っ越しのような歴史の変化を感じます。

 ところが、合同会社は平成18年からの最新式会社です。株式会社と同様に
間接有限責任社員のみで構成されながら、統治構造は頭数多数の組合型です。
「1÷3」と同様に、割り切れない会社です。無理に割り切ろうとすると、無
理が生じます。何とか割り切れないかと昨日の徒然を書くのに徹夜同然の時間
を費やしてしまいました。それだけ夢中に楽しんだということです。


2021.01.20(水)【本店移転・資本組入れ付組織変更】(金子登志雄)

 仙台市の資本金10万円のX合同会社が組織変更と同時に資本組入れし、資本
金1000万円の広島市のY株式会社に変更するケースを題材に、そもそも組織変
更とは何ぞやと私との共著の多い仙台の立花さんと広島の幸先さんから資料を
提供してもらいながら試行錯誤していました。やっと、整理することができま
した。

(問1)組織変更は場所の変更を含むか。

 書式精義第6版1376頁によると、設例のようなケースで組織変更計画のY株
式会社の定款の本店所在地として「広島市に置く」と記載してよいようです。
これだけみると設問は肯定されそうです。

 しかし、いきなり広島で設立登記を申請することはできません。登記法に経
由申請の規定もありませんし、Yの登記記録にも「年月日X合同会社から組織
変更により設立」と記載されるだけでXの住所が記載されませんから、XとY
との連続性が公示されないからです。

 そもそも組織変更は、XとYの登記簿が異なる関係で「設立」と「解散」の
形式をとるだけで法人格の同一性を維持した「変更」行為です。新設型再編の
ように登記を効力要件とする別会社の「設立」行為ではありません。

 実質は変更行為ですから仙台にて登記されることであり、仙台でXが合同会
社からY株式会社に変わっただけで組織変更は完結です。住所の移転は付け足
しで、単に「本店移転付組織変更」が申請されただけです。人間でいえば、浮
浪者のAさんが突然に垢抜けた紳士に「変身」した場合、Aさんがどこに転居
しようがAさんはAさんであり、住所は変身(人格の同一)とは無関係です。

 したがって、書式精義もこれを前提に、本店移転と組織変更を同時に一括処
理して差し支えないという意味で、中間省略して定款の本店所在地を広島市と
したにすぎないと思われます。

(問2)組織変更は資本金額の変更を含むか。

 組織変更は変更行為でありながら、設立登記の形式を採用するため、この際
に、目的の変更、取締役会などの設置、株券の発行なども一括して登記するこ
とができます。そこで、ついでに資本金額の変更を含めてよいでしょうか。

 これは困難でしょう。計算規則34条で組織変更直前の資本金額を引き継ぐと
ありますし、私も組織変更はその場で会社の種類を変更する行為であって、後
記のとおり資本金を含む貸借対照表には影響がない、上記のAさんで例えれば、
変身には身長や体重の変化を構成要素としないと思っているからです。

 では、組織変更と同時の増資である「増資付組織変更」の場合はどうかです
が、ご承知のとおり、有限会社から株式会社への移行(以下単に「移行」)の
際は、認められています。本店移転は定款上の一括処理でしたが、ここでは登
記記録上の一括処理の問題になります。

 これにつき、東京法務局監修「登記インターネット」119号(2019年11月1日
号)の「組織変更と資本金の額の変更について」が否定していました。根拠は、
計算規則34条は組織変更と増資の同時処理の場合にも適用されること、移行と
組織変更は性格が異なること、組織変更には基本通達(平18民商第782号)で肯
定する記載がないことでした。

 私も原則否定説です。とくに合同会社の社員加入による増資と株式会社の募
集株式の発行による増資では大きな差があり、同じ株式会社間の移行を持分会
社と株式会社間の組織変更とは差があるからです。

 ただ、本件の合同会社による資本組入れは例外的に肯定される余地は残され
ていると思っています。

 まず、移行も組織変更も持分会社の種類の変更も同一法人の継続とされてい
ますので、資本金額を含む貸借対照表をそのまま引き継ぐのは当然のことです。
登記インターネットは、計算規則34条を主要な否定根拠にしていますが、ここ
で問題にしているのは、本件でいえば、計算規則34条に従い、Yの会計帳簿に
は「引き継いだ資本金10万円→1000万円」という変化が記載されているが、登
記では、設立登記の形式になるため、この変更の経緯を登記記録に表示しなく
てよいのかということです。計算規則34条を前提にしての話です。

 次に、合同会社と株式会社であれば資本金が登記事項であるため、資本金額
の変更の経緯を表示せずともYとXの登記記録を比較すれば、変更日に増資が
なされたことが容易に判明しますので、この点で移行と同様です。

 ということで合同会社の資本組み入れであれば肯定する余地はありそうです
が、この資本組入れ付組織変更の登録免許税の計算が障害になります。組織変
更は組織変更、増資は増資と分析的に把握すると、組織変更分10万円につき最
低額の3万円になりますが、移行と同様であれば、10万円につき1000分の1.5
になります。ここで計算規則34条が登場し、前者の計算に決まっているとされ
ることでしょう。

 さまざま考えると、肯定する実益がなさそうですから、素直に合同会社の間
に資本組入れして組織変更するのがベターだと思いました。


2021.01.19(火)【「契約書」考】(東京・鈴木龍介)

 一般的に企業法務の中核をなすものの一つに契約書の作成・審査という業務
があります。私自身、関与の仕方に濃淡はあるものの、おそらく年間300く
らいの契約書の作成や審査に携わっているかと思います。

 ということで、今回は契約書について、自分なりにあらためて整理してみよ
うと思います。

 まず、契約は“方式自由の原則”から、保証契約など特例として法定されて
いるものを除き、契約書の作成は義務づけられていませんが、なぜ、契約書を
作成するのでしょうか。

 第一には不明確さの排除があげられます。曖昧な内容は紛争の温床となりま
すのでそれを文書化することにより、契約当事者相互の認識のずれを解消する
ことができます。

 なお、この明確さというのは、契約書を作成した時点の当事者(担当者)だ
けでなく、将来、関与するかもしれない人たちのことも意識しておかなければ
なりません。

 第二には仮に後日紛争となり、裁判になったような場合には、契約書は最有
力な書証となります。そういう意味では、いわゆる要件事実を踏まえておくこ
とも重要です。

 第三に、契約書を交わすということは、心理的に後戻りができないという意
味でも決意させる(背中を押す。/腹をくくる。)という効果もあります。

 とりわけビジネスにおける契約は、将来発生する可能性のある問題を最小化
し、自らが得る利益を最大化することにありますが、契約には相手がいますか
ら自らの主張ばかりしていたのでは、まとまるものもまとまりません。したが
って、自らがどうしても守りたいはなにかということを明確にし、契約書に落
とし込むことが重要です。

 次に、契約の作成や審査をするにあたって、もつとも必要なスキルというか
能力は何でしょう。それはズバリ「想像力」だと考えています。つまり、どの
ようなビジネスを展開し、どのような事態が発生するのかということを想定し
つつ、それを事前にカバーした内容を契約書に盛り込んでいくということです。

 加えて、契約書については、記載の仕方等が法令で決められているわけでは
ありませんが、慣習等を含め一定の決まりごとがあります。

 その他、用字用語やフォーマットというのも意外と大事でして、ある意味、
作成者の力を量るメルクマールの1つになります。つまり“細部に魂が宿る”
ということです。

 ちなみに契約書に関する書籍は相当数刊行されていますが、企業法務に携わ
った身としては、いつかは私なりの契約書関連の書籍を上梓できればなどと考
えています。


2021.01.18(月)【新株引受権と株式引受権】(金子登志雄)

 トランプ支持の共和党上院議員が「天国から地獄へ」を経験中のようです。
「バカな大将、敵より怖い」の典型例ですね。相当なケチで有名な大将ですか
ら、今後の面倒もみてもらえないでしょう。自業自得です。
      http://urx.space/w5hj

 さて、旧商法では、平成2年の改正で、譲渡制限会社では既存株主が優先的
に新株を引き受ける固有の権利(新株引受権)を有すると定め、株主以外の者
に新株を発行するときは、取締役会の決議のほかに、株主総会の特別決議が必
要だと定めました。取締役会でできる株主割当てが基本だったわけです。

 新株引受権付社債や、取締役や従業員を対象とするストックオプションも新
株引受権と表現されていましたが、その後、前記の株主の新株引受権との混乱
を防止するため、新株予約権付社債、新株予約権という用語に代わりました。

 以上は前書であり、何と3月からの改正会社法施行で「株式引受権」という
用語が登場します。計算規則2条3項34号の定義を引用すると「取締役又は
執行役がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価として当
該株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く)」の
ことです。

 改正会社法では上場会社限定ですが、取締役等に対して出資不要の募集株式
の交付が認められました。出資不要といっても金銭や現物の出資が不要という
だけで、将来の職務執行の対価(役務の提供)とされていますので、いわば将
来の労務出資のようなものです。

 例えば、3年後に株式100株を取締役報酬として支給するから、それまで
本気で頑張れとニンジン(インセンティブ)を与えることにした場合、1年目
の役務提供分〇〇円、2年目の提供分△△円と貸借対照表に計上します。この
場合の勘定科目が株式引受権です。株式申込金と同様に純資産の部に計上され、
3年後の割当日が到来すると資本金等に振り替えられます。

 事前に株式を渡し、3年経過するまで行使できないとする方法もありますが、
この場合は、毎年、期末に役務提供分が資本金等に計上され、株式引受権は登
場の余地がないようです。まるで資本金の分割払いのごとしです。

 なんとまぁ、面倒なものを作ったもので、私は従業員や監査役も同時に対象
にすることのできる従来の金銭報酬を渡し、その金銭報酬債権の現物出資とす
る方式と相違し、流行らないとみていますが、どうなりますやら。


2021.01.15(金)【会社の構造】(金子登志雄)

 米国では、世界的に著名な俳優などもSNSで盛んにトランプ批判を繰り返
しています。日本では猛バッシングにさらされますが、独裁政治に至るには、
表現の自由を抑え込むため、最初に一般人も反対しない風俗表現を厳しく抑え
こみ、その次には芸能活動を抑え込んで行きますから、ハリウッド俳優などが
政治問題に敏感に反応するのも当然でしょう。

 さて、昨日の「役員(受任者)と本人(企業所有者)」を言い換えますと、
株式会社では所有と経営が分離した構造を有するということなりますが、時代
の流れは、経営分野が「業務執行の決定と執行の分離」に進んでいます。この
企業統治構造の観点から、会社を分類してみました。

 1.所有と経営の一致の持分会社
 2.所有と経営の分離の株式会社
 (1)非取締役会設置会社(経営問題についても総会で決定できる)
 (2)取締役会設置会社(経営問題は取締役会で決定)
  ①公開・非公開の差
   非公開会社・・・構成員加入の増資は総会で決定
   公開会社・・・・増資は取締役会で決定(有利発行を除く)
  ②統治構造の差
   監査役会設置会社・・・・取締役会に社外取締役を   
   監査等委員会設置会社・・取締役を業務執行側と監査等担当に分離
   指名委員会等設置会社・・業務執行決定・監督側と執行役に分離

 ややこしいですね。

 持分会社の社員の加入は株式会社でいえば募集株式の発行です。株式会社で
増資の決定の基本が株主総会になっているのは、株主の加入という重要事項だ
からです。公開会社でも有利発行は株主総会の決定です。松井ハンドブックの
説明では取締役会が基本で有利発行決議の株主総会議事録は添付せずとも大丈
夫だとありますが、これは公開会社が株式会社の基本であった旧商法時代の先
例であり、有限会社を株式会社に取り込み、非取締役会設置会社を株式会社の
基本に据えた会社法下では通じませんので、お気をつけください。

 上記の分類をみると、会社の基本は、所有と経営が一致した持分会社ですか
ら、株式会社の考え方で合同会社を解釈してはいけないことが分かります。社
員の互選によって代表社員を定めるという会社法の規定につき、この社員は業
務執行社員のことだとの見解は、株式会社の考え方で持分会社を解釈した例の
1つです。

 知識に偏重せず、モノの見方、考え方、捉え方を重視し、会社法を大局的に
把握することが重要ですといいたいところですが、偏重するほど知識があれば
りっぱなものです。勉強中の人には、教科書や参考書に惑わされずといってお
きましょう。


2021.01.14(木)【代表取締役と代表社員の就任承諾の差】(金子登志雄)

 「代表取締役(株式会社)」と「代表社員(持分会社)」との決定的な差は、
文字どおり「取締役」と「社員」の差であり、登記記録上も前者は「役員区」、
後者は「社員区」に記録されます。分かりやすくいえば、役員(受任者)と本
人(企業所有者)の差です。そのため、任期(受任期限)があるかどうかとい
う差も生じます。

 受任者たる取締役の権限は、委任者側の株主総会でも制限することができま
すが、本人である社員の権限の制限は、企業所有権(企業運営権=業務執行権
を含む)の制限になるため、定款に基づくものに限定され総社員の同意をもっ
てしても制限することができません。株主権の制限(議決権制限株式など)を
株主総会の決議でできないのと同様です。

 定款に取締役の互選による代表取締役の選定規定を設けた株式会社では、登
記実務上、定款で取締役の地位と代表取締役の地位が分化されたとし、株主総
会での委任は取締役の権限までであり、代表権限の委任は取締役の互選による
と解されているため、代表取締役には受任としての就任承諾が必要です。

 これに対して、企業所有者本人である業務執行社員には、もともと代表権が
備わっており(会599条1項)、委任される必要はありませんし、定款の互選規
定によって地位の分化がなされたとみるのも困難です。業務執行社員も代表社
員も受任した地位(役員)ではなく担当する役割だからです。したがって、社
員の互選で代表社員を定めることは、社員の多数決で役割分担を決め、代表社
員以外の業務執行社員の代表権を停止したとみるしかありません。ここには代
表社員本人に対する委任がありません。これが商業登記法にも商業登記規則に
も代表社員に就任承諾を要求する規定がない理由です。

 ところが、登記の基本通達では、なぜか互選代表社員に就任承諾書を要求し
ています。しかし、それにもかかわらず、登記実務では、互選書に署名又は押
印があれば、互選書に就任承諾したとの文言が記載されていなくとも就任承諾
書の添付を不要とし、署名又は押印がない場合に限り就任承諾書を要求してき
ました。互選による代表取締役の場合と取扱いに差を設けています。

 これで基本通達が就任承諾書の添付を要求している意図が分かりました。本
人の署名も押印もないのに互選書の記載だけで代表社員の登記を受理すると、
本人の知らない間に虚偽登記がなされる可能性もあるため、それを防止するた
め、互選書の付属書面として本人の意思確認書を求め、それを就任承諾書と呼
んでいるだけでした。受任を意味する就任承諾書ではなかったわけです。

 詳細については、登記情報698号38頁以下 金子登志雄「合同会社の代表社員
の就任承諾の要否」、同701号29頁「座談会 会社法・商業登記法の改正と今後
の登記実務の展望」をご参照ください。


2021.01.13(水)【バカな大将、敵より怖い】(金子登志雄)

 3連休は立花さんの合同会社本の改訂作業で時間をつぶしましたが、長時間
パソコンとにらめっこしていると、疲労(老化?)で、小さい活字がみえなく
なり中断せざるをえませんでした。

 そんなときは、ネットニュースをみて気分転換しますが、先週の追い詰めら
れたトランプ一派の自爆テロの映像は衝撃的でした。死者5人まで出した前代
未聞のデモ隊の議場への乱入・占拠・議事妨害のことです。各地の州議会にも
デモ隊が押し寄せたようですから、米国社会の病状は深刻です。

 欧米映画をみていると、始終「神が」という単語が日常会話に登場しますが、
米国でもトランプの主張する空虚なMAGA(メイク・アメリカ・グレイト・
アゲイン)や「アメリカを救え」などという神がかりな扇動に反応してしまう
方が多いようです。プロテスタントの白人がトランプ支持者に多いのだとか。
きっと、議事場乱入も神の意志で米国を守るためだと本気で信じての行動でし
ょう。そういう大衆を扇動し引き金を引いたトランプの罪は大きいといえます。

 日本のネットでも、闇の政府から我々を守る救世主だとしてトランプを支持
する意見も多く、トランプ追及の急先鋒であるペロシ下院議長が逮捕されたと
か、もうすぐトランプにより戒厳令が敷かれるとか、闇の政府の親玉はバチカ
ンだ、いや英国王室だなどという妄想としか思えない情報が飛び交っています。

 彼らは、仲間内で我々こそ真相を知る者だと陶酔しあい他を情報弱者と切り
捨て耳を傾けないのですから始末に負えません。まさに決して自らを省みない
自分ファーストのトランプ教です。信者になると白人至上主義者など他を差別
する悪しき己の精神が解放され、自分は正しい人間なのだと元気をもらえるよ
うです。ナチスの扇動でドイツ人が自信を回復した状況に似ています。であれ
ば、ハイル・トランプと叫びたくもなるのでしょう。

 議場に乱入した暴徒は自慢げにスマホで映像をとり、SNSで発信していま
したが、これが犯罪の証拠として自分達が逮捕や解雇されることまでは全く予
想しなかったようですから、これも勝利の拡散を使命と思った自己陶酔の結果
でしょう。

 そもそも選挙に不正があるとしたら、時の政権側がするはずなのに、非政権
側に投票を盗まれたなどという主張がおかしいとは思わないのでしょうか。や
り玉にあげられたドミニオン社の投票機械を採用したのはトランプ政権でした。
死者の投票があったという問題は死んだ母親の名前で投票した者がいたようで
すがトランプ票でした。フェイクは全て反証されています。

 トランプ信者は神を否定する社会主義者(?)の民主党の勝利で、絶望感を
味わっていることでしょうが、共和党の牙城であるジョージア州上院選の敗退
を含め民主党に勝利をもたらしたのは、扇動上手の素人政治家トランプが何か
を変えてくれると期待して4年前に投票したのに、幻滅に終わったことが主因
でしょう。共和党や支持者を良識派と非常識派に分断し、それらの力を弱めた
バカな大将は敵よりも己に害悪を及ぼす存在だと早く気づくべきでした。

 ちなみに、金言「バカな大将、敵より怖い」は、名経営者の元北洋銀行頭取
武井氏の言葉です。
          http://u0u0.net/ZbGQ

(ご参考;カルトに警戒を)
  https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20210108-00216678/


2021.01.12(火)【謹賀新年】(東京・鈴木龍介)

 令和3(2021)年、初投稿ということで、まずは“明けましておめでと
うございます”。

 さて、今年の一番のトピックスはというと、やはりコロナ禍をどうするかと
いうことでしょうか(1月8日から首都圏に2回目の緊急事態宣言が発令され
ました)。

 1年延期された東京オリンピック・パラリンピックはどうなってしまうので
しょう。そしてコロナ関連で国も地方公共団体も相当の財政支出を行いました
ので、近将来的な増税は必至でしょうね。

 当然、日々の生活や業務等々にも影響がでてくるのは必至ですが、そこはな
るようになれと半ば諦めつつという心持ちでいます。

 次に法令関係に目を転じますと、令和元年改正会社法が3月1日から施行に
なります。もう少ししたら通達も発出されると思いますが、これまでの書籍の
改訂や関連の寄稿やセミナーで少し忙しくなりそうです。

 法制審議会(法制審)で議論中の所有者不明土地問題に対応するための「民
法・不動産登記法」の改正法案については、たぶん今年の通常国会(?)に上
程されるのではないでしょうか。

 そして、民法の担保法制の見直しの議論も本格化する模様です。具体的には
春先には法制審で部会が設けられ、検討が開始すると思われます。ちなみに、
これまで(純粋の、つまり不動産登記が絡まない)民法の法制審に司法書士が
委員として参画できたことはありませんが、今回はどうでしょう。登記も重要
な論点になりますので、是非とも司法書士を委員に加えていただければと思い
ます。

 個人的には、例年のごとく夢はもとより格別の目標などもありませんが、目
の前のことをきちんと丁寧に対応でき、少しでも皆さんのお役に立てればと思
っています。

 最後になりますが、数年前より公私ともに年賀状を廃止いたしまして、年賀
状を頂戴いたしました皆様には、この場を借りまして御礼と欠礼のお詫びを申
し上げます。

 ともあれ本年もどうぞよろしくお願します。


2021.01.08(金)【相続人の意思に基づく持分の承継】(仙台・立花宏)

 皆様、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいた
します。

 今年は、私のライフワークともいえる合同会社の登記実務について、一昨年
の『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』(中央経済社)の出版後も、
少しずつ、進めてきた研究を皆様にご披露できるよう、努力してまいりたいと
考えております。以下は、その研究のうち、以前の考えを自分なりに、深めて
みたものです。
 
 合同会社において、社員の死亡は法定退社事由ですが(会社法607条1項
3号)、定款で、社員が死亡した場合には、相続人が持分を承継して社員とな
る旨を定款に定めることができます(会社法 608条1項及び2項)。

 ところで、この定款の定めについて、「相続人は、他の社員の承諾を得て、
持分を承継して社員となることができる」というように、持分の承継を、相続
人の意思にかからしめることも可能と解釈されています(注1)。

 この定め方の妥当性について、相続人の希望により持分を承継するかどうか
を決定することができるというのは、一般承継の原則に馴染まないのではない
か、また、この定めは、社員の死亡を条件に、相続人が社員として任意加入す
ることを肯定した規定と解釈するのが妥当ではないかと、拙著で疑問を提起い
たしました(注2)。

 この点について、答えを見つけるべく、考え続けていたのですが、ふと、思
いついたことがありました。それは、この定款の定めは、持分の承継について、
任意規定として、会社の継続(会社法642条)のようなことを許容するとい
うイメージなのではないかということです。

 少し、わかりにくい表現だったかもしれません。社員の退社は、合同会社が
一部解散したともいえることだと思います。そうすると社員の死亡という法定
退社事由は、会社の一部について、社員が死亡するまでという存続期間が定め
られていると考えることができるでしょう。その存続期間が満了すると、会社
の一部が解散し、清算をすることになります。この場合の清算というのは、持
分の払戻し(会社法611条)です。通常の解散であれば、存続期間の満了に
よる解散の場合は、清算が結了するまで、社員の意思に基づいて、会社を継続
することができます。

 前記定款規定は、会社の一部解散についても、社員(の相続人)の意思によ
り、清算(持分の払戻し)が結了するまで、(解散した当該一部の)会社の継
続を決定すること許容した規定ととらえることができるのではないかと考えた
のです。つまり、社員が退社し、持分の払戻しが行われていない状態というの
は、合同会社が一部解散し、その一部が清算持分会社になっている状態といえ、
清算(持分の払戻し)が結了するまでは、清算の目的の範囲内で存続している
と考えることになります。

 合同会社は定款自治が広範に認められた会社ですので、そうした規定も許容
されるということだと思います。
 
 ただ、そうすると、相続人の持分を承継して社員となる旨の意思表示は会社
継続ととらえることになりますから、死亡による退社(解散)の登記と相続に
よる加入(継続)は別のタイミングで申請することも可能なようにも思えます
が、実質は持分の承継の登記であるため、持分を承継して社員となる意思決定
後、退社の登記と加入の登記を同時に申請しなければならないのだろうと思い
ます。

 なお、当然ながら、相続人の意思は、民法の相続に従ったものである必要が
あり、たとえば、持分を相続し、準共有している相続人のうちの一人のみが、
遺産分割とは無関係に、希望すれば社員となることができるというものではな
いと考えます。

 注1)松井信憲著『商業登記ハンドブック第3版』(商事法務)611頁
 注2)立花宏著『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』(中央経
    済社)48頁


2021.01.07(木)【久しぶりの雪かき】(島根・根来川弘充」

 新年あけましておめでとうございます。

 この原稿の下書きを書いた12月31日には、久々に、大きな寒波が到来し、
数十センチの積雪がありました。

 大掃除の予定でしたが、雪かきで体力を奪われ、予定どおりとはいきません
でした。おそらく、3年ぶりの雪かきです。

 昨年は新型コロナのため、世界の経済活動が大きく後退した歴史的な一年で
した。その年に、積雪があったということは、地球温暖化に少しは、ブレーキ
がかかったのでは、とふと思いました。

 おそらく、数年後に気温の変化についてデータが出てくると思います。経済
活動と地球温暖化について、関連性が導かれるのであれば、各国の経済政策に
大きな影響をあたえると思います。

 新型コロナは、いままで当たり前にできていたことが、そうでなくなりまし
た。悪いことばかりで、一年を終えてしまいました。

 しかし、悪い面の中から少しでも未来にプラスになる点を見つけ出せるよう
な2021年にしたいと思います。


2021.01.06(水)【謹賀新年】金子登志雄

 新年おめでとうございます。本日より再開です(14年目に入りました)。

 年末年始は外出を自粛し、『会社法法令集』の改訂作業(3月の改正会社法
施行分にミニ解説挿入)を中心に、例によって、人間模様が面白い韓国ドラマ
や関心あるネット・ニュースをみて過ごしました。

 米国では暴君トランプさんが懲りずに不正選挙を叫び、民主主義に謀反を起
こすよう扇動していると思ったら、日本では、高須美容外科医や河村名古屋市
長らが主導した愛知県知事に対するリコール署名43万以上の一部を調べたと
ころ、8割以上が不正だったという報道がありました。組織的偽造なら大問題
です。公表されている司法書士名簿が悪用されていないか心配です。
 
 それにしても、品位を欠いたSNSの発信に扇動され他を攻撃する愚か者が
増えたものです。ある調査によると、こういう愚か者は、閉じこもりの若者と
いうよりも、満たされないものを抱えている中高年男性が誤った正義感から他
を指導し叱責したいという欲求にかられて行動に走るのだとか(事案によって
は前者だと思いますが)。

 しかし、誰だって職場でも家庭でも何らかの満たされないものを抱えている
ものです。それでも圧倒的多数の常識人は、真相不明なことに安易に加担しま
せんし、真実と思っても匿名で誹謗中傷の集団リンチに加わることを恥と思う
倫理観があるので自制します。

 以上とは無関係でしょうが、本欄も主張を穏やかにして扇動しないためか、
一日の閲覧件数が300件超(1日に何度閲覧しても1度にしか数えませんの
で300人超)で、この数年間、これ以上伸びません。商業登記中心事務所は
全国で300あるか疑問ですから、これが上限かもしれません。

 しかし、セミナーで300人も集まれば盛況といえますし、本欄の読者はレ
ベルの高い方が多いでしょうから、今後も、「〇〇につき、私はこう考えまし
た(貴方はどう思いますか)」という「モノの見方、考え方、捉え方」をメイ
ンに問題提起していこうと思っています。引き続き、本年もよろしくお願い申
し上げます。


2020.12.28(月)【本年の総括】(金子登志雄)

 本年最後の本欄です。恒例(?)の今年の当事務所の成績結果です。

 1.本業の司法書士業務は、この環境ではという限定付で合格でした。
 商業登記中心業務ですから、コロナの影響は少なく、昨年より若干悪い結果
でしたが例年並みであり、悲惨な飲食業や旅行業を思うと、合格点でしょう。

 2.非常勤取締役業務も合格でした。
 会社は順調に業績を伸ばしました。IT関連業種のため、コロナの影響から
免れました。これは想定外のラッキーというしかありません。

 3.副業の著作やセミナー業務は廃業も同然でした。
 本年の出版は「会社法法令集」の改訂だけで、セミナー講師の依頼はゼロで
した。会社法制定後14年も経たため、声がかからなかったという理由です。
オンデマンド方式には抵抗があるので、個人的にはよかったと思っています。

 4.その他
 自宅にいながら1人でできるギャンブルともいえる趣味の株式投資は、最終
的には12月のコロナ再流行の兆しの影響で含み損に転落してしまいましたが、
10月は大きな含み益でウキウキ気分でした。こういう浮き沈みが楽しいので、
この依存症は直す気がありません(余裕資金での遊びですのでご安心を。また
企業情報調査の点で業務にも役立ちます)。

 以上を総括すると、足もと(本業)の1と2が安定していたのと引き続き健
康状態を維持することができている点で、甘い評価ですが、なんとか合格、無
事に進級(年越し)できたと思っています。
 
 来年は改正会社法施行があります。上場会社中心の改正であるため、セミナ
ー講師にはつながりませんが、著作の改訂が必要です。法律実務家の中では、
上場会社のことも、株式や株主総会の運営も、株式交付という新組織再編のこ
とも実感として分かる人は少ないので、私の役割はあると信じて正月を迎える
ことにします。よいお年を(本欄は1月6日から再開します)。


2020.12.25(金)【単元未満株式と1株未満の端数】(金子登志雄)

 議決権を行使することができない株式として「単元未満株式」があります。
999株の所有者は1単元の株式数が100株なら、議決権は9個で100株
未満の99株については議決権がありません。それでも99株は株式に変わり
がなく、剰余金配当などの権利は当然にあります。

 この会社で単元株式数を廃止し100株を1株に併合すると、999株主は
9.99株主になりますが、この0.99は、端株制度は廃止されているため
単なる端数に過ぎず、0.99【株】と表現するのは不適当です。

 この1株未満の数を株主全員につき合計したところ、33.5になったとし
たとき、端数合計は併合後の株数で33株であり、合計端数の0.5について
は切り捨てられます。

 33株については未上場企業の場合は裁判所の任意売却処分がなされ(会社
が自己株式として購入する例が多い)、そこで得られた金銭を端数が生じた者
に端数持分に応じて平等分配されます。

 この33株は端数が生じた者の共有扱いされて会社により一括処分されるわ
けですが、処分前にこの会社が株主総会を開催した場合には議決権があるでし
ょうか。

 端数を生じた株主全員の共有株式扱いされたのだから、33個の議決権があ
るとみてよいのかということですが、議決権どころか株式ともいえない1株未
満の端数をまとめて処分しただけであり、また、共有扱いしたというのは比喩
であり、各所有者に共有意識もなく、単に換金の手段としてなされただけです
から、議決権はないとされています。ほとんどの文献に記載されていませんの
で、若干不安になりますが、私は登記で経験済みです(法務省会社法解釈部門
にも電話確認しました)。


2020.12.24(木)【吸収分割の支配取得】(金子登志雄)

 A株式会社が資本関係のないB株式会社より事業の吸収分割を受け、Aが少
量の株式を発行したときに、財産は時価で取得するのか(支配取得)、簿価取
得なのかにつき、時価であることは容易に推測できても根拠につきどう説明す
ればよいでしょうか。

 私も迷ってしまいました。AがBの株式を保有し、Bを支配下に置くわけで
もないのに、なぜ「支配」取得なんだという混乱です。

 調べてみましたら、拙著計算本の前身である『これが増減資・組織再編の計
算だ!』(2008年中央経済社)138頁に、次のように記載されていまし
た(【 】は今回挿入)。

----------------------------------------------------------------------
 金子 第三者問の吸収分割取引で、吸収分割会社をA、吸収分割承継会社を
Bとすると、【BがA事業を受け入れ、Bの経営支配権に移動が生じなければ】、
BはA事業財産を時価で受け入れ、Bの株主資本は対価たるB株式の時価評価
額で変動します。吸収合併でいえば、Bが合併存続会社で、Aが合併消滅会社
の立場ですから、ABを逆転して考えないでください。
----------------------------------------------------------------------

 そうでした。つい、株式交換などと同様に相手会社を支配したかどうかと考
えて混乱してしまいましたが、受け入れる事業を支配下に置けばよいというか、
この組織再編で会社の経営支配権に変動が生じないことに着眼するかはともか
く、これも支配でした。

 この吸収分割でBがAの株式を大量に保有することになり、Aの経営支配権
を握れば、逆取得といって、簿価での財産移転になります。逆取得にならない
から経営支配権に変動が生じず、支配取得になるともいえます。

 知識が身についていないと、ふとした疑問で混乱してしまうものです。しか
し、これがあってこその成長ですから、喜ぶべきでしょう。


2020.12.23(水)【一般社団法人の社員の地位について】
                          (東京・古山陽介)

 現在、(別ルートから)依頼を受けて手続進行中の下記の2つの案件で、偶
然にも両案件の当事者となる会社があり、滅多にないケースではありますが、
興味深い案件ですので、まとめてみました。

 案件1:株式会社Aを存続会社、株式会社Bを消滅会社とする吸収合併
     効力発生日:令和3年4月1日(午前0時に生じます。)
 案件2:一般社団法人甲協会の設立
      (設立時社員:①株式会社B、②株式会社C)
     設立日:令和3年4月1日

 この設例でピンとくる方もいらっしゃるでしょう。
このままですと、案件2の一般社団法人の設立はできません。仮に登記が申請
できたとしても、適法な設立とはいえません。

 一般社団法人の設立には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以
下「法人法」)第10条に基づき、設立時社員が2名以上必要であります。

 また、法人法第29条第3号により、一般社団法人の社員については、「解
散」は法定退社事由に 該当します。

 法定退社事由については、定款で別段の定めができる旨の規定がないため、
一般社団法人の社員の地位は、合併によって承継することはできません。
 
 上記2つの案件の例ですと、案件2の登記申請の時点で、株式会社Bは、通
常の解散とは異なり、合併による解散のため効力発生時点で完全に法人格が消
滅し、結果として設立時社員が1名となってしまうため、設立登記を申請する
ことは難しいということになります。

 設立時社員として、定款の作成等の設立手続が終わりさえすれば、登記には
影響はないだろうと考えたいところでありますが、法人法第23条~第26条
において設立時社員の責任に関する規定があり、かつ、事情を把握している以
上、株式会社Bを設立時社員として手続を進めることは適切ではありません。

 よって、今回、案件2の設立時社員には、株式会社Bではなく案件1の合併
存続会社である株式会社Aになってもらって手続を進めることで話はまとまり
ました。
 
 今回のようなケースは稀ではありますが、一般社団法人の社員の地位につい
て考えるよい事案となりました。


2020.12.22(火)【回顧2020】(東京・鈴木龍介)

 今年最後の投稿です。そこで「回顧」というと少々大袈裟ですが(某紙の文
化欄のタイトルを真似てみました)、今年一年の自分のオシゴト(活動)をざ
っくりと振返ってみようと思います。

 まずは、今年はやはり「コロナ」に尽きると思います。
 司法書士の業務は、いわゆるエッセンシャルワークではありませんが、それ
でも社会の一員として、それなりに影響がありました。具体的にはテレワーク
やオンライン会議というニューノーマルの洗礼を受けましたし、出張や対面で
の打合せは激減し、不要不急と思われる案件については、いまだペンディング
状態となっているものも少なくありません。とは言うものの、司法書士業務に
関しては、ありがたいことに、質量ともにそれほど減少したという感じはあり
ません。

 「話す」オシゴトについては、大学の授業を含め、本(件)数的には昨年と
ほぼ同水準でしたが、これまで当たり前であった対面ライブ方式からオンライ
ンやオンデマンド方式にシフトしました。最初は聴衆の反応が見えず戸惑うこ
とも少なくありませんでしたが、何とか慣れてきたかなといったところです。
移動コストの削減等のメリットもありますが、やはりセミナーや授業は、基本
的に対面ライブがいいかなと個人的には思っています。

 「書く」オシゴトについては、月刊連載2本を抱えているなか、コロナ関連
の執筆が加わり、雑誌等への寄稿は昨年より増加しました。また、今年は久し
ぶりに以下の新刊(改訂版でないという意味ですが)『「事業承継法」入門』
を上梓することができました。
            http://urx.red/bwHo

 その他として、いくつか掛け持ちでやっている日本司法書士会連合会(日司
連)の委員活動もほとんどがオンラインによるものになりました。また、理事
長を務めている全国司法書士法人連絡協議会のイベントや会合はほとんどが中
止になりましたが、日司連への提言や司法書士法関連のパブコメに意見を寄せ
たりと、それなりに成果はあったように思います。
            http://houjinkyou.com/

 加えて、理事を拝命している日本登記法学会の研究大会はZoomでの開催とな
りましたが、多くの方に支えられ、つつがなく運営ができました。
            http://www.toukihou.jp/

 そして、本コーナー「ESG研究会 徒然日誌」ですが、内容はともかくと
して一度も穴を開けることなく投稿することができました。「継続は力なり」
と勝手に思っている次第です。

 それでは、少し早いかも知れませんが、本年の私の〆とさせていただきます。
1年間ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 来年はコロナが終息し、皆さまにとって佳き1年であることをお祈り申し上
げます。


2020.12.21(月)【事実の発生と決定】(金子登志雄)

 急に寒くなりました。うっかり風邪でも引くと、コロナと勘違いされて周囲
から白い目でみられそうですから、気をつけています。ブラジルでは、レスト
ランで食事中に食事をのどに詰まらせ咳き込んだら、コロナ患者と勘違いされ
て飛び蹴りを受けた事件がありました。米国もそうですが肉食中心の国は何事
もすることが短絡的ですね。和食を普及させないと世界平和は来ないかも。

 さて、金曜日の本欄で、清算結了の登記は決算報告書承認日付けだと書きま
したが、清算結了という事実だけでは登記できず、登記では決議や決定を基準
にすることが少なくありません。

 本店移転も移転の事実が生じただけでなく決議しない限り登記もできません。
それも事実が先行した場合は決議の日が本店移転日です。

 新株予約権の消滅時期についても、行使条件の達成が不可能になった事実の
発生日でしょうが、それを代表者が判断した時にせざるを得ません。取締役会
の決定までは不要で代表者の決定で足りますが。

 これに関連して代表取締役の住所移転の登記ですが、住民票に記載の移転時
期が正しいとは限りません。昔、自宅用マンションの購入で住宅ローンを設定
した際も、手続の関係で、まだ居住どころか購入してもいないのに、そこに住
所移転せよといわれてしたことがあります。所有権移転登記や抵当権設定登記
を新住所にする方が効率的だからでしょう。抵当権債務者の住所も同じです。

 登記は発生した結果を公示するものであることが多いのですが、単なる事実
の発生にも決定時期で登記することが多いことが分かります。


2020.12.18(金)【社員の欠乏その2】(金子登志雄)

 トランプさんの往生際の悪さは、まるで日本軍の万歳突撃のようです。勝ち
目がないのに、支持者を巻き込み米国社会をますます混乱(内戦状態)に陥れ
ているのは一国のトップとしてどうなのでしょうか。これで間違いなく歴史上
の人物に格上げされましたが、後世の歴史は彼をどう評価するでしょうか。

 さて、昨日の本欄を受けて、改めて、持分会社と株式会社の相違を比喩で考
えてみました。法律的には組合と社団の相違でしょうが、比喩でいうと、閉鎖
的な会員制クラブとオープンな会員制クラブでしょうか。前者は仲間だけで結
束し、後者は入会自由ですから、前者では仲間が死亡しても相続人は仲間にな
れず、後者は自動入会になります。後者では業務執行権が取締役に帰属してい
るため、自動入会でも会員制クラブが困ることがないためです。

 前者では仲間が不在で1人になり、その者が死亡しても相続人は入会できな
いため、会員制クラブの清算に相続人は関与できず、最後の残余財産だけを相
続するのでしょう。

 ところが、実務では、唯一の社員が死亡直前の病床で、会社の業務に従事し
ている相続人である長男や次男に「お母さんと会社の面倒はお前達に委ねる」
とでも話すことが多く、これをもって、持分は相続できる(社員になって会社
を維持してくれ)という定款変更意思を認めてもよいのではないでしょうか。
これを肯定することができれば、突然死でもない限り、社員欠乏というケース
は少ないと私はみていますが、いかがでしょうか。

 なお、昨日の投稿の注記7は、私の質問に東京法務局が同意したものですの
で、簡単に説明しておきます。
 
 会社法927条に、清算が結了したときは、計算承認日から2週間以内に、
清算結了の登記をしなければならないとあります。では、12月15日に残余
財産が分配され清算事務が終了し、その報告及び結果承認日が18日だったと
き、登記すべき清算結了日は15日か、18日かという問題が生じます。結論
をいうと、清算結了には清算事務の終了(清算人の職務終了)と清算結果であ
る計算の承認(法人格の消滅)という2義があり、登記でいう結了日は後者だ
ということです。ご臨終の確定には儀式が必要だということだと思います。


2020.12.17(木)【社員の欠乏により解散した場合の計算の承認】
                           (仙台・立花宏)

 定款に、社員が死亡した場合に、相続人が持分を承継する旨の定めがない合
同会社において、唯一の社員が死亡し、社員が欠けたことにより解散したとし
ます。

 清算事務が終了したときは、清算に係る計算をして、原則として社員の承認
を受けなければなりません(会社法667条)。しかし、この会社においては、
承認をするべき社員がいませんから、清算に係る計算の承認をどうすればよい
のかは、とても悩ましい問題です。

 持分会社には、会社法667条2項に、清算に係る計算について、1か月以
内に社員が異議を述べなかったときは、社員が承認したものとみなすという方
法も規定されていますが、計算について社員に通知をすることが前提でしょう
から、社員がいない場合は、そもそも通知ができず、この方法は利用できない
と思います。

 社員は不在になっても、その相続人(一般承継人)が存在するのであり、当
該相続人は、社員ではなくても、会社の所有者の地位にあるといえ、当該相続
人の承認を得ればよいという考え方もありえると思います。しかし、定款に持
分の相続を許容する規定がないため社員とならなかった相続人は、残余財産の
分配を受ける財産的側面のみを承継した、債権者に近い立場とも考えられ、計
算の承認について社員と同様に扱うことは、個人的には、消極に感じました
(注1)。

 参考までに、株式会社の場合において、株主の所在不明等の理由により、決
算報告の承認に係る株主総会を開催することができない場合には、監査役の証
明書を添付する等により、清算結了の登記は受理される扱いとなっています
(注2)。この取扱いは、「株主総会の決算報告書の承認は清算結了の事後的
承認にすぎず、清算人の免責要件ではある(商427Ⅱ)が、清算結了自体の
効力要件ではないものと考えるのが相当」(注3)という考え方に基づきます。

 この免責要件というのは、株式会社について規定されている、決算報告の承
認により、任務を怠ったことによる清算人の損害賠償責任は原則として免除さ
れたものとみなされる(会507条4項)との規定です。これに相当する条文
は合同会社には規定されていませんが、合同会社の清算人についても同様であ
ると解釈されています(注4)。
 
 この計算の承認について、商法時代は、「清算人の任務が終了したるときは
清算人は遅滞なく計算を為し社員の承認を求むることを要す」と規定されてい
ました(商133条1項)。しかし、この規定ぶりだと、個々の清算人の終任
(辞任等)の場合も計算をしなければならないと解釈せざるを得ないという不
都合があったため、会社法制定の際、「清算持分会社」を主語とする現在の規
定ぶりに変更されたようです(注5)。

 もともとは、清算人が任務(清算事務)を終了したときに行うことであった
とすれば、清算に係る計算の承認は、民法655条(注6)の特則のようなも
のであり、委任内容たる清算事務の終了により清算人の職務が完了したこと
(委任関係の終了)を相手方(実質的な委任者である社員)に対抗するために
は、清算持分会社の清算事務の終了(清算に係る計算)を社員に通知するだけ
では足りず、原則として承認を受けなければならないというもの趣旨ではない
かと想像しました。

 すなわち、委任の内容である清算事務の終了、すなわち、清算結了により、
清算人と合同会社の間においては、委任関係は終了します。そして、清算に係
る計算をし、社員の承認を受け、合同会社との委任関係の終了を社員に対抗す
ることができるようになって、はじめて、清算結了によって会社(法人格)は
消滅し、清算結了の登記をすることが可能となるということではないかと考え
ました(注7)。

 そうであれば、今回の会社のケースでは、承認を得て清算事務の終了を対抗
すべき相手(社員)が存在しないのですから、清算事務が終了すれば清算結了
により法人格が消滅し、その登記をすることが可能になると考えます。登記の
添付書面については、「社員が欠けたため解散」と登記されているのですから、
清算が結了したことを証するための清算に係る計算書を添付すれば足りるよう
に思いますが、円滑に登記が受理されるよう、当該計算書に、社員がいないこ
と等の事情を記載しておくとよいのではないでしょうか。
 
 注1)社員とはならいとしても、会社の所有者であるといえ、社員に準ずる
立場として承認をするという考え方もあり得ると思います。
 注2)松井信憲著『商業登記ハンドブック第3版』(商事法務)529頁
 注3)稲葉威雄・筧康生・宇佐美隆男・永井紀昭・柳田幸三・吉戒修一編
『新訂版 実務相談株式会 社法1』(商事法務研究会)788頁
 注4)神田秀樹編『会社法コンメンタール15 持分会社【2】』
(商事法務)228頁
 注5)神田秀樹編『会社法コンメンタール15 持分会社【2】』
(商事法務)224頁以下
 注6)民法655条「委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又
は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもって相手方に対抗する
ことができない。」
 注7)「清算結了」には、「清算人の清算事務の終了」という意味と、「法
人格の消滅」という2つの意味で使用される場合があるようです(令和2年2
月6日東京司法書士会令和元年度第3回千代田支部セミナーにおいて、東京法
務局より当該趣旨の見解が示されたようです)。


2020.12.16(水)【管轄外本店移転議事録】(金子登志雄)

 仮に、非取締役設置会社が東京都港区から東京都新宿区へと法務局の管轄が
変わる場所に本店移転する場合の登記依頼を受け、議事録案の作成も委ねられ
た場合は、皆様はどうなさいますか。

 多くの方が定款変更は株主総会決議、移転場所は取締役の決定としているの
ではないでしょうか。このほうが書面が多く報酬請求の際に、請求しやすいと
もいえます。

 しかし、面倒なことを嫌う私は、できるだけ添付書面を少なくするため、移
転場所まで株主総会の書面決議で決定し、取締役の決定書を作らないように顧
客にアドバイスしています。例えば、株主総会議事録(書面決議)案は次のよ
うにします。 
----------------------------------------------------------------------
 第1号議案 定款一部変更の件
  定款第3条を「当会社は、本店を東京都新宿区に置く。」と改める。

 第2号議案 本店移転場所決定の件
  2020年12月〇日に本店を「新宿区〇〇町〇丁目〇番〇号」に移転する。
----------------------------------------------------------------------

 非取締役会設置会社の株主総会は万能の決議機関ですから、移転場所は株主
総会でも取締役の決定でも定められるわけです。

 面倒な場合は、取締役会設置会社でもこれをし、上記第1号議案を次のよう
にします。
----------------------------------------------------------------------
 第1号議案 定款一部変更の件
  定款を次のように改める。
  1.第3条を「当会社は、本店を東京都新宿区に置く。」と改める。
  2.次の附則を新設する。
   附則
    1.会社法第295条第2項に基づき、2020年12月に行う本店移転に
     関する事項の決定は株主総会決議によることを妨げない。
    2.本附則は前項の本店移転の登記が完了したときに削除される。
----------------------------------------------------------------------
 
 附則1にあえて「会社法第295条第2項に基づき」を挿入しているのは登
記官対策であり、これがないと、「こんなことができるのか」と電話が来そう
ですし、また、登記官を迷わせ登記の完了が遅れる可能性があるためです。


2020.12.15(火)【印鑑提出の任意化】(東京・鈴木龍介)

 令和元年改正会社法の整備法により、印鑑提出を義務付けていた商業登記法
20条が削除され、それに伴い商業登記規則の改正がなされることとなり、現
在パブコメが実施中です(令和2年12月23日まで)。

           http://u0u0.net/vGbC

 ということで、改正案を検討してみたのですが、IT(今回は電子証明書関
係ですが)が絡むと条文がとたんに難解になりますね。

 まず、現行法での取扱いを整理しますと、印鑑提出は必須で、商業登記電子
証明書を取得するにあたっても印鑑提出が前提となる、いわば重層的な仕組み
が採用されています。

 ということは、設立登記を行う場合には、少なくとも紙の「印鑑届書」を提
出する必要があります(したがって完全オンラインは無理ということになりま
す)。

 本来、電子証明書はあくまで個人を証明するものですが、商業登記電子証明
書は、たとえばX社の代表取締役のAといったかたちで、個人を証明しつつも、
会社との紐づけがなされる唯一の電子証明書です。

 次に、改正案ですが、印鑑提出は任意であり、印鑑提出をすることなく商業
登記電子証明書の取得も可となります。つまり、会社届出印と商業登記電子証
明書による電子署名(商業登記電子署名)とが併用的または選択的に利用する
ことができるようになります(ここまでは異論や疑問はありません)。

 加えて画期的(?)なのが、たとえば登記申請に添付する電子文書である委
任状には商業登記電子署名のほか公的個人認証サービスによる電子署名や電子
署名法に基づく法務大臣の認定を受けた特定認証業務による電子署名(マイナ
ンバー電子署名等)でも可ということのようです。紙の世界に例えると、委任
状に会社届出印ではなく、代表者の個人実印の押印でもOKというのと同義と
理解しています。

 また、同様に商業登記規則61条で会社届出印を押印すべきとされる議事録
等を電子文書で作成した場合、マイナンバー電子署名等でもOKということの
ようです。(私の読み方が間違っていないとするならば)本当にそういうこと
でよいのか、ひいては取引の安全性が確保されるのか、ちょっと心配です。


2020.12.14(月)【株主総会の定足数】(金子登志雄)

 お歳暮の時期ですね。こういう習慣に疎い私は、有難く頂くばかりで送った
ことは過去一度もなく、肩身の狭い思いでいるこの頃です。申し訳ありません
が、今後も同じですので、ご了承ください。

 さて、一般株主の多い上場会社の株主総会では議決権を行使しない株主が少
なくありません。当の私も自社株(アクモス株)以外は行使しないことのほう
が多いです。面倒に感じるからです。

 この関係で、私の顧客の上場会社でも、議決権数の定足数を満たさない会社
が過去に1社だけあり、そのたびに、定足数が定款で緩和されている証明とし
て定款を添付していました。

 珍しい例だなと思っておりましたら、当社も今年の定時株主総会がこれでし
た。大口の機関投資家が当社の株価上昇に伴い利益確定のため売却し、個人の
小口株主が大幅に増加したためです。

 今年の議題は「剰余金の配当」と「取締役の改選」の2つでしたが、定款の
どこを証明するため、定款の添付が必要でしょうか。

 剰余金の配当は通常の普通決議ですから、「株主総会の決議は、法令又は定
款に別段の定めがある場合のほか、出席した議決権を行使することができる株
主の議決権の過半数をもって決する」と規定した部分です。この規定は定足数
の排除規定です。

 しかし、剰余金の配当は登記事項ではないため、示すべきは取締役の改選に
関する「当会社の取締役の選任決議は、・・・株主総会において議決権を行使
することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、出席し
た当該株主の議決権の過半数をもって行う」と規定した部分です。

 もし、定款の変更事項かつ登記事項がありましたら、「会社法第309条第
2項の規定によるべき決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の
3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもってこれ
を行う」と規定した部分です。

 なお、株主総会の特別決議の定足数3分の1以上は平成15年4月施行の改
正商法からであり、それまでは過半数でした。上場会社で定足数を満たさず定
款変更決議もできない事例が生じたためです。定足数の充足に苦労していない
非上場会社では定めるべきではないと思っています。オーナーの留守中に大口
の第三者割当の募集株式が決議されてしまうと、乗っ取りされてしまいます。

(追記:債権者保護手続開始日より合併契約日があとになってもよいか)
 2020.12.07(月)本欄で取り上げましたが、令和2年2月6日の【令和元年
度第三回千代田支部セミナー事前質問に対する回答】で東京法務局が肯定して
いました。すっかり忘れていました。実例はどなたからもいただいていません。


2020.12.11(金)【ローマ字商号と法定公告】(金子登志雄)

 コロナ陰謀論者でトランプ熱烈支持者の死亡がまだありました。

    https://finders.me/articles.php?id=2439

 さて、ローマ字商号が増えましたが、商号「株式会社ABC」が法定公告す
る際に縦書の官報ではどのように表記すると思いますか。

 まずは実例をみてください。下記3段目にローマ字商号が2社あります(そ
のうち閲覧できなくなりますから、必要であれば、保存してください)。

         http://u0u1.net/PpyV

 つまり、ABCを縦並びにするなら株式会社も縦書で、ABCを横並びにす
るなら株式会社も横書にします(テイハン300問でその旨を紹介したのです
が、360問に改訂する際に印刷ミスが生じてしまいました。増刷の際に直し
ます)。

 どうでもよいこととは思いますが、「株式会社ABC」で1つの商号ですか
ら、氏名の氏は縦で、名は横というのが不自然であるのと同様に、法定公告も
表記に配慮していることが分かります。

 ところで、ハンコの廃止が問題になっていますし、登記申請書も裁判の訴状
も今は横書です。法令も官報も、ついでながら新聞も、IT化の進展とともに、
いつの日か、効率重視の横書になるのでしょうか。

 司法書士になる前の私の最初の共著書『実戦M&A事典』(1988年刊)
出版の際に出版社であるプレジデント社の社長から「昔、プレジデント誌は横
書であったが、縦書に変更したら急に売行きがよくなった」と教わりました。

 私の最初の法律実務書で私を会社法務の世界で有名人にしてくれた『これが
新商法だ!これが新登記だ!』(2003年2月刊、中央経済社)を縦書にし
た理由です。おかげ様で(?)、拙著の中では、最もよく売れた本になりまし
た。ベストセラー本は縦書が多いです。江頭株式会社法も縦書です。ただし、
縦書だと図表の挿入に苦労しますので、以後の拙著は横書です。

 どうも日本人は縦書だと新聞記事と同様に寝転がっても読めると気安さを感
じ、横書だと机に座って読む本という緊張感があるのではないでしょうか。漫
画も縦書です。

 日本に生まれ日本語(日本文化)を大事にするならは縦書を尊重すべきです
し、縦にも横にもなれる日本語は実に便利です。官報や新聞が横書になる可能
性は極めて低いとみています。


2020.12.10(木)【法定退社事由により退社しない旨の定め】
                           
(仙台・立花宏)

 ある税理士事務所様からのご紹介で、合同会社の設立登記のご依頼をいただ
きました。社員は1名のみの会社で、不動産を所有・管理することが目的の会
社です。設立にあたり、定款案を作成していて、ふと疑問に思ったことがあり
ました。

 社員が1名のみの会社であり、当該社員に相続が発生した場合は、相続人が
当該社員の持分を承継する旨を定款に定めるほか、当該社員が後見開始の審判
を受けた場合であっても、当該社員は退社しないことを定款に定めることも提
案しようと検討していました。

 死亡や後見開始の審判を受けることは、会社法607条1項の法定退社事由
に該当します。今回の会社は、社員が1名のみであるため、当該社員が退社し
てしまうと、この会社は解散してしまいます(会社法641条4号)。それは、
依頼者のご意向に沿わないと思われたからです。

 前者は会社法608条1項により、定款にその旨を定めることになります。
では、後者の後見開始の審判を法定退社事由としないことは、何に定めればよ
いでしょうか。というのは、後見開始の審判を法定退社事由から除外すること
を許容する規定は会社法607条2項ですが、同規定は、「持分会社は、その
社員が前項第5号から第7号までに掲げる事由の全部又は一部によっては退社
しない旨を定めることができる」と規定するのみで、608条1項のように、
定款で定める必要があるとは規定されていないからです。

 そうすると、定款以外、たとえば、業務執行社員の過半数をもって決定する
ことができるのでしょうか。しかし、社員の法定退社事由を除外することを定
款以外で定めることができると考えるのは、違和感を覚えました。

 いくつかの実務書を確認してみましたが、この点について解説しているもの
を見つけることができませんでした。そこで、コンメンタール(注1)を確認
したところ、次のような記述がありました。

 「条文上、『定款で』定めるべきことは明示されていないが立案担当者も当
然に定款で定めることを前提としているようである。立案担当162頁」(注
2)

 また、商法時代の書籍(注3)を確認したところ、後見開始の審判を受ける
こと(当時は、「禁治産」)について、「社員相互の人的信頼関係からきた退
社事由である。したがって強行規定と解する必要はなく、定款で禁治産を退社
事由としないこともできる(通説)。」とあり、定款で定めることが前提と解
釈されていたようです。

 社員の入退社に関する事項を、社員間の組合契約ともいえる定款以外で定め
るのは適当ではないでしょう。コンメンタールの記述どおり、会社法の規定も、
定款で定めることを当然の前提としているのだろうと思いました。

 注1)神田秀樹編『会社法コンメンタール14 持分会社(1)』
   (商事法務)236頁
 注2)文中の「立案担当」は、相澤哲編「立案担当者による新・会社法の解
    説」(商事法務)
 注3)上柳克郎ほか『新版 注釈会社法(1)会社総則、合名会社、合資会
    社』(有斐閣)315頁


2020.12.09(水)【バランス思考】(金子登志雄)

 トランプさんの顧問弁護士もコロナに感染しました。マスクをしない自由を
主張する方々ですから自業自得ですが、他人に感染させる自由はないので(故
意が認定されれば傷害罪です)、もう少し慎重に行動してほしいものです。

 わが国でも、先週の土曜日には、東急東横線(東京と横浜をつなぐ私鉄)の
某駅前で、「マスクをやめよう」と演説している集団がありました。国民主権
党と名乗っていましたが、ネット検索によると、渋谷のハチ公前でノーマスク
集会「クラスターフェス」なるものを主催している集団ということでした。

 党名はりっぱですが、やっていることについては、欧米のコロナパーティー
に近いところがあります。そのパーティの中には、本当に感染するかを実験す
るため、あるいは免疫を作るために、コロナ患者を呼んで意識的に接触する集
会もあったようで、米国では「コロナはデマだ、陰謀だ」と信じていた30代
の参加者の男が死亡する事故もありました。

 まるで小学生並みの幼稚さですが、若者の情報源SNSで拡散するさまざま
なデマ情報ウイルスに、なぜ、こうも簡単に感染してしまうのでしょうか。

 昔、勉強した政治学の本に「右が正しいと思っている人を左に変えるのは無
理だが、さらに右寄りにするのは容易だ」というようなことが記載されていま
した。マス(集団)の意識変化や大衆扇動の部分だったと記憶しています。

 これからすると、もともとその人はコロナはデマではないかと思っており、
それを強化する情報を好んで選択し、確信に近づいたのだと思います。この傾
向は誰でも同じですが、異なる意見を持つ友人や同僚のいる世界で生きている
通常人にはバランスを求める力もあるため、極端に走ることはありません。

 そういう通常の世界で生活していないと、歯止め(デマ情報遮断マスク?)
もなく、居心地のよい価値観を同じくする同調者だけで集まり、ともに社会を
変革しようという誤った正義感に燃えてしまいがちです。

 若者でなくとも、十分なファクトチェック済みなのに、いまだにトランプが
本当は勝ったと主張している日本のオジサン達もいます。作家や医師など一人
世界の職業の方に多いのですが、よくいえば信念の人、悪くいえば偏屈です。
        http://u0u0.net/0dWb

 我々も一人世界の職業ですが、社会と接触する我々にはリーガルマインドが
欠かせません。健全な社会通念というか、常識人のバランス感覚のことです。
これが欠ければ他を説得することができず、仕事が円滑に進みません。

 法律とは無関係なネットのデマ情報もリーガルマインドを鍛える訓練に役立
ちますので、世事にも関心を持つようにしていますが、関心を持てば持つほど、
日本の将来に悲観的になってしまうこの頃です。


2020.12.08(火)【根抵当権と電子記録債権】(東京・鈴木龍介)

 現在、被担保債権の範囲が「銀行取引 手形債権 小切手債権」となってい
る根抵当権について、「電子記録債権」を追加する変更をすべきかという問い
合わせがあり、少し整理してみました。

 まず、ここでいう「電子記録債権」とは、いわゆる「回り手形」と同様の根
抵当権者・債務者間の直接の取引によらずに根抵当権者が取得した電子記録債
権法に基づく電子記録債権を指し、「回り電子記録債権」のことです。

 これまで「電子記録債権」を根抵当権の被担保債権の範囲とすることができ
るかについては、登記先例(法務省平成24.4.27民二第1106号民事局民事第二課
長通知)により許容されていた一方で、「電子記録債権」は「銀行取引」に含
まれるとの解釈もなされていました。

 そのような中、今年の4月1日に施行された、いわゆる債権法改正において、
「電子記録債権」は「手形債権」・「小切手債権」と同様に、根抵当権の被担
保債権となりうることが明文化されました(民法398条の2第2項・398条の3第2項)。
つまり、「電子記録債権」は「手形債権」・「小切手債権」と同様に、格別に
根抵当権の被担保債権の範囲として定めるのが相当ということになります。

 したがって、新規に根抵当権を設定する場合の被担保債権の範囲は、たとえ
ば「銀行取引 手形取引 小切手取引 電子記録債権」とすべきでしょう。

 一方で、「電子記録債権」を被担保債権の範囲に加えるためには、根抵当権
の変更契約を締結し、根抵当権の変更登記を行う必要があり、一定のコストと
手間を要します。したがって、一律に「電子記録債権」を被担保債権の範囲に
加えるのではなく、債務者の取引状況を見極めたうえで、必要に応じて対応す
べきというのが実務的には正解と考えます。


2020.12.07(月)【合併契約と契約内容と契約書】(金子登志雄)

 神崎先生主催の商業登記倶楽部への質問に「合併契約締結前に債権者個別催
告及び官報公告を行って問題はないか」という質問がありました。

 会社法では、組織再編行為における株主総会の決議、株式買取請求の手続、
債権者保護手続等について順序を問わないという解説が多いのですが、合併契
約締結の順序についての説明は見当たりません。

 契約の締結が先行するのは当然ではないかと思うでしょうが、仮に合併契約
が先行しても、「本契約は、適法な機関決定を得られないときは効力を失う」
と解除条件付であるのが通例であり、合併契約を機関決定に先行させる必然性
はありません。

 現に、拙著『親子兄弟会社の組織再編の実務〔第2版〕』75頁以下では、
合併契約締結以前に機関決定した上場会社の実例があることを紹介しています。
特に、簡易合併の場合は、取締役会で契約「案」を承認し、その後、代表取締
役同士で締結する例が少なくなく、その後とは、その日のうちにとは限りませ
んし、機関決定はこれで済み、契約締結後に改めて契約を承認することはあり
ません。

 このような会社は事前開示に合併契約書を示さなかったのでしょうか。これ
に関連して次の差にお気づきですか。
1.事前開示では吸収合併【契約の内容】を示せとある(794条など)。
2.機関決定の対象は、【契約】の承認となっている(795条など)
3.登記に添付するのは合併【契約書】となっている(商登法80条)

 つまり、事前開示の際は契約内容を示せばよく、まだ契約の締結に至ってい
なくともよい、機関決定は契約の締結を条件にすればよく締結時期より前でよ
い、合併契約を書面で締結したとは限らないから会社法を前提に登記の際は締
結した契約を示せばよいといえないでしょうか。
 
 極端な場合、相手と交渉する前であっても、「当社(A)がB社と契約する
予定の合併契約内容」を事前開示し、その内容で契約の締結を条件とすれば、
会社法の要件を満たすのではないでしょうか。

 ということで、私は、契約締結前でも締結を条件にしたとみられるから、事
前に債権者保護手続を開始してよいと考えておりますが、ネットでは実例が見
つかりませんでした。もし、ご経験のある方は、実例をご紹介してほしいもの
です(当HPの「ご相談窓口&お問い合わせ」にEメールが記載されています)。


2020.12.04(金)【司法書士択一試験問題から】(金子登志雄)

 先週の金曜日に掲載した司法書士試験は挑戦してみましたか。択一問題の中
から実務でも勘違いしやすい問題3つを取り上げてみました。正誤問題です。

 Q1:募集株式と引換えにする金銭の払込期間を定めて募集株式を発行する
場合において、株式引受人全員が当該払込期間の初日にその金銭の全額の払込
みをしたとしても、募集株式の発行による変更の登記の申請は,当該払込期間
の末日から2週間以内にすれば足りる。

 Q2:吸収分割による変更の登記の申請書に吸収分割承継会社が債権者保護
手続を行ったことを証する書面として公告をしたことを証する書面を添付する
ときは,当該公告をしたことを証する書面の内容として、吸収分割承継会社が
吸収分割により承継する事業の内容が記載されていることを要する。

 Q3:資本金の額が3億円,最終事業年度末日における剰余金の額が1億円
である会社において、翌事業年度中にその他資本剰余金の額が5000万円増
加した場合には、当該翌事業年度末日までに剰余金1億5000万円を資本に
組み入れて、資本金の額を4億5000万円とする変更の登記を申請すること
ができる。
----------------------------------------------------------------------

 Q1とQ2は単なる条文問題です。Q1は会社法915条であり、1項でも
2項でもどちらでもよいので〇です。2項に「前項にもかかわらず」とありま
すので1項が原則になります。

 Q2は799条2項で×です。しばしば、事業内容の記載が契約書文面と完
全に一致しなくてよいのかという質問を受けますが、任意的記載事項ですから、
そう気にする必要はありません。現場の登記所から指摘されても、法務省のお
墨付きがあるという意味でご紹介しました。

 Q3はいかがでしたか。勘違いしやすいのですが、損益計算書上の利益は期
末に貸借対照表に計上し確定しないと資本組入れはできませんが、自己株式処
分差益や減資差益などで生じるその他資本剰余金は直接貸借対照表に計上され
ますので、期中の増加分も資本組入れの対象になります。〇が正解です。


2020.12.03(木)【公益財団法人ひかり協会】(島根・根来川弘充)

 皆様は上記の法人をご存じでしょうか。森永ひ素ミルク中毒被害者の救済機
関として、40年以上も被害者支援をされています。

 私は、成年後見の関係で、数年前より上記法人の山陰地域における救済対策
委員をさせていただいております。

 この法人は、10年単位で基本計画を立てられているのですが、被害者の方
もご高齢になられ、これから10年の計画が終盤と位置づけられるようになり
ました。

 この法人の活動は、国の責任の果たし方についての記録でもあり、これから
の日本にとって大きな財産となるものと思います。

 小学校時代教科書で学んだことについて、社会人となり、身近な問題として
関われたことは、私にとっても大変貴重な経験です。私なりに次世代に伝えて
いきたいと思います。



2020.12.02(水)【Qアノンとトランプ弁護団】(金子登志雄)

 Qアノンをご存じでしょうか。日本でいう2チャンネルのような米国の匿名
掲示板でQと名乗る者が自分は国家の最高機密を知る立場にあると自己紹介し、
米国には「闇の政府(Deep state)」という秘密結社が存在し、民主党幹部や
リベラル思想の俳優などで構成され、表の社会を牛耳っていると非難する極右
の陰謀論拡散者達のことです。

 この「闇の政府」と戦う正義の人(救世主)がトランプだと主張し、トラン
プ氏を応援するため、4年前はヒラリー・クリントン攻撃に熱心でした。ヒラ
リーが児童買春組織に関わっているなどという主張を信じられますか。

(ビザゲート)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/12/post-6501.php

 カルト宗教のようだと馬鹿にしてはいけません。ネット時代の今日、コロナ
ウイルス並の伝染力があり、米国ではトランプ支持者の中で猛威を振るってお
り、日本の匿名掲示板でも「俺だけが真実を知っている」かのようにQアノン
情報が拡散されています。

 トランプ氏や弁護団の「海外で票の集計がなされている」「ドミニオン社製
の投票機械でトランプ票が消された」などの主張をみると、Qアノンと同様に、
デマだと分かっていながら、ウイルスを巻き散らかしているとしか思えません。
これで一国の元首あるいは法律家といえるのでしょうか。

 幸い、トランプ政権下のインフラ安全保障局は、「投票が不正に操作された
ことを示す、いかなる証拠も見つかっていない」という声明を出していますし
(これでトップは解任されてしまいました)、トランプ支持のクリスティー前
ニュージャージー州知事は、「トランプ弁護団は、いざ法廷に入ると、不正選
挙だと陳述していない」とあきれており、共和党系の裁判官も、「主張するか
らには、具体的な申立てと、そして証拠が必要だが、ここにはそのどちらもな
い」と怒り心頭ですから、米国社会はまだまだ健全です。

 あるネット報道によると、トランプが嫌だからバイデンにしたという選挙民
が少なくないようですから、今回の結果は、大衆扇動が勝利の道と信じるトラ
ンプ側の戦略ミスが大きいといえそうです。

 ちなみに、我々の仕事でも理由も述べずに「東京法務局に確認した」などと
いう情報が出回ることがありますが、質問の仕方あるいは回答者によって回答
が異なることが多々ありますので、これも鵜呑みにしないことが肝要です。偽
情報ではなく勘違い情報ですが、根拠を説明できない情報は最初から却下です。


2020.12.01(火)【登記統計】(東京・鈴木龍介)

 何年に、どのような登記が、何件申請されたか等の登記に関するデータを把
握したいときには、いわゆる「登記統計」によって調べることができます。

 現在の「登記統計」は法務省が取りまとめ、直接的には登記の事務量と登録
免許税等の国への歳入額を把握することを目的としている一方で、間接的には
国の経済活動の実態の一端を示すものと評価することができます。

 たとえば、ある年のあらたに設立された株式会社の数は、該当年の「登記統
計」における株式会社の設立数を見ればわかります。

 「登記統計」の歴史は古く、「登記法」(明治19年法律1号)が明治20(1887)
年に施行されたことに伴い、翌明治21(1888)年に「日本帝国司法省登記統計
年報」として取りまとめられ刊行されたのが始まりです。その後、何度かその
名称は変更されましたが、資料が散逸してしまった第二次世界大戦中の昭和19
(1944)年・昭和20(1945)年分を除き、脈々と毎年取りまとめられ公表され
ています。

 平成18(2006)年以降の「登記統計」については、法務省データベースで閲
覧することができます。
  http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touki.html

 明治期からの「登記統計」については、一部を除き、「国立国会図書館デジ
タルコレクション」からデジタルデータで情報の取得が可能です。その他のも
のについては、国立国会図書館・国立公文書館・法務省で閲覧・謄写すること
になります。


2020.11.30(月)【カルチャーショック】(金子登志雄)

 11月最後の日になりました。当事務所は商業登記専門ですから、決算時期
との関係で今月はヒマであり、好まないのにテレワークばかりでした(実際に
は単なる自宅待機です)。

 ヒマに任せて、ネット検索していたら、こんなのがありました。
      http://honne.biz/job/a1230/1/

 独立開業者か勤務司法書士かは不明ですが、同職の皆さんはストレスが多い
ようですね。単純作業で飽きた、単価が安すぎる(バックマージンの同業者の
せいだ)、忙しすぎる等々のご不満が多いようです。

 こういうのをみるにつけ、商業登記専門でよかったと思わざるをえません。
単なる役員変更でも創意工夫の日々で飽きることもなく、相手が不動産屋など
ではないためバックマージンもありません。下請仕事というより会社に対する
コンサルの先生でいられます。また、決算期の関係で繁忙時期も限られます。
顧客は気心の知れたリピーター客中心のため、翌年も仕事を依頼されるかと思
えば、単価の安さはそう気になりません。立会いもないので、テレワークにも
適しています。

 こういう有利さがあるためか、地方の勤務司法書士が不動産よりも商業登記
専門で行こうと上京し商業登記専門事務所に転職することもあるようですが、
仕事に向かう姿勢が全く違うので、カルチャーショックも大きいようです。今
までは与えられた仕事の流れ作業で済んでいたのに、商業登記では与えられた
課題に対して選択肢が多く、どの包丁を使って、どう料理するかと最終の登記
を見据えて添付書面の内容や形式に頭を使わなければならないからです。

 この業務姿勢の差が自分は優秀な司法書士だと思い込んでいたのに、商業登
記には向いていないと感じたり、都会のレベルに着いて行けないことを自覚し、
ショックを受けるわけです。後者は時間で解決しますが、前者はセンスや相性
の問題であるため、深刻です。

 当の私自身は創意工夫が大好きで趣味と仕事が一致しストレスがありません
が、もし自宅のある横浜市の郊外で開業し町医者と同様のヨロズ屋事務所でし
たら、私も仕事に飽きたり、ストレスを感じ、たぶん、経験のある学習塾でも
経営するか、司法書士試験受験予備校講師の職でも得て、兼業司法書士になっ
ていたことでしょう。いや、思い切って横浜市の中心部か都心に事務所を移転
していたかも。



2020.11.27(金)【司法書士試験問題に挑戦】(金子登志雄)

 次は、本年度の司法書士試験午後の部の択一問題第32問の抜粋です。正し
い内容ですか。

 1.特例有限会社の清算人の登記の申請書には,登記すべき事項として,清
算人の氏名及び住所を記載しなければならない。
 2.合同会社の清算人の登記の申請書には,登記すべき事項として,清算人
の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
 
 回答は本徒然8月20日【各種の代表者の登記】をご覧ください。本欄閲覧
の受験生から、受験の際に助かったと礼をいわれました。

 その関係もあって、連休中のヒマ潰しで、商業登記に関する部分だけですが、
試験問題だけにざっと目を通し、挑戦してみました。

 (午後の部/問題全文)
  http://www.moj.go.jp/content/001332088.pdf

 良問が多く、記述式の第37問も実によく練れていました。ただし、試験は
落とすためにあるとはいえ、権利義務者問題、監査役の権限と取締役等の責任
免除だけでなく、実務では珍しい代表取締役選定方法の変更、種類株式発行会
社の募集株式の発行、種類株式の株式併合もあり、一瞬迷わせる論点が多く、
しかも回答する分量が多いため、受験から遠ざかっている我々には、制限時間
内に回答することができたかと自信を持てませんでした。

 皆様も土日に挑戦してみませんか。きっと早く合格しておいてよかったと思
うことでしょう。回答は次です。

 (択一回答)
  http://www.moj.go.jp/content/001331725.pdf
 (記述式回答)
  http://urx3.nu/wqZQ



2020.11.26(木)【アマゾン・プライムビデオ】(金子登志雄)

 入会した記憶がないのに、アマゾン・プライムの会費が口座から引き落とさ
れていました。アマゾンで本などを購入した際に、何かに触れてしまったので
しょう。

 しかし、おかげで無料の映画やドラマをプライムビデオで楽しむことができ、
この連休時やコロナ時代の巣ごもり生活では大いに助けられました。

 もっぱら韓国の時代劇ドラマをみています。韓国は国策なのかエンターテイ
メントに力を入れており、お金のかかったスケールの大きい映画やドラマが多
く、楽しめます。先日見終わったテレビドラマの大祚榮(ダイソエイ=渤海の
初代王)は、何と134話もあり、見終わるのに1週間以上もかかりました。
NHK大河ドラマの2年3か月分だと思ってください。

  (渤海国)
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%A4%E6%B5%B7_(%E5%9B%BD)
 
 字幕でしたが、漢字の音読みは同じなのか、「慎重」や「虎視眈々」も韓国
語で「シンチョウ」「コシタンタン」と発言するなど、「ヘー」と思うことが
度々です。皇帝「陛下」のことは「ペーハー」というのか覚えてしまいました。
登場する唐のペーハーである女帝の則天武后も、「朕(ちん)」と自称してい
ましたから、朕は男性専用ではないようです。

 面白いのは、日本の侍の戦いでは飛び跳ねたり背中をみせることがないのに、
韓国映画では、空中高く飛び上がったり回し蹴りがあったり後ろ向きでクルリ
と回ったりで………中国の剣劇のような動きをしていました。また、日本の指
揮官は前線に出ずに後方で指揮するだけですが、韓国映画では斬り込み隊長の
よう突進します。それで斬られもせず矢にも当たらないのですから、まさかと
思わざるをえません。

 いつも不思議に感じているのは、日本でいえば奈良時代あたりなのに、宮廷
では椅子やベッドの生活ですし、足軽もみな靴を履いていることです。平安時
代の日本の貴族は靴でしたが、椅子やベッド生活ではありませんし、日本では
明治時代になるまで、庶民は靴を履きませんでした。なぜでしょうか。

 始終隣国(特に大国の中国)と抗争し、属国として奴隷を中国に供給してい
た大陸にある朝鮮の国と、外敵がほとんどなかった島国日本の生活環境やもの
の思考方法の相違を強く感じざるを得ませんでした。皆様もプライムビデオを
いかがですか。年間4900円です。


2020.11.25(水)【特例有限会社における特別決議その2】(金子登志雄)

 古山さんが先週金曜日の本欄で取り上げた裁判例につき、立花さんの論文
(登記情報2019年1月号(686号))を下敷きに事案をご紹介しましょう。

 発行済株式の総数6000株の特例有限会社の株主構成は次でした。甲側が
過半数を制しています。
         
  甲の相続人4名    3480株(58%)
            (固有持分1680株、甲から相続分1800株)
  乙ほかその他株主5名 2520株(42%)    

 甲が死亡し、その相続分1800株につき、甲側への売渡請求が株主総会の
特別決議で可決したため、当然ながら紛争になりました。1800株が自己株
式になると、甲側1680株(40%)、乙側2520株(60%)となり、
乙側に経営の支配権が移転してしまうためです。

 会社法175条2項によると、甲側は固有の1680株まで議決権を行使す
ることができません。自己株式の売主の立場になり、特別利害関係人になるた
めです(140条3項や160条4項と同じ)。

 そのため、2520株中2520株の賛成で可決したと乙側は主張したわけ
ですが、裁判所は、整備法14条3項により、特例有限会社の特別決議は「総
株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上」の賛成が必要で
あり、旧有限会社法48条2項と相違し、この総株主は議決権を行使すること
ができる株主に限定していないから、特別決議の分母は6000株であって、
2520株の賛成では足りないとしたものです。

 しかし、議決権を行使することができない株式を特別決議の分母の計算に含
めながら、分子からは除外するというのでは、算数の計算があいませんので、
私個人は乙側の主張が理論的だと考えますが、前記のとおり本件の議決権を行
使することができない理由は、甲側が特別利害関係人だからであり、無議決権
株式など株式の内容の問題ではありません。

 この特別利害関係人を除外することによって不当な結果になる事例のため、
裁判所が技巧的解釈をして甲側を勝たせたのであり、甲側も賛成して種類株式
として無議決権株式などを設けている場合には、分母から除外してよいと私は
考えています。

 特例有限会社限定ですが、この裁判例の評価すべき点は、経営支配権に変化
が生じるような大口の相続があった場合は、相続人等への売渡請求は認められ
ないとしたことでしょう。私も、この売渡請求は、少数株主に相続があった場
合や株式の分散を防止する趣旨で立法されたと思っていますので、強制取得な
のに、相続人固有の1680株についてまで議決権を行使することができない
というのは行き過ぎではないかという気がします。


2020.11.24(火)【日本登記法学会 第5回研究大会】(東京・鈴木龍介)

 以前、一度このコーナーでも取り上げさせていただきましたが、いよいよ今
週の土曜日に「日本登記法学会 第5回研究大会」が開催されます。あらため
て以下のとおり詳細をご案内申し上げます。

 今回はコロナ禍の影響を受け、オンラインによる開催となりますが、逆に参
加しやすいかもしれません。多くの皆さんの参加をお待ちしております。

 開催日時:令和2年11月28日(土)10:00~17:30
 開催形式:「ZOOM」を利用したオンライン会議形式
  テーマ:「担保と登記」
   午前:「動産・債権譲渡登記関係」
    報告①「企業金融の実態に関する聞き取り調査と動産・債権譲渡担保
       について」
        コーエンズ 久美子氏(山形大学教授)
    報告②「動産・債権譲渡登記における動産・債権を特定するために必
       要な事項等に関する考察」
        徳本好彦氏(司法書士)

定時総会:
   午後:「不動産登記関係」
    報告①「抵当権の効力が及び目的物の範囲と登記」
        武川幸嗣氏(慶應義塾大学法学部教授)
    報告②「現在の日本国内の担保法制及びそれに関する諸問題」
        内野篤氏(土地家屋調査士)
    報告③「表示に関する登記と担保」
        中居優氏(司法書士)

 定  員:250名(当学会の会員のみ)
 参 加 費:無料

 共  催:日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会
 後  援:法務省

  日本登記法学会
          http://www.toukihou.jp/event.html


2020.11.20(金)【特例有限会社における特別決議】(東京・古山陽介)

~広島高松江支判平30.3.14金判1542.22~ cf.商事法務No.2173.50頁
 会社法第175条第2項に基づく株主総会の決議は同第309条第2項の要
件を満たす決議(特別決議)でなければならないが、特例有限会社における特
別決議は、会社法整備法第14条に基づき「総株主の半数以上…であって、当
該株主の議決権の4分の3」以上の賛成によって成立するとされており、株主
の範囲を限定する文言が存在しない以上、「総株主」及び「当該株主」には、
本条(175条)2項に基づき議決権を行使できない株主も含まれる。

 簡単にまとめると、会社法第174条に基づく相続人に対する売渡し請求に
際して、対象株主は、株主総会(特別決議)において議決権を行使することが
できない旨規定されているところ、特例有限会社においては、当該特別決議に
ついて、議決権を行使できない対象株主・議決権も「総株主・当該議決権」に
含めなければいけない、ということであります。なお、分母に含めた場合であ
っても、対象株主は、議決権を行使できないことに変わりありません。

 上記判例については、月刊登記情報2019年1月号(686号)の中で立
花先生の論文が掲載されていますので、詳細はそちらで確認いただくとしまし
て、『特別決議に際して、議決権を行使できない対象株主・議決権も「総株主
・当該議決権」に含めなければいけない。』とする点について問題が出てきて
います。

 問題となっているのは、種類株式であります「完全無議決権株式」について
も適用されると解釈されている点であります。

 私は、事業承継対策や相続対策等で無議決権株式を導入する趣旨の依頼を数
多く受託します。もちろん、この判例が出る前にも特例有限会社に無議決権株
式を導入した事例もあります。

 特例有限会社の場合、株主数はそう多くありません。受託した案件でもほと
んどが株主は身内のみであります。

 無議決権株式を導入する事例の多くは、発行済株式総数のほとんど(例えば、
100株中99株)を完全無議決権株式に変更して、無議決権化した株式をオ
ーナー株主の親族(主に子供)に譲渡するといった手続であります。

 このような無議決権株式を導入している会社が株主総会において特別決議を
とる場合にまで、冒頭の判例を適用されてしまいますと、特別決議の要件を満
たすことができず、特別決議を必要とする議案を決議することができない状態
となってしまいます。そうなると、無議決権株式を導入した意味がなくなって
しまいます。

 果たして、上記判例を種類株式である完全無議決権株式についても適用させ
てしまってよいものでしょうか。

 上記判例における「議決権を行使できない株主」というのは、通常は議決権
を有しているものの、当該決議については、特別の利害を有するために議決権
を排除されているものでるから、そもそも議決権が排除されていることを認識
して保有している完全無議決権株式を有する株主の「議決権を行使できない」
とは、立場が異なります。

 招集通知の発送の要否についても、特別利害関係を有する株主に対しては、
招集通知の発送は必要で、株主総会に出席して意見を述べることができるとさ
れているが、無議決権株式を有する株主に対しては、招集通知の送付は必要な
いという点で異なります。

 この問題は曖昧ではありますが、完全無議決権株式を発行している特例有限
会社の登記事項である定款変更の依頼を受託した際、完全無議決権株式(99
株)を排除して普通株式(1株)のみで、株主総会決議を行った議事録を添付
して某法務局に申請をしましたが、特に指摘されることなく登記が完了しまし
た。おそらく、まだ登記事例が少ないことと判例そのものは登記に影響する場
面ではないため、法務局としてはこの論点について触れる機会がほとんどない
ものと推測されます。

 一方で、新規で特例有限会社に完全無議決権株式を発行しようとする相談を
受けた際には、上記判例やリスクを説明したうえで、株式会社に商号変更する
ことを提案する等の対応をしています。
 
 今後、事例が増えてくるとこの論点が整理されてくるものと思われますが、
皆さんはどのように対応されているのでしょうか。

(金子コメント)
 上記は古山さんが水曜日に書いたものだそうで、昨日の私の投稿と問題意識
が偶然に一致しました。上記判例の事案は筆頭株主(経営者一族が58%所有)
に相続が生じた事案であり、相続人である経営者一族が議決権を行使すること
ができないことを奇禍とした乗っ取り事案です。裁判というのは具体的事案に
照らし、結果の妥当性を導くために法令解釈を捻じ曲げることが珍しくありま
せんので、私はその一例だと思っています。権利濫用という一般規定を持ち出
すのは難しいと考え、利害関係者まで特別決議の分母から排除する解釈を避け
たものと私は受け止めており、本判例も完全無議決権株式だったら別の判断を
したのではないでしょうか。



2020.11.19(木)【議決権を有しないと行使できない】
(金子登志雄)

 例えば、乙社の発行済株式の総数100株のうち、普通株式60株を甲、完
全無議決権株式30株を丙(甲と無関係)、残り10株は自己株式だとして、
甲は、乙の「総株主の議決権の10分の9以上」を有する略式組織再編の特別
支配会社(468条1項)あるいは株主等売渡請求の特別支配株主(179条)
になれるでしょうか。

 若干変更していますが上記のような質問がありました。完全無議決権株式は
議決権を行使することができないだけで議決権は存在するわけだから、総株主
の議決権の分母は90だとみるのか、議決権数には含めず60とみてよいのか
という疑問のようでした。

 さて、株主の会社に対する権利には、株式配当や残余財産の分配を請求する
ことのできる権利である自益権と、会社の運営に参加する議決権を中心とした
共益権がありますが(105条)、この議決権については、自己株式のように
「議決権を有しない」という定め方(308条2項)と115条の議決権制限
株式のように議決権があることを前提に「行使することができる」かどうかを
問題にする定め方があります。

 前者は文理上議決権の存在・不存在を問題とし、後者は存在を前提に行使の
可能性を問題としているため、意味は相違するとの見解もあるでしょうが、私
見では区別する必要はないと考えています。議決権は株主の固有の権利であっ
て、法令や定款による制限はあっても不存在ということはあり得ないと考えて
いるためです。

 行使することができない場合の条文を場合分けしますと(株主総会事務手続
の便宜のための基準日問題は除外します)、次のとおりです。

 1.法令上の制限として、自己株式と相互持合株式があります。自己株式は
出資したのを解除したのも同様ですから議決権を行使することができないのは
当然として、相互持合株式も実質的には自己株式に準じたものといえます。

 2.法令に基づき定款の定めにより議決権を制限されるものとして、株主総
会の全部又は一部の議題に限り議決権を行使することのできないものとして、
議決権制限の種類株式、全部の議題に鼻から議決権を行使することができない
ものとして単元未満株式があります。

 上記のうち、いかなる議題であろうと無関係に議決権を行使することができ
ないものは、自己株式、相互持合株式、単元未満株式ですが、法令上、これら
については「議決権を有しない」と規定されています。

 しかし、面白いことに、単元未満株式をみると、308条1項で「一単元の
株式につき一個の議決権を有する」、つまり単元未満株式は【議決権を有しな
い】と規定しながら、189条1項のほうでは、単元未満株式は「議決権を行
使することができない」と規定しています。

 これからもお分かりのとおり、議決権を有しないと行使することができない
は区別する必要もなく、当初の質問の分母は60であり、その10分の10を
保有する甲は特別支配者だと私は考えています。株主総会の議決権を基準に経
営の支配者は誰かを問う場面ですから、完全無議決権株式の数を分母に加える
必要もありません。

 ちなみに、新株予約権の行使条件と同様に、上記は株式の議決権の行使条件
のことであり、権利の消却や消滅を問題とする存在・不存在(あり・なし)の
場面ではなく、議決権を有しないとされる自己株式でも議決権が冬眠している
だけで不存在ではないという考え方です。不存在なら自己株式処分で議決権が
原始取得されることになりますが、冬眠から覚めたとみるべきでしょう。


2020.11.18(水)【ある医院での見聞】(仙台・立花宏)

 「〇〇さん、お車にお戻りください。すみませんが、症状のある方は、駐車
場のお車でお待ちいただくことになっているんです。順番になったら、お呼び
します。申し訳ございません。」

 先日、今年一番の冷え込みとなった日に、近所の医院に、予約をしていたイ
ンフルエンザの予防接種に行ったときのことでした。高齢の女性が入口のドア
を開け、待合室の席の方に進もうとしたとき、受付担当と思われる方が慌てた
ように歩み寄り、その高齢の女性に声をかけ、申し訳なさそうに外へと誘導し
ていました。冒頭の言葉は、その際のものです。

 その高齢の女性は、おおむねの待ち時間を聞いていて、車で待機していまし
たが、そろそろ時間だと思い、待合室に入ってきたのだと思われます。

 その医院では、発熱等の症状のある方は、他の来院者と接触しないようにし
ているのだと思いますが、街中にある小さな個人医院ですから、発熱等の症状
のある方のために、別の入口や待合を用意したりする等の対応は現実的に難し
いのだと思います。

 予防接種の順番を待つ間も、受付の電話が鳴り、担当の方が対応されていま
したが、診察を受けるには、予約のうえ来院が必要で、予約せずに来院した場
合に、発熱等の症状がある方は、いったん受付後、自宅に戻り予定時間に再来
院するか、車で来た場合は、駐車場で、車の中で順番まで待つことになるとの
説明をしていました。

 発熱等があるからといって、いわゆる新型コロナウイルスの感染症であると
は限りません。むしろ、そうでない場合がほとんどだろうと思います。しかし、
リスクを軽減し、他の受診者を不安にさせないためにも、そうした症状のある
方をと他の方が待合室で一緒にならないようにするという判断なのでしょう。

 こうした対応には否定的な考え方もあり得ると思います。発熱等の症状があ
り、体がつらい状況だからこそ来院しているのに、いったん自宅に戻らせたり、
寒い外の車の中で待たせたりというのは、患者にとってとても酷です。こうし
た患者を優先すべきだとも考えられるからです。

 逆に、現在の状況から、予約をしてから来院するのが当たり前で、予約なし
に来院するのは少し問題 ではないか、という考え方もあるでしょう。

 とても難しい問題で、もし、自分が医院を運営する立場だったらどうするか
を思案してみましたが、どうするのが一番よいのか、簡単には答えが出せない
と思いました。

 新型コロナウイルスの感染者が再び増加しています。私も不安な気持ちで毎
日を過ごしており、マスクを着用し、手洗い等をこまめにするのはもちろん、
自宅や事務所に消毒用のハンドジェルを設置したり、アルコール消毒液を用意
して、こまめにテーブルを拭いたりしています。もちろん、外出等は必要最小
限にしています。

 しかし、医療関係者はそれとは比べ物にならないくらい不安で、そして、大
変なはずです。新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れている病院はも
ちろん、それ以外の医療機関も、いろいろな悩ましい問題を抱え、悩み、苦労
しながら業務を続けているのだと想像させられます。そのような生活をいつま
で続けることになるのか、見通しがつかず、現場の方々はつらい思いをされて
いるのではないでしょうか。

 医療の現場は、今でもとても大変な状況だと思います。これ以上、感染が広
がらないことを祈るとともに、なるべく医療の現場の方々にご迷惑をおかけし
ないよう、日ごろの体調管理を、今まで以上にしっかりしようと思いました。


2020.11.17(火)【渉外登記】(東京・鈴木龍介)

 「渉外登記」というカテゴリーは、それほどメジャーなものではないかもし
れませんが、近年のグローバル化に伴い注目を集めています。

 渉外登記には一義的な定義はありませんが、当事者ほかの関係者が外国人
(法人)であったり、在外日本人が関わるケースにおける日本の登記手続と整
理することができるかと思います。

 具体的には、不動産登記であれば、相続登記において被相続人や相続人が外
国人である場合や、売買による所有権移転登記の売主(登記義務者)である日
本人が外国に居住している場合があげられます。

 また、商業・法人登記であれば、外国会社が日本における営業所を設置する
場合や、外国人(法人)が日本の会社に出資する場合があげられます。

 渉外登記には、国内での通常の登記手続とは異なる難しさがあります。

 第一には適用すべき法令の問題があげられます。たとえば日本の不動産の所
有者である外国人に相続が発生した場合に、手続自体は日本の不動産登記法に
基づく処理となりますが、そもそもの相続に関する法律については、その外国
人の本国法が適用されるのか、それとも日本の民法が適用されるのかをジャッ
ジする必要があります。ちなみに、この問題については、まず「法の適用に関
する通則法」(平成18年法律78号)により検討することになります。

 第二には登記申請において添付(提供)する書面の問題があげられます。た
とえば、売買による所有権移転登記の売主(登記義務者)が国内に居住する日
本人であれば住所地の市区町村長が発行する印鑑証明書を添付(提供)するの
が原則ですが、国外に居住する日本人の場合には、そのようなかたちで印鑑証
明書の発行を受けることができず、その居住地の日本領事館で、いわゆるサイ
ン証明書を取得してもらうのが一般的です。つまり、日本では当然とされる書
面について、外国では制度として存在しなかったり、用意することが困難であ
るということも少なくなく、代替となる書面を検討する必要があります。

 第三にはコミュニケーション等の問題があげられます。当事者が外国人の場
合にはダイレクトに言語の違いによる意思疎通の難しさがありますが、異なる
文化や慣習という面でのハードルも低くありません。また、書類の授受につい
ても、国内でのやりとりに比べ時間を要することともに、郵送等のデリバリー
方法にも留意しなければなりません。


2020.11.16(月)【PC故障の後遺症】(金子登志雄)

 パソコン(PC)が故障して困っていたことは記載済みですが、最終的には、
データの回復まで成功しましたが、PC自体の回復である初期化は無理でした。
旧PCは廃棄するしかありません。

 念のため、データ回復代は新PC購入代金より高額でした。特殊能力(業者
の受付の横には警察署や大学の研究機関からの感謝状が張ってありました)に
対する対価ですので敬意を込めて支払いましたが、金額にこだわる方は、お気
をつけくださいというしかありません。

 故障後3週間を経た今日、やっと新PCに少しずつ慣れてきましたが、その
間、マイクロソフトのワン・ドライブ機能に辟易したり、PDFの電子署名が
できなかったりで苦労しましたが、司法書士ソフトの株式会社リーガルの重松
取締役にそのたびにお世話になり、なんとか故障前の旧PCと同様に使えるよ
うになりました。

 それでも登記の電子申請については、旧申請分が消えてしまったため、いわ
ゆる上書(A社の登記済申請書を今回の申請用に修正し再利用)ができず、そ
のたびにA社の会社情報を記載する面倒が増えました。おかげで、上書ミスが
なくなったという長所の面はありますけど。

 ただし、新申請の場合でも、A社の過去の申請書を再利用し、B社の申請書
として作り直していますが、作成し完成ボタンを押すと必ず、右上の「氏名又
は法人名(全角カナ24文字以内)」が未記入とでます。同じことを旧PCで
行った場合には、こういう表示が出なかったのですが、皆さんのPCではいか
がですか。

 仕方なくその都度「ビー」とか「シー」と申請法人名を記載していましたが、
ここは電子納付者を記載する欄のようですね。いまではカネコトシオと記入し
ています。過誤納の際に、私に還付してもらうには、そう記載しないとまずい
という判断です。

 PC故障のおかげで新発見の多いこの頃です。


2020.11.13(金)【種類株式に関する質問】
(金子登志雄)

 ここのところ、なぜか種類株式の質問が増えました。中小企業の末端にまで
浸透してきたのでしょうか。

 かつては従業員持株会に優先株式をなどという質問が多かったのですが、最
近は議決権関連の種類株式や拒否権に関するものが増えた印象です。珍しい事
例のはずの取締役等選解任付種類株式についても増えました。

 難しいのは種類株式の内容だけでなく、種類株主総会の要否もありますが、
次の定款の変更につき、種類株主総会は必要ですか。

----------------------------------------------------------------------
 普通株式とA種種類株式を発行している某株式会社では次のとおり定款変更
を決議した。
 1.定款X条の「当会社の株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を
受けなければならない。ただし、株主間の譲渡の場合には、承認があったもの
とみなす」のただし書を削除する。
 2.定款Y条に「1単元100株とする。」と単元株式数を新設する。
 3.定款Z条の「株券を発行する。」を「株券を発行しない。」に変更する。
----------------------------------------------------------------------

 一瞬、種類株式とは無関係な定款変更ではないかと思ってしまった方も多い
ことでしょう。株券発行の定款Z条については、そのとおりです。しかし、株
式の譲渡制限と単元株式数は、種類株式の内容です。単に登記場所が独自であ
るだけです。

 定款X条と定款Y条の変更は種類株式に不利な内容ですから、株主総会決議
のほかに普通株式とA種種類株式の種類株主総会の決議が必要です。ただし、
定款Y条については、株式内容の問題でも定款の定めがあれば種類株主総会は
省略することができます(322条3項)。


2020.11.12(木)【譲渡制限付株式】
(金子登志雄)

 当社でも、業務執行取締役等に譲渡制限付株式(契約により譲渡制限を設定
された上場株式)を自己株式で交付することにしています。上場会社は市場で
自己株式の取得が可能であり(会社法165条)、当社もこれを過去に実行し
たため自己株式を保有中です。

 譲渡制限付株式の交付にあたっては、ほとんどの例が株式報酬型の新株予約
権の発行と同様に、役員報酬や従業員給与の支給を決議し、その金銭報酬債権
と相殺する方法を採用しますから、現実には本人の自己負担はないも同様です。
仕事のやる気を起こさせ業績を向上させるためのニンジンですから(美しい言
葉ではインセンティブといいます)、業務執行に従事しない監査等委員である
私は対象外です(残念!)。

 自己株式利用の場合は株数にも資本金の額にも変化がなく登記不要ですが、
新株式の発行であっても、相殺とはいえDES(デットエクイティスワップ)
の現物出資となり払込みがあったことを証する書面は不要です。では、会計帳
簿が必要かということになりますが、実際には、発行株数の点で少数特例が適
用され何の証明も必要とされません。資本金は増加するので、その計上証明書
は必要です。

 以上の方法は、いわば比喩であり、現実には株式を報酬等として直接交付し
たのと同じじゃないかと思いませんか。令和元年会社法改正も同様に考えたよ
うで、上場株式に限定して、株式報酬の直接交付を認めました。

 ここまでは納得ですが、株式の無償交付と同じじゃないか、資本金の額の計
上はどうするのかと考えた方も多いでしょう。まだ子細に検討していませんが、
以前にも書きましたが、この資本金の計上額の計算がネックとなり、流行らな
いのじゃないかと私は予測しています。


2020.11.11(水)【働き方改革雑感】(金子登志雄)

 米国のトランプ政権がコロナ対策に熱心でないのに、それなりに支持されて
きた理由には、健康問題は個人の問題だという米国流自由主義の考え方がある
のではないでしょうか。銃規制さえ国の干渉を嫌うお国柄です。

 トランプさんはコロナ問題では中国を悪役にして責めたて、対策が必要だと
いうバイデン候補には社会主義者のレッテルを張って責めました。これに共感
してしまう米国人は少なくありません。

 感染症であるコロナ問題についてはトランプさんに共感しませんが、私も、
わが国の健康増進法などについては、国のやることか、余計なお世話が過ぎる
のではないかという感覚を少々持っています。

 これに関連して、働き方改革についても、各企業がそれぞれで考えることで、
国家が国を挙げて干渉することかという気がしていますし、人件費を抑えるの
が本当の目的ではないか(企業収益の視点が中心ではないか)といううがった
見方をしています。

 そんな思いでいたところ、あの竹中平蔵さんが「正規雇用と言われるものは、
ほとんど首を切れないんですよ。首を切れない社員なんて雇えないですよ」と、
とんでもない本音をテレビ番組で漏らしてしまったことがネットで話題になっ
ています。

    https://tanakaryusaku.jp/2020/11/00023976

 派遣社員は昔ほんの一部の特定業種に限られていましたが、いまは制限がな
いも同然で、正社員になれずに生活に苦労している方が少なくありません。い
つ派遣切りにあうかも分からないのでは、住宅ローンも組めず、子供の教育費
も十分に支出することができません。これでは長期的にみてお金が回らず経済
の発展にならないと私は思っているのですが、労働コストの削減を企業は優先
させてしまいます。

 派遣社員ばかりで国が衰退した格差社会の現在と相違し、勤労者は終身雇用
の正社員中心で1億中流社会といわれていた昭和後半のバブル時代が懐かしい
この頃です。あの頃はみな生き生きしていました。大企業は米国のビルを買い
漁っていましたし、サラリーマンは遅くまで残業していましたが、時には会社
の交際費で銀座で飲み歩き、帰宅しようと夜の12時になってもタクシーがつ
かまらず、1時間もタクシー乗り場で待たされたほど経済が活況でした。若い
方には信じられない時代でしょう。私も、あの時代以降、横浜の自宅に東京か
らタクシーで帰ったという記憶がありません。


2020.11.10(火)【テレワーク】(東京・鈴木龍介)

 今般の新型コロナウィルス感染症(コロナ)の世界的な大流行は、世の中の
景色を一変させました。感染を恐れた人々の生活動線は変容し、経済活動にも
多岐かつ広範囲にわたって大きな打撃を与えました。そして、今なおそれは続
いています。

 そのような中、働き方についても大きな見直しを余儀なくされたわけですが、
とりわけ注目を集めたのが「テレワーク」です。総務省よれば、テレワークと
は「ICT」(Information and Communication Technology/情報通信技術)
を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方と定義しています。

 そもそものテレワークの社会的意義は、労働力人口の確保、ワークライフバ
ランスの実現、地域社会の活性化、さらには環境負荷の軽減へ寄与する、いわ
ゆる「働き方改革」の切り札として、コロナ以前から政府が推進してきたもの
です。

 一方で、コロナ下において、わたしたち司法書士(事務所)もスタッフやそ
の家族の健康を守るという観点から、テレワークへの取組みの必要性を痛感し
たところです。しかしながら、いざ実施をということになると、「対面」・
「ペーパー」・「ハンコ」といった執務のリアルな問題を含め、多くのハード
ルがあることも事実です。

 司法書士とテレワークに関する検討はまだとば口に立ったという状態ですが、
コロナや働き方改革を踏まえ、いわゆる「脱ハンコ」や「非対面」といった課
題とともに、業界全体でその導入に前向きに取り組んでいくべきであると考え
ています。なお、「月刊登記情報」12月号で、司法書士とテレワークの特集
が掲載される予定です。ご関心のある方は一読いただければと思います。


2020.11.09(月)【米国大統領選雑感】(金子登志雄)

 結果がなかなか出ずに、やきもきさせられた米国大統領選挙もやっと民主党
バイデン氏が共和党トランプ氏に勝利する結果が出ました。トランプ側は新型
コロナで20万人以上の米国人が死亡しているのに、はでな選挙集会を開催し
投票所に行かせる方法を採用したのに対し(側近にまた感染者が出ました)、
バイデン側は郵便投票を呼び掛けたためか、時間の経過とともにバイデン票の
伸びが大きく逆転した州もありました。

 結果をみると、「開かれた都市部(多人種)=バイデン、閉鎖的な地方(伝
統的な白人層)=トランプ」に大きな変化はなかった印象です。

 それにしても、トランプさんの駄々っ子ぶりは実に見苦しいですね。17歳
の学生だが環境保護活動家として著名なグレタさんに、「本当にばかげている。
ドナルドはアンガーマネジメントをしてから、友人と懐かしの映画でも見に行
くべきだ!落ち着けよドナルド、落ち着け!」と、トランプさんが以前グレタ
さんをからかったツイッター文言で返され皮肉られる始末でした。

 トランプさんによる既成権益の破壊など政策面については私も評価する部分
があったのですが、ツイッターによる暴言や根拠なきデマをまき散らす品の悪
さにはあきれていました。一国の元首という品位も威厳も感じられません。白
人至上主義者を勢いづけた人種問題やジェンダー問題への対応にも問題があり、
これらで相当程度、票を減らしたのではないでしょうか。現職大統領の再選率
は70%もあるのに落選したのは自業自得ともいえます。どうも共和党幹部も
暴君のトランプ切りを始めた雰囲気です。

 しかし、これだけめちゃくちゃなトランプさんでも、米国ファーストで俺た
ち虐げられた者の味方だと思わせる強固な支持層があり、今回も大接戦でした。
支持者からすると、乱暴でも実に頼もしい指導者だと映るわけです。

 これは安倍政権時代にもいえました。表立っては何もいえなかった中国人や
韓国人を差別するネトウヨといわれる方々が急に勢いづいて、わが世の春を謳
歌し、法の支配も社会の品位も歴史の真実もがたがたにしてしまいました。欧
州でも同じであり、移民排斥運動が高まりました。

 今後、トランプさんはその影響力を行使し、ツイッターで大衆を扇動し米国
を引き続き分断と混乱に陥れるのか、共和党幹部からも見放され、多数の訴訟
を抱えて大統領の免責特権もなく金欠で自滅の道に進むのか要注目です。

 ところで、デジタル全体主義という用語をご存じでしょうか。ツイッターや
フェイスブックの普及で、さまざまな不安を抱える大衆がデマ情報で扇動され、
下から全体主義になって行くことですが、扇動に乗せられたトランプ支持者の
投票所襲撃計画などを知ると、これからの世の中は、近くにいる同国人のほう
が他国よりも警戒しなければならない、そら恐ろしい社会になりそうです。そ
れでも、米国の家庭では庭にバイデン支持、トランプ支持の看板を出せるので
すから、どこかの国よりは民主主義は健全でした。


2020.11.06(金)【種類株式等の定款規定の波及効果】
(金子登志雄)

 取締役会設置会社において株主総会の決議で解散を決議した際に、商業登記
規則72条1項1号で「取締役会設置会社である旨の登記並びに取締役、代表
取締役及び社外取締役に関する登記」が職権抹消される関係で、株式譲渡制限
規定の「取締役会の承認を受けなければならない」の部分も株主総会の承認等
に定款変更して解散と同時に登記しなければならないという馬鹿な見解がいま
だ生き残っているようですし、そう思い込んでいる司法書士もいるようです。

 こういう教条主義は平成20年ころ、一部の大手法務局から出されましたが、
その後うやむやになっていますので、今は完全に廃れた見解というべきです。

 なぜ、そういう見解が出されたかというと、登記記録の中で、ここは抹消さ
れ、ここだけに取締役会が残るのは美しくないじゃないかという登記面の美学
でしょうが、当時私は、そんなことをいうなら事業目的も清算目的に変更しな
ければ美学として不徹底ではないかと皮肉を込めて主張したものでした。

 また、徹底するなら種類株式や取締役等の責任免除等の規定内に取締役会と
いう用語が出てきたら、これも変更しなければならないはずですし、ついでに
いえば、責任免除等の規定の中には、取締役や社外取締役という用語が登場し
ますが、これも放置したままでは美しくありません。

 これに関連して、先般、株式分割したら新株予約権に1株当たりの行使価額
に調整式があっても変更登記するのが望ましいと書きましたが、種類株式内に
調整式があったら、これも変更するのかという問題があります。

 しかし、新株予約権と相違し、種類株式は定款記載事項です。変更登記した
ら定款の文言と齟齬してしまいます。したがって、新株予約権についても、変
更登記する法的義務はないと解釈するのが正しいというべきです。


2020.11.05(木)【会社法174条の性質】(金子登志雄)

 4月9日の本欄【相続人に対する売渡し請求の制限】につき、今回は別の切
り口から攻めてみました。

 さて、株式の譲渡制限と募集株式の割当自由の原則はパラレルに考えなけれ
ばなりません。

 しばしば誤解されていますが、株式の譲渡制限は「誰に」を制限するもので
あって「誰が」を制限するものではなく、いわば取得(者)制限です。外国人
株主が譲渡するには会社の承認が必要だと定めるのは株主平等原則に反し違法
ですが、外国人に譲渡するには会社の承認が必要だと定めるのは合法です。

 募集株式の割当自由は、株式申込人のうち誰に何株を割り当てるかは自由で
あるという原則ですが、これも言い換えれば株式取得者制限の自由です。まだ
株主になっていませんから、株主平等原則は適用されません。

 以上に関連して、譲渡制限株式に限定された会社法174条「相続人等に対
する売渡しの請求に関する定款の定め」の解釈ですが、相続人という株式取得
者を制限するものだから会社は自由裁量で決定することができるとみる見解が
多数と思われますが(会社法立案担当者によるキンザイ『Q&A会社法の実務
論点20講』14頁Q6参照)、いや相続して株主になった者の権利を奪うも
のだから、株主平等原則を考慮しなければならず、オーナー株主の相続人には
売渡しの請求をすることができないなどと定款に定めることは、人的定めとい
うべきで株主平等原則に反し違法だという見解も根強く残っています。

 しかし、これもオーナー株主と非オーナー株主という株主側から捉えるので
はなく、それらの取得側である相続人側に焦点を当てて考えるべきで、相続を
肯定し相続人を株主という前提で扱うならば、会社法174条自体が株主の属
性(相続取得株主かそれ以外か)で差別する「人的定め」になってしまいます。

 真に株主に関する人的定めであれば、会社法109条と同様に定款に定める
際は会社法309条4項の特殊決議が必要であるはずですが、そう規定されて
いないところをみると、やはり、相続による取得自体を制限する制度と会社法
は捉えているとみるべきで、譲渡制限株式や募集株式の割当自由と同様に、売
渡しの請求相手たる相続人を会社の裁量で決定することができる(その裁量範
囲を定款で定めることもできる)というべきではないかというのが目下の私の
考え方です。


2020.11.04(水)【脱はんこ宣言】(島根・根来川弘充)

 河野行革大臣が、先月頭に出した宣言です。「印鑑」を確認する職種として
は、近い将来どのようになるのか、大変関心があります。

 マイナンバーカードが普及すれば、電子署名が考えられるのですが、「はん
こ」が「カード」に変わっただけで、それを他人が使用できたら、同じではな
いかと思います。

 また、最近は、「ディープフェイク」とよばれる本物と見分けのつかない動
画まで出てきています。「顔写真」でも証明は容易でなくなるでしょう。そう
考えますと、自分という存在を証明することが、どんどん難しくなっている時
代に向かっている気がします。

 いずれにしても、デジタル化できるものを信頼するという訳にはいかないの
ではないでしょうか。

 では、そうなるとやはり手書きによる署名でしょうか? しかし、それはそ
れで、いままで押印で済んでいたものが、すべて手作業となると大変な労力で
す。

 登記業務は、平成で紙が消え令和で印が消えるとなると、最後は、人がAI
に変わるのでしょうか。

 今まで以上に、危機感をもって、仕事をしたいと思います。



2020.11.02(月)【プロのコンサルタントとは】
(金子登志雄)

 新型コロナが欧米でまた猛威を振るい始めたようで、世界中の株価も再暴落
です。人生塞翁(さいおう)が馬ですね。

 さて、今回のパソコンの修理に絡んで、先週はコンサルタントとして未熟な
方々と接し、コンサルタントとしてのあるべき姿を考えてしまいました。パソ
コン業界は若い人ばかりですから、仕方ない面もありますが、次のとおりです。

 1.「マイクロソフトに聞けば、回復キーを教えてくれますよ。存在しない
ということはあり得ませんから」と教えてくれたデータ回復業者はもっと親切
に「マイクロソフトのアカウント情報を調べて、それを示せば、回復キーの出
し方を教えてくれますよ」といってくれなかったのか。

 2.私からの問い合わせを受けたマイクロソフトは、パソコン購入時のアカ
ウント情報が必要だと説明してこなかったのか。

 3.データ回復業者の担当者の1人は、回復したメールの新パソコンへの移
行方法を知らなかったため、2時間も待たされ、結果は不可でした。分かる者
が外出中なので折り返しご連絡しますといえば済むことだったのではないか。

 パソコンについて素人の私の質問が不十分だったせいもあるでしょうが、素
人はこれこれの点で無知なため、こういう質問をしがちだから、よく確かめて
相談に応じてほしかったわけです。 

 手前味噌ですが、司法書士としてもベテランになった私は、質問者の勘違い
の背景まで考えて相談に応じています。拙著の『改正会社法と商業登記の最新
実務論点』では、会社法319条の書面決議につき、江頭教授はなぜ取締役会
で議題を決定しなければならないと勘違い(?)したのかまで背景を追求いた
しました。

 法律学は単なる解釈学ではなく、説得学です。他に対して分かりやすく理由
をつけて説明し理解してもらわねばなりません。そのためには、他の人がなぜ
そう考えたのかを探り、誤解を与えない分かりやすい説明が必要であり,文書
での説明の多い弁護士や司法書士は文章能力も必要だというのが私の持論です。


2020.10.30(金)【合同会社における剰余金の資本組入れ】
                           (仙台・立花宏)

 株式会社では、準備金や剰余金の額を減少して、資本金を増加することがで
きる旨が会社法に規定されています(会社法448条、450条、以下、「資
本組入れ」という。)。資本組入れをすることができる剰余金には、資本剰余
金(資本準備金及びその他資本準備金)だけでなく、利益剰余金(利益準備金
及びその他利益剰余金)も含まれます(注)。

 では、合同会社では、剰余金の資本組入れをすることはできるでしょうか。
というのは、合同会社については、前記の株式会社の規定に相当する規定が、
会社法に設けられていないのです。その点をどう考えるべきでしょうか。

 この点につき、会社計算規則30条1項3号及び31条2項4号に、資本剰
余金の額を減少して資本金を増加することができる旨の規定があり、合同会社
においても剰余金の資本組入れは認められていることがわかります。

 ではなぜ、会社法では、株式会社には規定が設けられ、合同会社には設けら
れなかったのでしょうか。資本金とすることは拘束性が強くなるため、株式会
社では、剰余金の資本組入れには株主総会の決議を要するものとし、株主の意
思を確認するための規定が設けられたのではないかと想像します。

 それに対し、合同会社における剰余金の資本組入れは業務執行社員の過半数
の一致で決定することができます。合同会社では、退社に伴う持分の払戻しが
可能ですし、一定の制約はありますが、資本金に計上されている部分について
も、出資の払戻しが可能であるため、資本金に計上したとしても、株式会社ほ
どの拘束性はないと考えられるためでしょう。

 ところで、前記のとおり、会社計算規則には、合同会社においても資本剰余
金の資本組入れを可能とする規定はありますが、利益剰余金の資本組入れを可
能とする規定はありません。そうすると、株式会社とは違い、合同会社におい
ては、利益剰余金を資本組入れすることはできないのでしょうか。

 結論からいうと、できないと考えます。可能とする規定がないためですが、
規定が設けられなかった理由は、株式会社のその他利益剰余金と合同会社の利
益剰余金には性質に違いがあるからだと個人的には考えています。

 株式会社のその他利益剰余金は、株主に配当することが可能な剰余金ではあ
りますが、株主総会で配当の決議(会社法453条)がされない限り、株主に
とっては具体的な権利とはなりません。

 それに対して、合同会社の利益剰余金は、誤解を恐れずに言えば、社員にと
っては、具体的な権利と言えるべきものだといえるでしょう。合同会社では、
各期の損益が確定すると、原則としてその損益は各社員の出資の価額に応じて
分配され(会社法622条)、社員ごとに利益剰余金として管理されることに
なります。そして、社員は合同会社に対し、原則として、自分の分として計上
されている利益剰余金について、利益の配当を請求することができるのです
(会社法621条)。そのため、会社の内部に留保されているとはいえ、合同
会社の利益剰余金は社員のものといえ、会社の決定のみで資本組入れすること
はできないということだと考えました。

 なお、当然ながら、社員の同意があれば資本金とすることは可能だと思いま
す。ただし、この場合は資本組入れという形ではなく、社員の新たな出資とし
て、社員全員の同意により当該社員の出資の目的及び価額を変更する定款の変
更をし、利益の配当請求権を現物出資するか、一度、配当を受けてその金銭を
出資し、資本金の額を増加させることになるのだと考えます。

 注)会社法施行時は資本剰余金に限定されていましたが、会社計算規則が改
正され、平成21年4月1日から利益剰余金も資本組入れを行うことができる
ようになっています。


2020.10.29(木)【故障PCほぼ回復】(金子登志雄)

 18日夜に起動しなくなった愛用のノートPC(パナソニックのレッツノー
ト)は、やっとほぼ9割がたデータの回復ができました。やれやれです。

 新品に取り換えて、まだ2年も経ていませんが、酷使しすぎたのでしょうか。
皆様にも同様のことが起きる可能性もありますので、そのてんやわんやの顛末
をご紹介しましょう。

 1.19日の朝、パナソニックのお客様相談室に電話したところ、起動せず
に画面にリカバリーの回復キーを入れよと出た場合は、回復キーが分からない
限り修復は無理であり、初期化する以外にないといわれました。

 2.19日午後、画面の指示により、当社の若手社員に依頼し、マイクロソ
フトの登録名とパスワード(PW)で他のPCを使い回復キーを調査したら、
「存在しない」という表示がでました。お手上げです。

 3.あちこち修理業者に電話しても、回復キーが分からなければ無理だとい
われたのですが、あるデータ回復業者から、マイクロソフトに問い合わせれば
回復キーを教えてくれるといわれました。即座に、マイクロソフト系のところ
に入会し、問い合わせたところ、教えてくれませんでした。

 4.あきらめかけた23日に当社の中堅社員に依頼しみてもらったところ、
PC購入時の資料にマイクロソフトのアカウント情報の紙があり、そこには、
登録名としてその時までに利用していたアウトルック・メールのアドレスが記
載されていました。前にもこの紙をみたのですが、その後、登録名もPWも変
更したため、無関係だと無視していましたが、試しにやってみたところ、回復
キーが出てまいりました。

 上記3のマイクロソフトに問い合わせれば教えてくれるという意味は電話や
メールで本人には教えてくれるということではなく、登録名とPWを示せば教
えてくれるという意味だったのでしょう。であれば、マイクロソフトに問い合
わせたとき、「回復キーが存在しないと表示されたということですが、購入時
の登録名とPWにしましたか」とでも聞いてくれればよかったのに、それはあ
りませんでした。プロのコンサルタントとしては、その程度は想定して回答し
てほしかったと思っています。

 5.回復キーが分かったため半歩前進で、24日には修理業者に持ち込みま
したが、やはり無理で、その日のうちに今度はデータ回復業者に持ち込み、や
っと28日に回復することができました。

 まだ、メールの全面回復の方法が分からず9割がたの回復ですが、この間、
新PCの立ち上げその他で、株式会社リーガルの重松取締役を筆頭に、計算本
の共著者・有田会計士、当社の複数の社員など多くの方にお世話になりました。
 
 皆様も回復キーには、PC購入時のマイクロソフトのアカウント情報が必要
であって、現在のものではないことをインプットしてください。


2020.10.28(水)【議事録の援用又は兼用】(金子登志雄)

 周知のとおり、株主総会で取締役が再任され、その取締役が総会に出席して
おり「直ちに就任を承諾した」という記載があれば、登記の添付書面として別
途就任承諾書を要せず、議事録の記載を援用することができます。

 登記の添付書面の枚数を少なくしたい私は、この株主総会が会社法319条
の書面決議であっても、被選任者が1人のときは、その者も議事録作成者に加
えて(議事録作成者は1人とは限りません)、「なお、上記被選任者は就任承
諾した証として、議事録作成者となり次のとおり記名押印する」とすることも
よくあります。1度だけ、こんなのは認められないといわれたことがあります
が、他の多数の法務局で肯定された証拠を示したところ、その調査官はかなり
驚いていました(それ以来、表題も「株主総会議事録(兼就任承諾書)」とか
っこを挿入するようにしています)。

 肯定されて当然です。議事録と就任承諾書の2枚を1枚にまとめただけだか
らです。これだけでなく、株主が1名などという場合には、私は「委任状兼株
主リスト」で1枚にします。

 さて、最近、日司連ネットや商業登記俱楽部の実務相談室で、株主総会と種
類株主総会の議事録を1つにまとめてよいかが話題にされました。当局が否定
しているからです(共同開催自体は肯定しています)。

 ただし、当局の否定は単に「可決した」では総会決議か種類株主総会決議か
はっきりしないので困るというということであって、兼用議事録を否定したも
のとは思えませんが、現実には完全否定と扱う登記所も少なくないようです。

 これに関連して、取締役等選任権付種類株式に関する会社法108条2項9
号ロに「選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株
主と【共同して選任】することとするときは、当該他の種類株主の有する株式
の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数」とありますが、この場合
も議事録を分けないと登記が受理されないのでしょうか。

 そもそも議事録をどう作るかは法定内容が記載されている限り会社の任意で
あり、登記所がそこまで干渉するのは行き過ぎですから、やはり当局の回答は
共同開催議事録も否定することができないが、株主総会議事録と種類株主総会
議事録の2つを1つにまとめたほどのものを要し、単に「兼ねる」だけでは困
るということだと理解したいと思っています。ただし、株主リストが必要にな
った今日、議事録は分けたほうが何かと好都合ですから、私も最近は共催議事
録にしていません。


2020.10.27(火)【事故簿】(東京・鈴木龍介)

 不動産登記の世界で、まれにですが「事故簿」というものが登場します。
「事故簿」というのは俗称でして、かつて不動産の登記簿を紙からコンピュー
タに移行する作業を行ったときに諸々の事由から移行できなかった、いわゆる
「改製不適合物件」の登記簿です(不登規附則(平成17年法務省令18号)3条
ただし書)。

 その諸々の事由としては、不動産登記制度上の問題とコンピュータ処理上の
問題がありますが、具体的には以下のようなケースがあげられます。
① 同一不動産について数個の登記用紙が備えられている場合(二重登記)
② 土地について重複した地番が付された登記がある場合(重複地番)
③ 建物について家屋番号の記載がない場合
④ 表題部(表題部のみが設けられている場合)に所有者等の記載を欠く場合
⑤ 登記されている持分の合計が1にならない場合
⑥ 登記事項中に判読できない文字がある場合

 「事故簿」に該当する物件については、当然、登記簿のコンピュータ化を前
提とする登記事項証明書の発行やインターネット登記情報提供サービスによる
情報の取得はできません。また、いわゆるオンライン申請をすることもできず、
「紙」の申請書によることになります。そして、登記申請の完了後に登記識別
情報も通知されず、平成16年改正前不動産登記法下における「紙」の登記済証
が交付されるということになります(不登規附則(平成17年法務省令18号)14
条の2・16条の2)。



2020.10.26(月)【ハンコの便利さ】(金子登志雄)

 23日金曜日に定時株主総会及び取締役会を開催した場合に、最後の署名押
印前の日付は会議を開催した23日付にするのが通常ですが、実際に議事録を
作成する日は翌日以降ということが多々あります。

 ハンコの押印であれば、いつ押したか不明のため、日付は23日付にしてか
まいませんが、取締役個々が電子署名する場合には、署名日が異なるはずです。
それでも23日付でよいのでしょうか。

 これでよいとするためには、その日は会議開催日のことで、議事録作成日で
はないというしかありません。こうなると電子署名は、確かに23日にこうい
う会議をいたしましたという証明のためであり、23日に証明する必要がない
と構成するしかありません。

 本欄で過去に書きましたが、原子定款を20日に作成し、21日に電子署名
し、22日に公証人に示したら、訂正を要求され、23日に訂正し電子署名を
し直したという場合に、定款の作成日は20日にしたままでよいのでしょうか。

 これを肯定するためには、定款の作成日とは最初に定款内容を定めた日であ
る20日、形式的意義の定款が作成された日は署名がなされた21日、訂正は
訂正であり作成日を左右しないなどと理論構成しなければなりません。

 こういうことを考えると、いつ押したか、誰が押したか不明であるハンコは
実に便利です。銀行の小切手も支店長印を押しているのは支店長代理であって、
支店長本人ではないでしょう。こういうのは、昔、手形小切手法で署名代理と
いうのだと習いましたが、取締役会議事録でも内容を取締役個々が承認し、総
務部員に預けているハンコを押すことを許可する例が多いはずです。

 電子署名となると署名代理は難しくなります。欧米のサインと同じです。ハ
ンコ文化は容易には廃れないと思いますが、20年後はどうなっているのでし
ょうか。きっと私は個人実印を大事に保管していると思います。


2020.10.23(金)【受難の週か?】(金子登志雄)

 人生初のパソコンの復旧困難な故障で今週は徒然につき1日休みになってし
まいました。新パソコンで、原稿送付のメールの発信ができなかったためです。

 18日、日曜の夜でしたが、愛用のパソコンが起動せず、修理に集中してい
たため、夜食を作っていた鍋を真っ黒に焦がしてしまいました。今週は受難が
重なるのか、火曜日には人生初の税務調査を受けました。

 もっとも税務調査については、本欄で「税務署も相手にしてくれない零細事
務所で情けない」と何度か嘆いていましたので、当事務所もグレードアップし
たものだと喜んでいます。

 ただし、当社の公認会計士によると、事務所のある千代田区で私が税務申告
していたら、司法書士数が多いので確率的に調査対象にならなかったであろう
が、自宅の横浜で申告しているので目立ったのではないかということでした。

 それに高額所得が理由なら私のところに来るわけがありません。どうも素人
申告(弟にやらせています)なので、消費税の申告方法につき指導したかった
ようです(報酬と消費税を別に計算し申告していたが、消費税は売上に計上す
るのだなど)。

 3年分の経理資料を持ち帰ったので、結果はまだですが、真面目に申告して
いますので、怖いものはありません。

 さて、税務調査の20日申請の登記につき、電子申請後に確認したら申請日
が19日になっていました。19日に申請書を作成したため日付が自動入力さ
れ、それに電子署名しておき、20日になって申請したためです。

 パソコンの故障の修復に時間がかかりそうなので、19日に新パソコンを購
入して申請したため、チェックがおろそかになってしまったわけですが、こう
いうのは、問題にされません。申請書到着日で登記し、19日は申請書作成日
と受け止めてくれるのでしょう。来週はよい週になりますように………。


2020.10.22(木)【解散と取締役】(仙台・立花宏)

 株式会社が解散し、その登記をすると、取締役に関する登記は抹消されます
(商業登記規則72条1項1号)。解散前の事業会社時代の機関構成に関する
規定(会社法第4章第2節)が適用されなくなり(会社法477条7項)、会
社に取締役という機関がなくなるからです。では、株式会社が解散したら取締
役は退任すると考えてよいでしょうか。

 株式会社に対して破産手続開始の決定がなされたことを想定します。破産手
続開始の決定は解散事由とされていますが(会社法471条5号)、この株式
会社が、その本店を移転し、登記を申請する必要がある場合、誰がその手続を
することになるでしょう。破産管財人でしょうか。

 この点については、代表取締役が行うものとされています(昭和56年6月
22日民四4194号回答)。破産手続開始の決定がなされた場合、財産的な
関係はすべて破産管財人が処理することになりますが、その会社の人格的な側
面は依然として存続し(注)、本店移転等の組織法的行為等は、会社の機関で
ある取締役が権限を有すると考えられているからです。破産手続開始決定がな
され、株式会社が解散したからといって、取締役という機関がなくなるわけで
はないということになります。

 では、当該会社の取締役という機関がなくなり、取締役が退任するのはいつ
でしょうか。解散前の事業会社時代の機関構成に関する規定が適用されないの
は、「清算株式会社」であり(会社法477条7号)、「清算株式会社」とは、
会社法475条により清算をしなければならないとされている株式会社です。
同条1号によれば、解散した場合は原則として清算をすることになりますが、
同号かっこ書で、合併により消滅する場合及び破産手続開始の決定により解散
し、当該破産手続が終了していない場合が除かれています。よって、破産手続
が終了し、会社の財産が残っていた場合には、清算手続を行う必要から、「清
算株式会社」となって、清算人を選任して清算を行うことになり、残っていな
い場合は、破産手続の終了により法人格が消滅し(破産法35条)、いずれの
場合も取締役という機関がなくなるため、その時点で在任する取締役は退任す
ることになります。

 ところで、機関はなくならないとしても会社と取締役の関係は委任に関する
規定に従うとされており、民法653条2号では、委任者又は受任者が破産手
続開始の決定を受けることは、委任の終了事由とされています。そうすると、
破産手続開始決定により、委任関係は終了して取締役は退任し、たとえば、本
店移転をするためには、あらたに取締役を選任しなければならないということ
になるのでしょうか。

 この点については、平成21年4月17日最高裁第2小法廷判決では、民法
653条について、「委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了
事由と規定するが、これは破産手続開始により委任者が自らすることができな
くなった財産の管理又は処分に関する行為は、受任者もまたこれをすることが
できないため、委任者と財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達
し得ず終了する」とし、会社組織に係る行為は「破産管財人の権限に属するも
のではなく、破産者たる会社が自ら行うことができるというべきである。そう
すると、同条の趣旨に照らし、会社につき破産手続開始の決定がされても直ち
には会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから、破産
手続開始当時の取締役らは、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、
会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得る」として
います。破産手続開始の決定を受けたとしても、決定当時の取締役との委任契
約は終了しないため、あらためて選任することは必要ないということになりま
す。
 
 ちなみに、会社法475条1号かっこ書では、清算の開始原因から合併によ
る消滅ものぞかれています。この場合の取締役はどうなるのでしょうか。この
場合は、会社自身が消滅しますから、その会社の取締役という機関は当然、存
在し得なくなり、当該会社の取締役は退任するということになるのでしょう。


 注)稲葉威雄「商業登記の実務上の諸問題」(「登記先例解説集」186号)
   72頁


2020.10.21(水)【戦後商法のあゆみ(最終回)令和元年改正】
                          (東京・鈴木龍介)

 「戦後商法のあゆみ」はいよいよ(ようやく)最終回、令和元年改正会社法
です。1回読み切りのダイジェスト版となりますので、ご関心のある方は「登
記研究」873号(予定)をご覧ください。

1.背景等
 平成26年会社法改正において、その施行後2年を目途に、社外取締役の設置
義務付けを含む企業統治に関する制度を再検討することとされていた。また、
株主総会手続の合理化や役員に対する適切なインセンティブの付与といった新
たな課題も浮上してきた。

 このような中、平成29(2017)年2月に法務大臣から法制審議会に対し、諮
問(第104号)がなされ、それを受けた法制審議会は、会社法制(企業統治等関
係)部会(以下、「会社法部会」という。)を設置し、会社法部会では同年4
月から具体的な審議を開始した。

2.概要
 会社法部会は、平成29(2017)年2月に「会社法制(企業統治等関係)の見
直しに関する中間試案」をとりまとめ、当該試案を公表し、広く意見照会を行
った 。寄せられた意見を踏まえ、会社法部会では審議を重ね、平成31(2019)
年1月に「会社法制の見直しに関する要綱案」をとりまとめた。それを受けた
法制審議会は、平成31(2019)年2月にこれを要綱として決定し、法務大臣に
答申した。

 法務省民事局は、当該要綱に基づき早期の法案提出を目指して立法化の作業
を進めたものの、法務省提出の他の法案との兼ね合い等から平成31(2019)年
の通常国会(第198回)への法案提出は見送り、令和元(2019)年10月の臨時国
会(第200回)に法案を提出した。

 当該国会での審議において、原案に一部の修正がなされたものの 、令和元
(2019)年12月に「会社法の一部を改正する法律」(令和元年12月11日法律
70号/以下、「令和元年改正会社法」という。)が成立した。なお、原則とし
て公布の日から1年6か月以内に施行するものとされているが、現時点におい
て施行日は未定である。

 令和元年改正会社法の骨子としては、ⅰ)株主総会に関する規律の見直し 、
ⅱ)取締役に関する規律の見直し 、ⅲ)その他の見直し等 があげられる。
 なお、前記の法制審議会が答申した要綱の附帯決議の1つである登記におけ
る代表取締役の住所開示に関しては、商業登記規則等により対応される見通し
である。

3.商業登記に関する規律等
 令和元年改正会社法とともに制定された「会社法の一部を改正する法律の施
行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年12月11日法律71号/以下、
「整備法」という。) において商業登記法の改正が行われ、令和元年改正会社
法に伴う所要の規定の整備とともに、商業登記手続に関する改正として印鑑提
出の任意化がなされることとなった。なお、現時点において令和元年改正会社
法に関する基本登記先例と位置付けられるものは発出されていない。

(金子より)
 上記は昨日付の徒然原稿として鈴木先生からいただいたものですが、当方の
パソコンの故障で本日になってしまいました。鈴木先生にはお詫びいたします。
なお、パソコンはソフトの不調のため復旧が困難のようで、新パソコンを購入
いたしました。


2020.10.19(月)【スガ総理と中曽根総理】(金子登志雄)
 
 17日は、スガ総理を葬儀委員長とした中曽根元総理の合同葬でしたので、
今日は、会社法から離れて、これに関連した話題にしましょう。

 さて、最近の報道によると、スガ政権の支持率が急落中だとか。単に就任時
の御祝儀支持が終わっただけだと思いますが、前政権から引き継いだ官邸ポリ
スとか現代の特高警察とかいわれている公安警察出身の杉田和博官房副長官を
トップとする官邸組織が官僚その他の思想動向までチェックし、弱みを握り、
人事の主導権を握り(政権に近い読売新聞による前川喜平氏を貶める出会い系
バー通い報道もこれでした)、日本学術会議問題や国立大学への弔意掲載要請
など学問の自由にまで干渉してきましたので、朴訥・誠実イメージが陰険イメ
ージに変化してきており、現在ではさらに下がっていることでしょう。

 杉田氏は現在79歳ですから、官僚の大先輩でもあり、睨みが効くようです。
「女性はいくらでもウソをつけますから」など問題発言の多い杉田水脈衆院議
員と並べて永田町では「杉田」がスガ政権のアキレス腱だという意味で「杉田
るは及ばざる如し」といわれているようですが、うまいことをいうものです。
1日も早く、杉田問題は杉田ことにしてほしいものです。

 周囲をお友達あるいは茶坊主で固めた安倍政権やそれを引き継いだスガ政権
に対して、中曽根元総理は総理に批判的な(どころか総理を馬鹿にしていた)
後藤田氏を官房長官に据えました。中曽根氏が自身では右に寄り過ぎる傾向が
あるので、他派閥のカミソリといわれるほど切れ味の鋭い後藤田氏に左に軌道
修正してもらいバランスを取りたかったためだとかいわれていますが、真実は
単に大派閥の田中派を取り込み、徐々に切り崩しをしたかっただけでしょう。
いずれにせよ、少数派閥出身で政界遊泳術が巧みなバルカン政治家で、最後は
政界の妖怪とまでいわれた中曽根氏のほうが一枚上手だったと私はみています。

 中曽根氏は私の高校の先輩であり、私が高校時代にも毎年のように講演に来
ていましたが、とにかく口が達者で、イマイチ信用が置けない感じがしていま
した。講演後は別室で高校生の素朴な質問にも答えていましたから、朴訥イメ
ージで勉強不足で質問から逃げ回っているスガさんとは正反対でした。

 中曽根氏の国家感も危険な匂いがしていましたが、幸いにも非常に勉強家で
知性を重んじ、世論を気にする人でしたし、田中派という内政重視の監視役や
後藤田氏という優れた参謀がいましたので、安倍政権やスガ政権のような知性
や報道を押さえつける動きはせず、正体(怖さ)はみせませんでした。

 蛇足ですが、米国では、好感度調査で、「一緒にビールを飲みたいと思える
人物か」という質問をするようです。皆様の場合、アベ、スガ、ナカソネ氏の
うち一緒にビールを飲みたいと思える人物はどなたですか。私は、陰険な正体
を微塵もみせず庶民にも明るく接し、教養が高く、いろいろ教えてくれそうな
ナカソネさんにします。次は個人対個人であれば、あとでしっぺ返しをされて
も陰険さを隠して黙って聞いてくれそうなスガさんですね。若いアベさんは、
すぐに逆ギレしてくる政治家としては正直者すぎるので、遠慮します。


2020.10.16(金)【株式分割と新株予約権の調整式】(金子登志雄)

 今月は1株を2株に分割する株式分割を登記いたしました。新株予約権につ
いても調整式がありましたが、変更登記をいたしました。

 さて、次のようにある場合は何をどう変更しますか。
----------------------------------------------------------------------
(1)1個につき100株、1株の行使価額は105円(円未満切上げ)
(2)1個につき100株、1個の行使価額は1万500円
(3)1個につき当初100株、1株の行使価額は当初105円
----------------------------------------------------------------------

(1)は、1個100株を200株に、1株105円を53円に変更します。
1個1万500円(100株×105円)だったはずが、1万600円(200×53)に
増加してしまいますが、円未満切上げと決めたのですから、仕方ありません。

(2)は1個200株に変更するだけです、行使価額は1株ではなく1個につ
き定めているため、変更登記不要です。調整式もないはずです。私はこの方法
を勧めていますが、伝統的に株数基準のほうが圧倒的多数です。
 
(3)については「当初」とあるので、1個当初200株、1株当初53円と
するのはおかしいため、当初を使わずに(1)と同じようにします。

 問題は調整式があるのだから、わざわざ変更登記する必要があるのかにつき、
必要説と不要説があることです。私は不要説ですが、公示の面から変更登記す
ることが望ましい(適切だ)という考え方であり、変更登記しなければならな
いという極端な必要説には反対しています。

 実務では理由は不明ですが、変更登記をしていない事例もいくつかあります。
こういう登記記録の会社から、何らかの商業登記を依頼された場合は、「数年
前に株式分割したのに、新株予約権の変更登記が漏れているようですから、今
回一緒に登記しておきますね」などとは決していわないことです。これをした
ために想定外の登記懈怠の過料を受けたという事例を聞いたためです。株式分
割後数か月の間ならともかく、数年前の株式分割でしたら、分割時と同様に変
更登記をしないことに徹したほうが安全です。

 もし、行使があっても、平成〇年〇月〇日に1株を2株とする株式分割があ
ったため、現在は1個200株、1株53円になっている旨の説明を添えて発
行済株式の総数や資本金の額の変更を登記すればよいので、変更登記をしなく
ても困ることはありません。



2020.10.15(木)【差入書方式の総数引受契約】(金子登志雄)

 募集株式発行の登記に添付する総数引受契約につき差入書形式にした場合、
受理する登記所と受理しない所があると聞きました。

 しかし、差入形式では契約とはいえませんので、私は差入書の余白に、「上
記承諾した。令和〇年〇月〇日 株式発行会社 代表取締役〇〇〇 印」とす
るか、それに抵抗があるなら、委任状等に「別紙差入書の申込みにつき、令和
〇年〇月〇日に確かに承諾しました」と記載するなりをお勧めしています(拙
著『募集株式と種類株式の実務〔第2版〕』45頁)。商業登記法で、契約書
自体でなく「契約を証する書面」を添付すればよいとされているからです。

 徒然なるままに、この件につき、ネット検索していましたら、不動産登記に
おいては抵当権設定証書などが使われているのに、なぜ商業登記では差入書で
は不十分なのかという問題点を書いているサイトがありました。

 私の考えた理由は、抵当権設定証書は設定者にとって不利益な書面であり、
抵当権者も申請人になるからというものです。商業登記の総数引受は申請人が
会社ですが、総数引受差入書は株式申込人にとって不利益な書面ではないこと、
総数引受によらない場合は公開株式の発行でない場合は割当決議を証する書面
が要求されており、契約の場合にも契約当事者である会社の意思表示書面が必
要だと考えられることです。
 
 差入方式でも受理した登記所は申請行為自体に暗黙の承諾意思を読み取った
もので、これも1つの見識だと思いますが、書面主義の登記では、少なくとも
委任状等の書面に契約を承諾した旨の記載をしておくことが無難だと考えます。


2020.10.14(水)【最近の質問から】(金子登志雄)

 Q:互選によらない代表取締役A、取締役Bの特例有限会社で、Bが10月
1日に死亡したため、後任としてCを2日に選任した場合は、どういう登記に
なりますか。具体的には、いったんは「10月1日取締役1名になったため代
表取締役A抹消」をし、10月2日代表取締役A就任にするのか、あるいは単
にB死亡、C就任だけで代表取締役についてはそのままでよいのかです。

(考え方) 
 登記は原則として登記事項が発生した順序にする必要はありません。B死亡、
C就任は別々の登記ですから、もし、Cの就任だけ登記し、その後にB死亡を
登記したのなら、代表取締役Aの抹消は必要ありません。つまり「取締役1名
になった」は実体法観点ではなく、登記記録上1名になった場合の話であり、
後段の方法で差し支えないと考えます。

 そんな危険を冒せないと思うなら、10月1日付けでCを選任する事例が多
いでしょうが、時間的にみたら、上記と同じです。

 Q:某株式会社で代表取締役Aが9月26日に重任しましたが、未登記中の
9月30日に東京から横浜に住所を移転しました。現時点で登記する際に9月
26日重任と30日住所移転の2つでなく、9月26日横浜の住所で重任の登
記は可能か。

(考え方)
 この事例では、同一人Aに関する登記であり、時系列を無視して、先に住所
移転を登記し、あとで重任登記をすることはできません。そこで、通常は9月
26日重任と30日住所移転の2つの登記をしますが、「現時点で横浜に住む
Aが9月26日に重任した」(住所は登記申請時点が基準)と考えれば、後段
の方法も肯定できると私は考えています。

 Aが重任でなく就任であれば、Aの印鑑証明書の住所が横浜になっています
から、みな「『現在、横浜に住む』Aが9月26日に就任した」と申請するで
しょう。重任も「退任+就任」ですから、私は後段の方法で問題なく、住所は
登記申請日基準でもよいと考えていますが、重任であれば印鑑証明書も不要で
すし、登録免許税の節約になるわけでもないので、現実には「重任+住所移転」
の2つで申請しておくのが無難です。私もそうしています。


2020.10.13(火)【日本登記法学会 第5回研究大会】(東京・鈴木龍介)

 今回は、第5回目となる「日本登記法学会」研究大会のお知らせです。

 まだまだ先の見えないコロナ禍の中、開催するか否かを含め、諸々検討した
結果(「日本私法学会」の大会は中止です)、本年度は令和2(2020)年11月
28日(土)に会員のみのオンライン(Zoom)による開催となりました。

 会員のみですが、今からでも入会いただければ参加できますので、ご関心あ
る方は是非ともご参加(入会)いただければと思います。
        http://www.toukihou.jp/entry.html

 概要は以下のとおりですが、今回のテーマである担保は次の民法改正のター
ゲットといわれているところですので、ウォーミングアップにはよい機会かも
知れません。
        http://www.tamahide.co.jp/
 内  容 テーマ「担保と登記」
  午前:動産・債権譲渡登記
     報告者:研究者&司法書士
   昼:日本登記法学会 
  午後:不動産登記に関する研究報告
     報告者:研究者&司法書士&土地家屋調査士
 定  員 250名
 参 加 費 無料
 共  催 当学会&日本司法書士会連合会&日本土地家屋調査士会連合会


2020.10.12(月)【同族会社の株主と役員】(金子登志雄)

 面白い体験をしました。たとえ話でご紹介しましょう。

 非取締役会設置会社甲の登記記録上の取締役はABC(Aは代表取締役、B
はAの妻、Cは長女)であり、Aが死亡し株式の相続があり、現在の株主はB
とCのみとします。

 会社から送付された株主総会議事録(要旨)と株主リストは次のようになっ
ていました。どこか問題があるでしょうか。
----------------------------------------------------------------------
(議事録)
   3.出席者:株主全員(2名)出席(有効な議決権200個)
   4.議 長:取締役 B
   5.出席役員:取締役 B
   6.議 題:
     議案 代表取締役1名選定の件
       代表取締役Aが死亡したのでBを選定。
  末尾.議事録作成者B〔個人実印〕
(株主リスト)
   住所B 100株
   住所C 100株
----------------------------------------------------------------------

 登記所からの問い合わせは「株主リストによるとCは株主で、議事録による
と株主全員出席ですね」、私「はい」。「Cは取締役ですよね」、私「はい」。
「ということは株主としては出席したが、取締役としては欠席ということにな
りますが、こういうことがあるのですか」。

 最終的には私が「株主としては委任状出席だと思います。親族間では出席す
る意味もありませんから」と申し上げて納得していただきましたが、本日の教
訓は、株主と取締役が一致する同族会社の株主総会議事録の記載には、株主リ
ストとの関係に注意して、うっかり「株主全員出席」などと省略されていたら、
「委任状を含め株主全員出席」と挿入しましょうということです。

 また、こういう事例を事前相談されたら、出席という問題を回避することの
できる会社法319条の書面決議をお勧めしたほうがよさそうです。

 最後に蛇足ですが、上記の議事録に席上就任承諾が記載されていないのは地
位一体型であり、議事録作成者が個人実印を押したのは代表者になるための就
任承諾ではなく、出席役員として押したのであり規則61条6項のためです。
もし、Cも取締役として出席すると、その規則の規定上、Cにも個人実印と印
鑑証明書の準備が必要ですから、これを避けるためにCが取締役として欠席し
たのであれば、登記のことをよく分かっている人がそうするように勧めたのか
もしれません。


2020.10.09(金)【政令指定都市の区の記載申出】
(金子登志雄)

 支店が存在する会社の商号変更登記の依頼を受け、調べましたら、支店所在
地の登記記録は政令指定都市のため、A市「B区」C町となっていましたが、
本店所在地では、B区は記載されておらず、〇県A市C町になっていました。

 ご承知のとおり、商業登記法26条には「行政区画、郡、区、市町村内の町
若しくは字又はそれらの名称の変更があつたときは、その変更による登記があ
つたものとみなす」とされています。

 したがって放置すればよいのですが、支店登記記録と本店登記記録の齟齬は
気持ちが悪いので、会社の承諾を得て、登記官の職権の発動を依頼し、変更し
てもらうことにしました。登記されると「年月日登記」ではなく「年月日修正」
とされ、登録免許税は不要です。

 住居表示実施等による申請による変更は経験がありますが、政令指定都市へ
の移行による申出の変更については経験がなかったため、司法書士仲間に尋ね
たところ、別途申出書の提出が必要だ、変更の証明書として官報を要求された
ことがあるなどと様々な経験を知らされました。

 こういうときに皆様はどう対応しますか。面倒だからやめますか。私は「応
用力の金子」で売っていますから、「申出なら婚姻による氏の変更と同様に、
登記の委任状に記載するだけでも足りるはずだ」「政令指定都市への移行なら
公知の事実で官報などの証明書がなくてもよいはずだ」と考え、事前相談もせ
ずに、委任状と電子申請の連絡欄に、「もし可能であれば、支店所在地の登記
と同様に『A市B区C町………』と職権で修正していただきますよう申し出ま
す」と記載し、登記情報提供サービスで取得した支店登記記録の写し、総務省
のHPから下記、A市のHPから政令指定都市に移行した経緯の頁等を印刷し、
提出しましたところ、無事に登記が終了しました。やってみるものですね。大
手の法務局でした。
          https://bit.ly/3iJnk2k

 なお、新人司法書士及び受験生の皆さん、定款に定める本店所在地につき、
東京23区では「東京都〇〇区に置く」としなければなりませんが、大阪市な
ど政令指定都市の場合は「大阪市に置く」でよく「区」は必要ありません。理
由は政令指定都市の区は最小行政区画として扱われていないためです。



2020.10.08(木)【取締役会への報告の省略の場合の議事録
                            (仙台・立花宏)

 先日、ある会社の担当者様から取締役会議事録の作成についてのご相談をい
ただきました。定款に取締役会の決議の省略を許容する旨の定款の定めを置い
ている株式会社です。定款の規定に基づき、取締役及び監査役全員に取締役会
の目的事項を通知し、取締役全員が当該事項に同意し、監査役も異議を述べな
かった(異議がない旨の意思表示もいただいた)とのことでした。なお、あわ
せて、報告事項(会社法363条2項の報告ではない)も通知したとのことで
した。
 
 ご相談をいただいたのは、今回成立した取締役会の決議の省略(会社法370条)
と報告の省略(会社法372条)について、1枚の議事録にまとめてよいかという
ことでした。特に問題ないと思われたのですが、どのような点を気にされてい
るのか、詳しく聞いてみました。今回の取締役会の省略の手続は以下のような
時系列で行われたようです。

 9月25日に、     目的事項と報告事項の通知書を発送(郵送)
 9月29日~10月1日の間に、各取締役から同意書(各監査役の異議のな
い旨の書面も)が会社に到達した

 会社の担当者が疑問に思われたのは、決議があったものとみなされた日と報
告することを要しないものとされた日が異なることになるので、1つの書面に
はできないのではないか、という点でした。というのも、決議があったものと
みなされた日は取締役全員の同意が揃った日です。一方、報告することを要し
ないものとされた日は、報告者である取締役等が取締役及び監査役全員に報告
すべき事項を通知したときです。今回のケースでは、決議があったものとみな
されたのは10月1日ですが、報告することを要しないものとされた日はその
前ということになります。日付が異なるので、別の書面にしなければならない
のではないかという疑問をお持ちになったそうです。

 しかし、会社(提案・報告者)は、1つの行為(取締役会)として行ってい
るという意識でしょうし、会社法施行規則101条4項1号ハの決議があった
ものとみなされた日と同項2号ハの報告を要しないものとされた日をそれぞれ
記載することになるので、私見は1枚の議事録でも問題ないのではないかと考
え、そう回答しました。

 それで一件落着かと思ったのですが、その担当者の方からもうひとつご相談
をいただきました。それは、「報告することを要しないものとされた日」をい
つにすればよいかということでした。というのは、報告することを要しないこ
とになるのは取締役及び監査役全員に通知した日です。そして通知した日とい
うのは、通知を発送した日ではなく、全員に通知が到達した日だと思います。
そこで、いつ、通知が到達したのか、取締役及び監査役全員に確認しなければ
ならないか、ということでした。

 個人的には、そこまでは不要ではないかと思いました。通常到達すべき時、
つまり、ポストに投函した時間が9月25日の集配に間に合う時間だったので
あれば、翌日でよいのではないかと回答しました(その会社の取締役及び監査
役は全員、仙台市内に在住していますし、9月26日は土曜日ですから通常は
配達されるはずです)。

 ただ、これまでこうしたご相談はいただいたことがなかったので、考えたこ
とがありませんでした。実務ではどのように扱われているのでしょうか。とて
も気になりました。



2020.10.07(水)【月刊登記情報10月号への掲載】(東京・古山陽介)

 金子先生、月曜日には、記事のご紹介ありがとうございました。この場をお
借りして御礼申し上げます。

 私が書いた「合同会社と株式交換」については、以前この徒然でも一度掲載
したのですが、その後、数件ほど同じような内容の相談や依頼があったため、
クライアントへの案内も兼ねて、改めてまとめた内容となっております。

 司法書士歴15年を超えて初めて原稿を書きましたが、誤植等のケアレスミ
スに始まり、文章の構成や表現方法と、物書きについては新人である私を、金
子先生がサポートしてくださったおかげで、なんとか掲載までこぎつけること
ができました。

 合同会社に関する会社法関係手続においては、実務実績が少ないためか、曖
昧な理解なもと実施されていることが少なくありません。

 正確な理解、手続の遂行のためには、実際の案件が必要です。設立後の合同
会社に関するご相談・ご依頼お待ちしております。



2020.10.06(火)【書籍『株主・役員の法務』】(東京・鈴木龍介)

 今回は、先日、本コーナーに初登場した本橋さんが上梓した『司法書士が“
ここだけは”税理士に伝えたい 中小企業における株主・役員の法務Q&A』
(本書)について、本書の「はしがき」を要約するかたちで紹介させていただ
きます。

 本書は、司法書士実務の観点から中小企業を顧問先とする税理士の方にぜひ
押さえていただきたい株主・役員に関する諸論点について取り上げたものです。

 本書は「基礎知識編」、「株主編」、「役員編」の3つのパートで構成され
ており、Q&A方式をとっています。そして実務の現場でアウトプットする点
に重きを置き、記載例や図表を豊富に掲載しています。

 本書が税理士のみなさまが顧問先に対してより多くのプラスアルファのサー
ビスを提供するきっかけとなれば何よりです。また、顧問先の相談内容によっ
ては税理士と司法書士がタッグを組んで、顧問先への税務面.法務面でのより
緻密なアプローチが実現されれば幸いです。

 本書につきましては、私も監修という立場でお手伝いさせていただきました
ので手前味噌的になるかもしれませんが、なかなかの労作であり、税理士さん
(場合によっては司法書士にも)にとっては有用有益な一冊であると思ってい
ます。多くの方が本書を手に取り、ご活用いただけると嬉しいです。

    https://amzn.to/3cViMUr


2020.10.05(月)【古山論文(合同会社と株式交換)】(金子登志雄)

 きんざい「登記情報」直近号の「登記実務からの考察」に、本欄に登場する
古山さんの手による「合同会社を完全親会社とする株式交換に関する留意点」
という論文が掲載されています。

 趣旨は、対価の全部を株式とする株式会社を完全親会社とする株式交換にお
いては株主資本等変動額(現物出資額のようなもの)の全額を資本準備金に計
上して資本金の額を増加しないことができる(これが通常)が、対価の全部を
持分とする合同会社を完全親会社とする株式交換では、持分会社には資本準備
金という制度がないため、株主資本等変動額の全額を資本金の額に計上しなけ
ればならず、想定外の結果になるから注意せよというものでした。

 社員の加入の場合と同様に全額を資本剰余金に計上してもよいと思われてい
る方が多いでしょうから確かに盲点ですね。

 合同会社については設立から運営の問題に実務の関心が進展してきたため、
昨年には立花著『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』の監修に関わ
りましたが、組織変更や組織再編についてまでは、触れていませんでした。そ
こまでは読者の関心が及んでいないと考えていたためですが、たった1年ちょ
っとで古山論文が「登記情報」に掲載されるのですから、世の中の変化は早い
ものです。

 株式交換というのは、組織再編の中でも異質です。合併や会社分割は財務内
容が変化しますが、株式交換では会社の外に存在する株式や持分の移転の問題
であるため、登録免許税法別表にも株式交換のことは一切出てきませんし、登
記記録に株式交換という用語が登場することもありません。

 平成元年改正では不完全(発行済みの過半数支配)子会社にする株式交付制
度が新設されますし、上場会社の取締役に対しては払込みを要しない株式報酬
が認められます。株式や持分が株主や社員たる地位という定義の枠にとどまら
ず、財産であり会社支配の道具として扱われてきたため、法解釈も複雑になり
そうです。


2020.10.02(金)【地方での新型コロナの現状】(島根・根来川弘充)

 全国では外出ムードが高まっておりますが、島根県では、8月に大規模なク
ラスター感染がありました。

 発生の仕方そして発生した場所も全国的に希な例でしたので、全国ニュース
でもとりあげられることになり、その後、誹謗中傷により人権問題にもなりま
した。

 被害にあった本人、そして、その親族および関係者が、さらに苦痛を感じる
環境を、近くで見ることになり、現在の社会の異常さを感じた月でした。

 私が住む安来市は、人口が4万人に届かない町ですが、こちらで初の感染者
がでました。中国で発生してから、約一年かかったことになります。

 国の政策がなかったら、もっと早く、そして、多くの方々が、感染していた
と思います。私および家族の誰もが、かわらない生活ができていることは、政
策の方向は、良かったのではないかと思います。

 これから、いままで以上に人の行き来が増えるでしょうが、人々がパニック
にならない政策を期待したいと思います。


2020.10.01(木)【株式を取得した日】(金子登志雄)

 旧商法時代から存在する株式会社は、実際に株券を発行していなくても、株
券発行会社だとされ、登記もされています。この登記を抹消し不発行会社にす
るには商業登記法により添付書面とされている「株式の全部について株券を発
行していないことを証する書面」として、実務上は、株主名簿の必要的記載事
項(会社法121条1項)の株券番号のところに「不発行」とか「不所持」と
記載されたものが使われます。

 問題は株主名簿の必要的記載事項である「株式を取得した日」です。取得し
た日といっても実際には名義書換がなされた日ですが、株主名簿に次のように
記載されていたら、そのまま記載するのでしょうか。
      令和1年6月1日 1000株
      令和1年9月5日  200株(増資)
      令和2年4月1日 △600株(売却)
            合計  600株
 
 答えは「株主名簿」そのものを添付するなら、そのままにしなければなりま
せんが、商業登記法が要求している書面は「株券を発行していないことを証す
る書面」ですから、株主名簿の抜粋(抄本)で十分であり、私は株券を発行し
ているかどうかと無関係な株主の住所さえ省略した書面にしています。

 上記は売却の例ですが、売却した600株は6月1日の1000株から売却
したのか、9月5日分も含むのかなどを考えると、株券廃止の効力発生日に何
株所有していたかが重要であり、いつ株主になったかは意味のないことです。

 かつて某大手法務局から添付書面は株主名簿に限るという見解が出されまし
たが、その法務局に申請する際も、そういう非論理的見解は無視して株式の取
得日も株主の住所の記載も省略して提出いたしましたが、一度も補正通知を受
けたこがありません。株主の住所についてはともかく、株式を取得した日につ
いては、省略しても全国的に受理されないわけがないと信じています。


2020.09.30(水)【人生の転機】(金子登志雄)

 9月最終日です。3月決算会社にとっては中間期末であり、中間配当などの
基準日を本日に置いているところが少なくありません。

 では、上場会社で中間配当の権利を得るには、手続の関係で、いつまでに株
式を購入しないと無理だと思いますか。私は営業日で3日前という記憶でした
が、つい数年前に2日前に短縮されていました。つまり28日までに株主にな
ればよく基準日の前日が権利落ち日でした。コンピュータの処理能力が進んだ
結果でしょうか。

 さて、14日本欄の「全国司法書士事務所ランキング」につき、古山さんと
鈴木さんから反応いただきましが、昨日の職員の多い事務所は「凄いな~とと
もに大変だろうな~」という鈴木さんの感想は、どういう意味だと思いました
か。

 これは鈴木さんに聞いてみなければ分かりませんが、私の想像は次でした。
 組織維持にとって最も重要なことは「人事とカネ」の問題だ。人事とは適正
な配置や査定問題だが、年功序列では優秀な人に不満が生じるし、そうでない
人や病気がちの人を簡単にクビにすることもできない。カネの問題は仕事がな
くとも組織維持のためには給与を支払わねばならないし、勤続年数が上がる都
度、給与アップも考えなければならない。社会保険の負担も重い………。

 一方、大変なのは雇用側だけではありません。大手司法書士事務所に限らず
法律事務所でも、雇用されている側でも勤続10年もすると、どうも経営側(
パートナー)にはなれそうもない、給与の上昇もそのうちストップするだろう、
ずっとこのまま飼い殺しの身でよいのか、思い切って独立すべきかと、もんも
んと悩み始めます。その結果、リスク分散のため、友人数人と一緒に独立し共
同事務所を立ち上げる弁護士も少なくありません。司法書士の場合は、どうで
しょうか。

 苦労の内容は異なっても、大変さはみな同じです。人生の転機は誰にもあり
ます。会社の将来がどうなるかというリスクを抱えた正社員や保障のない派遣
社員と比較すれば、自由業の司法書士はまだ恵まれています。とにかく、どう
転んでも大丈夫なように軍資金(開業及び当面の運転資金)だけはコツコツ貯
めておきましょう。


2020.09.29(火)【全国司法書士事務所ランキング】(東京・鈴木龍介)

 先々週の14日に、金子さんがとり上げられていた「2020年版 全国司
法書士事務所ランキング」を見てみました。正確には所属司法書士員数ランキ
ングですね。でも、このようなデータはオフィシャルにはないので貴重です。
    https://media.legal-job-board.com/judicial-ranking

 現在、私は何度かこのコーナーで紹介させていただきました「一般社団法人
全国司法書士連絡協議会」(法人協)の理事長をしておりまして、同会の会員
事務所も上位に名を連ねています(未加入の事務所の方々は是非ともご入会を
ご検討いただければ嬉しいです)。
      http://houjinkyou.com/

 上位の大手事務所、すなわち所属司法書士が多い事務所で、おそらく、それ
以外のスタッフも大勢いる事務所を見るにつけ、凄いな~とともに大変だろう
な~と思います。私も一昔前にそういう大事務所を標榜していたこともあり、
時代は変われど大変さ(もちろん、やりがい等々もあります)はよくわかりま
す。当時、このようなランキングがあればベスト5には入っていたかもしれま
せんが(このランキングによると今は105位でした)、すっかり、このあた
りからは完全にリタイアしてしいました(一方で「匠(たくみ)」かどうかも
?ですが)。

 個人的には、大人数を抱える大手事務所については、いろいろと毀誉褒貶あ
りますが、やはり“数は力”ということで一定の評価をしています。一方で「
司法書士数ミニ事務所」にもその良さはあります。つまり、司法書士業界が多
様性を受け入れる方向にある表れ(たぶん)として喜ばしいことと思っていま
す。


2020.09.28(月)【試験能力と実務能力】(金子登志雄)

 昨27日は、コロナで延期された司法書士試験日の予定でしたが、無事に実
施されたのだと思います。

 ネット情報で知ったのですが、いまは試験合格者に順位何番で合格したかを
教えてくれるようですね。どんな意味があるのでしょうか。上位で合格した人
がうぬぼれないことを願います。

 法学部出身で昔の司法試験受験経験もある古い人間である私からすると、民
法をマスターするだけでも数年間が必要で、昔でいえば、分量の多い我妻栄の
全巻をじっくり読み込むくらい勉強しなければだめだという感覚を持っていま
すが、カリスマ予備校講師の山本浩司さんにいわせると、いまの予備校の受験
教育技術は相当しっかりしており、知識ゼロでも1年以内に合格させてしまう
ほどだそうです。

 ということは試験技術に優れた人(受験マシーン?)が上位で合格し、つい
様々な疑問を抱いてしまう深い思考をするこだわり人間は、合格しても上位に
はなれないということになりそうです。後者の人は大学教授の教科書や実務書
まで参考書として購入するでしょうが、そんなことをしていたら早期に合格し
ないので、予備校では予備校本一本に絞らせるようです。

 まるでカルト宗教のようで、早く合格するにはその方法がベストだとは思い
ますが、実務では試験とは別の能力(地頭=じあたま=?)が試されることだ
けは知っておいてほしいものです。

 したがって、早期かつ上位合格者が自信満々で実務の世界に飛び込むと、痛
いしっぺ返しを受け、挫折しかねません。私も採用するなら、合格に数年を要
し苦労したこだわり人間(反射神経よりも理屈を重視する人)を選びます。実
務では、慎重さが必要ですし、何度でも顧客に問い合わせすることができます
ので、反射神経能力は劣っていても大丈夫です。


2020.09.25(金)【兼業司法書士への道】(金子登志雄)

 昨日は6月決算である当社(アクモス)の定時株主総会でした。私も監査等
委員である取締役に再選されたため、少なくとも、あと2年はこれまでどおり
兼業司法書士を続けることになりました。

 鈴木龍介さんなども上場会社の役員を兼任なさっていますが、彼はご自分で
兼業司法書士とはいわないのに、私はしばしば兼業司法書士を名乗っています。
私の主たる職歴のルーツが当社及び前身のM&Aコンサル会社の役員であり、
司法書士になったのはずっと後のため、前者についても強い愛着があり主たる
業務の意識が抜けないためです。

 司法書士開業後もM&Aコンサルの延長で会社の業務が中心でしたが、徐々
に周囲の環境に大変化が生じてまいりました。次です(株式交換も会社分割も
額面株式時代に創設されていることに意外感はありませんか)。
 平成9年10月 独禁法改正、合併手続の緩和(合併報告総会の廃止など)
 平成11年10月 株式交換・株式移転制度の創設
 平成13年4月 会社分割制度の創設
 平成13年10月 金庫株の解禁、額面株式・単位株制度の廃止
 以後も平成14年、15年と改正が続き、平成18年の会社法施行で終わる。

 これらの相次ぐ改正は私にとって神風でした。組織再編や無額面株式、新株
予約権といえばM&Aコンサルで培った私の最も得意分野でしたから、あちこ
ちから講師のお座敷がかかり相談も増えたため、法務専業で生きたいと思い、
平成16年から思い切って非常勤にしてもらい、今日に至ります。

 こういう経歴ですから不動産登記の仕事もなく、商業登記に特化したわけで
すが、私は兼業のため偽物に近い特化1号とすれば、昨日の古山さんは純粋の
特化1号かもしれません。あるとき、四谷駅で電車を待っている際に声をかけ
られ「ぼくも商業登記専門です」と自己紹介されたのが最初の出会いでした。
古山さんもいずれは社外役員兼業司法書士になることでしょう。

 商業登記の報酬は安くとも、企業社会との接点があり、リピーター客になり
ますし、しかも頼られることが多いので、やりがいのある仕事です。兼業も自
然ですので、会社のことが分かっている脱サラ司法書士はぜひご検討ください。
地方にも上場を目指すベンチャー企業がありますので、商業登記に強いことの
看板だけは大きく上げておくことです。


2020.09.24(木)【零細事務所のススメ】(東京・古山陽介)

 先週、金子先生より、司法書士数ミニ事務所の代表格として取り上げていた
だき、光栄に思います。

 開業時から10年を経過にした現在に至るまで、事務所を拡大するという発
想が自分にはありません。時々、逆オファーといいますか、修行させてほしい
とか雇ってほしいという突然の訪問を受けることがありますが、お話を聞いて
丁重にお断りしています。

 商業登記は、確かに割に合わないと思います。役員変更登記の報酬を考えて
みてください。業界としても相場がなんとなく決まっているため、なかなか高
額報酬とはなりません。

 設立登記に至っては、非司法書士の低価格広告など解せないところもありま
すが、司法書士離れが加速しているのは事実であります。また、組織再編案件
や種類株式案件は、役員変更や設立と比較すると報酬金額は高いですが、登記
完了までに要する期間と手間を考えると、決して高額ではありません。

 それでも、単純な登記依頼のみならず、株主総会議事録の確認、その前の招
集通知(書面決議の場合は提案書・同意書)の確認や作成、さらにその前の株
主総会招集のための取締役会議事録の確認、そして、この取締役会に議題とし
てあげるための議案資料の確認であったり、組織再編の設計、種類株式の設計
についても対応することで、これらについても報酬をいただけるようになり、
自身の付加価値にもなります。

 この積み重ねによって、いつしか、クライアントの経営企画会議や役員会に
出席し意見を求められたり、ごく稀ですが、株主総会に事務局メンバーとして
の出席依頼もあります。
 
 個人(一人)でやっていると担当が変わるということがありませんし、小回
りがきくので、クライアントからも重宝されることもあります。全て自分で完
結させているので、ある程度予想外の事態も予測することもできます。いざと
いうときであっても、職人仲間がいるので大変心強いです。

 そして、一人事務所の最大メリットは、勤務形態が自由な点であります。出
社時間や服装の制約がなく、気ままに案件に没頭できます。M&Aの価値とし
ては限りなく低いですが、働き方改革の一つとしての選択の余地はあるかと思
います。


2020.09.23(水)【敬老の日】(金子登志雄)

 連休の21日(月)は敬老の日でした。安倍首相の大叔父(祖父の弟)佐藤
栄作首相時代の昭和41年(1966年)に祝日化されましたが、一度も誰か
をお祝いしたという記憶がありません。そうこうしている間に、私のほうが祝
われてもよい年齢になってしまいました。

 まだ孫もいないためか、おじいちゃん意識は全くありませんが、老人になる
と孤独さが倍加することだけは分かります。仕事を引退した後に急速に老いる
方が多いのは、やはり日々することもなく、相手にしてくれる人も少なくなる
からでしょう。それを避けるには、何か日々熱中することを持つに限ります。

 農業は年齢に関係ないためよさそうですが、人との接触が少ない点でどうで
しょうか。市町村議員になるのはいいかもしれません。スガ首相や麻生大臣な
どの政治家をみると、日々多忙で人を食っているから若いのでしょう。芸能人
も日々、人にみられている職業のため、年齢よりも若くみられる方が多いよう
です。加山雄三さん、黒柳徹子さん、里見浩太朗さんは何歳だと思いますか。
私の子供の頃から第一線で活躍するスターでした。

 幸いなことに私の専門である商業登記中心の司法書士業務も、外出すること
も少なく、体力を使いませんし、経験豊富な年配者のほうが有利なところが多
々ありますので、老人には有利です。政治家や芸能人よりは圧倒的にストレス
の少ない職業です。相変わらずヘビースモーカーで、健康維持の運動とは一切
無縁でいられるほど健康(?)ですから、まだまだ頑張れそうです。


2020.09.18(金)【投稿歓迎】(金子登志雄)

 本橋さん、昭和生まれで私と同じじゃないですかというのは冗談で、実際は
親子ほどの年齢差です。私が本橋さんの年齢の頃は、フリーターも同然で好き
勝手に生きており、林子平の六無斎に準じて「妻なし子なし仕事なし金もなけ
れど死にたくもなし」と親なしの1つ足りない五無斎を気取っていました。そ
ういう怠惰な過去も今の仕事に全て役立っていますから、不思議なものです。
         https://bit.ly/3hxKIhK

 私もそうでしたが、30代は、振り返ると人生の転機だったという方が少な
くありません。人との出会い、その他で環境や生き方が急変化し、転職したり
仕事が脂にのりはじめる頃です。商業登記でも、40代から平面的な対応が立
体的になってきます。

 商業登記のスキルアップには、業務知識は当然として、その上を行くには文
章力が極めて重要だと思っています。不動産登記の場合は、我々に売買契約書
や抵当権設定契約書を作る場面がありませんが、商業登記では議事録案、株主
リスト案、就任承諾書案、委任状案や上申書案など我々が関与することのでき
る部分が多々あり、創造力を発揮することができます。

 したがって、1日も早く『会社法務書式集』などを卒業し、受任仕事に最も
ふさわしい書式を自作するよう期待しています。

 なお、本橋さんに限りませんが、商業登記と文章を書くことが大好きな司法
書士の方は本欄への投稿を歓迎です。ただし、私の検閲が入りますので、それ
を嫌う方はご遠慮ください(昨日の本橋さんのは原稿どおり受け付けました)。


2020.09.17(木)【会社法務書式集】(東京・本橋寛樹)

 はじめまして、司法書士の本橋寛樹(もとはし・ひろき)と申します。昭和の
頃の記憶がほとんどない、昭和63年生まれの32歳です。司法書士試験には、平成
24(2012)年に合格しました。このたび鈴木龍介先生に金子登志雄先生をご紹介
いただき、「徒然日誌」に寄稿する運びとなりました。どうぞよろしくお願い
いたします!

 普段は、商業登記、動産・債権譲渡登記、遺産整理業務等を中心に携わって
おりますが、なかでも商業登記が最も好きです。商業登記を好きになったきっ
かけは、ズバリ『会社法務書式集』(中央経済社)です。

 司法書士業界1年目は、相続案件の多い事務所に所属しておりましたが、税
理士事務所から依頼のある商業登記案件を主に担当しておりました。当時、議
事録の作成やひな型等について詳しく解説されている実務書が見当たらず、調
べものや書類作成に時間を要していました。

 そんなある日、『会社法務書式集』をネット上で発見して、期待を膨らませ
たのを覚えています。大型書店では欠品でしたので、amazonで出店されていた
中古品を1万2000円で購入しました。はじめて手に取って中身を見たときの感
動は今でも忘れません。定価(4000円)の3倍であった分、元を取ろうと、会社
法務書式集を存分に活用しました。それからというもの、商業登記案件をドン
ドンこなせる実感がありました。

 平成28(2016)年3月刊行の『会社法務書式集(第2版)』では、初版と比べて
書式のバリエーションが増える等、バージョンアップされていました。その年
の8月に、編者である、鈴木龍介先生に、令和2(2020)年9月には金子登志雄
先生に、『会社法務書式集(第2版)』の見開きページにサインをいただきまし
た。『会社法務書式集』を手がけられたお二人の先生に出会えたのは大変光栄
です。

 『会社法務書式集』は、今のわたしの商業登記業務に臨むうえでの礎です。
株主リストの導入や会社法改正等もありましたので、近い将来、「会社法務書
式集第3版」が発刊されることを待ち遠しく想います。

(金子より)
 本橋さんは下記のような著作のある方だと、他の仲間から教えられました。
また、登場していただきましょう。
     https://amzn.to/33jHIAw



2020.09.16(水)【新総裁誕生雑感】(金子登志雄)

 菅義偉(スガヨシヒデ)氏による自民党総裁選の圧勝でスガ首相誕生もほぼ
確定ですね。数か月前には首相候補としては泡沫に近い存在でしたが、立候補
後は、令和おじさん、苦労人などという勝ち馬に乗りたいマスコミの提灯記事
で断トツの候補筆頭になってしまいましたから、日本国民はマスコミの吹かす
風(空気)に弱いこと(洗脳されやすい国民性)をまたもや証明してしまいま
した(もっとも、世論調査が正確かどうかは疑問です)。

 国民的な人気では石破さんがトップといわれていたのに3位になったのは、
石破潰しのために、スガ支持の議員票の一部が岸田さんに回されたといわれて
いますが、これは私も事前に予想していましたので、たぶん正しいでしょう。
スガさん以後も石破さんがトップになると困る方が多いためです。

 当選したスガさんは私と同年齢です。いわゆる団塊の世代、全共闘世代、グ
ループ・サウンズ世代です。スガさんも秋田県のいちご栽培の豪農(親は町会
議員)の後継ぎを拒否し、親に逆らい高卒後単身上京していますから、この反
骨精神は、好きに生きたいという私の世代らしいと感じました。

 一方で、私の世代は何らかの形で全共闘運動の影響を受けてデモに参加した
りの経験があるはずなのに、運動が盛んな法政大学の学生だったスガさんにそ
れを感じないのは、生活費を稼ぐためのアルバイトで多忙だったのか、空手部
という体育会に所属していたからでしょうか。4年生は神様で1年生は奴隷と
いう当時の体育会系学生は、みな軍服(学生服)を身にまとい丸刈りであり、
私のような一般学生にとっては近寄りがたい怖い存在でした。

 スガさんは政治家に必要な弁舌が不得手で討論会を避けたり、天敵の東京新
聞の望月衣塑子記者などの質問に対して理由を述べずに「ご指摘はあたらない、
問題ない」を多用し答弁を拒否し、マスコミには裏から圧力をかけるなど、欧
米基準からすると政治家には不適任ですが(外交は不得手か?)、口ベタを正
直者の裏返しとみたり、謀略や寝業という裏工作を政治家の資質とみる日本国
内では、欠点とは評価されないかもしれません。

 ただ、全ての点でパフォーマンス(やっているふり)が得意だった安倍首相
と比較されるため損な役回りになるでしょう。いずれにせよ、まずは、お手並
み拝見で、真の評価はこれからです。


2020.09.15(火)【戦後商法のあゆみ 平成26年改正】(東京・鈴木龍介)

 先週に続いての「戦後商法のあゆみ」は平成26年改正会社法です。
1回読み切りのダイジェスト版となりますので、ご関心のある方は「登記研究」
872号(予定)をご覧ください。

1.背景等
 大改正であった会社法が平成18(2006)年5月に施行された直後は混乱や困
惑もみられたが、しばらくするとそれも収束し実務も定着していったところ、
かねてから指摘されていたコーポレート・ガバナンス(企業統治)の不備不足
と親子会社に関する規律の未整備が浮き彫りとなっていた。

 このような状況を踏まえ、平成22(2010)年2月に法務大臣から法制審議会
に対し、企業統治の在り方や親子会社の規律等の見直しに関する諮問(第91号)
がなされた。この諮問を受けた法制審議会は、会社法制部会を設置し、同年4
月から具体的な審議を開始された。

2.概要
 会社法部会は、平成23(2011)年12月に「会社法制の見直しに関する中間試
案」をとりまとめ、当該試案を公表し、広く意見照会を行った。寄せられた意
見を踏まえ、会社法部会では途中、東日本大震災の影響による中断を余儀なく
されたものの審議を重ね、平成23(2011)年12月に「会社法制の見直しに関す
る要綱案」をとりまとめた 。それを受けた法制審議会は、平成23(2011)年9
月にこれを要綱として決定し、法務大臣に答申した。

 法務省は、当該要綱に基づき早期の法案提出を目指して立法化の作業を進め
たものの、衆議院・参議院において、いわゆる与野党ねじれ国会となっていた
ことや政権の交代があったこととともに、法務省提出の他の法案との兼ね合い
等から平成24(2012)年の臨時国会(第181回)と平成25(2013)年の通常国会
(第183回)への法案提出は見送られ、平成25(2013)年11月の臨時国会(第
185回)にようやく法案を提出する運びとなった。しかしながら、法案提出が同
国会の会期末であったことから実質的な審議はなされず、閉会中審査(継続審
議)となった。

 その後の通常国会(第186回)で当該法案についての具体的な審議が行われ、
大きな修正もなく、平成26(2014)年6月に「会社法の一部を改正する法律」
が成立し、平成27(2015)年5月1日に施行された 。

 平成26年改正会社法は会社法施行後にはじめて行われた改正であり、改正点
も多岐に渡るが、その骨子としては、ⅰ)コーポレート・ガバナンスの強化 、
ⅱ)親子会社に関する規律の見直し 、ⅲ)その他の問題点の修正 があげられ
る。なお、注目されていた社外取締役の設置義務についての改正は見送られる
こととなった 。

3.商業登記に関する規律等
 平成26年改正会社法とともに制定された「会社法の一部を改正する法律の施
行に伴う関係法律の整備等に関する法律」において商業登記法の改正が行われ、
平成26年改正会社法に伴う所要の規定の整備とともに、商業登記手続に関する
改正として登記すべき事項のオンライン提供の法制化がなされた。なお、平成
26年改正会社法に関する基本登記先例と位置付けられるものとして、「会社法
の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて」
が発出された 。


2020.09.14(月)【事務所ランキング】(金子登志雄)

 京都の内藤先生のブログで知ったのですが、2020年全国司法書士事務所ラン
キングなどというサイトがあるのですね。内容は人の「採用」の面から大手法
人を司法書士数でランキング付けしたもので、下記です。
  https://media.legal-job-board.com/judicial-ranking

 20年以上も司法書士キャリアのある私でも、昔から大事務所として有名な
第4位の山田合同事務所(上場会社の株式会社山田債権回収管理総合事務所と
関係)を除くと、初めて聞く法人ばかりでした。

 対抗して、司法書士数ミニ事務所(零細事務所?)ランキングでも作れば、
本欄執筆者の私・立花・古山は間違いなくランキング入りします。

 ちなみに弁護士数ランキングは下記です。
 https://www.jurinavi.com/market/jimusho/ranking/index.php?id=245
 
 司法書士数ランキングと弁護士数ランキングの類似点は、双方ともパターン
化された日常業務が中心(ライン化された工場の如し)だということです。司
法書士でいえば、過払金回収、不動産登記業務などで、法律事務所では、海外
との取引に関する翻訳中心の渉外業務です(大手事務所では一度も法廷に立っ
たことのない弁護士も多いと聞いています)。

 相違点は、大手司法書士事務所は組織再編や種類株式など、たまにしかない
特殊業務(一種の冠婚葬祭業務で注文生産で手作りになる)は非効率のため避
けるのに対し(避けないで受任し失敗した後始末を私は多数経験しています)、
大手法律事務所は弁護士業務自体の特殊性(個別の難題の解決)から、これら
の特殊業務をも「売り」にしていることでしょうか。

 こうしてみると、本欄に執筆者として登場する面々は、事務所の拡大よりも
手工業の「匠(たくみ)」を目指す異質な事務所といえるかもしれません。そ
のため、代替性がなく、人数を増やせず、後継者もおらず、事務所M&Aの対
象にもなれません。本欄執筆者の事務所をM&Aしてみませんか。顧客の8割
は残らないでしょう(個人開業医と同じです)。

 その意味で、「いらっしゃいませ、こんにちは」のマクドナルドと同じく、
あるいは大企業のように、人(社長を含む)が変わっても仕事に影響のない非
個性の「仕組み」で動く事務所にした点で大手事務所の経営者は事業家の才能
があり、たいしたものです。ただし、雇われる側にとってスキルの向上に役立
つかは事務所の方針次第ですから、就職の際はよく見極めましょう。


2020.09.11(金)【管外本店移転の謄本取得可能日】(金子登志雄)

 何度かに分けて管轄外本店移転について書いてきましたが、今日は早く登記
後の謄本を取得する方法について取り上げましょう。管轄外本店移転は2つの
登記所で審査されますから、登記が終わるまでに2倍の時間がかかり、顧客か
らせっつかれることも多いので、知っておいて損はない知識です。

 さて、東京都千代田区の会社が大阪市に本店移転したとして、東京法務局で
登記された日と大阪法務局で登記された日はどちらが先だと思いますか。

 これはお分かりと思いますが、商業登記法51条と52条(抜粋)に当ては
めると、次のようになっています。

 1.本店を大阪法務局の管轄内に移転した場合は、東京法務局宛と大阪法務
局宛の2つの申請が必要だが、後者の申請も東京法務局に提出し、東京法務局
を経由して大阪法務局に申請しなければならない(同時・経由申請という)。
 2.東京法務局においては、審査終了後に、大阪法務局への申請資料を大阪
法務局に送付しなければならない。
 3.2を受けて大阪法務局において登記をしたときは、遅滞なく、その旨を
東京法務局に通知しなければならない。東京法務局においては、この通知を受
けるまでは、登記をすることができない。

 例えば、9月1日に東京法務局に申請、9月7日大阪に送付・同日着(詳細
は知りませんが、たぶん郵送による到着日ではないと思います)、9月10日
大阪で審査終了・登記、同日東京法務局に通知が到着とした場合、大阪での登
記の日は9月7日で、東京でのそれは申請日の9月1日ではなく10日になり
ます。東京での登記日のほうが遅い日になります。

 これは大阪で同一住所・同一商号があると却下されて東京に戻されるため、
東京では大阪の結果を待つ必要があるためです。ただし、東京から2つの電子
申請の完了通知が来る日は、大阪への申請分についても実際に東京で登記記録
を閉鎖した日(9月11日頃)になります。

 ここまでは、「あ、そう。やはり、時間がかかりますね」で終わりますが、
申請用総合ソフトで検索すると、9月7日から10日までの間は、大阪の住所
と登記手続中の表示付きの東京の住所のもの2つが出てきます。つまり、9月
7日には大阪の謄本を取得することができます。東京での閉鎖謄本は完了通知
が来る9月11日にならないと取得することができませんが、それ以前に、大
阪に印鑑カードを申請し、印鑑証明を取得することもできます。


2020.09.10(木)【社債管理補助者(改正会社法)】(仙台・立花宏)

 ご存じのとおり、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)
が昨年12月4日に成立し、同月11日に公布されています。一部を除き、公
布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される
ことになっていますので、来年前半に施行されることになるのでしょう。

 大部分は大きな会社向けの改正のように感じており、個人的には、自分が関
与する実務に影響する部分はあまり多くはないのではないかと思っています。
ただ、そうはいっても、自分の仕事道具ともいえる会社法についての改正内容
を把握しないわけにはいかないと思い、少しずつ、勉強しています。

 今回は、その勉強の中で、個人的に消化できていない点のひとつをご紹介さ
せていただこうと思います。

 今回の改正では、社債関係の改正もあり、「社債管理補助者」の制度が導入
されました。「社債管理者」を設置する場合や、担保付社債である場合以外に、
設置することができる制度で、社債の管理について包括的な権限を有する「社
債管理者」と違い、社債権者による社債権者集会等の決議を通じた社債の管理
が円滑に行えるよう補助する制度と位置付けられています。

 消化できていない点のひとつというのは、この「社債管理補助者」の法定権
限です。改正会社法では、「社債管理補助者」が有する最低限の権限として、
①破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加、②強制執行又は担保権の実
行の手続における配当要求、③会社法第499条第1項の期間内に債権の申出
をすること(株式会社の解散手続における債権の申出)の3つが規定されてい
ます(改正会社法第714条の4第1項)。

 「社債管理補助者」は、この法定権限以外に、社債発行会社との間の委託契
約において定められる権限を持つことができるとされてます。

 「社債管理補助者」は、「社債管理者」と比べると、裁量の余地の限定され
た権限のみを有しており、平成29年11月1日の法制審議会会社法制(企業
統治等関係)部会の議事録に記載された神作裕之委員の発言によれば、法定権
限とされたものは、「発行会社と社債権者の間の情報を媒介する(略)、情報
のやり取りをする際の仲介者の役割」なのだそうです。

 ところで、会社法では、株式会社だけでなく、持分会社も社債を発行するこ
とができます。私が消化できていないのは、持分会社が社債を発行し、「社債
管理補助者」(法定権限のみを有しているものとします)を定めている場合で
す。この持分会社が解散した場合、「社債管理補助者」は、会社法第660条
の期間内に債権の申出をすることはできるでしょうか。というのは、前記の法
定権限では、③のとおり、解散した株式会社の債権の申出については規定され
ていますが、解散した持分会社の債権の申出については触れられていません。
どちらも、同じ趣旨の制度だと思いますので、別に扱う必要はないように思え
ます。後者の申出に関する権限も当然に有すると考えてよいでしょうか。

 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の資料等をみると、法定権限の
③は、平成29年11月1日の資料から明記されたようです。ただ、私が探し
た限りでは、この点の詳しい解説を見つけることができませんでした。

 こうした部分は、今後発行される解説書等で何らかの解説がなされるかもし
れません。今後も、情報収集を怠らないようにしようと思います。


2020.09.09(水)【特例有限会社と株式交換・株式移転】(金子登志雄)

 月曜日に管轄外本店移転を30件以上経験済みだと書きましたら、地方の方
から数の多さに驚かれましたが、これは東京都内は商業登記庁の統合が少なく
23区内にも多数の出張所が残っているためにすぎません。千代田区から港区
や新宿区、渋谷区に本店移転するだけで管轄外となります。

 さて、商業登記倶楽部(神崎先生主宰)への質問に、特例有限会社を株式会
社に移行して株式移転したいという相談がありました。方法は吸収合併と同様
に有限会社である間に移行を条件に株式移転を決議するものです。

 組織再編専門の私が回答したのですが、質問につられたところもあり、吸収
合併や吸収分割と同様に同日でも連件で申請することができると回答してしま
いましたが、立花さんから新保司法書士のブログに下記のようにあり、困難で
はないかと指摘を受けました。

https://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/0356dcb5c609cec923ad3933935c85d1

 あわてて、東京法務局見解は納得できないが、「最も無難な方法は、移行し
株式会社になった後(登記申請後)に、株主総会のみなし決議で株式移転を決
議することです。みなし決議なら事前開示書面の総会決議の2週間前もクリア
できます。」と追加回答いたしました。

 それ以来、合併・会社分割と株式交換・株式移転にこのような差を設けたこ
とに合理性があるのかと考え続けていました。単に、株式会社に移行前の条件
付意思決定を認めるか、移行後のそれに限るかの差でしかないともいえるから
です。

 やっと理由が推測できました。深い理由はなく、旧有限会社法で合併や会社
分割を認めていたが、株式を発行していない関係上、株式交換と株式移転につ
いては当然ながら規定がなかったため、これを会社法の整備法が受けただけだ
と思います。

 周知のとおり、特例有限会社も会社法の下では株式会社の一種であり株式発
行会社です。ただし、特例であり、徐々に特例有限会社を廃止に向かわせるた
め、新規の設立は認められませんし、合併存続会社や吸収分割承継会社にはな
れないようにしています。

 これを私は特例有限会社は座敷牢に幽閉され自由を束縛された例外的株式会
社と表現していますが、株式会社ですから、合併や会社分割と同様に、移行を
条件にするなら、座敷牢から出して株式交換や株式移転を肯定したほうがバラ
ンス感覚に合いますし、特例有限会社の減少になりますから、会社法の趣旨に
適合するのではないでしょうか。整備法を改正せずとも解釈で肯定してほしい
ものです。


2020.09.08(火)【戦後商法のあゆみ 平成17年会社法制定】
                          (東京・鈴木龍介)

 少し間があきましたが、今回の「戦後商法のあゆみ」は、いよいよ会社法の
制定です。1回読み切りのダイジェスト版となりますですので、ご関心のある
方は「登記研究」871号(予定)をご覧ください。

1.背景等
 明治32(1899)年に制定された商法は、カタカナ文語体で表記され、旧態依
然とした用語も少なくなかったことから、かねてより、わかりやすい、ひらが
な口語体の表記に改めるべきであるとの指摘がなされてきた。また、会社法制
に関する重要な規定が商法だけでなく「有限会社法」や「株式会社の監査等に
関する商法の特例に関する法律」にも規定されていたことから、利用しづらい
との指摘もなされていた。さらに、近時の短期間における数次の改正により、
全体としての整合性を図り、体系的かつ全面的な見直しが必要であるとの声も
大きくなっていた。

 このような状況を踏まえ、平成14(2002)年2月に法務大臣から法制審議会
に対し、会社法制の現代化に関する諮問がなされた。当該諮問を受けた法制審
議会は、会社法(現代化関係)部会(会社法部会)を設置し、会社法部会では
同年9月から具体的な審議を開始した。

2.概要
 会社法部会は、平成15(2003)年10月に「会社法制の現代化に関する要綱試
案」をとりまとめ、法務省民事局参事官室が当該試案を公表するとともに、広
く意見照会を行った。寄せられた意見を踏まえ、会社法部会ではさらに審議を
重ね、結果として2年超にわたり全32回の会議を開催し、平成16(2004)年12月
に「会社法制の現代化に関する要綱案」と「特別清算等の見直しに関する要綱
案」をとりまとめた。それを受けた法制審議会は、平成17(2005)年2月に両
案を要綱として決定し、法務大臣に答申した。

 法務省は、前記の2つの要綱に基づき立法作業を行い、平成17(2005)年3月
に法案を通常国会に提出した。国会の審議の中で法案の一部修正がなされたも
のの、同年6月に「会社法」が成立し、一部を除き、平成18(2006)年5月1日
に施行された。  

 平成17年会社法は新法形式による抜本的な改正であり、多岐多様な重要論点
があるが、あえて改正の骨子を掲げるとするとⅰ)現代語(口語)化、ⅱ)会
社類型等の見直し、ⅲ)株式会社法制の合理化等があげられよう。

3.商業登記に関する規律等
 平成17年会社法において、それまでは各事項で規定されていた登記に関する
諸規律が「第7編 雑則」の「第4章 登記」に一括して規定するものとされ
た。また、「第1編 総則」中の商号に関して、いわゆる類似商号規制が廃止
された。加えて、株式会社に関する登記事項が拡充された一方で、支店所在地
における登記事項が大幅に整理・削減された。

 平成17年会社法とともに制定された「会社法の施行に伴う関係法律の整備等
に関する法律」において商業登記法も全面的な改正がなされた。


2020.09.07(月)【管外本店移転の登記申請方法】(金子登志雄)

 東京都千代田区の会社が大阪市に本店移転したとします。この場合の大阪法
務局への登記申請書には「登記すべき事項」に「令和2年〇月〇日本店移転」
と記載するだけで足りますが(登記情報673号13頁、平成29・7・6民
商第111号)、電子申請では別紙に記載することになります。

 その際の別紙の記載法につき、拙著『会社法実務〔全訂版〕』Q4-21-1
では、次の方法を紹介しています。
  「本店」大阪市・・・・
  「原因年月日」令和2年〇月〇日移転

 ところが、法務省HPの書式例では、次になっています。
 「登記記録に関する事項」
  令和2年〇月〇日東京都千代田区・・・から本店移転

 移転日と本店移転のことが記載されていますので、いずれも可能ですが、こ
の拙著方式は千代田区の某司法書士が平成29年に東京法務局に相談してOK
をもらった内容であり、それにつき先例の普及を東京法務局から要請された東
京司法書士会千代田支部が臨時会報を発行し会員に知らしめ広まったものです。
当時は別紙の記載法につき不明でしたから、私もこの方法をずっと採用してき
ており(30件以上の経験があります)、著書にも記載してきました。法務省
HP方式は、時期的にみて、拙著方式より後のものでしょう。

 ただ、最近は法務局内の人事異動が激しく、拙著の記載方法につき不慣れな
職員から疑義を出される可能性も生じてきましたので、その際は、以上のこと
を説明してあげてください。説明するのも面倒だと思う方は、法務省HP方式
にすることです。

 なお、移転先への申請書でありながら「東京都千代田区・・・から」を記載
せずとも問題ない理由は、登記がコンピュータ化され、移転先登記所でも移転
元での登記内容を容易に知ることができるからです(商登法19条の3参照)。


2020.09.04(金)【本店移転の省エネ決定法】(金子登志雄)

 本店移転の意思決定ですが、非取締役会設置会社の場合は、どういう方法を
採用していますか。

 私は管内移転の場合は、取締役決定書にし株主リストを不要にし、管轄外移
転の場合は株主総会で移転先も決定し、取締役決定書を省略しています。次の
とおりです。
----------------------------------------------------------------------
議 案 定款一部変更及び本店移転の件
 議長は、定款第3条を次のとおり変更し、同時に下記に本店を移転すること
を提案したところ、満場一致で承認可決した。
 1.定款変更内容
   (本店)
   第3条 当会社は、本店を東京都〇〇区に置く。
 2.本店移転先
   東京都〇〇区〇〇町一丁目2番3号
 3.定款変更の効力発生日及び本店移転日
   本日(2020年9月〇〇日)
----------------------------------------------------------------------

 非取締役会設置会社の株主総会は万能の意思決定機関ですから、移転先や移
転日についても株主総会で決定してしまえばよいわけで、杓子定規に取締役の
決定にする必要はありません。

 応用編として、取締役会設置会社でも株主が1名や同族だけなどの場合は、
会社法295条2項を利用して、取締役会の決定を省略します。 
----------------------------------------------------------------------
第1号議案 定款一部変更の件
 議長は、定款第3条を次のとおり変更し、かつ附則を新設することを提案し
たところ、満場一致で承認可決した。
 (本店)
 第3条 当会社は、本店を東京都〇〇区に置く。
 附則
   1.2020年9月に行われる本店移転に関する事項の一切は、会社法
    第295条第2項に従い、株主総会で決定することができる。
   2.本附則は前項の登記完了後に自動的に将来に向けて削除される。
第2号議案 本店移転先決定の件
 前号議案の可決を受けて、議長は表題の件につき、次のとおり提案したとこ
ろ、満場一致で承認可決した。
 1.本店移転先:東京都〇〇区〇〇町一丁目2番3号
 2.本店移転日:本日(2020年9月〇〇日)
----------------------------------------------------------------------

 こういうことを考えながら業務に従事することができるため、商業登記は実
に面白いわけで、飽きることはありません。


2020.09.03(木)【本店移転雑感】(金子登志雄)

 8月は死亡の登記が多かったと書きましたが、本店移転も同じでした。多く
は登記所の管轄内の移転でしたが、管轄外もありました。コロナの関係で勤務
体制が変わり広いスペースが不要になったことや賃料相場が下がったことが影
響しているのかもしれません。

 登記所の管轄が変わると、改めて印鑑届を提出しなければなりませんが、そ
こに代表者の個人印を押す必要があるのかという小論点がありますが、皆様は
どうなさっていますか。

 コンピュータ化前の昔は印鑑ビラといって厚手の紙(小片)に届出印を押し、
それを印鑑届出用紙(提出代表者の個人実印と印鑑証明書が必要)に貼付して
印鑑を届けており、商号変更などの際は印鑑ビラだけ差し替え用に提出してい
ました。管轄外本店移転でも同様でした。

 ところが、登記がコンピュータ化され、印鑑ビラがなくなり、印鑑届出用紙
に直接届出印を押すようになってからは、商号変更などでは提出が不要になり、
管轄外本店移転の際も印鑑届出用紙で届出印を移転先登記所に提出するように
なりました。

 印鑑届出用紙ですから、提出代表者の押印欄があり、ここに個人実印までは
不要だが何らかの押印がなされたのが書式例になっていますので、私は常に押
印していますが、印鑑ビラと同様の思考をすれば押印不要ということになり、
押印しなくても受け付けられた例もあるようです。その際、自署だったから押
印不要と扱われたのかまでは知りません。

 ところで、管轄外での本店移転日が9月1日、取締役の辞任など他の変更の
効力が2日だったとして、3日に登記申請する際は、他の変更登記を移転元で
申請しますか、時系列に忠実に移転先で申請しますか。

 移転元で何の問題もありません。8月の取締役の辞任を移転後に移転先登記
所に申請することも可能です。つまり、本店登記記録としてつながっているた
め、どこの登記所で申請しても差し支えありません。


2020.09.02(水)【銀行の統廃合について】(島根・根来川弘充)

 私の事務所には、本年度にはいって、ほぼ毎月、銀行の統廃合のお知らせが
届きます。おそらくは、インターネットの普及により、振込み等の手続きがで
きるようになり、支店の役割が変わってきたということなのでしょう。

 平成がはじまって、まもなく、大手銀行、金融機関が倒産しました。新元号
になって、まもなく、支店の統廃合が進んでいくことは、店舗が減っていくこ
とに間違いはなく、多くの町並みに、今後、大きな変化がでるのだと思います。

 昔からあった建物が、新しい建物に生まれ替わるのであれば、何か明るい未
来を感じますが、空き地になり、荒れ地になったところも、近くにすくなから
ずあります。

 「新型コロナ等感染症対策」「超高齢化社会」「環境問題」・・・、様々な
社会問題の解決方法の中に、きっと、新しい町並みのヒントがあるような気が
しています。

 安倍総理が辞任を表明されました。新しい時代に、期待したいと思います。


2020.09.01(火)【新刊 「事業承継法」入門】(東京・鈴木龍介)

 久しぶりの新刊『「事業承継法」入門』が中央経済社から刊行される運びと
なりました。このところ雑誌への寄稿が多く、書籍についてもこれまでの改訂
が続いていました。ということで、今回は『「事業承継法」入門』を紹介させ
ていただければと思います(少し長文になりますが“はしがき”より抜すい)。

 事業承継には、さまざまな観点での多様な検討が必要なわけですが、そのベ
ースとなるものの1つが「法律」です。つまり事業承継も法律の枠組みの中で
行わなければならず、事業承継に関連する法律への理解はマストといえます。

 本書「“事業承継法”入門」は、事業承継に関連する多岐多様な法律を「事
業承継法」と位置付け、事業承継の検討や実行をするために必要な法的知識を
整理し、その基本をマスターしていただくことを主眼としています。

 事業承継法については、民法と会社法がベースとなり、そこに税法がからみ
合い、信託等その他の法律が必要に応じて登場してくるというイメージです。

 そのようなことから、本書の構成として、まず「Part1 前提知識の整理」
で事業承継と事業承継法のアウトラインを整理しています。「Part2 会社法
のポイント」、「Part3 民法・相続のポイント」、「Part4 民法・契約等
のポイント」では事業承継法の中核となる民法と会社法について、事業承継に
必要な事項にフォーカスし、具体的かつ実践的に解説しています。
「Part5 税法のポイント」では、事業承継に必要な税法について、現場目線
でコンパクトに解説しています。「Part6 その他関連法のポイント」では、
事業承継の手続という面からも欠かすことのできない、「信託」、「成年後見」、
「登記」、「許認可」について、そのアウトラインに触れています。

 本書の特徴として、1つ目はわかりやすいことと読みやすいことにこだわり
ました。したがいまして、表記表現は誤解のない範囲で平易なものとし、例外
や特則などの記載はあえて割愛しているところも少なくありません。2つ目は
記載例や図表を数多く挿入しました。これらにより具体的なイメージをつかん
でいいただけるのではないかと思います。3つ目は事業承継と各法律の規定等
がどのような関係にあるのかということを明らかにしました。

 私自身、実務や教育の現場で事業承継に携わる中で、本書の読者として、次
のみなさんを想定し、本書の企画・執筆に取り組みました。

 まず、第一に事業承継の対象となる企業の現経営者や後継者、つまり事業承
継の当事者の方々です。当事者のみなさんは、法律のプロになる必要はありま
せんが、それでも基本的な理解がないと大きなミスやロスにつながりかねませ
ん。

 第二に銀行をはじめとする金融機関の方々です。日本の中小企業が資金調達
をする手段の大半は金融機関からの融資であり、事業承継を進めるうえでは金
融機関との関係は切っても切り離せません。そこで、事業承継の支援者であり
理解者になっていただきたい金融機関の役職員の方々にも是非手に取っていた
だきたいと思っています。

 第三に法律を学ぶ学生のみなさんです。事業承継自体を学習する場合はもち
ろんのこと、民法や会社法について事業承継をモチーフとして学習することは
有用なアプローチだと思っています。加えて事業承継を支援する専門資格者の
方です。たとえば司法書士であれば税法の分野を、税理士であれば会社法の分
野といったように自分の専門外の知識の補強として本書を利用していただくと
ともに、当事者や金融機関の役職員のみなさんへの事業承継に関するレクチャ
ーなどにも使っていただけるものと考えています。
 
 どうぞよろしくお願いします。
  https://bit.ly/3b87I5q


2020.08.31(月)【許認可事業と吸収分割】(金子登志雄)

 金曜日は仕事の気分転換に2時過ぎにネットの株価欄をみたら、日経平均が
急暴落しており、何があったのかと繰り返しネット検索しましたが何も出てき
ませんでした。安倍首相の記者会見は午後5時からのはずですし………。

 しばらくして、安倍首相辞任のニュース速報がNHKで流されたのが理由だ
と判明しましたが、インサイダー取引はなかったのでしょうか。政権中枢のど
なたかが政府広報機関に堕したNHKにリークしたのでしょうが、政府の情報
管理の気の緩みか、意図的な情報操作かは庶民の我々には知る由もありません。

 さて、いつもの話題に戻して、吸収合併で消滅会社の事業目的に実際には営
んでいない「運送業」という事業目的があったとすると、「許認可を要しない
旨の証明書」を運輸局から取得し合併登記に添付しなければなりません。

 しかし、かつて、こういう事例で運輸局に問い合わせたら、存続会社でなく
消滅会社の地域を管轄する運輸局に問合せをせよといわれ、それをしたら、そ
のようなものは発行できないとか、タライ回しをされ、とうとう事業目的から
廃止して合併したことがありました。

 今から考えると、運送業といっても多種多様であり、根拠法令ごとに担当部
署が異なるわけですから、タライ回しされても仕方なかった面もありかなとい
う気がします。

 本年は、運送業同士の吸収分割を経験し、またもや許認可問題に遭遇しまし
た。登記先例では「許認可を要しない旨の証明書」は合併についてですが、会
社分割でも同様に取り扱われます。ただし、吸収合併では全事業が承継される
ため、事業目的の許認可事業の全部につき検討しなければなりませんが、会社
分割では承継事業に許認可事業が含まれるかどうかが基準になります。

 ここで思ったのですが、合併消滅会社あるいは分割会社の事業目的に「その
他適法な一切の事業」とあったら、運送業も運送業以外の許認可事業も含まれ
るため、これにつき「許認可を要しない旨の証明書」が必要だとしたら、「な
いことの証明」(悪魔の証明)に際限がなく無理ではないかと思いました。幸
い事業目的に明白な許認可事業が掲げられていない限り、そこまでは要求され
ていません。

 次に、登記先例は、事業目的に許認可事業が掲げられているが実際には事業
を営んでいない、いわゆる「目的上事業者」のケースですが、私が扱った案件
は、分割会社も承継会社も許認可を取得している事業者でした。この場合に、
分割会社が許認可事業を承継会社に承継させ、その事業を廃業するのであれば
ともかく、引き続き許認可業者であり続ける場合に許認可事業を承継させたと
いうのか、単に一部の設備や人員などの権利義務だけを承継させただけなのか
は判断が困難だと感じました。

 幸い、許認可事業と会社分割に関する当局の見解は、許認可事業の承継が明
白でない限り、「許認可を要しない旨の証明書」は不要だというものですから、
白黒が不明な場合には上申書でも添付すればよいわけですが、許認可と組織再
編はいつも慎重になってしまいます。


2020.08.28(金)【代表者死亡と後任選任議事録】(金子登志雄)

 この暑さで熱中症の死亡者はコロナの数倍にもなるようです。冬にはお餅を
喉に詰まらせて死亡する老人が多く、やはりコロナの死亡率を上回っています。
にもかかわらず、コロナのほうが怖いのは、人から人に感染することと原因も
治療法もはっきりしないことでしょうか。いずれにせよ、私のような老人は何
に対しても気を付けねばなりません。

 さて、この問題とは無関係でしょうが、この8月は代表取締役死亡の登記の
依頼や相談が重なりました。こんなことははじめてです。

 死亡の登記では次をご存知ですね。
1.親族からの死亡届で足り、死亡診断書や戸籍などを準備する必要はない。
2.取締役会設置会社で取締役3名未満になっても、この登記は受理される。
3.取締役A死亡、代表取締役A退任ではなく、代表取締役の登記原因も死亡
 である(例外は、有限会社で「取締役が1名になったため抹消」)。

 いま受けているのは有限会社で取締役ABC(代表取締役A=総会で選定)
のAが死亡したケースですが、株主総会議事録で出席取締役BCとしてBを代
表取締役に選定し、席上就任させ(地位一体型なので不要ですが)、議事録作
成者B(個人実印押印)にしようと思いましたが、商業登記規則61条6項に
より選定議事録に出席者の個人実印が必要だということを思い出し、議事録作
成者をBCの2名にするか、Cの印鑑証明書の準備が面倒なら欠席させるかを
依頼者にお任せしました。

 これまでは代表取締役が辞任するにせよ存命し会社届出印を株主総会議事録
に押せる例しか経験してきませんでしたが、会社届出印を押せない上記のよう
なケースでは、株主総会に出席する取締役についても注意しなければならない
と再認識した次第です。書面決議であれば、この問題は生じませんけど。


2020.08.27(木)【「年月日」の更正の登記表記】(金子登志雄)

 「令和2年8月1日大阪市………〇〇株式会社を合併」と申請したところ、
8月3日の誤記だったという場合、全文に抹消線が引かれ「令和2年8月3日
大阪市………〇〇株式会社を合併」と書き直された更正登記がなされます。

 では「取締役A/令和2年8月1日辞任」が8月3日辞任の誤記だった場合
は、どういう更正がなされるでしょうか。

 これには2つの方法があるようです。通常は年月日だけ更正され、抹消線の
引かれた取締役Aはそのままにします。もう1つは、上記の合併事例と同様に
「取締役A/令和2年8月3日辞任」と全文書直しをする方法です。私が保存
している資料には、公告方法の変更日を誤記した場合に、全文転記した実例が
ありました。

 要するに、省エネの部分更正(年月日だけ更正)と全文更正の2種類がある
わけですが、後者は、抹消線を引かれた取締役Aの内容部分と別枠の年月日辞
任部分を1つの登記と扱ったものでしょう。

 新株予約権の発行日だけの更正で、全文転記は大袈裟ですから、発行日だけ
更正する例しか知りませんが、全文転記の事例がありましたら、ぜひ拝見させ
てほしいものです。

 なお、本日のネタは日司連NSR3の投稿をヒントにさせてもらいました。



2020.08.26(水)【今年の司法書士試験と会社法】(金子登志雄)

 先日の取締役会終了後の雑談で、今の大学生はオンライン授業ばかりで学費
は据え置きだから気の毒だという話題になりましたが、その際に、司法書士試
験はどうなるのかと聞かれました。

 ご存知ですか、延期されたのを。例年の筆記試験は7月初旬の日曜日ですが、
今年は9月27日の日曜日になっています(また、地方では地元で受験できな
いようです。わが郷里の群馬県でいうと東京まで出なければなりません)。
  http://houmukyoku.moj.go.jp/maebashi/page000001_00110.pdf

 延期されたため勉強時間が足りなかった人には有利ですが、当日37.5度
以上の熱があると受験できないようですから、コロナに無関係な通常の風邪で
も引くと、また来年です。まことに生まれた時期の運・不運は大きいですね。

 これで受験者数もますます減少するのではないでしょうか。3万3000人
もいた受験者数(平成23年度)も今は半減しています(その分、合格確率は
2%台から4%台に上がっており、25人中1人の合格に変わっています)。

 理由は様々でしょうが、会社法が分からないという理由も少しはあると想像
しています。種類株式、新株予約権、組織再編、また会社計算規則を理解する
のは容易ではありません。昨年の合格者の平均年齢が40歳を超えているのも、
人生経験を積まないと、これらにつき実感が湧かない点もあるのではないでし
ょうか。

 今後さらに複雑で難化します。令和元年改正で上場会社の取締役に株式報酬
が認められますが、今までは金銭で報酬を渡し、それを出資(相殺)させて新
株を発行するという既存の枠組みだったのですが、この改正では出資なしの株
式交付が認められます。

 出資がなされず新株を発行したら資本金額はどうなるのかと疑問を持ってい
ましたが、ストックオプション会計に準じて、毎年のように資本金額を計上す
る案が有力なようです。こうなると弁護士や法学部の大学教授を含め法務人間
には相談に応じることもできず手が負えなくなります。

 金持ち優遇の新自由主義経済政策を採用した小泉・安倍内閣時代の国策は、
米国及び経済産業省からの影響が極めて大きいのですが、規制緩和の名の下に
方法の多様化が進み、かつ会計業界が法務領域をも侵食しはじめ、会社法は複
雑怪奇なものに変質しつつあります。受験生の皆さんも早期の合格を目指すし
かありません。

 蛇足ですが、会社法の条文理解には下記がお勧めです。重要条文には私の手
による青字のミニ解説がついていますので、択一式には最適です。
  https://amzn.to/31q4p6x


2020.08.25(火)【脱ハンコ】(東京・鈴木龍介)

 新型コロナ感染症が猛威を振るう中、7月に本年度の政府の基本方針が閣議
決定され、押印原則の見直しを含むデジタル化に向けての規制改革をこの1年
で集中的に取り組むという政策が盛り込まれました。

 今後の具体的な検討は規制改革推進会議等に委ねられることになると思われ
ますが、これまでの日本の社会で当たり前のとされてきた商慣行や各種手続も
大きく変貌を遂げることが予想されます。

 この動きは、司法書士の世界でもけっして無縁ではいられないでしょう。現
状は「ハンコ」がマストという実務ではありますが、電子署名やEシールとい
うものが台頭してくる中で、司法書士としてもそれらを理解し、上手に利用す
る必要があるかと思います。

 ちなみに、先般、法務省は商業登記の添付書面となる議事録等に行う電子署
名について、いわゆるリモートサイン型署名やクラウド型署名を認める旨の通
知を発しています。私見ですが、これ自体は商業登記には大きな変化や影響は
ないと考えておりますが、今後の広がり等には十分、注視しておくべきでしょ
う。

 ということで、以下のようなセミナーをやることとなりました。
 「印鑑の取扱いが変わる! 脱ハンコと司法書士業務」
  https://www.kinzai.or.jp/seminar/detail/20200928

 本セミナーは、ライブ配信型のセミナーでして、首都圏以外の方も気軽にご
参加いただけるかと思いますので、よろしくお願いします。


2020.08.24(月)【株主総会招集通知の今昔】(金子登志雄)

 いやぁ、暑いですね。コロナ以前に暑くて外出したくありませんが、金曜日
は決算取締役会があったので(当社は6月決算)、出社しました。

 そこで株主総会招集通知案をみたら、当社のものも10年や15年以上も前
の招集通知と比較し随分と変化していました。これは上場会社全体の傾向です。
どこが変わったかというと、次です。

 1.昔は発送日が総会日のぎりぎり2週間前の日でしたが、今は3週間程度
前の日にするのが通常です。IT化の進展で決算数字の取りまとめが早くでき
るようになったことと情報開示の速報性の認識の変化が理由でしょう。

 2.昔は「事業報告→議案の説明のための株主総会参考書類」という順序の
配列でしたが、今は参考書類を先にする会社がほとんどです。

 3.昔は白黒一色刷りでしたが、今は書面のカラー化が多くなりました。東
証一部上場会社クラスでは、役員候補者については写真入りにする裕福な会社
も増えましたが、多くは写真なしの2色刷です。

 4.昔は役員候補者の略歴が順番に掲載されていただけですが、最近はその
一覧表も掲載されるようになりました。ここに「再任」「新任」「社外」など
と掲載されるので、登記には非常に便利になりました。

 上記のほかに、委員会系統の会社が増えたことと監査役会設置会社でも取締
役の任期を1年にするところが増えたため、役員選任議案がほぼ確実に議案と
して登場するようになりました。この関係で、昔は取締役の任期が2年で剰余
金配当議案もないと、決議事項ゼロで報告総会のみという会社もありましたが、
今はほとんどないと思います。

 会社法制定で非公開会社の役員の任期が10年までになった際は、司法書士
潰しの改正だと思ったものですが、任期1年の会計監査人を置く上場会社だけ
でなく、その子会社も取締役の任期を1年にするところが徐々に増えたため、
われわれ都市部の商業登記専門事務所にとっては、仕事の減少の歯止めになっ
ており、何とか生き残れています。


2020.08.21(金)【有限会社の代表者の登記】(金子登志雄)

 昨日の内容をまとめると、登記の面では、純粋株式会社は、取締役と代表取
締役の2つの地位が併存する二元論であり、代表権を有する代表取締役に住所
が登記されるが、特例有限会社は各自代表制の一元論であり、潜在的な代表権
を有する取締役個々に住所が登記され、代表取締役は、取締役が複数で「他に
会社を代表しない者がある場合」にのみ登記されます。実体法の面からいえば、
一部の取締役から代表権を剥奪したといえますが、登記の面からは、一部の取
締役を代表者に選んだごとくにみえます。

(具体例その1)
 特例有限会社(甲)で、取締役A1人のところに、8月1日に取締役Bを追
加選任し、Aを代表取締役に選定したとすると、「住所・取締役B/8月1日
就任」、「代表取締役A/8月1日就任」と登記します。
 
 しかし、Aは8月1日以前から「会社を代表する取締役」として代表取締役
でした。この登記はおかしくありませんか。

 結論から言うと正しい登記です。まず、8月1日に「Aを代表取締役に選定
した」という表現ですが、実体法的には、「取締役Bを代表権のない取締役と
して選任した」という意味であり、Aの代表権はそれ以前から存在します。

 しかし、登記される代表取締役であるためには、「他に会社を代表しない者
が生じた場合」ですから、登記技術上、「代表取締役A/8月1日就任」とし
ます。

(具体例その2) 
 Bは代表権のない取締役として選任されましたから、上記の登記後の8月5
日にAが死亡したとしても、自動的にBが代表取締役になるわけではありませ
ん。そこで代表権回復の株主総会決議が8月7日になされました。
 
 この場合、代表取締役Aについては「年月日取締役1名になったため抹消」
という登記が必要ですが、この場合の年月日はAの死亡日(5日)でしょうか、
Bが代表権を回復した日(7日)でしょうか

 前者です。Bが代表権を回復しないと登記申請権限がなかっただけで、取締
役1名になったのは、Aの死亡日だからです。

(具体例その3)
 前例のまま登記申請せずに、8月9日の株主総会でCを代表権のない取締役
に追加選任した場合に「代表取締役B」の就任日は、7日でしょうか、9日で
しょうか。

 これも、Aの死亡により7日時点では取締役はB1人であり、「他に会社を
代表しない者が生じた日」は9日ですから、登記技術上、「代表取締役B/8
月9日就任」とするしかないでしょう。



2020.08.20(木)【各種の代表者の登記】(金子登志雄)

 今日と明日は受験生の皆様にも役立つ話をしましょう。

 さて、持分会社につき「代表社員」という用語は会社法のどこにも登場しま
せん。登記用語であり、会社法では「持分会社を代表する社員」といいます。
これに対して「株式会社を代表する取締役」については、会社法47条で「代
表取締役」と定義し、実体法(会社法)でも登記法でも使っています。

 旧有限会社法にも代表取締役という用語は存在しません。しかし、有限会社
を株式会社の一種に取り込んだ会社法では、たった一人の有限会社の取締役も
代表取締役になります。

 ただし、次の登記表示の差も頭に入れてください(ここ重要です!)。

 【近代型(純粋株式会社型)】:会社を代表する者だけに住所が登記される
(911条3項14号、928条1項2号)。合同会社も清算人を除きこの型
です(914条7号)。

 【伝統型(特例有限会社型)】:非代表者が住所付で登記され、住所記載の
ない代表者の登記は「他に会社を代表しない者がある場合」に限られます(整
備43条1項)。合名・合資も912条6号や913条8号によりこの型です。

 要するに、【歴史の長い伝統的な有限会社・合名会社・合資会社では、各自
代表が基本】であり、複数名が登記され一部が会社を代表しない場合に限り、
代表者の登記がなされます。その後、全員を代表者にしたときは、会社を代表
しない取締役(又は社員)の不存在により代表取締役(又は代表社員)の登記
は抹消されますし、取締役(又は社員)が1名になったときも同じです。

 近代型の純粋株式会社の場合は、取締役が1名でも「取締役A」と「住所、
代表取締役A」の2つの登記がなされ、取締役全員に「代表取締役」を登記す
ることができます。清算人も同じですが、特例有限では伝統型です。ただし、
合同会社だけは清算人になると伝統型になります。持分会社として統一したた
めです。

 この差は【純粋株式会社は、旧商法で各自代表でない会社として構成】され
たためでしょう。合同会社については各自代表として出発したが、最近生まれ
たばかりの会社類型なので、業務執行社員でなく代表社員だけに住所を登記さ
せたものと思われます。

 以上から、登記の世界からみると、純粋株式会社(取締役と代表取締役の二
元論)と特例有限会社(各自代表制の一元論)の統合には、やや無理があった
といえそうです(明日は具体例にします)。


2020.08.19(水)【持分を承継する旨の定款の定め】(仙台・立花宏)

 会社法第608条1項は、合同会社をはじめとする持分会社においては、社
員が死亡した場合における当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継する旨
を定款で定めることができると規定しています。

 合同会社をはじめとする持分会社は、社員相互の信頼関係を基礎とする組合
的な規律の会社であり、誰が社員であるのかは他の社員の利害に影響するため、
死亡した社員の相続人といえども、当然には持分を承継せず、あらかじめ、定
款で許容する規定を設けた場合に、相続承継することが可能となることを明ら
かにした規定といえると思います。

 民法第896条では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属
した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、
この限りでない」と規定しています。前記会社法の規定は、持分会社の持分に
ついては、この民法の規定の例外であることを明らかにし、原則として相続承
継の対象にならず(注1)、定款(社員の意思)で許容した場合は相続承継を
可能としたものといえるのかもしれません。

 この会社法の規定に基づき定款に設けられる規定としては、「当会社の社員
が死亡した場合には、当該社員の相続人は、当該社員の持分を承継して社員と
なる」というようなものが典型といえるでしょう。しかし、こうした規定に限
られず、様々な規定の仕方が許容されています。たとえば、「当会社の社員A
が死亡した場合には、当該社員の相続人であるBは、社員Aの持分を承継して
社員となる」というような、特定の相続人が持分を承継する旨の規定も許容さ
れているようです。

 では、この規定を設ければ、社員Aの死亡により、複数の相続人のうちのひ
とりであるBのみがAの持分を相続承継することになるのでしょうか。相続に
よる権利義務の承継は、根本的には民法の相続に規定に基づくはずです。会社
法は、持分は原則として相続承継の対象とはならず、定款に規定を設ければ、
例外的に相続承継を許容していますが、民法の相続制度自体を修正したわけで
はなく、前記定款規定を設けたからといって、当然に相続人のひとりであるB
のみが相続することにはならないと思います。そのため、実務上は、定款規定
をあわせて、社員Aが、自身の持分をBに相続させる旨の遺言をすることが行
われています。

 こうした遺言をするのであれば、社員Aの持分はBが相続するのであり、単
に相続を許容する旨の規定があれば、Bに相続させるというような具体的な定
款規定は不要ではないかとも思えます。しかし、持分を承継して社員となると
いうことは、単なる財産権を承継するだけではなく、社員としての業務執行権
や代表権も含まれているといえます。社員相互の信頼関係を基礎とする組合的
な規律の会社である持分会社においては、特定の相続人に相続承継させること
は、特定承継(持分譲渡)と同様、他の社員の同意(承諾)なしには許容され
ないと考えるべきではないでしょうか。前記のBに相続させる旨の定款規定は、
相続を許容するという趣旨のほか、社員Aが死亡した時は、その相続人のうち、
Bのみが持分を相続承継して社員となることを、あらかじめA以外の社員も承
諾するという意味も含まれているのではないかと考えました(注2)。

 以上の考え方により、Bが相続する旨の定款規定とBに相続させる旨の遺言
があれば、相続開始時にBが持分を承継して社員になると扱われているのだろ
うと思いました。(注3)

 注1)持分は承継しないかわり、退社に伴う持分の払戻し(持分の清算)の
  請求権を承継します。
 注2)B以外の相続人は、Aの持分を承継できないし、AもB以外の相続人
  には承継させないという趣旨も含まれているとも考えられます。
 注3)このような定めについて、当研究会主宰の金子先生は、『論点解説
  商業登記法コンメンタール』(一般財団法人金融財政事情研究会)403
  頁以下において、社員Aの死亡を条件に相続人のひとりであるBが社員と
  して任意加入することを定款に定めたもとであり、一般承継である相続承
  継とは相違するものではないかとの疑問を述べていらっしゃいます。


2020.08.18(火)【支店所在地における登記の廃止】(東京・鈴木龍介)

 令和元年改正会社法がらみで、もう一題ということで、会社の支店の所在地
における登記の廃止についても整理しておきたいと思います。

 平成17年改正前商法(旧商法)では、支店の所在地においては①本店の所在
地で登記した事項の登記および②支店のみで登記すべき事項の登記をしなけれ
ばならないこととされていた。その後、商業登記のコンピユータ化が図られ、
商業登記に関する情報へのアクセスが容易になったことから、会社法の制定時
には、支店の所在地においては①商号、②本店所在場所、③当該支店所在地を
管轄する登記所の管轄区域内にある支店の所在場所を登記することとされ(令
和元年改正前930条)、支店所在地における登記は、本店所在地における